(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】触感提示装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20231026BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20231026BHJP
F03G 7/06 20060101ALI20231026BHJP
H01H 37/32 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
G06F3/041 480
G06F3/01 560
F03G7/06 E
H01H37/32 C
(21)【出願番号】P 2020009730
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】飯野 朗弘
【審査官】菅原 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094778(JP,A)
【文献】特開2016-162328(JP,A)
【文献】特開2015-232277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259414(US,A1)
【文献】特開2019-215612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
G06F 3/01
F03G 7/06
H01H 37/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指先で操作される操作パネルを有するケーシングと、
前記ケーシングに対して可動方向に沿って移動可能とされた可動体と、
前記ケーシングに対して固定的に配置された固定子と、
前記可動体に取り付けられるとともに、前記固定子に対して前記可動方向に相対移動可能に配置された可動子と、
前記固定子と前記可動子との間に配置され、温度に応じて長さが変化する形状記憶合金ワイヤと、
前記可動子を前記固定子側に向けて、前記可動方向に沿って付勢する弾性部材と、
前記可動子に対して固定的に配置され、前記形状記憶合金ワイヤを支持するワイヤ支持部と、
を備え、
前記形状記憶合金ワイヤは、前記固定子および前記可動子に交互に接触しながら、前記固定子および前記可動子の間に波状に挟み込まれ、通電加熱に伴う伸縮によって前記固定子と前記可動子との間隔を変化させ、
前記可動子
は、前記固定子
よりも熱伝導率が高い材料により形成されている、
触感提示装置。
【請求項2】
前記可動子
と前記形状記憶合金ワイヤとの接触距離は、前記固定子
と前記形状記憶合金ワイヤとの接触距離よりも長い、
請求項1
に記載の触感提示装置。
【請求項3】
前記固定子
は、樹脂材料により形成されている、
請求項1
または請求項
2に記載の触感提示装置。
【請求項4】
前記固定子
は、絶縁性を有する樹脂に熱伝導性を付与するフィラーを含有された樹脂材料により形成されている、
請求項
3に記載の触感提示装置。
【請求項5】
前記可動子
は、金属材料により形成され、前記形状記憶合金ワイヤとの接触面に絶縁膜を有する、
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の触感提示装置。
【請求項6】
前記操作パネルを通じて情報を表示する表示パネルと、
前記操作パネルの操作に応じて前記表示パネルの表示を制御する制御部と、
を備える請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の触感提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触感提示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、スマートウォッチ、タブレット型PC等の携帯情報端末や、車載用ナビゲーションシステム等の電子機器等には、操作者の操作に対して、振動によって触感を提示する触感提示装置が組み込まれている場合が多い。
【0003】
例えば下記特許文献1に示されるように、タッチパネルの前面側に配置された接触パネルを指先で触った際に、形状記憶合金ワイヤを利用して接触パネルを瞬間的に移動させて、指先に対して力学的な操作感覚(いわゆるクリック感)を疑似的に作用させる触感提示装置が知られている。この触感提示装置では、通電加熱に伴う形状記憶合金ワイヤの伸縮を利用するアクチュエータにより、接触パネルを予め決まった変位方向に瞬間的に移動させている。これにより、接触パネルに触れた指先に対してクリック感を与えるかのような疑似的な触感を作用させることができ、あたかも機械スイッチを押したような触感を感じることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の触感提示装置では、クリック感の質感、すなわち機械スイッチを押したような触感を如何に疑似的に再現できるかということが重要とされている。この点、形状記憶合金ワイヤを利用する場合には、起動および停止特性が優れ、良好な疑似的触感を得易いという利点がある。しかしながら、疑似的触感の品質のさらなる改善が望まれている。
【0006】
そこで本発明は、高品質な疑似的触感を作用させることができる触感提示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の触感提示装置は、指先で操作される操作パネルを有するケーシングと、前記ケーシングに対して可動方向に沿って移動可能とされた可動体と、前記ケーシングに対して固定的に配置された固定子と、前記可動体に取り付けられるとともに、前記固定子に対して前記可動方向に相対移動可能に配置された可動子と、前記固定子と前記可動子との間に配置され、温度に応じて長さが変化する形状記憶合金ワイヤと、前記可動子を前記固定子側に向けて、前記可動方向に沿って付勢する弾性部材と、を備え、前記形状記憶合金ワイヤは、前記固定子および前記可動子に交互に接触しながら、前記固定子および前記可動子の間に波状に挟み込まれ、通電加熱に伴う伸縮によって前記固定子と前記可動子との間隔を変化させ、前記固定子および前記可動子の一方は、前記固定子および前記可動子の他方よりも熱伝導率が高い材料により形成されている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、固定子と可動子との間隔の変化を利用して、ケーシングに対して可動体を可動方向に沿って瞬間的に移動させることができる。これにより、可動体の急速な変位に基づいて、触感提示装置全体に可動体の慣性力(推力)を作用させることができる。そのため、操作パネルに触れた指先に対して、力学的な操作感覚を疑似的に作用させることができ、指先に対してクリック感を与えるかのような疑似的触感を作用させることができる。
