(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-24
(45)【発行日】2023-11-01
(54)【発明の名称】導電性インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20231025BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2023519652
(86)(22)【出願日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2023011236
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2022053939
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枝川 朝子
(72)【発明者】
【氏名】外村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】有木 信貴
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-223812(JP,A)
【文献】特開2021-036331(JP,A)
【文献】特開2020-047378(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056052(WO,A1)
【文献】特開2017-004732(JP,A)
【文献】特開2005-294254(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101314680(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
H01B 1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒とを含む導電性インクであって、
導電性インク全体に対する、銀微粒子、ブロックドイソシアネート、分散剤及び分散媒の合計量が、98質量%以上であり、
前記分散剤は、アミンを含み、
前記ブロックドイソシアネートの含有量は、前記銀微粒子と前記ブロックドイソシアネートと前記分散剤との合計量に対して、2質量%以上4質量%以下である、導電性インク。
【請求項2】
前記分散剤は、極性基を有するアミンを含む、請求項1に記載の導電性インク。
【請求項3】
前記極性基を有するアミンは、アルコキシアミンである請求項2に記載の導電性インク。
【請求項4】
前記ブロックドイソシアネートの解離温度は、前記アルコキシアミンの沸点より高い、請求項3に記載に導電性インク。
【請求項5】
銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒とを含む導電性インクであって、
前記分散剤は、アルコキシアミンを含み、
前記ブロックドイソシアネートの含有量は、前記銀微粒子と前記ブロックドイソシアネートと前記分散剤との合計量に対して、2質量%以上4質量%以下であり、
前記ブロックドイソシアネートの解離温度は、前記アルコキシアミンの沸点より高い、導電性インク。
【請求項6】
前記ブロックドイソシアネートのイソシアネート成分は、脂肪族ポリイソシアネートである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性インク。
【請求項7】
前記脂肪族ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項
6に記載の導電性インク。
【請求項8】
前記銀微粒子の濃度は、30質量%以上50質量%以下であり、
前記分散媒の濃度は、45質量%以上65質量%以下である、請求項
1~5のいずれか1項に記載の導電性インク。
【請求項9】
銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒のみからなる、請求項
1~5のいずれか1項に記載の導電性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性インクに関する。
本出願は、2022年3月29日出願の日本出願第2022-053939号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を溶剤中に分散させ、バインダーや分散剤、表面張力調整剤、粘度調整剤等の添加剤を適宜加えて形成される金属インクは、主にその導電性を活かして様々な用途に用いられている。
金属粒子は、その粒子径をナノメートルサイズにすることで、融点降下によって低温で焼結させることが出来るようになる。更に、得られた金属粒子の焼結体は、金属箔に近い高い導電性を実現することができる。このような特徴を生かして、近年、金属インクは、フレキシブルなデバイスに組み込まれる電子回路の形成に用いられている。
【0003】
このような用途に用いられる金属インクとしては、例えば、特許文献1~4で提案されたものがある。
引用文献1では、アミン錯体分解法を用いた銀微粒子分散体の製造方法において、銀化合物と、アミンと、溶媒とを混合して錯化合物を含む混合液を調製する工程、及び、錯化合物を熱分解させて得た銀微粒子に溶媒を添加し、この溶媒に銀微粒子を分散させる工程、のそれぞれで所定の溶媒を使用することが提案されている。
引用文献1には、この製造方法によれば、低温焼結性を有し、銀微粒子が均一に分散された銀微粒子分散体を製造できることが記載されている。
【0004】
引用文献2では、高極性溶媒に銀微粒子が均一分散した低温焼結性を有する銀微粒子分散体として、銀微粒子と、炭素数が5以下である短鎖アミンと、高極性溶媒と、を含み、上記短鎖アミンの分配係数logPが-1.0~1.4である銀微粒子分散体が提案されている。
【0005】
引用文献3には、基材との強固な密着性を有する金属含有膜を製造することができる金属インキとして、金属粒子と、溶媒と、所定量のポリエーテル及び密着性付与剤と、を含む金属インキ、が提案されている。
引用文献3には、ポリエステル等のバインダー作用のあるポリマーが密着性付与剤として配合されることで、基材との密着性が強固になることが記載されている。また、この金属インクには、ポリエステルの架橋剤として、ブロックイソシアネート系架橋剤が含まれていてもよいことが記載されている。
【0006】
引用文献4には、低温、短時間での焼成が可能な高い導電性インキ組成物として、球状銀粉等の導電性フィラー、エポキシ化合物、ブロック剤が活性メチレン化合物及び/又はピラゾール化合物であるブロックポリイソシアネート、ブロックポリイソシアネートの反応触媒及び有機溶剤を必須成分として含有する導電性インキ組成物が提案されている。
