(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】超音波撮像方法、超音波撮像装置、超音波撮像システムおよび超音波撮像プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2022168152
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2018133152の分割
【原出願日】2018-07-13
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井芹 健介
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】古郡 一義
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成し、
前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張し、
互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にあ
り、かつ、前記合成処理時にマッチング対象となりえる特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定し、
前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定する、超音波撮像方法。
【請求項2】
前記合成処理が行われるごとに、前記合成処理の成否を判定する、請求項1に記載の超音波撮像方法。
【請求項3】
前記特徴点が所定基準を満たす場合、前記合成処理を繰り返す、請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項4】
前記合成処理が失敗したと判定した場合、前記合成処理を中止させる、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項5】
前記合成処理が2以上の所定回数連続で失敗したと判定した場合、前記合成処理を中止させる、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項6】
前記合成処理が2以上の所定回数連続で失敗したと判定した場合、当該合成処理の失敗に関する情報を報知させる、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項7】
前記合成処理が2以上の所定回数連続で失敗したと判定した場合、前記超音波画像の表示処理を中止させる、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項8】
前記所定回数は、プローブを前記被検体の表面に沿って移動させる場合において当該プローブの移動速度に応じて可変である、請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項9】
前記特徴点は、前記重畳領域内において被検体の表面からの距離に対応して前記反射された超音波の信号強度があらかじめ定められた閾値以上に変化する点である、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の超音波撮像方法。
【請求項10】
被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成する超音波画像生成部と、
前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張する画像合成部と、
互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にあ
り、かつ、前記合成処理時にマッチング対象となりえる特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定する判定部と
を備え、
前記判定部は、前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定する、超音波撮像装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記合成処理が行われるごとに、前記合成処理の成否を判定する、請求項10に記載の超音波撮像装置。
【請求項12】
前記判定部は、前記特徴点が所定基準を満たす場合、前記合成処理を繰り返す、請求項10乃至請求項11のいずれかに記載の超音波撮像装置。
【請求項13】
超音波を前記被検体の表面上の互いに異なる複数の位置から該被検体の内部に向けて送信し、前記被検体の内部で反射された超音波を受信するプローブと、
請求項10乃至請求項12のいずれかに記載の超音波画像装置とを備える、超音波撮像システム。
【請求項14】
被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成する超音波画像生成部、
前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張する画像合成部、および、
互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にあ
り、かつ、前記合成処理時にマッチング対象となりえる特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定する判定部、
としてコンピュータを動作させ、