ここで、固定子と可動子との間隔が変化する過程で、固定子および可動子それぞれと形状記憶合金ワイヤとの接触状態も変化する。固定子および可動子の熱伝導率を互いに異ならせることで、固定子および可動子それぞれと形状記憶合金ワイヤとの接触状態に応じて形状記憶合金ワイヤの放熱特性を変化させることができる。よって、形状記憶合金ワイヤに良好な放熱特性を与え、伸縮動作の応答性を高めることができる。
したがって、高品質な疑似的触感を作用させることができる触感提示装置を提供できる。
【0009】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記一方に対して固定的に配置され、前記形状記憶合金ワイヤを支持するワイヤ支持部を備えていてもよい。
【0010】
この構成の場合、固定子と可動子との間隔が変化する際、形状記憶合金ワイヤは固定子および可動子の一方とともに可動方向に変位する。このため、固定子と可動子との間隔が大きくなる過程で、可動子の慣性によって固定子および可動子の他方に対する形状記憶合金ワイヤの接触圧が小さくなり、固定子と可動子との間隔が最大となるタイミングに前後して固定子および可動子の他方が形状記憶合金ワイヤから離間し得る。一方で、固定子および可動子の一方は形状記憶合金ワイヤに常時接触する。
固定子および可動子の一方は、固定子および可動子の他方よりも熱伝導率が高くなるように形成されているので、固定子と可動子との間隔が最大となるタイミングで形状記憶合金ワイヤを効率よく放熱することができる。また、固定子と可動子との間隔が最小の状態では形状記憶合金ワイヤは固定子および可動子の両方に接触しているので、固定子および可動子の他方の熱伝導率が固定子および可動子の一方の熱伝導率と同じ場合と比較して、形状記憶合金ワイヤの放熱を抑制することができる。
以上により、形状記憶合金ワイヤを通電加熱によって急激に昇温させるとともに、昇温した形状記憶合金ワイヤを効率よく冷却することが可能となる。したがって、形状記憶合金ワイヤを急激に伸縮させて、可動体を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0011】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記一方と前記形状記憶合金ワイヤとの接触距離は、前記固定子および前記可動子の前記他方と前記形状記憶合金ワイヤとの接触距離よりも長くてもよい。
【0012】
この構成の場合、固定子および可動子の一方と形状記憶合金ワイヤとの接触距離が固定子および可動子の他方と形状記憶合金ワイヤとの接触距離よりも短い構成と比較して、形状記憶合金ワイヤを効率よく放熱することができる。これにより、昇温して収縮した形状記憶合金ワイヤを瞬間的に伸長させることができる。したがって、可動体を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0013】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記他方は、樹脂材料により形成されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、固定子および可動子の他方が金属材料により形成されている構成と比較して、射出成形によって固定子および可動子の他方を容易に形成できる。したがって、触感提示装置を低コストで製造できる。また、固定子および可動子の他方を金属材料により形成した構成と比較して、形状記憶合金ワイヤの摩耗を抑制できる。
【0015】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記他方は、絶縁性を有する樹脂に熱伝導性を付与するフィラーを含有された樹脂材料により形成されていてもよい。
【0016】
この構成によれば、固定子および可動子の他方の熱伝導率を調整することができる。すなわち、固定子および可動子の他方がフィラーを含有しない樹脂材料により形成されている構成と比較して、固定子および可動子の他方の熱伝導率を高くすることができる。このため、昇温した形状記憶合金ワイヤを冷却する過程で、形状記憶合金ワイヤが固定子および可動子の他方に接触した際に形状記憶合金ワイヤを効率よく放熱することができる。これにより、昇温して収縮した形状記憶合金ワイヤを瞬間的に伸長させることができる。したがって、可動体を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0017】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記一方は、絶縁性を有する樹脂に熱伝導性を付与するフィラーを含有された樹脂材料により形成されていてもよい。
【0018】
この構成によれば、固定子および可動子の一方が金属材料により形成されている構成と比較して、射出成形によって固定子および可動子の一方を容易に形成できる。したがって、触感提示装置を低コストで製造できる。また、一般的に樹脂材料は金属材料よりも表面硬度が低いので、固定子および可動子の一方を金属材料により形成した構成と比較して、形状記憶合金ワイヤの摩耗を抑制できる。さらに、固定子および可動子の一方は、樹脂材料により形成されていながらも、フィラーによって所望の熱伝導性を有する。したがって、固定子および可動子の一方を他方よりも熱伝導率が高くなるように形成することが可能となる。
【0019】
上記の触感提示装置において、前記固定子および前記可動子の前記一方は、金属材料により形成され、前記形状記憶合金ワイヤとの接触面に絶縁膜を有していてもよい。
【0020】
