(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】閃光加熱装置及び閃光放電ランプの制御方法
(51)【国際特許分類】
H05B 7/00 20060101AFI20231026BHJP
H01J 61/16 20060101ALI20231026BHJP
H05B 41/32 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H05B7/00 Z
H01J61/16 H
H05B41/32
(21)【出願番号】P 2020149927
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 泰斗
(72)【発明者】
【氏名】小西 政幸
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-064699(JP,A)
【文献】特開2011-228081(JP,A)
【文献】特表2017-504184(JP,A)
【文献】特開2013-120741(JP,A)
【文献】特開2005-302380(JP,A)
【文献】特開2003-142288(JP,A)
【文献】特開平10-048715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 41/32
H05B 7/00
H01J 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によって閃光を発生させる閃光放電ランプと、
前記閃光放電ランプの陽極に第一端子が接続されたインダクタと、
第一端子が前記インダクタの第二端子に接続された、前記閃光放電ランプに供給する電荷を蓄積する第一キャパシタと、
前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの第二端子との通電/非通電を切り替えるスイッチング素子と、
カソード端子が、前記インダクタの第二端子と接続され、アノード端子が前記閃光放電ランプの前記陰極と接続されたダイオードと、
前記閃光放電ランプの前記陰極の電位に基づいて一意に定まる電圧である比較用電圧と、所定の基準電圧とを比較し、比較結果に基づく信号を出力する比較部と、
前記比較部から入力された信号に応じて、前記スイッチング素子の通電/非通電の制御を行う制御部とを備え、
前記制御部は、
前記閃光放電ランプの始動制御が開始され、前記スイッチング素子が通電状態から非通電状態に切り替える制御の後、前記比較部から前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていないことを検知した信号が入力されると、非通電状態を維持するように前記スイッチング素子を制御し、
前記比較部から前記比較用電圧が前記基準電圧を上回ったことを検知した信号が入力されると、通電状態を維持、又は通電状態と非通電状態とを繰り返すように前記スイッチング素子を制御することを特徴とする閃光加熱装置。
【請求項2】
前記制御部が、前記スイッチング素子の通電/非通電を切り替える信号を出力してからの経過時間を計測するタイマを備えることを特徴とする請求項1に記載の閃光加熱装置。
【請求項3】
一端が前記閃光放電ランプの陰極に、他端が前記第一キャパシタの第二端子に接続された第二キャパシタを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の閃光加熱装置。
【請求項4】
第一キャパシタからの放電によって閃光を発生させる閃光放電ランプの制御方法であって、
前記閃光放電ランプの始動制御を開始する工程(A)と、
前記工程(A)の実行後、前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子との間を通電状態から非通電状態に切り替えるように制御する工程(B)と、
前記工程(B)の実行後、前記閃光放電ランプの前記陰極の電位に基づいて一意に定まる電圧である比較用電圧と、所定の基準電圧とを比較する工程(C)と、
前記工程(C)において、前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていないことを検知すると、点灯動作を停止し、前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていることを検知すると、点灯動作を継続する工程(D)とを含むことを特徴とする閃光放電ランプの制御方法。
【請求項5】
前記工程(C)は、前記閃光放電ランプの前記陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子とを通電状態から非通電状態に切り替えるように制御してから、前記比較用電圧と前記基準電圧とを比較するまでに、所定の時間待機する工程(C1)を含むことを特徴とする請求項4に記載の閃光放電ランプの制御方法。
