(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】密閉型電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/176 20210101AFI20231026BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/533 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/55 20210101ALN20231026BHJP
【FI】
H01M50/176
H01M50/184 A
H01M50/533
H01M50/15
H01M50/55 101
(21)【出願番号】P 2019210398
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】山根 慎吾
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-105374(JP,A)
【文献】特開2015-144093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/10-50/198
H01M50/50-50/598
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と、
前記電極体を収容し、ケースの内面から外面に至る貫通孔である端子取付孔が一部に形成された電池ケースと、
前記電極体と電気的に接続された端子部材であって、前記端子取付孔を貫通する軸部と、該軸部と前記電池ケースの内側または外側において連なるベース部とを有する端子部材と、
前記端子部材と前記電池ケースとの間に配置されるシール材と、
を備える密閉型電池であって、
前記端子部材のベース部は、前記端子取付孔の周囲を構成する電池ケースの端子取付面に沿って配置されており、
前記シール材は、前記ベース部と前記端子取付面との間に挟まれた状態で配置されているとともに、一部は前記端子取付孔を貫通する軸部と該端子取付孔の内壁面との間に配置されて前記電池ケースの反対側に至っており、
前記ベース部における前記軸部の周縁部分は、該周縁部の外方における該ベース部の基準表面よりも前記端子取付面との距離が短い段差
部となっており、且つ、
前記端子取付面における前記端子取付孔の周縁部には、前記段差部に対向する位置において前記シール材に向かって突出する突起部が形成されており、
ここで、前記端子取付孔の軸方向における前記突起部の高さと、該軸方向における前記ベース部の基準表面と前記段差部の表面との高度差に相当する段差部の高さとの合計は、前記ベース部の基準表面と前記電池ケースの端子取付面とに挟まれた部分の前記シール材の最大厚みを100%としたときに、その厚みの6%~81%に相当することを特徴とする、密閉型電池。
【請求項2】
前記シール材は、前記端子取付面と、前記段差部及び前記基準
表面とにより挟まれて圧縮されていることを特徴とする、請求項1に記載の密閉型電池。
【請求項3】
前記端子取付面に沿った方向を第1の方向として、
前記突起部の前記軸方向の前記端子取付面側における、前記第1の方向における前記突起部の長さが、前記第1の方向における前記段差部の長さの5%以上7%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の密閉型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型電池に関する。詳しくは、密閉型電池における電池ケースの蓋体および端子部材の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉構造を有するリチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池等の密閉型電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源用途のみならず、近年は車両駆動用電源として好ましく用いられている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後も需要が拡大するものと期待されている。
【0003】
密閉型電池は、一例として、電極体が開口部を有する電池ケースのケース本体に収容され、該開口部が蓋体(封口板)で塞がれた構造を有している。電池ケースの内部において、電極体の各極には同極の集電端子(端子部材)が取り付けられている。即ち、各々の集電端子は、内部端子と外部端子とから構成されており、電極体に取り付けられている内部端子は、蓋体に取り付けられている外部端子と接続される。