引用文献4には、エポキシ化合物をブロックポリイソシアネートと併用することで、導電性に優れ、かつ強靭で耐溶剤性に優れた塗膜を得ることができることが記載されている。
【0007】
このように、金属インクでは、分散安定性や低温焼結性の向上、基材に対する密着性の向上などが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-173065号公報
【文献】国際公開第2015/190076号
【文献】特開2011-93962号公報
【文献】国際公開第2013/147047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した通り、近年、金属インクは、フレキシブルなデバイスに組み込まれる電子回路の形成に用いられることが増えている。この場合、形成された電子回路(導電膜)は、
曲げ変形時にクラック(ひび割れ)が発生しない性質(本明細書では、曲げ耐性という)を有することが求められている。
一方、従来の金属インクでは、低温焼結性を有しつつ、優れた曲げ耐性を有する導電膜を形成することが難しいという課題があった。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、低温焼結性を有し、かつ、優れた曲げ耐性を有する導電膜を形成することが可能な金属インク(導電性インク)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の導電性インクは、
銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒とを含む導電性インクであって、
上記ブロックドイソシアネートの含有量は、上記銀微粒子と上記ブロックドイソシアネートと上記分散剤との合計量に対して、2質量%以上4質量%以下である。
上記導電性インクによれば、比較的低温(例えば、140℃)で、曲げ耐性の良好な導電層を形成することができる。この理由は、下記のように推測される。
導電性インクを焼成する工程においては、まず、ブロックドイソシアネートの保護基が解離して活性なイソシアネート基が再生される。その後、イソシアネート化合物同士の重合(自己架橋)や、イソシアネート基と基材表面の官能基との結合等が進行し、導電膜の形成とともに、当該導電膜内にイソシアネート化合物による三次元構造物が形成される。その結果、導電膜の曲げ耐性が向上すると考えられる。
【0012】
(2)上記(1)の導電性インクにおいて、上記分散剤は、極性基を有するアミンを含む、ことが好ましい。
(3)上記(2)の導電性インクにおいて、上記極性基を有するアミンは、アルコキシアミンであることが好ましい。
これらの場合、上記導電性インクは、銀微粒子の分散性が良好になる。
【0013】
(4)上記(3)の導電性インクにおいて、上記ブロックドイソシアネートの解離温度は、上記アルコキシアミンの沸点より高い、ことが好ましい。
この場合、形成された導電膜の曲げ耐性が更に向上する。その理由は、下記のように推測される。
上記の場合、導電性インクを焼成する工程において、ブロックドイソシアネートの保護基が解離して活性なイソシアネート基が再生された際に、アルコキシアミンの多くは揮発している。そのため、イソシアネート基とアルコキシアミンとの反応が起こりにくく、イソシアネート化合物同士の重合(自己架橋)や、イソシアネート基と基材表面の官能基との結合等が起こりやすくなる。その結果、イソシアネート化合物による三次元構造が形成されやすくなり、曲げ耐性がより向上すると考えられる。
【0014】
(5)上述の(1)~(4)の導電性インクにおいて、上記ブロックドイソシアネートのイソシアネート成分は、脂肪族ポリイソシアネートであることが好ましい。
この場合、上記導電性インクを用いて導電膜(銀微粒子の焼結体)を形成した際に、導電膜の曲げ特性は良好になる。
(6)上述の(5)の導電性インクにおいて、上記脂肪族ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネートであることがより好ましい。
この場合、上記導電膜の曲げ特性を良好にするのに更に適している。
【0015】
(7)上述の(1)~(6)の導電性インクにおいて、上記銀微粒子の濃度は、30質量%以上50質量%以下であり、上記分散媒の濃度は、45質量%以上65質量%以下である、ことが好ましい。
この場合、導電性インクを基材に塗布しやすく、また、形成された導電膜の導電性も良好になる。
【0016】
(8)上述の(1)~(7)の導電性インクは、銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒のみからなる、ことが好ましい。
この場合、良好な曲げ耐性と、低体積抵抗値とを両立した導電膜を形成するのに適している。
【発明の効果】
【0017】
上記導電性インクは、低温焼結性を有し、かつ優れた曲げ耐性を有する導電膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係る導電性インクは、銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒とを含む。
【0019】
<銀微粒子>
銀微粒子の平均粒径は、融点降下が生じ、低温(例えば、140℃)で焼結できるような平均粒径であればよい。上記銀微粒子の平均粒径は、1nm以上400nm以下が好ましい。
銀微粒子の平均粒径が1nm以上であれば、導電性に優れた導電膜を形成でき、かつ、銀微粒子の製造コストを低く抑えることができる。銀微粒子の平均粒径が400nm以下であれば、銀微粒子の分散安定性が経時的に変化しにくくなる。
銀微粒子の平均粒径は、溶媒中への分散性をより良好なものとする観点から、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0020】
上記銀微粒子の平均粒径は、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)を用いて、粒径基準を体積基準としたメジアン径(D50)として測定する。
上記平均粒径の測定は、例えば、堀場製作所社製の動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-550」により行うことができる。
【0021】
具体的には、分散媒中に導電性インクを数滴滴下し、手で振動させて、銀微粒子を分散させて測定用試料を調製する。ついで、測定用試料3mLを、動的光散乱式粒径分布測定装置「LB-550」のセル内に投入し、下記の条件にて測定する。
【0022】
・測定条件
データ読み込み回数:100回
セルホルダー内温度:25℃
・表示条件
分布形態:標準
反復回数:50回
