(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】電気作動デバイス用の防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/387 20060101AFI20231026BHJP
F16F 1/38 20060101ALI20231026BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20231026BHJP
H02G 3/22 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
F16F1/387 F
F16F1/38 F
F16F1/387 D
F16F15/08 K
H02G3/22
(21)【出願番号】P 2020049763
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】久米 廷志
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107898(JP,A)
【文献】実開昭58-151725(JP,U)
【文献】特開2007-071395(JP,A)
【文献】特開2015-197194(JP,A)
【文献】特開2004-251425(JP,A)
【文献】特開2013-036550(JP,A)
【文献】特開平08-177918(JP,A)
【文献】特表平08-505923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/387
F16F 1/38
F16F 15/08
H02G 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、
該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、
該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、
該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さ
くされており、且つ、
該第二弾性体は、前記中間スリーブと前記アウタ筒部材との少なくとも一方に接着されている電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項2】
前記第二弾性体が前記中間スリーブに接着されていると共に、前記第二弾性体が前記アウタ筒部材に対して非接着とされており、該アウタ筒部材が縮径されて該第二弾性体の外周面に当接力を及ぼした状態で重ね合わされている請求項
1に記載の電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項3】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、
該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、
該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、
該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さ
くされており、且つ、
前記中間スリーブは、少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したスリーブ延出部を有しており、
該スリーブ延出部が外周側に拡開形状とされて該第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっている電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項4】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、
該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、
該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、
該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さ
くされており、且つ、
前記アウタ筒部材は、少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したアウタ延出部を有しており、
該アウタ延出部が内周側に縮小形状とされて該第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっている電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項5】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、
該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、
該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、
該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さ
くされており、且つ、
前記中間スリーブが少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したスリーブ延出部を有していると共に、前記アウタ筒部材が少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したアウタ延出部を有しており、該スリーブ延出部と該アウタ延出部が軸方向の同じ側に位置し、且つ、該スリーブ延出部と該アウタ延出部とが軸方向において互いに離隔して軸方向視で重なっている電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項6】
インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、
