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特許7373349糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマトデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマトデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231026BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231026BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/53 S
G01N33/569
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019184047
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021060255
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】村松 志野
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151330(JP,A)
【文献】特開2019-109091(JP,A)
【文献】特開2012-168051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸塩若しくは酸性溶液と混合した検体を添加するサンプルパッド、糖鎖抗原に対する抗体を標識した標識抗体を含む標識体領域及び前記糖鎖抗原に対する抗体を固相化した検出領域を含み、検出領域において抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体を形成させ、糖鎖抗原を測定するイムノクロマト試験片であって、前記標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に、亜硝酸塩と混合した検体を用いるときには固形状酸性試薬を含浸させた領域を有し、酸性溶液と混合した検体を用いるときには亜硝酸塩を含浸させた領域を有する、検体中の糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片と該試験片を格納する容器よりなり、該容器は上の蓋部分と下の容器部分からなり、上の蓋部分はイムノクロマト試験片の上側を支持する突起からなる上部支持体を有し、下の容器部分はイムノクロマト試験片の下側を支持する突起からなる下部支持体を有し、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの上部に検体滴加口を有するイムノクロマトデバイスであって、
イムノクロマト試験片を支持する下部支持体を形成する突起部分に傾斜を持たせ、さらに、下部支持体は、イムノクロマト試験片のサンプルパッドを押さえた場合に、イムノクロマト試験片の下流部に向かって突起の高さが小さくなるように傾斜、すなわち、イムノクロマト試験片の下流方向に下る傾斜を有し、サンプルパッドを押さえつける押圧が上流から下流に向かって弱くなることを特徴とする、イムノクロマトデバイス。
【請求項2】
イムノクロマト試験片を支持する上部支持体及び下部支持体を形成する突起部分に傾斜を持たせたことを特徴とする、請求項1記載のイムノクロマトデバイス。
【請求項3】
イムノクロマト試験片の上部支持体の突起部分の傾斜がイムノクロマト試験片の下流方向に上ることを特徴とする、請求項1又は2に記載のイムノクロマトデバイス。
【請求項4】
糖鎖抗原が、原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア又はウイルスの糖鎖抗原である、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマトデバイス。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマトデバイスを用いてイムノクロマト法により検体中の糖鎖抗原を測定する方法であって、
イムノクロマトデバイスが固形状酸性試薬を含浸させた領域を有するときに検体を亜硝酸溶液と混合し、イムノクロマトデバイスが亜硝酸塩を含浸させた領域を有するときに検体を酸性溶液と混合し、前記イムノクロマトデバイスのサンプルパッドに添加することを含み、
固形状酸性試薬を含浸させた領域又は亜硝酸塩を含浸させた領域において、亜硝酸塩と固形状酸性試薬の反応により発生した亜硝酸の作用により検体から糖鎖抗原が抽出され、 中和試薬を含浸させた領域において、前記糖鎖抗原を含む酸性溶液が中和され、
検出領域において、抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体が形成される、糖鎖抗原の抽出を促進して、イムノクロマト法により、検体中の糖鎖抗原を測定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマト試験片上で糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をすることが可能な、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマトデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト法を原理とする迅速診断薬の多くは、ウイルス又は細菌感染症を迅速・簡便に測定し、治療方針を決定する一つの手段として広く使用されている。
【0003】
一般的なイムノクロマト法を原理とする迅速診断薬は、検体を検体浮遊液に浮遊させた後、その浮遊液をイムノクロマト試験片に供給することで迅速・簡便に測定できる。
【0004】
A群β溶血性レンサ球菌(A群β溶連菌)、口腔内レンサ球菌等ストレプトコッカス属に属する微生物を検出するためには糖鎖抗原を抽出し、糖鎖抗原を測定する必要がある。
【0005】
例えば、イムノクロマト試験片に予め亜硝酸ナトリウムと中和試薬を含ませておき、検体を酢酸等の酸性溶液に浮遊してイムノクロマト試験片に供給する操作のみで亜硝酸抽出処理をイムノクロマト試験片上で行う方法が報告されている(特許文献1)。
【0006】
また、イムノクロマト試験片に予め酸性試薬と中和試薬を含ませておき、検体を亜硝酸塩に浮遊してイムノクロマト試験片に供給する方法もある。
【0007】
イムノクロマト法においては、イムノクロマト試験片におけるクロマト展開スピードを制御する必要があることがあり、デバイス形状で制御するもの、貼り合わせ位置で制御するもの、使う素材(不織布などのマテリアル)で制御するもの、試薬で制御するもの等のイムノクロマト法が報告されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開WO2005/121794号公報
【文献】特開2005-331471号公報
【文献】特開2005-331463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
A群β溶血性レンサ球菌(A群β溶連菌)、口腔内レンサ球菌等ストレプトコッカス属に属する微生物を検出するためには糖鎖抗原を抽出し、糖鎖抗原を測定する。
【0010】
糖鎖抗原を抽出するためには、亜硝酸が必要である。亜硝酸は単独では不安定なので、亜硝酸抽出には、亜硝酸塩溶液と酸溶液(酢酸、クエン酸、酒石酸など)を用時混合し、亜硝酸を発生させることで抗原抽出を行っている。
【0011】
A群β溶血性レンサ球菌(A群β溶連菌)等をイムノクロマト法で検出する場合、亜硝酸溶液または酸溶液のどちらか一方を、塗布、乾燥させ、イムノクロマト試験片に組込めばよい。このような試薬形態では、液状試薬と比較して、試薬の混合操作が不要で操作が簡便になる一方で、試薬混合後、通常のイムノクロマト法のように短時間で試料が展開すると、亜硝酸抽出処理が十分に行われないため、感度不足になるという課題があった。
【0012】
液状試薬を混合して亜硝酸抽出をする試薬形態では、通常試料を1~2分抽出する。したがって、液状形態と同等の感度を出すためには、イムノクロマト試験片上の試料が中和される上流で、1~2分間保持されることが必要であった。
【0013】
それに対し、抽出を十分に行うため、疎水性の素材で亜硝酸や酸を含むパッドを作製し使用する方法もあるが、試料の展開が遅くなりすぎると5分の反応時間内に試料が試験片を展開しきらないという課題があった。
【0014】
