(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】紙容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/26 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B65D1/26 120
(21)【出願番号】P 2021211895
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2016177295の分割
【原出願日】2016-09-12
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000222141
【氏名又は名称】東洋アルミエコープロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101409
【氏名又は名称】葛西 泰二
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【氏名又は名称】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】篠原 隆昌
【審査官】矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-142798(JP,A)
【文献】特開2011-116392(JP,A)
【文献】特開2003-128036(JP,A)
【文献】特開平10-043027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された紙容器であって、
底面部と、
前記底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、
前記側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、
前記フランジ部には
、下方に凸状に形成された凹
部が含まれ、
前記凹部は、断面半円状であり、
前記凹部は、前記フランジ部の全周において形成され、
前記凹部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、前記フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2であ
り、
前記フランジ部には、前記凹部の外周端と接続され外方に略水平方向に延びる平坦部が含まれる、紙容器。
【請求項2】
前記フランジ部の前記凹部が形成されている部分に、外周に向かって放射状に延びる複数の罫線が形成された、請求項
1記載の紙容器。
【請求項3】
1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された紙容器であって、
底面部と、
前記底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、
前記側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、
前記フランジ部には、上方に凸状に形成された凸部が含まれ、
前記凸部は、断面半円状であり、
前記凸部は、前記フランジ部の全周において形成され、
前記凸部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、前記フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2であり、
前記フランジ部の外周端に接続された縁巻部を更に備え、
前記凸部の頂点は、前記縁巻部の頂点を含む仮想平面に含まれ
、
内方面が平坦である蓋を用いた場合に前記凸部と前記縁巻部とに接する、紙容器。
【請求項4】
1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成され
、脱着自在であって内方面が平坦な蓋を用いることができる紙容器であって、
底面部と、
前記底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、
前記側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、
前記フランジ部には、上方に凸状に形成された凸部が含まれ、
前記凸部は、断面半円状であり、
前記凸部は、前記フランジ部の全周において形成され
、
前記フランジ部の外周端に接続された縁巻部を更に備え、
前記凸部の頂点は、前記縁巻部の頂点を含む仮想平面に含ま
れ、
前記縁巻部の頂点及び前記凸部の頂点が前記蓋を支持する、紙容器。
【請求項5】
前記凸部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、前記フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2である、請求項4記載の紙容器。
