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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】気体フィルター
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
A61L9/00 Z
A61L9/00 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019091251
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020185134
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智三
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-099604(JP,A)
【文献】特開2005-280168(JP,A)
【文献】特開昭60-061022(JP,A)
【文献】特開2004-243055(JP,A)
【文献】特開2015-213875(JP,A)
【文献】特開昭55-011073(JP,A)
【文献】登録実用新案第3154925(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0126898(US,A1)
【文献】実開昭48-039549(JP,U)
【文献】特開2002-224768(JP,A)
【文献】特開2004-041910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00-9/22
B01D 39/00-41/04
B01D 46/00-46/90
B01D 53/26-53/28
B01D 53/02-53/12
B01D 53/73,53/86-53/90,53/94,53/96
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面シートと波状シートを接着してなる片面段ボールを、中心軸の周りに前記波状シートの稜線方向に垂直な方向に巻回してなる円筒形状の気体フィルターであって、前記片面段ボールの巻き始め部分の少なくとも一部は中心軸に固着されており、前記片面段ボールの巻き終わり部分の少なくとも一部は内側に隣接する片面段ボールに固着されており、その他の部分の片面段ボールは互いに固着されておらず、前記片面段ボールが機能性添加剤を含有するものであることを特徴とする気体フィルター。
【請求項2】
前記円筒形状の上面および/または底面に、中心軸から放射状に配置された複数の溝を有しており、該溝に長尺部材が嵌入しているとともに、前記円筒形状の側面に沿うように外周板が設置されており、前記長尺部材により前記中心軸および前記外周板が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の気体フィルター。
【請求項3】
機能性添加剤が、吸放湿剤、吸着剤、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤および触媒からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載の気体フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、業務用エアコン、家庭用エアコンまたは自動車用エアコンの除加湿用素子や気体中の有機溶剤、ガス、臭気、菌またはウイルスの除去部材として使用することのできる円筒形状の気体フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形状の気体フィルターとしては、片面段ボールを巻回することによって得られるものがよく知られている。例えば、特許文献1には、高吸放湿性高分子化合物を含有する不織布をコルゲート加工して得た片面段ボールを巻回して得られる吸湿素子が開示されており、該吸湿素子の構造を作る際に使用する結合剤としては、でんぷん系、ポリビニルアルコール系等の親水性のものが好ましいとされている。
【0003】
また、特許文献2には、平板状の基材シートに波板状の基材シートが重ねられた長尺のハニカムシートを芯材(中心軸)に渦巻状に巻き付けて得られた骨格構造基体に、吸着材とバインダーとが水に分散されて成る水系分散液を塗布含浸させた後、加熱乾燥することにより、吸着材を付着させて得られる吸着素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-103635号公報
