(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】部分放電検出装置および部分放電検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231026BHJP
【FI】
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2018240966
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平馬 浩一
【合議体】
【審判長】濱野 隆
【審判官】中塚 直樹
【審判官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-70573(JP,A)
【文献】特開2010-107289(JP,A)
【文献】特開平8-160098(JP,A)
【文献】特開2010-008309(JP,A)
【文献】特開2009-258011(JP,A)
【文献】特開2008-45977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分放電を検出する対象の電気機器に給電する電源に接続される第1のセンサと、
前記第1のセンサの出力信号のエネルギーを測定しそのエネルギーの強さに対応する信号を出力する第1のRFディテクタと、
前記第1のRFディテクタの出力信号をサンプリングして記録する記録部と、
前記記録部に記録された時系列の信号をデータとして読み出し解析する解析部と、を備え、
前記解析部は、
定められた閾値以上の信号を抽出するレベル判定部と、
電源周期と連動して発生する信号以外の信号を除去する第1のノイズ除去部と、
前記
電源周期と連動して発生する信号の発生頻度を判定する継続性判定部と、
前記
判定の結果を受けて
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定する部分放電判定部と、を備える
ことを特徴とする部分放電検出装置。
【請求項2】
前記定められた閾値は、時刻ごとに設定されることを特徴とする請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記継続性判定部は
サンプリング期間中の信号群ごとの発生頻度の判定を行い、
前記部分放電判定部は、
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
部分放電を検出する対象の電気機器に給電する電源に接続される第2のセンサと、
前記第2のセンサの出力信号のエネルギーを測定しそのエネルギーの強さに対応する信号を出力する第2のRFディテクタと、をさらに有し、
前記記録部は、前記第2のRFディテクタの出力信号をサンプリングして記録し、
前記解析部は、
前記第1のRFディテクタと前記第2のRFディテクタの記録された出力信号の時間差に基づいてノイズを判定しノイズ信号を除去する第2のノイズ除去部を、さらに有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記第1のセンサ、および、第2のセンサが真空コンデンサを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記真空コンデンサが可変コンデンサであることを特徴とする、請求項5に記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
部分放電を検出する対象の電気機器に給電する電源に接続されるセンサにより検出された信号のエネルギーを測定し、
前記エネルギーの強さに対応する信号をサンプリングして記録し、
前記記録された時系列の信号を解析し、
前記解析は、
定められた閾値以上の信号を抽出すること、
電源周期と連動して発生する信号以外の信号を除去すること、
前記
電源周期と連動して発生する信号の発生頻度を判定すること、
前記
判定の結果を受けて
各発生頻度に対応する事象の発生回数が、あらかじめ定められた回数以上となることにより部分放電の発生を判定すること、
を含むことを特徴とする部分放電検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備・機器の内部での部分放電発生を検出する部分放電検出装置および部分放電検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部分放電は、絶縁破壊の前駆現象であり、運転状態の電気機器(例えば、変圧器、開閉装置、発電機、電動機等)から発生する部分放電を計測・評価することにより、電気機器の絶縁性能の劣化診断が行われている。
【0003】
部分放電を検出する方法としては、部分放電に伴う発光・発熱・パルス電流・電磁波・超音波等を感知するセンサを使用する方法や、電源に直接コンデンサを接続し、部分放電に起因して発生する信号を観測し、部分放電を検出する結合コンデンサ法がある。
