IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-個片体の製造方法 図1
  • 特許-個片体の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】個片体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20231026BHJP
   B23K 26/53 20140101ALN20231026BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 B
H01L21/78 M
B23K26/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018063681
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019176038
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】杉下 芳昭
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】松永 稔
【審判官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-086611(JP,A)
【文献】特開2008-132710(JP,A)
【文献】特開2012-033636(JP,A)
【文献】特表2013-543262(JP,A)
【文献】特開2013-203799(JP,A)
【文献】特開2004-260083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301, B23K26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体を個片化して個片体を形成する個片体の製造方法において、
所定のエネルギーが付与されることで膨張する膨張性微粒子が添加されている接着シートを前記被着体に貼付するシート貼付工程と、
前記シート貼付工程の前段または後段にて、前記被着体に改質部を形成し、当該改質部で囲繞または当該改質部と前記被着体の外縁とで囲繞された個片化予定領域を前記被着体に形成する改質部形成工程と、
前記接着シートの前記被着体に対する接着力を低減させる接着力低減工程とを実施し、
前記接着力低減工程では、前記接着シートに対して部分的に前記エネルギーを付与し、当該エネルギーが付与された接着シート部分に添加されている前記膨張性微粒子を膨張させ、当該接着シート部分と前記被着体との接着面積を低減させて当該接着シート部分の前記被着体に対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分に貼付されている前記個片化予定領域を変位させて前記個片体を形成し、当該個片体形成時の前記エネルギー付与によって、各個片体それぞれの全領域に対する前記接着シートの接着力を低減させることを特徴とする個片体の製造方法。
【請求項2】
被着体を個片化して個片体を形成する個片体の製造方法において、
前記被着体には、所定のエネルギーが付与されることで膨張する膨張性微粒子が添加された接着シートが予め貼付されており、
前記被着体に改質部を形成し、当該改質部で囲繞または当該改質部と前記被着体の外縁とで囲繞された個片化予定領域を前記被着体に形成する改質部形成工程と、
前記接着シートの前記被着体に対する接着力を低減させる接着力低減工程とを実施し、
前記接着力低減工程では、前記接着シートに対して部分的に前記エネルギーを付与し、当該エネルギーが付与された接着シート部分に添加されている前記膨張性微粒子を膨張させ、当該接着シート部分と前記被着体との接着面積を低減させて当該接着シート部分の前記被着体に対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分に貼付されている前記個片化予定領域を変位させて前記個片体を形成し、当該個片体形成時の前記エネルギー付与によって、各個片体それぞれの全領域に対する前記接着シートの接着力を低減させることを特徴とする個片体の製造方法。
【請求項3】
被着体を個片化して個片体を形成する個片体の製造方法において、
前記被着体には、改質部が形成され、当該改質部で囲繞または当該改質部と前記被着体の外縁とで囲繞された個片化予定領域が形成されており、
所定のエネルギーが付与されることで膨張する膨張性微粒子が添加されている接着シートを前記被着体に貼付するシート貼付工程と、
