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特許7373459頭部を後方から挟み込むフレームを備えた生体信号取得装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】頭部を後方から挟み込むフレームを備えた生体信号取得装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/389 20210101AFI20231026BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20231026BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61B5/389
A61B5/256 110
H04R1/00 317
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020085132
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021178058
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】若松 大作
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0353128(US,A1)
【文献】特開2014-132954(JP,A)
【文献】特開2019-017945(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017627(WO,A1)
【文献】特開2009-033504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0107716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05-5/0538
5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の頭部に取り付けて生体信号を取得可能な生体信号取得装置であって、
当該装置が当該頭部に取り付けられた際、それぞれ左右の耳介の付け根に当接することになる左耳掛け部及び右耳掛け部、並びに、該左耳掛け部の後方部分と該右耳掛け部の後方部分とを当該頭部の後方に回り込んで繋ぐことになるフレーム繋ぎ部を備えた、当該頭部を挟み込むような弾性を有するフレームと、
前記左耳掛け部の前方の端部、該端部若しくは該端部近傍より伸びたアーム、前記右耳掛け部の前方の端部、及び、該端部若しくは該端部近傍より伸びたアームのうちの少なくとも一箇所に設けられており、耳穴の前方となる皮膚位置に接触可能なように配された、当該生体信号を受信するための少なくとも1つの電極部と、
前記フレームに設けられており、当該電極部と電気的に接続していて当該生体信号を取り込み可能な信号取得部と
を有し、
前記フレームは、導電材料をもって形成されていて前記信号取得部と電気的に接続したフレーム本体と、当該フレーム本体の開口部に挿入されていて当該電極部及び前記信号取得部を電気的に接続する電線とから構成され、前記左耳掛け部及び前記右耳掛け部のうちの一方又は両方となっている当該フレーム本体の部分は、耳介の付け根に対し電気的に接続する形で当接可能なグランド電極となっている
ことを特徴とする生体信号取得装置。
【請求項2】
その両端がそれぞれ、前記左耳掛け部の前方部分、及び前記右耳掛け部の前方部分に接続された、伸縮性を有するバンドであって、当該装置が当該頭部に取り付けられた際、顔の額に当接することになるバンドを更に有することを特徴とする請求項1に記載の生体信号取得装置。
【請求項3】
前記バンドは導電性を有し、その両端がそれぞれ、前記左耳掛け部の前方部分、及び、前記右耳掛け部の前方部分と電気的にも接続されており、当該装置が当該頭部に取り付けられた際、顔の額に対し電気的に接続する形で当接可能なグランド電極になることを特徴とする請求項に記載の生体信号取得装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電極部は、前記左耳掛け部の前方の端部に、又は該端部若しくは該端部近傍より伸びたアームの端部に取り付けられた左電極部と、前記右耳掛け部の前方の端部に、又は該端部若しくは該端部近傍より伸びたアームの端部に取り付けられた右電極部とを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの電極部は、前記左耳掛け部の前方の端部に取り付けられた第1の左電極部と、該端部若しくは該端部近傍より前方に伸びたアームの端部に取り付けられた第2の左電極部と、前記右耳掛け部の前方の端部に取り付けられた第1の右電極部と、該端部若しくは該端部近傍より前方に伸びたアームの端部に取り付けられた第2の右電極部とを含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項6】
前記左耳掛け部の前方の端部及び前記右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に取り付けられており、耳穴に向かう側に音声出力部を備えたスピーカを更に有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項7】
前記左耳掛け部の前方の端部及び前記右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に取り付けられており、耳穴の前方となる皮膚位置に振動を付与可能なように配された骨伝導スピーカを更に有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項8】
前記左耳掛け部の前方の端部及び前記右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に、当該骨伝導スピーカとともに当該電極部が取り付けられており、
当該骨伝導スピーカの振動出力部は、当該電極部を介して接触した皮膚位置を振動させる
ことを特徴とする請求項に記載の生体信号取得装置。
【請求項9】
当該フレーム本体は、金属及び/又は導電性樹脂をもって形成されていて、当該グランド電極となっている部分と前記信号取得部とを電気的に接続していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項10】
当該電極部の皮膚接触側の面に、当該電極部の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズを低減させるための導電ゲル部分が設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項11】
前記信号取得部は、当該電極部の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズ及び外来のノイズをフィルタリングするためのフィルタ処理部を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【請求項12】
当該電極部を介して受信される生体信号は、口角上げ、噛み締め若しくは食い縛り、咀嚼、及び瞬目のうちの少なくとも1つに起因して発生する筋電信号であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の生体信号取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人等の生体信号を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間や動物の各種活動に起因する種々の生体信号をセンサによって検出し、信号処理して得られる生体データを様々な場面で利用する技術が開発されている。例えば、センサによって検出された生体信号を、ユーザの携帯するスマートフォンに搭載されたアプリによって処理・加工し、それより生成された有用情報をユーザに提示するといったサービスも考案されている。
【0003】