【請求項6】
前記工程(C)は、前記閃光放電ランプの前記陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子とを通電状態から非通電状態に切り替えるように制御してから、前記比較用電圧と前記基準電圧とを比較するまでに、前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子との間で通電状態と非通電状態を繰り返すように制御する工程(C2)を含むことを特徴とする請求項4に記載の閃光放電ランプの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閃光加熱装置及び閃光放電ランプの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の熱処理やプリンタブルエレクトロニクス等の製造プロセスにおける熱処理として、閃光加熱装置が用いられている。特に近年では、半導体プロセスの微細化に伴って、注入した不純物が長時間の加熱により拡散することを抑えつつ活性化させる方法として、閃光加熱装置による瞬時の熱処理方法が注目されている。
【0003】
そこで、本出願人は、半導体ウェハの加熱処理装置に適した閃光放電ランプ(「フラッシュランプ」とも称される。)の開発を行っており、例えば、下記特許文献1において、半導体ウェハの変形や割れを抑制しながら加熱処理するための装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、閃光加熱装置のさらなる性能や利便性の向上を検討していたところ、以下のような課題があることを見出した。以下、図面を参照しながら説明する。
【0006】
図1は、従来の閃光加熱装置100の構成を模式的に示す図面である。
図1に示すように、単純な閃光加熱装置100は、光源となる管体内に放電ガスが封入された閃光放電ランプ10、第一キャパシタ11、インダクタ12、閃光放電ランプ10の陰極10bと接地ノード2との通電状態を切り替えるスイッチング素子13及びトリガ電極14で構成され、スイッチング素子13やトリガ電極14の制御を行う制御部15、さらに、スイッチング素子13が非通電状態時に閃光放電ランプ10のインダクタ12に蓄積されたエネルギーを陽極へと戻すダイオード16を備える。
【0007】
ここで、ダイオード16は、スイッチング素子13が非通電状態に切り替わった後、閃光放電ランプ10の陽極から陰極へと流れた電流を、陽極側へと回生させるように機能することから、回生回路と称される。
【0008】
第一キャパシタ11に蓄えられた電荷は、スイッチング素子13が通電状態において、トリガ電極14からトリガ電圧が印加されると閃光放電ランプ10の管体内の放電ガスが絶縁破壊を起こす。これにより、第一キャパシタ11に蓄えられた電荷が、閃光放電ランプ10内を流れて発光する。
【0009】
この時、第一キャパシタ11に蓄えられた電荷は、スイッチング素子13の切り替え制御の周期等によるが、数十μs~数百msの時間で消費され、閃光放電ランプ10は、数十μs~数百ms程度発光する。閃光放電ランプ10の発光動作の詳細は、「発明を実施するための形態」の項目において後述する。
【0010】
図1に示す閃光加熱装置100は、単体の閃光放電ランプ10を点灯させる構成を示しているが、半導体ウェハ(以下、その他の加熱対象となるものも含めて「加熱対象物」と称する。)を加熱する場合等は、加熱対象物の加熱対象面全体を瞬時に加熱させるために、複数の閃光放電ランプ10を配置して同時に閃光を発生させることで加熱処理が行われる。
【0011】
ところが、閃光放電ランプ10は、トリガ電極に電圧を印加しているにも関わらず点灯しないということが稀にある。
【0012】
特に、複数の閃光放電ランプ10を備える閃光加熱装置では、一つの加熱対象物に対して閃光を照射して加熱処理を行う場合、一部の閃光放電ランプ10で不点灯が発生すると、加熱処理が不十分となり、加熱対象物が不良品となってしまう。このため、不良品を発生させないために、閃光放電ランプ10の始動制御の開始後、加熱対象物の処理が進んでしまうような閃光の照射が行われる前に、閃光放電ランプ10が正常に点灯するかどうか確認できることが好ましい。
【0013】
しかし、上述のように、閃光加熱装置100における閃光放電ランプ10は、トリガ電極14にトリガ電圧が印加されることで始動制御が開始され、点灯動作が開始した閃光放電ランプは、点灯/不点灯に関わらず、最後の処理まで実行されてしまう。したがって、従来の閃光加熱装置100の実施形態では、処理工程後でしか閃光の照射不良を確認できなかった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、始動制御開始直後に閃光放電ランプの点灯/不点灯の状態を確認することができ、かつ、確認に要するエネルギーロスを最小限に抑制した閃光加熱装置及び閃光放電ランプの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の閃光加熱装置は、