前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、
該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、
該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、
該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さ
くされており、且つ、
前記中間スリーブにスリーブフランジ状部が設けられていると共に、前記アウタ筒部材にアウタフランジ状部が設けられており、
該スリーブフランジ状部と該アウタフランジ状部との軸方向対向面間に該第二弾性体が介在されている電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項7】
前記第一弾性体の軸直角方向の厚さ寸法は、前記第二弾性体の軸直角方向の厚さ寸法よりも大きい請求項1
~6の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置。
【請求項8】
前記第一弾性体がゴムであり、前記第二弾性体がポリウレタンである請求項1~7の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気モータなどの電気作動デバイス用の防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車などの車両では、パワーユニットや路面などから入力される振動を抑えて良好な乗り心地や操縦安定性を実現するために、エンジンマウントなどの防振装置が採用されている。防振装置は、例えば、特開2007-071395号公報(特許文献1)に開示されたブッシュのように、インナ軸部材とアウタ筒部材が弾性体によって連結された構造を有している。
【0003】
また、環境問題への関心の高まり等を背景として、例えば、車両のパワーユニットにおいて内燃機関から電気モータへの移行が進んでいるが、近年の傾向としては、パワーユニットに電気モータを採用する場合にも、一般的に内燃機関の場合と同様な防振装置が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両に適用される防振装置は、優れた防振性能を実現するために、低周波の入力振動に対する高減衰特性と、高周波の入力振動に対する低動バネ特性とが、何れも求められる。
【0006】
ところが、内燃機関に用いられる従来の防振装置では、電気作動デバイスの防振において要求される高減衰特性と低動バネ特性とを、両立して実現することが困難であった。
【0007】
本発明の解決課題は、電気作動デバイスの防振において要求される高減衰特性と低動バネ特性とを実現することができる、新規な構造の電気作動デバイス用の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さくされており、且つ、該第二弾性体は、前記中間スリーブと前記アウタ筒部材との少なくとも一方に接着されているものである。
【0010】
本発明者は、電気作動デバイス用の防振装置に作用する熱が、内燃機関からの高熱に晒される従来の防振装置に作用する熱よりも非常に小さく、電気作動デバイス用の防振装置に対する耐熱性能の要求レベルが従来の防振装置よりも格段に低くなることに着目した。そして、本発明者が検討したところ、従来の防振装置では耐熱性が不十分で採用することができなかった材料であっても、電気作動デバイス用の防振装置には適用可能な場合があり、従来の防振装置よりも構成部材の材質の選択自由度が大きくなるとの知見を得た。この新たな知見に基づいて、本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置は、バネ定数が小さく且つ減衰が大きい第二弾性体を採用することにより、従来の防振装置よりも優れた防振性能を実現することができる。
【0011】
また、弾性体の全体が第二弾性体によって構成されるのではなく、第一弾性体が第二弾性体と併せて採用されている。これにより、荷重に対する歪が第一弾性体と第二弾性体に分散されて、第二弾性体の歪が低減される。それゆえ、例えば、第一弾性体の形成材料に第二弾性体よりも耐久性に優れた材料を選択するなどして、弾性体の耐久性の向上を図ることができる。
【0015】
加えて、本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、中間スリーブとアウタ筒部材との少なくとも一方に対する第二弾性体の接着部分において水等の異物の浸入が防止されて、第二弾性体の耐久性の向上が図られる。第二弾性体が中間スリーブとアウタ筒部材との両方に接着されていれば、第二弾性体と中間スリーブの間および第二弾性体とアウタ筒部材の間のそれぞれにおいて水等の異物の浸入が防止される。第二弾性体が中間スリーブとアウタ筒部材との何れか一方だけに接着されていれば、防振性能の向上が図られ得ると共に、第二弾性体に作用する引張荷重が低減されることによる耐久性の向上が図られる。
【0016】
また、中間スリーブとアウタ筒部材との少なくとも一方に対する第二弾性体の接着部分に水が入らないことから、例えば、水との接触による加水分解が耐久性に影響する材料を、第二弾性体の形成材料として採用し易くなる。それゆえ、第二弾性体の材質の選択自由度が大きくなることによる防振性能の向上なども図られる。
【0017】
第二の態様は、第一の態様に記載された電気作動デバイス用の防振装置において、前記第二弾性体が前記中間スリーブに接着されていると共に、前記第二弾性体が前記アウタ筒部材に対して非接着とされており、該アウタ筒部材が縮径されて該第二弾性体の外周面に当接力を及ぼした状態で重ね合わされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、例えば中間スリーブに接着剤を塗布して第二弾性体を接着することにより、縮径されるアウタ筒部材に対して接着剤を塗布する場合に比して、接着の信頼性を高く得ることができる。
【0019】
