IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-計測装置 図1
  • 特許-計測装置 図2
  • 特許-計測装置 図3
  • 特許-計測装置 図4
  • 特許-計測装置 図5
  • 特許-計測装置 図6
  • 特許-計測装置 図7
  • 特許-計測装置 図8
  • 特許-計測装置 図9
  • 特許-計測装置 図10
  • 特許-計測装置 図11
  • 特許-計測装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/20 20060101AFI20231026BHJP
   B23B 25/06 20060101ALI20231026BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B23Q17/20 A
B23B25/06
B25J13/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020016548
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021122874
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 清
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-201559(JP,A)
【文献】米国特許第06519860(US,B1)
【文献】米国特許第05996239(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/20、17/22
B23B 25/06
B25J 13/00
G01B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の加工室内において移動可能であり、工具またはワークを保持または支持する1以上の移動体と、
前記加工室内に配置された機内ロボットと、
前記機内ロボットで保持され、被計測物への接触を検知する接触センサと、
計測期間中、前記接触センサに対する位置が不変となる位置に設けられた接合部と、
計測期間中、前記移動体に対する位置が不変となる位置に設けられ、前記接合部が3次元的に押し当てられる複数の受容部と、
前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが被計測物に近づくように前記移動体を移動させ、前記被計測物への接触が検知されたタイミングでの前記移動体の位置である検出位置に基づいて、前記接触センサの接触点の位置を算出する、
ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
工作機械の加工室内において移動可能であり、工具またはワークを保持または支持する1以上の移動体と、
前記加工室内に配置された機内ロボットと、
前記機内ロボットで保持され、被計測物への接触を検知する接触センサと、
計測期間中、前記接触センサに対する位置が不変となる位置に設けられた接合部と、
計測期間中、前記移動体に対する位置が不変となる位置に設けられ、前記接合部が3次元的に押し当てられる複数の受容部と、
前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが被計測物に近づくように前記移動体を移動させ、前記被計測物への接触が検知されたタイミングでの前記移動体の位置である検出位置に基づいて、前記接触センサの接触点の位置を算出し、
前記複数の受容部のうち少なくとも一つは、前記移動体に形成された凹部または凸部である、ことを特徴とする計測装置。
【請求項3】
工作機械の加工室内において移動可能であり、工具またはワークを保持または支持する1以上の移動体と、
前記加工室内に配置された機内ロボットと、
前記機内ロボットで保持され、被計測物への接触を検知する接触センサと、
計測期間中、前記接触センサに対する位置が不変となる位置に設けられた接合部と、
計測期間中、前記移動体に対する位置が不変となる位置に設けられ、前記接合部が3次元的に押し当てられる複数の受容部と、
前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが被計測物に近づくように前記移動体を移動させ、前記被計測物への接触が検知されたタイミングでの前記移動体の位置である検出位置に基づいて、前記接触センサの接触点の位置を算出し、
前記複数の受容部のうち少なくとも一つは、前記移動体に装着可能な受容部品に形成された凹部または凸部である、ことを特徴とする計測装置。