前記接着シートの前記被着体に対する接着力を低減させる接着力低減工程とを実施し、
前記接着力低減工程では、前記接着シートに対して部分的に前記エネルギーを付与し、当該エネルギーが付与された接着シート部分に添加されている前記膨張性微粒子を膨張させ、当該接着シート部分と前記被着体との接着面積を低減させて当該接着シート部分の前記被着体に対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分に貼付されている前記個片化予定領域を変位させて前記個片体を形成し、当該個片体形成時の前記エネルギー付与によって、各個片体それぞれの全領域に対する前記接着シートの接着力を低減させることを特徴とする個片体の製造方法。
【請求項4】
被着体を個片化して個片体を形成する個片体の製造方法において、
前記被着体には、所定のエネルギーが付与されることで膨張する膨張性微粒子が添加された接着シートが予め貼付され、且つ、前記被着体には、改質部が形成され、当該改質部で囲繞または当該改質部と前記被着体の外縁とで囲繞された個片化予定領域が予め形成されており、
前記接着シートの前記被着体に対する接着力を低減させる接着力低減工程を実施し、
前記接着力低減工程では、前記接着シートに対して部分的に前記エネルギーを付与し、当該エネルギーが付与された接着シート部分に添加されている前記膨張性微粒子を膨張させ、当該接着シート部分と前記被着体との接着面積を低減させて当該接着シート部分の前記被着体に対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分に貼付されている前記個片化予定領域を変位させて前記個片体を形成し、当該個片体形成時の前記エネルギー付与によって、各個片体それぞれの全領域に対する前記接着シートの接着力を低減させることを特徴とする個片体の製造方法。
【請求項5】
前記改質部は、第1方向に沿う第1改質部と、当該第1方向に交差する第2方向に沿う第2改質部とを含み、
前記接着力低減工程では、前記エネルギーを付与した位置に、当該エネルギーの付与領域が所定の方向に延びるライン状付与領域を形成し、当該ライン状付与領域を前記第1方向と平行となるように移動させる第1接着力低減工程と、当該ライン状付与領域を前記第2方向と平行となるように移動させる第2接着力低減工程とを実施することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の個片体の製造方法。
【請求項6】
前記改質部形成工程では、第1方向に沿う第1改質部を形成する第1改質部形成工程と、当該第1方向に交差する第2方向に沿う第2改質部を形成する第2改質部形成工程とを実施し、
前記接着力低減工程では、前記エネルギーを付与した位置に、当該エネルギーの付与領域が所定の方向に延びるライン状付与領域を形成し、当該ライン状付与領域を前記第1方向と平行となるように移動させる第1接着力低減工程と、当該ライン状付与領域を前記第2方向と平行となるように移動させる第2接着力低減工程とを実施することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の個片体の製造方法。
【請求項7】
前記膨張性微粒子は、所定の第1エネルギーで膨張する第1膨張性微粒子と、当該第1エネルギーと異なる所定の第2エネルギーで膨張する第2膨張性微粒子とを有し、
前記接着力低減工程では、前記接着シートに前記第1エネルギーを付与する第1エネルギー付与工程と、前記接着シートに前記第2エネルギーを付与する第2エネルギー付与工程とを実施することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の個片体の製造方法。
【請求項8】
前記接着力低減工程で変位される前の被着体部分が変位することを抑制する変位抑制工程を実施することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の個片体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個片体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被着体に形成した改質部を起点とし、当該被着体を個片化して個片体を形成する個片体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-211080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の方法では、ダイシングテープ1(接着シート)として半導体ウエハ4(被着体)との接着力が強力なものが採用された場合、当該接着シートに張力を付与して被着体をダイボンド用チップ(個片体)に個片化するエキスパンド工程(個片化工程)と、接着シートに紫外線(エネルギー)を照射する接着力低減工程との2工程が必要となるという不都合を発生する。