このような生体信号検出用のセンサを具備したデバイスとして、本願発明者等は、特許文献1に示したような筋電センサを搭載したヘッドフォン型のデバイスや、特許文献2に示したようなフレームと電極とを繋ぐ弾性支持体を備えたメガネ型の生体信号取得装置等を開発している。これらのデバイス・装置によれば、例えば筋電センサによってユーザの顔から取得された筋電信号を用いて、笑みや噛み締めといった顔表情や、無表情状態等を識別することも可能となっている。
【0004】
また、上記の特許文献1に示したヘッドフォン型のデバイスは、装着したユーザの携帯するスマートフォンに接続され、コンテンツ再生アプリの実行によって生成される音声信号を受信してユーザに音声を提供することもできる。さらに、コンテンツの再生中に筋電信号の検出処理を行い、例えばユーザが再生されたコンテンツに対して抱く感想や感情を推測することも可能となっている。
【0005】
また、特許文献3には、左右側頭筋上にセンサを配置し、咀嚼による筋肉の盛り上がりに起因する接触圧変化を静電容量変化によって捉え、食事者の咀嚼に関する情報、例えば偏咀嚼(左右の一方に偏った咀嚼)についての情報を取得するカチューシャ型の食生活管理装置が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、咀嚼による下顎の動きの変化を測距センサで捉え、咀嚼に関する情報を取得する片耳かけ型の生体装着型計測装置が開示されている。ここで、この装置を左右の耳それぞれに装着した際の2つの出力電圧波形を比較することによって、偏咀嚼の判定を行うことも可能となっている。
【0007】
また、特許文献5には、骨伝導スピーカ及びマイクを備えた骨伝導ヘッドセットシステムが開示されている。さらに、特許文献6には、咀嚼動作に関連する筋肉の電気活動を計測する咀嚼動作計測装置が開示されている。ここで、この装置では、両側の外耳道若しくは耳介又はそれらの周辺部位にそれぞれ装着される電位検出手段が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-029323号公報
【文献】特開2019-017945号公報
【文献】特開2018-033568号公報
【文献】特開2016-140478号公報
【文献】国際公開第2018/079577号
【文献】特開2020-000431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上説明したように従来、装着者の頭部から筋肉の動きといったような生体情報を検出可能な種々の計測装置が開発されてきたが、これらの装置においてもなお、所望の生体情報を確実に取得することと、装着感を向上させることを両立させることは非常に困難であった。
【0010】
例えば、特許文献1に示されたようなヘッドフォン型の生体信号取得装置においては、イヤカップが設けられているので、例えば咀嚼時において咀嚼音がイヤカップ内に反響してしまい、装着者にとって聴覚の点で快適さに欠けるものとなっていた。また、外部の音も聞こえづらく、食事中の会話を妨げるといったような問題も生じていた。さらに、ヘッドフォン型であるが故に、例えば咀嚼や口角上げに係る筋電信号を計測するのに好適であるもみあげ前方の頬骨の位置に、検出用の電極を配置することも困難となっていた。
【0011】
また、特許文献2に示されたようなメガネ型の生体信号取得装置においては、メガネフレームが視界を少なからず遮るので、視覚の点で快適な装着感を達成しているとは言えなかった。さらに、メガネを常用しているユーザにとって、当該メガネを掛けている間はこの装置を装着できないとの問題も生じていた。またさらに、装着者の頭部はそのサイズが様々であり、当該サイズに合っていないメガネ型の生体信号取得装置では、生体信号を安定して取得することも容易ではなく、また、装着感も快適であるとは言えなかった。
【0012】
さらに、特許文献3~6に示されたようなカチューシャ型や耳掛け型等の装置においては、上記のヘッドフォン型やメガネ型の装置と比較して、装着感の問題はその多くが解消されているが、生体信号の安定的な取得の点で問題が生じてしまう。例えば、咀嚼や口角上げに係る筋電信号を計測するのに好適であるもみあげ前方の頬骨の位置に、検出用電極を配置することは困難であった。
【0013】
そこで、本発明は、より良好な装着感を実現しつつ、生体信号を安定的に取得可能な生体信号取得装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、生体の頭部に取り付けて生体信号を取得可能な生体信号取得装置であって、
当該装置が当該頭部に取り付けられた際、それぞれ左右の耳介の付け根に当接することになる左耳掛け部及び右耳掛け部、並びに、この左耳掛け部の後方部分とこの右耳掛け部の後方部分とを当該頭部の後方に回り込んで繋ぐことになるフレーム繋ぎ部を備えた、当該頭部を挟み込むような弾性を有するフレームと、
左耳掛け部の前方の端部、この端部若しくはこの端部近傍より伸びたアーム、右耳掛け部の前方の端部、及び、この端部若しくはこの端部近傍より伸びたアームのうちの少なくとも一箇所に設けられており、耳穴の前方となる皮膚位置に接触可能なように配された、当該生体信号を受信するための少なくとも1つの電極部と、
フレームに設けられており、当該電極部と電気的に接続していて当該生体信号を取り込み可能な信号取得部と
を有し、
フレームは、導電材料をもって形成されていて信号取得部と電気的に接続したフレーム本体と、当該フレーム本体の開口部に挿入されていて当該電極部及び信号取得部を電気的に接続する電線とから構成され、左耳掛け部及び右耳掛け部のうちの一方又は両方となっている当該フレーム本体の部分は、耳介の付け根に対し電気的に接続する形で当接可能なグランド電極となっている
ことを特徴とする生体信号取得装置が提供される。
【0016】
さらに、本発明による生体信号取得装置は、その両端がそれぞれ、左耳掛け部の前方部分、及び右耳掛け部の前方部分に接続された、伸縮性を有するバンドであって、本装置が当該頭部に取り付けられた際、顔の額に当接することになるバンドを更に有することも好ましい。
【0017】
また、上記のバンドは導電性を有し、その両端がそれぞれ、左耳掛け部の前方部分、及び、右耳掛け部の前方部分と電気的にも接続されており、当該装置が当該頭部に取り付けられた際、顔の額に対し電気的に接続する形で当接可能なグランド電極になることも好ましい。
【0018】
さらに、本発明による生体信号取得装置の一実施形態として、少なくとも1つの電極部は、
(a)左耳掛け部の前方の端部に、又はこの端部若しくはこの端部近傍より伸びたアームの端部に取り付けられた左電極部と、
(b)右耳掛け部の前方の端部に、又はこの端部若しくはこの端部近傍より伸びたアームの端部に取り付けられた右電極部と
を含むことも好ましい。
【0019】
さらにまた、本発明による生体信号取得装置の他の実施形態として、少なくとも1つの電極部は、
(a)左耳掛け部の前方の端部に取り付けられた第1の左電極部と、
(b)左耳掛け部の前方の端部若しくはこの端部近傍より前方に伸びたアームの端部に取り付けられた第2の左電極部と、
(c)右耳掛け部の前方の端部に取り付けられた第1の右電極部と、
(d)右耳掛け部の前方の端部若しくはこの端部近傍より前方に伸びたアームの端部に取り付けられた第2の右電極部と
を含むことも好ましい。
【0020】
また、本発明による生体信号取得装置は、左耳掛け部の前方の端部及び右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に取り付けられており、耳穴に向かう側に音声出力部を備えたスピーカを更に有することも好ましい。
【0021】
さらに、本発明による生体信号取得装置は、左耳掛け部の前方の端部及び右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に取り付けられており、耳穴の前方となる皮膚位置に振動を付与可能なように配された骨伝導スピーカを更に有することも好ましい。
【0022】
ここで、上記の骨伝導スピーカを有する実施形態において、左耳掛け部の前方の端部及び右耳掛け部の前方の端部のうちの一方又は両方に、当該骨伝導スピーカとともに当該電極部が取り付けられており、当該骨伝導スピーカの振動出力部は、当該電極部を介して接触した皮膚位置を振動させることも好ましい。
