(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】M2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池中の電解質および正極材料のための添加剤
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20231026BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231026BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231026BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231026BHJP
C08F 212/14 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/13
C08F212/14
(21)【出願番号】P 2021507071
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(86)【国際出願番号】 CA2019051106
(87)【国際公開番号】W WO2020034031
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-07-21
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マレー, シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】ダイグル, ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ローション, シルヴィアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ, カリム
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-026018(JP,A)
【文献】特開2000-195548(JP,A)
【文献】特開2012-227068(JP,A)
【文献】特開平09-106835(JP,A)
【文献】特開2001-006731(JP,A)
【文献】特開平11-121012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 4/13
C08F 212/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、前記方法が、小有機化合物を前記電池の電解質と関連付けて使用することを含み、前記小有機化合物が、前記M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによって前記M
2+金属イオンの溶解を防止
し、
そしてここで、前記小有機化合物が、以下に概説する一般式Vを有し、
【化1】
ここで、
R’が、シアノアルケンであり、
R
3
およびR
4
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、そして
X
1
およびX
2
が各々、Oである、
方法。
【請求項2】
M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止するための方法であって、前記方法が、小有機化合物を前記電池の電解質と関連付けて使用することを含み、前記小有機化合物が、前記M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含
み、
そしてここで、前記小有機化合物が、以下に概説する一般式Vを有し、
【化2】
ここで、
R’が、シアノアルケンであり、
R
3
およびR
4
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、そして
X
1
およびX
2
が各々、Oである、
方法。
【請求項3】
前記M
2+金属イオンが、Mn
2+、Fe
2+、Ca
2+および他の二価金属イオンからなる群から選択され
る、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属系正極材料がMn系正極材料である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記小有機化合物が、前記電解質に添加される、請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記小有機化合物が、以下に概説する化合物A
である、請求項
1~5のいずれか一項に記載の方法。
【化5】
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に定義される前記小有機化合物を含む電解質。
【請求項8】
請求項
7に定義される電解質を含む電池。
【請求項9】
M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、前記方法が、ポリマー化合物を前記電池の前記正極材料と関連付けて使用することを含み、前記ポリマー化合物が、前記M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによって前記M
2+金属イオンの溶解を防止する、
そしてここで、前記ポリマー化合物が、以下に概説する一般式IXを有し、
【化8】
ここで、
R
3
、R
4
およびR
6-9
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、
R’
1-5
が各々、ハロゲンであり、
L’が、アルキル基を含むリンカーであり、そして
X
1
およびX
2
が各々、Oである、
方法。
【請求項10】
M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止する方法であって、前記方法が、ポリマー化合物を前記電池の前記正極と関連付けて使用することを含み、前記ポリマー化合物が、前記M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含
み、
そしてここで、前記ポリマー化合物が、以下に概説する一般式IXを有し、
【化9】
ここで、
R
3
、R
4
およびR
6-9
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、
R’
1-5
が各々、ハロゲンであり、
L’が、アルキル基を含むリンカーであり、そして
X
1
およびX
2
が各々、Oである、
方法。
【請求項11】
L’が、CR
6
R
7
およびCR
8
R
9
の繰り返し単位で構成される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記M
2+金属イオンが、Mn
2+、Fe
2+、Ca
2+および他の二価金属イオンからなる群から選択され
る、請求項
9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属系正極材料がMn系正極材料である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー化合物が、前記正極材料に添加される、請求項