【請求項6】
前記フランジ部には、前記凸部の外周端と接続され外方に略水平方向に延びる平坦部が含まれる、請求項
3から請求項
5のいずれかに記載の紙容器。
【請求項7】
前記凸部の内方側部分は、前記側壁部の内面部分の延長上に位置する、請求項
3から請求項
6のいずれかに記載の紙容器。
【請求項8】
前記フランジ部の前記凸部が形成されている部分に、外周に向かって放射状に延びる複数の罫線が形成された、請求項
3から請求項
7のいずれかに記載の紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は紙容器に関し、特に、1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された紙容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は特許文献1に開示された従来の紙容器の全体形状を示した平面図であり、
図7は
図6で示した紙容器の正面図であり、
図8は
図6で示したVIII-VIIIラインの端面図である。
【0003】
これらの図を参照して、紙容器51は矩形形状の両側に一対の半円を接続した長円形状の底面部53と、底面部53の周縁と接続され斜め上方に立ち上がる平面側壁部54及び湾曲側壁部55と、平面側壁部54及び湾曲側壁部55の各々の上端と接続され略水平方向に伸びるフランジ部56及びフランジ部56より水平長さが大きな拡大フランジ部57と、フランジ部56及び拡大フランジ部57の外周端に接続された縁巻部58とから構成されている。
【0004】
尚、平面側壁部54及びフランジ部56は底面部53の矩形形状部分に対応したものであり、湾曲側壁部55及び拡大フランジ部57は底面部53の半円状部分にほぼ対応したものである。
【0005】
又、湾曲側壁部55及び拡大フランジ部57においては、その内部から外周に向かって放射状に罫線60が形成されている。この罫線60は、紙容器51をプレス成形するための板紙原紙において形成された凹み線が成形時のシワを吸収してその表面に現れるものである。
【0006】
図9は
図6で示した紙容器をプレス成形して形成するための板紙原紙の全体形状を示した平面図である。
【0007】
図を参照して、板紙原紙70においては、
図6で示した平面側壁部54及びフランジ部56に対応した平面側壁対応部78a、平面側壁対応部78bの部分を除いて、その中央部から外周に向けて放射状に延びる複数の凹み線80が形成されている。即ち、凹み線80が成形される部分は、
図6に示した湾曲側壁部55及び拡大フランジ部57に対応する部分である。
【0008】
図10は
図9で示した板紙原紙を用いて、
図6及び
図7で示した紙容器を図示しない成形装置によって成形加工する際の成形工程を概略的に示した工程断面図であって、その断面は
図6で示したA-A断面に対応した図である。
【0009】
図の(1)に示されている板紙原紙70は、成形装置の型部材(例えば金型)によって上下から押圧され、図の(2)に示されているように底面部53及び湾曲側壁部55が形成され、その外方は平坦部82となっている。
【0010】
次に、図の(3)に示されているように、平坦部82は更にプレス加工されて拡大フランジ部57及び垂直部83が形成される。そして図の(4)に示されているように、垂直部83は縁巻成形されて縁巻部58が全周に形成される。
【0011】
このようにして、従来の紙製の縁巻成形された長円型容器は、1枚の板紙原紙から成形加工されていた。尚、上記では長円型紙容器を例として説明したが、丸型紙容器についてもその成形過程については基本的に同一である。但しこの場合、板紙原紙の周辺全周に凹み線80に相当する線条が設けられることになる。
【0012】
そして、湾曲側壁部55の部分はその絞り加工によって表面にシワが発生しやすくなるが、これらのシワは板紙原紙70に前もって形成された凹み線80によって吸収され、不規則なシワの発生が防止される。
【0013】
図11は
図9で示した板紙原紙70に形成された凹み線80の成形加工時における変化状態を示した拡大断面図である。
【0014】
図を参照して、図の(1)に示されているように、凹み線80の凹部71及び凸部72がそれぞれ容器内面側と容器外面側とに形成されている。そして湾曲側壁部55に対応する成形前の板紙原紙70の厚さをD
1とする。このような板紙原紙70に対して、図の(2)に示されているように
図10の(2)のプレス工程で湾曲側壁部55が形成されると、湾曲側壁部55は隣接する平面状の平面側壁部54の成形によって絞り込まれた量だけ円周方向に圧縮される状態となり、その厚さが増加することになる。
【0015】
