(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】熱膨張係数が低いイオン交換可能なガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20231026BHJP
C03C 21/00 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2019536183
(86)(22)【出願日】2018-01-05
(86)【国際出願番号】 US2018012528
(87)【国際公開番号】W WO2018129282
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2021-01-05
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】グロス,ティモシー マイケル
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538221(JP,A)
【文献】国際公開第2011/145661(WO,A1)
【文献】特表2016-529199(JP,A)
【文献】特開2015-151329(JP,A)
【文献】特表2015-529182(JP,A)
【文献】特開2012-066995(JP,A)
【文献】特開2001-348250(JP,A)
【文献】国際公開第2015/168529(WO,A1)
【文献】特表2013-513865(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0057769(US,A1)
【文献】特表2014-527015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,21/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成物において、
72モル%から77モル%のSiO
2、
8モル%から12モル%のAl
2O
3、
10モル%から14モル%のNa
2O、
0.03モル%から4モル%のMgO、
0.03モル%から5モル%のCaO、
4モル%までのZnO、および
P
2O
5
を含み、
MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%/(Na
2Oのモル%+MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%)の比が少なくとも0.2であり、
K
2O、B
2O
3、およびLi
2Oを実質的に含まない、ガラス組成物。
【請求項2】
72モル%から75モル%のSiO
2、
9モル%から11モル%のAl
2O
3、および
11モル%から13モル%のNa
2O、
を含む、請求項1記載のガラス組成物。
【請求項3】
0.01モル%から2モル%のP
2O
5を含む、請求項1記載のガラス組成物。
【請求項4】
ROは、1種類以上の二価酸化物であり、
R
2
Oは、1種類以上のアルカリ酸化物であり、
ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOであり、
R
2
Oは、Li
2
O、Na
2
O、K
2
O、Rb
2
O、またはCs
2
Oであり、
ROのモル%/(R
2Oのモル%+ROのモル%)の比が、0.2から0.5の範囲にある、請求項1から3いずれか1項記載のガラス組成物。
【請求項5】
ガラス組成物において、
72モル%から77モル%のSiO
2、
8モル%から12モル%のAl
2O
3、
10モル%から14モル%のNa
2O、
0.03モル%から4モル%のMgO、
0.03モル%から5モル%のCaO、
4モル%までのZnO、
0.03モル%から2モル%のP
2O
5、および
0.03モル%から0.09モル%のSnO
2、
を含み、
MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%/(Na
2Oのモル%+MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%)の比が、0.2から0.5の範囲にある、ガラス組成物。
【請求項6】
72.17モル%から74.37モル%のSiO
2、
9.95モル%から10.04モル%のAl
2O
3、
10.59モル%から12.69モル%のNa
2O、
0.05モル%から3.08モル%のMgO、
0.03モル%から4.04モル%のCaO、
2.94モル%までのZnO、
0.03モル%から0.96モル%のP
2O
5、および
0.05モル%から0.07モル%のSnO
2、
を含む、請求項5記載のガラス組成物。
【請求項7】
前記ガラス組成物が、以下の特徴の内の1つ以上を有する、請求項1から6いずれか1項記載のガラス組成物:(i)7.5ppm/℃未満の低温熱膨張係数(LTCTE);(ii)18ppm/℃未満の高温熱膨張係数(HTCTE);(iii)少なくとも200,000ポアズの液相粘度;(iv)200,000ポアズで少なくとも1100℃の、または35,000ポアズで少なくとも1200℃のガラス温度;および(v)795℃未満の仮想温度T
f。
【請求項8】
請求項1から7いずれか1項記載のガラス組成物から作られたガラス系物品。
【請求項9】
前記物品が、
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および前記筐体の前面にまたはそれに隣接したディスプレイを含む電気部品、
力センサ、および
前記ディスプレイ上に配置された、請求項1から7いずれか1項記載のガラス組成物から作られた基板、
を備えた家庭用電子機器に用いられる請求項8記載のガラス系物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2017年1月9日に出願された米国仮特許出願第62/443918号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、新規のガラス組成物およびそれを組み込んだガラス物品に関する。
【背景技術】
【0003】
薄いガラスおよび極薄ガラスには、半導体、光電子工学および消費家電用途、並びに自動車およびバイオテクノロジー産業用途を含む様々な用途がある。カバーガラス、ガラスバックプレーンなどのガラス物品が、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどの消費者向けおよび商業用電子機器の両方に使用されている。
【0004】
ガラス物品は、その物品を様々な接触および衝撃に耐えるようにする強度の増強から恩恵を受けるであろう。多くのガラス物品にとって、機器が使用されているまたは輸送されているときに、偶発的な接触および衝撃が生じることがある。その上、あるガラス物品は「タッチ」機能を備え、これは、その物品と、使用者の指および/またはスタイラス器具を含む様々な物体との間の接触を伴う。
【発明の概要】
【0005】
いくつかの実施の形態において、ガラス組成物は、約72モル%から約77モル%のSiO2、約8モル%から約12モル%のAl2O3、約10モル%から約14モル%の1種類以上のアルカリ酸化物R2O、1種類以上の二価酸化物RO、およびP2O5を含み、ここで、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、またはCs2Oであり、ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOであり、ROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比が少なくとも約0.2、または約0.2と約0.5との間である。