それらの課題を解決するためには、通常のイムノクロマト試験片と比較し厚みのある素材をパッドに採用するなどして解決する方法があるが、素材の厚みや柔らかさによって、検体を添加する滴加口に隙間が発生し、1~2分抽出されるべき試料が、滴加口から容器内部にこぼれ、試験片の側面をつたって展開し正常に反応が進まない(酸性の試料が中和されないままメンブレンに展開し、非特異反応が発生する)という課題があった。
【0015】
本発明は、イムノクロマト試験片上で亜硝酸抽出により糖鎖抗原を抽出し測定するイムノクロマト法において、亜硝酸抽出処理を十分な時間をかけて行うことにより十分な感度での測定を可能にする方法及びイムノクロマトデバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、イムノクロマト試験片上で糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をすることが可能な、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト法において、亜硝酸抽出処理を十分な時間をかけて行わせる技術について鋭意検討を行った。
【0017】
そこで、イムノクロマトデバイスのイムノクロマト試験片を支持する突起からなる支持体部分に傾斜をもたせることにより、展開時間を調節することで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0018】
[1] 亜硝酸塩若しくは酸性溶液と混合した検体を添加するサンプルパッド、糖鎖抗原に対する抗体を標識した標識抗体を含む標識体領域及び前記糖鎖抗原に対する抗体を固相化した検出領域を含み、検出領域において抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体を形成させ、糖鎖抗原を測定するイムノクロマト試験片であって、前記標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に、亜硝酸塩と混合した検体を用いるときには固形状酸性試薬を含浸させた領域を有し、酸性溶液と混合した検体を用いるときには亜硝酸塩を含浸させた領域を有する、検体中の糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト試験片と該試験片を格納する容器よりなり、該容器は上の蓋部分と下の容器部分からなり、上の蓋部分はイムノクロマト試験片の上側を支持する突起からなる上部支持体を有し、下の容器部分はイムノクロマト試験片の下側を支持する突起からなる下部支持体を有し、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの上部に検体滴加口を有するイムノクロマトデバイスであって、
イムノクロマト試験片を支持する上部支持体及び/又は下部支持体を形成する突起部分に傾斜を持たせたことを特徴とする、イムノクロマトデバイス。
[2] イムノクロマト試験片を支持する上部支持体及び下部支持体を形成する突起部分に傾斜を持たせたことを特徴とする、[1]のイムノクロマトデバイス。
[3] イムノクロマト試験片の下部支持体の突起部分の傾斜がイムノクロマト試験片の下流方向に下ることを特徴とする、[1]又は[2]のイムノクロマトデバイス。
[4] イムノクロマト試験片の上部支持体の突起部分の傾斜がイムノクロマト試験片の下流方向に上ることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかのイムノクロマトデバイス。
[5] 糖鎖抗原が、原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア又はウイルスの糖鎖抗原である、[1]~[4]のいずれかのイムノクロマトデバイス。
[6] [1]~[5]のいずれかのイムノクロマトデバイスを用いてイムノクロマト法により検体中の糖鎖抗原を測定する方法であって、
イムノクロマトデバイスが固形状酸性試薬を含浸させた領域を有するときに検体を亜硝酸溶液と混合し、イムノクロマトデバイスが亜硝酸塩を含浸させた領域を有するときに検体を酸性溶液と混合し、前記イムノクロマトデバイスのサンプルパッドに添加することを含み、
固形状酸性試薬を含浸させた領域又は亜硝酸塩を含浸させた領域において、亜硝酸塩と固形状酸性試薬の反応により発生した亜硝酸の作用により検体から糖鎖抗原が抽出され、
中和試薬を含浸させた領域において、前記糖鎖抗原を含む酸性溶液が中和され、
検出領域において、抗体-糖鎖抗原-標識抗体の複合体が形成される、糖鎖抗原の抽出を促進して、イムノクロマト法により、検体中の糖鎖抗原を測定する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のイムノクロマトデバイスを用いた場合、試料添加後のイムノクロマト試験片上での検体試料溶液の展開時間を適切な時間に調節することができる。その結果、イムノクロマト試験片上に含ませた検体処理試薬により試験片上で行われる検体処理を十分に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片(1枚パッド試験片)の構造を模式的に示す図である。
図2】固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片(2枚パッド試験片)の構造を模式的に示す図である。
図3】イムノクロマトデバイスの格納容器の外観を示す斜視図である。
図4】イムノクロマトデバイスの格納容器の断面図である。
図5】イムノクロマトデバイスの格納容器の蓋部分とイムノクロマト試験片と格納容器の容器部分を示す斜視図である。
図6】イムノクロマトデバイスの格納容器の蓋部分とイムノクロマト試験片と格納容器の容器部分を示す断面図である。
図7】イムノクロマトデバイスの格納容器の蓋部分の斜視図である。
図8】イムノクロマトデバイスの格納容器の蓋部分と容器部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をイムノクロマト試験片上で行えるように簡便化し、被検出物質である糖鎖抗原を迅速かつ正確に測定することを可能にするイムノクロマトデバイスに関する。イムノクロマトデバイスは、イムノクロマト試験片とそれを格納する容器からなり、イムノクロマト試験片をイムノクロマトデバイスに組込んで作製できる。該格納容器により、例えば紫外線や空気中の湿気による劣化を防ぐことができる。また、汚染性、感染性の有る検体試料を用いる場合、格納容器によりアッセイを行う試験者が汚染又は感染するのを防止することができる。例えば適当な大きさの樹脂製ケースを格納容器として用い、該ケース中にイムノクロマト試験片を収納すればよい。また、抗原又は抗体を固定化した試験片の表面を樹脂製フィルム等(トップラミネート)で覆ってもよい。
【0022】
イムノクロマト試験片は、被検出物質(抗原等)を捕捉する抗体(抗体1)が固定化された検出領域を有する支持体、移動可能な標識抗体(抗体2)を有する標識体領域、検体を添加するサンプルパッド、展開された検体液を吸収する吸収帯、これら部材を1つに貼り合わせるためのバッキングシート等を具備する。
【0023】
なお、検出領域の数及び標識体領域に含まれる標識抗体の種類は1つに限られるものではなく、複数の被検出物質に対応する抗体を用いることで、2つ以上の抗原を同一の試験片にて測定することができる。
【0024】
支持体は、被検出物質(抗原)を捕捉するための抗体を固定化する性能を持つ材料であり、かつ液体が水平方向に通行することを妨げない性能を持つ。好ましくは、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)であり、液体及びそれに分散した成分を吸収により輸送可能な材料である。支持体を成す材質は特に限定されるものではなく、例えばセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、ガラス繊維、ナイロン、ポリケトンなどが挙げられる。このうちニトロセルロースを用いて薄膜又はメンブレンとしたものがより好ましい。抗体を固定化したメンブレンを抗体固定化メンブレンと呼ぶ。
【0025】
標識体領域は、標識抗体を含む多孔性基材から成り、基材の材質は一般的に用いられているガラス繊維(グラスファイバー)や不織布等を用いることができる。該基材は、多量の標識抗体を含浸させるために、厚さ0.3mm~0.6mm程度のパッド状であることが好ましい。標識抗体を含浸させ乾燥させた多孔性基材を乾燥パッドとも呼ぶ。
【0026】
