(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】被覆された木製単板及び木製単板を処理するための方法
(51)【国際特許分類】
B27K 5/00 20060101AFI20231026BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20231026BHJP
B05D 7/06 20060101ALI20231026BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20231026BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B27K5/00 A
D21H11/18
B05D7/06 G
B05D3/02 Z
B05D3/12 C
(21)【出願番号】P 2020540563
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(86)【国際出願番号】 FI2019050031
(87)【国際公開番号】W WO2019145600
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-13
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
【氏名又は名称原語表記】TEKNOLOGIAN TUTKIMUSKESKUS VTT OY
(73)【特許権者】
【識別番号】510063878
【氏名又は名称】アールト・ユニバーシティ・ファウンデイション・エスアール
【氏名又は名称原語表記】Aalto University Foundation sr
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】ヤーッコ・ペレ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェサ・クンナリ
(72)【発明者】
【氏名】マッティ・カイリ
(72)【発明者】
【氏名】ペッカ・アハティラ
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/147029(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370047(US,A1)
【文献】国際公開第2007/132057(WO,A1)
【文献】特表2013-515103(JP,A)
【文献】特開2004-114501(JP,A)
【文献】Congde Qiao*, Guangxin Chen, Jianlong Zhang, Jinshui Yao,Structure and rheological properties of cellulose nanocrystals,Food Hydrocolloids,2016年,55,19-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 5/00
D21H 11/18
B05D 7/06
B05D 3/02
B05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製単板を処理するための方法であって、
少なくとも1枚の木製単板のシートを提供する工程、
全被覆組成物の重量を計算して、4~18重量%の間の量の、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有するナノセルロースを含む水性被覆組成物で、木製単板のシートの少なくとも片面を被覆して、被覆された
前記少なくとも1枚の木製単板のシートを得る工程、
ここに、前記ナノセルロースがナノセルロースの0.01から5重量%のリグニンを含む酵素性ナノセルロースであることを特徴とし、及び
圧縮圧力及び熱を使用して被覆されたシートを乾燥させる工程
、
を含む方法。
【請求項2】
乾燥被覆組成物の量として測定した、2及び100g/m
2の間
の量の水性被覆組成物が木製単板のシート上に適用されたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノセルロースが10000及び20000mPa・sの間
の見かけ粘度を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナノセルロースがナノセルロース
の0.01~3重量%
のリグニンを含むことを特徴とする
、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水性被覆組成物が全被覆組成物の75及び96重量%の間
の水を含むことを特徴とする
、請求項
1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水性被覆組成物が全被覆組成物の7及び18重量%の間
