(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】部分放電検出装置および部分放電検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231026BHJP
【FI】
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2018240965
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平馬 浩一
【合議体】
【審判長】濱野 隆
【審判官】中塚 直樹
【審判官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-70573(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187481(WO,A1)
【文献】特開2008-45977(JP,A)
【文献】特開2010-107289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器を格納する容器の表面電流を検知するセンサと、
前記センサの出力信号を設定された周波数帯域に制限するフィルタ部と、
前記フィルタ部の出力信号の周波数を変換する周波数コンバータと、
前記周波数コンバータの出力信号をサンプリングして記録する記録部と、
前記記録部に記録された時系列の信号をデータとして読み出し解析する解析部と、を備え、
前記解析部は、
定められた閾値以上の信号を抽出するレベル判定部と、
電源周期と連動して発生する信号以外の信号を除去するノイズ除去部と、
前記
電源周期と連動して発生する信号の発生頻度を判定する継続性判定部と、
前記
判定の結果を受けて
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定する部分放電判定部と、を備える
ことを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項2】
前記定められた閾値は、時刻ごとに設定されることを特徴とする請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記継続性判定部は
サンプリング期間中の信号群ごとの発生頻度の判定を行い、
前記部分放電判定部は、
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記センサは面電流センサであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
電気機器を格納する容器の表面電流を検知するセンサにより検出された信号を設定された周波数帯域に制限し、
前記設定された周波数帯域に制限された信号の周波数を変換し、
前記周波数を変換された信号をサンプリングして記録し、
前記記録された時系列の信号を解析し、
前記解析は、
定められた閾値以上の信号を抽出すること、
電源周期と連動して発生する信号以外の信号を除去すること、
前記
電源周期と連動して発生する信号の発生頻度を判定すること、
前記
判定の結果を受けて
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定すること、
を含むことを特徴とする部分放電検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備・機器の内部での部分放電発生を検出する部分放電検出装置および部分放電検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分放電は、絶縁破壊の前駆現象であり、運転状態の電気機器(例えば、変圧器や開閉装置等)から発生する部分放電を計測・評価することにより、電気機器の絶縁性能の劣化診断が行われている。
【0003】
部分放電を検出する方法としては、部分放電に伴う発光・発熱・パルス電流・電磁波・超音波等を感知するセンサを使用する方法がある。例えば、特許文献1には、電気機器を格納する容器の表面を流れる高周波電流を検知するセンサが開示されている。この文献に開示されているセンサは、検出電極をシールド金属容器で覆うことにより、外部からのノイズが侵入し難い構造とし、いわゆる環境ノイズの影響を少なくして、表面電流の検出感度を向上させることが試みられている。
しかしながら、センサの感度を表面電流に特化して向上させたとしても、検出した信号が、部分放電に起因する表面電流であるか、ほかのノイズに起因する表面電流であるか、判断するのが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電気機器を格納する容器の表面を流れる高周波電流を観測し、部分放電に起因する信号を効率よく検出し、部分放電の発生を感度よく検出できる部分放電検出装置および部分放電検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の部分放電検出装置は、物体の表面電流を検知するセンサと、前記センサの出力信号を設定された周波数帯域に制限するフィルタ部と、前記フィルタ部の出力信号の周波数を変換する周波数コンバータと、前記周波数コンバータの出力信号をサンプリングして記録する記録部と、前記記録部に記録された信号を解析する解析部と、を備え、前記解析部は、定められた閾値以上の信号を抽出するレベル判定部と、定められた周期以外の信号を除去するノイズ除去部と、前記定められた周期の信号の継続性を判定する継続性判定部と、前記継続性判定部の結果を受けて部分放電を判定する部分放電判定部と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、表面電流から得られる信号を、ノイズ成分を除去し、部分放電に起因する信号を抽出して解析できるので、部分放電が発生したときの検出感度を向上することができる。
