(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231026BHJP
A01C 11/02 20060101ALI20231026BHJP
G05D 1/02 20200101ALN20231026BHJP
【FI】
A01B69/00 303A
A01B69/00 303M
A01B69/00 303K
A01C11/02 331D
G05D1/02 N
(21)【出願番号】P 2020002534
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都田 洋三
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-092818(JP,A)
【文献】特開2012-065575(JP,A)
【文献】特開平05-127740(JP,A)
【文献】特開平07-312909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0071115(US,A1)
【文献】特開2016-082946(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110116(WO,A1)
【文献】特開2017-176096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/02
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置に支持される走行機体と、
前記走行機体を操向する操向部と、
前記操向部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記走行機体が一方向に走行することにより基準方位を設定する基準方位設定処理と、
前記基準方位と平行な複数の直進経路を設定する直進経路設定処理と、
前記複数の直進経路のうちいずれか1つの直進経路に沿って前記走行機体が走行するように前記操向部を制御する直進制御と、
前記複数の直進経路のうちの第1直進経路に沿った
前記直進制御の実行中における前記第1直進経路に隣接する第2直進経路に向けた
オペレータによる前記操向部の
所定角以上の操向操作を契機に開始され、
旋回途中で前記第1直進経路に沿って自動で前記直進制御が開始されることを規制しながら、前記操向部を一定の操舵角に維持することにより前記走行機体を前記第2直進経路に向けて旋回走行させる旋回制御と、を実行可能であり、
前記第1直進経路と前記第2直進経路との間の旋回走行中における所定の契機に基づいて前記第2直進経路に沿った前記直進制御の開始を許容
し、
前記直進制御の開始が許容された状態で少なくとも前記走行機体と前記第2直進経路との前記基準方位と直交する直交方向における距離が所定値以下となった場合に、前記第2直進経路に沿った前記直進制御を開始し、前記直進制御の開始が許容されていない状態で前記走行機体と前記第2直進経路との前記直交方向における距離が前記所定値以下となっても、前記第2直進経路に沿った前記直進制御を開始しない、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記所定の契機は、前記走行機体の進行方位と前記第2直進経路との方位差が所定角度以下である
、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記所定の契機は、前記旋回制御の開始時における前記走行機体の進行方位と、前記旋回走行中の前記走行機体の進行方位と、の方位差が所定角度以上である、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項4】
前記所定角度は、90°である、
ことを特徴とする請求項3記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行機体の走行距離を計測する計測手段を備え、
前記所定の契機は、旋回制御の開始時からの前記走行機体の走行距離が所定距離以上である、
ことを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場を直進状態で作業し、畦際の枕地において旋回して往復状に作業する作業車両に係り、特に田植機に適用して好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS装置を備え、該GPS装置により田植機の位置を検出し、直線状に自律走行して一行程の植付等の作業をし、枕地において、自動旋回走行して次の作業開始位置に導く制御装置が提案されている(特許文献1)。植付作業のための基準線を設定するため、ティーチング作業が行われ、ティーチングSWを押下するように操作した時のGPS位置が開始点となり、ティーチング終了時のティーチングSWの押下により終了点が記憶され、植付開始点と終了点とを結ぶ線を基準線とし、該基準線と直交する交点を植付開始位置又は植付終了位置として、上記基準線と平行な線が目標経路として設定される。
