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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】蓄電素子の製造方法及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20231026BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20231026BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20231026BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231026BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20231026BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20231026BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20231026BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
H01M10/0587
H01M10/054
H01G11/86
H01G11/50
H01G11/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020549407
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019038033
(87)【国際公開番号】W WO2020067375
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018180383
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山福 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
(72)【発明者】
【氏名】大山 純
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/091957(WO,A1)
【文献】特開2017-208177(JP,A)
【文献】特開2019-079645(JP,A)
【文献】特開2018-067595(JP,A)
【文献】特開2010-205769(JP,A)
【文献】特開2018-142604(JP,A)
【文献】特開2018-142607(JP,A)
【文献】特開2018-142605(JP,A)
【文献】国際公開第2016/35308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01G 11/06
H01G 11/50
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質層を有する帯状の電極と電解液とケースとを備えた蓄電素子の製造方法であって、
前記ケース内に所定量の前記電解液が注入されることを備え、
前記所定量は、前記活物質層以外の導電性部材にアルカリ金属又はアルカリ土類金属が配置されている一つのイオン供給部材の該アルカリ金属又は該アルカリ土類金属と、前記イオン供給部材の前記導電性部材と導通する前記電極が積層されている電極体と、が前記ケースに収容された状態において、該ケース内における前記電極体に染み込んだ前記電解液以外の前記電解液である遊離電解液に前記アルカリ金属又は前記アルカリ土類金属の少なくとも一部が接する量であり、
前記電極体では前記電極が巻回され、該電極体は、一対の湾曲部位と該一対の湾曲部位間に配置される平坦部とを有し、
前記イオン供給部材は、前記電極体における前記一対の湾曲部位のうちの一方の湾曲部位に配置され、
前記電極体の巻回軸方向において、前記イオン供給部材の寸法は、前記電極の寸法より小さい、蓄電素子の製造方法。
【請求項2】
前記イオン供給部材は、前記電極体の積層方向における最も外側の電極の外側に配置される、請求項1に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項3】
前記ケース内に前記遊離電解液がある状態で該ケースを放置すること、を備え、
前記電極体の少なくとも一部では、複数の電極が積層状態であり、
前記所定量は、前記放置のときに、前記積層状態の各層を構成する複数の電極又は電極の部位のそれぞれの少なくとも一部が前記遊離電解液と接する量である、請求項1又は2に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項4】
前記電極体は、正極と、前記電極として負極と、該正極および該負極の間に配置されたセパレータとを有し、
前記負極は、導電性を有する箔と、該箔に積層されている負極活物質層とを有し、
前記イオン供給部材は、前記導電性部材と、該導電性部材に配置された前記アルカリ金属又は前記アルカリ土類金属を含む金属層とを有し、
前記イオン供給部材は、前記金属層が積層されている積層部と、前記金属層が積層されていない非積層部とを有し、
前記イオン供給部材は、前記金属層が前記セパレータを介して前記負極活物質層と対向した状態で、前記非積層部が前記負極の前記箔と導通される、請求項1から3の何れか一項に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項5】
前記電極体は、前記正極と前記負極とが前記セパレータを介して巻回されており、
前記セパレータは、前記電極体の最外周に巻き重ねられており、
前記イオン供給部材は、前記積層部が前記電極体の最外周に巻き重ねられた前記セパレータ間に配置される、請求項4に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項6】
前記負極活物質層は、前記負極における前記箔の両面に積層されており、
前記電極体は、前記負極の最外周部位が、前記正極の最外周部位よりも外側に配置される、請求項5に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項7】
前記所定量は、前記イオン供給部材の前記金属層全体が前記遊離電解液に浸かる量である、請求項4から6のいずれか1項に記載の蓄電素子の製造方法
【請求項8】
前記所定量は、巻回された前記電極における最内周の面の下端以上の位置に前記遊離電解液の液面が位置する量である、請求項1から6のいずれか1項に記載の蓄電素子の製造方法
【請求項9】
帯状の正極と帯状の負極を有し、これら正極及び負極が巻回されている電極体と、
所定量の電解液と、
前記電極体と前記所定量の電解液とを収容するケースと、
前記ケース内に配置されている一つのイオン供給部材と
を備え、
前記電極体は、一対の湾曲部位と該一対の湾曲部位間に配置される平坦部とを有し、
前記イオン供給部材は、導電性部材と、該導電性部材に配置されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む金属層とを有し、前記電極体における前記一対の湾曲部位のうちの一方の湾曲部位に配置され、
前記電極体の巻回軸方向において、前記イオン供給部材の寸法は、前記正極及び前記負極の各寸法より小さく、
前記導電性部材は、前記負極と導通されており、
前記電解液は、前記ケース内における前記電極体に染み込んでいない遊離電解液を含み、
前記所定量は、前記遊離電解液に前記金属層の少なくとも一部が接する量である、蓄電素子。
【請求項10】
前記電極体は、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを有し、
前記負極は、導電性を有する箔と、該箔に積層されている負極活物質層とを有し、
前記イオン供給部材は、前記金属層が積層されている積層部と、前記金属層が積層されていない非積層部とを有し、
前記イオン供給部材は、前記金属層が前記セパレータを介して前記負極活物質層と対向した状態で、前記非積層部が前記負極の前記箔と導通されている、請求項に記載の蓄電素子。
【請求項11】
前記電極体は、前記正極と前記負極とが前記セパレータを介して巻回されており、
前記セパレータは、前記電極体の最外周に巻き重ねられており、
前記イオン供給部材は、前記積層部が前記電極体の最外周に巻き重ねられた前記セパレータ間に配置されている、請求項10に記載の蓄電素子。
【請求項12】
前記負極活物質層は、前記負極における前記箔の両面に積層されており、
前記電極体は、前記負極の最外周部位が、前記正極の最外周部位よりも外側に配置されている、請求項11に記載の蓄電素子。
【請求項13】
前記イオン供給部材は、前記電極体における湾曲部位に配置されている、請求項11または12に記載の蓄電素子。
【請求項14】