放電によって閃光を発生させる閃光放電ランプと、
前記閃光放電ランプの陽極に第一端子が接続されたインダクタと、
第一端子が前記インダクタの第二端子に接続された、前記閃光放電ランプに供給する電荷を蓄積する第一キャパシタと、
前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの第二端子との通電/非通電を切り替えるスイッチング素子と、
カソード端子が、前記インダクタの第二端子と接続され、アノード端子が前記閃光放電ランプの前記陰極と接続されたダイオードと、
前記閃光放電ランプの前記陰極の電位に基づいて一意に定まる電圧である比較用電圧と、所定の基準電圧とを比較し、比較結果に基づく信号を出力する比較部と、
前記比較部から入力された信号に応じて、前記スイッチング素子の通電/非通電の制御を行う制御部とを備え、
前記制御部は、
前記閃光放電ランプの始動制御が開始され、前記スイッチング素子を通電状態から非通電状態に切り替える制御の後、前記比較部から前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていないことを検知した信号が入力されると、非通電状態を維持するように前記スイッチング素子を制御し、
前記比較部から前記比較用電圧が前記基準電圧を上回ったことを検知した信号が入力されると、通電状態を維持、又は通電状態と非通電状態とを繰り返すように前記スイッチング素子を制御することを特徴とする。
【0016】
閃光放電ランプは、陰極と第一キャパシタの第二端子との間のスイッチング素子を通電状態に切り替えて、閃光放電ランプの電極間に電圧を印加させるだけでは、電極間に放電を発生させることは難しい。このため、陽極と陰極とで放電が発生するように、閃光放電ランプの発光管内で絶縁破壊を起こさせるためのアシストが必要となる。
【0017】
放電を開始するための始動制御の方法としては、例えば、閃光放電ランプに近接して配置された導体(トリガ電極)にトリガ電圧を印加する方法や、陰陽極間に直接トリガ電圧を印加する方法や、閃光放電ランプに向かって閃光を照射する光アシストと称される方法等がある。
【0018】
閃光放電ランプが、問題なく点灯する場合、始動制御が開始されると、閃光放電ランプの陽極と陰極との間で放電が発生し、第一キャパシタに蓄えられた電荷が閃光放電ランプの陰極に向かって流れる。閃光放電ランプが所望の発光強度の光を放射するように、制御部がスイッチング素子を所定の時間間隔で通電/非通電を切り替えるように制御する。
【0019】
始動制御が開始された後、制御部がスイッチング素子を通電状態から非通電状態に切り替えると、閃光放電ランプの陰極は第一キャパシタの第二端子と電気的に遮断される。なお、閃光放電ランプの陰極の電位に基づいて一意に定まる電圧とは、例えば、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧や、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第一端子との間、すなわち、ダイオードのアノードとカソードの間の電圧等である。以下は、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧を比較用電圧とする構成の場合で説明される。
【0020】
スイッチング素子が通電状態から非通電状態に切り替わった際、インダクタに蓄えられたエネルギーは、一時的に閃光放電ランプの陽極から陰極、ダイオードに電流として流れる。
【0021】
閃光放電ランプは、始動制御が実施されても点灯しない場合、閃光放電ランプの陽極と陰極との間で放電が発生せず、第一キャパシタに蓄えられた電荷は、閃光放電ランプの陰極に向かって流れない。このため、スイッチング素子を通電状態から非通電状態に切り替わった後も、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧は、ほぼ0Vからほとんど変化しない。
【0022】
以上より、始動制御の実施後、スイッチング素子を通電状態から非通電状態に切り替えた後、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧と所定の基準電圧を比較することで閃光放電ランプが点灯しているかどうか、又は正常に点灯するかどうかを確認することができる。そして、閃光加熱装置は、始動制御を開始した直後に閃光放電ランプが点灯するかどうかを確認することができる。このため、閃光放電ランプが点灯しないと判定された場合において、第一キャパシタに蓄積された電荷の消費を最小限に抑えることができる。なお、基準電圧は、必ずしも特定の電圧値に固定されていなくても構わない。
【0023】
