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特許7373207眼の状態の矯正に使用するためのシステム、方法、及び材料組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】眼の状態の矯正に使用するためのシステム、方法、及び材料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/013 20060101AFI20231026BHJP
   A61F 9/01 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61F9/013 100
A61F9/01
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020545243
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 IL2019050219
(87)【国際公開番号】W WO2019167040
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】62/636,936
(32)【優先日】2018-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504154333
【氏名又は名称】バー‐イラン、ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】BAR-ILAN UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ザレフスキー,ジーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ルルーシュ,ジャン ポール
(72)【発明者】
【氏名】スマドジャ,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ハレル,イファット
(72)【発明者】
【氏名】ベン イシャイ,リフカ
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-532484(JP,A)
【文献】特表2002-517085(JP,A)
【文献】特開平04-176458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/013
A61F 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
視覚障害の矯正に用いるためのキットにおいて、当該キットが、
眼の状態の矯正に用いるためのシステムであって、処理ユーティリティ及びエッチングユーティリティを備えるシステム、を備え、
前記処理ユーティリティが、
ユーザーの視覚障害を示す入力データに応じて選択された二次元パターンを提供するように、及び前記選択された二次元パターンを、前記エッチングユーティリティによって角膜の表面上に形成するための操作命令を作成するように構成された矯正パターンモジュールを含み、
前記エッチングユーティリティは、ユーザーの前記角膜の表面上に前記選択されたパターンを形成するように構成され、
前記キットが、複数のナノ粒子を含む水溶液を含む材料組成物を有する点眼剤であって、前記ナノ粒子が、生体適合性タンパク質鎖によって包まれたマグヘマイトナノ粒子を含む点眼剤を備える、キット。
【請求項2】
視覚障害の矯正に用いるためのキットにおいて、当該キットが、
眼の状態の矯正に用いるためのシステムであって、処理ユーティリティ及びパターンユーティリティを備えるシステム、を備え、
前記処理ユーティリティが矯正パターンモジュールを含み、当該矯正パターンモジュールが、ユーザーの視覚障害を示す入力データに応じて選択された二次元のパターンを提供するように、及び前記選択された二次元のパターンを、前記パターンユーティリティによって角膜の表皮層に表面のレリーフの形態で形成するための操作命令を作成して、角膜の形状を変えることなく、目的とする屈折異常の一時的な矯正という光学的効果を提供するように構成され、
前記パターンユーティリティが、ユーザの角膜の表皮層に表面のレリーフの形態で選択された前記パターンを形成するように構成され、
前記キットが、複数のナノ粒子を含む水溶液を含む材料組成物を有する点眼剤であって、前記複数のナノ粒子が生体適合性タンパク質鎖を含み、前記ナノ粒子は、前記パターンの切り込み領域内に分散されたときに、前記パターンによる屈折異常の矯正の光学的効果を安定させかつ向上させるように構成されている、点眼剤を含む、キット。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、角膜の屈折率および/または眼を覆う涙の屈折率とは異なる屈折率を有するように選択されている、請求項1または2に記載のキット。
【請求項4】
前記ユーザーの角膜上に選択されたパターンをエッチングし、前記眼に前記点眼剤を投与するために前記システムを操作するための説明書を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
家庭での又は医師のクリニックでの使用に適している、請求項1から4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
前記材料組成物が、生体適合性タンパク質鎖によって包まれたマグヘマイトナノ粒子を含み、前記パターンの光学的効果の安定性を高めるように構成されていることにより、光学的矯正効果を、数日間から数ヶ月間にわたって継続させることができる、請求項1から5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