第三の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さくされており、且つ、前記中間スリーブは、少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したスリーブ延出部を有しており、該スリーブ延出部が外周側に拡開形状とされて該第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、上記[0010]及び上記[0011]に記載の効果に加えて、第二弾性体の中間スリーブからの抜けが、軸方向におけるスリーブ延出部が設けられた側において、第二弾性体のスリーブ延出部への当接によって阻止される。
【0021】
第四の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さくされており、且つ、前記アウタ筒部材は、少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したアウタ延出部を有しており、該アウタ延出部が内周側に縮小形状とされて該第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、上記[0010]及び上記[0011]に記載の効果に加えて、第二弾性体のアウタ筒部材からの抜けが、軸方向におけるアウタ延出部が設けられた側において、第二弾性体のアウタ延出部への当接によって阻止される。
【0023】
第五の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さくされており、且つ、前記中間スリーブが少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したスリーブ延出部を有していると共に、前記アウタ筒部材が少なくとも軸方向一方の端部において該第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したアウタ延出部を有しており、該スリーブ延出部と該アウタ延出部が軸方向の同じ側に位置し、且つ、該スリーブ延出部と該アウタ延出部とが軸方向において互いに離隔して軸方向視で重なっているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、上記[0010]及び上記[0011]に記載の効果に加えて、第二弾性体のアウタ筒部材および中間スリーブに対する軸方向の抜けが、アウタ延出部とスリーブ延出部によって有効に防止される。また、例えば、スリーブ延出部とアウタ延出部の当接によって、アウタ筒部材と中間スリーブの軸方向の相対変位量を制限することもできる。
【0027】
第六の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さくされており、且つ、前記中間スリーブにスリーブフランジ状部が設けられていると共に、前記アウタ筒部材にアウタフランジ状部が設けられており、該スリーブフランジ状部と該アウタフランジ状部との軸方向対向面間に該第二弾性体が介在されているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、上記[0010]及び上記[0011]に記載の効果に加えて、第二弾性体の中間スリーブに対する軸方向一方への抜けが、スリーブフランジ状部によって防止される。また、スリーブフランジ状部とアウタフランジ状部の間に第二弾性体が介在されていることにより、軸方向やこじり方向の振動入力に対して、第二弾性体による高減衰特性と低動バネ特性を得ることもできる。
また、第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された電気作動デバイス用の防振装置において、前記第一弾性体の軸直角方向の厚さ寸法は、前記第二弾性体の軸直角方向の厚さ寸法よりも大きいものである。
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材の間に対する中心軸回りのねじり方向の入力によって第一弾性体が主として変形する場合に、第一弾性体の厚さ寸法が大きくされていることによって、第一弾性体の歪を抑えることができる。
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された電気作動デバイス用の防振装置において、前記第一弾性体がゴムであり、前記第二弾性体がポリウレタンであるものである。
本態様に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置によれば、第一弾性体がゴム製とされていることにより、第一弾性体において優れた耐久性を得ることができる。また、ポリウレタンによって形成される第二弾性体は、高減衰特性と低動バネ特性に特に優れており、例えば、発泡によって特性をチューニングすることも可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電気作動デバイス用の防振装置において、要求される高減衰特性と低動バネ特性とを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての電気作動デバイス用の防振マウントを示す断面図
【
図2】
図1に示す防振マウントの組立工程を説明する分解斜視図
【
図3】
図1に示す防振マウントを構成する第一弾性体の一体加硫成形品の断面図
【
図4】
図1に示す防振マウントを構成する第二弾性体の断面図
【
図5】
図1に示す防振マウントを構成するアウタ筒部材の断面図
【
図6】防振装置の静動バネ比-減衰特性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1には、本発明に従う構造とされた電気作動デバイス用の防振装置の第一の実施形態として、電気自動車用の防振マウント10(以下、防振マウント10)が示されている。防振マウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が弾性体16によって相互に連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、軸方向とは
図1中の左右方向を言う。
【0033】