【0003】
田植機が終了地点に到達すると、オペレータは、自律運転SWを旋回方向と対応する方向に操作し、田植機は、所望する方向に自動旋回し、次の植付開始位置に到達すると停止する。オペレータにより植付部を下降した後、引き続き目標経路を自律的に走行する(特許文献1)。
【0004】
また、走行機体の位置を検出し、複数の作業走行ラインの端部同士を接続して旋回ラインを取得し、該旋回ラインに沿った自動旋回制御を行う作業車が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-92818号公報
【文献】特開2018-117558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の旋回制御は、オペレータが専用の自律運転SWを操作することにより、各行程毎に左右方向を選択し、又は1度の選択によりその後は左右交互に変更しながら行われる。このため、オペレータの誤操作又は作業遅れにより、自動旋回開始点の精度がよくなく、またオペレータは、ステアリングハンドルから手を離しているため、畦に追突してしまう虞がある。また、自動旋回専用の自律運転スイッチを操作するため、操作が面倒である。
【0007】
また、上記特許文献2の旋回制御は、旋回ラインを生成・取得し、さらに旋回ラインに沿った機体走行を行わせる旋回制御が存在し、全体的に複雑な制御となっている。
【0008】
そこで、本発明は、比較的簡単な旋回制御をもって上述した課題を解決した作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、走行装置に支持される走行機体と、
前記走行機体を操向する操向部と、
前記操向部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記走行機体が一方向に走行することにより基準方位を設定する基準方位設定処理と、
前記基準方位と平行な複数の直進経路を設定する直進経路設定処理と、
前記複数の直進経路のうちいずれか1つの直進経路に沿って前記走行機体が走行するように前記操向部を制御する直進制御と、
前記複数の直進経路のうちの第1直進経路に沿った前記直進制御の実行中における前記第1直進経路に隣接する第2直進経路に向けたオペレータによる前記操向部の所定角以上の操向操作を契機に開始され、旋回途中で前記第1直進経路に沿って自動で前記直進制御が開始されることを規制しながら、前記操向部を一定の操舵角に維持することにより前記走行機体を前記第2直進経路に向けて旋回走行させる旋回制御と、を実行可能であり、
前記第1直進経路と前記第2直進経路との間の旋回走行中における所定の契機に基づいて前記第2直進経路に沿った前記直進制御の開始を許容し、前記直進制御の開始が許容された状態で少なくとも前記走行機体と前記第2直進経路との前記基準方位と直交する直交方向における距離が所定値以下となった場合に、前記第2直進経路に沿った前記直進制御を開始し、前記直進制御の開始が許容されていない状態で前記走行機体と前記第2直進経路との前記直交方向における距離が前記所定値以下となっても、前記第2直進経路に沿った前記直進制御を開始しない、ことを特徴とする作業車両にある。
【0010】
例えば、前記所定の契機は、前記走行機体の進行方位と前記第2直進経路との方位差が所定角度以下である。
【0011】
例えば、前記所定の契機は、前記旋回制御の開始時における前記走行機体の進行方位と、前記旋回走行中の前記走行機体の進行方位と、の方位差が所定角度以上である。
【0012】
例えば、前記所定角度は、90°である。
【0013】
例えば、前記走行機体の走行距離を計測する計測手段を備え、
前記所定の契機は、旋回制御の開始時からの前記走行機体の走行距離が所定距離以上である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、オペレータによる操向部の所定角以上の操向操作を契機に旋回制御を開始するので、圃場マップ情報や外周ティーチング走行(畦位置情報の取得)等を必要としない簡単で手間のかからない操作により、確実な旋回方向の設定を含む旋回制御を高い精度で行うことができる。また、走行機体と畦との接触等を回避して作業性を向上することができる。
【0015】