この構成によれば、固定子および可動子の一方を樹脂材料により形成した構成と比較して、固定子および可動子の一方の強度を向上させることができる。特に、形状記憶合金ワイヤは、固定子と可動子との間隔が変化する際、固定子および可動子の一方とともに可動方向に変位する。このため、固定子および可動子の一方には他方に比べて形状記憶合金ワイヤが近い位置にあり、形状記憶合金ワイヤから強い力がかかる。よって、固定子および可動子の一方を金属材料により形成することで、触感提示装置の信頼性を効果的に向上させることができる。
【0021】
上記の触感提示装置において、前記操作パネルを通じて情報を表示する表示パネルと、前記操作パネルの操作に応じて前記表示パネルの表示を制御する制御部と、を備えていてもよい。
【0022】
この構成によれば、表示パネルに表示された情報を視認しながら、操作パネルを指先で操作する際に、クリック感のような疑似的触感を感じながら操作を行える。したがって、例えばスマートフォンやスマートウォッチ等の携帯情報端末等として、好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高品質な疑似的触感を作用させることができる触感提示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る携帯情報端末を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る携帯情報端末を示す分解斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るアクチュエータを示す斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係るアクチュエータの動作を示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る携帯情報端末の内部を示す図であって、
図5に相当する断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るアクチュエータを下方から見た斜視図である。
【
図9】第3実施形態に係るスマートウォッチを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る触感提示装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態では、触感提示装置としてスマートフォン等の携帯情報端末を例に挙げて説明する。
【0026】
図1は、第1実施形態に係る携帯情報端末を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る携帯情報端末を示す分解斜視図である。
図3は、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
図1から
図3に示すように、本実施形態の携帯情報端末1は、指先で操作されるタッチパネル2(操作パネル)を有するケーシング4と、タッチパネル2を覆うとともにケーシング4に対して移動可能とされた接触パネル3(可動体)と、接触パネル3を瞬間的に変位させるアクチュエータ5と、を備えている。
【0027】
本実施形態では、ケーシング4の平面視でケーシング4の厚さ方向L1に対して互いに直交する2方向を第1方向L2および第2方向L3という。
ケーシング4は、第1方向L2に沿った長さが第2方向L3に沿った長さよりも長い平面視矩形状に形成されているとともに、厚みの薄い有底筒状に形成されている。ケーシング4の開口部4aは、上述した接触パネル3によって塞がれている。なお、厚さ方向L1のうち、ケーシング4の底壁部10から接触パネル3に向かう方向を上方といい、その反対を下方という。
【0028】
ケーシング4は、底壁部10と、底壁部10の周囲を囲むとともに底壁部10から上方に向けて突出した4つの周壁部11とを有する有底筒状に形成され、上方に開口している。4つの周壁部11のうち第1方向L2に向かい合う一対の周壁部11を前壁部12および後壁部13といい、第2方向L3に向かい合う一対の周壁部11を側壁部14という。
なお、ケーシング4は一部品である必要がなく、例えば複数の部品を一体に組み合わせて構成しても構わない。
【0029】
ケーシング4の内部には、制御基板15が収容されている。制御基板15は、携帯情報端末1を動作させるための図示しない各種の電子部品が実装されるとともに、両面に図示しない回路パターンが形成された例えばプリント基板とされている。制御基板15は、ケーシング4の形状に対応して第1方向L2に沿った長さが第2方向L3に沿った長さよりも長い平面視矩形状に形成され、図示しない支持部材によってケーシング4内に安定的に支持されている。
【0030】
制御基板15には、携帯情報端末1を総合的に制御するCPU等の制御部16が実装されている。さらに制御基板15には、フラッシュメモリ等の各種記憶部、小型のスピーカ、小型のマイクロフォン、小型のカメラ等が実装されている。なお、これら記憶部、スピーカ、マイクロフォンおよびカメラ等については図示を省略している。
【0031】
さらに、ケーシング4の内部には、各種の構成品に電力を供給する図示しない電源部が配設されているとともに、図示しない取出し可能なメモリカード等が配設されている。なお、電源部としては、例えば充放電可能な二次電池等とされている。
【0032】
制御基板15の上方には、タッチパネル2および接触パネル3が配置されている。接触パネル3は、例えば合成樹脂材(例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等)やガラス材等で形成された薄型の透明パネルであって、タッチパネル2を上方から覆った状態で、ケーシング4の開口部4aを塞ぐようにケーシング4に対して組み合わされている。
【0033】
接触パネル3は、ケーシング4における開口部4aとの間に所定の隙間があくように、開口部4aの開口サイズよりも僅かに小さい外形サイズとされている。また、接触パネル3は、ケーシング4の長手方向である第1方向L2に移動可能に支持された状態で、図示しない支持部材によってケーシング4に対して組み合わされている。したがって、接触パネル3の可動方向は、第1方向L2に一致している。
