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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/134 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
F16F15/134 D
F16F15/134 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020026071
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131116
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直孝
(72)【発明者】
【氏名】岡町 悠介
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-247723(JP,A)
【文献】特開昭61-286616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクが入力される第1回転体と、
前記第1回転体と相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間でトルクを伝達するとともに、並列で作動するように配置された2つの弾性ユニットを有し、回転変動を減衰するための弾性連結部と、
を備え、
前記2つの弾性ユニットのそれぞれは、第1剛性を有する第1弾性部材と、前記第1剛性よりも低い第2剛性を有し前記第1弾性部材と直列に配置された第2弾性部材と、を有し、
前記第1弾性部材は、前記第1回転体と前記第2回転体とが相対回転していない中立時において非圧縮又は予め圧縮された状態で装着されており、前記第1回転体と前記第2回転体との捩り角度が第1捩り角度範囲において作動するとともに、前記第1捩り角度範囲を超えた第2捩り角度範囲では作動せず、
前記第2弾性部材は、前記中立時において前記第1弾性部材よりも大きい荷重で予め圧縮された状態で装着されており、前記第2捩り角度範囲において作動する、
ダンパ装置。
【請求項2】
前記第1弾性部材は、非圧縮状態で装着されている、請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記第1回転体及び前記第2回転体と軸方向に並べて配置された中間回転体をさらに備え、
前記中間回転体は、前記第1回転体及び前記第2回転体と相対回転可能であり、前記第1回転体及び前記第2回転体との間で、前記第1弾性部材及び前記第2弾性部材を圧縮する、
請求項1又は2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記中間回転体は、正側トルクが入力された際に、前記入力回転体との間で前記第1弾性部材を圧縮するとともに、前記出力回転体との間で前記第2弾性部材を圧縮する、請求項に記載のダンパ装置。
【請求項5】
前記中間回転体は、前記第1弾性部材の第1端面が当接可能な第1支持面と、前記第2弾性部材の第2端面が当接可能な第2支持面と、を有し、
前記第2回転体は、前記第1弾性部材の第2端面が当接可能な第1支持面と、前記第2弾性部材の第1端面が当接可能な第2支持面と、を有する、
請求項3又は4に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記中間回転体及び前記第2回転体は、互いの前記第1支持面同士が近づくのを禁止する第1規制部を有している、請求項5に記載のダンパ装置。
【請求項7】
前記中間回転体及び前記第2回転体は、互いの前記第2支持面同士が近づくのを所定の角度範囲に規制する第2規制部を有している、請求項5又は6に記載のダンパ装置。
【請求項8】
前記第1回転体と前記中間回転体との相対回転を、前記第1捩り角度範囲に規制する第1ストッパ機構をさらに備えている、請求項3から5のいずれかに記載のダンパ装置。
【請求項9】
前記第1回転体は、前記第1弾性部材を保持する第1窓部と、前記第2弾性部材を保持する第2窓部と、を有し、
前記第1窓部は、前記中立時において、前記第1弾性部材の第1端面と間隔をあけて対向する第1支持面と、前記第1弾性部材の第2端面と当接する第2支持面と、を有し、
前記第2窓部は、前記中立時において、前記第2弾性部材の第1端面と当接する第1支持面と、前記第2弾性部材の第2端面と間隔をあけて対向する第2支持面と、を有する、
請求項1から8のいずれかに記載のダンパ装置。
【請求項10】
