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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】出没機構
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/18 20060101AFI20231026BHJP
   B43K 24/12 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B43K24/18 130
B43K24/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019237041
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104628
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100196047
【弁理士】
【氏名又は名称】柳本 陽征
(72)【発明者】
【氏名】大西 智温
【審査官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-047090(JP,B1)
【文献】実公昭49-034189(JP,Y1)
【文献】実開平02-017388(JP,U)
【文献】実開昭57-103893(JP,U)
【文献】特開2008-265260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/18
B43K 24/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる中心軸線を有し、前記長手方向の前端に開口部を有する軸筒と、
複数の出没部材と、
前記中心軸線周りに回転することにより、各出没部材の先端部を前記開口部から順に出没させる回転部材と、
前後に移動することにより、前記回転部材を前記中心軸線周りに回転させる重量体と、を備え
前記回転部材は、軸方向に対して傾斜するとともに周方向に対して前側に傾斜した前方傾斜面を有し、
前記重量体は、軸方向に対して傾斜するとともに周方向に対して後側に傾斜した後方傾斜面を有し、
前記後方傾斜面が後方に移動して前記前方傾斜面を押圧することにより、前記回転部材が回転する、出没機構。
【請求項2】
前記回転部材は、外面に第1カム溝を有し、
前記出没部材は、前記第1カム溝に係合する第1係合部を有する、請求項1に記載の出没機構。
【請求項3】
前記第1カム溝は、周方向の一方側へ向かうにつれて前方へ向かうように軸方向及び周方向に対して傾斜して延びる第1部分と、前記第1部分と連通し、周方向の一方側へ向かうにつれて後方へ向かうように軸方向及び周方向に対して傾斜して延びる第2部分とを含み、
前記第1部分及び前記第2部分は、周方向に交互に配置されている、請求項に記載の出没機構。
【請求項4】
前記軸筒に対して周方向及び軸方向の移動が規制された固定カム部材をさらに備え、
前記固定カム部材は、周方向に配列された複数の第2カム溝を内面に有し、
前記重量体は、前記第2カム溝に係合する第2係合部を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の出没機構。
【請求項5】
前記出没部材は、筆記用先端部材を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の出没機構。
【請求項6】
前記出没部材は、工具用先端部材を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の出没機構。
【請求項7】
前記出没部材は、カトラリー用先端部材を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の出没機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出没機構に関する。
【背景技術】
【0002】