さらに、旋回制御を、操舵角を所定角度に維持する簡単で処理負担が小さい制御で行い、旋回制御終盤の次行程の直進経路との機体位置合わせを直進制御のルーチンで行うため、複雑で処理負担の大きな旋回制御を用いることなく自動走行の制御を行うことができる。
【0016】
また、旋回走行中の所定の契機に基づいて次工程の直進経路に沿って直進制御を再開するので、旋回走行の終了後の走行機体のふらつきを抑制し、誤作動なくスムーズに一連の自動運転制御を行うことができる。
【0017】
請求項2に係る本発明によると、走行機体の進行方位と次工程の直線経路との方位差が所定角度以下となったことに基づいて、次工程の直進経路に沿った直進制御が開始されるので、簡易な制御で安全かつ確実に旋回走行から次工程の直進走行に移行することができる。
【0018】
請求項3又は4に係る本発明によると、旋回制御の開始時における走行機体の進行方位と、旋回走行中の走行機体の進行方位と、の方位差が所定角度以上となったことに基づいて、次工程の直進経路に沿った直進制御が開始されるので、簡易な制御で安全かつ確実に旋回走行から次工程の直進走行に移行することができる。
【0019】
請求項5に係る本発明によると、旋回制御の開始時からの走行機体の走行距離が所定距離以上となったことに基づいて、次工程の直進経路に沿った直進制御が開始されるので、簡易な制御で安全かつ確実に旋回走行から次工程の直進走行に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図9】自動旋回報知制御を示すフロー図で、(A),(B)は、異なる実施の形態を示す。
【
図11】操作パネルを示し、(A)は、正体斜視図、(B)は、一部を拡大した正面図。
【
図12】一部変更した操作パネルを示し、(A)は、正体斜視図、(B)は、一部を拡大した正面図。
【
図15】圃場面での警告報知を示す図で、(A),(B),(C)は、異なる状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。作業車両としての乗用型の田植機1は、
図1及び
図2に示すように、走行装置としての前輪2及び後輪3により支持される走行機体5を有し、走行機体5の後部には昇降リンク機構6を介して植付作業機7が昇降自在に支持されている。走行機体5の前部にはボンネット9で覆われているエンジンが搭載されており、該エンジンの左右両側には予備苗台10が配置されている。上記走行機体5の後部は、運転席11になっており、該運転席にはオペレータが座れるシート12が配置され、その前方にはステアリングハンドル13及び主変速レバー15、副変速レバー16及び作業機操作レバー17及び各種スイッチ、表示用パネル等が配置されている。ステアリングハンドル13は、走行機体5の下部に配置されている操向装置4によって前輪2と連結されている。前輪2は、オペレータによるステアリングハンドル13の操向操作により、ステアリングハンドル13の操舵角に応じて操舵される。なお、ステアリングハンドル13及び操向装置4によって、本実施の形態において、走行機体5を操向する操向部Sが構成される。
【0022】
上記走行機体5には運転席11の前方の左右において上方に延びた2本のステー19が立設されており、該ステーの上方を幅方向に連結する横バー20に2個のGPS受信機21,21が機体中心から等間隔隔てて配置されており、これら2個のGPS受信機21は、田植機1の位置を検出し得ると共に、2個の受信機を結んだ直線に直交する直線方向を前後方向として、この前後方向に対して左右の受信機が左右何れにあるかにより、走行機体5の現在の前進方向を特定し得る。
【0023】
運転席11前方には、
図11に示すように、操作パネル23が配置されており、該操作パネルには始点A点登録スイッチ25a及び終点B点登録スイッチ25bを有するA-B地点入力部25と、自動直進及び自動旋回の両方のON状態とOFF状態とを切り替える自動操舵スイッチ26dを有する自動操舵モード選択部26と、上記スイッチの作動状態や、速度超過、速度アップOK、目標ライン上等、自動直進走行及び自動旋回走行中の走行機体5の状態を表示する各ランプと、が配置されており、各ランプは、各スイッチのオン状態等で点灯表示する。
【0024】
また、一部変更した実施の形態として、
図12に示すように、操作パネル23には、A-B地点入力部25、速度超過、速度アップOK、目標ライン上の各ランプの外、自動直進のON状態とOFF状態を切り替える自動直進スイッチ26aと、自動直進及び自動旋回の両方のON状態とOFF状態とを切り替えるフル操舵スイッチ26bと、を有する自動操舵モード選択部26と、自動直進、左自動旋回及び右自動旋回を選択し得るON/OFFスイッチ27とを有する。