【0023】
また、本発明による生体信号取得装置において、当該フレーム本体は、金属及び/又は導電性樹脂をもって形成されていて、当該グランド電極となっている部分と信号取得部とを電気的に接続していることも好ましい。
【0024】
さらに、本発明に係る電極部の好適な一態様として、当該電極部の皮膚接触側の面に、当該電極部の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズを低減させるための導電ゲル部分が設けられていることも好ましい。
【0025】
また、本発明に係る信号取得部は、当該電極部の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズ及び外来のノイズをフィルタリングするためのフィルタ処理部を有することも好ましい。
【0026】
さらに、本発明による生体信号取得装置において、当該電極部を介して受信される生体信号は、口角上げ、噛み締め若しくは食い縛り、咀嚼、及び瞬目のうちの少なくとも1つに起因して発生する筋電信号であることも好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の生体信号取得装置によれば、より良好な装着感を実現しつつ、生体信号を安定的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による生体信号取得装置の一実施形態を説明するための模式図である。
図2】本発明に係るフレームの一態様を説明するためのフレーム断面を含む模式図である。
図3】本発明に係る信号取得部の一実施形態を示す機能ブロック図である。
図4】本発明による生体信号取得装置の他の実施形態を示す模式図である。
図5】本発明に係る筋電センサ付頭部装着具における参照電極部及び左骨伝導スピーカの一態様を示す模式図である。
図6】本発明に係る筋電センサ付頭部装着具における参照電極部及び左スピーカの一態様を示す模式図である。
図7】本発明による生体信号取得装置の更なる他の実施形態を示す模式図である。
図8】本発明に係る信号取得部の他の実施形態を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
[装置構成:1ch]
図1は、本発明による生体信号取得装置の一実施形態を説明するための模式図である。
【0031】
図1(A)には、本発明による生体信号取得装置の一実施形態としての筋電センサ付頭部装着具1が示されている。この筋電センサ付頭部装着具1は、生体(例えば人であるユーザ)の頭部に取り付けられることにより、生体信号を取得可能にするウェアラブルデバイスである。
【0032】
ここで、取得される生体信号は本実施形態において、顔面内部位の動き又は表情に係る動きに起因して発生する筋電信号を含む。また、この顔面内部位の動き又は表情に係る動きとしては、例えば(笑みに係る)口角上げ、噛み締め(若しくは食い縛り)、咀嚼、及び瞬目(瞬き動作)のうちの少なくとも1つを設定することができる。
【0033】
具体的に、筋電センサ付頭部装着具1はその構成として、
(A)「左耳掛け部111a」及び「右耳掛け部111b」、並びに「フレーム繋ぎ部112」を備えた、当該頭部を挟み込むような弾性を有する「フレーム11」と、
(B)耳穴の前方となる皮膚位置に接触可能なように配された、生体信号(本実施形態では筋電信号)を受信するための少なくとも1つの電極部(図1(A)では「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」)と、
(C)「フレーム11」に設けられており、電極部(図1(A)では「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」)と電気的に接続していて生体信号(本実施形態では筋電信号)を取り込み可能な「信号取得部15」と
を有することを特徴としている。
【0034】
ここで、上記(A)の「左耳掛け部111a」及び「右耳掛け部111b」は、耳介の付け根に沿うような形状を有し、本装着具1がユーザ(装着者)の頭部に取り付けられた際、図1(B)に示したようにそれぞれ左右の耳介の付け根に当接する(当たり接する)ことになるフレーム部位である。また、「フレーム繋ぎ部112」は、「左耳掛け部111a」の後方部分と「右耳掛け部111b」の後方部分とを当該頭部の後方に回り込んで繋ぐことになるフレーム部位となっている。
【0035】
さらに、上記(B)の少なくとも1つの電極部は、
(b1)「左耳掛け部111a」の前方の端部、
(b2)「左耳掛け部111a」の前方の端部若しくはこの端部近傍より伸びたアーム121a、
(b3)「右耳掛け部111b」の前方の端部、及び
(b4)「右耳掛け部111b」の前方の端部若しくはこの端部近傍より伸びたアーム121b
のうちの少なくとも一箇所に設けられている。
【0036】
より具体的に本実施形態では、「参照電極部12a」が、「左耳掛け部111a」の前方の端部近傍(である左骨伝導スピーカ14a)より伸びたアーム121aの前方端に設けられており、さらに、「検出電極部12b」が、「右耳掛け部111b」の前方の端部近傍(である右骨伝導スピーカ14b)より伸びたアーム121bの前方端に設けられているのである。
【0037】
なお、アーム121a及びアーム121bはそれぞれ、「左耳掛け部111a」の前方の端部、及び「右耳掛け部111b」の前方の端部から伸長したアームであってもよい。また、検出回路の設計事項であり当然とはなるが、「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」を、それぞれ検出電極部及び参照電極部として使用することも可能である。
【0038】
筋電センサ付頭部装着具1は、以上説明したように、左右の耳介の付け根に当接しつつ(当たり接しつつ)ユーザ(装着者)の頭部の後方に回り込み、当該頭部を挟み込むような弾性を有するフレーム11を採用している。ここで、左耳掛け部111a及び右耳掛け部111bがその形状故に耳介の付け根に引っ掛かることによって、フレーム11が前後にずれて動くことを抑制し、さらに、フレーム11の有する弾性によって、左右の電極部(12a,12b)及び(後に詳細に説明する)左右の骨伝導スピーカ(14a,14b)が、相当の圧力をもってユーザの頭部を挟み込むことになる。
【0039】
このように、筋電センサ付頭部装着具1は、確実に安定して装着可能でありながら、例えば耳をふさぐこともなく、ユーザの視界を妨げることもなく、そもそも敏感な身体部位である目・鼻・口近傍に当接する部分が存在せず、それ故に快適な装着感を実現しているのである。
【0040】
また、電極部(「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」)は、耳穴の前方となる皮膚位置に接触可能なように配されており、例えば、図1(B)に示したように、咀嚼や口角上げに係る筋電信号を計測するのに好適であるもみあげ前方の頬骨の皮膚位置に当接することも可能となっている。ここで、もみあげ前方の頬骨の皮膚位置においては、例えば咀嚼中においても皮膚の動きがさほど大きくなく、したがって電極部のズレが抑えられ、アーチファクトの低減した良好な筋電信号を検出することができるのである。
【0041】
さらに、電極部(「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」)は、フレーム11がユーザの頭部を挟み込むような弾性を有するが故に、上記の好適な皮膚位置に、相当の圧力をもって密着し固定されることになる。その結果、このような電極部を備えた筋電センサ付頭部装着具1によれば、より良好な装着感を実現しつつ、生体信号を安定的に且つノイズを抑えた形で取得することが可能となるのである。
【0042】
ここで本実施形態では、「左耳掛け部111a」及び「右耳掛け部111b」のうちの一方又は両方(本実施形態では両方)は、導電性を有していて耳介の付け根に対し電気的に接続する形で当接可能となっており、さらに「信号取得部15」とも電気的に接続されている。これにより、「左耳掛け部111a」及び「右耳掛け部111b」をグランド(GND)電極としてユーザ(装着者)の身体をGNDとすることができ、その結果、安定した正確な生体信号を取得することも可能となるのである。
