(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】がん免疫治療のための組換え単純ヘルペスウイルス
(51)【国際特許分類】
A61K 35/763 20150101AFI20231026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231026BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231026BHJP
C07K 14/035 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
A61K35/763
A61P35/00
A61P37/04
C07K14/035 ZNA
(21)【出願番号】P 2020568472
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 US2019035922
(87)【国際公開番号】W WO2019236931
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513016884
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ イリノイ
【氏名又は名称原語表記】THE BOARD OF TRUSTEES OF THE UNIVERSITY OF ILLINOIS
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】へ,ビン
(72)【発明者】
【氏名】リュー,シン
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-520044(JP,A)
【文献】Ma, Y., Chen, M., Jin, H., Prabhakar, B. S., Valyi-Nagy, T., & He, B.,:An engineered herpesvirus activates dendritic cells and induces protective immunity.,Scientific Reports,2017年,7(1),41461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを有する対象を処置するための医薬組成物であって、治療的有効量の、野生型または無傷のγ
134.5タンパク質発現を伴わずに、γ
134.5タンパク質のC末端部分のみを発現する組換え単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)を含
み、
γ
1
34.5タンパク質のC末端部分が、配列番号2からなる、前記医薬組成物。
【請求項2】
組換えHSV-1が、1以上の非必須の遺伝子またはそのフラグメントの欠失をさらに含
み、
非必須の遺伝子が、UL2、UL3、UL4、UL9.5、UL10、UL11、ULI2、UL13、ULI4、UL20、UL21、UL23、UL24、UL39、UL40、UL41、UL43、UL43.5、UL44、UL45、UL46、UL47、UL50、UL51、UL53、UL55、Us1、Us1.5、Us2、Us3、Us4、Us5、Us7、Us8、Us8.5、Us9、Us10、Us11、Us12、およびICP0から選択される、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
組換えHSV-1が、
がん治療のための、治療用タンパク質、酵素、抗体または核酸を発現する1以上の遺伝子での1以上の非必須の遺伝子の置換をさらに含
み、
非必須の遺伝子が、UL2、UL3、UL4、UL9.5、UL10、UL11、ULI2、UL13、ULI4、UL20、UL21、UL23、UL24、UL39、UL40、UL41、UL43、UL43.5、UL44、UL45、UL46、UL47、UL50、UL51、UL53、UL55、Us1、Us1.5、Us2、Us3、Us4、Us5、Us7、Us8、Us8.5、Us9、Us10、Us11、Us12、およびICP0から選択され、および
治療用タンパク質が、インターフェロンアルファ、インターロイキン-2、および顆粒球-コロニー刺激因子から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗体が、抗プログラム細胞死タンパク質1抗体、抗チェックポイントT-リンパ球関連タンパク質4抗体、抗OX40抗体、および抗CD40抗体から選択される、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
がんが、固形腫瘍を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
がんが、乳房、肝臓、皮膚、脳、肺、および結腸がんから選択される、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
有効量の、がんの処置のために有用な第2の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
本出願は、2018年6月8日に出願された米国仮特許出願第62/682,202号に対する優先権の利益を主張し、この内容は、その全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号AI112755の下の政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)は、がん免疫治療にとって魅力的な薬剤である(Peters & Rabkin (2015) Mol. Ther. Oncolytics 2:15010; Chiocca & Rabkin (2014) Cancer Immunol. Res. 2:295-300)。感染すると、HSV-1は逐次的な遺伝子発現、DNA複製、組み立て、および退出を経て、腫瘍細胞破壊がもたらされる。これは、適応抗腫瘍免疫を活性化する、危険シグナルとネオ抗原の放出を伴う。一連の腫瘍溶解性HSVは、様々な開発段階にある(Peters & Rabkin (2015) Mol. Ther. Oncolytics 2:15010)。最も臨床的に進んでいる薬剤は、進行性黒色腫の処置のためにFDAによって承認されたタリモジェンラヘルパレプベック(T-VEC)である(Andtbacka, et al. (2015) J. Clin. Oncol. 33:2780-88)。腫瘍溶解性HSVの追加の例は、臨床試験を経た、または臨床試験中のG207、1716、およびΔG47である(Markert, et al. (2000) Gene Ther. 7:867-74; Rampling, et al. (2000) Gene Ther. 357:525-6; Streby, et al. (2017) Clin. Cancer Res. 23:3566-74; Fukuhara, et al. (2016) Cancer Sci. 107:1373-79)。バックボーンの設計は異なるものの、これらの腫瘍溶解性HSVウイルスは、病原性因子をコードするγ134.5遺伝子をもともと欠失している。
【0004】
HSV γ134.5は、大きなアミノ末端ドメイン(aa1~146)およびカルボキシル末端ドメインを含有する。感染細胞において、HSV-1は、翻訳開始因子2α(eIF-2α)のリン酸化によってタンパク質合成をシャットオフする、二本鎖RNA依存性キナーゼ(PKR)を活性化する。そのため、γ134.5タンパク質はタンパク質ホスファターゼ1(PP1)をリダイレクト(redirect)して、elF-2αを脱リン酸化する。注目すべきことに、γ134.5-PP相互作用の部位特異的断絶は、ウイルスの病原性を無効にする。HSV γ134.5はまた、糖タンパク質プロセシングとウイルスの拡散に影響を与えることも報告されている。加えて、証拠は、γ134.5タンパク質が追加の機能を有することを示唆している。これらには、オートファジーの阻害、TANK結合キナーゼ1によるIFN誘導、およびトール様受容体による樹状細胞成熟および核退出の加速が含まれる。γ134.5タンパク質は核と細胞質の間を往復するが、宿主細胞とのその正確な相互作用は未だ不明である。
【0005】
いくつかの株の証拠は、γ134.5遺伝子の欠失を有するHSV-1突然変異体が抗腫瘍活性を発揮することを実証している。これは、免疫不全および免疫応答性前臨床モデルにおいて、神経膠腫、結腸、卵巣、乳房、肝臓、および黒色腫を含む腫瘍について示されている(Mineta, et al. (1995) Nat. Med. 1:938-43; Toda, et al. (1998) Hum. Gene Ther. 9:2177-85; Chambers, et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1411-15; Randazzo, et al. (1995) Virology 211:94-101; Thomas & Fraser (2003) Mol. Ther. 8:543-51; Coukos, et al. (2000) Clin. Cancer Res. 6:3342-53; Braidwood, et al. (2014) J. Hepatocell. Carcinoma 1:149-61; Wang, et al. (2016) Gene Ther. 23:135-43; WO 2017/013419 A1; US 2017/0319638 A1; US 7,223,593)。しかしながら、治療成果は大きく異なる。根本的なイベントは複雑であるが、ウイルス-宿主相互作用の性質が決定要因のようである。腫瘍細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼまたはRAS癌遺伝子の活性化はPKRを阻害し、それによってウイルス複製を可能にすることが示唆されている。他方、刺激されたインターフェロン遺伝子(STING)の遺伝的または後成的抑制は、それがI型IFN産生を媒介するため、腫瘍破壊のためにγ134.5ヌル突然変異体をライセンス(license)することが報告されている。したがって、腫瘍細胞における活発なPKR、STING、またはIFN産生は、γ134.5遺伝子を欠く腫瘍溶解性HSVの有効性を軽減すると考えられている。