例えば、特許文献1には、複数の低域フィルタと高域フィルタの組み合わせを採用した結合コンデンサ法によって複数の試料を同時に測定する方法が開示されている。特許文献2には、結合コンデンサ法による電圧波とホール素子などによる電流波をそれぞれ検出し、これらの位相によって部分放電に起因する信号を判定する方法が開示されている。
【0004】
しかし、いずれの方法によっても対象とする信号が高い周波数帯に広く分布していた場合、それらの信号を記録し、解析するためには、サンプリングスピードが高速かつ感度の高い高性能の素子や解析のための高速の信号処理のプロセッサーを用いる必要があり、測定装置のコストが高くなってしまうという問題がある。また検出した信号が、部分放電に起因する信号であるのか、ほかのノイズに起因する信号であるのか、判断するのが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭54-010778号公報
【文献】特開平01-116463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電源に生じる信号を観測し、部分放電に起因する信号を効率的に感度良く検出し、かつ、測定のコストを抑えることが可能となる部分放電検出装置および部分放電検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の部分放電検出装置は、電源に接続される第1のセンサと、前記第1のセンサの出力信号のエネルギーを測定しそのエネルギーの強さに対応する信号を出力する第1のRFディテクタと、前記第1のRFディテクタの出力信号をサンプリングして記録する記録部と、前記記録部に記録された信号を解析する解析部と、を備え、前記解析部は、定められた閾値以上の信号を抽出するレベル判定部と、定められた周期以外の信号を除去する第1のノイズ除去部と、前記定められた周期の信号の継続性を判定する継続性判定部と、前記継続性判定部の結果を受けて部分放電を判定する部分放電判定部と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、電源から得られる信号を、ノイズ成分を除去し、部分放電に起因する信号を抽出して解析できるので、部分放電が発生したときの検出感度を向上することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置の前記定められた閾値は、時刻ごとに設定されることを特徴とする。
このような構成によれば、ノイズの時刻による変化に基づいて閾値が設定されるので、信号の誤検出を低減することができる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置の前記継続性判定部は複数の判定基準を有し、前記部分放電判定部は、前記複数の判定基準の各発生回数により部分放電を判定することを特徴とする。
このような構成によれば、複数の基準に基づいて部分放電が判定されるので、部分放電のいろいろな発生モードに対応して部分放電の発生を判断することができ、部分放電が発生したときの検出感度を向上することができる。
【0010】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置は、電源に接続される第2のセンサと、前記第2のセンサの出力信号のエネルギーを測定しそのエネルギーの強さに対応する信号を出力する第2のRFディテクタと、をさらに有し、前記記録部は、前記第2のRFディテクタの出力信号をサンプリングして記録し、前記解析部は、前記第1のRFディテクタと前記第2のRFディテクタの記録された出力信号の時間差に基づいてノイズを判定しノイズ信号を除去する第2のノイズ除去部を、さらに有することを特徴とする。
このような構成によれば、第1のセンサと第2のセンサにより、電源に発生する信号の伝搬方向を特定することができるので、観測対象から発生する信号を他のノイズと区別できるので、ノイズの除去を効率よくでき、部分放電検出の感度を向上することができる。
【0011】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置は、前記第1のセンサ、および、第2のセンサが真空コンデンサを含むことを特徴とする。
このような構成によれば、センサの大きさを比較的小さくすることができる。
【0012】
本発明の一態様においては、本発明の部分放電検出装置は、前記真空コンデンサが可変コンデンサであることを特徴とする。
このような構成によれば、真空コンデンサの高域フィルタとしての機能を可変とすることができ、測定現場のおいて容易に測定周波数を変更可能となる。
【0013】
また、本発明の部分放電検出方法は、電源に接続されるセンサにより検出された信号のエネルギーを測定し、前記エネルギーの強さに対応する信号をサンプリングして記録し、前記記録された信号を解析し、前記解析は、定められた閾値以上の信号を抽出すること、定められた周期以外の信号を除去すること、前記定められた周期の信号の継続性を判定すること、前記継続性を判定することの結果を受けて部分放電を判定すること、を含むことを特徴とする。