また、本発明の構成は、高価な電流センサ等を必要とはせず、電圧を比較できる比較部を追加するだけで実現可能なため、大型化することなく、かつ、低コストで閃光加熱装置を構成することができる。
【0024】
なお、本明細書において、カソード端子が、インダクタの第二端子と接続され、アノード端子が閃光放電ランプの陰極と接続されたダイオードとは、一つのダイオードが接続されている構成だけでなく、閃光放電ランプの陰極からインダクタの第二端子に向かう方向が順方向となるように、複数のダイオードが直列に接続され、全体として実質的に一つのダイオードと見做せる構成も含んでいる。
【0025】
上記閃光加熱装置は、
前記制御部が、前記スイッチング素子の通電/非通電を切り替える信号を出力してからの経過時間を計測するタイマを備えていても構わない。
【0026】
ダイオードは、スイッチング素子が非通電状態に切り替えられた直後、インダクタのエネルギーによって閃光放電ランプの陽極から陰極に向かって流された電荷を、再び陽極へと戻すように機能する、いわゆる回生回路を構成している。
【0027】
ダイオードは、アノード端子からカソード端子の方向である順方向に電流を一方向に流す、いわゆる整流素子であり、カソード端子からアノード端子の方向である逆方向にはほとんど電流を流さない。しかしながら、ダイオードは、逆方向においてもリーク電流として僅かな電流が発生する。
【0028】
また、ダイオードの耐圧を確保するために、ダイオードに対して、並列に抵抗素子が接続されていてもよい。この場合、閃光放電ランプにおいて放電が発生しない場合であっても、実際には閃光放電ランプの陰極と第二キャパシタの第二端子との間の電圧が徐々に大きくなることがある。これは、ダイオードに対して抵抗素子やコンデンサが並列に接続されると、その抵抗素子を介して電流がながれるためである。
【0029】
そこで、制御部は、閃光放電ランプの陰極と第二キャパシタの第二端子との間の電圧が徐々に大きくなる場合においては、所定の速度以上で電圧が大きくなる場合にのみ、閃光放電ランプが正常に放電したと判断し、点灯動作を実行するように制御することができる。これにより、スイッチング素子が切り替わった後、しばらく時間が経過した後にリーク電流等によって閃光放電ランプの陰極と第二キャパシタの第二端子との間の電圧が徐々に上昇し、基準電圧を上回ったことを検出しても、誤って閃光放電ランプの点灯動作が実行されてしまうことを防ぐことができる。
【0030】
上記閃光加熱装置は、
一端が前記閃光放電ランプの陰極に、他端が前記第一キャパシタの第二端子に接続された第二キャパシタを備えていても構わない。
【0031】
上記構成とすることで、仮に、閃光放電ランプが不点灯となった場合における、スイッチング素子の両端間の電圧が大きくなる速度が、さらに遅くなる。したがって、制御部が閃光放電ランプの放電によって陰極と第二キャパシタの第二端子との間の電圧が上昇したかどうかを区別しやすくなる。そして、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧が徐々に大きくなり、基準電圧を上回ったことを検出して点灯動作が実行されてしまうことをより確実に防ぐことができる。
【0032】
本発明の閃光放電ランプの制御方法は、
第一キャパシタからの放電によって閃光を発生させる閃光放電ランプの制御方法であって、
前記閃光放電ランプの始動制御を開始する工程(A)と、
前記工程(A)の実行後、前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子とを通電状態から非通電状態に切り替えるように制御する工程(B)と、
前記工程(B)の実行後、前記閃光放電ランプの前記陰極の電位に基づいて一意に定まる電圧である比較用電圧と、所定の基準電圧とを比較する工程(C)と、
前記工程(C)において、前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていないことを検知すると、非通電状態を維持し、前記比較用電圧が前記基準電圧を上回っていることを検知すると、通電状態を維持、又は通電状態と非通電状態とを繰り返す工程(D)とを含むことを特徴とする。
【0033】
上記閃光放電ランプの制御方法において、
前記工程(C)は、前記閃光放電ランプの前記陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子とを通電状態から非通電状態に切り替えてから、前記比較用電圧と前記基準電圧とを比較するまでに、所定の時間待機する工程(C1)を含んでいても構わない。
【0034】
上述したように、始動制御後にスイッチング素子を通電状態から非通電状態に切り替えた後、閃光放電ランプの陰極と第一キャパシタの第二端子との間の電圧である比較用電圧と所定の基準電圧を比較することで閃光放電ランプが点灯するかどうか、又は点灯しているかどうかを確認することができる。
【0035】