標識抗体の標識には、アルカリフォスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素、金コロイドのような金属コロイド、シリカ粒子、セルロース粒子、着色ポリスチレン粒子及び着色ラテックス粒子等が用いられることが多い。金属コロイド粒子、着色ポリスチレン粒子や着色ラテックス粒子等の着色粒子を用いる場合には、これらの標識試薬が凝集することによって着色が生じるので、この着色を測定する。抗体を固定化した粒子を抗体固定化粒子と呼ぶ。
【0027】
検出領域は、被検出物質(抗原)を捕捉する抗体が固定化された支持体の一部の領域を指す。検出領域は、抗原を捕捉するための抗体を固定化した領域を少なくとも1つ設ける。検出領域は支持体に含まれていればよく、支持体上に抗体を固定化すればよい。
【0028】
サンプルパッドは、検体を添加するための部位であり、多孔性材料である。サンプルパッドはイムノクロマト試験片の最も上流にある部位である。該材料には一般的に用いられるろ紙、ガラス繊維、不織布等を用いることができる。多量の検体を免疫測定に用いるために、厚さ0.3mm~1mm程度のパッド状であることが好ましい。検体には、検体を他の溶液に浮遊して得られる試料等、検体を用いて調製された試料も含む。
【0029】
吸収帯は、支持体に供給され検出領域で反応に関与しなかった成分を吸収するための部材である。吸収帯の材料には、一般的な天然高分子化合物、合成高分子化合物等からなる保水性の高いろ紙、スポンジ等を用いることができるが、検体の展開促進のためには吸水性が高いものが好ましい。
【0030】
バッキングシートは、前述の全ての材料、すなわち支持体、サンプルパッド、標識体領域、吸収帯等が、部分的な重なりをもって貼付、固定されるための部材である。バッキングシートは、これらの材料が最適な間隔で配置、固定されるのであれば、必ずしも必要ではないが、製造上あるいは使用上の利便性から、一般的には用いた方が好ましい。
【0031】
本発明のイムノクロマト試験片には、さらに対照表示領域(部材)が存在していてもよい。対照表示領域は試験が正確に実施されたことを示す部位である。例えば、対照表示領域は、検出領域の下流に存在し、検体試料が検出領域を通過し、対照表示領域に到達したときに着色等によりシグナルを発する。対照表示領域には、標識担体を結合させた抗体に結合する物質を固相化しておいてもよいし、検体が到達したときに色が変化するpHインジケーター等の試薬を固相化しておいてもよい。標識担体を結合させた抗体がマウスモノクローナル抗体の場合、抗マウスIgG抗体を用いればよい。
【0032】
イムノクロマト試験片の大きさは限定されないが、例えば、縦の長さ数cm~十数cm、横の長さ数mm~数cm程度である。
【0033】
上記の形態の試験片において、検体は、サンプルパッド、標識体領域、支持体、検出領域、吸収帯等の一連の接続により形成された多孔性流路を通過する。よって本形態においては、これら全てが検体移動領域となる。各構成材料の材質や形態によって、検体が材料内部を浸透せず界面を通行する形態もありうるが、本明細書で定義する検体移動領域は材料の内部か界面かを問わないため、該形態の試験片も本明細書の範囲に含まれる。
【0034】
本発明のイムノクロマト試験片を用いて検体中の糖鎖抗原を測定する場合、最初に検体中の糖鎖抗原を抽出する必要がある。糖鎖抗原の抽出は、糖鎖抗原を含む検体を亜硝酸で処理することにより行う。亜硝酸は亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩を酸と混合することにより発生させることができ、このようにして発生させた亜硝酸で糖鎖抗原を含む検体を処理すればよい。抽出した抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に抗原抗体反応により結合するが、この際、反応系に酸が残っていると反応系は酸性になり、抗原抗体反応が阻害される。そこで、反応系の酸を中和する必要がある。
【0035】
本発明において、亜硝酸塩と酸を混合し亜硝酸を発生させて、該亜硝酸により検体中の糖鎖抗原を抽出して、亜硝酸を中和した上で、イムノクロマト試験片上に固相化した抗体に糖鎖抗原を結合させ、糖鎖抗原を測定する方法において、糖鎖抗原を抽出して測定する方法として以下の方法が挙げられる。いずれの方法においても、亜硝酸による糖鎖抗原の抽出と中和はイムノクロマト試験片上で行う。亜硝酸による糖鎖抗原の抽出をイムノクロマト試験片上で行うためには、イムノクロマト試験片上に酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させておけばよい。中和をイムノクロマト試験片上で行うためには、イムノクロマト試験片上に中和試薬を含浸させておけばよい。
【0036】
(A)予め検体と酸性溶液を混合し、亜硝酸塩と中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加する。混合液が亜硝酸塩を含ませた領域に達すると亜硝酸塩と酸が反応し、亜硝酸が発生し、検体中の糖鎖抗原が抽出される。糖鎖抗原の抽出液はイムノクロマト試験片上の中和試薬を含浸させた領域で中和され、糖鎖抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に結合し、検出できる。該方法において、用いる酸性溶液としては、酢酸、塩酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0037】
(B)予め検体と亜硝酸塩溶液を混合し、酸性試薬と中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片のサンプルパッドに添加する、混合液が酸性試薬を含ませた領域に達すると亜硝酸塩と酸が反応し、亜硝酸が発生し、検体中の糖鎖抗原が抽出される。糖鎖抗原の抽出液はイムノクロマト試験片上の中和試薬を含浸させた領域で中和され、糖鎖抗原はイムノクロマト試験片上に固相化した抗体に結合し、検出できる。
【0038】
上記の(A)又は(B)の方法を行うための本発明のイムノクロマト試験片では、標識体領域よりも上流(検体の流れの上流でありサンプルパッドが存在する側)に、すなわち、サンプルパッド内又はサンプルパッドと標識体領域との間に、酸性試薬若しくは硝酸塩と中和試薬が含浸されている。サンプルパッド内又はサンプルパッドと標識体領域との間に、亜硝酸塩と中和試薬が含浸されているイムノクロマト試験片は上記(A)の方法に用いることができる。また、サンプルパッド内又はサンプルパッドと標識体領域との間に、酸性試薬と中和試薬が含浸されているイムノクロマト試験片は上記(B)の方法に用いることができる。なお、イムノクロマト試験片に含浸させる酸性試薬としては、固形状酸性試薬が用いられる。これらの方法により、被検試料中の被検出物質を被検試料の試験に供される量によらず、正確に、特異的に測定することが可能になる。
【0039】
前記固形状酸性試薬又は亜硝酸塩は、サンプルパッドに含浸させてもよいし、サンプルパッドとは別の不織布等の多孔性材料からなるパッドに含浸させて、得られた固形状酸性試薬含浸多孔性材料又は亜硝酸塩含浸多孔性材料を、サンプルパッドと標識体領域との間、すなわち標識体領域の上流側に配置してもよい。ここで、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域とサンプルパッド又は標識体領域は接触していても、いなくてもよい。
本発明において、試薬を含浸させた領域を試薬を含浸させたパッドともいう。
【0040】
前記中和試薬は、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させる領域よりも下流に配置する。中和試薬は、サンプルパッドに含浸させてもよいし、支持体に含浸させてもよいし、支持体とは別の不織布等の多孔性材料からなるパッドに含浸させて、得られた中和試薬含浸多孔性材料を、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域と標識体領域との間に配置してもよい。すなわち、標識体領域の上流に中和試薬を含浸させた領域を有し、さらに該中和試薬を含浸させた領域の上流に固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域を有する。ここで、中和試薬を含浸させた領域と固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含浸させた領域又は標識体領域は接触していても、いなくてもよい。
【0041】
固形状酸性試薬を含浸させた領域を固形状酸性試薬領域と呼び、亜硝酸塩を含浸させた領域を亜硝酸塩領域と呼び、中和試薬を含浸させた領域を中和試薬領域又は塩基性試薬領域と呼ぶ。
【0042】