【0006】
腫瘍を直接破壊するための弱毒化された複製能力のあるウイルスの使用における主な制限は、がん細胞を含む多くの細胞型における成長の低下であり続けている。腫瘍溶解の最初の波にもかかわらず、宿主防御は、新生物細胞の集団全体を根絶するのに十分に長い期間、ウイルスベクターが首尾よく複製することを制限する。さらに、複製が改善された腫瘍溶解性ウイルスのバックボーンは、抗腫瘍免疫に必要な先天性免疫準備刺激をしばしば弱めることがある。そのため、生き残ったがん細胞は増殖するか、患者に対するそれらの締め付け(strangle-hold)を再確立する。よって、必要なのは、がん細胞を溶解し、全身性の抗腫瘍応答を有効に活性化するウイルス抗腫瘍剤である。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要
本発明は、治療的有効量の、野生型または無傷のγ134.5タンパク質発現を伴わずに、γ134.5タンパク質のC末端部分、例として、配列番号2からなるタンパク質のみを発現する組換え単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)を、対象へ投与し、それによって対象のがんを処置することによる、がんを有する対象を処置するための方法を提供する。いくつかの態様において、組換えHSV-1は、1以上の非必須遺伝子、例として、UL2、UL3、UL4、UL9.5、UL10、UL11、ULI2、UL13、ULI4、UL20、UL21、UL23、UL24、UL39、UL40、UL41、UL43、UL43.5、UL44、UL45、UL46、UL47、UL50、UL51、UL53、UL55、Us1、Us1.5、Us2、Us3、Us4、Us5、Us7、Us8、Us8.5、Us9、Us10、Us11、Us12、およびICP0、またはそのフラグメントの欠失をさらに含む。他の態様において、組換えHSV-1は、がん治療のための治療用タンパク質(例として、インターフェロンアルファ(IFN-α)、インターロイキン-2(IL-2)、および顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF))、酵素、抗体(例として、抗プログラム細胞死タンパク質1抗体(抗PD1)、抗チェックポイントT-リンパ球関連タンパク質4抗体(抗CTLA4)、抗OX40(抗CD134)抗体、および抗CD40抗体)または核酸を発現する1以上の遺伝子での1以上の非必須遺伝子の置換をさらに含み、ここで非必須遺伝子は、UL2、UL3、UL4、UL9.5、UL10、UL11、ULI2、UL13、ULI4、UL20、UL21、UL23、UL24、UL39、UL40、UL41、UL43、UL43.5、UL44、UL45、UL46、UL47、UL50、UL51、UL53、UL55、Us1、Us1.5、Us2、Us3、Us4、Us5、Us7、Us8、Us8.5、Us9、Us10、Us11、Us12、およびICP0から選択される。なおさらなる態様において、がんは、固形腫瘍であり、任意に、乳房、肺、肝臓、皮膚(黒色腫)、脳、および結腸がんから選択されるがんである。組換えHSV-1の投与に加えて、方法は、有効量の、がんの処置のために有用な第2の治療剤の投与をさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図面の簡単な説明
【
図1】
図1は、ΔN146が局所の腫瘍成長を減少させることを実証するデータを提供する。4T1細胞をマウスの皮下に移植した(-7日目)。形成された腫瘍を、1日目、3日目、および6日目に、PBS中に懸濁したPBS、Δγ
134.5、ΔN146、またはEUs11とともに注射した。腫瘍サイズを、24日目まで定期的に(x軸)測定した(各群n=6)。平均腫瘍体積は、y軸で経時的に示される。星印は、ノンパラメトリック分析による統計的有意性を示す。示される結果は、3つの独立した実験のうちの1つからのものである。選択された群間の差を、両側スチューデントのt検定により統計学的に評価した(**、P<0.01)。
【0009】
【
図2】
図2は、ΔN146が転移を減少させることを実証するデータを提供する。4T1細胞をマウスの皮下に移植した(-7日目)。形成された腫瘍を、1日目、3日目、および6日目に、PBS中に懸濁したPBS、Δγ
134.5、ΔN146、またはEUs11とともに注射した。処置の開始後24日目にマウスを屠殺し、肺を収集し、ホルマリン中に固定した。肺転移の数を光学顕微鏡下で計測し、定量した。示される結果は、3つの独立した実験のうちの1つからのものである。選択された群間の差を、両側スチューデントのt検定により統計学的に評価した(*、P<0.05;**、P<0.01)。
【0010】
【
図3】
図3は、4T1腫瘍におけるウイルス成長を実証するデータを提供する。PBS中に懸濁したPBS、Δγ
134.5、ΔN146、またはEUs11で処置した腫瘍を9日目に収集し、腫瘍中に存在する感染性ウイルスをプラークアッセイにより定量した(n=6)。示される結果は、3重の試料を有する3つの実験からのものである。選択された群間の差を、両側スチューデントのt検定により統計学的に評価した(**、P<0.01)。
【0011】
【
図4】
図4は、in vitroにおけるΔN146およびEUs11の比較分析を示す。IFN-α1およびCxcl9の発現におけるウイルスの効果を分析した。4T1細胞を、モック感染、またはΔN146もしくはEUs11で感染させた(5pfu/細胞)。感染の6時間後、RNA試料を定量ポリメラーゼ連鎖反応により分析した。データは、標準偏差を有する3重の試料の3つの実験の代表的なものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の詳細な説明
ウイルス複製のための最適な細胞内環境は、細胞膜へのウイルスの付着により起こり始める事象を通じて進行する。単純ヘルペスウイルスの細胞膜受容体(単数または複数)への結合に、細胞における生化学的、生理学的、および形態学的変化に関連する事象のカスケードが続く。感受性細胞における感染に続いて、溶解的複製は、時間的に調整された一連の遺伝子転写によって調節される。ウイルスの宿主細胞膜への結合は、最初期(immediate-early)(IEまたはα)遺伝子(ICP0、ICP4、ICP22、ICP27、およびICP47)を活性化し、それは、転写される次の群の遺伝子である、初期(β)遺伝子の産生を可能にするトランス活性化因子である。最初期遺伝子産物の発現に、初期および次いで後期(γ)遺伝子によってコードされるタンパク質の発現が続く。野生型ウイルスにおける遺伝子活性化とウイルス複製のカスケード全体は約18~24時間かかり、不可逆的に細胞死をもたらす。本発明の組換えHSV突然変異体は、γ134.5ヌルウイルスのタンパク質合成シャットオフ表現型を回避し、抗腫瘍免疫を媒介するSTING(インターフェロン刺激遺伝子)を活性化し、標的化されたγ134.5欠失を有するより堅牢なHSVバリアントを作成する。
【0013】
γ134.5のC末端半分(ΔN146)を発現する組換えHSV-1が、γ134.5ヌル突然変異体(Δγ134.5)に対して不応性である悪性細胞において堅牢に複製し、溶解することが今や発見された。感染細胞において、Δγ134.5ではなくΔN146が翻訳開始因子eIF2αのリン酸化を妨げ、ウイルスタンパク質合成を確実にする。注目すべきことに、ΔN146はまた、腫瘍に対する免疫を準備刺激することが知られている免疫因子であるSTINGのγ134.5阻害ドメインが除去されているので、インターフェロン調節因子3とIFN応答を活性化する。しかしながら、Δγ134.5とは異なり、ΔN146はIFN-α/βに曝露されると適切に複製する。これは、γ134.5のC末端側半分に関連する活性に起因する。EUs11は適切に複製するが、インターフェロン調節IRF3を不活性化する。よって、その複製は免疫阻害を犠牲にしてもたらされる。マウス4T1腫瘍モデルにおいては、ΔN146はΔγ134.5よりもより効果的に腫瘍成長と転移を減少させる。腫瘍成長の減少は同等である一方で、ΔN146は、EUs11よりもより効果的に転移を減少させる。これは、局所の腫瘍におけるウイルス複製、IFN誘導およびT細胞浸潤と一致する。ΔN146は正常組織においては検出できず、in vivoでは無毒性である。よって、HSV-1の選択的な編集は、ウイルス-細胞相互作用を変化させ、ユニークな抗新生物プラットフォーム、つまり、腫瘍選択性、免疫刺激、IFNによるクリアランスに対する耐性をもたらす。したがって、本発明は、野生型または無傷のγ134.5タンパク質発現を伴わずに、γ134.5タンパク質のC末端半分のみを発現する組換えHSV-1ウイルス、およびがんの処置におけるその使用である。
