(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ターボチャージャ
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20231025BHJP
【FI】
F02B39/00 H
(21)【出願番号】P 2022501523
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006878
(87)【国際公開番号】W WO2021166180
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 善友
(72)【発明者】
【氏名】荒川 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】段本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】諫山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博晃
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-172099(JP,A)
【文献】特開2014-062557(JP,A)
【文献】特開2019-178756(JP,A)
【文献】実開昭60-043137(JP,U)
【文献】実開平01-127939(JP,U)
【文献】国際公開第2020/021908(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0224015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の外輪の径方向外側に設けられる油膜ダンパと、
前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を有するハウジングと、を備え、
前記外輪の軸方向端面、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面は、前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、且つコーティング膜によって形成される、
ターボチャージャ。
【請求項2】
回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の外輪の径方向外側に設けられる油膜ダンパと、
前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を有するハウジングと、を備え、
前記外輪の軸方向端面、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面は、前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、
前記外輪と、前記第1軸方向止め部と、前記第2軸方向止め部とのうち少なくとも一つは、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含む、
ターボチャージャ。
【請求項3】
回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の外輪の径方向外側に設けられる油膜ダンパと、
前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を有するハウジングと、を備え、
前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の軸方向端面に対向する対向面は、前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、
前記凹部は、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記対向面から凹むディンプルを含む、
ターボチャージャ。
【請求項4】
前記外輪の前記軸方向端面は、該軸方向端面の全領域において、
前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有する、
請求項1又は2に記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記対向面は、
前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、径方向において、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端から前記油膜ダンパの径方向外側端まで延在している、
請求項1又は2に記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記コーティング膜は、非晶質炭素、二硫化モリブテン、窒化炭素、リン酸塩、ニッケルリン、銀、金、又は、フッ素樹脂を含む、
請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項7】
前記対向面は、
前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、
前記凹部は、径方向において、前記油膜ダンパの径方向外側端から前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端まで延在している複数本の第1溝を含む、
請求項1又は2に記載のターボチャージャ。
【請求項8】
前記対向面は、
前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有し、
