(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】マルチプレクサ、フィルタおよび通信用モジュール
(51)【国際特許分類】
H03H 7/46 20060101AFI20231026BHJP
H01G 4/40 20060101ALI20231026BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20231026BHJP
H03H 7/075 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H03H7/46 A
H01G4/40 321A
H01F27/00 S
H03H7/075 Z
(21)【出願番号】P 2019116653
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 普乙
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007045(JP,A)
【文献】特開2006-049840(JP,A)
【文献】特開2003-209454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F27/00-27/06
H01G4/00-4/40
H01G13/00-13/06
H03H1/00-7/13
H03H7/30-7/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層が積層方向に積層され、第1表面と前記第1表面の反対の第2表面とを有する積層体と、
積層体の表面に設けられた共通端子、第1端子、第2端子およびグランド端子と、
前記積層体内に設けられ前記共通端子と前記第1端子との間に電気的に接続された第1フィルタと、
前記積層体内に設けられ、前記共通端子と前記第2端子との間を電気的に接続する第1インダクタと、
前記積層体内に設けられ、前記第1インダクタと前記第2端子との間に前記第1インダクタと直列接続され、少なくとも一部が前記第1インダクタの少なくとも一部と前記積層方向において重なり、前記共通端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスが前記第1インダクタの前記共通端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスより大きい第2インダクタと、
を備える第2フィルタと、
前記第1インダクタの前記共通端子側の一端と前記第2インダクタの前記共通端子側の一端との少なくとも一方と前記グランド端子との間に電気的に接続され、前記積層方向において前記第1インダクタおよび前記第2インダクタと前記第1表面との間に設けられたキャパシタと、
を備え
、
前記積層方向において、前記第2インダクタは前記第1インダクタと前記第2表面との間に設けられているマルチプレクサ。
【請求項2】
前記キャパシタの一端は前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間のノードに電気的に接続され、前記キャパシタの他端は前記グランド端子に電気的に接続された請求項
1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記第1インダクタおよび前記第2インダクタは渦巻状または螺旋状であり、
前記積層方向からみた前記第1インダクタにおける前記共通端子から前記第2端子への回転方向と、前記第2インダクタにおける前記共通端子から前記第2端子への回転方向とが同じである請求項
2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記共通端子、前記第1端子、前記第2端子および前記グランド端子は、前記第1表面に設けられている請求項
1から
3のいずれか一項に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記共通端子、前記第1端子、前記第2端子および前記グランド端子は、前記第2表面に設けられていない請求項4に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
前記第2表面と前記第2インダクタとの間にシールド電極は設けられていない請求項
1から5のいずれか一項に記載のマルチプレクサ。
【請求項7】
前記第1フィルタはハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタであり、前記第2フィルタは通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より低いローパスフィルタである請求項1から6のいずれか一項に記載のマルチプレクサ。
