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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ウロリチン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/06 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
C12P17/06
【請求項の数】 43
(21)【出願番号】P 2019562750
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2018034916
(87)【国際公開番号】W WO2019130681
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/046789
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02376
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 賢則
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩明
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/147280(WO,A1)
【文献】特開2017-192331(JP,A)
【文献】SELMA, M.V. et al.,"Description of urolithin production capacity from ellagic acid of two human intestinal Gordonibacter species.",[online], INTERNET,Author version,2014年05月08日,Accepted manuscript(pp.1-20),doi: 10.1039/C4FO00092G,[検索日:平成30年3月23日], & FOOD FUNCT. 2014, Vol.5, No.8, pp.1779-1784
【文献】PUKALL, R. et al.,"Complete genome sequence of Slackia heliotrinireducens type strain (RHS 1T).",STANDARDS IN GENOMIC SCIENCES,2009年,Vol.1,pp.234-241,doi: 10.4056/sigs.37633
【文献】TAKAGAKI, A. et al.,"Biotransformation of (-)-epigallocatechin and (-)-gallocatechin by intestinal bacteria involved in isoflavone metabolism.",BIOL. PHARM. BULL.,2015年,Vol.38, No.2,pp.325-330,doi: 10.1248/bpb.b14-00646
【文献】TAKAGAKI, A. et al.,"Biotransformation of (-)-epicatechin, (+)-epicatechin, (-)-catechin, and (+)-catechin by intestinal bacteria involved in isoflavone metabolism.",BIOSCI. BIOTECHNOL. BIOCHEM.,2016年,Vol.80, No.1,pp.199-202,doi: 10.1080/09168451.2015.1079480,[EPUB 2015 AUG 27]
【文献】JIN, J.S. et al.,"Slackia equolifaciens sp. nov., a human intestinal bacterium capable of producing equol.",INT. J. SYST. EVOL. MICROBIOL.,2010年08月,Vol.60, No.8,pp.1721-1724,doi: 10.1099/ijs.0.016774-0
【文献】LI, Z. et al.,"Pomegranate extract induces ellagitannin metabolite formation and changes stool microbiota in healthy volunteers.",FOOD FUNCT.,2015年,Vol.6,pp.2487-2495,doi: 10.1039/c5fo00669d
【文献】GARCIA-VILLALBA, R. et al.,"Time course production of urolithins from ellagic acid by human gut microbiota.",J. AGRIC. FOOD CHEM.,2013年09月18日,Vol.61, No.37,pp.8797-8806,doi: 10.1021/jf402498b
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)を含む、下記一般式(2)で表される第2のウロリチン類の製造方法。
工程(a):下記一般式(1)で表される第1のウロリチン類を含有する溶液において、第1のウロリチン類から下記一般式(2)で表される第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成させる工程であって、
前記第1のウロリチン類から前記第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物が、スラッキア(Slackia)属に属する微生物である、工程。
【化1】


(式中、R乃至Rは、それぞれ、水酸基、水素原子又はメトキシ基を表し、且つ、R乃至Rのうち1つ以上は水酸基である。)
【化2】


(式中、R乃至Rは、それぞれ、前記一般式(1)で表される第1のウロリチン類のR乃至Rと同一である。)
【請求項2】
前記スラッキア(Slackia)属に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセ
ンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1のウロリチン類がウロリチンCであり、前記第2のウロリチン類がイソウロリチンAである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ウロリチンCが、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料から生成させて得られるものであり、
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物及び/又はエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
さらに下記工程(b1)を含み、前記工程(a)及び該工程(b1)が同一の系で行われる、請求項4に記載の製造方法。
工程(b1):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程であって、
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物及び/又はエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物である、工程
【請求項7】
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物である、請求項5又は6に記載の製造方法
【請求項8】
前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パ
メラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチ
ンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が
、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株
である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微
生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、請求項5~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1のウロリチン類がウロリチンAであり、前記第2のウロリチン類がウロリチンBである、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ウロリチンAが、ウロリチンAの原料を含有する溶液において、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンAの原料から生成させて得られるものであって、
前記ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
さらに下記工程(b2)を含み、前記工程(a)及び該工程(b2)が同一の系で行われる、請求項13に記載の製造方法。
工程(b2):ウロリチンAの原料を含有する溶液において、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成させる工程であって、
前記ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、工程。
【請求項16】
前記クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が、クロストリジウム・ボル
テアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォル
メ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、及びクロストリジウム・シトロニア
エ(Clostridium citroniae)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、
請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物が、クロ
ストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、DSM 1
5670株、及びDSM 29485株から成る群から選択される1以上である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する
