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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B60L9/18 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021062045
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157687
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】尾梶 智哉
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-096330(JP,A)
【文献】特開2018-118677(JP,A)
【文献】特開2006-081264(JP,A)
【文献】特開2009-185854(JP,A)
【文献】特開2009-040296(JP,A)
【文献】特開2010-047126(JP,A)
【文献】特開2009-030637(JP,A)
【文献】国際公開第2013/001626(WO,A1)
【文献】特開2016-168900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するための駆動用モータと、
前記駆動用モータに連結された駆動軸と、
前記駆動軸に固定されたパーキングギヤと、
前記パーキングギヤに噛合するパーキングポールと、
パーキングロック用操作子の操作により、前記パーキングポールを前記パーキングギヤに噛み合うことで前記駆動軸をロックするロック位置とロック解除位置とに移動させるアクチュエータと、
前記車両の勾配を検出する勾配検出手段と、
前記駆動用モータの回転角を検出する回転角検出手段と、
前記パーキングポールをロック位置に移動させる作動を前記アクチュエータが開始した後に、前記駆動用モータを前記勾配検出手段により検出された勾配に応じた所定角度分回転させるモータ角度制御手段と、
を備え
前記モータ角度制御手段は、前記パーキングギヤを前記所定角度回転させるために必要なモータトルクを算出してこれを目標トルクとし、所定時間で前記目標トルクに到達するように前記モータトルクを加算していく
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記所定角度は、前記パーキングギヤが前記パーキングポールに噛合するまで回転する最大角度である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記モータ角度制御手段は、前記モータトルクの増加に対して一定時間前記駆動用モータの回転角度の増加が無い場合、前記パーキングギヤが前記パーキングポールに噛合したと判定して制御を終了する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記パーキングロック用操作子の操作が行われた後に車速を検出し、検出された車速に基づいて前記アクチュエータの前記作動を許可するか否かの判定を行うパーキング動作許可判定手段を備える
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記パーキング動作許可判定手段によりパーキング動作が許可され、前記アクチュエータが前記作動を開始した後に、前記勾配検出手段により検出された勾配に基づいて前記モータ角度制御手段によるモータ角度制御を実行するか否かの判定を行うモータ角度制御実行判定手段を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動作を制御するための車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、駐停車時に車輪をロックするためのパーキング機構が設けられている。坂道でパーキング機構により車輪をロックする場合、パーキングスイッチが押下されてからアクチュエータの応答速度が遅いと、パーキングギヤに対するパーキングポールの噛合が遅れ、車両が坂道の傾斜に沿って下向きに僅かに移動する現象(以下、本明細書ではこれを「(車両の)ずり下がり」という。)が生じるおそれがある。
【0003】
