(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】卵様食品
(51)【国際特許分類】
A23L 17/30 20160101AFI20231026BHJP
【FI】
A23L17/30 A
(21)【出願番号】P 2019130611
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辻 征一郎
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007642(JP,A)
【文献】特開2001-218570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の魚介類の卵様具材を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の卵様具材及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、大豆蛋白質素材に対し、加水し、加熱後、冷蔵保存してゲル形成したものを粉砕し、ゼラチン溶液を用いて魚卵卵塊様に成形する工程を含む魚卵卵塊様組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、魚介類の卵の代替品として使用可能な魚介類の卵様具材及びその製造方法、並びに該具材を含む食品を提供する。特に、イクラを除く、魚介類の卵の代替品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、澱粉顆粒に調味液を含浸させることで簡便に魚介類の卵様の風味や外観を有する具材が製造できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]の態様に関する。
[1]α型澱粉顆粒100重量部が、1.0~30重量%の塩分濃度の調味液100~500重量部を含浸している、魚介類の卵様具材。
[2]調味液の水分が20~90重量%である、[1]記載の魚介類の卵様具材。
[3]最大長が0.1~4.0mmであって、水分活性が0.55~0.94である、
[1]又は[2]記載の魚介類の卵様具材。
[4]α型澱粉顆粒100重量部に、1.0~30重量%の塩分濃度の調味液100~500重量部を含浸させることを特徴とする、魚介類の卵様具材の製造方法。
[5]調味液の水分が20~90重量%である、[4]記載の魚介類の卵様具材の製造方法。
[6]最大長が0.1~4.0mmであって、水分活性が0.55~0.94である、
[4]又は[5]記載の魚介類の卵様具材の製造方法。
[7][1]~[3]の何れかに記載の魚介類の卵様具材を含む食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の魚介類の卵様具材は、魚介類の卵特有の風味、外観を有しており、魚介類の卵代替品として十分に使用できる価値があることに加え、従来の方法に比べて簡便かつ低コストで製造できる。一方で、基材に澱粉顆粒を使うことで、魚介類の卵アレルギー罹患者や菜食主義者向け等、本物の魚介類の卵が食べられない人向けの食材としても提供が可能である。また、本物の魚介類の卵に比べ低コストで製造できること等により、多くの製品への使用が可能になり、コスト等の理由により限定的だった魚介類の卵入り食品の種類を拡大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に記載の魚介類の卵様具材は、澱粉顆粒に調味液を含浸させることで、タラコ、カズノコ、トビコ、シシャモ子、キャビア、ブリコ等のバラコ様具材、ヒラメ、カレイ等の卵様具材、エビ、カニの卵様具材等が得られる。
【0009】
本発明で用いる澱粉顆粒は、澱粉を原料として加熱工程を経て製造されたα型澱粉顆粒であれば特に限定されないが、詳細には、原料の植物から精製された澱粉に加水後、蒸煮、乾燥、破砕、篩別、焙煎工程を含む工程で得られる。澱粉は、甘藷澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等が例示でき、1種又は2種以上を使用することができるが、コーンスターチを含むことが好ましく、市販品の澱粉顆粒を利用することができるため、簡便に本発明の魚介類の卵様具材を得ることができる。精製澱粉の代わりに米粉や小麦粉等を原料とした顆粒では、本発明品の魚介類の卵様具材は得られない。澱粉顆粒は、例えば炭酸カルシウム等の無機化合物や色素を含んでいてもよく、本発明の基材となり得る澱粉顆粒であれば特に限定されないが、顆粒中の精製澱粉含量は90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、98重量%以上がさらに好ましく、基材である澱粉顆粒中のゲル化剤又は澱粉分解物含量は10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、3重量%以下がさらに好ましく、含まないのが特に好ましい。
【0010】