このような構成によれば、電源から得られる信号を、ノイズ成分を除去し、部分放電に起因する信号を抽出して解析できるので、部分放電の発生の検出率を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電源に生じる信号を観測し、部分放電に起因する信号を効率的に感度良く検出し、かつ、測定のコストを抑えることが可能となる部分放電検出装置および部分放電検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るセンサの構成を示す図で、(a)は真空コンデンサと増幅部の外観斜視図であり、(b)は回路図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る部分放電検出装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図3の解析部の構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置のセンサの出力信号を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置のRFディテクタの出力信号を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るセンサの出力を観測して得られる信号を、周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図であって、環境ノイズと部分放電発生時の波形が示されている。
【
図8】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置の記録部に記録された信号を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る部分放電検出装置の記録部に記録された信号を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る部分放電検出装置の概略構成図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係る部分放電検出装置の記録部に記録された信号を示す図である。
【
図14】本発明の変形例に係るセンサの構成を示す図で、(a)は真空コンデンサと増幅部の外観斜視図であり、(b)は回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る部分放電検出装置のセンサの構成が示されており、
図1(a)は真空コンデンサと増幅部の外観斜視図であり、
図1(b)は回路図を示している。本実施形態におけるセンサ11は、真空コンデンサ(VC)1と真空コンデンサで受けた信号を増幅する増幅部2を備えており、増幅部2は、増幅器3と抵抗4を備えている。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る部分放電検出装置の概略構成図である。部分放電検出装置による部分放電検出は、電動機5に給電される3相交流の電源線6のR相6-1、S相6-2、T相6-3のそれぞれが、接続ポイントrp1、sp1、tp1から引き出されてセンサボックス7に接続される。センサボックス7では、接続ポイントrp1、sp1、tp1から引き出された電源線がブッシング9を介してセンサボックス7内のセンサ11に接続され、その出力が計測システム8に供給される。
【0017】
図3は、本実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。この図においては、3相交流の1相の電源に係る装置の構成だけが示されるが、
図2に示されたR相、S相、T相の電源線に接続されるセンサを含む部分放電検出装置の構成は、それぞれ電源線ごとに
図3に示されるものと共通の構成を備えている。
本実施形態における部分放電検出装置10は、センサ11、RFディテクタ13、A/D変換器14、記録部15、解析部16、表示部17、および、記録部15と解析部16にそれぞれ付属するメモリ18とメモリ19を備えている。
解析部16は、
図4に示すように、レベル判定部50、ノイズ除去部51、継続性判定部52、部分放電判定部53を備えている。
【0018】
電動機5の3相交流の電源線に接続されたセンサ11から出力された信号は、RFディテクタ13に入力される。RFディテクタ13は入力されたRF信号のエネルギーを測定し、そのエネルギー強度に応じた出力レベルの信号をA/D変換器14に出力する。A/D変換器14は、入力された信号強度をデジタル信号解析が可能となるように、アナログ量からデジタル量に変換し、そのデータを記録部15に送信する。
【0019】
記録部15に送信されたデータは、時系列でメモリ18に記録される。このときメモリ18に記録されるデータは、図示しない制御部によって予め指定されたサンプリング日時、サンプリング期間等、解析部16の解析に必要な情報とともに紐付けられて記録される。解析部16は、記録部15を通してメモリ18のデータを呼び出し、後述する解析手順に従って部分放電の有無を解析する。解析された結果は、表示部17に表示される。
【0020】