固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域を有するイムノクロマト試験片は、支持体上に上流からサンプルパッド、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域、中和試薬領域、標識体領域、検出領域及び吸収帯を有し、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域はサンプルパッド上にあってもよい。また、サンプルパッド、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域、中和試薬領域、標識体領域、検出領域及び吸収帯は、隣合う領域どうしで接触していても、いなくてもよい。さらに、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域、中和試薬領域、標識体領域は必ずしも別々の多孔性材料に含浸する必要はなく、複数又は全ての領域を同一の多孔性材料に含浸させてもよい。
【0043】
本発明で用いられる固形状酸性試薬は常温において固形状のものであり、高温において揮発しないものである。
【0044】
本発明に用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸を挙げることができる。
【0045】
また、本発明で用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、例えばクエン酸のような価数の多い酸を用いればより少ない量で抽出できる。また同じ価数ならより酸解離定数が小さい酸、例えばマレイン酸、酒石酸は効率が良い。
【0046】
また、本発明で用いられる好ましい固形状酸性試薬としては、イムノクロマト試験片上で着色されないような試薬、具体的には乾燥状態で白色又は乾燥熱や酸化で着色されにくい試薬が好ましい。
【0047】
本発明で用いられる亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられる。
【0048】
本発明に用いられる固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の使用量、すなわちイムノクロマト試験片に含浸させる量は、特に限定されないが、通常、イムノクロマト試験片の一試験片あたり0.01μg~1mg程度であり、好ましくは0.1μg~0.1mg程度である。もっとも、使用する固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の種類、検体浮遊液の組成や添加量などにより効果が得られる最適な量を選択することが好ましい。
【0049】
固形状酸性試薬又は亜硝酸塩をサンプルパッド又は多孔性材料に含浸させるには、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を一度溶解させて塗布し乾燥させる。
【0050】
本発明に用いられる中和試薬は常温において固形状のものであり、高温において揮発しないものである。
【0051】
本発明に用いられる好ましい中和試薬としては、トリス塩基(トリスヒドロキシルメチルアミノメタン)、水酸化ナトリウム、リン酸水素二カリウム、クエン酸三ナトリウム、アルカリ領域に緩衝能をもつグッドバッファーを挙げることができる。
【0052】
本発明に用いられる中和試薬の使用量、すなわちイムノクロマト試験片に含浸させる量は、特に限定されないが、通常、イムノクロマト試験片の一試験片あたり0.01μg~1mg程度であり、好ましくは0.1μg~0.1mg程度である。もっとも、使用する中和試薬の種類、検体浮遊液の組成や添加量などにより効果が得られる最適な量を選択することが好ましい。
【0053】
中和試薬をサンプルパッド又は多孔性材料に含浸させるには、中和試薬を一度溶解させて、溶液をサンプルバッド又は多孔性材料に塗布し、その後乾燥させればよい。
【0054】
図1及び図2は、典型的なイムノクロマト試験片の好ましい1形態を示した図である。図1及び図2に示すイムノクロマト試験片は、固形状酸性試薬及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片であるが、固形状酸性試薬の代りに硝酸塩を含浸させてもよく、この場合は、硝酸塩及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片となる。当業者ならば、硝酸塩及び中和試薬を含浸させたイムノクロマト試験片を適宜設計し製造することができる。なお、イムノクロマト試験片は、図1及び図2に示すものに限定されるものではない。図1及び図2中、1が支持体、2が標識体領域、3が検出領域、4がサンプルパッド、7が吸収帯、8がバッキングシートを指している。また、試験片全体の上にトップラミネートを貼り付けてもよい。
【0055】
図1A及び図2Aが上面図、図1B及び図2Bが切断断面図である。図1の例では、樹脂等でできたバッキングシート8上に1個の検出領域3が形成された支持体1、吸収帯7、標識体領域2、サンプルパッド4等がそれぞれ積層されている。そして図1に示すように、吸収帯7の一方の端部と支持体1の一方の端部、支持体1の他方の端部と標識体領域2の一方の端部、標識体領域2の他方の端部とサンプルパッド4の一方の端部がそれぞれ重ね合わされており、サンプルパッド4の上流部に固形状酸性試薬が含浸され、少し間を離してサンプルバッドの下流部に中和試薬が含浸されている。固形状酸性試薬が含浸された領域を固形状酸性試薬領域5と呼び、中和試薬が含浸された領域を中和試薬領域6と呼ぶ。この試験片においては、サンプルパッド4が固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6を兼ねている。すなわち、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域がサンプルパッド上に存在する。この試験片においては、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域が1枚の多孔性材料(パッド)状に設けられているので、1枚パッド試験片と呼ぶことがある。図2の例では、標識体領域2の上流に固形状酸性試薬領域5及び/又は中和試薬領域6が存在し、これらが重ね合わされており、これにより連続したラテラルフローの流路が形成されている。図2に示す試験片においては、固形状酸性試薬領域5がサンプルパッドを兼ねている。すなわち、固形状酸性試薬領域がサンプルパッド上に存在する。この試験片においては、固形状酸性試薬領域及び中和試薬領域が別々の2枚の多孔性材料(パッド)状に設けられているので、2枚パッド試験片と呼ぶことがある。固形状酸性試薬領域の上流にさらにサンプルパッドが存在してもよい。また、図2に示す試験片では、固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6は異なる多孔性材料に含浸させているが、図1の試験片のサンプルパッドのように同じ多孔性材料(パッド)上の上流部に固形状酸性試薬領域5を設け、下流部に中和試薬領域6を設けてもよい。
【0056】
上記のイムノクロマト試験片は格納容器に収納され、イムノクロマトデバイスとして用いられる。すなわち、格納容器にイムノクロマト試験片を組込んだ状態のものをイムノクロマトデバイスという。一般的に上記格納容器は下の容器部分と上の蓋部分から構成される。ここで、下の容器部分には、イムノクロマト試験片が収納され、イムノクロマト試験を行う場合に、下の容器部分の上に上の蓋部分がかぶせられる。下の容器部分及び上の蓋部分を、それぞれ、単に格納容器の下部分及び上部分と呼ぶことがある。上記のイムノクロマト試験片を格納容器に収納したときに、サンプルパッドの上部に、サンプルパッドに検体試料溶液を供給できる検体滴加口が位置し、容器の検体滴加口に検体を添加したときに検体はサンプルパッドに浸み込む。ここで、滴加口を添加口ということもある。また、イムノクロマト試験片を格納容器に収納したときに、検出領域上に判定部が位置し、容器の判定部の穴を通して、検出領域を観察することができる。
【0057】
下の容器部分に上の蓋部分をかぶせたとき、下の容器部分に収容されているイムノクロマト試験片は、格納容器の上の蓋部分と下の容器部分に設けられた突起により挟まれ動かないように支持される。したがって、格納容器の上の蓋部分と下の容器部分に設けられた突起を、それぞれ、突起からなる上部支持体及び下部支持体と呼ぶ。
【0058】
