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特許7373385燃料電池用セパレータおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20231026BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20231026BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20231026BHJP
   H01M 8/2483 20160101ALI20231026BHJP
   B29C 45/14 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
H01M8/0271
H01M8/0247
H01M8/0284
H01M8/2483
B29C45/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019229082
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021097001
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】門野 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】中西 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】山口 忍
(72)【発明者】
【氏名】田村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 真一
(72)【発明者】
【氏名】水野 基弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研二
(72)【発明者】
【氏名】栗原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】眞崎 智弘
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-095966(JP,A)
【文献】国際公開第2008/129840(WO,A1)
【文献】特開2008-001002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一流体が流れる第一面と、第二流体が流れ、膜電極接合体を有する電極部材の周囲に配置されるセル内シール部材に接着される第二面と、を有するセパレータ本体と、
該セパレータ本体の該第一面に配置され、積層される相手部材に弾接する第一シール部材と、
を有する燃料電池用セパレータであって、
該セパレータ本体の該第一面において、該第二面側の該電極部材に対応する領域を発電領域、該セル内シール部材に対応する領域をシール領域とした場合に、該シール領域の一部に配置されるポリマー製の変位・振動抑制部材を有し、
該変位・振動抑制部材は、積層される該相手部材に弾接する複数の突起部と、複数の該突起部よりも厚さが小さく複数の該突起部を連結する連結部と、を有し、該第一流体と該第二流体との差圧の変動によるセパレータの変位および振動を抑制するものであり、
該変位・振動抑制部材を平面視した場合に、隣接する該突起部の図心を結ぶ軸線と、該連結部の短手方向の中心を結ぶ中心線と、は一致せず、
該連結部は、該変位・振動抑制部材を成形した際のゲートカット跡を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記セパレータ本体は、厚さ方向に貫通し前記第一流体を供給または排出する貫通孔を有し、
前記変位・振動抑制部材は、該貫通孔と前記発電領域との間に配置される請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記変位・振動抑制部材は、前記発電領域の近傍に配置される請求項1または請求項2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
前記連結部は、隣接する前記突起部間に配置される複数の連結片からなり、
複数の該突起部は、該連結片を介して一筆書き状に連結される請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
複数の前記突起部の厚さに対する前記連結部の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.5以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
前記変位・振動抑制部材と前記第一シール部材とは、同じ材料からなる請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記変位・振動抑制部材および前記第一シール部材を、一回の射出成形により前記セパレータ本体と一体成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成するセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を含む電極部材をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。燃料電池は、セルの積層体を積層方向両外側から所定の力で締結して構成される。セパレータの厚さ方向(積層方向)一面側には、水素などの燃料ガスまたは空気などの酸化剤ガスが流れ、他面側には水などの冷媒が流れる。セパレータは、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、それが反応ガスおよび冷媒(以下適宜、これらのいずれかまたは両方を「流体」と称す)の流路になる。電極部材の周囲や、隣り合うセパレータの間には、枠状のゴム製シール部材(ゴムガスケット)が配置される。シール部材は、セパレータに接着されており、積層方向両外側からの締結力で圧縮される。これにより、シール部材の枠内外方向における流体の移動が禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-127393号公報