前記判定部は、前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定する、超音波撮像プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波によって被検体の内部を撮像する超音波撮像方法、超音波撮像装置、超音波撮像システムおよび超音波撮像プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、メタボリックシンドロームの健診では、腹部の断層画像を取得するために、CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置が用いられることが多い。これらの装置は、大がかりで高額であり、被爆の問題もあるため、近年では、超音波を用いて断層画像を取得する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、プローブを被検体の表面に沿って移動させながら、プローブから超音波を断続的に送送受信することにより得られた複数の超音波画像を合成して、合成画像(パノラマ画像)を生成する技術が開示されている。この技術では、被検者自身がプローブを腹部に当接させながら移動させるだけで、腹部の断面を示す合成画像を得ることができる。
【0003】
正確な合成画像を得るためには、常にプローブの超音波送受信の方向を被検体の表面に対してほぼ垂直にさせるために、常にプローブを被検体に適切な姿勢で当接させながら移動させる必要がある。しかし、被検者がプローブの使用に慣れていない場合、プローブと被検体との角度がぶれたり、プローブが被検体の表面から浮き上がったりしやすい。
【0004】
これに対し、特許文献1に記載の技術では、超音波画像を撮影しながらリアルタイムに合成画像を生成しているため、被検者は、プローブを移動させながら、合成画像の生成が順調であるかを確認することができる。さらに、特許文献1には、最新の超音波画像の画質が悪い場合には、合成画像の生成および表示を行わないようにすることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1には、最新の超音波画像が適切な合成画像であるか否かの判定基準、すなわち合成処理の成否の判定基準が開示されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、合成処理の成否に関する新規な判定基準に従って合成画像の生成を行う超音波撮像方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波撮像方法は、被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成し、前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張し、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定し、前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る超音波撮像装置は、被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成する超音波画像生成部と、前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張する画像合成部と、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定する判定部とを備え、前記判定部は、前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る超音波撮像システムは、超音波を前記被検体の表面上の互いに異なる複数の位置から該被検体の内部に向けて送信し、前記被検体の内部で反射された超音波を受信するプローブと、本発明に係る超音波画像装置とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る超音波撮像プログラムは、被検体の表面から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から該被検体内部の所定領域の超音波画像を生成する超音波画像生成部、前記被検体の表面上の異なる位置から該被検体の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して前記被検体内部の超音波画像を拡張する画像合成部、および、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて前記合成処理の成否を判定する判定部、としてコンピュータを動作させ、前記判定部は、前記超音波画像の特徴点の数が閾値を下回った場合、前記合成処理が失敗したと判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合成処理の成否に関する新規な判定基準に従って合成画像の生成を行う超音波撮像方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る超音波撮像システムの構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る超音波撮像装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】リアルタイムに表示される合成画像の一例である。
【
図4】互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を○(丸印)で示した図である。