各色に対応した複数の筆記用ペン先を有し、使用者のノック動作により、複数の筆記用ペン先のうちのいずれかを、軸筒の前端の開口部から選択的に突出させることが可能なノック式筆記具が知られている。特許文献1には、軸筒と、軸筒内に軸方向にスライド可能に対向収容される2本のボールペンレフィルを備えた筆記具が開示されている。この筆記具では、ボールペンレフィルの後端には、ノック部材が差し込み固定されており、ボールペンレフィル及びノック部材は、コイルばねにより後端方向に付勢されている。使用者が指でノック部材をコイルばねの付勢力に抗して先端方向に移動させると、ボールペンレフィルが先端方向に移動し、ボールペンレフィルのペン先が先端孔より外部に突出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-187828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のノック式筆記具においては、ペン先等の先端部材を出没させるためには、使用者が筆記具を持ち替えてノック部材を操作する必要があり、手間がかかっていた。したがって、使用者が持ち替えることなく先端部材を出没させることが可能な出没機構が望まれていた。
【0005】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、使用者が持ち替えることなく先端部材を出没させることが可能な出没機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による出没機構は、
長手方向に延びる中心軸線を有し、前記長手方向の前端に開口部を有する軸筒と、
複数の出没部材と、
前記中心軸線周りに回転することにより、各出没部材の先端部を前記開口部から順に出没させる回転部材と、
前後に移動することにより、前記回転部材を前記中心軸線周りに回転させる重量体と、を備える。
【0007】
本発明による出没機構において、
前記回転部材は、軸方向に対して傾斜するとともに周方向に対して前側に傾斜した前方傾斜面を有し、
前記重量体は、軸方向に対して傾斜するとともに周方向に対して後側に傾斜した後方傾斜面を有し、
前記後方傾斜面が後方に移動して前記前方傾斜面を押圧することにより、前記回転部材が回転してもよい。
【0008】
本発明による出没機構において、
前記回転部材は、外面に第1カム溝を有し、
前記出没部材は、前記第1カム溝に係合する第1係合部を有してもよい。
【0009】
本発明による出没機構において、
前記第1カム溝は、周方向の一方側へ向かうにつれて前方へ向かうように軸方向及び周方向に対して傾斜して延びる第1部分と、前記第1部分と連通し、周方向の一方側へ向かうにつれて後方へ向かうように軸方向及び周方向に対して傾斜して延びる第2部分とを含み、
前記第1部分及び前記第2部分は、周方向に交互に配置されていてもよい。
【0010】
本発明による出没機構において、
前記軸筒に対して周方向及び軸方向の移動が規制された固定カム部材をさらに備え、
前記固定カム部材は、周方向に配列された複数の第2カム溝を内面に有し、
前記重量体は、前記第2カム溝に係合する第2係合部を有してもよい。
【0011】
本発明による出没機構において、
前記出没部材は、筆記用先端部材を含んでもよい。
【0012】
本発明による出没機構において、
前記出没部材は、工具用先端部材を含んでもよい。
【0013】
本発明による出没機構において、
前記出没部材は、カトラリー用先端部材を含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用者が持ち替えることなく先端部材を出没させることが可能な出没機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、出没機構を有する筆記具の一例を示す縦断面図である。
図2図2は、図1の筆記具の分解斜視図である。
図3A図3Aは、出没機構に含まれる回転部材を回転させるための動作を説明する図である。
図3B図3Bは、出没機構に含まれる回転部材を回転させるための動作を説明する図である。
図3C図3Cは、出没機構に含まれる回転部材を回転させるための動作を説明する図である。
図3D図3Dは、出没機構に含まれる回転部材を回転させるための動作を説明する図である。
図3E図3Eは、出没機構に含まれる回転部材を回転させるための動作を説明する図である。
図4図4は、図3AのIV-IV線に対応する図である。
図5A図5Aは、出没部材の出没動作について説明するための図であり、回転部材の第1カム溝と、出没部材の第1係合部との位置関係を示す図である。
図5B図5Bは、出没部材の出没動作について説明するための図であり、回転部材の第1カム溝と、出没部材の第1係合部との位置関係を示す図である。