このようなずり下がりを抑制するために、特許文献1には、坂道であるか否かをジャイロセンサからの信号で判定し、坂道と判定され、且つブレーキがオンの状態で車速が所定値(閾値)以下の場合にモータ制御を実施してパーキングスイッチが押下されるまで待機する制御が記載されている。このモータ制御では、パーキングギヤの位置と、アクチュエータがパーキングポールをアンロック位置からロック位置に移動させるまでにパーキングギヤが回転する角度とを予め算出し、これに基づいてパーキングギヤがパーキングポールに噛合する位置になるようにモータトルクを印加して駆動用モータを回転させるようになっている。このモータ制御における駆動用モータの回転より、パーキングギヤとパーキングポールの位相が予め合わされているので、パーキングスイッチが押下されてアクチュエータが作動すると、パーキングギヤとパーキングポールとが噛合し、車両のずり下がりを抑制することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-30637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の制御では、図7に示すように、パーキングスイッチ(Pスイッチ)が押下されるまでモータ制御によりトルクを印加したまま待機するため、パーキングスイッチが押下されるまでの時間tが長いとモータ温度が高温になり、トルクを印加できなくなる懸念がある。また、駆動用モータの回転角度とパーキングギヤの回転位置との対応関係がずれてくる可能性があることを想定し、車両電源がオンになったときにパーキングギヤの回転位置を学習して駆動用モータの回転角度とパーキングギヤの回転位置との対応関係を補正するようになっており、制御構成のコスト増加を来す虞があった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、駆動用モータの昇温による不具合を来すことなく、且つ制御構成のコスト増加を来すことなく、坂道駐車での車両のずり下がりを抑制できる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る車両制御装置(1)は、車両を駆動するための駆動用モータ(8)と、駆動用モータ(8)に連結された駆動軸(22)と、駆動軸(22)に固定されたパーキングギヤ(24)と、パーキングギヤ(24)に噛合するパーキングポール(40)と、パーキングロック用操作子(58)の操作によりパーキングポール(40)をパーキングギヤ(24)に噛み合って駆動軸(22)をロックするロック位置とロック解除位置とに移動させるアクチュエータ(44)と、車両(2)の勾配を検出する勾配検出手段(56)と、駆動用モータ(8)の回転角を検出する回転角検出手段(60)と、アクチュエータ(44)が作動した後に、駆動用モータ(8)を勾配検出手段(56)により検出された勾配に応じた所定角度分回転させるモータ角度制御手段(48)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る車両制御装置によれば、パーキングギヤとパーキングポールの位相のずれがあるか否かに拘わらず、アクチュエータの作動後にモータトルクを印加して所定角度駆動用モータを回転させるので、駆動用モータが高温になることを防止できるとともに、パーキングギヤとパーキングポールの位相合わせ及び学習工程が不要となるので、制御構成のコスト増加を来すことなく坂道駐車におけるずり下がりを抑制できる。
【0009】
また、上記の車両制御装置では、所定角度が、パーキングギヤ(24)がパーキングポール(40)に噛合するまで回転する最大角度(αmax)であることが好ましい。これによれば、所定角度を最大角度とすることにより、単純な制御でパーキングギヤがパーキングポールに噛合するインギヤ状態を確実に得ることができる。
【0010】
また、上記の車両制御装置では、モータ角度制御手段(48)は、パーキングギヤ(24)を所定角度回転させるために必要なモータトルクを算出してこれを目標トルクとし、所定時間で目標トルクに到達するようにモータトルクを加算していくことが好ましい。これによれば、モータトルクの印加量と累積角度との関係をモニタすることによって高精度の制御を実施することができる。
【0011】
また、上記の車両制御装置では、モータ角度制御手段(48)は、モータトルクの増加に対して一定時間駆動用モータ(8)の回転角度の増加が無い場合、パーキングギヤ(24)がパーキングポール(40)に噛合したと判定して制御を終了することが好ましい。これによれば、モータ角度制御の時間を短縮することができる。
【0012】
また、上記の車両制御装置では、パーキングロック用操作子(58)の操作が行われた後に車速(v)を検出し、検出された車速に基づいてアクチュエータ(44)の作動を許可するか否かの判定を行うパーキング動作許可判定手段(48)を備えることが好ましい。これによれば、坂道で車両が移動している状態での不要なパーキング動作を防止できる。
【0013】