近視、遠視、老視、及び乱視のうちのいずれか1つを矯正するように構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、ユーザーの角膜の表面上皮層上にスタンプされた高性能光学パターンを通して角膜の屈折率を局所的に改変するように構成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
ユーザの角膜の表面に選択された前記パターンを形成する前記エッチングユーティリティまたは前記パターンユーティリティが、
前記ユーザーの角膜上に前記パターンをエッチングするための選択された超音波を伝送するための構成、
前記角膜の機械的エッチングを行うための構成、
少なくとも1つのレーザーユニット及びビームステアリングモジュールを備えて、当該レーザーユニット及びビームステアリングモジュールが、ユーザーの眼の角膜上に選択されたパターンを操作命令に応じて形成するための光学エネルギーを提供するように構成された構成、のうちの1つの構成を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
ユーザの角膜の表面に選択された前記パターンを形成する前記エッチングユーティリティまたは前記パターンユーティリティが、前記少なくとも1つのレーザーユニット及びビームステアリングモジュールを備え、前記レーザーユニットが、前記角膜の表面から単一細胞層までの深さでエッチングするように構成されている、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記二次元のパターンが、回折パターンを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
前記パターンが、フレネルリングパターンを含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記二次元パターンが、以下の構成:
前記パターンが、位相に作用する干渉パターンを含む;
前記パターンが、焦点深度の拡大を可能にする;
前記パターンが、0.1~0.3ディオプトリの光学度分解能で光学的矯正を可能とする;
のうちの1つの構成を有する、請求項1から12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
前記生体適合性タンパク質鎖が、ヒト血清アルブミンタンパク質を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
視覚障害の矯正に用いるための、請求項1から14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
点眼剤として用いるように構成されている、請求項1から15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
前記ナノ粒子が、硝酸セリウムアンモニウムFe ナノ粒子を含む、請求項1から16のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、さらに、1又は複数の選択された薬物を担持するように構成されている、請求項1から17のいずれか1項に記載のキット。
【請求項19】
前記水溶液が、水、静菌水、塩化ナトリウム溶液、グルコース溶液、液体界面活性剤、およびpH緩衝溶液を含むグループのうちの少なくとも1つから形成されている、請求項1から18のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚矯正技術の分野にあり、具体的には、近視、遠視、老視、乱視、及び他の視覚障害などの視覚障害の矯正に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚を制限するものとして様々な眼の状態が知られている。そのような眼の状態としては、一般的に、近視(近視(myopia))、遠視(遠視(hyperopia))、及び眼の老化(典型的には老視を伴う)が挙げられ得る。そのような眼の状態を矯正する様々な技術が知られており、眼鏡、コンタクトレンズ、さらには眼内レンズなどである。用いられるレンズは、ユーザーの眼の状態に応じて、選択された1又は複数の光学的パワー、及び/又はレンズの焦点深度を拡大するように設計された選択されたパターンを備える。老視の症状を例とする様々な眼の状態を克服するために一般的に用いられる手法の1つは、最新の眼内レンズ技術に基づいており、IOL、多焦点IOL、又はより最近では焦点深度が拡大されたIOLのいずれかを装着することによる。
【0003】
光学的パワーは、一般的に、光路の屈折操作を用いて提供され得る。しかし、光路を操作するための回折技術も、適切な光学的パワーを提供し得る。そのような技術は、レンズのような様式で光の回折を提供するフレネルゾーンプレート又はリングを含み得る。さらなる光操作技術は、焦点深度拡大のための光干渉を利用し得る。
【0004】
例えば、米国特許第7,859,769号は、焦点深度を拡大するためのイメージング装置及び方法を提供する。このイメージング装置は、ある特定の有効口径(affective aperture)を有するイメージングレンズ、及び前記イメージングレンズに付随する光学素子を備える。光学素子は、低空間周波数位相遷移(spatially low frequency phase transition)を定める、位相に作用する非回折性光学素子として構成されている。光学素子及びイメージングレンズは、異なる光学特性の実質的に光学的に透明であるフィーチャを間隔を空けて配置することによって形成された所定のパターンを定める。イメージングレンズ面内の光学素子の少なくとも1つの位相遷移領域の位置は、少なくとも前記有効口径の寸法によって決定される。