【0034】
さらに、接触パネル3の後端部には、下方に向けて突出するとともに、ケーシング4における後壁部13に対して第1方向L2に向かい合うように配置されたパネル壁部3aが形成されている。なお、パネル壁部3aは、後壁部13との間に所定の隙間をあけた状態で配置されている。
【0035】
タッチパネル2は、接触パネル3に対して重なるように、接触パネル3の下方に配置されている。タッチパネル2は、合成樹脂材またはガラス材で形成された薄型の透明パネルであって、例えば抵抗膜方式や静電容量方式、光学方式等の公知の接触検知機能を具備している。これにより、タッチパネル2は、接触パネル3を通じて指先で触れた箇所を検知することが可能とされている。したがって、タッチパネル2の上面は、接触パネル3を通じて操作者の指先等によって操作される操作面、いわゆる触感提示面とされている。
【0036】
タッチパネル2の下方には、タッチパネル2に対して重なるように表示パネル17が配置されている。表示パネル17は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示装置であって、タッチパネル2および接触パネル3を通じて各種の情報を表示可能としている。これにより、表示パネル17に表示された各種情報に対応して、接触パネル3を通じてタッチパネル2を指先で触れることで、触れた場所に対応する操作内容に基づいた入力信号(指令信号)を制御部16に送ることが可能とされている。
【0037】
上述した制御部16は、タッチパネル2の操作に伴う入力信号に基づいて、表示パネル17の表示を制御している。さらに制御部16は、タッチパネル2の操作に基づいて、後述する形状記憶合金ワイヤ40に所定の電圧を印加して、形状記憶合金ワイヤ40への通電を制御している。
【0038】
アクチュエータ5は、接触パネル3を可動方向である第1方向L2に瞬間的に変位させ、該変位に基づいてケーシング4に対して慣性力(推力)を作用させる役割を果たしている。
【0039】
図4は、第1実施形態に係るアクチュエータを下方から見た斜視図である。
図5は、
図3のV-V線における断面図である。
図4および
図5に示すように、アクチュエータ5は、ケーシング4に取り付けられた固定子20と、接触パネル3に取り付けられるとともに、固定子20に対して可動方向である第1方向L2に向かい合うように配置された可動子30と、固定子20と可動子30との間に配置され、温度に応じて長さが変化する形状記憶合金ワイヤ40と、を備えている。なお、
図4では、図面を見易くするために、固定子20と可動子30とを離間させた状態で図示している。また、
図5では、図面を見易くするために、タッチパネル2および表示パネル17の図示を省略している。
【0040】
固定子20は、ケーシング4における前壁部12のうち第2方向L3の中央部分に固定されている。なお、固定子20は、ケーシング4に対して固定的に配置されていればよく、必ずしもケーシング4に取り付けられていなくてもよい。固定子20は、第2方向L3に沿って延びる基部21と、基部21から可動子30側に向けて突出した複数の突起部22と、を備えている。複数の突起部22は、第2方向L3に一定の間隔をあけて配置されている。複数の突起部22は、基部21から所定の突出量で突出している。各突起部22の先端部は、平面視で丸みを帯びた形状、例えば円弧状に形成されている。なお、図示の例では固定子20は3つの突起部22を有しているが、突起部22の数はこの場合に限定されるものではない。
【0041】
可動子30は、固定子20に対して第1方向L2に相対移動可能に配置されている。可動子30は、接触パネル3のうちケーシング4の前壁部12に対して向かい合う前縁部側の下面3bに固定されている。可動子30は、接触パネル3における第2方向L3の中央部分に配置されているとともに、固定子20と同等の高さに配置されている。これにより、先に述べたように、固定子20と可動子30とは可動方向である第1方向L2に向かい合うように対向配置されている。
【0042】
可動子30は、第2方向L3に沿って延びる基部31と、基部31から固定子20側に向けて突出した複数の突起部32と、を備えている。複数の突起部32は、第2方向L3に一定の間隔をあけて配置されている。複数の突起部32は、基部31から固定子20側に向けて所定の突出量で突出している。各突起部32の先端部は、固定子20側と同様に平面視で丸みを帯びた形状、例えば円弧状に形成されている。なお、図示の例では、可動子30は4つの突起部32を有しているが、突起部32の数はこの場合に限定されるものではない。
【0043】
固定子20側の各突起部22間の間隔と、可動子30側の各突起部32間の間隔とは、同じ間隔(ピッチ)とされている。さらに、固定子20側の各突起部22の突出量と、可動子30側の各突起部32の突出量とは、同等とされている。そして、可動子30側の各突起部32の間に、固定子20側の各突起部22がそれぞれ入り込むように、固定子20および可動子30は対向配置されている。これにより、可動子30側の各突起部32と固定子20側の各突起部22とは、櫛歯状に配列された状態とされている。
【0044】
形状記憶合金ワイヤ40は、例えばニッケル-チタン合金製のワイヤとされている。形状記憶合金ワイヤ40は、固定子20の各突起部22の先端、および可動子30の各突起部32の先端に交互に接触しながら、固定子20および可動子30の間に波状に挟み込まれている。本実施形態では、可動子30の突起部32が固定子20の突起部22よりも多く設けられているので、可動子30と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離は、固定子20と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離よりも長い。なお、形状記憶合金ワイヤ40の材料は、ニッケル-チタン合金に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。
【0045】
形状記憶合金ワイヤ40の両端部は、接触パネル3の下面3bに設けられた接続端子41(ワイヤ支持部)に支持されて電気的に接続されている。接続端子41は、可動子30に対して固定的に配置されている。接続端子41は、図示しない配線部を通じて制御基板15における図示しない回路パターンに導通している。これにより、形状記憶合金ワイヤ40は、接続端子41を介して制御基板15に電気的に接続されており、所定の電圧が印加されることで通電可能とされている。