特許文献1,2に記載される密閉型の電池は、蓋体および外部端子にはいずれも、内部端子の軸部を挿通させるための貫通孔が形成されている。内部端子の軸部は、貫通孔に挿通された状態で、先端がかしめ固定されている。
かしめ部においては、内部端子と蓋体との間には、シール材が配置されている。シール材は、例えば内部端子と蓋体とが接触するのを妨ぐとともに、電池ケースの気密性を保つために配置されている。特許文献1,2では、蓋体の貫通孔の周囲には突起部が形成されており、該突起部をシール材に食い込ませた状態で内部端子の先端が押圧および圧縮されている。そして、特許文献2には、このような突起がガスケット(シール材)に食い込むことによって、ガスケットによる気密性が確保されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-49396号公報
【文献】特開2019-109972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、密閉型電池の安全性への要求がさらに高まっており、電池ケースの気密性を従来よりも好適に維持できる構造の密閉型電池を開発することが望まれている。
【0006】
そこで、本発明は上記の要求を鑑みて創出されたものであり、その目的とするところは、電池ケースにおける気密性を、より好適に維持できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、電池ケースの蓋体において、端子取付孔の周囲に設けられる突起、および、集電端子のベース部における軸部周囲の周縁部分に形成される段差に着目した。そして、集電端子の軸方向における突起の高さと段差の高さとの合計が、所定範囲であるように設定することによって、シール材を破損させることなく密閉型電池の気密性を顕著に向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここに開示される密閉型電池は、電極体と、上記電極体を収容し、ケースの内面から外面に至る貫通孔である端子取付孔が一部に形成された電池ケースと、上記電極体と電気的に接続された端子部材(即ち、集電端子)であって、上記端子取付孔を貫通する軸部と、該軸部と上記電池ケースの内側または外側において連なるベース部とを有する端子部材と、上記端子部材と上記電池ケースとの間に配置されるシール材と、を備える。
上記端子部材のベース部は、上記端子取付孔の周囲を構成する電池ケースの端子取付面に沿って配置されている。
上記シール材は、上記ベース部と上記端子取付面との間に挟まれた状態で配置されているとともに、一部は上記端子取付孔を貫通する軸部と該端子取付孔の内壁面との間に配置されて上記電池ケースの反対側に至っている。
上記ベース部における上記軸部の周縁部分は、該周縁部の外方における該ベース部の基準表面よりも上記端子取付面との距離が短い段差部となっている。
かつ、上記端子取付面における上記端子取付孔の周縁部には、上記段差部に対向する位置において上記シール材に向かって突出する突起部が形成されている。
ここで、上記端子取付孔の軸方向における上記突起部の高さと、該軸方向における上記ベース部の基準表面と上記段差部の表面との高度差に相当する段差部の高さとの合計は、上記ベース部の基準表面と上記電池ケースの端子取付面とに挟まれた部分の上記シール材の最大厚みを100%としたときに、その厚みの6%~81%に相当することを特徴とする。
【0008】
かかる構成の密閉型電池は、集電端子のかしめ固定を行う際に、比較的小さな押圧力で圧縮した場合であっても、かしめ部位に高い密閉性を実現することができる。当該密閉型電池においては、かしめ加工によるシール材の破損が高度に抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態にかかる密閉型電池の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態にかかる密閉型電池の正極の集電端子構造近傍の構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2における領域100の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【
図4】サンプル1における集電端子構造近傍のCAE解析結果を示す模式図である。