【0043】
また本実施形態において、「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」は、それぞれユーザ頭部の左右側部(左右耳穴・もみあげの前方となる皮膚位置)に配されており、上記のGND電極(「左耳掛け部111a」及び「右耳掛け部111b」)と合わせて、1ch(チャンネル)の筋電センサ系を構成している。
【0044】
このように、「参照電極部12a」及び「検出電極部12b」を左右に分けて配置することによって、左右2つの筋肉活動を一括して捉えることができる。例えば咀嚼や笑みに係る筋肉活動は通常、左右のいずれか一方ではなく両方で同時に発生する。このような状況に対し、1chをなす電極部12a及び12bを用い頭部の左右にわたって筋電信号を検出することによって、左右の筋肉活動の全体を捉え、より安定した大きな筋電信号を得ることが可能となる。また、このように電極部12a及び12bを頭部の左右に離隔させておくことによって、例えば左右の眼球運動といったような頭部内で発生する様々な筋肉活動に起因する筋電信号を、より確実に捉えることもできるのである。
【0045】
なお、以上に述べたような頭部装着具1によって取得可能な生体信号は、筋電信号に限定されるものではない。例えば、耳付近の位置から検知可能である眼電位信号や脳波といった生体電位に基づく生体信号や、(生体用電位センサ以外のセンサデバイスの取り付けが必要となるが)体温や発汗に係る信号や、さらには脈波信号等を検出し取得することも可能となっている。
【0046】
以下、図1(A)に示した筋電センサ付頭部装着具1における各構成部について、より詳細に説明を行う。
【0047】
[フレーム]
上述したように、フレーム11は、左耳掛け部111a、フレーム繋ぎ部112及び右耳掛け部111bを一連の部位とした頭部装着具1の基体となっているが、その一方で、参照電極部12a及び検出電極部12bと信号取得部15とを電気的に接続する導電路としても機能する。
【0048】
図2は、本発明に係るフレームの一態様を説明するためのフレーム断面を含む模式図である。
【0049】
最初に図2(A)によれば、フレーム11は、
(a1)金属製の「フレーム金属部11Aa」と、このフレーム金属部11Aaを被覆するように設けられた、生体に対し安全性の高い導電性ゴム等の導電性樹脂からなる「導電樹脂部11Ab」とを含むフレーム本体11A、及び
(a2)導電樹脂部11Abの下部に設けられた開口部に挿入されており、導電樹脂部11Abの弾性と表面摩擦によって挟み込まれた被覆電線であるシールドケーブル11C
を備えている。
【0050】
ここで、フレーム金属部11Aaは、(a)導電樹脂部11Abを含むフレーム11全体が同一電位となるような高い導電性と、(b)相当の柔軟性及び耐久性とを有し、さらに(c)腐食し難く且つ金属アレルギーの生じ難いチタン(Ti)、チタン合金、又はステンレス合金で形成されているものとすることができる。または、上記(b)の性質を有する金属の表面に金(Au)や白金(Pt)等のめっき処理を施して上記(a)の導電性と上記(c)の耐腐食性とをさらに具現させたものであってもよい。ちなみに、フレーム本体11Aは、このフレーム金属部11Aaを、上記(a2)で述べた導電樹脂部11Abの開口部からその内部へ差し込むことにより形成されてもよい。
【0051】
また、フレーム本体11A(の特に導電樹脂部11Ab)は、左耳掛け部111a及び右耳掛け部111bにおいて耳介の付け根と電気的に接続している一方、信号取得部15のGND端子と電気的に接続されており、ユーザ(装着者)の身体をグランド(GND)とするためのGND線としての機能も果たす。なお、このようなフレーム本体11Aを、導電樹脂部だけで又はフレーム金属部だけで形成することも可能である。
【0052】
さらに、シールドケーブル11Cは、電極部(12a,12b)と信号取得部15とを電気的に接続する電線を含み、本実施形態のように1chの筋電センサ系の場合、(図5に示すように後述する骨伝導スピーカ用の配線も含めて)3芯構造のものとすることができる。一方、後に詳細に説明するように2chの筋電センサ系を採用した場合、(図8に示すように後述する骨伝導スピーカ用の配線も含めて)4芯構造のシールドケーブル11Cが使用可能となる。ちなみに、ノイズの混入を極力回避すべき生体信号に係る電極部(12a,12b)と接続されたケーブルは、特にシールドされていることが好ましいのである。
【0053】
次に図2(B)によれば、フレームの変更態様としてのフレーム11’は、
(a1’)フレーム本体としての金属(例えばチタン、チタン合金、ステンレス合金、又は表面に金や白金等がめっきされた金属)製のフレーム金属部11A’、及び
(a2’)フレーム金属部11A’の表面に貼付されており、電極部(12a,12b)と信号取得部15とを電気的に接続するフレキシブル導電層11C’
を備えている。
【0054】
ここで、フレキシブル導電層11C’は、絶縁層上に、3本(1chの場合)又は4本(2chの場合)の縞状の導電層を貼付、印刷若しくは塗装し、さらにその上に絶縁層を貼付、印刷若しくは塗装したものとすることができる。このフレキシブル導電層11C’は、フレーム金属部11A’におけるユーザの皮膚と当接・接触する表面とは反対側の表面に貼付されてもよい。なお、上記のフレーム金属部11A’の代わりに、図2(A)に示したようなフレーム金属部とそれを被覆する導電樹脂部とを含む構造を採用することも可能である。
【0055】
[電極部]
図1(A)に戻って本実施形態においては、参照電極部12a及び検出電極部12bが、1chの筋電センサ系を構成する左右電極部として、それぞれアーム121a及びアーム121bの前方端部に設けられている。このような電極構成によって、図1(B)からも分かるように、これらの参照電極部12a及び検出電極部12bをそれぞれ、ユーザ(装着者)頭部の左側及び右側における(耳穴の前方であって)もみあげの前方の頬骨の皮膚位置に接触させることができる。これにより、例えば咀嚼や口角上げに係る筋電信号を好適に計測することも可能となるのである。
【0056】
ここで、参照電極部12a及び検出電極部12bはいずれも、例えば、
(a)絶縁性の樹脂等で形成されたパッドと、
(b)(比較的腐食し難く、金属アレルギーを起こし難く、且つ高い導電性を有する)チタン、金、白金、これらの少なくとも1つを含む合金、若しくはステンレス合金等、又は銀塩化銀等で形成された乾式電極板であって、当該パッド上に設けられた、例えば直径約1~約2cm(センチメートル)の円板状(又はこれに相当する接触面積を実現する形状)の乾式電極板と、
(c)当該パッドの貫通孔を介し当該乾式電極板と配線ケーブルとを電気的に接続するピンと
を備えたものとすることができる。勿論、その他公知の様々な電極構造が、採用可能となっている。
【0057】
さらに、参照電極部12a及び検出電極部12bの乾式電極板における皮膚接触側の面には、当該電極部の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズを低減させるための導電ゲル部分が設けられていることも好ましい。例えば、後に説明するような導電ゲル層(図5)が、当該乾式電極板上に設けられていてもよい。なお、このような導電ゲル部分(導電ゲル層)は、劣化したものを適宜取り換えられるように交換可能となっていることも好ましい。
【0058】
また、電極部のズレに起因して発生するノイズを低減させるため、導電ゲル部分を設ける代わりに、参照電極部12a及び検出電極部12bの乾式電極板の皮膚接触面に、ひだ状やスポット状等の凹凸加工を施し、電極板と皮膚との間の摩擦を増大させておくことも好ましい。
【0059】
[アーム]
アーム121a及びアーム121bは、図2(A)に示したフレーム11や図2(B)に示したフレーム11’と同様の配線構造を有するものとすることができる。ここで、アーム121a及びアーム121bの配線ケーブルは、(それぞれ左骨伝導スピーカ14a及び右骨伝導スピーカ14bを介して)フレーム11の配線ケーブルと電気的に接続されていて、これにより、信号取得部15は、参照電極部12a及び検出電極部12bで検出された生体信号を取得することが可能となる。