【0006】
いくつかの実施の形態において、先の段落のいずれかの実施の形態は、約72モル%から約75モル%のSiO2を含むガラス組成物をさらに含むことがある。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約9モル%から約11モル%のAl2O3を含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物のアルカリ酸化物R2Oは、約11モル%から約13モル%のNa2Oを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物の二価酸化物ROは、約0.03モル%から約4モル%のMgO、約0.03モル%から約5モル%のCaO、および約0.03モル%から約4モル%のZnOを含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.01モル%から約2モル%のP2O5を含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、Be2O3および/またはSnO2をさらに含む。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、K2O、B2O3、および/またはLi2Oを実質的に含まない。
【0007】
いくつかの実施の形態において、本開示は、約72モル%から約77モル%のSiO2、約8モル%から約12モル%のAl2O3、約10モル%から約14モル%のNa2O、約0.03モル%から約4モル%のMgO、約0.03モル%から約5モル%のCaO、約4モル%までのZnO、約0.03モル%から約2モル%のP2O5、および約0.03モル%から約0.09モル%のSnO2を含み、Na2Oのモル%/(Na2Oのモル%+MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%)の比が約0.2と約0.5との間にあるガラス組成物も提供する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、K2O、B2O3、および/またはLi2Oを実質的に含まない。
【0008】
ここに記載されたガラス組成物は、特定の性質によって特徴付けることができる。例えば、いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、以下の特徴の内の1つ以上を有する:(i)7.5ppm/℃未満の低温熱膨張係数(LTCTE);(ii)18ppm/℃未満の高温熱膨張係数(HTCTE);(iii)少なくとも200,000ポアズの液相粘度;(iv)200,000ポアズで少なくとも1100℃の、または35,000ポアズで少なくとも1200℃のガラス温度;および(v)約795℃未満の仮想温度Tf(ガラス組成物が約1011ポアズの粘度を有する温度と等しい)。
【0009】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラス組成物は、イオン交換で強化されている。いくつかの実施の形態において、本開示のイオン交換済み組成物は、(1)少なくとも10マイクロメートル(例えば、約15から約100マイクロメートル)の圧縮層の深さ、および/または(2)少なくとも450MPa(例えば、約550MPaから約650MPa)の圧縮強度を有する。
【0010】
本開示のいくつかの実施の形態は、ここに記載されたガラス組成物を含むガラス系物品に関する。いくつかの実施の形態において、そのガラス系物品は、3mmまでのガラス厚を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス系物品は、消費者向け電子機器における力センサ基板である。
【0011】
本開示のいくつかの実施の形態は、ここに記載されたガラス組成物からガラスを調製する方法に関する。
【0012】
先の概要、並びに以下の実施の形態の詳細な説明は、添付図面と共に読んだときに、より良く理解されるであろう。説明目的のために、図面は、特定の実施の形態の使用を描写することがある。しかしながら、ここに記載された組成物および方法は、図面に描写されたまたは論じられた正確な実施の形態に限定されないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示のガラス(ガラスG)が、基準のイオン交換されていないガラスのいずれのHTCTE値よりも低い、低HTCTE値(18ppm/℃以下)を有することを示すグラフ
【
図2A】ここに開示されたガラス物品のいずれかが組み込まれた例示の電子機器の平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
「含む」、「含有する」などの非限定用語は、「含んでいる」ことを意味する。これらの非制限移行句は、追加の、列挙されていない要素または方法の工程を排除しない、要素、方法の工程などの非制限リストを導入するために使用される。
【0015】
本開示の要素または成分に先行する不定冠詞「a」および「an」は、例、すなわち、その要素または成分の存在の数に関して非制限的であることが意図されている。したがって、「a」または「an」は、1つまたは少なくとも1つを含むと読むべきであり、その要素または成分の単数形も、数が明白に単数であることを意味していない限り、複数も含む。
【0016】
ここに用いられているように、本開示に関連する値を修飾する「約」は、例えば、定期試験および取扱い;そのような試験および取扱いにおける不慮の誤差;本開示に使用される成分の製造、供給源、または純度における差などにより生じ得る数量のバラツキを称する。「約」という用語で修飾されているか否かにかかわらず、請求項は、列挙された数量の等価物を含む。いくつかの実施の形態において、「約」という用語は、報告された数値の±10%以内を意味する。
【0017】
上限値と下限値を含む、数値の範囲がここに列挙されている場合、特定の状況でそうではないと述べられていない限り、その範囲は、その端点、およびその範囲内の全ての整数と分数を含むことが意図されている。請求項の範囲は、範囲を定義している場合、列挙された特定値に限定されることは意図されていない。さらに、量、濃度、もしくは他の値またはパラメータが、範囲、1つ以上の好ましい範囲、または好ましい上限値と好ましい下限値のリストとして与えられている場合、このことは、範囲の任意の上限値または好ましい値と、範囲の任意の下限値または好ましい値との任意の対から形成された全ての範囲を、そのような対が別々に開示されているか否かにかかわらず、具体的に開示していると理解されるべきである。最後に、ある値またはある範囲の端点を記載する上で、「約」という用語が使用されている場合、本開示は、称されているその特定の値または端点を含むと理解すべきである。数値または範囲の端点に「約」が付いていようとなかろうと、その数値または範囲の端点は、「約」で修飾されたもの、および「約」で修飾されていないものの2つの実施の形態を含むことが意図されている。
【0018】
ここに用いられているように、ガラス組成物中の成分(例えば、金属酸化物)を「実質的に含まない」とは、その成分が、その組成物に意図的に加えられていないが、その組成物は、それでも、その成分を非常に少量または微量、例えば、ガラス組成物中に0.5モル%以下、または0.1モル%以下、または0.01モル%以下で含有することがあることを意味する。ここに記載されたガラス組成物中の成分(例えば、金属酸化物)を「実質的に含まない」という用語は、そのガラス組成物がその成分を含まないことも意味し得る。