粒子径基準:体積基準
分散質の屈折率:0.200-3.900i(銀の場合)
分散媒の屈折率:1.411(4-メチル-2-プロパノールを分散媒とした場合)
分散媒の粘度:4.1(4-メチル-2-プロパノールを分散媒とした場合)
・システム条件設定
強度基準:Dynamic
散乱強度レンジ上限:10000.00
散乱強度レンジ下限:1.00
【0023】
上記導電性インク中の銀微粒子の濃度(含有量)は、好ましくは30質量%以上50質量%以下である。銀微粒子の濃度が30質量%以上であれば、導電性の高い導電膜を形成するのに適している。銀微粒子の濃度が50質量%以下であれば、導電性インクの粘度が高くなり過ぎず、塗布性(例えば、インクジェットヘッドからの吐出性)を適正にしやすい。
より好ましい上記銀微粒子の濃度は、30質量%以上45質量%以下である。
【0024】
上記導電性インクは、上記銀微粒子に加えて、銀以外の金属の粒子を少なくとも1種含有してもよい。銀以外の金属の粒子を配合することにより、上記導電性インクによって形成される導電膜においてマイグレーションが発生しにくくなる。
上記銀以外の金属としては、イオン化列が水素より貴である金属が好ましい。イオン化列が水素より貴である金属としては、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウムが好ましく、金、銅、白金、パラジウムがより好ましい。これらの金属は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
銀以外の金属の粒子の平均粒径は、1nm以上1μm以下が好ましい。
【0025】
<ブロックドイソシアネート>
ブロックドイソシアネートとは、イソシアネ-ト化合物(イソシアネート成分)のイソシアネ-ト基がブロック剤で保護されたものである。上記ブロックドイソシアネートは、通常の状態(導電性インクに配合され、当該導電性インクが未加熱の状態)では安定を保ち、熱処理されることでブロック剤が解離して活性なイソシアネート基が再生される。
【0026】
上記ブロックドイソシアネートは、イソシアネ-ト化合物とブロック剤との反応物である。
上記イソシアネート化合物は、イソシアネート基を有する化合物であればよく、2個又は3個以上のイソシアネート基を有するものが好ましい。
上記イソシアネート化合物は、2個のイソシアネート基を有するものがより好ましい。
【0027】
上記ブロックドイソシアネートとしては、公知のブロックドイソシアネートを使用することができる。
上記ブロックドイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等の、炭化水素基と複数のイソシアネート基とを有するイソシアネート化合物(以下、炭化水素系ポリイソシアネートともいう)と、ブロック剤との反応物が好ましい。
【0028】
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及びこれらのイソシアヌレート変性体、プレポリマー変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体等が挙げられる。
【0029】
上記脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-ビス(イソシアネートメチル)-シクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及びこれらのイソシアヌレート変性体、プレポリマー変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体等が挙げられる。
【0030】
上記芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’-ジイソシアネート-3,3’-ジメチルビフェニル、1,3-ビス(2-イソシアネート-2-プロピル)ベンゼン、及びこれらのイソシアヌレート変性体、プレポリマー変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体等が挙げられる。
【0031】
上記ブロック剤としては、アルキルケトンオキシム類、フェノール類、アルコール類、β-ジケトン類、ラクタム類等の公知のブロック剤を用いることができる。
上記ブロック剤の具体例としては、例えば、メチルエチルケトンオキシム、ε-カプロラクタム、フェノール、クレゾール、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、イソプロピルアルコール、第3ブチルアルコール、マレイン酸イミド等が挙げられる。
上記ブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム等のジアルキルケトンオキシム類、ε-カプロラクタム等のラクタム類等が好ましい。解離温度が80℃以上150℃以下のブロックドイソシアネートを生成するのに適しているからである。
【0032】
上記ブロックドイソシアネートが、炭化水素系ポリイソシアネートとブロック剤との反応物である場合、当該炭化水素系ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネートよりも、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートの方が好ましい。
脂肪族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネートは、芳香族イソシアネートほど反応性が高くなりすぎず、銀微粒子を焼結させる温度条件において適度な三次元構造が形成されるため、導電膜の導電性が損なわれにくいからである。
更に、炭化水素系ポリイソシアネートは、脂環式ポリイソシアネートよりも脂肪族ポリイソシアネートの方が好ましい。脂肪族ポリイソシアネートの方が、導電性と曲げ耐性とをより両立しやすいからである。
【0033】
上記脂肪族ポリイソシアネートにおいて、炭化水素基は、直鎖状でもよいし、分岐鎖を有していてもよいが、直鎖状が好ましい。脂肪族ポリイソシアネートとして、炭化水素基が直鎖状の脂肪族ポリイソシアネートを採用した場合、上記導電性インクを用いて形成される導電膜の柔軟性を確保しやすい。
上記脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートが特に好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートは、成形した導電膜において、良好な導電性と良好な曲げ耐性とを確保するのに特に適している。
【0034】
上記ブロックドイソシアネートの解離温度は、80℃以上150℃以下が好ましい。銀微粒子の焼結と並行して反応が進みやすく、かつ耐熱性の低い基材に塗布して使用することもできるからである。
