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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】エマルション型消泡剤
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/04 20060101AFI20231026BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231026BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20231026BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20231026BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20231026BHJP
   D21H 21/12 20060101ALI20231026BHJP
   D21H 11/18 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B01D19/04 B ZNM
C08L1/02
C08K5/05
C08K5/10
C08L91/00
D21H21/12
D21H11/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019229948
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098156
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502264991
【氏名又は名称】株式会社日新化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 翔
(72)【発明者】
【氏名】國定 裕司
(72)【発明者】
【氏名】土田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-171715(JP,A)
【文献】特開2012-037819(JP,A)
【文献】特開2003-071207(JP,A)
【文献】特開2019-206521(JP,A)
【文献】特開2016-169278(JP,A)
【文献】特開2015-040365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D19/00-19/04
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類とセルロースナノファイバーと鉱物油とを含有し、
前記セルロースナノファイバーが、固形分換算で0.005~0.15質量%の濃度となるように含まれ、
前記鉱物油が、10~20質量%の濃度で含まれる、
ことを特徴とするエマルション型消泡剤。
【請求項2】
肪酸エステルを、さらに含有する請求項1に記載のエマルション型消泡剤。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーが、2~300nmの平均径を有する請求項1または2に記載のエマルション型消泡剤。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、200~800nmの平均長さを有する請求項1~3のいずれかに記載のエマルション型消泡剤。
【請求項5】
粘度調整剤を、さらに含有する請求項1~のいずれかに記載のエマルション型消泡剤。
【請求項6】
12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類を含むエマルション型消泡剤に、セルロースナノファイバーを固形分換算で0.005~0.15質量%の濃度、および鉱物油を10~20質量%の濃度となるように添加することを特徴とするエマルション型消泡剤の安定化方法。
【請求項7】
前記エマルション型消泡剤が、脂肪酸エステルを、さらに含有する請求項に記載の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション型消泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙、食品、紡績、染色、金属などの各種工業分野において、製造工程で使用される溶液やスラリー、あるいは製造工程で生じる廃液などが泡立つことがある。例えば製紙工場では、各工程において泡によるトラブルが引き起こされやすい。具体的には、発泡に起因する液の流出、機械的負荷による電力コストの増加、製品中への気泡混入による品質低下などが挙げられる。
【0003】
このような泡によるトラブルを対処する方法としては、脱泡機や緩衝板の設置、シャワー水の導入などによる物理的対処方法、あるいはpHや温度変化、消泡剤の添加などによる化学的対処方法が挙げられる。これらの対処方法の中でも、消泡剤の添加は、他の方法に比べて大掛かりな設備なども不要であり導入しやすい。消泡剤の中でも、特許文献1に記載のようにエマルション型消泡剤は、液中分散性および脱気作用に優れている。エマルション型消泡剤としては、一般的に、特許文献1に記載のような高級アルコールベースのエマルション型消泡剤が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-51513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高級アルコールベースのエマルション型消泡剤は、保管中に増粘しやすく安定性に乏しい。そのため、保管時に固化あるいは分離することにより使用できなくなることがある。また、エマルション型消泡剤の増粘性と破泡作用には密接な相関関係がある。増粘した消泡剤は、発泡液中へのエマルション粒子の拡散性が低下し、気泡への作用効率が悪くなる。そのため、破泡作用の著しい低下が生じる。保管時の経時的な粘度上昇率が高い場合、目的とする発泡液への一定した破泡作用が得られない。これを解決するために、安定した破泡作用を継続的に維持させるためには、保管時のエマルション消泡剤の増粘性の抑制が最も効果的といえる。
【0006】