本発明で使用される調味液は、魚介類の卵様の風味付けが可能な調味液であれば特に限定されず、代替したい魚介類の卵の種類によって適宜調製でき、食塩、グルタミン酸ナトリウム、核酸、蛋白加水分解物、酵母エキス、魚介エキス、各種アミノ酸、各種有機酸、魚介類の卵抽出物等の調味成分、色素、香料等の他、異性化液糖、液状澱粉分解物、転化糖、糖アルコール等の糖質を含むことができるが、調味液の塩分濃度は1.0~30重量%、好ましくは2.0~20重量%、より好ましくは3~10重量%である。調味液の水分は特に限定されないが、20~90重量%が好ましく、25~85重量%がより好ましく、30~80重量%がさらに好ましい。調味液の水分が20重量%未満の場合、澱粉顆粒に調味液を含浸させることが困難になる。また、寒天、ゼラチン等の他、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘多糖類を含有させてもよく、含有させる場合は、ゲル化剤の種類に応じて適宜設定できるが、多くとも10重量%が好ましく、8重量%がより好ましく、5重量%がさらに好ましく、0.3~4重量%が特に好ましい。油脂を含んでいてもよいが、油脂の添加は必須ではないため、低カロリーの魚介類の卵様具材も調製可能である。
【0011】
本発明では、澱粉顆粒を調味液に浸漬して顆粒に調味液を含ませることができれば浸漬方法は特に限定されず、減圧下でもよいが、常圧下で調味液を澱粉顆粒の中心まで含ませることができるため、特殊な設備が無くても製造できる。浸漬条件は適宜設定でき、例えば100~1000重量部、好ましくは150~800重量部、より好ましくは200~500の調味液に、100重量部の澱粉顆粒を投入し、例えば15~90℃で、2分~5時間程度、適宜撹拌しながら含浸させることができるが、好ましくは20~80℃で5~60分間程度、より好ましくは5~30分間程度浸漬すればよい。浸漬後に含浸しきれなかった調味液が残る場合は、メッシュ等により液切りを行えばよい。
【0012】
本発明の魚介類の卵様具材は、澱粉顆粒100重量部が含浸している調味液量が100~500重量部であればよく、好ましくは150~450重量部、より好ましくは200~400重量部である。調味液量が少な過ぎると、魚介類の卵様具材とならず、500重量部より多い液量は、100重量部の澱粉顆粒では保持することが難しい。
【0013】
本発明の魚介類の卵様具材は、魚介類の卵様の外観を有しており、粒は、球形、略球形又は楕円形の何れでもよく、最大長は0.1~4.0mmが好ましく、0.3~3.5mmがより好ましく、0.5~3.0mmがさらに好ましく、2.5mm以下が特に好ましく、粒同士を結着させて、カズノコや、カニ、ヒラメの卵等、塊状にしてもよい。
【0014】
本発明の魚介類の卵様具材は、魚介類の卵様風味を有しており、例えば辛子明太子風味、トビコ風味、キャビア風味やカニの卵風味を有する魚介類の卵様具材として、そのままご飯類、麺類等のトッピングとして利用できる。また、各種食品に含有させることができ、魚介類の卵様具材をマヨネーズ、ドレッシング、マーガリン、バター、チーズ等に混ぜ、例えば辛子明太子風味等の魚介類の卵様具材入りマヨネーズ、ドレッシング、マーガリン、バター又はチーズを調製できる。また、ふりかけの具材として他の具材と混ぜあわせ、ご飯類、麺類、サラダ、スープ等のふりかけとすることが使用できる、例えば辛子明太子風味等のウェットタイプの魚介類の卵様具材入りふりかけを調製できる。
【0015】
本発明の魚介類の卵様具材は、水分活性が好ましくは0.94以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.85以下、特に好ましくは0.80以下である。水分活性の下限値は、0.50程度が好ましく、0.55がより好ましく、0.58がさらに好ましい。該水分活性値であることで、ソフトな食感を有しつつ、微生物汚染リスクを低減できる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0017】
[試験例1]
(魚介類の卵様具材の検討)
基材に、澱粉顆粒:澱粉真挽粉A-0、A-1及びA-2(株式会社舘山製)、並びに澱粉顆粒:京のみじん粉(有限会社田辺屋商店製)を用い、各調味液に各条件で浸漬し、明太子様具材を試作した(実施例1~11、比較例1~3)。基材及び調味液の重量、調味液の組成、顆粒100重量部に対する調味液(重量部)、調味液の塩分(食塩以外の塩分も含む)、調味液の水分、調味液の水分活性(AW)、並びに浸漬条件(温度、時間)を表1に示した。尚、澱粉真挽粉A-0、A-1及びA-2は、甘藷澱粉とコーンスターチに加水後、蒸煮、乾燥、破砕、篩別、焙煎工程を含む工程で得られたα型澱粉顆粒である。また、澱粉顆粒:京のみじん粉は、馬鈴薯澱粉とコーンスターチに加水後、蒸煮、乾燥、破砕、篩別、焙煎工程を含む工程で得られたα型澱粉顆粒である。また、明太子エキスは株式会社やまや製、タラコエキスCRは池田糖化工業株式会社製、色素はヤヱガキ醗酵技研株式会社製(ナチュラルレッド)、タラコ香料は高砂香料工業株式会社製、油脂は不二製油株式会社製(パームエース(登録商標))、ソルビットは三菱商事フードテック株式会社製、水飴52は株式会社サナス製を使用した。
【0018】