インナ軸部材12は、金属等によって形成された高剛性の部材であって、全体として小径の円筒状とされている。インナ軸部材12の軸方向一方(
図1中の左方)の端部には、外周へ向けて突出する円環板状のインナフランジ状部20が一体形成されている。
【0034】
インナ軸部材12には、中間スリーブ22が外挿されている。中間スリーブ22は、例えば鉄等の金属によって形成されている。中間スリーブ22は、インナ軸部材12よりも大径の円筒状とされており、インナ軸部材12のインナフランジ状部20を外れた部分に対して外周へ離隔した位置に配されている。中間スリーブ22は、円環板状とされて外周へ向けて突出するスリーブフランジ状部24が、軸方向一方の端部に一体形成されている。スリーブフランジ状部24は、外周端がインナフランジ状部20よりも外周に位置していると共に、インナフランジ状部20に対して軸方向に離れて対向している。中間スリーブ22は、軸方向他方(
図1中の右方)の端部において、軸方向外方へ延び出すスリーブ延出部26を有している。スリーブ延出部26は、軸方向他方へ向けて外周へ傾斜する拡開形状とされており、延出先端が基端よりも大径とされて外周に位置している。
【0035】
インナ軸部材12と中間スリーブ22の間には、第一弾性体28が配されている。第一弾性体28は、樹脂エラストマー等によって形成されていてもよいが、好適にはゴムによって形成されている。第一弾性体28は、全体として円筒状とされて、内周面がインナ軸部材12に固着されていると共に、外周面が中間スリーブ22に固着されている。これにより、インナ軸部材12と中間スリーブ22は、第一弾性体28によって相互に連結されている。本実施形態の第一弾性体28は、インナ軸部材12と中間スリーブ22を備える一体加硫成形品30として形成されており、第一弾性体28がインナ軸部材12および中間スリーブ22に加硫接着されている。一体加硫成形品30において、インナ軸部材12は、中間スリーブ22よりも軸方向において長くされており、中間スリーブ22に対して軸方向の両側に突出している。なお、一体加硫成形品30の形成時には、中間スリーブ22のスリーブ延出部26は、傾斜断面形状とされておらず、略一定の径寸法で軸方向に延びている(
図3参照)。
【0036】
第一弾性体28は、インナ軸部材12のインナフランジ状部20と中間スリーブ22のスリーブフランジ状部24との軸方向対向面間にも介在されている。インナフランジ状部20とスリーブフランジ状部24の軸方向対向面間における第一弾性体28の外周面は、インナフランジ状部20からスリーブフランジ状部24に向けて次第に大径となるテーパ状面32とされている。
【0037】
アウタ筒部材14は、例えば鉄等の金属によって形成されており、全体として円筒状とされている。アウタ筒部材14は、インナ軸部材12よりも薄肉であり、且つ中間スリーブ22よりも軸方向において短くされている。アウタ筒部材14の軸方向一方の端部には、円環板状とされて外周へ向けて突出するアウタフランジ状部34が一体形成されている。アウタフランジ状部34は、外周端がスリーブフランジ状部24よりも外周に位置していると共に、スリーブフランジ状部24に対して軸方向に離れて対向配置されている。アウタ筒部材14の軸方向他方の端部には、軸方向外方へ延び出すアウタ延出部36が一体形成されている。アウタ延出部36は、延出先端に向けて次第に小径となっており、
図1に示す断面形状が延出先端に向けて内周へ傾斜する縮小形状とされている。
【0038】
中間スリーブ22とアウタ筒部材14の間には、第二弾性体38が配されている。第二弾性体38は、全体として円筒状とされている。第二弾性体38は、円筒状の筒状部40と、筒状部40の軸方向一方の端部において外周へ突出する突出部42とを、一体で備えている。第二弾性体38における筒状部40の軸方向他方の端面が凸形状の湾曲面とされていると共に、第二弾性体38における突出部42の外周面が凸形状の湾曲面とされている。
【0039】
第二弾性体38は、樹脂エラストマー,合成樹脂にゴムをブレンドまたはグラフト重合させた複合材料等によって形成されている。好適には、第二弾性体38は、例えば熱可塑性エラストマー,ポリウレタンなどによって形成され、本実施形態ではポリウレタンによって形成されている。第二弾性体38は、ポリウレタンの発泡体によって形成されていてもよい。第一弾性体28のバネ定数は、第二弾性体38のバネ定数よりも大きくされている。ここで言うバネ定数は、動的バネ定数であって、例えば電気作動デバイスの防振において防振対象となる数百Hz以上の高周波振動の入力に対する動的バネ定数である。さらに、振動入力に対する第一弾性体28の減衰は、第二弾性体38の減衰よりも小さくされている。
【0040】
インナ軸部材12と中間スリーブ22の径方向間における第一弾性体28の径方向厚さ寸法t1は、筒状部40における第二弾性体38の径方向厚さ寸法t2よりも大きくされている。なお、筒状部40における第二弾性体38の厚さ寸法t2は、後述するアウタ筒部材14の縮径加工によって第二弾性体38が径方向に圧縮された状態での厚さ寸法である。もっとも、好適には、変形していない初期状態の第二弾性体38の厚さ寸法t2´(
図4参照)は、第一弾性体28の厚さ寸法t1よりも小さくされる。
【0041】
第二弾性体38は、中間スリーブ22とアウタ筒部材14の間に配されている。すなわち、第二弾性体38は、筒状部40が中間スリーブ22とアウタ筒部材14の径方向対向面間に介在されていると共に、突出部42がスリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34との軸方向対向面間に介在されている。これにより、中間スリーブ22とアウタ筒部材14は、第二弾性体38によって相互に連結されている。したがって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、第一弾性体28と第二弾性体38を有する弾性体16によって相互に連結されており、弾性体16に固着された中間スリーブ22がインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に配されている。
【0042】