【請求項4】
工作機械の加工室内において移動可能であり、工具またはワークを保持または支持する1以上の移動体と、
前記加工室内に配置された機内ロボットと、
前記機内ロボットで保持され、被計測物への接触を検知する接触センサと、
計測期間中、前記接触センサに対する位置が不変となる位置に設けられた接合部と、
計測期間中、前記移動体に対する位置が不変となる位置に設けられ、前記接合部が3次元的に押し当てられる複数の受容部と、
前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが被計測物に近づくように前記移動体を移動させ、前記被計測物への接触が検知されたタイミングでの前記移動体の位置である検出位置に基づいて、前記接触センサの接触点の位置を算出し、
前記受容部は、互いに異なる面内に位置するとともに前記接合部に同時に接触可能な三つの平面を有する、または、前記接合部に同時に接触する二つの平面および一つの頂点を含む角錐形状である、ことを特徴とする計測装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置であって、
前記移動体は、刃物台、主軸頭、対向主軸台、および、心押台のいずれかである、ことを特徴とする計測装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の計測装置であって、
前記コントローラは、前記接合部を前記受容部に押し当てた状態を維持したまま前記移動体を移動させる際には、前記移動体が出力する力が、前記機内ロボットが出力する力よりも大きくなるように、前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御する、ことを特徴とする計測装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の計測装置であって、
前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが基準面または基準点に接触させたタイミングでの前記移動体の位置を基準位置として取得し、前記基準位置と前記検出位置の差分値と、前記基準面または基準点の位置と、に基づいて前記接触点の位置を算出する、ことを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、工作機械の加工室内において、被測定物を計測する計測装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械の加工室内において、ワーク等の被測定物の形状を高精度で計測したいという要望がある。そのため、従来から、加工室内に設けられた工具保持装置(例えば、主軸頭や刃物台等)に、工具に替えて接触センサを装着し、当該接触センサを用いて被測定物の形状を計測する技術が知られている。例えば、特許文献1には、刃物台にタッチセンサを設け、当該タッチセンサが工作物に接触したタイミングでの刃物台の位置に基づいて、工作物の形状を把握する技術が開示されている。ここで、工具保持装置は、通常、高い位置決め精度を有している。かかる工具保持装置に接触センサを取り付けることで、工具保持装置と同じ精度で、被測定物を計測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-173844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被測定物の形状が複雑な場合には、接触センサと被測定物とを干渉させることなく、接触センサを計測部位に接触させることができない場合があった。こうした問題は、制御軸数が三つしかない三軸加工機では、特に、生じやすかった。もちろん、制御軸数を増やすことで、こうした問題は軽減できるが、その場合、工作機械の大型化や高価格化という別の問題を招く。
【0005】
そこで、本明細書では、従来技術に比べて、より高い自由度で、加工室内において被測定物を計測できる計測装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する計測装置は、工作機械の加工室内において移動可能であり、工具またはワークを保持または支持する1以上の移動体と、前記加工室内に配置された機内ロボットと、前記機内ロボットで保持され、被計測物への接触を検知する接触センサと、計測期間中、前記接触センサに対する位置が不変となる位置に設けられた接合部と、計測期間中、前記移動体に対する位置が不変となる位置に設けられ、前記接合部が3次元的に押し当てられる複数の受容部と、前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが被計測物に近づくように前記移動体を移動させ、前記被計測物への接触が検知されたタイミングでの前記移動体の位置である検出位置に基づいて、前記接触センサの接触点の位置を算出する、ことを特徴とする。
