(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/14 20060101AFI20231026BHJP
E21F 1/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
E21D9/14
E21F1/00 Z
(21)【出願番号】P 2022212541
(22)【出願日】2022-12-28
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】202210504461.7
(32)【優先日】2022-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】張 潔
(72)【発明者】
【氏名】高 広軍
(72)【発明者】
【氏名】劉 堂紅
(72)【発明者】
【氏名】熊 小慧
(72)【発明者】
【氏名】韓 帥
(72)【発明者】
【氏名】黄 鳳儀
(72)【発明者】
【氏名】王 雨舸
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ハン▼
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/14
E21F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法であって、
前記トンネル微気圧波を緩衝する緩衝構造をトンネルの口に設置し、列車が
前記緩衝構造に近い場合、前の気流が球面波の形態で周囲に広がり、且つ該球面波の等価半径はトンネル断面の水力半径であり、形成された
球面角は
πであり、該球
面の球心を投影中心として、緩衝構造の入口平面を
、表面積をSとする前記球面に投影し、投影面積S1を得て、
球面の入射角をθ=S1/S×πに定義し、
前記球面の入射角θの大きさを縮小することにより、トンネルを通る列車によって生成される微気圧波を減少することを特徴とする
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【請求項2】
S1は
前記緩衝構造の横断面から
前記球面への投影面積であることを特徴とする請求項1に記載の
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【請求項3】
前記緩衝構造の開口を、
前記球面の入射角θを減らすために断面の斜めカット式に調整し、断面の斜めカット率は0より大きいことを特徴とする請求項2に記載の
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【請求項4】
前記緩衝構造の
前記断面
の斜めカット率と
前記球面の入射角は、対数関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【請求項5】
前記緩衝構造の開口エッジを鋸歯状に調整して、
前記球面の入射角θを減らすことを特徴とする請求項2に記載の
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【請求項6】
前記緩衝構造の開口を断面
の斜めカット式に調整してエッジを鋸歯状に調整して、
前記球面の入射角θを減らすことを特徴とする請求項2に記載の
球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速列車の空気力学の分野、特に、球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
列車が高速でトンネルに入ると、トンネルの壁表面によって制限されているため、前の気流が変動し、初期圧縮波が形成され、トンネル出口においてパルス波の形態で外側に放射し、ノイズ音を生成し、周囲の環境に害を及ぼす。トンネル出口の微気圧波を緩和するために、トンネルの口に緩衝構造を設置して、トンネルに入る列車によって生成された初期圧縮波勾配を緩和する。この段階では、トンネルの空気力学を緩和するためによく使用される緩衝構造には多くの種類があるが、既存のラインでより高い速度列車が走っている場合、既存のトンネル緩衝構造は、トンネルを通るこの速度レベルで列車によって生成される空気力効果を効果的に緩和することはできず、既存の鉄道トンネルの基準を満たすことができない。
【0003】