この状態で圧縮が始まると、図の(3)に示されているように、容器外面側の凹み線80の凸部72を中心とした折りシワ74が形成され、容器内面側に形成されていた凹み線80の凹部71は、その両側の部分から圧縮されて1本の罫線60に変化する。そして湾曲側壁部55は最終的には板厚方向にも圧縮され、図の(4)に示されているように容器内面側は罫線60のみが形成された平滑面となり、容器外面側は折りシワ74が扁平状態にされた状態となる。この状態の湾曲側壁部55の厚さD2は、圧縮しない場合には成形前の板厚D1のほぼ2倍となるが、成形装置による板厚方向への押圧によって1.5×D1程度の厚さに仕上げられることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし上記のような従来の紙容器では、展延性に乏しく且つプレス成形後の形状の復元性が高い(いわゆるスプリングバックを起こし易い)という紙特有の性質から、
図8で示したように、プレス成形時において底面部53と湾曲側壁部55とがなす角度θ
1や湾曲側壁部55と拡大フランジ部57とがなす角度θ
2が、経時と共に大きくなり紙容器の保形性が低下する虞があった。
【0018】
又、紙容器に外周に向かって放射状に延びるように複数形成されている罫線60が屈曲の起点となり、このような屈曲点が複数存在することで、紙容器の円周方向強度が低下する虞があった。円周方向強度が低下すると、内容物充填工程や充填後のシュリンク工程において紙容器に変形が生じ、ライン停止やシュリンク不良の原因となり得る。
【0019】
更に、予め規則正しく凹み線が形成されていない紙容器にあっても、成形加工時にシワが不規則に形成されることは避けられず、同様の問題が存在した。
【0020】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、円周方向強度や保形性が向上した紙容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された紙容器であって、底面部と、底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、フランジ部には、下方に凸状に形成された凹部が含まれ、凹部は、断面半円状であり、凹部は、フランジ部の全周において形成され、凹部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2であり、フランジ部には、凹部の外周端と接続され外方に略水平方向に延びる平坦部が含まれるものである。
【0022】
このように構成すると、凹部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上する。又、紙容器のフランジ部の持ち易さを損なうことなく、フランジ部の実質的な長さが増加する。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成において、フランジ部の凹部が形成されている部分に、外周に向かって放射状に延びる複数の罫線が形成されたものである。
このように構成すると、成形時に不規則に発生しようとするシワが罫線に吸収されると共に凹部の形成により吸収されたシワが圧縮される。
【0025】
請求項3記載の発明は、1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成された紙容器であって、底面部と、底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、フランジ部には、上方に凸状に形成された凸部が含まれ、凸部は、断面半円状であり、凸部は、フランジ部の全周において形成され、凸部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2であり、フランジ部の外周端に接続された縁巻部を更に備え、凸部の頂点は、縁巻部の頂点を含む仮想平面に含まれ、内方面が平坦である蓋を用いた場合に凸部と縁巻部とに接するものである。
【0026】
このように構成すると、凸部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上する。又、凸部の上方向高さが縁巻部の上方向高さと同一となる。
【0027】
請求項4記載の発明は、1枚の板紙原紙からプレス成形のみによって形成され、脱着自在であって内方面が平坦な蓋を用いることができる紙容器であって、底面部と、底面部の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部と、側壁部の上端と接続され外方に略水平方向に延びるフランジ部とを備え、フランジ部には、上方に凸状に形成された凸部が含まれ、凸部は、断面半円状であり、凸部は、フランジ部の全周において形成され、フランジ部の外周端に接続された縁巻部を更に備え、凸部の頂点は、縁巻部の頂点を含む仮想平面に含まれ、縁巻部の頂点及び凸部の頂点が蓋を支持するものである。