【文献】特開2016-095966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池の作動時においては、セパレータの一面側に流れる流体の圧力と他面側に流れる流体の圧力とは、常に同じというわけではない。すなわち、セパレータを挟んで流体の差圧が変動する。これにより、セパレータが積層方向に変位したり振動したりする。この際、シール部材に負荷が加わり、シール部材がセパレータから剥がれるおそれがある。例えば、電極部材の周囲に配置されるセル内シール部材がセパレータから剥がれると、アノード、カソードの各電極に供給される反応ガスが漏れたり混合してしまい、発電効率が低下するなどの問題が生じる。
【0005】
セパレータの変位を抑制するという観点では、例えば特許文献1に、セルの積層体からなる二つ以上のセルモジュールと、該セルモジュール間に配置されるシールプレートと、を有する燃料電池スタックにおいて、シールプレートが介挿されたセパレータ間にセパレータ変位抑制手段が配置された燃料電池スタックが記載されている。しかし、特許文献1のセパレータ変位抑制手段は、セルモジュール(セルの積層体)間に配置され、発電用ガスの脈動に伴うセパレータの変位を抑制し、MEAに発生する応力を低減するものであって、セパレータとセル内シール部材との剥離抑制を考慮したものではない。また、特許文献1に記載されているセパレータ変位抑制手段は、セパレータ間(セルモジュール間)の距離と同じ厚さを有する単なる樹脂製の突起(図7)や、シールプレートに設けられた平板状のリブ(図13)に過ぎない。特許文献1には、セパレータ変位抑制手段の製造方法や、製造過程で生じる問題などは何も記載されていない。
【0006】
一方、セパレータにおける貫通孔と内部流路との間の流体の流れを整えるという観点で、特許文献2には、セパレータ本体と、該セパレータ本体の流体流通領域と貫通孔との間に配置される整流部と、を備える燃料電池用セパレータが記載されている。整流部は、複数の突起部と、複数の該突起部よりも厚さが小さく該突起部を連結する連結部と、を有している。整流部は、セパレータにおける流体の流れを整えるものであり、セパレータの変位や振動を抑制するものではない。特許文献2の段落[0007]には、複数の突起部が連結部により連結されているため、整流部の接着面積が大きくなり、流体の流れに伴う圧力によるセパレータ本体からの剥離が抑制されることが記載されているが、これは整流部とセパレータ本体との接着の問題であり、セパレータ本体とセル内シール部材との剥離抑制は何ら考慮されていない。
【0007】
特許文献2には、ゴム製の整流部を射出成形により形成することが記載されているが、製造過程で生じる問題については検討されていない。例えば、特許文献2の図5に記載されているように、整流部を、平板状の連結部と、その上に配置される複数の柱状の突起部と、から構成し、射出成形により製造する場合、突起部に欠けが生じるおそれがある。理由は、ゴム材料は粘性を有しており、ゴム材料を注入するゲートを連結部(成形型における連結部を形成する部分)に設けると、ゲートのすぐ上に微小空間の突起部が配置されるため、注入されたゴム材料がバックフロー(逆流)してしまい、充填不足による欠けが生じやすくなるからである。また、連結部の上に突起部を配置すると、そこを通過する流体の流路は、連結部の厚さ分だけ狭くなる。よって、流体の流れを阻害しないためには、突起部間の距離(ピッチ)をある程度大きくしておく必要がある(ピッチを小さくするのには限界がある)。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、燃料電池の作動時に、流体の流れを阻害せず、セパレータの変位、振動を抑制することができる燃料電池用セパレータ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明の燃料電池用セパレータは、第一流体が流れる第一面と、第二流体が流れ、膜電極接合体を有する電極部材の周囲に配置されるセル内シール部材に接着される第二面と、を有するセパレータ本体と、該セパレータ本体の該第一面に配置され、積層される相手部材に弾接する第一シール部材と、を有する燃料電池用セパレータであって、該セパレータ本体の該第一面において、該第二面側の該電極部材に対応する領域を発電領域、該セル内シール部材に対応する領域をシール領域とした場合に、該シール領域の一部に配置されるポリマー製の変位・振動抑制部材を有し、該変位・振動抑制部材は、複数の突起部と、複数の該突起部よりも厚さが小さく複数の該突起部を連結する連結部と、を有し、該変位・振動抑制部材を平面視した場合に、隣接する該突起部の図心を結ぶ軸線と、該連結部の短手方向の中心を結ぶ中心線と、は一致せず、該連結部は、該変位・振動抑制部材を成形した際のゲートカット跡を有することを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、上記(1)の本発明の燃料電池用セパレータにおいて、変位・振動抑制部材と第一シール部材とが同じ材料からなる場合の製造方法であって、前記変位・振動抑制部材および前記第一シール部材を、一回の射出成形により前記セパレータ本体と一体成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明の燃料電池用セパレータは、変位・振動抑制部材を有する。