【
図5】
図4のペア数から外れ値を差し引いた状態を示した図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る超音波撮像方法の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0015】
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波撮像システム1の構成を示す模式図である。超音波撮像システム1は、プローブ2と、超音波撮像装置3とを含んでいる。
【0016】
プローブ2は、被検者(ユーザ)が把持して動かすことができるように構成されている。プローブ2の下端には、複数の超音波振動子が一列に配列された超音波送受面が設けられている。被検体9の断層画像(又は断面画像)を取得する場合、被検者は、被検体9にプローブ2の超音波送受面を当接させて、プローブ2を被検体9の表面に沿って移動させる(プローブ2によりスキャンする)。その間に、プローブ2は、超音波送受面から被検体9の内部に向けて超音波を断続的に送信し、被検体9の内部で反射された超音波を超音波送受面において受信する。これにより、プローブ2は、受信した超音波を示す電気信号(エコー信号)を出力する。なお、本実施形態において、「断面」とは、輪切りの断面だけでなく、部分的な断面も含む概念である。
【0017】
なお、プローブ2は、リニアスキャン画像を取得するリニアスキャンモードで動作するが、セクタスキャン画像を取得するセクタスキャンモードで動作可能であってもよいし、リニアスキャンモードとセクタスキャンモードの両方で動作可能であってもよいし、他のモードあるいは他のモードとの組み合わせで動作可能であってもよい。また本実施形態では、被検体9は主に腹部であるが、被検体9に含まれる生体部位は特に限定されない。
【0018】
超音波撮像装置3は、例えばWiFi(登録商標)などの無線によってプローブ2に接続されている。本実施形態では、超音波撮像装置3は例えばタブレット端末で構成されており、プローブ2から受信したエコー信号に基づき、複数の超音波画像を生成し、さらに、それらの超音波画像を合成した合成画像を表示する機能を有している。
【0019】
なお、超音波撮像装置3は画像を表示可能な装置であれば特に限定されず、汎用のパーソナルコンピュータや、スマートフォン等で構成することができる。また、プローブ2と超音波撮像装置3との接続方法は特に限定されず、有線接続であってもよい。
【0020】
(超音波撮像装置の機能)
図2は、超音波撮像装置3の構成を示すブロック図である。超音波撮像装置3は、ハードウェアの構成として、ディスプレイ31と、入力装置32と、補助記憶装置33と、通信インタフェース部(I/F部)34と、表示インタフェース部(I/F部)36を備えている。
【0021】
ディスプレイ31は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等で構成することができる。なお、ディスプレイ31を超音波撮像装置3とは別個の装置として構成してもよい。
【0022】
入力装置32は、例えばディスプレイ31の表面に設けられたタッチパネルである。被検者は、入力装置32を介してディスプレイ31に表示された画像に対する入力操作を行うことができる。
【0023】
補助記憶装置33は、オペレーティングシステム(OS)、各種制御プログラム、および、プログラムによって生成されたデータなどを記憶する不揮発性の記憶装置であり、例えば、eMMC(embedded Multi Media Card)やSSD(Solid State Drive)等によって構成される。補助記憶装置33には、超音波撮像プログラムPが記憶されている。超音波撮像プログラムPは、インターネットなどのネットワークを介して超音波撮像装置3にインストールしてもよい。あるいは、超音波撮像プログラムPを記録したSDカード等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な有体の記録媒体を超音波撮像装置3に読み取らせることにより、超音波撮像プログラムPを超音波撮像装置3にインストールしてもよい。
【0024】
通信インタフェース部34は、外部機器とのデータの送受信を行うものであり、本実施形態では、プローブ2から受信した信号の復調や、プローブ2に送信するための制御信号の変調などを行う。
【0025】
表示インタフェース部36は、超音波撮像装置3の演算処理によって生成された各種画像データをVRAMに展開することにより、当該画像をディスプレイ31に表示するものであり、例えば後述する信号処理部35によって生成された合成画像等をディスプレイ31に表示する。
【0026】
図示していないが、超音波撮像装置3は、他のハードウェアの構成として、データ処理を行うCPU等のプロセッサ、および、プロセッサがデータ処理の作業領域に使用するメモリ(主記憶装置)などをさらに備えている。
【0027】
また、超音波撮像装置3は、ソフトウェアの構成として、信号処理部35を備えている。信号処理部35は、プロセッサが超音波撮像プログラムPを実行することにより実現される機能ブロックであり、プローブ2から受信されたエコー信号を処理して、被検者がプローブ2を操作している間に、リアルタイムで被検体9の超音波合成画像を生成する機能を有している。この機能を実現するために信号処理部35は、超音波画像生成部351と、画像合成部352と、判定部353と、を備えている。なお、信号処理部35を、集積回路上に形成された論理回路によってハードウェア的に実現してもよい。
【0028】