上記の技術的背景の説明は、この出願の技術的解決手段の明確かつ完全な説明を促進し、当業者の理解を促進するために説明することである。これらの手段が本出願の背景技術部分で説明されているため、上記の技術的解決手段が当業者に公的に知られていると思われることができないことに注意する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の背景技術の欠点について、高速鉄道においてトンネルの微気圧波を緩和する方法を提供し、緩衝構造の入射空間角特性とトンネル出口微気圧波との間の影響メカニズムへの研究を通じて、微気圧波を緩和する緩衝構造モデルを得て最適化し、より高い速度列車がトンネルをスムーズかつ安全に通ることを確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明は、球面の入射角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法を提供し、前記トンネル微気圧波を緩衝する緩衝構造をトンネルの口に設置し、列車が前記緩衝構造に近い場合、前の気流が球面波の形態で周囲に広がり、且つ該球面波の等価半径はトンネル断面の水力半径であり、形成された球面角はπであり、該球面の球心を投影中心として、緩衝構造の入口平面を、表面積をSとする前記球面に投影し、投影面積S1を得て、球面の入射角をθ=S1/S×πに定義し、前記球面の入射角θの大きさを縮小することにより、トンネルを通る列車によって生成される微気圧波を減少する。
【0006】
さらに、S1は前記緩衝構造の横断面から前記球面への投影面積である。
【0007】
さらに、前記緩衝構造の開口を、前記球面の入射角θを減らすために断面の斜めカット式に調整し、断面の斜めカット率は0より大きい。
【0008】
さらに、前記緩衝構造の前記断面の斜めカット率と前記球面の入射角は、対数関係を満たす。
【0009】
さらに、前記緩衝構造の開口エッジを鋸歯状に調整して、前記球面の入射角θを減らす。
【0010】
前記緩衝構造の開口を断面の斜めカット式に調整してエッジを鋸歯状に調整して、前記球面の入射角θを減らす。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記の手段は、以下の有益な効果を有する。
本発明によって提供されるトンネルの微気圧波を緩和する方法は、既存の鉄道トンネルに基づいて、より高い速度列車がトンネルをスムーズかつ安全に通るというニーズを満たし、緩衝構造の入射空間角特性とトンネル出口微気圧波との間の影響メカニズムへの研究を通じて、微気圧波を効率的に緩和する緩衝構造モデルを得て、緩衝構造設計のために新しい方法を提供することができる、
【0012】
本発明の他の有益な効果は、その後の発明を実施するための形態部分で詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1による垂直式緩衝構造概略図である。
【
図2】本発明の実施例1による斜めカット式緩衝構造概略図である。
【
図3】本発明の斜めカット率と入射空間角の対数フィッティング曲線図である。
【
図4】本発明の実施例1による異なる斜めカット率のトンネル出口の20mでの微気圧波の時間歴程である。
【
図5】本発明の実施例1による異なる斜めカット率のトンネル出口の50mでの微気圧波の時間歴程である。
【
図6】本発明の実施例2による緩衝構造概略図である。
【
図7】本発明の実施例2による20m箇所の微気圧波の時間歴程である。
【
図8】本発明の実施例2による50m箇所の微気圧波の時間歴程である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によって解決される技術的問題、技術的解決手段および利点をより明確にするために、添付の図面および具体的な実施例を参照して、以下に詳細に説明する。明らかに、説明される実施例は本発明の一部の実施例であり、全ての実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、創造的な労働をしないという前提の下で、当業者によって得られた他のすべての実施例は、本発明の保護の範囲に属する。さらに、以下に説明する本発明のさまざまな実施形態に関与する技術的特徴は、互いに対立を構成しない限り、組み合わせることができる。
【0015】