【
図5】比較サンプル1における集電端子構造近傍のCAE解析結果を示す模式図である。
【
図6】比較サンプル2における集電端子構造近傍のCAE解析結果を示す模式図である。
【
図7】試験例2におけるヘリウムリーク試験の結果を示すグラフである。
【
図8】他の実施形態にかかる密閉型電池の正極端子構造近傍の構造を模式的に示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。さらに、
図1~3,8において、U,D,R,Lはそれぞれ上、下、右、左を示している。なお、本明細書において数値範囲A~Bは、A以上B以下を示している。
以下、ここに開示される密閉型電池の一つとして、捲回電極体が直方体形状(いわゆる角形)の電池ケースに収容された、密閉構造のリチウムイオン二次電池を例示しつつ詳細に説明する。なお、本明細書において「端子部材」とは、上述したように電極体と電気的に接続される部材である。典型的には、電池ケースの内側に配置される「内部端子」と、電池ケースの外側に配置される「外部端子」とから構成される。以下の好適な実施形態では、端子部材のうちの内部端子がかしめ構造を備える密閉型電池について説明する。ただし、本開示に係る密閉型電池を以下の実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0011】
まず初めに、ここに開示される密閉型電池の全体的な構造を、
図1を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、一実施形態にかかる密閉型電池の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示されるように、ここに開示される密閉型電池1は、電池ケース2と、電極体3と、電解液(図示なし)とを備えている。
電極体3は、例えば、長尺なシート状の正極3Aと長尺なシート状の負極3Bとが、セパレータ3Cを介在させつつ積層され、捲回軸方向に捲回された捲回電極体である。正極3Aには、正極集電体3A1の片面もしくは両面に正極活物質層3A2が形成されている。負極3Bには、負極集電体3B1の片面もしくは両面に負極活物質層3B2が形成されている。なお、電極体3そのものは、本発明を特徴づけるものではないため、詳細な説明は省略する。
電解液は、例えば、リチウム塩を含む非水電解液であり得る。電解液としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート系非水溶媒に、リチウム塩を含ませたものが挙げられる。
【0012】
電池ケース2は、電極体3と電解液とを収容して密閉される。電池ケース2は、一端に開口部を有するケース本体21と、該開口部を塞ぐ蓋体22とを備える。ケース本体21は、例えば扁平な直方体形状であり、蓋体22は、例えば矩形平板状であり得る。ケース本体21と蓋体22とは、例えば溶接によって一体化され得る。また、電池ケース2の材質としては、例えばアルミニウム等の軽量かつ熱伝導性の良い金属材料が挙げられる。
【0013】
図示されるように、蓋体22の水平方向(即ち、X方向)において、蓋体22の両端部には各々の電極の集電端子構造4が設けられている。L側の端部には正極の集電端子構造4Aが設けられている。一方、R側の端部には負極の集電端子構造4Bが設けられている。
【0014】
正極の集電端子構造4Aは、正極接続端子5Aと、正極外部端子6Aと、正極内部端子7Aと、正極集電板8Aとを備える。
正極接続端子5Aは、電池ケース2の外部に配置されている。正極接続端子5Aは、正極の外部接続用端子である。
正極外部端子6Aは、図示されるように、電池ケース2の外部に配置されている。正極外部端子6Aは、正極接続端子5Aと、正極内部端子7Aとに接続されている。
正極内部端子7Aは、電池ケース2の内部に配置されている。正極内部端子7Aは、上述の通り正極外部端子6Aと接続され、正極内部端子7Aと接続されている。
正極集電板8Aは、電池ケース2の内部において、正極内部端子7Aと、電極体3の正極3Aとに接続されている。
【0015】
負極の集電端子構造4Bは、負極接続端子5Bと、負極外部端子6Bと、負極内部端子7Bと、負極集電板8Bとを備える。
負極接続端子5Bは、電池ケース2の外部に配置されている。負極接続端子5Bは、負極の外部接続用端子である。
負極外部端子6Bは、図示されるように、電池ケース2の外部に配置されている。負極外部端子6Bは、負極接続端子5Bと、負極内部端子7Bとに接続されている。