【0046】
図6は、第1実施形態に係るアクチュエータの動作を示す図である。
図6に示すように、形状記憶合金ワイヤ40は、通電によって加熱されることで瞬間的に収縮する。これにより、形状記憶合金ワイヤ40は緩んだ状態から張った状態に移行するので、可動子30を固定子20から離間させるように可動方向である第1方向L2に沿って移動させることが可能となる。このように、形状記憶合金ワイヤ40は、通電加熱に伴う伸縮によって、可動子30と固定子20との間隔を変化させることが可能とされている。
【0047】
なお、上述した固定子20および可動子30は、形状記憶合金ワイヤ40に対して接触するように配置されて、形状記憶合金ワイヤ40を放熱させる放熱体(熱伝導体)としても機能する。可動子30は、固定子20よりも熱伝導率が高い材料により形成されている。具体的には、固定子20は樹脂材料により形成され、可動子30は金属材料により形成されている。固定子20は、絶縁性を有する樹脂を母材として、母材に熱伝導性を付与する粒子状または繊維状のフィラーが含有された樹脂材料により形成される。母材は、射出成形可能な熱可塑性樹脂である。例えば、母材として、ポリフェニレンスルファイドやポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール等を適用可能である。フィラーは、絶縁性を有する。例えば、フィラーとして、アルミナや六方晶窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム等を適用可能である。なお、固定子20を形成する樹脂材料は、上記のフィラーを含んでいなくてもよい。可動子30は、アルミニウムや鉄等により形成され、形状記憶合金ワイヤ40との接触面に絶縁膜を有する。可動子30をアルミニウムにより形成した場合には、アルマイト処理により表面に酸化アルミニウム膜を形成する。可動子30を鉄により形成した場合には、リン酸塩皮膜処理により表面に結晶性のリン酸塩皮膜を形成する。なお、本実施形態では、固定子20および可動子30それぞれの全体が上述した材料により形成されているが、少なくとも形状記憶合金ワイヤ40に接触する部分(例えば突起部22,32)が上記材料により形成されていればよい。
【0048】
上述のように構成されたアクチュエータ5は、
図3および
図4に示すように、少なくとも可動子30および形状記憶合金ワイヤ40が接触パネル3および制御基板15に対して、厚さ方向L1に重なるように配置されている。
【0049】
図2および
図3に示すように、携帯情報端末1は、コイルばね45(弾性部材)をさらに備える。コイルばね45は、ケーシング4と接触パネル3との間に配置されている。コイルばね45は、可動子30を固定子20側に向けて接近させるように、接触パネル3を可動方向である第1方向L2に沿って付勢する。
【0050】
コイルばね45は、ケーシング4における後壁部13と、接触パネル3におけるパネル壁部3aとの間に圧縮状態で配置されている。コイルばね45の一端部は後壁部13に接続され、コイルばね45の他端部は接触パネル3のパネル壁部3aに接続されている。これにより、コイルばね45は、弾性復元力(付勢力)を利用して接触パネル3の全体を固定子20側に向けて付勢している。なお、コイルばね45の数は1つに限定されるものではなく、例えば第2方向L3に間隔をあけて複数配置しても構わない。
【0051】
上述のように接触パネル3が固定子20側に向けて付勢されているので、
図5に示すように、形状記憶合金ワイヤ40は可動子30と固定子20との間に挟み込まれた状態とされている。また、形状記憶合金ワイヤ40によって、コイルばね45によって付勢された接触パネル3は、それ以上固定子20側に変位することが抑制され、
図5に示すように位置決めされた状態とされている。
【0052】
上述のように構成された携帯情報端末1を使用する場合の作用について説明する。
この場合には、
図1に示すように、表示パネル17に表示された情報を視認しながら、接触パネル3を通じてタッチパネル2を指先で操作することで、触れた場所に対応する操作を行うことができる。これにより、携帯情報端末1が有する各種機能を適宜利用することができる。
【0053】
特に、接触パネル3を通じてタッチパネル2を操作することで、形状記憶合金ワイヤ40による固定子20と可動子30との間隔の変化を利用してケーシング4に対して接触パネル3を可動方向である第1方向L2に沿って瞬間的に移動させることができる。これにより、接触パネル3の急速な変位に基づいて、携帯情報端末1全体に接触パネル3の慣性力を作用させることができる。そのため、接触パネル3に触れた指先に対して、力学的な操作感覚を疑似的に作用させることができ、指先に対してクリック感を与えるかのような疑似的触感を作用することができる。
【0054】
より詳細に説明する。
接触パネル3を通じてタッチパネル2が指先で操作されると、制御部16は接続端子41を通じて形状記憶合金ワイヤ40に対して通電を行う。これにより、形状記憶合金ワイヤ40を加熱して、瞬間的に収縮させることができる。そのため、
図6に示すように、固定子20の各突起部22と可動子30の各突起部32との間に挟み込まれた形状記憶合金ワイヤ40を、緩んだ状態から張った状態にすることができ、コイルばね45の弾性復元力に抗して可動子30を固定子20から離間させることができる。
【0055】
これにより、コイルばね45を弾性変形させながら、可動子30が設けられている接触パネル3をケーシング4に対して可動方向である第1方向L2に沿って瞬間的に移動させることが可能である。そのため、携帯情報端末1全体に接触パネル3の慣性力を作用させることができ、接触パネル3に触れた指先に対してクリック感を与えるかのような疑似的触感を作用させることができる。
【0056】
さらに、通電加熱によって生じた熱が形状記憶合金ワイヤ40から放熱されることで、形状記憶合金ワイヤ40を例えば瞬間的に伸長させることができ、張った状態から緩んだ状態に移行させることができる。
