IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図1
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図2
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図3
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図4
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図5
  • 特許-ハイブリッド車両およびその制御方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20231026BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20231026BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231026BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231026BHJP
   B60W 20/12 20160101ALI20231026BHJP
   B60W 30/085 20120101ALI20231026BHJP
   B60W 30/20 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/442 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/12
B60W30/085
B60W30/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020063744
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160536
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 史滋
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116538(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/00
B60K 6/442
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/12
B60W 30/085
B60W 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能なハイブリッド車両であって、
エンジンと、
前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、
前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、
前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させ、
前記要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する
ことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記所定上昇ステップは、現在のエンジン回転数と前記要求駆動力の増加時のエンジン回転数との差より小さい値である
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記要求駆動力の増加を中止した場合、それまでに上昇させた前記エンジンの回転数を所定下降ステップで順次下げる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記所定下降ステップは前記所定上昇ステップより小さい
ことを特徴とする請求項に記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記要求駆動力の増加が追い越し時に必要であり、前記追い越しを実行すると追越車線の前方あるいは後方の車両と衝突の可能性がある場合、前記追い越しが可能となるまで前記追い越し制御を待機する
ことを特徴とする請求項1-4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能であり、エンジンと、
前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、を備えたハイブリッド車両における、前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行する制御方法であって、
前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させ、
前記要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【請求項7】
前記所定上昇ステップは、現在のエンジン回転数と前記要求駆動力の増加時のエンジン回転数との差より小さい値である
ことを特徴とする請求項6に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項8】
前記要求駆動力の増加を中止した場合、それまでに上昇させた前記エンジンの回転数を所定下降ステップで順次下げる
ことを特徴とする請求項6または7に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項9】
前記所定下降ステップは前記所定上昇ステップより小さい
ことを特徴とする請求項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項10】
前記要求駆動力の増加が追い越し時に必要であり、前記追い越しを実行すると追越車線の前方あるいは後方の車両と衝突の可能性がある場合、前記追い越しが可能となるまで前記追い越し制御を待機する
ことを特徴とする請求項6-9のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項11】