9~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーが、以下に概説する式Pを有する、
【化12】
請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーが、以下に概説する式P’を有する、
【化13】
請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記式Pのポリマーが、48モル%のジメトキシスチレン部分を含む(ポリマージメトキシ-1)、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記式Pのポリマーが、100モル%のジメトキシスチレン部分を含む(ポリマージメトキシ-3)、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記式Pのポリマーが、100モル%のジメトキシスチレン部分を含む(ポリマージメトキシ-3)、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記式P’のポリマーが、50モル%のジヒドロキシスチレン部分を含む(ポリマージヒドロキシ-1)、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
請求項9~20のいずれか一項に定義されるポリマー化合物を含む電解質。
【請求項22】
請求項21に定義される電解質を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、リチウムイオン電池、特に、正極がM2+金属イオンを生成し得る金属系材料を含むリチウムイオン電池に関する。より具体的には、本発明は、かかる電池において、電解質と関連付けて使用するための添加剤、および正極材料と関連付けて使用するための添加剤(結合剤)に関する。本発明による添加剤は、M2+金属イオンの溶解を防止することを可能にし、これは、電池の性能の向上につながる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー源として広く使用され、需要が高まっている。典型的には、かかる電池には、陰極または負極、陽極または正極、および2つの離間した電極の間に提供される電解質が含まれる。電解質には、有機分子またはポリマーが含まれ得、一般に、LiPF6、LiTFSI、またはLiFSI等のリチウム塩も含む。さらに、電解質は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、またはエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびブチレンカーボネート(BC)などの環状カーボネートなどの直鎖カーボネートを含み得る。
【0003】
リチウムイオン電池中の正極活物質は、典型的には、リチウム含有物質、特にM=Mn、Co、Niを有するLiMO2の形態を有するリチウム金属酸化物を含む。これらには、LiCoO2(酸化コバルトリチウム)、LiMnO2(二酸化マンガンリチウム)およびLiNiO2(酸化ニッケルリチウム)が含まれる。LiMn2O4(酸化マンガンリチウム;LMO)およびリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)などの他の金属酸化リチウムも使用される。正極材料にはまた、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルアルコール、ポリ(アクリロニトリル)等を含む結合剤、および炭素系材料が含まれる。
【0004】
LiMnO2、LiMn2O4およびLMFP等のMn系Li含有活性正極材料を含む、M2+金属イオンを生成し得る金属系Li含有活性正極材料が広く使用されており、いくつかの利点を有している。例えば、それらは、比較的安価に取得でき、他の活物質と比較した場合、過充電中に良好な熱安定性を提示し、それらは、環境への負荷が比較的低い。しかしながら、それらの使用にはいくつかの欠点がある。例えば、Mn系正極材料に関しては、Mn2+イオン溶解が一般的に発生し、Mnに関連するプラトーの電圧の低下および低減につながる[1-3]。
【0005】
Mn系活物質を含む正極を使用するリチウムイオン電池の性能を向上させるための方法が当該技術分野で既知である[4-7]。これらの方法のいくつかは、Mn2+イオン溶解の防止に基づいている。これは、Mn2+イオンと特定の化学基を有する好適な化合物との間の複合体の形成に依存する場合がある[6,7]。
【0006】
リチウムイオン電池の性能を向上させる方法が依然として必要とされている。より具体的には、M2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池において、金属イオンの溶解を防止する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、M2+金属イオンを生成し得る金属系正極材料を含むリチウムイオン電池中の電解質と関連付けて使用するための添加剤を設計し、調製した。本発明の添加剤は、電解質に添加され、M2+イオン溶解の防止を可能にする。
【0008】
より具体的には、電解質と関連付けて使用するための本発明の添加剤は、以下に本明細書に記載される小有機分子である。小有機化合物は、M2+金属イオンとの複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む。また、小有機化合物は、電解質ならびに電池の他の構成要素と互換性がある。
【0009】
また、本発明者らは、M2+金属イオンを生成し得る金属系正極材料を含むリチウムイオン電池中の正極材料と関連付けて使用するための添加剤(結合剤)を設計し、調製した。本発明のこの態様による添加剤は、結合剤である。結合剤は、正極材料と混合され、M2+イオン溶解の防止を可能にする。
【0010】
より具体的には、正極材料と関連付けて使用するための本発明の添加剤または結合剤は、以下に本明細書に記載されるポリマー化合物である。ポリマー化合物は、M2+金属イオンとの複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む。また、ポリマー化合物は、正極活物質、ならびに電池の他の構成要素と互換性がある。
【0011】
このように、本発明は、その態様に従って、以下を提供する。
(1)M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、方法が、小有機化合物を電池の電解質と関連付けて使用することを含み、小有機化合物が、M
2+金属イオンとの複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによってM
2+金属イオンの溶解を防止する、方法。
(2)M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止するための方法であって、小型有機化合物を電池の電解質と関連付けて使用することを含み、小型有機化合物が、M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む、方法。