ここで、RFディテクタの動作について説明する。
図5は、部分放電が生じている際の、センサ11の出力a(実線)と電気機器に印可される50Hzの電源電圧b(点線)を示す図であり、横軸に時間(msec)、縦軸に信号強度を表している。
図6は、
図5におけるセンサ出力aを入力されたRFディテクタ13の出力c(実線)が示されている。部分放電に起因する信号が0msecから60msecまで10msecおきに生じているが、RFディテクタは、
図5のセンサ出力aのような、ひとかたまりの振幅信号のRFエネルギーを測定し、
図6に示すようなワンショットのパルス信号を出力する。
【0021】
このように、RFディテクタを使用することにより、高周波信号の振幅の集団をひとかたまりのグループとして扱うことができ、部分放電検出のためのサンプリングクロックや解析のための信号プロセッサーのクロックに比較的低速のものを使用することができる。すなわち、高級なICチップを使用する必要が少なくなるため、従来の解析装置と比較してコストを抑えることができる。またサンプリングクロックが低速であることによって、信号を記録するためのメモリー空間を節約することが可能になるという好適な効果も奏する。
【0022】
さらに
図5、
図6を参照して、部分放電検出装置10を詳細に説明する。
図5に示されるように、0msec、20msec、40msec、および、60msecのところに比較的大きいセンサ出力が、10msec、30msec、50msecのところに小さいセンサ出力が生じている。
図5、
図6からわかるように、部分放電は、電源電圧の立ち上がりと立ち下がりで生じる傾向にある。従って、電源周波数と同じサイクルで生じるセンサ出力信号が部分放電と関係性が深いことが考察される。この性質は後述する解析部16において、ノイズを除去する際に考慮されている。すなわち電源周波数と同じサイクルで発生していない信号は、部分放電とは関係ない信号として除去することができる。
【0023】
図7は、横軸に周波数(MHz)、縦軸に周波数成分強度を表すグラフで、
図5に示したセンサ出力信号を周波数と周波数成分強度に変換したスペクトル解析図である。
図7には、実線で描かれた部分放電が発生していない環境ノイズ波形dと2重線で描かれた部分放電発生時の波形eが示されている。
図7からわかるように、10~30MHz、40MHz、55MHz、70~90MHz近傍の領域では、部分放電発生時の信号が環境ノイズよりも充分大きくなっていることがわかる。すなわち周波数帯によってS/N比のよい領域があることが
図7より考察される。
【0024】
部分放電検出装置10は、そのセンサ11が真空コンデンサ1によって電源に接続される結合コンデンサ法を採用しているので、真空コンデンサ1の容量の選択が重要となる。上述したように40MHz以上でS/N比のよいサンプリングが可能である場合、真空コンデンサ1の容量を例えば80pFに設定する。この設定により真空コンデンサ1は、40MHzにおける容量リアクタンスは約50Ω、電源周波数である50Hzにおける容量リアクタンスは40MΩとなり、電源信号に対しては高インピーダンス、部分放電信号に対しては低インピーダンスとなる高域フィルタとして機能し、S/N比の良い信号サンプリングが可能となる。このように実施に当たっては、検出対象の信号のS/N比の良い周波数帯域に適合するように真空コンデンサ1の容量を任意に選択して良い。
【0025】
次に
図8と
図9を参照して、解析部16の動作を説明する。
図8、
図9は、横軸に時間(msec)、縦軸に信号強度を示すグラフで、それぞれ違う場面での部分放電発生時のRFディテクタの出力を表している。
図8、
図9に示されたデータは、サンプリング期間が、電源周波数が50Hzの場合の5周期分、100msecの期間のデータを示している。
【0026】
図3と
図4に示される解析部16は、まず、記録部15を通してメモリ18に記録された、
図8、
図9に示すようなデータを読み込む。次に解析部16のレベル判定部50は、
図8、
図9に点線で描かれた閾値T以上のレベルの信号を、解析の対象として抽出する。
信号の解析対象の判定に使われる閾値Tは、メモリ19に予め設定されている。レベル判定部50は、メモリ19の閾値Tの値を参照して信号を抽出する。ここにおいて閾値Tは、一定の値であってよいし、時刻ごとに異なった値を設定してよい。たとえば、深夜や早朝で、環境ノイズのレベルが比較的低い状態にある場合は、低めの閾値を設定してよい。一方、日中で、環境ノイズのレベルが比較的高い状態にある場合は、高めの閾値を設定してよい。このように、部分放電を観測する対象の環境ノイズの、時刻ごとの変化に対応して閾値Tを変更することによって、誤検出を防ぎ、部分放電の検出感度を向上させることができる。
【0027】
次に解析部16のノイズ除去部51は、レベル判定部50で抽出した、信号についてそれぞれ、電源周波数に対応する20msecごとの発生があるかどうかをチェックする。
図8にA、Bで示されたそれぞれのグループが20msecごとに発生があると判断された信号グループである。このとき、20msecごとの発生を確認する場合、きっかり20msecで判断するのではなくある範囲の値のゆらぎを考慮する。例えば、20msec+-0.5msecであれば、電源周期20msecに適合して発生していると判断する。