負極内部端子7Bは、電池ケース2の内部に配置されている。負極内部端子7Bは、上述の通り負極外部端子6Bと接続され、負極内部端子7Bと接続されている。
負極集電板8Bは、電池ケース2の内部において、負極内部端子7Bと、電極体3の負極3Bとに接続されている。
【0016】
更に、上述した集電端子構造について詳細に説明する。密閉型電池1においては、正極の集電端子構造4Aと負極の集電端子構造4Bとは、上記X方向の中心を軸として略対称に配置されている。そのため、以下では、正極の集電端子構造4Aの構成をもとに、
図2および
図3を参照しつつ詳細に説明する。負極の集電端子構造4Bの構成についての説明は、正極側と同様であるので、省略する。なお、
図2は、一実施形態にかかる密閉型電池の正極の集電端子構造近傍の構造を模式的に示す断面図である。
図3は、
図2における領域100の構成を模式的に示す拡大断面図である。
【0017】
正極接続端子5Aは、基部51Aと、ボルト52Aとを備える。基部51Aは略矩形板状である。ボルト52Aは、基部51Aの板面に配置され、該基部51Aから蓋体22の水平方向(即ち、X方向)に対して直交する方向(即ち、Z方向)においてU側に延びている。ボルト52に、外部接続用の部材が接続されることによって、正極は外部と接続される。
【0018】
正極外部端子6Aは、板状の部材が屈曲されることによって階段形状の部材である。正極外部端子6Aは、下段接続部61Aと、上段接続部63Aとを備える。下段接続部61Aは平板状であり、上段接続部63Aよりも低い位置に形成されている。下段接続部61Aは、正極内部端子7Aの軸部75Aが挿通される貫通孔62Aを有する。上段接続部63Aは平板状であり、下段接続部61Aよりも高い位置に形成されている。上段接続部63Aは、正極接続端子5Aのボルト52Aが挿通される貫通孔64Aを有する。
【0019】
図示されるように、正極接続端子5Aおよび蓋体22の間と、正極外部端子6Aおよび蓋体22の間とには、シール材10Aが配置されている。シール材10Aは、平板部11Aと、固定部12Aとを備える。平板部11Aは、正極内部端子7Aの軸部75Aが挿通される貫通孔13Aを有する。固定部12Aには、正極接続端子5Aの基部51Aが固定される。
シール材10Aは絶縁性を有する材料によって形成されており、その材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、およびポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の樹脂材料が挙げられる。
【0020】
電池ケース2(蓋体22)は、正極内部端子7Aの軸部75Aが挿通される、電池ケース2の内面から外面に至る端子取付孔23Aを有する。また、蓋体22の内面において、端子取付孔23Aの周囲には、端子取付面25Aが構成されている。さらに、端子取付面25Aにおける端子取付孔23Aの周縁部には、軸方向(即ち、Z方向)において、シール材9Aに向かって(即ち、D側に)突出する突起部24Aが形成されている。
【0021】
図示されるように、突起部24Aは、シール材9Aと当接するシール部24A1を有する。突起部24Aの横断面形状は、例えば、テーパ形状を含むものであることが好ましい。例えば、その横断面形状は、蓋体22の水平方向における幅(X方向における長さ)が突起部24Aの先端に向かって(D方向に向かって)小さくなる部分を有する形状である。例えば、シール部24A1の幅(以下、「シール長」ともいう。)L2bは、突起部24AのU方向における端部(即ち、上端)24A2の幅L2cよりも小さくなり得る(L2b<L2c)。好ましくは、上記2つの幅の関係は、0.4L2c≦L2b<L2cであり、さらに好ましくは0.5L2c≦L2b<L2cであり得る。
突起部24Aの幅は、端部24A2から、D方向に向かって少なくとも0.3L2a(0.3L2a~L2a)の位置において、シール長L2bと同一になっていることが好ましい。
図3において、直線P-Qの長さは、任意の位置における突起部24Aの幅を示しており、例えば、端部24A2から、D方向に向かってL2aの位置(即ち、シール部24A1)において、上記シール長L2bと同一になってもよい。また、直線P-Qの長さは、端部24A2から、D方向に向かって0.3L2a(または0.4L2a,0.6L2a,0.8L2a等)の位置において、上記シール長L2bと同一になってもよい。この場合、突起部24Aの幅は、当該位置から突起部24Aの先端(シール部24A1)に至るまでシール長L2bと同一であり得る。