【0014】
当技術分野において知られているように、γ134.5は、実験モデルにおいて末梢組織におけるウイルス複製および末梢神経系への浸透を促進するHSVタンパク質である(Whitley, et al. (1993) J. Clin. Invest. 91:2837-43; Perng, et al. (1996) J. Virol. 70:2883-93; Mao & Rosenthal (2003) J. Virol. 77:3409-3417)。加えて、それは中枢神経系におけるHSV感染と複製を促進する(Chou, et al. (1990) Science 250:1262-66; MacLean, et al. (1991) J. Gen. Virol. 72:631-39)。HSV γ134.5は、タンパク質ホスファターゼ1αに結合する大きなアミノ末端ドメイン(aa1~146)とカルボキシル末端ドメイン(aa147~263)を含むことが知られている(He, et al. (1998) J. Biol. Chem. 273:20737-43)。野生型γ134.5のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、HSV-1株17の完全なゲノムを提供するGENBANKアクセッション番号NC_001806.1;HSV-1株Fの完全なゲノムを提供するGENBANKアクセッション番号GU734771.1;HSV-1株H129の完全なゲノムを提供するGENBANKアクセッション番号GU734772.1で入手可能である。例証として、野生型または無傷のγ134.5はアミノ酸配列:
MARRRRHRGPRRPRPPGPTGAVPTAQSQVTSTPNSEPAVRSAPAAAPPPPPASGPPPSCSLLLRQWLHVPESASDDDDDDDWPDSPPPEPAPEARPTAAAPRPRSPPPGAGPGGGANPSHPPSRPFRLPPRLALRLRVTAEHLARLRLRRAGGEGAPEPPATPATPATPATPATPARVRFSPHVRVRHLVVWASAARLARRGSWARERADRARFRRRVAEAEAVIGPCLGPEARARALARGAGPANSV(配列番号1)
を有する。
【0015】
本明細書に使用されるとき、「組換えHSV-1」は、野生型または無傷のγ134.5タンパク質発現を伴わずに、γ134.5タンパク質のC末端部分または半分のみを発現する、操作されたまたは改変されたヒト単純ヘルペスウイルス1を指す。本明細書に使用されるとき、γ134.5タンパク質のC末端部分または半分は、抗腫瘍活性を保持または増大させるγ134.5タンパク質またはそのバリアントの以下のアミノ酸残基:
RLRRAGGEGAPEPPATPATPATPATPATPARVRFSPHVRVRHLVVWASAARLARRGSWARERADRARFRRRVAEAEAVIGPCLGPEARARALARGAGPANSV(配列番号2)
を指す。
【0016】
本発明の組換えHSV-1のいくつかの側面において、内在性γ134.5遺伝子は、γ134.5遺伝子の両方のコピーが、γ134.5タンパク質のC末端部分のみを発現するように改変されている。本発明の組換えHSV-1の他の側面において、γ134.5遺伝子の両方の内在性コピーは、欠失しており、γ134.5タンパク質のC末端部分をコードする核酸はHSV-lゲノム中の1以上の別々の場所、例として、非必須遺伝子中に挿入されている。この点において、HSV-1ゲノムは、野生型γ34.5遺伝子は、非機能的であるが、組換えHSV-1は哺乳動物の腫瘍細胞に未だ感染、複製、および溶解し得るように改変されている。
【0017】
γ134.5タンパク質のC末端部分の発現は、γ134.5タンパク質プロモーター、別の内在性HSV-1プロモーター、またはウイルスもしくは細胞起源の異種もしくは外来性プロモーターにより駆動され得る。本発明において使用の例示のプロモーターは、限定せずに、単純ヘルペスウイルス最初期プロモーターα27、α4、α0、α22、およびα47;ICP8(またはUL29)、チミジンキナーゼ(tkまたはUL23)、ICP6(UL39)からの単純ヘルペスウイルス初期プロモーターまたはいずれかのDNA複製遺伝子;または後期プロモーター、例として、Us11プロモーターを含む。
【0018】
いくつかの態様において、組換えHSV-1は、HSV-1の1以上の非必須の遺伝子の欠失をさらに含む。非必須遺伝子は、必須の遺伝子と区別され、その不在においてウイルスは複製されない。非必須遺伝子は、有益な遺伝子であってもよく、その場合、そのような有益な遺伝子の置換は、野生型ウイルスのそれよりもはるかに遅い速度で複製するウイルスをもたらす。HSV-1の代表的な非必須の遺伝子は、これらに限定されないが、UL領域におけるUL2、UL3、UL4、UL9.5、UL10、UL11、UL12、UL13、ULI4、UL20、UL21、UL23、UL24、UL39、UL40、UL41、UL43、UL43.5、UL44、UL45、UL46、UL47、UL50、UL5l、UL53、およびUL55;Us領域におけるUs1、Us1.5、Us2、Us3、Us4、Us5、Us7、Us8、Us8.5、Us9、Us10、Us11およびUs12;および逆方向反復領域におけるICP0を含む。
【0019】
代替の態様において、1以上の非必須の遺伝子は、治療用タンパク質、酵素、抗体、核酸をコードするおよび発現することができる1以上の核酸(例として、該タンパク質、酵素、抗体、またはマイクロRNA、リボザイム等をコードする核酸)、またはがん治療のための同種のもので置き換えられる。治療用タンパク質は、がんの処置に治療的利益を有する機能的タンパク質(すなわち、酵素または抗体以外)を指す。好適な治療用タンパク質の例は、これらに限定されないが、rsCD40L(Eliopoulos et al. (2000) Mol. Cell. Biol. 20:5503-5515);Fasリガンド(Sharma et al. (2000) Pharmacol. Ther. 88:333-347);TRAIL(Golstein (1997) Curr. Biol. 7:R750-753);TNF(Baker & Reddy (1996) Oncogene 12:1-9; Theys, et al. (1999) Appl. Environ. Microbiol. 65:4295-4300; Lammertyn, et al. (1997) Appl. Environ. Microbiol. 63:1808-1813);黒色腫、乳房癌、結腸直腸癌、膠芽腫、神経芽細胞腫、および前立腺癌の処置のためのGM-CSF(例として、Eubank, et al. (2009) Cancer Res. 69(5):2133-40を参照のこと);卵巣癌および固形腫瘍の処置のためのIFNα(例として、Goto, et al. (1996) Br. J. Cancer 74:546-54を参照のこと);神経芽細胞腫および卵巣癌の処置のためのIL-2(例として、Minor, et al. (2017) Gynecol. Oncol. Rep. 22:43-44を参照のこと);および乳房癌、膀胱癌、卵巣癌の処置のためのG-CSF(例として、Omura, et al. (1996) Proc. Annu. Meet Am. Soc. Clin. Oncol. 15:A755を参照のこと)を含む。
【0020】
治療用酵素は、がんの処置において治療的利益を有する酵素を指す。治療用酵素の具体的な使用は、非毒性のプロドラッグを腫瘍に対して細胞傷害性である毒性薬物に変換することができる酵素を含む。好適な治療用酵素-プロドラッグペアの例は、これらに限定されないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)+ガンシクロビル(GCV)(Moolten (1986) Cancer Res. 46:5276-5281);HSV-TK+A-5021(1’S,2’R)-9{[1’,2’-ビス(ヒドロキシメチル)シクロプロパ-1’-イル]メチル}グアニン(Hasegawa, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:557-562);西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)+インドール-3-酢酸(IAA)(Greco, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:1414-1420);細菌酵素カルボキシペプチダーゼG2(CPG2)+4-([2-クロロエチル][2-メシルオキシエチル]アミノ)ベンゾイル-L-グルタミン酸(CMDA)または+4-[N,N-ビス(2-ヨードエチル)アミノ]フェノキシカルボニルL-グルタミン酸(ZD2767P)(Spooner, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:1348-1356; Webley, et al. (2001) Br. J. Cancer 84:1671-1676);ヒトシトクロムP450 CYPIA2+アセトアミノフェン(Thatcher, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:521-525);ウサギシトクロムP450 