【0005】
タンパク質ベースの薬物送達システムでは、選択された薬物を封入することができ、安定で無毒性であり、典型的には非抗原性のキャリアが得られる。ヒト血清アルブミンは、非常に豊富に存在する血漿タンパク質である薬物キャリア化合物として興味深いものであり、長い半減期を有している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ユーザーに対して視覚上の問題を引き起こす眼の状態を矯正するための新規な技術を提供する。本発明の技術は、ユーザーの眼の状態に応じて選択されたパターンをユーザーの角膜上に適用すること、及び適用されたパターン上に屈折率の変動が得られる選択された材料組成物を導入すること、を提供する。一般的に、選択された材料組成物は、角膜の表面上皮層上にスタンプされた高性能光学パターンを通して角膜の屈折率を局所的に改変する合成ナノ粒子を含む点眼剤の形態である。この光学パターンは、角膜の形状を変えることなく、目的とする屈折異常の一時的な矯正を行う。
【0007】
選択された材料組成物は、一般的に、典型的にはヒト血清アルブミン(HAS)を例とするアルブミンシェルに担持されるマグヘマイトナノ粒子を含む点眼剤の形態で提供されてよい。材料組成物は、保存時及びユーザーの角膜上の両方で高い安定性を示す生体適合性で無毒性の材料組成物として選択される。マグヘマイト-アルブミンナノ粒子は、高い屈折率を特徴とし、角膜上皮中に、その上に適用されたパターンを通して取り込まれると、選択されたパターンに応じて、屈折率及び眼全体の屈折を改変する。
【0008】
さらに、本発明は、例えば近視、遠視、又は老視などの視覚的状態を伴う眼の状態の矯正に用いるためのシステムを提供する。システムは、処理ユーティリティ及びエッチングユーティリティを備え、ユーザーの眼の状態を示す入力データを受信するように構成されている。処理ユーティリティは、入力データに応答し、入力データに応じて視覚障害を矯正するための二次元パターンを決定するように構成されている。処理ユーティリティは、典型的には、ユーザーの視覚障害を示す入力データに応じて選択された二次元パターンのマッピングを決定するように構成された矯正パターンモジュールを備えていてよい。処理ユーティリティは、さらに、選択された二次元パターンを前記エッチングユーティリティによって形成するための操作命令を作成するように構成されている。エッチングユーティリティは、典型的には、少なくとも1つのレーザーユニット、及びビームステアリングモジュールを備える。エッチングユーティリティは、光学エネルギーを提供するように、及びユーザーの眼の角膜上に選択されたパターンをエッチングするための操作命令に応じて光学エネルギーを指向するように構成されている。
【0009】
したがって、広い態様によると、本発明は、眼の状態の矯正に用いるためのシステムを提供し、このシステムは、処理ユーティリティ及びエッチングユーティリティを備え、処理ユーティリティは:ユーザーの視覚障害を示す入力データに応じて選択された二次元パターンを提供するように、及び前記選択された二次元パターンを、前記エッチングユーティリティによって角膜の表面上に形成するための操作命令を作成するように構成された矯正パターンモジュール;を備え、エッチングユーティリティは、ユーザーの角膜の表面上に選択されたパターンをエッチングするように構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態によると、エッチングユーティリティは、ユーザーの角膜上に前記パターンをエッチングするための選択された超音波を伝送するように構成されている。
【0011】
いくつかの他の実施形態によると、エッチングユーティリティは、角膜の機械的エッチングを行うように構成されている。
【0012】
さらにいくつかの他の実施形態によると、エッチングユーティリティは、少なくとも1つのレーザーユニット及びビームステアリングモジュールを備え、ユーザーの眼の角膜上に選択されたパターンを操作命令に応じてエッチングするための光学エネルギーを提供するように構成されている。
【0013】
レーザーユニットは、角膜の単一細胞層までの深さでエッチングするように構成されていてよい。
【0014】
いくつかの実施形態によると、二次元パターンは、回折パターンを含む。例えば、パターンは、フレネルリングパターンを含んでいてよい。
【0015】
いくつかの実施形態によると、二次元パターンは、位相に作用する干渉パターンを含む。このパターンは、例えば、焦点深度を拡大するパターンを含んでよい。
【0016】
いくつかの実施形態によると、選択されたパターンによって、0.1~0.3ディオプトリの光学的パワー分解能での光学的矯正が可能となる。一般的に、これは、従来の光学的矯正の一般的限界値である0.25ディオプトリよりも低い矯正を可能とするものである。
【0017】
本発明の1つの他の広い態様によると、本発明は、複数のナノ粒子を含む溶液を含む材料組成物を提供し、前記ナノ粒子は、生体適合性タンパク質鎖で包まれたマグヘマイトナノ粒子を含む。いくつかの実施形態によると、タンパク質鎖は、ヒト血清アルブミンタンパク質を含む。
【0018】
材料組成物は、視覚障害の矯正に用いるように構成されていてよい。材料組成物は、好ましくは、点眼剤として用いるように構成されていてよい。
【0019】
いくつかの実施形態によると、材料組成物は、ユーザーの角膜に選択されたパターンのエッチングを施した後に点眼剤として用いるように構成されていてよく、前記ナノ粒子は、角膜の表面のレリーフ内に分散されて、ユーザーの眼に追加の光学的パワーを提供する。
【0020】
いくつかの実施形態によると、マグヘマイトナノ粒子は、硝酸セリウムアンモニウムFe2O3ナノ粒子を含む。
【0021】