また、上記の車両制御装置では、パーキング動作許可判定手段(48)によりパーキング動作が許可され、アクチュエータ(44)が作動した後に、勾配検出手段(56)により検出された勾配に基づいてモータ角度制御手段(48)によるモータ角度制御を実行するか否かの判定を行うモータ角度制御実行判定手段(48)を備えることが好ましい。これによれば、過剰なずり上がり(車両が坂道の傾斜に沿って上向きに僅かに移動する現象をいう、以下同じ)など運転者が想定しない車両の挙動が起こることを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動用モータの昇温による不具合を来すことなく、且つ制御構成のコスト増加を来すことなく、坂道駐車での車両のずり下がりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る車両制御装置を搭載した車両の概要構成図である。
図2】車両制御装置の一部をなす制御ブロック図である。
図3】車両制御装置におけるパーキングギヤとパーキングポールの具体的な噛合状態を示す図である。
図4】坂道において車両に作用する力関係を説明するための模式図である。
図5】車両制御装置によるずり下がりを抑制するための制御動作を示すフローチャートである。
図6】車両制御装置によるずり下がりを抑制するための制御動作を示すタイミングチャートである。
図7】従来技術における問題点を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御装置を搭載した車両の概要構成図である。同図に示すように、ハイブリッド自動車である車両2は、エンジン4と、発電機6と、駆動用モータであるトラクションモータ8と、ディファレンシャル装置10と、パーキング機構12等を有している。エンジン4の駆動軸14に固定されたギヤ16が、発電機6のシャフト18に固定されたギヤ20と噛み合っている。トラクションモータ8のロータに連結された駆動軸22にはパーキング機構23のパーキングギヤ24が固定されているとともに、エンジン4で回転駆動されるギヤ26に噛み合う伝達ギヤ28が固定されている。伝達ギヤ28はアイドラギヤ30と噛み合っており、アイドラギヤ30と同軸固定されたギヤ32がディファレンシャル装置10のファイナルギヤ34と噛み合っている。符号36はディファレンシャル装置10から左右の駆動輪38に動力を伝達する車軸(回転軸)である。
【0018】
図2は、車両制御装置の一部をなす制御ブロック図である。トラクションモータ8とパーキング機構12及び図2に示す車速センサ54、傾斜角検出センサ56、Pスイッチ(パーキングロック用の操作子)58、レゾルバ(回転角検出手段)60、ブレーキセンサ62、電子制御ユニット46等により、本実施形態に係る車両制御装置1が構成されている。
【0019】
図3は、車両制御装置におけるパーキングギヤとパーキングポールの具体的な噛合状態を示す図である。図1及び図3に示すように、パーキング機構12は、パーキングギヤ24と、該パーキングギヤ24に噛合するパーキングポール40と、図1の矢印X方向に移動してパーキングポール40をパーキングギヤ24に噛合して駆動軸22をロックする位置とロック解除位置とに移動させるパーキングロッド42と、パーキングロッド42を同方向に駆動するアクチュエータ44とを有している。
【0020】
図2に示すように、車両制御装置1は、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、電子制御ユニットと略す)46を備えている。電子制御ユニット46は、CPU(Central Processing Unit)48と、処理プログラムなどを記憶するROM(Read Only Memory)50と、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)52と、不図示のI/Oインターフェース等を有するマイクロコンピュータとして構成されている。電子制御ユニット46には、車速センサ54、傾斜角検出センサ56、Pスイッチ58、レゾルバ60、ブレーキセンサ62が接続されている。トラクションモータ8はモータECU(モータ電子制御ユニット)7を介して電子制御ユニット46に接続されている。
【0021】
車速センサ54は、車両2の車速vを検出し、検出した車速vに応じた信号を電子制御ユニット46のCPU48に出力する。CPU48は、車速センサ54により検出された車速の値に基づいてアクチュエータ44の作動を許可するか否かの判定を行うパーキング動作許可判定手段として機能する。勾配検出手段としての傾斜角検出センサ56は、加速度センサやジャイロセンサ等から構成され、車両2の水平及び垂直方向の重力加速度を検出し、検出した重力加速度に応じた信号を電子制御ユニット46のCPU48に出力する。CPU48は、アクチュエータ44が作動した後に、トラクションモータ8を傾斜角検出センサ56により検出された勾配に応じた所定角度分回転させるモータ角度制御手段として機能する。