のナノセルロースを含むことを特徴とする
、請求項
1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水性被覆組成物が、光吸収添加剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、装飾成分、界面活性剤及びこれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの添加剤を含むことを特徴とする
、請求項
1~6のいずれかに一項に記載の方法。
【請求項8】
木製単板がロータリー剥離された木製単板であることを特徴とする
、請求項
1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
水性被覆が、木製単板の凹面上にのみ適用されることを特徴とする
、請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
被覆が、スプレー被覆、フィルム転写被覆、カーテン被覆、ブラシ適用、ローラー適用、ブレード被覆、又はストライプ適用を使用して行われることを特徴とする
、請求項
1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
乾燥時の温度が0℃及び210℃の間であることを特徴とする
、請求項
1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
乾燥時の圧縮圧力が20及び500kPaの間であることを特徴とする
、請求項
1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
被覆された木製単板であり、被覆された木製単板が、被覆された木製単板のシート及び該シートの少なくとも一方の表面上に配置されたナノセルロースを含む、被覆を含み、該ナノセルロースが20℃の温度及び5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有することを特徴とする被覆された木製単板。
【請求項14】
前記ナノセルロースが、20℃の温度、5重量%の濃度で、10000及び20000mPa・sの間
の見かけ粘度を有することを特徴とする、請求項
13に記載の被覆された単板。
【請求項15】
前記被覆が、1~300μ
mの厚さを有することを特徴とする、請求項
13又は
14に記載の被覆された単板。
【請求項16】
被覆が、木製単板の凹面上にのみ配置されることを特徴とする、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の被覆された単板。
【請求項17】
ナノセルロースが酵素性ナノセルロースであることを特徴とする、請求項
13~
16のいずれか一項に記載の被覆された単板。
【請求項18】
ナノセルロースが、ナノセルロース
の0.01~5重量%
のリグニンを含むことを特徴とする、請求項
13~
17のいずれか一項に記載の被覆された単板。
【請求項19】
被覆が、光吸収添加剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、装飾成分、界面活性剤、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される添加剤を含むことを特徴とする、請求項の
13~
18のいずれか一項に記載の被覆された単板。
【請求項20】
請求項
13~
19のいずれか一項に記載の少なくとも1枚の被覆された木製単板を含む合板。
【請求項21】
請求項
13~
20のいずれか一項に記載の少なくとも1枚の被覆された木製単板を含む積層単板製材。
【請求項22】
合板を製造するための、請求項
13~
19のいずれか一項に記載の被覆された木製単板の使用。
【請求項23】
積層単板製材を製造するための、請求項
13~
19のいずれか一項に記載の被覆された木製単板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は木製単板(veneer)を処理するための方法に関する。本発明はさらに被覆された木製単板に関係している。
【背景技術】
【0002】
木製単板の製造において、木製単板シートは木の幹から切り取られ、続いて乾燥される。乾燥中に、単板シートは、典型的には、反り及びゆがみ、これは、該シートの品質、外観及び有用性に影響を与え、それによって、該シートの一部が廃棄さえされる。例えば、合板又は積層単板製材の製造のために、自動化された機械で反り及びゆがんだ単板シートを取り扱うことは、困難であり、このように複雑な機械又は手作業をしばしば必要とし、それらが製造速度を低下させ、コストを上昇させる。
【0003】