図5C図5Cは、出没部材の出没動作について説明するための図であり、回転部材の第1カム溝と、出没部材の第1係合部との位置関係を示す図である。
図5D図5Dは、出没部材の出没動作について説明するための図であり、回転部材の第1カム溝と、出没部材の第1係合部との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0017】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0018】
本実施形態では、出没機構20が筆記具10に組み込まれた例について説明するが、これに限られず、出没機構20は、複数の出没部材を出没させる他の装置にも適用され得る。本明細書では、筆記具10の中心軸線Aが延びる方向(長手方向、縦断面図における上下方向)を軸方向da、軸方向daと直交する方向を径方向dr、中心軸線A周りの円周に沿った方向を周方向dcとする。また、軸方向daに沿って、筆記する際に紙面等の被筆記面に近接する側を前方とし、被筆記面から離間する側を後方とする。すなわち、ペン先側が前方であり、ペン先と反対側が後方である。これにともなって、軸方向daと平行な方向を前後方向と呼ぶこともある。
【0019】
図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、出没機構20を有する筆記具10の一例を示す縦断面図であり、図2は、図1の筆記具10の分解斜視図である。筆記具10は、出没機構20を備えている。出没機構20は、軸筒30と、第1出没部材40と、第2出没部材50と、回転部材60と、重量体70と、を有している。本実施の形態の出没機構20は、固定カム部材80をさらに備えている。
【0020】
出没機構20は、出没部材40,50の先端を軸筒30の前端の開口部33から出没させる機能を有する機構である。とりわけ、出没機構20は、複数の出没部材40,50のうちのいずれかの先端を開口部33から出没させる機能を有する。本実施形態では、使用者が出没機構20(筆記具10)を前後方向に振ることによって、重量体70が前後に移動し、これにともなって、各出没部材40,50の突出及び没入が切り換えられる。したがって、使用者が出没機構20(筆記具10)を持ち替えることなく、出没部材40,50を出没させることが可能である。
【0021】
軸筒30は、出没機構20を構成する各部品を収容する部材である。本実施形態では、軸筒30は、第1出没部材40、第2出没部材50、回転部材60、重量体70及び固定カム部材80を収容する。軸筒30は、長手方向に延びる中心軸線Aを有しており、長手方向の前端に開口部33を有している。開口部33は、出没部材40,50の先端が通過可能な形状及び寸法を有している。軸筒30は、前軸32、後軸34及びキャップ36を含んでいる。図1に示された例では、開口部33は前軸32の前端に設けられている。前軸32の後端の内面には雌ネジ部が形成されており、この雌ネジ部が後軸34の前端の外面に形成された雄ネジ部と螺合することにより、前軸32が後軸34に対して取り付けられる。キャップ36は、後軸34の後端を塞ぐ部品である。キャップ36の前端の内面には雌ネジ部が形成されており、この雌ネジ部が後軸34の後端の外面に形成された雄ネジ部と螺合することにより、キャップ36が後軸34に対して取り付けられる。後軸34の後部には、軸方向daに延びるスリット35が形成されている。出没部材40,50の後述の操作部46b,56bが、このスリット35内を軸方向daに沿って移動することが可能である。
【0022】
出没部材40,50は、回転部材60の回転にともなって軸方向daに移動することが可能に構成された部材である。第1出没部材40は、第1先端部材42、第1中間部材44及び第1スライド部材46を含んでいる。また、第2出没部材50は、第2先端部材52、第2中間部材54及び第2スライド部材56を含んでいる。図1には、第1出没部材40の先端(ペン先42a)が、軸筒30の前端の開口部33から前方へ突出し、第2出没部材50の先端(ペン先52a)が、軸筒30の前端の開口部33よりも後方に没入した状態で、筆記具10が示されている。
【0023】