(3)M
2+金属イオンが、Mn
2+、Fe
2+、Ca
2+および他の二価金属イオンからなる群から選択され、好ましくは、金属系正極材料がMn系正極材料である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)小有機化合物が、電解質に添加される、上記(1)または(2)に記載の方法。
(5)小有機化合物が、以下に概説する一般式Iを有し、
【化1】
式中、
Qが、5~12員環または二環性環であり、任意選択で、環が、同一または異なった1つ以上のヘテロ原子を含み、RiおよびR’iが各々独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アルケン、アルキン、アリールおよびアルキルアリール、アルコキシ、チオアルコキシ、OH、SH、NH
2、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノチオアルコキシ、シアノアルキル、シアノアルケン、シアノアルケン、シアノアルキン、CN、NO
2、SO
2、COOH、およびアシルオキシカルボニルから選択され、ただし、RiおよびR’iのうちの少なくとも1つがヘテロ原子を含むことを条件とし、nおよびmが各々独立して、0~11の整数であり、ただし、nおよびmは両方とも同時に0ではないことを条件とし、ヘテロ原子が、O、S、およびNから選択される、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)RiおよびR’iのうちの少なくとも2つが、ヘテロ原子を含み、かつRiおよびR’iのうちの少なくとも2つが環の連続した炭素原子に結合されるか、またはQが二環性環である場合にRiおよびR’iのうちの少なくとも2つが互いに空間的に近接する、上記(5)に記載の方法。
(7)小有機化合物が、以下に概説する一般式IIを有し、
【化2】
式中、RiおよびR’iが、上記(5)に定義される通りであり、両方ともHとは異なり、nおよびmが、上記(5)に定義される通りであり、n=2~4またはn=2およびm=1である、上記(5)または(6)に記載の方法。
(8)小有機化合物が、以下に概説する一般式IIIを有し、
【化3】
式中、R
1、R
2およびR’が各々、RiおよびR’iについて上記(7)に定義される通りである、上記(5)または(6)に記載の方法。
(9)小有機化合物が、以下に概説する一般式IVを有し、
【化4】
式中、R
1、R
2およびR’が各々、RiおよびR’iについて上記(7)に定義される通りである、上記(5)または(6)に記載の方法。
(10)小有機化合物が、以下に概説する一般式Vを有し、
【化5】
式中、R’が、RiおよびR’iについて上記(6)に定義される通りであり、R
3およびR
4が各々独立して、HまたはC
1-6アルキルであり、X
1およびX
2が各々独立して、ヘテロ原子であり、好ましくは、ヘテロ原子が、O、S、またはNであり、より好ましくは、ヘテロ原子が、Oである、上記(5)または(6)に記載の方法。
(11)小有機化合物が、以下に概説する化合物A、化合物B、化合物C、および化合物Dから選択される、上記(5)または(6)に記載の方法。
【化6-1】
【化6-2】
(12)上記(1)~(11)のいずれか1つに定義される小有機化合物を含む電解質。
(13)上記(12)に定義される電解質を含む電池。
(14)以下に概説される一般式VIを有し、
【化7】
式中、QおよびQ’が各々独立して、5~12員環または二環性環であり、任意選択で、同一または異なった1つ以上のヘテロ原子を含み、Lが、アルキル基を含むリンカーであり、RiおよびR’iが各々独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アルケン、アルキン、アリールおよびアルキルアリール、アルコキシ、チオアルコキシ、OH、SH、NH
2、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノチオアルコキシ、シアノアルキル、シアノアルケン、シアノアルキン、CN、NO
2、SO
2、COOH、ならびにアシルオキシカルボニルから選択され、ただし、Riのうちの少なくとも1つがヘテロ原子を含み、R’iのうちの少なくとも1つがHとは異なることを条件とし、nおよびmが各々独立して、0~11の整数であり、ただし、nおよびmは両方とも同時に0ではないことを条件とし、ヘテロ原子が、O、S、およびNから選択される、ポリマー化合物。
(15)Riのうちの少なくとも2つが、ヘテロ原子を含み、かつRiのうちの少なくとも2つが環の連続した炭素原子に結合され、またはQが二環性環である場合にRiのうちの少なくとも2つが互いに空間的に近接する、上記(14)に記載のポリマー。
(16)少なくとも1つのR’iが、ハロゲン原子、好ましくはFである、上記(14)または(15)に記載のポリマー。
(17)以下に概説される一般式VIIを有し、
【化8】
式中、Lが、上記(14)に定義される通りであり、Riが、上記(15)に定義される通りであり、R’iが、上記(16)に定義される通りであり、nおよびmが各々、上記(14)に定義される通りである、ポリマー化合物。
(18)以下に概説される一般式VIIIを有し、
【化9】
式中、R
1およびR
2の両方が、ヘテロ原子を含み、R’
1-5が各々、R’iについて上記(16)に定義される通りであり、Lが、上記(14)に定義される通りである、ポリマー化合物。
(19)R
1およびR
2の両方が、ヘテロ原子を含み、環の連続炭素原子に結合される、上記(18)に記載のポリマー。
(20)以下に概説される一般式IXを有し、
【化10】
式中、R
3、R
4、およびR
6-9が各々独立して、HまたはC
1-6アルキルであり、R’
1-5が各々、上記(18)に定義される通りであり、L’が、Lについて上記(14)に定義される通りであり、好ましくは、L’が、CR
6R
7およびCR
8R
9の繰り返し単位から構成され、X
1およびX
2が各々独立して、ヘテロ原子であり、好ましくは、ヘテロ原子が、O、S、またはNであり、より好ましくは、ヘテロ原子が、Oである、ポリマー化合物。
(21)以下に概説する式Pを有するポリマー。
【化11】
(22)以下に概説される式P’を有するポリマー。
【化12】
(23)ジメトキシスチレン部分48mol%を含む式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-1)。
(24)ジメトキシスチレン部分の70mol%を含む式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-2)。
(25)ジメトキシスチレン部分の100mol%を含む式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-3)。
(26)ジヒドロキシスチレン部分の50mol%を含む式P’のポリマー(ポリマージフィドロキシ-1)。
(27)M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、方法が、ポリマー化合物を電池の正極材料と関連付けて使用することを含み、ポリマー化合物が、M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによってM
2+金属イオンの溶解を防止する、方法。
(28)M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止する方法であって、方法が、ポリマー化合物を電池の正極と関連付けて使用することを含み、ポリマー化合物が、M
2+金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む、方法。
(29)M
2+金属イオンが、Mn
2+、Fe
2+、Ca
2+および他の二価金属イオンからなる群から選択され、好ましくは、金属系正極材料がMn系正極材料である、上記(27)または(28)に記載の方法。
(30)ポリマー化合物が、正極材料に添加される、上記(27)~(29)のいずれか1つに記載の方法。
(32)M
2+金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止する方法であって、方法が、ポリマー化合物を電池の正極材料と関連付けて使用することを含み、ポリマー化合物が、上記(14)~(26)のいずれか1つに定義される通りである、方法。
(33)上記(14)~(26)のいずれか1つに定義されるポリマー化合物を含む正極材料。
(34)上記(33)に定義される正極材料を含む電池。
(35)ジアルキルオキシスチレン化合物およびペンタハロゲンオスチレン化合物をランダム共重合に供してアルキオキシスチレンポリマーを得ることと、任意選択でアルキオキシスチレンポリマーを脱アルキル化プロセスに供してヒドロキシポリマー化合物を得ることと、を含む、上記(14)~(26)のいずれか1つに定義されるポリマー化合物を調製するための方法。
(36)ジアルキルオキシスチレン化合物が、ジメトキシスチレンであり、ペンタハロゲンオキシスチレン化合物が、ペンタフルオロスチレンである、上記(35)に記載の方法。
(37)ジメトキシスチレンおよびペンタフルオロスチレンをランダム共重合に供することを含む、式Pのポリマー化合物を調製するための方法。
(38)式P’のポリマー化合物を調製するための方法であって、式Pのポリマー化合物を脱メチル化プロセスに供することを含む、方法。
(39)ジアルキルオキシスチレン化合物およびペンタハロゲンオスチレン化合物を、原子移動ラジカル重合(ATRP)、原子移動ラジカル添加重合(ATRAP)、遅延陰イオン重合(RAP)、陽イオン重合等である重合プロセスに供することを含む、上記(14)~(26)のいずれか1つに定義されるポリマー化合物を調製するための方法。
【0012】
本発明の他の目的、利点および特徴は、添付の図面を参照するだけで例示的に与えられた、その特定の実施形態の以下の非限定的な説明を読めば、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
特許または出願ファイルには、カラーで作成される少なくとも1つの図面が含まれている。本特許または特許出願公報のカラー図面付きのコピーは、請求および必要な費用の支払いにより、特許庁によって提供される。
【0014】
添付の図面には以下が含まれる。
【
図1】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.5%添加剤(化合物A))の参照に対する充放電曲線。
【
図2】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.5%添加剤(化合物A))の参照に対する様々なサイクル(0、100、200および300サイクル)での0.05Cでの充放電曲線。
【
図3】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.5%添加剤(化合物A))の参照に対する様々なサイクル(0、100、200および300サイクル)でのナイキストプロット。
【
図4】45℃での300サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.5%添加剤(化合物A))の参照に対するサイクリングデータ。
【
図5】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物B))の参照に対する充放電曲線。
【
図6】電解質、PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6対PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF6+本発明による0.1%の添加剤(化合物B)の伝導率。
【
図7】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物B))の参照に対する様々なサイクル(0、100および200サイクル)での0.05Cでの充放電曲線。
【
図8】45℃での303サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物B))の参照に対するサイクリングデータ。
【
図9】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物C))の参照に対する充放電曲線。
【
図10】45℃での300サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物C))の参照に対するサイクリングデータ。
【
図11】300サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物C))の参照に対するナイキストプロット。
【
図12】LMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物D))の参照に対する充放電曲線。
【
図13】45℃での300サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物D))の参照に対するサイクリングデータ。
【
図14】300サイクル後のLMFP-LTO電池(PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+本発明による0.1%添加剤(化合物D))の参照に対するナイキストプロット。
【
図15】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(48mol%ジメトキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージメトキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+5%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する45℃での325サイクル後のサイクリングデータ。
【
図16】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(48mol%ジメトキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージメトキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+5%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する充放電曲線。
