(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】皮膚の酵素活性を制御する分子的細菌療法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20231026BHJP
C07K 14/31 20060101ALI20231026BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231026BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231026BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231026BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231026BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20231026BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20231026BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231026BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20231026BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20231026BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20231026BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20231026BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231026BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20231026BHJP
C12Q 1/37 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K14/31
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/21
A61K38/08
A61K38/16
A61K38/12
A61K35/74 A
A61P17/04
A61P37/08
A61P17/06
A61P17/10
A61P17/00
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/12
C12Q1/37
(21)【出願番号】P 2020511758
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018049237
(87)【国際公開番号】W WO2019046801
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-04
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【微生物の受託番号】ATCC PTA-125202
【微生物の受託番号】ATCC PTA-125203
【微生物の受託番号】ATCC PTA-125204
【微生物の受託番号】ATCC PTA-125205
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャロ、リチャード、エル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ、マイケル
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-500814(JP,A)
【文献】特表2017-518370(JP,A)
【文献】特表2016-535766(JP,A)
【文献】特表2000-511537(JP,A)
【文献】Frontiers in Microbiology,2016年,Vol. 7, Article 1733,pp. 1-13
【文献】Infect. Immun.,2001年,Vol. 69, No. 3,pp. 1957-1960
【文献】Jpn. J. Lactic Acid Bact.,2010年,Vol. 21, No. 2,pp. 95-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:4の配列を含み、(i) 角化細胞からの蛋白分解酵素の産生および/または活性を阻害し、(ii)角化細胞のIL-6の産生および/または活性を阻害し、(iii)黄色ブドウ球菌(S.aureus)からフェノールに可溶なモジュリンα3の産生を阻害し、および/または(iv)黄色ブドウ球菌によるagrの産生および/または活性を阻害
し、
チオラクトン環を含む、精製されたポリペプチド。
【請求項2】
配列番号:4の配列からなる、請求項1に記載の精製されたポリペプチド。
【請求項3】
1つ以上のD-アミノ酸を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の精製されたポリペプチド。
【請求項4】
式IB
(式中、X
1が0~6アミノ酸である。)
の化合物を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の精製されたポリペプチド。
【請求項5】
請求項1~2のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、外用の製剤。
【請求項6】
請求項1~2のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号:1からなる配列を含み、配列番号:4を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項6に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号:1または3を含む、請求項6に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項10】
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項11】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含む、組換え微生物。
【請求項12】
請求項7または8に記載のポリヌクレオチドを含む、組換え微生物。
【請求項13】
前記微生物が減弱された微生物であり、前記減弱された微生物が同種の野生型生物と比較して病原性が低下している、請求項11に記載の組換え微生物。
【請求項14】
該微生物が共生微生物である、請求項11に記載の組換え微生物。
【請求項15】
請求項13または14に記載の組換え微生物を含む、外用の生菌組成物。
【請求項16】
請求項1に記載のポリペプチドを発現する微生物からなる、外用の生菌組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のポリペプチドを発現する微生物の発酵抽出物からなる外用の生菌組成物であって、該発酵抽出物が請求項1に記載のポリペプチドを含む、外用の生菌組成物。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、
式IB
(式中、X
1が0~6アミノ酸である。)
の化合物を含む、請求項
16または17に記載の外用の生菌組成物。
【請求項19】
前記微生物が、S. hominis、S. epidermidis、S. warneri、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項
16または17に記載の外用の生菌組成物。
【請求項20】
前記微生物がS. hominis C5、S. hominis A9、S. epidermidis Allおよび/またはS.warneri G2である、請求項19に記載の外用の生菌組成物。
【請求項21】
前記組成物が、ATCC番号PTA-125202(株指定:S. epidermidis A11 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号PTA-125204(株指定:S. hominis C5 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号PTA-125203(株指定:S. hominis A9 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号PTA-125205(株指定:S. warneri G2 81618、2018年8月28日に寄託)および前述した株の任意の組み合わせを有する微生物の群から選択される微生物を含む、請求項
16または17に記載の外用の生菌組成物。
【請求項22】
前記外用の生菌組成物が、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤として製剤化される、請求項16~21のいずれか1項に記載の外用の生菌組成物。
【請求項23】
皮膚障害を治療するための薬剤の製造における、請求項1~4のいずれか1項に記載の精製されたポリペプチドまたは請求項15~22のいずれか1項に記載の外用の生菌組成物の
使用。
【請求項24】
前記皮膚障害が、ネザートン症候群、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、湿疹、乾癬、にきび、表皮性過敏症、表皮肥厚、表皮炎症、皮膚炎症および掻痒症からなる群から選択される、請求項23に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【政府援助による研究に関する声明】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所による授与番号AI117673、AR067547、AR062496及びAR064781の政府援助を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
本願は、35 U.S.C.§119に基づいて、2017年8月31日に出願された米国仮特許出願第62/553,025号の優先権を主張する。その開示は、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【技術分野】
【0003】
本開示は、皮膚の疾患及び障害を治療するための組成物及び方法、ならびに皮膚バリアの透過性を調節する組成物に関する。
【微生物の寄託】
【0004】
本開示の例示的な微生物(Staphylococcus. Epidermidis A11、Staphylococcus hominis C5、Staphylococcus hominis A9及びStaphylococcus warneri G2)は、ブダペスト条約に基づいて、2018年8月28日にアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(10801 University Boulevard, Manassas, Va. 20110-2209)に、ATCC番号PTA-125202(株指定:S. epidermidis A11 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号PTA-125204(株指定:S. hominis C5 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号PTA-125203(株指定:S. hominis A9 81618、2018年8月28日に寄託)及びATCC番号PTA-125205(株指定:S. warneri G2 81618、2018年8月28日に寄託)として寄託された。該寄託物は、寄託機関で維持されるが、認可された突然変異、生存不能または破壊の場合に、寄託者が受けたサンプルリリースの最近の依頼から少なくとも5年間、寄託日から少なくとも30年間、または関連特許の存続期間のうち最も長い期間で交換される。出願により特許が授与された場合には、これらの細胞株の公衆に対する利用の可能性に関する全ての制限は取消不能に解除される。
【背景技術】
【0005】
表皮は、免疫防御の最前線であり、微生物と宿主生物との間の相互作用を保護し、調節する。細菌が表面の角化細胞に影響を与える表面に存在するだけでなく、いくつかの細菌種が免疫機能に影響を及ぼすことが示されている角質層の下や真皮にも浸透するため、この相互作用の制御は重要である。例えば、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)は、表皮角化細胞と相互作用し、トル様受容体3を介した炎症、補充マスト細胞及びT細胞を防ぎ、密着結合及び抗菌ペプチドの産生を増加させる。一般的な皮膚共生細菌とは対照的に、表皮ブドウ球菌及び黄色ブドウ球菌は、しばしば病原性を有し、皮膚の機能に悪影響を及ぼす。これは、黄色ブドウ球菌によって促進されるアトピー性皮膚炎(AD)等の皮膚疾患において特に顕著である。
【0006】
ADの被験者の皮膚に生息するマイクロバイオームでは、全体的な微生物多様性が減少し、また黄色ブドウ球菌の存在量が増加していることが示されている。黄色ブドウ球菌の細菌叢の増加は、AD患者の重症化に関連している。黄色ブドウ球菌が病気を悪化させるメカニズムは不明である。黄色ブドウ球菌のいくつかの産物は、バリアを損傷したり、炎症を引き起こしたりすることが示されている。これらの産物には、a-毒素、スーパー抗原、毒素性ショック症候群毒素-1、エンテロトキシン、プロテインA、パントン・バレンタイン型ロイコシジン、剥離性毒素及びV8セリン蛋白分解酵素が含まれる。これらの分子の潜在的な病原性作用のため、感染の明確な臨床的徴候がない状態での黄色ブドウ球菌の細菌叢に対する皮膚の応答を理解することは、AD病因の理解や将来の治療法の開発には重要である。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17と少なくとも98%同一である配列を含み、(i)蛋白分解酵素の産生及び/または角化細胞の活性を阻害し、(ii)角化細胞のIL-6産生及び/また角化細胞の活性を阻害し、(iii)黄色ブドウ球菌(S.aureus)からのフェノールに可溶なモジュリンα3の産生を阻害し、及び/または(iv)黄色ブドウ球菌によるagr産生及び/または活性を阻害する、精製されたポリペプチドを提供する。ある実施形態においては、該ポリペプチドが、配列番号:2と少なくとも98%同一である。別の実施形態においては、該ポリペプチドは、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17を含む。また別の実施形態においては、該ポリペプチドが、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17からなる。前述のいずれかの別のまたはさらなる実施形態では、該ポリペプチドが、1つ以上のD-アミノ酸を含む。また別のさらなる実施形態においては、該ポリペプチドが、式I、IA、またはIBの化合物を含む(下記を参照)。
【0008】
本開示は、本開示のポリペプチド、または式I、IA、またはIBの化合物を含む外用の製剤も提供する。
【0009】
本開示は、本開示のポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチドも提供する。ある実施形態においては、該ポリヌクレオチドが、厳密な条件下で配列番号:1または3からなるポリヌクレオチドとハイブリッド形成し、配列番号:4を含むポリペプチドをコードする配列を含む。別の実施形態においては、該ポリヌクレオチドは、配列番号:1または3を含む。
【0010】
本開示は、本開示のポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。該ベクターが、細胞または微生物宿主における発現に適した任意のベクターであってもよい。
【0011】
本開示は、本開示のベクターまたはポリヌクレオチドを含む組換え微生物も提供する。いくつかの実施形態においては、該微生物が、本開示のポリペプチドを自然に発現しないが、組換え工学により本開示のポリペプチドを発現するように操作されるようになる。また別の実施形態においては、該微生物は減弱されている。即ち、同種の野生型生物と比べて、非病原性にされているか、病原性が低減されている。また別の実施形態においては、該組換え微生物が、哺乳動物(例えば、ヒト)の皮膚において通常に見られる(例えば、共生)微生物である。
【0012】
本開示は、本開示の組換え微生物を含む生菌組成物も提供する。
【0013】
本開示は、本開示のポリペプチド(例えば、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、及び/または17)を発現する微生物を含む生菌組成物も提供する。ある実施形態においては、該微生物が、S. hominis、S. epidermidis及び/またはS.warneri、またはそれらの任意の組み合わせである。さらなる実施形態においては、該微生物が、S. hominis C5、S. hominis A9、S. epidermidis All、及び/またはS. warneri G2である。また別のさらなる実施形態においては、該組成物が、ATCC番号 (株指定:S. epidermidis A11 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号 (株指定:S. hominis C5 81618、2018年8月28日に寄託)、ATCC番号 (株指定:S. hominis A9 81618、2018年8月28日に寄託)及びATCC番号 (株指定:S. warneri G2 81618、2018年8月28日に寄託)及び前述の株の任意の組み合わせを有する微生物の群から選択される微生物を含む。別の実施形態においては、本開示の生菌組成物は非天然のものである。(例えば、皮膚に見られる微生物の全スペクトルを含まない、または皮膚に見られない単位体積あたりの微生物の量を含む。または、該微生物が遺伝子的に改変されている。または、該組成物が皮膚に通常見られない成分または化合物を含有する。)
【0014】
本開示は、蛋白分解酵素の活性を阻害するのに十分な有効量の凝固酵素陰性ブドウ球菌種(CoNS)、または十分な有効量のCoNSの発酵抽出物を皮膚に投与すること含む、皮膚の障害を治療する方法も提供する。ここで、該CoNSが、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、17と少なくとも98%同一である配列を含むポリペプチドを産生し、蛋白分解酵素の産生を阻害する。ある実施形態においては、該皮膚の障害が、ネザートン症候群、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、湿疹、乾癬、にきび、表皮過角化症、表皮肥厚、表皮炎症、皮膚炎症及び掻痒症からなる群から選択される。別の実施形態においては、該投与が局所での施用である。また別のさらなる実施形態においては、該CoNSが、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus Hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。前述のいずれかの別のまたはさらなる実施形態においては、該CoNSの発酵抽出物が、配列番号:4のポリペプチド配列及び/または式I、IA、またはIBの化合物を含む。別の実施形態においては、該CoNSが、S. epidermidis A11、S. hominis C4、S. hominis C5、S. hominis A9、S. warneri G2及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
本開示は、皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。該方法が、被験者の皮膚からの培養物または該被験者の皮膚の蛋白分解酵素の活性を測定すること;該蛋白分解酵素の活性を正常対照と比較すること;凝固酵素陰性ブドウ球菌からの共生皮膚細菌の組成物及び/または発酵抽出物の投与することを含む。ここで、該共生皮膚細菌の組成物または発酵抽出物が、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17と少なくとも98%同一であるポリペプチドを含み、または、式I、IA、またはIBの化合物を含み、該組成物が、共生皮膚細菌の増殖力と複製力を維持するよう、クリーム、軟膏、または医薬組成物に製剤化されている。ある実施形態においては、該凝固酵素陰性ブドウ球菌が、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus Hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。
【0016】
本開示は、本開示の精製されたポリペプチド、または配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17と少なくとも98%同一のポリペプチドを産生し、カリクレインの産生または活性を阻害する細菌を含有する生菌組成物を投与することを含む、皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。
【0017】
本開示は、フェノールに可溶なモジュリンの発現を阻害する組成物を投与することを含む、皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。ここで、該組成物が、本開示の精製されたポリペプチドまたは式I、IA、またはIBの化合物を含む。ある実施形態においては、該投与が、局所的なものである。別の実施形態においては、該組成物が、凝固酵素陰性ブドウ球菌の発酵抽出物である。
【0018】
本開示は、S. epidermidis A11、S. hominis C4、S. hominis C5、S. hominis A9、S. warneri G2及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される生菌の共生皮膚細菌を含む外用の生菌組成物も提供する。ある実施形態においては、該組成物が、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤に製剤化されている。