【0019】
ここに用いられているように、「ガラス系物品」という用語は、全体的にまたは部分的にガラスから製造された任意の物体を含むように最も広い意味で使用される。いくつかの実施の形態において、そのガラス系物品は、非晶相および1つ以上の結晶層を有し得る。
【0020】
群が、複数の要素およびその組合せの群の少なくとも1つを含むと記載されているときはいつでも、その群は、個別、または互いとの組合せのいずれかで、列挙された要素のいくつを含んでも、いくつから実質的になっても、またはいくつからなってもよいと理解される。同様に、群が、複数の要素またはその組合せの群の少なくとも1つからなると記載されているときはいつでも、その群は、個別、または互いとの組合せのいずれかで、列挙された要素のいくつからなってもよいと理解される。特に明記のない限り、値の範囲は、列挙されている場合、その範囲の上限と下限の両方、並びにそれらの間の任意の部分的範囲を含む。特に明記のない限り、ここに記載された組成物の成分を含む全ての組成物および関係は、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で表される。
【0021】
ここに用いられているように、「低温熱膨張係数」または「LTCTE」は、約20℃から約300℃の温度範囲に亘るガラス組成物の平均線熱膨張係数を称し、ASTM E228-11にしたがって、プッシュロッド膨張計を使用して決定される。
【0022】
ここに用いられているように、「高温熱膨張係数」または「HTCTE」は、ガラス転移温度より上でのガラス組成物の熱膨張係数を称する。HTCTEは、温度の関数(x軸)として瞬間CTE(y軸)をプロットすることによって決定され、HTCTEは、瞬間CTE対温度の曲線の勾配が、著しい増加後にほぼゼロである(すなわち、曲線が水平状態になる)瞬間CTEの値である。瞬間CTEは、ASTM E228-11に定義されている。瞬間CTEの測定は、歪みセンサとしての3Dデジタル画像相関法(DIC)の使用に依存し、DICの観察窓を備えた炉内で加熱が行われる。
【0023】
ここに用いられているように、「液相粘度」という用語は、液相温度での溶融ガラスの粘度を称し、ここで、液相温度は、溶融ガラスが溶融温度から冷めるときに結晶が最初に現れる温度、または温度を室温から上昇させるときに、一番最後の結晶が溶け去る温度を称する。液相粘度は、以下の方法によって決定される。最初に、「Standard Practice for Measurement of Liquidus Temperature of Glass by the Gradient Furnace Method」と題するASTM C829-81(2015)にしたがって、ガラスの液相温度を測定する。次に、「Standard Practice for Measuring Viscosity of Glass Above the Softening Point」と題するASTM C965-96(2012)にしたがって、液相温度でのガラスの粘度を測定する。
【0024】
ここに用いられているように、「仮想温度Tf」という用語は、ガラス形成液体が約1011ポアズの粘度を有する温度と等しい温度を称する。特定のガラスについて、仮想温度は、溶融状態からの冷却速度に応じて変動し得る。ガラス構造は、その特定の温度での熱処理により、新たな仮想温度まで緩和し得る。ガラスの仮想温度は、ここに全て引用される、「Unified approach for determining the enthalpic fictive temperature of glasses with arbitrary thermal history」(Journal of Non-Crystalline Solids 357 (2011) 3230-3236頁)に、Xiaoju Guo等に記載されたような、熱量測定法によって決定することができる。
【0025】
ここに用いられているように、「ジルコン分解温度」または「T分解」という用語は、ジルコン-ガラス処理および製造における耐火材料として一般に使用される-が分解して、ジルコニアおよびシリカを形成する温度を称し、「ジルコン分解粘度」という用語は、T分解でのガラスの粘度を称する。
【0026】
ここに用いられている「開示」または「本開示」という用語は、非限定用語であり、特定の開示のどの1つの実施の形態も称することは意図されないが、本出願に記載されたような全ての可能な実施の形態を包含する。
【0027】
ガラス物品を強化するために、熱強化および化学強化を含む様々な過程を使用することができる。化学強化としてはイオン交換が挙げられ、このイオン交換は、一般に、ガラス物品中のより小さいアルカリイオン(例えば、リチウムイオンおよび/またはナトリウムイオン)をより大きいアルカリイオン(カリウムイオンなど)と交換する工程を含む。したがって、イオン交換過程を促進させるために、そのようなガラス物品は、比較的高濃度のアルカリイオンを含むことができる。
【0028】
前記ガラス物品中にアルカリイオンが存在すると、そのガラス物品の平均熱膨張係数が上昇することがあり、それゆえ、そのガラス物品は、平均熱膨張係数が比較的低いガラス物品が望ましい用途に使用するには、適していないであろう。また、低温領域と高温領域の両方で熱膨張係数が高いと、薄いガラスを直接延伸するが、極めて困難になる。それゆえ、低温熱膨張係数(LTCTE)および/または高温熱膨張係数(HTCTE)を有する、化学強化できる代わりのガラス組成物、例えば、イオン交換可能なガラスが必要とされている。
【0029】
ガラス組成物
本開示は、フュージョン成形可能であり、ジルコン適合性であり、イオン交換可能であり、低温と高温の両方で低い熱膨張係数を有する、新規のガラス組成物を提供する。
【0030】
いくつかの実施の形態において、本開示は、約72モル%から約77モル%のSiO2、約8モル%から約12モル%のAl2O3、約10モル%から約14モル%の1種類以上のアルカリ酸化物R2O、1種類以上の二価酸化物RO、およびP2O5を含み、ここで、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、またはCs2Oであり、ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOである、ガラス組成物を提供する。
【0031】
ガラスの形成に関与する酸化物であるSiO2は、ガラスの網目構造を安定化させる働きをする。本開示のガラス組成物は、約72モル%から約77モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲のSiO2、例えば、約72モル%から約76.5モル%、約72モル%から約76モル%、約72モル%から約75.5モル%、約72モル%から約75モル%、約72モル%から約74.5モル%、約72モル%から約74モル%、約72モル%から約73.5モル%、約72モル%から約73モル%、または約76.5モル%、約76モル%、約75.5モル%、約75モル%、約74.5モル%、約74モル%、約73.5モル%、約73モル%、約72.5モル%、または約72モル%のSiO2を含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約72モル%から約74.5モル%のSiO2を含有する。
【0032】