微生物が、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DS
M 15981株である、請求項16又は17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が、
クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)DSM 19261株であ
る、請求項16~18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記ウロリチンAの原料がウロリチンCである、請求項14~19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記ウロリチンCが、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料から生成させて得られるものであって、
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物及び/又はエガセラ(Eggerthella)属に属
する微生物である、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
さらに下記工程(b21)を含み、前記工程(a)及び該工程(b21)が同一の系で行われる、請求項20に記載の製造方法。
工程(b21):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程であって、
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物及び/又はエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物である、工程。
【請求項23】
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物である、請求項21又は22に記載の製造
方法。
【請求項24】
前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パ
メラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチ
ンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、請求項23に記載の製造方法。
【請求項25】
前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が
、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株
である、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、請求項24又は25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、請求項24~26のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項28】
前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、請求項21~27のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項29】
工程(a)が、気相が水素を含む環境下で行われる、請求項1~28のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項30】
前記水素が、ギ酸及び/又はその塩を原料とする水素を含む、請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
同一の系で行われる下記工程(d)乃至(g)を含む、ウロリチンBの製造方法。
工程(d):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程であって、
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物及び/又はエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物である、工程、
工程(e):ウロリチンCを含有する溶液において、ウロリチンCからイソウロリチン
Aを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成させる工程であって、
前記ウロリチンCからイソウロリチンAを生成する能力を有する微生物が、スラッキア(Slackia)属に属する微生物である、工程、
工程(f):前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物を植菌する工程、及び
工程(g):前記工程(f)後の前記イソウロリチンAを含有する溶液において、前記イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成させる工程。
【請求項32】
前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物であり、
前記イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、
請求項31に記載の製造方法。
【請求項33】
前記スラッキア(Slackia)属に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセ
ンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物である、請求項31又は32に記載の製造方法。
【請求項34】
前記スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株である、請求項33に記載の製造方法。
【請求項35】
前記クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が、クロストリジウム・ボル
テアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォル
メ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、及びクロストリジウム・シトロニア
エ(Clostridium citroniae)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、
請求項32~34のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項36】
前記クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物が、クロ
ストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、DSM 1
5670株、及びDSM 29485株から成る群から選択される1以上である、請求項35に記載の製造方法。
【請求項37】
前記クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する
微生物が、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DS
M 15981株である、請求項35又は36に記載の製造方法。
【請求項38】
前記クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が、
クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)DSM 19261株であ
る、請求項35~37のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項39】
前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パ
メラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチ
ンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、請求項31~38のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項40】
前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が
、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株
である、請求項39に記載の製造方法。
【請求項41】
前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、請求項39又は40に記載の製造方法。
【請求項42】
前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、請求項39~41のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項43】
前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、請求項31~42のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウロリチン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウロリチンAやウロリチンCに代表されるウロリチン類は、ザクロ、ラズベリー、ブラックベリー、クラウドベリー、イチゴ、クルミなどに含まれるエラジタンニン等に由来するエラグ酸の代謝物として知られている。
【0003】
エラジタンニンは加水分解性タンニンに分類され、摂取されると体内で加水分解され、エラグ酸に変換されることが知られている。また、果実等にはエラグ酸としても存在している。
これまでに、例えば、生体内におけるウロリチン類の生成については、ラットにおいて、ゲラニインなどのエラジタンニンからウロリチン類が生じることが、尿中のウロリチン類を分析することによって明らかにされている(非特許文献1)。
また、ヒトにおいて、プニカラジンを主としたエラジタンニンを含むザクロ抽出物を摂取後、尿中においてウロリチン類が検出され、特にウロリチンA及びウロリチンCが主要なエラグ酸代謝物であることが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
これらのウロリチン類は、様々な生理活性を有することが知られており、医薬品、化粧品、飲食品の素材としての利用が期待されている。