前記所定量は、前記イオン供給部材の前記金属層全体が前記遊離電解液に浸かる量である、請求項9から13のいずれか1項に記載の蓄電素子
【請求項15】
前記所定量は、巻回された前記正極又は前記負極における最内周の面の下端以上の位置に前記遊離電解液の液面が位置する量である、請求項9から13のいずれか1項に記載の蓄電素子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極が積層された電極体を備える蓄電素子の製造方法及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスにおいて、初期不可逆容量を低減することによって高容量化を目指す技術が知られている(特許文献1参照)。この蓄電デバイスは、図16及び図17に示すように、長尺状の電極シート群101と、この電極シート群が巻かれた状態で収容される容器106と、を備える。
【0003】
電極シート群101は、交互に積層された正極シート102と負極シート103とによって構成されている。この電極シート群101には、リチウム極シート104が重ねられている。また、電極シート群101において、正極シート102、負極シート103、リチウム極シート104の間にはセパレータ105が設けられる。この電極シート群101及びリチウム極シート104を一端から巻きとって容器106内に収容することで蓄電デバイス100が構成される。
【0004】
電極シート群101の一方と他方(図16における上方と下方)の最外層には、正極を構成する正極シート102がそれぞれ設けられている。この正極シート102は、正極集電体1021と、正極集電体1021の片面に塗工される正極合材層1022とによって構成される。これらの正極シート102の間には、負極を構成する負極シート103が設けられている。この負極シート103は、負極集電体1031と、負極集電体1031の両面に塗工される負極合材層1032とによって構成される。電極シート群101に重ねられるリチウム極シート104は、リチウム極集電体1041と、リチウム極集電体1041の両面に設けられる金属リチウム箔1042とによって構成される。また、正極シート102の正極合材層1022は、負極シート103に対向している側に塗工されている。これにより、セパレータ105を介して正極合材層1022と負極合材層1032とが対向した状態となっている。
【0005】
以上の蓄電デバイス100の製造工程では、容器106内に電解液を注入することによって電解液がセパレータ105に染み込み、このセパレータ105に染み込んだ電解液へリチウム極シート104の金属リチウム箔1042が溶解し、負極シート103の負極合材層1032に対するリチウムの供給(以下、プリチャージと称する。)が開始される。
【0006】
しかし、セパレータ105に電解液を染み込ませただけでは電解液へのリチウム極シート104の金属リチウム箔1042の溶解速度が十分ではなく、これにより、負極シート103の負極合材層1032へのリチウムの供給(プリチャージ)には時間がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許出願公開2010-205769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本実施形態は、プリチャージに用いられるアルカリ金属又はアルカリ土類金属が速やかに溶解する蓄電素子の製造方法及び蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、活物質層を有する電極と電解液とケースとを備えた蓄電素子の製造方法である。
この製造方法は、
前記ケース内に所定量の前記電解液が注入されることを備え、
前記所定量は、前記活物質層以外の導電性部材にアルカリ金属又はアルカリ土類金属が配置されているイオン供給部材の該アルカリ金属又は該アルカリ土類金属と、前記イオン供給部材の前記導電性部材と導通する前記電極が積層されている電極体と、が前記ケースに収容された状態において、該ケース内における前記電極体に染み込んだ前記電解液以外の前記電解液である遊離電解液に前記アルカリ金属又は前記アルカリ土類金属の少なくとも一部が浸かる量である。
【0010】
かかる構成によれば、ケース内において電極と導電性部材を通じて導通した状態でアルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一部が遊離電解液に浸かっているため、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が遊離電解液(電解液)中に速やかに溶解する。
【0011】
前記蓄電素子の製造方法では、
前記イオン供給部材は、前記電極体の積層方向における最も外側の電極の外側に配置されてもよい。
【0012】
かかる構成によれば、製造された蓄電素子において、電極間にイオン供給部材が配置されたことによる電極同士の対向面積の減少に起因する性能低下を防ぐことができる。
【0013】
また、前記蓄電素子の製造方法は、
前記ケース内に前記遊離電解液がある状態で該ケースを放置すること、を備え、
前記電極体の少なくとも一部では、電極が積層状態であり、
前記所定量は、前記放置のときに、前記積層状態の電極の全ての層の少なくとも一部が前記遊離電解液と接する量であってもよい。
【0014】
かかる構成によれば、放置のときに、ケース内において、積層状態の電極の全ての層(電極又は電極の部位)の少なくとも一部が遊離電解液に接するため、遊離電解液に溶解したアルカリ金属又はアルカリ土類金属(金属イオン)が各層(電極又は電極の部位)に遊離電解液を通じてそれぞれ供給され、これにより、電極のプリチャージが効率よく行われる。
【0015】
前記蓄電素子の製造方法において、前記電極体は、前記電極として負極と、正極と、該正極および該負極の間に配置されたセパレータとを有していてもよい。前記負極は、導電性を有する箔と、該箔に積層されている負極活物質層とを有していてもよい。前記イオン供給部材は、前記導電性部材と、該導電性部材に配置された前記アルカリ金属又は前記アルカリ土類金属を含む金属層とを有していてもよい。前記イオン供給部材は、前記金属層が積層されている積層部と、前記金属層が積層されていない非積層部とを有していてもよい。前記イオン供給部材は、前記金属層が前記セパレータを介して前記負極活物質層と対向した状態で、前記非積層部が前記負極の前記箔と導通されてもよい。
【0016】
前記蓄電素子の製造方法において、前記電極体は、前記正極と前記負極とが前記セパレータを介して巻回されてもよい。前記セパレータは、前記電極体の最外周に巻き重ねられてもよい。前記イオン供給部材は、前記積層部が前記電極体の最外周に巻き重ねられた前記セパレータ間に配置されてもよい。
【0017】
前記蓄電素子の製造方法において、前記負極活物質層は、前記負極における前記箔の両面に積層されてもよい。前記電極体は、前記負極の最外周部位が、前記正極の最外周部位よりも外側に配置されてもよい。
【0018】
前記蓄電素子の製造方法において、前記イオン供給部材は、前記電極体における湾曲部位に配置されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上より、本実施形態によれば、プリチャージに用いられるアルカリ金属又はアルカリ土類金属が速やかに溶解する蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、前記蓄電素子の分解斜視図である。
図3図3は、前記蓄電素子が備える電極体の構成を示す斜視図である。
図4図4は、前記電極体を説明するための断面模式図である。
図5図5は、イオン供給部材の斜視図である。
図6図6は、図5におけるVI-VI位置の断面図である。
図7図7は、前記イオン供給部材の前記電極体への取り付け位置を示す図である。
図8図8は、注液栓の断面斜視図である。
図9図9は、ケースへの電解液の注入を説明するための図である。
図10図10は、実施例2におけるLi片の貼り付け位置を説明するための図である。
図11図11は、実施例2におけるLi片の貼り付け位置を示す写真である。
図12図12は、実施例2におけるLi片の貼り付け位置を説明するための図である。
図13図13は、実施例2における注液後9日でのLi片の状態を示す写真である。
図14図14は、実施例2における注液後13日でLi片の状態を示す写真である。
図15図15は、前記蓄電素子を含む蓄電装置の斜視図である。
図16図16は、従来の電極シート群の断面模式図である。
図17図17は、従来の蓄電デバイスの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る蓄電素子の製造方法の一実施形態について、図1図9を参照しつつ説明する。本実施形態に係る製造方法によって製造される蓄電素子には、一次電池、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。以下では、本実施形態に係る製造方法によって製造される蓄電素子の構成を説明し、その後、蓄電素子の製造方法について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。