上の蓋部分の上部支持体は、滴加口の検体を滴加する側の裏側に開口部の縁を形成するように設けられており、さらに、上の蓋部分の上部支持体は、傾斜を有する突起で形成されている。上の蓋部分の上部支持体は、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの上側を支持する。上の蓋部分の上部支持体がイムノクロマト試験片のサンプルパッドの上側を上から押さえた場合に、イムノクロマト試験片の下流部に向かって突起の高さが小さくなるような傾斜、すなわち、イムノクロマト試験片の下流方向に上る傾斜を有している。下の容器部分に上の蓋部分をかぶせたときに、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの上側を上から押さえて固定し動かないようにし、さらに、サンプルパッドに密着して、検体溶液がサンプルパッド以外に漏出しないようにする。さらに、上の蓋部分の上部支持体がサンプルパッドを押さえつけた場合、押圧が上流から下流に向かって弱くなる。該支持体を傾斜した突起よりなる支持体ということがある。
【0059】
一方、従来のイムノクロマトデバイスの格納容器の上の蓋部分の上部支持体は、傾斜を有しておらず、フラットな形状を有している。
【0060】
下の容器部分の下部支持体は、下の容器部分の検体滴加口に対応する部分に設けられた傾斜を有する突起で形成されている。ここで、下の容器部分の検体滴加口に対応する部分とは、上の蓋部分を下の容器部分にかぶせたときに、検体滴加口の開口部に重なる部分をいう。下の容器部分の下部支持体は下の容器部分に上の蓋部分をかぶせたときに、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの下側を支持する。下の容器部分の下部支持体は、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの下側を下から押さえて固定し動かないようにする。下部支持体は、検体滴加口に対応する部分に傾斜を有する突起として設けられる。下部支持体は、イムノクロマト試験片のサンプルパッドを押さえた場合に、イムノクロマト試験片の下流部に向かって突起の高さが小さくなるように傾斜、すなわち、イムノクロマト試験片の下流方向に下る傾斜を有し、サンプルパッドを押さえつける押圧が上流から下流に向かって弱くなる。該支持体を傾斜した突起よりなる支持体ということがある。
【0061】
一方、従来のイムノクロマトデバイスの格納容器の下の容器の下部支持体は、傾斜を有しておらず、フラットな形状を有している。
【0062】
イムノクロマト試験片の下流方向に上る傾斜を持たせたイムノクロマト試験片の上側を押さえて支持する突起からなる支持体を有する蓋部分を上部支持体が傾斜を有する蓋部分と呼び、イムノクロマト試験片の下流方向に下る傾斜を持たせたイムノクロマト試験片の下側を押さえて支持する突起からなる支持体を有する容器部分を下部支持体が傾斜を有する容器部分と呼び、傾斜した突起よりなる支持体を有しない蓋部分を従来の蓋部分と呼び、傾斜した突起よりなる支持体を有しない容器部分を従来の容器部分と呼ぶことができる。この場合、本発明のイムノクロマトデバイスの格納容器の上の蓋部分と下の容器部分の組合せには以下のA~Cの組合せがある。
A:上部支持体が傾斜を有する蓋部分、及び従来の容器部分
B:上部支持体が傾斜を有する蓋部分、及び下部支持体が傾斜を有する容器部分
C:従来の蓋部分、及び下部支持体が傾斜を有する容器部分
本発明のイムノクロマトデバイスにおいて、傾斜した突起よりなる支持体は、上記Bのようにイムノクロマトデバイスの格納容器の上の蓋部分と下の容器部分の両方に存在していてもよいし、上記A及びCのように片方だけに存在していてもよい。好ましくは、上記Bのように両方に存在する。
【0063】
このように、上の蓋部分及び/又は下の容器部分の、イムノクロマト試験片のサンプルパッドに接触する支持体部分に、イムノクロマト試験片の下流側に向かって高さが低くなる突起からなる傾斜部があるため、上部支持体と下部支持体でイムノクロマト試験片のサンプルパッドを挟んで押さえ付けた場合、上部支持体及び下部支持体がイムノクロマト試験片に密着し、さらに下流部の押圧は上流部の押圧よりも低くなる。このため、滴加した液体検体が、イムノクロマト試験片から漏れ出ることがなく、また、イムノクロマト試験片のサンプルパッドの下流側の液体の流路が支持体により強く押さえられないので、液体検体が流れやすくなる。また、サンプルパッドの上流部が下流部よりも高い位置に存在し、液体検体が重力により流れやすくなる。検体が流れやすくなる結果、検体の展開開始時間を適切な速度に調節できるので、設定した判定時間内に最も高感度の性能が発揮できるようになる。
【0064】
本発明のイムノクロマトデバイスは、イムノクロマト試験片の格納容器において上記の傾斜を有する突起からなる支持体を有するため、イムノクロマト試験片上で糖鎖抗原の亜硝酸抽出処理をすることが可能な、糖鎖抗原を抽出し測定するためのイムノクロマト法において、試料の展開を適切な速度に調節することができる。本発明のイムノクロマトデバイスは、その他、以下の検体試料の展開速度を調節する仕組みに関する構造的特徴を有していてもよい。
【0065】
(1)本発明のイムノクロマトデバイスは滴加口が広く設けられていてもよい。
例えば、縦の長さが5~9cm、好ましくは7cm、横の長さが0.3~0.7cm、好ましくは0.5cmのイムノクロマト試験片を格納した従来のイムノクロマトデバイス(クイックナビ(商標)-Strep A、デンカ生研)の滴加口は約3.5mm×約5.5mm(19.25mm2)のサイズを有する略矩形の滴加口として設けられているが、同じサイズのイムノクロマト試験片を格納する本発明のイムノクロマトデバイスの滴加口は約3.5mm×約11mm(38.5mm2)のサイズを有する略矩形の滴加口として設けられている。イムノクロマトデバイス及びその中に格納されるイムノクロマト試験片の大きさは概ね類似サイズになるので、長さが横3cm、縦9cmのイムノクロマトデバイスにおいて略矩形で3~5mm×8~15mm(24~75mm2)の滴加口を有するイムノクロマトデバイスは滴加口が広いイムノクロマトデバイスであり、本発明のイムノクロマトデバイスの効果を奏し得る。滴加口の長い辺は、クロマトグラフィー試験片の長い辺と平行な辺であり、すなわち検体試料溶液の流れ方向に沿った辺である。滴加口の長い辺の長さを滴加口長といい、短い辺の長さを滴加口幅ということがある。上記の例は、略矩形の滴加口の場合であるが、滴加口の形状は、三角形でも円形でもよい。本発明のイムノクロマトデバイスの滴加口の大きさを面積で表した場合、24~75mm2、好ましくは35~75mm2である。
【0066】
例えば、本発明のイムノクロマトデバイスは、縦の長さが5~9cm、横の長さが0.3~0.7cmのイムノクロマト試験片を格納しており、滴加口のサイズが略矩形で3~5mm(滴加口の幅)×8~15mm(滴加口長)(24~75mm2)の滴加口を有する。滴加口長は、好ましくは10mm以上、さらに好ましくは10mmである。滴加口長が8mm未満、例えば5mmのデバイスは従来の滴加口の広さが小さいデバイスである。
【0067】
従来のイムノクロマト法において、イムノクロマト試験片上に設けた検体処理試薬で検体処理を行う際は、試料溶液が検体処理試薬を含浸した領域に接している面積が少ないため検体処理能力が弱く、なおかつイムノクロマト試験片を徐々に展開しながら検体処理が行われていたことから、最初に展開した試料溶液と後から展開した試料溶液には検体処理試薬の濃度差が起きていた。従って、検体処理を確実に行うことができなかった。
【0068】
本発明のイムノクロマトデバイスの滴加口は広く設けられていることから、一度に大量の検体試料溶液を短時間でイムノクロマト上の検体処理試薬を含浸させた領域、すなわち固形状酸性試薬を含浸させた領域又は亜硝酸を含浸させた領域に供給することができる。この結果、イムノクロマト試験片上における糖鎖抗原の抽出を促進することができる。一度に供給することができる検体試料溶液は、10μL~200μLである。
【0069】
その結果、時間差による検体処理試薬の濃度差が起きないことから、イムノクロマト上の検体処理を促進し確実に効率よく行うことができる。
【0070】
(2)本発明のイムノクロマトデバイスにおいては、滴加口から試料が逃げこぼれないよう、滴加口とその下に位置するサンプルパッドの間に隙間が無いよう構成されていてもよい。
【0071】
本発明のイムノクロマトデバイスは滴加口が広く設けられており、一度に大量の検体試料溶液が供給される。また、滴加口の外郭である縁部分には一定の高さ(1~5mm)があり、供給された検体資料溶液は滴加口内に一旦貯まる。
【0072】
その結果、検体試料溶液の全液がイムノクロマト試験片に吸収されるまで時間が掛かることから、試料溶液がイムノクロマト試験片に吸収されずにイムノクロマト試験片外に逃げこぼれることがあった。