前記第1回転体と前記第2回転体との相対回転を、前記第2捩り角度範囲に規制する第2ストッパ機構をさらに備えている、請求項1から9のいずれかに記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置、特に、原動機とトランスミッションとの間に配置されるダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌の低燃費化、軽量化の手段の1つとして、エンジンを3気筒化することが提案されている。しかし、エンジンを3気筒化すると、燃焼変動が大きくなるという弊害がある。
【0003】
この燃焼変動による回転変動を減衰させるために、捩り特性を低剛性化したダンパ装置が提供されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-187067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダンパ装置において、捩り特性を低剛性化するためには、捩り角度を広角化する必要がある。しかし、捩り角度を広角化すると、ヒステリシストルクを発生させるための摩擦部材の摺動距離が大きくなり、摩擦部材の摩耗が促進される。また、ダンパ装置全体の大型化を招くことになる。
【0006】
一方で、特に小排気量、たとえば、3気筒で排気量が1000cc程度の車両においては、エンジンが低トルクの範囲では捩り特性を高剛性にしてドラバビリティを向上させ、エンジンが高トルクであって、ハイギヤで走行している際には、逆に、ダンパ装置の機能を発揮させるのが望ましい場合がある。
【0007】
ただし、低トルク範囲での捩り特性の剛性を高くしすぎると、発進時においてジャダーが発生するという問題が発生する。
【0008】
本発明の課題は、ダンパ装置において、発進時の振動減衰性能を損なうことなく低トルク時におけるドライバビリティを向上させるとともに、比較的高トルクで走行している場合に回転変動を減衰でき、しかも装置の大型化を避けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るダンパ装置は、トルクが入力される第1回転体と、第2回転体と、弾性連結部と、を備えている。第2回転体は第1回転体と相対回転可能である。弾性連結部は、第1回転体と第2回転体との間でトルクを伝達するとともに、並列で作動するように配置された2つの弾性ユニットを有し、回転変動を減衰する。
【0010】
2つの弾性ユニットのそれぞれは、第1剛性を有する第1弾性部材と、第1剛性より低い第2剛性を有し第1弾性部材と直列に配置された第2弾性部材と、を有している。第1弾性部材は、第1回転体と第2回転体とが相対回転していない中立時において非圧縮又は予め圧縮された状態で装着されており、入力回転体と出力回転体との捩り角度が第1捩り角度範囲において作動するとともに、第1捩り角度範囲を超えた第2捩り角度範囲では作動しない。また、第2弾性部材は、中立時において第1弾性部材よりも大きい荷重で予め圧縮された状態で装着されており、第2捩り角度範囲において作動する。
【0011】
ここでは、第1回転体と第2回転体との捩り角度が第1捩り角度範囲では、2つの弾性ユニットの第1弾性部材が圧縮される。また、2つの弾性ユニットの第2弾性部材は、予め圧縮されてプリロードが作用しているので、入力されるトルクによる荷重がプリロードを超えるまでは、第2弾性部材は作動しない。このため、第1捩り角度範囲では、第1剛性を有する第1弾性部材の作動による、比較的高剛性の捩り特性が得られる。
【0012】
次に、第1回転体と第2回転体との捩り角度が第1捩り角度範囲を超えた第2捩り角度範囲では、第1弾性部材の作動が禁止される。一方、この第2捩り角度範囲では、2つの弾性ユニットの第2弾性部材が作動する。このため、第2捩り角度範囲では、第2剛性を有する第2弾性部材の作動による、比較的低剛性の捩り特性が得られる。
【0013】
以上の作動により、入力されるトルクが小さく、第1回転体と第2回転体との捩り角度が小さい範囲では、発進時のジャダー等の問題を抑えつつ、ドライバビリティが向上する捩り特性を得ることができる。また、捩り角度が大きくなる範囲では、捩り特性は低い第2剛性であるため、走行時における原動機の回転変動を効果的に減衰できる。さらに、捩り角度の広角化を抑えることができるので、ヒステリシストルク発生用の部材の摩耗を抑え、長期にわたって安定したヒステリシストルクをえることができる。しかも、装置全体の大型化を避けることができる。
【0014】
(2)好ましくは、第1弾性部材は、非圧縮状態で装着されている。
【0015】
(3)好ましくは、このダンパ装置は、第1回転体及び第2回転体と軸方向に並べて配置された中間回転体をさらに備えている。中間回転体は、第1回転体及び第2回転体と相対回転可能であり、入力回転体及び出力回転体との間で、第1弾性部材及び第2弾性部材を圧縮する。