いくつかの実施形態によると、生体適合性タンパク質鎖によって包まれたマグヘマイトナノ粒子は、さらに、1又は複数の選択された薬物を担持するように構成されている。
【0022】
本発明のさらに別の広い態様によると、本発明は、視覚障害の治療に用いるための材料組成物を提供し、この材料組成物は、マグヘマイトをベースとする粒子をタンパク質シェル中に含むナノ粒子を含む。ナノ粒子は、さらに、薬物キャリア及び送達として構成されていてもよい。
【0023】
本発明は、さらに、マグヘマイトマクロ構造、それを含む製剤、及びその製造方法も考慮する。
【0024】
本発明に従って提供される製剤は、例えば点眼剤の形態である、眼科製剤(眼内使用のため)であってよく、ペプチド、多糖類などの生体適合性マクロキャリアを伴う修飾マグヘマイトを典型的には構成しているマグヘマイトマクロ構造を含む。修飾マグヘマイトは、硝酸セリウムアンモニウム(CAN)を伴うマグヘマイト(繰り返し単位γ-Feを有する酸化鉄)を含む。マクロ構造は、修飾マグヘマイトナノ粒子を、マクロキャリアのマトリックス内に封入し、そうしてマクロ構造を形成することによって形成される。
【0025】
いくつかの実施形態によると、マクロキャリアは、ペプチドである。いくつかの実施形態によると、マクロキャリアは、アルブミンであり、例えばヒト血清アルブミン(HAS)である。
【0026】
マクロ構造は、固体粉末の再溶解可能な形態で提供されてよく、又は液体のすぐに使用できる眼科製剤として水性キャリア中に提供されてもよい。水性キャリアは、水、静菌水、塩化ナトリウム溶液、グルコース溶液、液体界面活性剤、pH緩衝溶液などのいずれか1つであってよい。
【0027】
マクロ構造が水性媒体中に提供される場合、それは、再溶解可能な粉末形態が得られるように処理されてもよい。粉末形態は、凍結乾燥又は噴霧乾燥の技術によって得られ得る。
【0028】
再溶解可能な形態の固体粉末又は水性製剤、及び使用説明書を含む、所望に応じて点眼剤又は再溶解のための粉末の形態であるキットも提供される。キットが粉末を含む場合、それは、マクロ構造を再溶解するための少なくとも1つの水性キャリアも含んでよい。
【0029】
さらなる別の広い態様によると、本発明は、視覚障害の矯正に用いるためのキットを提供し、このキットは、上記で述べたシステム、及び上記で述べた材料組成物を含む点眼剤、を含む。
【0030】
キットは、さらに、ユーザーの角膜上に選択されたパターンをエッチングし、眼に点眼剤を投与するための、前記システムを操作するための説明書を含んでよい。一般的に、キットは、LASIK手術を受けることができないユーザーに対して光学的矯正を可能とするものであり、なぜなら、角膜上のパターンエッチングが浅く、薄い角膜でも成し得るからである。したがって、キットは、家庭での又は医師のクリニックでの使用に適し得る。さらに、キット及び技術は、既に白内障手術を受けたユーザーに対しても矯正を可能とするものであり、ユーザーが既に使用している眼内レンズに対する追加の矯正が可能である。
【0031】
いくつかの実施形態によると、生体適合性タンパク質鎖によって包まれたマグヘマイトナノ粒子を含む材料組成物は、前記パターンの光学的効果の安定性を高めるように構成され、それによって、光学的矯正効果を、数日間から数ヶ月間にわたって継続させることができる。
【0032】
いくつかの実施形態によると、キットは、近視、遠視、老視、及び乱視のうちのいずれか1つを矯正するように構成されていてよい。
【0033】
本明細書で開示される主題をより良く理解するために、及びそれが実際にどのようにして実施され得るかを例示するために、以降では、添付の図面を参照し、単なる限定されない例として、実施形態を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明のいくつかの実施形態に従う眼の状態の矯正に用いるためのシステムを模式的に示す図である。
図2図2は、光学的パワーを加える/減らすことによる眼の状態の矯正に適するフレネルゾーンプレートパターンを例示する図である。
図3図3は、眼のレンズの焦点深度の拡大を伴う眼の矯正パターンを例示する図である。
図4図4は、眼のレンズの焦点深度の拡大を伴う眼の矯正パターンを例示する図である。
図5図5は、本発明のいくつかの実施形態に従うアルブミンタンパク質の脱溶媒和プロセスを例示する図である。
図6図6A及び6Bは、本発明のいくつかの実施形態に従って製造されたナノ粒子のサイズ及び(ゼータ)電位測定を示す図である。
図7図7A~7Cは、HASコアNPのTEM、クライオTEM顕微鏡写真、及びサイズ分布ヒストグラムを示す図である。
図8図8A及び8Bは、本発明のいくつかの実施形態に従うマグヘマイトナノ粒子を担持しているHASコアNPのFTIR分光を示す図であり、図8Aは、FTIRの結果を示し、図8Bは、マグヘマイトを担持するHSAナノ粒子の吸収スペクトル中のピークを拡大した図である。
図9図9A及び9Bは、粗HAS(図9A)及び本明細書で述べるHAS NP(図9B)のX線光電子(XPS)スペクトルを示す図である。
図10図10Aから10Dは、ハイブリッドHSA/CAN-γ-Feナノ粒子の形態及びサイズ分布測定が、TEM、クライオ-TEM、及びHR-SEMを用いて特性決定されたことを示す図である。
図11図11Aから11Dは、本発明のいくつかの実施形態に従う、HR-SEM画像(図11A)、並びにHAS NPの炭素に対する(図11B)、酸素に対する(図11C)、及び鉄に対する(図11D)ラインスキャン分析を用いた選択された元素の量の測定を示す図である。
図12図12は、角膜のエッチング領域内にあるNPを示す、HAS NPに埋め込まれた高反射性(hyper reflecting)鉄粒子からの反射測定を示す図である。