図8において、Cで示された信号群は、20msecの周期では発生していないので、ノイズ除去部51によって、ノイズと判定されて解析対象から除外される。すなわち
図8においては、グループAとグループBの信号群が解析対象になる。
このように電源周期と連動して発生する信号以外はノイズとして除去して解析が行われるので、部分放電に関係する信号を効率よく抽出し、誤検出を防ぎ、部分放電の検出感度を向上することができる。
【0028】
次に、解析部16の継続性判定部52は、20msecの周期で発生している信号群がサンプリング期間中どれくらいの頻度で発生しているかを調べる。
図8に示したグループAとグループBの信号群は、5周期中5回発生しているので、どちらも発生頻度5/5と判定される。
図9に示されたグループDの場合は、5周期中3回の発生なので、3/5と判定される。
継続性判定部52は、50Hzの電源周期5周期分の100msecの期間のデータを1セットとして、連続的に取得される複数セットのデータを順次解析する。ここで1セットのデータの電源周波数5サイクル中5回の周期データが観測されれば、5/5の事象が発生したと判断する。それぞれ5/5、4/5、3/5、2/5、と表現する、部分放電発生事象の判定がなされる都度に、各事象ごとに設けられたカウンタを1増加させて、各事象の発生回数をメモリ19に記録する。ここにおいて示された、n/5(n=2~5)で表された事象の意味は、5周期中n回20msecの周期に適合する信号が観測されたことを示している。
【0029】
解析部16の部分放電判定部53は、継続性判定部52で計数された各事象ごとのカウンタの値を監視し、各事象ごとに予め定められた回数以上の発生が確認されると部分放電の発生が生じたと判定する。例えば、各事象5/5、4/5、3/5、2/5、についてそれぞれ、100回、100回、500回、1000回の値以上で部分放電発生と判定する。
部分放電検出装置10は、このような手段によって、部分放電に起因する信号を部分放電発生の性質を利用して効率よく抽出し、誤検出を少なくし、かつ、部分放電の検出感度を向上させることができる。
【0030】
本実施形態では電源周波数として50Hzの場合を述べているが、電源周波数が60Hzの場合も周期性判定を20msecから16.6msecに変更することによって実施可能である。この周期性判定サイクルは観測環境に適合させて任意に変更可能である。また1セットのサンプリング期間も、本実施形態では電源周波数5サイクル(電源周波数50Hzの場合100msec)の例を述べているが、これに限定されるものではなく、観測対象の部分放電発生環境を考慮して適切なサンプリング期間を設定してよい。その際、各部分放電発生事象ごとに、部分放電判定のカウント数も適切な値を設定してよい。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下の説明では、上記第1の実施形態と共通する構成については、図中に同符号を付してその説明を省略する。
図10は、本発明の第2の実施形態に係る部分放電検出装置の概略構成図である。本実施形態では、第1の実施形態において3相交流の電源に取り付けられるセンサボックス7内のセンサ11に加え、センサ11の電源線への接続ポイントrp1、sp1、tp1から距離Lだけ離した位置にセンサボックス7A内のセンサ11Aの接続ポイントrp2、sp2、tp2が設けられている。また、第1の実施の形態でのセンサボックス7およびセンサ11の構成に加え、電動機5に給電される3相交流の電源線6のR相6-1、S相6-2、T相6-3のそれぞれが、接続ポイントrp2、sp2、tp2から引き出されてセンサボックス7Aに接続される。センサボックス7Aでは、接続ポイントrp2、sp2、tp2から引き出された電源線がブッシング9Aを介してセンサボックス7A内のセンサ11Aに接続され、その出力が計測システム8Aに供給されている。また、センサボックス7のセンサ11の出力は同様に計測システム8Aに供給されている。
【0032】
図11は、本実施形態に係る部分放電検出装置の構成を示す機能ブロック図である。この図においては、3相交流の1相の電源に係る装置の構成だけが示されるが、
図10に示されたR相、S相、T相の電源線に接続されるセンサを含む部分放電検出装置の構成は、それぞれ電源線ごとに
図11に示されるものと共通の構成を備えている。
本実施形態における部分放電検出装置10Aは、第1のセンサ11、RFディテクタ13、A/D変換器14、記録部15、解析部16A、表示部17、および、記録部15と解析部16Aにそれぞれ付属するメモリ18とメモリ19を備えている。この第1の実施形態と同様の構成に加え、本実施形態においては、さらに、第2のセンサ11A、第2のRFディテクタ13A、第2のA/D変換器14Aを備えている。上述したように第1のセンサ11と第2のセンサ11Aは、
図10に示すように距離Lを離して電源線に接続されている。
解析部16Aは、