上記ブロックドイソシアネートとしては、市販品を使用することもできる。
上記ブロックドイソシアネートの市販品としては、例えば、タケネートB-882N、タケネートB-890、タケネートB-7005(いずれも三井化学社製)、デュラネートMF-K60B、デュラネートSBB-70P、デュラネートSBN-70D、デュラネート17B-60P、デュラネートE402-B80B(いずれも旭化成社製)、コロネートBI-301(東ソー社製)等が挙げられる。
【0035】
上記ブロックドイソシアネートの含有量は、上記銀微粒子と、上記ブロックドイソシアネートと、上記分散剤との合計量に対して、2質量%以上4質量%以下である。
上記ブロックドイソシアネートの含有量が2質量%未満では、イソシアネート化合物の重合(自己架橋)や、基材表面の官能基との結合等によって形成される三次元構造が密にならず、曲げ耐性が充分に確保できない。一方、上記ブロックドイソシアネートの含有量が4質量%を超えると、形成された導電膜に含まれるイソシアネート化合物の量が多くなりすぎて、導電性が低くなる。
【0036】
<分散剤>
上記分散剤は、銀微粒子の凝集を防止し、銀微粒子の分散安定性を高める成分である。
上記導電性インクは、上記分散剤として、少なくともアミンを含む。
上記アミンは、銀微粒子の表面に付着して銀微粒子の分散安定性を維持するために機能する。
【0037】
上記アミンとしては、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンを用いることができる。上記アミンとしては、極性基を有するアミンが好ましい。そのため、上記アミンとしては、第一級アミン及び第二級アミンが好ましい。
【0038】
上記アミンとしては、例えば、アルキルアミン、アルコキシアミン、シクロヘキシルアミン、ジアミン等が挙げられる。これらのなかでは、アルコキシアミンが好ましい。
アルコキシアミンを用いると、銀微粒子に種々の溶媒(特に高極性溶媒)に対する優れた分散性と低温焼結性とを付与することができる。上記高極性溶媒とは、水や炭素数の短いアルコールなど、ヘキサンやトルエンのような低極性溶剤と相溶しにくいものを意味する。
【0039】
上記アルキルアミンとしては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
【0040】
上記アルコキシアミンとしては、例えば、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-プロポキシプロピルアミン、3-ブトキシプロピルアミン、2-エトキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、2-メトキシ-2-メチルプロピルアミン、N-(3-メトキシプロピル)プロパン-1,3-ジアミン等が挙げられる。
【0041】
上記アルコキシアミンは、炭素数が5以下であるものが好ましい。炭素数が5以下のアルコキシアミンは高極性であるため、シュウ酸銀等のカルボン酸銀の銀原子と配位結合して錯体を形成し易く、カルボン酸銀とアミンの錯体を熱分解して銀微粒子を作製する方法に適している。
また、炭素数が5以下のアルコキシアミンは比較的低沸点であるため、焼成時に銀微粒子から脱離し易く、銀微粒子分散体を焼成して得られる導電膜の体積抵抗値が高くなることを防止できる。
ここで、上記アルコキシアミンの炭素数とは、官能基であるアルコキシ基を含まない炭素数である。
【0042】
上記アルコキシアミンの沸点は、上記ブロックドイソシアネートの解離温度よりも低いことが好ましい。
この場合、形成された導電膜の曲げ耐性が良好になる。
【0043】
上記アミンとしては、1種類のアミンが用いられてもよいし、2種類以上のアミンが併用されてもよい。1種類のアミンを用いる場合は、アルコキシアミンを用いることが好ましい。2種類以上のアミンを併用する場合は、少なくとも1種類のアミンがアルコキシアミンであることが好ましい。
【0044】
上記アミンとしては、低温焼結性を確保する観点から、沸点が180℃以下のアミンが好ましい。
上記銀微粒子が焼結する際に、上記銀微粒子の表面にアミンが残存していると、銀微粒子同士の融着を阻害される。そのため、上記アミンは、焼成時には早期に蒸発又は分解され、銀微粒子の表面から離脱することが好ましい。この点から、上記アミンの沸点は、150℃以下がより好ましい。
本発明において、沸点とは1気圧での沸点をいう。
【0045】
上記アミンは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖を有していてもよい。
上記アミンは、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の、アミン以外の官能基を含む化合物であってもよい。
【0046】
上記分散剤は、高分子分散剤であってもよい。
上記分散剤として、高分子分散剤を含有する場合、アミンと併用することが好ましく、アルコキシアミンと併用することがより好ましい。分散剤として、アミンと高分子分散剤とを併用することにより、銀微粒子の分散性を更に向上させることができる。
【0047】
上記高分子分散剤としては、市販品を使用することができる。
上記市販品としては、例えば、ソルスパース(SOLSPERSE)11200、ソルスパース13940、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(日本ルーブリゾール社製);ディスパービック(DISPERBYK)102、ディスパービック118、ディスパービック142、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック2155(ビックケミー・ジャパン社製);EFKA-46、EFKA-47、EFKA-48、EFKA-49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-17、フローレンTG-730W、フローレンG-700、フローレンTG-720W(共栄社化学工業社製)等を挙げることができる。
【0048】
<分散媒>
上記溶媒としては、例えば、種々の高極性溶媒を用いることができる。
上記高極性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、イソアミルアルコール、フルフリルアルコール、ニトロメタン、アセトニトリル、ピリジン、アセトンクレゾール、ジメチルホルムアミド、ジオキサン、エチレングリコール、グリセリン、フェノール、p-クレゾール、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-2-ペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-ペンタノン、2-ヘプタノン、ジプロピレングリコール、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸-2-ブトキシエチル、酢酸2-(2-ブトキシエトキシ)エチル、酢酸-2-メトキシエチル、2-ヘキシルオキシエタノール等が挙げられる。
