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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】超音波探知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/10 20060101AFI20231026BHJP
   G01S 15/96 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01S15/10
G01S15/96
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019215893
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2021085792
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174757
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和樹
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-020795(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163844(WO,A1)
【文献】特開2009-294120(JP,A)
【文献】特開2018-189611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を水中に送信し、その反射波を受信可能な振動子と、
その振動子により送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づく画像を表示する表示手段と、を備えた超音波探知装置であって、
所定の変調がなされた波形を生成する波形生成手段と、
その波形生成手段により生成された波形で前記超音波が送信されるように前記振動子を駆動する送信手段と、
所定のサンプリング周期毎に前記反射波を受信する受信手段と、
その受信手段により受信した前記反射波の強度に基づく情報を、少なくとも直近に受信した前記反射波を含めて複数のサンプリング数分記憶する記憶手段と、
前記受信手段により新たにサンプリングした前記反射波の強度に基づく情報を前記記憶手段に記憶したことを契機として、その新たにサンプリングした前記反射波の強度に基づく情報を含む所定数の情報に対し前記所定の変調に対応した相互相関関数を用いて演算することで、パルス圧縮された前記受信信号を得る相互相関関数演算手段と、を備え、
前記相互相関関数演算手段は、
前記演算に用いられる前記所定数の情報のうち特定の時間に前記記憶手段に記憶された特定の情報に対応する前記反射波の強度に基づいて、所定の閾値を決定する閾値決定手段と、
前記特定の情報を除く前記演算に用いられる前記所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する前記反射波の強度が前記閾値決定手段により決定された前記所定の閾値よりも大きい場合にその反射波の強度をゼロに置換する置換手段と、を備え
前記相互相関関数演算手段は、前記置換手段による置換処理が実行された後の前記反射波の強度に基づく相互相関関数を用いた演算により、前記受信信号を得る
ことを特徴とする超音波探知装置。
【請求項2】
前記特定の時間は、前記特定の情報が複数存在し得る時間的な長さであることを特徴とする請求項1記載の超音波探知装置。
【請求項3】
前記閾値決定手段は、前記特定の情報に対応する複数の前記反射波の強度のうち最も大きい強度に基づいて、前記所定の閾値を決定することを特徴とする請求項2記載の超音波探知装置。
【請求項4】
前記特定の時間は、操作者の入力手段による操作に基づいて変更可能に構成されたことを特徴とする請求項2又は3記載の超音波探知装置。
【請求項5】
前記置換手段は、前記演算に用いられる前記所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する前記反射波の強度が前記閾値決定手段により決定された前記所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度と、その反射波がサンプリングされた時間から所定の期間内にサンプリングされた反射波の強度とを、ゼロに置換することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超音波探知装置。
【請求項6】
前記所定の期間は、操作者の入力手段による操作に基づいて変更可能に構成されたことを特徴とする請求項5記載の超音波探知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に送信された超音波の反射波を受信して得られた受信信号に基づく画像を表示する超音波探知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波の送受信によって、例えば水中の魚群等の探知対象物を探知する超音波探知装置が知られている。超音波探知装置の一例として、魚群探知装置は、船舶の船底などに配置される振動子から細いビーム状の超音波を水底に向けて送信(照射)し、そのビーム状の超音波の反射波を振動子が受信するように構成されている。魚群探知装置は、その反射波を振動子が受信して得られた受信信号に基づいて、超音波を反射した物体の存在位置とその反射強度(レベル)を示す画像が、時系列に並べられて表示装置に表示される(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような超音波探知装置では、超音波としてバースト波が用いられる。バースト波として、例えば、所定の周波数(例えば200kHz)の超音波を所定時間(例えば50マイクロ秒~5ミリ秒)送信し、それを繰り返したものが用いられる。このようなバースト波では、距離分解能と感度との両方を高めるために、超音波が送信される所定時間を短くしつつ、大きな電力を用いて振動子を駆動するのがよい。しかしながら、振動子を駆動する電力が大きすぎると振動子が破壊されるため、その駆動電力には限界がある。駆動電力を抑えつつ感度を高めるために、超音波が送信される所定時間を長くすることも考えられるが、その場合は距離分解能が低下する。