例えば、ウロリチンAには抗酸化作用(非特許文献3)、抗炎症作用(非特許文献4)、抗糖化作用(非特許文献5)、マイトファジーの促進作用(非特許文献6)などの機能を有することが報告されており、抗老化機能を有する素材としての開発が期待されている。
【0005】
これらのウロリチン類を合成する方法としては、2-ブロモ-5-メトキシ安息香酸を出発原料として脱メチル化によって2-ブロモ-5-ヒドロキシ安息香酸とし、レゾルシノールと反応させることによってウロリチンAを得る方法などが報告されている(非特許文献7)。しかし、ウロリチン類を機能性食品(飲料、サプリメントを含む。)の素材として利用するには、このような化学合成法は適さない。
【0006】
一方、エラジタンニンやエラグ酸は体内に摂取された後、腸内微生物叢によって代謝されてウロリチン類に変換されることが知られている。近年、ウロリチン類の一種であるウロリチンCをエラグ酸から生成する腸内細菌としてゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が分離、同定され、この腸内細菌を用いたエラグ酸の発酵によりウロリチンCを産生する方法が報告された(特許文献1、非特許文献8)。しかし、発酵液中のウロリチンCの蓄積濃度は2mg/L程度であり、また、ヒトの主要なエラグ酸代謝物であるウロリチンAは生産することができない。
【0007】
ゴルドニバクター属に属するゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物もエラグ酸からウロリチンCを生産することが報告されているが、ウロリチンAを生産することは報告されていない。また、同微生物を含め、ウロリチン類の8位の水酸基を脱離して他のウロリチン類を産生する微生物は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2014/147280号
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. Agric. Food Chem. 56, 393-400 (2008)
【文献】Mol. Nutr. Food Res. 58, 1199-1211 (2014)
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem. 76, 395-399 (2012)
【文献】J. Agric. Food Chem. 60, 8866-8876 (2012)
【文献】Mol. Nutr. Food Res. 55, S35-S43 (2011)
【文献】Nature Medicine, 22, 879-888 (2016)
【文献】J. Agric. Food Chem.,56, 393-400 (2008)
【文献】Food Func., 5, 8, 1779-1784 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ウロリチン類の8位の水酸基を脱離して他のウロリチン類を製造する方法の提供を課題とする。また、本発明は、ウロリチンBの新規製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ウロリチン類の8位の水酸基を脱離して他のウロリチン類を生成する能力を有する微生物を見出して、本発明を完成させた。本発明は以下の通りである。
【0012】
〔1〕下記工程(a)を含む、下記一般式(2)で表される第2のウロリチン類の製造方法。
工程(a):下記一般式(1)で表される第1のウロリチン類を含有する溶液において、第1のウロリチン類から下記一般式(2)で表される第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成させる工程。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、R1乃至R7は、それぞれ、水酸基、水素原子又はメトキシ基を表し、且つ、R1乃至R7のうち1つ以上は水酸基である。)
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R1乃至R7は、それぞれ、前記一般式(1)で表される第1のウロリチン類のR1乃至R7と同一である。)
【0017】
〔2〕前記微生物がスラッキア(Slackia)属に属する微生物である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記スラッキア(Slackia)属に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株である、〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕前記第1のウロリチン類がウロリチンCであり、前記第2のウロリチン類がイソウロリチンAである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕前記ウロリチンCが、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料から生成させて得られるものである、〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕さらに下記工程(b1)を含み、前記工程(a)及び該工程(b1)が同一の系で行われる、〔5〕に記載の製造方法。
工程(b1):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程。
〔8〕前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物である、〔6〕又は〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株である、〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、〔9〕又は〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の製造方法。
〔13〕前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、〔6〕~〔12〕のいずれかに記載の製造方法。
〔14〕前記第1のウロリチン類がウロリチンAであり、前記第2のウロリチン類がウロリチンBである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔15〕前記ウロリチンAが、ウロリチンAの原料を含有する溶液において、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンAの原料から生成させて得られるものである、〔14〕に記載の製造方法。
〔16〕さらに下記工程(b2)を含み、前記工程(a)及び該工程(b2)が同一の系で行われる、〔14〕に記載の製造方法。
工程(b2):ウロリチンAの原料を含有する溶液において、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成させる工程。
〔17〕前記ウロリチンAの原料からウロリチンAを生成する能力を有する微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、〔15〕又は〔16〕に記載の製造方法。
〔18〕前記クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、及びクロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、〔17〕に記載の製造方法。
〔19〕前記クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物が、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、DSM 15670株、及びDSM 29485株から成る群から選択される1以上である、〔18〕に記載の製造方法。
〔20〕前記クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物が、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DSM 15981株である、〔18〕又は〔19〕に記載の製造方法。
〔21〕前記クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が、クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)DSM 19261株である、〔18〕~〔20〕のいずれかに記載の製造方法。
〔22〕前記ウロリチンAの原料がウロリチンCである、〔15〕~〔21〕のいずれかに記載の製造方法。
〔23〕前記ウロリチンCが、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料から生成させて得られるものである、〔22〕に記載の製造方法。
〔24〕さらに下記工程(b21)を含み、前記工程(a)及び該工程(b21)が同一の系で行われる、〔22〕に記載の製造方法。
工程(b21):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程。
〔25〕前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物である、〔23〕又は〔24〕に記載の製造方法。
〔26〕前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、〔25〕に記載の製造方法。
〔27〕前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株である、〔26〕に記載の製造方法。
〔28〕前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、〔26〕又は〔27〕に記載の製造方法。
〔29〕前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、〔26〕~〔28〕のいずれかに記載の製造方法。
〔30〕前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、〔23〕~〔29〕のいずれかに記載の製造方法。
〔31〕工程(a)が、気相が水素を含む環境下で行われる、〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の製造方法。
〔32〕前記水素が、ギ酸及び/又はその塩を原料とする水素を含む、〔31〕に記載の製造方法。
〔33〕同一の系で行われる下記工程(d)乃至(g)を含む、ウロリチンBの製造方法。