【0028】
このように構成すると、凸部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上する。又、凸部の上方向高さが縁巻部の上方向高さと同一となる。
【0035】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、凸部の水平方向長さは、放射方向において全周で均一であり、フランジ部の水平方向長さが最も短くなる箇所の水平方向長さの1/2であるものである。
【0036】
請求項6記載の発明は、請求項3から請求項5のいずれかに記載の発明の構成において、フランジ部には、凸部の外周端と接続され外方に略水平方向に延びる平坦部が含まれるものである。
このように構成すると、紙容器のフランジ部の持ち易さを損なうことなく、フランジ部の実質的な長さが増加する。
請求項7記載の発明は、請求項3から請求項6のいずれかに記載の発明の構成において、凸部の内方側部分は、側壁部の内面部分の延長上に位置するものである。
このように構成すると、紙容器の実質的な容量が増加する。
請求項8記載の発明は、請求項3から請求項7のいずれかに記載の発明の構成において、フランジ部の凸部が形成されている部分に、外周に向かって放射状に延びる複数の罫線が形成されたものである。
このように構成すると、成形時に不規則に発生しようとするシワが罫線に吸収されると共に凸部の形成により吸収されたシワが圧縮される。
【発明の効果】
【0037】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、凹部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上し、紙容器の保形性が向上する。又、紙容器のフランジ部の持ち易さを損なうことなく、フランジ部の実質的な長さが増加するため、加熱物を紙容器内に収納した際に、把持箇所への熱伝達を抑制することが可能となる。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、成形時に不規則に発生しようとするシワが罫線に吸収されると共に凹部の形成により吸収されたシワが圧縮されるため、吸収されたシワの緩みが防止され保形性が向上する。又、美観が向上する。
【0039】
請求項3記載の発明は、凸部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上し、紙容器の保形性が向上する。又、凸部の上方向高さが縁巻部の上方向高さと同一となるため、紙容器の円周方向強度を、側面視に影響することなく可能な限り向上させる。更に、内方面が平坦である蓋を用いた際に凸部と縁巻部とに接するので安定性が向上する。
【0040】
請求項4記載の発明は、凸部の存在によって紙容器の円周方向強度が向上し、紙容器の保形性が向上する。又、凸部の上方向高さが縁巻部の上方向高さと同一となるため、紙容器の円周方向強度を、側面視に影響することなく可能な限り向上させる。更に、内方面が平坦である蓋を用いた際に凸部と縁巻部とに接するので安定性が向上する。
【0044】
請求項6記載の発明は、請求項3から請求項5のいずれかに記載の発明の効果に加えて、紙容器のフランジ部の持ち易さを損なうことなく、フランジ部の実質的な長さが増加するため、加熱物を紙容器内に収納した際に、把持箇所への熱伝達を抑制することが可能となる。
請求項7記載の発明は、請求項3から請求項6のいずれかに記載の発明の効果に加えて、紙容器の実質的な容量が増加するため、効率的な容器となる。
請求項8記載の発明は、請求項3から請求項7のいずれかに記載の発明の効果に加えて、成形時に不規則に発生しようとするシワが罫線に吸収されると共に凸部の形成により吸収されたシワが圧縮されるため、吸収されたシワの緩みが防止され保形性が向上する。又、美観が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】この発明の実施の形態による紙容器の全体形状を示す平面図である。
【
図2】
図1で示したII-IIラインの拡大断面図である。
【
図3】
図1で示した紙容器に蓋を使用した状態を示す端面図である。
【
図4】
図1の紙容器等を対象とした測定試験の様子を示した模式図である。
【
図5】
図4で示した測定試験の結果を示したグラフであって、(1)は長手方向のものであり、(2)は短手方向のものである。
【
図6】特許文献1に開示された従来の紙容器の全体形状を示した平面図である。
【
図8】
図6で示したVIII-VIIIラインの端面図である。
【
図9】
図6で示した紙容器をプレス成形して形成するための板紙原紙の全体形状を示した平面図である。
【
図10】
図9で示した板紙原紙を用いて、
図6及び
図7で示した紙容器を図示しない成形装置によって成形加工する際の成形工程を概略的に示した工程断面図であって、その端面は