【0004】
そこで、従来の超音波探知装置において、超音波として単純なバースト波を用いるのではなく、所定の変調がなされた波形の超音波を振動子より送信し、その所定の変調に対応した相互相関関数を用いて受信した反射波に畳み込み演算を行ってパルス圧縮する方法が知られている。パルス圧縮を用いることにより、振動子の駆動電圧を必要以上に高めることなく超音波が送信される所定時間を保ったまま、感度と距離分解能とを高めることができる。
【0005】
一方で、パルス圧縮を行うと、所定の時間を中心としたメインローブの他に、そのメインローブの前後に弱い信号レベルのレンジサイドローブが発生することが知られている。このレンジサイドローブの影響により、探知画像において探知物の周辺にノイズが表示され、それを探知物として見間違えるおそれがあった。これは、相互相関関数の振動が原因である。
【0006】
また、所定の遅延時間から離れた時間において受信した反射波の中に水底等から反射された強度の強い反射波が含まれると、強いレンジサイドローブが発生することが知られている。これにより、探知画像において水底の上方にノイズが表示され、水底付近に存在する探知物がノイズに隠れてしまうおそれがあった。
【0007】
このような事情に鑑み、従来より、パルス圧縮において低レンジサイドローブ特性を実現する種々の方法が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-79813号公報
【文献】特開2013-130527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法のように、低レンジサイドローブ特性を実現するための従来の方法は複雑な計算を必要とするため、高性能なCPU(Central Processing Unit)を用いなければならず、高コスト化につながるおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、パルス圧縮において、水底等からの強い強度の反射波に基づくレンジサイドローブの発生を、簡易な処理で低レベルに抑制できる超音波探知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために請求項1記載の超音波探知装置は、超音波を水中に送信し、その反射波を受信可能な振動子と、その振動子により送信された超音波の反射波を前記振動子が受信して生じる受信信号に基づく画像を表示する表示手段と、を備えたものであって、所定の変調がなされた波形を生成する波形生成手段と、その波形生成手段により生成された波形で前記超音波が送信されるように前記振動子を駆動する送信手段と、所定のサンプリング周期毎に前記反射波を受信する受信手段と、その受信手段により受信した前記反射波の強度に基づく情報を、少なくとも直近に受信した前記反射波を含む複数のサンプリング数分記憶する記憶手段と、前記受信手段により新たにサンプリングした前記反射波の強度に基づく情報を前記記憶手段に記憶したことを契機として、その新たにサンプリングした前記反射波の強度に基づく情報を含む所定数の情報に対し前記所定の変調に対応した相互相関関数を用いて演算することで、パルス圧縮された前記受信信号を得る相互相関関数演算手段と、を備え、前記相互相関関数演算手段は、前記演算に用いられる前記所定数の情報のうち特定の時間に前記記憶手段に記憶された特定の情報に対応する前記反射波の強度に基づいて、所定の閾値を決定する閾値決定手段と、前記特定の情報を除く前記演算に用いられる前記所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する前記反射波の強度が前記閾値決定手段により決定された前記所定の閾値よりも大きい場合にその反射波の強度をゼロに置換する置換手段と、を備え、前記相互相関関数演算手段は、前記置換手段による置換処理が実行された後の前記反射波の強度に基づく相互相関関数を用いた演算により、前記受信信号を得る。
【0012】
請求項2記載の超音波探知装置は、請求項1記載の超音波探知装置において、前記特定の時間は、前記特定の情報が複数存在し得る時間的な長さである。
【0013】
請求項3記載の超音波探知装置は、請求項2記載の超音波探知装置において、前記閾値決定手段は、前記特定の情報に対応する複数の前記反射波の強度のうち最も大きい強度に基づいて、前記所定の閾値を決定する。
【0014】
請求項4記載の超音波探知装置は、請求項2又は3記載の超音波探知装置において、前記特定の時間は、操作者の入力手段による操作に基づいて変更可能に構成されている。
【0015】
請求項5記載の超音波探知装置は、請求項1から4のいずれかに記載の超音波探知装置において、前記置換手段は、前記演算に用いられる前記所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する前記反射波の強度が前記閾値決定手段により決定された前記所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度と、その反射波がサンプリングされた時間から所定の期間内にサンプリングされた反射波の強度とを、ゼロに置換する。
【0016】