【請求項8】
複数の誘電体層が積層方向に積層され、第1表面と前記第1表面の反対の第2表面とを有する積層体と、
積層体の表面に設けられ、アンテナに電気的に接続される第1信号端子、第2信号端子およびグランド端子と、
前記積層体内に設けられ、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間を電気的に接続する第1インダクタと、
前記積層体内に設けられ、前記第1インダクタと前記第2信号端子との間に前記第1インダクタと直列接続され、少なくとも一部が前記第1インダクタの少なくとも一部と前記積層方向において重なり、前記第1信号端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスが前記第1インダクタの前記第1信号端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスより大きい第2インダクタと、
前記第1インダクタの前記第1信号端子側の一端と前記第2インダクタの前記第1信号端子側の一端との少なくとも一方と前記グランド端子との間に電気的に接続され、前記積層方向において前記第1インダクタおよび前記第2インダクタと前記第1表面との間に設けられたキャパシタと、
を備え
、
前記積層方向において、前記第2インダクタは前記第1インダクタと前記第2表面との間に設けられているフィルタ。
【請求項9】
前記キャパシタの一端は前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間のノードに電気的に接続され、前記キャパシタの他端は前記グランド端子に電気的に接続された請求項8に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記第1信号端子、前記第2信号端子および前記グランド端子は、前記第1表面に設けられ、前記第2表面に設けられていない請求項8または9に記載のフィルタ。
【請求項11】
請求項
1から7のいずれか一項に記載のマルチプレクサと、
前記第2表面に空隙または前記積層体と異なる絶縁体を介して設けられたシールド電極と、
を備える通信用モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプレクサ、フィルタおよび通信用モジュールに関し、例えば複数の誘電体層が積層された積層体を有するマルチプレクサ、フィルタおよび通信用モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートホンや携帯電話等の無線通信端末には、不要な妨害波を除去するフィルタおよびダイプレクサ等のマルチプレクサが用いられている。フィルタおよびマルチプレクサとして、誘電体層を積層した積層体を用いることが知られている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチプレクサが形成された積層体にシールド等の基準電位の導電体が近接すると、マルチプレクサの特性が変化することがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性の変化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の誘電体層が積層方向に積層され、第1表面と前記第1表面の反対の第2表面とを有する積層体と、積層体の表面に設けられた共通端子、第1端子、第2端子およびグランド端子と、前記積層体内に設けられ前記共通端子と前記第1端子との間に電気的に接続された第1フィルタと、前記積層体内に設けられ、前記共通端子と前記第2端子との間を電気的に接続する第1インダクタと、前記積層体内に設けられ、前記第1インダクタと前記第2端子との間に前記第1インダクタと直列接続され、少なくとも一部が前記第1インダクタの少なくとも一部と前記積層方向において重なり、前記共通端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスが前記第1インダクタの前記共通端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスより大きい第2インダクタと、を備える第2フィルタと、前記第1インダクタの前記共通端子側の一端と前記第2インダクタの前記共通端子側の一端との少なくとも一方と前記グランド端子との間に電気的に接続され、前記積層方向において前記第1インダクタおよび前記第2インダクタと前記第1表面との間に設けられたキャパシタと、を備え、前記積層方向において、前記第2インダクタは前記第1インダクタと前記第2表面との間に設けられているマルチプレクサである。