先端部材42,52は、出没部材40,50が前方に移動した際に、その先端が軸筒30の開口部33から前方へ突出し、所望の機能を発揮する部材である。本実施形態の筆記具10では、先端部材42,52はボールペンのレフィルである。したがって、先端部材42,52の先端は、ボールペンのペン先42a,52aを構成する。第1先端部材42と第2先端部材52とは、互いに異なる色を有するインクを収容してもよい。この場合、筆記具10は、互いに異なる色を有するインクでの筆記が可能な、いわゆる多色ボールペンとして機能する。ただし、先端部材42,52はボールペンのレフィルに限られない。先端部材42,52は他の筆記具用のペン先を含む部材であってもよい。また、先端部材42,52は筆記具用のペン先を含む部材に限られない。例えば、先端部材42,52は工具用先端部材であってもよい。工具としては、例えば、プラスドライバー、マイナスドライバー、六角棒レンチ等を挙げることができる。また、先端部材42,52はカトラリー用先端部材であってもよい。カトラリー用先端部材としては、例えば、スプーン、フォーク、ナイフ、ティースプーン等を挙げることができる。さらに、先端部材42,52は他の部材であってもよい。
【0024】
スライド部材46,56は、後部が回転部材60に係合して、回転部材60の回転にともなって前後方向にスライドする部材である。スライド部材46,56の後部の径方向drの内面には、第1係合部46a,56aが設けられている。第1係合部46a,56aは、スライド部材46,56の内面から径方向drの内側へ向かって突出する突出部として形成されている。第1係合部46a,56aは、それぞれ回転部材60の後述の第1カム溝62内に位置して、第1カム溝62に対して係合する。スライド部材46,56の後部の径方向drの外面には、操作部46b,56bが設けられている。操作部46b,56bは、スライド部材46,56の外面から径方向drの外側へ向かって突出する突出部として形成されている。操作部46b,56bは、軸筒30(後軸34)のスリット35内に位置し、スリット35内を前後に移動可能となっている。操作部46b,56bは、軸筒30(後軸34)の外面よりもさらに外側へ向かって突出している。これにより、本実施形態では、使用者が操作部46b,56bを操作することによっても、出没部材40,50を前後方向に移動させることができるようになっている。なお、使用者の操作により出没部材40,50を前後方向に移動させる必要がない場合には、操作部46b,56b及びスリット35を省略することも可能である。
【0025】
中間部材44,54は、先端部材42,52とスライド部材46,56との間に位置し、先端部材42,52とスライド部材46,56とを連結する部材である。中間部材44,54の前端が先端部材42,52の後端に連結し、中間部材44,54の後端が、スライド部材46,56の前端に連結する。これにより、先端部材42,52、中間部材44,54及びスライド部材46,56は、一体的に前後に移動することが可能になる。なお、中間部材44,54を省略し、先端部材42,52とスライド部材46,56とを直接連結してもよいし、先端部材42,52、中間部材44,54及びスライド部材46,56を一体の部材で形成してもよい。
【0026】
なお、本実施の形態では、出没機構20は、第1出没部材40及び第2出没部材50の1つの出没部材を有しているが、これに限られず、出没機構20は、3つ以上の出没部材を有してもよい。
【0027】
回転部材60は、軸筒30に対して、中心軸線A周りにすなわち周方向dcには回転可能である。その一方、回転部材60の軸筒30に対する軸方向daの移動は規制されている。回転部材60は、重量体70の後方への移動にともなって、中心軸線A周りに回転する。回転部材60は、外面に第1カム溝62を有している。第1カム溝62は、外面の全周に亘って延びている。第1カム溝62は、周方向dcの一方側へ向かうにつれて前方へ向かうように軸方向da及び周方向dcに対して傾斜して延びる第1部分62aと、第1部分62aと連通し、周方向dcの一方側へ向かうにつれて後方へ向かうように軸方向da及び周方向dcに対して傾斜して延びる第2部分62bとを含んでいる。第1部分62a及び第2部分62bは、周方向dcに交互に配置されている。
【0028】
第1カム溝62内には、出没部材40,50の第1係合部46a,56aが位置する。これにより、第1係合部46a,56aが第1カム溝62に対して係合している。ここで、第1係合部46a,56aの軸方向daの移動は許容されており、周方向dcの移動は規制されている。したがって、回転部材60が中心軸線A周り(周方向dc)に回転することにより、第1係合部46a,56aは、第1カム溝62に係合しながら軸方向(前後方向)daに移動する。これにより、出没部材40,50全体が前後方向に移動する。