【0016】
(4)好ましくは、中間回転体は、正側トルクが入力された際に、入力回転体との間で第1弾性部材を圧縮するとともに、出力回転体との間で第2弾性部材を圧縮する。
【0017】
(5)好ましくは、中間回転体は、第1弾性部材の第1端面が当接可能な第1支持面と、第2弾性部材の第2端面が当接可能な第2支持面と、を有する。また、出力回転体は、第1弾性部材の第2端面が当接可能な第1支持面と、第2弾性部材の第1端面が当接可能な第2支持面と、を有する。
【0018】
(6)好ましくは、中間回転体及び出力回転体は、互いの第1支持面同士が近づくのを禁止する第1規制部を有している。
【0019】
(7)好ましくは、中間回転体及び出力回転体は、互いの第2支持面同士が近づくのを所定の角度範囲に規制する第2規制部を有している。
【0020】
(8)好ましくは、第1回転体と中間回転体との相対回転を、第1捩り角度範囲に規制する第1ストッパ機構をさらに備えている。
【0021】
(9)好ましくは、第1回転体は、第1弾性部材を保持する第1窓部と、第2弾性部材を保持する第2窓部と、を有している。第1窓部は、中立時において、第1弾性部材の第1端面と間隔をあけて対向する第1支持面と、第1弾性部材の第2端面と当接する第2支持面と、を有している。また、第2窓部は、中立時において、第2弾性部材の第1端面と当接する第1支持面と、第2弾性部材の第2端面と間隔をあけて対向する第2支持面と、を有する。
【0022】
(10)好ましくは、このダンパ装置は、第1回転体と第2回転体との相対回転を、第2捩り角度範囲に規制する第2ストッパ機構をさらに備えている。
【発明の効果】
【0023】
以上のような本発明では、ダンパ装置において、発進時の振動減衰性能を損なうことなくドライバビリティを向上でき、比較的高トルクで走行している場合には回転変動を効果的に減衰できる。また、本件発明では、装置の大型化を避けることができるとともに、ヒステリシストルクを発生させるための摩擦部材の摺動量を低減させ、長期にわたって安定したヒステリシストルクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態によるダンパ装置を有するクラッチディスク組立体の断面図。
図2図1のクラッチディスク組立体の正面図。
図3】出力回転体の正面図。
図4】出力回転体の側面部分図。
図5】中間回転体の正面図。
図6】中立時の各回転体の位置関係を示す図。
図7】ダンパ部の捩り特性線図。
図8】本発明の他の実施形態の捩り特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[構成]
図1は、本発明の一実施形態としてのダンパ装置を有するクラッチディスク組立体1の断面図である。また、図2は、その正面図である。なお、図2は、クラッチディスク組立体1をトランスミッション側から視た図である。クラッチディスク組立体1は、車両のエンジンとトランスミッションとの間に配置される。図1において、O-O線がクラッチディスク組立体1の回転軸心である。図1の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置され、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置される。なお、図2を含み、各部材の正面図は、トランスミッション側から視た図である。
【0026】
クラッチディスク組立体1は、クラッチ部2と、ダンパ部3(ダンパ装置の一例)と、を備えている。ダンパ部3は、入力回転体4(第1回転体の一例)と、出力回転体5(第2回転体の一例)と、中間回転体6と、弾性連結部7と、ヒス発生機構8と、を備えている。
【0027】
<クラッチ部2>
クラッチ部2は、クッショニングプレート11と、1対の摩擦フェーシング12と、を有している。クッショニングプレート11は、外周部に軸方向に段差を有する複数のクッション部を有している。1対の摩擦フェーシング12は、環状であり、クッション部の軸方向両側にリベットによって固定されている。
【0028】
<入力回転体4>
入力回転体4は、クラッチプレート15とリティニングプレート16とを有している。以下、クラッチプレート15及びリティニングプレート16を併せて「入力回転体4」と記載する場合がある。クラッチプレート15及びリティニングプレート16は、ともに板金製の円板状かつ環状の部材であり、軸方向に所定の間隔を開けて配置されている。クラッチプレート15はエンジン側に配置され、リティニングプレート16はトランスミッション側に配置されている。そして、両プレート15,16は、4つのストップピン17(図2参照)によって互いに相対回転不能及び軸方向移動不能に固定されている。これにより、クラッチプレート15とリティニングプレート16とは一体回転する。