【0007】
上記構成において、前記キャパシタの一端は前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間のノードに電気的に接続され、前記キャパシタの他端は前記グランド端子に電気的に接続された構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第1インダクタおよび前記第2インダクタは渦巻状または螺旋状であり、前記積層方向からみた前記第1インダクタにおける前記共通端子から前記第2端子への回転方向と、前記第2インダクタにおける前記共通端子から前記第2端子への回転方向とが同じである構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記共通端子、前記第1端子、前記第2端子および前記グランド端子は、前記第1表面に設けられている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記共通端子、前記第1端子、前記第2端子および前記グランド端子は、前記第2表面に設けられていない構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2表面と前記第2インダクタとの間にシールド電極は設けられていない構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1フィルタはハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタであり、前記第2フィルタは通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より低いローパスフィルタである構成とすることができる。
【0013】
本発明は、複数の誘電体層が積層方向に積層され、第1表面と前記第1表面の反対の第2表面とを有する積層体と、積層体の表面に設けられ、アンテナに電気的に接続される第1信号端子、第2信号端子およびグランド端子と、前記積層体内に設けられ、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間を電気的に接続する第1インダクタと、前記積層体内に設けられ、前記第1インダクタと前記第2信号端子との間に前記第1インダクタと直列接続され、少なくとも一部が前記第1インダクタの少なくとも一部と前記積層方向において重なり、前記第1信号端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスが前記第1インダクタの前記第1信号端子側の一端と前記グランド端子との間のキャパシタンスより大きい第2インダクタと、前記第1インダクタの前記第1信号端子側の一端と前記第2インダクタの前記第1信号端子側の一端との少なくとも一方と前記グランド端子との間に電気的に接続され、前記積層方向において前記第1インダクタおよび前記第2インダクタと前記第1表面との間に設けられたキャパシタと、を備え、前記積層方向において、前記第2インダクタは前記第1インダクタと前記第2表面との間に設けられているフィルタである。
【0014】
上記構成において、前記キャパシタの一端は前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間のノードに電気的に接続され、前記キャパシタの他端は前記グランド端子に電気的に接続された構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1信号端子、前記第2信号端子および前記グランド端子は、前記第1表面に設けられ、前記第2表面に設けられていない構成とすることができる。
【0016】
本発明は、上記マルチプレクサと、前記第2表面に空隙または前記積層体と異なる絶縁体を介して設けられたシールド電極と、を備える通信用モジュールである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施例1に係るマルチプレクサの回路図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係るマルチプレクサの斜視図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(f)は、実施例1に係るマルチプレクサの積層体内の各誘電体層を示す平面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(e)は、実施例1に係るマルチプレクサの積層体内の各誘電体層を示す平面図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(f)は、実施例1に係るマルチプレクサの積層体内の各誘電体層を示す平面図である。