車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能であり、エンジンと、
前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行するプロセッサとを備えたハイブリッド車両における前記プロセッサを機能させるプログラムであって、
前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させる機能と、
要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する機能と、
を前記プロセッサに実現する
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動運転走行における車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転車両では自車の走行状態および周囲の状況を認識することで、次に実行すべき行動を事前に計算し実行することができる。たとえば自動運転車両が追越走行をする場合、周囲の状況に応じて追越実行の可否判断、追越を実行する場合の加速度計算などが必要である。たとえば特許文献1に開示された走行制御装置によれば、自動運転車両が追越走行をする場合、後方車両の走行状態に応じて追越を実行するか実行しないかを判断し、後方車両が接近してきた場合にどの程度の加速走行が必要かを事前に計算し適切な走行制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-119303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HEV(Hybrid Electrical Vehicle;以下、ハイブリッド車両という。)では、自動運転中に追い越しを実行する場合、電動機(以下、モータという。)の要求駆動力を増加させて車両を加速する。その際の加速に必要な電力は、内燃機関(以下、エンジンという。)の回転数NEを上げて発電量を増加させることで得ている。しかしながら、要求駆動力の増加によりエンジン回転数NEが大きく上昇すると、乗員はエンジン音や振動が急に大きくなったような違和感を覚え、乗り心地の劣化につながる。
【0005】
本発明の目的は、要求駆動力の増加時にエンジン音および振動の変化を抑制することができる車両の制御方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能なハイブリッド車両であって、エンジンと、前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行する制御装置(100)と、を備え、前記制御装置(100)は、前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させ、前記要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する。
本発明の第二の態様によれば、車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能であり、エンジンと、前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、を備えたハイブリッド車両における、前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行する制御方法であって、前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させ、前記要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する。
本発明の第三の態様によれば、車両の少なくとも加減速を自動的に制御する自動運転制御が可能であり、エンジンと、前記エンジンの回転により発電するジェネレータと、前記ジェネレータの発電電力およびバッテリの蓄積電力の少なくとも一方により走行駆動力を出力するモータと、前記自動運転制御とともに前記エンジンおよび前記モータの制御を実行するプロセッサとを備えたハイブリッド車両における前記プロセッサを機能させるプログラムであって、前記自動運転制御を実施中に、要求駆動力の増加が必要であると予測される場合、前記要求駆動力の増加タイミングまで、前記ハイブリッド車両の車速を維持あるいは減速しつつ、前記エンジンの回転数を所定上昇ステップで順次上昇させる機能と、要求駆動力の増加タイミングで、少なくとも前記ジェネレータの発電電力を前記モータへ供給する機能と、を前記プロセッサに実現する。
これにより、要求駆動力の増加タイミングまでの間にエンジン回転数を上昇させておくことができるので、要求駆動力の増加時のエンジン回転数の急激な上昇を回避でき、エンジン音および振動の大きな変化を抑制できる。
前記所定上昇ステップは、現在のエンジン回転数と前記要求駆動力の増加時のエンジン回転数との差より小さい値であることが望ましい。これにより要求駆動力の増加タイミングまでにエンジン回転数が徐々に上昇するので乗員に気付かれ難くなる。
前記制御装置(100)は、前記要求駆動力の増加を中止した場合、それまでに上昇させた前記エンジンの回転数を所定下降ステップで順次下げ、前記所定下降ステップは前記所定上昇ステップより小さいことが望ましい。要求駆動力の増加が中止されるとエンジン回転数が徐々に下降し、その下降ステップが上昇ステップより小さいことで乗員に気付かれ難くなる。
前記制御装置(100)は、前記要求駆動力の増加が追い越し時に必要であり、前記追い越しを実行すると追越車線の前方あるいは後方の車両と衝突の可能性がある場合、前記追い越しが可能となるまで前記追い越し制御を待機することが望ましい。これにより、追い越し制御開始タイミングまでの間にエンジン回転数を上昇させておくことができるので、追い越し制御開始時のエンジン回転数の急激な上昇を回避でき、エンジン音および振動の大きな変化を抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように、本発明によれば、要求駆動力の増加時にエンジン音および振動の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態による車両の制御装置における自動運転制御に関する機能構成図である。