【0073】
本発明のイムノクロマトのデバイスは、サンプルパッドを支えるバッキングシートを滴加口から試料が逃げこぼれないよう、滴加口の外郭サイズと同等かそれより大きい外郭サイズのバッキングシートでサンプルパッドを支持することで、バッキングシートによりサンプルパッドを滴加口に押さえつけるような力が働き、滴加口とサンプルパッドの間に隙間が無いよう構成できることから、試料溶液の逃げ漏れを防ぐことができる。
【0074】
また、サンプルパッドの厚みに差がある場合は、サンプルパッドの厚みが薄い箇所は滴加口との隙間ができやすく、試料溶液の逃げ漏れが発生しやすい。
【0075】
本発明においては、サンプルバットの薄い箇所はデバイスの容器の台座は高く、厚い箇所は台座を低く設計することで、パッドの厚みに差がある場合においても、滴加口とパッドの間に隙間が無いよう構成できることから、試料溶液の逃げ漏れを防ぐことができる。
【0076】
この結果、この結果、イムノクロマト試験片上における糖鎖抗原の抽出を効率よくすることができる。
【0077】
(3)また、イムノクロマト試験片の固形状酸性試薬や亜硝酸塩や中和試薬等の検体処理試薬を含浸させるパッドの製造に使用する素材(不織布)を疎水性の高い素材を選択してもよく、これにより液の流れるスピード、すなわち検体試料溶液がイムノクロマト試験片上を展開する時間を遅く調節することが可能である。
【0078】
この場合の疎水性の高い素材とは例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【0079】
中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材としては、目付が10~400g/m2であり、かつ、厚みが0.1~2.0mmの織物であり、1cm/m2あたりの吸水量が10~100μl/cm2で、かつ吸水スピードが1.0~5.0μl/secであり、さらに1cm/m2の断片を濡れた状態でメンブレンに接触させ5分間静置後の保水量が10~100μl/cm2であり、好ましくは1cm/m2の断片を濡れた状態でメンブレンに接触させ5分間静置後の液の広がり面積が20mm2以下、つまり吸水力が高く、保水性(液体の保持力)が高く、さらに液体の放出性が低い又は持続するという特性の3つを有する多孔性材料が挙げられる。具体的には、セルロースの綿繊維でできた濾紙やガラス繊維でできたガラス濾紙等が挙げられる。このような濾紙として、例えば、東洋濾紙株式会社のNo.26-3が挙げられる。また、用いる濾紙の容積は大きく、上流から検体よりも遅れて到達する酸性溶液を十分に保持することができる。このような多孔性材料を用いることにより、亜硝酸塩と酸性試薬との反応で発生した亜硝酸で糖鎖抗原を抽出した検体を十分に中和することができる量の中和試薬を含浸させることができる。また、該パッドは大量の液体を吸収保持することができ、放出性が持続するため、イムノクロマト試験片の上流に残る亜硝酸を含む液が判定時間以降に展開した際にも十分な中和能力を有することができ、酸性溶液が抗体を固相化した検出領域に達するのを抑えることができる結果、非特異反応を抑制し、非特異反応を生じることがなく糖鎖抗原を検出することができる。一方、吸水力が高く、保水性が高く、放出性が低いガラス濾紙の場合、具体的には、東洋濾紙株式会社のGS-25が挙げられるが、吸水力が高いため、より多くの中和試薬を含浸でき、保水性が高く、放水性が低いため、酸性溶液が固相化した検出領域に達することを防ぐ。この結果、陰性の場合には非特異反応を抑制し、陽性の場合には判定時間以降のライン発色を防止することができる。
【0080】
中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材の「目付」は10~400g/m2である。ここで、「目付」とは、布等の単位面積(1m2)当たりの重量をいう。目付は該パッドに含浸せる中和試薬の量や組成により適宜変えることができる。目付が30g/m2以下だと空隙率が高く、中和試薬を含浸した際にちぎれやすくなり、イムノクロマト製造時の取扱いが難しくなることから、好ましくは目付50g/m2以上であり、目付が300g/m2以上の場合には、空隙率が低く、中和試薬の組成にもよるが、検体がスムーズに素材に浸透せず、中和試薬と混合できないため、300g/m2以下であることが好ましい。最も好ましい目付は250~270g/m2である。
【0081】
また、中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材の「厚み」は0.1~2.0mmが良いが、厚みは、該パッドに含浸せる中和試薬の量や組成により適宜変えることができる。厚みが0.4mm以下の場合、中和試薬を含浸した際にちぎれやすくなり、イムノクロマト製造時の取扱いが難しくなることから、好ましい厚みとしては、0.4~0.8mm、中和試薬を含浸させられる量が調節しやすく、かつ、イムノクロマト製造時のハンドリングのしやすさを考慮すると、0.6mm程度がより好ましい。
【0082】
「吸水性」は1cm/m2あたりの吸水量が10~100μl/cm2で、かつ吸水スピードが1.0~5.0μl/secのものが好ましい。吸水量と吸水スピードは、96穴のEIAプレートの1セルに200μlの色づけした溶液(1%Tween20+赤色102号)を用意し、そこに5×60mmの大きさの素材をバッキングシートに貼付した試験片を入れ、溶液に浸漬させた方を試験片の下端とし、試験片の上端に溶液が達するまでの時間を測定し、さらに溶液が上端に達した後、直ちに試験片を取り出し、セルに残存する液量を測定する。吸水量は、200μlからセルに残った液量を差し引き、素材の1cm2面積あたりで割った液量であり、吸水スピードは、吸水量/上端到達までにかかった時間で求められる。 中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材としては、吸水量が多く、吸水スピードが遅めの素材が好ましい。固形状酸性試薬の濃度と含水量にもよるが、吸水量が30μl/cm2以下の場合、イムノクロマト試験片として必要な中和試薬が含浸しきれない場合も考えられるため、具体的には、吸水量が30μl/cm2以上であることが好ましい。中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材の吸水スピードは、検体中の糖鎖抗原が抽出される時間及び抽出後の試験液が中和される時間に影響する。糖鎖抗原を抽出する時間は、固形状酸性試薬の素材もしくは組成で調節することがある程度までは可能であるが、完全でないため、中和試薬を含浸させる領域に使用する素材の吸水スピードは、十分な糖鎖抗原の抽出及び中和に重要な要素となる。具体的には、吸水スピードは1.0~5.0μl/secが好ましく、より好ましい吸水スピードは、2.0μl/sec以下である。
【0083】
「保水性」は、中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材の1cm/m2の断片をメンブレン上に置き、そこに70μlの溶液(1%Tween20+赤色102号)添加し、5分間静置前後の重量を測定することで得られる。保水性の液量は、添加する溶液の組成(界面活性剤やタンパク量)によって変化するが、1%Tween20溶液で試験した場合の保水量が10~100μl/cm2であることが好ましく、より好ましい保水量は15μl/cm2以上である。
【0084】
「放出性」は、中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材の1cm/m2の断片をメンブレン上に置き、そこに70μlの溶液(1%Tween20+赤色102号)添加し、5分間静置後にメンブレン上に広がった液の面積を求めることで測定する。面積は、添加する溶液の組成(界面活性剤やタンパク量)によって変化するが、1%Tween20溶液で試験した場合の面積が、30mm2以下、より好ましい放出性は20mm2以下である。
【0085】
例えば、中和試薬を含浸させる領域に用いる多孔性材料の素材は、目付が50~300g/m2若しくは250~270g/m2であり、厚みが0.4~0.8mmであり、1cm/m2あたりの吸水量が30~100μl/cm2であり、吸水スピードが1.0~2.0μl/secであり、1cm/m2の断片を濡れた状態で検出領域に接触させ5分間静置後の保水量が15~100μl/cm2であり、1cm/m2の断片を濡れた状態でメンブレンに接触させ5分間静置後の液の広がり面積が20mm2以下である。この特性を有する素材は、「中和試薬を含浸させた領域の吸水性の高さ及び保水性の高さにより前記糖鎖抗原を含む酸性溶液が十分中和され、中和試薬を含浸させた領域の放出性の低さ又は放出性の持続により残った酸性溶液が検出領域に達するのを抑えるか、或いは十分に中和された試験液が継続的に検出領域に展開し続ける」能力が高いので、他の素材に比べ非特異反応を抑えるという効果を有する。