超音波画像生成部351は、プローブ2から受信されたエコー信号から、被検体9の内部の超音波画像を生成する。プローブ2は、被検体9の表面を移動しながら、超音波撮像装置3から送信される制御信号にしたがって、被検体9の表面上の互いに異なる複数の位置から被検体9の内部に向けて超音波を送信し、被検体9の内部で反射された超音波を受信して、超音波撮像装置3にエコー信号を出力する。これにより、プローブ2が超音波を受信するたびに、超音波画像生成部351にエコー信号が入力され、超音波画像生成部351は、エコー信号から、被検体9の表面上の互いに異なる複数の位置に対応した超音波画像を生成する。超音波画像の生成数は、プローブ2による超音波の送受信時間、および、送受信の周期によって変動するが、本実施形態では、n枚(nは正の整数)の超音波画像が生成されるとする。
【0029】
なお、超音波画像生成部351の機能を、プローブ2を制御する制御装置に設けてもよい。その場合、超音波撮像装置3は、制御装置に有線または無線で通信可能に接続される。
【0030】
画像合成部352は、プローブ2の位置を変えて被検体9の表面上の異なる位置から被検体9の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から生成された新たな超音波画像を、既に生成された超音波画像に合成処理して被検体9内部の超音波画像を拡張する機能ブロックである。すなわち、例えばプローブ2を移動させながら、超音波画像生成部351が被検体9内部の新たな所定領域の超音波画像を生成して、新たな所定領域の超音波画像を得るごとに、画像合成部352は、超音波画像を既に生成された超音波画像に合成する。超音波画像の合成は、周知の技術を適用することができ、本実施形態では、例えば各超音波画像間の特徴点マッチングを用いて超音波画像を合成する。ここで、特徴点とは、超音波画像の合成時にマッチング対象となりえる特有の画素部分(例えば、角となる画素部分、画像の画素値の最大あるいは最小の画素部分、パターン化された画像部分など)のことをいう。
【0031】
この方法では、1番目の超音波画像および2番目の超音波画像から特徴点を検出する。そして、1番目の超音波画像と2番目の超音波画像の特徴点をマッチングして、1番目の超音波画像と2番目の超音波画像の同次変換行列を計算する。具体的には、2番目の超音波画像が1番目の超音波画像に対して、時計周りにθだけ回転し、x軸方向にt
x、y軸方向にt
yだけ平行移動させると1番目の超音波画像と2番目の超音波画像の特徴点が一致する場合、2番目の超音波画像の座標系を動かして1番目の超音波画像に合わせる同次変換行列Rは、
【数1】
となる。すなわち、1番目の超音波画像上の特徴点(x、y)が、2番目の超音波画像上の特徴点(x’、y’)に移動するとき、
【数2】
の関係が成り立つ。なお、特徴点の座標には誤差が含まれており、また、ノイズの影響により決定された対応関係自体に誤りが含まれているため、計算に悪影響を及ぼす外れ値をRANSACアルゴリズムにより除外する。また、位置関係の計算には、ガウス・ニュートン法、レーベンバーグ・マーカート法等の非線形最小二乗法を利用できる。
【0032】
同次変換行列Rの計算を、生成順が隣り合う2枚の超音波画像について順次行い、n-1番目の超音波画像およびn番目の超音波画像まで行う。k+1(1≦k≦n-1)番目の超音波画像からk番目の超音波画像への同次変換行列をRkとすると、k+1番目の超音波画像から1番目の超音波画像への同次変換行列は、R1R2…Rkとなる。1番目の超音波画像の座標系はワールド座標系と呼ばれ、全ての超音波画像について、ワールド座標系への同次変換行列を計算することで、全ての超音波画像の座標が計算できる。
【0033】
本実施形態では、
図1に示すプローブ2による超音波の送受信、超音波画像生成部351による超音波画像の生成、および、画像合成部352による超音波画像の合成が、並行して行われる。すなわち、プローブ2からエコー信号が出力されるたびに、超音波画像生成部351は超音波画像を生成し、画像合成部352に超音波画像を入力する。画像合成部352は、超音波画像が入力されるたびに画像の合成を行い、段階的に合成画像を生成して、表示インタフェース部36に生成途中の合成画像のデータを入力する。
【0034】
表示インタフェース部36は、生成された合成画像等の各種画像データをVRAMに展開することにより、合成画像等をディスプレイ31に表示する。本実施形態では、画像合成部352が1枚または数枚の超音波画像を合成するたびに、表示インタフェース部36は、生成途中の合成画像をディスプレイ31に表示する。
【0035】
これにより、
図3(A)~(C)に示すように、被検体の合成画像が徐々にディスプレイ31に表示される。そのため、被検者は、プローブ2を移動させながら、リアルタイムに合成画像を確認することができる。
【0036】
判定部353は、画像合成部352による合成処理が成功したかを判定する機能ブロックである。本実施形態において、判定部353は、画像合成部352による合成処理が行われるごとに、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内(例えば所定枚数内)の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて合成処理の成否を判定する。さらに、本実施形態では、判定部353は、画像合成部352による合成処理がM(M≧2)回連続で失敗した場合に、合成処理の中止、失敗に関する情報の報知、および、合成画像の表示処理の中止のいずれかの処理を行う。例えば、判定部353は、ディスプレイ31にエラーを表示するように表示インタフェース部36に指示する。これにより、被検者は、スキャンの途中であっても、何らかの要因で合成画像の生成が失敗したことに気付くことができる。
