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  • 特許-手すりベルトの表面に設けられた表示部 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】手すりベルトの表面に設けられた表示部
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/24 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B66B23/24 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020006428
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021113111
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390039712
【氏名又は名称】株式会社リンレイ
(74)【代理人】
【識別番号】100074181
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 明博
(74)【代理人】
【識別番号】100206139
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 匡
(72)【発明者】
【氏名】杉山 拓巳
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173392(JP,A)
【文献】特開2009-166960(JP,A)
【文献】特開2006-346885(JP,A)
【文献】実開昭63-162777(JP,U)
【文献】特開2008-023752(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0103572(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手すりベルトの表面に設けられた所望の表示を成す表示部であって、手すりベルト表面に印刷することにより形成された表示内容を表示する印刷層と、前記印刷層の上に形成された保護コーティング層を少なくとも有し、
前記表示部は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであり、
前記印刷層は、架橋剤を含むインクを印刷して成ることを特徴とする、手すりベルトの表面に設けられた表示部。
【請求項2】
前記印刷層を形成する前記インクに含まれる前記架橋剤は、水分散型イソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の表示部。
【請求項3】
前記印刷層を形成する前記インクは、水系ポリウレタン分散体を含む水系インクであることを特徴とする請求項1または2に記載の表示部。
【請求項4】
前記印刷層は、厚みが10~100μmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の表示部。
【請求項5】
前記保護コーティング層は、水系ポリウレタン分散体を主成分とするコーティング剤から形成された塗膜であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の表示部。
【請求項6】
前記保護コーティング層は、手すりベルト全周にわたって端部の無い連続的な膜であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の表示部。
【請求項7】
前記印刷層は、スクリーン印刷法によって形成されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の表示部。
【請求項8】
手すりベルトの表面に設けられた所望の表示を成す表示部の製造方法であって、
架橋剤を含むインクを使用して、所望の表示を手すりベルトの表面に印刷を行い、印刷層を形成する工程と、
前記印刷層の上からコーティング剤を塗布して、保護コーティング層を形成する工程とを少なくとも有し、
前記表示部は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであることを特徴とする、手すりベルトの表面に設けられた表示部の製造方法。
【請求項9】
エスカレータに既設された手すりベルトに対して行われることを特徴とする、請求項8に記載の表示部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータ、動く歩道等の手すりベルトの表面に設けられた、注意喚起、宣伝広告、進行方向等を表示する表示部に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ、動く歩道等の手すりベルトにおいて、利用者に対する注意喚起、宣伝広告、進行方向等を表示する表示部が知られている。
【0003】