図13図13A及び13Bは、眼に選択されたパターンを施し、本発明のいくつかの実施形態に従う点眼溶液を与えることによって得られたブタの眼の光学的パワーの測定された変動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
上記で示したように、本発明の技術は、近視、遠視、及び老視などの視覚障害の矯正を提供する。図1は、眼の状態の矯正に用いるためのシステム100の模式図を示す。システム100は、処理ユーティリティ200及びエッチングユーティリティ300を含む。システムは、一般的に、出力パターンの描画を提供するためのエッチングユーティリティ300を伴ったコンピュータシステムとして構成されていてよい。この目的のために、システム100はさらに、記憶ユーティリティ400、さらには図1には特に示されていない入力/出力ユーティリティ及びユーザーインターフェイスも含んでよい。
【0036】
処理ユーティリティ200は、一般的に、1又は複数のプロセッサを含んでよく、さらに、矯正パターンモジュール210などの1若しくは複数のハードウェア又はソフトウェアモジュールを含んでよい。矯正パターンモジュール210は、ユーザーの眼に必要な光学的矯正(各々の眼が異なる光学的矯正を必要とする場合がある)を示す入力データを受信、処理し、光学的矯正に適する選択された二次元パターンを決定する、又は記憶ユーティリティから引き出すように構成されている。処理ユーティリティ200は、さらに、ユーザーの角膜上に選択されたパターンをエッチングして選択された光学的矯正を提供するための操作命令を作成するようにも構成されている。
【0037】
処理ユーティリティ200は、作成された命令をエッチングユーティリティ300に伝送して、光学的放射線を提供し、それをユーザーの眼の角膜上に選択されたパターンを生成するために指向する。図2、3、及び4は、ユーザーの眼の状態に応じて選択される3つの考え得るパターンを模式的に例示する。図2は、幅の異なる複数の同心円を含むフレネルゾーンプレートパターンを示し、図3及び4は、例えば老視の矯正に適する、焦点深度拡大のために選択されるパターンを例示する。一般的に、そのようなパターンの光学的特徴、及び各パターンの厳密な構成は、矯正に必要な光学的パワー、又は必要とされる焦点深度の拡大を例とする選択された眼の矯正に応じて決定することができる。
【0038】
一般的に、エッチングユーティリティ300は、角膜の上皮層上の切り込みとして、選択されたパターンを適用するように構成されている。エッチングは、一般的に、選択された波長範囲での光学的エッチング、超音波エッチング、及び/又は角膜の機械的切り込みを用いて提供されてよい。単純化のために、エッチングは、本明細書において、レーザー光源及びビームステアリングユニット320で構成された光学的エッチングユーティリティ300として例示される。レーザー光源310は、上皮細胞層内をエッチングするのに適する波長及び出力で光学的放射線を提供するように構成されており、ステアリングユニット320は、ユーザーの角膜上に選択されたパターンを投影することを可能とするために出力光ビームの経路を変化させるように構成されている。ステアリングユニット320の操作速度及び光源ユニット310の出力は、角膜の、典型的には表面上皮層内に、例えば単一細胞層の深さで光エッチングを提供するように選択される。
【0039】
より具体的には、ユーザーの眼に対するいかなる損傷も回避し、角膜のエッチングされた細胞層の治癒及び回復を可能とするために、パターンは、一般的に、単一細胞層以下の深さで、又は数マイクロメートルまでの深さで、ユーザーの角膜上にエッチングされるべきである。また、選択された光学的パターンが、角膜の表面上皮層に効果的にスタンプされることにも留意されたい。
【0040】
上記で示したように、パターンは、追加の光学的パワーを提供するために、又はユーザーの眼の焦点深度を変化させるために選択される。持続的な効果を得るために、本発明の技術は、角膜及び/又は眼を覆っている涙とは異なる屈折率を有する選択されたナノ粒子を含む適切な点眼溶液を用いる。この目的のために、点眼製剤は、一般的に、アルブミンシェルに担持されたマグヘマイト粒子を含む。より具体的には、アルブミンシェルは、典型的には、マグヘマイト粒子の周囲にフォールディングしたタンパク質の意味である。ナノ粒子は、硝酸セリウムアンモニウム(CAN)で修飾されたマグヘマイト(γ-Fe)粒子をベースとしていてよい。
【0041】
点眼溶液の粒子が、刻まれたパターンの光学的効果を経時で安定とするように構成されていることには留意されたい。より具体的には、ナノ粒子は、一般的には、切り込み/エッチング領域に進入し、したがって、涙がその場所に到達することを防止する。このことによって、光学的効果を維持することができ、上皮層の治癒プロセスを制限して、数日間から数ヶ月間にわたって持続する光学的効果が得られる。一般的に、ナノ粒子の点眼剤を用いない通常の状態では、エッチングパターンは、1~2日間以内に治癒し得る。
【0042】
一般的に、薬物キャリア粒子として用いられることが多いタンパク質ベースのNPは、保存時の高い安定性、並びに無毒性及び非抗原性であることを例とする生体適合性に基づいて、点眼溶液用として非常に興味深いものであり得る。アルブミンタンパク質は、生分解性、非免疫原性、無毒性であり、生体内で代謝されることが示されている高分子キャリアを提供する。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ヒト血清アルブミン(HSA、66.5kDa)を含んでよい。HASは、最も豊富な血漿タンパク質であり(35~50g/Lヒト血清)、平均半減期が19日であることから、好ましいものであり得、したがって、以下で用いられるが、しかし、本発明のナノ粒子は、典型的には、様々な動物の血清アルブミン及び/又は合成アルブミンを含むいかなるアルブミンタイプのタンパク質を伴っていてもよいことには留意されたい。一般的に、アルブミンは、1つのスルフヒドリル基及び17のジスルフィド架橋を形成する35のシステイン残基を含有する。HSAは、pHに対して強く、4~9のpH範囲内で安定である。さらに、HSAは、60℃で10時間まで加熱することができる。