【0060】
ここで、各アーム(121a,121b)は、ラッチ付台座に固定可能な伸縮棒部分を有していて、ユーザ(装着者)毎に異なっているもみあげ前方の皮膚位置へ電極部(12a,12b)を適切に配置させることができるように、アーム長が調整可能となっていることも好ましい。
【0061】
[バンド]
同じく図1(A)において、本実施形態の筋電センサ付頭部装着具1は、その両端がそれぞれ
(a)左耳掛け部111aの前方部分、図1(A)ではバンド留め具131a、及び
(b)右耳掛け部111bの前方部分、図1(A)ではバンド留め具131b
に接続された、伸縮性を有するGNDバンド13をさらに有している。
【0062】
このGNDバンド13は、図1(B)に示したように頭部装着具1がユーザの頭部に取り付けられた際、ユーザの額に当接するように設けられている。ここで、GNDバンド13は伸縮性を有するので、当該額に張り付くように当接し、フレーム11とともに頭部装着具1をより確実に当該頭部に固定させる役割を果たす。これにより、ユーザは、視界を遮られることなく、またその頭部のサイズにかかわらず、より安定した装着感を享受することができる。また、このようなGNDバンド13を採用することによって、電極部(参照電極部12a及び検出電極部12b)の皮膚に対するズレを抑制し、アーチファクトの低減した筋電信号が検出可能となるのである。
【0063】
また本実施形態では、GNDバンド13は導電性を有し、その両端がそれぞれ、左耳掛け部111aの前方部分(バンド留め具131a)、及び、右耳掛け部111bの前方部分(バンド留め具131b)と電気的にも接続されており、頭部装着具1がユーザの頭部に取り付けられた際、ユーザの額に対し電気的に接続する形で当接する。これにより、(左耳掛け部111a及び右耳掛け部111bとともに)GNDバンド13をGND電極として、ユーザ(装着者)の身体をGNDとすることができ、その結果、より安定した正確な生体信号を取得することも可能となるのである。
【0064】
以上に述べたようなGNDバンド13は、例えば日清紡社製のモビロン(登録商標)等のポリウレタン・エラストマ、又は天然ゴムの芯を縦糸とし、AGposs(登録商標)等の銀メッキしたナイロン糸をさらに撚った撚糸、例えばミツフジ社製のAGFit(登録商標)を横糸として所定方法で織られた、導電性及び伸縮性を兼ね備えた平ゴムをもって構成することができる。
【0065】
また更なる改良形として、例えば東レ社製のHitoe(登録商標)を、上記の平ゴムの周囲に対しシボを作るように被覆したものを、GNDバンド13とすることも好ましい。ここで、Hitoe(登録商標)は、導電性高分子をナノファイバーニットに含侵させた機能素材となっている。このようなGNDバンド13においては、平ゴムの伸びに応じてシボの皺が伸び、その結果、ユーザの額との接触面を調整することが可能となり、好適な装着感の下、より確実な電気的接続状態を実現することも可能となるのである。
【0066】
[骨伝導スピーカ]
同じく図1(A)において、本実施形態の筋電センサ付頭部装着具1は、
(a)左耳掛け部111aの前方の端部に取り付けられた左骨伝導スピーカ14aと、
(b)右耳掛け部111bの前方の端部に取り付けられた右骨伝導スピーカ14bと
をさらに有している。勿論、いずれか1つの骨伝導スピーカのみが設置されていてもよい。いずれにしてもこのような骨伝導スピーカは、公知の構造のものとすることができるが、後に1つの好適な態様を、図5を用いて詳細に説明する。
【0067】
ここで、左骨伝導スピーカ14a及び右骨伝導スピーカ14bは本実施形態において、図1(B)からも分かるように、それぞれ左耳穴の前方であって左もみあげの後方、及び右耳穴の前方であって右もみあげの後方となる皮膚位置に振動を付与可能なように配されており、耳穴を塞いだり覆ったりすることがない。その結果、音声をより確実に且つ快適にユーザ(装着者)へ伝達することが可能となる。すなわち、筋電センサ付頭部装着具1は、例えば咀嚼中にも咀嚼音に邪魔されず快適に音声を聞くことのできる良好な頭部装着スピーカとしても機能するのである。なお、当該音声の応用例については、後にオーディオ出力部154(図3)について述べる際、詳細に説明を行う。
【0068】
また変更態様として、左骨伝導スピーカ14a及び右骨伝導スピーカ14bのうちの一方又は両方の代わりに、空気振動としての音声を出力するスピーカを採用することも可能である。ここで、音声をより確実にユーザ(装着者)へ伝達するべく、(後に図6を用いて詳細に説明するが)耳穴に向かう側、すなわち後方に音声出力部を備えたスピーカを用いることも好ましい。
【0069】
[配線・信号処理手段:1ch]
図3は、本発明に係る信号取得部の一実施形態を示す機能ブロック図である。
【0070】
図3に示すように、筋電センサ付頭部装着部1の信号取得部15は、電池及びコンピュータ(プロセッサ・メモリ)を内蔵しており、この電池からの供給電力をもって、このコンピュータが、取得した筋電信号の処理、及びユーザ(装着者)に向けての音声出力処理を実施する。
【0071】
本実施形態においてより具体的に、信号取得部15は、信号変換部151、前フィルタ処理部152、信号判定・解析部153、オーディオ出力部154、及び音声増幅部155を有しており、これらの機能構成部(の大部分)は、搭載されたコンピュータを機能させる筋電信号処理・音声出力処理プログラムの機能として捉えることができる。
【0072】
ここで変更態様として、信号判定・解析部153は、外部の情報処理装置、例えばユーザの所持する携帯端末4に例えばアプリの一部として搭載されていて、一方で信号取得部15は、この携帯端末4の当該アプリとの間でデータ通信を行うための、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等に対応した通信インタフェース156をさらに有していてもよい。
【0073】
同じく図3の機能ブロック図において、信号変換部151は、
(a)参照電極部12aと電気的に接続されたマイナス(リファレンス)電極と、
(b)検出電極部12bと電気的に接続されたプラス(検出用)電極と
の電位差の交流成分を、
(c)フレーム11及びGNDバンド13と電気的に接続されたGND電極
におけるGND電位との差動増幅によって増幅し、このアナログの筋電信号を一定のサンプリング周波数でデジタル化し、筋電信号(デジタル)データを生成する回路となっている。これにより、例えば、プラスマイナス0.1~数百μVの範囲の皮膚電位検出が可能となる。また、信号変換部151は、商用電源等に起因するコモンモードノイズを軽減するDRL(Driven Right Leg)回路を有し、GND電極をDRL電極として使用してもよい。
【0074】
信号変換部151は、次いで、生成された筋電信号(デジタル)データに対してウィンドウ分割処理を行い、時系列をなす筋電信号データを、リアルタイムに逐次分析可能な形にする。これにより、ユーザに対しリアルタイムにフィードバック(例えば骨伝導スピーカを用いた音声提示)を行うユーザインタフェースが実現可能となる。また、様々なアプリケーション・プログラムにおける筋電センサ出力データの利用も容易になるのである。
【0075】
具体的にこのウィンドウ分割処理では、予めウィンドウ分析区間を設け、この分析区間をずらしながら、当該分析区間に該当する筋電信号データを逐次抽出する。例えば、デジタル化のサンプリング周波数が512Hzである場合、ウィンドウ分析区間を128サンプルとし、時系列の筋電信号データを0.125秒毎(64サンプル毎)に区切りながら、区切った区間毎に、当該区間内のデータ抽出を行ってもよい。
【0076】
前フィルタ処理部152は、ノッチフィルタ処理部及びローパスフィルタ(LPF)処理部を備えている。このうち、ノッチフィルタ処理部は、筋電信号データに対し、商用電源に係る周期的ノイズを低減する帯域除去フィルタ処理を実施する。また、LPF処理部は、帯域除去フィルタ処理の施された筋電信号データに対し、高周波ノイズを除去するLPF処理を実施するのである。ここで、LPF処理部は、筋電信号データに対し、例えばDCブロッカ(DC Blocker)によってハイパスフィルタ(HPF)処理を実施し、その結果を元の筋電信号データから差し引くことによって、LPF処理を実施するものであってもよい。