図12に示すように、上記第1の実施形態と同様の構成に加え、第2のノイズ除去部51Aを備えている。
【0033】
本実施形態においては、第1のセンサ11からRFディテクタ13とA/D変換器14を経て記録部15に記録される信号と、第2のセンサ11AからRFディテクタ13AとA/D変換器14Aを経て記録部15に記録される信号は、それぞれ独立して記録される。解析部16Aは、第1のセンサ11と第2のセンサ11Aによって同一時刻、同一期間にサンプリングされた信号を、記録部15から読み出す。
図13は、第1のセンサ11と第2のセンサ11Aによって記録部に記録された信号を表しており、
図13(a)が第1のセンサ11によってサンプリングされた信号で、
図13(b)が、第2のセンサ11Aによってサンプリングされた信号である。解析部16Aのレベル判定部50は、第1の実施形態と同様に、閾値T以上のレベルの信号を、解析の対象として第1のセンサ11と第2のセンサ11Aによってサンプリングされた信号ごとにそれぞれ抽出する。
【0034】
解析部16Aには、第1の実施形態と同様のノイズ除去部51の処理の前に、ノイズ除去部51とは別の理論でノイズ除去の判断を行う第2のノイス除去部51Aが備えられている。
図13を参照して、第1のセンサ11からの信号の
図13(a)には、それぞれパルスa1とパルスa2が、第2のセンサ11Aからの信号の
図13(b)には、それぞれパルスb1とパルスb2が生じている。パルスb1はパルスa1に時間dtだけ遅れて発生しているのがわかる。このことは、発生源が同一のパルスがセンサ11の取り付け位置rp1からセンサ11Aの取り付け位置rp2へ通過していったことを意味しており、
図10において、センサ11Aの取り付け位置rp2は、センサ11の取り付け位置rp1より距離Lだけ電動機5から離れていることから、パルス伝搬の向きは、矢印D1であることがわかる。すなわちこの場合は、パルスの発生源は電動機5であることが特定され、パルスa1とパルスb1は、部分放電検出のための解析対象として第2のノイズ除去部51Aによって抽出される。
【0035】
一方、パルスa2は、パルスb2に、時間dtだけ遅れて発生しており、このことは、発生源が同一のパルスがセンサ11Aの取り付け位置rp2からセンサ11の取り付け位置rp1へ通過していったことを意味しており、
図10において、センサ11の取り付け位置rp1は、センサ11Aの取り付け位置rp2より距離Lだけ電動機5に近いことから、パルス伝搬の向きは、矢印D2であることがわかる。すなわち、すなわちこの場合は、このパルスは外部から電源線を伝わって電動機5に向かって伝搬してきたものであることが特定され、パルスa2とパルスb2は、部分放電検出のための解析対象外として第2のノイズ除去部51Aによって除去される。
【0036】
パルスの遅延時間dtは、電源線の特性と距離Lから予め計算され解析部16Aのメモリ19に設定されており、それぞれのパルスの遅延がdt近傍にないものは当該ノイズ判断の対象とされないため、誤検出を防ぎ、精度の良い部分放電検出が可能となっている。
この処理以後の部分放電検出装置の構成および動作は、第1の実施形態と同様のものが採用され、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
ここで、第1、第2の実施形態においては電動機が部分放電検出対象として記載されているがこれに限定されず、本発明は、部分放電の検出が必要とされるあらゆる電気機器に対応可能である。対象となる電気機器としては、電動機に加え、例えば、変圧器、開閉装置、発電機等である。
【0037】
(変形例)
上記実施形態では、センサ11、11Aの真空コンデンサ容量は、固定されたものとして記載されているがこれに限定されず、可変コンデンサとしても実施可能である。
図14には本変形例に係る部分放電検出装置のセンサの構成が示されており、
図14(a)は外観の斜視図、
図14(b)は回路図を示している。本変形例におけるセンサ11Cは、可変真空コンデンサ(VC)1Cと真空コンデンサで受けた信号を増幅する増幅部2を備えており、増幅部2は、増幅器3と抵抗4を備えている。部分放電検出装置としてのその他の部分の構成は、第1または第2の実施形態と同様のものを採用することができる。可変真空コンデンサ1Cは、つまみ110を回転することによって容量の値を変更することができ、部分放電検出における最適な容量値を検出現場で変更可能である。前述したようにセンサ11Cは、真空コンデンサ1Cにより高域フィルタとして機能しており、可変コンデンサの容量を変更することにより、観測する信号の帯域を選択可能となり、的確な部分放電検出のための信号サンプリングが可能である。このことにより、より様々な現場に適応可能な部分放電検出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0038】
11、11A センサ
1、1C 真空コンデンサ
13、13A RFディテクタ
15 記録部
16、16A 解析部
50 レベル判定部
51、51A ノイズ除去部
52 継続性判定部
53 部分放電判定部
T 閾値