このような表示部は、エスカレータ、動く歩道等の手すりベルトは、裏地側の駆動ローラとゴム側の従動ローラで挟圧されながら駆動している。つまり、表示部は、エスカレータ駆動中にはゴム側の従動ローラによって常に負荷がかけられている状態にある。そのため、従動ローラからの負荷による剥がれや欠損が生じるといった事態を防ぐために、表示部には手すりベルトに対する接着力や強度が求められる。
【0004】
また、エスカレータ、動く歩道等の手すりベルトは屈曲しながら駆動されるため、表示部が手すりベルトの屈曲に追従できないと、表示部に皺やよれが生じる。そのため、表示部には手すりベルトの屈曲に追従できる柔軟性が求められる。
【0005】
このような手すりベルト上に設けられた表示部としては、例えば、特許文献1に記載されたような、手すりベルトに貼り付けるための粘着層と、注意喚起、宣伝広告、進行方向等を表示するシート層を有する印刷シートを手すりベルトに貼り付けることによって形成された表示部が開示されている。
【0006】
また、特許文献2に、エスカレータの手すりベルト本体の表面に被着する粘着剤層と、画像受容層と着色材層とを有していて、表面に着色材層から成る画像が形成された画像層及び無黄変ポリウレタンフィルム及び画像受容層の表面に被着する粘着剤層を有する表面保護シートを少なくとも有し、7~20N/25mmの5%引っ張り張力、及び150%以上の伸び率を有する、弾性基材用マーキングフィルムで形成された表示部を有する手すりベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-347764号公報
【文献】特開2006-346885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、手すりベルトに設けられた表示部は、接着性や追従性を高めることにより、手すりベルトから剥離することを防ぐようにしている。しかしながら、経年による接着性や追従性の劣化により、また、悪戯など人為的要因により手すりベルトから剥離する場合がある。
【0009】
特許文献1又は2に記載されたような印刷シートやマーキングフィルムは、単独で存在可能な薄膜材料であるという特性上、一般的に膜強度が非常に高いため、剥離した印刷シートやマーキングフィルムがエスカレータ機械部に巻き込まれた場合に、ローラーに絡みつき運転が停止するといった機械トラブルを発生させるといった問題が生じるおそれがある。
【0010】
本発明者等は、上記問題を解決すべく、表示部が手すりベルトから剥がれたとしても、表示部が剥離と同時に細かく破断して連続膜として剥がれなければ、機械部へ絡みつかないことに着眼し、試験、研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の目的とするところは、手すりベルトの表面に設けられた所望の表示を成す表示部であって、通常の運転では剥がれず、万が一表示部が手すりベルトから剥がれたとしても、表示部が細かく破断することで機械部への絡みつきを無くし、運転停止などの故障を防ぐことのできる表示部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、手すりベルトの表面に設けられた所望の表示を成す表示部であって、手すりベルト表面に印刷することにより形成された表示内容を表示する印刷層と、前記印刷層の上に形成された保護コーティング層を少なくとも有し、前記表示部は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであり、前記印刷層は、架橋剤を含むインクを印刷して成ることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記印刷層を形成する前記インクに含まれる前記架橋剤は、水分散型イソシアネートであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の、前記印刷層を形成する前記インクは、水系ポリウレタン分散体を含む水系インクであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の、前記印刷層は、厚みが10~100μmであることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の、前記保護コーティング層は、水系ポリウレタン分散体を主成分とするコーティング剤から形成された塗膜であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の、前記保護コーティング層は、手すりベルト全周にわたって端部の無い連続的な膜であることを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の、前記印刷層は、スクリーン印刷法によって形成されることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、手すりベルトの表面に設けられた所望の表示を成す表示部の製造方法であって、架橋剤を含むインクを使用して、所望の表示を手すりベルトの表面に印刷を行い、印刷層を形成する工程と、前記印刷層の上からコーティング剤を塗布して、保護コーティング層を形成する工程とを少なくとも有し、前記表示部は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の、エスカレータに既設された手すりベルトに対して行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係る手すりベルトの表面に設けられた表示部によれば、手すりベルトの表面に印刷により形成された表示内容を表示する印刷層と、印刷層の上に形成された保護コーティング層を少なくとも有し、前記表示部は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであり、前記印刷層は架橋剤を含むインクを印刷して成るので、通常の運転では剥がれず、表示部を構成する印刷層や保護コーティング層が手すりベルトから剥がれたとしても、剥がれた表示部が細かく破断することで、機械部への絡みつくことがなく、運転停止などの故障を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る手すりベルトの表面に設けられた表示部の実施の形態の一例を示す一部切り欠き斜視図である。
図2図1のA-A線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る手すりベルトの表面に設けられた表示部の実施の形態を図面により詳細に説明する。
図1,2は本発明に係る手すりベルトの表面に設けられた表示部の実施の形態の一例を示し、図1は本例の手すりベルトの表面に設けられた表示部の一部切り欠き斜視図、図2図1のA-A線拡大断面図である。
【0024】
本例の手すりベルト1の表面に設けられた表示部2は、手すりベルト1の表面に印刷により形成された表示内容を表示する印刷層3と、印刷層3の上に形成された保護コーティング層4を少なくとも有している。
【0025】
表示部2は、100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmである。100%引っ張り張力が550mN/5mm未満であると塗膜強度が不足しており、エスカレータ駆動時の従動ローラによる擦りによって剥がれてしまうことがある。100%引っ張り張力が2,300mN/5mmを超過すると、万が一剥がれた際に連続膜として剥がれてしまうため、機械部への絡みつきが生じる可能性がある。また、表示部2は、エスカレータの運転に伴う手すりベルトの屈曲に追従し、剥がれや割れが生じることを防ぐために、200%以上の伸び率を有することが好ましく、剥がれや割れの防止をより確実なものとするため300%以上の伸び率を有することがより好ましい。
【0026】
手すりベルト1の表面に印刷により形成された印刷層3は、利用者に対する注意喚起、宣伝広告、進行方向等を視認可能とする文字や模様などの表示を内容としており、第1例では、手すりベルト1の長手方向に連続して形成されている。
【0027】
手すりベルト1の表面へ印刷層3を形成する印刷手段は、特に限定されない。スクリーン印刷、パッド印刷、インクジェット印刷等により行われるが、手すりベルト1の色を隠蔽するには、後に詳述する通り10μm以上の膜厚が必要になるため、1回の印刷で厚膜の印刷層3を形成しやすいスクリーン印刷が好ましい。
【0028】
スクリーン印刷法に用いる印刷版は、手すりの複雑な形状に合わせて印刷をするため、スクリーン紗のテンションは通常の平面に印刷する用途のテンションより低いことが好ましい。
【0029】
印刷版の外枠の材質や形状は特に限定されないが、エスカレータに既設された手すりベルト1の複雑な形状に合わせて印刷をするため、柔軟性を有する平板を用いることが好ましく、例えばアルミパイプ枠やアルミ平板、ステンレス平板などを用いることが出来る。
【0030】
印刷版のスクリーン紗には、テトロンやナイロン、ステンレスを用いることが出来るが、耐久性と柔軟性の点からテトロンが好ましい。また、メッシュ径は大きいほど厚膜で画素の粗い印刷になり、細かいほど薄膜で画素の細かい印刷となる。この2つの観点から、メッシュ径は120~280メッシュであることが好ましい。
【0031】
また、印刷層3の厚さは10~100μmの範囲であるのが好ましく、より好ましくは15~80μm、さらに好ましくは20~60μmの範囲となるように、1回もしくは複数回重ねて印刷する。印刷層3の厚さが10μm未満であると、手すりベルト1の色が透けてしまい、印刷層3による表示内容が不鮮明になってしまう場合がある。また、印刷層3の厚さが100μmを超えると表示部2を形成した際に印刷層3による段差が大きく現れ、利用者が表示部に触れた際に違和感を感じたり、ほこりや土砂などの汚れがたまりやすくなり美観を損ねる場合がある。
【0032】
印刷層3を形成するためのインクは、顔料と樹脂を含む。顔料の種類は特に限定されないが、隠蔽性の点から無機顔料を含むことが好ましい。
【0033】
インク中に含まれる顔料の量は特に限定されないが、固形分質量比で5~50%が好ましく、10~40%がより好ましく、15~30%がさらに好ましい。インク中の顔料比が固形分質量比で5%未満であると手すりベルト1の色を隠蔽するのが難しくなる。また、固形分質量比で50%以上になると、樹脂の量が減るため、塗膜の柔軟性が損なわれる。