本発明の説明において、簡単に説明するために、この方法またはルールは一連の操作として記述または説明され、目的は、実験操作の網羅でも実験操作の順序制限でもない。例えば、実験操作は、さまざまな順序で、及び/又は同時に実行でき、または他の再び説明しない実験操作を含む。また、説明されているステップはすべて、ここで説明されている方法とアルゴリズムに必要でない。当業者は、これらの方法とアルゴリズムが状態図または項目を通じて一連の無関係な状態として表現できることを認識し、理解することができる。
【0016】
本発明の説明では、「中心」、「上」、「下」、「左」、「右」、「垂直」、「水平」、「内」、「外」という用語が指示する方向または位置関係は、添付の図面に示す方向または位置関係に基づき、本発明を説明することを容易にして説明を簡略化するためだけであり、指す装置又は素子には特定の方向を持ち、特定の方向で構築して動作する必要があると指示するか又は暗示しないため、したがって本発明を限定するものではない。また、用語「第一」、「第二」、「第三」は説明の目的のみに用いられ、相対重要性を指示するか又は暗示すると理解できない。
【0017】
本発明は、高速列車の空気力学の分野に関し、列車がトンネルに入ると、トンネルの壁表面の制限と粘度作用のため、前の気流は即刻排出できず、トンネル内部の圧力変動を引き起こし、深刻な圧力の変化により、トンネル内に初期圧縮波が発生し、初期圧縮波は、パルス波の形態で外側に放射され、つまり、トンネル出口微気圧波である。列車がより高速で走ると、トンネルによって引き起こされる空気力効果がますます明らかになる。設計時速がより高い列車が既存のラインで走っている場合、既存のトンネル緩衝構造は、トンネルを通るこの速度レベルで列車によって生成される空気力効果を効果的に緩和することができず、既存の鉄道トンネルの基準を満たすことができない。トンネルを通る高速列車によって生成される空気力効果を緩和するために、従来技術においてトンネル緩衝構造の一連の最適化改善を行うが、普遍的ではないため、異なる状況でのトンネルの改善効果は十分に安定しておらず、満足の効果を達成しにくい。
【0018】
これに基づき、本発明の実施例1は、高速鉄道トンネル微気圧波の緩衝構造最適化方法を提供し、メカニズムでトンネルの微気圧波を緩和するよう努める。
【0019】
具体的には、列車が緩衝構造に近い場合、前の気流が球面波の形態で周囲に広がり、且つ該球面波の等価半径はトンネル断面の水力半径であり、形成された空間角は1/4球体であり、即ちπであり、該球体の球心を投影中心として、緩衝構造を球面Sに投影し、投影面積S1を得て、入射空間角をθ=S1/S×πに定義した。
【0020】
図1、
図2に示すアーチ型緩衝構造に対して、列車が緩衝構造に入らない場合、S1は緩衝構造の横断面から球面Sへの投影面積である。
【0021】
斜めカット式緩衝構造の入射空間角は垂直式緩衝構造よりも小さいため、垂直式緩衝構造と斜めカット式緩衝構造の値を計算することにより、微小空気圧波に対する斜めカット緩衝構造の緩和効果がより良いことが発見された。したがって、緩衝構造開口の断面斜めカット率の大きさを調整することで緩衝構造を最適化して、トンネルに入る列車によって生成される微気圧波を減少することができる。
【0022】
緩衝構造の断面斜めカット率を入射空間角と等価し、両者に対して対数フィッティングを行い、相関係数は0.999に達し、フィッティング曲線を
図3に示す。図から、両者の間のフィッティング関係は、対数関数に適合することがわかり、斜めカット率が特定の値に達すると、入射空間角は基本的に変化しないままになり、それにより斜めカット率がさらに増加すると緩衝効果が大幅に増加しない。
【0023】
数値シミュレーションによって600km/hで2000mのシングルライントンネルを渡る時の列車の空気力学性能を分析した。トンネル横断面積は92m
2 であり、トンネルの両端に緩衝構造が配置され、列車は5台の車両を一つ組みに編成し、緩衝構造は断面拡大式であり、横断面積はトンネルの横断面積の2倍であり、緩衝構造の長さは100mであり、斜めカット率は、斜めカット部の底部の長さと緩衝構造の高さの比として定義され、それぞれ0、1、1.25、および1.5とする。計算して得た異なる緩衝構造の斜めカット率でトンネル出口から20mおよび50m箇所の微気圧波振幅は
図4および