Al2O3も、ガラス形成材の役割を果たす。Al2O3も、SiO2のように、四面体配位のために、ガラス網目構造に剛性を与えることができる。Al2O3は、a)最低限の液相温度を維持する、b)熱膨張係数を低下させる、またはc)歪み点を上昇させることができる。他のガラス改質剤酸化物に対してAl2O3の含有量を増加させると、一般に、密度の減少、熱膨張係数の減少、および耐久性の改善がもたらされる。本開示のガラス組成物は、約8モル%から約12モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲のAl2O3、例えば、約8モル%から約11.5モル%、約8モル%から約11モル%、約8モル%から約10.5モル%、約8モル%から約10モル%、約8モル%から約9.5モル%、約8モル%から約9モル%、約9モル%から約11.5モル%、約9モル%から約11モル%、または約8モル%、約8.2モル%から約8.4モル%、約8.6モル%から約8.8モル%、約9モル%、約9.2モル%、約9.4モル%、約9.6モル%、約9.8モル%、約10モル%、約10.2モル%、約10.4モル%、約10.6モル%、約10.8モル%、約11モル%、約11.2モル%、約11.4モル%、約11.6モル%、約11.8モル%、または約12モル%のAl2O3を含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約9.9モル%から約10.1モル%のAl2O3を含有する。
【0033】
本開示のガラス組成物は、約10モル%から約14モル%の1種類以上のアルカリ酸化物R2Oを含有する;すなわち、R2Oの合計は約10モル%から約14モル%である。ここに記載されているように、アルカリ酸化物は、ガラスまたはガラス系組成物中に存在し得るアルカリ金属酸化物の全ての形態を含む。アルカリ酸化物R2Oは、ガラスの低い溶融温度および低い液相温度を達成するのに役立つ。R2Oとしては、以下に限られないが、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、またはCs2Oが挙げられる。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、Na2O、もしくはLi2OまたはK2Oである1種類のアルカリ酸化物を含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、2種類のアルカリ酸化物、例えば、Na2OとLi2O、またはNa2OとK2O、またはLi2OとK2Oを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、3種類のアルカリ酸化物、例えば、Na2O、Li2O、およびK2Oを含有する。
【0034】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約10モル%から約14モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、例えば、10モル%から約13.5モル%、10モル%から約13モル%、10モル%から約12.5モル%、10モル%から約12モル%、10モル%から約11.5モル%、10モル%から約11モル%、約11モル%から約13モル%、約12モル%から約13モル%、または約10モル%、約10.2モル%、約10.4モル%、約10.6モル%、約10.8モル%、約12モル%、約12.2モル%、約12.4モル%、約12.6モル%、約12.8モル%、約13モル%、約13.2モル%、約13.4モル%、約13.6モル%、約13.8モル%、または約14モル%の量のNa2Oを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約10.5モル%から約12.7モル%のNa2Oを含有する。
【0035】
本開示のガラス組成物は、1種類以上の二価酸化物ROを含有し、この酸化物も、ガラスの溶融挙動を改善する。ROとしては、以下に限られないが、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOが挙げられる。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOである1種類の二価酸化物を含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、2種類の二価酸化物、MgOとCaO、またはMgOとZnO、またはCaOとZnOを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、3種類の二価酸化物MgO、CaOおよびZnOを含有する。
【0036】
MgOとCaOは、より高温でのガラスの粘度を低下させ、より低温でのガラスの粘度を上昇させるのに効果的である。それらは、溶融特性の改善および歪み点の上昇のために使用されることがある。しかしながら、MgOとCaOの両方が過剰な量で使用されると、ガラスの相分離および失透の傾向が上昇することがある。より小さい二価酸化物(例えば、MgO、CaOまたはZnO)は、一般に、より大きい二価酸化物(例えば、SrO、またはBaO)よりも、ガラスの圧縮応力を増加させるのに役立つ。それゆえ、MgO、CaOおよびZnOは、アルカリ拡散性に対する悪影響を最小にしつつ、応力緩和の改善に関していくつかの利点を提供する。しかしながら、ガラス中のMgOおよびZnOの濃度が高い場合、それらは、それぞれ、フォルステライト(例えば、Mg2SiO4)および亜鉛尖晶石(ZnAl2O4)またはケイ酸亜鉛鉱(Zn2SiO4)を形成する傾向があり、それゆえ、MgOおよびZnOの含有量が特定のレベルより高い場合、ガラスの液相温度が非常に急上昇する。
【0037】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約4モル%まで、例えば、約0.03モル%から約4モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の量のMgOを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.03モル%から約3.5モル%、約0.03モル%から約3モル%、約0.03モル%から約2.5モル%、約0.03モル%から約2モル%、約0.03モル%から約1.5モル%、約0.03モル%から約1モル%、約0.03モル%から約0.5モル%、約0.03モル%から約0.1モル%、約0.05モル%から約4モル%、約0.05モル%から約3モル%、約0.05モル%から約2モル%、約1モル%から約4モル%、約1モル%から約3モル%、約1モル%から約2モル%、約2モル%から約3モル%、約2モル%から約4モル%、約3モル%から約4モル%の量のMgOを含有する。