【0025】
上記走行機体5には、
図3に示すように、GNSS(全地球測位システム)ユニット30及び制御部としての制御ユニット31が配置されており、これらGNSSユニット30及び制御ユニット31がCAN通信されている。GNSSユニット30は、前記GPS受信機21から基準(位置)情報(21a)と方位(前進方向)情報(21b)が入力され、タブレット(携帯端末、ナビゲーションソフト)32からの各情報が入力され、またRIK基地局(補正情報出力装置)33からの情報が補正信号受信装置35を介して入力されて、上記GPS受信機21からの情報が補正される。なお、タブレット32が本実施の形態における制御部を構成してもよいし、GNSSユニット30、制御ユニット31及びタブレット32によって本実施の形態における制御部が構成されていてもよいし、制御部の構成としては、多様な構成が考えられる。
【0026】
制御ユニット31には前記操作パネル23の始点A点登録スイッチ25a、終点B点登録スイッチ25b、自動直進スイッチ26a、フル操舵スイッチ(自動直進、自動旋回)26bからの信号が入力され、更に主変速レバー15から変速信号、副変速レバー16からの副変速、前後進信号が入力され、ステアリングハンドル13による操舵角センサー38の旋回角信号が入力され、車速センサー36からの車速信号、及び走行距離を計測する計測手段としての回転センサー37からの走行機体の走行距離信号が入力される。また、制御ユニット31から、ステアリングハンドル13を自動操舵(自動制御)する自動操舵信号がステアリングモータ39に出力され、かつ報知ブザー40及び報知表示部41に出力される。
【0027】
図4及び
図13に沿って、制御ユニット31が実行するティーチング走行制御について説明する。田植機1が圃場の所定箇所から侵入し、予め圃場面に標付けられているA点に田植機1の植付中央位置を合せる。又は、田植機1を後退してその後面を畦に当接した位置から前進して、植付2回り(又は1回り)分の距離を進行した時点をA点と設定する。田植機1は、上記A点に植付中央位置を合せ、かつ予め標付けられているB点に向くように、横方向の畔と平行になるように進行方向を合せる。この状態で、オペレータは、始点A点登録スイッチ25aを押圧して、A点を登録し(S1)、植付作業を行いながら一方向に向けて走行するティーチング走行を開始する。田植機1の植付中央位置がB点に到ると、オペレータは、それをみて終点B点登録スイッチ25bを押圧してB点を登録する(S2)。また、予め植付距離Dwを制御ユニット31内に格納し、回転センサー37により田植機の植付走行距離を測定し、該植付走行距離が上記植付距離Dwに達した位置を終点B点として、オペレータがB点登録スイッチ25bを押すようにしてもよい。
【0028】
そして、上記登録された上記A点をB点から植付作業を行う際の基準の方位(方向)となる基準方位としての基準ラインL0を演算(設定)する(S3)。更に、該基準ラインL0に平行に、植付幅を演算して次工程以降の複数の直進経路としての走行目標ラインL1(第1直進経路),L2(第2直進経路),L3,・・・,Lnを演算(設定)する(S4)。なお、基準方位を設定するステップS3の処理が、本実施の形態における基準方位設定処理を構成し、複数の直進経路を設定するステップS4の処理が、本実施の形態における直進経路設定処理を構成する。
【0029】
ついで、
図5、
図13~
図15に沿って、自動旋回制御について説明する。田植機1は、自動直進と自動旋回の両方がON状態にある。即ち、
図11に示す操作パネル23では、自動直進スイッチ26aを操作し、
図12に示す操作パネルでは、モード選択のフル操舵スイッチ26bを操作して、自動直進及び自動旋回を共にON状態とする(自動操舵モードがフル)。従って、自動直進はON状態にあり(S7;YES)、自動旋回報知制御に入る(S9)。自動直進のON状態では、制御ユニット31によるステアリングモータ39の制御によって、走行目標ライン(直進経路、仮想線Lk1,Lk2,・・・,Lkn)に沿って走行機体5が直進走行するように、ステアリングハンドル13を制御する直進制御が実行される。
【0030】
走行機体5が直進制御によって直進走行しながら植付作業が進行し、田植機1がB位置に対応する自動旋回位置に所定距離まで近づくと、自動旋回報知制御が作動する。該自動旋回報知制御は、例えば
図15(A)に示すように、「まもなく旋回開始点に到達します。」と報知する。該自動旋回報知により、オペレータは、自動旋回開始を事前に知り、利便性を高めることができる。自動旋回報知制御では、走行機体5の位置が、自動旋回開始位置としての、ティーチング走行において記憶したA点又はB点、前回までの作業でクラッチが入切された地点、又は旋回前に作業機が上昇開始した地点、旋回後に作業機が接地した地点を通り、基準ラインL0と直交する仮想線X1に所定距離まで近づいたか(達したか)判断される。