工程(d):ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程、
工程(e):ウロリチンCを含有する溶液において、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成させる工程、
工程(f):前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物を植菌する工程、及び
工程(g):前記工程(f)後の前記イソウロリチンAを含有する溶液において、前記イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成させる工程。
〔34〕前記ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物であり、
前記ウロリチンCからイソウロリチンAを生成する能力を有する微生物が、スラッキア(Slackia)属に属する微生物であり、
前記イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物が、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物である、
〔33〕に記載の製造方法。
〔35〕前記スラッキア(Slackia)属に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物である、〔34〕に記載の製造方法。
〔36〕前記スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物が、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株である、〔35〕に記載の製造方法。
〔37〕前記クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、及びクロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、〔34〕~〔36〕のいずれかに記載の製造方法。
〔38〕前記クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物が、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、DSM 15670株、及びDSM 29485株から成る群から選択される1以上である、〔37〕に記載の製造方法。
〔39〕前記クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物が、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DSM 15981株である、〔37〕又は〔38〕に記載の製造方法。
〔40〕前記クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が、クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)DSM 19261株である、〔37〕~〔39〕のいずれかに記載の製造方法。
〔41〕前記ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、及びゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物から成る群から選択される一以上である、〔34〕~〔40〕のいずれかに記載の製造方法。
〔42〕前記ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物が、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株である、〔41〕に記載の製造方法。
〔43〕前記ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株である、〔41〕又は〔42〕に記載の製造方法。
〔44〕前記ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物が、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株である、〔41〕~〔43〕のいずれかに記載の製造方法。
〔45〕前記ウロリチンCの原料が、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである、〔33〕~〔44〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、8位に水酸基を有するウロリチン類から該8位の水酸基を脱離して他のウロリチン類を製造する方法が提供できる。また、本発明は、ウロリチンBを製造する方法が提供できる。そして、本発明の製造方法により得られるウロリチン類を、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等に用いることにより、抗酸化、抗炎症、抗糖化、マイトファジーの促進作用などの効果を得ることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、DSMとの文言から始まる菌株の受託番号は、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) に保存されている微生物に付与された番号である。また、JCMとの文言から始まる菌株の受託番号は、理化学研究所バイオリソースセンターに保存されている微生物に付与された番号である。
【0020】
本発明は、ウロリチン類の製造方法(第一の発明)、ウロリチン類を含む飲食品の製造方法(第二の発明)、ウロリチンBの製造方法(第三の発明)、及び、ウロリチンBを含む飲食品の製造方法(第四の発明)を含む。
表1に、ウロリチン類の具体例を掲げる。
【0021】
【表1】
【0022】
<1.ウロリチン類の製造方法>
本発明の第一の発明であるウロリチン類の製造方法は、下記工程(a)を含むが、その他の工程を含んでもよい。
【0023】
(1)工程(a)
工程(a)は、下記一般式(1)で表される第1のウロリチン類を含有する溶液において、第1のウロリチン類から下記一般式(2)で表される第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成させる工程である。
【0024】
【化3】
【0025】
(式中、R1乃至R7は、それぞれ、水酸基、水素原子又はメトキシ基を表し、且つ、R1乃至R7のうち1つ以上は水酸基である。)
【0026】
【化4】
【0027】
(式中、R1乃至R7は、それぞれ、前記一般式(1)で表される第1のウロリチン類のR1乃至R7と同一である。)
【0028】
第1のウロリチン類の具体例としては、ウロリチンA、ウロリチンC、ウロリチンD、ウロリチンE、ウロリチンM3、ウロリチンM5、ウロリチンM6、ウロリチンM7等が挙げられる。
第2のウロリチン類としては、上記第1のウロリチン類の8位の水酸基が脱離されていること以外は上記第1のウロリチン類と同一のものである。
本発明の第1のウロリチン類は、好ましくは、ウロリチンC、ウロリチンAであり、このとき、本発明の第2のウロリチン類は、それぞれ、イソウロリチンA、ウロリチンBである。
【0029】
(第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物)
本発明の第一の発明における、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物は、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物ならば特に制限されないが、嫌気性の微生物であることが好ましい。
その具体例としては、スラッキア(Slackia)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)に属する微生物等が挙げられ、さらに具体的には、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株等が挙げられる。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、1種でも2種以上を用いてもよい。
【0030】
また、本発明の第一の発明における、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物は、上記寄託菌株と同一の菌株に制限されず、上記寄託菌株と実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と97.5%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%の相同性を有する微生物である。さらに、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物は、本発明の効果が損なわれない限り、上記寄託菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0031】
(第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体)
本発明の第一の発明における、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。静止菌体とは、培養した微生物から遠心分離等の操作により培地成分を取り除き、水や生理食塩水等の塩溶液、あるいは緩衝液で洗浄し、洗浄液と同一の液に懸濁した菌体であって、増殖しない状態の菌体を指し、本発明の第一の発明においては、少なくとも、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成できる代謝系を有している菌体をいう。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が好ましい。緩衝液のpHや濃度は、常法に従い適宜調製したものを使用できる。
【0032】
(第1のウロリチン類を含有する溶液)
本発明の第一の発明における第1のウロリチン類を含有する溶液とは、該溶液において、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは後述する「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄に記載した培地である。また、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物が静止菌体である場合には、前述した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。