第二弾性体38は、筒状部40の軸方向他方の端部が中間スリーブ22とアウタ筒部材14の軸方向他方の端部よりも軸方向の内側に位置している。換言すれば、中間スリーブ22のスリーブ延出部26とアウタ筒部材14のアウタ延出部36は、何れも第二弾性体38の筒状部40よりも軸方向他方の外側まで延び出している。
【0043】
第二弾性体38は、中間スリーブ22に対して接着されていると共に、アウタ筒部材14に対して非接着で重ね合わされている。本実施形態では、第二弾性体38の筒状部40と突出部42の両方が、中間スリーブ22に接着されている。
【0044】
第二弾性体38に外挿されたアウタ筒部材14は、径方向に縮径されて、第二弾性体38に押し付けられている。これにより、アウタ筒部材14は、第二弾性体38の外周面に対して、径方向内方へ向かって作用する当接力を及ぼした状態で重ね合わされている。そして、第二弾性体38は、アウタ筒部材14から及ぼされる当接力によって径方向に圧縮された状態で、中間スリーブ22とアウタ筒部材14の間に介在している。
【0045】
中間スリーブ22のスリーブ延出部26とアウタ筒部材14のアウタ延出部36は、第二弾性体38が中間スリーブ22とアウタ筒部材14の間に配される前には、何れも略一定の直径で直線的に延びる形状とされている(
図3,5参照)。そして、第二弾性体38が中間スリーブ22とアウタ筒部材14の間に配された後、スリーブ延出部26が拡開する傾斜形状に変形されると共に、アウタ延出部36が収縮する傾斜形状に変形される。これにより、スリーブ延出部26とアウタ延出部36は、第二弾性体38の軸方向他方の端面に対して軸方向視において重なっており、第二弾性体38の軸方向他方への抜けがスリーブ延出部26とアウタ延出部36によって防止されている。スリーブ延出部26とアウタ延出部36は、径方向において相互に接近しており、スリーブ延出部26とアウタ延出部36の径方向間の隙間が狭くなっている。また、本実施形態では、アウタ延出部36の基端側が、第二弾性体38の端部外周面に対してテーパ筒状に重ね合わされている。
【0046】
本実施形態において、第二弾性体38の配設後に変形されたスリーブ延出部26とアウタ延出部36は、軸方向視において部分的に重なり合っている。また、スリーブ延出部26がアウタ延出部36よりも軸方向外側に位置しており、スリーブ延出部26とアウタ延出部36が軸方向において互いに離隔している。なお、アウタ延出部36は、中間スリーブ22に対して接することなく離れて配置されており、スリーブ延出部26とアウタ延出部36における軸方向視において重なっている部分は、軸方向において互いに離隔している。
【0047】
このような本実施形態に係る防振マウント10は、例えば、
図2に示すように、それぞれ準備された一体加硫成形品30と第二弾性体38とアウタ筒部材14とを組み合わせて製造される。以下に、防振マウント10の製造方法について、簡単に説明する。
【0048】
先ず、予め準備したインナ軸部材12と中間スリーブ22を第一弾性体28の図示しない成形用金型のキャビティにセットし、成形用金型のキャビティにゴム材料を充填して、第一弾性体28を加硫成形する。これにより、
図3に示すようなインナ軸部材12と中間スリーブ22を備える第一弾性体28の一体加硫成形品30を得る。
【0049】
次に、一体加硫成形品30の中間スリーブ22に対して接着剤を塗布し、予め準備した
図4に示す第二弾性体38を、中間スリーブ22に対して外挿して接着する。第二弾性体38と中間スリーブ22の接着に使用する接着剤は、特に限定されない。接着剤は、中間スリーブ22における第二弾性体38との重ね合わせ面の全体に塗布してもよいし、例えば、中間スリーブ22の外周面に塗布し、スリーブフランジ状部24には塗布しなくてもよい。
【0050】
次に、予め準備した
図5に示すアウタ筒部材14を中間スリーブ22に接着された第二弾性体38に外挿する。本実施形態では、アウタ筒部材14と第二弾性体38を非接着で重ね合わせているが、例えば、アウタ筒部材14と第二弾性体38の重ね合わせ面に接着剤を塗布して、アウタ筒部材14と第二弾性体38を接着してもよい。
【0051】
次に、アウタ筒部材14を縮径加工する。アウタ筒部材14は、八方絞りなどの公知の加工方法で縮径加工されて、第二弾性体38の筒状部40の外周面に押し付けられている。これにより、第二弾性体38の筒状部40は、中間スリーブ22とアウタ筒部材14との間において径方向に圧縮される。
【0052】
また、アウタ筒部材14の縮径加工に際して、アウタ延出部36を延出先端に向けて内周へ傾斜して小径となるように変形させる。これにより、アウタ延出部36の延出先端が第二弾性体38の筒状部40に対して軸方向視において重なる位置に配置される。
【0053】
また、中間スリーブ22のスリーブ延出部26を拡径変形させて、延出先端に向けて外周へ傾斜して大径となるテーパ形状とする。これにより、スリーブ延出部26の延出先端が第二弾性体38の筒状部40に対して軸方向視において重なる位置に配置される。さらに、スリーブ延出部26とアウタ延出部36は、軸方向において相互に離隔し、且つ軸方向視において相互に重なる位置に配置される。
【0054】
以上により、本実施形態に係る防振マウント10を製造することができる。
【0055】
本実施形態に係る防振マウント10は、
図1に示すように、車両に取り付けられる。即ち、インナ軸部材12に挿通されたボルト44が電気作動デバイスとしてのインバーター46に螺着されることによって、インナ軸部材12がインバーター46に固定される。また、アウタ筒部材14は、車両のフレーム部材48の装着孔50に圧入固定される。これらにより、防振マウント10がインバーター46とフレーム部材48の間に介装されており、インバーター46がフレーム部材48に対して防振マウント10を介して防振連結されている。
【0056】
本実施形態では、スリーブ延出部26が拡開形状とされていると共に、アウタ延出部36が縮小形状とされている。それゆえ、スリーブ延出部26とアウタ延出部36が軸方向視において相互に重ね合わされつつ、スリーブ延出部26とフレーム部材48における装着孔50の内周面との距離Dが十分に確保されている。その結果、径方向の振動入力によって中間スリーブ22がフレーム部材48に対して径方向に相対移動しても、中間スリーブ22がフレーム部材48に接触するのを防ぐことができる。