【文献】特開2007-190546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された発明では、高吸放湿性高分子化合物を含有する片面段ボールを巻回して吸湿素子の構造を作る際に結合剤を使用しているため、高吸放湿性高分子化合物の表面が結合剤で覆われてしまう。このため、含有する高吸放湿性高分子化合物の吸放湿性能を十分に利用できないという問題を有している。
【0006】
また、特許文献2に開示された発明では、骨格構造基体に吸着材とバインダーとが水に分散されて成る水系分散液を塗布含浸するため、含浸後に水系分散液から骨格構造基体を引き上げる際の液だまりの発生や乾燥固着するまでの間の重力の影響などで付着ムラが発生して性能が不均一となったり、気体貫通路を目詰まりさせたりしやすいという問題を有している。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、気体フィルターに担持されている機能性添加剤の機能を十分に発揮できるとともに、吸放湿や加熱冷却に伴う寸法変化に伴う不具合を抑制した気体フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、片面段ボールの巻き始めの部分と巻き終わりの部分のみを固着するだけでも、実用に耐えうる気体フィルターが得られることを見出し、本発明の完成に到達した。
【0009】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1) 平面シートと波状シートを接着してなる片面段ボールを、中心軸の周りに前記波状シートの稜線方向に垂直な方向に巻回してなる円筒形状の気体フィルターであって、前記片面段ボールの巻き始め部分の少なくとも一部は中心軸に固着されており、前記片面段ボールの巻き終わり部分の少なくとも一部は内側に隣接する片面段ボールに固着されており、その他の部分の片面段ボールは互いに固着されておらず、前記片面段ボールが機能性添加剤を含有するものであることを特徴とする気体フィルター。
(2) 前記円筒形状の上面および/または底面に、中心軸から放射状に配置された複数の溝を有しており、該溝に長尺部材が嵌入しているとともに、前記円筒形状の側面に沿うように外周板が設置されており、前記長尺部材により前記中心軸および前記外周板が接続されていることを特徴とする(1)に記載の気体フィルター。
(3) 機能性添加剤が、吸放湿剤、吸着剤、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤および触媒からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(1)または(2)に記載の気体フィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明の気体フィルターは、片面段ボールの巻き始め部分と巻き終わり部分のみを固着するものである。このため、片面段ボールに含有されている機能性添加剤が接着剤に被覆される面積を小さくすることができ、該添加剤の機能の発現率を高めることができる。かかる性能を有する本発明の気体フィルターは、該フィルターの含有する機能性添加剤の機能を活用するさまざまな用途に使用することができる。例えば、デシカント空調機器に使用されるデシカントロータとして、あるいは家庭用エアコンや冷蔵庫などで使用される脱臭フィルターに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の気体フィルターの一例を示す模式図である。
図2】本発明の気体フィルターの巻き始め部分の固着方法の一例を示す模式図である。
図3】本発明の気体フィルターの別の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の気体フィルターに採用する片面段ボールは、平面シートと波状シートを接着したものである。これらのシートの基材としては、アルミニウムや銅などの熱伝導性の高い金属からなる金属板、樹脂シート、紙や不織布などの繊維質シートを挙げることができる。
【0013】
上記の平面シートおよび波状シートの厚みとしては、波形状への加工や気体フィルターとして使用するときの圧力損失などの観点から、好ましくは0.5mm以下であり、より好ましくは0.2mm以下である。一方、厚みが薄すぎる場合にも波形状等への加工が難しくなるため、0.05mm以上の厚みがあることが好ましい。
【0014】