変位・振動抑制部材は、複数の突起部と、複数の該突起部よりも厚さが小さい連結部と、を有する。セルを積層して燃料電池を構成した場合、突起部は、セパレータに積層される相手部材(別のセルを構成するセパレータなど)に弾接する。これにより、燃料電池の作動時にセパレータの厚さ方向両面に流れる流体の差圧が変動しても、セパレータの変位および振動を抑制することができる。結果、セパレータ本体と、その両面に各々配置される第一シール部材およびセル内シール部材と、の剥離を抑制することができる。セパレータ本体の第一面において、第二面側の電極部材に対応する領域を発電領域、セル内シール部材に対応する領域をシール領域とした場合に、変位・振動抑制部材は、シール領域の一部に配置される。このため、特に電極部材の周囲に配置されるセル内シール部材の剥離抑制に効果的である。これにより、電極部材の各電極に供給される反応ガスの漏れや混合が抑制され、発電効率の低下を回避することができる。
【0012】
変位・振動抑制部材を平面視した場合に、隣接する突起部の図心を結ぶ軸線と、連結部の短手方向の中心を結ぶ中心線と、は一致しない。図心とは、図形を平面視した時の重心である。突起部の軸線と連結部の中心線とが一致しないということは、簡単に言えば、平面視した時に、突起部と連結部とがずれて見えるということになる。
【0013】
上記特許文献2の図5に記載されている整流部のように、連結部の中心線上に突起部を配置して、突起部の軸線と連結部の中心線とが一致するように変位・振動抑制部材を構成すると、ゲートを連結部(成形型における連結部を形成する部分)に設けて射出成形した際に、ポリマー材料がバックフローして、突起部に欠けが生じるおそれがある。バックフローを回避するだけならば、ゲートから突起部までの距離を長くするという観点から、突起部間の距離(ピッチ)を大きくして、ゲートが突起部間に配置されるようにすればよいかもしれない。しかし、変位・振動抑制部材において突起部のピッチを大きくすると、セパレータの変位や振動を抑制する効果が低下してしまう。したがって、セパレータの変位や振動を抑制する効果を確保するためには、第一流体の流れを阻害しない範囲でピッチを小さくする方がよい。そうすると、突起部の軸線と連結部の中心線とが一致するように配置したのでは、ゲートを突起部間に配置することは難しい。
【0014】
この点、本発明における変位・振動抑制部材によると、平面視において突起部の軸線と連結部の中心線とが一致しないため、連結部に設けたゲートから突起部を遠ざけることができる。したがって、突起部のピッチを小さくしても、射出成形により生じるおそれがある欠けの問題を回避することができる。また、突起部と連結部とをずらして配置すると、突起部間に流路を確保しやすくなるため、第一流体の流れを阻害しにくい。
【0015】
本発明における変位・振動抑制部材の連結部は、成形時にゲートカットした際にできるゲートカット跡を有する。これは、成形型のゲートが連結部を形成する部分に設けられ、ポリマー材料が当該部分から注入されたことを示すものである。
【0016】
(2)本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によると、変位・振動抑制部材および第一シール部材を、一回の射出成形によりセパレータ本体と一体成形することができる。したがって、変位・振動抑制部材と第一シール部材とを別々に成形し、セパレータ本体に接着する場合などと比較して、製造工程を削減することができ、製造時間の短縮、コスト低減を図ることができる。これにより、燃料電池用セパレータの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一実施形態のアノード側セパレータの上面図である。
図2】燃料電池セルを構成した状態における図1のII-II断面図である。
図3A図1の枠IIIAの拡大図である。
図3B図3Aの右面図である。
図4A】同アノード側セパレータを製造するための成形型の型締め状態における上下方向の部分断面図である。
図4B】同成形型を構成する第二型の型面の部分平面図である。
図5】第二実施形態のアノード側セパレータにおける変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図である。
図6】第三実施形態のアノード側セパレータにおける変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図である。
図7】第四実施形態のアノード側セパレータにおける変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の燃料電池用セパレータおよびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0019】
<第一実施形態>
[燃料電池用セパレータの構成]
まず、本実施形態の燃料電池用セパレータの構成について説明する。本実施形態において、燃料電池用セパレータは、燃料電池セルを構成するアノード側セパレータとして具現化されている。図1に、アノード側セパレータの上面図を示す。図2に、燃料電池セルを構成した状態における図1のII-II断面図を示す。図3Aに、図1の枠IIIAの拡大図を示す。図3Bに、図3Aの右面図を示す。図の方位のうち、前後左右方向はセパレータの面方向、上下方向はセパレータの厚さ方向、積層方向を示す。