【0007】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置の前記定められた閾値は、時刻ごとに設定されることを特徴とする。
このような構成によれば、ノイズの時刻による変化に基づいて閾値が設定されるので、信号の誤検出を低減することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置の前記継続性判定部は複数の判定基準を有し、前記部分放電判定部は、前記複数の判定基準の各発生回数により部分放電を判定することを特徴とする。
このような構成によれば、複数の基準に基づいて部分放電が判定されるので、部分放電のいろいろな発生モードに対応して部分放電の発生を判断することができ、部分放電が発生したときの検出感度を向上することができる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置は、前記センサは面電流センサであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の部分放電検出方法は、物体の表面電流を検知するセンサにより検出された信号を設定された周波数帯域に制限し、前記設定された周波数帯域に制限された信号の周波数を変換し、前記周波数を変換された信号をサンプリングして記録し、前記記録された信号を解析し、前記解析は、定められた閾値以上の信号を抽出すること、定められた周期以外の信号を除去すること、前記定められた周期の信号の継続性を判定すること、前記継続性を判定することの結果を受けて部分放電を判定すること、を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、表面電流から得られる信号を、ノイズ成分を除去し、部分放電に起因する信号を抽出して解析できるので、部分放電の発生の検出率を向上することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気機器を格納する容器の表面を流れる高周波電流を観測し、部分放電に起因する信号を効率よく検出し、部分放電の発生を感度よく検出できる部分放電検出装置および部分放電検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の前提技術に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1の解析部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】部分放電発生時の表面電流を観測して得られる信号を示す図である。
【
図4】表面電流を観測して得られる信号を、周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図であって、環境ノイズと部分放電発生時の波形が示されている。
【
図5】本発明の前提技術に係る部分放電検出装置の記録部に記録された信号を示す図である。
【
図6】本発明の前提技術に係る部分放電検出装置の記録部に記録された信号を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】表面電流を観測して得られる信号を、周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図であって、環境ノイズとインバータノイズ発生時の波形が示されている。
【
図9】表面電流を観測して得られる信号を、周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図であって、インバータノイズ発生時とインバータノイズ発生時の環境下での部分放電発生時の波形が示されている。
【
図10】表面電流を観測して得られる信号を、周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図であって、インバータノイズ発生時の環境下での部分放電発生時の波形と、周波数変換して得られる波形が示されている。
【
図11】本発明の変形例に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の前提となる技術(前提技術)について説明する。
(前提技術)
本発明の前提技術に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図を
図1に、
図1の解析部の機能ブロック図を
図2に示す。
図1に示されるように、部分放電検出装置10は、センサ11、帯域フィルタ12、増幅器13、A/D変換器14、記録部15、解析部16、表示部17、および、記録部15と解析部16にそれぞれ付属するメモリ18とメモリ19を備えている。
【0014】
センサ11は、部分放電を検出するために、電気機器(例えば、変圧器や開閉装置等)を格納する容器等の表面に取り付けられて容器の表面を流れる電流を感知し、その電流強度に対応した信号を出力する。センサ11から出力された信号は、帯域フィルタ12に入力される。帯域フィルタ12は、予め定められた周波数帯域に信号をフィルタリングし増幅器13に出力する。増幅器13に入力された信号は増幅されて、A/D変換器14に出力される。A/D変換器14は、入力された信号強度をデジタル信号解析が可能となるように、アナログ量からデジタル量に変換し、そのデータを記録部15に送信する。