【0037】
超音波画像の合成処理が成功したか否かの判定基準は、特に限定されないが、本実施形態では、下記の(1)~(3)のいずれかに当てはまる場合に、特徴点が所定基準を満たさず、合成処理が失敗したと判定される。
【0038】
(1)超音波画像の特徴点の数が、閾値を下回った場合。
図4は、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内(ここでは隣接する2つのフレーム)の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を○(丸印)で示した図である。判定部353は、超音波画像の特徴点の数(すなわち
図4に示される各超音波画像における○の数)がしきい値を下回っている場合、合成処理が失敗と判定する。なお、この特徴点は、超音波画像同士が重畳する重畳領域内において被検体9の表面からの距離に対応して反射された超音波の信号強度があらかじめ定められた閾値以上に変化する点であってもよい。
【0039】
(2)特徴点をマッチングした際のペア数が、閾値を下回った場合。判定部353は、超音波画像の特徴点をマッチングした際のペア数(
図4に示される各超音波画像の特徴点同士を結ぶ線の数)がしきい値を下回っている場合、合成処理が失敗と判定する。
【0040】
(3)上記(2)のペア数から外れ値を差し引いたインライア数が、閾値を下回った場合。
図5は、
図4のペア数から外れ値を差し引いた状態(特徴点のマッチングのとれない
図4の斜めの線のなどの数を外れ値として取り除いた状態)を示した図である。判定部353は、上記(2)のペア数から外れ値を差し引いたインライア数(
図5における左右方向の直線の数)がしきい値を下回っている場合、合成処理が失敗と判定する。
【0041】
また、連続失敗回数の許容値Mは、プローブ2の移動速度、超音波画像のFPS(Flame per second)、各超音波画像の大きさ(FOV:Field of view)等によって設定される数であり、X番目の超音波画像とX+M番目の超音波画像との重畳領域が、特徴点のマッチングに支障がない程度に広くなるように設定される。より具体的には、下記式を満たすようにMを設定することができる。
L_echo - (M * T_sampling * V_probe) > L_threshold
M < (L_echo - L_threshold)/(T_sampling * V_probe)
T_sampling [sec]:FPSから求まる1スキャンのサンプリング時間
V_probe [m/s]:プローブ2の移動速度
L_echo [m]:1枚の超音波画像の横幅
L_threshold [m]:画像位置合わせに最低限必要な横幅
上記条件を満たす場合は特徴点のマッチングに支障がないと定義される。
【0042】
なお、各変数の単位は特に限定されず、例えば、長さの単位をcmとしてもよい。また、Mは固定値であってもよいが、2枚の画像位置合わせで求めた移動量を画像間の時間差で割ればV_probeが求められるため、その値を用いて動的にMを求めることも可能である。スキャン開始から終了まで、上記式のV_probe以外の変数は固定値であるため、スキャン中のプローブ2の移動速度に応じて、Mを可変にしてもよい。プローブ2の移動速度は、2つの超音波画像における特徴点の移動ベクトルと、フレーム間の時間に基づいて算出できる。
【0043】
本実施形態では、例えばM=5に設定される。すなわち、合成途中の合成画像にX番目の超音波画像が合成された後、画像合成部352による合成処理が4回連続で失敗したとしても、X+5番目の超音波画像の合成が成功すれば、判定部353は、全体的な合成処理は失敗したとは判定しない。
【0044】
特許文献1には、最新の超音波画像が適切な合成画像であるか否かの判定基準、すなわち合成処理の成否の判定基準が開示されていない。これに対し、本実施形態では、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて合成処理の成否を判定している。よって、合成処理の成否に関する新規な判定基準に従って合成画像の生成を行うことができる。
【0045】
また、特許文献1に記載の技術では、超音波画像の合成が1回でも失敗した場合、合成画像の生成を中止等するようにした場合、被検者は、スキャン開始からスキャン終了まで、プローブ2の角度、押圧力を適切に保ち続けて、全ての超音波画像を良好な画質で撮影する必要がある。そのため、プローブの使用に慣れていない被検者にとっては、スキャンの成功率が低くなり、結果として、スキャン動作を何度も繰り返す必要があった。
【0046】
これに対し、本実施形態では、超音波画像の合成処理の連続失敗回数がM未満であれば、全体的な合成処理は失敗したと判定されない。そのため、スキャンの成功率が高くなり、合成画像を得るための負担を少なくすることができる。
【0047】
(処理手順)
図6は、本実施形態に係る超音波撮像方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0048】
被検者によるスキャンが開始されると、プローブ2は、被検体9の内部に超音波が送信し、被検体9の内部で反射された超音波を受信してエコー信号を出力する。これに応じて、超音波画像生成部351が複数の超音波画像を順次生成する。
【0049】