【0020】
図1に示すように、アノード側セパレータ1は、セパレータ本体10と、第一シール部材20と、一対の変位・振動抑制部材30a、30bと、を有している。
【0021】
セパレータ本体10は、チタン製であって、矩形薄板状を呈している。セパレータ本体10は、厚さ方向に貫通する六つの貫通孔を有している。すなわち、セパレータ本体10の左方には、後方から順に空気供給孔11a、冷却水供給孔12a、水素供給孔13aが開設されており、右方には、後方から順に水素排出孔13b、冷却水排出孔12b、空気排出孔11bが開設されている。
【0022】
セパレータ本体10は、上面14と、下面15と、を有している。上面14の中央部分には、矩形状の発電領域21が区画されている。発電領域21は、アノード側セパレータ1を用いて燃料電池セル9を構成した場合に、下面15側に積層される電極部材5の配置領域に対応している。電極部材5については後述する。発電領域21には、冷却水が流れる冷却水流路16が形成されている。発電領域21の面方向外側には、シール領域22が区画されている。シール領域22は、アノード側セパレータ1を用いて燃料電池セル9を構成した場合に、下面15側に積層されるセル内シール部材4の配置領域に対応している。セル内シール部材4については後述する。説明の便宜上、図1においては、シール領域22(第一シール部材20との重複部分は除く)に点線ハッチングを施して示す。
【0023】
第一シール部材20は、セパレータ本体10の上面14の周縁部および六つの貫通孔(空気供給孔11a、空気排出孔11b、冷却水供給孔12a、冷却水排出孔12b、水素供給孔13a、水素排出孔13b)の周囲に配置されている。第一シール部材20は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)製であって、矩形枠状を呈している。第一シール部材20は、セパレータ本体10(アノード側セパレータ1)の上面14に積層される相手部材(別のセルのカソード側セパレータ)に弾接される。説明の便宜上、図1においては、第一シール部材20に実線ハッチングを施して示す。
【0024】
セパレータ本体10の下面15には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路が形成されている。下面15は、セル内シール部材4に接着されている。ここで、アノード側セパレータ1を備える燃料電池セル9の構成を、図1のII-II断面に対応した部分断面図で示しながら、電極部材5およびセル内シール部材4などを説明する。
【0025】
図2に示すように、燃料電池セル9は、アノード側セパレータ1にセル内シール部材4、電極部材5、およびカソード側セパレータ6が積層されて構成されている。セル内シール部材4は、EPDM製であって、上方から見て矩形枠状を呈している。電極部材5は、セル内シール部材4の枠内側に配置されている。セル内シール部材4は、電極部材5の外周縁に接着されている。電極部材5は、MEA(Membrane Electrode Assembly)50と、MEA50を挟んで配置される一対の多孔質層51a、51bと、からなる。セル内シール部材4の上面は、セパレータ本体10(アノード側セパレータ1)の下面15に接着され、下面はカソード側セパレータ6の上面に接着されている。
【0026】
セパレータ本体10の上面14は、本発明における「第一面」の概念に含まれ、冷却水は、本発明における「第一流体」の概念に含まれる。セパレータ本体10の下面15は、本発明における「第二面」の概念に含まれ、燃料ガスは、本発明における「第二流体」の概念に含まれる。
【0027】
図1に戻って、アノード側セパレータ1は、左右方向に対向する一対の変位・振動抑制部材30a、30bを有している。変位・振動抑制部材30aは、発電領域21の面方向左外側のシール領域22に配置されている。変位・振動抑制部材30aは、発電領域21の左辺に沿うように、発電領域21の近傍に配置されている。変位・振動抑制部材30aは、セパレータ本体10の左方の三つの貫通孔(空気供給孔11a、冷却水供給孔12a、水素供給孔13a)と発電領域21との間に配置されている。
【0028】
変位・振動抑制部材30bは、発電領域21の面方向右外側のシール領域22に配置されている。変位・振動抑制部材30bは、発電領域21の右辺に沿うように、発電領域21の近傍に配置されている。変位・振動抑制部材30bは、アノード側セパレータ1の右方の三つの貫通孔(空気排出孔11b、冷却水排出孔12b、水素排出孔13b)と発電領域21との間に配置されている。変位・振動抑制部材30a、30bは、左右対称で、材質および形状などの構成は同じである。よって、以下においては、変位・振動抑制部材30aについて説明する。
【0029】
変位・振動抑制部材30aは、第一シール部材20と同じEPDM製である。図3Aに拡大して示すように、変位・振動抑制部材30aは、複数の突起部31と、連結部32と、を有している。複数の突起部31の形状および大きさは、すべて同じである。図3Bに右面を示すように、突起部31は、底面が円形で頂部が凸曲面の山状を呈している。突起部31の厚さは、第一シール部材20の厚さと同じである。
【0030】
連結部32は、複数の連結片320からなる。連結片320は、隣接する突起部31間に一つずつ配置されている。複数の連結片320の形状および大きさは、すべて同じである。連結片320の厚さは、突起部31の厚さより小さい。突起部31の厚さに対する連結片320の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.3である。