図5に示すとおりである。図から、トンネル出口から20mと50m箇所の微気圧波振幅が緩衝構造の斜めカット率の増加とともに減少し、緩衝構造の斜めカット率が1.5の場合、トンネル出口から20m及び50m箇所の微気圧波への緩和効果が最もよく、20mと50m箇所の微気圧波振幅は、それぞれ236paと126paであり、斜めカット率が0である垂直式緩衝構造の場合の419paと177paに比べて、緩和効果はそれぞれ43.7%と28.8%であることがわかり、表1-1及び表1-2に示すとおりである。
【0024】
表1-1:異なる緩衝構造の斜めカット率での20mでの微気圧波振幅。
【0025】
表1-2:異なる緩衝構造の斜めカット率での50m箇所の微気圧波振幅。
【0026】
したがって、断面の斜めカット率と微気圧波の緩和効果は正の相関関係であると考えることができ、実際の緩衝構造を改善する場合、現場の施工条件等を統合的に考慮して適切な断面斜めカット率を選択してテストすることができ、入射空間角をできるだけ小さくすると同時にサイズが過度に増加することはない。
【0027】
実施例2:
本発明の実施例2は、入射空間角を減らす別の方法を提供し、実施例1とは異なるものは、斜めカット率の改善を行わず、緩衝構造の開口エッジを鋸歯状に設置する方法を採用することであった。
【0028】
ここで、鋸歯は方形歯溝、台形歯溝、三角形歯溝などであってもよい。入射空間角の計算では、歯溝によって寄与される入射空間角は、その底面によって決定され、明らかに、鋸歯を設置しない緩衝構造に比べて空間角が減少した。
【0029】
したがって、この方法を使用すると、緩衝構造の垂直サイズを明らかに変更しないと同時に入射空間角を減らすことができ、それにより緩和効果が向上する。
【0030】
数値シミュレーションによって600km/hで2000mのシングルライントンネルを渡る時の列車の空気力学性能を分析した。トンネル横断面積は92m
2 であり、トンネルの両端に緩衝構造が配置され、列車は5台の車両を一つ組みに編成し、緩衝構造の横断面積はトンネルの横断面積の2倍であり、緩衝構造の長さは100mであり、且つ緩衝構造の入口で切断し、それを鋸歯状の入口に変え、
図6に示すように、緩衝構造の横断面に均一に分布する12個の歯溝が設置され、各歯溝はすべて1m×1mであった。
【0031】
検証により、本実施例と元の緩衝構造でのトンネル出口から20mおよび50m箇所の微気圧波の時間歴程をそれぞれ
図7および8に示すように、
図7、
図8及び表2-1から、トンネル出口から20mおよび50m箇所の微気圧波は、それぞれ15.8%と19.2%緩和することがわかる。
【0032】
表2-1:鋸歯状の緩衝構造がある/鋸歯状の緩衝構造なしの斜めカット率での20mまたは50m箇所の微気圧波振幅。
【0033】
したがって、垂直サイズを調整しにくく、構造強度の冗長性が大きくない緩衝構造の場合、鋸歯状の開口を持つ緩衝構造を採用して要件をよりよく満たすことができる。
【0034】
実施例3:
本発明の実施例3は、実施例1と実施例2を組み合わせ、つまり、緩衝構造の斜めカット率を増加させると同時に鋸歯状の入口を使用することであり、実施例1と実施例2の推論に基づいて、トンネル微気圧波をより効果的に緩和できる。
【0035】
本発明は、高速鉄道トンネルだけでなく、高速磁気浮上鉄道トンネルにも適用できる。
【0036】
以上は本発明の好ましい実施態様であり、なお、当業者にとって、本発明の原理から分離されていないという前提の下で、いくつかの改善と修整もでき、これらの改善及び修整も本発明の保護範囲に属すべきである。
【要約】 (修正有)
【課題】入射空間角に基づくトンネル微気圧波の緩和方法を提供する。
【解決手段】列車が緩衝構造に近い場合、前の気流が球面波の形態で周囲に広がり、且つ該球面波の等価半径はトンネル断面の水力半径であり、形成された空間角は1/4球体πであり、該球体の球心を投影中心として、緩衝構造の入口平面を球面Sに投影し、投影面積S
1を得て、入射空間角をθ=S
1/S×πに定義し、入射空間角θの大きさを縮小することにより、トンネルを通る列車によって生成される微気圧波を減少する。既存の鉄道トンネルに基づいて、より高い速度列車がトンネルをスムーズかつ安全に通るというニーズを満たし、緩衝構造の入射空間角特性とトンネル出口微気圧波との間の影響メカニズムへの研究を通じて、微気圧波を効率的に緩和する緩衝構造モデルを得て、緩衝構造設計のために新しい方法を提供する。
【選択図】
図1