4Bl(CYP4Bl)+4-イポメアノール(4-IM)(Mohr, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:1008-1014; Heuser, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:806-12);ラットシトクロムP450 4Bl(CYP2Bl)+イホスファミド(IFO)などのオキサホスホリン(Kammertoens, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:629-636);大腸菌ニトロレダクターゼ(NTR)+CB1954(Djeha, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7: 721-731; Djeha, et al. (2001) Mol. Ther. 3:233-240);大腸菌シトシンデアミナーゼ(CD)、大腸菌ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)+5-フルオロシトシン(5-FC)(Kammertoens, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:629-636; Block, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:438-445; Bentires-Alj, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:20-6);シトクロムP450酵素+シクロホスファミド(CPA)(Huang, et al. (2000) Cancer Gene Ther. 7:1034-42; Kan, et al. (2001) Cancer Gene Ther. 8:473-82);ウサギカルボキシルエステラーゼ+7-エチル-10-[4-(1-ピペリジノ)-1-ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン(CPT-II)(Meck, et al. (2001) Cancer Res. 61:5083-89);マッシュルームチロシナーゼ+ビス-(2-クロロエチル)アミノ-4-ヒドロキシフェニルアミノメエタノン28(Jordan, et al. (2001) Bioorg. Med. Chem. 9:1549-58);大腸菌β-ガラクトシダーゼ+l-クロロメチル-5-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロ-3H-ベンズ[e]インドール(CC-1065)または+1-(1’-クロロエチル)-5-ヒドロキシ-l,2-ジヒドロ-3H-ベンズ[e]インドール(Tietze, et al. (2001) Chembiochem. 2:758-765);カルボキシペプチダーゼG2の突然変異体(CPG2、グルタマートカルボキシペプチダーゼ+4-[ビス(2-ヨードエチル)アミノ]フェニルオキシカルボニル-L-グルタミン酸または+3-フルオロ-4-[ビス(2-クロロエチル)アミノ]ベンゾイル-L-グルタミン酸または+3,5-ジフルオロ-4-[ビス(2-ヨードエチル)アミノ]ベンゾイル-L-グルタミン酸(Friedlos, et al. (2002) Cancer Res. 62:1724-1729)を含む。
【0021】
治療用抗体は、がんの処置において治療的利益を有する抗体を指す。好適な治療用抗体の例は、これらに限定されないが、(膀胱がんおよび乳房がん、NSCLC、および小細胞肺がん(SCLC)の処置のための)アテゾリズマブ;(膀胱がんおよびメルケル細胞癌(MCC)の処置のための)アベルマブ;(膀胱がんおよびNSCLCの処置のための)デュルバルマブ;(膀胱がん、結腸直腸がん、腎臓がん、肝臓がん、NSCLC、転移性のSCLC、ホジキンリンパ腫、および黒色腫の処置のための)ニボルマブ;(膀胱がん、子宮頸部がん、結腸直腸がん、食道がん、肝臓がん、NSCLC、ホジキンリンパ腫、黒色腫、およびMCCの処置のための)ペンブロリズマブ;(膠芽腫、子宮頸部がん、結腸直腸がん、腎臓がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、および卵巣がんの処置のための)ベバシズマブ;(神経芽細胞腫の処置のための)ジヌツキシマブ;(乳房がんの処置のための)ペルツズマブ;(乳房がんおよび食道がんの処置のための)トラスツズマブ;(結腸直腸がんの処置のための)セツキシマブ;(結腸直腸がんの処置のための)パニツムマブ;(結腸直腸がんおよび食道がんの処置のための)ラムシルマブ;(慢性リンパ球性白血病(CLL)の処置のための)アレムツズマブ;(急性リンパ芽球性白血病(ALL)の処置のための)ブリナツモマブ;(CLLおよび非ホジキンリンパ腫の処置のための)オビヌツズマブ;(CLLの処置のための)オファツムマブ;(CLLおよび非ホジキンリンパ腫の処置のための)リツキシマブ;(NSCLCの処置のための)ネシツムマブ;(黒色腫、膵臓がん、前立腺癌および黒色腫の処置のための)イピリムマブ;(多発性骨髄腫の処置のための)ダラツムマブ;(多発性骨髄腫の処置のための)エロツズマブ;(骨がんの処置のための)デノスマブ;(骨がんの処置のための)オララツムマブ(Olaratumumab);(メルケル細胞癌(MCC)の処置のための)セミプリマブ;MEDI0562;GSK3174998;PF-04518600;CP-870,893;ダセツズムマブ(dacetuzumumab);ADC-1013;および(胃または胃食道がんの処置のための)ラムシルマブを含む。
【0022】
組換えウイルスを調製する方法は、当該技術分野において知られている。手短に言えば、組換えHSVを構築するために、目的の遺伝子を、トランスファープラスミドにクローニングする。このプラスミドを次いで、(HSVチミジンキナーゼ遺伝子で置き換えられている標的遺伝子を有する)HSV-lゲノムDNAでウサギ皮膚細胞に共トランスフェクトする。組換えウイルスの子孫を選択し、100μgのブロモデオキシウリジン/mlおよび2%ウシ胎仔血清を含む混合物199V補充物を含む培地中で、143TK突然変異体細胞でプラーク精製する。次に、チミジンキナーゼ遺伝子を、HAT培地中での、子孫ウイルスDNAとチミジンキナーゼ遺伝子をコードするプラスミドとの共トランスフェクションにより、回復する。ウイルスストックの調製および感染力の力価測定は、Vero細胞で行った。
【0023】
本明細書で例証されるように、野生型または無傷のγ134.5タンパク質発現を伴わずに、γ134.5タンパク質のC末端部分のみを発現する組換えHSV-1は、免疫活性化を誘発し、γ134.5ヌル突然変異体(Δγ134.5)に対して不応性である悪性細胞において堅牢に複製し、溶解する。したがって、本発明は、治療的有効量の、野生型または無傷のγ134.5タンパク質発現を伴わずに、γ134.5タンパク質のC末端部分(とりわけ、配列番号2)のみを発現する組換えHSV-1を、対象、例としてヒトへ投与し、それによって対象のがんを処置することによる、がんを有する対象を処置するための方法を提供する。組換えHSV-1は、単独の抗がん治療として、または放射線および/または化学治療などの治療的有効量の、第2の抗がん剤と併せて投与され得る。さらに、本方法はまた、本発明の組換えHSV-1の所望される組織への標的化された投与に好適な標的特異的部分(例として、抗体または細胞マーカー)の使用を含み得る。
【0024】
本明細書に使用されるとき、用語「処置する」、「処置すること」、「処置」等は、それに関連する疾患または状態および/または症状を排除すること、減少させること、緩和すること、逆転させること、および/または改善すること、この場合において、がんを処置することを指す。本明細書に記載の方法に従って処置され得る固形および非固形腫瘍は、扁平上皮細胞癌を含む、膀胱、乳房、結腸、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、胃、子宮頸部のがん;甲状腺を含む癌および皮膚の癌;急性リンパ球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性および慢性骨髄性白血病および前骨髄球性白血病を含む白血病;B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、およびバーキットリンパ腫を含むリンパ腫;線維肉腫および横紋筋肉腫;黒色腫;および神経芽細胞腫、星状細胞腫および神経膠腫を含む。ある態様において、本明細書に記載の方法に従って処置されるがんは、固形腫瘍である。他の態様において、がんは、乳房、肝臓、肺、皮膚(黒色腫)、脳、および結腸がんから選択される。
【0025】
もっとも除外されていないが、疾患または状態を処置することは、それに関連する疾患、状態、または症状が、完全に排除されることを要求されず、急性または慢性兆候、症状および/または機能不全の処置を含む。「処置する」、「処置すること」、「処置」等は、「予防的処置」を含んでもよく、これは、疾患または状態の再発症、または疾患または状態の再発はしていないが、そのリスクがある、またはその可能性がある対象において、疾患または状態の再発症する可能性、またはすでに制御された疾患または状態の再発の可能性を減少させることを指す。したがって、「処置」はまた、ぶり返しの予防または段階的予防も含む。用語「処置する」および同義語は、そのような処置を必要とする個体に、治療的有効量の本発明の組換えHSV-1を投与することを企図する。処置は、例えば症状を抑制するために、症候的に適応することができる。処置は、短期間に実施し得、中期的に適応し得、または例えば維持的治療の文脈において長期処置であり得る。