【
図6】
図6(a)から
図6(c)は、シミュレーションしたフィルタAからCの断面模式図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、フィルタAからCにおけるフィルタの通過特性を示す図である。
【
図8】
図8は、フィルタCにおけるキャパシタC1の面積に対する周波数変動を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例2に係る通信用モジュールが用いられるフロントエンド回路の回路図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、実施例2に係る通信用モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
実施例1として、ローパスフィルタ(LPF)とハイパスフィルタ(HPF)を有するダイプレクサを例に説明する。
図1は、実施例1に係るマルチプレクサの回路図である。
図1に示すように、マルチプレクサ100は、端子T1、T2、共通端子Ta、グランド端子Tg、フィルタ20および21を有する。グランドG1からG4はグランド端子Tgに接続されている。
【0021】
共通端子Taと端子T1との間にフィルタ21が接続され、共通端子Taと端子T2との間にフィルタ20が接続されている。フィルタ20はローパスフィルタ(LPF)であり、フィルタ21はハイパスフィルタ(HPF)である。フィルタ20の通過帯域はフィルタ21の通過帯域より低い。
【0022】
フィルタ20は共通端子Taに入力した高周波信号のうち通過帯域の信号を端子T2に通過させフィルタ21の通過帯域を含む他の周波数帯域の信号を抑圧する。フィルタ21は共通端子Taに入力した高周波信号のうち通過帯域の信号を端子T1に通過させフィルタ20の通過帯域を含む他の周波数帯域の信号を抑圧する。フィルタ20および21はそれぞれ端子T2およびT1から入力した高周波信号についても同様に通過帯域の信号を共通端子Taに通過させ他の周波数帯域の信号を抑圧する。
【0023】
フィルタ20はインダクタL1、L2およびキャパシタC1からC3を備えている。インダクタL1およびL2は共通端子Taと端子T2との間に直列に接続されている。キャパシタC1はインダクタL1とL2との間のノードN2とグランドG1との間に接続されている。キャパシタC2はインダクタL2に並列に接続されている。キャパシタC3はインダクタL2の端子T2側のノードN3とグランドG2との間に接続されている。インダクタL1の共通端子Ta側のノードN1とグランドとの間にキャパシタは接続されていないが、寄生キャパシタンスに対応するキャパシタンスC0が存在する。
【0024】
フィルタ21はインダクタL3、L4およびキャパシタC4からC7を備えている。キャパシタC4およびC5は共通端子Taと端子T1との間に直列に接続されている。キャパシタC6はキャパシタC4とC5との間のノードN5とノードN7との間に接続されている。インダクタL3はノードN7とグランドG3との間に接続されている。キャパシタC7はキャパシタC5の端子T1側のノードN6とノードN8との間に接続されている。インダクタL4はノードN8とグランドG4との間に接続されている。
【0025】
図2は、実施例1に係るマルチプレクサの斜視図である。
図2に示すように、マルチプレクサ100は、積層体10を有している。積層体10の下面51に端子14が設けられている。端子14は、例えば共通端子Ta、端子T1、T2およびグランド端子Tgである。積層体10の上面52に方向識別マークとなる導電体パターン12aが設けられている。
【0026】
図3(a)から
図5(f)は、実施例1に係るマルチプレクサの積層体10内の各誘電体層を示す平面図である。
図3(a)から
図5(e)は、それぞれ誘電体層11aから11pの上面の導電体パターン12aから12pを図示する平面図である。
図5(f)は、誘電体層11pの下面の端子14を上から透視した平面図である。
図3(c)から
図5(f)は、それぞれ誘電体層11bから11pを貫通するビア配線13bから13pを図示する。
図3(a)から
図5(f)は、各ノードN1からN8および各グランドG1からG4に相当する箇所を図示している。誘電体層11aから11pの大きさは2.5mm×2.0mmである。
【0027】
図3(a)に示すように、誘電体層11aの上面52には方向識別マークとなる導電体パターン12aが設けられている。
図3(b)に示すように、誘電体層11bの上面には、インダクタL3の一部L3aおよびインダクタL4の一部L4aとなる導電体パターン12bが設けられている。