【
図17】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(70mol%ジメトキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージメトキシ-2」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する45℃での300サイクル後のサイクリングデータ。
【
図18】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(100mol%ジメトキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージメトキシ-3」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する45℃での300サイクル後のサイクリングデータ。
【
図19】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(50mol%ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージヒドロキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する45℃での300サイクル後のサイクリングデータ。
【
図20】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(50mol%ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージヒドロキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対するナイキストプロット。
【
図21A】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(50mol%ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージヒドロキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する電池容量。A)充電B)放電。
【
図21B】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(50mol%ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージヒドロキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する電池容量。A)充電B)放電。
【
図22】(LMFP+4%PVDF+本発明による1%添加剤(結合剤)(50mol%ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーまたは「ポリマージヒドロキシ-1」)-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)電池の参照(LMFP+4%PVDF-LTO-PC/EMC/DMC(4/3/3)+1M LiPF
6+1%VC)に対する充放電。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明をさらに説明する前に、本発明は、これらの実施形態の変形がなされ得、依然として添付の特許請求の範囲内であるため、以下に記載される特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。使用される用語が特定の実施形態を記載する目的のためであり、制限することが意図されないことも理解されたい。代わりに、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって確立されるだろう。
【0016】
本明細書で使用される用語の明確かつ一貫した理解を提供するために、以下にいくつかの定義を提供する。さらに、別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が関連する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0017】
「a」または「an」という単語の使用は、特許請求の範囲および/または明細書中の「含む」という用語と併せて使用される場合、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」の意味とも一致する。同様に、単語「別の」は、少なくとも第2以上を意味し得る。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲(複数可)で使用されるように、用語「comprising」(および「comprise」および「comprises」などのcomprisingの任意の形態)、「having」(および「have」および「has」などのhavingの任意の形態)、「including」(および「include」および「includes」などのincludingの任意の形態)、または「containing」(および「contain」および「contains」などのcontainingの任意の形態)は、包括的またはオープンエンドであり、追加の、列挙されていない要素またはプロセスステップを除外しない。
【0019】
本明細書で使用される場合、数値またはパーセンテージを指す場合、「約」という用語は、値またはパーセンテージ、統計的分散、およびヒューマンエラーを決定するために使用される方法に起因する変動を含む。さらに、本願における各数値パラメータは、少なくとも報告された有意な桁の数に照らして、かつ通常の丸め技法を適用することによって解釈されるべきである。
【0020】
本明細書で使用される場合、「アルキル」または「アルク」という用語は、別段の指定がない限り、1~15個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖飽和炭化水素に由来する一価の基を表し、メチル、エチル、n-およびiso-プロピル、n-、sec-、iso-およびtert-ブチル、ネオペンチルなどによって例示され、任意に1、2、3、または炭素数2以上のアルキル基の場合には4つの置換基で置換されていてもよい。
【0021】
本明細書で同義に使用される場合、「アルコキシ」または「アルキルオキシ」という用語は、酸素原子を通して親分子基に結合されたアルキル基を表す。
【0022】
本明細書で互換的に使用される場合、「アルキルチオ」または「チオアルコキシ」という用語は、硫黄原子を介して親分子基に結合されたアルキル基を表す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「アルキレン」という用語は、2つの水素原子の除去によって直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素に由来する飽和二価炭化水素基を表し、メチレン、エチレン、イソプロピレンなどによって例示される。