図2】本発明の一実施形態による制御装置を用いたハイブリッド車両の内部構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図3】本実施形態による制御方法を説明するために追い越し走行の手順を示す模式図である。
図4】本実施形態による制御方法の一例を示すフローチャートである。
図5】本実施形態による制御方法によるハイブリッド車両の加速待機時および加速実行時の制御状態を例示する波形図である。
図6】本実施形態による制御方法によるハイブリッド車両の加速待機時および加速中止時の制御状態を例示する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施形態の概要
エンジンの回転による発電電力を車両駆動用のモータへ供給可能なハイブリッド車両において、自動運転中にモータの要求駆動力を必要とするまで時間がある場合、要求駆動力の増加タイミングまでの間にエンジン回転数を徐々に上昇させる。これにより、実際に駆動力を増加させた時、要求駆動力に必要なエンジン回転数までの上昇幅を縮小できる。このようにエンジン回転数の急激な上昇が緩和されることでエンジン音および振動の大きな変化を抑制できる。
【0010】
以下、本発明の前提となる自動運転制御とハイブリッド車両の一例について図1および図2を参照しながら説明し、それに続いて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
2.自動運転制御
図1に例示するように、車両1は二輪、三輪あるいは四輪等の自動車であり、本実施形態では後述するようにエンジン(内燃機関)およびモータ(電動機)を兼ね備えたハイブリッド車両である。ただし、自動運転制御の適用は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等を駆動源とした自動車であってもよいし、二次電池、水素燃料電池、金属燃料電池、アルコール燃料電池等から得られる電力を使用してモータを駆動する電気自動車であってもよい。
【0012】
<車両の装置構成>
車両1には自動運転制御を含む車両制御を行う車両制御装置100の他に以下の装置、機器群が搭載されている。
・車両1の外部から各種情報を取り入れるための手段(外部状況取得部12、経路情報取得部13、走行状態取得部14等が含まれ、その他ボタン、ダイヤルスイッチ、GUI(Graphical User Interface)スイッチ等を含んでもよい。)、
・操作デバイス(アクセルペダル70、ブレーキペダル72、ステアリングホイール74、切替スイッチ80等)、
・操作検出センサ(アクセルペダル70のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ71、ブレーキペダル72の踏量を検出するブレーキ踏量センサ(ブレーキスイッチ)73、ステアリングホイール74の操舵角を検出するステアリング操舵角センサ(またはステアリングトルクセンサ)75)、
・報知装置(出力部)82、
・車両1の駆動又は操舵を行うための装置(走行用駆動力出力装置(駆動装置)90、ステアリング装置92、ブレーキ装置94)、および
・これらの装置や機器を接続する通信線およびネットワーク(CAN(Controller Area Network)、無線通信網等)。
【0013】
外部状況取得部12は、車両1の外部状況、例えば走行路の車線や車両周辺の物体といった車両周辺の環境情報を取得するように構成され、例えば各種カメラ(単眼カメラ、ステレオカメラ、赤外線カメラ等)や各種レーダ(ミリ波レーダ、マイクロ波レーダ、レーザレーダ等)等を備える。また、カメラにより得られた情報とレーダにより得られた情報を統合するフュージョンセンサを使用することも可能である。
【0014】
経路情報取得部13はナビゲーション装置を含む。ナビゲーション装置はGNSS(Global Navigation Satellite System)受信機、地図情報(ナビ地図)、ユーザインターフェースとして機能するタッチパネル式表示装置、スピーカ、マイク等を有する。ナビゲーション装置はGNSS受信機によって車両1の位置を特定し、その位置からユーザによって指定された目的地までの経路を導出する。ナビゲーション装置により導出された経路は、経路情報144として記憶部140に格納される。車両1の位置は、走行状態取得部14の出力を利用したINS(Inertial Navigation System)によって特定または補完されてもよい。また、ナビゲーション装置は、車両制御装置100が手動運転制御を実行している場合に目的地に至る経路について音声やナビ表示によって案内を行う。なお、車両1の位置を特定するための構成は、ナビゲーション装置とは独立して設けられてもよい。また、ナビゲーション装置は、例えばユーザの保有するスマートフォンやタブレット端末等の端末装置の一機能によって実現されてもよい。この場合、端末装置と車両制御装置100との間で無線または有線による通信によって情報の送受信が行われる。
【0015】
走行状態取得部14は車両1の現在の走行状態を取得するように構成される。走行状態取得部14は、走行位置取得部26、車速取得部28、ヨーレート取得部30、操舵角取得部32、および走行軌道取得部34を含む。
【0016】
走行位置取得部26は、走行状態の1つである車両1の走行位置及び車両1の姿勢(進行方向)を取得するように構成される。走行位置取得部26は、各種測位装置、例えば衛星や路上装置から送信される電磁波を受信して位置情報(緯度、経度、高度、座標等)を取得する装置(GPS受信機、GNSS受信機、ビーコン受信機等)、ジャイロセンサ、加速度センサ等を備える。車両1の走行位置は車両1の特定部位を基準に測定される。
【0017】
車速取得部28は、走行状態の1つである車両1の速度(以下、車速という。)を取得するように構成される。車速取得部28は、例えば1以上の車輪に設けられる速度センサ等を備える。
【0018】
ヨーレート取得部30は、走行状態の1つである車両1のヨーレートを取得するように構成される。ヨーレート取得部30は、例えばヨーレートセンサ等を備える。