【0019】
本開示は、薬物及び黄色ブドウ球菌の発酵抽出物またはフェノールに可溶なモジュリンα3を有する黄色ブドウ球菌の生菌を含む医薬組成物も提供する。本開示は、薬物を被験者の皮膚を介して送達するための該組成物の使用も提供する。
【0020】
本開示は、皮膚における蛋白分解酵素の活性増加を防ぐための共生/善玉菌及び/またはそれらの産物を提供する。これは、アトピー性皮膚炎、ネザートン症候群及び蛋白分解酵素活性の異常高値やバリアの破壊のような他の皮膚状態を含む多くの疾患状態においては重要である。
【0021】
本開示は、蛋白分解酵素の活性を誘発し、それゆえ創傷の修復、老化、日光による損傷、色素の異常及び瘢痕に関連する障害の治療における皮膚の蛋白分解性の再構築を助ける因子及び組成物も提供する。
【0022】
本開示は、皮膚の蛋白分解酵素の活性を阻害するのに十分な有効量の凝固酵素陰性ブドウ球菌種(CoNS)、または有効量のCoNSの発酵抽出物を投与することを含む、皮膚の障害を治療する方法を提供する。ある実施形態においては、該皮膚の障害が、ネザートン症候群、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、湿疹、乾癬、にきび、表皮過角化症、表皮肥厚、表皮炎症、皮膚炎症及び掻痒症からなる群から選択される。別の実施形態においては、該投与が局所での投与である。ある特定な実施形態においては、該CoNSが、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及び Staphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。ある特定な実施形態においては、該CoNSが表皮ブドウ球菌である。
【0023】
本開示は、被験者の皮膚からの培養物または被験者の皮膚の蛋白分解酵素活性を測定すること、蛋白分解酵素の活性を正常対照と比較すること、共生皮膚細菌の組成物及び/または凝固酵素陰性ブドウ球菌からの発酵抽出物を投与することを含む、皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。ここで、該共生皮膚細菌の組成物が、該培養物または皮膚のセリン蛋白分解酵素の活性を低下させる少なくとも1種の共生細菌を含み、該少なくとも1種の共生細菌が、該共生皮膚細菌の増殖力と複製力を維持するよう、クリーム、軟膏、または医薬組成物に製剤化されている。ある実施形態においては、該凝固酵素陰性ブドウ球菌が、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。
【0024】
本開示は、カリクレインの発現を阻害する薬剤の投与を含む、皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。本開示はまた、フェノールに可溶性なモジュリンの発現を阻害する薬剤の投与を含む、皮膚の疾患または障害を治療する方法を提供する。前述のいずれかの実施形態においては、該投与が局所的なものである。別の実施形態においては、該薬剤が凝固酵素陰性ブドウ球菌の発酵抽出物である。別の実施形態においては、該凝固酵素陰性ブドウ球菌が、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、 Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。
【0025】
本開示は、複数の皮膚細菌を含む外用の組成物も提供する。ある実施形態においては、生菌の共生皮膚細菌は、凝固酵素陰性ブドウ球菌種である。別の明確な実施形態においては、該生菌の共生皮膚細菌が、黄色ブドウ球菌を含む。前述の実施形態のいずれかの1つの実施形態においては、該細菌が、細菌が生存し続けるクリーム、ローション、チンキ剤、ゲル、または他の外用の製剤に製剤化されている。
【0026】
本開示は、生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む外用の生菌組成物も提供する。該生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物が凝固酵素陰性ブドウ球菌(CoNS)種から得られる。ある実施形態においては、該CoNSが、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。
【0027】
記載された実施形態のいずれにおいても、外用の生菌組成物は、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤に製剤化されている。
【0028】
本開示は、薬物及び黄色ブドウ球菌の発酵抽出物または黄色ブドウ球菌の生物組成物を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
本開示は、皮膚を、薬物及び黄色ブドウ球菌発の酵抽出物または黄色ブドウ球菌の生物組成物を含む組成物と接触させることを含む、皮膚を介した薬物送達の方法を提供する。ある実施形態においては、該薬物が、皮膚から吸収または吸着される外用の薬物である。
【0030】
本開示は、外用の薬物を送達する方法も提供する。該方法が、被験者の皮膚を、黄色ブドウ球菌または黄色ブドウ球菌の発酵抽出物を含む組成物と、該皮膚の透過性を高める用量と条件下で、ある時間をかけて接触させた後、送達される薬物と皮膚を接触させることを含む。
【0031】
本開示は、黄色ブドウ球菌からの発酵抽出物を含む組成物、または生きた黄色ブドウ球菌を含有するローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤を提供する。
【0032】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下に添付の図面及び説明に記載する。本発明の他の特徴、目的及び利点は、該説明及び図面、ならびに請求項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】NHEKを黄色ブドウ球菌(SA; Newman社, USA300, 113, SANGER252)及び表皮ブドウ球菌(ATCC12228、ATCC1457)の滅菌ろ過された上清で24時間処理し、NHEK馴化培地を特定のトリプシン様の基質で分析した。
【
図1B】NHEKを黄色ブドウ球菌(SA; Newman社, USA300, 113, SANGER252)及び表皮ブドウ球菌(ATCC12228、ATCC1457)の滅菌ろ過された上清で24時間処理し、NHEK馴化培地を特定のエラスターゼ様の基質で分析した。
【
図1C】NHEKを黄色ブドウ球菌(SA; Newman社, USA300, 113, SANGER252)及び表皮ブドウ球菌(ATCC12228、ATCC1457)の滅菌ろ過された上清で24時間処理し、NHEK馴化培地を特定のMMP蛋白分解酵素の基質で分析した。
【
図1D】黄色ブドウ球菌(Newman社)に分泌された蛋白分解酵素を、そのトリプシン活性への影響について分析した。 データは平均値±SEM(n=4)を表し、少なくとも3つの独立した実験を表している。一元配置分散分析(aec)と二元配置分散分析(d)を使用し、有意性は*P<0.05、***P<0.001、****P<0.0001で示した。ANOVA、分散分析;MMP、マトリックスメタロプロテイナーゼ;NHEK、健常人の表皮角化細胞。
【
図2A】黄色ブドウ球菌(SA、Newman社)の上清を0~48時間処理した後、NHEK馴化培地の中で総蛋白分解酵素活性(5μg/ml BODIPY FLカゼイン)を測定した。
【
図2B】セリン蛋白分解酵素の阻害剤アプロチニン(800 μg/ml)の処理後24時間の馴化培地に付与した。
【
図2C】NHEK馴化培地のトリプシン活性(Boc-Val-Pro-Arg-AMC、200 mM)に対する効果について黄色ブドウ球菌(USA300 LAC)WTを蛋白分解酵素の欠損株と比較した。 二元配置分散分析(A、B)と一元配置分散分析(C)の両方を使用し、有意性は*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001で示した。ANOVA、分散分析;NHEK、健常人の表皮角化細胞;WT、野生型。
【
図3A-E】ヒトの角化細胞において黄色ブドウ球菌がKLK発現を増加させる。
図3Aは、黄色ブドウ球菌(SA、Newman社)の上清を24時間処理した後、qPCRでNHEKにおけるKLK mRNA発現の相対量を分析した。
図3B~E は。KLK5、6、13及び14を、黄色ブドウ球菌の上清で0~48時間処理したNHEKにおけるmRNA発現の変化倍率について分析した。ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)で全てのmRNA発現レベルを正常化した。
【
図3F】公開及び予測された分子量の両方を用いてNHEK馴化培地及び細胞溶解物をSA(Newman社)上清で24時間処理した後、免疫ブロット法によりKLK5、6、13及び14の蛋白質発現の変化について分析した。ハウスキーピング遺伝子であるα-チューブリンを細胞可溶化液の負荷コントロールとして使用した。 データは平均値±SEM(n=3)を表し、少なくとも3つの独立した実験を表している。二元配置分散分析(bee)を使用し、有意性は**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001で示した。ANOVA、分散分析; KLK、カリクレイン; NHEK、健常人の表皮角化細胞; qPCR、定量的リアルタイムPCR;SEM、平均値の標準誤差。
【
図4A-D】複数のKLKがヒトの角化細胞における黄色ブドウ球菌に誘発されたセリン蛋白分解酵素活性の原因であることを示す。NHEKをKLK6、13、または14 siRNA(15 nM)で処理し、CaCl2で分化し、黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清を添加した。siRNAスクランブル(-)コントロール1及び2を、それぞれ15 nM及び45 nMで使用した。馴化培地を、トリプシン活性(Boc-Val-Pro-Arg-AMC、200 μM)の変化について分析した(
図4A)。KLK6、KLK13及びKLK14の転写レベルをqPCRで評価し、ハウスキーピング遺伝子GAPDHに正常化し、siRNAノックダウン効率を確認した(
図4B~D)。 データは平均値±SEM(n=4)を表し、少なくとも3つの独立した実験を表している。一元配置分散分析(a)を使用し、有意性は*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001で示した。ANOVA、分散分析; GAPDH、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ; KLK、カリクレイン; NHEK、健常人の表皮角化細胞; qPCR、定量的リアルタイムPCR; siRNA、低分子干渉RNA; SEM、平均値の標準誤差。
【
図5A-C】複数のKLKがヒトの角化細胞における黄色ブドウ球菌により誘発されたDSG-1及びFLG切断を調節することを示す。黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清でNHEKを24時間処理し、イムノブロッティングによりKLK6、13及び14(15 nM)をsiRNAノックダウンした後、モグレイン-1(DSG-1)(
図5A)及びプロフィラグリン(Pro-FLG)(
図5)切断への変化を評価した。ハウスキーピング遺伝子であるα-チューブリンを負荷コントロールとして使用した。DSG-1(全長)及びPro-FLGは黒い矢印で示す。DSG-1(全長)とPro-FLG両方の濃度測定の分析は、a-チューブリン(n=1)に正常化された画素の平均数で表される(
図5C)。 イムノブロットは、少なくとも3つの独立した実験を表している。KLK、カリクレイン;NHEK、健常人の表皮角化細胞;siRNA、低分子干渉RNA。
【
図6】発酵抽出物の調製方法及び活性のアッセイを示す。
【
図7】agrクオラムセンシングシステムの制御下での黄色ブドウ球菌のフェノールに可溶なモジュリン(PSM)が角化細胞のセリン蛋白分解酵素の活性増加の原因であることを示す。
【
図8】黄色ブドウ球菌PSMがマウスのセリン蛋白分解酵素の活性及び皮膚バリアの損傷を増加させることを示す。
【
図9】アトピー性皮膚炎(AD)病変の皮膚からの黄色ブドウ球菌の単離株が角化細胞のセリン蛋白分解酵素活性を、agrのタイプに依存して誘発できることを示す。
【
図10】凝固酵素の陰性ブドウ球菌(CoNS)株ATCC14490(S. epidermidis)が自己誘発ペプチド(AIP)を産生し、黄色ブドウ球菌のagr活性を消滅させることを示す。
【
図11】アトピー性皮膚炎におけるセリン蛋白分解酵素の活性に対する黄色ブドウ球菌及び共生細菌の効果を示す。
【
図12】黄色ブドウ球菌のagr活性に対するS. hominis C5の効果を示す。
【
図13】は、黄色ブドウ球菌のagr活性に対する様々なCoNS株の効果を示す。
【
図14A-E】黄色ブドウ球菌PSMαが上皮バリアの恒常性の破壊につながることを示す。野生型(WT)、PSMα(ΔPSMα)またはPSMβ(ΔPSMβ)ノックアウト株からの黄色ブドウ球菌(SA)の滅菌ろ過された上清でヒトの角化細胞(NHEK)を24時間刺激し、ハウスキーピング遺伝子GAPDHと比較して、トリプシン活性(
図14A)及びKLK6 mRNA(
図14B)を分析した(n=4)。PSM合成ペプチドをNHEKに最大24時間かけて加え、トリプシン活性の変化を分析した(
図14C)。PSMα3で処理した後に2倍以上変化した遺伝子のRNA-Seqによる転写産物分析を評価し、その遺伝子オントロジー(GO)分析を行った。8週齢の雄C57BL/6マウス(n=6)をSA WT、SAΔPSMα、またはSA 10に分泌された蛋白分解酵素のノックアウト株(Δ蛋白分解酵素)(1e7 CFU)で72時間処理した(
図14D~E)。
【
図14F-J】黄色ブドウ球菌PSMαが上皮バリアの恒常性の破壊につながることを示す。
図14F~Gは、マウスの皮膚の代表的な写真(破線は治療部位を示す)及び治療後の表皮の厚さの変化(スケール=200μm)を示す。WTに伴うマウス背側皮膚の変化または変異型SA株による表皮の水分損失(TEWL)及びSA CFU/cm2も評価した(
図14H~K)。 全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用して、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図15A-F】表皮ブドウ球菌のagrI型自己誘発ペプチドの特徴及びAD皮膚の欠乏を示す。
図15A~Bは、24時間後の表皮ブドウ球菌agr I~III型の上清が黄色ブドウ球菌(SA)USA300 LAC agrのI型活性に対する阻害(n=4)及び表皮ブドウ球菌のagr I型自己誘発ペプチド(AIP)の既知構造を示す。
図15Cは、表皮ブドウ球菌(S. epi)のagr I型株のRP62A野生型(WT)または24時間後のSA のagr活性に対する自己誘発ペプチドノックアウト(ΔAIP)の効果を示す。S. epi WTまたはΔAIPの上清を含む、または含まないSA滅菌ろ過された上清をNHEKにさらに24時間付加し、その後NHEKトリプシンの活性を測定した(n=4)(
図15D)。
図15Eは、AD皮膚で発見された表皮ブドウ球菌のagr I~III型ゲノムの一致を示す。
【
図15G】
図15F~Gは、「軽症」から「最重症」までの8人のAD被験者のそれぞれのフレア領域における表皮ブドウ球菌のagr I型とSAの相対的存在量の比率を示す。ADスコアは客観的なSCORADに基づく;全被験者の総合データはADの重症度に基づく。全てのエラーバーは、平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析(
図15A,C,D)及び(ノンパラメトリック)不対のMann-Whitney検定(
図15F)を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図16A-C】臨床的に分離された複数の凝固酵素の陰性ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌のagr活性を阻害することを示す。臨床的に分離された凝固酵素の陰性ブドウ球菌(CoNS)の滅菌ろ過された上清を黄色ブドウ球菌(SA)USA300 LAC agrの I型P3-YFPレポーター株に24時間添加し、SAの agr活性を分析した(n=3)(
図16A)。S. hominis C5株ゲノムをさらに配列決定し、自己誘発ペプチド(AIP)の配列についてagrD遺伝子で分析した。S. hominis C5上清の生化学分析では、<3kDaサイズ排除遠心ろ過、80%硫酸アンモニウム沈殿及びpH 11で1時間処理された上清のSA agr活性に対する効果を試験した(
図16B~C)。
【
図16D-F】臨床的に分離された複数の凝固酵素の陰性ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌のagr活性を阻害することを示す。S. hominis C5の上清の存在下で24時間増殖させたSAを滅菌濾過し、ヒト角化細胞(NHEK)に24時間をかけて加えた後、トリプシン活性、ハウスキーピング遺伝子GAPDHと比較したKLK6 mRNA発現及びIL-6蛋白質レベルを分析した(
図16D~F)。 全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用して、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図17A-C】ADの臨床CoNS分離株がSAに誘発されたマウスの皮膚損傷を阻害することを示す。生きたS. hominis C5(1e8 CFU)を有するまたは有しない黄色ブドウ球菌(SA)USA300 LAC のagr I型pAmi P3-Luxレポーター株(1e7 CFU)を8週齢の7BL/6マウスに48時間かけて付与した(n=5)。発光の変化によりマウスの背側皮膚でのSA のagr活性を評価した(
図17A~B)。
図17Cは、SAを48時間処理した後のマウス皮膚の代表的な画像を示す(破線のボックスは治療領域を示す)。
【
図17D-H】ADの臨床CoNS分離株がSAに誘発されたマウスの皮膚損傷を阻害することを示す。SA CFU/cm2を測定し、Il6 mRNA発現、経表皮の水分損失(TEWL)、トリプシン活性及びハウスキーピング遺伝子Gapdhに正常化されたKlk6 mRNA発現の変化を分析することによりマウスの皮膚損傷と炎症を評価した(
図17D~H)。 全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図18A-D】黄色ブドウ球菌PSMαがヒトの角化細胞において必須な遺伝子及びサイトカイン発現を変化させることを示す。合成PSMα3で処理されたヒトの角化細胞を、トリプシン活性の変化及びハウスキーピング遺伝子GAPDHに正常化されたKLK6転写産物の発現を、用量及び時間の両方に依存して評価した(
図18A~D)。
【
図18E-H】黄色ブドウ球菌PSMαがヒトの角化細胞において必須な遺伝子及びサイトカイン発現を変化させることを示す。
図18Eは、PSMα3で24時間処理したヒトの角化細胞のコントロールから2倍以上減少された遺伝子のGO-term分析を示す。
図18F~Hは、SA WT、SAΔpsmα、またはSAΔpsmβの上清で24時間処理したIL-6、TNF-α、またはIL-1αのヒト角化細胞サイトカイン蛋白質発現の変化を示す。 全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図19A-H-1】黄色ブドウ球菌PSMα及び蛋白分解酵素が、マウスの皮膚における損傷及び炎症の誘発の原因であることを示す。黄色ブドウ球菌(SA)(1e7 CFU)野生型(WT)、PSMαノックアウト(Δpsmα)及び蛋白分解酵素なし(Δ蛋白分解酵素)の株を雄のマウスの背側皮膚に72時間塗布し(n=6)、(
図19A、19E)トリプシン活性、(
図19B、19F)Klk6、(
図19C、19G)Il6及び(
図19D、19H)ハウスキーピング遺伝子Gapdhに正常化されたIL17a/f mRNA発現の変化を測定した。全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図19A-H-2】黄色ブドウ球菌PSMα及び蛋白分解酵素が、マウスの皮膚における損傷及び炎症の誘発の原因であることを示す。黄色ブドウ球菌(SA)(1e7 CFU)野生型(WT)、PSMαノックアウト(Δpsmα)及び蛋白分解酵素なし(Δ蛋白分解酵素)の株を雄のマウスの背側皮膚に72時間塗布し(n=6)、(
図19A、19E)トリプシン活性、(
図19B、19F)Klk6、(
図19C、19G)Il6及び(
図19D、19H)ハウスキーピング遺伝子Gapdhに正常化されたIL17a/f mRNA発現の変化を測定した。全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図20A-C】CoNS株がSAの増殖に影響を及ぼさないことを示す。凝固酵素陰性ブドウ球菌(CoNS)の上清は、OD600nm (n=3-4)で評価されたように、SA のagr I型P3-YFPレポーター株の増殖に影響を与える。これには、CoNS臨床分離株(
図20A)、S. epidermidis(S. epi)agr のI~III型(
図20B)及びSA のagr I型レポーター株に24時間かけて添加された表皮ブドウ球菌(S. epi)の野生型(WT)または自己誘導ペプチドノックアウト(ΔAIP)の上清(
図20C)が含まれる。全てのエラーバーは、平均値の標準誤差(SEM)で表す。
【
図21A-B】S. hominis C5がSA agr のI~III型を阻害するが、IV型を阻害しないことを示す。S. hominis C5の上清をSA agr のI~IV型 P3-YFPレポーター株に24時間かけて添加した(n=3)。
図21Aは、SAレポーター株agrの I~IV型活性を示す。
図21Bは、S. hominis C5の上清の存在下で培養したときのOD600nmの増殖の測定を示す。全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【