尚、本明細書に記載されている「培地」とは、いずれも、最少培地を含む、微生物が増殖できる溶液をいい、微生物が増殖できない溶液、例えば、前述した水や塩溶液、緩衝液などを含まないものとする。
【0033】
該溶液へ第1のウロリチン類を添加する場合には、第2のウロリチン類の生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中の第1のウロリチン類の含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0034】
(培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成)
工程(a)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH(ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth(CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地等を使用することができる。
【0035】
また、これらの培地に第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する酵素を誘導する誘導物質を添加することが好ましい。誘導物質としては、第1のウロリチン類及び第2のウロリチン類以外のウロリチン類、その前駆体;エラグ酸;エラグ酸の前駆体であるエラジタンニン等が挙げられる。1種でも2種以上であってもよい。
また、培地に水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができる。すなわち、グルコース、アラビノース、ソルビトール、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロースなどの糖類;グリセロールなどのアルコール類;吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル酸などの有機酸類などを挙げることが出来る。
【0036】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲から添加量を選択することができる。
【0037】
上記の炭素源に加えて、培地に窒素源が加えることができる。窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。
好ましい無機窒素源として、アンモニウム塩、硝酸塩などを、より好ましくは、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダなどを挙げることが出来る。
また、有機窒素源としては、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンNなど)、肉エキス(例えばエールリッヒカツオエキス、ラブ-レムコ末、ブイヨンなど)、肝臓エキス、消化血清末などを挙げることが出来る。
【0038】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、例えば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類など、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0039】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
酢酸ナトリウム三水和物
硫酸マグネシウム七水和物
硫酸マンガン四水和物
【0040】
また、培地中に、システイン、シスチン、硫化ナトリウム、亜硫酸塩、アスコルビン酸、グルタチオン、チオグリコール酸、ルチンなどの還元剤やカタラーゼ、スーパーオキシドムターゼなどの活性酸素種を分解する酵素を添加することにより生育が良好になる可能性がある。
【0041】
培養中の気相、水相としては、空気もしくは酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。気相における水素の割合は、第2のウロリチン類の生成が促進されることから、通常0.5%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であり、一方、通常100%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
培養中の気相や水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に上記ガスで気相を置換する方法、培養中も培養器の底部から供給する及び/又は培養器の気相部に供給する方法、培養前に上記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよい。また、培地にギ酸及び/又はその塩などの水素の原料を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0042】
通気量としては、0.005~2vvmが挙げられ、0.05~0.5vvmが好ましい。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
培養温度は、20℃~45℃、より好ましくは25℃~40℃、さらに好ましくは30℃~37℃が好ましい。
培養器の加圧条件は、生育できる条件であれば特に限定されるものではないが、0.001~1MPaの範囲、好ましくは0.01~0.5MPaを挙げることができる。
培養時間としては、通常8~340時間、好ましくは12~170時間、より好ましくは16~120時間を挙げることが出来る。
【0043】
また、培養液に界面活性剤、吸着剤、包摂化合物などを添加することにより、第2のウロリチン類の生成を促進できる場合がある。
界面活性剤としては、例えば、Tween 80等が挙げられ、0.001g/L以上10g/L以下程度添加することが出来る。
吸着剤としては、例えば、セルロース及びその誘導体;デキストリン;三菱化学株式会社製の疎水吸着剤であるダイアイオンHPシリーズやセパビーズシリーズ;オルガノ株式会社製のアンバーライトXADシリーズなどを挙げることができる。
【0044】
包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)などを挙げることができる。この中で、γ-シクロデキストリンが最も効果的である場合がある。また、2種以上の包摂化合物を共存させることにより、第2ウロリチン類の生成を更に促進できる場合がある。
添加量としては、第1のウロリチン類に対し、モル比の総量で、通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1.0当量以上であり、一方、通常5.0当量以下、好ましくは2.5当量以下、より好ましくは2.0当量以下である。
【0045】
(静止菌体による第2のウロリチン類の生成)
第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の代わりに、前述した「第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。その他の条件については、上記「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄の記載が援用される。
【0046】
(第1のウロリチン類)
本発明の第一の発明における第1のウロリチン類は、どのような方法により調製されたものでもよい。例えば、化学合成法や発酵法により合成したものが挙げられる。本発明の第一の発明で製造される第2のウロリチン類を飲食品として利用する場合には、飲食品もしくは飲食品素材を原料にして、発酵法や酵素法により調製した第1のウロリチン類を利用することが望ましい。
【0047】
化学合成法としては、非特許文献7の方法を挙げることができる。
発酵法としては、第1のウロリチン類の原料を含有する溶液において、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類の原料から生成させて得られるものが挙げられる。
【0048】
(工程(a)の前に含んでもよい工程)
発酵法により第1のウロリチン類を生成後、該第1のウロリチン類を分離及び/又は精製して、工程(a)の第1のウロリチン類として工程(a)に適用することも可能であるが、分離及び/又は精製せず、該第1のウロリチン類を含む溶液をそのまま、又は、希釈もしくは濃縮後に、工程(a)の第1のウロリチン類として工程(a)に適用することもできる。
【0049】
すなわち、本発明の第一の発明は、上記工程(a)の前に、該工程(a)が行われる系とは別の系で行われる、下記工程(pre‐a1)及び(pre‐a2)をこの順に含んでもよく、又は、下記工程(pre‐a1)及び(pre‐a3)をこの順に含んでもよい。
工程(pre‐a1):第1のウロリチン類の原料を含有する溶液において、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成させる工程。
工程(pre‐a2):工程(pre‐a1)で生成した第1のウロリチン類を分離及び/又は精製し、該分離及び/又は精製された第1のウロリチン類を、工程(a)の第1のウロリチン類として、工程(a)に適用する工程。
工程(pre‐a3):工程(pre‐a1)で生成した第1のウロリチン類を含む溶液をそのまま又は希釈もしくは濃縮後に、工程(a)の第1のウロリチン類として、工程(a)に適用する工程。
【0050】
(2)工程(b)
本発明の第一の発明であるウロリチン類の製造方法は、前記工程(a)に加えて、さらに下記工程(b)を含み、前記工程(a)及び該工程(b)が同一の系で行われることが好ましい。
工程(b):第1のウロリチン類の原料を含有する溶液において、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成させる工程。
【0051】
(同一の系)
工程(a)及び(b)が同一の系で行われるとは、工程(b)において、第1のウロリチン類の原料を含有する溶液において、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成する能力を有する微生物により、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類が生成されてから、該生成された第1のウロリチン類が工程(a)の第1のウロリチン類としてそのまま用いられて、工程(a)において第2のウロリチン類が生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(b)と工程(a)の間に、例えば、工程(b)で生成した第1のウロリチン類を分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0052】