【0029】
本実施の形態では、第1カム溝62は、1つの第1部分62aと、1つの第2部分62bとを含んでいる。すなわち、第1部分62aは、中心軸線A周りに180度に亘って延びており、第2部分62bは、中心軸線A周りに180度に亘って延びている。したがって、第1カム溝62のうち、最も前方に位置する最前部62cと、最も後方に位置する最後部62dとは、周方向dcに沿って180度ずれて位置している。なお、これに限られず、第1カム溝62は、第1部分62aの数と第2部分62bの数とが同じである限りにおいて、2以上の第1部分62aと2以上の第2部分62bとを含んでもよい。
【0030】
回転部材60は、内面に第1突出部64を有している。本実施の形態では、回転部材60の内面に、周方向dcに沿って複数の第1突出部64が形成されている。とりわけ図示された例では、回転部材60の内面に、周方向dcに沿って互いに等角度ピッチを有して4つの第1突出部64が形成されている。すなわち、周方向dcに隣り合う2つの第1突出部64は、互いに90度ずれて位置している。第1突出部64は、軸方向daに沿って延びており、前端に前方傾斜面66を有している。前方傾斜面66は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して前側に傾斜している。周方向dcに隣り合う2つの第1突出部64の間には、溝部68が形成されている。溝部68は、軸方向daに沿って延びている。図示された例では、回転部材60の内面に、周方向dcに沿って互いに等角度ピッチを有して4つの溝部68が形成されている。
【0031】
重量体70は、軸筒30に対して、中心軸線A周りにすなわち周方向dcに回転可能、且つ、前後方向すなわち軸方向daに回転可能に構成されている。重量体70は、使用者が軸筒30を前後方向に振ったときに、慣性力の作用により軸筒30内を前後方向に移動する。重量体70は、前方部分の外面に第2係合部72を有している。第2係合部72は、重量体70の外面から径方向drの外側に突出した突出部である。本実施形態では、第2係合部72は、径方向drの外側から見て円形の輪郭を有している。すなわち、第2係合部72は、重量体70の外面から径方向drの外側に突出した円柱状の形状を有している。図示された例では、重量体70の外面に、周方向dcに沿って互いに等角度ピッチを有して4つの第2係合部72が形成されている。すなわち、周方向dcに隣り合う2つの第2係合部72は、互いに90度ずれて位置している。
【0032】
重量体70は、第2係合部72よりも後方の外面に、重量体70の外面から径方向drの外側に突出した第2突出部74を有している。図示された例では、重量体70の外面に、周方向dcに沿って互いに等角度ピッチを有して4つの第2突出部74が形成されている。すなわち、周方向dcに隣り合う2つの第2突出部74は、互いに90度ずれて位置している。第2突出部74は、軸方向daに沿って延びており、後端に後方傾斜面76を有している。後方傾斜面76は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して後側に傾斜している。本実施形態では、各第2係合部72と各第2突出部74とは、軸方向daに沿って並んで配置されている。すなわち、各第2係合部72の周方向dcに沿った角度位置と各第2突出部74の周方向dcに沿った角度位置とは、互いに一致している。
【0033】
重量体70が後方へ移動することにより、第2突出部74の後方傾斜面76が後方へ移動すると、後方傾斜面76が回転部材60の第1突出部64の前方傾斜面66を後方へ押圧する。これにより、後方傾斜面76に対して前方傾斜面66がすべり、回転部材60が周方向dcの一方側へ向かって回転する。このとき、後方傾斜面76による前方傾斜面66への押圧力を十分に確保する観点からは、重量体70の重量が大きいことが好ましい。このため、重量体70の少なくとも一部は金属材料で構成されることが好ましい。例えば、重量体70の全体が金属材料で構成されてもよい。また、重量体70は、樹脂材料で構成された部分と金属材料で構成された部分とを含んでもよい。
【0034】