このとき接触パネル3は、コイルばね45による弾性復元力によって、可動子30が固定子20側に向けて接近するように付勢されている。そのため、形状記憶合金ワイヤ40の伸長に伴って、コイルばね45による付勢力を利用して可動子30を固定子20側に向けて確実に接近させることができる。そのため、可動子30が設けられている接触パネル3をケーシング4に対して可動方向である第1方向L2に沿って瞬間的に逆方向に移動させることができ、
図5に示す状態に復帰させることができる。この復帰の際、先ほどと同様に接触パネル3に触れた指先に対してクリック感を与えるかのような疑似的触感を作用させることができる。
【0057】
したがって、形状記憶合金ワイヤ40の伸縮を利用して接触パネル3を可動方向に振動させることが可能となる。特に、パルス様の振動を発生させることが可能であり、例えば機械スイッチに近い触感を作用させることや、振動モータ等とは違った触感を作用させることが可能である。さらに、形状記憶合金は一般的に伸縮の再現性や応答性に優れている特性を有しているので、接触パネル3に対して指先を触れた瞬間にクリック感を与えるかのような疑似的触感を安定的に作用させることが可能である。
特に、本実施形態では指先で直接触れている接触パネル3自身を瞬間的に変位させるので、より効果的に疑似的触感を指先に対して作用させ易い。
【0058】
さらに、操作者の操作とは別に必要に応じて接触パネル3を変位させることで、例えばケーシング4を振動させることも可能である。これにより、例えば電話やメールの着信等を操作者に報知することが可能となり、そのための専用の振動源(例えば振動モータ等)を設ける必要がない。したがって、構成の簡略化および低コスト化に繋げることもできる。
【0059】
さらに、本実施形態では、可動子30は、固定子20よりも熱伝導率が高い材料により形成されている。ここで、固定子20と可動子30との間隔が変化する過程で、固定子20および可動子30それぞれと形状記憶合金ワイヤ40との接触状態も変化する。固定子20および可動子30の熱伝導率を互いに異ならせることで、固定子20および可動子30それぞれと形状記憶合金ワイヤ40との接触状態に応じて形状記憶合金ワイヤ40の放熱特性を変化させることができる。よって、形状記憶合金ワイヤ40に良好な放熱特性を与え、伸縮動作の応答性を高めることができる。
したがって、高品質な疑似的触感を作用させることができる携帯情報端末1を提供できる。
【0060】
さらに、携帯情報端末1は、可動子30に対して固定的に配置され、形状記憶合金ワイヤ40を支持する接続端子41を備える。この構成の場合、固定子20と可動子30との間隔が変化する際、形状記憶合金ワイヤ40は固定子20および可動子30の一方とともに第1方向L2に変位する。このため、固定子20と可動子30との間隔が大きくなる過程で、可動子30の慣性によって固定子20に対する形状記憶合金ワイヤ40の接触圧が小さくなり、固定子20と可動子30との間隔が最大となるタイミングに前後して固定子20が形状記憶合金ワイヤ40から離間し得る。一方で、可動子30は形状記憶合金ワイヤ40に常時接触する。
可動子30は、固定子20よりも熱伝導率が高くなるように形成されているので、固定子20と可動子30との間隔が最大となるタイミングで形状記憶合金ワイヤ40を効率よく放熱することができる。また、固定子20と可動子30との間隔が最小の状態では形状記憶合金ワイヤ40は固定子20および可動子30の両方に接触しているので、固定子の熱伝導率が可動子30の熱伝導率と同じ場合と比較して、形状記憶合金ワイヤ40の放熱を抑制することができる。
以上により、形状記憶合金ワイヤ40を通電加熱によって急激に昇温させるとともに、昇温した形状記憶合金ワイヤ40を効率よく冷却することが可能となる。したがって、形状記憶合金ワイヤ40を急激に伸縮させて、接触パネル3を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0061】
また、可動子30と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離は、固定子20と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離よりも長い。この構成の場合、可動子と形状記憶合金ワイヤとの接触距離が固定子と形状記憶合金ワイヤとの接触距離よりも短い構成と比較して、形状記憶合金ワイヤ40を効率よく放熱することができる。これにより、昇温して収縮した形状記憶合金ワイヤ40を瞬間的に伸長させることができる。したがって、接触パネル3を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0062】
固定子20は、樹脂材料により形成されている。この構成によれば、固定子が金属材料により形成されている構成と比較して、射出成形によって固定子20を容易に形成できる。したがって、携帯情報端末1を低コストで製造できる。
また、固定子20を金属材料により形成した構成と比較して、形状記憶合金ワイヤ40の摩耗を抑制できる。
【0063】
さらに、固定子20は、絶縁性を有する樹脂に熱伝導性を付与するフィラーを含有された樹脂材料により形成されている。この構成によれば、固定子20の熱伝導率を調整することができる。すなわち、固定子がフィラーを含有しない樹脂材料により形成されている構成と比較して、固定子20の熱伝導率を高くすることができる。このため、昇温した形状記憶合金ワイヤ40を冷却する過程で、形状記憶合金ワイヤ40が固定子20に接触した際に形状記憶合金ワイヤ40を効率よく放熱することができる。これにより、昇温して収縮した形状記憶合金ワイヤ40を瞬間的に伸長させることができる。したがって、接触パネル3を瞬間的に移動させることができ、高品質な疑似的触感を作用させることができる。
【0064】
可動子30は、金属材料により形成され、形状記憶合金ワイヤ40との接触面に絶縁膜を有する。この構成によれば、可動子30を樹脂材料により形成した構成と比較して、可動子30の強度を向上させることができる。特に、形状記憶合金ワイヤ40は、固定子20と可動子30との間隔が変化する際、可動子30とともに第1方向L2に変位する。このため、可動子30には固定子20に比べて形状記憶合金ワイヤ40が近い位置にあり、形状記憶合金ワイヤ40から強い力がかかる。よって、可動子30を金属材料により形成することで、携帯情報端末1の信頼性を効果的に向上させることができる。