図6で示したA-A端面に対応した図である。
【
図11】
図9で示した板紙原紙70に形成された凹み線80の成形加工時における変化状態を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1はこの発明の実施の形態による紙容器の全体形状を示す平面図であり、
図2は
図1で示したII-IIラインの拡大断面図である。
【0047】
これらの図を参照して、紙容器1は、長円形状の底面部3と、底面部3の周縁と接続され上方に立ち上がる側壁部4と、側壁部4の上端と接続され略水平方向に伸びるフランジ部6と、フランジ部6の外周端に接続された縁巻部8とから主に構成されている。又、フランジ部6は、側壁部4とフランジ部6との接続箇所7の全周において上方に凸状に形成された凸部11と、凸部11の外周端と接続され外方に略水平方向に延びる平坦部12とから構成されている。
【0048】
又、紙容器1の側壁部4、凸部11、平坦部12及び縁巻部8の全周には、外周に向かって放射状に延びる複数の罫線10が形成されている。罫線10の効果については後述する。
【0049】
この紙容器1の成形工程は、
図10で示した従来の紙容器51の成形工程と基本的に同様であり、本実施の形態にあっては、
図10の(2)に示される工程で用いられる図示しない型部材を凸部11が形成される形状に変更し、従来と同様の板紙原紙を用いて同様の成形工程を経ることで、紙容器1が成形される。
【0050】
このように構成することで、プレス成形により圧縮して形成された凸部11の存在によって、円周方向に力が加わっても屈曲し難くなり、紙容器の円周方向強度が向上する。又、紙容器1のフランジ部6が経時と共に側壁部4に対して離れる方向に開いていく(
図8で示した角度θ
1やθ
2に相当する部分が経時と共に大きくなっていく)ことに凸部11が抵抗する形となり、紙容器の保形性が向上する。
【0051】
又、凸部11がフランジ部6の接続箇所7の全周において形成されていることで、凸部11が接続箇所7の一部のみに形成されている場合と比べて金型の設計が容易となる。加えて、フランジ部6の全周において凸部が連続することで、例えば長手方向(
図1の一点鎖線で描いた矢印で示すX-X方向)に圧縮する力を加えたとき、力を加えられた点の周辺の凸部だけでなく、両側“Y”部分周辺の凸部においても屈曲に抵抗する作用をもたらすことになる。即ちこれらによって、より製造面で簡易且つ確実に、全体における円周方向強度が向上した紙容器となる。
【0052】
尚、凸部11の水平方向長さは放射方向において全周で均一であり、
図2のW
1で示される長さである。この凸部11の水平方向長さW
1は特に限定されないが、フランジ部6の水平方向長さが最も短くなる箇所(例えば
図2においてその拡大端面が示されるB-Bライン箇所)の水平方向長さW
2の約1/2であることが好ましい。
【0053】
フランジ部6には平坦部12が含まれていることで、紙容器1を把持する際には凸部11を上方から押圧することなく平坦部12を把持することができる。即ち、平坦部12が把持箇所となることによって、凸部11の効果を阻害することなく紙容器1を把持することができる。尚、把持箇所には縁巻部8が含まれていても良いし、又、両側端部の平坦部12が含まれていても良い。更に、把持箇所が長手方向の両側端部における拡大されたフランジ部6の平坦部12であっても同様に本発明を適用することができる。
【0054】
ここで、紙容器1は、収納されている内容物を加熱したり、あるいは加熱物を収納したりする場合がある。紙容器1内部の加熱物から把持箇所までの熱伝達には、フランジ部6の実質的な長さが影響する。尚、フランジ部の実質的な長さとは、フランジ部の内周端から外周端までの、紙容器の形状に沿った長さであり、紙容器の厚みを考慮する必要があるときは厚み方向中央を用いる。従来の紙容器の
図2に相当する部分のフランジ部の実質的な長さはその水平方向長さと同一のW
2であるのに対して、紙容器1のフランジ部6の実質的な長さはW
3であり、水平方向長さW
2よりも長さが増加するため、熱伝達に要する長さが増加すると共に周辺の空気によって冷却される表面積が増加し、紙容器1内部の加熱物から把持箇所までの熱伝達を抑制することが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本発明の紙容器にあっては、凸部11と平坦部12との相乗効果により、加熱物が紙容器1内部に収納されている際にも、紙容器1のフランジ部6の持ち易さを損なうことなく、容易に把持することが可能となる。
【0056】
又、凸部11の頂点14は、縁巻部8の頂点15を含む第1の仮想平面16に含まれる。このように構成することで、凸部11の上方向高さが縁巻部8の上方向高さと同一となるため、紙容器1の円周方向強度を、側面視に影響することなく可能な限り向上させる。
【0057】