文献WO2016/082025は、水性成分で、ナノセルロース繊維と複合化した多価金属塩及びリグニンを含む疎水性複合体と、水性成分中での疎水性複合体の凝集及び沈降を防止するのに十分な粘度を示す組成物と、を含む安定な水性組成物を開示している。該組成物は、物品の表面を被覆するために使用され、疎水性表面を製造してもよい。一度表面に適用されると、水性被覆は、広げられ、表面を覆う湿潤フィルムを形成し、次いで脱水及び乾燥され、乾燥した疎水性被覆を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、木製単板を処理するための改良された方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、剛性及び引張強度が改善された被覆された木製単板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、独立請求項に記載されていることにより特徴付けられる方法及び被覆された木製単板によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0008】
本発明は、全被覆組成物の重量を計算して、4~18重量%の間の量の、ナノセルロースを含む、水性被覆組成物で木製単板のシートを被覆し、該ナノセルロースは20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有し、圧縮圧力及び熱を使用して木製単板のシートを乾燥させるというアイデアに基づく。
【0009】
本発明の方法は、木製単板の処理に関し、
少なくとも1枚の木製単板のシートを提供する工程、
全被覆組成物の重量を計算して、4~18重量%の間の量の、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有するナノセルロースを含む水性被覆組成物で、木製単板のシートの少なくとも片面を被覆して、被覆された木製単板のシートを得る工程、及び
圧縮圧力及び熱を使用して被覆されたシートを乾燥させる工程、を含む方法である。
【0010】
本発明の被覆された木製単板は、木製単板のシート及び該シートの少なくとも一方の表面上に配置されたナノセルロースを含む、被覆を含み、該ナノセルロースは、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有するセルロースナノフィブリルを含む。
【0011】
本発明の方法の利点は、木製単板の反り及びゆがみが低減され、例えば自動機械での、取り扱いが容易になることである。得られた被覆された木製単板もまた、より硬く、真直度が向上している。本発明の方法はまた、合板又は積層単板製材のような、様々な適用において薄い単板を使用することを可能にする。
【0012】
本発明の1つの実施形態の利点は、得られた被覆された木製単板が、横断方向、すなわち木製単板の木目方向に対して横方向の引張強度を改善したということである。
【0013】
加えて、被覆は吸湿性材料であるセルロースを含むので、被覆は、木材の自然な「呼吸」、すなわち、木製単板及び周囲の空気との間の水分の交換を妨げない。言い換えれば、被覆は、木材の拡散開放面を維持する。本発明の方法を用いると、木材固有の自然特性を維持することができ、再生可能な材料のみを包含する製品を得ることができる。本発明の方法を用いると、高輝度及び色の均一な単板を得ることもできる。木製単板中及び任意にナノセルロース中に存在するリグニンは、木製単板の吸湿性を低下させる。ナノセルロース中のリグニンもまた、単板の表面の耐摩耗性を改善する。
【0014】
従来のナノセルロースは、セルロース繊維を精製することによって作られて、数μmの平均フィブリル長を得る。その結果として、従来のナノセルロースの水性懸濁液の見かけ粘度は、約3%重量の低濃度であっても典型的には、非常に高く、それによって、これらの懸濁液は、より高い濃度で実際に使用することはできない。
【0015】
100~1000nmの間の典型的な平均フィブリル長を有するナノセルロースは、さらにはるかに高い濃度でも、依然として取り扱い及び塗布又は添加が容易である水性懸濁液を提供し、その結果として、本発明に特に適している。
【0016】
圧縮圧力及び熱を使用した被覆されたシートの乾燥は、シート上/中のナノセルロースの接着を強化し、木製単板の横方向の引張強度を著しく増加させた。追加の接着剤は必要ない。さらにまた、該乾燥方法は、エネルギー効率が良く、それによってコストが低減される。
【0017】
<定義>
「木製単板」という用語は、本明細書では、0.1~6mm、好ましくは0.1~4mmの厚さを有する薄い1枚の木材を指す。
【0018】
「木製単板シート」という用語は、本明細書では、一定の幅及び長さを有する木製単板を指す。
【0019】