前記凹部は、径方向において、前記油膜ダンパの径方向外側端から、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端と前記径方向外側端との間の位置まで延在している複数本の第2溝を含む、
請求項1または2に記載のターボチャージャ。
【請求項9】
回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の外輪の径方向外側に設けられる油膜ダンパと、
前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を有するハウジングと、を備え、
前記外輪の軸方向端面、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面は、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの全ての部位よりも小さい静摩擦係数を有する、
ターボチャージャ。
【請求項10】
前記外輪の前記軸方向端面は、該軸方向端面の全領域において、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの全ての部位よりも小さい静摩擦係数を有する、
請求項9に記載のターボチャージャ。
【請求項11】
前記対向面は、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの全ての部位よりも小さい静摩擦係数を有し、径方向において、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端から前記油膜ダンパの径方向外側端まで延在している、
請求項9に記載のターボチャージャ。
【請求項12】
前記外輪の軸方向端面、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面は、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの全ての部位よりも小さい静摩擦係数を有し、且つコーティング膜によって形成される、
請求項9に記載のターボチャージャ。
【請求項13】
前記コーティング膜は、非晶質炭素、二硫化モリブテン、窒化炭素、リン酸塩、ニッケルリン、銀、金、又は、フッ素樹脂を含む、
請求項12に記載のターボチャージャ。
【請求項14】
前記外輪と、前記第1軸方向止め部と、前記第2軸方向止め部とのうち少なくとも一つは、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含む、
請求項9に記載のターボチャージャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ターボチャージャに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受を用いたターボチャージャでは、ハウジングと転がり軸受の外輪との隙間に油が注入されており、転がり軸受によって軸支されている回転軸が振動しても、この油(油膜ダンパ)によって、軸振動に対して減衰効果があり、また、転がり軸受からハウジングに伝達される振動が抑制されるようになっている。
【0003】
この転がり軸受の外輪は、回転軸の軸方向への移動が規制されるように構成されている場合がある。例えば、特許文献1では、外輪の一端部(コンプレッサ側端部)がプレートによって係止され、外輪の他端部(タービン側端部)がハウジングによって係止されている。特許文献2では、外輪の一端部(コンプレッサ側端部)に回り止め部材が嵌合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8961128号明細書
【文献】特開2018-25183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されている構成では、外輪に作用する軸方向荷重が大きくなるほど、外輪とプレートやハウジングとの間に作用する摩擦力は大きくなる。このため、回転軸が振動した際に、外輪は径方向に移動できず、軸振動に対する油膜ダンパの減衰効果を十分に発揮できない虞がある。
【0006】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、外輪に作用する軸方向荷重が大きい場合であっても、軸振動に対する油膜ダンパの減衰効果を十分に発揮することができる転がり軸受を備えるターボチャージャを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係るターボチャージャは、回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受と、前記転がり軸受の前記外輪の径方向外側に設けられる油膜ダンパと、前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記転がり軸受の外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を有するハウジングと、を備え、前記外輪の軸方向端面、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面は、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの部位よりも小さい静摩擦係数を有する、または、前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示のターボチャージャによれば、外輪の軸方向端面、或いは、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面の静摩擦係数を小さくすることができるので、外輪に作用する軸方向荷重が大きい場合であっても、回転軸が振動した際に外輪を径方向に移動させることができ、軸振動に対する油膜ダンパの減衰効果を十分に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るターボチャージャの構成を概略的に示す構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る第1軸方向止め部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る外輪の構成を概略的に示す構成図である。