【0022】
本実施形態に係る製造方法によって製造される蓄電素子は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子が電気エネルギーを供給する。
【0023】
蓄電素子は、図1及び図2に示すように、電極体2と、電極体2を電解液と共に収容するケース3と、少なくとも一部が外部に露出する外部端子4と、電極体2と外部端子4とを接続する集電体5と、を備える。この蓄電素子1は、電極体2に金属イオンを供給するイオン供給部材7も備える。また、蓄電素子1は、電極体2とケース3との間に配置される絶縁部材6等も、備える。
【0024】
電解液は、非水溶液系電解液である。この電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO4、LiBF4、及びLiPF6等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPF6を溶解させたものである。
【0025】
電極体2は、図3にも示すように、積層された電極23、24を有する。本実施形態の電極体2では、電極(正極23及び負極24)が所定方向に延びる巻回軸C周りに巻回されることで、電極23、24が積層される。具体的に、電極体2は、巻芯21と、正極23と負極24とが互いに絶縁された状態で積層され且つ巻芯21の周囲に巻回された積層体22と、を備える。電極体2においてリチウムイオンが正極23と負極24との間を移動することにより、蓄電素子1が充放電する。本実施形態の電極体2は、正極23と負極24との間に配置されるセパレータ25を有する。この電極体2では、正極23と負極24とがセパレータ25によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極23、負極24、及びセパレータ25が重ねられた積層体22が巻回されている。
【0026】
巻芯21は、通常、絶縁材料によって形成される。本実施形態の巻芯21は、偏平な筒状である。この巻芯21は、可撓性又は熱可塑性を有するシートを巻回することによって形成される。本実施形態の前記シートは、合成樹脂によって形成されている。尚、巻芯21は、中空の筒状に限定されず、中実であってもよい。また、電極体2は、巻芯21のない構成でもよい。
【0027】
正極23では、導電性を有する箔231に正極活物質層232が積層されている。本実施形態の正極23における導電性を有する箔231は、金属箔である。具体的に、正極23は、帯状の金属箔231と、金属箔231の両面に積層されている正極活物質層232と、を有する。この正極活物質層232は、金属箔231における幅方向の一方の端縁部(非被覆部)を露出させた状態で、該金属箔231の両面にそれぞれ重ねられている。本実施形態の金属箔231は、例えば、アルミニウム箔である。
【0028】
正極活物質層232は、正極活物質と、バインダーと、を有する。
【0029】
本実施形態の正極活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極活物質は、例えば、LiaMebOc(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LiaCoyO2、LiaNixO2、LiaMnzO4、LiaNixCoyMnzO2等)、LiaMeb(XOc)d(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LiaFebPO4、LiaMnbPO4、LiaMnbSiO4、LiaCobPO4F等)である。本実施形態の正極活物質は、LiNi1/3Co1/3Mn1/32である。
【0030】
正極活物質層232に用いられるバインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0031】
正極活物質層232は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の正極活物質層232は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0032】
負極24では、導電性を有する箔241に負極活物質層242が積層されている。本実施形態の負極24における導電性を有する箔241は、金属箔である。具体的に、負極24は、帯状の金属箔241と、金属箔241の両面に積層されている負極活物質層242と、を有する。この負極活物質層242は、金属箔241における幅方向の他方(正極23の金属箔231の非被覆部と反対側)の端縁部(非被覆部)を露出させた状態で、該金属箔241の両面にそれぞれ重ねられている。本実施形態の金属箔241は、例えば、銅箔である。
【0033】
負極活物質層242は、負極活物質と、バインダーと、を有する。
【0034】
負極活物質は、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素、及び易黒鉛化炭素などの炭素材、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などのリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極活物質は、難黒鉛化炭素である。
【0035】
負極活物質層242に用いられるバインダーは、正極活物質層232に用いられたバインダーと同様のものである。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0036】
負極活物質層242は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の負極活物質層242は、導電助剤を有していない。
【0037】
セパレータ25は、絶縁性を有する部材であり、正極23と負極24との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極23と負極24とが互いに絶縁される。尚、正極23と負極24の間の絶縁は、セパレータ25によって行われる必要はなく、例えば、電極23、24の表面(活物質層232、242の上)に塗布された絶縁層によって行われてもよい。
【0038】
また、セパレータ25は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、セパレータ25を挟んで交互に積層される正極23と負極24との間を、リチウムイオンが移動可能となる。
【0039】
このセパレータ25は、帯状であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアミドなどの多孔質膜によって構成される。本実施形態のセパレータ25は、SiO2粒子、Al23粒子、ベーマイト(アルミナ水和物)等の無機粒子を含んだ無機層を、多孔質膜によって形成された基材の上に設けることで形成されている。本実施形態のセパレータ25の基材は、例えば、ポリエチレンによって形成される。
【0040】
セパレータ25の幅方向の寸法は、負極活物質層242の幅より大きい。セパレータ25は、正極活物質層232と負極活物質層242とが厚さ方向(積層方向)に重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極23と負極24との間に配置される。このとき、正極23の非被覆部と、負極24の非被覆部とは重なっていない。即ち、正極23の非被覆部が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向(積層方向と直交する方向)に突出し、且つ、負極24の非被覆部が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向(正極23の非被覆部の突出方向と反対の方向)に突出する。このような状態で積層された正極23、負極24、及びセパレータ25(即ち、積層体22)が巻回されることによって、電極体2が形成される。
【0041】
このとき、図4に示すように、電極体2における積層方向外側の端では、負極24が正極23より外側に位置している。即ち、正極23及び負極24は、巻芯21に巻き付けられたときに、巻き終わり位置において負極24が正極23の外側に位置するように、巻回されている。また、セパレータ25は、負極24の最外周部位(セパレータ25を除いて電極体2の最外周に位置している負極24の部位)24Aの外側に巻き重ねられている。尚、図4では、最外周部位24Aの範囲を示すために、負極の最外周部位に相当する部位の厚さを大きくしているが、実際の負極は、巻回中心側の端から外側の端まで略同じ厚さである。
【0042】