【0005】
本発明の目的は、個片体の製造工程を簡略化することができる個片体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項に記載した構成を採用した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着力低減工程において被着体を個片化して個片体を形成するので、従来では、個片化工程と接着力低減工程との2工程必要だった作業を1工程で済ますことができ、個片体の製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)~(C)は、本発明の実施形態に係る個片体の製造方法の説明図。
図2】(A)~(C)は、本発明の変形例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態におけるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれが直交する関係にあり、X軸およびY軸は、所定平面内の軸とし、Z軸は、前記所定平面に直交する軸とする。さらに、本実施形態では、Y軸と平行な図1(A)中手前方向から観た場合を基準とし、図を指定することなく方向を示した場合、「上」がZ軸の矢印方向で「下」がその逆方向、「左」がX軸の矢印方向で「右」がその逆方向、「前」がY軸と平行な図1(A)中手前方向で「後」がその逆方向とする。
【0010】
本発明の個片体の製造方法は、被着体としての半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」ともいう)WFを個片化して個片体としての半導体チップ(以下、単に「チップ」ともいう)CPを形成する個片体の製造方法であって、所定のエネルギーとしての赤外線IRが付与されることで膨張する膨張性微粒子SGが添加されている接着シートASをウエハWFに貼付するシート貼付工程PC1と、シート貼付工程PC1の後段にて、ウエハWFに改質部MTを形成し、当該改質部MTで囲繞された個片化予定領域WFPをウエハWFに形成する改質部形成工程PC2と、接着シートASのウエハWFに対する接着力を低減させる接着力低減工程PC3とを実施する。
なお、本実施形態では、接着シートASは、基材BSと接着剤層ALとを備え、当該接着剤層ALのみに膨張性微粒子SGが添加されたものが採用されている。
【0011】
シート貼付工程PC1は、図1(A)に示すように、押圧手段としての押圧ローラ11で接着シートASをウエハWFの一方の面に押圧して貼付する。このシート貼付工程PC1では、押圧ローラ11とウエハWFとの一方の移動を規制した状態で他方を移動させたり、それら両方を移動させたりしてウエハWFに接着シートASを貼付することができる。ウエハWFは、一方の面および他方の面のうち少なくとも一方に所定の回路が形成されており、接着シートASは、そのようなウエハWFにおける回路が形成された面に貼付されてもよいし、回路が形成されていない面に貼付されてもよい。
【0012】
改質部形成工程PC2は、図1(B)に示すように、改質部形成手段としてのレーザ照射機21でウエハWFに複数の改質部MTを形成する。この改質部形成工程PC2では、レーザ照射機21とウエハWFとの一方の移動を規制した状態で他方をY軸方向に移動させたり、それら両方をY軸方向に移動させたりして、図1(B-1)に示すように、第1方向としてのY軸方向に沿う第1改質部MTYを形成する第1改質部形成工程PC21と、レーザ照射機21とウエハWFとの一方の移動を規制した状態で他方をX軸方向に移動させたり、それら両方をX軸方向に移動させたりして、図1(B-2)に示すように、Y軸方向に交差する第2方向としてのX軸方向に沿う第2改質部MTXを形成する第2改質部形成工程PC22とを実施し、第1改質部MTYと第2改質部MTXとで囲繞された個片化予定領域WFPを形成するようになっている。
【0013】