図22A-F】S. hominis C5の上清がSAに誘発された皮膚バリアの損傷を阻害することを示す。10x濃縮<3kDaのS. hominis C5の上清の有無にかかわらず、黄色ブドウ球菌(SA)(1e7 CFU)を雌のマウスの背側皮膚に48時間かけて塗布した(n=3)。
図22A~Bは、マウス背中の代表的な画像(破線は治療領域を示す)及びSAによる治療後にマウス皮膚から回収されたSAのCFU/cm2を示す。SAは、ハウスキーピング遺伝子Gapdhと比較して、Il6、経表皮の水分損失(TEWL)、トリプシン活性及びKlk6 mRNA発現を含む皮膚損傷マーカーを誘発した(
図22C~F)。 全てのエラーバーは平均値の標準誤差(SEM)で表し、一元配置分散分析を使用し、p<0.05*、p<0.01**、p<0.001***、p<0.0001****で示される統計的有意性を測定した。
【発明の詳細な説明】
【0034】
本明細書及び添付の請求項で用いられる単数形「1種の~」及び「この~(該~)」は、文脈が別途に明示をしない限り、複数の指示語を含んでいるものとする。よって、例えば、「1種の試薬」という記載には、複数種類のこうした試薬が包含され、また、「該微生物」という記載には、1種以上の微生物及び当業者に公知される同等な物が包含されている。また、他の場合も同様である。
【0035】
また、特に記載しない限り、「または」は「及び/または」を意味する。同様に、「含む」、「含んでいる」、「包含する」及び「包含している」は言い換えが可能であり、限定を意図するものではない。
【0036】
さらに理解されるべきこととして、様々な実施形態の記述に「含む」という用語を用いる際、当業者は、いくつかの特定の例において、その代わりに「本質的に~からなる」または「~からなる」という言葉を用いて実施形態を説明できることを理解するであろう。
【0037】
別途に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的用語及び科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同様な意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法及び試薬を、開示された方法及び組成物の実施に使用することができる。
【0038】
アトピー性皮膚炎(AD)は、最も一般的な免疫障害の1種であり、患者の生活の質と深刻な経済的負担を悪化させ、深刻な合併症のリスクをもたらす。皮膚機能の欠陥は、ADの重要な特徴である。AD患者の湿疹性皮膚病変では、IL4やIL13等のTh2サイトカインのレベルが上昇している。Th2サイトカインは、フィラグリンの発現を阻害することにより、皮膚の機能低下を促進する。これらのサイトカインは、カテリシジンやb-デフェンシン-2等のヒト抗菌ペプチドの発現も抑制する。ADにおける欠陥は、皮膚細菌群集の共生及び黄色ブドウ球菌によるコロニー形成の促進につながる可能性がある。IL4受容体アルファを標的とする治療は、疾患の著しい改善をもたらす。Th2サイトカインの活性、バリアの機能、抗菌活性及び疾患予後の間の強い関連性は、これらの重要な表皮機能との因果関係を定義することに一助している。
【0039】
AD患者の皮膚バリアは、カリクレイン(KLK)発現の増加を示すことが分かっているため、蛋白質分解活性の増加により損なわれる可能性がある。KLKは15種類のセリン蛋白分解酵素のファミリーであり、そのいくつかは主に表皮の上部顆粒層及び角質層に見られる。ネザートン症候群では、セリン蛋白分解酵素の阻害剤カザール5型の活性の低下により、セリン蛋白分解酵素活性の増加が観察される。結果として生じる酵素活性の増加は、落屑の増加、抗菌ペプチド及びフィラグリン(FLG)処理の変化、蛋白分解酵素の活性化受容体2の活性化及び炎症につながる。蛋白分解酵素の活性増加は、該ミクロビオームと皮膚の免疫システムとのコミュニケーションにも重要な役割を果たしている可能性があり、表皮を介した細菌の浸透を促進することにより、表皮サイトカインの産生及び炎症に直接に影響することが最近示された。
【0040】
黄色ブドウ球菌による皮膚ミクロビオームの共生及び皮膚のコロニー形成は、アトピー性皮膚炎(AD)の悪化と関連している。本開示は、黄色ブドウ球菌が角化細胞からの特定のKLKの発現を誘発し、皮膚における全体的な蛋白質分解活性を増加させる能力を有することを実証している。これは、皮膚上の細菌が宿主との通信システムを示し、これまでに知られていなかった黄色ブドウ球菌のコロニー形成がAD患者の病気を重症化する、おそらく重要なメカニズムを示唆している。
【0041】
黄色ブドウ球菌は、皮膚の完全性を変化させる複数の蛋白分解酵素を皮膚に分泌することができる。セリン蛋白分解酵素V8及びセリン様蛋白分解酵素の剥離性毒素は、DSG-1を含む角質デスモソーム接着蛋白質を切断し、落屑の増加につながることが示されている。MMPであるオーレオリジンは、皮膚上の重要な抗菌ペプチドであるLL-37を切断して不活性化することが知られている。しかし、黄色ブドウ球菌産物のこれらの直接的な蛋白質分解作用には、高レベルの酵素と細菌が必要であり、該生物による感染中に発生するイベントとより一致している。
【0042】
角化細胞が黄色ブドウ球菌によって活性化された後、蛋白質消化の増加が観察された。FLGは、より大きなPro-FLG(400 kDa)から切断され、ケラチンと角質層の物理的バリアを形成する上で重要な役割を果たすモノマー形(37 kDa)になることが知られている。促進されたPro-FLG切断は、皮膚落屑の増加と関連している可能性があることが示されている(Hewett等, 2005)。興味深いことに、黄色ブドウ球菌の上清で処理されたヒト角化細胞において、Pro-FLG切断の増加が観察された。KLK6またはKLK13が発現停止されると、Pro-FLGの切断が部分的に阻止され、黄色ブドウ球菌がPro-FLG切断の過程においてKLKに依存して皮膚の完全性を低下させることが示された。
【0043】
DSG-1は重要な角質デスモソーム接着蛋白質であり、これが切断されると落屑が増加する。角化細胞中の全長DSG-1(160 kDa)は、黄色ブドウ球菌に刺激されたKLK活性によって容易に切断される。KLK5、6、7及び14はDSG-1を切断できるが、KLK13は切断できないことが報告されている。これにより、KLK6とKLK14が増加されることで、全長DSG-1の切断が促進され、KLK13がDSG-1切断に関与しないという概念に反する証拠が得られることが示された。従って、黄色ブドウ球菌はKLKにFLG切断を変化させることができるが、表皮皮膚の完全性を低下させる別の方法としてDSG-1切断も増加させる。特定のsiRNAノックダウンは、KLK発現の増加が、黄色ブドウ球菌によって刺激されたセリン蛋白分解酵素活性の増加に少なくとも部分的に関与していることを示唆した。
図2Cは、黄色ブドウ球菌から分泌された蛋白分解酵素が角化細胞中のトリプシン活性の増加を誘発することに寄与することを示している。黄色ブドウ球菌を含む細菌は皮膚表面に浸透し、強い皮膚免疫応答を誘発することができるため(Nakatsuji等, 2013, 2016; Zhang等, 2015)、これらの細菌は皮膚細胞の蛋白分解酵素活性にも影響を与える可能性がある。これらの観察は、酒さ症候群またはネザートン症候群にも関連している。
【0044】
本開示は、黄色ブドウ球菌により産生される可溶性因子が、角化細胞により産生される内因性蛋白分解酵素の活性を変化させる強力かつ以前には疑われていなかった能力を有することを実証する。これは、細菌性蛋白分解酵素の活性が検出できない黄色ブドウ球菌産物の希釈液で起きた。従って、黄色ブドウ球菌は表皮を促進して内因性の蛋白質分解活性の発現を増加させることができ、よって、全体の表皮蛋白質分解活性のバランスを徹底的に変える。
【0045】
黄色ブドウ球菌(Newman社, USA300, 113及びSANGER252)及び表皮ブドウ球菌(ATCC12228及びATCC1457)の異なる株は、ヒト角化細胞の蛋白分解酵素の活性に対して異なる効果を有していた。Newman及びUSA300を含む黄色ブドウ球菌株はトリプシン活性を増加させたが、黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の他の菌株はエラスターゼまたはMMP活性を増加させた。従って、細菌は、細菌の種と株の両方に応じて表皮蛋白分解酵素の活性を変化させる可能性がある。黄色ブドウ球菌の他の細菌種及び菌株は、ヒト皮膚の酵素バランスにさらに独自の影響を及ぼす可能性がある。興味深いことに、予備データから、精製されたトル様受容体リガンドが角化細胞においてトリプシン活性またはKLK発現を誘発しないことが発見された。
【0046】
皮膚バリアの損傷をもたらす複数の皮膚疾患では、蛋白分解酵素の活性が著しく増加している。これは、ほとんど全ての場合に悪化した疾患状態に関連している。本開示は、一態様において、共生微生物及びそれらの細菌産物が皮膚における蛋白分解酵素の活性増加を防ぐのに有用であることを実証する。特に、本開示は、凝固酵素陰性ブドウ球菌が、agrのクオラムセンシングシステムを阻害することにより、黄色ブドウ球菌が誘発する皮膚のセリン蛋白分解酵素の活性を抑制できることを実証している。病原菌株である黄色ブドウ球菌は、皮膚中のセリン蛋白分解酵素の活性を誘発できる。蛋白分解酵素の活性が増加すると、皮膚が破壊され、ネザートン症候群やアトピー性皮膚炎等の病状が悪化する。本開示は、この増加したセリン蛋白分解酵素の活性が、共生または良好な皮膚細菌及びそれに由来する因子の使用により抑制できることを実証する。
【0047】
本開示は、黄色ブドウ球菌に対する角化細胞の予期しない応答を提示する。増加したDSG-1及びFLG切断のため、黄色ブドウ球菌は、KLKに依存して皮膚の完全性を低下させる1つ以上の因子を生成する。
【0048】
本開示は、黄色ブドウ球菌が蛋白分解酵素を分泌するだけでなく、角化細胞を特異的に活性化させ、内因性の蛋白分解酵素の発現を増加させることができることを実証している。本開示は、フェノールに可溶なモジュリンアルファ(PSMα)が黄色ブドウ球菌によって分泌され、表皮の自己消化を引き起こすことを実証している。例えば、該KLKファミリーの3つのメンバーが該酵素の活性増加において重要な役割を果たしているようである。
【0049】
本開示はまた、黄色ブドウ球菌のアクセサリー遺伝子調節因子(agr)のクオラムセンシングシステムを阻害し、PSMαを阻止して蛋白分解酵素の活性を阻害する共生細菌、遺伝子及びポリペプチドを同定する。従って、本開示は、アトピー性皮膚炎を調節するための標的、ならびにアトピー性皮膚炎及び皮膚上の蛋白分解酵素の活性を調節するための薬剤及び生菌の製剤を提供する。
【0050】
本開示は、S. epidermidisやS. hominis等の通常皮膚上に生息する凝固酵素陰性ブドウ球菌(CoNS)種が、黄色ブドウ球菌の該生物活性に対して、自己誘発ペプチド(AIP)を産生することにより保護することを実証する。該AIPが、黄色ブドウ球菌のアクセサリー遺伝子調節(agr)のクオラムセンシングシステムを阻害し、PSMα分泌を阻止する。
【0051】
実質的に全ての黄色ブドウ球菌毒素は、病原性アクセサリー遺伝子の調節因子(agr)の制御下にある。agrシステムは、クオラムセンシングと呼ばれるプロセスによって、特定の細胞密度で遺伝子発現の変化を引き起こす。毒素に加えて、agrは細胞外酵素(蛋白分解酵素、脂肪分解酵素、核酸分解酵素)等の多種多様な毒性決定因子を増加させ、表面で結合する蛋白質の発現を減少させることが知られている。この適応は、必要なときに特定の感染のある病原性決定因子の産生を制御すると考えられている(例えば、細胞密度が低く、宿主組織への接着が重要である最初の結合蛋白質、感染が確立され、宿主組織から栄養素を得る必要がある場合の毒素と分解性細胞外酵素)。
【0052】
異なるCoNS種の複数の臨床分離株は、蛋白分解酵素の活性化を阻害し、黄色ブドウ球菌の存在量を変化させることなく、in vitro 及びin vivoの両方で上皮損傷を防止した(例えば、黄色ブドウ球菌の密度を変えずに、蛋白分解酵素/agr活性の生物学的活性を阻害した)。さらに、本開示は、活性ADの患者が、黄色ブドウ球菌と比較してこれらの有益な微生物(例えばCoNS)の相対的存在量の減少を示したことにより、クオラムセンシングの阻害を克服し、黄色ブドウ球菌による破壊を可能にすることを示している。まとめると、本開示は、黄色ブドウ球菌の毒素産生を制御することに貢献して、健常人の皮膚マイクロバイオームのメンバーが共同体として免疫の恒常性をどのように維持するかについて示す。
【0053】
本開示はまた、agrクオラムセンシングの活性を阻害する産物を提供するポリヌクレオチド配列、ポリペプチド配列及びそれらの断片を同定した。これらのポリヌクレオチド及びポリペプチドは、黄色ブドウ球菌による感染及び/またはアトピー性皮膚炎を治療するための外用の製剤に用いる治療薬及び組換え非病原性または減弱された皮膚細菌を提供するために使用できる。
【0054】
例えば、本開示は、agrの活性を減少させる自己誘発ペプチド(AIP)を提供する。本明細書において、AIPをコードするポリヌクレオチドも提供される。
【0055】
本開示は、AD皮膚における黄色ブドウ球細菌叢の増加とセリン蛋白分解酵素の活性増加との関連性を提供し、また、新しい標的及び治療法を提供する。例えば、蛋白分解酵素の活性を増加させる発酵抽出物(例、黄色ブドウ球菌からの発酵抽出物)、または皮膚中の蛋白分解酵素の活性を減少させる共生細菌からの発酵抽出物(例えば、本開示の1種以上のAIPを含む)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、本開示は、(i)そのような抽出物または精製されたAIPペプチドを含む外用の製剤、(ii)共生生菌の細菌を含む外用の製剤(例えば、AIPコード配列で形質転換された非病原性または減弱された細菌、または外用の製剤の中の精製された共生細菌製剤)を提供する。さらなる治療の標的は、KLKの抗体、及び/またはDSG-1及び/またはFLG療法(例えば、AD被験者へのこれらの因子の発現または送達の増加)であり得る。
【0056】
ある実施形態においては、本開示のAIPポリペプチドは、共通配列X1X2X3X4CX5X6X7X8 (配列番号:10)を有し、式中、X1がS、K、V、GまたはTであり;X2がY、Q、A、またはIであり;X3がN、S、T、またはDであり;X4がV、P、M、またはTであり;X5がG、S、A、N、またはTであり;X6がG、N、T、またはLであり;X7がYまたはFであり;X8がF、L、またはYであり、ここで、配列番号:10のアミノ酸5~9は、チオラクトン環を形成する。配列番号:10の共通配列に該当する例示的なペプチド配列として、SYNVCGGYF(配列番号:4)、KYNPCSNYL(配列番号:11)、SYSPCATYF(配列番号:12)、SQTVCSGYF(配列番号:13)、GANPCALYY(配列番号:14)、TINTCGGYF(配列番号:15)、VQDMCNGYF(配列番号:16)及びGYSPCTNFF(配列番号:17)が含まれる。さらなる実施形態においては、該ポリペプチドが、式IまたはIAの構造を産生する。別の実施形態においては、該ポリペプチドが、D-またはL-アミノ酸の組み合わせを含むことができる。前述のいずれかの実施形態においては、該ポリペプチドが、黄色ブドウ球菌蛋白分解酵素の活性、agrの活性または角化細胞蛋白分解酵素の活性を阻害する。
【0057】
【0058】
ある実施形態においては、本開示は式IAの化合物を提供する。
【0059】
本開示は、配列番号:4と少なくとも98%同一である配列を含み、(i)角化細胞の蛋白分解酵素の産生及び/または蛋白分解酵素の活性を阻害し、(ii)角化細胞のIL-6産生及び/または活性を阻害し、(iii)黄色ブドウ球菌(S. aureus)からフェノールに可溶なモジュリンα3の産生を阻害し、及び/または(iv)黄色ブドウ球菌によるagrの産生及び/または活性を阻害する、精製されたポリペプチド(例えば、AIPペプチド)を提供する。別の実施形態においては、本開示は、式IBの化合物を提供する。
【0060】
またさらなる実施形態においては、本開示は、配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17を含むまたはからなる精製されたポリペプチドを提供する。さらなる実施形態においては、該ポリペプチドが、式I、IA、またはIBの構造を産生する。
【0061】
ある実施形態においては、本開示のAIPペプチドは、1種以上のD-アミノ酸を含むことができる。
【0062】
本開示は、配列番号:10の共通配列を有するAIPペプチド、または配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17のペプチド、または式I、IA、またはIBの化合物を含む外用の製剤を提供する。
【0063】
「実質的に同一」とは、アミノ酸配列が大部分ではあるが完全に同じではないが、関連する配列の機能的活性を維持していることを意味する。ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列が共有する同一性の百分率は、配列の整列に基づいている。様々なプログラムを用いて、整列を実行し、同一性を測定することは、当技術分野において一般的である。一般に、2つのポリペプチドまたはドメインの配列が少なくとも85%、90%、95%、98%または99%同一であれば、または配列に保存的な変異があれば、これらが「実質的に同一」である。配列同一性の比較には、BLASTプログラム(Altschul等、1990)等のコンピュータープログラムを使用することができる。
【0064】
本開示は、本開示のAIPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(即ち、「AIPポリヌクレオチド」)も提供する。例えば、本開示は、配列番号:2または4をコードするポリヌクレオチドを提供する。ある実施形態においては、該ポリヌクレオチドが、厳密な条件下で配列番号:3からなるポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、また配列番号:4のポリペプチドをコードする。ハイブリダイゼーション反応の「厳密度」は、当業者によって容易に決定可能であり、一般的に、探触子の長さ、洗浄時の温度及び塩の濃度に依存する経験的な計算である。一般的に、適切なアニーリングには長い探触子ほど高い温度が必要であるが、短い探触子ほど低い温度が必要である。ハイブリダイゼーションは一般に、融解温度未満の環境に相補鎖が存在する場合に、変性DNAが再アニールする能力に依存する。望まれる探触子とハイブリッド形成可能な配列との相同性の程度が高い程、使用できる相対温度が高くなる。その結果、相対温度が高いと反応条件が厳しくなり、該温度が低いとそれほど厳しくないこととなる。ハイブリダイゼーション反応の厳密性に関する他の詳細や説明については、Ausubel等による「Current Protocols in Molecular Biology」,Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照されたい。本明細書で定義される「厳密な条件」または「高厳密性の条件」は、通常次の通りである:(1)洗浄には低イオン強度と高温を採用する。例えば、50℃で0.015 M塩化ナトリウム/0.0015 Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム;(2)ハイブリダイゼーションにおいて、ホルムアミド等の変性剤を使用する(例えば、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/750 mM塩化ナトリウムを含むpH 6.5の50 mMリン酸ナトリウム緩衝液を含有する50%(v/v)ホルムアミド、42℃で75 mMクエン酸ナトリウム);または(3)50%ホルムアミド、5xSSC(0.75 M NaCl、0.075 Mクエン酸ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5xデンハート液、超音波処理されたサケ精子DNA(50 μg/ml)、0.1%SDS及び10%硫酸デキストランを42℃で使用し、42℃で0.2xSSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)の中で洗浄し、また55℃で50%ホルムアミドの中で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含む0.1xSSCからなる高厳密な洗浄を行う。配列番号:11、12、13、14、15、16及び17をコードするポリヌクレオチド配列は、コドンチャートを用いて推定できる。
【0065】