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る第1軸方向止め部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図6】本発明の第3実施形態の変形例に係る第1軸方向止め部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図7A】本発明の第4実施形態に係る凹部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図7B】本発明の第4実施形態に係る凹部の作用・効果を説明するための図である。
【
図8A】本発明の第5実施形態に係る凹部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図8B】本発明の第5実施形態に係る凹部の作用・効果を説明するための図である。
【
図9A】本発明の第6実施形態に係る凹部の構成を概略的に示す構成図である。
【
図9B】本発明の第6実施形態に係る凹部の作用・効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態によるターボチャージャについて、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
<第1実施形態>
(ターボチャージャの構成)
本開示の第1実施形態に係るターボチャージャの構成について説明する。ターボチャージャは、特に限定されないが、例えば、自動車などの車両に搭載され、エンジンの吸気を過給するための排気ターボ過給機である。本開示では、排気ターボ過給機を例にして説明する。
【0012】
図1に示すように、ターボチャージャ1は、吸入空気を加圧して不図示のエンジンに供給するためのコンプレッサ2を備える。このコンプレッサ2は、回転軸4によってタービン6と連結されており、エンジンから排出される排ガスによって回転駆動するタービン6と連動して駆動するようになっている。
【0013】
以下では、タービン6が回転軸4を中心として回転することで描く円形形状の軌跡の方向を「周方向」とし、この円形形状の軌跡の半径方向を「径方向」とする。また、回転軸4の軸方向を単に「軸方向」とする。また、軸方向のうち軸方向一方側に向かう方向を第1軸方向D1とし、軸方向他方側に向かう方向を第2軸方向D2とする。本実施形態では、回転軸4の第1軸方向D1側の端部にコンプレッサ2が配置され、回転軸4の第2軸方向D2側の端部にタービン6が配置されている。
【0014】
ターボチャージャ1は、上述したコンプレッサ2、回転軸4、及びタービン6に加え、転がり軸受8と、油膜ダンパ10と、ハウジング12と、を備える。転がり軸受8及び油膜ダンパ10は、ハウジング12に収容されている。
【0015】
転がり軸受8は、回転軸4を回転可能に支持するものである。この転がり軸受8は、内輪14、外輪16、及び、転動体18を含む。内輪14は、円筒形状を有し、回転軸4に固定されるものである。内輪14は、回転軸4が回転するとともに回転する。外輪16は、円筒形状を有するものであって、内輪14よりも大径に構成されている。外輪16はハウジング12に嵌め込まれることで、ハウジング12に支持されている。内輪14は外輪16内に配置されており、内輪14の外周面15と外輪16の内周面17とによって軌道面19が形成されている。転動体18は、軌道面19を転がるものであって、例えば、玉やころである。尚、転動体18は複数設けられていてもよい。この場合、複数の転動体18のそれぞれは、互いに非接触であるように保持器によって保持されていてもよい。
【0016】
油膜ダンパ10は、転がり軸受8の外輪16の径方向外側に設けられており、外輪16とハウジング12との間に形成される隙間21に位置している。この隙間21には、例えば、ハウジング12に形成される不図示のオリフィスを介して、潤滑油11が供給されている。このような油膜ダンパ10は、ターボチャージャ1の運転中に発生する回転軸4の振動を減衰させる機能を有する。
【0017】
ハウジング12は、第1軸方向止め部20、及び第2軸方向止め部22を有する。第1軸方向止め部20は、油膜ダンパ10の軸方向における第1軸方向D1側の一端23に隣接して設けられ、転がり軸受8の外輪16の第1軸方向D1の動きを規制する。第2軸方向止め部22は、油膜ダンパ10の軸方向における第2軸方向D2側の他端25に隣接して設けられ、転がり軸受8の外輪16の第2軸方向D2の動きを規制する。本実施形態では、油膜ダンパ10の一端23は他端25と比較してコンプレッサ2に近い側に位置している。尚、ハウジング12は、第1軸方向止め部20、及び第2軸方向止め部22を含めて全体で一部品として一体構成されてもよい。あるいは、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22のそれぞれは、ハウジング12のうち第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除く部分とは異なる材料で構成されてもよい。