突起部24Aは、上記のような形状に形成されていることで、剛性が高められている。そのため、かしめ加工時の突起部24Aの変形が抑制されている。
【0022】
正極内部端子7Aは、ベース部71Aと、軸部75Aと、かしめ部76Aとを備える。
軸部75Aはベース部71Aから蓋体22側に対して略垂直に(U方向に)延びており、貫通孔62Aおよび端子取付孔23Aに挿通され、一部が電池ケース2の外部に配置される。また、軸部75Aには、ベース部71Aが電池ケース2の内側において連なっている。ベース部71Aは、端子取付面25Aに沿って、電池ケース2の内側に配置されている。ベース部71Aにおいて、軸部75Aの周縁部分には、段差部71A1が形成されている。段差部71A1は、上記周縁部分の外方におけるベース部71Aの基準表面71A2よりも端子取付面25Aとの距離が短い。
ベース部71Aは板状に形成されており、本実施形態においては、例えば略円板状であり得る。軸部75Aは柱状に形成されており、本実施形態においては、例えば円柱状であり得る。ベース部71Aの直径は、軸部75Aの直径と比較して大きくてよい。軸部75Aの直径は、ベース部71Aの直径と比較して小さくてよい。また、ベース部71Aの直径と、軸部75Aの直径とは、同程度であってもよい。
【0023】
蓋体22の水平方向(即ち、X方向)において、軸部75Aから突起部24Aの、該軸部75Aと反対側(即ち、R側)の端部までの長さL2d、軸部75Aから段差部71A1のR側の端部までの長さL7bについて、L7b>L2dであることが好ましい。即ち、上記突起部24Aは、段差部71A1と対向する位置に形成されることが好ましい。このとき、後述するかしめ加工時に、シール材9Aには、少なくとも突起部24Aと、段差部71A1のR側の端部との2点において、他の部分と比較して相対的に強く圧力がかかることとなる。ここで開示される密閉型電池は、当該部位において2つのシール構造を有し、シール構造の信頼性が向上されている。かしめ加工時に加える荷重を比較的小さく設定しても、かしめ固定部位に高い気密性が実現される。
なお、長さL7bを100%としたときに、上記シール長L2bは、長さL7bの5%~7%(好ましくは6%程度)に相当するように設計されていることが好ましい。
【0024】
図示されるように、蓋体22と正極内部端子7Aとの間には、シール材9Aが配置される。シール材9Aは、基部91Aと、貫通孔92Aと、筒部93Aとを備える。基部91Aは、端子取付面25Aとベース部71Aとの間に挟まれた状態で配置されている。また、筒部93Aは、端子取付孔23Aを貫通する軸部75Aと、端子取付孔23Aとの間に配置されて、蓋体22の外面側に至っている。
シール材9Aは弾性、絶縁性、および耐電解液性を有する材料によって形成される。その材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素樹脂材料が挙げられる。シール材9Aは、上記軸部75Aと端子取付孔23Aとの間をシールしている。また、シール材9Aは、正極内部端子7Aと蓋体22とを絶縁している。
【0025】
ここで開示される密閉型電池では、軸方向(即ち、Z方向)における突起部24Aの高さL2aと、同方向における段差部71A1の高さL7aとの合計は、シール材9Aの最大厚みL9aを100%としたときに、厚みL9aの6%~81%に相当することが好ましい。即ち、0.06L9a≦L2a+L7a≦0.81L9aであり得る。また、後述する圧縮率を実現するためには、突起部24Aの高さL2aおよび段差部71A1の高さL7aのいずれもが、少なくとも上記シール材9Aの最大厚みL9aの2%以上に相当するように設定されることが好ましい。例えば、突起部24Aの高さL2aは、上記シール材9Aの最大厚みL9aの18%~33%程度に相当するように設定されることが好ましい。また、例えば、段差部71A1の高さL7aは、上記シール材9Aの最大厚みL9aの13%~38%程度に相当するように設定されることが好ましい。
なお、段差部71A1の高さL7aは、ベース部71Aの基準表面と段差部71A1の表面との高度差に相当する。また、シール材9Aの最大厚みは、ベース部71Aの基準表面1A2と蓋体22の端子取付面25Aとに挟まれた部分のシール材9Aの厚みであって、最大となるものに相当する。
【0026】
次に、集電端子を組み付ける方法について説明する。
作業者は、正極内部端子7Aの軸部75Aを、シール材9Aの貫通孔92A、蓋体22の端子取付孔23A、シール材10Aの貫通孔13A、正極外部端子6Aの貫通孔62Aに、この順に挿通させる。作業者は、シール材10Aの固定部12Aに、正極接続端子5Aの基部51Aを固定し、ボルト52Aを正極外部端子6Aの貫通孔64Aに挿通させる。