【0019】
操舵角取得部32は、走行状態の1つである操舵角を取得するように構成される。操舵角取得部32は、例えばステアリングシャフトに設けられる操舵角センサ等を備える。ここでは、取得された操舵角に基づいて操舵角速度及び操舵角加速度も取得される。
【0020】
走行軌道取得部34は、走行状態の1つである車両1の実走行軌道の情報(実走行軌道)を取得するように構成される。実走行軌道とは、実際に車両1が走行した軌道(軌跡)を含み、これから走行する予定の軌道、例えば走行した軌道(軌跡)の進行方向前側の延長線を含んでいてもよい。走行軌道取得部34はメモリを備える。メモリは実走行軌道に含まれる一連の点列の位置情報を記憶する。また、延長線はコンピュータ等により予測可能である。
【0021】
操作検出センサであるアクセル開度センサ71、ブレーキ踏量センサ73およびステアリング操舵角センサ75は、検出結果としてのアクセル開度、ブレーキ踏量およびステアリング操舵角をそれぞれ車両制御装置100に出力する。
【0022】
切替スイッチ80は、車両1の乗員によって操作されるスイッチである。切替スイッチ80は、乗員の操作を受け付け、受け付けた操作内容から運転モード(例えば、自動運転制御と手動運転制御)を切り替えることができる。切替スイッチ80は、乗員の操作内容から車両1の運転モードを指定する運転モード指定信号を生成し、車両制御装置100に出力する。
【0023】
また、車両1は、運転者によりシフトレバーを介して操作されるシフト装置60を備える。シフト装置60におけるシフトレバー(図示せず)のポジションには、図1に示すように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(自動変速モード(ノーマルモード)での前進走行)、S(スポーツモードでの前進走行)などがある。シフト装置60の近傍には、シフトポジションセンサ205が設けられる。シフトポジションセンサ205は、運転者によって操作されるシフトレバーのポジションを検出する。車両制御装置100は、シフトポジションセンサ205で検出されたシフトポジションの情報を入力する。
【0024】
報知装置82は種々の情報を出力可能な装置あるいは機器群である。報知装置82は、例えば車両1の乗員に、自動運転制御から手動運転制御への移行を促すための情報を出力する。報知装置82としては、例えばスピーカ、バイブレータ、表示装置、発光装置等のうち少なくとも1つが用いられる。
【0025】
走行用駆動力出力装置(駆動装置)90は、本実施形態におけるハイブリッド車両1では、図2に示すように、駆動源としてのエンジンENGおよび第1、第2モータジェネレータMG1,MG2を備えている。なお、これ以外にも、走行用駆動力出力装置90としては、車両1が電動機(モータ)を駆動源とした電気自動車である場合には、走行用モータと走行用モータを制御するモータECUとを備えていてよい。また、走行用駆動力出力装置90がエンジン及び自動変速機で構成されている場合は、エンジンおよび該エンジンを制御するFI-ECU(Electronic Control Unit)と、自動変速機および該自動変速機を制御するAT-ECUとを備えていてよい。
【0026】
ステアリング装置92は、例えば電動モータを備える。電動モータは、例えばラックアンドピニオン機構に力を作用させて転舵輪の向きを変更する。ステアリング装置92は走行制御部120から入力される情報に従って電動モータを駆動させ、転舵輪の向きを変更する。
【0027】
ブレーキ装置94は、例えばブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、制動制御部とを備える電動サーボブレーキ装置である。電動サーボブレーキ装置の制動制御部は、走行制御部120から入力される情報に従って電動モータを制御し、制動操作に応じた制動力を出力するブレーキトルク(制動力出力装置)が各車輪に出力されるようにする。電動サーボブレーキ装置は、ブレーキペダル72の操作によって発生させた油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップとして備えてよい。なお、ブレーキ装置94は、上記説明した電動サーボブレーキ装置に限らず、電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。電子制御式油圧ブレーキ装置は、走行制御部120から入力される情報に従ってアクチュエータを制御して、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する。また、ブレーキ装置94は、走行用駆動力出力装置90が走行用モータを備える場合は、当該走行用モータによる回生ブレーキを含んでもよい。
【0028】
<制御装置>
次に、車両制御装置100について説明する。車両制御装置100は、自動運転制御部110、走行制御部120および記憶部140を備える。自動運転制御部110は、自車位置認識部112、外界認識部114、行動計画生成部116および目標走行状態設定部118を備える。自動運転制御部110と走行制御部120の一部または全部とは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現され得る。また、これらのうち一部または全部はLSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよい。また、記憶部140は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等で実現され得る。プロセッサが実行するプログラムは、予め記憶部140に格納されていてもよいし、車載インターネット設備等を介して外部装置からダウンロードされてもよい。また、プログラムは、そのプログラムを格納した可搬型記憶媒体が図示しないドライブ装置に装着されることで記憶部140にインストールされてもよい。また、車両制御装置100は、複数のコンピュータ装置によって分散化されたものであってもよい。これにより、車両1の車載コンピュータに対して、上述したハードウェア機能部と、プログラム等からなるソフトウェアとを協働させて、本実施形態における各種処理を実現することもできる。