AIPポリヌクレオチドは、本開示で使用するための様々なベクターにクローン化することができる。例えば、組換え宿主細胞での形質転換及び/または発現に使用するために、AIPポリヌクレオチドを発現ベクターまたはプラスミドにクローニングすることができる。細菌の形質転換に使用するベクターは知られている。ベクターの4つの主要なタイプは、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド及び人工染色体である。全ての操作されたベクターに共通するのは、複製起点、マルチクローニングサイト及び選択可能なマーカーである。これらのいずれも、ここでの使用に適している。AIPポリヌクレオチドは、クローン、ベクター、シャトル、プラスミド、BACに挿入するか、細菌ゲノムに組み込むこともできる。プラスミドを使用する場合、該プラスミドのコピー数は、細胞あたり5~500コピー数であってもよい。例示的なプラスミド及び発現ベクターとして、p252、p256、p353-2 (Leer等、1992)、p8014-2、pA1、pACYC、pAJ01、pAl-derived (Vujcic & Topisirovic 1993)、pall、pAM-beta-1,2,3,5,8 (simon and chopin 1988)、pAR1411、pBG10、pBK、pBM02、pBR322、pBR328、pBS-slpGFP、pC194 (McKenzie等 1986, 1987; Horinouchi & Weisblum 1982b)、PC194/PUB110、pC30il、pC30il (Skaugen 1989)、pCD034-1、pCD034-2、pCD256、pC12000、pC1305、pC1528、pCIS3、pCL2.1、pCT1138、pD125、pE194、pE194/PLS1、pEGFP-C1、pEH、pF8801、pFG2、pFK-series、pGK-series、pGK12、pGK13、pIA、pIAV1,5,6,7,9、pIL.CatT、pIL252/3、pIL253、pIL7、pISA (low for E. coli)、pJW563、pKRV3、pLAB1000 (Josson等 1990)、pLB4 (Bates & Gilbert 1989、pLBS、pLE16、pLEB124、pLEB590、pLEB591、pLEB600、pLEB604、pLEP24Mcop、pLJ1 (Takiguchi等 1989)、pLKS、pLTK2、pWCFS101 及びpMD5057 (Bates & Gilbert、1989; Skaugen, 1989; Leer等, 1992; Vujcic & Topisirovic, 1993; Eguchi等, 2000; Kaneko等, 2000; Danielsen, 2002; Daming等, 2003; de las Rivas等, 2004; van Kranenburg等, 2005)、pLP1/18/30、pLP18、pLP317、pLP317cop、pLP3537、pLP3537xyl、pLP402、pLP825、pLP825 及び pLPE323、pLP82H、pLPC37、pLPE23M、pLPE323、pLPE350、pLPI (Bouia等 1989)、pLS1、pLS1及びpE194 (Lacks等 1986; Horinouchi & Weisblum 1982a)、plul631、erythromycin耐性遺伝子を持つL. reuteriのpLUL631、pM3、pM4、pMD5057、pMG36e、pND324、pNZ-series、pPSC series, pSH71 (de vos, 1987)、pSIP-series、pSK11L、pSL2、PSN2、pSN2 (Khan & Novick 1982)、pT181 (Koepsel等 1987)、(Khan & Novick 1983)、pT181、枯草菌ではpC194とpE194は機能しない(Gruss等 1987)、pT181、pE194/pLS1、pC194/pUB110及びpSN2 (Khan, 2005)、pTL、pTRK ファミリー、pTRT ファミリー、pTUAT35、pUBII0及びpC194 (McKenzie 等 1986, 1987; Horinouchi & Weisblum 1982b)、pUCL22、pULP8/9、pVS40、pWC1、pWCFS101、pWV02、pWV04、pWV05、RepA及びシステムBetLが含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
ある実施形態においては、本開示は、本開示のAIPポリペプチドまたはペプチドを含む外用の組成物を提供する。例えば、ある実施形態においては、該外用の組成物が、配列番号:10の共通配列、または配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17のいずれかと少なくとも98%同一である配列を含み、また、(i)角化細胞の蛋白分解酵素の産生及び/または蛋白分解酵素の活性を阻害し、(ii)角化細胞のIL-6産生及び/または活性を阻害し、(iii)黄色ブドウ球菌(S. aureus)からのフェノールに可溶なモジュリンα3の産生を阻害し、及び/または(iv)黄色ブドウ球菌によるagrの産生及び/または活性を阻害する、精製されたポリペプチド(例えば、AIPペプチド)を含む。別の実施形態においては、該外用の組成物が、式I、IA、またはIBの化合物(上記で定義した通り)を含む。
【0067】
別の実施形態においては、該外用の組成物が、非病原性の微生物(病原性活性を低減または排除するように操作された減弱の微生物を含む)を含むことができる。ここで、該微生物が、AIPポリペプチドを発現するように操作されている。該微生物が、ベクター及び/またはAIPポリヌクレオチドを含有するように操作されてもよい。ある実施形態においては、該微生物が、式I、IA、及び/またはIBの化合物を産生する。
【0068】
ある実施形態においては、本明細書の組成物及び方法は、細菌を本開示のAIPポリヌクレオチドで形質転換することにより、式I、IA、及び/またはIBの化合物を産生するように操作された非病原性の細菌を使用する。ある実施形態においては、細菌集団は非病原性かつ非侵襲性の微生物であり、特定の実施形態では、グラム陽性の食品級細菌株であってもよい。別の実施形態においては、形質転換された細菌集団は、皮膚のミクロビオームに自然に存在する細菌から調製される。
【0069】
ある実施形態においては、組成物において細菌集団を形成し、式I、IA、及び/またはIBの化合物を発現するように形質転換される細菌は、同じ細菌または異なる系統発生レベルの異なる細菌の混合物のコレクションであり得る。健常人の皮膚に生息する細菌には、通常、放線菌等のヒトの顔面に生息する細菌種(コリネバクテリウム属及びプロピオニバクテリウム属の細菌を含む)が含まれる。別の実施形態においては、健常人の被験者の皮膚に生息する細菌には、例えばバクテロイデス属及びプロテオバクテリア属の細菌を含む、顔以外の皮膚に典型的に生息する細菌種が含まれる。皮膚マイクロバイオームにおける他の細菌には、本明細書の以下に列挙するものが含まれる。
【0070】
ある実施形態においては、該細菌がプロピオン酸菌属に由来する。その例として、Propionibacterium acidifaciens 、Propionibacterium acidipropionici、 Propionibacterium acidipropionici株4900、Propionibacterium acnes、Propionibacterium australiense、Propionibacterium avidum、Propionibacterium cyclohexanicum、Propionibacterium freudenreichii subsp、Freudenreichii、P. freudenreichii ssp. freudenreichii株20271、 Propionibacterium freudenreichii subsp. Shermanii、P. freudenreichii ssp. shermanii株4902、P. freudenreichii ssp. shermanii 株4902、Propionibacterium granulosum、Propionibacterium innocuum、P. jensenii 20278、Propionibacterium lymphophilum、Propionibacterium microaerophilum、株、Propionibacterium propionicum、Propionibacterium thoenii及びP. thoenii株20277が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態においては、該細菌がプロピオニバクテリウム・アクネスではない。ある実施形態においては、該細菌がコリネバクテリウム属に由来する。その例として、C. accolens、C. afermentan、C. amycolatum、C. argentoratense、C. aquaticum、C. auris、C. bovis、C. diphtheria、C. equi (now Rhodococcus equi)、C. flavescens、C. glucuronolyticum、C. glutamicum、C. granulosum、C. haemolyticum、C. halofytica、C. jeikeium (group JK)、C. macginleyi、C. matruchotii、C. minutissimum、C. parvum (Propionibacterium acnes)、C. propinquum、C. pseudodiphtheriticum (C. hofmannii)、C. pseudotuberculosis、(C. ovis)、C. pyogenes、C. urealyticum (group D2)、C. renale、C. spec、C. striatum、C. tenuis、C. ulcerans、C. urealyticum 及びC. xerosisが含まれるが、これらに限定されない。親油性及び非親油性基を有する細菌が考えられ、非親油性細菌には、発酵性コリネバクテリア及び非発酵性コリネバクテリアが含まれ得る。ある実施形態においては、該細菌が、病原性でありうるもののC. diphtheria、C. amicolatum、C. striatum、C. jeikeium、C. urealyticum、C. xerosis、C. pseudotuberculosis、C. tenuis、C. striatum、またはC. minutissimumではない。ある実施形態においては、該細菌が亜目ミクロコクシネエに由来する。その例として、Arthrobacter arilaitensis, Arthrobacter bergerei、Arthrobacter globiformis、Arthrobacter nicotianae、 Kocuria rhizophila、Kocuria varians、Micrococcus luteus、Micrococcus lylae、 Microbacterium gubbeenense、Brevibacterium aurantiacum、Brevibacterium casei、Brevibacterium linens、Brachybacterium alimentarium及びBrachybacterium tyrofermentan等のGRAS菌種が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態においては、該細菌がブドウ球菌属に由来する。その例として、Staphylococcus agnetis、S. arlettae、S. auricularis、S. capitis、 S. caprae、S. carnosus、Staphylococcus caseolyticus、S. chromogenes、S. cohnii、S. condiment、S. delphini、S. devriesei、S. equorum、S. felis、 S. fleurettii、S. gallinarum、S. haemolyticus、S. hominis、S. hyicus、S. intermedius、 S. kloosii、 S. leei、 S. lentus、 S. lugdunensis、S. lutrae、 S. massiliensis、S. microti、S. muscae、S. nepalensis、S. pasteuri、S. pettenkofer、S. piscifermentans、S. pseudintermedius、S. pseudolugdunensis、S. pulvereri、S. rostra、S. saccharolyticus、 S. saprophyticus、 S. schleiferi、S. sciuri、S. simiae、S. simulans、S. stepanovicii、 S. succinus、 S. vitulinus、S. warneri及びS. xylosusが含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態においては、該細菌が黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌ではない。別の実施形態においては、該細菌が連鎖球菌属に由来する。その例として、Streptococcus acidominimus、Streptococcus adjacens、Streptococcus agalactiae、Streptococcus alactolyticus、Streptococcus anginosus、 treptococcus australis、Streptococcus bovis、Streptococcus caballi、Streptococcus canis、Streptococcus caprinus、Streptococcus castoreus、Streptococcus cecorum、Streptococcus constellatus、Streptococcus constellatus subsp. Constellatus、Streptococcus constellatus subsp. Pharyngis、 Streptococcus cremoris、 Streptococcus criceti、 Streptococcus cristatus、Streptococcus danieliae、Streptococcus defectives、Streptococcus dentapri、Streptococcus dentirousetti、Streptococcus didelphis、Streptococcus difficilis、Streptococcus durans、Streptococcus dysgalactiae、Streptococcus dysgalactiae subsp. Dysgalactiae、Streptococcus dysgalactiae subsp. Equisimilis、Streptococcus entericus、 Streptococcus equi、Streptococcus equi subsp. Equi、Streptococcus equi subsp. Ruminatorum、Streptococcus equi subsp. Zooepidemicus、Streptococcus equines、Streptococcus faecalis、Streptococcus faecium、Streptococcus ferus、Streptococcus gallinaceus、Streptococcus gallolyticus、Streptococcus gallolyticus subsp. Gallolyticus、 treptococcus gallolyticus subsp. Macedonicus、Streptococcus gallolyticus subsp. Pasteurianus、Streptococcus garvieae、Streptococcus gordonii、Streptococcus halichoeri、 Streptococcus hansenii、Streptococcus henryi、Streptococcus hyointestinalis、Streptococcus hyovaginalis、Streptococcus ictaluri、Streptococcus infantarius、Streptococcus infantarius subsp. Coli、Streptococcus infantarius subsp. Infantarius、 Streptococcus infantis、 Streptococcus iniae、 Streptococcus intermedius、 Streptococcus intestinalis、Streptococcus lactarius、Streptococcus lactis、Streptococcus lactis subsp. Cremoris、Streptococcus lactis subsp. Diacetilactis、Streptococcus lactis subsp. Lactis、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus macacae、Streptococcus macedonicus、Streptococcus marimammalium、Streptococcus massiliensis、Streptococcus merionis、 Streptococcus minor、Streptococcus mitis、Streptococcus morbillorum、 Streptococcus mutans、Streptococcus oligofermentans、Streptococcus oralis、 Streptococcus orisratti、Streptococcus ovis、 Streptococcus parasanguinis、 Streptococcus parauberis、Streptococcus parvulus、Streptococcus pasteurianus、 Streptococcus peroris、 Streptococcus phocae、Streptococcus plantarum、 Streptococcus pleomorphus、Streptococcus pluranimalium、 Streptococcus plurextorum、 Streptococcus pneumonia、 Streptococcus porci、 Streptococcus porcinus、Streptococcus porcorum、Streptococcus pseudopneumoniae、 Streptococcus pseudoporcinus、 Streptococcus pyogenes、 Streptococcus raffinolactis、Streptococcus ratti、Streptococcus rupicaprae、Streptococcus saccharolyticus、Streptococcus salivarius、 Streptococcus salivarius subsp. Salivarius、Streptococcus salivarius subsp. Thermophilus、Streptococcus sanguinis、Streptococcus shiloi、 Streptococcus sinensis、Streptococcus sobrinus、Streptococcus suis、 Streptococcus thermophilus、Streptococcus thoraltensis、Streptococcus tigurinus、Streptococcus troglodytae、Streptococcus troglodytidis、 Streptococcus uberis、 Streptococcus urinalis、Streptococcus vestibularis及びStreptococcus waiusが含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態においては、該細菌がラクトバチルス属に由来する。その例として、Lactococcus garvieae、Lactococcus lactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris、Lactococcus lactis subsp. hordniae、Lactococcus lactis、Lactococcus lactis subsp. Lactis、Lactococcus piscium、Lactococcus plantarum、Lactococcus raffinolactis、Lactobacillus acetotolerans、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus agilis、Lactobacillus algidus、Lactobacillus alimentarius、Lactobacillus amylolyticus、Lactobacillus amylophilus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus animalis、Lactobacillus aviarius、Lactobacillus aviarius subsp. araffinosus、Lactobacillus aviarius subsp. aviarius、Lactobacillus bavaricus、Lactobacillus bifermentans、Lactobacillus brevis、Lactobacillus buchneri、 actobacillus bulgaricus、Lactobacillus carnis、Lactobacillus casei、Lactobacillus casei subsp. alactosus、Lactobacillus casei subsp. casei、Lactobacillus casei subsp. pseudoplantarum、Lactobacillus casei subsp. rhamnosus、Lactobacillus casei subsp. tolerans、Lactobacillus catenaformis、Lactobacillus cellobiosus、Lactobacillus collinoides、Lactobacillus confusus、Lactobacillus coryniformis、Lactobacillus coryniformis subsp. coryniformis、Lactobacillus coryniformis subsp. torquens、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus curvatus、Lactobacillus curvatus subsp. curvatus、Lactobacillus curvatus subsp. melibiosus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus、Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii、Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis、Lactobacillus divergens、Lactobacillus farciminis、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus formicalis、Lactobacillus fructivorans、Lactobacillus fructosus、Lactobacillus gallinarum、Lactobacillus gasseri、 