【0027】
次いで、作業者はプレス装置の一対の加圧部(図示なし)で、正極内部端子7Aのベース部71Aと、正極外部端子6Aの下段接続部61Aとを挟み込み、これらが相互に近づく方向に押圧する。そうすると、シール材9Aは、上記ベース部71Aと蓋体22の内面とに挟まれて圧縮される。突起部24Aが、シール材9Aに食い込むことによって、集電端子を組付けた部位のシール性が確保されることとなる。
そして、正極外部端子6Aの貫通孔62Aから突出した軸部75Aの先端部分にかしめ部材(図示なし)が押し当てられ、該先端部分を圧壊することによって、かしめ部76Aが形成される。
【0028】
次いで、ここで開示される密閉型電池のシール材9Aの圧縮率について説明する。
図3に示されるように、シール材9Aの基部91Aは、ベース部71Aと端子取付面25Aとに挟まれて圧縮される被圧縮部95Aとなる。被圧縮部95Aのうち、突起部24Aと、段差部71A1とが対向する部分を被圧縮部94Aとする。上記かしめ加工時の、被圧縮部94Aにおける圧縮率は、6%~81%であることが好ましい。圧縮率、かしめ加工時に加えられる押圧力(荷重)、突起部24Aの高さL2a、および段差部71A1の高さL7aのうちの少なくとも一つが適宜調整され、ここで開示される密閉型電池において高い気密性が実現される。
【0029】
ここで開示される密閉型電池においては、上記突起部が上述した所定の形状に形成されることによって、当該突起部の剛性が高められ、押圧による突起部の変形が抑制されている。また、ここで開示される密閉型電池は、突起部および段差部から形成される2つのシール構造を有しており、気密性が向上されている。さらに、上記軸方向(
図1~3におけるZ方向)において、突起部の高さと段差部の高さとの合計が所定範囲内にあることによって、上記シール構造の信頼性が向上されている。そして、ここで開示される密閉型電池は、かしめ加工時の押圧力が比較的小さい場合であっても、高度な気密性が実現されている。
密閉型電池の作製においては、かしめ固定の押圧力を大きくしていくと、当該押圧力の大きさによっては、シール材に亀裂(破損)が発生する虞がある。シール材において、上記のような突起部に当接する部分は、比較的亀裂が発生しやすい部分となり得る。ここで開示される密閉型電池は、上記のとおり、比較的小さな押圧力によっても高い気密性が得られている。当該密閉型電池は、シール材の破損が高度に抑制されており、シール材の破損にともなって発生し得る不具合(電池ケースの外部の空気が電池ケースの内部へと流入すること、および、電池ケースの内部から電池ケースの外部へと電解液が飛散すること等)が起こりにくく、安全性が高度に高められた密閉型電池といえる。
【0030】
以下、本発明の上記実施形態に関する試験例を説明するが、本発明をかかる試験例(実施例)に示すものに限定することを意図したものではない。
【0031】
<試験例1:CAE(computer aided engineering)解析>
電池ケースの突起部および内部端子の段差部が
図4~6に示す形状であるサンプル1、比較サンプル1、および比較サンプル2を設計し、圧縮時における突起部周辺のCAE解析を行った。このときの突起部周辺の圧力分布および部材の変形の有無を評価した。
-サンプル1-
サンプル1として、突起部および段差部が形成されたサンプルを、以下に示すように設計した(長さの符号は
図3参照)。
・L2a:0.1mm
・L2b:0.2mm
・L2c:0.4mm
・L2d:1.85mm
・L7a:0.1mm
・L7b:3.25mm
・L9a:0.4mm
・L9b:0.2mm
・圧縮率:50%
上記のように設計したサンプル1のCAE解析結果を模式図として
図4に示す。
図示されるように、突起部(領域120a)および段差部端部(領域120b)に、圧縮による圧力の発生が確認された。シール材は圧縮によって変形しているものの、電池ケースおよび内部端子は、いずれも変形しなかった。
【0032】
-比較サンプル1-
比較サンプル1として、段差部が形成されないサンプルを設計した。具体的には、L7aおよびL7bがいずれも0mmであること以外はサンプル1と同様にして、比較サンプル1にかかるサンプルを設計した。比較サンプル1のCAE解析結果を模式図として
図5に示す。