【0031】
そして、オペレータは、該報知により田植機の旋回開始点を注視し、前記基準ラインL0のB点に対応する前工程での植付開始点に合せて、又は植付距離Dwに基づき制御ユニット31からの指令により、ステアリングハンドル13を旋回方向に操舵する。操舵角センサー38が、隣接する次工程の直進経路に向けたステアリングハンドル13の所定角θ0以上の操舵を検出すると(S10;YES)、旋回開始位置(自動旋回ON)として設定され、旋回フラグがセットされ、報知発動される(S11)。この状態では、フル操舵スイッチ26bにより自動操舵モードがフルになっているので(S12;YES)、自動直進ON規制状態となる。自動直進ON規制状態は、自動直進ON状態であっても直進制御が実行されない状態である。
【0032】
自動旋回のON状態かつ自動直進ON規制状態では、制御ユニット31によるステアリングモータ39の制御によって、ステアリングハンドル13の操舵角が一定の操舵角(所定旋回角度)に固定維持される旋回制御が実行される(S13)。制御ユニット31による旋回制御の実行中において、走行機体5は、次工程の直進経路に向けて旋回走行をする。なお、制御ユニットは、旋回制御において、前輪2の操舵角が固定維持されるように操向装置4を制御してもよい。また、本実施の形態において、走行機体5は、走行装置としての前輪2及び後輪3によって支持されているが、これに限定されない。例えば、走行装置は、フルクローラやハーフクローラであってもよい。また、操向装置は、クローラを操作するレバー等の操作部や差動装置であってもよく、このような場合、本願の操舵角とは、左右のクローラの回転差や操作部の操作量を指す。
【0033】
枕地において、田植機1が旋回走行の途中(半ば)では、ステアリングハンドル13は、所定旋回角度にあり、所定角θ0以上の操舵はないので(S10;NO)、旋回フラグが判断され、該旋回フラグはセットされているので(S14;セット)、旋回開始位置からの直進方向(基準ラインL0)に対する機体角度が所定角度θ1(例えば90度、
図14参照)以上旋回したか判断される(S15)。該機体が旋回の半ばで所定角度θ1未満の場合(S15;NO)、自動直進ON規制状態が継続され、走行機体5は、ステアリングハンドル13の所定旋回角度(本実施形態では最小旋回半径を得る旋回角度)で旋回走行が続行される(S16)。
【0034】
上記機体の直進方向に対する旋回角度が所定角θ1(例えば90°)以上となって、走行機体5の位置が前工程の直進経路よりも次工程の直進経路に近い位置になると(S15;YES)、自動直進ON許容状態となり、報知発動される(S17)。田植機の旋回が半ばを超えると、直進制御における直進経路の認識が次行程の直進経路に移行したものとみなし、旋回制御から直進制御への切り替えを許容する自動直進ON許容状態となる。旋回開始位置からの直進方向に対する機体角度が所定角度θ2(例えば160度、
図14参照)以上旋回すると、言い換えると、基準ラインL0(又は走行目標ラインLk2)と走行機体5の進行方位との角度(方位差)が所定角度θ2以上に達すると(S19;YES)、旋回フラグがリセットされ、低速で条合わせするため、速いとの警告が報知発動される(S20)。例えば
図15(B)に示すように、「速度超過、速度を落として下さい。」と報知され、旋回制御が終了される(S21)。なお、制御部は、ステップS19及びS20の処理を実行する代わりに、次工程の直進経路である走行目標ラインLk3と走行機体の進行方位との角度(方位差)が所定角度以下となったかを判定し、所定角度以下となった場合に、旋回フラグをリセットして報知発動を行ってもよい。このように、走行機体5の180°旋回が終了する前の旋回走行中に旋回制御から直進制御に切り替えられる。
【0035】
尚、前記ステップS15で自動直進ON許容状態で
図12のON/OFFスイッチ27中の自動直進スイッチを押し操作すると、上述の自動的な直進制御へ切り替えに先立って人為的に旋回制御から直進制御に切り替えることができる。
【0036】
ついで、一部変更した自動旋回制御について説明する。
図6に示す自動旋回制御は、先に説明した
図5に示す自動旋回制御に対し、ステップS15,S19で一部相違し、他のステップは同じであるので、該変更されたステップを中心に説明する。ステップS13で旋回が開始されているので、ステップS14の旋回フラグはセット状態にある。田植機1が、旋回開始位置から、旋回走行の半ばに相当する所定距離、例えば、走行機体5の位置が前工程の直進経路よりも次工程の直進経路に近い位置となる所定距離Lm1(