【0077】
同じく図3の機能ブロック図において、信号判定・解析部153は、前フィルタ処理を施された筋電信号データにおける、筋電信号の発生を判定する。
【0078】
具体的に信号判定・解析部153は、例えば、本願発明者を発明者とした特許出願に係る特開2019-107067号公報に記載されているように、
(a)前フィルタ処理を施された筋電信号データの加速度成分データを生成し、
(b)当該加速度成分データにおけるウィンドウ分析区間でのデータの偏り具合に係る代表値SDW(具体的には標準偏差から決定される値)を算出し、
(c)代表値SDWの大きさに基づいて筋電信号の発生を判定する
ことができる。ここで、代表値SDWの時系列データが所定のヒステリシスをN度(Nは正の整数)示した際、当該生体信号がN回発生したと判定することも好ましい。
【0079】
または、信号判定・解析部153は、例えば、本願発明者を発明者とした特許出願に係る特開2019-115410号公報に記載されているように、
(d)上記(b)の代表値SDWの時系列データに対し、共振器フィルタ処理を実施し、
(e)共振器フィルタ処理を施された代表値SDWの周期性に基づいて、(生体の繰り返し運動に起因する)筋電信号の発生を判定する
こともできる。ここで、代表値SDWが所定範囲を超えて変動した際のピーク位置を算出し、隣接するピーク位置の時間間隔が所定時間範囲内である場合に、筋電信号が発生したと判定することも好ましいのである。
【0080】
さらに好適な変更態様として、信号判定・解析部153は、例えば、本願発明者を発明者とした特許出願に係る特願2019-098323号明細書に記載されているように、
(f)上記(b)の代表値SDWの時系列データを逐次取り込み、取り込んだデータ値に基づいて、当該データ値の極小値に対応する下基準値と当該データ値の極大値に対応する上基準値とを順次決定又は更新し、(ア)当該下基準値とそれに次ぐ当該上基準値とが決定若しくは更新され、さらに当該上基準値から見て所定条件を満たすより小さいデータ値が取り込まれた際に、または、(イ)当該上基準値とそれに次ぐ当該下基準値とが決定若しくは更新され、さらに当該下基準値から見て所定条件を満たすより大きいデータ値が取り込まれた際に、筋電信号が発生したものとし、筋電信号の波数のカウントを行う
ことも好ましい。
【0081】
また、信号判定・解析部153は本実施形態において、上述したように筋電信号の発生を判定し、その発生回数をカウントするだけでなく、発生した筋電信号の種別、例えば「咀嚼」や「口角上げ(笑顔)」等、を判定する。例えば、本願発明者を発明者とした特許出願に係る特開2018-139630号公報、特開2019-107067号公報、及び特開2019-115410号公報に記載されているように、
(g)筋電信号が発生したとの判定に係る時間区間において、代表値SDWと平均パワー周波数とを含む特徴量を算出し、当該特徴量について、基準状態に該当する入力信号の当該特徴量によって設定された単位空間から離隔した度合いである離隔度合いを算出し、当該離隔度合いに基づいて、発生した筋電信号の種別を判定する
ことも好ましい。
【0082】
ここでより具体的には、筋電信号が発生していない基準状態に係る単位空間からの離隔度合いから、筋電信号が発生した状態及び筋電信号が発生していない状態を合わせた基準状態に係る単位空間からの離隔度合いと、筋電信号が発生した基準状態に係る単位空間からの離隔度合いとを差し引いた量に基づいて、発生した筋電信号の種別を判定するものであってもよい。なお、上記の単位空間及び離隔度合いとして、
(ア)MT(Mahalanobis Taguchi)法における単位空間、及びマハラノビス距離から算出される値、
(イ)MTA(Mahalanobis-Taguchi Adjoint)法における単位空間、及びマハラノビス距離から算出される値、
(ウ)T法における単位空間、及び特性値から算出される値、又は
(エ)RT(Recognition Taguchi)法における単位空間、及びRT距離から算出される値
を採用することが可能となっている。
【0083】
同じく図3の機能ブロック図において、オーディオ出力部154は、信号判定・解析部153から、筋電信号の発生の有無、発生した筋電信号の種別、及びその発生回数・カウントに係る情報を受け取り、これらの情報に基づき、ユーザ(装着者)に対して提供・通知する音声出力内容を決定する。
【0084】
例えば、オーディオ出力部154は、咀嚼に係る筋電信号のカウント情報を受け取った際、実際に咀嚼を行っているユーザ(装着者)に対しリアルタイムで提示する、「(1口当たりの咀嚼回数として)1、2、3、・・・、10、1、2、・・・、20、1、2、・・・」といったようなカウントアップに係る音声の出力を決定することができる。また、1口において咀嚼回数が30回を超える毎に「すごい!」といったような称賛する音声の出力を決定してもよい。
【0085】
さらに、オーディオ出力部154は、1口当たりの咀嚼回数の30回超えを所定の複数口にわたり連続して達成すると「1コンボ!」といったような称賛・奨励する音声の出力を決定してもよい。また、口角上げ(笑顔)に係る筋電信号の発生情報やそのカウント情報を受け取った際、笑い声の効果音の出力を決定してもよく、「1笑い」等と笑いをカウントアップする音声の出力を決定することもできる。いずれにしてもこのような音声出力によって、実際に筋電信号が取得されているか否かを確認することができるだけでなく、咀嚼や笑み等の対象とする動作・所作・行為の実施状況を明示的に把握することも可能となるのである。
【0086】
またさらに、オーディオ出力部154は、筋電信号データの大きさから電極部の接触(当接)状態が不良(例えば皮膚から浮いている)と判断される旨を信号判定・解析部153から受け取った際、「正しく装着して下さい」といったような音声や、それに対応するアラーム効果音の出力を決定してもよい。さらに、内蔵された電池の出力電圧が所定以上に小さくなっている旨を信号判定・解析部153から受け取った際、「電池を充電して下さい」といったような音声や、それに対応するアラーム効果音の出力を決定することもできるのである。
【0087】
ちなみに、オーディオ出力部154は、受け取る「筋電信号の発生の有無、発生した筋電信号の種別や、その発生回数・カウントに係る情報」と、ユーザ(装着者)に対し提供・通知すべき「音声出力内容」とを予め対応付けた対応音声出力テーブルを備えており、この対応音声出力テーブルを用いて、予め保存されている音声出力データ群から、信号判定・解析部153より受け取った情報に対応付けられた「音声出力内容」に相当する音声出力データを選択してもよい。
【0088】
音声増幅部155は、オーディオ出力部154で選択・決定された音声出力データ(音声出力内容)を、骨伝導スピーカの入力可能な音声信号に変換して増幅し、L端子からG端子にかけて左骨伝導スピーカ14aへの音声信号を、さらにR端子からG端子にかけて右骨伝導スピーカ14bへの音声信号を出力する。
【0089】
以上、ユーザ(装着者)は、以上に説明したような信号取得部15での処理によって、自らが行っている動作・所作・行為に対応した有用な情報を、例えばリアルタイムで受け取ることも可能となるのである。
【0090】
[装置構成:アーム無し]
【0091】
図4は、本発明による生体信号取得装置の他の実施形態を示す模式図である。
【0092】
図4に示した、本発明による生体信号取得装置である筋電センサ付頭部装着具2も、筋電センサ付頭部装着具1(図1)と同様、ユーザ(装着者)の頭部に取り付けられることにより、生体信号を取得可能にするウェアラブルデバイスである。
【0093】
この筋電センサ付頭部装着具2は、左耳掛け部211a、右耳掛け部211b及びフレーム繋ぎ部212をその部位とするフレーム21と、その両端がバンド留め具231a及231bに接続されたGNDバンド23と、左骨伝導スピーカ24a及び右骨伝導スピーカ24bと、信号取得部25を有しており、これらの構成部・部位は、筋電センサ付頭部装着具1(図1)における同名の構成部・部位と同様の構造・配置・(電気的)接続関係を有し、同様の作用・機能を果たすものとなっている。