【0065】
(第1実施形態の変形例)
なお、固定子20および可動子30を形成する材料は上記実施形態に限定されず、可動子30が固定子20よりも熱伝導率が大きい材料により形成されていればよい。例えば、固定子20および可動子30の両方が樹脂材料により形成されていてもよい。この場合、少なくとも可動子30は、第1実施形態の固定子20と同様に、絶縁性を有する樹脂を母材として、母材に熱伝導性を付与する粒子状または繊維状のフィラーが含有された樹脂材料により形成される。例えば、可動子30のフィラーの含有率を固定子20のフィラーの含有率よりも高くすることで、可動子30の熱伝導率を固定子20の熱伝導率よりも高くすることができる。なお、本変形例においても、固定子20はフィラーを含んでいなくてもよい。
【0066】
このように、絶縁性を有する樹脂に熱伝導性を付与するフィラーを含有された樹脂材料により可動子30を形成することで、可動子が金属材料により形成されている構成と比較して、射出成形によって可動子30を容易に形成できる。したがって、携帯情報端末1を低コストで製造できる。
また、一般的に樹脂材料は金属材料よりも表面硬度が低いので、可動子を金属材料により形成した構成と比較して、形状記憶合金ワイヤ40の摩耗を抑制できる。
さらに、可動子30は、樹脂材料により形成されていながら、フィラーによって所望の熱伝導性を有する。したがって、可動子30を固定子20よりも熱伝導率が高くなるように形成することが可能となる。
【0067】
また、固定子20および可動子30が金属材料により形成されていてもよい。例えば、固定子20を鉄により形成し、可動子30をアルミニウムにより形成することで、可動子30の熱伝導率を固定子20の熱伝導率よりも高くすることができる。この場合、固定子20の表面にはリン酸塩皮膜処理により結晶性のリン酸塩皮膜を形成し、可動子30の表面には、アルマイト処理により酸化アルミニウム膜を形成する。これにより、固定子20および可動子30それぞれの絶縁性を確保できる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る触感提示装置の第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0069】
第1実施形態では、基部21から可動子30側に向けて突出した突起部22を有するように固定子20が形成され、基部31から固定子20側に向けて突出した突起部32を有するように可動子30が形成されていたが、本実施形態では固定子が複数の固定ピンを有し、可動子が複数の可動ピンを有している。
【0070】
図7は、第2実施形態に係る携帯情報端末の内部を示す図であって、
図5に相当する断面図である。
図8は、第2実施形態に係るアクチュエータを下方から見た斜視図である。
図7および
図8に示すように、本実施形態の携帯情報端末70(触感提示装置)は、複数の固定ピン81を有する固定子80と、複数の可動ピン91を有する可動子90と、を有するアクチュエータ71を備えている。なお、
図8では、図面を見易くするために、固定子80と可動子90とを離間させた状態で図示している。
【0071】
固定子80は、可動方向である第1方向L2に平行に配置された固定プレート82と、厚さ方向L1に突出するように固定プレート82に取り付けられた複数の固定ピン81と、を備えている。固定プレート82は、第1方向L2に沿った長さよりも第2方向L3に沿った長さの方が長い平面視長方形状に形成された板状プレートである。固定プレート82は、ケーシング4における前壁部12のうち第2方向L3の中央部分に固定されている。固定プレート82は、接触パネル3よりも下方に位置するように固定されている。
【0072】
固定ピン81は、円柱状に形成され、固定プレート82から上方に向けて突出するように固定プレート82に対して取り付けられている。具体的には、固定ピン81は圧入によって固定プレート82に固定されている。ただし、固定プレート82に対する固定ピン81の取付け方法は、この場合に限定されるものではなく、例えば接着等によって固定しても構わない。また、固定ピン81および固定プレート82は、一体的に形成されていてもよい。
【0073】
固定ピン81の先端部(上端部)は、丸みを帯びた半球状に形成されている。ただし、この場合に限定されるものではなく、固定ピン81の先端部を平坦状に形成しても構わない。なお、固定ピン81は、上端部が後述する可動プレート92に対して近接する長さ、または上端部と可動プレート92との間に僅かな隙間が確保される長さで形成されている。
【0074】
上述した固定ピン81は、可動方向である第1方向L2および厚さ方向L1に直交する直交方向である第2方向L3に一定の間隔をあけて配置されている。図示の例では、固定プレート82に対して3つの固定ピン81が取り付けられている。ただし、固定ピン81の数は、この場合に限定されるものではない。
【0075】
可動子90は、可動方向である第1方向L2に平行に配置された可動プレート92と、厚さ方向L1に突出するように可動プレート92に取り付けられた複数の可動ピン91と、を備えている。可動プレート92は、第1方向L2に沿った長さよりも第2方向L3に沿った長さの方が長い平面視長方形状に形成された板状プレートである。可動プレート92は、接触パネル3のうちケーシング4の前壁部12に対して向かい合う前縁部側の下面3bに固定されている。可動プレート92は、接触パネル3のうち第2方向L3の中央部分に固定されている。したがって、可動プレート92は、固定プレート82よりも上方に配置され、かつ制御基板15に対して第1方向L2に並ぶように配置されている。また、可動プレート92は、少なくとも一部分が固定プレート82に対して厚さ方向L1に向かい合うように配置されている。
【0076】
可動ピン91は、円柱状に形成され、可動プレート92から下方に向けて突出するように可動プレート92に対して取り付けられている。具体的には、可動ピン91は圧入によって可動プレート92に固定されている。ただし、可動プレート92に対する可動ピン91の取付け方法は、この場合に限定されるものではなく、例えば接着等によって固定しても構わない。