【0022】
パーキングロック用の操作子であるPスイッチ(パーキングスイッチ)58は、車両の運転者によって押下されるとアクチュエータ44を作動させるための信号を電子制御ユニット46のCPU48に出力する。CPU48は、アクチュエータ44が作動した後に、傾斜角検出センサ56により検出された勾配に基づいてモータ角度制御手段によるモータ角度制御を実行するか否かの判定を行うモータ角度制御実行判定手段として機能する。回転角検出手段としてのレゾルバ60は、トラクションモータ8の回転角度を検出し、検出した角度を電子制御ユニット46のCPU48に出力する。ブレーキセンサ62は、不図示のブレーキペダルのオン・オフを検知し、検知した状態に応じた信号を電子制御ユニット46のCPU48に出力する。
【0023】
図3に示すように、パーキングポール40は回転軸66の周りに回動自在に支持されており、パーキングロッド42(図1参照)の移動に伴い該パーキングロッド42により押圧されて回動するように構成されている。パーキングギヤ24には周方向に等間隔に凹部24aが形成されており、この凹部24aにパーキングポール40の凸部40aが係合(噛合)することにより駆動軸22がロックされる。ブレーキオンの状態でモータトルクを印加してトラクションモータ8を回転させた場合、パーキングギヤ24はその歯間角度に相当する角度α内で必ずインギヤし、パーキングポール40との噛合タイミングによっては最大αmax回転する可能性がある。すなわち、例えば角度αが60°の場合、αmax=60°となる。そこで、本実施形態では、αmaxをパーキングギヤ24が確実にインギヤするまでの所定角度としている。なお、図1ではパーキングギヤ24とパーキングポール40を模式的に示している。
【0024】
図4は、坂道において車両に作用する力関係を説明するための模式図である。同図に示すように、車両2の車重をM[kg]、タイヤ径をR[m]、坂道勾配(登坂勾配)をθ[deg]、左右合成によるドライブシャフト36の剛性をk[Nm/deg]、ドライブシャフト36の捩れ角をβ[deg]とすると、上向き矢印で示すドライブシャフト36の捩れ力はkβ/R、下向き矢印で示すずり下がり力はMgsinθ、ドライブシャフト36の捩れ角はβ=Mgsinθ/kとなる。図中のDr/shはドライブシャフトを意味する。パーキング機構12によるパーキングロックの後、パーキングブレーキ(駐車ブレーキ)を掛けていない場合、車両重量、登坂勾配、タイヤ径、ドライブシャフト36の剛性によってブレーキオフ後にドライブシャフト36が角度β捩れる。何も制御しない場合、パーキングブレーキを掛けていなければ、下記の式(1)で表される距離だけ車両がずり下がる。式(1)において、iは駆動軸22の回転数に対する車軸36の回転数の比である。
【0025】
【数1】
【0026】
このずり下がりを防止するための本実施形態の車両制御装置1の制御動作を、図5及び図6を参照して説明する。
【0027】
図5は、車両制御装置によるずり下がりを抑制するための制御動作を示すフローチャートである。また、図6は、車両制御装置によるずり下がりを抑制するための制御動作を示すタイミングチャートである。図5に示すように、まず、CPU48はブレーキセンサ62からの信号に基づいてブレーキがオンしているか否かを判断する(ステップS1)。ブレーキがオンの場合(ステップS1でYES)、運転者によってPスイッチ58が押下されたか否かを判断する(ステップS2)。ブレーキがオフされていると判断した場合(ステップS1でNO)にはステップS1に戻る。Pスイッチ58が押下されたと判断した場合(ステップS2でYES)には、CPU48はパーキング動作許可判定手段として機能し、アクチュエータ44の作動を許可するか否かのパーキング動作許可判定を行う(ステップS3)。Pスイッチ58が押下されていないと判断した場合(ステップS2でNO)にはステップS2に戻る。パーキング動作許可判定は、車速が所定速度v未満か否かで判定する。すなわち、CPU48は車速センサ54によって検出された車速と予めROM50に記憶されている所定速度vとを比較して判定する。検出された車速が所定速度v以上の場合(ステップS3でNO)にはステップS3に戻る。検出された車速が所定速度v未満の場合にはCPU48はアクチュエータ44の作動を許可すべく、アクチュエータ44に作動信号を送信する(ステップS4)。図6に示すように、Pスイッチ58がオンしてからアクチュエータ44が作動するまで応答遅れが存在する。
【0028】