また、片面段ボールにおいて平面シートと波状シートで形成される空隙の高さとしては、本発明の気体フィルターにおいて処理しようとする気体の量、気体通過時の圧力損失、求められる性能などを勘案して定めることができるが、一般的には2mm以下とすることが好ましい。空隙の高さの下限としては、波形状とするためのコルゲート加工の制約を踏まえると好ましくは0.5mm、より好ましくは0.9mm程度である。ここで、平面シートと波状シートで形成される空隙の高さとは、平面シートと波状シートで形成される空隙において、波状シートの内表面の波の頂点から平面シートの内表面に下ろした垂線の長さのことを指す。従って、平面シートと波状シートで形成される空隙の高さには、平面シートおよび波状シートの厚みを含まない。
【0015】
また、上記片面段ボールは、機能性添加剤を含有するものである。かかる機能性添加剤は、片面段ボールを構成する平面シートと波状シートの両者に含有されていてもよいし、どちらか一方のみに含有されていてもよい。前者の場合には、含有させる機能性添加剤の量をより多くすることができるため、気体フィルターの機能性を高める手段として有効である。
【0016】
機能性添加剤を平面シートおよび/または波状シートに含有させる態様としては、シートの表面に機能性添加剤をバインダーで固着したものや、樹脂原料に機能性添加剤を混合してシート状に成形したもの、機能性添加剤を紙にすき込んだものなどを挙げることができる。分散液状あるいは溶液状の機能性添加剤や、機能性添加剤とバインダーの混合液などの場合には、シート上に塗布する態様や、シートを浸漬させる態様なども可能である。また、繊維状の機能性添加剤であれば、機能性添加剤自体を紙や不織布などの繊維質シートの構成繊維とする態様も可能である。
【0017】
機能性添加剤をシートに含有させる時点としては、平面シートや波状シートの形状に加工する前であることが好ましい。片面段ボールへの加工以降に含浸を行うと、液だまりの発生や乾燥固着するまでの間の重力の影響などで付着ムラが発生して性能が不均一となったり、平面シートと波状シートで形成される空隙、すなわち気体貫通路を目詰まりさせたりしやすいという問題が発生する恐れが高くなるので望ましくない。
【0018】
機能性添加剤としては、吸放湿剤、吸着剤、消臭剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、触媒などを例示することができ、複数種を併用してもよい。このうち、吸放湿剤としては、ゼオライトやシリカゲルなどの無機系吸放湿剤や吸水性ポリマー、特開2001-011320号公報や特開平8-225610号公報に開示されているような吸放湿性を有する高分子化合物などを挙げることができる。
【0019】
また、機能性添加剤として吸放湿剤を採用する場合、平面シートおよび/または波状シートの吸湿性能としては、20℃、相対湿度65%の環境下で、1平方メートル当たり10g以上の水分を吸湿するものであることが好ましく、20g以上であるものがより好ましい。ただし、あまりにも吸湿量が高い場合には、いわゆる吸水性ポリマーのような状態となり、乾燥が遅くなるため、水分の吸湿が1平方メートル当たり150g以下であることが好ましい。かかる吸湿性能を得る観点からは、吸放湿剤として、上述した特開2001-011320号公報や特開平8-225610号公報に開示されているような吸放湿性を有する高分子化合物を採用することが望ましい。
【0020】
本発明の気体フィルターは、図1に示すように、上述した片面段ボールを、中心軸の周りに波状シートの稜線方向に垂直な方向に巻回してなる円筒形状構造を基本構造とするものである。ここで、中心軸の形状としては管状、棒状などを、材質としては紙、金属、プラスチックなどを挙げることができ、本発明の気体フィルターを組み付ける装置や使用条件などに応じて適宜選択すればよい。
【0021】
また、本発明の気体フィルターは、その円筒形状構造において、片面段ボールの巻き始め部分の少なくとも一部は中心軸に固着されており、前記片面段ボールの巻き終わり部分の少なくとも一部は内側に隣接する片面段ボールに固着されており、その他の部分の片面段ボールは互いに固着されていない構造を有するものである。本発明の気体フィルターにおいては、このような構造を採用することにより、実用上の形態安定性を維持しつつ、円筒形状に加工する際の接着剤の使用による機能性添加剤の被覆を抑制し、該添加剤の機能をより有効に発現させることができる。ここで、該構造における巻き始め部分とは、巻回されている片面段ボールの中心軸に接触している部分を指し、巻き終わり部分とは最外周を構成している部分を指す。
【0022】
上記の構造における巻き始め部分の固着方法としては、図2に示すように片面段ボールの先端部分を粘着テープ、タッカーまたはホッチキスなどを用いて先端部分を中心軸に固着する方法や巻き始め部分の片面段ボールの内側に接着剤を塗布して中心軸に接着させる方法が挙げられる。後者の場合、接着剤は巻き始め部分の全体に塗布しても良いが、部分的または先端部分のみに塗布すれば接着剤による被覆面積をより小さくできるので好ましい。また、中心軸に設けた切り込み部に片面段ボールの先端部分を差し込んで固着する方法なども好適である。