【0015】
記録部15に送信されたデータは、時系列でメモリ18に記録される。このときメモリ18に記録されるデータは、図示しない制御部によって予め指定されたサンプリング日時、サンプリング期間等、解析部16の解析に必要な情報とともに紐付けられて記録される。解析部16は、記録部15を通してメモリ18のデータを呼び出し、後述する解析手順に従って部分放電の有無を解析する。解析された結果は、表示部17に表示される。
【0016】
次に、
図3、
図4を参照して、部分放電検出装置10を詳細に説明する。
図3は、部分放電が生じている際の、センサ11の出力a(実線)と電気機器に印可される50Hzの電源電圧b(点線)を示す図であり、横軸に時間(msec)、縦軸に信号強度を表している。
図3に示されるように、0msec、20msec、40msec、および、60msecのところに比較的大きいセンサ出力が、10msec、30msec、50msecのところに小さいセンサ出力が生じている。
図3からわかるように、部分放電は、電源電圧の立ち上がりと立ち下がりで生じる傾向にある。従って、電源周波数と同じサイクルで生じるセンサ出力信号が部分放電と関係性が深いことが考察される。この性質は後述する解析部16において、ノイズを除去する際に考慮されている。すなわち電源周波数と同じサイクルで発生していない信号は、部分放電とは関係ない信号として除去することができる。
図4は、横軸に周波数(MHz)、縦軸に周波数成分強度を表すグラフで、
図3に示したセンサ出力信号を周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図である。
図4には、実線で描かれた部分放電が発生していない環境ノイズ波形cと2重線で描かれた部分放電発生時の波形dが示されている。
図4からわかるように、10~30MHz、40MHz、55MHz、70~90MHz近傍の領域では、部分放電発生時の信号が環境ノイズよりも充分大きくなっていることがわかる。すなわち周波数帯によってS/N比のよい領域があることが
図4より考察される。
【0017】
部分放電検出装置10は、帯域フィルタ12の通過帯域を部分放電発生時の信号が環境ノイズよりも大きくなっている周波数帯域に設定する、換言すると、S/N比のよい周波数帯域に設定するので、部分放電信号を感度よく検知することが可能となっている。感度を向上させるために設定される周波数帯域は、部分放電発生時の信号のS/N比のよい部分であればいずれも可能であるが、装置のコスト等を考慮すると低めの周波数帯域、例えば10~30MHzに設定することが好ましい。このような構成によって、適切な周波数帯域のみの信号を取り込むことができ、装置コストをおさえ充分な検出感度を有する部分放電検出装置が提供できる。
【0018】
次に
図5と
図6を参照して、解析部16の動作を説明する。
図5、
図6は、横軸に時間(msec)、縦軸に信号強度を示すグラフで、それぞれ違う場面での部分放電発生時のセンサーの出力を表している。
図5、
図6に示されたデータは、サンプリング期間が、電源周波数が50Hzの場合の5周期分、100msecの期間のデータを示している。
図2に示されるように、解析部16は、レベル判定部50、ノイズ除去部51、継続性判定部52、部分放電判定部53を備えている。
【0019】
解析部16は、まず、記録部15を通してメモリ18に記録された、
図5、
図6に示すようなデータを読み込む。次に解析部16のレベル判定部50は、
図5、
図6に点線で描かれた閾値T以上のレベルの信号を、解析の対象として抽出する。
信号の解析対象の判定に使われる閾値Tは、メモリ19に予め設定されている。レベル判定部50は、メモリ19の閾値Tの値を参照して信号を抽出する。ここにおいて閾値Tは、一定の値であってよいし、時刻ごとに異なった値を設定してよい。たとえば、深夜や早朝で、環境ノイズのレベルが比較的低い状態にある場合は、低めの閾値を設定してよい。一方、日中で、環境ノイズのレベルが比較的高い状態にある場合は、高めの閾値を設定してよい。このように、部分放電を観測する対象の環境ノイズの、時刻ごとの変化に対応して閾値Tを変更することによって、誤検出を防ぎ、部分放電の検出感度を向上させることができる。
【0020】
次に解析部16のノイズ除去部51は、レベル判定部50で抽出した、信号についてそれぞれ、電源周波数に対応する20msecごとの発生があるかどうかをチェックする。
図5にA、Bで示されたそれぞれのグループが20msecごとに発生があると判断された信号グループである。このとき、20msecごとの発生を確認する場合、きっかり20msecで判断するのではなくある範囲の値のゆらぎを考慮する。例えば、20msec+-0.5msecであれば、電源周期20msecに適合して発生していると判断する。
図5において、Cで示された信号群は、20msecの周期では発生していないので、ノイズ除去部51によって、ノイズと判定されて解析対象から除外される。すなわち
図5においては、グループAとグループBの信号群が解析対象になる。
このように電源周期と連動して発生する信号以外はノイズとして除去して解析が行われるので、部分放電に関係する信号を効率よく抽出し、誤検出を防ぎ、部分放電の検出感度を向上することができる。