【0086】
本発明のデバイスの使用方法について述べる。以下の使用方法は、検体を亜硝酸溶液と混合し、固形状酸性試薬と中和試薬を含浸させたイムノクロマトクロマト試験法を用いて測定する方法であるが、検体を酸性溶液と混合し、亜硝酸塩と中和試薬を含浸させたイムノクロマトクロマト試験法を用いて測定する方法も以下の使用方法の説明を参考にして行うことができる。
【0087】
測定は、検体又は検体を用いて調製された試料を亜硝酸塩溶液と接触混合させ、検体を亜硝酸塩溶液に浮遊させ、デバイスの検体滴加口に添加して供することにより開始される。この際、検体5~100μLと0.1M~8Mの亜硝酸塩0.01~2mLを混合し、5~200μLを滴加口に供すればよい。亜硝酸塩として、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム等が挙げられる。
【0088】
滴加口に供された被検出物質である糖鎖抗原を含む検体は、サンプルパッドに移動し、毛管作用によって、サンプルパッド4上の固形状酸性試薬領域5及び中和試薬領域6へ展開され、さらに、標識体領域2、支持体1、吸収帯7へと順次、水平方向に展開される。固形状酸性試薬領域5において、検体に混合した亜硝酸塩と固形状酸性試薬領域5上の固形状酸性試薬が反応し、遊離の亜硝酸が発生し、その亜硝酸の作用によって検体から糖鎖抗原が抽出される。抽出された糖鎖抗原は酸性の展開溶液と共に中和試薬領域6に展開移動し、中和試薬領域6で糖鎖抗原を含む酸性の展開溶液のpHが中和され中性域に調整される。その結果、糖鎖抗原は中性条件下においてさらに下流に展開移動する。標識体領域2では検体試料の展開と共に標識抗体が液中に放出され支持体1へと展開される。検体試料中に糖鎖抗原が存在する場合において、支持体1の検出領域3では捕捉抗体により糖鎖抗原が特異的に捕捉され、なおかつ糖鎖抗原は標識抗体とも特異的反応により複合体を形成する。これにより検出領域3では糖鎖抗原を介した抗体のサンドイッチが成立し、標識抗体-糖鎖抗原複合物を検出領域3にて測定することができる。検出領域はイムノクロマトデバイスの判定部を通して観察することができる。
【0089】
本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法によれば、検体中の糖鎖抗原の抽出はイムノクロマト試験片上で行われるため、イムノクロマト試験片を用いた測定の前にあらかじめ検体中の糖鎖抗原を抽出する必要はなく、1ステップで検体中の糖鎖抗原を測定することができる。
【0090】
本発明により乾燥させた固形状酸性試薬又は亜硝酸塩を含むパッドを組込んだイムノクロマト試験片において、試薬上で効率的に抽出を行うことができる。
【0091】
検体滴加口を固形状酸性試薬を含むパッド(固形状酸性試薬領域)とほぼ同等の面積にしてもよい。こうすることにより、より多くの試料が瞬時に固形状酸性試薬と接触できるようなる。さらに、塗布・含浸させる部材に疎水性の高い不織布を採用することで、試料が添加されてから直ぐに下流の中和試薬を含浸させたパッド(中和試薬領域)へ展開しないようにできる。こうすることで、検体添加部に試料が1~2分保持され、十分な抗原抽出を行うことができる。
【0092】
また、本発明においては、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域が重なりあって接触している場合に、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域の間に液体を通過させないシートを挟み込むように設ける。シートを設けることにより、以下の3つの効果を奏することができる。
【0093】
(A)試験片の保存時に隣接する2つの領域における試薬の移動を抑制することができる。この結果、固形状酸性試薬若しくは亜硝酸塩と中和試薬の接触による反応を防止することができる。この結果、試薬の安定性を向上させることができる。
(B)また、亜硝酸塩又は酸性試薬と混合した検体を添加したときに、検体が固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域に到達し、その後すぐに中和試薬領域に移動してしまうことによる不十分な糖鎖抗原の抽出を防止することできる。すなわち、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域から中和試薬領域へ検体を含む液体が移動する速度を低下させ、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域に検体を含む液体が留まる時間を長くし、その結果、糖鎖抗原を十分に抽出し、測定感度を高める。
(C)さらに、亜硝酸塩又は酸性試薬と混合した検体を添加したときに、検体が固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域に到達し、その後すぐに中和試薬領域に移動してしまい、移動した検体を含む液体が固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域に逆流し、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の活性を低下させ、抽出効率が低下するのを防止することができる。すなわち、一旦中和試薬領域に到達した検体を含む液体が固形状酸性試薬領域又は亜硝酸塩領域に逆流するのを防止し、固形状酸性試薬又は亜硝酸塩の活性の低下を防止し、亜硝酸による糖鎖抗原の抽出処理を効率よく進ませ、測定感度を高める。
【0094】
固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域の間に設けるシートの素材は液体を通過させない素材である限り限定されず、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート、ポリエチレンシート等の樹脂製シートを用いることができる。樹脂製シートは樹脂製フィルムともいう。
【0095】
シートは、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域が部分的に接触して重なるように設けてもよい。この場合、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域の重なる部分の長さは、極力短くすることが好ましく、例えば、5mm以下、好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2mm以下である。
【0096】
また、シートを固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域が接触しないように設け、酸性試薬若しくは亜硝酸塩を含浸させたパッドがPETシート上に覆い被さる形状にしてもよい。この場合、中和領域がシートにより完全に覆われ、そのシート上に固形状酸性試薬領域又は亜硝酸領域を設ければよい。この場合、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸領域内の液体は、直接中和領域に移動することはなく、シート上を流れた後に中和試薬領域に達する。
【0097】
シートは、例えば、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域と中和試薬領域の間にのみ設ければよい。一方、イムノクロマト試験片の上側を覆うように樹脂製シートをトップラミネートシートとして貼付するときに、トップラミネートシートを固形状酸性試薬領域又は亜硝酸領域以外、固形状酸性試薬領域又は亜硝酸領域がサンプルパッドを兼ねる場合はサンプルパッド以外の中和試薬領域、標識体領域、支持体、検出領域、吸収帯を覆うように貼付し、固形状酸性試薬領域若しくは亜硝酸塩領域を中和試薬部分の上部に貼付したトップラミネートシートの上部に貼付すればよい。
【0098】
本発明の方法において、検体となる生体試料は、特に限定されないが、血清、血漿、血液、尿、便、唾液、組織液、髄液、拭い液等の体液等又はその希釈物が挙げられる。
【0099】