「ナノセルロース」という用語は、本明細書では、セルロースナノファイバー(CNF)、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、マイクロフィブリル化セルロース(MFC)又はセルロースナノ結晶(CNC)のような、粒子が100nm未満の領域で1次元を有するナノ構造セルロースを指す。
【0020】
「酵素性ナノセルロース」という用語は、本明細書では、酵素的に製造されるナノセルロースを指す。
【0021】
「引張強度」という用語は、本明細書では、N/mm2で表される、伸長する傾向のある負荷に耐える材料又は構造物の能力を指す。引張強度は、改良されたISO 1924-2標準法を使用して測定される。該方法は、紙又は板を対応する1枚の単板で置き換えることによって修正される。該測定は、50×100~150mm(木目方向×横断方向)のサイズのシートを使用して行われる。
【0022】
「フィブリル」という用語は、本明細書では、主にセルロースから成る繊維様ストランドを指す。
【0023】
「積層単板製材」(LVL)という用語は、本明細書では、接着剤で組み立てられた薄い木材の多層を含む、木材製品を指す。
【0024】
<発明の詳細な説明>
本発明は、木製単板を処理するための方法及び被覆された木製単板に関する。
【0025】
<木製単板を処理する方法>
本方法は、少なくとも1枚の木製単板のシートを提供することを含む。ある実施形態によれば、木製単板は、ロータリーカット又はロータリー剥離(rotary peeled)した木製単板、すなわち回転旋盤を使用して作られた木製単板である。別のある実施形態によれば、該木製単板は、薄切りされた木製単板又はのこぎりで切られた木製単板である。
【0026】
木材の種類は、硬木及び軟木から選択してもよい。適切な木材の種類は、回転旋盤又は単板薄切り機で加工できるすべての木材の種類である。ある実施形態では、木材の種類は、カバノキ、トウヒ、マツ、ブナ及びオークから成る群から選択される。
【0027】
好ましくは、木製単板は、乾燥した木材の少なくとも30重量%の水分含有量を有する。木製単板の水分含有量が低いと、木製単板に対する水性被覆組成物の結合が低下するおそれがある。
【0028】
上記方法は、水性塗料組成物を木製単板のシートに被覆して、被覆された木製単板のシートを得ることを含む。
【0029】
特に、本発明の方法は、木製単板を処理することに関し、
少なくとも1枚の木製単板のシートを提供する工程、
全被覆組成物の重量を計算して、4~18重量%の間の量の、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の見かけ粘度を有するナノセルロースを含む水性被覆組成物で、木製単板のシートの少なくとも片面を被覆して、被覆された木製単板のシートを得る工程、及び
圧縮圧力及び熱を使用して被覆されたシートを乾燥させる工程を含む、方法である。
【0030】
ある実施形態によれば、水性被覆組成物は、全被覆組成物の75及び96重量%の間の、好ましくは88及び92重量%の間の水を含む。
【0031】
ある実施形態によれば、水性被覆組成物は、全被覆組成物の4及び18重量%の間の、好ましくは7及び16重量%の間の、特に好ましくは8及び14重量%の間の、さらにより好ましくは8及び12重量%の間の、ナノセルロースを含む。
【0032】
ナノセルロースは、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の、好ましくは10000及び20000mPa・sの間の、より好ましくは12000及び18000mPa・sの間の、見かけ粘度を有する。
【0033】
見かけ粘度はブルックフィールドレオメータを使用して適切に測定される。標準的な方法は羽根配置(vane geometry)に基づいており、これはペースト状の材料、ゲル、及び流体に広く推奨されている方法であり、懸濁固体は、円錐-プレート、同軸シリンダー、平行-プレート、又はビーカーに浸漬された円盤スピンドルなどの標準的な滑らかなスピンドル配置(spindle geometries)の測定表面から離れて移動する。フィブリル化された試料は、測定前に水で5%の一定濃度に希釈される。試料をまず約300rpmで約10分間混合する。次いで、混合試料をさらに例えば14000rpmで2分間、分散させる。粘度測定は5%濃度のナノセルロースに適したスピンドルを使用して行った。各試料は、希釈後及び測定前に短時間静置する。これにより、各試料は一定の時間、初期粘度を回復することができる。試料温度は測定の間、20±1℃に維持した。粘度は各試料から2回測定される。
【0034】
ナノセルロースは、100~1000nmの間の、好ましくは100~500nmの間の平均フィブリル長を有する。平均フィブリル長は顕微鏡定量法により測定される。
【0035】
ある好ましい実施形態によれば、ナノセルロースは酵素性ナノセルロースである。この種のナノセルロースは、例えば、文献WO2015/092146A1に記載された手順を使用して、パルプから得られる。
【0036】