図14参照)以上走行すると(S15-2;YES)、自動直進ON許容状態になると共に報知発動し(S17)、旋回開始位置から所定距離Lm2(
図14参照)以上走行されたか判断される(S19-2)。該所定距離Lm2は、走行機体5が略90°転向する状態となる距離であり、該ステップS19-2でYESの場合、旋回フラグがリセットされ(S20)、旋回制御が終了される(S21)。
【0037】
図7に示す自動旋回制御も同様に、ステップS15,S19が相違し、他のステップは同様なので、変更部分を中心に説明する。ステップS14において、旋回フラグがセット状態にあると、走行機体5の進行方向(進行方位)が第1の所定方向、例えば、走行機体5の進行方向と基準ラインL0との方位差(角度差)が所定の角度であるか否かが判断される。具体的には、走行機体5の進行方向の基準ラインL0(植付仮想線)に対する角度が90度に達して、走行機体5の位置が前工程の直進経路よりも次工程の直進経路に近い位置になったか否かが判断される(S15-3)。該ステップS15-3でYESの場合、即ち機体が第1の所定方向である場合、自動直進のONが許容され(S17)、更に機体の旋回が進行して、機体の進行方向が第2の所定方向、即ち180度に近い角度か判断される(S19-3)。そして、機体の進行方向が第2の角度になると(S19-3;YES)、旋回フラグがリセットされて(S20)、旋回制御が終了される(ステップS21)。
【0038】
図8に示す自動旋回制御は、ステップS15のみが相違し、他のステップは、
図5に示す自動旋回制御と同じである。旋回フラグがセット状態にあると(S14;セット)、目標ラインが既に植付作業が終了したラインにあるか次に植付けるラインかを判断する(S15-4)。即ち、走行機体5と次工程の直進経路(例えば、
図14に示すLk3)との基準ラインL0と直交する直交方向Xの距離が、走行機体5と前工程の直進経路(例えば、
図14に示すLk2)との直交方向の距離以下となって、走行機体5の位置が前工程の直進経路よりも次工程の直進経路に近い位置である場合、自動直進ON許容状態となるステップS17に進む。このように、制御ユニット31は、走行機体5と次工程の直進経路(例えば、Lk3)との直交方向の距離が、走行機体と前工程の直進経路(例えば、Lk2)との直交方向の距離以下であることに基づいて、旋回制御を終了し、直進制御を開始してもよい。なお、制御部は、走行機体と次工程の直進経路との直交方向の距離が、走行機体と前工程の直進経路との直交方向の距離によらない所定距離以下であることに基づいて、旋回制御を終了し、直進制御を開始してもよい。
【0039】
また、上述した自動旋回制御において、ステップS10でステアリングハンドルの所定角θ0以上の操作があるかを判断したが、該ステップS10を、不図示のジャイロセンサからの信号やGNSSユニット30により算出した走行機体5の速度に基づいて走行機体の旋回角度を検出し、該旋回角度が所定角度以上操作されているかを判断するようにしてもよい。
【0040】
ステップS9に示す自動旋回報知制御について
図9に沿って説明する。
図9(A)において、記憶した作業イベント地点、例えばティーチング走行で記憶した旋回の始点A、旋回の終点B、自動直進経路に沿った最初の作業走行時に植付クラッチが入切された地点、自動直進経路に沿った最初の作業走行時に作業機が接地した地点、作業機が上昇開始した地点を通り、基準ラインL0と直交する仮想線X1(X2、
図13参照)に所定距離まで接近したか判断される(S25)。該ステップS25がYESの場合、表示、音等の報知がなされる(S26)。
【0041】
図9(B)において、植付クラッチ入りから所定距離走行したか判断され(S27)、該ステップS27がYESの場合、報知がなされる(S26)。
【0042】
ついで、
図10に沿って自動操舵制御について説明する。自動操舵(直進)制御は、ティーチング走行制御で演算された走行目標ライン(仮想ライン)から、現在の田植機に最も近いラインを目標ラインとして検出して設定する(S30)。前述した自動旋回制御を実行し(S31)、自動直進ON許容状態か判断する(S32)。ここで、自動直進ON規制状態である場合(S32;NO)、例えば、走行機体5の位置が次工程の直進経路よりも前工程の直進経路に近い場合、仮に自動操舵スイッチ26dやフル操舵スイッチ26bが操作されても自動直進走行は開始されないため、前工程の直進経路に沿って自動直進走行が開始されることを防止している。自動直進ON許容状態である場合(S32;YES)、実際に自動直進がON状態であるか判断される(S33)。