図示されるように、シール材において、突起部が当接する部分(領域122a)に、圧縮によって圧力がかかっていることが確認された。シール材は圧縮によって変形しており、電池ケース(領域122a)には変形がないものの、内部端子(領域122b)には変形が確認された。
【0033】
-比較サンプル2-
比較サンプル2として、突起部が段差部の外に形成されたサンプルを設計した。具体的には、L2dが3.65mmであること以外はサンプル1と同様にして、比較サンプル2にかかるサンプルを設計した。比較サンプル2のCAE解析結果を模式図として
図6に示す。
図示されるように、シール材において、電池ケース蓋体の端部、突起部、および段差部端部が当接する部分(領域124aおよび領域124b)と領域124cとに、圧縮によって圧力がかかっていることが確認された。シール材が圧縮によって変形していた。内部端子には変形がないものの、突起部には変形が確認された(領域124b)。
【0034】
<試験例2.気密性の評価>
試験例2では、電池ケース蓋体に端子取付部(かしめ部)を形成し、該かしめ部における密閉構造の気密性をヘリウムリーク試験によって評価した。
-実施例1-
実施例1として、
図1に示されるような密閉型電池を作製した。具体的には、まず従来公知の方法によって電極体を作製した。次いで、内部端子を電極体に取り付けた。次いで、内部端子を電池ケースの蓋体に、PFA製のシール材を介在させつつ取り付け、この蓋体にポリオレフィン製のシール材を介在させつつ外部端子を取り付けた。内部端子および電池ケースの蓋体としては、突起部および段差部の寸法関係が上記実施例1と同じものを使用した。そして、圧縮率が7~8%となるような圧力を加えることによって内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめて、集電端子構造を構築した。
-実施例2-
圧縮率が10~11%となるように圧力を加えて内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る密閉型電池を作製した。
-比較例1,2-
圧縮率が1%程度となるように圧力を加えて内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1,2に係る密閉型電池を作製した。
-比較例3~10-
圧縮率が1.5%以上5%以下となるように圧力を加えて内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3~10に係る密閉型電池を作製した。
【0035】
-ヘリウムリーク試験-
上記のようにして作製された実施例および比較例のそれぞれに係るかしめ部における初期リーク試験を行った。即ち、作製した上記かしめ部に対して従来公知のヘリウムリーク試験(JIS Z 2331)における真空法により実施した。
この試験の結果を表1および
図7に示す。
なお、表1には、試験例2の比較例として代表的な比較例1の結果のみを示す。その他の比較例2~10の結果については、いずれも
図7のグラフ中に示す。なお、
図7は、試験例2におけるヘリウムリーク試験の結果を示すグラフである。
表1および
図7に示されるように、圧縮率が6%以上である実施例1,2におけるヘリウムのリーク量はいずれも1.0×10
-9[Pa・m
3/sec]を下回っており、高い気密性が確認された。比較例1,2におけるヘリウムのリーク量は1.0×10
-5[Pa・m
3/sec]を上回っていた。また、
図7に示されるように、比較例3~10におけるヘリウムのリーク量は1.0×10
-5[Pa・m
3/sec]を下回っているが、1.0×10
-9[Pa・m
3/sec]を上回っていた。
圧縮率が5%以下である比較例1~10におけるヘリウムのリーク量は、圧縮率依存的に低下することが確認された。一方、圧縮率が5%よりも大きい実施例1,2におけるヘリウムのリーク量は、1.0×10
-9[Pa・m
3/sec]を下回っており、かつ、該リーク量にはこれ以上の低下は確認されなかった。このことから、6%以上の圧縮率が好適であることがわかった。
【0036】
【0037】
<試験例3.シール材の破損評価>
試験例3では、電池ケース蓋体にかしめ部を形成し、該かしめ部近傍におけるシール材の破損の有無を評価した。
-実施例3~6-
圧縮率が表2に示されるものとなるように圧力を加えて内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3~6にかかる密閉型電池を作製した。
-比較例11-
圧縮率が表2に示されるものとなるように圧力を加えて内部端子の軸部の先端を外部端子の貫通孔にかしめたこと以外は実施例1と同様にして、比較例11にかかる密閉型電池を作製した。