本発明のイムノクロマトデバイスを用いた方法において、測定対象となる被検出物質はイムノアッセイ、すなわち抗原抗体反応を利用したアッセイで測定し得る糖鎖抗原である。抗原としては亜硝酸抽出処理によって抽出される細菌の細胞壁に存在する糖鎖抗原である多糖体等が挙げられる。これらの物質を含む原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等も測定し得る。本発明のイムノクロマト試験片を用いた方法により、被験体の生体試料中に原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等に由来する糖鎖抗原が含まれているか否かを確認することができ、糖鎖抗原が含まれている場合、被験体は原生動物、真菌、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジア、ウイルス等による感染症に罹患していると判断することができる。例えば、A群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、大腸菌、レジオネラ、カンピロバクター等の感染の有無を検出することができる。
【実施例
【0100】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例において、%は、特に断らない場合はw/v%を示す。
【0101】
実施例1:滴加口の大きさの検討
1.抗Streptococcus pyogenes(A群β溶血性レンサ球菌)抗体のニトロセルロースメンブレン(支持体)への固定化
抗Streptococcus pyogenes抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈した液及び抗ウサギIgG抗体を準備し、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンのサンプルパッド側に抗Streptococcus pyogenes抗体、吸収帯側に抗ウサギIgG抗体をそれぞれ線状に塗布した。その後、ニトロセルロースメンブレンを45℃、30分間乾燥させ、抗Streptococcus pyogenes抗体固定化メンブレンを得た。このメンブレンを本実施例において、「抗体固定化メンブレン」と呼ぶ。
【0102】
2.抗Streptococcus pyogenes抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化
抗Streptococcus pyogenes抗体を1.0mg/mLになるように精製水で希釈し、これに着色ポリスチレン粒子を0.1%になるように加え、攪拌後、カルボジイミドを1%になるように加え、さらに攪拌する。遠心操作により上清を除き、50mM Tris(pH9.0)、3%BSAに再浮遊し、0.04%抗Streptococcus pyogenes抗体結合着色ポリスチレン粒子浮遊液を得た。この粒子を、本実施例において、「抗体固定化粒子」と呼ぶ。
【0103】
3.抗Streptococcus pyogenes抗体結合着色ポリスチレン粒子の塗布・乾燥
2で作製した抗体固定化粒子浮遊液を不織布に所定量を塗布し、45℃、30分間乾燥させた。得られた不織布を、本実施例において、「乾燥パッド」と呼ぶ。
【0104】
4.中和試薬(塩基性試薬)パッドの作製
中和試薬(塩基性試薬)として、3M Trizma(商標名) Base(トリス塩基)、1.5% TritonX100を30μL/cm濾紙(東洋濾紙;No.26-3)に塗布した。
【0105】
5.固形状酸性試薬パッドの作製
固形状酸性試薬として、1.0M 酒石酸、0.5% TritonX100を13μL/cmで不織布(ユニチカ;エルベス(登録商標))に塗布した。塗布後に直ちに45℃、1時間、乾燥して、固形状酸性試薬含浸不織布を得た。
【0106】
6.Streptococcus pyogenes検出用イムノクロマト試験片の作製
1で作製した抗体固定化メンブレン、3で作製した乾燥パッド、4で作製した中和試薬(塩基性試薬)パッド、5で作製した固形状酸性試薬パッドを他部材(バッキングシート、吸収帯)と貼り合せて5mm幅に切断し、Streptococcus pyogenes試験片とした。固形状酸性試薬及び中和試薬(塩基性試薬)含浸濾紙をサンプルパッドとして用いた試験片を本実施例において、「本発明イムノクロマト試験片」と呼ぶ。なお、イムノクロマト試験片は、検体の流れに沿って、上流から、固形状酸性試薬含浸不織布、中和試薬(塩基性試薬)含浸不織布、乾燥パッド(標識体領域)、抗体固定化メンブレン(検出領域)、吸収帯を具備するものである。
【0107】
7.イムノクロマトデバイス
本発明のイムノクロマト試験片を滴加口長(長辺の長さ)5mmの格納容器((1)滴加口小)に組込み、1のイムノクロマトデバイスを作製し、滴加口長(長辺の長さ)10mmの格納容器((2)滴加口大)に組込み、(2)のイムノクロマトデバイスを作製した。(1)及び(2)のイムノクロマトデバイスの格納容器は、従来用いられていた格納容器であり、下の容器部分にも上の蓋部分にも、下のイムノクロマトデバイスの格納容器が有する傾斜した形状を有する突起からなる支持体を有していない。従来用いられていた格納容器の下の容器部分を従来の容器部分といい、従来用いられていた格納容器の上の蓋部分を従来の蓋部分という。
【0108】
また、格納容器の下の容器部分であって、イムノクロマト試験片の下流方向に下る傾斜を持たせたイムノクロマト試験片の下側を押さえて支持する突起からなる支持体を有する容器部分(下部支持体が傾斜を有する容器部分という)及び格納容器の上の蓋部分であって、イムノクロマト試験片の下流方向に上る傾斜を持たせたイムノクロマト試験片の上側を押さえて支持する突起からなる支持体を有する蓋部分(上部支持体が傾斜を有する蓋部分)と上記の従来の容器部分と従来の蓋部分を下のように組合せ、イムノクロマト試験片を組込んだイムノクロマトデバイス(3)~(5)を作製し、以下の試験を実施した。イムノクロマトデバイス(3)~(5)の上の蓋部分の滴加口長は10mmのものであった。
(3)上部支持体が傾斜を有する蓋部分、及び従来の容器部分
(4)上部支持体が傾斜を有する蓋部分、及び下部支持体が傾斜を有する容器部分
(5)従来の蓋部分、及び下部支持体が傾斜を有する容器部分
【0109】
8.検体
Streptococcus pyogenesを培養し、培養液を生理食塩水で菌数1.0×107CFU/mLに調製した。
また、陰性検体として、生理食塩水を用いた。
【0110】
9.測定
検体20μLを亜硝酸ナトリウム溶液(2.0M NaNO3、1% Tween20)180μLに浮遊し、そのうち75μLを本発明のイムノクロマトデバイスの滴加口に添加した。また、従来法として亜硝酸ナトリウムと塩酸を混合した亜硝酸抽出液に検体を浮遊した後、トリス溶液で中和した検体浮遊液を従来法のイムノクロマトデバイス(酸性試薬も中和試薬も固定化されていない)の滴加口に50μL添加した。10分後に抗Streptococcus pyogenes抗体を固定化した所定位置上の着色ポリスチレン粒子の堆積の有無とその程度をスコアコードでシグナルの程度が強いものを順に+++、++、+とし、判定が難しい場合を±、シグナルがみられなかったものを-とした。
【0111】
10.結果
【0112】
滴加口が大きい(2)、(3)、(4)及び(5)のイムノクロマトデバイスは滴加口の小さい(1)のイムノクロマトデバイスと比較して、展開開始時間が早くなることから陽性判定をより迅速に判定できた。
【0113】
また、上の蓋部分及び/又は下の容器部分に傾斜を有する突起からなる支持体を持たせた(3)、(4)及び(5)のイムノクロマトデバイスは傾斜を有する突起からなる支持体を持たない(1)及び(2)のイムノクロマトデバイスと比較して、10分後のシグナルが強く得られた。特に、上の蓋部分及び下の容器部分に傾斜を有する突起からなる支持体を有する(4)のイムノクロマトデバイスは、上の蓋部分又は下の容器部分の一方のみに傾斜を有する突起からなる支持体を有する(3)及び(5)のイムノクロマトデバイスよりも10分後のシグナルが強く得られた。
【符号の説明】
【0114】
1 支持体(検出領域を含む)
2 標識体領域
3 検出領域
4 サンプルパッド
5 固形状酸性試薬領域
6 中和試薬領域
7 吸収帯
8 バッキングシート
9 イムノクロマト試験片
10 格納容器
11 格納容器の蓋部分
12 格納容器の容器部分
13 デバイスの滴加口
14 デバイスの判定部
15 格納容器の蓋部分の突起部分
16 格納容器の容器部分の傾斜部
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のイムノクロマトデバイスを用いてA群β溶血性レンサ球菌の感染を高感度で検出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図8