【0018】
また、第1軸方向止め部20は、外輪16が周方向に回転してしまうことを抑止可能であるように構成されてもよい。例えば、不図示であるが、第1軸方向止め部20は、外輪16に向かって突出するピン部材を備え、外輪16にはこのピン部材が嵌合される嵌合穴が形成される。
【0019】
ここで、
図2を参照して、第1軸方向止め部20の構成を説明する。第1軸方向止め部20の対向面26は、外輪16の軸方向一方側の端面24に対向している。この対向面26は、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さい静摩擦係数μを有する。この対向面26の静摩擦係数μは、例えば、JIS K7125に準じる試験方法で測定される値である。
【0020】
第1実施形態では、対向面26が静摩擦係数μを有するために、
図2に示すように、第1軸方向止め部20は、対向面26を形成するコーティング膜28を有する。このコーティング膜28は、非晶質炭素、二硫化モリブテン、窒化炭素、リン酸塩、ニッケルリン、銀、金、又は、フッ素樹脂を含んでもよい。また、コーティング膜28(静摩擦係数μを有する対向面26)は、径方向において、第1軸方向止め部20の径方向内側端30から油膜ダンパ10の径方向外側端32まで延在してもよい。
【0021】
(作用・効果)
本開示の第1実施形態に係るターボチャージャ1の作用・効果について説明する。
図3の比較例に示すように、転がり軸受8を用いたターボチャージャ1において、外輪16からプレート(第1軸方向止め部20)に対するスラスト荷重Sが掛かる。このスラスト荷重Sが大きい場合に回転軸4が振動しても、外輪16と第1軸方向止め部20との間に作用する摩擦力によって、外輪16が径方向に移動しない、又は移動量が抑制される。この結果、油膜ダンパ10は振動減衰機能を十分に発揮できない場合があった。
【0022】
しかしながら、第1実施形態によれば、第1軸方向止め部20の対向面26をコーティング膜28で形成することで、第1軸方向止め部20の対向面26の静摩擦係数μを、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さくすることができる。このため、外輪16に作用するスラスト荷重Sが大きい場合であっても回転軸4が振動した際に、外輪16と第1軸方向止め部20との間に作用する摩擦力を抑制し、外輪16を径方向外側に移動させることができる。よって、回転軸4の軸振動に対する油膜ダンパ10の減衰効果を十分に発揮することができる。また、ターボチャージャ1の運転中には、転がり軸受8からハウジング12に振動が伝達されるが、この振動を抑制することも可能である。尚、第1実施形態によれば、回転軸4が振動した際には、外輪16を径方向内側に移動させることもできる。
【0023】
また、第1実施形態によれば、静摩擦係数μを有するコーティング膜28は、径方向において、第1軸方向止め部20の径方向内側端30から油膜ダンパ10の径方向外側端32まで延在している。このため、油膜ダンパ10の隙間21によって許容される範囲内で外輪16がハウジング12に対して相対的に径方向に移動する場合において、第1軸方向止め部20の径方向内側端30から油膜ダンパ10の径方向外側端32に亘って、第1軸方向止め部20と外輪16との間の摩擦力の低減効果を享受できる。
【0024】
また、第1実施形態によれば、第1軸方向止め部20の対向面26にコーティング膜28を形成することは比較的容易なので、回転軸4の軸振動に対する油膜ダンパ10の減衰効果の向上を容易に実現することができる。
【0025】
尚、第1実施形態では、第1軸方向止め部20の対向面26の静摩擦係数μを第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さくしていたが、本開示はこの実施形態に限定されない。幾つかの実施形態では、第2軸方向止め部22の対向面(外輪16の軸方向他方側の端面に対向する面)の静摩擦係数を第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さくしてもよい。
【0026】
<第2実施形態>
本開示の第2実施形態に係るターボチャージャ1について説明する。第2実施形態は、第1軸方向止め部20の対向面26に代わり、外輪16の軸方向一方側の端面24にコーティング膜31が形成される点で第1実施形態とは異なるが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第2実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0027】
図4に示すように、外輪16は、軸方向一方側の端面24を形成するコーティング膜31を有する。このコーティング膜31は、第1実施形態で説明したコーティング膜28と同じものである。このように、第2実施形態では、外輪16の軸方向一方側の端面24が静摩擦係数μを有するように構成されている。また、外輪16の軸方向一方側の端面24は、全領域において、静摩擦係数μを有してもよい。つまり、外輪16の軸方向一方側の端面24の全領域に亘って、コーティング膜31が形成されてもよい。
【0028】
第2実施形態によれば、外輪16の軸方向一方側の端面24をコーティング膜31で形成することで、外輪16の軸方向一方側の端面24は、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さい静摩擦係数μを有することができる。このため、外輪16に作用するスラスト荷重Sが大きい場合であっても回転軸4が振動した際に、外輪16と第1軸方向止め部20との間に作用する摩擦力を抑制し、外輪16を径方向外側に移動させることができる。よって、回転軸4の軸振動に対する油膜ダンパ10の減衰効果を十分に発揮することができる。