請求項6記載の超音波探知装置は、請求項5記載の超音波探知装置において、前記所定の期間は、操作者の入力手段による操作に基づいて変更可能に構成されている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の超音波探知装置によれば、振動子により水中に送信された超音波の反射波を該振動子が受信して生じる受信信号に基づく画像が表示手段に表示される。送信手段により駆動されることによって、振動子から送信される超音波の波形は、波形生成手段により生成される。その波形は、所定の変調がなされたものである。反射波は、所定のサンプリング周期毎に受信手段によって受信される。その受信手段により受信した反射波の強度に基づく情報は、少なくとも直近に受信した反射波を含む複数のサンプリング数分記憶手段に記憶される。そして、受信手段により新たにサンプリングした反射波の強度に基づく情報が記憶手段に記憶したことを契機として、その新たにサンプリングした反射波の強度に基づく情報を含む所定数の情報に対し、所定の変調に対応した相互相関関数を用いて演算することで、パルス圧縮された受信信号が相互相関関数演算手段により得られる。ここで、相互相関関数演算手段では、演算に用いられる所定数の情報のうち特定の時間に記憶手段に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度に基づいて、所定の閾値が閾値決定手段により決定される。そして、特定の情報を除く演算に用いられる所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する反射波の強度が閾値決定手段により決定された所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度が置換手段によってゼロに置換される。さらに、相互相関関数演算手段は、置換手段による置換処理が実行された後の反射波の強度に基づく相互相関関数を用いた演算により、受信信号を得る。これにより、演算に用いられる情報において、特定の時間に記憶手段に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度に対して、大振幅の受信信号を除去するという簡易な処理で、パルス圧縮における水底等からの強い強度の反射波に基づくレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できるという効果がある。
【0018】
請求項2記載の超音波探知装置によれば、請求項1記載の超音波探知装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、閾値決定手段において所定の閾値の決定に用いられる特定の情報が記憶手段に記憶された特定の時間は、特定の情報が複数存在し得る時間的な長さである。換言すれば、特定の時間に受信手段によりサンプリングされて記憶手段に記憶された反射波の強度に基づく情報(特定情報)が、複数存在する。これにより、複数の特定の情報に基づいて所定の閾値が決定される。よって、振動している反射波の強度をより正確に把握できるので、レンジサイドローブの発生を低レベルに抑制するために必要な所定の閾値を確実に設定できるという効果がある。
【0019】
請求項3記載の超音波探知装置によれば、請求項2記載の超音波探知装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、特定の情報に対応する複数の反射波の強度のうち最も高い強度に基づいて、所定の閾値が閾値決定手段により決定される。これにより、特定の時間に記憶手段に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度のうち最も大きい強度に対して、大きい強度の反射波の強度を確実にゼロに置換できる。よって、確実にレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できるという効果がある。
【0020】
請求項4記載の超音波探知装置によれば、請求項2又は3記載の超音波探知装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、閾値決定手段において所定の閾値の決定に用いられる特定の情報が記憶手段に記憶された特定の時間は、操作者が入力手段を操作することによって変更可能である。よって、操作者が特定の時間を変更することで、レンジサイドローブの発生をより確実に低レベルに抑制できるという効果がある。
【0021】
請求項5記載の超音波探知装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の超音波探知装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、演算に用いられる所定数の情報の各々に対して、その情報に対応する反射波の強度が閾値決定手段により決定された所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度と、その反射波がサンプリングされた時間から所定の期間内にサンプリングされた反射波の強度とが、置換手段によってゼロに置換される。これにより、反射波の強度が所定の閾値よりも大きい反射波の強度だけでなく、時間的にその反射波がサンプリングされた時間付近でサンプリングされた反射波の強度もゼロに置換されるので、より確実にレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できるという効果がある。
【0022】
請求項6記載の超音波探知装置によれば、請求項5記載の超音波探知装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、反射波の強度が所定の閾値よりも大きい場合に置換手段によりゼロに置換される反射波の強度の範囲である所定の期間は、操作者が入力手段を操作することによって変更可能である。よって、操作者が所定の期間を変更することで、レンジサイドローブの発生をより確実に低レベルに抑制できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態である魚群探知装置の構成を概略的に示す概略図である。
図2】同魚群探知装置が搭載された船舶によって水中の探知を行う場合の状態を側面より示す模式図である。
図3】同魚群探知装置から送信される超音波ビームの波形を模式的に示した模式図である。
図4】同魚群探知装置の電気的構成を示したブロック図である。
図5】同魚群探知装置の機能ブロック図である。
図6】同魚群探知装置のCPUにて実行される畳み込み演算処理を示すフローチャートである。