【0026】
本明細書に使用されるとき、用語「治療的有効量」または「有効な用量」は、投与された場合、それを必要とする個体に、目的の状態または疾患の処置のために、活性成分(単数または複数)を効果的に送達するのに十分である活性成分(単数または複数)の量を指す。がんまたは他の増殖障害の場合において、薬剤の治療的有効量は、望ましくない細胞増殖を減少させ得る(すなわち、ある程度遅延、および好ましくは停止し得る);がん細胞の数を減少させ得る;腫瘍サイズを減少させ得る;末梢器官へのがん細胞浸潤を阻害し得る(すなわち、ある程度遅延、および好ましくは停止し得る);腫瘍転移を阻害し得る(すなわち、ある程度遅延、および好ましくは停止し得る);腫瘍成長をある程度阻害し得る;および/またはがんに関連する1以上の症状をある程度緩和し得る。投与された活性成分(単数または複数)が成長を防止し、および/または既存のがん細胞を死滅させる程度まで、それは細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性であり得る。
【0027】
そのまま用いられ得る本発明の組換えHSV-1は、生キャリア細胞を介して、または薬学的に許容し得る賦形剤を含有する医薬組成物に製剤化されて提供される。本明細書に提供される医薬組成物は、固体または液体形態での静脈内投与のために、または静脈内注射のために、特別に製剤化され得る。最適な医薬組成物は、例えば、所期の投与のルート、送達フォーマット、および所望される投薬量に応じて当業者により決定され得る。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (19th edition, 1995)を参照のこと。
【0028】
組換えHSV-1は、注射可能な製剤などの従来の全身性剤形に組み込まれ得る。剤形はまた、必要な生理学的に許容し得る担体材料、賦形剤、潤滑剤、緩衝剤、界面活性剤、抗細菌剤、増量剤(マンニトールなど)、抗酸化剤(アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム)または同種のものを含んでもよい。
【0029】
医薬組成物中の主な担体または賦形剤は、水性または非水性のいずれかの性質であってもよい。例えば、好適な担体または賦形剤は、注射のための水、生理学的な生理食塩水溶液または人工脳脊髄液であってもよく、非経口投与のための組成物に一般的な他の材料で補充されてもよい。血清アルブミンと混合された中性緩衝生理食塩水または生理食塩水は、さらなる例示のビヒクルである。医薬組成物は、約pH7.0~8.5のトリス緩衝液、または約pH4.0~5.5の酢酸緩衝液を含み得、それらは、ソルビトールまたはその適切な代替物をさらに含んでもよい。本発明の医薬組成物は、所望の程度の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキまたは水性溶液の形態の最適な製剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, Id.)と混合することによって保管のために調製されてもよい。さらに、組換えHSV-1は、スクロースなどの適切な賦形剤を使用して凍結乾燥物として製剤化されてもよい。
【0030】
本発明の組換えHSV-1または医薬組成物の投与ルートは、静脈内、腹腔内、脳内(実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内、または病巣内のルートによる注射;持続放出システムによる、または移植デバイスによるものが含まれる。組成物は、ボーラス注射によって、または注入によって継続的に、または移植デバイスによって投与されてもよい。組成物はまた、膜、スポンジ、または所望の分子が吸収またはカプセル化された別の適切な材料の移植を介して局所的に投与することができる。移植デバイスが使用される場合、デバイスは、任意の適切な組織または器官に移植されてもよく、所望の分子の送達は、拡散、徐放性ボーラス、または連続投与を介してもよい。
【0031】
本発明の組成物は、非経口的に送達され得る。非経口投与が企図される場合、本発明で使用するための治療用組成物は、薬学的に許容し得るビヒクル中に所望の活性成分(単数または複数)を含む、パイロジェンフリーの非経口的に許容し得る水性溶液の形態であってもよい。非経口注射のための具体的に好適なビヒクルは、滅菌蒸留水であり、活性成分(単数または複数)はその中に滅菌の等張溶液として製剤化され、適切に保存されている。調製物は、活性成分(単数または複数)の制御または持続放出を提供し得る、注射可能なミクロスフェア、生体侵食性粒子、高分子化合物(ポリ乳酸またはポリグリコール酸など)、ビーズまたはリポソームなどの薬剤とともに所望の活性成分(単数または複数)の製剤を含み得、それは次いでデポ注射を介して送達されてもよい。ヒアルロン酸を含む製剤は、循環の持続期間を助長する効果を有する。移植可能な薬物送達デバイスは、所望の活性成分(単数または複数)を導入するために用いられてもよい。
【0032】
本発明はまた、本発明の組換えHSV-1およびがんの処置に有用な1以上の第2の治療剤を、それを必要とする個体に投与することにより、がんを処置するための方法を含む。組換えHSV-1および第2の治療剤は、同時にまたは連続して投与され得る。加えて、組換えHSV-1および第2の治療剤は、単一の組成物または2つの別々の組成物から投与され得る。
【0033】
第2の治療剤は、その所望される治療的効果を提供するための量で投与される。各第2の治療剤についての有効な投薬量範囲は、当該技術分野において知られており、第2の治療剤は、かかる確立された範囲内でそれを必要とする個体に投与される。
【0034】
いくつかの態様において、第2の治療剤は、抗体である。好適な抗体は、これらに限定されないが、アテゾリズマブ;アベルマブ;デュルバルマブ;ニボルマブ(抗PD1);ペンブロリズマブ(抗PD1);ベバシズマブ;ジヌツキシマブ;ペルツズマブ;トラスツズマブ;セツキシマブ;パニツムマブ;ラムシルマブ;アレムツズマブ;ブリナツモマブ;オビヌツズマブ;オファツムマブ;リツキシマブ;ネシツムマブ;イピリムマブ(抗CTLA4);ダラツムマブ;エロツズマブ;デノスマブ;オララツムマブ(Olaratumumab);セミプリマブ;MEDI0562(抗OX40)、GSK3174998(抗OX40)、PF-04518600(抗OX40)、CP-870,893(抗CD40)、ダセツズマブ(抗CD40)、ADC-1013(抗CD40)、およびラムシルマブを含む。
【0035】
他の態様において、第2の治療剤は、化学治療剤、放射線治療剤、抗血管新生剤、アポトーシス誘導剤、抗チューブリン薬または腫瘍標的化化学治療剤、放射線治療剤、抗血管新生剤、アポトーシス誘導剤または抗チューブリン薬を含む。例示の第2の治療剤は、これらに限定されないが、アンギオスタチン、エンドスタチン、バスクロスタチン、カンスタチンおよびマスピンなどの抗血管新生剤、およびコルヒチン、タキソール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、コンブレタスタチンまたはそれらの誘導体またはプロドラッグなどの抗チューブリン薬を含む。第2の治療剤の他の例は、これらに限定されないが、アルキル化剤、ナイトロジェンマスタード、シクロホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、ニトロソ尿素、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、スルホン酸アルキル、ブスルファン、トレオスルファン、トリアゼン、植物性アルカロイド、ビンカアルカロイド(ビネリシチン(vineristine)、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン)、タキソイド、DNAトポイソメラーゼインヒビター、エピポドフィリン(epipodophyllin)、9-アミノカンプトテシン、カンプトテシン、クリスナトール、マイトマイシン、マイトマイシンC、代謝拮抗薬、葉酸代謝拮抗薬、DHFRインヒビター、トリメトレキサート、IMPデヒドロゲナーゼインヒビター、ミコフェノール酸、チアゾフリン、リバビリン、EICAR、リボヌクレオチドレダクターゼインヒビター、ヒドロキシ尿素、デフェロキサミン、ピリミジン類似体、ウラシル類似体、フロクスウリジン、ドキシフルリジン、ラチトレキセド(ratitrexed)、シトシン類似体、シタラビン(ara