含浸後の各顆粒の状態について詳細を表1に記載するとともに、魚介類の卵様具材としての評価結果を◎、○、×で記載した。
尚、実施例1~8で得られた魚介類の卵様具材の最大長は約1.0~1.5mm程度、実施例9で得られた魚介類の卵様具材の最大長は約1.0mm程度、実施例10で得られた魚介類の卵様具材の最大長は約0.3~1.0mm程度、実施例11で得られた魚介類の卵様具材の最大長は約1.5~2.0mm程度だった。
【0019】
【0020】
表1より、調味液の水分が22~84%、塩分濃度が3.9~25%の場合、何れも明太子様の風味、外観を有した魚介類の卵様具材が得られ、また、調味液の浸漬温度は、20、50、80℃の何れもで、明太子様の風味、外観を有した魚介類の卵様具材が得られることが分かった。水分活性は、0.581~0.921だった。
【0021】
一方で、調味液の水分が16%以下の場合、調味液が基材に浸みこみ難く、また、調味液の水分が92%で塩分濃度が0.89%の場合、風味が悪く、本発明の魚介類の卵様具材が得られないことが分かった。
【0022】
[試験例2]
(顆粒に対する調味液量の検討)
基材に、澱粉顆粒:澱粉真挽粉A-2を用い、各調味液に20℃で30分間浸漬し、明太子様具材を試作した(実施例12、13及び比較例4)。基材及び調味液の重量、調味液の組成、顆粒100重量部に対する調味液(重量部)、調味液の塩分(食塩以外の塩分も含む)、並びに調味液の水分を表2に示した。尚、実施例12(顆粒100重量部に対する調味液が1000重量部)は、浸漬後に、含浸しきれなかった液が残ったため、液切りを行った。
【0023】
含浸後の各顆粒の状態について詳細を表2に記載するとともに、魚介類の卵様具材としての評価結果を◎、○、×で記載した。
【0024】
【0025】
表2より、顆粒100重量部に対する調味液が100重量部又は1000重量部の場合、何れも明太子様の風味、外観を有した魚介類の卵様具材が得られることが分かった。
【0026】
一方で、顆粒100重量部に対する調味液が20重量部の場合、全体がパリパリの乾いた食感のままで、調味液が少な過ぎるために基材全体に浸み渡らず、本発明の魚介類の卵様具材が得られないことが分かった。
【0027】
[試験例3]
(基材の検討)
基材に、糯米を原料とした顆粒:ゆべし上南(試験例3-1)、小荒(試験例3-2)、玉あられ(試験例3-3)、丸道明寺(試験例3-4)、ウル道明寺(試験例3-5)又は粳米を原料とした顆粒:ウル朝香(試験例3-6)を用い、調味液に50℃、10分間浸漬し、明太子様具材を試作した。尚、各基材は何れも株式会社舘山製である。基材及び調味液の重量、調味液の組成、顆粒100重量部に対する調味液(重量部)、調味液の塩分(食塩以外の塩分濃度も含む)、調味液の水分、並びに浸漬条件(温度、時間)を表3に示した。
【0028】
含浸後の各顆粒の状態について詳細を表3に記載するとともに、魚介類の卵様具材としての評価結果を◎、○、×で記載した。
【0029】
【0030】
基材として、糯米又は粳米を原料とした顆粒をした場合は、本発明の魚介類の卵様具材は得られないことが分かった。よって、本発明の魚介類の卵様具材を製造するためには、澱粉顆粒を用いることが重要であることが分かった。
【実施例14】
【0031】
(カズノコ様具材の調製)
基材に、澱粉顆粒:澱粉真挽粉A-2 40gを用い、調味液135gに50℃で30分間浸漬した後、一般的なカズノコの形状に成形し、冷却してカズノコ形状に固めて、カズノコ様具材とした。調味液の組成は、ソルビット39g、アミノ酸液(ダイヤアミノ酸液極淡口、播州調味料株式会社製)21.2g、みりん20.4g、鰹節エキス(池田糖化工業株式会社製)9.2g、グルタミン酸ナトリウム6.8g、淡口醤油(菊印うすくちしょうゆ、ヒガシマル醤油株式会社製)6g、砂糖5.6g、食塩5.6g、魚醤(株式会社ティーエフ製)4.7g、油脂(パームエース(登録商標)、不二製油株式会社製)3.6g、アルコール3.1g、寒天1.2g、色素(ナチュラルイエロー、ヤヱガキ醗酵技研株式会社製)1.1g、甘味料(ハイステビアM-20、池田糖化工業株式会社製)0.5g及び水7gで、80℃程度まで加熱しながら混合した。
【0032】
得られたカズノコ様具材は、粒同士がばらけることなく一塊のカズノコ様の外観となっており、さらにカズノコ様の歯応えを感じる食感と、カズノコ様の風味を有していた。
【実施例15】
【0033】
(具材入り食品の調製)
実施例1で得られた明太子様具材10gを、マヨネーズ100gと混合し、室温で5日間保存した結果、水分等の浸み出しや分離は見られず、混合直後と保存後とで特に外観に変化は見られなかった。さらに、トーストに塗って食すと、本物の明太子を使った明太子マヨネーズトーストと比べても遜色ない味わいだった。
【0034】
以上より、基材である澱粉顆粒を、1.0~30重量%の塩分濃度の調味液に浸漬することで、100重量部の澱粉顆粒が100~500重量部の調味液を含浸している魚介類の卵様具材が得られることが分かった。また、魚介類の卵様具材を食品に添加することで保存性の良い魚介類の卵様具材入り食品を調製でき、本発明によって、本物の魚介類の卵と比べても遜色ない代替品が得られることが分かった。