【0031】
上方から平面視した場合、連結片320は、半リング状を呈しており、隣接する突起部31同士を曲線状に連結している。複数の突起部31は、連結片320を介して一筆書き状に連結されている。ここで、「一筆書き状に連結」とは、連結片320同士は連続することなく、「突起部31-連結片320-突起部31」というように、突起部31と連結片320とが交互に連なる形態を意味する。アノード側セパレータ1の上面14を平面視した場合に、隣接する突起部31の図心(平面視した図形の重心)を結ぶ軸線31L(図3A中、点線で示す)と、連結片320の短手方向の中心を結ぶ中心線320L(図3A中、二点鎖線で示す)と、は一致していない。
【0032】
後述するように、変位・振動抑制部材30aは、第一シール部材20と同時に射出成形されている。成形時、ゴム材料は、成形型のゲートから所定の連結片320のキャビティに注入され、成形後にゲートカットが施される。このため、複数の連結片320のうち、いくつかの連結片320の上面には、図3A中に円形状で示すように、ゲートカット跡321が形成されている。
【0033】
[燃料電池用セパレータの製造方法]
次に、本実施形態の燃料電池用セパレータの製造方法について説明する。アノード側セパレータ1は、変位・振動抑制部材30a、30bおよび第一シール部材20を、一回の射出成形によりセパレータ本体10と一体成形して製造されている。図4Aに、アノード型セパレータ1を製造するための成形型の型締め状態における上下方向の部分断面図を示す。図4Bに、同成形型を構成する第二型の型面の部分平面図を示す。
【0034】
図4A図4Bに示すように、成形型7は、第一型71と第二型72とを備えている。第一型71には、セパレータ本体10が配置されている。第二型72の下面(型面)は、変位・振動抑制部材30a、30bおよび第一シール部材20を形成するための凹部を有しており、図4A図4Bには、そのうちの変位・振動抑制部材30aを形成するための凹部70が示されている。凹部70は、変位・振動抑制部材30aの連結片320に対応する連結片凹部700と、突起部31に対応する突起部凹部701と、を有している。連結片凹部700のうちのいくつかには、ゲート73が接続されている。ゴム材料は、ゲート73から凹部70に充填される。
【0035】
まず、成形型7を型締めし、EPDMをゴム成分とするゴム材料を、成形機のノズルから、第二型72のランナ(図略)、ゲート73を通して、凹部70(キャビティ)に注入する。ゴム材料は、80℃程度に加熱されている。注入されたゴム材料は、図4Aに矢印で示すように、ゲート73に連なる連結片凹部700を満たした後、隣接する突起部凹部701に流入し、それを満たした後、隣接する次の連結片凹部700に流入する。このようにして、ゴム材料は順番に凹部70全体に行き渡り、硬化する。その後、成形型7の型開きを行い、ゲートカットを施して、アノード側セパレータ1(変位・振動抑制部材30a、30bおよび第一シール部材20とセパレータ本体10との一体成形品)が完成する。
【0036】
[燃料電池用セパレータの作用効果]
次に、本実施形態の燃料電池用セパレータの作用効果について説明する。アノード側セパレータ1は、変位・振動抑制部材30a、30bを有している。変位・振動抑制部材30a、30bは、左右対称で同じ作用効果を奏するため、以下においては、変位・振動抑制部材30aについて説明する。燃料電池セル9を積層して燃料電池を構成した場合、変位・振動抑制部材30aの突起部31は、別のセルを構成するセパレータなどの相手部材に弾接する。これにより、燃料電池の作動時にアノード側セパレータ1の厚さ方向両面に流れる流体の差圧が変動しても、アノード側セパレータ1の変位および振動は抑制される。結果、セパレータ本体10と、その両面に各々配置される第一シール部材20およびセル内シール部材4と、の剥離を抑制することができる。
【0037】
変位・振動抑制部材30aは、シール領域22(セル内シール部材4に対応する領域)の一部に配置されている。具体的には、セパレータ本体10の左方の三つの貫通孔(空気供給孔11a、冷却水供給孔12a、水素供給孔13a)と発電領域21との間のシール領域22において、発電領域21の近傍に発電領域21の左辺に沿うように配置されている。このため、セパレータ本体10の下面15に接着されるセル内シール部材4の剥離抑制に効果的である。特に、冷却水供給孔12aと発電領域21との間には、第一シール部材20が配置されていないため、この間に変位・振動抑制部材30aを配置することにより、アノード側セパレータ1の変位、振動を効果的に抑制することができる。
【0038】
変位・振動抑制部材30aの連結部32(連結片320)は、ゲートカット跡321を有している。すなわち、射出成形により成形する際に、原料のゴム材料は連結部32を形成する部分に注入される。ここで、複数の突起部31は、連結片320を介して一筆書き状に連結されている。この場合、射出成形時に連結部32を形成する部分に注入されたゴム材料は、「連結片320→突起部31→連結片320」の順番で充填される。こうするうと、成形型7のキャビティ(凹部70)のエアを押し出しながら充填することができるため、欠けなどの成形不良が生じにくい。
【0039】