C)、シトシンアラビノシド、フルダラビン、プリン類似体、メルカプトプリン、チオグアニン、DNA代謝拮抗薬、3-HP、2’-デオキシ-5-フルオロウリジン、5-HP、アルファ-TGDR、アフィジコリングリシナート、ara-C、5-アザ-2’デオキシシチジン、ベータ-TGDR、シクロシチジン、グアナゾール(イノシングリコジアルデヒド)、マセベシン(macebecin)II、ピラゾロイミダゾール、ホルモン治療、受容体アンタゴニスト、抗エストロゲン、タモキシフェン、ラロキシフェン、メゲストロール、LHRHアゴニスト、ゴセレリン、リュープロリドアセタート、抗アンドロゲン薬、フルタミド、ビカルタミド、レチノイド/デルトイド(deltoid)、シス-レチノイン酸、ビタミンA誘導体、オールトランス型レチノイン酸(ATRA-IV)、ビタミンD3類似体、CB1093、ICH1060、光線力学的治療、ベルテポルフィン、BPD-MA、フタロシアニン、光増感剤Pc4、デメトキシ-ヒポクレリンA(2BA-2-DMHA)、サイトカイン、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、腫瘍壊死因子、血管新生インヒビター、アンギオスタチン(プラスミノーゲンフラグメント)、抗血管新生抗トロンビンUI、アンジオザイム、ABT-627、Bay 12-9566、ベネフィン、BMS-275291、軟骨由来インヒビター(CDI)、CD59補体フラグメント、CEP-7055、Col 3、コンブレタスタチンA-4、エンドスタチン(コラーゲンXVIIIフラグメント)、フィブロネクチンフラグメント、Gro-ベータ、ハロフギノン、ヘパリナーゼ、ヘパリンヘキササッカライドフラグメント、HMV833、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、IM-862、インターフェロン誘導性タンパク質、インターロイキン-12、クリングル5(プラスミノーゲンフラグメント)、マリマスタット、メタロプロテイナーゼインヒビター(UMP)、2-メトキシエストラジオール、MMI270(CGS 27023A)、ネオバスタット、NM-3、パンゼム(panzem)、PI-88、胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター、血小板因子-4(PF4)、プリノマスタット、プロラクチン161、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、レチノイド、ソリマスタット(Solimastat)、スクアラミン、SS3304、SU5416、SU6668、SU11248、テトラヒドロコルチゾール-S、テトラチオモリブダート、サリドマイド、トロンボスポンジン-l(TSP-l)、TNP-470、形質転換成長因子-ベータ、バスキュロスタチン、バソスタチン(カルレティキュリンフラグメント)、ZD6126、ZD6474、ファメシルトランスフェラーゼインヒビター(FTI)、ビスホスホナート、抗有糸分裂剤、アロコルヒチン、ハリコンドリンB、コルヒチン、コルヒチン誘導体、ドルスタチン10、マイタンシン、リゾキシン、チオコルヒチン、トリチルシステイン、イソプレニル化インヒビター、ドーパミン作動性神経毒、細胞周期インヒビター、スタウロスポリン、アクチノマイシン、アクチノマイシンD、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ブレオマイシンA2、ブレオマイシンB2、ペプロマイシン、アントラサイクリン、アドリアマイシン、エピルビシン、ピラルビシン(pirarnbicin)、ゾルビシン、ミトキサントロン、MDRインヒビター、ベラパミル、Ca21A TPaseインヒビター、およびタプシガルジンを含む。
【0036】
以下の非限定例は、本発明をさらに例証するために提供される。
【実施例】
【0037】
例1:材料および方法
細胞およびウイルス。Vero、HT-29、SW480、C32、A375、MDA-MB-231、4T1、HepG2およびA549細胞をAmerican Type Culture Collectionから得た。Vero、SW480、C32、A375、MDA-MB-231およびA549細胞を、10%ウシ胎児血清で補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で増殖させた。HT-29、4T1およびHepG2細胞を、10%ウシ胎児血清で補充したRPMI1640中で増殖させた。HSV-1(F)は、この研究(Ejercito, et al. (1968) J. Gen. Virol. 2:357-364)において用いられているプロトタイプHSV-1株である。組換えウイルスΔγ134.5において、γ134.5遺伝子のコーディング領域から1-kbフラグメントを欠失させた(Chou, et al. (1990) Science 250:1262-1266)。ΔN146においては、アミノ酸1~146をコードするγ134.5遺伝子の配列を欠失させた(Ma, et al. (2012) J. Virol. 86:2188-2196)。EUs11においては、γ134.5遺伝子を欠失させたが、α-47プロモーターにより駆動されるUs11遺伝子を有した(Liu, et al. (2018) J. Virol. 92)。ウイルスストックの調製および感染力の力価測定を、これまでに記載されるように行った(Ma, et al. (2012) J. Virol. 86:2188-2196)。
【0038】
ウイルス感染。ウイルス感染を、示される感染の多重度において行った(Verpooten, et al. (2009) J. Biol. Chem. 284:1097-1105)。細胞を次いで回収し、免疫ブロット、リアルタイムPCR分析またはウイルス成長分析のために処理した(Ma, et al. (2012) J. Virol. 86:2188-96; Wu, et al. (2016) J. Virol. 90:10414-22)。細胞生存率を製造者のプロトコルに従って、CELLTITER-GLO(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay(Promega)により決定した。インターフェロンアッセイについて、20時間、VeroおよびMDA-MB-231細胞をヒトインターフェロン-α(Sigma)で未処置または処置し、4T1細胞をマウスインターフェロン-α(Sigma)で処置した。細胞を、次いでウイルスで感染させ、ウイルスの収量を感染の48時間後に決定した。
【0039】
免疫ブロット分析およびELISA。細胞を回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、氷上で、氷冷緩衝液(50mMトリス-HCl pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、1.0%Triton(商標)X-100、およびプロテアーゼインヒビターカクテル)で溶解した。遠心分離後、上清を崩壊緩衝液(50mMトリス-HCl pH6.8、2%(wt/vol)SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、10%グリセロール、および100nM β-メルカプトエタノール)と混合し、煮沸した。試料を次いで変性ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動に供し、ニトロセルロース膜に転写し、gC(Jing, et al. (2004) J. Virol. 78:7653-66)、γ134.5(Cheng, et al. (2002) J. Virol. 76:9434-45)、ICP27(Virusys Inc.)、ICP0(Santa Cruz)、eIF-2α(Cell Signaling Technology, Inc.)、リン酸化されたeIF-2α(Cell Signaling Technology, Inc.)、IRF3(Cell Signaling Technology, Inc.)、リン酸化されたIRF3(Cell Signaling Technology, Inc.)およびβ-アクチン(Sigma)に対する抗体と反応させた。膜をPBS中でリンスし、西洋ワサビペルオキシダーゼと抱合されたロバ抗ウサギまたは抗マウス免疫グロブリンのいずれかと反応させ、増強された化学発光ウェスタンブロット検出システムキット(Amersham Pharmacia Biotechnology, Inc.)で現像した。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を行うために、細胞培養の上清を収集し、製造者(R&D Systems)の指示に従って、IFN-αおよびCxcl9を分析した。
【0040】
トランスクリプトーム分析。4T1細胞の単層をモック感染、またはウイルス(5pfu/細胞)で感染させた。感染の6時間後、RNase plus mini kit(Qiagen)を用いて細胞からRNAを抽出し、DNase I(New England BioLabs)で処置した。二重のRNA試料を、シカゴにあるイリノイ大学のゲノム調査のためのセンターによって、Clariom(商標)S Affymetrix arrayを用いて処理した。Clariom(商標)S Mouse Arrayから生成された生データを、パッケージOligoを用いてR中で処理した。各CELファイルからの特色強度値を、デフォルト設定のRobust Multi-array Average(RMA)を用いて正規化された発現値に変換した。すべての陽性および陰性対照プローブをAffymetrix report genes(RPTR)と一緒に、下流分析を実施する前に除去した。PCA(主成分分析)プロットを、何らかのバッチ効果を確認するために生成した。遺伝子発現変動分析をlimmaパッケージを用いて実施した。有意に発現した遺伝子を、<0.05の調整済みp値でフィルターした。ヒートマップを、Rパッケージ「pheatmap」v1.0.8を用いて一次データ(正規化された発現値)から生産した。