【0038】
上記作製した実施例3~6および比較例11のかしめ部近傍において、シール材の状態を評価した。即ち、シール材に亀裂が生じている場合をシール材の破損「有」とし、亀裂が生じていない場合をシール材の破損「無」として評価した。
表2に示されるように、圧縮率が81%以下である実施例3~6では、シール材に破損は見られなかった。一方、圧縮率が83.1%の比較例11では、シール材に破損が確認された。
以上より、所定の構造を有する密閉型電池は、かしめ加工時の押圧力が比較的小さい場合であっても良好な気密性が実現されることが確認された。
【0039】
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、上記実施形態では、端子部材のベース部が電池ケースの内側において連なっており、かしめ構造が電池ケースの外側に形成されている。即ち、上記実施形態は、内部端子がベース部と軸部とを有し、該内部端子の軸部の先端部分が、電池ケースの外側においてかしめられる実施形態である。
【0041】
<第2実施形態>
第2実施形態では、端子部材のうちの外部端子がかしめ構造を備える密閉型電池について説明する。即ち、本実施形態は、外部端子がベース部と軸部とを有し、該外部端子の軸部の先端部分が、電池ケースの内側においてかしめられる実施形態である。
第2実施形態について、以下、
図8を参照しつつ説明する。
図8は、他の実施形態にかかる密閉型電池の正極の集電端子構造近傍の構造を模式的に示す要部断面図である。
図示されるように、第2実施形態においては、正極外部端子6Aの下段接続部61Aに、蓋体22の水平方向(即ち、X方向)に直交する方向(即ち、Z方向)において、図示されない電極体に向かう方向(即ち、D方向)に伸びる軸部65Aが形成されている。軸部65Aは、正極外部端子6A側からD方向に向かって、貫通孔13A、貫通孔92A、貫通孔78Aの順に挿通され、先端部分がかしめられる。かしめ部66Aは、電池ケース2の内側に形成されている。
第2実施形態においては、正極内部端子7Aは正極外部端子6Aと接続されるための平板部77Aを有している。平板部77AはX方向に対して略平行に配置されており、平板部77Aと蓋体22との間には、シール材9Aが配置されている。貫通孔78Aは、平板部77Aに形成されている。本実施形態においては、正極内部端子7Aは、軸部を有さない。なお、下段接続部61Aは、第2実施形態における端子部材のベース部に相当する。
【0042】
正極外部端子6Aには、図示されるように、段差部67Aが形成されている。電池ケース2(蓋体22)の端子取付面25Aには、正極外部端子6Aの軸方向(Z方向)において、下段接続部61A側(U方向)に突出する突起部24Aが形成されている。第2実施形態における、シール材10Aに対する突起部24Aおよび段差部67Aの寸法関係は、詳細に説明した上記実施形態におけるシール材9Aに対する突起部24Aおよび段差部71A1(
図3参照)の寸法関係と同様であるため、説明は省略する。負極についても、上記のように正極について説明したものと同様であるため、説明は省略する。
【符号の説明】
【0043】
1 密閉型電池
2 電池ケース
21 ケース本体
22 蓋体
23A 端子取付孔
24A 突起部
24A1 シール部
24A2 端部
25A 端子取付面
3 電極体
3A 正極
3A1 正極集電体
3A2 正極活物質層
3B 負極
3B1 負極集電体
3B2 負極活物質層
3C セパレータ
4 集電端子構造
4A 正極の集電端子構造
4B 負極の集電端子構造
5A 正極接続端子
51A 基部
52A ボルト
5B 負極接続端子
6A 正極外部端子
61A 下段接続部
62A 貫通孔
63A 上段接続部
64A 貫通孔
65A 軸部
66A かしめ部
67A 段差部
6B 負極外部端子
7A 正極内部端子
71A ベース部
71A1 段差部
71A2 基準表面
75A 軸部
76A かしめ部
77A 平板部
78A 貫通孔
7B 負極内部端子
8A 正極集電板
8B 負極集電板
9A シール材
91A 基部
92A 貫通孔
93A 筒部
94A 被圧縮部
95A 被圧縮部
10A シール材
11A 平板部
12A 固定部
13A 貫通孔
100 領域
120a 領域
120b 領域
122a 領域
122b 領域
124a 領域
124b 領域
124c 領域
L2a,L2b,L2c,L2d 長さ
L7a,L7b 長さ
L9a,L9b 長さ
D,L,R,X,U,Z 方向
P,Q 点