よって、上記方法によれば、加熱処理が進行してしまうような閃光を発生させる前に、閃光放電ランプが点灯するかどうかを確認することができ、かつ、第一キャパシタに蓄積された電荷の消費を最小限に抑えることができる。
【0036】
なお、上述の閃光加熱装置は、比較部と制御部を備えることで、比較用電圧と基準電圧とを比較して、スイッチング素子を制御しているが、上記方法では、例えば、オシロスコープによって計測された電圧波形によって、比較用電圧と基準電圧とを比較し、人が点灯動作の継続を判断して装置を操作してもよい。
【0037】
上記閃光放電ランプの制御方法において、
前記工程(C)は、前記閃光放電ランプの前記陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子とを通電状態から非通電状態に切り替えるように制御してから、前記比較用電圧と前記基準電圧とを比較するまでに、前記閃光放電ランプの陰極と前記第一キャパシタの低電位側の端子との間で通電状態と非通電状態を繰り返すように制御する工程(C2)を含んでいても構わない。
【0038】
上記方法によれば、始動制御から比較用電圧と基準電圧とが比較されるまでに長い時間が設定される場合に、閃光放電ランプが立ち消えしてしまうことが防止される。ここで、本明細書における「立ち消え」とは、陰極-陽極間の放電動作が停止し、点灯動作を行うために再び始動制御の実行を要する状態になることをいう。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、始動制御開始直後に閃光放電ランプの点灯/不点灯の状態を確認することができ、かつ、確認に要するエネルギーロスを最小限に抑制した閃光加熱装置及び閃光放電ランプの制御方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】従来の閃光加熱装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図2】閃光加熱装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図4】閃光加熱装置の動作順序を示したフローチャートである。
【
図5A】閃光放電ランプが正常に点灯する場合における、動作順序に対応したタイミングチャートである。
【
図5B】閃光放電ランプが正常に点灯しない場合における、動作順序に対応したタイミングチャートである。
【
図6】閃光加熱装置の別実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の閃光加熱装置及び閃光放電ランプの制御方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の個数は、実際の個数と必ずしも一致していない。
【0042】
まず、閃光加熱装置1の構成について説明する。
図2は、閃光加熱装置1の一実施形態の構成を模式的に示す図面であり、
図1に示した従来の閃光加熱装置100との共通の構成要素に対しては共通の符号を付している。
【0043】
図2に示すように、本実施形態の閃光加熱装置1は、
図1に示す閃光加熱装置100と同様の、光源となる管体内に放電ガスが封入された閃光放電ランプ10、第一キャパシタ11、インダクタ12、スイッチング素子13と、トリガ電極14と、スイッチング素子13やトリガ電極14の制御を行う制御部15と、ダイオード16とを備える。本実施形態の閃光加熱装置1は、第一キャパシタ11とスイッチング素子13とが接続されているノードを接地ノード2としたが、当該ノードは、接地ノード2ではなく、別の基準電位のノードとしても構わない。
【0044】
なお、閃光加熱装置1は、従来の閃光加熱装置100と比較して、さらに、閃光放電ランプ10の陰極10bの電位に基づいて一意に定まる電圧である、後述される比較用電圧Vcと基準電圧Vrとを比較する比較部17を有する点が異なる。
【0045】
閃光放電ランプ10は、例えば、キセノン等の放電ガスが封入された発光管10pと、発光管10p内に離間して配置された陽極10a及び陰極10bを備える。陽極10aと陰極10bの間に、発光に必要な電圧が印加されると、陽極10aと陰極10bとの間に放電が起こり発光する。
【0046】
第一キャパシタ11は、外部電源等から供給される閃光放電ランプ10を発光させるための電荷を蓄え、閃光放電ランプ10に対して放電するように動作する。第一キャパシタ11は、具体的には電荷を蓄積するコンデンサであって、その種類は、端子間の耐圧等に応じて適宜選択される。
【0047】
インダクタ12は、第一端子12aが閃光放電ランプ10の陽極10aに接続され、第二端子12bが第一キャパシタ11の高電位側の端子(第一端子11a)に接続されている。そして、スイッチング素子13が通電状態から非通電状態に切り替わった直後もインダクタ12に蓄積されているエネルギーが閃光放電ランプ10の陽極10aに供給されるように機能する。また、第一キャパシタ11とインダクタ12によって、閃光放電ランプ10に供給される電流の時定数が調整される。