【0007】
この場合、前記複数の受容部のうち少なくとも一つは、前記移動体に形成された凹部または凸部であってもよい。
【0008】
また、前記複数の受容部のうち少なくとも一つは、前記移動体に装着可能な受容部品に形成された凹部または凸部であってもよい。
【0009】
また、前記移動体は、刃物台、主軸頭、対向主軸台、および、心押台のいずれかであってもよい。
【0010】
また、前記受容部は、互いに異なる面内に位置するとともに前記接合部に同時に接触可能な三つの平面を有する、または、前記接合部に同時に接触する二つの平面および一つの頂点を含む角錐形状であってもよい。
【0011】
また、前記コントローラは、前記接合部を前記受容部に押し当てた状態を維持したまま前記移動体を移動させる際には、前記移動体が出力する力が、前記機内ロボットが出力する力よりも大きくなるように、前記移動体および前記機内ロボットの駆動を制御してもよい。
【0012】
また、前記コントローラは、前記接合部を前記複数の受容部の一つに押し当てた状態を維持したまま、前記接触センサが基準面または基準点に接触させたタイミングでの前記移動体の位置を基準位置として取得し、前記基準位置と前記検出位置の差分値と、前記基準面または基準点の位置と、に基づいて前記接触点の位置を算出してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する計測装置によれば、移動体の位置決め精度と同程度の精度、かつ、移動体よりも高い自由度で、被計測部位の形状を計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】計測装置が組み込まれた工作機械の概略的な側面図である。
図2】工作機械のうち要部のみを抜き出した正面図である。
図3図2のA部拡大図である。
図4】接合部および受容部の形状の一例を示す図である。
図5】接合部および受容部の形状の一例を示す図である。
図6】計測装置の電気的構成を示すフローチャートである。
図7】第一受容部に接合部を押し当てた様子を示す図である。
図8】第二受容部に接合部を押し当てた様子を示す図である。
図9】計測装置を用いた計測の流れを示すフローチャートである。
図10】計測装置を用いた計測の流れを示すフローチャートである。
図11】計測装置の他の構成を示す図である。
図12】計測装置が組み込まれる他の工作機械の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、計測装置の構成について図面を参照して説明する。はじめに、計測装置の機械的構成について、図1図5を参照して説明する。図1は、計測装置が組み込まれた工作機械10の概略的な側面図である。図2は、工作機械10のうち要部のみを抜き出した正面図である。また、図3は、図2のA部拡大図である。さらに、図4図5は、後述する接合部46および受容部48の形状の一例を示す図である。以下の説明では、主軸の回転軸と平行な方向をZ軸、刃物台21のZ軸と直交する移動方向と平行な方向をX軸、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸と呼ぶ。
【0016】
この工作機械10は、自転するワーク50(図1では図示せず、図2参照)に刃物台21で保持した工具26を当てることで、ワーク50を加工する旋盤である。より具体的には、この工作機械10は、NC制御されるとともに、複数の工具26を保持するタレット22を備えたターニングセンタである。
【0017】
工作機械10の加工室12の周囲は、カバー14で覆われている。加工室12の前面には、大きな開口が形成されており、この開口は、ドア16により開閉される。オペレータは、この開口を介して、加工室12内の各部にアクセスする。加工中、開口に設けられたドア16は、閉鎖される。これは、安全性や環境性等を担保するためである。
【0018】
工作機械10は、ワーク50の一端を自転可能に保持する主軸装置と、工具26を保持する刃物台21と、ワーク50の他端を支える心押台24(図1では図示せず、図2参照)と、を備えている。主軸装置は、回転モータ等を内蔵した主軸台と、当該主軸台に取り付けられた主軸19と、を備えている。主軸19は、ワーク50を着脱自在に保持するチャック33やコレットを備えており、保持するワーク50を適宜、交換できる。また、主軸19およびチャック33は、水平方向(Z軸方向)に延びる回転軸を中心として自転する。