【0044】
本発明者らは、強固で制御可能な粒子サイズを有するHSAベースのナノ粒子(NP)を提供し、特性決定することができる技術を明らかにした。この技術は、図5に例示する脱溶媒和/架橋型ジビニルスルホン(DVS)を介するナノファブリケーション法を用いている。脱溶媒和プロセスの過程で、コアセルベートが形成され、次にDVSによって促進される架橋によって硬化/安定化される。この状況では、HSAベース高分子の鎖内又は鎖間折り畳みは、二官能性ジビニルスルホン(DVS)試薬の強い求電子特性を利用することができる制御された二方向性共有結合マイケル反応に由来し得る。そのようなHSA NPの製造のための架橋剤としてジビニルスルホン(DVS)を用いることで、さらなる第二工程の官能基修飾に用いられ得る様々な遊離官能基が表面上で利用可能となり得る。さらに、親水性(NHCe(IV)(NO(硝酸セリウムアンモニウム-CAN)修飾y-Fe NP(CAN-マグヘマイト又はCAN-y-Fe)NPを封入したHSA NPから成る関連するハイブリッド有機/無機ナノシステムも製造し、特性決定した。以下で例示されるように、いくつかの適切なナノ粒子を製造し、特性決定したが、それらは、ナノ粒子の変形/種類、及び/又は本発明の技術に従う中間製造段階に伴うナノ粒子であった。
【実施例
【0045】
例1-HSAコアナノ粒子の製造
HSAコアナノ粒子の製造では、HSA(50.0mg)を1.0mLの精製水(ddHO)に溶解した。脱溶媒和プロセスの過程でエタノールを添加して、10mg/mlの最終HSA濃度で合計体積を5.0mLとした。140.0μLのDVS(EtOH中5重量/重量%)を添加して、タンパク質鎖の架橋を誘導した。この懸濁液を55℃で1時間撹拌し、続いて超音波浴に20分間入れることによって架橋プロセスを行った。得られたHSAナノ粒子を、次に、3サイクルの分画遠心分離(13500rpm、60分間、4℃の条件)によって精製し、続いて元の体積のddHOに再分散させた。各再分散工程は、超音波浴中で10~15分間行った。長期間の保存を可能とするために、及び凝集を回避するために、ナノ粒子を4℃の冷蔵庫中に保存した。
【0046】
例2-CANマグヘマイトナノ粒子の製造
CANマグヘマイトNP((CeL3/4+-γ-Fe)の製造を、2種類のFe2+/3+塩の塩基性共沈を含む2段階の手順で行った。この手順では、低酸化状態の出発NP材料としてマグネタイト(Fe)NPが得られ、次にこれを、一電子酸化剤の硝酸セリウムアンモニウム(CAN)で酸化し、(CeL3/4+カチオン/複合体NP表面ドーピングによって表面修飾して、6.61±2.04nmサイズの正に帯電した(+45.7mY)CAN-γ-Fe NPを得た。
【0047】
例3-ハイブリッドCANマグヘマイト含有HSAナノ粒子の製造
角膜上の選択されたパターンに応じて視覚に作用するのに適した屈折率を有する所望されるナノ粒子構造を得るために、この同じDVSを介するNP製造/成分架橋の過程で、ナノスケール成分HSA及びCAN-γ-Fe NPの両方を、CAN-γ-Fe NPがHSAナノ複合体粒子中に封入されるように集合させた。この目的のために、ハイブリッドCANマグヘマイト含有HSAナノ粒子を、HSA NPについて上記で述べた手順と同一の手順によって製造した。簡潔に述べると、HSA(1.0mLのddHO中に50.0mg)に、CAN-γ-Fe NPを、25:1の重量比で添加し、室温で1時間インキュベートし、続いて脱溶媒和及び架橋プロセスを行った。得られた複合体ナノ粒子を、次に、3サイクルの分画遠心分離(13500rpm、60分間、4℃)によって精製し、磁気的にデカンテーションし(強い外部磁石を用いる)、元の体積のddHOに再分散させた。各実施した再分散工程では、処理の前に、反応容器を低出力超音波浴中に15分間入れた。長期間の保存のために、及び凝集を回避するために、ナノ粒子を冷蔵庫中(4℃)に保存した。
【0048】
得られたHSAコアNPを、様々に組み合わせた分析法、分光法、及び顕微鏡法によってさらに特性決定した。図6A及び6Bは、ナノ粒子のサイズ分布(図6A)及び電荷分布(ゼータ電位、図6B)の分析を示す。得られた製造したHSA NPは、149.56±1.8nmのNP流体力学的サイズ(OLS)及び-35.4±2.4mVの強い負のゼータ(電気)電位を示す。加えて、ナノ粒子は、0.17の多分散指数(PDI)値を伴う小さい分散性を示す。
【0049】
図7A~7Cは、HASコアNPのTEM、クライオTEM顕微鏡写真、及びサイズ分布ヒストグラムを示す。これらの測定は、平均サイズ23.05±5.3nmの球形状で実質的に均質であるHSAコアNPの形成を示している。
【0050】
DVS試薬によるHSA高分子鎖の架橋を特定するために、ナノ粒子の追加の測定を行った。図8A及び8Bは、標準HAS G2と本明細書で述べるマグヘマイト担持HSAナノ粒子G1との間の構造的相違を示すFTIRスペクトル測定を示す。図8Aは、4050cm-1~550cm-1のスペクトルに沿って測定された相対的強度を示し、図8Bは、図8A中で四角形でマークした領域を拡大したものであり、吸収スペクトルG1のピークを詳細に示す。粒子間の構造的相違は、FTIRの吸収ピークによって例示され、変動は、一般的に、コアHSA NP中のDVSの存在に帰する。粗HSAとHSA NPとのスペクトルの相違は、図8Bの800~1100cm-1の範囲で容易に見ることができる。この図は、標準HSA FTiRスペクトルG2には現れていないHSA NPスペクトルG1におけるいくつかのピークを示している。880cm-1の第一のピークは、C-S結合の伸縮振動に対応する。1047及び1083cm-1に現れている他の2つのピークは、スルホキシド基(R-S=O)の伸縮振動に帰属することができる。