固定カム部材80は、軸筒30に対して前後方向(軸方向da)の移動及び中心軸線A周り(周方向dc)の移動が規制されている。固定カム部材80は、内面に第2カム溝82を有している。本実施形態では、固定カム部材80の内面に周方向dcに沿って互いに等角度ピッチを有して4つの第2カム溝82が形成されている。すなわち、周方向dcに隣り合う2つの第2カム溝82は、互いに90度ずれて位置している。第2カム溝82内には、重量体70の第2係合部72が位置する。これにより、第2係合部72が第2カム溝82に対して係合している。重量体70の前後方向の移動にともなって、第2係合部72は第2カム溝82内を移動する。第2カム溝82は、概ね軸方向daに延びており、前端84と後端85とを有している。前端84は閉塞されており、第2係合部72は前端84よりも前方には移動しない。後端85は後方へ向けて開口されており、第2係合部72は後端85よりも後方へ移動することができる。
【0035】
第2カム溝82は、第1ガイド面87及び第2ガイド面88を有している。第1ガイド面87は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して前側に傾斜している。第2ガイド面88は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して後側に傾斜している。本実施形態では、第1ガイド面87は、第2ガイド面88に対して、軸方向daの後方に位置している。
【0036】
また、固定カム部材80は、外面に軸方向daに延びる溝部89を有している。とりわけ、固定カム部材80は2つの溝部89を有している。溝部89は、出没部材40,50の一部を収容可能に構成されている。とりわけ本実施の形態では、溝部89は、出没部材40,50の中間部材44,54を収容する。中間部材44,54は、溝部89内に収容された状態で軸方向daに移動可能である。
【0037】
次に、図3A図4を参照して、回転部材60を中心軸線A周りに回転させる動作について説明する。図3A図3Eは、回転部材60を回転させるための動作を説明する図であり、図4は、図3AのIV-IV線に対応する図である。図3A図3Eでは、重量体70の第2係合部72及び第2突出部74並びに固定カム部材80の第2カム溝82が、径方向drの内側から見た状態で、すなわち中心軸線Aから見た状態で、示されている。
【0038】
ここで、図4に示されているように、径方向drに沿った重量体70の外面からの第2突出部74の高さは、径方向drに沿った重量体70の外面からの第2係合部72の高さよりも低い。これにより、本実施形態では、第2係合部72は固定カム部材80の第2カム溝82に対して係合するが、第2突出部74は、第2カム溝82に対して係合しない。
【0039】
使用者が筆記具10の前端が下側に位置するように筆記具10を保持している場合、すなわち、使用者が出没機構20の前端が下側に位置するように、出没機構20を保持している場合、重量体70は、重力の作用により前方側に位置する。このとき、重量体70の第2係合部72は、図3Aに示されているように、固定カム部材80の第2カム溝82の前端84に位置する。
【0040】
使用者が筆記具10(出没機構20)を後方に振ると、重量体70は、慣性力により後方へ移動する。このとき、重量体70の第2係合部72も後方に移動して、図3Bに示されているように、第2カム溝82の第1ガイド面87に当接する。
【0041】
重量体70が慣性力によりさらに後方へ移動すると、重量体70の第2係合部72は、第2カム溝82の第1ガイド面87にガイドされて、軸方向daの後方且つ周方向dcの一方側へ移動する。このとき、重量体70の第2突出部74の後方傾斜面76が後方へ移動して、後方傾斜面76が回転部材60の第1突出部64の前方傾斜面66に当接する。重量体70が慣性力によりさらに後方へ移動することにより、後方傾斜面76は前方傾斜面66を後方へ押圧する。これにより、後方傾斜面76に対して前方傾斜面66がすべり、図3Cに示されているように、回転部材60が周方向dcの一方側へ向かって回転する。
【0042】
その後、重量体70が慣性力によりさらに後方へ移動すると、重量体70の第2突出部74は、図3Dに示されているように、回転部材60の溝部68内に進入する。このとき、重量体70の第2係合部72は、第2カム溝82の後端85よりもさらに後方へ移動する。
【0043】