【0029】
クラッチプレート15及びリティニングプレート16には、それぞれ中心孔が形成されている。また、クラッチプレート15及びリティニングプレート16には、それぞれ1対の第1窓部21及び1対の第2窓部22が形成されている。なお、ここでは、2つのプレート15,16の各窓部について同じ符号を付けている。これらの窓部21,22は円周方向に並べて、かつ同じ半径方向位置に形成されている。各窓部21,22は概ね円周方向に長く延びている。各窓部21,22は、軸方向に貫通する孔を有しており、図2に示すように、円周方向R1側の第1支持面211,221と、円周方向R2側の第2支持面212,222と、を有している。
【0030】
なお、円周方向R1は、エンジンの回転方向であり、図2において(トランスミッション側から視て)反時計回りの方向である。
【0031】
<出力回転体5>
出力回転体5は、入力回転体4から弾性連結部7を介してトルクが入力され、さらに図示しないトランスミッションの入力シャフトにトルクを出力するための部材である。出力回転体5は、入力回転体4に対して、所定の角度範囲内で相対回転可能である。出力回転体5は、ボス24とフランジ25とを有している。
【0032】
ボス24は、筒状に形成されており、クラッチプレート15及びリティニングプレート16の中心孔内を貫通している。ボス24の内周面には、スプライン孔24aが形成されており、このスプライン孔24aにトランスミッションの入力シャフト(図示せず)がスプライン係合可能である。
【0033】
フランジ25は、クラッチプレート15とリティニングプレート16との軸方向間に配置されている。フランジ25は、図3に示すように、ボス24の外周面から径方向外方に延びて形成され一部に直線部を有する円板部51と、1対の支持部52と、1対の第1規制部53と、1対の第2規制部54と、ストッパ用切欠55と、を有している。なお、図3図2における出力回転体5を取り出して示した図である。
【0034】
1対の支持部52は、円板部51の外周面からさらに径方向外方に延びており、回転中心に対して対向する位置に形成されている。各支持部52は円周方向に所定の幅を有しており、支持部52の円周方向R1側に第1支持面52nを有し、円周方向R2側に第2支持面52pを有している。
【0035】
第1規制部53は、支持部52の外周端部から円周方向R1側に延びて形成されている。第1規制部53は、径方向に所定の幅を有しており、先端に第1規制面53sを有している。
【0036】
第2規制部54は、各支持部52の外周端部から円周方向R2側に延びて形成されている。第2規制部54は、径方向に所定の幅を有しており、先端に第2規制面54sを有している。
【0037】
ストッパ用切欠55は、支持部52の外周面における円周方向中央部に、内周側に凹むように形成されている。ストッパ用切欠55は、円周方向に所定の長さを有しており、この切欠55をストップピン17が貫通している。したがって、このストッパ用切欠55と、ストップピン17と、によって、入力回転体4とフランジ25(出力回転体5)との相対回転を所定の角度範囲に規制するストッパ機構(第2ストッパ機構の一例)が構成されている。
【0038】
<中間回転体6>
中間回転体6は、クラッチプレート15と、出力回転体5のフランジ25(以下、単に「フランジ25」と記載する場合がある)と、の軸方向間に配置されている。中間回転体6は、入力回転体4及び出力回転体5と相対回転可能である。この中間回転体6は、弾性連結部7の非圧縮スプリング7n(第1弾性部材の一例)と圧縮スプリング7p(第2弾性部材の一例)とを、入力回転体4及び出力回転体5との間で作動させるための部材である。
【0039】
中間回転体6は、図4に示すように、中心部に出力回転体5のボス24が貫通する孔が形成された一部に直線部を有する円板部61と、1対の支持部62と、1対の第1規制部63と、1対の第2規制部64と、ストッパ用切欠65と、を有している。なお、図4図2における中間回転体6を取り出して示した図である。
【0040】
1対の支持部62は、円板部61の径方向外方に延びており、回転中心を挟んで対向した位置に形成されている。また、図5図1の一部)に示すように、1対の支持部62は、円板部61に対して、リティニングプレート16側にオフセットされて形成されている。このため、フランジ25の支持部52及び規制部53と、中間回転体6の支持部62及び規制部63とは、軸方向において同じ位置に配置されている。
【0041】
各支持部62は、円周方向の所定の幅を有している。支持部62の円周方向R2側の端面に、フランジ25の第1支持面52nと円周方向に所定の間隔をあけて対向する第1支持面62nが形成されている。また、支持部62の円周方向R1側の端面に、フランジ25の第2支持面52pと円周方向に所定の間隔をあけて対向する第2支持面62pが形成されている。
【0042】
図6に示すように、中間回転体6の第1支持面62nと、フランジ25の第1支持面52nと、によって形成される空間は、入力回転体4の第1窓部21に対応した位置に形成されている。また、中間回転体6の第2支持面62pと、フランジ25の第2支持面52pと、によって形成される空間は、入力回転体4の第2窓部22に対応した位置に形成されている。
【0043】
第1規制部63は、支持部62の円周方向R2側の端部に形成されている。第1規制部63は、第1支持面62nの外周部を円周方向R2側に延ばして形成されている。第1規制部63は、径方向に所定の幅を有しており、先端に第1規制面63sを有している。図6に示すように、入力回転体4と出力回転体5とが相対回転していない捩り角度「0」の状態(以下、この状態を「中立時」又は「中立状態」と記載する)では、第1規制面63sは、フランジ25の第1規制部53の第1規制面53sと当接している。
【0044】
第2規制部64は、支持部62の円周方向R1側の端部に形成されている。第2規制部64は、第2支持面62pの外周部を円周方向R1側に延ばして形成されている。第2規制部64は、径方向に所定の幅を有しており、先端に第2規制面64sを有している。中立時(より詳細には、中間回転体6とフランジ25とが相対回転していない状態)においては、中間回転体6の第2規制面64sとフランジ25の第2規制面54sとは、円周方向に所定の間隔をあけて対向して配置されている。そして、中間回転体6とフランジ25とが所定角度相対回転すると、両者の第2規制面54s,64sが当接し、両者の相対回転が禁止される。
【0045】
ストッパ用切欠65は、支持部62の外周面における円周方向中央部に、内周側に凹むように形成されている。ストッパ用切欠65は、円周方向に所定の長さを有しており、この切欠65をストップピン17が貫通している。したがって、このストッパ用切欠65と、ストップピン17と、によって、入力回転体4と中間回転体6との相対回転を所定の角度範囲に規制するストッパ機構(第1ストッパ機構の一例)が構成されている。
【0046】
<弾性連結部7>
弾性連結部7は、中間回転体6を介して、入力回転体4と出力回転体5との間でトルクを伝達するとともに、回転変動を減衰する。より詳細には、弾性連結部7は、第1弾性ユニット71及び第2弾性ユニット72を有し、中間回転体6を介して入力回転体4と出力回転体5とを回転方向に弾性的に連結している。
【0047】
第1弾性ユニット71及び第2弾性ユニット72は、同様の構成であり、並列に作動する。各弾性ユニット71,72は、それぞれ非圧縮スプリング7nと圧縮スプリング7pとを有している。
【0048】
図6は、入力回転体4と出力回転体5とが相対回転していない中立時の各部材の位置関係を示している。なお、図6では、入力回転体4の各窓部21,22の一部を、二点鎖線で示している。
【0049】
この中立時においては、非圧縮スプリング7nは、中間回転体6の第1支持面62nとフランジ25の第1支持面52nとの間に、圧縮されていない状態で配置されている。なお、中立時においては、中間回転体6とフランジ25(出力回転体5)とは、両者の第1規制面53s,63sが当接している。
【0050】
このとき、非圧縮スプリング7nの円周方向R1側の第1端面7n1は、入力回転体4の第1窓部21の第1支持面211とは間隔をあけて対向している。また、非圧縮スプリング7nの円周方向R2側の第2端面7n2は、入力回転体4の第1窓部21の第2支持面212と当接している。
【0051】
また、中立時において、圧縮スプリング7pは、中間回転体6の第2支持面62pとフランジの第2支持面52pとの間に、圧縮された状態で、すなわち、プリロードを作用させた状態で装着されている。
【0052】
このとき、圧縮スプリング7pの円周方向R1側の第1端面7p1は、入力回転体4の第2窓部22の第1支持面221と当接している。一方、圧縮スプリング7pの円周方向のR2側の第2端面7p2は、入力回転体4の第2窓部22の第2支持面222と円周方向に間隔をあけて対向している。
【0053】
このような構成では、入力回転体4と出力回転体5とが相対回転すると、第1弾性ユニット71及び第2弾性ユニット72の非圧縮スプリング7n及び圧縮スプリング7pは、それぞれ並列で作動する。
【0054】