図3(c)に示すように、誘電体層11cの上面には、インダクタL2となる導電体パターン12cが設けられている。
【0028】
図3(d)に示すように、誘電体層11dの上面には、インダクタL3の一部L3bおよびインダクタL4の一部L4bとなる導電体パターン12dが設けられている。
図3(e)に示すように、誘電体層11eの上面には、インダクタL3の一部L3cとなる導電体パターン12eが設けられている。
図3(f)に示すように、誘電体層11fの上面には、インダクタL1の一部L1aとなる導電体パターン12fが設けられている。
【0029】
図4(a)に示すように、誘電体層11gの上面にはインダクタL1の一部L1bとなる導電体パターン12gが設けられている。
図4(b)に示すように、誘電体層11hの上面には、キャパシタC7の電極C7aとなる導電体パターン12hが設けられている。
図4(c)に示すように、誘電体層11iの上面には、キャパシタC5の電極C5a、キャパシタC6の電極C6aおよびキャパシタC7の電極C7bとなる導電体パターン12iが設けられている。
【0030】
図4(d)に示すように、誘電体層11jの上面には、キャパシタC4の電極C4a、キャパシタC5の電極C5bおよびキャパシタC6の電極C6bとなる導電体パターン12jが設けられている。
図4(e)に示すように、誘電体層11kの上面には、キャパシタC4の電極C4bとなる導電体パターン12kが設けられている。
【0031】
図5(a)に示すように、誘電体層11lの上面にはキャパシタC2の電極C2aとなる導電体パターン12lが設けられている。
図5(b)に示すように、誘電体層11mの上面には、キャパシタC2の電極C2bとなる導電体パターン12mが設けられている。
図5(c)に示すように、誘電体層11nの上面には、キャパシタC1の電極C1aとなる導電体パターン12nが設けられている。
【0032】
図5(d)に示すように、誘電体層11oの上面には、キャパシタC3の電極C3aとなる導電体パターン12oが設けられている。
図5(e)に示すように、誘電体層11pの上面には、ビア配線13pを介しグランド端子Tgと電気的に接続されたグランド電極Gとなる導電体パターン12pが設けられている。グランド電極Gの一部はキャパシタC1の電極C1bおよびキャパシタC3の電極C3bとして機能する。
図5(f)に示すように、誘電体層11pの下面51には共通端子Ta、端子T1、T2およびグランド端子Tgとして機能する端子14が設けられている。
【0033】
このように、フィルタ20および21は積層体10内に設けられている。端子T1、T2、共通端子Taおよびグランド端子Tgは積層体10の表面に設けられている。
【0034】
誘電体層11aから11fは、セラミック材料からなり、主成分として例えばSi、CaおよびMgの酸化物(例えばディオプサイド結晶であるCaMgSi2O6)を含む。誘電体層11aから11fの主成分は、Si、Caおよび/またはMg以外の酸化物でもよい。さらに、誘電体層11aから11fは、絶縁体材料としてTi、ZrおよびAlの少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。
【0035】
導電体パターン12aから12p、ビア配線13bから13pおよび端子14の上部は、例えばAg、Pd、Pt、Cu、Ni、Au、Au-Pd合金またはAg-Pt合金を主成分とする金属層である。端子14の上部は、上記金属材料に加えTiO2、ZrO2またはAl2O3等の伝導性材料を含んでもよい。端子14の下部は、Ni膜およびSn膜である。
【0036】
マルチプレクサ100を実装基板に実装したときに、インダクタL1からL4の近くに実装基板のグランド電極が位置すると、渦電流損によりインダクタL1からL4のQ値等の特性が低下する。また、インダクタL1からL4とグランド電極との間の寄生キャパシタンスにより特性が変化する。例えばインダクタL1からL4のインダクタンスが小さくなる。これらによりフィルタ特性が変化してしまう。そこで、インダクタL1からL4と端子14との間にキャパシタC1からC7を設ける。また、グランド電極GをキャパシタC1からC7と端子14の間に設ける。これにより、実装基板のグランド電極とインダクタL1からL4との距離を大きくできる。よって、グランド電極によるインダクタL1からL4の特性変化を抑制でき、フィルタ特性の変化を抑制できる。
【0037】
しかしながら、マルチプレクサ100を実装したときにマルチプレクサ100の上方にシールド電極を配置することがある。インダクタL1からL4は積層体10の上部に設けられているため、シールド電極とインダクタL1からL4との距離が小さくなる。これにより、インダクタL1からL4の特性が変化しフィルタ特性が変化してしまう。特にフィルタ20はフィルタ21に比べ、インダクタL1およびL2の特性変化によるフィルタ特性変化が大きい。