【0029】
自動運転制御部110は、切替スイッチ80からの信号の入力に従い、運転モードを切り替えることができる。運転モードとしては、車両1の加減速および操舵を自動的に制御する自動運転モード(自動運転制御)と、車両1の加減速をアクセルペダル70やブレーキペダル72等の操作デバイスに対する操作に基づいて制御し、操舵をステアリングホイール74等の操作デバイスに対する操作に基づいて制御する手動運転モード(手動運転制御)とがあるが、これに限定されるものではない。他の運転モードとして、例えば、車両1の加減速および操舵のうち一方を自動的に制御し、他方を操作デバイスに対する操作に基づいて制御する半自動運転モード(半自動運転制御)を含んでいてもよい。
【0030】
自動運転制御部110の自車位置認識部112は、記憶部140に格納された地図情報142と、外部状況取得部12、経路情報取得部13または走行状態取得部14から入力される情報とに基づいて、車両1が走行している車線(走行車線)および走行車線に対する車両1の相対位置を認識する。地図情報142は、例えば、経路情報取得部13が有するナビ地図よりも高精度な地図情報であり、車線の中央の情報あるいは車線の境界の情報等を含んでいる。より具体的には、地図情報142には、道路情報や、交通規制情報、住所情報(住所・郵便番号)、施設情報、電話番号情報等が含まれる。道路情報には、高速道路、有料道路、国道、都道府県道といった道路の種別を表す情報や、道路の車線数、各車線の幅員、道路の勾配、道路の位置(経度、緯度、高さを含む3次元座標)、車線のカーブの曲率、車線の合流および分岐ポイントの位置、道路に設けられた標識等の情報が含まれる。交通規制情報には、工事や交通事故、渋滞等によって車線が封鎖されているといった情報が含まれる。
【0031】
自車位置認識部112は、例えば、車両1の基準点(例えば重心)の走行車線中央からの乖離、および車両1の進行方向の走行車線中央を連ねた線に対してなす角度を、走行車線に対する車両1の相対位置として認識する。なお、これに代えて、自車位置認識部112は、自車線の何れかの側端部に対する車両1の基準点の位置等を、走行車線に対する車両1の相対位置として認識してもよい。
【0032】
外界認識部114は、外部状況取得部12等から入力される情報に基づいて、周辺車両の位置、および速度、加速度等の状態を認識する。本実施形態における周辺車両とは、車両1の周辺を走行する他の車両であって、車両1と同じ方向に走行する車両である。なお、特に本実施形態における周辺車両とは、車両1が追い越そうとする前方車両と、車両1を追い越そうとする後方車両である。周辺車両の位置は、車両1の重心やコーナー等の代表点で表されてもよいし、車両1の輪郭で表現された領域で表されてもよい。周辺車両の「状態」とは、上記各種機器の情報に基づいて周辺車両の加速度、車線変更をしているか否か(あるいは車線変更をしようとしているか否か)を含んでもよい。また、外界認識部114は、周辺車両に加えて、ガードレールや電柱、駐車車両、歩行者その他の物体の位置を認識してもよい。
【0033】
行動計画生成部116は、自動運転の開始地点、自動運転の終了予定地点、および/または自動運転の目的地を設定する。自動運転の開始地点は、車両1の現在位置であってもよいし、車両1の乗員により自動運転を指示する操作がなされた地点でもよい。行動計画生成部116は、その開始地点と終了予定地点の間の区間や、開始地点と自動運転の目的地との間の区間において、行動計画を生成する。なお、これに限定されるものではなく、行動計画生成部116は、任意の区間について行動計画を生成してもよい。
【0034】
行動計画は、例えば、順次実行される複数のイベントで構成される。イベントには、例えば、車両1を減速させる減速イベントや、車両1を加速させる加速イベント、走行車線を逸脱しないように車両1を走行させるレーンキープイベント、走行車線を変更させる車線変更イベント、車両1に前走車両を追い越させる追い越しイベント、分岐ポイントにおいて所望の車線に変更させたり、現在の走行車線を逸脱しないように車両1を走行させたりする分岐イベント、本線に合流するための合流車線において車両1を加減速させ、走行車線を変更させる合流イベント等が含まれる。例えば、有料道路(例えば高速道路等)においてジャンクション(分岐点)が存在する場合、車両制御装置100は、車両1を目的地の方向に進行するように車線を変更したり、車線を維持したりする。従って、行動計画生成部116は、地図情報142を参照して経路上にジャンクションが存在していると判明した場合、現在の車両1の位置(座標)から当該ジャンクションの位置(座標)までの間に、目的地の方向に進行することができる所望の車線に車線変更するための車線変更イベントを設定する。なお、行動計画生成部116によって生成された行動計画を示す情報は、行動計画情報146として記憶部140に格納される。
【0035】
目標走行状態設定部118は、行動計画生成部116により決定された行動計画と、外部状況取得部12、経路情報取得部13および走行状態取得部14により取得される各種情報に基づいて、車両1の目標とする走行状態である目標走行状態を設定するように構成される。目標走行状態設定部118は、目標値設定部52と目標軌道設定部54とを含む。また、目標走行状態設定部118は、偏差取得部42、補正部44も含む。
【0036】
目標値設定部52は、車両1が目標とする走行位置(緯度、経度、高度、座標等)の情報(単に目標位置ともいう。)、車速の目標値情報(単に目標車速ともいう。)、ヨーレートの目標値情報(単に目標ヨーレートともいう。)を設定するように構成される。目標軌道設定部54は、外部状況取得部12により取得される外部状況、及び、経路情報取得部13により取得される走行経路情報に基づいて、車両1の目標軌道の情報(単に目標軌道ともいう。)を設定するように構成される。目標軌道は、単位時間毎の目標位置の情報を含む。各目標位置には、車両1の姿勢情報(進行方向)が対応づけられる。また、各目標位置に車速、加速度、ヨーレート、横G、操舵角、操舵角速度、操舵角加速度等の目標値情報が対応づけられてもよい。上述した目標位置、目標車速、目標ヨーレート、目標軌道は目標走行状態を示す情報である。
【0037】