Lactobacillus graminis、 Lactobacillus halotolerans、Lactobacillus hamsteri、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus heterohiochii、Lactobacillus hilgardii、Lactobacillus homohiochii、Lactobacillus iners、Lactobacillus intestinalis、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus kandleri、Lactobacillus kefiri、Lactobacillus kefuranofaciens、Lactobacillus kefirgranum、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus lactis、Lactobacillus leichmannii、Lactobacillus lindneri、Lactobacillus malefermentans、 Lactobacillus mali、Lactobacillus maltaromicus、Lactobacillus manihotivorans、Lactobacillus minor、Lactobacillus minutus、 Lactobacillus mucosae、Lactobacillus murinus、Lactobacillus nagelii、Lactobacillus oris、 Lactobacillus panis、Lactobacillus parabuchneri、Lactobacillus paracasei、 Lactobacillus paracasei subsp. paracasei、Lactobacillus paracasei subsp. tolerans、Lactobacillus parakefiri、Lactobacillus paralimentarius、 Lactobacillus paraplantarum、Lactobacillus pentosus、Lactobacillus perolens、Lactobacillus piscicola、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus pontis、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus rhamnosus strain 5/E5a、Lactobacillus rimae、Lactobacillus rogosae、 Lactobacillus ruminis、Lactobacillus sakei、Lactobacillus sakei subsp. camosus、Lactobacillus sakei subsp. sakei、Lactobacillus salivarius、 Lactobacillus salivarius subsp. salicinius、Lactobacillus salivarius subsp. salivarius、Lactobacillus sanfranciscensis、Lactobacillus sharpeae、Lactobacillus suebicus、Lactobacillus trichodes、Lactobacillus uli、Lactobacillus vaccinostercus、Lactobacillus vaginalis、Lactobacillus viridescens、Lactobacillus vitulinus、Lactobacillus xylosus、Lactobacillus yamanashiensis、Lactobacillus yamanashiensis subsp. mali、 Lactobacillus yamanashiensis subsp. Yamanashiensis及びLactobacillus zeaeが含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態においては、該細菌がラクトコッカス属に由来する。その例として、Lactococ
cus Schleifer、Lactococcus chungangensis、Lactococcus fujiensis、 Lactococcus garvieae、Lactococcus lactis、Lactococcus lactis subsp. Cremoris、Lactococcus lactis subsp. Hordniae、Lactococcus lactis subsp. Lactis、Lactococcus lactis subsp. Tructae、Lactococcus piscium、Lactococcus plantarum及びLactococcus raffinolactiが含まれるが、これらに限定されない。
【0071】
また別の実施形態においては、本開示は、本開示のCoNS共生皮膚細菌を含む局所送達用の生菌組成物を提供する。ある実施形態においては、CoNS細菌は、AIPポリペプチド及び/または式Iの化合物を産生する細菌を含む。さらなる実施形態においては、該外用の組成物が、AIPポリペプチドまたは式Iの化合物を産生する微生物の単一種のみを含有する。また別の実施形態においては、本開示の共生皮膚細菌が、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C4、S. hominis C5及びS. warneri G2からなる群から選択される微生物を含む。また別の実施形態においては、本開示の外用の生菌組成物が、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C4、S. hominis C5、S. warneri G2及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される共生皮膚細菌を含むか、またはそれからなることができる。
【0072】
本開示の共生細菌は、ヒトの皮膚から単離し、本明細書に記載の方法を用いて同定できる。例えば、本開示は、フォームチップスワブ等でヒトの皮膚表面を塗布し、本明細書に記載の共生細菌を採取する方法、同定する方法及び培養する方法を提供する。該拭き取り検体をトリプシン大豆ブロスに放置した。3%卵黄が補われたマンニトール塩寒天プレート(MSA)の上に該ブロスを希釈した。ハローのない凝固酵素陰性ブドウ球菌(CoNS)株を表すピンク色のコロニーを採取し、トリプシン大豆ブロス(TSB)の中で増殖させ、25%体積の滅菌ろ過された上清を新鮮なTSBの中で増殖した黄色ブドウ球菌のagrI型 YFPレポーター株に加えた。(黄色ブドウ球菌のagr活性阻害を測定する場合、24時間のインキュベーションを行う)。蛍光光度計を用いて黄色ブドウ球菌レポーター株のAgr活性を測定する。gDNA分離と配列決定により、黄色ブドウ球菌のagr活性を強く阻害する株をさらに特徴付けた。任意数量の市販キット(例:DNeasy UltraClean Microbial Kit、Qiagen社)を用いてgDNAを分離する。様々な配列プラットフォーム(例えば、MiSeq; Illumin Inc.社, San Diego, CA)を2サイクル用いてgDNAを配列決定でき、2x 250 bpのペアエンドリードを生成できる。cutadaptを用いてアダプターを除去する(例えば、world-wide-web at cutadapt.readthedocs.io/en/stable/を参照)。初期設定のパラメーターを備えたTrim Galoreを用いて低品質の配列を除去できる(例えば、www/ bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/trim_galore/を参照)。Bowtie2プログラム(Ver.2.28)(I)とパラメーター(-D 20-R 3-N 1-L 20-very-sensitive-local)及びヒト参照ゲノムhg19を用いてヒトゲノムへの配列マッピングを品質がトリミングされたデータセットから除去する。k-mer長さが33~127範囲のSP-des(Ver.3.8.0)を用いてフィルター処理された読み取りを新規に組み立てる。初期設定のパラメーターのサブシステムテクノロジー(RASY)を用いてゲノムを注解する。注釈付きCDS(コーディングDNA配列)のアミノ酸配列を、Uniprotデータベースから取得した細菌のagr蛋白質に整列する。組み立てられたゲノムからのagr遺伝子を、3つの基準に基づいて同定する:(i)配列の同一性>60%、(ii) e値<e100、及び(iii) agr遺伝子座組織、4つの遺伝子のオペロン、 agrBDCA。配列番号:1または3の配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%または100%同一の配列を持つ微生物が本開示の方法及び組成物に有用である。
【0073】
本明細書で使用される用語「生菌組成物」、「外用の生菌組成物」、または「生菌皮膚組成物」には、生菌の共生皮膚細菌、生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物、AIPポリペプチドを発現する減弱または改変された微生物及び(i)蛋白分解酵素の活性を阻害し、または(ii)蛋白分解酵素の活性を促進する試薬、及び該共生皮膚細菌の生存を維持する医薬品担体の組成物が含まれる。
【0074】
本明細書で使用される用語「外用の」は、外用の生菌組成物が皮膚と直接に接触するように、皮膚への局所投与、ならびに浅い注射(例えば、皮内及び病巣内)を含むことができる。
【0075】
本明細書で使用される用語「発酵抽出物」は、適切な発酵条件下で、生菌の共生皮膚細菌を培地の中で発酵させる時の産物を意味する。例えば、黄色ブドウ球菌を培養すると、皮膚の透過性を高めるのに役立つPSMα3が生成される。黄色ブドウ球菌からの抽出物は、皮膚に塗布し、透過性を改善し、皮膚の再構築を誘発し、または薬物送達のための皮膚透過性を促進できるPSMα3を含む。同様に、本開示のAIPを生成するCoNS細菌の発酵抽出物を培養し、該培養物からの抽出物を用いて黄色ブドウ球菌関連の病状(例えば、蛋白分解酵素活性、皮膚炎等)を阻害することができる。
【0076】
本明細書で使用される用語「生菌の共生皮膚細菌」は、皮膚マイクロバイオームの微生物を含む。該生菌の共生皮膚細菌が、蛋白分解酵素活性を促進する細菌(「生菌の共生皮膚細菌を促進する蛋白分解酵素」)の組成物を含むことができる。生菌の共生皮膚細菌を促進する蛋白分解酵素は、通常、フェノールに可溶なモジュールα3(PSMα3)を産生する皮膚の細菌である。生菌の共生皮膚細菌組成物(またはその発酵抽出物)を促進する蛋白分解酵素は、例えば、皮膚の再構築、創傷修復の促進、老化、日光による損傷、色素異常及び瘢痕化には有用である。ある実施形態においては、生菌の共生皮膚細菌を促進する蛋白分解酵素は、セリン蛋白分解酵素の活性を有し、及び/または皮膚のセリン蛋白分解酵素活性を誘発する1種以上の細菌を含む。例えば、生菌の共生皮膚細菌を促進する蛋白分解酵素は、フェノールに可溶なモジュールα3(PSMα3)を産生する黄色ブドウ球菌株を含むことができる。
【0077】
別の実施形態においては、該生菌の共生皮膚細菌が、蛋白分解酵素の活性を阻害する細菌(「生菌の共生皮膚細菌を阻害する蛋白分解酵素」)の組成物を含むことができる。蛋白分解酵素を阻害する生菌の共生皮膚細菌の組成物は、酒さ、アトピー性皮膚炎及びネザートン症候群等の疾患の治療に有用である。ある実施形態においては、蛋白分解酵素を阻害する生菌の共生皮膚細菌は、皮膚の他の細菌のセリン蛋白分解酵素活性を阻害し、及び/または皮膚のセリン蛋白分解酵素活性を阻害する1種以上の細菌を含む。例えば、蛋白分解酵素を阻害する生菌の共生皮膚細菌は、凝固酵素の陰性ブドウ球菌種を含むことができる。ある実施形態においては、該凝固酵素陰性株が、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitis、Staphylococcus caprae、Staphylococcus saccharolyticus、Staphylococcus warneri、Staphylococcus pasteuri、Staphylococcus haemolyticus、Staphylococcus devriesei、Staphylococcus hominis、Staphylococcus jettensis、Staphylococcus petrasii及びStaphylococcus lugdunensisからなる群から選択される。ある実施形態においては、該蛋白分解酵素を阻害する共生皮膚細菌が、S. epidermidis株、S. hominis株、S. warneri株、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。特定の実施形態においては、該S. epidermidis株が、S. epidermidis 14990 及び/またはS. epidermidis A11である。別の実施形態においては、該S. hominis株が、S. hominis C4、S. hominis C5及び/またはS. hominis A9である。また別の実施形態においては、該S. warneri株が、S. warneri G2である。ある実施形態においては、該CoNS細菌が、AIPポリペプチド及び/または式Iの化合物を産生する細菌を含む。さらなる実施形態においては、該外用の組成物が、AIPポリペプチドまたは式Iの化合物を産生する微生物の単一種のみを含む。また別の実施形態においては、本開示の共生皮膚細菌が、S. epidermidis A11、 S. hominis A9、 S. hominis C4、 S. hominis C5及びS. warneri G2からなる群から選択される微生物を含む。また別の実施形態においては、本開示の外用の生菌組成物が、S. epidermidis A11、 S. hominis A9、 S. hominis C4、 S. hominis C5、S. warneri G2及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される共生の皮膚細菌を含むか、またはそれからなることができる。
【0078】
用語「接触する」は、皮膚用の生菌組成物が皮膚上の蛋白分解酵素の活性(例えば、セリン蛋白分解酵素の活性)を調節できるよう、皮膚を外用の生菌組成物に暴露させることを指す。
【0079】
用語「阻害」または「阻害の有効量」は、例えば、皮膚の上または皮膚の培養物において蛋白分解酵素の活性(例えばセリン蛋白分解酵素活性)の阻害を引き起こすのに十分な、1種以上の生菌の微生物、及び/または発酵培地や抽出物、及び/または発酵副産物、及び/または合成分子からなる皮膚用の生菌組成物の量を指す。用語「阻害」は、障害(例えば、発疹、痛み等)の兆候または症状を予防または改善することも含む。
【0080】
被験者の疾患または障害を治療するための本明細書で使用される用語「有効治療量」は、該疾患または障害の徴候または症状を改善するのに十分な皮膚用の生菌組成物またはその抽出物の量を意味する。例えば、有効治療量は、皮膚の痛みの重症度の頻度を測って、被験者の皮膚炎または発疹の症状を軽減するのに十分な量として測定することができる。典型的には、疾患または障害の症状を少なくとも50%、90%または100%減少させる量で被験者を治療する。一般的に、最適な投与量は、障害及び被験者の体重、細菌の種類、被験者の性別、症状の程度等の要素に依存する。それにもかかわらず、適切な用量は、当業者によって容易に決めてもよい。
【0081】
本明細書で使用される用語「精製された」及び「実質的に精製された」は、生体内で生成される生物学的病原体が自然に関連する自然環境にある他の細胞または成分が実質的にない、微生物または生物学的病原体(例えば、発酵培地及び抽出物、分画された発酵培地、発酵副産物、AIPペプチド、ポリペプチド、遺伝子、ポリヌクレオチド、式Iの化合物等)の培養物または共培養物を指す。いくつかの実施形態においては、共培養生菌は、複数の共生皮膚細菌を含むことができる。
【0082】
本開示は、S.epidermidis、S. hominis及び/またはS.warneriの実質的に均一な製剤を含む全細胞の製剤を提供する。そのような製剤は、炎症及び微生物感染を治療するための組成物の調製に使用することができる。全細胞の製剤は、S.epidermidis、S. hominis及び/またはS.warneriを含むことができ、または以下に記載する非病原性(例えば、減弱された微生物)のベクターを含むことができる。本開示は、黄色ブドウ球菌の活性に起因する皮膚中の蛋白分解酵素の活性を低下させる病原体を含む、該全細胞に由来する画分も提供する。
【0083】
第1の細菌組成物の、第2の細菌組成物の蛋白分解酵素の活性に対する阻害力は、第2の組成物を第1の組成物と接触させる前と接触させた後の第2の細菌組成物の蛋白分解酵素の活性を測ることにより測定できる。生物を本開示の外用の生菌組成物と接触させることはin vitroで起こり得る。例えば、外用の生菌組成物を細菌培養物に添加し、細菌の蛋白分解酵素の阻害活性を測定することにより起こる。また、接触はin vivoで起こり得る。例えば、外用の生菌組成物を皮膚の疾患または障害の被験者と接触させることにより起こる。
【0084】
生菌の共生皮膚細菌の製剤は、無数の方法で調製することができる。当該分野で公知される様々な方法のいずれかを用いて、外用の生菌組成物を被験者に投与できる。例えば、本開示の生菌の皮膚組成物または抽出物や合成製剤は、局所での投与に製剤化されてもよい(例えば、ローション、クリーム、スプレー、ゲル、または軟膏として)。そのような外用の製剤は、微生物、真菌、ウイルスの存在、感染、または皮膚の炎症を治療または抑制するのに有用である。製剤の例には、外用のローション、クリーム、石鹸、拭き取り用品等が含まれる。
【0085】
また別の実施形態においては、複数の生菌の共生皮膚細菌を含む外用の生菌組成物が提供される。皮膚炎または蛋白分解酵素(例えば、セリン蛋白分解酵素)の活性増加に関連する他の皮膚疾患または障害の治療に使用される場合、該組成物が、皮膚上の蛋白分解酵素の活性を阻害する1種以上の細菌を含む。そのような場合、該生菌の共生皮膚細菌が凝固酵素の陰性ブドウ球菌種である。ある実施形態においては、該生菌の共生皮膚細菌が、S. epidermidis株、S. hominis株、S. warneri株及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。蛋白分解酵素の活性増加が望まれる場合(例えば、創傷の治療、皮膚の再構築等)、該生菌の共生細菌組成物が、増加された蛋白分解酵素の活性を有する、または皮膚蛋白分解酵素の活性を刺激する細菌(例えば、セリン蛋白分解酵素活性)を含む。この実施形態においては、例示的な共生細菌組成物は、黄色ブドウ球菌またはPSMα3を産生する病原性が減弱された黄色ブドウ球菌を含む。
【0086】
別の実施形態においては、該外用の生菌組成物が、皮膚上の蛋白分解酵素の活性を促進する生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む。様々な態様において、抽出物が生成される細菌は、黄色ブドウ球菌を含む。
【0087】
また別の実施形態においては、本質的に黄色ブドウ球菌の発酵抽出物のみ、または黄色ブドウ球菌との組み合わせからなる外用の生菌組成物が提供される。さらなる態様によれば、上記外用の生菌組成物が、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤に製剤化することができる。
【0088】
別の実施形態においては、該外用の生菌組成物が、生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む。様々な態様において、抽出物が生成される細菌は、凝固酵素の陰性ブドウ球菌種を含む。ある実施形態においては、該ブドウ球菌種が、agrのクオラムセンシングシステム及び/または皮膚中の蛋白分解酵素の産生または皮膚のマイクロバイオームを阻害するAIPを産生する、S. epidermidis株、S. hominis株、S. warneri株及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。ある実施形態においては、該AIPが、配列番号:10の共通配列、またはagrのクオラムセンシング調節活性を有する配列番号:4、11、12、13、14、15、16、または17と少なくとも98%同一である配列、及び/または式I、IAまたはIBの化合物を含む。
【0089】
また別の実施形態においては、本質的に、凝固酵素の陰性ブドウ球菌種の抽出物、または発酵エキス、または表皮ブドウ球菌発酵の単独抽出物、またはそれと凝固酵素の陰性ブドウ球菌種との組み合わせ、または表皮ブドウ球菌からなる外用の生菌組成物が提供される。別の実施形態においては、該組成物が、本明細書に記載の寄託微生物株(例えば、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C5及び/またはS. warneri G2)の1種以上を含む。
【0090】
さらなる実施形態によれば、上記外用の生菌組成物を、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤に製剤化することができる。
【0091】
別の実施形態においては、S. epidermidis株、S. hominis株、S. warneri株及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された細菌を発酵条件下で発酵させることにより得られる発酵抽出物が提供される。様々な態様において、そのような発酵抽出物は、皮膚上のセリン蛋白分解酵素の活性を阻害するために使用することができる。別の実施形態においては、該発酵抽出物が、本明細書に記載の寄託微生物株(例えば、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C5及び/またはS. warneri G2) のいずれか1種以上から得られる。さらなる実施形態によれば、該発酵抽出物を、ローション、シェークローション、クリーム、軟膏、ゲル、泡沫剤、散剤、固体物、糊状剤またはチンキ剤に製剤化することができる。
【0092】