これらのなかでは、導電性インクを基材に塗布した際に基材を侵すことを回避しやすいことから、炭素数1~6のアルコールが好ましい。
上記分散媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記分散媒は、常圧での沸点が170℃以上であることが好ましい。分散媒の常圧での沸点が170℃以上であることで、導電性インクが塗布後に過度に乾燥することを抑制できる。
【0050】
上記導電性インク全体に対する上記分散媒の濃度(含有量)は、45質量%以上65質量%以下が好ましい。
上記分散媒の濃度が45質量%以上あれば、上記導電性インクは、過剰に粘度が上がりすぎることがないために取り扱いが容易となる。上記分散媒の含有量が65質量%以下であれば、形成された導電膜が、十分な導電性を有しやすい。
【0051】
上記導電性インクは、本発明の効果を損なわない範囲で、銀微粒子、ブロックドイソシアネート、分散剤及び分散媒以外の他成分を含んでいてもよい。
上記他成分としては、例えば、界面活性剤、消泡剤等が挙げられる。界面活性剤や消泡剤を添加することで、均一な導電膜を形成しやすくなる。
上記界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を用いることができる。
【0052】
上記導電性インクは、当該導電性インク全体に対する、銀微粒子、ブロックドイソシアネート、分散剤及び分散媒の合計量が、98質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、99質量%である。
上記導電性インクは、銀微粒子、ブロックドイソシアネート、分散剤及び分散媒のみで構成されていてもよい。
【0053】
上記導電性インクにおいて、構成成分の含有量は、例えば、大気雰囲気下、室温から550℃まで昇温する熱重量分析を行うことにより、測定することができる。
【0054】
次に、上記導電性インクの製造方法について説明する。
上記導電性インクの製造方法は特に限定されず、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、アミンが表面に付着した銀微粒子を調製する。その後、得られた銀微粒子を、ブロックドイソシアネートとともに、分散媒に分散させる。これらの工程を経ることで、上記導電性インクが得られる。銀微粒子を分散媒に分散させる工程では、必要に応じて分散剤を分散媒に追加してもよい。
【0055】
上記アミンが表面に付着した銀微粒子の製造方法としては、例えば、還元により分解して銀を生成しうる銀化合物と、アミンを含む分散剤との混合液を調製する第1工程と、上記混合液中の上記銀化合物を還元することで表面の少なくとも一部に上記アミンが付着した銀微粒子を生成する第2工程とを含む方法が挙げられる。
【0056】
上記第1工程においては、アミンを銀原子1molに対して2mol以上添加することが好ましい。上記アミンの添加量を銀原子1molに対して2mol以上とすることで、還元によって生成される銀微粒子の表面に上記アミンを適量付着させることができ、上記銀微粒子に種々の分散媒に対する優れた分散性と低温焼結性とを付与することができる。
【0057】
上記第1工程では、アミンとともに分散剤として、上述の高分子分散剤を添加してもよい。この場合、上記高分子分散剤の添加量は、銀化合物1質量部に対して、0.03質量部以上0.2質量部以下が好ましい。銀化合物1質量部に対する高分子分散剤の添加量が、0.2質量部より多いと形成された導電膜の導電性が悪化することがあり、0.03質量部未満では銀微粒子を分散させる効果が得られないことがある。
【0058】
上記第1工程における混合液の組成、及び、上記第2工程における還元条件(例えば、加熱温度及び加熱時間等)は、得られる銀微粒子の粒径がナノメートルサイズとするように調整する。これによって、銀微粒子の融点降下が生じ、低温焼成が可能になる。得られる銀微粒子の平均粒径は、1nm以上400nm以下とすることがより好ましい。
【0059】
上記第2工程の還元反応を行うことで、銀微粒子を含むコロイド液が得られる。
上記コロイド液には、銀微粒子の他に、分散剤等が存在しており、溶液全体の電解質濃度が高い傾向にある。このような状態のコロイド液では、電導度が高い等の理由で、銀微粒子の凝析が起こり、沈殿しやすい。そのため、上記コロイド液を洗浄して余分な電解質を取り除く次工程を行うことが好ましい。
【0060】
上記コロイド液の洗浄方法としては、例えば、コロイド液を一定期間静置して上澄み液を取り除いた後、純水や低級アルコール(例えば、メタノール)を加えて撹拌し、更に一定期間静置して上澄み液を取り除く工程を幾度か繰り返す方法が挙げられる。
その他の洗浄方法としては、例えば、上述した静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過装置、イオン交換装置等により脱塩する方法等が挙げられる。なかでも、脱塩する方法が好ましい。脱塩した液は、適宜濃縮されてもよい。
【0061】
上記銀化合物としては、種々の公知の銀化合物を用いることができ、例えば、銀塩又は銀塩の水和物を用いることができる。具体的には、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、シュウ酸銀、ギ酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀等の銀塩が挙げられる。これらは還元可能なものであれば特に限定されず、適当な溶媒中に溶解させても、溶媒中に分散させたまま使用してもよい。また、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
上記銀化合物としては、シュウ酸銀が好ましい。
シュウ酸銀は、最も単純なジカルボン酸銀であり、シュウ酸銀を用いて合成されるシュウ酸銀アミン錯体は、低温かつ短時間で還元が進むことから、ナノメートルサイズの銀微粒子の合成に好適である。更に、シュウ酸銀を用いると、合成時には副生成物が発生せず、系外にシュウ酸イオン由来の二酸化炭素が出るのみであるため、合成後に精製の手間が少ない。
【0063】