本発明の課題は、消泡効果に悪影響を及ぼさずに安定性の向上および破泡作用を維持させたエマルション型消泡剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類と粘度調整剤としてセルロースナノファイバーとを含有することを特徴とするエマルション型消泡剤。
(2)鉱物油および脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を、さらに含有する上記(1)に記載のエマルション型消泡剤。
(3)セルロースナノファイバーが、2~300nmの平均径を有する上記(1)または(2)に記載のエマルション型消泡剤。
(4)セルロースナノファイバーが、200~800nmの平均長さを有する上記(1)~(3)のいずれかに記載のエマルション型消泡剤。
(5)セルロースナノファイバーが、固形分換算で0.005~0.15質量%の濃度となるように含まれる上記(1)~(4)のいずれかに記載のエマルション型消泡剤。
(6)12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類を含むエマルション型消泡剤に、セルロースナノファイバーを固形分換算で0.005~0.15質量%の濃度となるように添加することを特徴とするエマルション型消泡剤の安定化方法。
(7)エマルション型消泡剤が、鉱物油および脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を、さらに含有する上記(6)に記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、消泡効果に悪影響を及ぼさずに安定性および破泡作用を向上させたエマルション型消泡剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係るエマルション型消泡剤は、12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類とセルロースナノファイバーとを含有する。
【0010】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤に含まれるセルロースナノファイバーは、例えば植物に含まれる繊維(セルロース)をナノレベルにまで解繊して得られる繊維状物質である。一実施形態に係るエマルション型消泡剤において、セルロースナノファイバーは、例えば1~5質量%程度の濃度で水に分散させた粘稠な分散液の形態で使用してもよい。
【0011】
セルロースナノファイバーの含有量は特に限定されないが、セルロースナノファイバーは、上記のように水に分散させると粘性を有するようになる。したがって、一実施形態に係るエマルション型消泡剤の粘度上昇を最小限に抑え、安定性を向上させる点で、セルロースナノファイバーは、エマルション型消泡剤中に、好ましくは固形分換算で0.005~0.200質量%の濃度となるように含まれる。さらに、夏季など高温環境下での安定性を向上させるために、セルロースナノファイバーは、エマルション型消泡剤中に、より好ましくは固形分換算で0.050~0.150質量%の濃度となるように含まれる。
【0012】
セルロースナノファイバーの太さおよび長さについては、特に限定されない。安定性をより向上させる点で、1~1000nmの平均径を有するセルロースナノファイバーを用いるのが好ましく、2~300nmの平均径を有するセルロースナノファイバーを用いるのがより好ましい。長さについても、50~1000nmの平均長さを有するセルロースナノファイバーを用いるのが好ましく、200~800nmの平均長さを有するセルロースナノファイバーを用いるのがより好ましい。セルロースナノファイバーの平均径および平均長さは、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径および繊維長の平均値を算出ることによって得ることができる。
【0013】
セルロースナノファイバーは微細な繊維であり、パルプなどのセルロース原料に機械的な力を加えて解繊することによって得られる。原料のセルロースとして、カルボキシ化(酸化)、カルボキシメチル化、リン酸エステル化、亜リン酸エステル化、カチオン化などの化学変性を施した化学変性セルロースを用いることによって、解繊性が良好となる。そのため、原料のセルロースとしては、化学変性セルロースを用いることが好ましい。さらに、化学変性セルロースのうち、エマルション型消泡剤と混合した際に、相溶性に優れるという点で、アニオン変性(酸化、カルボキシメチル化、リン酸エステル化、亜リン酸エステル化など)を行ったアニオン変性セルロースを用いることがより好ましく、中でもカルボキシ化セルロースナノファイバーを用いることがさらに好ましい。
【0014】
(カルボキシ化)
本発明において、化学変性セルロースとしてカルボキシ化(酸化)したセルロースを用いる場合、カルボキシ化セルロース(酸化セルロース)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシ化(酸化)することによって得られる。導入されるカルボキシ基の量は、特に限定されない。カルボキシ化の際には、アニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾重量に対して、例えば、カルボキシ基の量が0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0015】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤に含まれる一価アルコール類は、12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類であれば限定されない。12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類を用いることによって、消泡効果の破泡作用および持続作用を高めることができる。例えば、炭素数が少ない(C12に近い)一価アルコールを使用すると、消泡効果の持続作用よりも破泡作用に有利に働き、炭素数が多い(C24に近い)一価アルコールを使用すると、消泡効果の破泡作用よりも持続作用に有利に働く傾向がみられる。そのため、一価アルコールの炭素数の配合割合を最適化することで目的とする消泡効果を発現させることができる。