使用者が筆記具10(出没機構20)を後方に振ることを停止すると、重量体70は、重力の作用により前方へ移動する。これに限られず、使用者が筆記具10(出没機構20)を前方に振ることによっても、慣性力の作用により重量体70は前方へ移動する。これにより、図3Eに示されているように、重量体70の第2係合部72が前方へ移動し、固定カム部材80の第2カム溝82内に位置するようになる。このとき、第2突出部74は、回転部材60の溝部68から前方へ抜け出る。
【0044】
重量体70がさらに前方へ移動すると、第2係合部72も前方に移動して、第2カム溝82の第2ガイド面88に当接する。その後、第2係合部72は、第2ガイド面88にガイドされて、軸方向daの前方且つ周方向dcの他方側へ移動し、図3Aに示されているように、第2カム溝82の前端84に位置するようになる。
【0045】
したがって、使用者が筆記具10(出没機構20)を前後方向に1回振ることにより、回転部材60が周方向dcに所定角度回転し、回転部材60の第1突出部64は、周方向dcの一方側に隣り合う第1突出部64が位置していた位置へ移動する。とりわけ本実施形態では、使用者が出没機構20を前後方向に1回振ることにより、回転部材60が周方向dcの一方側に90度回転する。
【0046】
次に、図5A図5Dを参照して、出没部材40,50の出没動作について説明する。図5A図5Dは、出没部材40,50の出没動作について説明するための図であり、回転部材60の第1カム溝62と、出没部材40,50の第1係合部46a,56a、との位置関係を示す図である。図5A図5Dでは、第1カム溝62及び第1係合部46a,56aが、径方向drの外側側から見た状態で、すなわち中心軸線Aに向かって見た状態で、示されている。
【0047】
図5Aには、第1出没部材40の第1係合部46aが、回転部材60の第1カム溝62の最前部62cに位置し、第2出没部材50の第1係合部56aが、第1カム溝62の最後部62dに位置した状態が示されている。このとき、図1に示されているように、第1出没部材40の先端(ペン先42a)は、軸筒30の前端の開口部33から前方へ突出し、第2出没部材50の先端(ペン先52a)は、軸筒30の前端の開口部33よりも後方に没入している。この状態では、第1出没部材40が使用可能である。
【0048】
回転部材60の周方向dcの回転にともなって、すなわち第1カム溝62の周方向dcの回転にともなって、第1出没部材40の第1係合部46aの軸方向daの位置及び第2出没部材50の第1係合部56aの軸方向daの位置は、それぞれ変化する。回転部材60が周方向dcの一方側に90度回転すると、図5Bに示されているように、第1出没部材40の第1係合部46aは、第1カム溝62の第1部分62aの中間部分に位置し、第2出没部材50の第1係合部56aは、第1カム溝62の第2部分62bの中間部分に位置する。このとき、第1出没部材40の先端及び第2出没部材50の先端は、いずれも軸筒30の前端の開口部33よりも後方に没入する。この状態では、第1出没部材40及び第2出没部材50は、いずれも使用不能である。
【0049】
回転部材60が周方向dcの一方側にさらに90度回転すると、図5Cに示されているように、第1出没部材40の第1係合部46aは、第1カム溝62の最後部62dに位置し、第2出没部材50の第1係合部56aは、第1カム溝62の最前部62cに位置する。このとき、第1出没部材40の先端(ペン先42a)は、軸筒30の前端の開口部33よりも後方に没入し、第2出没部材50の先端(ペン先52a)は、軸筒30の前端の開口部33から前方へ突出する。この状態では、第2出没部材50が使用可能である。
【0050】
回転部材60が周方向dcの一方側にさらに90度回転すると、図5Dに示されているように、第1出没部材40の第1係合部46aは、第1カム溝62の第2部分62bの中間部分に位置し、第2出没部材50の第1係合部56aは、第1カム溝62の第1部分62aの中間部分に位置する。このとき、第1出没部材40の先端及び第2出没部材50の先端は、いずれも軸筒30の前端の開口部33よりも後方に没入する。この状態では、第1出没部材40及び第2出没部材50は、いずれも使用不能である。
【0051】
回転部材60が周方向dcの一方側にさらに90度回転すると、図5Aに示した状態へ戻る。
【0052】
本実施形態の出没機構20は、長手方向に延びる中心軸線Aを有し、長手方向の前端に開口部33を有する軸筒30と、複数の出没部材40,50と、中心軸線A周りに回転することにより、各出没部材40,50の先端部を開口部33から順に出没させる回転部材60と、前後に移動することにより、回転部材60を中心軸線A周りに回転させる重量体70と、を備える。