【0048】
スイッチング素子13は、閃光放電ランプ10の陰極10bと第一キャパシタ11の低電位側の端子(第二端子11b)との通電/非通電を切り替える素子である。本実施形態におけるスイッチング素子13は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(「IGBT」とも称される。)であり、制御端子13aに印加される電圧のレベルに応じて、閃光放電ランプ10の陰極10bと第一キャパシタ11の第二端子11bとの通電/非通電が切り替わる。
【0049】
トリガ電極14は、閃光放電ランプ10に近接して配置された外部電極であり、トリガ電圧が印加されることによって、閃光放電ランプ10の電極(10a,10b)間の放電の始動をアシストする。スイッチング素子13が通電状態に切り替えられ、トリガ電極14にトリガ電圧が印加されると、発光管10p内のガスが電離状態となる。これにより、閃光放電ランプ10の陰陽極(10a,10b)間で絶縁破壊が起こり、発光管10p内で放電が発生する。
【0050】
なお、本実施形態においては、閃光放電ランプ10に近接して配置された導体(トリガ電極14)にトリガ電圧を印加する方法が採用されているが、上述したように、陰陽極(10a,10b)間に直接トリガ電圧を印加する方法や、閃光放電ランプ10に向かって閃光を照射する光アシストと称される方法が採用されても構わない。
【0051】
ダイオード16は、カソード端子16aが、インダクタ12の第二端子12bと接続され、アノード端子16bが閃光放電ランプ10の陰極10bと接続されている。ダイオード16は、スイッチング素子13が通電状態から非通電状態に切り替えられた直後、インダクタ12に蓄えられエネルギーによって、閃光放電ランプ10の陽極10aから陰極10bへと流れた電荷を、再び陽極10aへと戻す回生回路を構成している。
【0052】
本実施形態の閃光加熱装置1は、
図1に示すように、一つのダイオード16で回生回路が構成されているが、ダイオード16の両端子(16a,16b)にかかる耐圧を確保するために、上述したように、複数のダイオード16を直列に接続して、全体として実質的に一つのダイオードと見做せる回生回路を構成しても構わない。さらに、耐圧の確保やスイッチング素子13の切り替わり時の電圧変動を抑制するために、ダイオード16に対して、並列に抵抗素子やキャパシタが接続されていても構わない。
【0053】
図3は、比較部17の構成の一例を示す図面である。
図3に示すように、本実施形態の比較部17は、コンパレータ30によって構成されている。コンパレータ30の正入力端子30aには、入力電圧Viを抵抗素子31によって分圧されることで、入力電圧Vi、すなわち、閃光放電ランプ10の陰極10bの電圧に基づいて、一意に定まる電圧である比較用電圧Vcが入力されている。そして、コンパレータ30の負入力端子30bは、基準電圧Vrが入力されている。
【0054】
比較部17は、入力電圧Viである閃光放電ランプ10の陰極10bの電圧、又は閃光放電ランプ10の陰極10bの電圧に基づいて一意に定まる電圧である比較用電圧Vcと、基準電圧Vrとの大小関係を比較し、出力端子Voから比較結果に関する信号を出力する。
【0055】
ここで、本実施形態における入力電圧Viは、閃光放電ランプ10の陰極10bと第一キャパシタ11の第二端子11b、すなわち、接地ノード2との間の電圧としたが、閃光放電ランプ10の陰極10bの電位に基づいて一意に定まる電圧であれば、接地ノード2以外のノードの電位と、閃光放電ランプ10の陰極10bの電位との電位差としてもよい。本実施形態と異なる入力電圧Viとしては、例えば、閃光放電ランプ10の陰極10bの電位と、第一キャパシタ11の第一端子11aの電位との電位差等も採用し得る。
【0056】
本実施形態の比較部17は、
図3に示すように、コンパレータ30の正入力端子30aの耐圧を確保するため、比較用電圧Vcは、入力電圧Viがさらに抵抗素子31によって分圧され、入力電圧Viよりも低い電圧である。耐圧の問題等が生じなければ、コンパレータ30の正入力端子30aには、入力電圧Viが直接入力されていても構わない。
【0057】
図示はしないが、コンパレータ30には電源用端子と接地端子が存在する。そして、正入力端子30aに入力された比較用電圧Vcが、負入力端子30bに入力された基準電圧Vrより小さい場合は、出力端子Voから接地端子に接続されたノードの電圧(以下、「L出力」という。)が出力され、比較用電圧Vcが基準電圧Vrより大きい場合は、出力端子Voから電源用端子に接続されたノードの電圧(以下、「H出力」という。)が出力される。
【0058】
本実施形態の比較部17は、コンパレータ30を用いた構成であるが、例えば、電圧計やオシロスコープ等の測定結果から判定する構成等、コンパレータ30を用いた構成でなくても構わない。
【0059】