【0038】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約5モル%まで、例えば、約0.03モル%から約5モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の量のCaOを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.03モル%から約4.5モル%、約0.03モル%から約4モル%、約0.03モル%から約3.5モル%、約0.03モル%から約3モル%、約0.03モル%から約2.5モル%、約0.03モル%から約2モル%、約0.03モル%から約1.5モル%、約0.03モル%から約1モル%、約0.03モル%から約0.5モル%、約0.03モル%から約0.1モル%、約0.05モル%から約5モル%、約0.05モル%から約4モル%、約0.05モル%から約3モル%、約0.05モル%から約2モル%、約1モル%から約5モル%、約1モル%から約4モル%、約1モル%から約3モル%、約1モル%から約2モル%、約2モル%から約3モル%、約2モル%から約4モル%、約2モル%から約5モル%、約3モル%から約4モル%、または約3モル%から約5モル%の量のCaOを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約4モル%まで、例えば、約3.5モル%まで、約3モル%まで、約2.5モル%まで、約2モル%まで、または約1.5モル%まで、もしくは約0.03モル%から約4モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の量のZnOを含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.03モル%から約3.5モル%、約0.03モル%から約3モル%、約0.03モル%から約2.5モル%、約0.03モル%から約2モル%、約1モル%から約4モル%、約1モル%から約3.5モル%、約1モル%から約3モル%、約1モル%から約2.5モル%、約1モル%から約2モル%、約2モル%から約4モル%、約2モル%から約3モル%、約3モル%から約4モル%の量のZnOを含有する。
【0039】
ここに記載されたガラス組成物は、P2O5も含有し、これは、アルカリ陽イオンの拡散性を改善し、イオン交換時間を減少させることができる。いくつかの実施の形態において、P2O5は、約0.01モル%から約2モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、例えば、約0.01モル%から約1.5モル%、約0.01モル%から約1モル%、約0.03モル%から約2モル%、約0.03モル%から約1.5モル%、または約0.03モル%から約1モル%の量で存在する。
【0040】
いくつかの実施の形態において、本開示のガラス組成物は、Be2O3および/またはSnO2をさらに含み得る。いくつかの実施の形態において、Be2O3またはSnO2は、約0.1モル%まで、例えば、0.03モル%から約0.1モル%、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲の量で存在する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.03モル%から約0.09モル%、約0.03モル%から約0.08モル%、約0.03モル%から約0.07モル%、約0.03モル%から約0.06モル%、約0.03モル%から約0.05モル%、約0.03モル%から約0.04モル%、約0.05モル%から約0.09モル%、約0.05モル%から約0.08モル%、約0.05モル%から約0.07モル%、または約0.05モル%から約0.06モル%のBe2O3および/またはSnO2を含有する。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、約0.04モル%、約0.05モル%、0.06モル%、約0.07モル%、約0.08モル%のBe2O3および/またはSnO2を含有する。
【0041】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約72モル%から約75モル%のSiO2、約9モル%から約11モル%のAl2O3、約11モル%から約13モル%のNa2O、1種類以上の二価酸化物RO、およびP2O5を含み、ここで、ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOである。
【0042】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約72モル%から約77モル%のSiO2、約8モル%から約12モル%のAl2O3、約10モル%から約14モル%のNa2O、約0.03モル%から約4モル%のMgO、約0.03モル%から約5モル%のCaO、約4モル%までのZnO、約0.03モル%から約2モル%のP2O5、および約0.03モル%から約0.09モル%のSnO2を含む。
【0043】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、約72.17モル%から約74.37モル%のSiO2、約9.95モル%から約10.04モル%のAl2O3、約10.59モル%から約12.69モル%のNa2O、約0.05モル%から約3.08モル%のMgO、約0.03モル%から約4.04モル%のCaO、約2.94モル%までのZnO、約0.03モル%から約0.96モル%のP2O5、および約0.05モル%から約0.07モル%のSnO2を含む。
【0044】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス組成物は、K2O、B2O3、および/またはLi2Oを実質的に含まない。
【0045】
本開示のガラス組成物は、少なくとも約0.2、例えば、約0.2と約0.5の間、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲のROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比を有する。いくつかの実施の形態において、ROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比は、約0.2、約0.21、約0.22、約0.23、約0.24、約0.25、約0.26、約0.27、約0.28、約0.29、約0.30、約0.31、約0.32、約0.33、約0.34、約0.35、約0.36、約0.37、約0.38、約0.39、約0.40、約0.41、約0.42、約0.43、約0.44、約0.45、約0.46、約0.47、約0.48、約0.49、約0.5である。このROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比は、約0.2と約0.5の間に維持されることが都合よく、よって、改質剤酸化物のかなりの割合が二価酸化物である。二価酸化物改質剤が一価酸化物改質剤により置換される場合、高温と低温CTEの両方が上昇する。
【0046】
ガラス系物品の性質
ここに記載されたガラス組成物は、好ましい性質を有する。例えば、いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、1つ以上の特徴を示す:(i)7.5ppm/℃未満の低温熱膨張係数(LTCTE);(ii)18ppm/℃未満の高温熱膨張係数(HTCTE);(iii)少なくとも200,000ポアズの液相粘度;(iv)200,000ポアズで少なくとも1100℃の、または35,000ポアズで少なくとも1200℃のガラス温度;および(v)約795℃未満の仮想温度Tf。
【0047】
いくつかの実施の形態において、本開示は、低いLTCTEを示すガラス組成物を提供する。いくつかの実施の形態において、LTCTEは、約7.5ppm/℃未満、例えば、約7.4、7.3、7.2、7.1、7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、または6.5ppm/℃未満である。いくつかの実施の形態において、LTCTEは、約6.4から約7.5ppm/℃未満、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、例えば、約6.4から約7.4ppm/℃、または約6.4から約7.3ppm/℃に及ぶ。
【0048】