上記銀化合物を還元する方法としては、加熱する方法が好ましい。上記加熱方法は特に限定されない。上記加熱により上記銀化合物を還元する方法としては、例えば、シュウ酸銀等の銀化合物とアミンから生成される錯化合物を加熱して、上記錯化合物に含まれるシュウ酸イオン等の金属化合物を分解して生成する原子状の銀を凝集させる方法が挙げられる。上記方法により、表面にアミンが付着した銀微粒子を製造することができる。
【0064】
このように、銀化合物の錯化合物をアミンの存在下で熱分解することで、アミンが表面に付着した銀微粒子を製造する金属アミン錯体分解法においては、単一種の分子である銀アミン錯体の分解反応により原子状銀が生成するため、反応系内に均一に原子状銀を生成することが可能であり、複数の成分間の反応により銀原子を生成する場合に比較して、反応を構成する成分の組成揺らぎに起因する反応の不均一が抑制され、特に工業的規模で多量の銀粉末を製造する際に有利である。
【0065】
また、金属アミン錯体分解法においては、生成する銀原子にアミン分子が配位結合しており、上記銀原子に配位したアミン分子の働きにより凝集を生じる際の銀原子の運動がコントロールされるものと推察される。この結果として、金属アミン錯体分解法によれば非常に微細で、粒度分布が狭い金属粒子(銀微粒子)を製造することが可能となる。
【0066】
更に、製造される銀微粒子の表面にもアミン分子が配位結合しており、これらが銀微粒子の表面に保護被膜を形成するため、保存安定性に優れる銀微粒子を製造することが可能となる。
また、上記被膜を形成するアミン分子は加熱等により容易に脱離可能であるため、非常に低温で焼結可能な銀微粒子を製造することが可能となる。
【0067】
次に、得られた銀微粒子を、ブロックドイソシアネートとともに、分散媒に分散させることで、上記導電性インクが得られる。このとき、必要に応じて分散剤を分散媒に追加してもよい。
具体的には、例えば、上記第2工程で得られた銀微粒子を含むコロイド液を洗浄して得られた銀スラリーを、ブロックドイソシアネートとともに、炭素数1~6のアルコール等の分散媒に分散させる。
【0068】
上記銀スラリーやブロックドイソシアネートを、上記分散媒に分散させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、攪拌機やスターラー等を用いて従来公知の方法によって行うことができる。また、スパチュラのようなもので撹拌したりして、適当な出力の超音波ホモジナイザーを当ててもよい。
【0069】
(導電性インクの使用方法)
上記導電性インクは、基材上に塗布した後、焼成することで、導電膜を形成することができる。そのため、プリンテッドエレクトロニクス分野において好適に用いることができる。上記導電膜は、電子回路基板(例えば、半導体集積回路)、プリント配線基板、薄膜トランジスタ基板の配線、電極等として用いることができる。
【0070】
上記基材の材料としては、種々のインク吸収性材料(例えば、紙、布帛、多孔性セラミックス等)の他に、インク非吸収性材料が用いられてもよく、耐熱性に優れたものが好ましく用いられる。
上記インク非吸収性材料としては、エンジニアリングプラスチックや、スーパーエンジニアリングプラスチック等の樹脂が例示できる。上記インク非吸収性材料の具体例としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)等が挙げられる。ここで、インク非吸収性材料とは、インク受容機能を有する構造を有さない材料を意味する。
【0071】
上記基材の表面には、導電膜との密着性を高める目的で、表面層(プライマー層)が設けられていてもよく、親水化処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理の方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理等のドライ処理が挙げられる。
【0072】
上記塗布とは、導電性インクを面状に塗布する場合も線状に塗布(描画)する場合も含む概念である。塗膜(導電膜)の形状は、面状であってもよく、線状であってもよく、これらを組み合わせた形状であってもよい。また、塗膜(導電膜)は、連続するパターンであってもよく、不連続なパターンであってもよく、これらを組み合わせたパターンであってもよい。
【0073】
上記導電性インクの塗布方法としては特に限定されず、例えば、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、反転印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ディッピング法、スプレー法、バーコート法、スピンコート法、ディスペンサー法、流延法、フレキソ法、グラビア法、シリンジ法、刷毛による塗布法等が挙げられる。
【0074】
上記塗膜を焼成すると、塗膜に含まれる銀微粒子同士の結合が高まり、焼結される。
上記塗膜の焼成温度は特に限定されず、例えば、100℃以上300℃以下の範囲内とされる。
上記焼成温度は、基材の表面上に導電膜を形成可能な温度であって、かつ、含有されるブロックドイソシアネートの保護基が解離し、イソシアネート基が再生する温度である。
更に、上記焼成温度は、本発明の効果を損なわない範囲で分散媒を蒸発可能な温度であることが好ましい。上記焼成温度は、分散媒の一部が残存する温度でもよいが、分散媒が全て除去される温度がより好ましい。
【0075】
塗膜の焼成時間は、特に限定されず、焼成温度に応じて適宜設定すればよい。
塗膜を焼成する際の加熱条件としては、例えば、予め所定温度(例えば、140℃)に設定されたオーブンに入れる条件や、室温から昇温速度10℃/分で昇温し、その後、所定温度で保持する条件が選択できる。
上記塗膜を加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、従来公知のギヤオーブンを用いる方法等が挙げられる。
【0076】
上記導電膜の膜厚は、例えば、0.1μm以上5μm以下であり、好ましくは0.2μm以上3μm以下である。上記導電膜の体積抵抗値は、好ましくは20μΩ・cm以下、より好ましくは10μΩ・cm以下である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(試薬:ブロックドイソシアネート)
(1)デュラネート17B-60P(旭化成社製):ブロックドイソシアネートとしてブロックドヘキサメチレンジイソシアネートを約60質量%含有する。ブロック剤はメチルエチルケトンオキシムである。保護基の解離温度は130℃である。
(2)デュラネートE402-B80B(旭化成社製):ブロックドイソシアネートとしてブロックドヘキサメチレンジイソシアネートを約80質量%含有する。ブロック剤はメチルエチルケトンオキシムである。保護基の解離温度は130℃である。