変位・振動抑制部材30aにおいては、上方からの平面視において、突起部31の軸線31Lと連結部32の中心線320Lとが一致しない。突起部31と連結部32とが同一線上にないため、連結部にゲートを設けても、当該ゲートから突起部までの距離を大きくすることができる。したがって、射出成形時にバックフローによる欠けが生じにくい。また、突起部31と連結部32とをずらして配置すると、突起部31間に流路を確保しやすくなるため、冷却水の流れを阻害しにくい。
【0040】
また、突起部31の厚さに対する連結片320の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.3である。よって、所望の流路を確保することができ冷却水の流れを阻害しにくい。
【0041】
変位・振動抑制部材30aの材料は、第一シール部材20の材料と同じであるため、射出成形法などにより両者を同時に成形することが可能である。本実施形態においては、変位・振動抑制部材30a、30bおよび第一シール部材20を、一回の射出成形によりセパレータ本体10と一体成形している。したがって、変位・振動抑制部材30a、30bと第一シール部材20とを別々に成形した後、セパレータ本体10に接着する場合などと比較して、製造工程を削減することができ、製造時間の短縮、コスト低減を図ることができる。これにより、燃料電池用セパレータの生産性が向上する。
【0042】
<第二実施形態>
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとの相違点は、変位・振動抑制部材の形状とセパレータの製造方法である。ここでは、主に相違点を説明する。本実施形態においても第一実施形態と同様に、変位・振動抑制部材は、左右方向に対向して一対配置されており、各々の構成は同じである。よって、以下においては、セパレータ本体の左側に配置されている変位・振動抑制部材33aについて説明する。図5に、変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図を示す。図5は、前出図1の枠IIIAの拡大図(前出図3A)に対応している。図5において、図3Aと対応する部位については、同じ符号で示す。
【0043】
図5に示すように、変位・振動抑制部材33aは、複数の突起部31と、連結部34と、を有している。複数の突起部31については、第一実施形態と同じであるため説明を省略する。連結部34は、複数の連結片340からなる。連結片340は、隣接する突起部31間に一つずつ配置されている。複数の連結片340の形状および大きさは、すべて同じである。連結片340の厚さは、突起部31の厚さより小さい。突起部31の厚さに対する連結片340の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.3である。
【0044】
上方から平面視した場合、連結片340は、コの字状を呈しており、隣接する突起部31同士を台形状に連続する直線で連結している。複数の突起部31は、該連結片340を介して一筆書き状に連結されている。すなわち、連結片340同士は連続することなく、突起部31と連結片340とが交互に配置されている。アノード側セパレータの上面を平面視した場合に、隣接する突起部31の図心を結ぶ軸線31L(図5中、点線で示す)と、連結片340の短手方向の中心を結ぶ中心線340L(図5中、二点鎖線で示す)と、は一致していない。
【0045】
本実施形態においては、まず予備成形した第一シール部材をセパレータ本体に配置し、その後、変位・振動抑制部材を射出成形する。この際、第一シール部材が加熱により架橋して、変位・振動抑制部材と共にセパレータ本体に一体化する。変位・振動抑制部材33aの射出成形時、ゴム材料は、成形型のゲートから所定の連結片340のキャビティに注入され、「連結片340→突起部31→連結片340」の順番で充填される。そして、成形後にゲートカットが施される。これにより、複数の連結片340のうち、いくつかの連結片340の上面には、図5中に円形状で示すように、ゲートカット跡341が形成されている。
【0046】
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のアノード側セパレータにおいては、変位・振動抑制部材33aの連結片340が、コの字状を呈しており、隣接する突起部31同士を直線状に連結している。このような構成においても、変位・振動抑制部材33aの突起部31は、別のセルを構成するセパレータなどの相手部材に弾接する。これにより、燃料電池の作動時にアノード側セパレータの厚さ方向両面に流れる流体の差圧が変動しても、アノード側セパレータの変位および振動は抑制される。結果、セパレータ本体と、その両面に各々配置される第一シール部材およびセル内シール部材と、の剥離を抑制することができる。
【0047】
<第三実施形態>
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとの相違点は、変位・振動抑制部材の形状である。ここでは、主に相違点を説明する。本実施形態においても第一実施形態と同様に、変位・振動抑制部材は、左右方向に対向して一対配置されており、各々の構成は同じである。よって、以下においては、セパレータ本体の左側に配置されている変位・振動抑制部材35aについて説明する。図6に、変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図を示す。図6は、前出図1の枠IIIAの拡大図(前出図3A)に対応している。図6において、図3Aと対応する部位については、同じ符号で示す。
【0048】