なお、本実施形態では、基準電圧Vrは、特定の電圧に固定された電圧としたが、動作時の変動する電圧としてもよく、例えば、第一キャパシタ11に蓄積されている電荷量に応じて、徐々に低下する電圧としても構わない。また、いずれの場合においても、基準電圧Vrは、コンパレータ30の正入力端子30aに入力される電圧(Vi,Vc)の最大値に対して、低い電圧を設定すれば良い。さらに、基準電圧Vrは、比較用電圧Vcの設定や検知条件に応じて、正負や大きさ等が任意に設定されても構わない。例えば、入力電圧Viが、閃光放電ランプ10の陰極10bと、第一キャパシタ11の高電位側の端子(第一端子)との間の電圧であった場合、比較用電圧Vcが負の電圧となる場合がある。このような場合には、例えば、基準電圧Vrが、第一キャパシタ11の第一端子を基準とした負電圧となるように構成されても構わない。
【0060】
次に、制御部15による制御方法について説明する。制御部15は、上述のとおり、スイッチング素子13のゲート端子に接続されており、スイッチング素子13の通電/非通電を制御する通電制御部18と、トリガ電極14にトリガ電圧の印加制御を行う始動制御部19と、スイッチング素子13の通電/非通電を切り替える信号を出力してからの経過時間を計測するタイマ20とを備える。
【0061】
図4は、閃光加熱装置1の動作順序を示したフローチャートである。なお、
図4に示すS1~S9の符号は各ステップを示す番号であり、以下ではこの符号が適宜参照される。最初は、外部電源が起動されることで動作が開始する。そして、
図2に示すインダクタ12の第二端子12bが接続されているノードに、外部電源(不図示)から電圧が印加されることで、第一キャパシタ11が充電される(ステップS1)。
【0062】
第一キャパシタ11の充電が完了すると、制御部15の通電制御部18が、スイッチング素子13を非通電状態から通電状態へと切り替える(ステップS2)。
【0063】
ステップS2の後、始動制御部19がトリガ電極14から閃光放電ランプ10に対してトリガ電圧を印加する(ステップS3)。ステップS2とステップS3が、始動制御であり、工程(A)に対応する。トリガ電極14からトリガ電圧が印加されると、陽極10aと陰極10bの間で放電が開始される。
【0064】
図5Aは、閃光放電ランプ10が正常に点灯する場合における、動作順序に対応したタイミングチャートであり、
図5Bは、閃光放電ランプ10が正常に点灯しない場合における、動作順序に対応したタイミングチャートである。
【0065】
タイミングチャート(a)の縦軸は、制御部15からスイッチング素子13に対して出力されている信号波形を示しており、制御信号のレベルが高い状態においてスイッチング素子13が通電状態となっていることを示している。
【0066】
タイミングチャート(b)の縦軸は、トリガ電極14に印加されている電圧レベルを示している。トリガ電極14に印加される電圧は、閃光放電ランプ10との配置関係等から、閃光放電ランプ10の発光管10p(
図2参照)内で放電を発生させるために必要な電圧レベルに適宜調整される。
【0067】
タイミングチャート(c)の縦軸は、スイッチング素子13とトリガ電極14の制御による、比較用電圧Vcの変化を示している。また、タイミングチャート(c)の一点破線で表された波形は、基準電圧Vrのレベルを示している。
【0068】
図5A及び
図5Bに示すように、ステップS3の後、制御部15は、タイマ20によって所定の時間t1が経過するまで待機する(ステップS4)。ここで、動作安定性やエネルギー消費等の観点から、時間t1は、50μs~300μsの範囲で調整されることが好ましい。
【0069】
また、ステップS4は、閃光放電ランプ10の立ち消えを防止するため、閃光放電ランプ10の陰極10bと、第一キャパシタ11の低電位側の第二端子ノードである接地ノード2との間で通電状態と非通電状態を繰り返すように制御しても構わない。
【0070】
タイマ20によって時間t1が経過したことが検知されると、制御部15の通電制御部18は、スイッチング素子13を通電状態から非通電状態に切り替える(ステップS5)。このステップS5が工程(B)に対応する。
【0071】
図5A及び
図5Bに示すように、ステップS5の後、制御部15は、タイマ20によって所定の時間t2が経過するまで待機する(ステップS6)。ここで、動作安定性やエネルギー消費等の観点から、時間t2は、50μs~300μsの範囲で調整されることが好ましい。
【0072】
時間t2が経過したときに、比較部17が比較用電圧Vcと基準電圧Vrとを比較する(ステップS7)。ステップS6とステップS7が工程(C)に対応し、ステップS6が工程(C1)に対応する。
【0073】
ステップS7において、時間t2が経過したときに、出力端子Voから制御部15でH出力が検知された場合、
図5Aに示すように、制御部15の通電制御部18が、スイッチング素子13が所定の周期t3で通電状態と非通電状態とを繰り返し、点灯動作を継続して加熱対象物の加熱処理を行う(ステップS8)。