<ヒス発生機構8>
ヒス発生機構8は、入力回転体4、中間回転体6、及び出力回転体5が相対回転する際に、円周方向の摩擦抵抗であるヒステリシストルクを発生する。ヒス発生機構8は、第1ブッシュ81と、第2ブッシュ82と、第3ブッシュ83と、コーンスプリング84と、を有している。
【0055】
第1ブッシュ81は、クラッチプレート15の内周部と中間回転体6との軸方向間に配置されている。第2ブッシュ82は、中間回転体6とフランジ25との軸方向間に配置されている。第3ブッシュ83は、フランジ25とリティニングプレート16の内周部との軸方向間に配置されている。コーンスプリング84は、第3ブッシュ83とリティニングプレート16との軸方向間に、圧縮された状態で配置されている。このコーンスプリング84によって、各ブッシュ81,82,83が対応する部材に圧接され、各部材が相対回転すると、ヒステリシストルクが発生する。
【0056】
[動作]
この実施形態では、エンジンの回転方向(すなわち、入力回転体4の回転方向)は、図6等に示すR1方向である。以下、図6を参照して動作について説明する。
【0057】
まず、図6に示すように、入力回転体4と出力回転体5とが相対回転していない捩り角度「0」の中立状態では、非圧縮スプリング7nは圧縮されていない。そして、非圧縮スプリング7nの第1端面7n1は、中間回転体6の第1支持面62nに当接し、第2端面7n2は、入力回転体4の第1窓部21の第2支持面212及びフランジ25の第1支持面52nに当接している。また、非圧縮スプリング7nの第1端面7n1は、入力回転体4の第1窓部21の第1支持面211とは間隔をあけて対向している。
【0058】
一方、中立状態において、圧縮スプリング7pはすでに圧縮されており、プリロードが作用している。圧縮スプリング7pの第1端面7p1は、入力回転体4の第2窓部22の第1支持面221及びフランジ25の第2支持面52pに当接している。また、圧縮スプリング7pの第2端面7p2は、中間回転体6の第2支持面62pに当接しているが、入力回転体4の第2窓部22の第2支持面222とは間隔をあけて対向している。
【0059】
<正側捩り特性>
入力回転体4にトルク(正側トルク)が入力されると、入力回転体4は図6のR1方向に回転する。すると、入力回転体4の第1窓部21の第2支持面212が非圧縮スプリング7nをR1方向に押圧する。これにより、非圧縮スプリング7nは、中間回転体6の第1支持面62nとの間で圧縮されながら、中間回転体6をR1方向に回転させる。
【0060】
中間回転体6とフランジ25(出力回転体5)との間には、圧縮スプリング7pが配置されているので、中間回転体6の回転は圧縮スプリング7pを介してフランジ25に伝達される。ここで、圧縮スプリング7pにはプリロードが作用しているので、入力トルクによる荷重がこのプリロードに到達するまでは、圧縮スプリング7pは中立時の状態から圧縮されない。したがって、中間回転体6、圧縮スプリング7p、及びフランジ25(出力回転体5)は、一体となってR1方向に回転し、この回転がトランスミッション側に伝達される。
【0061】
以上のように、入力されるトルクによる荷重が、圧縮スプリング7pのプリロードに到達するまでは、第1弾性ユニット71及び第2弾性ユニット72の2つの非圧縮スプリング7nのみが並列で作動する。このように、エンジンから入力されるトルクが小さい場合、具体的には、図7に示すように、入力されるトルクが小さく、入力回転体4と出力回転体5との捩り角度がθ1までの低トルク範囲では、捩り特性は、2つの非圧縮スプリング7nによる比較的高い剛性の特性C1となる。
【0062】
次に、入力回転体4と出力回転体5との捩り角度が角度θ1になると、中間回転体6のストッパ用切欠65がストップピン17に当接する。このため、これ以降の入力回転体4と中間回転体6との相対回転は禁止され、入力回転体4と中間回転体6とは一体となってR1方向に回転する。これにより、中間回転体6の第2支持面62pと、フランジ25の第2支持面52pと、の間で圧縮スプリング7pが圧縮され、回転がフランジ25(出力回転体5)に伝達される。
以上のように、入力トルクが大きくなって入力回転体4と出力回転体5との捩り角度がθ1を超えると、圧縮スプリング7pが作動し、図7に示すように、捩り特性は、2つの圧縮スプリング7pによる比較的低い剛性の特性C2となる。
【0063】
そして、入力回転体4と出力回転体5との相対回転が所定角度になると、入力回転体4に固定されたストップピン17がフランジ25のストッパ用切欠55の端面に当接し、入力回転体4と出力回転体5との相対回転が禁止される。このため、圧縮スプリング7pの圧縮が禁止される。
【0064】