【0051】
加えて、X線光電子(XPS)分光法を用いて、HSA高分子鎖架橋時のこの求電子DVS試薬の関与を確認した。図9A及び9Bは、粗HAS(図9A)及び本明細書で述べるHAS NP(図9B)のXPSスペクトルを示す図である。HSA NPのXPS分析は、S元素が2つの酸化状態で存在することを示しており、すなわち、第一の状態は、R-S種に対応し(結合エネルギーBE=164.0eV)及び第二の状態は、より高い結合エネルギー、典型的には168.5eVであり、DVSスルホン基に由来するSOスルホキシド基に対応している。この168.5eVにあるピークは、出発粗HSAタンパク質のXPS分析には現れなかった。
【0052】
一般的には一級アミン基(NH)及びカルボキシル基(COOH)を含む主要な官能基は、UV感受性カイザー試験(EDC活性化COOH基のアミド化/誘導体化に1,3-ジアミノプロパンを使用)を用いて問題なく定量した。得られた差異的な(differential)EDC及び非EDCベースのカイザー試験の両方の結果から、1.0gのHSA NPに対して、それぞれ0.632及び1.127ミリモルのNH及びCOOH基が存在することが分かった(これらの定量された表面官能基により、HSA NPの生体適合性生分解性薬物キャリアとしての将来的な使用が可能となり、なぜなら、それによって、さらなる治療剤及び/又は腫瘍及び疾患細胞標的化剤の結合がさらに可能となるからである)。
【0053】
例4-ハイブリッドHSA封入-CAN-マグヘマイトNP(CAN-γ-Fe)ナノ複合体粒子
DVSを介するNP製造工程の過程で、ナノスケール成分HSA及び6.61±2.04nmのサイズ及び+45.7mVの電位を有する正に帯電したCAN-γ-Feの両方を、CAN-γ-Feナノ粒子をHSA NP中に封入させることによって集合させた。この目的のために、親水性の水混和性CAN-γ-Fe NPを用いた。ハイブリッドHSA/CAN-γ-Fe NPを、上記で述べた同じDVSを介するプロセスに基づいて合成した。HSA相及びCAN-γ-Fe NP相の両方の間の重量比は、HSAナノシェル中へのマグヘマイト複合体の最適な封入の場合に、25:1であることが見出された。一般的に、この重量比は、15:1~40:1の範囲内であってよい。
【0054】
したがって、対応する複合体粒子のDLS流体力学径、サイズ分布、及び電位値を特定した。DLS流体力学径は、多分散指数0.3未満で、130nmと測定された。得られたハイブリッドNP(封入方法)の凝集制御に対するコロイド安定性を確認するために、電位分析も行い、複合体粒子が、平均電位値-25mVで、常に負に帯電していることが見出されるという結果であった。
【0055】
ハイブリッドHSA/CAN-γ-Feナノ粒子の形態及びサイズ分布測定が、TEM、クライオ-TEM、及びHR-SEMを用いて特性決定されたことを示す図10Aから10Dを参照する。図10A及び10Bは、それぞれ、HSA相内に容易に視覚化、識別が可能である(黒い点)封入され、コントラストの強いCANマグヘマイトNPを含有するHSA NP相(僅かにコントラストの低いグレー領域)のTEM画像及びクライオ-TEM画像をそれぞれ示す。したがって、電子が密である金属NPは、取り囲むHSAマトリックス中に良好に組み込まれ、一方CANマグヘマイトNPの粒子間及び各粒子内での分布は、非常に均質であることが見出され、これは、正に帯電したCAN-γ-Fe NPと負に帯電したHSA相との間の相互作用の促進に起因するものであった可能性が高い。図10Dに示されるように、NPの結晶性を、TEM/制限視野電子回折(SA ED)によってさらに確認し、加えて、図10Cのように、ナノ粒子サイズ分布もTEMによって測定し、44.6±4.18nmの平均サイズであることが分かった。
【0056】
図11A~11Dは、HR-SEM画像(図11A)、並びに走査型透過電子顕微鏡(STEM)モードで得た炭素(図11B)、酸素(図11C)、及び鉄(図11D)の量に対するラインスキャン分析を示す。元素分析のためのスキャンラインを、それぞれ炭素、酸素、及び鉄に対してL1~L3として示す。図は、CAマグヘマイトNPが、HSAマトリックス中に完全に封入されたクラスターとして存在し、一方HSA相は、取り囲む雲として見えたことを示す。ラインスキャン元素分析は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)に基づいており、CAN-γ-Fe NPの封入が、得られたHSAナノ複合体粒子内で主として発生したことが確認される。実際、鉄(右上)、炭素(左下)、及び酸素(右下)の元素が同時に存在している。鉄元素のピークが、他の元素よりも非常に薄いことから、CAN-γ-Fe NPのHSA NP中への封入が示される。加えて、図12は、HAS NP中に埋め込まれた鉄粒子の反射を示す。示されるように、鉄粒子の反射から、HAS NPは、角膜の切り込み領域内に位置しており、エッチングパターンを増強している。
【0057】
ハイブリッドNP形成の過程での鉄の封入を確認するために、ICP-AES元素分析も行った。ICP測定から、HSA相中への元素鉄の封入効率が95%であることが示された。ハイブリッドNP及びCAN-マグヘマイトNPの両方のさらなる濃度測定から、CA-マグヘマイトNP相の重量パーセントが、対応するハイブリッドNPの総重量のほぼ40%であることが分かった。
【0058】