【0053】
なお、本実施形態では、出没部材40,50は、操作部46b,56bを有している。使用者がこの操作部46b,56bを前方へ向けて押圧する(ノックする)ことによっても、軸筒30の前端の開口部33から出没部材40,50の先端を突出させることができる。
【0054】
本実施形態の出没機構20では、回転部材60は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して前側に傾斜した前方傾斜面66を有し、重量体70は、軸方向daに対して傾斜するとともに周方向dcに対して後側に傾斜した後方傾斜面76を有し、後方傾斜面76が後方に移動して前方傾斜面66を押圧することにより、回転部材60が回転する。
【0055】
本実施形態の出没機構20では、回転部材60は、外面に第1カム溝62を有し、出没部材40,50は、第1カム溝62に係合する第1係合部46a,56aを有する。
【0056】
本実施形態の出没機構20では、第1カム溝62は、周方向dcの一方側へ向かうにつれて前方へ向かうように軸方向da及び周方向dcに対して傾斜して延びる第1部分62aと、第1部分62aと連通し、周方向dcの一方側へ向かうにつれて後方へ向かうように軸方向da及び周方向dcに対して傾斜して延びる第2部分62bとを含み、第1部分62a及び第2部分62bは、周方向dcに交互に配置されている。
【0057】
本実施形態の出没機構20では、軸筒30に対して周方向dc及び軸方向daの移動が規制された固定カム部材80をさらに備え、固定カム部材80は、周方向dcに配列された複数の第2カム溝82を内面に有し、重量体70は、第2カム溝82に係合する第2係合部72を有する。
【0058】
このような出没機構20によれば、この出没機構20を軸方向daに振るだけで、複数の出没部材40,50の先端部を開口部33から順に出没させることができる。したがって、使用者が出没機構20を持ち替えることなく、出没部材40,50の先端部を出没させることが可能になる。
【0059】
本実施形態の出没機構20では、出没部材40,50は、筆記用先端部材を含んでもよい。
【0060】
筆記用先端部材としては、例えば、ボールペンのレフィルや、他の筆記具用のペン先等を挙げることができる。このような出没機構20によれば、使用者が持ち替えることなく、複数のペン先を順に出没させることが可能な筆記具10を提供することができる。
【0061】
本実施形態の出没機構20では、出没部材40,50は、工具用先端部材を含んでもよい。
【0062】
工具用先端部材としては、例えば、プラスドライバー、マイナスドライバー、六角棒レンチ等を挙げることができる。このような出没機構20によれば、使用者が持ち替えることなく、複数の工具用先端部材を順に出没させることが可能な工具を提供することができる。
【0063】
本実施形態の出没機構20では、出没部材40,50は、カトラリー用先端部材を含んでもよい。
【0064】
カトラリー用先端部材としては、例えば、スプーン、フォーク、ナイフ、ティースプーン等を挙げることができる。このような出没機構20によれば、使用者が持ち替えることなく、複数のカトラリー用先端部材を順に出没させることが可能なカトラリーを提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 筆記具
20 出没機構
30 軸筒
32 前軸
33 開口部
34 後軸
35 スリット
36 キャップ
40 第1出没部材
42 第1先端部材
42a ペン先
44 第1中間部材
46 第1スライド部材
46a 第1係合部
46b 操作部
50 第2出没部材
52 第2先端部材
52a ペン先
54 第2中間部材
56 第2スライド部材
56a 第1係合部
56b 操作部
60 回転部材
62 第1カム溝
62a 第1部分
62b 第2部分
62c 最前部
62d 最後部
64 第1突出部
66 前方傾斜面
68 溝部
70 重量体
72 第2係合部
74 第2突出部
76 後方傾斜面
80 固定カム部材
82 第2カム溝
84 前端
85 後端
87 第1ガイド面
88 第2ガイド面
89 溝部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図5C
図5D