【0019】
心押台24は、Z軸方向に、主軸19と対向して配置されており、主軸19で保持されたワーク50の他端を支える。心押台24は、ワーク50に対して接離できるように、Z軸方向に移動可能となっている。
【0020】
刃物台21は、工具26を保持する。この刃物台21は、Z軸、すなわち、ワーク50の軸と平行な方向に移動可能となっている。また、刃物台21は、X軸と平行な方向、すなわち、ワーク50の径方向にも進退できるようになっている。つまり、刃物台21は、加工室12内において移動可能であり、工具26を保持する移動体20として機能する。なお、図から明らかな通り、X軸は、加工室12の開口からみて、奥側に進むにつれ上方に進むように、水平方向に対して傾いている。
【0021】
刃物台21は、そのZ方向端面に、タレット22を有している。タレット22は、Z軸方向視で多角形となっており、Z軸に平行な軸を中心として回転可能となっている。このタレット22の周面には、複数の工具26が着脱自在に装着できる。そして、タレット22を回転させることで、加工に使用する工具26を変更できるようになっている。このタレット22で保持される工具26は、旋削に使用される旋削用工具(「バイト」とも呼ばれる)でもよいし、転削に使用される回転工具(「エンドミル」とも呼ばれる)でもよい。こうした工具26は、直接、または、工具ホルダを介してタレット22に装着される。
【0022】
このタレット22に保持された工具26は、刃物台21を、Z軸と平行な方向に移動することで、Z軸と平行な方向に移動する。また、刃物台21をX軸と平行な方向に移動させることで、タレット22に保持された工具26は、X軸に平行な方向に移動する。そして、刃物台21をX軸に平行な方向に移動させることで、工具26によるワーク50の切り込み量等が変更できる。
【0023】
加工室12内には、さらに、計測装置の一部として機能する機内ロボット28が設けられている。機内ロボット28は、加工室12内に設けられた多自由度のロボットであり、複数のリンク29が関節を介して接続された多関節ロボットである。本例では、この機内ロボット28を加工室12の壁面に設置しているが、機内ロボット28は、後述する接合部46を受容部48に押し当てることができるのであれば、その設置場所や構成は適宜、変更されてもよい。例えば、機内ロボット28は、加工室12の天面や主軸19等に設置されてもよい。
【0024】
機内ロボット28には、接触センサ30が取り付けられている。接触センサ30は、他部材への接触を検知するセンサである。この接触センサ30は、例えば、被測定物に接触するスタイラス30aと、当該スタイラス30aの変異を検知するセンサ(例えば光学センサや圧力センサ等)と、を含む。接触センサ30の検知結果は、後述するコントローラ32に出力される。
【0025】
さらに、本例では、高精度かつ高自由度に被測定物の形状を計測するために、接合部46と、第一、第二受容部48a,48b(以下、両者を区別しない場合は「受容部48」と呼ぶ)と、を設けている。接合部46は、接触センサ30に対する位置が不変となる位置に設けられる部材である。したがって、接合部46は、接触センサ30、または、接触センサ30に最も近いリンク29に固着されてもよい。図示例では、接合部46は、接触センサ30に最も近いリンク29に固着されている。
【0026】
受容部48は、接合部46が3次元的に押し当てられる部位であって、移動体20である刃物台21に対する位置が不変となる位置に設けられる部位である。本例では、受容部48を、移動体20、より具体的には、刃物台21のタレット22に形成された凹部としている。ここで、「3次元的に押し当てる」とは、押し当てることで、X軸、Y軸、および、受容部48に対するZ軸の3軸方向の位置が固定されることを意味する。そして、受容部48は、接合部46が押し当てられることで、当該接合部46と刃物台21との相対位置を一定に保てるのであれば、その形状は特に限定されない。したがって、受容部48は、例えば、図4に示すように、互いに異なる面内に位置し、接合部46が同時に接触可能な三つの面を有する形状でもよい。また、別の形態として、受容部48は、図5に示すように、接合部46が、同時に接触可能な二つの面と一つの頂点を有する角錐形状でもよい。いずれの形状であっても、接合部46を受容部48に押し当てることで、接触センサ30と刃物台21との相対位置関係が一定に保たれる。
【0027】