したがって、本発明の技術は、アルブミンシェルCAN-γ-Feナノ粒子を含む溶液製剤を点眼剤として用い、ユーザーの角膜上の選択されたエッチングパターンにおける屈折率の変動が可能となる。ナノ粒子は、一般的に、数日間から数ヶ月間の期間にわたって角膜上に維持され、選択されたパターンの光学的作用に応じたユーザーの眼の状態の矯正が可能となる。本発明者らは、ブタの眼に対する試験を行い、光学的視覚障害の矯正に対するエッチングパターン及び選択されたナノ粒子の光学的効果を確認した。
【0059】
この目的のために、採取したばかりの8個のブタの眼の屈折異常を、角膜表面パターンの実現の前後、及び続いて0.1mg/ml~10mg/mlの特定の既知濃度で選択されたナノ粒子を充填した点眼剤の滴下後に、自動屈折率計で測定した。この例で用いたナノ粒子の濃度は、1mg/mlであった。これらの試験において、パターンは、校正された光学パターンで3-Dプリンターにより構築したスタンパーを用いて眼の角膜に適用した。
【0060】
この例では、スタンパーは、ナノ粒子を角膜上皮に浸透させ、したがってパターンによって決定された所望される光学的パワーの変動を可能とするために、角膜上にマイクロ表面浸食を提供するために用いる。パターン自体は、2.5ディオプトリの光学的パワーを提供するフレネルプレートゾーン回折パターンとなるように選択した。そのような追加の光学的パワーは、一般的に、近視のユーザーに対する視覚補助に適している。眼のレンズの光学的パワーを、本発明の技術に伴う工程の各々で5回測定し、記録した。より具体的には、ベースライン光学的パワーを測定し、角膜にパターンが適用された状態、眼に点眼剤を投与した後の点眼剤滴下の直後、滴下の5分後、10分後、20分後、及び30分後の異なる時間で、光学的パワーを測定した。様々な対策を行って、標準偏差が大きいことに起因するバイアスを回避した。
【0061】
したがって、必要とされる光学的矯正に応じて所望されるパターンの選択後、二次元パターンを角膜に適用した。パターンが角膜上にエッチングされると、HASマグヘマイトナノ粒子を含む点眼溶液で眼を洗浄した。ナノ粒子の一部の鉄の標識を用いて、眼の中にあるナノ粒子を識別した。これによって、電子顕微鏡(例:SEM)分析を用いてナノ粒子を識別することができる。
【0062】
上記で述べた技術を用いて矯正したブタの眼に対する光学的パワー変動の結果を示す図13A及び13Bを参照する。図13Aは、近視の矯正に適する2.5ディオプトリの光学的パワーの追加によって矯正された4つのブタの眼に対して平均した変動の測定結果を示す。図13Bは、老視の矯正に一般的には適する-2.5ディオプトリの追加の場合の類似の結果を示す。図13A及び13Bは、角膜の中央領域の曲率の変動を示す角膜中央の角膜曲率測定も示す。示されるように、適用されたパターンは、ナノ粒子の点眼剤との組み合わせで、近視の屈折異常に対して、30分後には平均で-2.24±0.07ディオプトリの矯正を提供し、老視矯正に対しては、45分後に平均で2.74±0.2Dの矯正を提供した。角膜曲率測定では、角膜中央の角膜曲率測定において、統計的に有意な変化は示されていない。
【0063】
したがって、示されるように、適度に長い期間にわたって屈折率変動を提供する適切な点眼剤と共に膜上に適用/エッチングされた選択されたパターンを使用することにより、追加の素子を必要とせず、一般的には非侵襲的である様々な眼の状態の矯正が可能となる。一般的に、パターンは、回折性(例:フレネルゾーンプレート/リング)であってよく、又は眼の焦点深度の拡大を可能とする光干渉を導入するように構成されていてもよい。
【0064】
典型的には、本明細書で述べる点眼剤及び対応するナノ粒子は、様々なさらなる状態での使用に適し得る。例えば、本明細書で述べる点眼溶液は、ドライアイ疾患(DED)の治療のために用いることができ、この場合、ナノ粒子は、合成涙として眼の作用に対する潤滑剤を与える。DEDは、不充分な涙膜、並びに眼球表面の刺激の徴候及び/又は症状を伴う多様な状態の群を表す。これらの状態は、例えばマイボーム腺機能不全(MGD)を含む様々な因子に付随し得る。
【0065】
本明細書で述べるナノ粒子含有点眼剤の使用は、ユーザーの眼の脂質層を構成する脂質分子との生物学的結合を作り出すために用いることができる。これにより、涙膜の安定性の向上、さらには角膜表面に対する効果の延長という両方の結果が得られる。
【0066】
さらに、点眼溶液中に存在する上述したナノ粒子は、薬物送達キャリアとして用いることができることにも留意されたい。一般的に、眼球表面における解剖学的バリア及び生理学的クリアランス機構により、眼内薬物送達装置の開発は困難である。硝子体内注射などのより侵襲的な方法は、治療剤の眼内における生物学的利用度を高めることができるが、視力を脅かす副作用をもたらす結果となる場合が多い。
【0067】
本明細書で述べる選択されたナノ粒子の使用は、1又は複数の適切な治療剤(例:例えば薬物、タンパク質、ペプチド)の眼内における生物学的利用度を高めることができる。上述のナノ粒子は、例えば、細菌感染、真菌感染、又は寄生虫感染などのより重篤な疾患を治癒するためのいずれかの生物活性剤のより深い組織への浸透/生物学的利用度/送達の向上を含む、多大な利点の可能性を提供することができる。さらなる多大な利点は、生物学的利用度の向上に関連し、それは、緑内障又はドライアイ疾患などの慢性疾患における点眼剤の滴下頻度の著しい低減、さらには携帯型デバイスによる外部からの制御可能な薬物送達の可能性に繋がり得る。
【0068】
したがって、本発明は、マグヘマイトベースのナノ粒子をアルブミンシェルと共に有する点眼剤組成物を提供する。点眼剤組成物は、様々な眼の状態に対して選択された光学的矯正を提供するためにユーザーの眼の角膜に適用された適切なパターンと組み合わせて用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13