(3)タケネートB-882N(三井化学社製):ブロックドイソシアネートとしてブロックドヘキサメチレンジイソシアネートを約70質量%含有する。保護基の解離温度は140℃である。
(4)タケネートB-890(三井化学社製);ブロックドイソシアネートとしてブロックドキシリレンジイソシアネートを約60質量%含有する。保護基の解離温度は、150℃である。
【0079】
(ブロックドイソシアネート等の含有量の測定)
実施例1~7、及び比較例1、2では、熱重量分析を用いてブロックドイソシアネートの含有量を算出した。
大気雰囲気下、10℃/分で昇温して熱重量分析を行った。このとき、室温から100℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいて分散媒の含有量を算出し、100℃を超え150℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいて分散剤の含有量を算出し、150℃を超え550℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいてブロックドイソシアネートの含有量を算出した。また、550℃時点の残分に基づいて銀微粒子の含有量を算出した。その後、銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量(質量%)を算出した。
【0080】
比較例3では、150℃を超え550℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいてポリウレタンの含有量を算出した。そして、銀微粒子、分散剤、及びポリウレタンの合計量に対する、ポリウレタンの含有量(質量%)を算出した。
比較例4では、150℃を超え550℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいてエポキシ樹脂の含有量を算出した。そして、銀微粒子、分散剤、及びエポキシ樹脂の合計量に対する、エポキシ樹脂の含有量(質量%)を算出した。
比較例5では、150℃を超え550℃までの熱重量天秤の重量減少に基づいて、ポリオール及びブロックドイソシアネートの合計含有量を算出した。そして、銀微粒子、分散剤、ブロックドイソシアネート、及びポリオールの合計量に対する、ブロックドイソシアネート及びポリオールの合計量の含有量(質量%)を算出した。
なお、比較例3~5において、分散媒の含有量、分散剤の含有量、及び銀微粒子の含有量は、実施例1~7、及び比較例1、2と同様にして算出した。
【0081】
(実施例1)
3-メトキシプロピルアミン(沸点:116℃)8.0gと、分散剤であるDISPERBYK-102(ビックケミー・ジャパン社製)0.2gとを混合し、マグネティックスターラーにてよく攪拌してアミン混合液を調製した。次いで、攪拌を行いながら、アミン混合液にシュウ酸銀3.0gを添加した。シュウ酸銀の添加後、室温で攪拌を続けることでシュウ酸銀を粘性のある白色の物質へと変化させ、当該変化が外見的に終了したと認められる時点で攪拌を終了した。
得られた混合液をオイルバスに移し、120℃で加熱攪拌を行った。攪拌の開始直後に二酸化炭素の発生を伴う反応が開始し、その後、二酸化炭素の発生が完了するまで攪拌を行うことで、銀微粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。
次に、当該懸濁液の分散媒を置換するため、水とメタノールの混合溶媒10mLを加えて攪拌後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させて分離し、分離した銀微粒子に対してメタノール10mLを加え、攪拌、遠心分離を行うことで銀微粒子を沈殿させて分離させて銀スラリーを得た。有機溶媒である2-ヘキシルオキシエタノール29.0質量部と2-メチル-2,4-ペンタンジオール29.0質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネート17B-60Pを2.0質量部添加して混合溶液を得た。得られた混合溶液60.0質量部を銀スラリー40.0質量部に加えて、銀微粒子を分散させ、導電性インク1を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、3.1質量%であった。
【0082】
(実施例2)
実施例1と同様にして銀スラリーを得たのち、次いで、有機溶媒である2-メチル-2,4-ペンタンジオール32.5質量部と4-メチル-2-ペンタノール31.2質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネートE402-B80Bを1.3質量部添加して混合溶液を得た。得られた混合溶液65.0質量部を銀スラリー35.0質量部に加えて、銀微粒子を分散させ、導電性インク2を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、2.8質量%であった。
【0083】
(実施例3)
実施例1と同様にして銀スラリーを得たのち、次いで、有機溶媒である2-メチル-2,4-ペンタンジオール34.6質量部と4-メチル-2-ペンタノール34.1質量部とに、ブロックドイソシアネートであるタケネートB-882Nを1.3質量部添加して混合溶液を得た。得られた混合溶液70.0質量部を銀スラリー30.0質量部に加えて、銀微粒子を分散させ、導電性インク3を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、3.0質量%であった。
【0084】
(実施例4)
銀スラリーを調製する際に用いるアミンを、ヘキシルアミン4.0g及びブチルアミン2.0gに変更し、懸濁液の分散媒を置換する溶媒としてメタノールを使用した以外は実施例1と同様にして導電性インク4を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、3.0質量%であった。
【0085】
(実施例5)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク5を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール29.0質量部と4-メチル-2-ペンタノール29.9質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネートE402-B80Bを1.1質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、2.2質量%であった。
【0086】