また、本実施形態の電極体2では、図2及び図3に示すように、正極23の非被覆部又は負極24の非被覆部のみが積層された部位によって、電極体2における非被覆積層部26が構成される。この非被覆積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。本実施形態の非被覆積層部26は、巻回された正極23、負極24、及びセパレータ25の巻回軸C方向から見て、中空部27を挟んで二つの部位(分割非被覆積層部)261に区分けされる。
【0043】
イオン供給部材7は、蓄電素子1の初回充放電時に負極24に生じた不可逆容量(初期不可逆容量)を補うための金属イオンを負極24に供給する。このイオン供給部材7は、図5及び図6に示すように、導電性部材71と、導電性部材71に配置されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属72と、を有する。この導電性部材71は、電極23、24と導通している。具体的に、イオン供給部材7は、導電性を有するシート71と、シート71に積層されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属層72と、を有する。金属層72の大きさは、前記の不可逆容量に基づいて設定されている。
【0044】
このイオン供給部材7では、シート71が銅箔であり、金属層72がLiによって形成されている。本実施形態のイオン供給部材7では、シート71が矩形の銅箔であり、金属層(Li層)72がシート71の長尺方向の一端部を残して該シート71の一方の面を覆っている。以下では、イオン供給部材7における金属層72の積層されている部位を積層部73と称し、金属層72の積層されていない部位を非積層部74と称する。
【0045】
このイオン供給部材7は、電極体2における電極23、24の積層方向の最も外側の電極(詳しくは、負極24の最外周部位24A)の外側に配置されている。具体的に、イオン供給部材7では、金属層72がセパレータ25を介して負極活物質層242と対向した状態で、非積層部74が負極24の非被覆部(金属箔241)に接続(導通可能に固着)されている。また、イオン供給部材7は、図4及び図7にも示すように、積層部73が負極24の最外周部位24Aの外側に巻き重ねられたセパレータ25間に挟み込まれる。本実施形態の例では、イオン供給部材7は、最外周部位24Aの外側に巻き重ねられたセパレータ25の一層目と二層目との間に挟み込まれている。このとき、金属層72は、負極24の最外周部位24Aの外側の負極活物質層242に対し、積層体22(正極23、負極24、及びセパレータ25)の積層方向の外側からセパレータ25を介して対向している。本実施形態のイオン供給部材7は、電極体2におけるケース3の閉塞部311側の湾曲部位(図2及び図4における電極体2の下部の湾曲部位)に配置されている。
【0046】
図1及び図2に戻り、ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。このケース3では、ケース本体31と蓋板32とによって内部空間が画定される。ケース3は、この内部空間に、電極体2及び集電体5等と共に電解液を収容する。このため、ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。本実施形態のケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。
【0047】
ケース本体31は、板状の閉塞部311と、閉塞部311の周縁に接続される筒状の胴部(周壁)312と、を備える。
【0048】
閉塞部311は、ケース本体31が開口を上に向けた姿勢で配置されたときにケース本体31の下端に位置する(即ち、前記開口が上を向いたときのケース本体31の底壁部となる)部位である。本実施形態の閉塞部311は、矩形状である。
【0049】
以下では、閉塞部311の長辺方向を直交座標系のX軸とし、閉塞部311の短辺方向を直交座標系のY軸とし、閉塞部311の法線方向を直交座標系のZ軸とする。
【0050】
胴部312は、角筒形状、より詳しくは、偏平な角筒形状を有する。胴部312は、閉塞部311の周縁における長辺から延びる一対の長壁部313と、閉塞部311の周縁における短辺から延びる一対の短壁部314と、を有する。短壁部314が一対の長壁部313の対応する(詳しくは、Y軸方向に対向する)端部同士をそれぞれ接続することによって、角筒状の胴部312が形成される。
【0051】
以上のように、ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。このケース本体31には、巻回軸CをX軸方向に向けた状態で電極体2が収容される(図2参照)。
【0052】
蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ部材である。この蓋板32の輪郭形状は、ケース本体31の開口周縁部310(図2参照)に対応した形状である。即ち、蓋板32は、X軸方向に長い矩形状の板材である。
【0053】
本実施形態の蓋板32には、注液孔320が設けられる。注液孔320は、蓋板32をZ軸方向(厚さ方向)に貫通し、ケース3の内部と外部とを連通する。この注液孔320は、注液栓35によって密閉される(封止される)。即ち、蓄電素子1は、注液栓35を備える。注液栓35は、図1及び図8に示すように、注液孔320を覆う頭部351と、頭部351から延びる挿入部352とを有する。本実施形態の注液栓35は、挿入部352が注液孔320に挿入された状態で頭部351の周縁部と蓋板32とが溶接されることで、蓋板32に固着される。
【0054】
本実施形態のケース3は、この蓋板32の周縁部と、ケース本体31の開口周縁部310とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。本実施形態のケース3では、ケース本体31の開口周縁部310と蓋板32の周縁部とが溶接によって接合されている。
【0055】
外部端子4は、他の蓄電素子の外部端子又は外部機器等と電気的に接続される部位である。このため、外部端子4は、導電性を有する部材によって形成される。また、外部端子4は、溶接性の高い金属材料によって形成される。例えば、正極の外部端子4は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成され、負極の外部端子4は、銅又は銅合金等の銅系金属材料によって形成される。本実施形態の外部端子4は、少なくとも一部がケース3の外部に露出した状態で蓋板32に取り付けられる。この外部端子4は、図1及び図2に示すように、バスバ等が溶接可能な面41を有する。
【0056】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と導通可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と導通可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを導通可能に接続するクリップ部材50を備える。
【0057】
集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。この集電体5は、外部端子4とクリップ部材50とを導通可能に接続する。具体的に、集電体5は、外部端子4と導通可能に接続される第一接続部51と、電極体2と導通可能に接続される第二接続部52と、を有する。集電体5では、第一接続部51がケース3内の蓋板32と短壁部314との境界近傍から蓋板32に沿って延びると共に、第二接続部52が第一接続部51のX軸方向外側の端部から短壁部314に沿って延びる。本実施形態の第二接続部52は、例えば、超音波溶接によってクリップ部材50と接合される。
【0058】
以上のように構成される集電体5は、蓄電素子1の正極と負極とにそれぞれ配置される。本実施形態の蓄電素子1では、ケース3内において、電極体2の正極の非被覆積層部26と、負極の非被覆積層部26とにそれぞれ配置される。正極の集電体5と負極の集電体5とは、異なる素材によって形成される。具体的には、正極の集電体5は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって形成され、負極の集電体5は、例えば、銅又は銅合金によって形成される。
【0059】
クリップ部材50は、電極体2の非被覆積層部26(詳しくは、分割非被覆積層部261)において積層された正極23又は負極24を束ねるように挟む。これにより、クリップ部材50は、非被覆積層部26において積層される正極23の非被覆部同士、又は負極24の非被覆部同士を導通させる。本実施形態のクリップ部材50は、板状の金属材料を断面がU字状となるように曲げ加工することによって形成される。
【0060】
絶縁部材6は、ケース3(詳しくはケース本体31)と電極体2との間に配置される。この絶縁部材6は、絶縁性を有する樹脂によって形成されている。本実施形態の絶縁部材6は、所定の形状に裁断された絶縁性を有するシート状の部材を折り曲げることによって形成されている。