短い平均フィブリル長、特に酵素ナノセルロースの短い平均フィブリル長のために、従来のナノセルロースより高い濃度で懸濁液の形態で、水性被覆組成物を得ることができ、木製単板の表面に簡便に適用することができる。このようにして、少量の水及び多量のナノセルロースが木製単板の表面に適用される。
【0037】
ある実施形態によれば、水性被覆組成物は、乾燥被覆組成物の量として測定して、2及び100g/m2の間の、好ましくは5及び50g/m2の間の、特に好ましくは5及び30g/m2の間の量で木製単板のシート上に適用される。
【0038】
被覆は、1つの層として、又は代わりに、1つの層よりも多い層として適用されてもよい。被覆が1つの層よりも多い層として適用される場合、被覆する層が木製単板のシートの一方の面に適用され、次いで、それに続く被覆する層がシートの一方の面に適用される。被覆されたシートは、好ましくは、異なる被覆する層の適用の間に乾燥されない。1つの層よりも多い層は、同じ被覆組成物又は異なる被覆組成物を含んでもよい。
【0039】
ある実施形態によれば、ナノセルロースは、ナノセルロースの10重量%までの、好ましくは0.01~5重量%の、より好ましくは0.01~3重量%のリグニンを含む。リグニンは、ナノセルロースのリグニン分子及び木製単板のリグニン分子の間の結合を促進することにより、リグニン含有量の高い木製単板部分へのナノセルロースの接着性を高める。さらに、リグニンは被覆表面を低親水性にする。
【0040】
別のある実施形態によれば、酵素性ナノセルロースは、酵素性ナノセルロースの10%重量までの、好ましくは0.01~5%重量の、最も好ましくは0.01~3%重量の、リグニンを含む。
【0041】
水性被覆組成物は、1つ又はそれ以上の添加剤を含んでもよい。
【0042】
水性被覆組成物は、木製単板の表面に添加剤を適用及び接着させるための添加剤の担体としても使用することができる。
【0043】
ある実施形態によれば、水性被覆組成物は、光吸収添加剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、装飾成分、界面活性剤及びこれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの添加剤を含む。
【0044】
回転旋盤を使用して木の幹から木製単板を製造すると、凸面又は密面及び凹面又は疎面の木製単板が得られる。該凹面は、木材の中心又はコアに向かって配置された木製単板の表面である。製造の間に、木製単板の凹面に旋盤格子縞(lathe checks)が形成される。
【0045】
ある実施形態によれば、水性被覆は、木製単板の凹面上にのみ適用される。これにより、単板の横断方向、すなわち木製単板の木目方向に対して横方向の、単板の引張強度が増大する。
【0046】
ある実施形態によれば、水性被覆は、木製単板の両面上に適用される。言い換えれば、まず、木製単板のシートの第1の面に被覆する層が適用され、次に、シートの第2の面に被覆する層が適用される。
【0047】
被覆は、任意の適切な被覆方法を使用して行うことができる。ある実施形態によれば、被覆は、スプレー被覆、フィルム転写被覆、カーテン被覆、ブラシ適用、ローラー適用、ブレード被覆、押出機被覆、又はストライプ適用を使用して行われる。好ましくは、該被覆はスプレー被覆を使用して行われる。
【0048】
上記方法は、接触乾燥法を用いて、圧縮圧力及び熱を使用して被覆されたシートを乾燥させることを含む。
【0049】
ある実施形態によれば、乾燥時の温度は0及び210℃の間の範囲であってもよい。
【0050】
ある実施形態によれば、乾燥時の圧縮圧力は20及び500kPaの間の範囲であってもよい。
【0051】
ある実施形態によれば、乾燥は、被覆されたシートを第1のベルト組立体及び第2のベルト組立体との間に配置することを含む。第1のベルト組立体は、第1の金属ベルトを含む。第2のベルト組立体は、第2の金属ベルト及び、第2の金属ベルト及び木製単板との間の少なくとも1つの多孔質仕切り帯又は多孔質表面部分と、を含む。ある実施形態によれば、第1の金属ベルト及び第2金属ベルトは、鋼鉄でできている。第1の金属ベルトは第1の温度に加熱される。ある実施形態によれば、第1の温度は、120℃~210℃の間、好ましくは120℃~180℃の間、より好ましくは130℃~160℃の間である。ある実施形態によれば、第1の金属ベルトは、第1の金属ベルトへの木製単板のはり付きを防止するためにシリコーン又はPTFE被覆で被覆される。第2の金属ベルトは、第1の温度よりも低い第2の温度に冷却される。ある実施形態によれば、第2の温度は0及び60℃の間、好ましくは0及び50℃の間、特に好ましくは10及び50℃の間である。本実施形態では、乾燥は、加熱及び冷却の間に第1のベルト組立体及び第2のベルト組立体を互いに向けて押圧することを含み、その後、第1の金属ベルト及び仕切り帯又は表面部分からこれらの間の被覆されたシートに圧縮圧力が適用される。ある実施形態によれば、該圧縮圧力は20~500kPaの間、好ましくは150~500kPaの間である。本実施形態では、乾燥は、第1の温度の影響により被覆されたシートから分離された水が第2の温度の影響により仕切り帯又は表面部に凝縮することを可能にすることを含む。本実施形態では、乾燥は、第1のベルト組立体及び第2のベルト組立体との間から乾燥したシートを除去することを含む。好ましい実施形態では、水の除去は、真空を使用し、効果的に行うことができる。