【0016】
12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類としては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコールなどが挙げられる。12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類は、一実施形態に係るエマルション型消泡剤中に、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%の割合で含まれる。
【0017】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤には、鉱物油および脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種が、さらに含有されていてもよい。鉱物油は一価アルコールよりも疎水性の高い物質である。一般的に高級アルコールのような親水基のある物質は液中で水素結合的相互作用により凝集・増粘しやすくなる。そこで、より疎水性の高い物質である鉱物油を使用することによって、より均一で安定なエマルション型消泡剤を得ることができる。さらに、エマルション粒子の融点は、消泡剤が有効に作用する温度域に大きく関係する。鉱物油の使用によりエマルション粒子の融点を調整することで、消泡を対象とする温度域で高い消泡効果を発揮させることができる。一方、脂肪酸エステルの使用により、エマルション粒子の気泡間の泡膜への侵入性が上昇し、気泡同士の合一を促進させることができる。それにより、得られるエマルション型消泡剤の脱泡作用(内部気泡量の低下作用)をより向上させることができる。
【0018】
鉱物油は、液状鉱物油であってもよく、固形鉱物油(ワックス)であってもよい。鉱物油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。鉱物油は、一実施形態に係るエマルション型消泡剤中に、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%の割合で含まれる。
【0019】
脂肪酸エステルとしては、例えば、12~22個の炭素原子を有する脂肪酸と一価アルコールまたはグリセリンのような多価アルコールとのエステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。脂肪酸エステルは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。脂肪酸エステルは、一実施形態に係るエマルション型消泡剤中に、好ましくは0.50~20.0質量%、より好ましくは2.0~10.0質量%の割合で含まれる。
【0020】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤には、安定性をより向上させる点で、粘度調整剤が、さらに含まれていてもよい。粘度調整剤としては、例えば、カラギナン、カラヤガム、ベンゾインガム、ダンマルガム、カードラン、トラガカントガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ジェランガム、ダイユータンガム、グァーガム、カチオン化グァーガム、ヒドロキシプロピルグァーガム、カルボキシメチル化グァーガム、ガラクトマンナン、デンプン、プルラン、ペクチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。粘度調整剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。粘度調整剤は、一実施形態に係るエマルション型消泡剤中に、好ましくは0.01~1.00質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の割合で含まれる。
【0021】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、エマルション型消泡剤に一般的に使用される添加剤が含有されていてもよい。このような添加剤としては、多価アルコール類(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)、乳化剤(例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤など)、防腐剤(例えば、塩化イソチアゾロン、ベンゾイソチアゾロンなど)が挙げられる。
【0022】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤の製造方法は特に限定されない。例えば、12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類、乳化剤および水、必要に応じて鉱物油および脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を混合し、十分に撹拌して乳化させる。乳化させる方法は特に限定されず、例えば、ホモジナイザーなどを用いた公知の方法が挙げられる。得られたエマルション消泡剤に、セルロースナノファイバーを添加すればよい。セルロースナノファイバーは、例えばセルロースナノファイバーを水に分散させた分散液の形態で使用してもよい。あるいは、乳化させる工程で、セルロースナノファイバーも予め添加した状態で乳化させてもよい。必要に応じて、粘度調整剤を乳化前または乳化後に添加してもよい。
【0023】
一実施形態に係るエマルション型消泡剤は、消泡効果に影響を及ぼすことなく、従来のエマルション型消泡剤よりも安定性および破泡作用が向上している。そのため、比較的長い期間保管した後でも固化することなく、たとえ分離していたとしても使用に影響を及ぼさない程度の分離に抑えられている。
【実施例
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例で使用した成分は、下記の通りである。
【0025】
<セルロースナノファイバーの製造>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。
【0026】