【0021】
次に、解析部16の継続性判定部52は、20msecの周期で発生している信号群がサンプリング期間中どれくらいの頻度で発生しているかを調べる。
図5に示したグループAとグループBの信号群は、5周期中5回発生しているので、どちらも発生頻度5/5と判定される。
図6に示されたグループDの場合は、5周期中3回の発生なので、3/5と判定される。
継続性判定部52は、50Hzの電源周期5周期分の100msecの期間のデータを1セットとして、連続的に取得される複数セットのデータを順次解析する。ここで1セットのデータの電源周波数5サイクル中5回の周期データが観測されれば、5/5の事象が発生したと判断する。それぞれ5/5、4/5、3/5、2/5、と表現する、部分放電発生事象の判定がなされる都度に、各事象ごとに設けられたカウンタを1増加させて、各事象の発生回数をメモリ19に記録する。ここにおいて示された、n/5(n=2~5)で表された事象の意味は、5周期中n回20msecの周期に適合する信号が観測されたことを示している。
【0022】
解析部16の部分放電判定部53は、継続性判定部52で計数された各事象ごとのカウンタの値を監視し、各事象ごとに予め定められた回数以上の発生が確認されると部分放電の発生が生じたと判定する。例えば、各事象5/5、4/5、3/5、2/5、についてそれぞれ、100回、100回、500回、1000回の値以上で部分放電発生と判定する。
部分放電検出装置10は、このような手段によって、部分放電に起因する信号を部分放電発生の性質を利用して効率よく抽出し、誤検出を少なくし、かつ、部分放電の検出感度を向上させることができる。
【0023】
部分放電検出装置において、電気機器を格納する容器等の表面に取り付けられて容器の表面を流れる電流を感知するセンサ11は、物理的にはキャパシタンスであれば表面電流を感知することが可能であるが、面電流センサとして特化されているセンサを使用してもよい。また本前提技術では電源周波数として50Hzの場合を述べているが、電源周波数が60Hzの場合も周期性判定を20msecから16.6msecに変更することによって実施可能である。この周期性判定サイクルは観測環境に適合させて任意に変更可能である。また1セットのサンプリング期間も、本前提技術では電源周波数5サイクル(電源周波数50Hzの場合100msec)の例を述べているが、これに限定されるものではなく、観測対象の部分放電発生環境を考慮して適切なサンプリング期間を設定してよい。その際、各部分放電発生事象ごとに、部分放電判定のカウント数も適切な値を設定してよい。
【0024】
(実施形態)
次に、
図7~
図10を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。なお、実施形態で示す部分放電検出装置は、上記前提技術に対し、帯域フィルタ12と増幅器13の間にミキサ21、局部発振器22、および、低域フィルタ23が加わった構成のみが異なる。したがって、以下の説明では、ミキサ21、局部発振器22、および、低域フィルタ23の関係する構成のみを説明し、上記前提技術と共通する構成については、図中に同符号を付してその説明を省略する。
【0025】
前提技術と同様に、部分放電を検出するために、電気機器を格納する容器の表面に取り付けられて容器の表面を流れる電流を感知し、その電流強度に対応した信号を出力するセンサ11から出力された信号は、帯域フィルタ12に入力される。帯域フィルタ12は、予め定められた周波数帯域に信号をフィルタリングしミキサ21に出力する。局部発振器22は、定められた一定の周波数で発振している信号をミキサ21に出力する。ミキサ21は、センサ12からの信号と局部発振器22からの信号を混合し、低域フィルタ23に出力する。低域フィルタ23は、定められた周波数以下の信号のみを通過させるように、ミキサ21からの信号をフィルタリングする。ミキサ21でフィルタリングされた信号は、増幅器13で増幅され、以降の構成は、前提技術で説明したものと同様であって、前提技術と同様の動作により、部分放電を検出する。
【0026】
このような構成によれば、例えばセンサ11からの入力信号の周波数であって、帯域フィルタ12の通過帯域に該当する周波数をfiとし、局部発振器22の出力信号の周波数をfLとすると、ミキサ21で混合された信号の出力には、その和と差の周波数、fL+fiとfL-fiの2種類の周波数の混合信号が生じる。その2種類の信号のうちの高い周波数fL+fiの信号を低域フィルタ23でカットし、低い周波数fL-fiのみを増幅器13に出力し、部分放電検出のために解析する信号とすることができる。このようにして、fiの信号をfL-fiに周波数変換を行うことができる。
すなわちこの実施形態では、前提技術の構成に、ミキサ21、局部発振器22、および、低域フィルタ23を加えることにより、その入力部に周波数コンバータ100を構成している。
【0027】
次に、
図8~
図10を参照して、この周波数変換の意味について説明する。
図8~
図10は、横軸に周波数(MHz)、縦軸に周波数成分強度を表すグラフで、いろいろな場面でのセンサ11の出力信号を周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図である。
図8には、