【0061】
次に、蓄電素子1の製造方法について、蓄電素子1の構成の説明で参照した図1図8に加え、図9も参照しつつ説明する。
【0062】
先ず、イオン供給部材7が電極体2に取り付けられる。本実施形態の製造方法では、電極体2が形成される際に、イオン供給部材7の電極体2への取り付けが行われる。具体的には、以下の通りである。
【0063】
合成樹脂製のシートが巻回されることで巻芯21が形成される。次に、セパレータ25と正極23とセパレータ25と負極24とが順に重ねられるように巻芯21の周囲に巻回される。
【0064】
正極23及び負極24の巻回の終了後、セパレータ25の巻回が続けられる。即ち、正極23及び負極24が巻き終わっても、正極23と負極24の巻き終わり側の端部を巻き込みつつ、セパレータ25がそのまま巻回され続ける。これにより、セパレータ25が負極24の最外周部位24Aの外側に巻き重ね(巻き付け)られる。
【0065】
このセパレータ25のみの巻回時(巻き重ね時)において、負極24の最外周部位24Aの外側にセパレータ25が一層巻回されたときに、金属層72がセパレータ25(前記一層目を構成するセパレータ25)を介して負極活物質層242と対向するように、該セパレータ25上にイオン供給部材7の積層部73が配置されると共に、イオン供給部材7の非積層部74が負極24の非被覆部に超音波溶接や抵抗溶接等によって接続(固着)される。イオン供給部材7の非積層部74が負極24の最外周部位24Aの非被覆部(金属箔241)に接続されると、セパレータ25の巻回が再開され、これにより、イオン供給部材7の積層部73がセパレータ25に押さえ込まれる(即ち、負極24の最外周部位24Aの外側に巻回される一層目のセパレータ25と二層目のセパレータ25とに挟み込まれる)。
【0066】
セパレータ25が所定回数巻回されると、セパレータ25の巻き終わり側の端部がテープ等によって止められ、これにより、電極体2が完成する。
【0067】
次に、外部端子4と集電体5等が組付けられた蓋板32に対し、クリップ部材50が分割非被覆積層部261に取り付けられた状態の電極体2が取り付けられる。具体的には、クリップ部材50が分割非被覆積層部261を挟み込むように電極体2に取り付けられ、この取り付けられたクリップ部材50が、集電体5の第二接続部52に超音波接合によって接続される。このとき、注液栓35は、蓋板32に取り付けられていない状態、即ち、注液孔320は、解放された(封止されていない)状態である。
【0068】
電極体2、集電体5、及び外部端子4等が蓋板32に組付けられると、絶縁部材6が電極体2に被せられ、蓋板32がケース本体31の開口周縁部310に当接するまで、該蓋板32に組付けられた状態の電極体2がケース本体31に挿入される。蓋板32がケース本体31の開口周縁部310に当接すると、蓋板32とケース本体31の開口周縁部310との境界部が溶接(レーザ溶接等)される。
【0069】
蓋板32とケース本体31とが溶接されると、所定量の電解液が注液孔320からケース3内に注入(注液)される。このとき、ケース3内に注入された電解液の一部が電極体2(セパレータ25等)に染み込み、残りの電解液が遊離電解液としてケース3内に溜まる。即ち、本実施形態における遊離電解液とは、ケース3内において電極体2に染み込んでいない状態でケース3の下部に溜まっている電解液である。ここで、前記所定量とは、ケース3内において、電極体2(具体的には、電極体2に含まれるセパレータ25等)に染み込んでいない遊離電解液にイオン供給部材7の金属層72の少なくとも一部が浸かる量である。本実施形態では、イオン供給部材7の金属層72(積層部73)全体が遊離電解液に浸かる量の電解液がケース3内に注入される。即ち、図9に示すように、蓄電素子1が後述の初充電やその後の所定時間の放置の際の姿勢のときに、遊離電解液の液面が電極体2に取り付けられたイオン供給部材7の上端より上方位置になるまで、電解液が注入される。このように、イオン供給部材7の金属層72(積層部73)全体が遊離電解液に浸かる量の電解液がケース3内に注入されることで、金属層72の全体から効率的に遊離電解液にリチウムイオンが溶出する。その結果、より短い時間でプリチャージを進行させることができる。また、本実施形態では、遊離電解液の液面が巻回された電極23、24の最内周の面(即ち、電極体2の最内周に位置する電極23、24(詳しくは、電極23、24の部位)の内側(中空部27側)を向いた面)24Sの下端24B以上の位置になるまで、電解液が注入される。
【0070】
この電解液の注入により、イオン供給部材7の金属層72と該イオン供給部材7が接続されている負極24の負極活物質層242との間に電位差が生じ、これにより、金属層72から該金属層72を構成するLiがLi+(金属イオン)として遊離電解液中に放出される。即ち、金属層72からLiが遊離電解液中に溶解し始める。
【0071】
電解液の注入が終わると、注液孔320が解放された状態(注液栓35による封止前の状態)で、蓄電素子1の初回の充電(初充電)が行われる。このときのケース3の姿勢は、電解液を注入する際の姿勢と同じ、即ち、閉塞部311が下方に位置し且つ蓋板32が上方に位置する姿勢である(図9参照)。
【0072】
この初充電が完了すると、注液栓35が注液孔320に挿入され、頭部351の周縁部と蓋板32の注液孔320の周縁部とが溶接されることによって、注液孔320が封止される。
【0073】
次に、蓄電素子1の内部短絡の有無の確認が行われる。具体的には、蓄電素子1は、内部短絡の確認のための充電が行われた後、所定の時間放置される。この所定の時間とは、不良品を確認するための時間(放置期間)である。例えば具体的には、雰囲気温度が25℃~45℃の室内に15時間~3日間ほど放置される。このとき、蓄電素子1に内部短絡が生じていると、この放置期間を経ることで、計測によって確実に検出できる程度まで電圧が十分に下がるため、放置期間後の電圧計測によって不良品(内部短絡を生じている蓄電素子1)を確実に選別できる。
【0074】
続いて、蓄電素子1の容量確認が行われる。具体的には、容量確認のための充放電が行われる。この充放電の際の電圧計測に基づく選別によって出荷可能とされた蓄電素子1は、完成品として出荷待ちの状態となる。
【0075】
このようにして製造された蓄電素子1では、主に最初の充放電サイクル(本実施形態の例では、内部短絡の確認のための充放電)の際に、大きな不可逆容量(初期不可逆容量)が発生するが、イオン供給部材7から遊離電解液中に溶解したLi(詳しくは、イオン供給部材7から放出されたLi+)が負極活物質層242に吸蔵される(プリチャージされる)ことで、前記不可逆容量が抑えられる(減少する)。本実施形態では、このプリチャージの際にも、ケース3の姿勢は、電解液を注入する際の姿勢と同じ、即ち、閉塞部311が下方に位置し且つ蓋板32が上方に位置する姿勢である(図9参照)。
【0076】
尚、プリチャージを適切に進行させるためには、放置時間は15時間以上が好ましく、一日以上がより好ましく、二日以上が更に好ましい。このプリチャージにおいて、蓄電素子1では、イオン供給部材7の金属層72からLi+が遊離電解液中に放出されることで金属層72がしだいに減少する。ある一態様において、最後には金属層72が無くなった状態のシート71が残る。
【0077】
以上の蓄電素子1の製造方法によれば、製造された蓄電素子1のケース3内において、電極体2とシート(導電性部材)71を通じて導通した金属層(アルカリ金属又はアルカリ土類金属)72の少なくとも一部が遊離電解液に浸かることで、この浸かっている金属層72が遊離電解液中に速やかに溶解する、即ち、金属層72から金属イオンが遊離電解液中に速やかに放出される。
【0078】
また、本実施形態の蓄電素子1の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7は、電極23、24の積層方向における最も外側の電極(詳しくは、最外周部位24A)の外側に配置されている。このため、製造された蓄電素子1において、電極23、24間にイオン供給部材7が配置されたことによる電極23、24同士の対向面積の減少に起因する性能低下を防ぐことができる。
【0079】
また、本実施形態の蓄電素子1の製造方法では、初充電、又は、初充電及び初充電後の放置期間の際に、ケース3の姿勢を、閉塞部311が下方に位置し且つ蓋板32が上方に位置する姿勢(図9参照)にすると、巻回された電極23、24における最内周の面(中空部27側を向いた面)24Sの下端24B以上の位置に遊離電解液の液面が位置する。このため、遊離電解中のLi+(遊離電解液に溶解したアルカリ金属又はアルカリ土類金属)が電極体2の各層24に遊離電解液を通じてそれぞれ供給され、これにより、電極24のプリチャージが効率よく行われる。即ち、プリチャージされる金属イオンが負極活物質層242内を移動(拡散)し、又はセパレータ25に染み込んでいる電解液中を移動する場合に比べ、遊離電解液を通じた移動とすることで、電極体2の外周部に配置されたイオン供給部材7から放出された金属イオンが電極体2の巻回中心部に到達するまでの距離を極めて短くすることができ、これにより、巻回型の電極体2の巻回中心部への速やかな金属イオンの供給が可能になる。