図7】振動子を空中に設置し、ガン玉をつるした環境で魚群探知装置を動作させた場合の表示装置の表示内容を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。まず、図1図3を参照して、本発明を魚群探知装置に適用した場合の一実施形態である魚群探知装置12の概略について説明する。図1は、その魚群探知装置12の構成を概略的に示す概略図であり、図2は、魚群探知装置12が搭載された船舶11によって水中の探知を行う場合の状態を側面より示す模式図である。図3は、魚群探知装置12から送信される超音波ビームTBの波形を模式的に示した模式図である。
【0025】
図1及び図2に示す通り、魚群探知装置12は船舶11に搭載され、該船舶11直下又は周囲の水中に対し、魚群などの探知対象物Gの探知を行うものである。魚群探知装置12は、本体13と、本体13に設けられ使用者からの入力を受け付ける操作ボタン14と、本体13に一体形成された表示装置15と、超音波ビームTBを送受信する振動子16とにより構成される。操作ボタン14は、1つであってもよいし、機能の異なる複数のボタンで構成されてもよい。
【0026】
振動子16は、船舶11の船底又は船尾に固着され、ケーブルによって本体13と電気的に接続されている。振動子16は、本体13から送信される信号によって、細いビーム状の超音波ビームTBを1つの方向(例えば、船舶11の真下方向)に送信(照射)する。また、振動子16は、探知対象物Gや、海底,湖底,川底,池の底といった水底などから反射された超音波ビームTBの反射波を受信し、その受信によって得られた受信信号を本体13へ送信する。本実施形態では、振動子16として、周波数fmにおいて最も受信感度がよい特性を持つものが使用される。
【0027】
本実施形態では、超音波ビームTBとして、チャープ変調が施されたチャープ信号と呼ばれる波形を振動子16より送信する。本実施形態で送信されるチャープ信号は、図3に示すように、所謂「線形チャープ信号」と呼ばれるものある。具体的には、時間Tの間に、周波数f0から周波数f1まで直線的に変化させるように線形チャープ変調された波形を持つ線形チャープ信号が送信される。
【0028】
このようなチャープ信号により振動子16から送信される超音波ビームTBの反射波が、振動子16にて受信されると、その受信した超音波ビームTBの反射波に対して、チャープ変調に対応する相互相関関数を用いて畳み込み演算がなされることで、パルス圧縮された受信信号が得られる。本実施形態は、このパルス圧縮を行うに際して、水底等からの強い強度の反射波に基づくレンジサイドローブの発生を、簡易な処理で低レベルに抑制できるように構成されている。その構成の詳細については後述する。
【0029】
なお、本実施形態では、振動子16の受信感度が周波数fmにて最も高くなるものであった場合に、超音波ビームTBとして送信されるチャープ信号において、おおよそfm=(f0+f1)/2となるように、周波数f0と周波数f1とが設定される。つまり、1つのチャープ信号が送信される時間Tにおいて、そのチャープ信号の送信が周波数f0にて開始されてから約T/2の時間が経過したときに、振動子16の受信感度が最も高い周波数fmにてチャープ信号が送信されるようになっている。
【0030】
魚群探知装置12の本体13は、例えば船舶11の操舵室内に配置され、振動子16が超音波ビームTBの反射波を受信することによって得られた受信信号に基づいて探知画像(超音波ビームTBの反射波に基づく画像)を形成する。魚群探知装置12は、この探知画像を表示装置15に表示することで、水中の探知結果を使用者に示す。
【0031】
次いで、図4を参照して、魚群探知装置12の電気的構成について説明する。図4は、魚群探知装置12の電気的構成を示したブロック図である。魚群探知装置12は、本体13内部に制御装置20を有している。制御装置20は、魚群探知装置12の動作を制御するものであり、CPU(Central Proccesing Unit)21と、フラッシュメモリ22と、RAM(Random Access Memory)23と、送受信回路31と、表示コントローラ32と、VRAM(Video RAM)33とを有している。
【0032】
CPU21には、フラッシュメモリ22,RAM23,送受信回路31,表示コントローラ32が接続され、また、制御装置20の外部より操作ボタン14(図1参照)が接続されている。送受信回路31には、振動子16(図1参照)が接続され、表示コントローラ32には、VRAM23及び表示装置15(図1参照)が接続される。
【0033】
CPU21は、フラッシュメモリ22に記憶されたプログラムデータ22aに従って、魚群探知装置12の動作を制御するための各種演算を実行する演算装置である。
【0034】
フラッシュメモリ22は、CPU21によって実行されるプログラムデータ22aを記憶するほか、プログラムを動作させるために必要な設定値データや固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。なお、書き換え可能なフラッシュメモリに代えて、書き換え不能な不揮発性のメモリ(例えば、ROM(Read Only Memory))を用いてもよい。
【0035】
フラッシュメモリ22は、設定値データとして、例えば、最大値評価期間設定データ22bや、ゼロ置換期間設定データ22cを記憶する。
【0036】
最大値評価期間設定データ22b及びゼロ置換期間設定データ22cは、サンプリング周期毎に振動子16により受信した超音波ビームTBの反射波の、複数のサンプリング数分の強度に対して、パルス圧縮された受信信号を得るために行われる畳み込み演算に対して用いられる設定値データである。
【0037】
背景技術において上記した通り、受信した超音波ビームTBの反射波をパルス圧縮した場合に、所定の時間(本実施形態では、1つのチャープ信号に対する反射波に対応して、畳み込み演算で使用する所定のサンプリング数分の反射波の強度のうち、振動子16において最も感度の高い周波数fmの反射波の強度に該当する時間)を中心としたメインローブの他に、そのメインローブの前後にレンジサイドローブが発生する。特に、上記の所定の時間から離れた時間において受信した超音波ビームTBの反射波の中に、水底等から反射された強度の強い反射波が含まれると、強いレンジサイドローブが発生する。
【0038】