又、凸部11は、その内方側部分(
図2における上方面)が側壁部4の内面部分の延長上に位置している。即ち、凸部11は、その内周端が内方端側壁部4の上端と接続箇所7において接続され、断面上半円状に外方(
図2における右方向)に延びる。このように構成することで、紙容器の実質的な容量が増加する。即ち、従来の紙容器の実質的な容量は第2の仮想平面17でその上限が示されるものであったのに対し、本発明の紙容器の実質的な容量は第1の仮想平面16でその上限が示されるものとなり増加しているため、効率的な容器となる。尚、実際に紙容器1を使用する際には、従来の紙容器と等量の内容物を従来同様の工程で収納することも無論可能である。
【0058】
ここで、紙容器1に対して合成樹脂や紙からなる蓋を用いる場合がある。
【0059】
図3は
図1で示した紙容器に蓋を使用した状態を示す端面図である。
【0060】
蓋21の内方面22は平坦であり、紙容器1の上方全体を覆うように嵌合している。
【0061】
従来の紙容器では、当該端面において、蓋21を支持する箇所が縁巻部8の頂点15a、15bの2点であり、その水平方向長さはA1であったのに対し、本発明の紙容器1では、蓋21を支持する点が縁巻部8の頂点15a、15b及び凸部11の頂点14a、14bの4点であり、その水平方向長さはA1よりも短いA2となる。
【0062】
このように、本発明の紙容器は、内方面が平坦である蓋を用いた際に凸部と縁巻部とに接するので安定性が向上する。
【0063】
次に、紙容器に形成された罫線について説明する。
【0064】
罫線10の成形工程及び構造については、従来の紙容器における罫線と基本的に同様である。戻って
図1を参照して、紙容器1には罫線10が形成されていることにより、成形時に不規則に発生しようとするシワが罫線10に吸収され圧縮されるため、美観が向上する。又、これに加え、凸部が形成されていることにより、その吸収されたシワが更に圧縮される。
【0065】
ここで、従来の紙容器にあっては、シワを吸収した罫線が経時と共に緩んだり、あるいは引張方向の力が加わったりすることで罫線が開いてしまい、紙容器の円周方向強度が低下すると共に保形性が低下する問題があった。
【0066】
これに対し、本発明の紙容器にあっては、上述のように凸部の形成により吸収されたシワが圧縮されるため、吸収されたシワの緩みが防止され保形性が向上する。このように、本発明の紙容器の凸部の形成は、罫線が形成されている紙容器において特に有効である。
【0067】
尚、本発明の紙容器に用いる板紙原紙にあっては、紙の種類は特に限定されないが、所望の用途に応じて、純白ロール紙、クラフト紙、パーチメント紙、アイボリー紙、マニラ紙、カード紙、カップ紙、グラシン紙等を用いることができる。
【0068】
又、上記の板紙原紙の厚みは特に限定されないが、本発明の紙容器における凸部の保形性向上効果を適切に発揮させる観点から、0.2mm~0.5mm(坪量150~500g/m2)であることが好ましい。
【0069】
更に、上記の板紙原紙の表面には、樹脂のフィルムやコーティングが積層されていても良い。樹脂の種類は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、アクリル(メタクリル)系樹脂、ポリブタジエン等のジエン系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、のような熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂が積層されていることにより、成形後の紙容器に耐熱性、耐水性、耐気液透過性等の特性を付与することができる。
【0070】
更に、上記の板紙原紙の表面の樹脂の厚みは特に限定されないが、10μm~50μmであることが好ましい。このように構成することで、成形後に高周波溶着又は超音波溶着により紙容器の表面の樹脂を溶着し、成形後の罫線の緩みを抑制することができる。
【0071】
更に、上記の板紙原紙の表面には、印刷が施されていても良い。これによって意匠性を向上させることができる。
【0072】
更に、本発明の紙容器の縁巻部には、接着剤が塗布されていても良い。これによって縁巻部が接着剤により固定されるため、縁巻部のスプリングバックを抑制することができる。接着剤は、例えば縁巻部の先端部の外周側に塗布することができる。
【0073】
更に、上記の実施の形態では、紙容器に縁巻部が形成されていたが、縁巻部が形成されていない紙容器であっても良い。
【0074】
更に、上記の実施の形態では、フランジ部に平坦部が含まれていたが、平坦部が形成されていない紙容器であっても良い。
【0075】
更に、上記の実施の形態では、罫線は側壁部、凸部、平坦部及び縁巻部の全周において形成されていたが、側壁部及び凸部を含むフランジ部の少なくとも一部において形成されていれば良い。又、罫線が形成されていなくとも良い。