【0029】
また、第2実施形態によれば、静摩擦係数μを有するコーティング膜31は、外輪16の軸方向一方側の端面24の全領域を形成している。このため、油膜ダンパ10の隙間21によって許容される範囲内で外輪16がハウジング12に対して相対的に径方向に移動する場合において、外輪16の径方向における移動範囲の全体に亘って、第1軸方向止め部20と外輪16との間の摩擦力の低減効果を享受できる。
【0030】
また、第2実施形態によれば、外輪16の軸方向一方側の端面24にコーティング膜31を形成することは比較的容易なので、回転軸4の軸振動に対する油膜ダンパ10の減衰効果の向上を容易に実現することができる。
【0031】
尚、第2実施形態では、外輪16の軸方向一方側の端面24は、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さい静摩擦係数μを有していたが、本開示はこの実施形態に限定されない。幾つかの実施形態では、外輪16の軸方向他方側の端面は、第1軸方向止め部20及び第2軸方向止め部22を除くハウジング12の部位よりも小さい静摩擦係数μを有してもよい。
【0032】
<第3実施形態>
本開示の第3実施形態に係るターボチャージャ1について説明する。第3実施形態は、第1実施形態とは異なる構成で第1軸方向止め部20の対向面26が静摩擦係数μを有している。第3実施形態は、第1軸方向止め部20を形成する材料が限定される点で第1実施形態とは異なるが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第3実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0033】
第1軸方向止め部20は、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含んでもよい。この場合、
図5に示すように、第1軸方向止め部20にコーティング膜28が形成されていなくてもよい。幾つかの実施形態では、第1軸方向止め部20がポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含む場合には、第1軸方向止め部20に固体潤滑剤が含侵されてもよい。固体潤滑剤は、例えば、二硫化モリブテン、グラファイト、二硫化タングステンなどである。
【0034】
第3実施形態によれば、第1軸方向止め部20は上述した銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含むので、外輪16の軸方向一方側の端面24と第1軸方向止め部20の対向面26との間に作用する摩擦力を低減させることができる。また、第3実施形態によれば、コーティング膜28を第1軸方向止め部20に形成する工程を省略することができる。
【0035】
尚、第3実施形態では、第1軸方向止め部20は、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含んでいたが、本開示はこの実施形態に限定されない。幾つかの実施形態では、第2軸方向止め部22は、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含んでもよい。また、幾つかの実施形態では、第2軸方向止め部22は、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含み、且つ第1軸方向止め部20より耐熱性を有するように構成される。例えば、(コンプレッサ2側に位置する)第1軸方向止め部20は200度までの耐熱性を有するの対し、(タービン6側に位置する)第2軸方向止め部は300度までの耐熱性を有するように構成される。
【0036】
<第3実施形態の変形例>
図6に示すように、第1軸方向止め部20は、基部35と中間部材36とを含んでもよい。基部35は特に限定されないが、中間部材36は、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含む。また、中間部材36は、外輪16の軸方向一方側の端面24に対向する対向面26を有するように配置されている。このような中間部材36はリング状形状を有するものであってもよく、例えば、樹脂リングである。このような構成によれば、中間部材36を設けることは非常に容易なので、回転軸4の軸振動に対する油膜ダンパ10の減衰効果の向上を非常に容易に実現することができる。尚、不図示であるが、中間部材36は、中間部材36の径方向外側の端面が油膜ダンパ10の径方向外側端32よりも径方向内側に位置するように、配置されてもよい。
【0037】
<第4実施形態>
本開示の第4実施形態に係るターボチャージャ1について説明する。第4実施形態は、コーティング膜28が形成されず、第1軸方向止め部20の対向面26が凹部40(ディンプル40A)を有する点で第1実施形態とは異なるが、それ以外の構成は第1実施形態で説明した構成と同じである。第4実施形態において、第1実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図7Aに示すように、第1軸方向止め部20の対向面26は、油膜ダンパ10の油が侵入可能な凹部40を有する。第4実施形態では、この凹部40は、第1軸方向止め部20の対向面26から凹むディンプル40A(40)を含む。第4実施形態では、第1軸方向止め部20の対向面26の周方向全体に亘るように複数のディンプル40Aが配置されている。また、第1軸方向止め部20の対向面26の径方向全体に亘るように複数のディンプル40Aが配置されている。