具体的には、ステップS1(超音波画像生成ステップ)において、超音波画像生成部351が、被検体9の表面に配置されたプローブ2から被検体9の内部に向けて超音波を送信して反射された超音波から被検体9内部の所定領域の超音波画像を生成し、画像合成部352は、1番目の超音波画像を取得する。続いて、ステップS2およびS3に移行し、i=2とする。ステップS3では、画像合成部352は、i番目(2番目)の超音波画像を取得する。これにより、ステップS4(画像合成ステップ)において、画像合成部352は、2番目の超音波画像(新たな超音波画像)を1番目の超音波画像(既に生成された超音波画像)に合成処理して被検体9内部の超音波画像を拡張する。なお、本実施形態では、拡張された超音波画像を合成画像と称する。
【0050】
続いて、ステップS5(判定ステップ)において、判定部353は、画像合成部352による合成処理が成功したかを判定する。本実施形態では、判定部353は、画像合成部352による合成処理が行われるごとに、互いに近接した位置にある所定フレーム範囲内(ここでは隣接するフレーム)の超音波画像同士が重畳する重畳領域内にある特徴点を各超音波画像について抽出し、該特徴点と所定基準との比較結果に基づいて合成処理の成否を判定し、特徴点が所定基準を満たさない場合、合成処理が失敗したと判定し、特徴点が所定基準を満たす場合、合成処理が成功したと判定し、画像合成部352に合成処理を繰り返させる。
【0051】
具体的には、合成処理が成功したと判定された場合(ステップS5においてYes)、表示インタフェース部36が合成画像をディスプレイ31に表示し(ステップS6)、スキャンが終了していなければ(ステップS7においてNo)、ステップS8において、iを1増加させ、ステップS3に戻り、画像合成部352が合成処理を繰り返す。ステップS4では、画像合成部352は、合成途中の合成画像にi番目の超音波画像を合成する。
【0052】
一方、最初のステップS5において、合成処理が失敗したと判定された場合(ステップS5においてNo)、ステップS9に移行し、判定部353は、i番目(2番目)の超音波画像を破棄する。続いて、ステップS10において、判定部353は、合成処理の連続失敗回数がM(M≧2)未満であるかを判定する。本実施形態では、M=5であるとする。連続失敗回数がM未満の場合(ステップS10においてYes)、ステップS8において、iを1増加させ、ステップS3に戻る。そして、ステップS3において、画像合成部352は、i番目(3番目)の超音波画像を取得し、ステップS4において、画像合成部352は、1番目の超音波画像と3番目の超音波画像を合成し、ステップS5に移行する。2回目のステップS5において、合成処理が成功したと判定された場合(ステップS5においてYes)、ステップS6において、1番目の超音波画像と3番目の超音波画像との合成画像がディスプレイ31に表示される。しかし、2回目のステップS5において、再び、合成処理が失敗したと判定された場合(ステップS5においてNo)、再度、ステップS9およびS10に移行する。
【0053】
合成処理の失敗が連続しても、連続失敗回数がM未満の場合(ステップS10においてYes)、ステップS9を経て、ステップS3~S7を繰り返す。そして、連続失敗回数がMに達すると(ステップS10においてNo)、判定部353は、ステップS10において、画像合成部352に合成処理を中止させ、ステップS11において、表示インタフェース部36に合成画像の表示処理を中止させ、ステップS12において、表示インタフェース部36にディスプレイ31にエラー表示させることにより、合成処理の失敗に関する情報を報知させる。なお、またS11~S13をこの順番で実施する必要はない。また、ステップS11~S13の全てを実施する必要もなく、これらの少なくともいずれかを任意のタイミングで実施してもよい。
【0054】
以降、合成処理をM回以上連続して失敗して(ステップS10においてNo)、ステップS11~S13に移行しない限り、スキャンが終了するまで(ステップS7においてYes)、ステップS3~S6、S8~S10が繰り返される。
【0055】
(付記事項)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上記実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
例えば、上記実施形態では、被検体9が腹部を含む部位である例について説明したが、対象となる部位は特に限定されない。
【0057】
また、上記実施形態では、被検者に合成処理の失敗に関する情報を報知するために、ディスプレイにエラーを表示していたが、被検者に合成処理の失敗に関する情報を報知する態様は特に限定されず、例えば、警告音を発したり、プローブ2を振動させたりしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、超音波画像の合成処理が2以上の所定回数連続で失敗した場合に、合成処理の中止等を行っていたが、超音波画像の合成処理が1回でも失敗した場合に、合成処理の中止等を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、医療用途および非医療用途のいずれにも適用可能であるが、特に、医療従事者ではない被検者が自身の健康状態を日常的に確認する用途に好適である。
【符号の説明】
【0060】
1 超音波撮像システム
2 プローブ
3 超音波撮像装置
31 ディスプレイ
32 入力装置
33 補助記憶装置
34 通信インタフェース部
35 信号処理部
351 超音波画像生成部
352 画像合成部
353 判定部
36 表示インタフェース部
9 被検体
P 超音波撮像プログラム