いくつかの実施の形態において、本開示は、低いHTCTEを示すガラス組成物も提供する。いくつかの実施の形態において、HTCTEは、約18ppm/℃未満、例えば、約17.8、17.6、17.4、17.2、17.0、16.8、16.6、16.4、16.2、16.0、または15.8ppm/℃未満である。いくつかの実施の形態において、HTCTEは、約15.6から約18ppm/℃未満、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、例えば、約15.6から約17.8ppm/℃、約15.6から約17.4ppm/℃、または約15.6から約17.2ppm/℃に及ぶ。
【0049】
これらの低いLTCTEおよびHTCTE値は、より高いLTCTEおよびHTCTE値を有するガラス組成物に対して、熱サイクルまたは熱応力条件に対するガラスのサバイバビリティーを改善する。
【0050】
いくつかの実施の形態において、本開示は、少なくとも約200,000ポアズ、例えば、少なくとも約300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、1,000,000、2,000,000、3,000,000、または4,000,000ポアズの液相粘度を有するガラス組成物を提供する。いくつかの実施の形態において、その液相粘度は、約200,000ポアズから約4,200,000ポアズ、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲に及ぶ。
【0051】
いくつかの実施の形態において、本開示は、200,000ポアズで少なくとも約1100℃の、または35,000ポアズで少なくとも1200℃のガラス温度を有するガラス組成物を提供する。いくつかの実施の形態において、そのガラス温度は、200,000ポアズで少なくとも約1110、1120、1130、1140、1150、1160、1170、1180、または1190℃;もしくは35,000ポアズで少なくとも約1210、1220、1230、1240、1250、1260、1270、1280、1290、1300、または1310℃である。いくつかの実施の形態において、そのガラス温度は、200,000ポアズで約1100℃から約1200℃、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、または35,000ポアズで約1200℃から約1320℃、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲に及ぶ。いくつかの実施の形態において、本開示は、約795℃未満、例えば、約738から約793℃の仮想温度Tfを有するガラス組成物を提供する。いくつかの実施の形態において、その仮想温度は、約795、790、785、780、775、770、765、760、755、750、または745℃未満である。仮想温度は、ガラスの平衡構造の温度を記載するために使用される。ガラスが加熱され、十分に長期間に亘りある温度で保持された場合、そのガラスは、最終的に、その温度に対応する平衡構造を取るであろう。反対に、ガラスが遷移領域より高い温度から急冷された場合(あるガラス製造操作におけるように)、そのガラスは、この温度に典型的な特性を維持し、その場合、この温度がそのガラスの仮想温度になる。
【0052】
ガラスまたはガラス系物品の製造過程
本開示のガラスは、ダウンドロー可能である、すなわち、そのガラスは、以下に限られないが、ガラス製造の技術分野の当業者に公知のフュージョンドロー法およびスロットドロー法などのダウンドロー法を使用して、シートに形成することができる。このダウンドロー法は、平らなガラス、例えば、ディスプレイ用ガラスまたはイオン交換可能なガラスの大規模製造に使用される。
【0053】
フュージョンドロー法では、溶融ガラス原材料を受け容れるための通路を有する成形体が使用される。その通路は、通路の両側で通路の長さに沿って上部が開いた堰を有する。通路が溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰から溢れる。溶融ガラスは、重力のために、そのアイソパイプの外面を流下する。これらの外面は、延伸槽の下縁で接合するように、下方かつ内方に延在する。2つの流れるガラスの表面が、この下縁で接合して、融合し、1つの流れるシートを形成する。このフュージョンドロー法は、通路から溢れて流れる2つのガラス膜が互いに融合するので、結果として得られたガラスシートの外面のいずれも、装置のどの部分とも接触しないという利点を提示する。それゆえ、表面特性は、そのような接触の影響を受けない。
【0054】
本開示のガラス組成物は、7.5ppm/℃未満の低温熱膨張係数(LTCTE)、および18ppm/℃未満の高温熱膨張係数(HTCTE)を有する。その上、そのガラス組成物は、フュージョン成形に好ましい粘度曲線を有する。詳しくは、200,000ポアズでの温度は1100℃より高く、35,000ポアズでの温度は1200℃より高く、液相粘度は200,000ポアズより大きく(例えば、ある実施の形態について、1,000,000ポアズより大きい)、ジルコン分解粘度は35,000ポアズ未満である。それゆえ、本開示のガラス組成物は、フュージョン成形可能であり、フュージョンドロー法に理想的に適しており、よって、薄いガラスシートを直接成形することができる。いくつかの実施の形態において、その薄いガラスシートは、約3mmまで、およびそれらの間の全ての範囲と部分的範囲、例えば、約2mmまで、または約1mmまでの厚さを有し得る。いくつかの実施の形態において、薄いガラスシートは、約1000マイクロメートル以下、約800マイクロメートル以下、約600マイクロメートル以下、約400マイクロメートル以下、約200マイクロメートル以下、例えば、約20マイクロメートルと500マイクロメートルの間、約50マイクロメートルと400マイクロメートルの間、または約50、100、150、200、250、300、350または400マイクロメートルの厚さを有し得る。
【0055】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。スロットドロー法において、溶融ガラス原材料は、導管に供給される。この導管の底部に、一方の寸法が他方の寸法より広い開いたスロットがあり、そのスロットの長さに及ぶノズルを有する。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、そこを通る連続シートとして下方に徐冷領域中へと延伸される。
【0056】
あるいは、本開示のガラスは、圧延、フロート法などの他の過程によって成形することもできる。
【0057】
本開示のガラスは、その機械的性質を強化するためにイオン交換可能である。典型的に、ガラスは、アルカリイオンの1種類以上の塩を含む塩浴中でイオン交換される。ガラス中に存在するより小さいアルカリイオン(例えば、リチウムまたはナトリウム)が、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムなどの1種類以上のより大きいアルカリイオンを含有する溶融塩浴中でイオン交換され得る。イオン交換が、十分な時間に亘り歪み点よりはるかに低い温度で行われた場合、より大きいアルカリが塩浴からガラス表面中に移動し、より小さいイオンがガラスから出て塩浴中に移動する拡散プロファイルが形成される。ガラスが冷めるときに、より大きいイオン(例えば、カリウムイオン)がガラスを互いに圧縮し、損傷に対して丈夫な表面を形成する圧縮応力層を作り出す。イオン交換過程は、不利な環境条件に対してもガラスを保護するであろう。