次に、計測装置の電気的構成について図6を参照して説明する。計測装置は、刃物台21である移動体20と、機内ロボット28と、当該機内ロボット28で保持された接触センサ30と、これらの駆動を制御するコントローラ32と、を含む。移動体20は、当該移動体20を移動させるための動力を出力する移動モータ38と、当該移動体20の位置を検出する位置センサ40と、を含む。移動モータ38は、移動体20の制御軸ごとに設けられる。したがって、移動体20が、3軸方向に移動できる場合、移動モータ38は三つ設けられる。移動モータ38の駆動は、コントローラ32により制御される。
【0028】
また、位置センサ40も、移動体20の制御軸ごとに設けられてもよい。位置センサ40は、移動体20または移動モータ38の絶対位置を検出するものでもよいし、移動量を検出するものでもよい。位置センサ40としては、例えば、ロータリーエンコーダやリニアエンコーダを用いることができる。この位置センサ40での検知結果は、コントローラ32に出力される。
【0029】
また、機内ロボット28には、複数のリンク29を駆動するためのロボットアクチュエータ42が、設けられている。このロボットアクチュエータ42の駆動も、コントローラ32により制御される。また、機内ロボット28には、各リンク29の位置および姿勢を検知する位置センサ44が設けられている。位置センサ44の検知結果も、コントローラ32に出力される。さらに、機内ロボット28で保持された接触センサ30の検知結果もコントローラ32に出力される。
【0030】
コントローラ32は、工作機械10の各部の駆動を制御する。このコントローラ32は、例えば、各種演算を行うプロセッサ34と、各種制御プログラムや制御パラメータを記憶するメモリ36と、を有する。また、コントローラ32は、通信機能を有しており、他の装置との間で各種データ、例えば、NCプログラムデータ等を授受できる。このコントローラ32は、例えば、工具26やワーク50の位置を随時演算する数値制御装置を含んでもよい。また、コントローラ32は、単一の装置でもよいし、複数の演算装置を組み合わせて構成されてもよい。
【0031】
コントローラ32は、位置センサ40,44の検知結果に基づいて、移動モータ38またはロボットアクチュエータ42の駆動を制御する。また、接触センサ30で、他部材への接触が検知された場合、コントローラ32は、その時点での移動体20の位置を読み取り、得られた移動体20の位置に基づいて、接触ポイントの座標を算出する。
【0032】
以上のような計測装置で、被測定物、例えば、ワーク50の形状を計測する原理について説明する。ワーク50の形状を計測する際には、まず、機内ロボット28および刃物台21を移動させて、接合部46を受容部48に押し当てる。図7は、第一受容部48aに接合部46を押し当てた様子を示す図である。
【0033】
この状態になれば、コントローラ32は、接合部46を受容部48に押し当てた状態を維持したまま、接触センサ30が、測定部位に接触するように移動体20を移動させる。すなわち、コントローラ32は、機内ロボット28が、接合部46を受容部48に押し当てる力より、刃物台21が移動する力が大きくなるように、また、機内ロボット28先端の移動速度が、刃物台21の移動速度より僅かに遅くなるように、刃物台21および機内ロボット28の駆動を制御する。このように、受容部48に接合部46が押し当てられた状態が維持されれば、刃物台21に対する接触センサ30の相対位置が一定に保たれ、接触センサ30の移動量が、刃物台21の移動量と等しくなる。
【0034】
この状態で、接触センサ30により、計測部位への接触が検知されると、コントローラ32は、当該検知タイミングで、位置センサ40で検知された刃物台21の位置を検出位置として取得し、この検出位置に基づいて計測部位(より正確には、接触センサ30が計測部位に接触した接触点)の位置を算出する。
【0035】
なお、初期状態では、接触センサ30の絶対位置は不明である。そこで、計測部位への接触に先立って、予め、工作機械10またはワーク50を基準として、基準点または基準面を設定しておく。具体的には、接合部46を受容部48に押し当てた状態を維持したまま、接触センサ30を、工作機械10またはワーク50に設けられた基準点または基準面に接触させる。コントローラ32は、接触センサ30が基準点または基準面に接触した時点での刃物台21の位置を読み取り、メモリ36に基準位置として記憶させる。この基準位置からの刃物台21の移動量(すなわち、基準位置と検出位置との差分値)が、基準点または基準面からの接触センサ30の移動量となり、基準点または基準面の位置に、この移動量を加算した値が、接触センサ30の絶対位置となる。
【0036】