別の実施形態においては、上記の外用の生菌組成物、上記の生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物、上記の生菌の共生皮膚細菌、及びそれらの任意の組み合わせを含む包帯または包帯材が提供される。様々な態様において、その主要な構成要素がマトリックス及び皮膚上の蛋白分解酵素の活性を阻害する生菌の共生皮膚細菌を含む包帯または包帯材が提供される。様々な態様において、その主要な構成要素がマトリックス及び皮膚上の蛋白分解酵素の活性を阻害する生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む包帯または包帯材が提供される。
【0093】
別の実施形態においては、上記の外用の生菌組成物、上記の生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物、上記の生菌の共生皮膚細菌及びそれらの任意の組み合わせを含む包帯または包帯材が提供される。様々な態様において、その主要な構成要素がマトリックス及び皮膚上の蛋白分解酵素の活性を促進する生菌の共生皮膚細菌を含む包帯または包帯材が提供される。様々な態様において、その主要な構成要素がマトリックスと皮膚の蛋白分解酵素の活性を促進する生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む包帯または包帯材が提供される。
【0094】
本開示は、蛋白分解酵素(例えば、セリン蛋白分解酵素の活性)に関連する皮膚の疾患または障害を治療する方法も提供する。そのような疾患または障害の例には、ネザートン症候群、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、湿疹、乾癬、にきび、表皮過角化症、表皮炎、表皮炎症、皮膚炎症及び掻痒症が含まれる。ある実施形態においては、疾患または障害の存在は、疾患または障害と疑われる被験者からのサンプル(例えば、皮膚または皮膚からの細菌の培養物)の蛋白分解酵素の活性を測定することにより最初に判断される。該サンプルが通常よりも高い蛋白分解酵素の活性(例えば、セリン蛋白分解酵素活性)を示す場合、被験者が、その皮膚を該製剤と接触させることにより、蛋白分解酵素阻害性の共生細菌の製剤で治療する。別の実施形態においては、蛋白分解酵素の活性が高く、細菌を持つ被験者からの培養物をin vitroで製剤と接触させ、該製剤に対する該培養物の感受性及び蛋白分解酵素に対する阻害効果を測定する。
【0095】
蛋白分解酵素を阻害する共生細菌の製剤または発酵抽出物は、1種以上の既知のセリン蛋白分解酵素阻害剤と組み合わせることができる。本開示の方法及び組成物で使用できる市販品及び臨床のセリン蛋白分解酵素の阻害剤が多く存在する。例えば、米国特許第5,786,328号、第5,770,568号または第5,464,820号に開示されているようなセリン蛋白分解酵素の阻害剤。それらの開示は参照により本明細書に組み入れる。例示的なセリン蛋白分解酵素の阻害剤の薬剤には、セリン蛋白分解酵素ポリペプチドまたはその機能的な断片に結合し、それを阻害する抗体、セリン蛋白分解酵素ポリペプチドを不活性のペプチドに分解する酵素及び基質類似体等が含まれる。セリン蛋白分解酵素の発現阻害剤には、例えば、セリン蛋白分解酵素ポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)の転写または翻訳を減少させるアンチセンス分子、リボザイム及び小分子薬剤(例えば、ビタミンD拮抗薬)が含まれる。本開示の一実施形態は、組織カリクレインの基質類似体に関する。これらの基質類似体が、組織カリクレインの位置388から390に対応するアミノ酸配列を持つペプチドを含む。ペプチドは、核酸配列のクローニング及び発現等組換え工学技術によって合成され、または遺伝的に製作され、また細菌、真菌、または細胞抽出物等の天然源から精製される。アミノ酸の構造的、化学的、物理化学的、命名法上の及び分析的な側面は、「アミノ酸化学」(JP Greenstein and M. Winitz editors、John Wiley&Sons、New York、NY、1961年、1984年再印刷)に記載され、本明細書では参照により具体的に組み入れる。該ペプチドが、天然に存在するアミノ酸、天然に存在しない(非コーディング)アミノ酸、合成されたアミノ酸、及びそれらの組み合わせ等の修飾された及び/または非修飾のアミノ酸を含む。該天然に存在するアミノ酸には、グリシン(Gly);アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、プロリン(Pro)等のアルキル側鎖を持つアミノ酸;フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)等の芳香族アミノ酸;セリン(Ser)、スレオニン(Thr)等のアミノ酸アルコール;アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)等の酸性アミノ酸;AspとGluのアミドであるアスパラギン(Asn)及びグルタミン(Gln)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)等の硫黄を含むアミノ酸;及びヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)等の塩基性アミノ酸が含まれる。非天然のアミノ酸には、例えば、オルニチン(Orn)、ノルロイシン(Nle)、シトラリン(Cit)、ホモシトラリン(hCit)、デスモシン(Des)及びイソデスモシン(Ide)が含まれる。修飾されたアミノ酸には、天然及び非天然のアミノ酸の誘導体及び類似体及び合成されたアミノ酸が含まれる。そのようなアミノ酸形態は化学的に修飾されている。例えば、塩素(Cl)、臭素(Br)、フッ素(F)、またはヨウ素(I)による1つ以上の活性部位のハロゲン化、または炭素を含む基によるアルキル化[例えば、メチル(Me)、エチル(Et)、ブチル(Bu)、アミノ(NH2またはNH3)、アミジノ(Am)、アセトミドメチル(Acm)、またはフェニル(Ph)基等]、またはリン(P)、窒素(N)、酸素(O)または硫黄(S)を含む基の追加によって修飾される。例えば、別のアミノ酸またはペプチド、または前駆体化学物質の水和、酸化、水素化、エステル化、または環化により修飾してもよい。例には、アミノ酸ヒドロキサメート及びデカルボキシラーゼ、ダンシルアミノ酸、ポリアミノ酸及びアミノ酸誘導体が含まれる。具体例としては、ガンマアミノ酪酸(GABA)、ヒドロキシプロリン(Hyp)、2位または3位で修飾されているアミノアジピン酸(Aad)、o-アミノ酪酸(AabまたはAbu)、セレノシステイン(SeCys2)、tert-ブチルグリシン(Bugまたはtert-BuGly)、N-カルバミルアミノ酸、アミノ酸メチルエステル、アミノプロピオン酸(またはβ-アラニン; 13-Ala)、アダメンチルグリシン(Adg)、アミノカプロン酸(Acp)、N-エチルアスパラギン(Et- asn)、アロヒドロキシリジン(aHyl)、アロイソロイシン(aIle)、フェニルグリシン(Phg)、ピリジルアラニン(Pal)、チエニルアラニン(Thi)、α-Δ-アミノ酪酸(Kbu)、α-β-ジアミノプロピオン酸(Kpr )、1-または2-ナプチチルアラニン(1Nalまたは2Nal)、オルトフルオロフェニルアラニン(Phe(oF))、N-メチルグリシン(MeGly)、N-メチル-イソロイシン(Melle)、N-メチル-バリン(MeVal)、2-アミノ-ヘプタン酸(Ahe)、2-または3-アミノイソ酪酸(Aib)、2-アミノピメリン酸(Dbu)、2-2'-ジアミノピメリン酸(Dpm)、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dpr)、及びN-エチルグリシン(EtGly)が含まれる。化学的に生成された非コード化アミノ酸には、例えば、フェニルグリシン(Ph-Gly)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、シクロヘキシルグリシン(Chg)及び4-アミノフェニルアラニン(Phe(4NH2)またはAph)が含まれる。修飾されたアミノ酸は、まったくアミノ酸ではない化学構造であってもよいが、実際にはアルキルアミン、糖類、核酸、脂質、脂肪酸または他の酸等の別の化学形態として分類される。ペプチドを含む修飾されたまたは非修飾のアミノ酸のいずれも、D-またはL-立体配座であっても、1つ、2つまたはそれ以上の互変異性体または共鳴体を含んでもよい。
【0096】
本明細書に開示される生菌の皮膚組成物を含む医薬組成物は、共生細菌(例えば、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C4、S. hominis C5、及び/またはS. warneri G2)、その操作された形態(例えば、減弱されたまたは遺伝子組換え)を含む。または、AIPペプチドコード配列を含む減弱された微生物は、局所的または全身的効果のための局所投与に適した任意の剤形に製剤化(乳濁液、溶液、懸濁液、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、軟膏、粉剤、ドレッシング、エリキシル、ローション、懸濁液、チンキ剤、糊状剤、泡沫剤、フィルム、エアロゾル、洗浄液、スプレー、座薬、包帯及び皮膚パッチを含む)することができる。また、本明細書に開示される生菌を含む外用の製剤は、リポソーム、ミセル、ミクロスフェア、ナノシステム及びそれらの混合物も含んでもよい。
【0097】
ある実施形態においては、共生細菌(例えば、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C4、S. hominis C5、及び/またはS. warneri G2)、その操作された形態(例えば、減弱されたもの、または遺伝子組換え)、または本明細書に記載のAIPペプチドコード配列を含む減弱された微生物を有する本明細書に開示の生菌の皮膚組成物を含む、包帯または包帯材が提供される。様々な側面においては、その主要な構成要素には、マトリックス及び共生細菌を含む生菌の皮膚組成物(例えば、S. epidermidis A11、S. hominis A9、S. hominis C4、S. hominis C5、及び/またはS. warneri G2)、その操作された形態(例えば、減弱されたもの、または遺伝子組換え)、または上記のAIPペプチドコード配列を含む減弱された微生物が含まれる、包帯または包帯材が提供される。様々な実施形態においては、その主要な構成要素がマトリックスと生菌の共生皮膚細菌または抽出物を含む包帯または包帯材が提供される。様々な側面においては、その主要な構成要素がマトリックスと生菌の共生皮膚細菌の発酵抽出物を含む包帯または包帯材が提供される。様々な側面においては、その主要な構成要素がマトリックスとグリセロールを含む包帯または包帯が提供される。ある実施形態においては、該包帯または包帯材が、皮膚の損傷または負傷の部位に付与される。別の実施形態においては、該包帯または包帯材が感染部位に付与される。
【0098】
「薬学的に許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤(必要に応じ、生菌の共生細菌に有害でない限り)、等張剤及び吸収遅延剤等を含むことを意図している。そのような薬学的な活性物質としての媒体及び試薬の使用は、当該分野において周知である。任意の従来の媒体または試薬が医薬組成物と適合しない場合を除いて、それらの治療用組成物及び治療方法における使用が意図される。補助的な活性化合物も組成物に配合できる。
【0099】
本明細書に開示される外用の製剤での使用に適した薬学的に許容される担体及び賦形剤としては、水溶性溶媒、水と混和できる溶媒、非水溶性溶溶媒、安定剤、溶解度向上剤、等張剤、緩衝剤、抗酸化剤、外用の麻酔薬、懸濁剤及び分散剤、湿潤剤または乳化剤、錯化剤、封鎖剤またはキレート剤、浸透促進剤、凍結防止剤、凍結保護剤、増粘剤及び不活性ガスが含まれるが、これらに限定されない。
【0100】
生菌を含む医薬組成物は、軟膏、クリーム、スプレー及びゲルの形態に製剤化されてもよい。適切な軟膏剤用の溶媒には、油性または炭化水素溶媒(ラード、安息香化ラード、オリーブ油、綿実油、その他の油、白色ワセリン等を含む);乳化または吸収溶媒(親水性ワセリン、ヒドロキシステアリン硫酸塩、グリセロール、無水ラノリン等);除水可能な溶媒(親水性軟膏等);水溶性軟膏用の溶媒(分子量の異なるポリエチレングリコールを含む);乳濁液溶媒、油中水(W/O)乳濁液、または水中油(O/W)乳濁液(セチルアルコール、グリセリルモノステアレート、ラノリン、ステアリン酸を含む)が含まれる(Remington:「The Science and Practice of Pharmacy」を参照)。これらの溶媒は皮膚軟化薬であるが、一般に酸化防止剤と防腐剤の添加が必要である。
【0101】
適切なクリームベースは、水中油または油中水であってもよい。クリーム用溶媒は水洗可能であってもよく、油相、乳化剤及び水相を含む場合がある。該油相が「内部」の相とも呼ばれ、一般にワセリンとセチルまたはステアリルアルコール等の脂肪アルコールで構成される。必ずではないが、通常、体積的に水相が油相より大きく、一般に保湿剤を含む。クリーム製剤中の乳化剤は、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、または両性の界面活性剤であってもよい。
【0102】
ゲルは、半固体物の懸濁液型のシステムである。単相ゲルは、液体担体の全体に実質的に均一な材料を含んでいる。適切なゲル化剤には、カルボマー、カルボキシポリアルキレン、CarbopolRTM等の架橋アクリル酸ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリビニルアルコール等の親水性ポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース等のセルロース系ポリマー、トラガカントゴム、キサンタンガム等のガム類、アルギン酸ナトリウム及びゼラチンが含まれる。均一なゲルを調製するために、アルコールまたはグリセリン等の分散剤を添加し、研和、機械による混合、及び/または撹拌でゲル化剤を分散させてもよい。
【0103】
別の実施形態においては、式Iの化合物及び/または本明細書に開示の共生生菌、その誘導体または類似体を含む医薬組成物は、単独で、または、生菌の利点を破壊しない限り、1種以上の他の治療薬(化学療法薬、抗生物質、抗真菌薬、鎮掻痒薬、鎮痛薬、蛋白分解酵素の阻害薬及び/または抗ウイルス薬を含むが、これらに限定されない。)と組み合わせて製剤化できる。
【0104】
本明細書で使用される外用の投与には、(皮内)皮膚、結膜、角膜内、眼内、眼、耳、経皮、経鼻、膣、尿道、呼吸器及び直腸における投与が含まれる。そのような外用の製剤は、目、皮膚、及び粘膜(例えば、口、膣、直腸)における癌の治療または抑制に有用である。市販の製剤の例として、外用のローション、クリーム、石鹸、拭き取り用品等が含まれる。
【0105】
加圧容器、ポンプ、スプレー、噴霧器、または噴霧吸入器で使用するための溶液または懸濁液は、エタノール、水溶性のエタノール、または本明細書に開示されている活性成分の分散、溶解、または放出延長のための適切な代替試薬、溶媒としての噴霧剤;及び/または界面活性剤(例えば、トリオレイン酸ソルビタン、オレイン酸、またはオリゴ乳酸)を含有するように製剤化することができる。
【0106】
侵食性マトリックスの形成に有用な材料には、キチン、キトサン、デキストラン、プルラン;寒天、アラビアゴム、カラヤゴム、ローカストビーンガム、トラガカントゴム、カラギーナン、ガッティゴム、グアーガム、キサンタンガム、スクレログルカン;デキストリン、マルトデキストリン等のデンプン;ペクチン等の親水性コロイド;レシチン等のリン脂質;アルギン酸塩; アルギン酸プロピレングリコール; ゼラチン; コラーゲン; エチルセルロース(EC)、メチルエチルセルロース(MEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CMEC、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、酢酸セルロース(CA)、プロピオン酸セルロース(CP)、酪酸セルロース等のセルロース (CB)、酢酸酪酸セルロース(CAB)、CAP、CAT、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、HPMCP、HPMCAS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートトリメリテート(HPMCAT)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)等のセルロース;ポリビニルピロリドン;ポリビニルアルコール; ポリ酢酸ビニル;グリセロール脂肪酸エステル; ポリアクリルアミド; ポリアクリル酸; エタクリル酸またはメタクリル酸の共重合体(EUDRAGIT, Rohm America, Inc.社, Piscataway, N.J.); ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート); ポリラクチド;L-グルタミン酸とエチル-L-グルタメートのコポリマー; 分解性乳酸-グリコール酸共重合体;ポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸; ホモポリマー等の他のアクリル酸誘導体;ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、(2-ジメチルアミノエチル)メタクリレート及び(トリメチルアミノエチル)メタクリレート塩化物のコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
またさらなる実施形態においては、本明細書に提供される組成物(例えば、生菌組成物、または式Iのペプチドまたは化合物を含む組成物)は、当該技術分野で知られている1種以上のステロイド薬と組み合わせることができる。該ステロイド薬には、アルドステロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、酢酸デオキシコルチコステロン、酢酸フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン(コルチゾール)、プレドニゾロン、プレドニゾン、メチルプレニゾロン、デキサメタゾン及びトリアムシノロンが含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
またさらなる実施形態においては、本明細書に提供される組成物(例えば、生菌組成物または式Iのペプチドまたは化合物を含む組成物)は、1種以上の抗真菌剤と組み合わせることができる。該抗真菌剤には、アモロルフィン、アンホテリシンB、アニデュラファンギン、ビフォナゾール、ブテナフィン、ブトコナゾール、カスポファンギン、シクロピロックス、クロトリマゾール、エコナゾール、フェンコナゾール、フィリピン、フルコナゾール、イソコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミカファンギン、ミコナゾール、ナフチフィン、ナスタミコナゾール 、セルタコナゾール、スルコナゾール、テルビナフィン、テルコナゾール、チオコナゾール及びボリコナゾールが含まれるが、これらに限定されない。
【0109】
本明細書に記載の治療用途で使用するため、本明細書にキット及び製品も記載される。そのようなキットが、バイアル、チューブ等の1つ以上の容器を収納するように区画化されたキャリア、パッケージ、または容器を含むことができ、各容器は、本明細書に記載の方法で使用される別個の要素の1つを含む。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ及び試験管が含まれる。該容器が、ガラスまたはプラスチック等様々な材料で形成されてもよい。
【0110】
例えば、該容器が、本明細書で提供される1種以上の組成物(例えば、生菌組成物、またはペプチドまたは式Iの化合物を含む組成物)を、本明細書で開示された別の薬剤と任意に組み合わせて含むことができる。そのようなキットには、本明細書に開示の組成物が、本明細書に記載の方法による使用に関する識別的な説明、ラベルまたは取扱説明書とともに任意に含まれる。
【0111】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために提供されるものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0112】
実施例1
初代ヒト角化細胞の培養 37℃及び5%CO2の条件下で、1xEpiLife定義の増殖サプリメント(ThermoFisher Scientific社)、60 μM CaCl2及び1x抗生物質-抗真菌薬(PSA; 100 U/mlペニシリン、100 U/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB; ThermoFisher Scientific社)が補われたEpiLife培地(ThermoFisher Scientific社)の中で新生児NHEK(ThermoFisher Scientific社, Waltham, MA)を培養した。実験では、NHEKを70%の培養密度まで増殖させた後、高カルシウムのEpiLife培地(2 mM CaCl2)で48時間分化させ、細菌の滅菌ろ過された上清で処理した。これらのヒト由来の市販細胞製品の使用には、インフォームドコンセントの必要がない。細菌上清の処理として、分化されたNHEKをEpiLife培地に対して5体積%の細菌の滅菌ろ過された上清で処理した。NHEKは継代3と5の間の実験のみに使用した。
【0113】
細菌の培養 37℃で、3%トリプシンの大豆ブロス(TSB; Sigma社、St. Louis、MO)の中で全ての細菌を300 RPMで振とうしながら培養した。黄色ブドウ球菌株Newman,USA300,113,SANGER252及び表皮ブドウ球菌株ATCC12228及びATCC1457を定常期まで24時間増殖させた後、遠心分離(4,000 RPM、室温、10分)し、上清を滅菌ろ過(0.22 μm)し、NHEKへ添加した。簡単に言えば、蛋白分解酵素ゼロの株を、25μg/mlリンコマイシン及び5μg/mlエリスロマイシンを含む3%TSBの中で24時間培養した後、さらに24時間だけ3%TSBの中で継代培養した。マウスの生きた黄色ブドウ球菌の細菌叢アッセイでは、2 x 106個の細菌の細菌叢生成ユニットを8-mm TSB寒天ディスクに塗布し、室温で30分間乾燥させた後、マウスの背側皮膚に加えた。