【0058】
当業者には、ガラス中に存在するアルカリイオンをどの一価陽イオン(例えば、銅、銀、タリウムなど)で交換しても差し支えないことが理解されよう。これらの陽イオンは、照明のための色または光トラップのための屈折率が上昇した層の導入など、最終用途にとって潜在的価値のある属性も提供するであろう。
【0059】
いくつかの実施の形態において、様々な厚さを有する本開示のガラスは、それぞれ、4時間および8時間に亘り、100%のKNO3中において410℃でイオン交換することができる。例えば、本開示のガラス(厚さ0.4mm)は、650MPa超の、表面での圧縮応力、および25マイクロメートル超の圧縮応力層の深さ(「圧縮深さ」または「DOC」としても知られている)を有するようにイオン交換することができる。
【0060】
いくつかの実施の形態において、本開示のガラス(厚さ0.1mm)は、550MPa超の、表面での圧縮応力、および20マイクロメートルの圧縮深さを有するようにイオン交換することができる、または450MPa超の、表面での圧縮応力、および15マイクロメートルの圧縮深さを有するようにイオン交換することができる。
【0061】
圧縮応力(表面CSを含む)は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されているFSM-6000などの市販の計器を使用して、表面応力計(FSM)により測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する。次に、SOCは、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM基準C770-16に記載されている手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。
【0062】
ここに用いられているように、DOCは、ここに記載された化学強化されたアルカリアルミノケイ酸塩ガラス物品における応力が圧縮から引張に変わる深さを意味する。DOCは、イオン交換処理に応じて、FSMにより、または散乱光偏光器(SCALP)により測定することができる。ガラス物品中の応力が、ガラス物品中へのカリウムイオンの交換により生じている場合、DOCを測定するために、FSMが使用される。応力が、ガラス物品中へのナトリウムイオンの交換により生じている場合、DOCを測定するために、SCALPが使用される。ガラス物品中の応力が、ガラス中にカリウムイオンとナトリウムイオンの両方を交換することによって生じる場合、DOCはSCALPにより測定される。何故ならば、ナトリウムイオンの交換深さはDOCを表し、カリウムイオンの交換深さは、圧縮応力の大きさの変化(圧縮から引張への応力の変化ではない)を表すと考えられるからである;そのようなガラス物品におけるカリウムイオンの交換深さは、FSMにより測定される。
【0063】
本開示は、ここに記載された方法のいずれによって製造されたガラス物品も提供する。一般に、製造されたこれらの製品は、ここに記載されたような物理的性質を共有する。
【0064】
用途
ここに記載されたガラスまたはガラス系物品には、様々な用途、例えば、高い破壊靭性を有する薄いガラスが望ましい用途があり得る。当業者には、ここに記載されたガラスまたはガラス系物品は、その特定の用途にしたがって、様々な形状、厚さなどを取ることができることが理解されよう。
【0065】
例えば、ここに開示されたガラスまたはガラス系物品は、ディスプレイを備えた物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む家庭用電子機器)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性またはその組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込まれることがある。ここに開示されたガラスおよびガラス系物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、
図2Aおよび2Bに示されている。詳しくは、
図2Aおよび2Bは、前面104、背面106、および側面108を有する筐体102;その筐体内に少なくとも部分的に内部にあるまたは完全に中にある電気部品(図示せず)であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接したディスプレイ110を含む電気部品;およびディスプレイ上にあるように、筐体の前面またはその上にあるカバー基板112を備えた家庭用電子機器100を示している。いくつかの実施の形態において、カバー基板112は、ここに開示されたガラスおよびガラス系物品のいずれを含んでもよい。
【0066】
特別な用途の1つは、力センサ基板を備えた携帯型電子機器である。力センサの例が、例えば、米国特許出願公開第2005/0042012A1号および同第2016/0188103A1号の各明細書に記載されている。力センサは、ディスプレイ積層体に加えられる追加の層である。いくつかの実施の形態において、力センサは、カバー基板112の上または上面に配置することができる。他の実施の形態において、力センサは、カバー基板112の真下または下(例えば、カバー基板112とディスプレイ110の間)に配置することができる。力センサは追加の層であるので、より薄くより軽量の機器の一般的な傾向に適応するために、薄い必要がある。本開示は、力センサ用途に適した薄いまたは極薄のガラスシートを提供する。
【実施例】
【0067】
以下の実施例は、本開示の利点および特徴をさらに示し、本開示をそれに限定することは決して意図されていない。
【0068】
実施例1
ガラス組成物
本開示による10個の例示の発明のガラス組成物(ガラスA~ガラスJ)を調製した。各例示のガラス組成物の具体的な組成が、下記の表1に記載されている。
【0069】
各例示のガラス組成物のLTCTE値とHTCTE値、液相粘度、ガラス温度(それぞれ、200,000ポアズおよび35,000ポアズでの)、および仮想温度を決定し、表1に記載した。LTCTE、HTCTE、および仮想温度は、先に述べられた技術にしたがって測定した。それに加え、各例示のガラス組成物の密度、歪み点、徐冷点、軟化点、応力光学係数、屈折率、および他の性質も決定し、表1に記載した。密度は、ASTM C693-93(2013)の浮力法を使用して決定した。歪み点および徐冷点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を使用して決定した。軟化点は、ASTM C1351M-96(2012)の平行板粘度法を使用して決定した。
【0070】
【0071】
実施例2
イオン交換されたガラス物品
表1の例示のガラスA~ガラスJの各々のガラスサンプルを、それぞれ、4時間および8時間に亘り100%のKNO3浴中において410℃でイオン交換することによって化学強化して、サンプルの表面に圧縮応力層を生じさせた。ガラスの厚さは、0.1mmから1.0mmに及んだ。ガラスを熱処理して、1011ポアズ温度と等しい仮想温度を設定した。イオン交換されたガラスの性質を決定し、下記の表2および3に記載した。
【0072】
表2に示されるように、イオン交換済みガラス(0.4mm厚、4時間に亘りイオン交換した)は、少なくとも745MPaの表面圧縮応力および少なくとも26マイクロメートルの圧縮層の深さを有した。
【0073】
表3に示されるように、イオン交換済みガラス(0.4mm厚、8時間に亘りイオン交換した)は、少なくとも699MPaの表面圧縮応力および少なくとも36マイクロメートルの圧縮層の深さを有した。