ここで、基準点または基準面は、計測の基準となる点または面である。この基準点または基準面は、計測したい部位や寸法等に応じて、適宜設定される。例えば、ワーク50の軸方向寸法を計測したい場合には、チャック33の端面や、加工したワーク50の中でも軸方向寸法の基準となる面が、基準面として設定される。また、接触センサ30を、基準点または基準面に直接接触させることが難しい場合には、当該基準点または基準面に対する位置が、既知の点または面に、接触センサ30を接触させればよい。例えば、ワーク50の径方向寸法を計測したい場合には、主軸19の回転中心点が、基準点となるが、この回転中心に、接触センサ30を接触させることは困難である。このような場合には、接触センサ30をチャック33の外周面上の3点に接触させ、この3点を通る円の中心を主軸19の回転中心、ひいては、基準点として取得すればよい。
【0037】
ここで、ワーク50の形状が複雑な場合、接触センサ30の姿勢を変更しなければ計測できない部位が発生する。例えば、接合部46を第一受容部48aに押し当てた状態では、接触センサ30を、図7における部位B付近に接触させようとしても、接触センサ30が、ワーク50と干渉する。そこで、コントローラ32は、必要に応じて、接合部46を押し当てる受容部48を切り替える。例えば、図7の部位B付近を計測したい場合、コントローラ32は、接合部46を、第一受容部48aではなく、第二受容部48bに押し当てる。
【0038】
図8は、接合部46を第二受容部48bに押し当てた様子を示す図である。図8に示すように、接合部46を第二受容部48bに押し当てることで、接触センサ30の姿勢が変化し、部位B付近への接触が可能となる。そして、接触センサ30がワーク50に接触すれば、コントローラ32は、その時点での刃物台21の位置である検出位置に基づいて、計測部位の位置を算出する。
【0039】
なお、押し当てる受容部48を切り替えた場合には、上述した基準点の設定を改めて行ってもよい。また、別の形態として、基準点の再設定を行うのではなく、押し当てる受容部48の切り替に伴う接触センサ30の位置の変化量を予め記憶しておき、この変化量を加味して計測部位の位置を算出してもよい。
【0040】
以上の説明から明らかな通り、本例では、刃物台21(すなわち移動体20)に複数の受容部48を形成し、必要に応じて、接合部46を押し当てる受容部48を切り替えている。かかる構成とする理由について説明する。従来、加工室12内において、ワーク50等の被測定物の形状を計測する場合には、刃物台21等の工具保持装置に、工具26に替えて、接触センサ30を取り付ける技術が知られている。かかる技術の場合、工具保持装置の位置決め精度と同程度の高い精度で被測定物の形状を計測できる。
【0041】
しかしながら、刃物台21等の工具保持装置は、その移動の自由度が低い場合が多いため、被測定物の形状が複雑な場合、工具保持装置または接触センサ30が被測定物と干渉し、必要な箇所を計測できない場合があった。もちろん、5軸加工機のように、五つの制御軸を有する工具保持装置であれば、複雑な形状にも対応できる。しかしながら、こうした5軸加工機は、非常に高価であった。
【0042】
そこで、接触センサ30を工具保持装置ではなく、機内ロボット28に取り付け、機内ロボット28だけで接触センサ30の位置および姿勢を変化させることも考えられる。機内ロボット28であれば、工具保持装置に比べて、計測の自由度を大幅に向上できる。しかしながら、一般的に機内ロボット28は、刃物台21等の工具保持装置に比べて、その位置決め精度が低い。そのため、機内ロボット28だけで接触センサ30の位置および姿勢を変化させた場合、形状の計測精度が低下するおそれがあった。
【0043】
一方、本例では、上述した通り、刃物台21(すなわち移動体20)の受容部48に、接合部46を押し当てた状態を維持したまま、刃物台21を移動させることで接触センサ30を移動させている。この場合、接触センサ30の位置検出精度は、刃物台21の位置決め精度と同程度になり、高精度での形状計測が可能となる。また、本例では、刃物台21に複数の受容部48を形成し、必要に応じて、接合部46を押し当てる受容部48を切り替えている。これにより、接触センサ30の姿勢を適宜変更することができ、接触センサ30を刃物台21等に取り付ける技術に比べて、計測の自由度を向上できる。
【0044】
次に、この計測装置を用いた計測の流れについて図9図10を参照して説明する。特定の計測部位を計測する場合には、まず、計測部位の位置および形状に基づいて、使用する受容部48を選択する(S10)。この受容部48の選択は、オペレータが経験等に基づいて判断してもよいし、コントローラ32が、自動的に判断してもよい。使用する受容部48が決定されれば、コントローラ32は、ロボットを駆動して、受容部48を、選択された接合部46に押し当てる(S12)。