【0074】
ステップS7において、時間t2が経過したときに、出力端子Voから制御部15でL出力が検知された場合、
図5Bに示すように、制御部15の通電制御部18は、スイッチング素子13を非通電状態に維持し、点灯動作を実行しないように制御する(ステップS9)。ステップS8とステップS9が工程(D)に対応する。
【0075】
ここで、ステップS7において出力端子Voから制御部15でL出力が検知されたことが一回目であった場合、制御部15は、再度、始動制御を開始する工程からやり直すように制御してもよく、閃光加熱装置1が第一キャパシタ11の充電からやり直すように制御してもよい。すなわち、ステップS1、又はステップS2に戻る。
【0076】
ステップS7において出力端子Voから制御部15でL出力が検知されたことが二回目であった場合、例えば、閃光加熱装置1の動作を終了し、トリガ電極14もしくは閃光放電ランプ10の破損などを確認することができる。なお、繰り返し数は、任意に設定できるものであり、動作のやり直しは複数回行われるように設定されていても構わない。
【0077】
上記制御により、閃光加熱装置1は、始動制御の開始直後に閃光放電ランプ10が点灯するかどうかを確認することができる。このため、閃光放電ランプ10が点灯しないと判定された場合において、第一キャパシタ11に蓄積された電荷の消費が最小限に抑制される。
【0078】
また、本実施形態の閃光加熱装置1は、高価で計測用の配線等を用意しなければならない電流センサ等を必要とはせず、従来の閃光加熱装置100に、比較部17としてのコンパレータ30といくつかの抵抗素子等の追加だけで実現されるため、装置全体を大型化することなく、かつ、低コストで構成することができる。
【0079】
なお、制御部15は、タイマ20を備えていなくても構わない。ダイオード16の逆方向に発生するリーク電流は、閃光放電ランプ10の放電時に発生する電流量に対して非常に小さい。このため、
図5Bのタイミングチャート(c)において二点破線で表された波形Vaが示すように、ダイオード16のリーク電流によって、比較部17の入力電圧Viが上昇する速度は非常に遅い。このため、比較用電圧Vcが基準電圧Vrを上回るまでには長い時間を要する。
【0080】
そこで、比較用電圧Vcが基準電圧Vrを上回るまで、人が異常と認識して、閃光加熱装置1を停止させることが可能な場合や、オシロスコープでの波形解析によって、閃光放電ランプ10が正常に点灯するかどうかを判断する場合は、制御部15がタイマ20を備えていなくてもよい。
【0081】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0082】
〈1〉
図6は、閃光加熱装置1の別実施形態の構成を模式的に示す図面である。
図6に示すように、別実施形態における閃光加熱装置1は、閃光放電ランプ10の陰極10bと接地ノード2に接続された第二キャパシタ60を備える。
【0083】
上記構成とすることで、ダイオード16に発生するリーク電流や、閃光放電ランプ10の陽極10aと陰極10bとの間に接続された抵抗素子等による入力電圧Viの上昇速度が、第二キャパシタ60が有する容量値に比例して遅くなる。
【0084】
入力電圧Viの上昇速度が、第二キャパシタ60が有する容量値に比例して遅くなることで、正常時の比較用電圧Vc(入力電圧Vi)が基準電圧Vrを上回るまでの時間と、異常時の比較用電圧Vc(入力電圧Vi)が基準電圧Vrを上回るまでの時間との差が拡がる。このため、制御部15が閃光放電ランプ10の放電によって陰極10bの電圧が上昇したのかどうかを識別しやすくなる。したがって、閃光放電ランプ10の放電以外の要因で入力電圧Viの上昇によって、点灯しない閃光放電ランプ10に対して、点灯動作が実行されてしまうことを、より確実に防ぐことができる。
【0085】
なお、第二キャパシタ60は、スイッチング素子13の通電/非通電を切り替える際に生じる、閃光放電ランプ10の陰極10bにおける電圧変動を吸収する効果も有する。
【符号の説明】
【0086】
1 : 閃光加熱装置
2 : 接地ノード
10 : 閃光放電ランプ
10a : 陽極
10b : 陰極
10p : 発光管
11 : 第一キャパシタ
11a : 第一端子
11b : 第二端子
12 : インダクタ
12a : 第一端子
12b : 第二端子
13 : スイッチング素子
13a : 制御端子
14 : トリガ電極
15 : 制御部
16 : ダイオード
16a : カソード端子
16b : アノード端子
17 : 比較部
18 : 通電制御部
19 : 始動制御部
20 : タイマ
30 : コンパレータ
30a : 正入力端子
30b : 負入力端子
31 : 抵抗素子
60 : 第二キャパシタ
100 : 閃光加熱装置
Vc : 比較用電圧
Vi : 入力電圧
Vo : 出力端子
Vr : 基準電圧