【0077】
可動ピン91の下端部(先端部)は、丸みを帯びた半球状に形成されている。ただし、この場合に限定されるものではなく、可動ピン91の先端部を平坦状に形成しても構わない。なお、可動ピン91は、下端部が固定プレート82に対して近接する長さ、または下端部と固定プレート82との間に僅かな隙間が確保される長さで形成されている。
【0078】
上述した可動ピン91は、可動方向である第1方向L2および厚さ方向L1に直交する直交方向である第2方向L3に一定の間隔をあけて配置されている。図示の例では、可動プレート92に対して4つの可動ピン91が取り付けられている。ただし、可動ピン91の数は、この場合に限定されるものではない。
【0079】
上述した複数の固定ピン81間の間隔と、複数の可動ピン91間の間隔とは、同じ間隔(ピッチ)とされている。さらに、固定ピン81の長さと可動ピン91の長さとは同等とされている。これにより、固定ピン81および可動ピン91は、第2方向L3に沿って一定の間隔をあけて交互に配列されている。
【0080】
形状記憶合金ワイヤ40は、固定ピン81および可動ピン91に対して交互に接触しながら、固定ピン81および可動ピン91の間に波状に挟み込まれている。本実施形態では、可動ピン91が固定ピン81よりも多く設けられているので、可動子30と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離は、固定子20と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離よりも長い。
【0081】
形状記憶合金ワイヤ40の両端部は、可動プレート92に取り付けられた接続端子41に支持されて電気的に接続されている。接続端子41は、図示しない配線部を介して制御基板15における図示しない回路パターンに導通している。
【0082】
なお、上述した固定子80および可動子90は、形状記憶合金ワイヤ40に対して接触するように配置されて、形状記憶合金ワイヤ40を放熱させる放熱体(熱伝導体)としても機能する。可動子90のうち少なくとも可動ピン91は、固定子80のうち少なくとも固定ピン81よりも熱伝導率が大きい材料により形成されている。具体的には、固定ピン81は第1実施形態の固定子20と同様の材質を有し、可動ピン91は第1実施形態の可動子30と同様の材質を有する。
【0083】
上述のように構成された携帯情報端末70の場合であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
すなわち、形状記憶合金ワイヤ40が固定ピン81と可動ピン91との間に波状に挟み込まれているので、形状記憶合金ワイヤ40が伸縮することで、固定ピン81と可動ピン91との間隔を第1方向L2に変化させることができる。これにより、形状記憶合金ワイヤ40の伸縮を利用して、可動子90が取り付けられている制御基板15を第1方向L2に瞬間的に変位させることができる。したがって、タッチパネル2に触れた指先に対してクリック感を与えるような触感を作用させることができる。
【0084】
このように、固定ピン81および可動ピン91を利用するアクチュエータ71の場合であっても、固定ピン81および可動ピン91を上述した材料により形成することで、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0085】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば上記各実施形態では、触感提示装置をスマートフォン等の携帯情報端末に適用した場合に例に挙げて説明したが、例えば
図9に示すように、スマートウォッチ100に適用しても構わない。さらに、携帯情報端末に限定されるものではなく、例えば車載用カーナビゲーションシステム等でも良く、タッチ時に指先に対して物理的な操作触感を疑似的に作用させる各種の電子機器等に適用しても構わない。
【0086】
また、上記実施形態では、形状記憶合金ワイヤ40の接続端子が可動子30,90に対して固定的に配置されているが、これに限定されない。すなわち、形状記憶合金ワイヤの接続端子は固定子に対して固定的に配置されていてもよい。この場合には、固定子を可動子よりも熱伝導率が高い材料により形成することで、上述した作用効果を奏することができる。
【0087】
また、上記実施形態では、可動子30,90と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離が固定子20,80と形状記憶合金ワイヤ40との接触距離よりも長くなっているが、これに限定されない。すなわち、固定子と形状記憶合金ワイヤとの接触距離が可動子と形状記憶合金ワイヤとの接触距離よりも長くなっていてもよい。この場合には、固定子を可動子よりも熱伝導率が高い材料により形成することで、上述した作用効果を奏することができる。
【0088】
また、上記実施形態では、可動子30,90が接触パネル3に固定されているが、これに限定されない。可動子は、タッチパネル2よりも内側に配置された部材に固定されていてもよい。例えば可動子を制御基板15に固定した場合であっても、制御基板15をケーシング4に対して可動方向である第1方向L2に沿って瞬間的に移動させることが可能である。このため、携帯情報端末全体に制御基板15の慣性力(推力)を作用させることができ、タッチパネル2に触れた指先に対してクリック感を与えるかのような触感を作用させることができる。また、アクチュエータは、可動子に固定された重錘をケーシングに対して変位させるように構成されていてもよい。この場合であっても、携帯情報端末全体に重錘の慣性力(推力)を作用させることができ、タッチパネル2に触れた指先に対してクリック感を与えるかのような触感を作用させることができる。
【0089】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1,70…携帯情報端末(触感提示装置) 2…タッチパネル(操作パネル) 3…接触パネル(可動体) 4…ケーシング 16…制御部 17…表示パネル 20,80…固定子 30,90…可動子 40…形状記憶合金ワイヤ 41…接続端子(ワイヤ支持部) 45…コイルばね(弾性部材) 100…スマートウォッチ(触感提示装置)