本実施形態では、そのようなレンジサイドローブの発生を抑制するために、1つのチャープ信号に対する反射波に対応して、畳み込み演算で使用する所定のサンプリング数分の反射波の強度のうち、振動子16において最も感度の高い周波数fmの反射波の強度に該当する時間を含む特定の時間内にサンプリングされた反射波の強度に基づいて、所定の閾値を決定する。そして、その特定の時間外にサンプリングされた反射波の強度が、所定の閾値よりも大きい場合には、その所定の閾値よりも強度が大きい反射波と、その反射波がサンプリングされた時間を中心として所定の期間内にサンプリングされた反射波との強度を、ゼロに置換している。
【0039】
最大値評価期間設定データ22bは、所定の閾値を決定するための上記特定の時間の長さを示すデータである。また、ゼロ置換期間設定データ22cは、反射波の強度をゼロに置換するための前記所定の期間の長さを示すデータである。
【0040】
最大値評価期間設定データ22b及びゼロ置換期間設定データ22cには、その製造出荷時に初期値が記憶され、操作者が操作ボタン14を操作することによって、その値を変更可能に構成されている。操作者が操作ボタン14を操作して、最大値評価期間設定データ22b又はゼロ置換期間設定データ22cの設定値を変更すると、その変更後の設定値が、最大値評価期間設定データ22b又はゼロ置換期間設定データ22cに記憶される。
【0041】
RAM23は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU21によるプログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶する。RAM23は、受信データ23aを少なくとも記憶する。
【0042】
受信データ23aは、振動子16が受信してえられた超音波ビームTBの反射波の強度を示すデータである。後述するように、送受信回路31は、所定のサンプリング周期(例えば2ミリ秒)で振動子16にて超音波ビームTBの反射波を受信し、CPU21は、その超音波ビームTBの反射波の強度を受信データ23aに記憶する。
【0043】
受信データ23aは、所定のサンプリング数分として、直近に受信した超音波ビームTBの反射波から遡って、振動子16より送信される1つの超音波ビームTB(チャープ信号)の時間T(図3参照)の間にサンプリングされた超音波ビームTBの反射波の強度を記憶可能に構成されている。
【0044】
また、受信データ23aには、FIFO(First In,First Out)方式で記憶されるように制御される。即ち、振動子16が1の超音波ビームTBの反射波を受信した場合に、すでに所定のサンプリング数分の反射波の強度が記憶されているときには、最も古い時間に記憶された超音波ビームTBの反射波の強度を削除して、今回受信した超音波ビームTBの反射波の強度を、受信データ23aに記憶する。これにより、受信データ23aには、振動子16にて受信した最新の超音波ビームTBの反射波の強度を含めて、時間的に新しく受信した超音波ビームTBの反射波の強度を、所定のサンプリング数分、記憶させることができる。
【0045】
送受信回路31は、CPU21からの制御に基づいて振動子16を駆動して、チャープ信号を振動子16から超音波ビームTBとして送信する。また、送受信回路31は、魚群等の探知対象物Gによって反射され、振動子16によって受信された超音波ビームTBの反射波を、所定のサンプリング周期で受信し、その反射波の強度をディジタル値に変換する。ディジタル値に変換された超音波ビームTBの反射波の強度は、CPU21によって参照されて、受信データ23aに記憶される。
【0046】
表示コントローラ32は、CPU21からの制御に基づいて、表示装置15の表示を制御するものである。VRAM33は、表示装置15に表示すべき1フレーム分の画像を格納するためのフレームバッファが設けられたメモリである。
【0047】
1回の超音波ビームTBの送受信により得られた、後述のパルス圧縮後の受信信号に基づいて、CPU21にて1表示線分の探知画像が形成されると、表示コントローラ32は、その形成された1表示線分の探知画像がCPU21より入力される。そして、表示コントローラ32は、その1表示線分の探知画像と過去に入力された複数の表示線分の探知画像とを時系列に並べて表示装置15に表示すべき探知画像を形成し、VRAM33のフレームバッファに格納する。
【0048】
なお、CPU21より受け取った1表示線分の探知画像は、表示コントローラ32に設けられた図示しない所定数の表示線分の探知画像を記憶可能なラインメモリに記憶される。このラインメモリに記憶された所定数の表示線分の探知画像を用いることで、CPU21より受け取った1表示線分の探知画像と過去に入力された複数の表示線分の探知画像とを時系列に並べて、表示装置15に表示すべき探知画像が形成できる。
【0049】
また、表示コントローラ32は、探知画像とあわせて表示装置15に表示すべき記号や図柄等を表示装置15に表示させるための画像データ(図示せず)をCPU21より受け取ると、VRAM33のフレームバッファに対し、CPU21で指示された1フレームの位置に、CPU21より受け取った画像データを用いて、この表示すべき記号や図柄等を描画する。
【0050】
次に、図5を参照して、図4のように電気的に構成された魚群探知装置12の機能ブロックについて説明する。図5は、魚群探知装置12の機能ブロック図である。
【0051】
まず、魚群探知装置12は、機能的には、波形生成手段41と、送信手段42と、受信手段43と、記憶手段44と、畳み込み演算手段45と、表示手段46とを少なくとも有している。
【0052】
波形生成手段41は、少なくとも図4に示すCPU21と送受信回路31とにより構成されるもので、図3を参照して説明した、チャープ変調が施されたチャープ信号の波形を生成する。送信手段42は、少なくとも図4に示す送受信回路31により構成されるもので、波形生成手段41にて生成したチャープ信号で超音波ビームTBが送信されるように振動子16を駆動する。これにより、図3に示したチャープ信号が超音波ビームTBとして振動子16より送信される。
【0053】