自動直進がON状態でない場合、即ち、自動直進がOFF状態である場合(S33;NO)、走行目標ラインとの横ずれが所定値Dauto以内か(S35)、走行目標ラインとの方向ずれが所定値θauto以内か(S36)、現行速度Vが所定値Vauto以内か(S37)判断される。これらステップS35,S36,S37がいずれも所定値以内の場合、自動旋回がOFF状態となり旋回制御が終了されると共に自動直進がON状態となり、それに基づく報知が発動される(S39)。走行目標ラインとの横ずれが所定値Dtole以内で(S40;YES)、かつ走行目標ラインとの方向ずれが所定値θtole以内の場合(S41;YES)、
図15(C)に示すように、速度アップOKを報知する(S46)。これにより、オペレータは、速度アップを操作して田植機1を増速する。
【0043】
ステップS40又はS41でNOの場合、即ち走行機体5が横ずれ又は方向ずれしている場合、それに応じて修正操舵角θsが演算され、ステアリングモータ39へ該修正操舵角θsを出力して、機体ずれを修正する(S42)。このように、ステップS40、ステップS41及びステップS42の処理により、本実施の形態において、複数の直進経路のうちいずれか1つの直進経路に沿って走行機体5が走行するように操向部Sを制御する直進制御が構成される。更に、現行速度Vが所定値Vtole以上の場合(S43;YES)、速度超過を警告報知する(S45)。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態における田植機1は、オペレータの操作に基づいて処理負担の小さい簡易な制御である旋回制御を開始し、旋回制御の実行中の所定の契機に基づいて旋回制御を終了して、次工程の直進経路に沿った直進制御を開始する。これにより、畦との接触を防ぎつつ、処理負担の小さい簡易な制御により枕地での田植機1の自律旋回を行うと共に、旋回終了前に次工程の直進経路に向けた走行機体5の走行経路の調整を行うことが可能となる。これにより、植付の開始後の直進制御によるふらつき(オーバーシュート)を抑制し、植付けの作業性を向上することが可能となる。また、機体に最も近い直進経路の認識が、次行程の直進経路に確実に移ったであろう機体状態の検出により直進制御への移行が許容されるので、従来の直進制御のルーチンに対して大きな修正を加えることなく、旋回制御のルーチンを追加することも容易となる。
【0045】
なお、上述した実施の形態は、ステアリングハンドル13の操作角、直進方向(基準ラインL0)に対するステアリングハンドル角を検出したが、これに限らず、ステアリングハンドルにより操作された機体の旋回を検出してもよい。
【0046】
また、制御ユニット31は、上述した実施の形態において、旋回走行中において、走行機体5の進行方位と次工程の直進経路との方位差、走行機体5と次工程の直進経路との直交方向の距離、旋回制御の開始時における走行機体5の進行方位と旋回走行中の走行機体5の進行方位との方位差、旋回制御の開始時からの走行機体5の走行距離等の条件に応じた所定の契機に基づいて、旋回制御を終了して次工程の直進経路に沿った直進制御を開始するが、これに限定されない。制御部は、上述した他の契機、例えば、オペレータのスイッチ操作や旋回終了位置との距離等に基づいて旋回制御を終了して次工程の直進経路に沿った直進制御を開始してもよいし、上述した条件のうち複数の条件を共に満たす場合に、旋回制御を終了して次工程の直進経路に沿った直進制御を開始してもよいし、上述した条件のうち複数の条件のうち少なくとも1つを満たす場合に、旋回制御を終了して次工程の直進経路に沿った直進制御を開始してもよい。例えば、制御部は、走行機体の進行方位と次工程の直進経路との方位差が所定角度以下である、及び走行機体と次工程の直進経路との直交方向の距離が所定距離以下である、の少なくとも一方である場合に、旋回制御を終了して次工程の直進経路に沿った直進制御を開始してもよい。また、制御部は、上記所定の契機に基づいて、直進制御の開始後に旋回制御を終了してもよいし、旋回制御の終了後に直進制御を開始してもよい。
【0047】
また、上述したいずれの実施の形態においても、作業車両として乗用型の田植機1について説明をしたが、これに限定されない。作業車両は、例えば、トラクタやコンバイン等、他の作業車両であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 作業車両(田植機)
2 走行装置(前輪)
3 走行装置(後輪)
5 走行機体
31 制御部(制御ユニット)
S 操向部
S3 基準方位設定処理
S4 直進経路設定処理
S40~S41 直進制御