【0024】
本明細書で使用される場合、「アルケニル」という用語は、別段の指定がない限り、1つ以上の炭素-炭素二重結合を含有する、例えば、2~6個の炭素原子または2~4個の炭素原子などの2~15個の炭素の一価の直鎖または分岐鎖基を表し、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニルなどによって例示され、任意選択で1つ、2つ、3つ、または4つの置換基で置換され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「アルキニル」という用語は、炭素-炭素3重結合を含む2~6個の炭素原子の一価の直鎖または分岐鎖基を表し、エチニル、1-プロピニルなどによって例示され、1つ、2つ、3つ、または4つの置換基で任意に置換され得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル」という用語は、別段の指定がない限り、3~8個の炭素原子の一価の飽和または不飽和の非芳香族環状炭化水素基を表し、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロヘプチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルなどによって例示される。
【0027】
本明細書で互換的に使用される場合、「ハロゲン」または「ハロ」という用語は、F、Cl、Br、およびIを表す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ヘテロ原子」という用語は、酸素、硫黄、または窒素であると理解される。
【0029】
本発明者らは、M2+金属イオンを生成し得る金属系正極材料を含むリチウムイオン電池中の電解質と関連付けて使用するための添加剤を設計し、調製した。本発明の添加剤は、電解質に添加され、M2+イオン溶解の防止を可能にする。
【0030】
より具体的には、電解質と関連付けて使用するための本発明の添加剤は、本明細書に記載されるような小有機分子であり、一般式I~Vを有する。そのような小有機化合物は、化合物A~Dによって例示される。小有機化合物は、M2+金属イオンとの複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む。かかる化学基は、当業者には明らかである。また、小有機化合物は、電解質ならびに電池の他の構成要素と互換性がある。
【0031】
また、本発明者らは、M2+金属イオンを生成し得る金属系正極材料を含むリチウムイオン電池中の正極材料と関連付けて使用するための添加剤(結合剤)を設計し、調製した。本発明のこの態様による添加剤は、結合剤である。結合剤は、正極材料と混合され、M2+イオン溶解の防止を可能にする。
【0032】
より具体的には、正極材料と関連付けて使用するための本発明の添加剤または結合剤は、以下に記載されるポリマー化合物であり、一般式VI~IXを有する。かかるポリマー化合物は、ポリマーPおよびポリマーP’によって例示される。ポリマー化合物は、M2+金属イオンとの複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む。かかる化学基は、当業者には明らかである。また、ポリマー化合物は、正極活物質、ならびに電池の他の構成要素と互換性がある。
【0033】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに詳細に例示される。
【0034】
電解質と関連付けて添加剤として使用するための小有機分子
実施例1-化合物Aの調製:3,4-ジメトキシベンズアルデヒド(1当量)およびマラノニトリル(1.5当量)をクロロホルム中に可溶化した。攪拌下、3滴のトリメチルアミンを添加した。60℃で1晩後、溶媒を蒸発させた。粗生成物を水で3回洗浄し、ジクロロメタンによって抽出した。有機相を、MgSO4で乾燥させ、溶媒を蒸発させた。オレンジ色の固体をゲルクロマトグラフィー(溶出液:ヘキサン:ジクロロメタン(80:20))により精製し、淡黄色の固体(70%)を得た。
【0035】
化合物B、化合物Cおよび化合物Dは市販されており、受け取ったまま使用された。
【0036】
正極材料と関連付けて添加剤(結合剤)として使用するためのポリマー化合物
本発明によるポリマー化合物は、以下のスキーム1に概説されるように、ペンタフルオロスチレンおよびジメトキシスチレンから得られる。ペンタフルオロスチレンは、PVDFとの良好な適合性および良好な電気化学安定性を可能にする。本発明によるポリマー中のジメトキシスチレンの組み込みレベルは、約40mol%以上である。この点において、ポリマージメトキシ-1(ジメトキシスチレン部分を48mol%含むポリマー)、ポリマージメトキシ-2(ジメトキシスチレン部分を70mol%含むポリマー)、およびポリマージメトキシ-3(ジメトキシスチレン部分を100mol%含むポリマー)を、以下の実施例2に概説するように調製した。本調製物は、一般に、ジメトキシスチレン(DMSt)およびペンタフルオロスチレン(PFS)のランダム共重合に基づく。ジメトキシスチレンは、Mn
2+イオンを含む金属イオンと複合体を形成し、したがって、電解質全体へのそれらの拡散、したがって、負極側へのそれらの堆積を制限する。
【化13】
【0037】
遊離ヒドロキシ基を有する本発明のポリマー化合物(ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマー)は、スキーム2に概説されるように得られる。この点において、ポリマージヒドロキシ-1(ジヒドロキシスチレン部分の50mol%を含むポリマー)を調製した。
【化14】
【0038】
実施例2-ポリマージメトキシ-1の調製:DMStおよびPFSを最初に塩基性酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)に通した。重合は、50mLのジオキサン、3.2gのDMST、および3.7gのPFSを100mLの丸底フラスコに導入することによって達成した。次いで、溶液を、磁気バーで30分間攪拌し、窒素(N2)で気泡化した。次いで、80mgのAIBNを得た溶液に添加した。次いで、冷却器を丸底フラスコに取り付け、反応混合物を、N2下で80℃で12時間加熱した。次いで、得られた溶液を室温に冷却し、10体積のメタノールに注いだ。上清を沈殿したポリマーから分離し、次いでこれを60℃で真空下で12時間乾燥させた。収量=4.1g、48mol%(DMSt中)、Mn=26000g/mol、PDI=1.7。
【0039】
当業者によって理解されるように、ポリマージメトキシ-2およびポリマージメトキシ-3は、実施例2に記載される同じ手順によって調製される。
【0040】
実施例3-ジヒドロキシスチレン部分(ポリマージヒドロキシ-1)を含むポリマーの調製:実施例2で得られたポリマージメトキシ-2または3を、Westwood et al.[6]に記載される方法に従って加水分解し、DCM1.0M中0.50gのポリマージメトキシ-2または3および4.3mLのBBr3を使用した。
【0041】