【0038】
[シミュレーション]
フィルタ20としてフィルタA、BおよびCについて、マルチプレクサの上方にシールド電極24を設けた場合と設けない場合との特性の変化を3次元シミュレーションした。
【0039】
図6(a)から
図6(c)は、シミュレーションしたフィルタAからCの断面模式図である。
図6(a)から
図6(c)に示すように、積層体10内にインダクタL1、L2、キャパシタC1からC3およびグランド電極Gが設けられている。インダクタL1およびL2はキャパシタC1からC3より上に設けられている。積層体10の上方にシールド電極24を配置する。シールド電極24と積層体10の上面52との距離D1は約50μmである。
【0040】
図6(a)のように、フィルタAでは、インダクタL1とL2は同じ高さに設けられている。積層体10の上面52とインダクタL1およびL2の最上部との距離D2は約50μmである。
【0041】
図6(b)のように、フィルタBでは、インダクタL1とL2は同じ高さに設けられている。積層体10の上面52とインダクタL1およびL2の最上部との距離D2は約350μmである。
【0042】
図6(c)のように、フィルタCでは、インダクタL2はインダクタL1と積層体10の上面52との間に設けられている。積層体10の上面52とインダクタL2の最上部との距離D2は約50μmである。インダクタL1の最上部とインダクタL2の最下部との距離D3は約200μmである。インダクタL1の最下部とキャパシタC1からC3の最上部との距離D4は約200μmである。
【0043】
フィルタCのシミュレーションは、
図3(a)から
図5(f)に示したパターンを用いて行った。フィルタAおよびBのシミュレーションは各インダクタおよびキャパシタの大きさはフィルタCと同じであり、インダクタL1およびL2を
図6(a)および
図6(b)のように配置して行った。
【0044】
図7(a)から
図7(c)は、フィルタAからCにおけるフィルタの通過特性を示す図である。実線はシールド電極24を設けないときのフィルタ20の通過特性、破線はグランド電位のシールド電極24を設けたときのフィルタ20の通過特性を示している。
【0045】
図7(a)に示すように、フィルタAでは、シールド電極24を設けると、通過特性が大きく変化する。シールド電極24を設けないとき、1.5GHzにおける損失は0.94dBに対し、シールド電極24を設けると、1.5GHzにおける損失は1.28dBである。このように、フィルタAでは、シールド電極24を設けると損失が大きくなる。
【0046】
図7(b)に示すように、フィルタBでは、シールド電極24を設けたときの通過特性の変化は小さい。シールド電極24を設けたときの1.5GHzにおける損失は1.03dBである。このように、フィルタBでは、シールド電極24とインダクタL1およびL2との距離が長くなるため、フィルタ特性の劣化が小さい。しかし、フィルタ特性は少し劣化する。
【0047】
図7(c)に示すように、フィルタCでは、シールド電極24を設けたときの通過特性の変化はほとんどない。シールド電極24を設けたときの1.5GHzにおける損失は0.96dBであり、シールド電極24を設けないときの損失0.94dBとほとんど変わらない。このように、フィルタCでは、フィルタBより損失が小さい。
【0048】
フィルタCのように、インダクタL1とL2とを積層すると、インダクタL2とシールド電極24との間の寄生キャパシタンスは大きいもののインダクタL1とシールド電極24との間の寄生キャパシタンスは小さい。これにより、シールド電極24がフィルタ特性に影響しにくくなると考えられる。
【0049】
特に、インダクタL1およびL2のうち共通端子Ta側の一端の接地キャパシタンスの大きいインダクタL2は、シールド電極24との間に寄生キャパシタンスが付加されても寄生キャパシタンスの影響が小さい。よって、インダクタL2をインダクタL1とシールド電極24との間に設けることが好ましい。
【0050】
図8は、フィルタCにおけるキャパシタC1の面積に対する周波数変動を示す図である。キャパシタC1の面積は電極C1aの面積に対応する。周波数変動はシールド電極24の有無によるフィルタCのカットオフ周波数の周波数変動を示す。ドットはシミュレーションを行った点であり、破線は近似直線である。
図8に示すように、キャパシタC1の面積が大きくなる(すなわちキャパシタンスが大きくなる)と周波数変動が小さくなる。このように、ノードN2とグランド端子Tgとの間のキャパシタンスが大きくなると、シールド電極24によるフィルタ特性の変化が小さくなる。
【0051】