【0034】
インクに含まれる樹脂には、例えばウレタン系やアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系などを用いることが出来る。中でもウレタン系が塗膜の柔軟性と塗膜強度の点で好ましく、特に水系ポリウレタン分散体が好適である。
【0035】
これらのインクは、例えば溶剤系や水系、UV系などを用いることができる。中でも水系インクが印刷作業時の安全性や臭気の点から好ましい。
【0036】
これらのインクには、架橋剤を含ませている。それにより、塗膜強度を上げることが出来る。架橋剤の種類は特に限定されないが、イソシアネート系やカルボジイミド系、シランカップリング剤系などを用いることが出来る。中でも塗膜強度と手すりベルト1への付着力の点から、イソシアネート系が好ましく、特に水分散型イソシアネートが好適である。
【0037】
印刷層3と手すりベルト1の間には、プライマーを塗布してもよい。プライマーにはイソシアネート系やカルボジイミド系、シランカップリング剤系などを用いることが出来る。中でも手すりベルト1への付着力の点から、イソシアネート系が好ましい。
【0038】
印刷層3と手すりベルト1の間には、コーティング層を形成しても良い。コーティング剤は特に限定されないが、例えばウレタン系やアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系などを用いることが出来る。中でもウレタン系が塗膜の柔軟性と塗膜強度の点で好ましい。特に、後述の保護コーティング層と同じコーティング剤を用いることがなお好ましい。
【0039】
ここで、本願明細書における手すりベルト1の表面とは、印刷層3と手すりベルト1の間にプライマーを塗布している場合には、そのプライマーの塗布後の手すりベルトの表面のことを意味し、また、印刷層3と手すりベルト1の間にコーティング層を形成した場合には、そのコーティング層の表面のことを意味する。
【0040】
印刷層3の上には保護コーティング層4が形成される。保護コーティング層4を形成することで、印刷層3への汚れ付着を防止したり、利用者の衣服や荷物などへ印刷層3の色が移ることを防ぐことが出来る。
【0041】
保護コーティング層4を形成するためのコーティング剤は、例えば溶剤系溶液、溶剤系樹脂分散体、水系樹脂分散体などを主成分とするコーティング剤を用いることができる。中でも水系樹脂分散体がコーティング作業時の安全性や臭気の点から好ましい。
【0042】
これらのコーティング剤の主成分は、特に限定されない。例えば、ウレタン系やアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系などを用いることが出来る。中でもウレタン系が塗膜の柔軟性と塗膜強度の点で好ましく、特に水系ポリウレタン分散体を主成分とすることが好適である。ここで、本願におけるコーティング剤の主成分とはコーティング剤を塗布することにより形成される塗膜を構成する主な成分のことをいう。
【0043】
これらのコーティング剤には、架橋剤を含ませてもよい。それにより、塗膜強度を上げることが出来る。架橋剤の種類は特に限定されないが、イソシアネート系やカルボジイミド系、シランカップリング剤系などを用いることが出来る。中でもイソシアネート系が塗膜強度と手すりベルト1への付着力の点から好ましい。
【0044】
保護コーティング層4は、厚みが2μm以上であり、好ましくは4μm以上、さらに好ましくは8μm以上である。保護コーティング層4の厚さが2μm未満であると、耐久性や耐摩耗性が低くなるため、保護層としての機能を発揮できない恐れがある。
【0045】
また保護コーティング層4は、コーティング剤を複数回重ねて塗布することによって形成される。中でも、特開2009-220977に開示されているように、全周にわたって端部の無い連続的な塗膜であることが好ましい。端部があると、利用者が表示部に触れた際に違和感を感じたり、ほこりや土砂などの汚れがたまりやすくなるおそれがある。
【0046】
実施形態による表示部の製造方法は、簡易に行うことができ、且つ、大掛かりな設備を必要としないため、手すりベルトの製造工程の一部として未設の手すりベルトに対して行うことができるだけでなく、エスカレータに既設された手すりベルトに対しても行うことができる。
【0047】
また、実施形態によって製造された表示部は、表面研磨により容易に除去することが出来る。この作業も簡易かつ大掛かりな設備を必要としないため、手すりベルトの製造工程の一部として未設の手すりベルトに対して行うことができるだけでなく、エスカレータに既設された手すりベルトに対しても行うことができる。これにより、既設の表示部を有する手すりベルトであっても、表示部の除去や再設置によるデザインの変更が可能である。
【0048】
本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明に係る手すりベルトの表面に設置された表示部の製造方法の特徴について例証する。但し、本発明はこれらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0049】