実施例4-本発明による正極材料の調製:ハイブリッド正極ペーストは、存在する場合、添加剤、活物質、アセチレンブラック(デンカHS-100L)、炭素繊維(VGCF-SDH-HC)およびPVDF(130mg/mol)をNMP中で機械的に混合(シンキーミキサSR-500)することによって調製した。得られた粘性スラリーを、ドクターブレード法によって集電体としてのアルミホイル上に均一に鋳造し、真空下で80℃で乾燥させ、ローリングマシン(MSK-2150)で63μmでロールプレスして、電極活性層密度8.5mg/cm2を得た。電極を、使用前に、150℃で真空下でさらに乾燥させた。
【0042】
当業者によって理解されるように、本発明によるポリマーは、異なる重合プロセスによって調製され得、そのようなプロセスとしては、原子移動ラジカル重合(ATRP)、原子移動ラジカル添加重合(ATRAP)、遅延陰イオン重合(RAP)、カチオン重合等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
図を参照すると、
図1~4は、電解質中の添加剤として化合物Aを使用して得られた結果を概説する。
図2において見ることができるように、サイクリングプロセスの開始時に、金属イオン溶解が減少し、これは、サイクリングプロセス全体の間継続する。実際、参照のための金属に関するプラトーは減少しており、この現象は、本発明による電池、すなわち、電解質が添加剤として化合物Aを含む電池にとってはそれほど重要ではない。さらに、サイクリングプロセス中、本発明による電池の内部抵抗は、参照と同じままであるが、電荷移動に関連する抵抗は著しく低下する。
【0044】
図3および
図4において見ることができるように、1Cおよび45℃で300サイクル後、添加剤として化合物Aを0.5%含む電池の保持容量は61%であり、一方、参照については50%である。300サイクル後、本発明による電池の0.05Cにおける静的容量は1.80mAhであり、一方、参照については1.30mAhである。
【0045】
化合物Bを電解質中の添加剤としても使用した。得られた結果を
図5~8に概説する。添加剤として0.1%の化合物Bを有する電池LMF/LTOの0.2Cにおける容量は、2.48mAhであり、参照と同じである。見ることができるように、0.1%の化合物Bを添加剤として使用すると、伝導率が向上し、様々なCレートで電池の性能が向上する。サイクリングプロセスの開始時に金属イオン溶解が減少することも見ることができる。
【0046】
図7および
図8において見ることができるように、1Cおよび45℃で300サイクル後、添加剤として化合物Bを0.1%含む電池の保持容量は62%であり、一方、参照については50%である。300サイクル後、本発明による電池の0.05Cにおける静的容量は1.92mAhであり、一方、参照については1.64mAhである。
【0047】
化合物Cおよび化合物Dも、電解質中の添加剤として使用した。得られた結果を
図9~14に概説する。
図9を参照すると、二次反応が観察されるが、得られた容量は、参照のために得られた容量と同様である。
図12において見ることができるように、二次反応が観察され、わずかな不可逆性をもたらす。それでも、得られた容量は、参照のために得られた容量と同様である。
【0048】
図15~18を参照すると、0.2CでのLMFP(4%PVDF、1%ポリマージメトキシ-1、2、または3-LTO)の容量は、2.23mAhであり、LMFP(5%PVDF)-LTOの容量は2.35mAhである。45℃および1Cで350サイクル後、対照が45.9%である一方で、保持容量は添加剤の1%で61.9%である。さらに、静的容量(0.2C)は、350サイクル後にそれぞれ1.53および1.23mAhである。また、350サイクル後に電圧の減衰が減少する(
図16)。参照の容量は1.23mAhであり、本発明による電池の容量は1.53mAhである。
【0049】
図19~22を参照すると、ジヒドロキシスチレン部分を含むポリマーも錯体化のために使用される。
図18は、ポリマージヒドロキシ-1(50mol%のジヒドロキシスチレン部分を含むポリマー)が使用されるときの容量保持率を示す。大きな向上は見られない。しかしながら、
図20に見ることができるように、材料の抵抗の減少は、300サイクル後に観察される。なお、サイクル前に、本発明による参照と電池との間に大きな差は認められない。本発明による添加剤(結合剤)を使用した場合、300サイクル後に記録された容量はより高い。様々なCレートでの充電/放電は、2Cで良好な向上を示す。
【0050】
当業者によって理解されるように、電解質と関連付けて使用するための添加剤および正極活物質と関連して使用するための添加剤(結合剤)は、電解質および正極活物質を含む電池の構成要素と適合性を有するように適合される。
【0051】
特許請求の範囲は、実施例に記載される好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、説明全体と一致する最も広い解釈を与えるべきである。
【0052】
本説明は、いくつかの文書を参照しており、それらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0053】
参考文献
1.D.Mohanty,J.Li,D.P.Abraham,A.Huq,E.A.Payzant,D.L.Wood,C.Daniel,Chemistry of Materials,26(2014)6272-6280.
2.M.Saulnier,A.Auclair,G.Liang,S.B.Schougaard,Solid State Ionics,294(2016)1-5.
3.Z.Shiming,G.Haitao,P.Hongge,Y.Suhui,D.Wubin,L.Xiang,G.Mingxia,L.Yongfeng,Z.Min,O.Liuzhang,J.Dechao,P.Feng,Advanced Energy Materials,7(2017)1601066.
4.A.Tomheim,M.He,C.-C.Su,Z.Zhang,Journal
of the Electrochemical Society,164(2017)A6366-A6372.
5.U.S.5,846,673; U.S.7,749,660; U.S.10,008,749.
6.G.Westwood,T.N.Horton,J.J.Wilker,Macromolecules,40(2007)3960-3964.
7.Z.Xu,Scientific Reports,3(2013)2914.
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
M
2+
金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、前記方法が、小有機化合物を前記電池の電解質と関連付けて使用することを含み、前記小有機化合物が、前記M
2+
金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによって前記M
2+
金属イオンの溶解を防止する、方法。
(項2)
M
2+
金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止するための方法であって、前記方法が、小有機化合物を前記電池の電解質と関連付けて使用することを含み、前記小有機化合物が、前記M