接着力低減工程PC3は、図1(C)に示すように、赤外線IRを発光する発光源31Aと、当該発光源31Aで発光した赤外線IRを集光させる集光板31Bとで構成されたエネルギー付与手段31を用い、接着シートASに対して部分的に赤外線IRを付与し、当該赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている膨張性微粒子SGを膨張させ、当該接着シート部分ASPとウエハWFとの接着面積を低減させて当該接着シート部分ASPのウエハWFに対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分ASPに貼付されている個片化予定領域WFPを変位させてチップCPを形成する。この接着力低減工程PC3では、赤外線IRは、エネルギー付与手段31と、ウエハWFとの一方の移動を規制した状態で他方を移動させたり、それら両方を移動させたりして接着剤層ALに赤外線IRを付与することができる。
【0014】
本実施形態では、接着力低減工程PC3は、赤外線IRを付与した位置に、当該赤外線IRの付与領域が所定の方向に延びるライン状付与領域LGを形成し、図1(C-1)に示すように、当該ライン状付与領域LGをY軸方向と平行となるように移動させる第1接着力低減工程PC31と、図1(C-2)に示すように、当該ライン状付与領域LGをX軸方向と平行となるように移動させる第2接着力低減工程PC32とを実施し、ウエハWFに貼付された接着シートASの接着剤層ALに当該赤外線IRを付与することで、接着剤層ALに添加されている膨張性微粒子SGを膨張させる。
【0015】
第1接着力低減工程PC31では、図1(C-1)に示すように、Y軸方向に沿うライン状付与領域LGを右方から左方に向けて移動させ、赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている膨張性微粒子SGを次々に膨張させ、接着剤層ALに無数の凸部CVを形成する。これにより、接着シート部分ASPとウエハWFとの接着面積が低減し、当該接着シート部分ASPのウエハWFに対する接着力が低減するとともに、ウエハWFが右方から左方に向けて次々に部分的に持ち上げられ、第1改質部MTYが起点となってY軸方向に延びる亀裂CKYが形成され、Y軸方向に延びる短冊状のウエハWFSが形成される。このとき、エネルギー付与手段は、赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている個々の膨張性微粒子SGが完全に膨張しないように、または、赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている膨張性微粒子SG全てが膨張しないように赤外線IRを照射する。
【0016】
次いで、エネルギー付与手段31をXY平面内で90度回転移動させ、当該エネルギー付与手段31が形成したライン状付与領域LGをX軸方向と平行となるように移動させた後、第2接着力低減工程PC32が実施される。
第2接着力低減工程PC32では、図1(C-2)に示すように、X軸方向に沿うライン状付与領域LGをウエハWFの前方から後方に向けて移動させ、赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている個々の膨張性微粒子SGを次々にさらに大きく膨張させ、または、赤外線IRが付与された接着シート部分ASPに添加されている膨張性微粒子SGのさらに多くを膨張させ、接着剤層ALに形成された無数の凸部CVを拡大させる。これにより、接着シート部分ASPとウエハWFとの接着面積がさらに低減し、当該接着シート部分ASPのウエハWFに対する接着力がさらに低減するとともに、短冊状のウエハWFSが前方から後方に向けて次々に部分的に持ち上げられ、第2改質部MTXが起点となってX軸方向に延びる亀裂CKXが形成され、当該亀裂CKXと先に形成されていた亀裂CKYとで複数のチップCPが形成される。
なお、接着シートASは、無数の凸部CVによってチップCPとの接着領域が減少するので、当該チップCPとの接着力が減少し、接着シートASとしてチップCP(ウエハWF)との接着力が強力なものが採用された場合にでも、チップCPを簡単に接着シートASから取り外すことができるようになっている。
【0017】
以上のような実施形態によれば、接着力低減工程PC3においてウエハWFを個片化してチップCPを形成するので、従来では、個片化工程と接着力低減工程との2工程必要だった作業を1工程で済ますことができ、チップCPの製造工程を簡略化することができる。
【0018】
本発明における手段および工程は、それら手段および工程について説明した動作、機能または工程を果たすことができる限りなんら限定されることはなく、まして、前記実施形態で示した単なる一実施形態の構成物や工程に全く限定されることはない。例えば、シート貼付工程は、所定のエネルギーが付与されることで膨張する膨張性微粒子が添加されている接着シートを被着体に貼付する工程であれば、出願当初の技術常識に照らし合わせ、その技術範囲内のものであればなんら限定されることはない(その他の手段および工程も同じ)。