受信手段43は、少なくとも図4に示すCPU21と送受信回路31により構成されるもので、振動子16を介して所定のサンプリング周期毎に、魚群などの探知対象物Gや水中の浮遊物、水底等から反射された超音波ビームTBの反射波を受信し、その反射波の強度をディジタル値に変換して出力する。
【0054】
記憶手段44は、図4に示すRAM23の受信データ23aにより構成されるもので、受信手段43により受信した超音波ビームTBの反射波の強度を、少なくとも直近に受信した超音波ビームTBの反射波を含めて複数のサンプリング数分(振動子16より送信される1つの超音波ビームTB(チャープ信号)の時間Tの間にサンプリングされた数分)を記憶する。
【0055】
畳み込み演算手段45は、少なくとも図4に示すCPU21が図6に示す畳み込み演算処理を実行することによって構成される。畳み込み演算手段45は、受信手段43により新たにサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度を記憶手段44に記憶したことを契機として、パルス圧縮された受信信号を算出する。具体的には、その新たにサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度を含む所定数の反射波の強度(具体的には、振動子16より送信される1つの超音波ビームTB(チャープ信号)の時間Tの間にサンプリングされた数分の反射波の強度)に対し、チャープ変調に対応した相互相関関数を用いて畳み込み演算することで、パルス圧縮された受信信号を得る。
【0056】
なお、畳み込み演算手段45は、CPU21に代えて、デジタルシグナルプロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)や、FPGA(Field-Programmable Gate Array)により、図6に示す畳み込み演算処理を実現するものであってもよい。
【0057】
畳み込み演算手段45は、閾値決定手段45aと、置換手段45bとを少なくとも有している。
【0058】
閾値決定手段45aは、畳み込み演算に用いられる所定のサンプリング数分の反射波の強度のうち、上記した特定の時間にサンプリングされ、記憶手段44に記憶された反射波の強度(以下「特定の情報」ともいう)に基づいて、所定の閾値を決定する。
【0059】
置換手段45bは、前記特定の情報を除いて、畳み込み演算に用いられる所定数の反射波の強度に対して、その強度が閾値決定手段45aにより決定された所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度をゼロに置換する。
【0060】
畳み込み演算手段45は、畳み込み演算する前に、畳み込み演算に用いられる所定のサンプリング数分の反射波の強度から、閾値決定手段45aにて特定の情報から所定の閾値を決定し、置換手段45bにて、特定の情報を除いて所定の閾値を超える反射波の強度をゼロに置換する。そして、そのような置換処理が実行された後の反射波の強度を用いて、畳み込み演算が実行される。
【0061】
表示手段46は、図4に示す表示装置15により構成され、パルス圧縮された受信信号に基づく探知画像を表示する。
【0062】
ここで、図6を参照してCPU21により実行される畳み込み演算処理について説明する。図6は、その畳み込み演算処理を示すフローチャートである。畳み込み演算処理は、受信手段43により新たにサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度を記憶手段44に記憶したことを契機として、CPU21により実行が開始され、パルス圧縮された受信信号を算出する。
【0063】
具体的には、CPU21により畳み込み演算処理が実行されると、CPU21は、まず、フラッシュメモリ22より最大値評価期間設定データ22bを読み込む(S1)。ここで読み込まれた最大値評価期間設定データ22bは、上記した通り、所定の閾値を決定するための特定の時間の長さを示すデータである。特定の時間とは、畳み込み演算で使用する所定のサンプリング数分の反射波の強度のうち、振動子16において最も感度の高い周波数fmの反射波の強度に該当する時間を中心として設けられた期間のことである。
【0064】
ここで、この畳み込み演算処理おいて使用される所定のサンプリング数分の反射波の強度は、この畳み込み演算処理の実行の契機となった、受信手段43により新たにサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度を含めて、1つの超音波ビームTB(チャープ信号)の時間Tの間にサンプリングされた数分の反射波の強度である。また、振動子16において最も感度の高い周波数fmは、チャープ信号の送信が周波数f0にて開始されてからT/2の時間が経過したときの周波数である。
【0065】
そこで、この畳み込み演算処理では、この畳み込み演算処理の実行の契機となった、受信手段43により新たにサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度よりもT/2時間前にサンプリングした超音波ビームTBの反射波の強度と、そのT/2時間を中心として、最大値評価期間設定データ22bで示される特定の時間に含まれる反射波の強度と用いて、所定の閾値を決定する。
【0066】
具体的には、CPU21は、T/2時間前を中心に最大値評価期間設定データ22bにて示される特定の時間においてサンプリングされた超音波ビームTBの反射波の強度を受信データ23aより読み出し、読み出された反射波の強度の中から、最大強度を探索する(S2)。
【0067】
そして、CPU21は、S2の処理にて探索した最大強度から、所定の閾値の大きさを設定する(S3)。具体的には、S2の処理にて探索した最大強度が大きいほど、所定の閾値が大きくなるように設定する。なお、所定の閾値は、最大強度の一次関数で算出されてもよいし、最大強度の二次関数や指数関数で算出されてもよい。あるいは、S2の処理にて探索された最大強度と、その最大強度に対して設定すべき所定の閾値とを対応付けたテーブルをフラッシュメモリ22に記憶させておいて、当該テーブルから所定の閾値を設定してもよい。
【0068】