実施例1によれば、マルチプレクサ100は、共通端子Taと端子(第1端子)との間に電気的に接続されたフィルタ21(第1フィルタ)と、共通端子Taと端子T2(第2端子)との間にフィルタ20(第2フィルタ)を備えている。フィルタ20は共通端子Taと端子T2との間を電気的に接続するインダクタL1(第1インダクタ)と、インダクタL1と端子T2との間にインダクタL1と直列接続されたインダクタL2(第2インダクタ)とを備える。インダクタL2の少なくとも一部がインダクタL1の少なくとも一部と積層方向において重なり、ノードN2(インダクタL2の共通端子側の一端)とグランド端子Tgとの間のキャパシタンスがノードN1(インダクタL1の共通端子側の一端)とグランド端子Tgとの間のキャパシタンスより大きい。
【0052】
このように、接地キャパシタンスの大きいインダクタL2をインダクタL1と重ねることで、シールド電極24の有無による特性変化を抑制できる。
【0053】
インダクタL2の少なくとも一部がインダクタL1の少なくとも一部と積層方向において重なるとは、インダクタを形成する導電体パターンで囲まれた領域が重なることも含む。すなわち、インダクタL2を形成する導電体パターンと導電体パターンが囲む領域の少なくとも一部がインダクタL1を形成する導電体パターンと導電体パターンが囲む領域の少なくとも一部と積層方向において重なればよい。
【0054】
実装基板に実装される積層体10の下面51付近にはキャパシタC1からC3を設け、インダクタL1およびL2は下面51から離すことにより、実装基板内のグランド電極等によりインダクタL1およびL2の特性が変化することを抑制できる。しかし、積層体10の上面52上にシールド電極24が設けられると、インダクタL1およびL2の特性が変化してしまう。
【0055】
そこで、ノードN2とグランド端子Tgとの間に電気的に接続されたキャパシタC2を含むキャパシタC1からC3が、積層方向においてインダクタL1およびL2と積層体10の下面51(第1表面と)の間に設けられているときに、積層方向において、インダクタL2はインダクタL1と積層体10の上面52(第2表面)との間に設ける。
【0056】
これにより、接地キャパシタンスの大きいインダクタL2がインダクタL1と上面52との間に位置する。これにより、下面51の下方の実装基板内のグランド電極および上面52の上方のシールド電極24によるインダクタL1およびL2の特性変化を抑制できる。キャパシタは、ノードN1とN2との少なくとも一方と、グランド端子Tgと、の間に電気的に接続されていればよい。
【0057】
キャパシタC2の一端はインダクタL1とL2との間のノードN2に電気的に接続され、キャパシタC2の他端はグランド端子Tgに電気的に接続されている。フィルタ20と21との位相をほぼ反転させるため、ノードN1の接地キャパシタンスを小さくし、ノードN4の接地インダクタンスを小さくすることが好ましい。このため、ノードN1とグランド端子Tgとの間にはキャパシタを電気的に接続せず、寄生キャパシタンスのみとするかキャパシタC2のより小さいキャパシタを電気的に接続する。よって、接地キャパシタンスの大きいインダクタL2をインダクタL1より上面52側に設けることが好ましい。
【0058】
インダクタL1およびL2は渦巻状または螺旋状であり、積層方向からみたインダクタL1における共通端子Taから端子T2への回転方向と、インダクタL2における共通端子Taから端子T2への回転方向とが同じである。例えば
図3(c)のようにインダクタL2の共通端子Taから端子T2(すなわちノードN2からN3)への回転方向は右回りであり、
図3(f)および
図4(a)のようにインダクタL1の共通端子Taから端子T2(すなわちノードN1からN2)への回転方向は右回りである。発明者の知見によると、このように、インダクタL1とL2の回転方向が同じであるとき、回転方向が反対方向のときに比べキャパシタC1を大きくすることになる。よって、インダクタL1およびL2の特性変化をより抑制できる。
【0059】
共通端子Ta、端子T1、端子T2およびグランド端子Tgは積層体10の下面51に設けられている。このとき、下面51が実装基板に実装される。よって、下面51の下方の実装基板内のグランド電極および上面52の上方のシールド電極24によるインダクタL1およびL2の特性変化をより抑制できる。
【0060】
積層体10の上面52とインダクタL2との間にシールド電極は設けられていない。このように、積層体10のインダクタL2上にシールド電極が設けられていないとき、積層体10の上方のシールド電極24の有無によりインダクタL1およびL2の特性は変化する。よって、積層体10の上面52とインダクタL1との間に接地キャパシタンスの大きいインダクタL2を設けることが好ましい。