具体的には、第1のウロリチン類の原料から第1のウロリチン類を生成する能力を有する微生物と、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物とを同じ培養液に植菌し、培養することにより、第2のウロリチン類を生成することなどが挙げられる。両微生物は同一の微生物でもよいし、異なる微生物でもよい。
尚、第1のウロリチン類がウロリチンCである場合、上記工程(b)は工程(b1)と読み替えるものとする。また、第1のウロリチン類がウロリチンAである場合、上記工程(b)は工程(b2)と読み替えるものとする。
また、第1のウロリチン類がウロリチンAであって、ウロリチンAの原料がウロリチンCである場合、上記工程(b)は工程(b21)と読み替えるものとする。
【0053】
(第1のウロリチン類の原料)
第1のウロリチン類の原料は、どのような方法により調製されたものでもよい。また、第1のウロリチン類の原料の原料、さらにはその原料、それ以降についても同様である。
例えば、化学合成法や発酵法により合成したものが挙げられる。本発明の第一の発明で製造される第2のウロリチン類を飲食品として利用する場合には、発酵法や酵素法により得られた第1のウロリチン類の原料を利用することが望ましい。
化学合成法としては、非特許文献7の方法を挙げることができる。
発酵法としては、第1のウロリチン類の原料の原料を含有する溶液において、第1のウロリチン類の原料の原料から第1のウロリチン類の原料を生成する能力を有する微生物に、第1のウロリチン類の原料の原料から生成させて得られる第1のウロリチン類の原料が挙げられる。
【0054】
(その他の工程)
本発明の第一の発明は、以下の工程を含んでもよい。
本発明の第一の発明は、例えば、得られた第2のウロリチン類を定量する工程を含んでもよい。定量方法は常法に従うことができる。例えば、培養液に、必要に応じてギ酸などの酸を添加した酢酸エチルを加えて、激しく撹拌した後に遠心し、酢酸エチル層を取り出す。必要に応じて同様の操作を数回行い、それら酢酸エチル層を合わせてウロリチン類抽出液を得る。この抽出液をエバポレーターなどを用いて減圧下に濃縮、乾固し、メタノールに溶解させる。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー定量する。高速液体クロマトグラフィーの条件としては、例えば以下が挙げられるが、これに限定されない。
【0055】
[高速液体クロマトグラフィー条件]
カラム:Inertsil ODS‐3(250×4.6mm)(GL Science社製)
溶離液:水/アセトニトリル/酢酸=74/25/1
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:305nm
【0056】
また、本発明の第一の発明は、上記工程で得られた第2のウロリチン類を回収する工程を含んでもよい。当該回収工程は、精製工程や濃縮工程等を含む。精製工程における精製処理としては、熱等による微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、第2のウロリチン類を含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することもできる。粉末化においては、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0057】
<1-1.好ましい一実施態様>
以下では、本発明の好ましい一実施態様を記載する。
本実施態様は、第1のウロリチン類がウロリチンCであり、第2のウロリチン類がイソウロリチンAであり、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物がスラッキア(Slackia)属に属する微生物である場合の態様である。
すなわち、下記工程(a1)を含む、イソウロリチンAの製造方法である。
工程(a1):ウロリチンCを含有する溶液において、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成する能力を有するスラッキア(Slackia)属に属する微生物に、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成させる工程。
【0058】
(ウロリチンCの原料)
ウロリチンCの原料としては、例えば、エラグ酸;該エラグ酸の前駆体である、プニカラジン、ゲラニインなどのエラジタンニン;ウロリチンM5、ウロリチンCの前駆体である、ウロリチンDやウロリチンM6などが挙げられる。好ましくは、エラグ酸及び/又はエラジタンニンである。
エラグ酸やエラジタンニンを生産する植物としては特に制限はないが、例えば、ザクロ、ラズベリー、ブラックベリー、クラウドベリー、ボイセンベリー、イチゴ、クルミ、ゲンノショウコ等が挙げられる。このうち、エラグ酸及び/又はエラジタンニンを高含有していることから、ザクロ、ボイセンベリー、ゲンノショウコが好ましく、ザクロがより好ましい。
ウロリチンCの原料は、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させられるならばいずれでもよく、また、1種でも2種以上でもよい。
【0059】
(ウロリチンCを生成する能力を有する微生物)
本実施態様における、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物は、特に制限されない。例えば、ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物や、エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物が好ましい。
ゴルドニバクター(Gordonibacter)属に属する微生物の中では、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物や、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物がより好ましい。
さらに、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)に属する微生物であれば、DSM 19378株がさらに好ましく、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)に属する微生物であれば、DSM 27213株がさらに好ましく、ゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)に属する微生物であれば、JCM 16058株がさらに好ましい。
エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物の中では、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)に属する微生物が好ましく、DC 3563(NITE BP-02376)株がより好ましい。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、1種でも2種以上を用いてもよい。
尚、DC 3563(NITE BP-02376)株は、2016年11月11日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NITE Patent Microorganisms Depositary, National Institute of Technology and Evaluation)[あて名:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室]にブダペスト条約に基づく国際寄託がなされたものである。
【0060】
(ウロリチンCを生成する能力を有する微生物の静止菌体)
ウロリチンCを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。静止菌体については、上記「第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体」の記載が援用される。
【0061】
(ウロリチンCの原料を含有する溶液)
ウロリチンCの原料を含有する溶液とは、該溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは前述した「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄の培地である。静止菌体である場合には、前述した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。
溶液中のウロリチンCの原料の含有量としては、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0062】
(培地、及び培養によるウロリチンCの生成)
ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる場合、前記溶液は培地であることが好ましい。より好ましい培地や、培養条件等の詳細は、前述した「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄の記載が援用される。
【0063】
上記同様、培養液に界面活性剤、吸着剤、包摂化合物などを添加することにより、ウロリチンCの生成を促進できる場合がある。包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)などを挙げることができる。特に、γ-シクロデキストリンが最も効果的であり、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリンも効果を有している。また、2種以上の包摂化合物を共存させることにより、ウロリチンCの生成を更に促進できる場合がある。
添加量としては、ウロリチンCの原料の総量に対し、モル比の総量で、通常0.2当量以上、好ましくは1.0当量以上、より好ましくは2.0当量以上であり、一方、通常10.0当量以下、好ましくは5.0当量以下、より好ましくは4.0当量以下である。
【0064】
(静止菌体によるウロリチンCの生成)
ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物が静止菌体である場合の溶液は、培地の代わりに、前述した「第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。その他の条件については、上記「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄の記載が援用される。
【0065】
<1-2.好ましい一実施態様>
次に、本発明の他の好ましい一実施態様を記載する。