[実施例1]
手すりベルト表面の素地調整
【0050】
ウレタンゴム製手すりベルトの表面を、水で10倍に希釈したアルカリ洗剤(グリスト1100/(株)リンレイ製)をスプレーしながら400番、800番の研磨剤でこの順に研磨し、表面を水拭きし、素地調整を行った。
【0051】
表示部の形成
【0052】
この素地調整後の手すりベルトの表面に、水系ポリウレタン分散体と顔料と水分散型イソシアネートを含む水系インクを、スクリーン印刷法を用いて印刷して、印刷層を形成した。乾燥後、水系ウレタン樹脂を主成分とするコーティング剤(EBC-500とEBC助剤の混合液/(株)リンレイ製)を専用布で塗布し、ウレタンゴム製手すりベルトの表面にコーティング層を形成することで、表示部を形成した。
【0053】
形成した表示部は、100%引っ張り張力が550mN/5mmになるように調整した。表示部の引っ張り張力は、表示部を離型シート上に形成し、5mm幅に切断後、離型シートから剥がして試験片とし、インストロン型引っ張り試験機を用いて測定したものであり、測定条件は、環境温度25℃、つかみ間隔20mm、及び引っ張り速さ300mm/minとした。
【0054】
強制剥離試験
【0055】
手すりベルトの表面と表示部の強制剥離試験として、手すりベルトの表面に形成した表示部に、JIS-K5600-5-6で規定された2mm間隔の25マスのクロスカットを入れ、エスカレータの従動ローラを想定したゴム部材を1kgの荷重で擦りつけ、クロスカット3マス相当部分の塗膜が剥がれ落ちるまでの擦り回数の測定と剥がれ方を観察した。塗膜が剥がれ落ちるまでの擦り回数から、耐久性は良好であると判断された。また、その時の剥がれ方は、塗膜が細かく破断するように剥がれており、良好と判断された。それぞれの結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が700mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例3]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が1,400mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が1,600mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例5]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が2,300mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が450mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が2,400mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例3]
架橋剤を含まず、水系ポリウレタン分散体と顔料を含む水系インクを用いた以外は、実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が700mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例4]
架橋剤を含まず、水系ポリウレタン分散体と顔料を含む水系インクを用いた以外は、実施例1と同様に印刷層と保護コーティング層から構成される表示部を形成した。このとき、表示部の膜厚を変えることで、100%引っ張り張力が1,300mN/5mmになるように調整した。表示部形成後、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0064】
試験の結果を表1に示す。なお、表1における強制剥離試験の判定基準として、塗膜が剥がれ落ちるまでの擦り回数が29回以下の場合は耐久性不足として「×」、30~59回の場合は運転環境によっては耐久性が不足する恐れがあるとして「△」、60~99回の場合は耐久性が良好であるとして「○」、100回以上の場合は耐久性に特に優れているとして「◎」とした。また、剥がれ方は剥離と同時に細かく破断する場合はローラ巻き込みリスクがなく良好であるとして「○」、破断せずに連続膜状に剥がれる場合は巻き込みリスクがあることから「×」とした。
【0065】
実施例1~5のように、表示部の100%引っ張り張力が550~2,300mN/5mmであると、優れた耐久性と、剥がれた際に細かく破断する破砕性が両立できる表示部が得られた。架橋剤を含まず700mN/5mmの100%引っ張り張力を有する表示部は、高い耐久性が不足していた。また、架橋剤を含まず1,300mN/5mmの100%引っ張り張力を有する表示部は、連続膜状に剥がれが発生した。
【0066】
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1 手すりベルト
2 表示部
3 印刷層
4 保護コーティング層
図1
図2