以上のような捩り特性によって、低トルク範囲での走行時には、高剛性である捩り特性C1によって、ドライバビリティが向上する。ただし、この低トルク範囲においても、非圧縮スプリング7nの作動による剛性が得られるので、発進時のジャダーを抑えることができる。
【0065】
一方、捩り角度θ1を超えた領域での走行時には、低剛性の捩り特性C2によって、効果的にエンジンの回転変動を減衰することができる。
【0066】
<負側捩り特性>
前記とは逆のトルクが入力された場合、すなわち、出力側からトルクが入力された場合、図6において、フランジ25(出力回転体5)からR1方向の回転が入力されることになる。
【0067】
この場合、フランジ25の第1支持面52nが非圧縮スプリング7nの第2端面7n2をR1方向に押圧する。しかし、非圧縮スプリング7nの第1端面7n1と入力回転体4の第1窓部21の第1支持面211とは離れている。また、フランジ25及び中間回転体6の第1規制面53s,63sは互いに当接しており、フランジ25と中間回転体6とは相対回転が禁止されている。このため、非圧縮スプリング7nは作動が禁止され、圧縮されない。
【0068】
ここで、中間回転体6の第2支持面62pと、入力回転体4の第2窓部22の第1支持面221と、の間には圧縮スプリング7pが配置されている。このため、中間回転体6の回転は、圧縮スプリング7pを介して入力回転体4に伝達される。しかし、圧縮スプリング7pは、プリロードが作用しているために、入力されるトルクによる荷重が、プリロードを超えるまでは、圧縮スプリング7pは作動しない。このため、入力されるトルクによる荷重が、圧縮スプリング7pのプリロードに到達するまでは、いずれのスプリングも作動せず、捩り特性は、図7に示す特性C3となる。
【0069】
そして、入力されるトルクによる荷重が、圧縮スプリング7pのプリロードに到達すると、圧縮スプリング7pが、中間回転体6の第2支持面62pと、入力回転体4の第2窓部22の第1支持面221と、の間で圧縮され始める。このため、入力されるトルクによる荷重が、圧縮スプリング7pのプリロードに到達した以降は、図7に示すように、2つの圧縮スプリング7pによる捩り特性C2となる。
【0070】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0071】
(a)前記実施形態では、低トルク範囲において、捩り特性が比較的高い剛性の特性C1のみを有する例を示したが、本件発明はこれに限定されない。
【0072】
たとえば、低トルク範囲において、エンジンがアイドリング状態では、すなわち、ドライバビリティに影響のない非常に小さいトルク範囲では、特性C2よりもさらに低い剛性の捩り特性Ciを有するようにしてもよい。この場合の捩り特性を、図8に示している。
【0073】
このような特性を実現するためには、内周側に、エンジンがアイドリング状態等の場合であって、トルクが非常に小さい範囲に作動するダンパ部を設ければよい。このような内周側のダンパ部は、出力回転体が、ハブとフランジの2つの部材で構成される。そして、それらの間にスプリングが配置されている。
【0074】
(b)前記実施形態では、第1弾性部材の一例として、中立時において圧縮されていない状態で配置された非圧縮スプリングを挙げたが、第1弾性部材は、第2弾性部材(前記実施形態では圧縮スプリング7p)よりも小さい荷重で圧縮された状態で配置されていてもよい。
【0075】
(c)前記実施形態では、各弾性ユニットを2種類のスプリングによって構成したが、スプリングの個数はこの例に限定されない。
【0076】
(d)前記実施形態では、本発明をクラッチディスク組立体に適用したが、別の動力伝達装置のダンパ装置としても本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
3 ダンパ部(ダンパ装置)
4 入力回転体(第1回転体)
5 出力回転体(第2回転体)
52n フランジの第1支持面
52p フランジの第2支持面
53 第1規制部
54 第2規制部
55 ストッパ用切欠
中間回転体
62n 中間回転体の第1支持面
62p 中間回転体の第2支持面
63 第1規制部
64 第2規制部
65 ストッパ用切欠
7 弾性連結部
71 第1弾性ユニット
72 第2弾性ユニット
7n 非圧縮スプリング(第1弾性部材)
7p 圧縮スプリング(第2弾性部材)
17 ストップピン
21 第1窓部
221 第1窓部の第1支持面
222 第1窓部の第2支持面
22 第2窓部
211 第2窓部の第1支持面
212 第2窓部の第2支持面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8