【0057】
そして、インバーター46とフレーム部材48の間において防振マウント10に軸直角方向の振動が入力されると、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間において弾性体16が弾性変形する。低周波振動の入力に際しては、弾性体16の内部摩擦等に基づく高減衰特性に基づいて、目的とする防振効果(振動減衰)が発揮される。高周波振動の入力に際しては、弾性体16の弾性変形時の低動バネ特性に基づいて、目的とする防振効果(振動絶縁)が発揮される。
【0058】
ここにおいて、弾性体16は、第一弾性体28よりもバネ定数が小さく且つ減衰が大きい第二弾性体38を備えている。それゆえ、第二弾性体38を持たない従来の防振装置に比して、低周波数域における低動バネ特性と、高周波数域における高動バネ特性とが、より高度に実現される。したがって、インバーター46等の電気作動デバイス用の防振マウント10に要求される防振性能を、より高度に実現することが可能となる。
【0059】
本実施形態において、第二弾性体38の高減衰特性および低動バネ特性は、第二弾性体38の形成材料が第一弾性体28とは異なるポリウレタンとされていることによって実現されている。ポリウレタンは、従来の内燃機関デバイス用の防振装置に使用すると、内燃機関が発する高熱によって耐久性の確保や特性の維持が難しかった。しかしながら、電気作動デバイス用の防振マウント10には、内燃機関が発するような高熱は作用し得ない。それゆえ、防振マウント10は、従来の防振装置において使用することが困難であったポリウレタンを第二弾性体38の材料として採用可能であり、高減衰特性および低動バネ特性を第二弾性体38によって有利に得ることができる。
【0060】
ポリウレタン製の第二弾性体38は、発泡体とすることも可能であり、その場合には、例えば発泡率を調節するなどして、要求特性をより高度に実現することもでき得る。
【0061】
また、弾性体16は、全体が第二弾性体38によって形成されているのではなく、内周側の第一弾性体28と外周側の第二弾性体38とによって構成されている。そして、荷重に対する歪が第一弾性体28と第二弾性体38に分散することにより、第二弾性体38の歪が低減される。したがって、例えば第一弾性体28を耐久性に優れた材料で形成するなどすれば、第二弾性体38によって優れた防振性能を実現しつつ、弾性体16の耐久性の向上を図ることができる。
【0062】
本実施形態では、第一弾性体28が優れた耐久性を有するゴムによって形成されていることから、弾性体16の耐久性を有利に確保することができる。特に、ねじり方向の入力に対しても、ゴム製の第一弾性体28が主として変形するようにすれば、高い耐久性を実現することができる。
【0063】
第一弾性体28が第二弾性体38よりも内周に配されていることによって、第一弾性体28の径方向の厚さ寸法は、同じボリューム(体積)の第二弾性体38の径方向の厚さ寸法よりも大きくされる。本実施形態では、第一弾性体28の厚さ寸法t1が、第二弾性体38の厚さ寸法t2よりも大きくされている。それゆえ、第一弾性体28がねじり方向の入力に対して主として変形する場合に、厚肉とされた第一弾性体28の歪が低減されて、第一弾性体28の耐久性の向上が図られる。
【0064】
第一弾性体28におけるインナフランジ状部20とスリーブフランジ状部24の対向面間に固着された部分の軸方向幅寸法w1は、第二弾性体38におけるスリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34の対向面間に固着された突出部42の軸方向幅寸法w2よりも大きくされている。これにより、ねじり方向の入力に対する第一弾性体28のひずみが、インナフランジ状部20とスリーブフランジ状部24の間においても低減されて、第一弾性体28の耐久性の更なる向上が図られている。
【0065】
中間スリーブ22のスリーブフランジ状部24が第二弾性体38の軸方向一方の端面に重ね合わされていることにより、第二弾性体38の中間スリーブ22に対する軸方向一方への移動が規制されており、第二弾性体38の軸方向一方への抜けが防止されている。
【0066】
中間スリーブ22の軸方向他方の端部には、スリーブ延出部26が設けられており、スリーブ延出部26が拡径されて外周側へ傾斜している。これにより、第二弾性体38の中間スリーブ22に対する軸方向他方への抜けが、スリーブ延出部26によって防止されている。
【0067】
アウタ筒部材14の軸方向他方の端部には、アウタ延出部36が設けられており、アウタ延出部36が拡径されて外周側へ傾斜している。これにより、第二弾性体38のアウタ筒部材14に対する軸方向他方への抜けが、アウタ延出部36によって防止されている。特に、アウタ延出部36が第二弾性体38の端部外周面に当接状態で重ね合わされていることにより、第二弾性体38のアウタ筒部材14に対する軸方向他方への移動がより効果的に防止されている。また、第二弾性体38の他方の軸方向端部がアウタ延出部36によって大きく圧縮されることにより、第二弾性体38の筒状部40が径方向に圧縮される際に、筒状部40が軸方向の他方側へ伸び難く、第二弾性体38が効率的に予圧縮される。
【0068】
アウタ筒部材14と中間スリーブ22は、スリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34が軸方向において相互に対向していると共に、スリーブ延出部26とアウタ延出部36は、軸方向視において所定の径方向幅寸法dだけ重なっている。それゆえ、アウタ筒部材14と中間スリーブ22の抜けは、スリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34の当接またはスリーブ延出部26とアウタ延出部36の当接によって防止される。もっとも、通常の使用状態では、軸方向の振動入力によってアウタ筒部材14と中間スリーブ22が軸方向に相対変位したとしても、スリーブ延出部26とアウタ延出部36は軸方向において相互に離れた状態に保持される。
【0069】
スリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34の対向面間には、第二弾性体38の突出部42が介在している。これにより、軸方向やこじり方向の振動入力に対しても、第二弾性体38の高減衰特性や低動バネ特性に基づく優れた防振性能が発揮される。
【0070】
第二弾性体38は、中間スリーブ22に対して接着されている。それゆえ、第二弾性体38と中間スリーブ22の重ね合わせ面間に対する水等の異物の浸入が防止されて、第二弾性体38の加水分解や摩耗等による耐久性の低下が防止される。
【0071】
第二弾性体38は、アウタ筒部材14に対して非接着で重ね合わされており、振動入力時に第二弾性体38の外周面とアウタ筒部材14の内周面が相対的に移動し得る。それゆえ、第二弾性体38がアウタ筒部材14の内周面に対して打ち当たったり(ジャンピング作用)、摺動したりすることによる防振効果の発揮も期待できる。
【0072】
なお、
図6には、本発明に係る電気作動デバイス用の防振装置と従来の防振装置について、バネ定数としての静動バネ比(動倍率)と減衰としてのtanδの相関を実験によって測定した結果が、グラフとして示されている。
図6において、実線で示された実施例は本発明に係る複数の防振装置の測定結果を、破線で示された比較例は従来の複数の防振装置の測定結果を、それぞれ測定値の分布領域として示す。また、実施例は、第一の実施形態に示した防振マウント10と略同一構造であり、第一弾性体がゴム製、第二弾性体がポリウレタン製である。比較例は、中間スリーブを持たず、インナ軸部材とアウタ筒部材がゴム製の弾性体によって直接的に連結された構造とされている。
【0073】
図6のグラフによれば、実施例は、比較例に比して、高減衰と低静動バネ比とを両立して実現可能であることが分かる。したがって、実施例に係る防振装置は、比較例に係る従来構造の防振装置に比して、優れた防振性能を備えている。このように、実験による測定結果によっても、本発明に係る電気作動デバイス用の防振装置は、内燃機関作動デバイスに用いられる従来の防振装置に比して、優れた防振性能を実現可能であることが、確認された。
【0074】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第二弾性体38の形成材料は、ポリウレタンに限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリウレタン以外の各種の熱硬化性樹脂を採用することも可能である。また、電気作動デバイス用の防振装置は、内燃機関からの熱を受ける従来の防振装置よりも作用する熱が小さいことから、従来は採用困難であった熱可塑性エラストマーによって第二弾性体38を形成することも可能である。また、例えば、第二弾性体38をゴムと合成樹脂の複合材料によって形成することもできる。
【0075】
スリーブフランジ状部24とアウタフランジ状部34は必須ではなく、例えば、中間スリーブ22の軸方向両側にスリーブ延出部26が設けられ、アウタ筒部材14の軸方向両側にアウタ延出部36が設けられていてもよい。
【0076】
前記実施形態では、スリーブ延出部26がアウタ延出部36よりも軸方向他方の外側に突出していたが、例えば、アウタ延出部36がスリーブ延出部26よりも軸方向他方の外側に突出していてもよい。
【0077】
スリーブ延出部26とアウタ延出部36は必須ではない。例えば、スリーブ延出部26とアウタ延出部36の何れか一方だけが設けられていてもよいし、何れも設けられていなくてもよい。また、中間スリーブ22とアウタ筒部材14の軸方向他方の端部が何れも内周へ向けて傾斜する縮小形状とされていてもよい。
【0078】
スリーブ延出部26とアウタ延出部36は、全周にわたる環状に限定されない。例えば、周方向において部分的に延出部26,36を設けてもよい。
【0079】
第二弾性体38は、中間スリーブ22とアウタ筒部材14の両方に対して接着されていてもよいし、中間スリーブ22とアウタ筒部材14の両方に対して非接着とされていてもよい。また、第二弾性体38は、アウタ筒部材14だけに接着されていてもよい。同様に、第一弾性体28は、インナ軸部材12と中間スリーブ22の少なくとも一方に接着されていてもよいし、両方に対して非接着であってもよい。
【0080】
インナ軸部材12は、例えば、車両のパワーユニットを構成する電気モーター,電気モーターを制御するパワーコントロールユニット(PCU)など、インバーター46以外の電気作動デバイスにも取り付けられ得る。要するに、電気作動デバイス用の防振装置は、インバーターマウント,モーターマウント,PCUマウント等の何れにも適用され得る。なお、振動源は、インナ軸部材12側に取り付けられてもよいし、アウタ筒部材14側に取り付けられてもよい。
また、本発明は、もともと以下(i)~(ix)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) インナ軸部材とアウタ筒部材とが弾性体によって連結された電気作動デバイス用の防振装置であって、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との間に中間スリーブが配されており、該インナ軸部材と該中間スリーブとを弾性連結する第一弾性体と、該中間スリーブと該アウタ筒部材とを弾性連結する第二弾性体とによって、前記弾性体が構成されていると共に、該第一弾性体のバネ定数が該第二弾性体のバネ定数よりも大きく、該第一弾性体の減衰が該第二弾性体の減衰よりも小さい電気作動デバイス用の防振装置、