【0045】
この状態になれば、コントローラ32は、基準点または基準面(以下「基準点等」という)の設定を行う(S14~S18)。具体的には、コントローラ32は、接合部46を受容部48に押し当てた状態を維持したまま、接触センサ30が、基準点等に向かうように、移動体20を移動させる(S14)。そして、接触センサ30により、基準点等への接触が検知されれば(S16でYes)、コントローラ32は、その時点の移動体20の位置を基準位置として取得し、メモリ36に記憶する(S18)。これにより、基準点等が設定される。
【0046】
次に、コントローラ32は、接合部46を受容部48に押し当てた状態を維持したまま、接触センサ30が、計測部位に向かうように、移動体20を移動させる(S20)。そして、接触センサ30により、接触部位への接触が検知されれば(S22でYes)、コントローラ32は、その時点の移動体20の位置を検出位置としてメモリ36に一時記憶する(S24)。その後、コントローラ32は、この検出位置と基準位置との差分と、基準点等の位置と、に基づいて、接触センサ30の接触点の位置を算出する(S26)。
【0047】
その後、次の計測部位があれば(S28でYes)、その計測部位の位置および形状に基づいて受容部48を選択する(S30)。選択の結果、受容部48の変更が必要な場合は(S32でYes)、ステップS12に戻り、基準点等の設定から再開する。一方、受容部48の変更が不要な場合は(S32でNo)、ステップS20に戻り、接触センサ30を計測部位に近づける。そして、全ての計測部位の計測が完了すれば、処理は終了となる。
【0048】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、適宜、変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、移動体20である刃物台21に直接、受容部48を形成しているが、計測期間中において、移動体20に対する位置が不変であれば、受容部48は、他の部位に形成されてもよい。例えば、図11に示すように、工具26に替えてタレット22で保持される受容部品52を複数用意し、この受容部品52に、受容部48を形成してもよい。また、移動体20に直接形成された受容部48と、移動体に装着された受容部品52に形成された受容部48と、の両方が同時に存在してもよい。
【0049】
また、受容部48は2つ以上設けられるのであれば、その位置や個数、形状も適宜変更されてもよい。したがって、受容部48は、凹部ではなく、凸部であってもよい。この場合、接合部46は、凸部が嵌まる凹部とすればよい。また、これまでの説明では、刃物台21を移動体20としているが、移動体20は、加工室12内で移動可能であって、工具26またはワーク50を保持または支持するものであれば、他の部材でもよい。例えば、図2に示すように、心押台24を移動体20として用い、当該心押台24に受容部48を形成してもよい。
【0050】
また、これまでは、工作機械10としてターニングセンタを例に挙げて説明したが、本明細書で開示の技術は、他の種類の工作機械10に適用されてもよい。例えば、工作機械10の中には、図12に示すように、主軸19と向き合うとともに、主軸19に対してZ軸方向に移動可能な対向主軸台56を有するものがある。かかる場合には、この対向主軸台56を移動体20として設定し、当該対向主軸台56に、複数の受容部48(図12では一つのみを図示)を形成してもよい。また、工作機械10の中には、工具26を自転可能に保持する工具主軸を含む主軸頭54を有するものがある。この場合には、この主軸頭54を移動体20として設定し、当該主軸頭54に複数の受容部48(図12では一つのみを図示)を形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 工作機械、12 加工室、14 カバー、16 ドア、19 主軸、20 移動体、21 刃物台、22 タレット、24 心押台、26 工具、28 機内ロボット、29 リンク、30 接触センサ、30a スタイラス、32 コントローラ、33 チャック、34 プロセッサ、36 メモリ、38 移動モータ、40 位置センサ、42 ロボットアクチュエータ、44 位置センサ、46 接合部、48 受容部、50 ワーク、52 受容部品、54 主軸頭、56 対向主軸台。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12