S1~S3のように、所定の閾値を決定する場合に、本実施形態では、T/2時間前にサンプリングした反射波の強度だけでなく、その周辺でサンプリングした反射波の強度をも参照して、所定の閾値を決定する。これは、反射波は振動しているため、T/2時間前にサンプリングした反射波の強度(振動子16における受信感度が最も高い周波数fmの反射波の強度)が、偶然にも低くでてしまう恐れがあるためである。T/2時間前にサンプリングした反射波の強度だけでなく、その周辺でサンプリングした反射波の強度をも参照して、所定の閾値を決定することで、振動子16における受信感度が最も高い周波数fmの反射波の強度を正しく反映して、所定の閾値を決定することができる。
【0069】
なお、S1~S3の処理を実行するCPU21が、図5に示す閾値決定手段45aを構成する。
【0070】
次に、CPU21は、ゼロ置換期間設定データ22cを読み込む(S4)。上記した通り、ゼロ置換期間設定データ22cは、反射波の強度をゼロに置換するための所定の期間の長さを示す。
【0071】
次いで、CPU21は、S1の処理にて読み込まれた最大値評価期間設定データ22bに基づく特定の時間を除いて、サンプリングされた反射波の強度を、受信データ23aより参照し、その反射波の強度がS3の処理により設定された所定の閾値よりも大きい場合には、その所定の閾値よりも強度が大きい反射波と、その反射波がサンプリングされた時間を中心にS4の処理で読み込まれたゼロ置換期間設定データ22cにて示される所定の期間内にサンプリングされた反射波との強度を、ゼロに置換する(S6)。なお、特定の時間にサンプリングされた反射波の強度と、特定の時間ではない期間にサンプリングされた反射の強度であって且つその強度が所定の閾値以下の反射波の強度とは、そのままの強度が保持される。
【0072】
なお、S4~S6の処理を実行するCPU21が、図5に示す置換手段45bを構成する。
【0073】
そして、CPU21は、S6の処理を実行後の反射波の強度を用いて、畳み込み演算を実施して、パルス圧縮された受信信号を算出し(S7)、畳み込み演算処理を終了する。
【0074】
即ち、S7の処理では、S6の処理により、特定の時間ではない期間にサンプリングされた反射波の強度が所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波と、その反射波がサンプリングされた時間を中心に所定の期間内にサンプリングされた反射波との強度が、ゼロに置換され、それ以外の反射波の強度はそのまま保持された上で、畳み込み演算が実施される。
【0075】
次いで、図7を参照して、CPU21が図6に示す畳み込み演算処理を実行した場合の効果を説明する。図7は、振動子16を空中に設置し、ガン玉をつるした環境で魚群探知装置12を動作させた場合の表示装置15の表示内容を示した図である。左側(「処理有り」と記載された側)が、本発明の畳み込み演算処理(図6に示すS6のゼロ置換処理を実行する畳み込み演算処理)行った場合の表示装置15の表示内容である。また、右側(「処理なし」と記載された側)が、本発明の畳み込み演算処理のようなゼロ置換処理を行わずに、受信した反射波の強度をそのまま用いて畳み込み演算を行った場合の表示装置15の表示内容である。
【0076】
図7において、右側の深度を示す各数値(「0」、「1」、「2」、…)のうち、「2」の数値の直上にガン玉からの反射波が表示装置15に表示されている。ガン玉を示す表示は、本発明の畳み込み演算処理を実行したことによる影響はなく、高い分解能で表示されている。
【0077】
一方、右側の深度を示す「2」の数値の直下には、底(水底に相当)からの反射波が表示装置15に表示されている。そして、本発明の畳み込み演算処理を実行することによって、水底からのノイズの基づく「もやもや」とした表示が解消され、水底付近に存在する探知物がノイズに隠れて視認困難となることが抑制できている。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る魚群探知装置12によれば、振動子16から送信される超音波ビームTBの波形は、波形生成手段41により生成される。その波形は、チャープ変調(線形チャープ変調)がなされたチャープ信号(線形チャープ信号)である。反射波は、所定のサンプリング周期毎に受信手段43によって受信される。その受信手段43により受信した反射波の強度は、少なくとも直近に受信した反射波を含む複数のサンプリング数分、記憶手段44に記憶される。そして、受信手段43により新たにサンプリングした反射波の強度が記憶手段44に記憶したことを契機として、その新たにサンプリングした反射波の強度を含む所定数の情報に対し、チャープ変調に対応した相互相関関数を用いて畳み込み演算することで、パルス圧縮された受信信号が畳み込み演算手段45により得られる。
【0079】
ここで、畳み込み演算手段45では、畳み込み演算に用いられる反射波の強度のうち、特定の時間(振動子16において受信感度が最も高い周波数fmの超音波ビームTBの反射波が受信される時間を中心とする期間)に記憶手段44に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度に基づいて、所定の閾値が閾値決定手段45aにより決定される。そして、特定の情報を除いて、畳み込み演算に用いられる反射波の強度に対して、その反射波の強度が閾値決定手段45aにより決定された所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波の強度が置換手段45bによってゼロに置換される。
【0080】
即ち、最も受信感度の高い周波数fm近辺における超音波ビームTBの反射波の強度に対して、本来受信感度が低いことにより低レベルでの反射波の強度しか得られないはずの時間に強い反射波の強度が得られていた場合には、それは水底等からの強い強度の反射波であると推定して、そのレベルをゼロに置換する。このように判断できるのは、振動子16が受信感度が周波数fmという狭帯域において最も高い受信感度を持つ特性を有しているからである。
【0081】