【0019】
シート貼付工程PC1は、駆動機器であって押圧手段としての直動モータの出力軸に支持され、減圧ポンプや真空エジェクタ等の減圧手段によって接着シートASを保持可能な保持部材で接着シートASを吸着保持し、当該保持部材で保持した接着シートASをウエハWFに押圧して貼付してもよいし、接着シートASをウエハWFの両面に貼付してもよく、ウエハWFの両面に接着シートASを貼付する場合、それら接着シートASは、同一のものでもよいし、同一でないものでもよいし、一方の接着シートには、膨張性微粒子SGが添加されていなくてもよい。
接着シートASが予めウエハWFに貼付されている場合、本発明の個片体の製造方法においてシート貼付工程PC1は実施しなくてもよい。
【0020】
改質部形成工程PC2は、シート貼付工程PC1の前段で実施されてもよいし、X軸またはY軸と平行な1本の改質部MTを形成してもよいし、X軸またはY軸と平行でない1本または複数の改質部MTを形成してもよいし、相互に不等間隔な複数の改質部MTを形成してもよいし、相互に平行または平行でない複数の改質部MTを形成してもよいし、相互に交差しない複数の改質部MTを形成してもよいし、相互に直交または斜交する複数の改質部MTを形成してもよいし、曲線状または折線状の1本または複数の改質部MTを形成してもよく、そのような改質部MTによって形成される個片化予定領域WFPやチップCPの形状は、円形、楕円形、三角形または四角形以上の多角形等、どのような形状でもよいし、第1、第2方向以外に、その他の1または2以上の方向それぞれに1本または複数の改質部MTを形成してもよく、この場合、接着力低減工程は、第1、第2接着力低減工程PC31、PC32以外に、その他の1または2以上の接着力低減工程を実施してもよい。
改質部形成手段は、レーザ光、電磁波、振動、熱、薬品、化学物質等の付与によって、ウエハWFの特性、特質、性質、材質、組成、構成、寸法等を変更することで、ウエハWFを脆弱化、粉砕化、液化または空洞化して改質部MTを形成してもよく、このような改質部MTは、膨張性微粒子SGの膨張によって被着体を個片化して個片体を形成することができればどのようなものでもよい。
改質部MTが予めウエハWFに形成されている場合、本発明の個片体の製造方法において改質部形成工程PC2は実施しなくてもよい。
【0021】
接着力低減工程PC3は、図2(A)に示すように、第1改質部MTYまたは第2改質部MTXに斜交するライン状付与領域LG(不図示)をウエハWFの一端から他端に向けて移動させることで、第1、第2改質部MTY、MTXの両方を起点として亀裂CKY、CKXを同時に形成し、チップCPを形成してもよい。この場合、接着力低減工程PC3において第2接着力低減工程PC32は実施しなくてもよい。なお、この場合の斜交角度は、例えば、X軸方向に対して1度、5度、10度、45度、60度、89度等、どのような角度でもよい。
接着力低減工程PC3は、図2(B)に示すように、接着シートAS全体に一括で赤外線IRを付与可能な発光源32Aと、当該発光源32Aで発光した赤外線IRを反射させる反射板32Bと、反射板32Bの上部の開口部32Cを開閉可能な開閉板32Dとで構成されたエネルギー付与手段32を採用し、以下の第1接着力低減工程PC33と第2接着力低減工程PC34とを実施してもよい。
第1接着力低減工程PC33は、開口部32Cを開閉板32Dで全閉にした状態から当該開閉板32Dを右方から左方に向けて徐々に移動させ、図2(B-1)に示すように、右方から左方に向けて次々に亀裂CKYを形成し、Y軸方向に延びる短冊状のウエハWFSを形成する。次いで、エネルギー付与手段32をXY平面内で90度回転移動させた後、第2接着力低減工程PC34が実施される。第2接着力低減工程PC34は、開口部32Cを開閉板32Dで全閉にした状態から当該開閉板32Dを前方から後方に向けて徐々に移動させ、図2(B-2)に示すように、前方から後方に向けて次々に亀裂CKXを形成し、亀裂CKXと亀裂CKYとでチップCPを形成する。この場合、開閉板32Dの代わりに、図2(C-1)、(C-2)に示すように、発光源32Aが発光した赤外線IRでライン状付与領域LGを形成するスリット32Eを備えた開閉板32Fを採用してもよい。なお、スリット32Eには、赤外線IRを集光させたり平行光としたりするレンズを設けてもよい。