【0080】
ここで、完成品としての蓄電素子1において、遊離電解液の液面高さ、金属層72の位置、巻回された電極23、24の最内周の面24Sの下端24Bの位置について、蓄電素子1を解体しなくてもX線測定で確認できる場合には、それらの高さを対比することによって、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一部が遊離電解液に浸かっているか、および、下端24Bが遊離電解液と接しているか(つまり、積層状態の各層を構成する電極23、24の少なくとも一部が遊離電解液と接しているか)を確認することができる。金属層72の位置や、巻回された電極23、24の最内周の面24Sの下端24Bの位置をX線測定で確認できない場合には、蓄電素子1を解体して内容物を取り出すことで、解体前にそれらがどの位置にあったかを確認することができる。
【0081】
また、遊離電解液の液面高さをX線測定で確認できない場合には、イオン供給部材7のアルカリ金属又はアルカリ土類金属が遊離電解液に浸かるか否か、および積層状態の各層を構成する電極23、24の少なくとも一部が遊離電解液と接しているかについては、必要に応じて下記の1.~6.の工程によって判断してもよい。
1. 蓄電素子1のケース3から上面(例えば、蓋板32)を除去して、電極体2をケース3から引き出す。
2. ケース3内に残っている遊離電解液の体積を求める。
3. 取り出した電極体2を、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した溶媒(以下、混合溶媒と記載)に密閉容器中で浸漬し、密閉容器内を真空引きすることで、電極体2の空孔内に十分に溶媒を浸入させる。
4. 混合溶媒を十分に浸入させた電極体2を密閉容器から取り出し、混合溶媒をいっぱいに満たした容器に、電極体2を下端から徐々に挿入して、イオン供給部材7のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の下端が混合溶媒の液面に一致する位置、又は積層状態の電極23、24の全ての層の少なくとも一部がぎりぎり混合溶媒に接する位置で止めて、電極体2を混合溶媒から引き上げる。
5. 上記4.の作業で容器から溢れた混合溶媒の重量を測定し、その比重から溢れた混合溶媒の体積を求める。
6. 上記2.でケース3内に残っていた遊離電解液の体積と、上記5.で求めた溢れた混合溶媒の体積との和が、ケース3内に電極体2が配置されていた際の、イオン供給部材7のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の下端、又は積層状態の電極23、24の各層のうち、下端部が最も高い位置にある層の下端の高さ以下のケース3の内容積とを対比する。その結果、ケース3の内容積よりも、上記2.でケース3内に残っていた遊離電解液の体積と、上記5.で求めた溢れた混合溶媒の体積との和の方が大きかった場合には、当該蓄電素子1で、イオン供給部材7のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の下端以上の位置に、又は積層状態の各層を構成する電極23、24の少なくとも一部と遊離電解液が接する位置に、遊離電解液の液面が存在していたと判断できる。
【0082】
また、本実施形態の蓄電素子1の製造方法では、電極体2の形成時における負極24の最外周部位24Aの外側へのセパレータ25の巻き重ねの際に、セパレータ25の間に挟み込まれるようにイオン供給部材7が配置される。
【0083】
かかる構成によれば、製造された蓄電素子1において、正極23、負極24、及びセパレータ25を巻回して電極体2を形成する際にイオン供給部材7を取り付けることができる。即ち、電極体2の形成とイオン供給部材7の取り付けとを同時に(同じ工程で)行うことができる。
【0084】
しかも、イオン供給部材7がセパレータ25によって挟み込まれて固定されることで、蓄電素子1を製造する際(蓋板32に組付けられた後のケース本体31への挿入時等)にイオン供給部材7の他の部材への接触(引っかかり等)が防がれる。これにより、前記接触に起因するイオン供給部材7の損傷を防ぐ(抑制する)ことができる。
【0085】
さらに、長尺な負極24が巻回されている、即ち、最外周から巻回中心まで負極活物質層242が連続しているため、外周側で吸蔵された金属イオン(Li+)が負極活物質層242内を拡散して(移動して)巻回中心部まで広がる。これにより、遊離電解液中の移動と負極活物質層242内の拡散とによって金属層72から放出された金属イオンが電極体2の巻回中心部の負極活物質層242にまで、好適に供給される。ここで、負極活物質層242における金属イオンの拡散より、遊離電解液を通じての各層24への金属イオンの供給の方が速やかに行われる。このため、本実施形態の製造方法によって製造される蓄電素子1では、少なくとも遊離電解液による金属イオンの経路(詳しくは、電極体2の外側で速やかに金属イオンが移動できる経路)が確保されていればよい。
【0086】
また、本実施形態の蓄電素子1の製造方法では、電極体2は、電極として負極24と、正極23と、該正極23および該負極24の間に配置されたセパレータ25とを有している。負極24は、導電性を有する箔241と、該箔241に積層されている負極活物質層242とを有している。イオン供給部材7は、導電性部材71と、該導電性部材71に配置されたアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む金属層72とを有している。イオン供給部材7は、金属層72が積層されている積層部73と、金属層72が積層されていない非積層部74とを有している。イオン供給部材7は、金属層72がセパレータ25を介して負極活物質層242と対向した状態で、非積層部73が負極24の箔241と導通されている。このようにすれば、金属イオンは、前述した遊離電解液による金属イオンの経路に加えて、イオン供給部材7の金属層72からセパレータ25に染み込んでいる電解液を通じても負極活物質層242へ供給される。そのため、負極活物質層242への金属イオンの供給をより速やか行うことができる。
【0087】
また、本蓄電素子1の製造方法によると、電極体2は、正極23と負極24とがセパレータ25を介して巻回されている。セパレータ25は、電極体2の最外周に巻き重ねられている。イオン供給部材7は、積層部73が電極体2の最外周に巻き重ねられたセパレータ25間に配置されている。このようにすれば、イオン供給部材7の積層部73の外側にセパレータ25が巻き重ねられているので、イオン供給部材7を電極体2に確実に保持すると共に、セパレータ25を介して金属層72から負極活物質層242へ金属イオンを供給することができ、金属層72から負極活物質層242への金属イオンの供給をより確実に行うことができる。
【0088】
また、本実施形態の蓄電素子1の製造方法では、負極活物質層242は、負極24における箔241の両面に積層されている。電極体2は、負極24の最外周部位24Aが、正極23の最外周部位よりも外側に配置される。すなわち、負極24の最外周部位24Aにおいては、外側の負極活物質層242(金属箔241の外周側を向く面に積層されている負極活物質層)は、正極活物質層232と対向していないため、イオン供給部材7の金属層72からセパレータ25を通じて負極活物質層242に至る金属イオンの供給経路に正極活物質層232が存在しない。上記構成によれば、負極24の最外周部位24Aにおいて、正極活物質層232と対向していない外側の負極活物質層242に、金属層72からセパレータ25を通じて速やかに金属イオンを供給して拡散することができる。そのため、正極活物質層232と対向していない外側の負極活物質層242が存在することに起因する種々の不具合(例えば金属層72から供給された金属イオンが正極表面で析出する等による耐久初期の容量維持率の低下等)を解消または緩和することができる。
【0089】
また、本蓄電素子1の製造方法によると、イオン供給部材7は、電極体2における湾曲部位(図2及び図4における電極体2の下部の湾曲部位)に配置さる。このようにすれば、テンションをかけてイオン供給部材7をより強固に固定する(ひいてはセパレータ25を介して金属層72を負極活物質層242に確実に対向させる)ことができ、金属層72から負極活物質層242への金属イオンの供給をより確実に行うことができる。
【0090】
[実施例1]
ここで、上記実施形態の蓄電素子1の製造方法での効果を確認するために行った実験の実験条件と実験結果とを以下に示す。
<実験条件>
(1)四つの同じ構成の電極体(巻回型の電極体)A~Dに対してLi金属箔を以下の条件で貼り付けた。