【0076】
更に、上記の実施の形態では、凸部が側壁部とフランジ部との接続箇所の全周において形成されていたが、少なくとも一部において形成されていれば良い。
【0077】
更に、上記の実施の形態では、凸部の頂点は縁巻部の頂点を含む仮想平面に含まれていたが、凸部の頂点の少なくとも一部が上記の仮想平面に含まれていなくとも良い。
【0078】
更に、上記の実施の形態では、凸部の幅は放射方向所定長さで全周において均一に形成されていたが、凸部の幅は他の長さでも良い。
【0079】
更に、上記の実施の形態では、凸部は半円状の断面形状に形成されていたが、他の断面形状であっても良い。
【0080】
更に、上記の実施の形態では、紙容器は所定形状に形成されていたが、他の形状であっても良い。
【0081】
更に、上記の実施の形態では、フランジ部及び平坦部は略水平方向に延びていたが、略水平方向とは、紙容器を水平面に載置したときの水平方向のみならず、成形工程及び紙の特性から不可避の誤差を含む。
【0082】
更に、上記の実施の形態では、蓋の内方面は全体において平坦であったが、少なくとも内方面の凸部の頂点及び縁巻部の頂点を含む部分が平坦であれば、凸部の効果を同様に発揮することができる。
【0083】
更に、上記の実施の形態では、凸部が、その内方側部分が側壁部の内面部分の延長上に位置するように形成されていたが、延長上とは接続箇所の近傍を含む概念である。
【0084】
更に、本発明の紙容器にあっては、フランジ部に更に凹部や凸部等が形成されていても良い。
【0085】
更に、上記の実施の形態では、フランジ部に凸部が形成されていたが、フランジ部に凹部が形成されていても同様に円周方向強度向上や保形性向上の効果を奏する。
【0086】
更に、上記の実施の形態では、凸部がフランジ部の接続箇所に形成されていたが、フランジ部の他の箇所に形成されていても良い。
【0087】
したがって、例えば、フランジ部の放射方向幅中央の全周において上方に凸状の凸部や下方に凸状の凹部が形成された紙容器も、本発明の実施の形態として挙げられる。尚、フランジ部の放射方向幅が狭い場合、放射方向幅中央に上方に凸状の凸部や下方に凸状の凹部を形成すると、成形時のフランジ部に対応するプレス金型に強度が弱くなる部分が出るおそれもあるため、上方に凸状の凸部がフランジ部の接続箇所に形成されていることがより好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例に基づいて本発明について具体的に説明する。尚、本実施の形態は実施例に限定されるものではない。
I.測定試験の準備
実施例として、上述した本発明の紙容器を準備した。
【0089】
比較例として、凸部が形成されていないことを除いて本発明の紙容器と同様のものを準備した。
【0090】
これらの実施例及び比較例を用いて、それぞれの円周方向強度(長手方向、短手方向)を測定した。
【0091】
測定装置として、株式会社島津製作所製材料試験機「オートグラフ」(登録商標)及びそのデータ処理ソフト「TRAPEZIUM」(登録商標)を用いた。
【0092】
測定試験は上記「TRAPEZIUM」(登録商標)の円周方向試験に準じたが、切替ストロークの数値を10mmから20mmへと変更している。
II.長手方向の測定試験
図4は
図1の紙容器等を対象とした測定試験の様子を示した模式図である。
【0093】
図を参照して、紙容器1を測定装置30により下端を固定しながら、図の矢印で示される方向から押圧し、その応力を測定装置30により測定した。
【0094】
当該測定試験を実施例及び比較例のそれぞれ3個ずつに対して行い、その3回の算術平均を計算し、測定試験の結果とした。
【0095】
図5は
図4で示した測定試験の結果を示したグラフであって、(1)は長手方向のものであり、(2)は短手方向のものである。
【0096】
図の(1)を参照して、実施例及び比較例の紙容器に対して長手方向に同じ試験力[N]が加えられたとき、実施例は比較例よりも変形量[mm]が低下することが分かった。
III.短手方向の測定試験
測定方法として、紙容器を90度傾けて設置したほかは上記の長手方向の測定試験に準じた。
【0097】
図5の(2)を参照して、実施例及び比較例の紙容器に対して短手方向に同じ試験力が加えられたとき、実施例は比較例よりも変形量が低下することが分かった。
【0098】
以上の測定試験の結果から、凸部が形成された本発明の紙容器にあっては、円周方向強度が向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
1…紙容器
3…底面図
4…側壁部
6…フランジ部
7…接続箇所
8…縁巻部
10…罫線
11…凸部
12…平坦部
14…頂点
15…頂点
16…第1の仮想平面
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。