接着力低減工程PC3は、例えば、赤外線IRを付与する接着シート部分ASPを、任意の位置の個片化予定領域WFPの1つまたは複数の区画に対応するものだけとし、当該1つまたは複数の区画に対応する接着シート部分ASPのウエハWFに対する接着力を低減させるとともに、当該接着シート部分ASPに貼付されている1つまたは複数の区画からなる個片化予定領域WFPを変位させてチップCPを形成してもよい。
接着力低減工程PC3は、膨張性微粒子SGの特性、特質、性質、材質、組成および構成等を考慮して、接着シートASに赤外線IRを照射する時間を任意に決定することができるし、発光源31A、32Aとして、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ等何を採用したり、それらを適宜に組み合わせたものを採用したりして、接着シートASに赤外線IRを照射してもよいし、エネルギー付与手段としてレーザ光、電磁波、振動、熱、薬品、化学物質等を付与するものを採用したり、それらを適宜に組み合わせたものを採用したりして、被着体に所定のエネルギーを付与してもよく、膨張性微粒子SGの特性、特質、性質、材質、組成および構成等を考慮してエネルギー付与手段を任意に決定することができるし、被着体が所定のエネルギーを透過可能なものの場合、当該所定のエネルギーを被着体側から付与してもよいし、接着シートAS側から付与してもよいし、被着体側と接着シートAS側との両方から付与してもよい。
エネルギー付与手段31、32は、集光板31Bや反射板32Bがなくてもよいし、集光板31Bの代わりにまたは集光板31Bと併用し、赤外線IRを集光させたり平行光としたりするレンズを設けてもよい。
【0022】
例えば、膨張性微粒子SGが、所定の第1エネルギーとしての80℃の熱で膨張する図示しない第1膨張性微粒子と、当該第1エネルギーと異なる所定の第2エネルギーとしての100℃の熱で膨張する図示しない第2膨張性微粒子とを有し、接着力低減工程PC3では、接着シートASに80℃の熱を付与して第1改質部MTYを起点として亀裂CKYを形成する第1エネルギー付与工程と、接着シートASに100℃の熱を付与して第2改質部MTXを起点として亀裂CKXを形成する第2エネルギー付与工程とを実施し、チップCPを形成してもよい。この場合、第1エネルギーや第2エネルギーは、何度の熱でもよいし、膨張性微粒子SGが、第1、第2エネルギー以外の他の温度の熱で膨張する他の膨張性微粒子を有する場合、他の温度の熱を付与する接着力低減工程をその分増やすことができる。
また、膨張性微粒子SGとして、第1エネルギーとしての赤外線で膨張する図示しない第1膨張性微粒子と、第2エネルギーとしての紫外線で膨張する図示しない第2膨張性微粒子とが添加されている接着シートASを採用し、接着力低減工程PC3では、第1エネルギー付与工程で赤外線を付与して第1改質部MTYを起点として亀裂CKYを形成し、第2エネルギー付与工程で紫外線を付与して第2改質部MTXを起点として亀裂CKXを形成し、チップCPを形成してもよい。なお、第1エネルギーと第2エネルギーとの組み合わせは、赤外線、紫外線、可視光線、音波、X線またはガンマ線等の電磁波や、熱湯や熱風等、接着シートASに添加されている図示しない第1、第2膨張性微粒子の組み合わせによってどのような組み合わせでもよいし、第1、第2エネルギー以外の他のエネルギーで膨張する他の膨張性微粒子が添加されている接着シートASが採用された場合、当該他のエネルギーを付与する接着力低減工程をその分増やすこともできる。
さらに、前記実施形態では、ウエハWFの一端から他端に向けて徐々にライン状付与領域LGを移動させたが、改質部MTが形成されている位置のみにライン状付与領域LGが位置するようにエネルギー付与手段31を移動させ、改質部MTを起点として亀裂CKを形成したり、発光源31Aを消灯させておき、改質部MTが形成されている位置にライン状付与領域LGが位置するようにエネルギー付与手段31を移動させてから発光源31Aを駆動し、改質部MTを起点として亀裂CKを形成したりしてもよい。
また、前記実施形態の接着力低減工程PC3では、ライン状付与領域LGを形成して接着シートASに対して部分的に赤外線IRを付与したが、接着力低減工程PC3では、赤外線IRの付与領域が点状となる点状付与領域を形成して接着シートASに対して部分的に赤外線IRを付与したり、個片化予定領域WFPの平面形状に対応した面状付与領域または、個片化予定領域WFPの平面形状に対応していない面状付与領域を形成して接着シートASに対して部分的に赤外線IRを付与したりしてもよい。