【0041】
定量リアルタイムPCRアッセイ。細胞をモック感染、またはウイルスで感染させた。感染の6時間後、RNase plus mini kit(Qiagen)を用いて細胞から全RNAを回収し、DNase I消化(New England BioLabs)に供した。cDNAをhigh capacity cDNA reverse transcription kit(Applied Biosystems)を用いて合成した。定量リアルタイムPCRを、ABI SYBR(登録商標)green master mix(Applied Biosystems)を用いてApplied Biosystems ABI Prism 7900HT装置を用いて実施した。遺伝子発現レベルを内在対照18S rRNAに対して正規化した。相対的な遺伝子発現を2
-ΔΔCT法(Schmittgen & Livak (2008) Nat. Protoc. 3:1101-8)により決定した。各遺伝子についてのプライマーをqPrimerDepotデータベースの推奨に従って選択した。プライマー配列を表1に提供する。
【表1】
【0042】
マウス研究。5週齢のマウスBALB/cマウスをHarlan Sprague Dawley Inc.から購入し、バイオセーフティーレベル2の封じ込めにおいて、特定の病原体フリーの状態下で飼育した。すべての動物を含む実験手順は、シカゴにあるイリノイ大学のthe institutional animal care and use committeeにより承認を受けた。6週齢において、0.1mlのPBSに懸濁した1x105の生存能力のある4T1細胞をマウスの右脇腹の皮下に接種した(-7日目)。8日後に腫瘍がおよそ100mm3の体積に達すると、1日目、3日目および6日目のΔγ134.5、ΔN146またはPBSの腫瘍内注射のために、マウスを無作為に3つの群に分けた。0.1mlの体積中、合計1x107PFUのウイルスまたはPBSを、各腫瘍にゆっくりと注射した。腫瘍成長を、デジタル測径器で2つの垂直な腫瘍直径を測定することにより1日おきにモニタリングした。以下の式:体積=(長さ×幅×高さ)/2を用いて腫瘍体積を計算した。腫瘍接種の24日後、マウスをCO2吸入により安楽死させた。
【0043】
組織分析。最後の腫瘍内注射後の選択される日に、各処置群から6匹のマウスを屠殺し、腫瘍、肺、肝臓、脾臓および血液を収集した。ウイルスのロードを測定するために、試料を細かく刻み、均質化し、ビーズビートし(bead-beat)、3回凍結融解し、DMEM中で超音波処理した。遠心分離後、腫瘍上清をプラークアッセイに使用した。肺、肝臓、脾臓および血液からの上清は定量リアルタイムPCRアッセイに用いた。手短に言えば、上清を1%SDS、50mMトリス(pH7.5)、および10mM EDTAを含有する緩衝液に懸濁した。37℃でのプロテイナーゼK(50μg/ml)とのインキュベーション後、ウイルスDNAを抽出し、HSV-1 gD特異的プライマー:TACAACCTGACCATCGCTTG(配列番号21)およびGCCCCCAGAGACTTGTTGTA(配列番号22)を用いて、リアルタイムPCRにより定量した。
【0044】
転移形成アッセイについて、マウスから肺を取り出し、ホルマリン中で固定化した。肺転移の数を光学顕微鏡下で計測することにより定量した。
【0045】
免疫組織化学分析。組織切片を処理し、HSV-1抗原をHSV-1に対する抗体(Dako)により検出した。CD4(Cell Signaling Technology, Inc.)およびCD8(Cell Signaling Technology, Inc.)抗体を製造者のプロトコルに従って使用した。色素原としてビオチン化抗ウサギ免疫グロブリン二次抗体、アビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ、ならびに0.05Mトリス-HCl(pH7.4)および0.025%H2O2中3,3’-ジアミノベンジジンテトラ塩酸塩(0.04%)(Ventana Medical Systems, Tucson, AZ)の添加の前に、試料を一次抗体とインキュベートした。
【0046】
例2:腫瘍細胞におけるΔN146突然変異体複製
アミノ酸147~263のみを含むHSV γ134.5突然変異体(ΔN146)は、正常な細胞または組織中のウイルスの成長を実質的に損なわせることが示されている(Ma, et al. (2012) J. Virol. 86:2188-2196; Ma, et al (2017) Sci. Rep. 7:41461; Pan, et al (2018) J. Virol. 92:e01015-18)。悪性細胞中のこの突然変異体の活性を決定するために、ウイルスの複製を評価した。この分析は、4T1(マウス乳房癌)細胞において、野生-+型HSV-1が1x107pfu/mlまで増幅した一方で、γ134.5ヌル突然変異体(Δγ134.5)は、1x103pfu/mlにのみ達したことを示す。しかしながら、ΔN146は、1x106pfu/mlまで成長し、堅牢な複製を示した。同様の傾向は、MDA-MB-231(ヒト乳房腺癌)細胞においても観察され、ΔN146は、Δγ134.5よりも100倍増幅した。その上、これらの表現型は、ヒトHT29(結腸)、SW480(結腸)、HepG2(肝臓)、C32(黒色腫)、A375(黒色腫)およびA549(肺)を含む広範な他の腫瘍細胞において再現された。
【0047】
続いて、ウイルス成長の速度論を調査した。HSV-1は、感染が進行するにつれて、4T1細胞野生型中で着実に成長し、感染の72時間後、力価は、1x107pfu/mlまで増加した。ΔN146は、わずかに低いレベルではあるが、1x106pfuまで複製され、Δγ134.5はほとんど複製されず、感染全体で1x103pfu/mlの力価であった。同様の傾向はMDA-MB-231細胞で観察され、ΔN146はΔγ134.5よりも100倍複製された。ウイルスの細胞溶解活性を評価するために、細胞の生存率を測定した。この分析は、野生型ウイルスと同様に、ΔN146が72時間までに4T1細胞のほとんど95%を溶解し、反応速度がわずかに遅れたのに対し、Δγ134.5はおよそ40%の細胞を破壊したことを示した。このような効果は、MDA-MB-231細胞においても反映された。総合すると、これらの結果は、ΔN146がγ134.5ヌル突然変異体よりもより効果的に腫瘍細胞内で複製され、腫瘍細胞を溶解することを示す。
【0048】
例3:γ134.5のC末端部分の発現はeIF2αリン酸化を阻害する
HSV感染は、α、β、およびγ遺伝子の逐次的な発現を伴って、一時的な様式で進行する。ウイルスDNA複製の開始は、γ134.5の非存在下でタンパク質合成の停止を引き起こす(Chou & Roizman (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:3266-70)。代表的なタンパク質ICP27(αタンパク質)およびgC(γタンパク質)の発現はウイルスDNA複製に依存しているので、ΔN146の影響を評価するために、これらのタンパク質の発現を測定した。細胞をモック感染またはHSV-1、Δγ134.5、またはΔN146ウイルスに感染させ、感染の12時間後、試料をウェスタンブロット分析に供した。この分析は、野生型ウイルスが、感染した4T1およびMDA-MB-231細胞においてICP27とgCの両方を発現したことを示した。もっともΔγ134.5はICP27を発現したが、4T1またはMDA-MB-231細胞のいずれにおいてgCはほとんど検出できなかった。これらの同じ条件下で、ΔN146は野生型HSV-1と同等のレベルのICP27およびgCを発現し、これは、ウイルスのDNA複製によって開始される翻訳停止をブロックする能力を示す。
【0049】
eIF2αのリン酸化はタンパク質合成と結びついているので、ストレスキナーゼPKR、PERKまたはGCN2によるeIF2αのリン酸化を4T1およびMDA-MB-231腫瘍細胞においてモニタリングした。この分析は、eIF2αの発現がモック感染した、またはウイルスに感染した腫瘍細胞で同等であることを示した。興味深いことに、リン酸化されたeIF2αは、おそらく発癌性ストレスに起因して、モック感染細胞中に存在していた。もっとも野生型HSV-1はeIF2αリン酸化を排除したが、Δγ134.5はそれを悪化させ、ΔN146は4T1およびMDA-MB-231腫瘍細胞におけるeIF2αリン酸化を完全に無効にした。したがって、γ134.5のC末端部分にまたがる領域は、腫瘍細胞におけるeIF2αリン酸化を阻害するのに充分であった。
【0050】
例4:ΔN146は、腫瘍細胞におけるインターフェロン応答を刺激する
ウイルス感染に対する腫瘍細胞応答を評価するために、4T1細胞におけるトランスクリプトーム分析を行った。多様な細胞経路における多数の遺伝子が、モック感染およびウイルスに感染した4T1細胞において差次的に発現したことが観察された。注目すべきことに、先天性免疫経路における多くの遺伝子は、ΔN146に応答して明確に上方調節された。試験された46の遺伝子のうち、ほとんどは、モック感染または野生型ウイルスに感染した細胞において変化しないままか、わずかに発現した。しかしながら、それらは、程度は異なるものの、Δγ134.5に感染した細胞で上方調節された。注目すべきことに、遺伝子誘導はΔN146に感染した細胞でより顕著であり、これは、ΔN146が炎症応答を刺激する傾向があることを示している。