偏差取得部42は、目標走行状態設定部118で設定される目標走行状態と、走行状態取得部14で取得される実走行状態とに基づいて、目標走行状態に対する実走行状態の偏差を取得するように構成される。
【0038】
補正部44は、偏差取得部42により取得される偏差に応じて、目標走行状態を補正するように構成される。具体的には、偏差が大きくなるほど、目標走行状態設定部118により設定された目標走行状態を、走行状態取得部14により取得された実走行状態に近づけて、新たな目標走行状態を設定する。
【0039】
走行制御部120は、車両1の走行を制御するように構成される。具体的には、車両1の走行状態を、目標走行状態設定部118により設定された目標走行状態、又は、補正部44により設定された新たな目標走行状態に一致あるいは近づけるように走行制御の指令値を出力する。走行制御部120は、加減速指令部56と、操舵指令部58とを含む。
【0040】
加減速指令部56は、車両1の走行制御のうち、加減速制御を行うように構成される。具体的には、加減速指令部56は、目標走行状態設定部118又は補正部44により設定された目標走行状態(目標加減速度)と実走行状態(実加減度)とに基づいて、車両1の走行状態を目標走行状態に一致させるための加減速度指令値を演算する。
【0041】
操舵指令部58は、車両1の走行制御のうち、操舵制御を行うように構成される。具体的には、操舵指令部58は、目標走行状態設定部118又は補正部44により設定された目標走行状態と、実走行状態とに基づいて、車両1の走行状態を目標走行状態に一致させるための操舵角速度指令値を演算する。
【0042】
<ハイブリッド車両の駆動系および電源系>
図2において、車両1の走行用駆動力出力装置(駆動装置)90の構成が概略的に示される。一般に、ハイブリッド車両は、モータジェネレータ及びエンジンを備え、車両の走行状態に応じてモータジェネレータ及び/又はエンジンの動力によって走行する。HEVには、大きく分けてシリーズ方式とパラレル方式の2種類がある。シリーズ方式のHEVは、モータジェネレータの動力によって走行する。エンジンは主に発電のために用いられ、エンジンの動力によって別のモータジェネレータで発電された電力はバッテリに充電されるか、モータジェネレータに供給される。一方、パラレル方式のHEVは、モータジェネレータ及びエンジンのいずれか一方又は双方の動力によって走行する。
【0043】
そして、本実施形態の車両1は、上記のシリーズ方式とパラレル方式とを切り換え可能なHEVである。すなわち、車両1の走行用駆動力出力装置(駆動装置)90は、走行状態に応じてクラッチを開放又は締結する(断接する)ことによって、動力の伝達系統をシリーズ方式及びパラレル方式のいずれかの構成に切り替えることが可能である。
【0044】
図2に示す走行用駆動力出力装置90は、回転する動力を出力する原動機(駆動源)であるエンジンENGと、第一モータジェネレータMG1と、第二モータジェネレータMG2と、ロックアップクラッチ(以下、単に「クラッチ」という)CLと、ギアボックス(以下、単に「ギア」という。)GBと、車速センサ7と、バッテリセンサ8と、エンジン回転数(NE)センサ9と、バッテリ(蓄電装置)BATと、電圧制御ユニット(Voltage Control Unit)VCUと、第一インバータINV1と、第二インバータINV2とを備える。なお、図2中の太い実線は機械連結を示し、二重破線は電力配線を示し、細い実線の矢印は制御信号又は検出信号を示す。
【0045】
エンジンENGは、クラッチCLが切断された状態で、第一モータジェネレータMG1を発電機として駆動する。但し、クラッチCLが締結されると、エンジンENGが出力した動力は車両1が走行するための機械エネルギとして第一モータジェネレータMG1、クラッチCL、ギアGB、第二モータジェネレータMG2、ディファレンシャル機構5及びドライブシャフト6Rおよび6Lを介して、駆動輪WLおよびWRに伝達される。
【0046】
第一モータジェネレータMG1は、エンジンENGの動力によって駆動され、電力を発生する。また、第一モータジェネレータMG1は車両1の制動時には電動機として動作し得る。
【0047】
第二モータジェネレータMG2は、バッテリBATおよび第一モータジェネレータMG1の少なくとも一方からの電力供給によって電動機として動作し、車両1が走行するための動力を発生する。第二モータジェネレータMG2で発生したトルクは、ディファレンシャル機構5及びドライブシャフト6R,6Lを介して、駆動輪WL,WRに伝達される。また、第二モータジェネレータMG2は車両1の制動時には発電機として動作し得る。
【0048】
クラッチCLは、車両制御装置100からの指示に応じて、エンジンENGから駆動輪WL,WRまでの動力の伝達経路を切断又は締結する(断接する)。クラッチCLが切断状態であれば、エンジンENGが出力した動力は駆動輪WR,WLに伝達されず、クラッチCLが接続状態であれば、エンジンENGが出力した動力は駆動輪WL,WRに伝達される。ギアGBは、変速段又は固定段を含み、エンジンENGからの動力を所定の変速比で変速して駆動輪WL,WRに伝達する。ギアGBにおける変速比は車両制御装置100からの指示に応じて変更される。
【0049】
バッテリBATは、直列に接続された複数の蓄電セルを有し、例えば100~200Vの高電圧を供給する。蓄電セルは、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池である。
【0050】
車速センサ7は車両1の走行速度(車速V)を検出する。なお、車速Vは駆動輪WL,WRの回転数と線形に対応する。車速センサ7によって検出された車速Vを示す信号は車両制御装置100に送られる。
【0051】
バッテリセンサ8はバッテリBATの出力(端子電圧,充放電電流)を検出する。バッテリセンサ8が検知した端子電圧や充放電電流等を示す信号はバッテリ情報(e.g.残容量の割合SOC(State Of Charge))として車両制御装置100に送られる。
【0052】
回転数センサ9はエンジンENGの回転数NEを検出する。回転数センサ9によって検出された回転数NEを示す信号は車両制御装置100に送られる。
【0053】