図6に示すように、変位・振動抑制部材35aは、複数の突起部31と、連結部36と、を有している。複数の突起部31については、第一実施形態と同じであるため説明を省略する。連結部36は、複数の突起部31を連結している。連結部36は、幹部360と、複数の枝部361と、からなる。幹部360は、帯状を呈し、前後方向に延在している。複数の枝部361は、各々、幹部360から左方に直線状に延在し、幹部360と個々の突起部31との間に配置されている。幹部360および複数の枝部361の厚さは同じである。連結部36(幹部360および枝部361)の厚さは、突起部31の厚さより小さい。突起部31の厚さに対する連結部36の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.3である。
【0049】
アノード側セパレータの上面を平面視した場合に、隣接する突起部31の図心を結ぶ軸線31L(図6中、点線で示す)と、連結部36の短手方向の中心を結ぶ中心線360L(図6中、二点鎖線で示す)と、は一致していない。
【0050】
変位・振動抑制部材35aは、第一シール部材と同時に射出成形されている。成形時、ゴム材料は、成形型のゲートから幹部360(連結部36)のキャビティの所定位置に注入される。注入されたゴム材料は、前後方向に連続する幹部360を満たしつつ、幹部360から枝部361に分岐して突起部31に流入し、最終的には変位・振動抑制部材35aの全体に行き渡り硬化する。型開き後のゲートカットにより、幹部360の上面には、図6中に円形状で示すように、ゲートカット跡362が形成されている。
【0051】
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のアノード側セパレータにおいては、変位・振動抑制部材35aの連結部36が、幹部360とそれから分岐する複数の枝部361とからなる。このような構成においても、変位・振動抑制部材35aの突起部31は、別のセルを構成するセパレータなどの相手部材に弾接する。これにより、燃料電池の作動時にアノード側セパレータの厚さ方向両面に流れる流体の差圧が変動しても、アノード側セパレータの変位および振動は抑制される。結果、セパレータ本体と、その両面に各々配置される第一シール部材およびセル内シール部材と、の剥離を抑制することができる。
【0052】
<第四実施形態>
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとの相違点は、変位・振動抑制部材の形状である。ここでは、主に相違点を説明する。本実施形態においても第一実施形態と同様に、変位・振動抑制部材は、左右方向に対向して一対配置されており、各々の構成は同じである。よって、以下においては、セパレータ本体の左側に配置されている変位・振動抑制部材37aについて説明する。図7に、変位・振動抑制部材を上方から見た場合の部分拡大図を示す。図7は、前出図1の枠IIIAの拡大図(前出図3A)に対応している。図7において、図3Aと対応する部位については、同じ符号で示す。
【0053】
図7に示すように、変位・振動抑制部材37aは、複数の突起部31と、連結部38と、を有している。複数の突起部31については、第一実施形態と同じであるため説明を省略する。連結部38は、複数の突起部31を連結している。連結部38は、平板状を呈し、前後方向に延在している。個々の突起部31は、連結部38の左端部に所定の間隔で離間して配置されている。連結部38の厚さは、突起部31の厚さより小さい。突起部31の厚さに対する連結部38の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.3である。
【0054】
アノード側セパレータの上面を平面視した場合に、隣接する突起部31の図心を結ぶ軸線31L(図7中、点線で示す)と、連結部38の短手方向の中心を結ぶ中心線380L(図7中、二点鎖線で示す)と、は一致していない。
【0055】
変位・振動抑制部材37aは、第一シール部材と同時に射出成形されている。成形時、ゴム材料は、成形型のゲートから連結部38のキャビティの所定位置に注入される。注入されたゴム材料は、前後方向に連続する連結部38を満たしつつ突起部31に流入し、最終的には変位・振動抑制部材37aの全体に行き渡り硬化する。型開き後のゲートカットにより、連結部38の上面には、図7中に円形状で示すように、ゲートカット跡381が形成されている。
【0056】
本実施形態の燃料電池用セパレータと、第一実施形態の燃料電池用セパレータとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態のアノード側セパレータ1においては、変位・振動抑制部材37aの連結部38が、前後方向に延在する一枚の平板状を呈している。このような構成においても、変位・振動抑制部材37aの突起部31は、別のセルを構成するセパレータなどの相手部材に弾接する。これにより、燃料電池の作動時にアノード側セパレータの厚さ方向両面に流れる流体の差圧が変動しても、アノード側セパレータの変位および振動は抑制される。結果、セパレータ本体と、その両面に各々配置される第一シール部材およびセル内シール部材と、の剥離を抑制することができる。
【0057】
<その他>
以上、本発明の燃料電池用セパレータおよびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0058】
上記実施形態においては、燃料電池用セパレータをアノード側セパレータとして具現化したが、カソード側セパレータでもよい。第一流体および第二流体の種類は限定されず、例えば、第一流体は水以外の冷媒でもよく、第二流体は酸化剤ガスでもよい。セパレータ本体の材質は、上記実施形態に限定されず、チタンの他、鉄、ステンレス鋼、アルミニウムなどが挙げられる。また、セパレータ本体に形成される流路、貫通孔などの構成も限定されない。本発明の燃料電池用セパレータを備える燃料電池セルの構成も限定されない。例えば、電極部材を構成する一対の多孔質層を、ガス拡散層のみの単層構造としてもよく、ガス拡散層およびガス流路層の二層構造としてもよい。