反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水で洗浄することで酸化されたパルプ(カルボキシ化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシ基量は1.6mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、セルロースナノファイバー分散液を得た。平均繊維径は3nm、平均繊維長は700nmであった。
【0027】
得られた酸化セルロースのカルボキシ基量は、次のように測定した。まず、酸化セルロースの0.5質量%スラリーを60mL調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした。次いで、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記の式を用いて算出した。
カルボキシ基量〔mmol/gパルプ〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕。
【0028】
<成分>
12~24個の炭素原子を有する一価アルコール類:Nafol20+(サソールケミカルズジャパン(株)製)
脂肪酸エステル:ハイエルシンナタネ油(不二製油(株)製)
鉱物油:コスモピュアスピンG(コスモ石油ルブリカンツ(株)製)
乳化剤:ソフタノールMES-9((株)日本触媒製)
粘度調整剤:セルロースナノファイバー(上記の方法で製造したセルロースナノファイバー分散液)、キサンタンガム、ポリアクリルアミド
【0029】
(実施例1)
表1に示すように、30質量%のNafol20+、10質量%のセルロースナノファイバー分散液および1質量%ソフタノールMES-9に、水を添加して100質量%とした。セルロースナノファイバー分散液は、セルロースナノファイバーの1質量%水溶液であり、表1に記載の割合は水溶液としての割合を記載している。固形分換算でのセルロースナノファイバーの割合は、0.1質量%である。得られた混合物を、ホモミキサーを用いて十分に乳化させ、エマルション型消泡剤を調製した。
【0030】
(実施例2~8)
表1に記載の成分を表1に記載の割合で使用した以外は、実施例1と同様の手順でエマルション型消泡剤を調製した。
【0031】
(比較例1~12)
表2に記載の成分を表2に記載の割合で使用した以外は、実施例1と同様の手順でエマルション型消泡剤を調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
<安定性試験>
実施例1~8および比較例1~12で得られたエマルション型消泡剤について、調製直後の粘度を測定した。粘度はB型粘度計を用いて測定した。具体的には、25℃の温度条件下、60rpmで1分間回転させて測定した。測定結果を表3に示す。
【0035】
次に、透明なガラス瓶(内径50mmおよび容量225mL)に、100mmの高さまでエマルション型消泡剤を入れて密閉した。次いで、エマルション型消泡剤を入れたガラス瓶を、40℃に設定した恒温槽に静置した。恒温槽に入れてから7日後にガラス瓶を取り出し、ガラスビンの底部に分離している水相の高さを測定した。さらに、調製直後と同様の条件で、粘度を測定した。測定結果を表3に示す。
【0036】
<消泡試験>
実施例1~8および比較例1~12で得られたエマルション型消泡剤について、消泡性を検証した。エマルション型消泡剤は、40℃で7日間静置した後の消泡剤を、倒転撹拌により均一に混合したものを使用した。まず、ガラス製の発泡管に発泡性試験水を500mL入れた。発泡性試験水としては、100ppmカゼイン標準発泡液を使用した。液温を30℃に保ち、循環ポンプを用いて発泡管の底部から発泡性試験水を2000mL/分の流量で抜きながら、発泡管の上部より抜き取った発泡性試験水を滝落とし様に注いで、発泡性試験水を発泡させた。
【0037】
発泡性試験水の循環によって、泡の高さが100mmに達した時に、エマルション型消泡剤を5ppmの濃度となるように添加した。エマルション型消泡剤を添加してから10秒後の泡の高さを測定した。10秒後に泡高さをより低くする性能がある消泡剤を破泡作用が高いと評価する。さらに、泡の高さが最も低くなってから3分後の泡の高さを測定した。3分後の泡高さを低いレベルで維持できる性能がある消泡剤をより持続作用が高いと評価する。消泡効果は、破泡作用および持続作用の2つの視点から評価した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示すように、実施例1~8で得られたエマルション型消泡剤は、比較例1~12とくらべて増粘率、分離率が低く、優れた安定性を有することがわかる。
【0040】
実施例5~8(セルロースナノファイバー)と比較例1~4(無添加)、比較例5~8(キサンタンガム)および比較例9~12(ポリアクリルアミド)とを比べると、鉱物油や脂肪酸エステルの配合の有無に関わらず、セルロースナノファイバーは他の粘度調整剤よりも優秀な性能を示すことがわかる。実施例1~4から明らかなように、セルロースナノファイバーの配合量を増やすことで、さらに良好な形態安定性を付与することができる。
【0041】
実施例1~8で得られたエマルション型消泡剤は比較例1~12と比べて、添加開始10秒後の泡高さが低く、消泡効果の破泡性が高い。これは、セルロースナノファイバーの配合により、消泡剤の粘度上昇が大幅に抑制されたことで、発泡液中に添加した時のエマルション粒子の拡散性が上昇し、効率的に気泡に作用したと考えることができる。
【0042】
実施例1~8と比較例1~12とを比べると、泡高さが最も低くなってから3分後の泡高さ(持続作用)には、ほとんど差異が無い。このことから、消泡効果は高級アルコール、鉱物油および脂肪酸エステルのみに依存する。セルロースナノファイバーを配合することによる消泡効果への影響は無いことがわかる。
【0043】
以上のように、セルロースナノファイバーの使用により、エマルション消泡剤の経時的な増粘性と分離性を大きく抑制することができる。セルロースナノファイバーの増粘性の抑制作用により、エマルション粒子の発泡液中への拡散性が維持される。それにより、エマルション粒子が気泡に効率的に作用することで破泡作用が保たれる。さらに、セルロースナノファイバーの使用による消泡効果(破泡作用・持続作用)への悪影響は無い。