バッテリ制御ユニットVCUは、第二モータジェネレータMG2が電動機として動作する際にバッテリBATの出力電圧を昇圧する。また、バッテリ制御ユニットVCUは、車両1の制動時に第二モータジェネレータMG2が発電して直流に変換された回生電力をバッテリBATに充電する場合、第二モータジェネレータMG2の出力電圧を降圧する。さらに、バッテリ制御ユニットVCUは、エンジンENGの駆動によって第一モータジェネレータMG1が発電して直流に変換された電力を降圧する。バッテリ制御ユニットVCUによって降圧された電力はバッテリBATに充電される。
【0054】
車両制御装置100は、エンジンENGの駆動制御、第一インバータINV1の制御による第一モータジェネレータMG1の出力制御、クラッチCLの断接制御、並びに、第二インバータINV2の制御による第二モータジェネレータMG2の出力制御を行う。また、車両制御装置100は、AP開度、回転数センサ9からのエンジン回転数NEおよび車速センサ7からの車速Vを示す信号を入力し、走行位置取得部26からの現在の加速度、周辺車両の状態、加速度指令および行動計画に基づいて、エンジンENG、第一モータジェネレータMG1及び第二モータジェネレータMG2の各出力を制御する。
【0055】
本実施形態の車両1の走行用駆動力出力装置90は、エンジンENG、第一モータジェネレータMG1及び第二モータジェネレータMG2を含む駆動源の使用形態がそれぞれ異なる「EV走行モード(電動機走行モード)」、「シリーズ走行モード」及び「エンジン走行モード(パラレル走行モード)」のいずれか運転モードで車両1を走行させる。
【0056】
車両1がEV走行モードで走行する際、第一モータジェネレータMG1及び/又は第二モータジェネレータMG2からの動力によって走行する。車両1がシリーズ走行モードで走行する際、クラッチCLは開放され、第一モータジェネレータMG1からの動力によって走行する。シリーズ走行モード時には、後述するように、車速VとAP開度に応じた要求出力に対応した動力を第二モータジェネレータMG2が出力するべく、エンジンENGの運転によって第一モータジェネレータMG1が発電した電力が第二モータジェネレータMG2に供給される。なお、シリーズ走行モードは、車両1の要求出力が所定値以上又は車速Vが所定値以上であるときに選択される。車両1がエンジン走行モードで走行する際、クラッチCLは締結され、エンジンENGからの動力によって走行する。
【0057】
<自動運転制御>
車両1では、自動運転制御が選択された場合、自動運転制御部110は車両1の自動運転制御を行う。この自動運転制御では、自動運転制御部110は、外部状況取得部12、経路情報取得部13、走行状態取得部14などから取得した情報、あるいは自車位置認識部112及び外界認識部114で認識した情報に基づいて、車両1の現在の走行状態(実走行軌道や走行位置等)を把握する。目標走行状態設定部118は、行動計画生成部116で生成した行動計画に基づいて、車両1の目標とする走行状態である目標走行状態(目標軌道や目標位置)を設定する。偏差取得部42は、目標走行状態に対する実走行状態の偏差を取得する。走行制御部120は、偏差取得部42により偏差が取得される場合に、車両1の走行状態を目標走行状態に一致あるいは近づけるように走行制御を行う。
【0058】
補正部44は、走行位置取得部26により取得される走行位置に基づいて目標軌道又は目標位置を補正する。走行制御部120は、新たな目標軌道又は目標位置に車両1が追従するように、車速取得部により取得される車速等に基づいて、走行用駆動力出力装置90及びブレーキ装置94による車両1の加減速制御を行う。
【0059】
また、補正部44は、走行位置取得部26により取得される走行位置に基づいて目標軌道を補正する。走行制御部120は、新たな目標軌道に車両1が追従するように、操舵角取得部32により取得される操舵角速度に基づいて、ステアリング装置92による操舵制御を行う。
【0060】
3.一実施形態
以下、本発明の一実施形態による制御方法について詳細に説明する。本実施形態による制御方法は上述したシステムに実装可能である。ここでは追越イベント時の加速・駆動力制御について説明するが、本発明は追い越しの場合だけでなく、駆動力の急な増加が予想される状況であれば適用可能である。
【0061】
3.1)追越制御
図3において、車両Aが本実施形態による制御方法を実装した上記車両1であり、車両Bが追い越すべき前方車両であり、車両Cが車両Aを追い越そうと接近しつつある後方車両あるいは追越車線を走行している前方車両である。このような周辺車両は上述したように外界認識部114によって認識されている。
【0062】
通常走行301において、本実施形態による車両Aが前方車両Bを追い越す判断をした時、外界認識部114が後方車両Cの接近を認識したとする。車両制御装置100は、後方車両Cが自車両を追い越すべく接近しつつあると判断すると、後方車両Cが追い越すまでの期間、追い越しのための加速を中止する(加速待機302および303)。そして車両Cが追い越した後、車両制御装置100は追い越し可能と判断すると、追越車線へ車線変更し、要求駆動力を増加させて加速して追い越しを実行する(加速追い越し304)。なお、追越車線を走行する前方車両Cを認識した場合は、前方車両Cが通行車線に戻ったときに追い越しを実行すればよい。
【0063】
本実施形態によれば、図3における加速待機302および303の状態にある期間、エンジンENGの回転数NEを徐々に上昇させておく。これにより、実際に加速追い越しをする場合、その時のエンジン回転数NEを要求駆動力に必要なエンジン回転数まで上昇させるだけで加速に必要な電力を得ることができる。こうしてエンジン回転数NEの急激な上昇が抑制され、エンジン音および振動の急変による乗員の違和感が緩和される。
【0064】
加速待機中の回転数NEの上昇率あるいは上昇ステップ(以下、適宜、ΔNEUPと記す。)は、一般的な乗員に違和感のない程度に設定される。たとえば、上昇ステップΔNEUPは、現在の駆動力と要求駆動力にそれぞれ対応するエンジン回転数NEの差より小さい値である。具体的には、現在の駆動力と要求駆動力にそれぞれ対応するエンジン回転数NEの差を2以上の所望の数で分割することにより上昇ステップΔNEUPを求めてもよい。ΔNEUPは小さいほど、すなわち分割数が大きいほど、乗員の違和感も小さくなるが、その反面、加速時の回転数NEの上昇幅が大きくなり乗員の違和感が増大する。したがって、ΔNEUPの大きさは加速待機中の乗員の違和感と加速時の違和感とのバランスを考慮して決定される。ΔNEUPは一定でも良いし、変化させてもよい。また、要求駆動力およびその上昇タイミングが予測できる場合には、ΔNEUPをそれらの予測値から計算してもよい。