【0023】
また、巻き終わり部分の固着方法としては、図1に示すように片面段ボールの終端部分を粘着テープによって内側に隣接する片面段ボールに固着する方法や巻き終わり部分の片面段ボールの内側に接着剤を塗布して内側に隣接する片面段ボールに接着させる方法が挙げられる。後者の場合、接着剤は巻き終わり部分の全体に塗布しても良いが、部分的または終端部分のみに塗布すれば接着剤による被覆面積をより小さくできるので好ましい。
【0024】
一方、上記の構造における巻き始め部分と巻き終わり部分とを除く部分は、隣接する片面段ボール同士が固着されていない。すなわち、巻き始め部分と巻き終わり部分以外の大部分の片面段ボール間には接着点が存在しないことから、吸放湿や加熱冷却に伴い、接着点が破壊されて気体フィルターの形態安定性が大きく低下するという問題が起こりにくい。
【0025】
上述してきた本発明の気体フィルターの円筒形状構造の高さとしては、処理しようとする気体の量、気体通過時の圧力損失、求められる性能などを勘案して定めることができるが、好ましくは200mm以下であり、より好ましくは100mm以下である。一方、高さの下限としては、加工制約の観点から10mm程度となる。
【0026】
さらに、本発明の気体フィルターの応用例として、図3に示すような構造の気体フィルターを挙げることができる。かかる気体フィルターは、上述した円筒形状構造の上面および/または底面に、中心軸から放射状に配置された複数の溝を有しており、該溝に長尺部材が嵌入しているとともに、前記円筒形状構造の側面に沿うように外周板が設置されており、前記長尺部材により前記中心軸および前記外周板が接続されている構造を有するものである。かかる構造においては、中心軸の軸方向の片面段ボールのずれを防止することができるとともに、外周板の存在により径方向の寸法安定性を向上させることができる。
【0027】
かかるずれ防止や寸法安定性の効果を十分に得る観点から、溝の本数としては、円筒形状構造の直径が600mm以下の場合には好ましくは2~4本であり、600mmを超える場合には好ましくは4本以上、より好ましくは6本以上である。また、かかる溝は等角度間隔に配置することが好ましい。さらに、溝の幅としては1~5mmが好ましく、溝の深さとしては円筒形状構造の高さの10分の1~4分の1であることが好ましい。
【0028】
また、溝は円筒形状構造の上面と底面の片方のみに設けてもよいし、両方に設けてもよい。溝を上面と底面の両方に設ける場合には、上面と底面における溝の位置を揃えてもよいし、揃えなくてもよい。
【0029】
上述した溝に嵌入させる長尺部材の形状・大きさ・材質としては、ずれ防止や寸法安定性の効果や耐久性などを十分に得ることを考慮して選択する。例えば、形状としては、細長い長方形の板状や丸棒状などの形状を挙げることができる。材質としては、金属、プラスチックなどを挙げることができる。大きさについては、デシカントロータのように、気密性を得るためにシール材との摺動が求められる用途などにおいては、長尺部材の大きさが溝の深さと一致していることが望ましい。
【0030】
また、上述した外周板の形状・大きさ・材質としては、ずれ防止や寸法安定性の効果や耐久性などを十分に得ることを考慮して選択する。例えば、形状としては、予め円筒形に成型されたものであってもよいし、柔軟な材質の板状部材を円筒形状構造の側面に巻き付けて外周板を構成してもよい。大きさについては、円筒形状構造の側面の全部を覆うものであってもよいし、部分的に覆うものであってもよい。材質としては、金属、プラスチック、ゴムなどを挙げることができる。
【0031】
また、かかる外周板は長尺部材により中心軸と接続されていることが望ましい。このようにすることにより、ずれ防止や寸法安定性の効果をより高めることができる。接続方法としては特に限定は無く、外周板、長尺部材、中心軸の材質に適した接続方法を採用することができる。例えば、ネジによる締結、溶接、粘着テープや接着剤による接着、溝などの切り欠きによる嵌合などを挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の気体フィルターは、例えば業務用エアコン、家庭用エアコン、自動車用エアコン、冷蔵庫などの除加湿用や脱臭用フィルターなどとして使用できるものである。
【符号の説明】
【0033】
1:気体フィルター
2:片面段ボール
3:中心軸
4:粘着テープ
5:長尺部材
6:外周板
図1
図2
図3