【0061】
フィルタ20がローパスフィルタであり、フィルタ21がハイパスフィルタの例を説明したが、フィルタ21はバンドパスフィルタでもよい。フィルタ20の通過帯域はフィルタ21の通過帯域より低い。これにより、マルチプレクサ100はダイプレクサとして機能する。フィルタ20は、共通端子Taと端子T2との間に直列接続された3個以上のインダクタを有してもよい。例えば、一端がノードN3に電気的に接続され、他端が端子T2に電気的に接続されたインダクタを備えてもよい。フィルタ21は、実施例1以外の構成でもよい。
【0062】
実施例1ではマルチプレクサとしてダイプレクサを例に説明したが、マルチプレクサは例えばトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。実施例1では、マルチプレクサの例を説明したが、積層体10にはフィルタ20が設けられ、フィルタ21は設けられていなくてもよい。この場合、共通端子Taはアンテナに電気的に接続される第1信号端子として機能し、端子T2は第2信号端子として機能する。
【実施例2】
【0063】
実施例2は、実施例1が用いられる通信用モジュールの例である。
図9は、実施例2に係る通信用モジュールが用いられるフロントエンド回路の回路図である。
図9に示すように、フロントエンド回路102は、ハイパスフィルタ(HPF)31、バンドパスフィルタ(BPF)32、ローパスフィルタ(LPF)33、スイッチ34、デュプレクサ37、パワーアンプ(PA)38およびローノイズアンプ(LNA)39を備えている。
【0064】
共通端子Taにアンテナ30が接続される。共通端子Taには、HPF31、BPF32およびLPF33の一端が共通に接続されている。HPF31、BPF32およびLPF33の他端には各々スイッチ34が接続されている。HPF31はハイバンドの高周波信号を通過させ他の周波数の信号を抑圧する。BPF32はハイバンドより周波数の低いミドルバンドの高周波信号を通過させ他の周波数の信号を抑圧する。LPF33はミドルバンドより周波数の低いローバンドの高周波信号を通過させ他の周波数の信号を抑圧する。
【0065】
スイッチ34には複数のデュプレクサ37の共通ノードNaが接続されている。スイッチ34は、複数のデュプレクサ37から1つを選択し、HPF31、BPF32およびLPF33の他端に接続する。デュプレクサ37はBPFである送信フィルタ35とBPFである受信フィルタ36を有している。送信フィルタ35および受信フィルタ36はそれぞれPA38およびLNA39に接続されている。
【0066】
送信端子Txに入力された送信信号はPA38により増幅される。送信フィルタ35は増幅された信号のうち送信帯域の高周波信号を共通ノードNaに出力し他の周波数の信号を抑圧する。濾過された送信信号がスイッチ34と、HPF31、BPF32またはLPF33と、を通過しアンテナ30から出力される。
【0067】
アンテナ30に入力された受信信号は、HPF31、BPF32またはLPF33と、スイッチ34と、を通過する。受信フィルタ36は、共通ノードNaに入力した高周波信号のうち受信帯域の信号を通過させ他の周波数の信号を抑圧する。濾過された受信信号は、LNA39により増幅され受信端子Rxに出力される。
【0068】
通信用モジュールは、LPF33を実施例1のフィルタ20、HPF31および/またはBPF32を実施例1のフィルタ21としたマルチプレクサと、フロントエンド回路102のうちの他の部品とを実装することができる。
【0069】
図10(a)および
図10(b)は、実施例2に係る通信用モジュールの断面図である。
図10(a)および
図10(b)に示すように、実装基板15上にマルチプレクサ100が搭載されている。積層体10の端子14は実装基板15の上面に設けられた端子16に半田18を介し接合されている。積層体10の上面52の上方にシールド電極24が設けられている。
図10(a)では、シールド電極24が積層体10の上面52に空隙26を介し設けられている。
図10(b)では、シールド電極24が上面52に積層体10の材料と異なる絶縁体28(例えば樹脂)を介し設けられている。シールド電極24には、例えばグランド電位が供給される。
【0070】
実施例2の通信用モジュールでは、積層体10の上面52上にシールド電極24が設けられているが、実施例1のマルチプレクサを用いることにより、フィルタ20の特性の変化および劣化を抑制できる。
【0071】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 積層体
11a-11p 誘電体層
12a-12p 導電体パターン
13b-13p ビア配線
14 端子
51 下面
52 上面