【0114】
マウス細菌のディスクモデル 細菌皮膚細菌叢のマウスモデルに雌のC57BJ/6Lマウス(8週齢)を使用した。簡単に言えば、背側皮膚の毛を除去するために、マウスの毛を剃り、ネアを2~3分間かけて塗布した後、アルコールワイプで毛を除去した。24時間回復させた後、3 x 8 mm のTSB寒天ディスクを、TSBのみ(溶媒コントロール)、またはディスクあたり2e6細菌叢生成ユニットの黄色ブドウ球菌(USA300)を含むマウスの背側皮膚に12時間塗布した。寒天ディスクの上にテガダームを塗って固定した。マウスを安楽死させた後、分析のため8-mmの全皮膚パンチ生検を採取した。
【0115】
切片上の酵素電気泳動 マウスの皮膚切片(厚さ10 μm)を1%tween-20水溶液で5分間かけて1回すすいだ。総蛋白分解酵素の活性を測定するため、37℃の加湿チャンバー内において、2μg/mlのBODIPY FLカゼイン総蛋白分解酵素の活性基質(Thermo-Fisher Scientific社)で該切片を4時間処理した。BODIPY FLカゼインを添加する30分前に、セリン蛋白分解酵素の阻害剤AEBSF(50 mM; Sigma社)を該切片に付与した。切片をリン酸緩衝生理食塩水で1回すすぎ、続いてDAPIを含まないProLong金退色防止のマウンティング培地(ThermoFisher Scientific社)とカバースライドを付与した。Olympus BX51(東京、日本)蛍光顕微鏡を用いて蛍光シグナルを測定した。
【0116】
蛋白分解酵素の活性測定 NHEK馴化培地を50 mlで96ウェル黒底プレート(Corning社、Corning、NY)に加え、メーカーの取扱説明書に従って、150μlの5μg/ml BODIPY FLカゼイン基質、2μg/mlのエラスチン(エラスターゼ様基質; ThermoFisher Scientific社)、または4μg/mlゼラチン(MMP基質; ThermoFisher Scientific社)を添加した。また、200 μMのペプチドBoc-Val-Pro-Arg-AMC(トリプシン様基質; BACHEM、Bubendorf社、スイス)を1x温浸緩衝液(ThermoFisher Scientific社)で150 μlのNHEK馴化培地に加えた。SpectraMAX Gemini EM蛍光光度計(ThermoFisher Scientific社)を用いて室温で2時間ごとに相対蛍光強度を24時間分析した。ex:485nm及びem:530 nmでBODIPY FLカゼインプレートを読み取った。ex:485 nm及びem:515 nmでエラスチン様及びMMP基質プレートを読み取った。ex:354 nm及びem:435 nmでトリプシン様基質プレートを読み取った。
【0117】
定量的なリアルタイムPCR Purelink RNA分離カラム(ThermoFisher Scientific社)を用い、メーカーの取扱説明書に従って、NHEKからRNAを分離した。Nanodrop分光光度計(ThermoFisher Scientific社)を用いてRNAを定量し、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad社、Irvine、CA)を用いて500 ngのRNAを逆転写した。遺伝子特異的プライマーとTaqMan探触子(ThermoFisher Scientific社)を用いてCFX96リアルタイム検出システム(Bio-Rad社)で定量的リアルタイムPCR反応を行った。
【0118】
免疫ブロット 細胞溶解のために、1x蛋白分解酵素の阻害剤カクテル(Cell Signaling Technology社、Danvers、MA)を含む冷たい1x放射免疫沈降アッセイ(RIPA)緩衝液(Sigma社)をNHEKに付加した後、擦過した。細胞溶解物を氷上で30分間インキュベートし、遠心分離(13,000 RPM、15分間、4℃)し、細胞の細片を除去した。ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce社、Rockford、IL)で蛋白質濃度を測定し、続いてサンプル40 mgを1%b-メルカプトエタノールを含む4x Laemmliサンプル緩衝液(Bio-Rad)に加え、95℃で7分間加熱し、サンプルを調製した。サンプルを4~20%トリス-グリシンプレキャストTGXゲル(Bio-Rad社)で泳動し、トランスブロットターボ転写システム(Bio-Rad)を用いて0.22-μmポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Bio-Rad社)に移した。 0.1%tween-20(LI-COR、リンカーン、NE)を含む1xオデッセイブロッキング溶液の中に室温で1時間ブロッキングし、一次抗体を用いて4℃で終夜染色した。PBST(0.1%tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水)で3回洗浄した後、室温でOdyssey(LI-COR社)蛍光二次抗体をオービタルシェーカーの上で膜に1時間かけて塗布した。さらにPBSTで3回洗浄し、赤外線画像装置(LI-COR)で分析した。Santa Cruz Biotechnologies社(Santa Cruz, CA)の一次抗体KLK5(H-55)、KLK6(H-60)、DSG-1(H-290)、FLG(H-300)及びa-tubulin(TU-02)を1:100希釈で使用した。Abcam社(Cambridge, UK)のKLK13(ab28569)及びKLK14(ab128957)抗体を1:1,000希釈で使用した。
【0119】
KLK遺伝子の発現抑制 RNAiMAX(ThermoFisher Scientific社)及びOptiMEM培地(ThermoFisher Scientific社)を用いて、15 nMまたは45 nMの特定のKLKサイレンサー選択siRNAまたはsiRNAスクランブル(-)コントロール(ThermoFisher Scientific社)でNHEKを24時間処理した。高カルシウム培地(2 mM CaCl2)でNHEKを48時間分化させ、滅菌ろ過された黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清で24時間処理し、NHEK溶解液と馴化培地の分析を行った。
【0120】
統計分析 P値<0.05が有意とされる統計分析には、一元配置分散分析と二元配置分散分析の両方を使用した。結果の統計分析にGraphPad prism version 6.0(GraphPad社、La Jolla、CA)を使用した。
【0121】
ブドウ球菌はヒト角化細胞の蛋白分解酵素の活性に影響を与える。
ヒトの皮膚に見られる様々な細菌株が角化細胞の蛋白分解酵素活性を誘発できるかどうかを評価するために、健常人の表皮角化細胞(NHEK)の初代培養液を、2つのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌株(USA300及びSANGER252)と2つのメチシリン感受性の黄色ブドウ球菌株を含む黄色ブドウ球菌の4つの異なる実験室分離株からの滅菌ろ過された培養上清で処理した。2つの表皮ブドウ球菌の分離株(ATCC12228及びATCC1457)についても試験した。滅菌細菌の培養上清への曝露から24時間後、角化細胞の培養培地を、トリプシン様、エラスターゼ様、またはマトリックスメロ蛋白分解酵素(MMP)活性に選択的な基質を用いて蛋白分解酵素の活性について分析した。NHEK馴化培地には、黄色ブドウ球菌株Newman及びUSA300で処理した後のトリプシン活性が有意に多く含まれていた(
図1a)。MMPとエラスターゼの両方の活性は、表皮ブドウ球菌ATCC12228株によって増加させたが、黄色ブドウ球菌のUSA300及びSANGER 252株と表皮ブドウ球菌株ATCC1457は、NHEK馴化培地ではエラスターゼ活性をより低い程度まで増加させた(
図1b及びc)。NHEK馴化培地では観察された蛋白分解酵素の活性増加がNHEKに由来し、細菌自体によって生成されたものではないことを確認するために、NHEKが存在すると存在しない培養ウェルに黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清を加えた後、トリプシン活性を分析した。同濃度の黄色ブドウ球菌の希釈上清をNHEK培地のみに添加した場合、NHEKの非存在下では酵素活性は検出されなかった(
図1d)。
【0122】
黄色ブドウ球菌は表皮セリン蛋白分解酵素の活性を増加させる。
特定の黄色ブドウ球菌株(Newman及びUSA300)によって誘発されるトリプシン活性の大幅な増加及びこの活性が黄色ブドウ球菌によって媒介される疾患において持つ潜在的な役割により、該細菌がNHEKにおいてどのように蛋白分解酵素の活性を誘発するかについてよりよく理解するために、該生物に焦点を当てた実験を行った。蛋白分解酵素の黄色ブドウ球菌に対する応答の動態を評価するために、角化細胞を黄色ブドウ球菌(Newman社)からの滅菌ろ過された培養物の上清で0、8、24及び48時間処理し、蛋白分解酵素分析のためにNHEK馴化培地を採取した。NHEKの馴化培地における総蛋白分解酵素活性の測定は、黄色ブドウ球菌の上清へ暴露した後、総蛋白質分解の活性は時間に依存して増加することが示された(
図2a)。セリン蛋白分解酵素の阻害剤アプロチニンの添加により、この活性はセリン蛋白分解酵素によるものであることが確認された(
図2b)。
図1aに示されたように、これはトリプシン様活性の増加を観察したことと一致した。黄色ブドウ球菌USA300 LAC野生型と蛋白分解酵素欠損株の比較により、野生型と蛋白分解酵素欠損株の両方がNHEK馴化培地におけるトリプシン活性を増加させたことが示されたが、蛋白分解酵素の欠損株は、野生型株と比べて、トリプシン活性を誘発する能力が有意に低下した(
図2c)。まとめとして、これらのデータにより、黄色ブドウ球菌が内因性NHEKセリン蛋白分解酵素の活性を増加させ、黄色ブドウ球菌蛋白分解酵素と他の黄色ブドウ球菌産物がこの細菌の角化細胞を活性化させる能力に寄与することが確認された。
【0123】
表皮蛋白分解酵素の活性に対する黄色ブドウ球菌の作用をさらに検証するために、生きた黄色ブドウ球菌(USA300)をマウスの背側皮膚に塗布した。次いで、塗布部位の皮膚を生検し、切片し、セリン蛋白分解酵素の阻害剤4-ベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)の存在下または非存在下で切片上の酵素電気泳動により総蛋白分解酵素の活性を分析した。総表皮蛋白分解酵素の活性は、寒天ディスクのみで処理した皮膚と比較して、黄色ブドウ球菌で処理した後の表皮で定性的に増加し、蛍光の増加によって検出された活性の増加は、AEBSFによるセリン蛋白分解酵素の活性の阻害により大幅に排除された。基質なしのコントロールを含む全ての切片において、毛包でのバックグラウンド自己蛍光が観察された。これらの観察により、黄色ブドウ球菌の存在が表皮における蛋白分解酵素の活性を増加できることがさらに示された。
【0124】
黄色ブドウ球菌は角化細胞におけるKLK発現を増加させる。 KLKは、トリプシン様またはキモトリプシン様活性を有する表皮における豊富なセリン蛋白分解酵素ファミリーである。黄色ブドウ球菌が角化細胞のKLK mRNAの発現を変化させることができるかどうかを判断するために、NHEKを黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清で24時間処理し、KLK1-15の発現を定量リアルタイムPCRで測定した。KLK5は最も高い相対mRNA量を示したが、KLK6、13及び14は、黄色ブドウ球菌への暴露後に一貫して最大倍数の増加を示した(
図3a~e)。分析された他の全てのKLKは、発現の低下を示したKLK1を除き、黄色ブドウ球菌への暴露後にmRNA発現のわずかな増加を示した。KLK2、3及び15のmRNAは検出されなかった。
【0125】
次に、細胞溶解物及びNHEK馴化培地の両方を、黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清による処理の後にKLK蛋白質発現の変化について分析した。KLK6及び14のイムノブロッティングは、細胞溶解物と馴化培地の両方で黄色ブドウ球菌の上清による処理の後に、これらのKLK蛋白質発現の増加を示したが、KLK13は馴化培地でのみ増加した。黄色ブドウ球菌の上清による処理の後に、KLK5の発現に変化はなかった(
図3f)。
【0126】
KLK6、13及び14は角化細胞セリン蛋白分解酵素の活性増加に寄与する。 黄色ブドウ球菌の暴露後、KLK6、13及び14はNHEKで最大の発現増加を示したため、これらのKLKが観察されたセリン蛋白分解酵素の活性増加の原因であるかどうかを調べるために実験を行った。低分子干渉RNA(siRNA)を用いて、それらの発現を選択的に抑制した。KLK6及びKLK13のsiRNAは、黄色ブドウ球菌によるトリプシン活性を有意に低下させたが、KLK14はトリプシン活性をそれほど低下させなかった。相加効果は観察されなかったが、KLK6、13及び14のトリプルノックダウンも、コントロールsiRNAからのトリプシン活性の有意な減少を示した(
図4a)。興味深いことに、KLK6、13及び14のトリプルノックダウンにより、KLK13及びKLK14のノックダウン効率が低下した。これは、トリプシン活性に対する相加効果が欠如することを説明しているかもしれない(
図4b~d)。
【0127】
黄色ブドウ球菌はKLKの誘導によるデスモグレイン-1及びFLGの分解を促進する。 デスモグレイン-1(DSG-1)とFLGは両方とも、表皮皮膚の完全性を調節することにおいて重要である。免疫ブロットにより、NHEKを黄色ブドウ球菌(Newman社)の上清に曝露すると、全長DSG-1(160 kDa)の切断が促進され、DSG-1切断がKLK6、13、または14のsiRNAサイレンシングによって阻止されたことが示された(
図5a)。免疫ブロット上の250 kDa以上のバンドで示される、NHEKにおける黄色ブドウ球菌によるプロフィラグリン(Pro-FLG)の切断も、KLK6及びKLK13のsiRNAサイレンシングによって部分的に阻止された(
図5b)。濃度測定の分析では、KLK6、13及び14ノックダウンがDSG-1またはPro-FLGの切断を防ぐ能力をさらに示している(
図5c)。まとめとして、これらの観察から、KLK6、13及び14の誘導によって角化細胞の蛋白質分解の活性を増加させる黄色ブドウ球菌の能力が、正常な表皮の維持に不可欠な分子の温浸につながることを示された。
実施例2
【0128】
細菌の調製 本研究に用いられた全ての細菌のリストを表Aに記載する。全てのブドウ球菌株(S. aureus, S. epidermidis, S. hominis, S. warneri, S. capitis及びS. lugdunensis)を、アッセイに応じて4mLまたは400μLの容量で37℃のインキュベーターの中、250RPMで、3%トリプシン大豆ブロス(TSB)の中で定常期まで24時間増殖させた。表Aに示されている抗生物質を選択し、5μg/mL Erm、25μg/mL Lcm及び10μg/mL Cmの濃度で特定の株を増殖させた。ヒト角化細胞またはマウス皮膚上の細菌の上清を処理するために、24時間培養された細菌を沈渣させ(15分、4,000RPM、室温)、その後上清のろ過滅菌(0.22μm)を行った。S. hominis C5及びS. epidermidis RP62A株を用いたマウス及びヒトの角化細胞実験の場合、細菌の滅菌ろ過された上清を3kDaサイズ排除カラム(Amicon Ultra-15遠心フィルター、Millipore社)でろ過し、3kDa未満の画分を採取し、凍結乾燥機を用いてさらに10倍に濃縮し、処理前に分子級のH2Oに再懸濁した。いくつかの技法を用いてS. hominis C5の上清についてさらに生化学的な試験を行った。室温で硫酸アンモニウムを1時間沈殿させ(80%)、その後、小分子のペプチドを分離するために遠心分離(30分、4,000RPM、室温)し、H2Oで沈殿(ペレット)を再懸濁させた。さらに、S. hominis C5の上清を2M NaOHで1時間かけてpH 11に上げた後、2M HClでpH 1~14の条片を用いて上清のpHを約6.5の初期pHに戻し、黄色ブドウ球菌のagrレポーター株に添加した。
【0129】
【0130】
健常人の角化細胞の培養
37℃及び5%CO2の条件下で、60μM CaCl2 (Thermo Fisher Scientific社)を含有し、1xEpiLife定義の増殖サプリメント(EDGS、ThermoFisher Scientific社)及び1x抗生物質-抗真菌薬(PSA; 100 U/mlペニシリン、100 U/mlストレプトマイシン、250 ng/mlアンホテリシンB; Thermo Fisher Scientific社)が補われたEpiLife培地(ThermoFisher Scientific社)の中で正常な新生児のヒト表皮角化細胞(NHEK; Thermo Fisher Scientific社)を培養した。NHEKは、継代3と5の間の実験のみに使用した。実験では、NHEKSを70%の培養密度まで増殖させた後、高カルシウムEpiLife培地(2mM CaCl2)の中で48時間分化させ、表皮の上層を刺激した。細菌上清の処理では、分化したNHEKを、Epilife培地に対して5%の滅菌ろ過された細菌上清で24時間処理した。合成PSMの処理も同様にDMSOの中で5~50μg/mLのペプチドをNHEKに24時間かけて加えた。
【0131】
黄色ブドウ球菌表皮のマウスモデル
凡例図で指定されているように性別と年齢をマッチングされた8週齢の雄または雌のC57BL/6(Jackson社)マウスを全ての実験(n=3~6)に使用した。全ての動物実験は、施設内動物管理使用委員会に承認された。マウスの毛を剃り除き、ネアを2~3分間かけて塗布し、その後アルコールワイプで速やかに除去した。細菌を塗布する48時間前に、皮膚を脱毛から回復させた。黄色ブドウ球菌(1e7 CFU)の3%TSB液を、マウスの皮膚に48~72時間かけて100μL/滅菌グアーズ1.5cm2の容量で塗布した。この処理を維持するために、テガダームをグアーズの上に塗布した。黄色ブドウ球菌のagr阻害実験では、グアゼに塗布する直前に生きた黄色ブドウ球菌C5(10:1)または10倍濃縮<3 kDaの滅菌ろ過された共生細菌の上清(1:1)を3%TSBの黄色ブドウ球菌と混合した。
【0132】
合成されたフェノールに可溶なモジュリンの調製
全ての合成されたフェノールに可溶なモジュリン(PSM)は、LifeTein社(Hillsborough、NJ)によって生産された。ペプチドは、N末端ホルミル化(f)により純度95%で生産された。PSM配列は次のとおりである。
PSMα1:f-MGIIAGIIKVIKSLIEQFTGK (配列番号:5)、
PSMα2: f-MGIIAGIIKFIKGLIEKFTGK (配列番号:6)、
PSMα3: f-MEFVAKLFKFFKDLLGKFLGNN (配列番号:7)、
PSMα4: f-MAIVGTIIKIIKAIIDIFAK (配列番号:8)、
PSMβ2: f-MTGLAEAIANTVQAAQQHDSVKLGTSIVDIVANGVGLLGKLFGF (配列番号:9).
ペプチドをDMSOの中に再懸濁し、speedvacで500mgの粉末保存品に濃縮し、実験時のDMSOによる再構成まで-80℃で保存した。
【0133】
RNAの単離及び定量的なリアルタイムPCR
Purelink RNA分離キットを用いて、メーカー(Thermo Fisher Scientific社)の取り扱い説明書に従って、全てのRNAを分離した。NHEKの場合、350μLのRNA溶解緩衝液(1%β-メルカプトエタノールを含む)を細胞に直接添加した。マウス組織の場合、氷上で5分間、750μLのRNA溶解緩衝液の中で0.5 cm2の全層皮膚をビードビーズ(2x 30秒、2.0 mmジルコニアビーズ)した。その後、組織を遠心分離(10分、13,000 RPM、4℃)し、350μLの透明な溶解物を70%EtOHに加え、RNAをカラムベースで分離した。黄色ブドウ球菌のRNA分離では、1x109 CFU細菌を2:1の比率のRNAprotect(Qiagen社)で10分間インキュベートした後、遠心分離(10分、13,000 RPM、室温)し、750μLのRNA溶解緩衝液の中での再懸濁し、溶解マトリックスBチューブ及びFastprep-24(MP Biomedicals社)を用いてビーディングビーティング(2x 1 min 6.5スピード)した。その後、サンプルを再度遠心分離し、350μLの透明な溶解物を上記のように70%EtOHに加えた。RNAを分離した後、サンプルをNanodrop(Thermo Fisher Scientific社)で定量し、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad社)を用いて500ngのRNAを逆転写した。qPCR反応は、CFX96リアルタイム検出システム(Bio-Rad社)で行った。哺乳類の細胞については、遺伝子特異的プライマー及びTaqMan探触子(Thermo Fisher Scientific社)をハウスキーピング遺伝子としてGAPDHとともに使用した。
【0134】
RP62Aの形質転換受容性細胞の生成及び形質転換
電気形質転換受容性のRP62A細胞を調製した。簡単に言えば、表皮ブドウ球菌RP62Aの終夜培養物を、予熱されたBrain Heart Infusion(BHI社)ブロスでOD600nmが0.5になるように希釈し、37℃でさらに30分間振とうしながらインキュベートし、遠心管に移し、氷上で10分間冷却した。遠心分離(10分、4000RPM、4℃)により細胞を採取し、1容量、1/10容量、次に1/25容量の冷たいオートクレーブ水で連続して洗浄し、各洗浄後に4℃で再沈渣した。最終洗浄の後、細胞を1/200容量の冷たい10%滅菌グリセロールの中で再懸濁し、-80℃で保存するために50μLずつチューブに分注した。表皮ブドウ球菌RP62Aの形質転換を行った。簡単に言えば、凍結した形質転換受容性の細胞を氷上で5分間、そして室温で5分間解凍した。解凍した細胞を短時間遠心分離(1分、5000 g、室温)し、500 mM蔗糖が補われた50μLの10%グリセロールにペレットを再懸濁した。DNAを添加した後、細胞を1 mmキュベットに移し、Micropulser(Bio-Rad社)の上に2.1 kV、時定数1.1ミリ秒で瞬間付与した。電気穿孔の直後に、500mM蔗糖を含む1mLのBHIブロスに細胞を再懸濁し、30℃で1時間振とうした後、30℃で10μg/mLクロラムフェニコール(Cm)を含むBHI寒天の上に播種した。