【0052】
接触乾燥方法では、被覆された、切断/薄切りされた、又はロータリー剥離された単板の湿潤なシートを圧縮乾燥機に供給し、そこには木製単板の対面上に高温の上面及び低温の下面がある。該単板は、表面の間でわずかだが十分な圧縮圧力で押される。高温の上面は、典型的には、滑らかであり、低温の下面は、水を除去するための溝又はボルト止めネットのいずれかを備える。加えて、真空を使用して下面上の水の除去をより効果的に行うことができる。表面間に明確な温度差がある場合、水は乾燥機の下面に凝縮する。このようにして、木材の中の水のかなりの量が、水が沸騰して激しく膨張し、単板に損傷を与えることなく除去される。しかしながら、木製単板の加熱は、単板内の水の蒸発圧力を上昇させ、その結果、水は蒸発圧力の低い領域、つまり多孔性の第1の仕切り帯又は第2金属ベルトの表面部分に移動しようとし、そこではその上、低温の影響により、すなわち、温度が露点よりも低い場合に、凝縮する。水は第1の温度の影響により蒸気として木製単板から除去され、第2の温度の影響の下、別の場所で凝縮することが可能であり、乾いた被覆された単板から第1の仕切り帯又は表面部分を分けることにより、最後に排出される。
【0053】
接触乾燥法は、異なるやり方での被覆した単板の各シートの乾燥又はばらつきのない単板又は単板のシートを位置乾燥モデルが編成できる部分に分割することを可能にする。この目的のために、乾燥区域を通る搬送速度は、もし手順が連続的なものであれば、例えば段階的に調節することができ、手順が断続的なものである場合には、乾燥区域における単板のシートが滞在する時間を、例えば個々の単板に応じて設定することができる。連続的に働く手順では、被覆された木製単板は、乾燥区域を通って標準又は変動速度で移動する、一方、断続的に働く手順では、被覆された木製単板はある速度で乾燥区域に移動し、あらかじめ決められた時間そこに留まり、その後ある速度で除去される。乾燥した木製単板の最終含水量は、有利には12重量%未満であり、このように乾燥材料の重量からも該水分濃度が計算される。このようにして、被覆された木製単板を所望の水分レベルまで正確に乾燥させることができる。この結果、平均耐久性が高くなり、逸脱が減少する。これらの両方は、製品の特質ある耐久性を向上させる。その上、ロータリー剥離中の切断格子縞(cutting checks)によって生じた粗いメッシュの下面をより密にすることができる。これは、木製単板表面の方向の圧延せん断強度(rolling shear strength)の特徴に影響を与えるのに役立つ。
【0054】
このような接触乾燥方法は、文献WO2007/132057A1に記載されている。乾燥パラメータは、水の量及び使用される添加剤の種類に応じて適切に選択されてもよい。
【0055】
<被覆された木製単板>
本発明は、被覆された木製単板にも関する。
【0056】
被覆された木製単板は、木製単板のシート及び該シートの少なくとも1つの表面上に配置されたナノセルロースを含む、被覆を含む。
【0057】
特に、本発明の被覆された木製単板は、木製単板のシート及び該シートの少なくとも一方の表面上に配置されたナノセルロースを含む、被覆を含み、該ナノセルロースは、20℃の温度、5重量%の濃度で、8000及び22000mPa・sの間の、好ましくは10000及び20000mPa・sの間の、より好ましくは12000及び18000mPa・sの間の、見かけ粘度を有する。
【0058】
見かけ粘度は、上記のように適切に測定される。
【0059】
ある実施形態によれば、被覆された木製単板は、木製単板のシートの凹面上に被覆を含み、それによって被覆は木製単板のシートの凹面上にのみ配置される。
【0060】
別のある実施形態によれば、被覆された木製単板は、木製単板のシートの両面上に被覆を含み、それによって、被覆は木製単板のシートの両面上に配置される。
【0061】
ナノセルロースは、100~1000nm、好ましくは100~500nmの平均フィブリル長を有するセルロースナノフィブリルを含む
【0062】
ある実施形態によれば、前記ナノセルロースは、ナノセルロースの10重量%までの、好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.01~3重量%のリグニンを含む。
【0063】
ある実施形態によれば、ナノセルロースは酵素性ナノセルロースである。