本実施態様は、第1のウロリチン類がウロリチンAであり、第2のウロリチン類がウロリチンBであり、第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物がスラッキア(Slackia)属に属する微生物である場合の態様である。
すなわち、下記工程(a2)を含む、ウロリチンBの製造方法である。
工程(a2):ウロリチンAを含有する溶液において、ウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有するスラッキア(Slackia)属に属する微生物に、ウロリチンAからウロリチンBを生成させる工程。
尚、ウロリチンAは、どのような方法により調製されたものでもよい。
ウロリチンAの原料としては、例えば、エラグ酸;該エラグ酸の前駆体である、プニカラジン、ゲラニインなどのエラジタンニン;ウロリチンAの前駆体である、ウロリチンM7、ウロリチンCなどが挙げられる。
例えば、ウロリチンAの原料としてウロリチンCを用いる場合には、ウロリチンCを含有する溶液において、ウロリチンCからウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCからウロリチンAを生成させる工程を含む、ウロリチンAの製造方法により得られたものを用いてもよい。
ウロリチンCからウロリチンAを生成する能力を有する微生物は、ウロリチンCからウロリチンAを生成する能力を有する微生物ならば特に制限されないが、嫌気性の微生物であることが好ましい。
その具体例としては、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が挙げられる。
クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物の中では、DSM 29485株、DSM 15670株、JCM 12243株が挙げられる。
クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物の中では、DSM 15981株が挙げられる。
クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物の中では、DSM 19261株が挙げられる。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、1種でも2種以上を用いてもよい。
尚、ウロリチンCを、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料から生成させて得る場合を含め、その他については、上記した、工程(a1)を含む、イソウロリチンAの製造方法におけるウロリチンCの態様を援用する。
【0066】
<2.第2のウロリチン類を含む飲食品の製造方法>
本発明の第二の発明である、第2のウロリチン類を含む飲食品の製造方法は、上記工程(a)及び下記工程(c)を含むが、その他の工程を含んでもよい。尚、本発明の第二の発明で製造される飲食品は、サプリメントを含む。サプリメントとは、dietary supplementからなる飲食品区分の1つである。
【0067】
(1)工程(a)
工程(a)については、前述した本発明の第一の発明における工程(a)の記載が援用される。
【0068】
(2)工程(c)
工程(c)は、上記工程(a)で生成した第2のウロリチン類と飲食品原料とを配合して飲食品とする工程である。該飲食品は、常法に従い、通常用いられる飲食品原料と上記工程(a)で生成した第2のウロリチン類とを配合することにより製造され、その配合時期は特に制限されない。また、飲食品原料には食品添加物も含まれる。さらに、必要に応じて、瓶、袋、缶、箱、パック等の適宜の容器に封入することができる。
【0069】
本発明の第二の発明で製造される飲食品は、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分とするものであってよい。
タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれらの加水分解物、バターなどが挙げられる。
糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。
脂質としては、例えば、ラード、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【0070】
本発明の第二の発明で製造される飲食品の全量に対する上記工程(a)で生成した第2のウロリチン類の含有量は、特に制限されないが、該飲食品を摂取した場合に、抗酸化、抗炎症、抗糖化、マイトファジー促進作用などの第2のウロリチン類による効果を得ることできる含有量であることが好ましい。
飲食品全量に対する第2のウロリチン類の含有量は、通常0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0071】
飲食品がサプリメントである場合、その形態は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態であってもよく、例えば、各種加工飲食品、粉末、錠剤、丸剤、カプセル、ゼリー、顆粒等の形態にすることができる。さらに、必要に応じて、瓶、袋、缶、箱、パック等の適宜の容器に封入することができる。
【0072】
また、サプリメントには、デキストリン等の賦形剤、ビタミンC等の保存剤、バニリン等の嬌味剤、ベニバナ色素等の色素、単糖、オリゴ糖および多糖類(例、グルコース、フルクトース、スクロース、サッカロース、およびこれらを含有する糖質)、酸味料、香料、油脂、乳化剤、全脂粉乳、または寒天などの添加剤を配合していてもよい。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【0073】
<3.ウロリチンBの製造方法>
本発明の第三の発明に係るウロリチンBの製造方法は、同一の系で行われる下記工程(d)乃至(g)を含む。
【0074】
(1)工程(d)
工程(d)は、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成させる工程である。
【0075】
(2)工程(e)
工程(e)は、ウロリチンCを含有する溶液において、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成する能力を有する微生物に、ウロリチンCからイソウロリチンAを生成させる工程である。
【0076】
工程(d)及び(e)については、本発明の第一の発明において、第1のウロリチン類がウロリチンCであり、第2のウロリチン類がイソウロリチンAである場合を援用する。
【0077】
(3)工程(f)
工程(f)は、前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物を植菌する工程である。
【0078】
(植菌)
前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物を植菌する方法は、常法に従えばよい。
また、前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物を植菌するタイミングは、該溶液中にイソウロリチンAが含まれていれば制限されないが、通常、添加したウロリチンCの原料に対して生成したイソウロチリンAがモル収率で10~100%のときであり、好ましくは20~100%であり、より好ましくは40~100%である。該溶液中における生成したイソウロチリンAのモル収率は、該溶液の一部をサンプリングして、常法により測定することができる。そのため、本工程では、該溶液の一部をサンプリングして生成したイソウロチリンAのモル収率を測定する工程を含んでもよい。また、該溶液への該植菌の回数は通常1回であるが、複数回であってもよい。
【0079】
(イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物)
本工程における、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物ならば特に制限されないが、嫌気性の微生物であることが好ましい。
その具体例としては、クロストリジウム(Clostridium)属に属する微生物が挙げられる。より具体的には、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物、クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物が挙げられる。
クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)に属する微生物の中では、DSM 29485株、DSM 15670株、JCM 12243株が挙げられる。
クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)に属する微生物の中では、DSM 15981株が挙げられる。
クロストリジウム・シトロニアエ(Clostridium citroniae)に属する微生物の中では、DSM 19261株が挙げられる。
以上の微生物は、属、種、株に拘らず、1種でも2種以上を用いてもよい。
【0080】
また、本工程における、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、上記寄託菌株と同一の菌株に制限されず、DSM 29485株、DSM 15670株、JCM 12243株、DSM 15981株、DSM 19261株のそれぞれと実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記各菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と97.5%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%の相同性を有する微生物である。さらに、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、本発明の効果が損なわれない限り、いずれの各菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0081】
(イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物の静止菌体)
本工程における、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。当該静止菌体については、本発明の第一の発明における「第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の説明において、第1のウロリチン類がウロリチンCであり、第2のウロリチン類がイソウロリチンAである場合を援用する。
【0082】