このように、特定の時間から離れた時間において受信した反射波の中に、水底等から反射された強度の強い反射波が含まれていたとしても、その反射波の強度がゼロに置換されるので、パルス圧縮を行った場合に、強いレンジサイドローブが発生することを抑制できる。即ち、畳み込み演算に用いられる反射波の強度において、特定の時間に記憶手段44に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度に対して、大振幅の受信信号を除去するという簡易な処理で、パルス圧縮における水底等からの強い強度の反射波に基づくレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できる。
【0082】
また、閾値決定手段45aにおいて所定の閾値の決定に用いられる特定の情報に対応する複数の反射波の強度のうち最も高い強度に基づいて、所定の閾値が閾値決定手段45aにより決定される。これにより、特定の時間に記憶手段44に記憶された特定の情報に対応する反射波の強度のうち最も大きい強度に対して、特定の時間以外における大きい強度の反射波の強度を確実にゼロに置換できる。よって、確実にレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できる。
【0083】
また、閾値決定手段45aにおいて所定の閾値の決定に用いられる特定の情報が記憶手段44に記憶された特定の時間(最大値評価期間設定データ22b)は、操作者が操作ボタン14を操作することによって変更可能である。よって、レンジサイドローブの発生をより確実に抑制できるように、操作者が特定の時間を変更することができ、結果として、レンジサイドローブの発生をより確実に低レベルに抑制できるという効果がある。
【0084】
また、畳み込み演算に用いられる反射波の強度において、特定の時間ではない期間にサンプリングされた反射波の強度が所定の閾値よりも大きい場合に、その反射波と、その反射波がサンプリングされた時間を中心に所定の期間内にサンプリングされた反射波との強度が、ゼロに置換され、それ以外の反射波の強度はそのまま保持された上で、畳み込み演算が実施される。これにより、反射波の強度が所定の閾値よりも大きい反射波の強度だけでなく、時間的にその反射波がサンプリングされた時間付近でサンプリングされた反射波の強度もゼロに置換されるので、より確実にレンジサイドローブの発生を低レベルに抑制できる。
【0085】
また、反射波の強度が所定の閾値よりも大きい場合に置換手段45bによりゼロに置換される反射波の強度の範囲である所定の期間(ゼロ置換期間設定データ22c)は、操作者が操作ボタン14を操作することによって変更可能である。よって、レンジサイドローブの発生をより確実に抑制できるように、操作者が所定の期間を変更することができ、結果として、レンジサイドローブの発生をより確実に低レベルに抑制できるという効果がある。
【0086】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。また、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0087】
例えば、閾値決定手段45aにおいて所定の閾値の決定に用いられる特定の情報が記憶手段44に記憶された特定の時間は、少なくともその特定の情報が複数存在し得る時間的な長さを有するように制限されてもよい。これにより、複数の特定の情報に基づいて所定の閾値が決定されるので、振動している反射波の強度をより正確に把握でき、レンジサイドローブの発生を低レベルに抑制するために必要な所定の閾値を確実に設定できる。
【0088】
上記実施形態では、超音波ビームTBとして、線形チャープ変調された線形チャープ信号の波形が振動子16より送信される場合について説明したが、線形チャープ変調に限られるものではなく、所定の変調がなされた波形を超音波ビームTBとして送信されてもよい。例えば、時間Tの間に、周波数f0から周波数f1まで非直線的(例えば二次曲線的)に変化させるように非線形チャープ変調された波形を持つ非線形チャープ信号が送信されてもよい。この場合、振動子16により受信した反射波の強度に対し、その所定の変調に対応した相互相関関数を用いて演算することによって、パルス圧縮された受信信号が得られる。
【0089】
なお、送信波形として線形チャープ変調以外の所定の変調がなされたものが使用される場合、その波形の送信が所定の周波数より開始されてから、振動子16において最も感度の高い周波数fmに到達するまでの時間がT/2(Tは、1つの超音波ビームTBが送信される時間的な長さ)とは限らない。このような場合であっても、所定の閾値の決定に用いられる特定の情報として振動子16において最も感度の高い周波数fmの反射波の強度の情報が含まれるように、特定の時間が設定されることで、本発明の効果を享受できる。
【0090】
上記実施形態では、閾値決定手段45aは、所定の閾値の決定に用いられる特定の情報に対応する複数の反射波の強度のうち最も高い強度に基づいて、所定の閾値を決定する場合について説明した。これに代えて、閾値決定手段45aは、所定の閾値の決定に用いられる特定の情報に対応する複数の反射波の強度の平均値に基づいて、所定の閾値を決定してもよい。
【0091】
上記実施形態では、超音波ビームTBを水中の1つの方向(船舶11の真下方向)に固定して送信し、その反射波を受信して水中の探知を行う魚群探知装置12に、本発明を適用した場合について説明したが、必ずしもそれに限られるものではない。例えば、超音波ビームTBの送受信方向(方位角や俯角)を変化させて、船舶11の全周または一部範囲の水中を探知するソナー型の魚群探知装置や、超音波ビームTBのドップラシフトを利用して潮流の速度を計測する潮流計など、超音波の反射波を利用した各種装置に、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0092】
12 魚群探知装置(超音波探知装置)
14 操作ボタン(入力手段)
16 振動子
41 波形生成手段
42 送信手段
43 受信手段
44 記憶手段
45 畳み込み演算手段(相互相関関数演算手段)
45a 閾値決定手段
45b 置換手段
46 表示手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7