【0051】
これらの結果を確認するために、選択されたサイトカインおよびインターフェロン刺激遺伝子の発現を、リアルタイムPCRによって決定した。予想どおり、野生型ウイルスはIFN-α1、IFIT1、Ccl5、およびCxcl9の発現をほとんど引き起こさなかった一方で、Δγ134.5またはΔN146はこれらの遺伝子を急激に誘導した。これは、ELISAアッセイにおけるサイトカイン産生のレベルによって裏付けられた。分子的な基盤を検討するために、免疫応答を活性化するインターフェロン調節因子(IRF3)を分析した。IRF3は、モック感染または野生型HSV-1に感染した4T1細胞においてリン酸化されていなかった。対照的に、それは、Δγ134.5またはΔN146に感染した細胞においてリン酸化され始めた。これは、ICP0およびICP27の正常な発現によって示されるように、ウイルス感染力の違いに起因するものではなかった。これらの結果は複数の実験で確認され、表現型はヒトMDA-MB-231細胞においても見られた。Δγ134.5と同様に、ΔN146は悪性細胞の感染時に免疫刺激性であると結論付けられた。
【0052】
例5:ΔN146はIFNに耐性である
I型IFNは、腫瘍に対する免疫を準備刺激するために必要である。他方、それは抗ウイルス応答を媒介する。ΔN146がIFNによるクリアランスに不応であるかどうかを決定するために、ウイルス成長を調べた。概念を実証するものとして、IFNに対するウイルス応答は、IFN-α/β遺伝子を欠くVero細胞で最初に決定された。IFN-αによる処置はHSV-1(F)の複製にほとんど影響を与えなかったが、Δγ134.5の複製を大幅に、およそ1000倍低減させた。しかしながら、IFN-αはΔN146の複製を適度に減少させただけであった。さらにまた、4T1およびMDA-MB-231細胞で試験した場合、同様の傾向が観察された。IFN-αは一般にウイルス複製を低減させる一方で、野生型HSV-1またはΔN146への効果は小さかった。実際、ΔN146は、外因性IFN-αの存在下で、Δγ134.5よりも500~1000倍一貫して複製した。よって、γ134.5のアミノ酸147~263は、IFNに対するウイルス耐性を付与するのに充分である。
【0053】
例6:ΔN146はin vivoで原発腫瘍成長および転移を低減させる
実施例2~5に提示された結果に照らして、複製および炎症を活性化するΔN146の能力は、in vivoで腫瘍破壊を増大させると仮定された。これを実証するために、自発的に転移する攻撃的な4T1乳がんが選択され、プロセスはヒト乳腺腫瘍に似ていた。比較のために、Δγ
134.5もまたHSV1716に類似していた(Rampling, et al. (2000) Gene Ther. 7:859-866; Streby, et al. (2017) Clin. Cancer Res. 23:3566-3574)。加えて、組換えHSV EUs11(Liu, et al. (2018) J. Virol. 92)はタリモジェンラヘルパレプベックの腫瘍溶解性バックボーンと構造的に同等であるため(Liu、et al. (2003) GeneTher. 10: 292-303)、このウイルスが含まれる。マウスの脇腹の皮下に確立された腫瘍に、1、3、および6日目にPBS、Δγ
134.5、ΔN146、またはEUs11(1x10
7pfu)を3回注射した。次いで、腫瘍サイズをモニタリングした。
図1に例証するように、PBSで処置された対照腫瘍は期間にわたり速い速度で成長した。γ
134.5ヌルウイルスによる処置は、局所腫瘍成長をわずかに低減させた。しかしながら、ΔN146またはEUs11での腫瘍内接種は、腫瘍成長を著しく遅らせ、処置が進むにつれて腫瘍サイズの低減はより明らかになった。24日目に、ΔN146およびEUs11は、モック対照またはΔγ
134.5と比較して腫瘍サイズをほぼ45%低減させた。ゆえに、EUs11に匹敵する一方で、ΔN146はΔγ
134.5と比較した場合に原発腫瘍に対して優れた活性を示した。
【0054】
転移に対するウイルスの影響を評価するために、肺腫瘍形成を24日目に分析した。
図2は、顕微鏡分析によって測定されるように、肺転移が対照マウスにおいて容易に検出可能であり、動物あたり平均25個の結節を有することを示す。Δγ
134.5またはEUs11による処置は発生率を低減させ、動物あたり平均15個の結節を有した。注目すべきことに、ΔN146は、転移性のバーデン(burden)をさらに低減させ、平均10個の結節を有した。これらの結果は、Δγ
134.5ウイルスが肺転移を低減させることを示す;しかしながら、ΔN146は、より顕著な効果を発揮した。
【0055】
例7:ΔN146は原発腫瘍において複製するが正常組織においては複製しない
ウイルスの複製を評価するために、9日目に収集された原発腫瘍中のウイルス収量を決定した。この分析は、プラークアッセイによって測定されるように、Δγ
134.5が1x10
2pfu/g腫瘍組織の平均力価で複製されることを示した(
図3)。他方、EUs11は7x10
3pfu/g腫瘍組織の平均力価で成長した。同様に、ΔN146は5x10
3pfu/g腫瘍組織の平均力価で成長した。明らかなように、EUs11と同様に、ΔN146はΔγ
134.5よりも50倍多く複製された。これを踏まえると、ウイルス抗原は腫瘍床の薄片で検出され、ΔN146およびEUs11はΔγ
134.5よりも広範囲に広がった。これは、腫瘍組織の壊死の程度と相関していた。
【0056】
ウイルスが正常組織に広がるかどうかを測定するために、Δγ134.5、ΔN146、およびEUs11が肺、血液、肝臓、および脾臓に存在するかどうかをqPCRアッセイによって決定した。この分析は、9日目にこれらの組織でウイルスが検出可能でなかったことを示したが、それらは腫瘍中で容易に見出された。これらの結果は、Δγ134.5またはEUs11の結果と同様に、ΔN146の複製がin vivoで腫瘍組織に限定されることを示す。
【0057】
ウイルス複製が実際に腫瘍において活発に生じることを確認するために、4T1原発腫瘍の三重の治療を実施し、7、9、および15日目のウイルス収量を測定した。この分析は、プラークアッセイにより、7日目にウイルスが約2x102pfu/g腫瘍組織で検出可能であったことを示した。処置が進むにつれて、Δγ134.5の量は最初は変化しないままであり、次いで15日目までに1x10pfu/g腫瘍組織に減少した。しかしながら、これらの同じ条件下で、ΔN146のレベルは9日目に1x104pfu/g腫瘍組織に増大し、それに続いて15日目までに1x103pfu/g腫瘍組織に減少した。EUs11は同様の成長パターンを示した。したがって、Δγ134.5とは異なり、ΔN146およびEUs11はin vivoにおいて腫瘍内で複製することができる。
【0058】
実施例8:ΔN146はCD4+およびCD8+T細胞の原発腫瘍への浸潤を誘導する
先の証拠は、γ134.5の欠失を伴う腫瘍溶解性HSVが全身性抗腫瘍免疫を活性化することを示唆している(Thomas & Fraser (2003) Mol. Ther. 8:543-51; Toda, et al. (1999) Hum. Gene Ther. 10:385-93)。腫瘍内ウイルス注射は局所腫瘍成長と転移形成の両方を低減したので、適応免疫の誘導が存在したかどうかが決定された。そのため、CD4+およびCD8+T細胞は免疫組織化学分析によって評価された。24日目に収集された原発腫瘍を薄片にし、CD4+およびCD8+T細胞の存在について染色した。モック感染腫瘍において、いくらかのCD4+またはCD8+T細胞(<4%)が検出可能であった。しかしながら、Δγ134.5で処置された腫瘍においては、CD4+T細胞は12%に、CD8+T細胞は7%に上昇した。同様に、ΔN146はCD4+細胞の15%およびCD8+T細胞の8%を占めた。EUs11は免疫細胞浸潤を引き起こしたが、観察された効果はCD4+(10%)とCD8+T細胞(5%)の両方で低減した。これらの結果は、Δγ134.5と同様に、ΔN146がT細胞浸潤を誘導するのに対し、EUs11はこのプロセスを弱めるように見えることを示す。
【0059】
例9:ΔN146とEUs11は腫瘍細胞と差次的に相互作用する
ΔN146とEUs11が腫瘍細胞と差次的に相互作用するかどうかを決定するために、in vitro分析を実施した。
図4に示すように、ΔN146感染はIFN-α1およびcxcl9遺伝子の転写を刺激した。対照的に、EUs11は遺伝子発現を抑制した。これは、ELISAによって測定されたサイトカイン産生のレベルと一致していた。一貫して、ΔN146はIRF3のリン酸化を刺激した一方で、EUs11は刺激せず、これは、EUs11がウイルス感染時の免疫抑制を媒介することを示唆する。
【0060】
腫瘍細胞を破壊するウイルスの能力を評価するために、細胞生存率を測定した。この分析は、EUS11と同様に、ΔN146は72時間までに4T1細胞のほとんど95%を溶解したことを示した。よって、ΔN146とEUs11の両方が腫瘍細胞を効果的に溶解した。さらに、IFN処理の有無にかかわらず4T1細胞におけるウイルス複製は決定された。この分析は、IFN-αの非存在下で、ΔN146とEUs11の両方が効果的に複製され、力価が約1x106pfu/mlに達することを示した。外因性IFN-αの添加は、ΔN146およびEUs11のウイルス複製を適度に低減させ、力価は5x104pfu/mlであり、これはI型IFNに対して同等に耐性であることを示唆する。
【配列表】