次に、CPU48はモータ角度制御実行判定手段として機能し、アクチュエータ44が作動した後に、傾斜角検出センサ56により検出された勾配に基づいてモータ角度制御手段(CPU48)によるモータ角度制御を実行するか否かの判定を行う(ステップS5)。すなわち、CPU48は傾斜角検出センサ56によって検出された勾配と予めROM50に記憶されている所定勾配dとを比較し、検出された勾配が所定勾配d以上である場合には、トラクションモータ8を傾斜角検出センサ56により検出された勾配に応じた所定角度分回転させる「TRC角度制御」を開始する(ステップS6)。図6ではTRC角度制御をモータ制御と表示している。検出された勾配が所定勾配d未満である場合(ステップS5でNO)にはステップS5に戻る。TRC角度制御では、アクチュエータ44の作動後、トラクションモータ8を車両2がずり下がる方向とは反対方向に回転させ、車両2のずり下がり量を、下記式(2)で表される量に低減する。
【0029】
【数2】
【0030】
ブレーキオン状態でパーキングギヤ24を所定角度回転させるには、下記式(3)で表されるトラクションモータ8のトルクTTRCが必要である。図6に示すように、TRC角度制御の開始時はトルク0である。モータ角度制御手段としてのCPU48は、パーキングギヤ24を所定角度回転させるために必要なモータトルクを式(3)で算出してこれを目標トルクとし、所定時間で目標トルクに到達するようにモータトルクを加算していく。
【0031】
【数3】
【0032】
次に、モータ角度制御手段としてのCPU48は、レゾルバ60からのトラクションモータ8の検出角度の累積値をモニタし、所定の角度αmaxに達したかどうかを判断する(ステップS7)。所定の角度αmaxに達した場合にはパーキングギヤ24がインギヤしたとしてTRC角度制御を終了する。所定の角度αmaxに達していない場合(ステップS7でNO)には、モータトルクの増加に対して累積角度が増加しない時間が一定時間n続いたかどうか(一定時間nあるかどうか)を判断し(ステップS8)、累積角度が増加しない時間が一定時間n続いていると判断した場合(ステップS8でYES)には、パーキングポール40がパーキングギヤ24に噛み合った(インギヤした)と判断し、TRC角度制御を終了する。この場合には所定の角度αmaxに達する前にインギヤが成立したことになる。すなわち、パーキングギヤ24がインギヤになるまでの時間が所定よりも短くなる。累積角度が増加しない時間が一定時間続いていない場合(ステップS8でNO)にはステップS8に戻る。
【0033】
上記のようにTRC角度制御によってずり下がり量を低減できるのであるが、過剰なずり上がりなど運転者が想定しない挙動が起こるのは好ましくないため、下記式(4)で表される条件範囲では、ステップS5でCPU48はTRC角度制御の実行を許可しないようになっている。これにより、運転者に想定外の驚きや不安感を与えるおそれがない。
【0034】
【数4】
【0035】
上記の通り、本実施形態の車両制御装置1では、従来技術のように予めトラクションモータの回転でパーキングギヤとパーキングポールの位相合わせをせずに、パーキングギヤ24が確実にインギヤするためのTRC角度制御(モータ制御)を行うようにしているので、パーキングギヤ24とパーキングポール40間の位相ずれの有無に拘わらず、所定角度内でパーキングギヤ24を確実にインギヤすることができる。このため、アクチュエータ44の作動後にモータ制御を開始でき、従来技術のようにPスイッチ58が押下されるまでモータトルクを印加したまま待機する必要がない。これにより、モータ温度が高温となってトルクを印加できなくなる虞はない。また、トラクションモータ8を回転させて予めパーキングギヤ24とパーキングポール40の位相を合わせる動作が不要で、且つ学習工程も不要となるので、制御コストの増加を来すことなく坂道駐車でのずり下がりを抑制できる。
【0036】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では車両2が上り勾配の坂道で駐車する場合を説明したが、下り勾配の坂道で駐車する場合にも同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 車両制御装置
2 車両
8 トラクションモータ(駆動用モータ)
22 駆動軸
24 パーキングギヤ
40 パーキングポール
44 アクチュエータ
46 ハイブリッド用電子制御ユニット
48 CPU(モータ角度制御手段、パーキング動作許可判定手段、モータ角度制御実行判定手段)
56 傾斜角検出センサ(勾配検出手段)
60 レゾルバ(回転角検出手段)
n 一定時間
αmax 所定角度(最大角度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7