(イソウロリチンAを含有する溶液)
イソウロリチンAを含有する溶液とは、前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液である。
【0083】
前記工程(e)で生成したイソウロリチンAとは別に、該溶液に、さらにイソウロリチンAを添加する場合には、ウロリチンBの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のイソウロリチンAの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0084】
(4)工程(g)
工程(g)は、前記工程(f)後の前記イソウロリチンAを含有する溶液において、前記イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物に、イソウロリチンAからウロリチンBを生成させる工程である。
【0085】
本工程における、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、前記工程(f)において、前記工程(e)で生成したイソウロリチンAを含有する溶液に植菌された、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物である。そのため、当該微生物については、前記工程(f)における「イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物」欄の記載を援用する。
また、本工程における、イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物は、その静止菌体を含む。当該静止菌体については、前記工程(f)における「イソウロリチンAからウロリチンBを生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0086】
(培地、及び培養によるウロリチンBの生成)
本発明の第三の発明に係るウロリチンBの製造方法では、前記工程(d)乃至工程(g)が同一の系で行われる。そのため、本工程における培地条件、及び培養によるウロリチンBの生成条件は、工程(d)が援用する本発明の第一の発明の「培地、及び培養による第2のウロリチン類の生成」欄の説明において、第1のウロリチン類がウロリチンCであり、第2のウロリチン類がイソウロリチンAである場合を援用する。
【0087】
(静止菌体によるウロリチンBの生成)
本発明の第三の発明に係るウロリチンBの製造方法では、前記工程(d)乃至工程(g)が同一の系で行われる。そのため、前記培地の代わりに、工程(d)が援用する本発明の第一の発明の「第1のウロリチン類から第2のウロリチン類を生成する能力を有する微生物の静止菌体」欄に記載した水や塩溶液、緩衝液が好ましい。
【0088】
(同一の系)
工程(d)乃至(g)が同一の系で行われるとは、工程(d)において、ウロリチンCの原料を含有する溶液において、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成する能力を有する微生物により、ウロリチンCの原料からウロリチンCを生成されてから、工程(e)、工程(f)を経て、工程(g)においてウロリチンBが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(d)、工程(e)、工程(f)、工程(g)のいずれの間でも、生成物(すなわちウロリチンC及び/又はイソウロリチンA)を分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0089】
(その他の工程)
本発明の第三の発明は、以下の工程を含んでもよい。
本発明の第三の発明は、例えば、得られたウロリチンBを定量する工程や回収する工程を含んでもよい。これらについては、本発明の第一の発明における「その他の工程」欄の説明を援用する。
【0090】
<4.ウロリチンBを含む飲食品の製造方法>
本発明の第四の発明である、ウロリチンBを含む飲食品の製造方法は、同一の系で行われる上記工程(d)乃至工程(g)と、下記工程(h)とを含むが、その他の工程を含んでもよい。尚、本発明の第四の発明で製造される飲食品は、サプリメントを含む。サプリメントとは、dietary supplementからなる飲食品区分の1つである。
【0091】
(1)同一の系で行われる工程(d)乃至工程(g)
同一の系で行われる工程(d)乃至工程(g)については、前述した本発明の第三の発明における、同一の系で行われる工程(d)乃至工程(g)の記載が援用される。
【0092】
(2)工程(h)
工程(h)は、同一の系で行われる工程(d)乃至工程(g)で生成したウロリチンBと飲食品原料とを配合して飲食品とする工程である。
工程(h)については、本発明の第三の発明における工程(c)の説明を援用する。
【実施例
【0093】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]ウロリチンCからイソウロリチンAの生成
0.8g/LのウロリチンCを含むABB培地(Oxoid社製)10mLを121℃、15分間のオートクレーブにより加熱滅菌後、気相をN2:CO2:H2(80%/10%/10%)ガスで置換した。この培地にスラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株を植菌し、37℃で嫌気的に培養した。培養後、培養液5mLに対して等量の酢酸エチルでウロリチン類を抽出し、得られた酢酸エチル相を減圧濃縮乾固した。このようにして得た乾固物をメタノール0.5mLに再溶解し、HPLCによりウロリチン類の定量分析を行った。
HPLCは以下に記載の条件で行った。DALTON PHARMA社製のウロリチン類を標品として用い、DMSOに溶解して用いた。その結果、2週間の培養により、表2に示す通り、添加したウロリチンCに対して22.5%のモル収率でイソウロリチンAが得られた。
<HPLC分析条件>
カラム:Inertsil ODS-3(250×4.6mm)(GL Science社製)
溶離液:水/アセトニトリル/酢酸 = 74/25/1
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:305nm
【0095】
【表2】
【0096】
[実施例2]エラグ酸からイソウロリチンAの生成
1.0g/Lのエラグ酸を含むABB培地(Oxoid社製)に、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株、及びゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株、ゴルドニバクター・ウロリチンファシエンス(Gordonibacter urolithinfaciens)DSM 27213株、またはゴルドニバクター・ファエシホミニス(Gordonibacter faecihominis)JCM 16058株を植菌し、実施例1と同様に培養した結果、4日間の培養により、表3に示す通り、添加したエラグ酸に対してそれぞれ62.3%、55.9%、7.4%のモル収率でイソウロリチンAが得られた。
【0097】
【表3】
【0098】
[実施例3]ウロリチンCからウロリチンBの生成
0.8g/LのウロリチンCを含むABB培地(Oxoid社製)に、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株、及びクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DSM 15981株、またはクロストリジウム シトロニアエ (Clostridium citroniae) DSM 19261株を植菌し、実施例1と同様に培養した結果、2週間の培養により、表4に示す通り、添加したウロリチンCに対してそれぞれ0.69%、0.63%、0.46%のモル収率でウロリチンBが得られた。
【0099】
【表4】
【0100】
[実施例4]エラグ酸からウロリチンBの生成
1.0g/Lのエラグ酸を含むABB培地(Oxoid社製)に、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株、ゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株、及びクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株を植菌し、実施例1と同様に培養した結果、2週間の培養により、表5に示す通り、添加したエラグ酸に対して5.3%のモル収率でウロリチンBが得られた。
【0101】
【表5】
【0102】
[実施例5]イソウロリチンAからウロリチンBの生成
1.0g/LのイソウロリチンAを含むABB培地(Oxoid社製)に、クロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株、クロストリジウム・アスパラギフォルメ(Clostridium asparagiforme)DSM 15981株、またはクロストリジウム シトロニアエ (Clostridium citroniae) DSM 19261株を植菌し、実施例1と同様に培養した結果、2週間の培養により、表6に示す通り、添加したイソウロリチンAに対してそれぞれ5.0%、4.6%、4.1%のモル収率でウロリチンBが得られた。
【0103】
【表6】
【0104】
[実施例6]エラグ酸からウロリチンBの生成
1.0g/Lのエラグ酸を含むABB培地(Oxoid社製)に、スラッキア・ヘリオトリニレデュセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM 20476株及びゴルドニバクター・パメラエアエ(Gordonibacter pamelaeae)DSM 19378株を植菌し、実施例1と同様にして、15日間培養した。その培養液にクロストリジウム・ボルテアエ(Clostridium bolteae)JCM 12243株を植菌し、更に37℃で嫌気的に4日間の培養を継続した結果、表7に示す通り、添加したエラグ酸に対して7.3%のモル収率でウロリチンBが得られた。
【0105】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、8位に水酸基を有するウロリチン類から該8位の水酸基が脱離された他のウロリチン類を製造することができる。また、本発明によれば、ウロリチンBを製造することができる。
製造されたウロリチン類及びウロリチンBは、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等は、抗酸化、抗炎症、抗糖化等のために用いられる。
【0107】
本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。