【0039】
第4実施形態によれば、
図7Bに示すように、第1軸方向止め部20の対向面26に含まれるディンプル40Aに、油膜ダンパ10から供給される潤滑油11を保持することができる。このため、第1軸方向止め部20の対向面26の摩擦係数を低減することができる。
【0040】
<第5実施形態>
本開示の第5実施形態に係るターボチャージャ1について説明する。第5実施形態は、第1軸方向止め部20の対向面26に形成される凹部40が、ディンプル40Aに代わり、第1溝40Bを含む点で第4実施形態とは異なるが、それ以外の構成は第4実施形態で説明した構成と同じである。第5実施形態において、第4実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0041】
図8Aに示すように、凹部40は、径方向において、油膜ダンパ10の径方向外側端32から第1軸方向止め部20の径方向内側端30まで延在している複数本の第1溝40B(40)を含む。第5実施形態では、複数本の第1溝40Bが、第1軸方向止め部20の対向面26の周方向に沿って配置されている。
【0042】
第5実施形態によれば、
図8Bに示すように、第1軸方向止め部20の対向面26に複数の第1溝40Bが含まれることで、油膜ダンパ10から供給される潤滑油11を第1溝40Bに流し、第1軸方向止め部20の対向面26を潤滑油11でより濡らすことができる。このため、第1軸方向止め部20の対向面26の摩擦係数を低減させることができる。
【0043】
<第6実施形態>
本開示の第6実施形態に係るターボチャージャ1について説明する。第6実施形態は、第1軸方向止め部20の対向面26に形成される凹部40が、ディンプル40Aに代わり、第2溝40Cを含む点で第4実施形態とは異なるが、それ以外の構成は第4実施形態で説明した構成と同じである。第6実施形態において、第4実施形態の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0044】
図9Aに示すように、凹部40は、径方向において、油膜ダンパ10の径方向外側端32から、第1軸方向止め部20の径方向内側端30と径方向外側端34との間の位置まで延在している複数本の第2溝40C(40)を含む。第6実施形態では、複数本の第2溝40Cが、第1軸方向止め部20の対向面26の周方向に沿って配置されている。
【0045】
第6実施形態によれば、
図9Bに示すように、第1軸方向止め部20の対向面26に第2溝40Cが含まれることで、油膜ダンパ10から供給される潤滑油11を第2溝40Cに流し、この潤滑油11が外輪16の軸方向一方側の端面24を押圧し、外輪16に作用するスラスト荷重Sを低減させることができる。
【0046】
尚、第5実施形態では、第1溝40Bが第1軸方向止め部20の径方向内側端30まで延在しているため、潤滑油11が漏れる場合がある。しかし、第6実施形態では、第2溝40Cが第1軸方向止め部20の径方向内側端30と径方向外側端34との間の位置まで延在しているので、潤滑油11が漏れずに済む。
【0047】
尚、第4実施形態~第6実施形態では、第1軸方向止め部20の対向面26が凹部40(40A、40B、40C)を有していたが、本開示はこの実施形態に限定されない。幾つかの実施形態では、第2軸方向止め部22の対向面が凹部40を有していてもよい。
【0048】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0049】
(1)本開示に係るターボチャージャ(1)は、回転軸(4)と、前記回転軸を回転可能に支持する転がり軸受(8)と、前記転がり軸受の外輪(16)の径方向外側に設けられる油膜ダンパ(10)と、前記油膜ダンパの軸方向における両端にそれぞれ隣接して設けられ、前記外輪の軸方向の動きを規制するための第1軸方向止め部(20)及び第2軸方向止め部(22)を有するハウジング(12)と、を備え、前記外輪の軸方向端面(24)、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記外輪の前記軸方向端面に対向する対向面(26)は、前記第1軸方向止め部及び前記第2軸方向止め部を除く前記ハウジングの部位よりも小さい静摩擦係数を有する、または、前記油膜ダンパの油が侵入可能な凹部を有する。
【0050】
上記(1)に記載の構成によれば、外輪の軸方向端面、或いは、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面の静摩擦係数を、第1軸方向止め部及び第2軸方向止め部を除くハウジングの部位よりも小さくすることができる。このため、外輪に作用する軸方向荷重が大きい場合であっても回転軸が振動した際に外輪を径方向に移動させることができ、軸振動に対する油膜ダンパの減衰効果を十分に発揮することができる。
【0051】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記外輪の前記軸方向端面は、該軸方向端面の全領域において、前記静摩擦係数又は前記凹部を有する。
【0052】
上記(2)に記載の構成によれば、油膜ダンパの隙間によって許容される範囲内で外輪がハウジングに対して相対的に径方向に移動する場合において、外輪の径方向における移動範囲の全体に亘って、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部と外輪との間の摩擦力の低減効果を享受できる。
【0053】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記静摩擦係数又は前記凹部を有する前記対向面は、径方向において、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端から前記油膜ダンパの径方向外側端まで延在している。