【0094】
また、筋電センサ付頭部装着具2に設けられた参照(検出)電極部22a及び検出(参照)電極部22bも、筋電センサ付頭部装着具1(図1)における参照(検出)電極部12a及び検出(参照)電極部12bと同様の構造・(電気的)接続関係を有し、同様の作用・機能を果たす。
【0095】
しかしながら図4に示したように、筋電センサ付頭部装着具2には、その端部に電極部を取り付けるべきアームは設けられていない。またそれ故、参照(検出)電極部22a及び検出(参照)電極部22bは、参照(検出)電極部12a及び検出(参照)電極部12b(図1)とは異なりアーム端ではなく、それぞれ左耳掛け部211aの前方端部及び右耳掛け部211bの前方端部に設けられており、さらに言えば、それぞれ左骨伝導スピーカ24a及び右骨伝導スピーカ24bと重畳するように設けられている。
【0096】
すなわち、参照(検出)電極部22a及び検出(参照)電極部22bはそれぞれ、左右耳穴の前方であって左右もみあげの後方の皮膚位置に接触可能なように配されており、GND電極(左耳掛け部211a、右耳掛け部211b及びGNDバンド23)と合わせて、1chの筋電センサ系を構成しているのである。
【0097】
図5は、筋電センサ付頭部装着具2における参照電極部22a及び左骨伝導スピーカ24aの一態様を示す模式図である。ちなみに、反対側の検出電極部22b及び右骨伝導スピーカ24bの一態様も図5と同様のものとすることができるので、以下その説明を省略する。
【0098】
図5に示したように、参照電極部22aは、
(a)乾式電極板と、当該乾式電極板上に設けられた(電極部22aの皮膚に対するズレに起因して発生するノイズを低減させるための)導電ゲル層とを有しており、
(b)左骨伝導スピーカ24aにおける振動出力部である永久磁石の配された側の面(皮膚に接触する側の面)に、止めネジで一端を固定された金属バネによって、押し付けられる形で固定されている。
【0099】
ちなみに、左骨伝導スピーカ24aは、コイル及び磁気ヨークによって入力した音声信号に応じた磁界を発生させ、当該磁界によって永久磁石を変位させて、接触した皮膚位置に音声信号に応じた振動を付与する、公知の構造の骨伝導スピーカとなっている。
【0100】
これにより、参照電極部22aは、接触した皮膚位置から筋電信号を検出することができ、一方、左骨伝導スピーカ24aの振動出力部(永久磁石)は、この参照電極部22aを介して接触した皮膚位置を振動させ、ユーザ(装着者)に対し音声を確実に伝達することが可能となるのである。
【0101】
ここで、上記(a)の導電ゲル層は例えば、乾式電極板の皮膚接触面上に塗布された導電ゲル材部分とすることができる。または好適な変更態様として、導電ゲル層は例えば、マトリックスとなるポリマ中に電解質を保持した構造のゲル材で形成されており、導電性と皮膚への適当な粘着性とを兼ね備えた導電ゲルシートであってもよい。また、この導電ゲルシートを貼り替え可能なシールとし、頭部装着具の装着の際に新たなシールを乾式電極板に貼付して使用することも好ましい。さらに、導電ゲルシート(シール)のズレ防止のため、乾式電極板の皮膚接触面上に導電性の密着層が予め形成されていてもよい。
【0102】
また、導電ゲルシートとして、シートが丸まってシート同士が粘着することのないように不織布等を中間層とし、さらにこの中間層の上下両面にそれぞれ粘着力の異なるゲルシートの層を形成した3層構造の導電ゲルシートを採用することも好ましい。なおこの場合、乾式電極板に貼付する側の層に、粘着力のより強いゲルシートを使用することが好ましい。
【0103】
なお、音声伝達機能に係る変更態様として、骨伝導スピーカの代わりに、空気振動としての音声を出力するスピーカを用いることも可能である。図6は、参照電極部22a’及び左スピーカ24a’の一態様を示す模式図である。ちなみに、反対側に設けられることとなる検出電極部22b’及び右スピーカ24b’の一態様も図6と同様のものとすることができるので、以下その説明を省略する。
【0104】
図6に示したように、参照電極部22a’は、
(a)乾式電極板と、当該乾式電極板上に設けられた(電極部22a’の皮膚に対するズレに起因して発生するノイズを低減させるための)導電ゲル層とを有しており、
(b)左スピーカ24a’における音声出力孔を正面に見た際の右側端面(皮膚に接触する側の面)に、止めネジで一端を固定された金属バネによって、押し付けられる形で固定されている。
【0105】
ここで、左スピーカ24a’は、周囲側面に設けられた音声出力部としての音声出力孔から、空気振動としての音声を出力するスピーカであり、筋電センサ付頭部装着具2においては、音声をより確実にユーザ(装着者)へ伝達するべく、左耳穴に向かう側に、すなわち後方に音声出力孔を備えたスピーカとなっている。
【0106】
これにより、参照電極部22a’は、接触した皮膚位置から筋電信号を検出することができ、一方、左スピーカ24aは、ユーザ(装着者)の左耳穴にむけて、音声を確実に伝達することが可能となる。
【0107】
以上図5図6を用いて説明したような構成を採用することにより、筋電センサ付頭部装着具2は、アームの存在しない簡単・簡便な構造をとりながら、1chの筋電センサ機能と、音声伝達機能とを両立させているのである。
【0108】
[装置構成:2ch]
【0109】
図7は、本発明による生体信号取得装置の更なる他の実施形態を示す模式図である。
【0110】
図7に示した、本発明による生体信号取得装置である筋電センサ付頭部装着具3も、筋電センサ付頭部装着具1(図1)と同様、ユーザ(装着者)の頭部に取り付けられることにより、生体信号を取得可能にするウェアラブルデバイスである。
【0111】
この筋電センサ付頭部装着具3は、左耳掛け部311a、右耳掛け部311b及びフレーム繋ぎ部312をその部位とするフレーム31と、アーム321a及び321bと、その両端がバンド留め具331a及331bに接続されたGNDバンド33と、左骨伝導スピーカ34a及び右骨伝導スピーカ34bと、信号取得部35を有しており、これらの構成部・部位は、筋電センサ付頭部装着具1(図1)における同名の構成部・部位と同様の構造・配置・(電気的)接続関係を有し、同様の作用・機能を果たすものとなっている。
【0112】
しかしながら、筋電センサ付頭部装着具3は、筋電センサ付頭部装着具1(図1)とは異なり、4つの電極部、すなわち、
(a)左耳掛け部311aの前方の端部に取り付けられた第1の左電極部としての左参照電極部32a1と、
(b)左耳掛け部311aの前方の端部(若しくはこの端部近傍)より前方に伸びたアーム321aの端部に取り付けられた第2の左電極部としての左検出電極部32a2と、
(c)右耳掛け部311bの前方の端部に取り付けられた第1の右電極部としての右参照電極部32b1と、
(d)右耳掛け部311bの前方の端部(若しくはこの端部近傍)より前方に伸びたアーム321bの端部に取り付けられた第2の右電極部としての右検出電極部32b2と
を有している。
【0113】
ここで、上記(a)の左参照電極部32a1及び上記(c)の右参照電極部32b1は、それぞれ左骨伝導スピーカ34a及び右骨伝導スピーカ34bと重畳するように設けられている。具体的には、左参照電極部32a1及び左骨伝導スピーカ34a(並びに右参照電極部32b1及び右骨伝導スピーカ34b)は図5に示したような重畳構成をなし、一体となって設けられているのである。
【0114】
ちなみに本実施形態においても変更態様として、骨伝導スピーカの代わりに、各参照電極部(第1の電極部)との間で図6に示したような重畳構成をなす(空気振動としての音声を出力する)スピーカが採用されてもよい。
【0115】
いずれにしても、筋電センサ付頭部装着具3においては、
(ア)左参照電極部32a1及び左検出電極部32a2はそれぞれ、左耳穴の前方であって左もみあげの後方の皮膚位置、及び(左耳穴の前方であって更に)左もみあげの前方の皮膚位置に接触可能なように配され、GND電極(左耳掛け部311a、右耳掛け部311b及びGNDバンド33)と合わせて、左側1chの筋電センサ系を構成しており、一方、