また、接着シートASとして、紫外線、可視光線、音波、X線またはガンマ線等の電磁波や、熱湯や熱風等の熱を所定のエネルギーとして膨張する膨張性微粒子SGが添加されているものが採用されてもよく、接着力低減工程PC3は、それら膨張性微粒子SGの特性、特質、性質、材質、組成および構成等を考慮して当該膨張性微粒子SGを膨張させ、被着体に対する接着力を低減させるとともに、当該被着体を個片化して個片体を形成できればよい。
第1接着力低減工程PC31またはPC33から第2接着力低減工程PC32またはPC34に移る際、停止しているエネルギー付与手段31、32に対してウエハWFをXY平面内で90度回転移動させてもよいし、エネルギー付与手段31、32とウエハWFとが相対的にXY平面内で90度回転移動するようにそれら両方を回転移動させてもよい。
【0023】
接着シートASは、当該接着シートASを構成する基材BSのみに膨張性微粒子SGが添加されているものが採用されてもよいし、接着剤層ALと基材BSとの両方に膨張性微粒子SGが添加されているものが採用されてもよいし、接着剤層ALと基材BSとの中間に中間層が存在し、当該中間層、接着剤層ALおよび基材BSのうち少なくとも1つまたは少なくとも2つに膨張性微粒子SGが添加されているものが採用されてもよい。
個片体は、チップCPに限らず、例えば、短冊状のウエハWFSでもよく、この場合の個片化予定領域は、第1改質部MTYとウエハWFの外縁とで囲繞された領域となり、接着力低減工程PC3において第2接着力低減工程PC32およびPC34は実施しなくてもよい。
被着体が予め短冊状のウエハWFSのようなものであれば、接着力低減工程PC3において第2接着力低減工程PC32またはPC34のみを実施してチップCPを形成してもよい。
膨張性微粒子SGは、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの加熱によって容易にガス化して膨張する物質が弾性を有する殻内に内包された微粒子等が例示でき、特願2017-73236、特開2013-159743、特開2012-167151、特開2001-123002等で開示されている熱発泡性微粒子や、特開2013-47321、特開2007-254580、特開2011-212528、特開2003-261842等で開示されている膨張性微粒子等、何ら限定されるものではなく、例えば、熱分解して、水、炭酸ガス、窒素を発生させて膨張性微粒子と類似の効果を奏する発泡剤を採用してもよいし、特開2016-53115、特開平7-278333で開示されている紫外線により気体を発生するアゾ化合物等の気体発生剤で殻を膨張させるものでもよいし、例えば、加熱によって膨張するゴムや樹脂等でもよいし、その他、重曹、炭酸水素ナトリウム、ベーキングパウダ等でもよい。
膨張性微粒子SGは、所定のエネルギーとして、赤外線以外に、紫外線、可視光線、音波、X線またはガンマ線等の電磁波や、熱湯や熱風等の熱等が付与されることで膨張するものでもよく、そのような膨張性微粒子SGの特性、特質、性質、材質、組成および構成等に応じてエネルギー付与手段が選択されればよい。
ウエハWFは、一方の面および他方の面の両方に回路が形成されていなくてもよい。
【0024】
本発明の個片体の製造方法では、接着力低減工程PC3で変位される前のウエハWF部分が変位することを抑制する変位抑制工程を実施してもよい。この変位抑制工程は、図1(C)中二点鎖線で示すように、変位させたくない個片化予定領域WFP上に押え板HPを配置させることで、変位する個片化予定領域WFPに追従して隣接する個片化予定領域WFPも一緒に変位し、改質部MTが亀裂CKとなることが抑制されることを防止することができる。なお、このような変位抑制工程では、変位させたくない個片化予定領域WFP上に押え板HPを当接させてもよいし、当接させなくてもよいし、気体の吹き付けにより、変位される前のウエハWFが変位することを抑制したり、プーリとベルトとで、変位される前のウエハWFが変位することを抑制したりする他の構成を採用してもよい。
接着力低減工程PC3において膨張性微粒子SGが膨張した際、接着シートASが変位してしまうことで個片化予定領域WFPが変位しなくなることを防止するために、当該接着力低減工程PC3の前段で、接着シートASの変位を防止するシート支持工程を実施してもよい。このようなシート支持工程は、例えば、保持面を備えた保持プレート(保持部材)で接着シートASを基材BS側から吸着保持したり、基材BS側に鉄板や硝子板等の板状部材(保持部材)を貼付したりして、基材BSを面で保持するようにすればよい。なお、保持プレートや板状部材は、被着体が所定のエネルギーを透過不可能なものであれば、当該所定のエネルギーを透過可能なもので構成すればよいし、被着体が所定のエネルギーを透過可能なものであれば、当該所定のエネルギーを透過不可能なもので構成してもよいし、透過可能なもので構成してもよい。また、接着シートASが、膨張性微粒子SGが膨張した際、変位しない程度の剛性を備えていれば、シート支持工程は実施しなくてもよいし、実施してもよい。