【0054】
上記(3)に記載の構成によれば、油膜ダンパの隙間によって許容される範囲内で外輪がハウジングに対して相対的に径方向に移動する場合において、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の径方向内側端から油膜ダンパの径方向外側端に亘って、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部と外輪との間の摩擦力の低減効果を享受できる。
【0055】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)の何れか1つに記載の構成において、前記外輪、或いは、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部は、前記軸方向端面又は前記対向面を形成するコーティング膜(28,31)を有する。
【0056】
上記(4)に記載の構成によれば、軸方向端面又は対向面にコーティング膜を形成することは比較的容易なので、軸振動に対する油膜ダンパの減衰効果の向上を容易に実現することができる。
【0057】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の構成において、前記コーティング膜は、非晶質炭素、二硫化モリブテン、窒化炭素、リン酸塩、ニッケルリン、銀、金、又は、フッ素樹脂を含む。
【0058】
上記(5)に記載の構成によれば、非晶質炭素、二硫化モリブテン、窒化炭素、リン酸塩、ニッケルリン、銀、金、又は、フッ素樹脂を含むコーティング膜を形成することで、軸方向端面又は対向面の静摩擦係数を効果的に減少させることができる。
【0059】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記外輪と、前記第1軸方向止め部と、前記第2軸方向止め部とのうち少なくとも一つは、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含む。
【0060】
上記(6)に記載の構成によれば、外輪と、第1軸方向止め部と、第2軸方向止め部とのうち少なくとも一つは、銅、銀、金、鉛、焼結含油金属、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドの何れかを含むので、外輪と第1軸方向止め部及び外輪と第2軸方向止め部との間に作用する摩擦力を低減させることができる。
【0061】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記凹部は、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の前記対向面から凹むディンプル(40A)を含む。
【0062】
上記(7)に記載の構成によれば、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面に含まれるディンプルに、油膜ダンパから供給される油を保持することができる。このため、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面の摩擦係数を低減することができる。
【0063】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記凹部は、径方向において、前記油膜ダンパの径方向外側端から前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端まで延在している複数本の第1溝(40B)を含む。
【0064】
上記(8)に記載の構成によれば、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面に第1溝が含まれることで、油膜ダンパから供給される油を第1溝に流し、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面をさらに油で濡らすことができる。このため、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面の摩擦係数を低減することができる。
【0065】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記凹部は、径方向において、前記油膜ダンパの径方向外側端から、前記第1軸方向止め部又は前記第2軸方向止め部の径方向内側端と前記径方向外側端との間の位置まで延在している複数本の第2溝(40C)を含む。
【0066】
上記(9)に記載の構成によれば、第1軸方向止め部又は第2軸方向止め部の対向面に第2溝が含まれることで、油膜ダンパから供給される油を第2溝に流し、外輪の軸方向端面を押圧し、外輪に作用する軸方向荷重を低減することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ターボチャージャ
2 コンプレッサ
4 回転軸
6 タービン
8 軸受
10 油膜ダンパ
11 潤滑油
12 ハウジング
14 内輪
15 内輪の外周面
16 外輪
17 外輪の内周面
18 転動体
19 軌道面
20 第1軸方向止め部
22 第2軸方向止め部
24 外輪の軸方向一方側の端面
26 第1軸方向止め部の対向面
28 コーティング膜
30 第1軸方向止め部の径方向内側端
31 コーティング膜
32 油膜ダンパの径方向外側端
34 第1軸方向止め部の径方向外側端
35 基部
36 中間部材
40 凹部
40A ディンプル
40B 第1溝
40C 第2溝
D1 第1軸方向
D2 第2軸方向
S スラスト荷重