(ii) 前記第一弾性体の軸直角方向の厚さ寸法は、前記第二弾性体の軸直角方向の厚さ寸法よりも大きい(i)に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(iii) 前記第二弾性体は、前記中間スリーブと前記アウタ筒部材との少なくとも一方に接着されている(i)又は(ii)に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(iv) 前記第二弾性体が前記中間スリーブに接着されていると共に、前記第二弾性体が前記アウタ筒部材に対して非接着とされており、該アウタ筒部材が縮径されて該第二弾性体の外周面に当接力を及ぼした状態で重ね合わされている(iii)に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(v) 前記中間スリーブは、少なくとも軸方向一方の端部において前記第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したスリーブ延出部を有しており、該スリーブ延出部が外周側に拡開形状とされて前記第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっている(i)~(iv)の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(vi) 前記アウタ筒部材は、少なくとも軸方向一方の端部において前記第二弾性体よりも軸方向外方に延び出したアウタ延出部を有しており、該アウタ延出部が内周側に縮小形状とされて前記第二弾性体の軸方向端面に対して軸方向視で重なっている(i)~(v)の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(vii) 前記中間スリーブが(v)に記載の前記スリーブ延出部を有していると共に、前記アウタ筒部材が(vi)に記載の前記アウタ延出部を有しており、該スリーブ延出部と該アウタ延出部が軸方向の同じ側に位置し、且つ、該スリーブ延出部と該アウタ延出部とが軸方向において互いに離隔して軸方向視で重なっている請求項(i)~(iv)の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(viii) 前記第一弾性体がゴムであり、前記第二弾性体がポリウレタンである(i)~(vii)の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
(ix) 前記中間スリーブにスリーブフランジ状部が設けられていると共に、前記アウタ筒部材にアウタフランジ状部が設けられており、該スリーブフランジ状部と該アウタフランジ状部との軸方向対向面間に前記第二弾性体が介在されている(i)~(viii)の何れか一項に記載の電気作動デバイス用の防振装置、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、バネ定数が小さく且つ減衰が大きい第二弾性体を採用することにより、従来の防振装置よりも優れた防振性能を実現することができる。また、弾性体の全体が第二弾性体によって構成されるのではなく、第一弾性体が第二弾性体と併せて採用されている。これにより、荷重に対する歪が第一弾性体と第二弾性体に分散されて、第二弾性体の歪が低減される。それゆえ、例えば、第一弾性体の形成材料に第二弾性体よりも耐久性に優れた材料を選択するなどして、弾性体の耐久性の向上を図ることができる。
上記(ii)に記載の発明では、例えば、インナ軸部材とアウタ筒部材の間に対する中心軸回りのねじり方向の入力によって第一弾性体が主として変形する場合に、第一弾性体の厚さ寸法が大きくされていることによって、第一弾性体の歪を抑えることができる。
上記(iii)に記載の発明では、中間スリーブとアウタ筒部材との少なくとも一方に対する第二弾性体の接着部分において水等の異物の浸入が防止されて、第二弾性体の耐久性の向上が図られる。第二弾性体が中間スリーブとアウタ筒部材との両方に接着されていれば、第二弾性体と中間スリーブの間および第二弾性体とアウタ筒部材の間のそれぞれにおいて水等の異物の浸入が防止される。第二弾性体が中間スリーブとアウタ筒部材との何れか一方だけに接着されていれば、防振性能の向上が図られ得ると共に、第二弾性体に作用する引張荷重が低減されることによる耐久性の向上が図られる。また、中間スリーブとアウタ筒部材との少なくとも一方に対する第二弾性体の接着部分に水が入らないことから、例えば、水との接触による加水分解が耐久性に影響する材料を、第二弾性体の形成材料として採用し易くなる。それゆえ、第二弾性体の材質の選択自由度が大きくなることによる防振性能の向上なども図られる。
上記(iv)に記載の発明では、例えば中間スリーブに接着剤を塗布して第二弾性体を接着することにより、縮径されるアウタ筒部材に対して接着剤を塗布する場合に比して、接着の信頼性を高く得ることができる。
上記(v)に記載の発明では、第二弾性体の中間スリーブからの抜けが、軸方向におけるスリーブ延出部が設けられた側において、第二弾性体のスリーブ延出部への当接によって阻止される。
上記(vi)に記載の発明では、第二弾性体のアウタ筒部材からの抜けが、軸方向におけるアウタ延出部が設けられた側において、第二弾性体のアウタ延出部への当接によって阻止される。
上記(vii)に記載の発明では、第二弾性体のアウタ筒部材および中間スリーブに対する軸方向の抜けが、アウタ延出部とスリーブ延出部によって有効に防止される。また、例えば、スリーブ延出部とアウタ延出部の当接によって、アウタ筒部材と中間スリーブの軸方向の相対変位量を制限することもできる。
上記(viii)に記載の発明では、第一弾性体がゴム製とされていることにより、第一弾性体において優れた耐久性を得ることができる。また、ポリウレタンによって形成される第二弾性体は、高減衰特性と低動バネ特性に特に優れており、例えば、発泡によって特性をチューニングすることも可能である。
上記(ix)に記載の発明では、第二弾性体の中間スリーブに対する軸方向一方への抜けが、スリーブフランジ状部によって防止される。また、スリーブフランジ状部とアウタフランジ状部の間に第二弾性体が介在されていることにより、軸方向やこじり方向の振動入力に対して、第二弾性体による高減衰特性と低動バネ特性を得ることもできる。
【符号の説明】
【0081】
10 防振マウント(電気作動デバイス用の防振装置)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 弾性体
20 インナフランジ状部
22 中間スリーブ
24 スリーブフランジ状部
26 スリーブ延出部
28 第一弾性体
30 一体加硫成形品
32 テーパ状面
34 アウタフランジ状部
36 アウタ延出部
38 第二弾性体
40 筒状部
42 突出部
44 ボルト
46 インバーター(電気作動デバイス)
48 フレーム部材
50 装着孔