【0065】
本実施形態による制御方法は上述した車両制御装置100により実施される。その制御機能は車両制御装置100のプロセッサ上でメモリに格納されたプログラムを実行することにより実現可能である。以下、本実施形態による制御方法の一例について図4を参照しながら説明する。
【0066】
図4において、自動運転制御部110は、前方車両Bの追越を判断した場合(動作401のYES)、まず目標加速度・駆動力(要求駆動力)を計算し(動作402)、続いて外部状況取得部12からの情報により周囲状況を認識し、追越車線に接近しつつある後方車両Cがあるか否かを判断する(動作403)。後方車両Cがあれば(動作403のYES)、自動運転制御部110は追越加速の実行を待機する(動作404)。
【0067】
加速待機になると、車両制御装置100は、第二モータジェネレータMG2の駆動力と車速Vとを一定に維持しつつ、エンジンENGの回転数NEをΔNEUPだけ上昇させる(動作405)。エンジンENGに連結されたモータジェネレータMG1で発電された電力は電圧制御ユニットVCUを介してバッテリBATに充電される(動作406)。以上の動作401~406が繰り返されることで、追越加速を待機している間、車速Vおよび駆動力が一定に維持されつつ、エンジン回転数NEがΔNEUPずつ(違和感なく)上昇し、そのときの発電電力がバッテリBATに蓄えられる。なお、前方車両Bに接近しすぎないように、あるいは後方車両Cを早く通過させるように、加速待機期間で車両Aの車速Vを下げてもよい。
【0068】
後方車両がなくなり追越可能と判断されると(動作403のNO)、自動運転制御部110は、行動計画に従って、動作402で算出された目標加速・駆動力で加速・駆動力制御を実行する(動作407)。加速・駆動力制御(動作407)は追越が完了するまで実行される(動作408)。
【0069】
追い越しを実行しないと判断されれば(動作401のNO)、車両制御装置100は自動運転用の発電が済んでいるか否かを判断する(動作409)。自動運転用発電済みであれば(動作409のYES)、車両制御装置100は加速を中止したと判断し、第二モータジェネレータMG2の駆動力と車速Vとを一定に維持しつつ、エンジンENGの回転数NEをΔNEDOWNだけ低下させる(動作410)。したがって、加速を中止すると、車速Vが一定に維持されるが、エンジン回転数NEはΔNEDOWNずつ(違和感なく)降下する(動作401のNO、動作409のYES、動作410)。なお、エンジン回転数NEを降下させる時の幅ΔNEDOWNは、上昇させるときの幅ΔNEUPより小さいことが望ましい。加速が中止されたのでエンジン回転数NEをゆっくり下げてもよいからであるが、上昇時よりも更に緩慢に低下させる方が乗員に気付かれないからでもある。また、自動運転用発電が済んでいない場合(動作409のNO)、次の追越判断まで動作401および409を繰り返す(動作401のNO、動作409のNO)。
【0070】
以上、追い越し時の制御を一例として説明したが、本発明は、駆動力の急な増加が予測され、それまでに時間がある状況であれば適用可能である。以下、一般的な場合を想定し、加速待機後に加速を実行する場合の車両1の状態変化について図5を参照しながら説明する。
【0071】
3.2)加速待機および加速実行
図5に例示するように、時点t1で加速待機の判断をしたとすれば、車両制御装置100は必要となる要求駆動力を予め計算しておき、エンジン回転数NEをΔNEUP幅で徐々に上昇させる(c)。それに伴って第一モータジェネレータMG1の発電電力が上昇し(d)、それによってバッテリBATのバッテリ残量SOCが上昇する(e)。その間、駆動力および車速Vは変化しないように制御される。
【0072】
時点t2で加速のために第二モータジェネレータMG2の実際の駆動力が立ち上がり、時点t3で要求駆動力に到達するものとする(b)。図5(c)に示すように、時点t1~t2の加速待機の間にエンジン回転数NEはすでに上昇している。したがって、時点t2に実際の駆動力が立ち上がると、要求駆動力に必要なエンジン回転数まで大きく上昇する必要はない。すなわち、時点t2~t3間のエンジン回転数NEは、図5(c)に示すように急激に上昇することなく、エンジン音および振動の急変による乗員の違和感は緩和される。
【0073】
従来では時点t2~t3間にエンジン回転数NEが急に上昇し(図5(c)の破線)、これによってエンジン音および振動が急変して乗員の大きな違和感の原因となっていた。このような違和感は本実施形態により大幅に軽減される。
【0074】
3.3)加速中止
図6に例示するように、時点t1で加速待機の判断をしたが、時点t4で加速の中止を判断したとする。この場合、時点t4までエンジン回転数NEを上昇させてきたので、車両制御装置100は回転数NEを徐々に下降させる。本実施形態によれば、上述したように上昇時のΔNEUPより小さいΔNEDOWNでエンジン回転数NEを下降させる。エンジン回転数NEの下降に従ってモータジェネレータMG1の発電電力も低下し(d)、それによってバッテリBATのバッテリ残量SOCの上昇が鈍化する(e)。
【0075】
4.効果
上述したように、本発明の実施形態によれば、ハイブリッド車両が自動運転中に要求駆動力の必要な変化タイミングまで時間がある場合、その変化タイミングまでの間にエンジン回転数を徐々に上昇させておくことで、実際に駆動力を増加させる時のエンジン回転数の急激な上昇を緩和することができ、エンジン音および振動の大きな変化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
100 車両制御装置
110 自動運転制御部
120 走行制御部
ENG エンジン(内燃機関)
MG1 第一モータジェネレータ
MG2 第二モータジェネレータ
BAT バッテリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6