【0059】
第一シール部材およびセル内シール部材の材質、形状、配置形態などは限定されない。いずれのシール部材も、ゴム成分の他に、架橋剤、共架橋剤、加工助剤、軟化剤、補強材などを含んでいてもよい。好適なゴム成分としては、EPDMの他、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
【0060】
変位・振動抑制部材を配置する場所は、シール領域(セル内シール部材に対応する領域)であれば限定されない。変位・振動抑制部材は、シール領域の一箇所に配置してもよく、複数箇所に分散して配置してもよい。例えば上記実施形態においては、冷却水供給孔および冷却水排出孔(第一流体を供給または排出する貫通孔)と発電領域との間に第一シール部材は配置されていない。このように、第一シール部材が配置されていない領域に変位・振動抑制部材を配置すると、セパレータの変位および振動の抑制に効果的である。また、セル内シール部材と電極部材との境界付近においては、セパレータ本体からセル内シール部材が剥がれやすい。当該境界付近は、シール領域における発電領域の近傍に相当する。よって、シール領域における発電領域の近傍に変位・振動抑制部材を配置すると、セル内シール部材の剥離抑制に効果的である。
【0061】
変位・振動抑制部材は、複数の突起部と連結部とを有する。変位・振動抑制部材は、平面視した場合に、隣接する突起部の図心を結ぶ軸線と、連結部の短手方向の中心を結ぶ中心線と、が一致しなければよく、突起部および連結部の形状、大きさなどは限定されない。例えば、突起部の形状は、上記実施形態の山状の他、角柱、円柱などの柱状、角錐、円錐などの錘状でもよい。突起部が山状の場合、底面は円形の他、多角形、楕円形でもよく、頂部は凸曲面の他、平面でもよい。また、径方向(面方向)の大きさが異なる複数段を有してもよい。上記実施形態においては、軸線が真っ直ぐに延びる直線状になるように、突起部を配置した。しかし、突起部は、軸線がジグザグ状に蛇行するように配置されてもよい。一つの変位・振動抑制部材において、突起部の数は二つ以上あればよい。
【0062】
連結部は、複数の突起部を連結していれば形状は限定されない。連結部は、上記第三、第四実施形態のように連続する一体物でもよく、上記第一、第二実施形態のように、突起部間に分断して配置される複数の連結片から構成されていてもよい。連結部を複数の連結片から構成する場合、複数の突起部は、連結片を介して一筆書き状に連結される。この場合、変位・振動抑制部材の成形時に、キャビティ内のエアを押し出しながらポリマー材料を充填することができるため、欠けなどの成形不良が生じにくい。連結部におけるゲートカット跡は、一つでも複数でもよい。
【0063】
突起部の厚さは、セパレータに積層される相手部材とのクリアランスよりも大きくする必要がある。突起部の厚さは、燃料電池の組み付け時に、セパレータの変位および振動を抑制することができる圧力を有するよう、適宜設定すればよい。例えば、突起部の厚さを、第一シール部材の厚さと同じにしてもよく、それより大きくまたは小さくしてもよい。また、連結部の厚さは、突起部の厚さよりも小さい。第一流体の流れを阻害しにくいという観点から、突起部の厚さに対する連結部の厚さの比(連結部厚さ/突起部厚さ)は、0.5以下、0.4以下、さらには0.3以下であることが望ましい。
【0064】
変位・振動抑制部材の材質は、ポリマーであれば特に限定されない。セパレータの変位、振動に対する追従性を考慮すると、エラストマー、なかでも架橋ゴムを採用することが望ましい。例えば、第一シール部材と同じ材料を採用すれば、変位・振動抑制部材と第一シール部材とを同時に成形することができる。
【0065】
ゲートを用いる変位・振動抑制部材の成形方法としては、上記実施形態における射出成形の他、トランスファー成形などを採用してもよい。いずれの場合においても、セパレータ本体に一体成形する他、セパレータ本体とは別に成形しておき、それをセパレータ本体に接着してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1:アノード側セパレータ(燃料電池用セパレータ)、10:セパレータ本体、11a:空気供給孔、11b:空気排出孔、12a:冷却水供給孔、12b:冷却水排出孔、13a:水素供給孔、13b:水素排出孔、14:上面(第一面)、15:下面(第二面)、16:冷却水流路、20:第一シール部材、21:発電領域、22:シール領域、30a、30b:変位・振動抑制部材、31:突起部、31L:軸線、32:連結部、320:連結片、320L:中心線、321:ゲートカット跡、33a:変位・振動抑制部材、34:連結部、340:連結片、340L:中心線、341:ゲートカット跡、35a:変位・振動抑制部材、36:連結部、360:幹部、361:枝部、360L:中心線、362:ゲートカット跡、37a:変位・振動抑制部材、38:連結部、380L:中心線、381:ゲートカット跡、4:セル内シール部材、5:電極部材、50:MEA、51a、51b:多孔質層、6:カソード側セパレータ、7:成形型、70:凹部、700:連結片凹部、701:突起部凹部、71:第一型、72:第二型、73:ゲート、9:燃料電池セル。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7