図4にも示された、実線で描かれた一般的な場面での環境ノイズの波形cと2重線で描かれた、インバータ制御機器が近辺に存在した場合のインバータノイズの波形eが示されている。ここにおいて、一般的な場面とは、例えば、発電所や変電所などの施設における環境下であって、インバータ制御機器が近辺にない環境をあげることができる。一方、インバータ制御機器が近辺に存在する環境とは、例えば、ビル、あるいは工場における変電設備等をあげることができ、空調機や、工作機械、または、照明などのインバータ制御機器が発電所や変電所に比べて近辺に存在している環境をいう。
【0028】
図8からわかるように、環境ノイズcに対して、インバータノイズeの強度が大きく表れている。特に0~50MHzの周波数帯域において、この傾向は顕著となる。インバータノイズはこの環境下では定常的に存在するので、部分放電検出は、これを環境ノイズとみなして解析しなければならない。
図9には、
図8と同様の2重線で描かれたインバータノイズの波形eとインバータノイズが存在する環境下での、グレーの線で描かれた部分放電発生時の波形fが示されている。
図9に示されているように、インバータノイズの環境下では、
図4の前提技術で好ましいとされた10MHz~30MHzの周波数帯域では、インバータノイズに部分放電信号が埋もれてしまい、S/N比が極端に悪くなってしまう。この状態においては、閾値Tの設定変更のみでは、誤検出を防ぐことが難しいことがわかる。
【0029】
図9においてS/N比が比較的よい周波数帯域は、70~90MHz近傍であることがわかる。本実施形態では、S/N比のよい70~90MHzの信号を取り出すため前述した局部発振器22の発振周波数f
Lとして100MHzを用いる。前述したようにf
L=100MHzの局発周波数を用いることにより、f=70~90MHzのセンサ出力は、
f
L+f
i=170~190MHzとf
L-f
i=30~10MHzの周波数帯域に変換され、例えば、50MHz以下の帯域を通過させるように設定された低域フィルタ23によって、f
L-f
i=30~10MHzの信号が取り出され、増幅器13に出力される。
【0030】
図10には、
図8、
図9で2重線で示され、
図10ではグレーの線で描かれたインバータノイズ(環境ノイズ)の波形eと、細い実線で描かれた部分放電発生時の波形gと、太い実線で描かれた、波形gを周波数変換した波形hが示されている。波形gの77MHzと87MHz近傍で複数のピークを持つ信号群E、Fは、前述した周波数変換によって、白矢印x、yで示されるように、波形hの23MHzと13MHz近傍の信号群E’、F’に周波数変換される。周波数変換後の信号hは前提技術で好ましいとされた10~30MHzの帯域に部分放電に関する信号を含んで増幅器13に入力されるので、以降の機能ブロックでは、前提技術と同様の動作で部分放電検出が行われる。
【0031】
このような構成によれば、インバータノイズのためS/N比が悪くなる環境下でも、センサ11の出力のS/N比がよい周波数帯域を、部分放電を解析するのに好ましい周波数帯域に変換して部分放電検出を行うことができるので、誤検出をおさえて、検出感度を向上させることができる。本実施形態は、この周波数コンバータ100の動作以外の構成は、前提技術と同様の構成を用いるので、周波数コンバータ100の作用、効果に加えて、前提技術と同様の作用、効果が得られる。
【0032】
本実施形態においては、電気機器を格納する容器等の表面に取り付けられて容器の表面を流れる電流を感知するセンサ11を使用し、電源周波数に依存する信号のみを解析対象として選別しているので、3相交流電源に係る機器のいずれかに部分放電が発生すると、部分放電が3相交流のいずれの位相の電源を起因として生じたかに関わらず、部分放電に起因すると予想される信号を1個のセンサで感度よく検知できる。そしてその感知した信号について、継続性判定解析をおこない、3相のいずれかで部分放電が発生しているか否かを判断することができる。
【0033】
(変形例)
ここで、
図11を参照して本発明の変形例について説明する。
図11は、前提技術の
図1、実施形態の
図7に相当する機能ブロック図である。
図11には、前提技術の帯域フィルタ12、増幅器13の構成と、実施形態の帯域フィルタ12、ミキサ21、局部発振器22、低域フィルタ23、および、増幅器13の構成がスイッチ31とスイッチ32を介して並列に接続される、部分放電検出装置30が図示されている。
図11のスイッチでは、前提技術の帯域フィルタ12、増幅器13の構成がセンサ11、A/D変換器14に接続されて機能ブロックを成している。このスイッチの接続では、部分放電検出装置30は、前提技術の部分放電検出装置10として機能する。スイッチ31、スイッチ32を逆の側に接続することにより、実施形態の帯域フィルタ12、ミキサ21、局部発振器22、低域フィルタ23、および、増幅器13の構成がセンサ11、A/D変換器14に接続され、部分放電検出装置30は、実施形態の部分放電検出装置20として機能する。
このような構成を取ることによって、前提技術の部分放電検出装置10と実施形態の部分放電検出装置20の機能をスイッチによって選択可能となっており、環境ノイズの状況にあわせてどちらの部分放電検出装置の機能をつかうか意図的に選択することができる。したがって、インバータノイズのあるなしにかかわらず、その観測環境に合わせて、誤検出を少なくでき、部分放電検出精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0034】
10、20、30 部分放電検出装置
11 センサ
12 帯域フィルタ
15 記録部
16 解析部
T 閾値
100 周波数コンバータ
50 レベル判定部
51 ノイズ除去部
52 継続性判定部
53 部分放電判定部