【0074】
当業者には、ガラス系物品の表面強度がより大きいことが望ましい場合、圧縮応力を改善するために、より短いイオン交換時間を使用できることが理解されるであろう。反対に、ガラス系物品の損傷抵抗がより大きいことが望ましい場合、圧縮層の深さを増加させるために、より長いイオン交換時間を使用できる。
【0075】
【0076】
【0077】
実施例3
ガラスG並びに下記の表4に列挙された10個の基準ガラス組成物について、HTCTEを測定した。HTCTEは、先に記載したように測定した。ガラスGおよび基準ガラス組成物1~10について、温度の関数(x軸)としての熱膨張係数(y軸)のプロットが、
図1に示されている。
図1に示された曲線を得るために、790℃から400℃まで、2℃/秒の速度でガラスを冷却した。
図1から分かるように、ガラスGは、最低のHTCTE(CTEが水平状態に達するCTE値)を有する。
【0078】
【0079】
特定の実施の形態の先の記載は、本開示の一般概念から逸脱せずに、過度の実験を必要とせずに、当該技術内の知識を適用することによって、他者が、そのような特定の実施の形態を容易に改変できる、および/または様々な用途に適用できる、本開示の一般的性質を十分に公開する。したがって、そのような適用および改変は、ここに述べられた教示および指針に基づいて、開示された実施の形態の等価物の意味と範囲内であることが意図されている。用語法または専門用語は、限定ではなく、説明の目的であり、よって、本明細書の専門用語または用語法は、その教示および指針を考慮した当業者により解釈されるべきであると理解されよう。
【0080】
本開示の広さと範囲は、上述した例示の実施の形態のいずれによっても限定されるべきではない。
【0081】
ここに記載された様々な態様、実施の形態、および選択肢の全ては、任意と全てのバリエーションで組み合わせることができる。
【0082】
本明細書に述べられた全ての出版物、特許、および特許出願は、個々の出版物、特許、または特許出願が詳しく個別に、引用により含まれると示される程度まで、参照によりここに含まれる。
【0083】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0084】
実施形態1
ガラス組成物において、
約72モル%から約77モル%のSiO2、
約8モル%から約12モル%のAl2O3、
約10モル%から約14モル%の1種類以上のアルカリ酸化物R2O、
1種類以上の二価酸化物RO、および
P2O5
を含み、
ここで、R2Oは、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、またはCs2Oであり、
ROは、MgO、CaO、SrO、BaO、またはZnOであり、
ROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比が少なくとも約0.2である、ガラス組成物。
【0085】
実施形態2
約72モル%から約75モル%のSiO2、
約9モル%から約11モル%のAl2O3、および
約11モル%から約13モル%のNa2O、
を含む、実施形態1に記載のガラス組成物。
【0086】
実施形態3
ZnOをさらに含む、実施形態1または2に記載のガラス組成物。
【0087】
実施形態4
約0.03モル%から約4モル%のMgO、
約0.03モル%から約5モル%のCaO、および
約0.03モル%から約4モル%のZnO、
を含む、実施形態1または2に記載のガラス組成物。
【0088】
実施形態5
約0.05モル%から約3モル%のMgO、
約0.05モル%から約4モル%のCaO、および
約0.03モル%から約3モル%のZnO、
を含む、実施形態4に記載のガラス組成物。
【0089】
実施形態6
約0.01モル%から約2モル%のP2O5を含む、実施形態1に記載のガラス組成物。
【0090】
実施形態7
Be2O3および/またはSnO2をさらに含む、実施形態1から6いずれか1つに記載のガラス組成物。
【0091】
実施形態8
約0.03モル%から約0.08モル%のSnO2を含む、実施形態7に記載のガラス組成物。
【0092】
実施形態9
ROのモル%/(R2Oのモル%+ROのモル%)の比が、約0.2から約0.5の範囲にある、実施形態1から8いずれか1つに記載のガラス組成物。
【0093】
実施形態10
ガラス組成物において、
約72モル%から約77モル%のSiO2、
約8モル%から約12モル%のAl2O3、
約10モル%から約14モル%のNa2O、
約0.03モル%から約4モル%のMgO、
約0.03モル%から約5モル%のCaO、
約4モル%までのZnO、
約0.03モル%から約2モル%のP2O5、および
約0.03モル%から約0.09モル%のSnO2、
を含み、
Na2Oのモル%/(Na2Oのモル%+MgOのモル%+CaOのモル%+ZnOのモル%)の比が、約0.2から約0.5の範囲にある、ガラス組成物。
【0094】
実施形態11
約72.17モル%から約74.37モル%のSiO2、
約9.95モル%から約10.04モル%のAl2O3、
約10.59モル%から約12.69モル%のNa2O、
約0.05モル%から約3.08モル%のMgO、
約0.03モル%から約4.04モル%のCaO、
約2.94モル%までのZnO、
約0.03モル%から約0.96モル%のP2O5、および
約0.05モル%から約0.07モル%のSnO2、
を含む、実施形態10に記載のガラス組成物。
【0095】
実施形態12
K2O、B2O3、および/またはLi2Oを実質的に含まない、実施形態1から11いずれか1つに記載のガラス組成物。
【0096】
実施形態13
前記ガラス組成物が、以下の特徴の内の1つ以上を有する、実施形態1から12いずれか1つに記載のガラス組成物:(i)7.5ppm/℃未満の低温熱膨張係数(LTCTE);(ii)18ppm/℃未満の高温熱膨張係数(HTCTE);(iii)少なくとも200,000ポアズの液相粘度;(iv)200,000ポアズで少なくとも1100℃の、または35,000ポアズで少なくとも1200℃のガラス温度;および(v)約795℃未満の仮想温度Tf。
【0097】
実施形態14
イオン交換により強化されている、実施形態1から12いずれか1つに記載のガラス組成物。
【0098】
実施形態15
(1)少なくとも10マイクロメートルの圧縮層の深さ、および/または(2)少なくとも450MPaの圧縮強度を有する、実施形態14に記載のガラス組成物。
【0099】
実施形態16
(1)約15から約100マイクロメートルの圧縮層の深さ、および/または(2)約550MPaから約650MPaの圧縮強度を有する、実施形態14または15に記載のガラス組成物。
【0100】
実施形態17
実施形態1から16いずれか1つに記載のガラス組成物から作られたガラス系物品。
【0101】
実施形態18
約3mmまで、約2mmまで、約1mmまで、または約0.4mm以下の厚さを有する、実施形態17に記載のガラス系物品。
【0102】
実施形態19
前記物品が、
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも、制御装置、メモリ、および前記筐体の前面にまたはそれに隣接したディスプレイを含む電気部品、
力センサ、および
前記ディスプレイ上に配置された、実施形態1から16いずれか1つに記載のガラス組成物から作られた基板、
を備えた家庭用電子機器である、実施形態18に記載のガラス系物品。
【符号の説明】
【0103】
100 家庭用電子機器
102 筐体
104 前面
106 背面
108 側面
110 ディスプレイ
112 カバー基板