本発明の個片体の製造方法では、シート貼付工程PC1、改質部形成工程PC2または接着力低減工程PC3の前段で、ウエハWFを所定の厚みにまで研削(研磨)する研削(研磨)工程を実施してもよいし、接着力低減工程PC3の後段で、ウエハWFを所定の厚みにまで研削(研磨)する研削(研磨)工程を実施してもよいし、接着力低減工程PC3の後段で、チップCPを接着シートASから取り外す取外し工程を実施してもよいし、接着シートASから取り外したチップCPを基板や載置台等の他の部材に接着する接着工程を実施してもよい。
【0025】
本発明における接着シートASおよび被着体の材質、種別、形状等は、特に限定されることはない。例えば、接着シートASは、円形、楕円形、三角形や四角形等の多角形、その他の形状であってもよいし、感圧接着性、感熱接着性等の接着形態のものであってもよく、感熱接着性の接着シートASが採用された場合は、当該接着シートASを加熱する適宜なコイルヒータやヒートパイプの加熱側等の加熱手段を設けるといった適宜な方法で接着されればよい。また、このような接着シートASは、例えば、接着剤層ALだけの単層のもの、基材BSと接着剤層ALとの間に中間層を有するもの、基材BSの上面にカバー層を有する等3層以上のもの、更には、基材BSを接着剤層ALから剥離することのできる所謂両面接着シートのようなものであってもよく、両面接着シートは、単層又は複層の中間層を有するものや、中間層のない単層又は複層のものであってよい。また、被着体としては、例えば、食品、樹脂容器、シリコン半導体ウエハや化合物半導体ウエハ等の半導体ウエハ、回路基板、光ディスク等の情報記録基板、ガラス板、鋼板、陶器、木板または樹脂等の単体物であってもよいし、それら2つ以上で形成された複合物であってもよく、任意の形態の部材や物品なども対象とすることができる。なお、接着シートASは、機能的、用途的な読み方に換え、例えば、情報記載用ラベル、装飾用ラベル、保護シート、ダイシングテープ、ダイアタッチフィルム、ダイボンディングテープ、記録層形成樹脂シート等の任意のシート、フィルム、テープ等でもよい。
【0026】
前記実施形態における駆動機器は、回動モータ、直動モータ、リニアモータ、単軸ロボット、2軸または3軸以上の関節を備えた多関節ロボット等の電動機器、エアシリンダ、油圧シリンダ、ロッドレスシリンダ及びロータリシリンダ等のアクチュエータ等を採用することができる上、それらを直接的又は間接的に組み合せたものを採用することもできる。
前記実施形態において、ローラ等の回転部材が採用されている場合、当該回転部材を回転駆動させる駆動機器を備えてもよいし、回転部材の表面や回転部材自体をゴムや樹脂等の変形可能な部材で構成してもよいし、回転部材の表面や回転部材自体を変形しない部材で構成してもよいし、押圧ローラや押圧ヘッド等の押圧手段や押圧部材といった被押圧物を押圧するものが採用されている場合、上記で例示したものに代えてまたは併用して、ローラ、丸棒、ブレード材、ゴム、樹脂、スポンジ等の部材を採用したり、大気やガス等の気体の吹き付けにより押圧する構成を採用したりしてもよいし、押圧するものをゴムや樹脂等の変形可能な部材で構成してもよいし、変形しない部材で構成してもよいし、支持(保持)手段や支持(保持)部材等の被支持部材を支持または保持するものが採用されている場合、メカチャックやチャックシリンダ等の把持手段、クーロン力、接着剤(接着シート、接着テープ)、粘着剤(粘着シート、粘着テープ)、磁力、ベルヌーイ吸着、吸引吸着、駆動機器等で被支持部材を支持(保持)する構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0027】
AS…接着シート
ASP…接着シート部分
CP…半導体チップ(個片体)
IR…赤外線(エネルギー)
LG…ライン状付与領域
MT…改質部
MTX…第2改質部
MTY…第1改質部
PC1…シート貼付工程
PC2…改質部形成工程
PC21…第1改質部形成工程
PC22…第2改質部形成工程
PC3…接着力低減工程
PC31、PC33…第1接着力低減工程
PC32、PC34…第2接着力低減工程
SG…膨張性微粒子
WF…半導体ウエハ(被着体)
WFP…個片化予定領域
図1
図2