(実施例6)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク6を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール30.0質量部と2-メチル-2,4-ペンタンジオール27.4質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネート17B-60Pを2.6質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、4.0質量%であった。
【0087】
(実施例7)
ブロックドイソシアネートとしてタケネートB-890を用いた以外は実施例1と同様にして導電性インク7を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、3.0質量%であった。
【0088】
(比較例1)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク8を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール29.2質量部と4-メチル-2-ペンタノール29.9質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネートE402-B80Bを0.9質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、1.8質量%であった。
【0089】
(比較例2)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク9を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール30.1質量部と2-メチル-2,4-ペンタンジオール27.0質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネート17B-60Pを2.9質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量は、4.4質量%であった。
【0090】
(比較例3)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク10を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール22.0質量部と2-メチル-2,4-ペンタンジオール22.7質量部とイソホロン13.0質量部とに、ポリウレタンである大日精化社製、ダイフェラミンMAU-8828A(有効成分約60質量%)を2.3質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びポリウレタンの合計量に対する、ポリウレタンの含有量は、3.5質量%であった。
【0091】
(比較例4)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク11を得た。
2-ヘキシルオキシエタノール29.0質量部と4-メチル-2-ペンタノール29.8質量部とに、エポキシ樹脂であるDIC社製、EPICLON850(有効成分約99質量%以上)を1.2質量部添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、及びエポキシ樹脂の合計量に対する、エポキシ樹脂の含有量は、2.9質量%であった。
【0092】
(比較例5)
銀スラリーを混合させる混合溶液の配合を下記の通り変更した以外は実施例1と同様にして導電性インク12を得た。
2-メチル-2,4-ペンタンジオール30.1質量部と4-メチル-2-ペンタノール27.9質量部とに、ブロックドイソシアネートであるデュラネート17B-60Pを0.5質量部とポリオールであるクラレ社製、クラレポリオールC-590(有効成分99質量%以上)を1.5質量部とを添加して混合溶液を得た。銀微粒子、分散剤、ブロックドイソシアネート、及びポリオールの合計量に対する、ブロックドイソシアネート及びポリオールの合計量の含有量は、4.3質量%であった。
なお、本比較例において、銀微粒子、分散剤、及びブロックドイソシアネートの合計量に対する、ブロックドイソシアネートの含有量が2.0質量%未満であることも確認された。
【0093】
<評価>
下記の方法で評価サンプルを作製した後、各種評価を行った。評価結果は、表1、2に示した。
(評価サンプルの作製)
実施例、比較例で作製した導電性インクをスピンコーターで、40mm×40mm程度の大きさのPETフィルム基材(厚さ50μm)に2000rpm×20secの条件で塗布して、その後、140℃に設定したギヤオーブンで30分間焼成した。但し、実施例7に限り150℃に設定したギヤオーブンで30分間焼成した。得られた導電性被膜の焼成後の厚さはおよそ0.4μmであった。
【0094】
(1)導電性の評価
評価サンプルの表面抵抗値をロレスタ(三菱ケミカルアナリテック製MCP-T610)で測定した。また、レーザー顕微鏡(KEYENCE製 VK-X150)により膜厚を計測した。計測結果から体積抵抗値を算出した。下記の基準で評価した。
A:20μΩ・cm未満
B:20μΩ・cm以上40μΩ・cm以下
C:40μΩ・cm超
【0095】
(2)密着性の評価
ASTM D3359-09 に則り、クロスカットによる密着性評価を行った。
即ち、評価サンプル上に1mm幅、25個の碁盤目をカッターで作成し、目の部分にセロハンテープ(ニチバン製 CT-24、幅24mmを指圧で圧着させ、テープの端から約60°の角度で一気に引き剥がした。結果を下記の基準で評価した。
A:剥離の割合が5%未満
B:剥離の割合が5%以上15%以下
C:剥離の割合が15%超
【0096】
(3)曲げ耐性の評価
屈曲試験機(ユアサシステム機器社製、Tension-Free Folding Clamshell-type)を用いて、評価サンプルを曲げ半径1mm、又は2mmの条件で折り曲げた状態で24h放置し、折り曲げた箇所をレーザー顕微鏡(KEYENCE製 VK-X150)で観察することでクラックの発生有無を確認した。
A:半径1mm条件で確認できるクラックなし
B:半径1mm条件では確認できるクラックはあるが、半径2mm条件では確認できるクラックはなし
C:半径2mm条件で確認できるクラックあり
【0097】
(4)総合評価
A:3項目ともA評価
B:3項目中B評価が1項目以上あり、かつC評価なし
C:3項目のうちいずれかがC評価
【0098】
【0099】
【要約】
銀微粒子とブロックドイソシアネートと分散剤と分散媒とを含む導電性インクであって、前記ブロックドイソシアネートの含有量は、前記銀微粒子と前記ブロックドイソシアネートと前記分散剤との合計量に対して、2質量%以上4質量%以下である、導電性インク。