電極体A:負極活物質層にLi金属箔を貼り付けた。
電極体B:負極と電気的に接続された銅箔上にLi金属箔を貼り付けた。
電極体C:負極活物質層にLi金属箔を貼り付けた。
電極体D:負極と電気的に接続された銅箔上にLi金属箔を貼り付けた。
(2)その後、電極体A、電極体Bは、電解液に浸漬して電極とセパレータに電解液を染み込ませた後、余剰の電解液を捨てた。一方、電極体C、電極体Dは、電解液に浸漬して電極とセパレータに電解液を染み込ませた後、余剰の電解液を捨てずに電極体C、Dが余剰の電解液に浸かったままとした。
(3)続いて、電極体A~Dをそのまま室温で静置して、プリチャージが進むかどうかを、主に目視により確認した。(電極体に取り付けたLi金属箔が消失すればプリチャージが進んでいると判断できる。)
<実験結果>
電極体A:ほとんどプリチャージ出来なかった。
電極体B:ほとんどプリチャージ出来なかった。
電極体C:プリチャージは少し進んだ形跡があるが、注液後13日では終了しなかった。
電極体D:注液後13日でプリチャージできていた。(貼りつけたLi金属箔が反応しきって消失していたことを確認。注液後9日ではLi金属箔が残っていた。)
【0091】
[実施例2]
また、以下の実験も行った。
<実験条件>
(1)この実験では、図10及び図11に示すように、電極体aでは、電極体aに接続された集電体5の三か所に厚さ3mmのLi片75を貼り付け、図12に示すように、電極体bでは、負極活物質層242上に厚さ3mmのLi片75を貼り付け、その外側をセパレータ25で囲っている。
(2)これら電極体a、bを透明な樹脂バックに入れ、この樹脂バックに電極体a、bが浸かる状態になるまで電解液を注入した後、該樹脂バックを封止する。このとき、電極体a、bは、遊離電解液(樹脂バック内における電極体a、bに染み込んだ電解液以外の電解液)に接触している。
(3)封止後、Li片が消滅するのを目視により観察する。
<実験結果>
(1)電極体a
・注液後3日:Li片の縮小は目視ではわからないレベルであった。
・注液後9日:図13の写真に示すように、Li片が縮小していることが確認できた。
・注液後13日:図14の写真の円で囲まれている部位に貼り付けられたLi片は、反応しきって消失していた。
(2)電極体b
・注液後13日の時点でLi片が残っていることが確認できた。
【0092】
以上の二つの実験結果から、「Li金属層が遊離電解液に浸かっていること」と、「Li金属層が負極の金属箔に接合されている集電部材に接合されていること(即ち、Li金属層が活物質層以外の導電性部材を介して負極と導通していること)」と、が組み合わされた場合に、プリチャージが良好に進行していることが確認できた。
【0093】
尚、本発明の蓄電素子の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0094】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7の金属層72を構成する金属は、Liであるがこの構成に限定されない。即ち、金属層72を構成する金属は、負極活物質層242に含まれる金属に限定されない。金属層72を構成する金属は、金属イオンとして電解液中に放出されたときに、負極活物質層242に吸蔵されることで蓄電素子1での不可逆容量を無くす又は小さくするものであれば、負極活物質層242に含まれないアルカリ金属又はアルカリ土類金属でもよい。
【0095】
また、導電性部材71に配置されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の具体的な構成も限定されない。即ち、アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、上記実施形態の金属層72のようなシート状(箔)でなくてもよい。例えば、導電性部材71が多孔体によって構成される場合には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、前記多孔体の孔の中に充填されていてもよい。即ち、アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、電極23、24と導通した状態で導電性部材71に配置されていればよい。
【0096】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7の導電性部材(上記実施形態の例ではシート)71は、負極24と導通しているが、この構成に限定されない。導電性部材71は、正極23と導通していてもよい。即ち、導電性部材71は、該導電性部材71に配置されるアルカリ金属又はアルカリ土類金属(上記実施形態の例では金属層72)を電極(正極23又は負極24)に導通させる構成であればよい。
【0097】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、導電性部材71の具体的な構成は限定されない。例えば、上記実施形態の導電性部材71は、シート状であるが、電極23、24と導通しているケース3によって構成されていてもよい。この場合、金属層72は、ケース3の内面に配置され、イオン供給部材7は、金属層72とケース3とによって構成される。また、導電性部材71は、電極体2と外部端子4とを接続する集電体5によって構成されていてもよい。この場合、金属層72は、集電体5に配置され、イオン供給部材7は、金属層72と集電体5とによって構成される。即ち、導電性部材71は、金属層72を電極23、24に導通させる構成であればよい。
【0098】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、導電性部材71は、負極24の非被覆部に導通可能に接続されているが、この構成に限定されない。導電性部材71は、ケース3内において電極23、24と導通状態でいずれかの部材に接続されていればよい。
【0099】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7は、積層部73と非積層部74とを有しているが、この構成に限定されない。例えば、イオン供給部材7は、積層部73のみであってもよい。この場合、導電性部材(シート)71における金属層72が積層されている面と反対側の面が、電極23、24等と導通可能に接続される。尚、積層部73と非積層部74とを有するイオン供給部材7においても、シート71の積層部73を構成する部位における金属層72が積層されている面と反対側の面が、電極23、24等と導通可能に接続されていてもよい。
【0100】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7の導電性部材71は、銅箔であるが、この構成に限定されない。導電性部材71は、導電性を有し且つ電解液に耐性を有する素材で構成されていればよい。また、導電性部材(シート)71の形状(輪郭)は、矩形状に限定されず、種々の形状を選択し得る。
【0101】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1において、イオン供給部材7(詳しくは、積層部73)がセパレータ25間に配置されているが、この構成に限定されない。イオン供給部材7の外側にセパレータ25がなくてもよい。また、イオン供給部材7(積層部73)は、セパレータ25を介することなく直接負極活物質層242と対向していてもよい。
【0102】
また、イオン供給部材7の配置位置は、負極24の最外周部位24Aの外側に限定されない。イオン供給部材7は、電極体2の積層方向の途中位置(例えば、正極23と負極24との間)に配置されてもよい。この場合、イオン供給部材7は、非積層部74によって負極24に接続され、正極23とはセパレータ25等によって絶縁されている。
【0103】
上記実施形態の蓄電素子1の製造方法において、ケース3内に注入される電解液の量は、巻回軸Cが水平又は略水平(重力方向と直交又は略直交)となるように蓄電素子1が配置された状態のときに、イオン供給部材7の金属層72の少なくとも一部が遊離電解液に浸かり、且つ、電極体2の電極24における最内周の面24Sの下端24B以上の位置に遊離電解液の液面が位置する量であるが、この構成に限定されない。
【0104】