(イ)右参照電極部32b1及び右検出電極部32b2はそれぞれ、右耳穴の前方であって右もみあげの後方の皮膚位置、及び(右耳穴の前方であって更に)右もみあげの前方の皮膚位置に接触可能なように配され、GND電極(左耳掛け部311a、右耳掛け部311b及びGNDバンド33)と合わせて、右側1chの筋電センサ系を構成しているのである。
【0116】
以上、筋電センサ付頭部装着具3は、フレーム31やアーム321a及び321bを駆使してより良好な装着感を実現しつつ、2chの筋電センサ機能と、音声伝達機能とを両立させた生体信号取得装置となっている。
【0117】
[配線・信号処理手段:2ch]
図8は、本発明に係る信号取得部の他の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0118】
図8に示すように、筋電センサ付頭部装着部3の信号取得部35は、信号取得部35(図3)と同様、電池及びコンピュータ(プロセッサ・メモリ)を内蔵しており、この電池からの供給電力をもって、このコンピュータが、左右2chの各々において取得された筋電信号の処理、及びユーザ(装着者)に向けての音声出力処理を実施する。
【0119】
本実施形態においてより具体的に、信号取得部35は、
(左側1ch)信号変換部351a及び前フィルタ処理部352aと、
(右側1ch)信号変換部351b及び前フィルタ処理部352bと、
信号判定・解析部353と、オーディオ出力部354と、音声増幅部355とを有し、これらの機能構成部(の大部分)は、搭載されたコンピュータを機能させる2ch筋電信号処理・音声出力処理プログラムの機能として捉えることができる。
【0120】
またこのうち、信号判定・解析部353は、外部の情報処理装置、例えばユーザの所持する携帯端末4に例えばアプリの一部として搭載されていて、一方で信号取得部35は、この携帯端末4の当該アプリとの間でデータ通信を行うための、Bluetooth(登録商標)やWi-Fi(登録商標)等に対応した通信インタフェース356をさらに有していてもよい。
【0121】
ここで以上に述べた信号取得部35の機能構成部は、信号取得部15(図1)における同名の機能構成部と同様の機能・作用を果たすが、信号判定・解析部353は、上記の(左側1ch)からの筋電信号データと、上記の(右側1ch)からの筋電信号データとを取り込んで、2ch筋電信号処理が実施可能となっている。またそれ故、ユーザ(装着者)の頭部左側の筋電信号と、頭部右側の筋電信号とを個別に判定・解析し、さらに両者を総合して解析することもできるのである。
【0122】
この信号判定・解析部353における処理の具体例として、本願発明者を発明者とした特許出願に係る特願2019-207369号明細書に記載されているように、
(a)所定時間間隔毎の上記(左側1ch)からの筋電信号データについて筋電信号の発生具合に係る左側代表値SDWを算出し、
(b)所定時間間隔毎の上記(右側1ch)からの筋電信号データについて筋電信号の発生具合に係る右側代表値SDWを算出し、
(c)左側代表値SDWと右側代表値SDWとの差に基づき、所定以上の強い筋電信号の発生した側(左側、右側又は両側)を決定し、
(d)ユーザ(装着者)において所定動作が発生する毎に、決定した側(左側、右側又は両側)における筋電信号データの時間推移を記録し、
(e)複数回の所定動作について記録された筋電信号データの時間推移に基づいて、ユーザ(装着者)の左右の偏りに係る体癖を判定する
ことも好ましい。
【0123】
このような処理を実施する場合、信号判定・解析部353は例えば、咀嚼動作が口内における左側又は右側に偏りがちとなる「偏咀嚼」の有無を判定したり、左右一方の頬での笑み(口角上げ)動作である「片笑み」が行われがちであるか否かを判定したりすることができる。
【0124】
またこの場合、オーディオ出力部354は例えば、信号判定・解析部153から「1口において偏咀嚼ではない咀嚼の回数が30回を超えた」旨の情報を受け取った際、「とっても良い噛み方ですね、すごい!」といったような称賛する音声の出力を決定してもよい。
【0125】
さらに、オーディオ出力部354は例えば、信号判定・解析部153から「右側の偏咀嚼が発生」との情報を受け取った際、実際に咀嚼を行っているユーザ(装着者)に対しリアルタイムで提示する、「左側も使って噛むようにしましょう」といったような注意・奨励に係る音声の出力を決定してもよい。またこの場合、オーディオ出力部354は、音声増幅部355に対し、上記の音声信号を、その「左側も」に対応する左骨伝導スピーカ34aのみに(すなわちL端子からG端子にかけて)出力させることも可能となる。これにより、ユーザ(装着者)は、例えば音声の聞こえる側の咀嚼を意識すればよいと容易に判断・理解することもできるのである。
【0126】
以上、ユーザ(装着者)は、自らが行っている動作・所作・行為に対応した有用な情報を、例えばリアルタイムで受け取ることも可能となるのである。また、好適な他の応用例として、信号判定・解析部353が例えば、「右側の片笑みが発生」、「左側の片笑みが発生」、「右側の偏咀嚼が発生」や「左側の偏咀嚼が発生」との情報を決定した際、当該情報が通信インタフェース356を介して携帯端末4へ送信され、携帯端末4の所定のアプリが、当該情報に予め対応付けておいた操作コマンドを発動させてもよいのである。これにより、ユーザ(装着者)は、例えば左側の片笑みを短時間に所定回数(例えば2回)行うことによって、携帯端末4に搭載された例えば地図アプリを起動させ、現在位置を表示させることも可能となる。
【0127】
以上詳細に説明したように、本発明の生体信号取得装置は、確実に安定して装着可能でありながら、例えば装着者の耳をふさぐこともなく、ユーザの視界を妨げることもなく、そもそも敏感な身体部位である目・鼻・口近傍に当接する部分が存在せず、それ故に快適な装着感を実現することができる。また、電極部は、フレームがユーザの頭部を挟み込むような弾性を有するが故に、好適な皮膚位置に相当の圧力をもって密着し固定される。その結果、本発明の生体信号取得装置によれば、より良好な装着感を実現しつつ、生体信号を安定的に取得することが可能となるのである。
【0128】
ちなみに、本発明の生体信号取得装置は、例えば介護、スポーツや、教育、さらには一般生活の現場において、装着者における例えば日々の食事動作や精神状態(笑みの程度)を評価するのにも好適となっている。ここで、さらに骨伝導スピーカ等を用いる実施形態をとった場合、評価対象である装着者に対し、当該評価に応じた情報、例えば生活アドバイス情報を適宜提供することも可能となる。
【0129】
以上に述べた本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0130】
1、2、3 筋電センサ付頭部装着具(生体信号取得装置)
11、11’、21、31 フレーム
11A、11A’ フレーム本体
11Aa フレーム金属部
11Ab 導電樹脂部
11C シールドケーブル(電線)
11C’ フレキシブル導電層
111a,211a、311a 左耳掛け部
111b,211b、311b 右耳掛け部
112、212、312 フレーム繋ぎ部
12a、22a 参照(検出)電極部(左電極部)
12b、22b 検出(参照)電極部(右電極部)
32a1 左参照電極部(第1の左電極部)
32a2 左検出電極部(第2の左電極部)
32b1 右参照電極部(第1の右電極部)
32b2 右検出電極部(第2の右電極部)
13、23、33 GNDバンド
131a、131b、231a、231b、331a、331b バンド留め具
14a、24a、34a 左骨伝導スピーカ
14b、24b、34b 右骨伝導スピーカ
15、25、35 信号取得部
151、351a、351b 信号変換部
152、352a、352b 前フィルタ処理部
153、353 信号判定・解析部
154、354 オーディオ出力部
155、355 音声増幅部
156、356 通信インタフェース
4 携帯端末4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8