【0064】
別のある実施形態によれば、酵素性ナノセルロースは、ナノセルロースの3重量%以下、好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.01~3重量%のリグニンを含む。
【0065】
ある実施形態によれば、被覆は、光吸収添加剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、装飾成分、界面活性剤、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される添加剤を含む。
【0066】
ある実施形態によれば、被覆は、1~300μm、好ましくは2~200μm、特に好ましくは5~150μmの厚さを有する。
【0067】
ある実施形態によれば、被覆された木製単板は、被覆の1つの層又は、被覆の1つの層よりも多い層を含む、被覆を含むことができ、被覆は、木製単板の片面上又は木製単板の両面上で、同一又は異なっていてもよい。
【0068】
上記の被覆された木製単板は、合板又は積層単板製材の製造のため、例えば、家具の製造又は建築物の建設のために、オールウッドパネル、パーティクルボードパネル、繊維板パネルなどの木質パネルの表面を覆うために使用することができる。
【0069】
上記の被覆された木製単板は、合板の製造に特に適している。該合板は、被覆された木製単板のみで構成することもでき、又は未被覆の木製単板と組み合わせることもできる。好ましくは、被覆された木製単板は、該合板の1つの最外層として又は両方の最外層として配置される。該合板は、同一又は異なる木材の種類から製造された被覆された木製単板を含んでもよい。
【0070】
本開示はまた、上記の少なくとも1つの被覆された木製単板を含む合板に関する。
【実施例】
【0071】
<実施例1、酵素性ナノセルロースの見かけ粘度>
フィブリル化した試料の見かけ粘度はブルックフィールド(Brookfield)レオメータRVDV-IIIを用いて測定した。標準的な方法は羽根配置に基づいており、これはペースト状の材料、ゲル、及び流体に広く推奨されていて、懸濁固体は、円錐-プレート、同軸シリンダー、平行-プレート、又はビーカーに浸漬された円盤スピンドルなどの標準的な滑らかなスピンドル配置の測定表面から離れて移動する(バーンズ及びグエン、2001年)。
【0072】
フィブリル化された試料を、測定前に、10、5及び2重量%の一定濃度に水で希釈した。試料を最初に、羽根車の羽根及び600mlビーカーを使用して、300rpmで10分混合した。その後、混合した試料を、ウルトラ・ターラックス・ホモジナイザー(Ultra Turrax homogenizer)を使用して14000rpmでさらに2分間分散させた。粘度測定は250mlパイレックス(登録商標)ビーカー内で行った。各試料を希釈後及び測定前に30分間静置した。これにより、各試料は一定の時間、初期粘度を回復することができた。
【0073】
試料温度は測定の間、実験室の水浴中で調整することにより20±1℃に維持した。測定プログラムは10rpmで、1秒間隔で300個の測定点を登録した。見かけ粘度を各試料から2回測定し、測定の間に、試料を穏やかに混合すると同時に、該温度を20±1℃に維持した。平均及び標準偏差は、両方の対応する測定からの各速度水準の最後の5秒間の測定データから計算した。結果を以下の表1に示す。(バーンズ・エイチ・エイ(Barnes,H.A)及びグエン・キュー・ディー(Nguyen,Q.D.)、(2001)「回転式羽根流動測定‐総説」非ニュートン流体力学ジャーナル(J.Non-Newt.FluidMech)、第98巻第1号、1-14頁)。
【0074】
【0075】
<実施例2、木製単板の被覆>
未乾燥のカバノキ単板は、20℃の温度、5重量%の濃度で15000mPa・sの見かけ粘度を有する、酵素性ナノセルロース(リグニンを2~4重量%包含する酸性漂白軟材パルプから得られた)を8.7重量%含む水性組成物で被覆された。被覆は、単板上に被覆の1層をスプレーすることによって行った。被覆を単板に適用して、ナノセルロース含有量を5~18.3g/m2、平均10~15g/m2にした。被覆された単板を、絶対気圧が25kPaになるように真空の助けを借りて、196kPaの圧縮圧力及び140℃の温度を使用し、乾燥させた。約20μmの厚さの被覆(フィルム)を含む、乾いた単板を得た。横断方向の引張強度は改良ISO 1924‐2標準法を使用して測定した。接触乾燥法で乾燥した未被覆の単板の横断方向の引張強度は1.47N/mm2であり、接触乾燥法で乾燥した被覆された単板の該強度は1.83N/mm2であり、未被覆の単板の該強度より約25%高かった。これに対して、新たに切断したばかりの新鮮な単板は、1.46N/mm2の横断方向の引張強度を有し、従来の方法で乾燥させた未被覆の単板は1.26N/mm2横断方向の引張強度を有する。