ケース3内に注入される電解液の量は、電極24が積層状態となっている電極体2において、積層状態の各層を構成する電極24(例えば、積層型の電極体における枚葉状の電極)又は電極の部位(例えば、巻回型の電極体2における各層を構成する電極24の部位)のそれぞれの少なくとも一部が遊離電解液と接する量であればよい。例えば、ケース3内に注入される電解液の量は、巻回軸Cが垂直又は略垂直(重力方向と同一又は略同一)となるように蓄電素子1が配置された状態のときに、イオン供給部材7の金属層72の少なくとも一部が遊離電解液に浸かり、且つ、いわゆる巻回型の電極体2における各層を構成する電極24の下端以上の位置に遊離電解液の液面が位置する(即ち、全ての層の下端が遊離電解液に浸かる)量であってもよい。この構成によれば、巻回軸Cが垂直又は略垂直(重力方向と同一又は略同一)となるように蓄電素子1が配置されることで、イオン供給部材7から遊離電解液に溶解したアルカリ金属又はアルカリ土類金属(金属イオン)が電極体2の各層(電極24の長手方向における全域)に遊離電解液を通じてそれぞれ供給され、これにより、電極24のプリチャージが効率よく行われる。即ち、プリチャージされる金属イオンが負極活物質層242内を移動(拡散)し、又はセパレータ25に染み込んでいる電解液中を移動する場合に比べ、電極体2の外周部に配置されたイオン供給部材7から放出された金属イオンが電極体2の巻回中心部に到達するまでの距離を、遊離電解液を通じた移動とすることで極めて短くすることができ、これにより、巻回型の電極体2の巻回中心部への速やかな金属イオンの供給が可能になる。
【0105】
上記実施形態の蓄電素子1の電極体2は、いわゆる巻回型であるが、この構成に限定されない。例えば、電極体2は、枚葉状の電極(正極、負極)が各電極の厚さ方向に積層された、いわゆる積層型(スタック型)であってもよい。この場合、ケース3内に注入される電解液の量は、電極体における電極(正極、負極)の積層方向が水平又は略水平(重力の向きと直交又は略直交)となるように蓄電素子が配置され状態のときに、イオン供給部材7の金属層72の少なくとも一部が遊離電解液に浸かり、且つ、いわゆる積層型の電極体における各電極(負極)の下端以上の位置に遊離電解液の液面が位置する(即ち、全ての電極(負極)の下端が遊離電解液に浸かる)量であることが好ましい。この構成によれば、電極の積層方向が水平又は略水平となるように蓄電素子が配置されることで、イオン供給部材7から遊離電解液に溶解したアルカリ金属又はアルカリ土類金属(金属イオン)が電極体の各電極(負極)に遊離電解液を通じてそれぞれ供給され、これにより、電極のプリチャージが効率よく行われる。
【0106】
また、電極体2は、正極23及び負極24の少なくとも一方がつづら折りであってもよい(蛇腹状に折り返されていてもよい)。
【0107】
また、上記実施形態の蓄電素子1の製造方法において、イオン供給部材7の電極体2における具体的な配置場所は限定されない。上記実施形態のイオン供給部材7は、電極体2の下部の湾曲部位に配置されているが、例えば、上部(前記湾曲部位とは反対側)の湾曲部位に配置されてもよく、電極体2の平坦部位(例えば、図2及び図4における上下の湾曲部位の間の部位)に配置されてもよい。
【0108】
上記実施形態の蓄電素子1の製造方法では、電極体2の形成と、イオン供給部材7の電極体2への取り付けとが同時に(同じ工程で)行われるが、この構成に限定されない。電極体2が完成した後に、イオン供給部材7が電極体2に取り付けられる構成、即ち、電極体2を形成する工程と、電極体2にイオン供給部材7と取り付ける工程とが別々でもよい。
【0109】
上記実施形態の製造方法によって製造された蓄電素子1では、注液孔320は、蓋板32に設けられているが、ケース本体31に設けられてもよい。
【0110】
ここに開示される技術によると、正極23および負極24を有する電極体2と、所定量の電解液と、電極体2と所定量の電解液とを収容するケース3と、ケース3内に配置されているイオン供給部材7とを備える蓄電素子(例えばプリチャージ前の蓄電素子)1が提供される。この蓄電素子1のイオン供給部材7は、導電性部材71と、該導電性部材71に配置されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む金属層72とを有する。導電性部材71は、負極24と導通されている。電解液は、ケース3内における電極体2に染み込んでいない遊離電解液を含む。ここで、上記所定量は、上記遊離電解液に金属層73の少なくとも一部が接する量である。
【0111】
好ましい一態様では、上記電極体2は、正極23と負極24との間に配置されたセパレータ25を有している。負極24は、導電性を有する箔241と、該箔241に積層されている負極活物質層242とを有している。イオン供給部材7は、金属層72が積層されている積層部73と、金属層72が積層されていない非積層部74とを有している。イオン供給部材7は、金属層72がセパレータ25を介して負極活物質層242と対向した状態で、非積層部73が負極24の箔241と導通されている。
【0112】
好ましい一態様では、上記電極体2は、正極23と負極24とがセパレータ25を介して巻回されている。セパレータ25は、電極体2の最外周に巻き重ねられている。イオン供給部材7は、積層部73が電極体2の最外周に巻き重ねられたセパレータ25間に配置されている。
【0113】
好ましい一態様では、負極活物質層242は、負極24における箔241の両面に積層されている。電極体2は、負極24の最外周部位24Aが、正極23の最外周部位よりも外側に配置されている。
【0114】
好ましい一態様では、イオン供給部材7は、電極体2における湾曲部位に配置されている。
【0115】
また、ここに開示される技術によると、正極23および負極24を有する電極体2と、所定量の電解液と、電極体2と所定量の電解液とを収容するケース3と、ケース3内に配置されている導電性部材71とを備えた蓄電素子(例えばプリチャージ後の蓄電素子)1が提供される。この蓄電素子1の導電性部材71は、負極24と導通されている。電解液は、ケース3内における電極体2に染み込んでいない遊離電解液を含む。ここで、上記所定量は、遊離電解液に導電性部材71の少なくとも一部が接する量である。
【0116】
好ましい一態様では、電極体2は、正極23と負極24との間に配置されたセパレータ25を有している。負極24は、導電性を有する箔241と、該箔241に積層されている負極活物質層243とを有している。導電性部材71は、第1の部位73と第2の部位74とを有している。導電性部材71は、第1の部位73がセパレータ25を介して負極活物質層242と対向した状態で、第2の部位74が負極24の箔241と導通されている。
【0117】
好ましい一態様では、上記電極体2は、正極23と負極24とがセパレータ25を介して巻回されている。セパレータ25は、電極体2の最外周に巻き重ねられている。導電性部材71は、第1の部位73が電極体2の最外周に巻き重ねられたセパレータ25間に配置されている。
【0118】
好ましい一態様では、上記負極活物質層242は、負極24における箔241の両面に積層されている。電極体2は、負極24の最外周部位24Aが、正極23の最外周部位よりも外側に配置されている。
【0119】
好ましい一態様では、導電性部材71は、電極体2における湾曲部位に配置されている。
【0120】
また、上記実施形態においては、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態において、蓄電素子の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0121】
蓄電素子(例えば電池)1は、図15に示すような蓄電装置(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)11に用いられてもよい。蓄電装置11は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材12と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子1に適用されていればよい。
【符号の説明】
【0122】
1…蓄電素子、2…電極体、21…巻芯、22…積層体、23…正極(電極)、231…金属箔(導電性を有する箔)、232…正極活物質層、24…負極(電極)、241…金属箔(導電性を有する箔)、242…負極活物質層、24A…最外周部位、24B…最内周の面の下端、24S…巻回された電極の最内周の面、25…セパレータ、26…非被覆積層部、261…分割非被覆積層部、27…中空部、3…ケース、31…ケース本体、310…開口周縁部、311…閉塞部、312…胴部、313…長壁部、314…短壁部、32…蓋板、320…注液孔、35…注液栓、351…頭部、352…挿入部、4…外部端子、41…面、5…集電体、50…クリップ部材、51…第一接続部、52…第二接続部、6…絶縁部材、7…イオン供給部材、71…シート(導電性部材)、72…金属層(アルカリ金属又はアルカリ土類金属)、73…積層部、74…非積層部、75…Li片、11…蓄電装置、12…バスバ部材、100…蓄電デバイス、101…電極シート群、102…正極シート、1021…正極集電体、1022…正極合材層、103…負極シート、1031…負極集電体、1032…負極合材層、104…リチウム極シート、1041…リチウム極集電体、1042…金属リチウム箔、105…セパレータ、106…容器、C…巻回軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図17