【0135】
表皮ブドウ球菌RP62A AIPの対立遺伝子置換
対立遺伝子置換プラスミドpMAD(50)を用いて、表皮ブドウ球菌RP62AにおけるagrDのAIPコード配列のインフレーム欠失を選択的に生成した。簡単に言えば、約1000bpのRP62Aの該AIP配列の上流及び下流の断片をPCRで増幅し、重複拡張または「SOEing」による遺伝子継ぎ合わせによって結合した。縫い付けられた断片とpMADベクターをBamHIとSalIで消化し、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs社)で連結し、続いて表皮ブドウ球菌クローン複合体10プラスミド人工修飾大腸菌株DC10B-CC10を化学的に形質転換するために用いた。形質転換体は、37℃で100μg/mL Amp及び30μg/mL Cmを含むLBの上に播種した。制限消化及び配列決定を行い、形質転換体が正しいかどうかを検証した。検証されたコンストラクトをpMAD :ΔAIPと注解した。次に、電気形質転換受容性のRP62Aを~5μgのDC10B-CC10由来のpMAD :ΔAIPで形質転換し、30℃で10μg/mL Cm及び50μLの40 mg/mL 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(X-Gal)を含有するBHI寒天にプレーティングした。単一の青いコロニーを採取し、10μg/mL Cmを含むBHIの中、30℃で終夜増殖させた。次に、終夜した培養物を抗生物質なしの新鮮な予熱されたBHIに1:100(最終容量100mL)に希釈し、43℃で24時間インキュベートした。43℃における希釈と増殖をさらに繰り返し、10μg/mL Cm及び50μLの40 mg/mL X-Galが補われたBHI寒天の上で増殖した水色のコロニーを43℃で採取することにより、単一乗換え現象を促進した。水色のコロニーを採取し、30℃で抗生物質を含まないBHIで終夜インキュベートし、二重交差現象を促進した。この終夜した希釈液を、50μLの40mg/mL X-Galが補われたBHI寒天の上にプレーティングし、37℃で終夜インキュベートした。白色コロニーを採取し、10μg/mL Cmまたは50μLの40 mg/mL X-Galが補われたBHI寒天の上にパッチした。Cmの存在下で増殖できず、X-Galの存在下で白色のままであったコロニーを採取し、配列決定によりAIPコード配列の欠失についてスクリーニングした。 検証された変異株を表皮ブドウ球菌RP62AΔAIPと注解した。
【0136】
RNA配列解析
RNAをカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のゲノムコア施設に提出し、ライブラリーの準備と配列決定を行った。TruSeq mRNA Library Prepキット(Illumina社)を用いて、ライブラリーを調製し、HiSeq 2500シーケンサー(Illumina社)でハイスループットシーケンスを行った。 Partek Flow及びPartek Genomics Suiteソフトウェアを用いてデータを分析し、PANTHER分類システム(http[://]pantherdb.org)を用いて遺伝子概念の体系的分析を行った。
【0137】
組織学的検査
マウスの全皮膚(0.5cm2)を採取し、パラホルムアルデヒド(4%)に固定し、PBSで洗浄した後、30%及び10%蔗糖で終夜インキュベートし、ドライアイスを含むOCT封入剤で組織を凍結した。クリオスタットの切片(10 mm)をSuperfrost Plusガラススライド(Fisher Scientific社)にマウントし、ヘマトキシリンとエオシン(H&E社)で染色した。 切片は、75%~100%のEtOHグラジェントで5分間隔でインキュベートし、キシレン中でインキュベーションし、パラマウントとスライドガラスでマウントした。写真は、Olympus BX51(東京、日本)の蛍光顕微鏡を用いて200倍の倍率で撮影した。
【0138】
サイトカインレベルの測定
NHEKからの馴化培地(25μL)を用いて様々なサイトカインの蛋白質濃度を測定した。Magpix 200(Luminex社)システムのメーカーの取扱説明書に従って、3つのヒトサイトカイン(IL-6、IL-8、TNFα)の磁気ビーズベースのミリプレックスアッセイキット(Millipore社)を用いた。ELISA(R&D Systems社)により、ヒトIL-1α及びIL-36αを定量した。
【0139】
細菌性CFUの定量
37℃のインキュベーターの中で、テルル酸を含む3%卵黄乳濁液を含有するBaird-parker寒天(BD)プレートに、10-1から10-5の連続希釈液(10μL)を24時間プレーティングし、該CFU株を計数し、黄色ブドウ球菌の細菌叢ユニット(CFU)を定量した。分光光度計を用いて、PBSで1:20に希釈した細胞のOD600nmも測定し、全てのブドウ球菌株の細菌CFUも概算した。
【0140】
経表皮の水分損失の測定
表皮皮膚への損傷を測定するために、TEWAMETER TM300(C&K社)を用いて黄色ブドウ球菌で48~72時間処理したマウス皮膚の経表皮の水分損失(TEWL)を測定した。
【0141】
トリプシン活性の分析
50μLのNHEK馴化培地を黒色の96ウェル黒底プレート(Corning社)に加え、続いて150μLのペプチドBoc-Val-Pro-Arg-AMC(トリプシン様基質; BACHEM社)を1xで最終濃度200μMの温浸緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 7.8)で加え、37℃で24時間インキュベートした。SpectraMAX Gemini EM蛍光光度計(Thermo Fisher Scientific社)を用いて相対蛍光強度(ex:354nm、em:435nm)を分析した。マウスの皮膚トリプシン活性を分析するために、1cmの1M酢酸中の0.5cm2の全層皮膚をビードビート(2.0 mmジルコニアビーズ、2x 30秒、各5分)し、4℃で終夜回転させた。サンプルを遠心分離(10分、13,000 RPM、4℃)し、新しい微量遠心管に入れ、speedvacを用いて蛋白質を濃縮し、残留の酢酸を全て除去した。蛋白質を分子級の水(500μL)に再懸濁し、4℃で終夜回転させた後、再度に遠心分離した。透明な蛋白質溶解物を新しいチューブに入れ、BCA(Bio-rad社)分析により蛋白質濃度を測定した。最後に、10μgの総蛋白質を96ウェルプレートに加え、トリプシン基質で上記のように分析した。
【0142】
黄色ブドウ球菌のagr活性
黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型 P3-YFP(AH1677)、または黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型 pAmi P3-Lux(AH2759)レポーター株のいずれを用いて、黄色ブドウ球菌のagr活性を検出した。in vitroの実験では、黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型 P3-YFPの1e6 CFUを、100μLの滅菌ろ過された共生上清(体積で25%)とともに300μL の3%TSBに加え、37℃で24時間振とう(250RPM)した。その後、細菌をPBSで20倍希釈し(最終的に200μL)、上記の蛍光光度計を用いてYFP(ex:495nm、em:530nm)を検出し、分光光度計でOD600nmでの読み取りを用いて細菌密度を測定した。マウス実験では、IVISマシンを用いて、LiveImagingソフトウェア(PerkinElmer社)を用いて放出された光子(p/sec/cm2/sr)を測定することにより、2分間の暴露後の発光強度を評価し、黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型pAmi P3-Luxの活性を測定した。
【0143】
ゲノム配列決定及び組み立て
DNeasy UltraClean Microbialキット(Qiagen社)を用いてS. hominis C5ゲノムDNAを分離した。ライブラリーについては、MiSeqプラットフォーム(Illumina Inc.社、San Diego, CA)を2サイクル用いて配列を測定し、2x250bpのペアエンドリードを生成した。cutadapt(Ver.1.9.1)を用いてアダプターを除去した(http[://]cutadapt .readthedocs.io/en/stable/)。初期設定のパラメーターでTrim Galore(Ver.1.9.1)を用いて低品質の配列(品質スコア<30)を除去した(https[://][www.]bioinformatics.babraham.ac.uk/ projects/trim_galore/)。Bowtie2(Ver.2.2.8)(51)を用いて、次のパラメーター(-D 20 -R 3 -N 1 -L 20 --very-sensitive-local)及びヒト参照ゲノムhg19(UCSC Genome Browser)を用いて品質がトリミングされたデータセットからヒトゲノムへの配列マッピングを除去した。k-merの長さが33~127範囲内のSPAdes (Ver. 3.8.0) (52)フィルターで処理された読み取りを新規に組み立てた。ゲノムについては、初期設定のパラメーターを用いたサブシステムテクノロジー(RAST社)を用いて、微生物ゲノムの迅速な注釈を付けた。注釈付きCDSからのアミノ酸配列(コードDNA配列)を、Uniprotデータベース(2017年10月にダウンロード)から得られた細菌のagr蛋白質に整列させた。次の3つの基準に従って、組み立てられたゲノムからのAgr遺伝子を特定した:i) 配列の同一性> 60%;ii)e-値<e100及びiii) agr遺伝子座組織、4つの遺伝子のオペロン、agrBDCA。
【0144】
ミクロビオームデータ及びゲノムの比較分析
アトピー性皮膚炎の皮膚について公開されているショットガンメタゲノムデータを分析した。公開されている補足資料([www.]sciencetranslationalmedicine.org/cgi/content/full/9/397/eaal4651/DC1)から黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌株を直接に得た。Agr Dの特性解析は、紅斑AD皮膚の7つの異なる身体部位の情報と客観的SCORADに基づくAD重症度の異なる8人の患者(AD01、AD02、AD03、AD04、AD05、AD08、AD09及びAD11)に限定した。agrD遺伝子領域内における既知のagrI~III型配列とのアミノ酸配列の比較で評価された61の表皮ブドウ球菌株をagr I型、II型、またはIII型として分類した。
【0145】
定量及び統計分析
AD患者のメタゲノムデータの統計的有意性分析にノンパラメトリックMann-Whitney検定を使用した。様々な図の説明に示されているように、統計分析用の一元配置分散分析または二元配置分散分析のいずれかを用いた。全ての統計分析は、GraphPad Prism Ver.6.0(GraphPad社、La Jolla、CA)を用いて行った。全てのデータは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として示され、P値が0.05以下であれば有意とみなされる。
【0146】
黄色ブドウ球菌によって産生されたPSMα及び蛋白分解酵素は、表皮の損傷を誘発する。 ヒト皮膚の主な機能は、外部環境に対する物理的なバリアを確立することである。黄色ブドウ球菌によって産生されたフェノールに可溶なモジュリン(PSM)等の特定な毒素は、上皮の炎症を促進する可能性があり、AD(19-22)における疾患を促進する鍵となることが提案されている。従って、皮膚表面の黄色ブドウ球菌が表皮において炎症活性にどのように影響するかを理解するため、健常人の表皮角化細胞(NHEK)について、そのPSMαまたはPSMbオペロンのいずれかに標的欠失がある黄色ブドウ球菌USA300 LAC株に暴露されたときの蛋白質分解活性を発現する能力を評価した。トリプシン様セリン蛋白分解酵素活性の誘導とカリクレイン6(KLK6)のmRNAレベルの増加にはPSMαの産生が必要であった(
図14A~B)。黄色ブドウ球菌中のPSMα及びPSMβオペロンは、PSMα1-4及びPSMβ1-2を含む別個のペプチドを含有している。従って、合成PSMα1-4及びPSMβ2ペプチドをNHEKで試験し、全てのPSMαペプチドがトリプシン活性を刺激できるが、PSMβ2はこれができないことが分かった(
図14C)。NHEKの中で最も強力なPSMαトリプシン活性誘導物質であるPSMα3を選択し、NHEKでトリプシン活性及びKLK6 mRNA発現を用量及び時間の両方に依存して刺激できることをさらに示した(
図18)。さらに、PSMα3に暴露されたNHEKのRNA-Seqによる転写プロファイリングは、この毒素が皮膚(複数の蛋白分解酵素(KLK、MMP)、物理的の成分[複数の蛋白分解酵素(KLK、MMP)、物理的の成分(フィラグリン、デスモグレイン-1、ロリクリン、インボルクリン、ケラチン)、抗菌ペプチド及びサイトカインを含む]に関連する遺伝子の発現に広範囲で影響を与えることを示した(
図14D~E、
図18)。
【0147】
in vivoでの表皮に対するPSMαオペロンの役割を検証するため、マウスに、同じ数の黄色ブドウ球菌USA300 LAC野生型またはPSMα変異株を皮膚表面に72時間コロニー形成させた。野生型黄色ブドウ球菌は、紅斑、スケーリング及び表皮肥厚を誘発したが、PSMαの非存在の場合では細菌量の変化は観察されなかった(
図14F)。表皮の厚さの増加にもかかわらず、皮膚の損傷を評価するための確立された方法である経表皮の水分損失(TEWL)の増加が、野生型黄色ブドウ球菌への暴露後に観察されたが、PSMαが存在しない場合は観察されなかった(
図14G)。ただし、in vivoにおける完全に分化された表皮皮膚の破壊黄色ブドウ球菌蛋白分解酵素の発現にも依存した。オーレオリジン、V8、スタホパインA/B及びSplA-Fを含む10種の主要な分泌された蛋白分解酵素を欠く黄色ブドウ球菌USA300 LAC変異株を用いて、損傷の明らかな証拠及びTEWLの増加は、完全に無傷なPSMα発現にもかかわらず、黄色ブドウ球菌の蛋白分解酵素が欠損する程に減少した(
図14F、H)。肉眼的や組織学的に観察されたPSMα、または細菌の蛋白分解酵素に関連する変化と同時に、角化細胞トリプシン活性の減少、Klk6転写物の発現及びサイトカインIl6、Il17a、Il17fは、野生型黄色ブドウ球菌に曝露したマウスのみにおいて測定されたが、PSMαまたは蛋白分解酵素の欠損株においては測定されなかった(
図19)。さらに、皮膚のと皮膚の炎症環境の変化にもかかわらず、黄色ブドウ球菌の存在量はこれらの条件下で皮膚の表面では変化しなかった(
図14I~J)。まとめると、これらのデータから、黄色ブドウ球菌からのPSMα及び蛋白分解酵素の活性産生が表皮への損傷をもたらし、黄色ブドウ球菌が炎症を促進するため、該の損傷を必要としていることが示唆された。
【0148】
表皮ブドウ球菌自己誘導ペプチドは黄色ブドウ球菌のagr活性を阻害する。 興味深いことに、黄色ブドウ球菌のPSMαペプチドと分泌された蛋白分解酵素の両方は、agrのクオラムセンシングシステムの規制下にある。さらに、黄色ブドウ球菌の臨床分離株は、4つの異なるagr型を持ち、agr I型がAD被験者で最も顕著であることが分かっている。黄色ブドウ球菌の皮膚細菌叢はADで増加するが、豊富なヒト皮膚共生生物である表皮ブドウ球菌を含む凝固酵素の陰性ブドウ球菌(CoNS)株等の他の細菌種も存在し、これにより、これらの細菌がどのようにコンミュニケートするかを理解することが不可欠である。表皮ブドウ球菌のagr I型実験室分離株は、Agrクロストークメカニズムを介して黄色ブドウ球菌agrのI~III型システムを阻害し、IV型を阻害しない自己誘発ペプチド(AIP)を生成することが示されているが、一方、他の表皮ブドウ球菌agrのII及びIII型の黄色ブドウ球菌のagr活性に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。表皮ブドウ球菌のagr活性が黄色ブドウ球菌のagrシステムに影響を与えるかどうかを調べるために、agr I型、II型、またはIII型の表皮ブドウ球菌株から馴化された培養の上清を黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型レポーター株に加えた。この実験により、表皮ブドウ球菌のagr I型が黄色ブドウ球菌のagr活性の唯一の強力な阻害剤であるが、表皮ブドウ球菌のagrII型及びIII型はほとんど効果がないことが確認された(
図15A)。agrD遺伝子領域内の表皮ブドウ球菌のagr I型AIPの標的となる欠失は、表皮ブドウ球菌の黄色ブドウ球菌のagr活性に対する阻害力を消滅した(
図15B~C)。黄色ブドウ球菌PSMαに誘導されたNHEKトリプシン活性は表皮損傷の構成要素であるため、表皮ブドウ球菌のagr I型の野生型またはAIPノックアウト株について試験し、この結果に影響を与えるかどうかを判断した。黄色ブドウ球菌を野生型の表皮ブドウ球菌のagr I型の上清の存在下で培養すると、黄色ブドウ球菌に誘導されたNHEKトリプシン活性が阻害されることが観察されたが、該AIPを欠く表皮ブドウ球菌では観察されなかった(
図15D)。全体として、これらの実験は、黄色ブドウ球菌のNHEK損傷を誘発する能力が表皮ブドウ球菌のagr I型AIP発現の影響を受ける可能性があることを確立した。
【0149】
AD皮膚における表皮ブドウ球菌のagr I型の相対的存在量の欠損 表皮ブドウ球菌の実験株が、黄色ブドウ球菌のヒトケラチノサイトの機能に対する効果に影響を及ぼす可能性を確立した後、臨床環境においてこれらの細菌の存在量を測定するための実験を行った。重症度が異なる(客観的SCORADに基づく)8人のAD被験者の皮膚マイクロバイオームから7つの身体部位から採取されたメタゲノムデータを、agrのタイプに基づく表皮ブドウ球菌の相対的存在量について分析した。配列の整列により、AD患者におけるagr IIII型に基づいて表皮ブドウ球菌のゲノムが同定され、AD皮膚で最も頻度の高い表皮ブドウ球菌のagrタイプはagr I型であることが判明された(
図15E)。表皮ブドウ球菌agr I型と黄色ブドウ球菌を比較し、表皮ブドウ球菌のagr I型は、疾患が重症になる程につれ、AD被験者においては比較的少なくなることが示された(
図15F~G)。これらの観察により、AD皮膚ミクロビオームにおける表皮ブドウ球菌のagr I型の存在が確認され、臨床疾患との関連の可能性が示唆された。
【0150】
多様なブドウ球菌種及び株は、黄色ブドウ球菌のagr活性を阻害する。 黄色ブドウ球菌と皮膚ミクロビオームの他のメンバーとのクオラムセンシング相互作用の生理学的意義をさらに確立するために、CoNSの異なるAD臨床分離株の培養上清の黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型のクオラムセンシング活性を阻害する能力について試験した。S. epidermidis、S. hominis、S warneri及びS capitisを含む多様な種は、黄色ブドウ球菌のagr活性に対して強力な阻害活性を示した(
図16A)。表皮ブドウ球菌の実験室分離株と同様に、CoNS株は増殖速度を阻害することなく黄色ブドウ球菌のagr活性を阻害した(
図316S)。さらに、S.hominis C5株のagrD AIPコード領域のゲノム配列分析により、表皮ブドウ球菌のagr I型コード領域の配列に類似し、S. hominis C5の予測オクトマーAIP配列を持つAIPコード領域における新規なAIP配列が明らかになった。(
図16B;配列番号:4)。活性S. hominis C5の上清に関する生化学的技法は、黄色ブドウ球菌agr活性の阻害が、80%硫酸アンモニウム(ペプチド)で沈殿しうる<3kDa(小さいサイズ)、pH 11感受性(チオラクトン環)因子に依存することを示した(
図16C)。
【0151】
次に、S. hominis C5の滅菌濾過上清の存在下で黄色ブドウ球菌を培養した後、その培養上清を
図14のようにNHEKに付与した。表皮ブドウ球菌のagr I型と同様に、S. hominis C5は、黄色ブドウ球菌に誘導されたトリプシン活性、KLK6転写産物及びNHEKにおけるIL-6蛋白質発現を阻害した(
図16D~F)。さらに、S. hominis C5は、agrのIV型を含まず、そのII型及びIII型を含むagr I型の最も一般的な臨床分離株とは別に、複数の黄色ブドウ球菌のagrシステムを阻害できた(
図21)。この発見は、表皮ブドウ球菌 agr I型のシステムで観察されたものと一致している。全体として、これらの観察により、表皮ブドウ球菌に加えて、CoNS種の臨床分離株がクオラムセンシングを利用して角化細胞への黄色ブドウ球菌の損傷を抑制しうることが示唆された。
【0152】
臨床的CoNS単離物は、黄色ブドウ球菌のagr活性のAD促進力を阻害する。 in vivoにおけるのCoNSと黄色ブドウ球菌と間のクオラムセンシング相互作用の生理学的関連性を確立するために、黄色ブドウ球菌USA300 LAC agr I型P3-Luxプロモーター(発光)株を用いてIVISによって黄色ブドウ球菌のagr活性を評価した。背側皮膚上の黄色ブドウ球菌は豊富なagr活性を示したが、生きたS. hominis C5の存在下では、黄色ブドウ球菌のagr活性は阻害された(
図17A~B)。さらに、S. hominis C5は、黄色ブドウ球菌の存在量を変化させることなく(
図17D)、黄色ブドウ球菌による皮膚の紅斑及びスケーリングから保護した(
図17C)。この表現型は、炎症、破壊、表皮蛋白分解酵素の活性及びKlk6発現の改善された証拠と関連していた(
図17E~H)。さらに、3 kDa未満の濃縮S. hominis C5上清の存在下で、黄色ブドウ球菌をマウスの背側皮膚に塗布すると、黄色ブドウ球菌の存在量に変化はなく、損傷と炎症が同様に減少したことが観察された(
図22)。これらのデータから、皮膚CoNSの微生物群集が種間のクオラムセンシングにより上皮の恒常性を促進する新規なAIPを含む可能性が高いことが示された。
【0153】
本開示の実施形態を多数記載したが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく各種の改変がなされ得ることは理解されよう。従って、他の実施形態は以下の請求項の範囲内である。
【配列表】