2+
金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む、方法。
(項3)
前記M
2+
金属イオンが、Mn
2+
、Fe
2+
、Ca
2+
および他の二価金属イオンからなる群から選択され、好ましくは、前記金属系正極材料がMn系正極材料である、上記項1または2に記載の方法。
(項4)
前記小有機化合物が、前記電解質に添加される、上記項1または2に記載の方法。
(項5)
前記小有機化合物が、以下に概説する一般式Iを有し、
【化15】
式中、
Qが、5~12員環または二環性環であり、任意選択で、前記環が、同一または異なった1つ以上のヘテロ原子を含み、
RiおよびR’iが各々独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アルケン、アルキン、アリールおよびアルキルアリール、アルコキシ、チオアルコキシ、OH、SH、NH
2
、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノチオアルコキシ、シアノアルキル、シアノアルケン、シアノアルキン、CN、NO
2
、SO
2
、COOH、ならびにアシルオキシカルボニルから選択され、ただし、RiおよびR’iのうちの少なくとも1つがヘテロ原子を含むことを条件とし、
nおよびmが各々独立して、0~11の整数であり、ただし、nおよびmは両方とも同時に0ではないことを条件とし、
前記ヘテロ原子が、O、S、およびNから選択される、上記項1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項6)
RiおよびR’iのうちの少なくとも2つが、ヘテロ原子を含み、かつ前記RiおよびR’iのうちの少なくとも2つが前記環の連続した炭素原子に結合されるか、またはQが二環性環である場合に前記RiおよびR’iのうちの少なくとも2つが互いに空間的に近接する、上記項5に記載の方法。
(項7)
前記小有機化合物が、以下に概説する一般式IIを有し、
【化16】
式中、
RiおよびR’iが、上記項5に定義される通りであり、両方ともHとは異なり、
nおよびmが、上記項5に定義される通りであり、n=2~4またはn=2およびm=1である、上記項5または6に記載の方法。
(項8)
前記小有機化合物が、以下に概説する一般式IIIを有し、
【化17】
式中、R
1
、R
2
、およびR’が各々、RiおよびR’iについて上記項7に定義される通りである、上記項5または6に記載の方法。
(項9)
前記小有機化合物が、以下に概説する一般式IVを有し、
【化18】
式中、R
1
、R
2
、およびR’が各々、RiおよびR’iについて上記項7に定義される通りである、上記項5または6に記載の方法。
(項10)
前記小有機化合物が、以下に概説する一般式Vを有し、
【化19】
式中、
R’が、RiおよびR’iについて上記項6に定義される通りであり、
R
3
およびR
4
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、
X
1
およびX
2
が各々独立して、ヘテロ原子であり、好ましくは、前記ヘテロ原子が、O、S、またはNであり、より好ましくは、前記ヘテロ原子が、Oである、上記項5または6に記載の方法。
(項11)
前記小有機化合物が、以下に概説する化合物A、化合物B、化合物C、および化合物Dから選択される、上記項5または6に記載の方法。
【化20】
(項12)
上記項1~11のいずれか一項に定義される前記小有機化合物を含む電解質。
(項13)
上記項12に定義される電解質を含む電池。
(項14)
以下に概説される一般式VIを有し、
【化21】
式中、
QおよびQ’が各々独立して、5~12員環または二環性環であり、任意選択で、前記環が、同一または異なった1つ以上のヘテロ原子を含み、
Lが、アルキル基を含むリンカーであり、
RiおよびR’iが各々独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アルケン、アルキン、アリールおよびアルキルアリール、アルコキシ、チオアルコキシ、OH、SH、NH
2
、ハロゲン原子、ハロゲノアルキル、ハロゲノアルコキシ、ハロゲノチオアルコキシ、シアノアルキル、シアノアルケン、シアノアルキン、CN、NO
2
、SO
2
、COOH、ならびにアシルオキシカルボニルから選択され、ただし、Riのうちの少なくとも1つがヘテロ原子を含み、R’iのうちの少なくとも1つがHとは異なることを条件とし、
nおよびmが各々独立して、0~11の整数であり、ただし、nおよびmは両方とも同時に0ではないことを条件とし、
前記ヘテロ原子が、O、S、およびNから選択される、ポリマー化合物。
(項15)
Riのうちの少なくとも2つが、ヘテロ原子を含み、かつ前記Riのうちの少なくとも2つが前記環の連続した炭素原子に結合されるか、またはQが二環性環である場合に前記Riのうちの少なくとも2つが互いに空間的に近接する、上記項14に記載のポリマー。
(項16)
前記少なくとも1つのR’iが、ハロゲン原子、好ましくはFである、上記項14または15に記載のポリマー。
(項17)
以下に概説される一般式VIIを有し、
【化22】
式中、
Lが、上記項14に定義される通りであり、
Riが、上記項15に定義される通りであり、
R’iが、上記項16に定義される通りであり、
nおよびmが各々、上記項14に定義される通りである、ポリマー化合物。
(項18)
以下に概説される一般式VIIIを有し、
【化23】
式中、
R
1
およびR
2
の両方が、ヘテロ原子を含み、
R’
1-5
が各々、R’iについて上記項16に定義される通りであり、
Lが、上記項14に定義される通りである、ポリマー化合物。
(項19)
R
1
およびR
2
の両方が、ヘテロ原子を含み、前記環の連続炭素原子に結合される、上記項18に記載のポリマー。
(項20)
以下に概説される一般式IXを有し、
【化24】
式中、
R
3
、R
4
、およびR
6-9
が各々独立して、HまたはC
1-6
アルキルであり、
R’
1-5
が各々、上記項18に定義される通りであり、
L’が、Lについて上記項14に定義される通りであり、好ましくは、L’が、CR
6
R
7
およびCR
8
R
9
の繰り返し単位から構成され、
X
1
およびX
2
が各々独立して、ヘテロ原子であり、好ましくは、前記ヘテロ原子が、O、S、またはNであり、より好ましくは、前記ヘテロ原子が、Oである、ポリマー化合物。
(項21)
以下に概説される式Pを有するポリマー。
【化25】
(項22)
以下に概説される式P’を有するポリマー。
【化26】
(項23)
ジメトキシスチレン部分の48mol%を含む、式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-1)。
(項24)
ジメトキシスチレン部分の70mol%を含む、式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-2)。
(項25)
ジメトキシスチレン部分の100mol%を含む、式Pのポリマー(ポリマージメトキシ-3)。
(項26)
ジヒドロキシスチレン部分の50mol%を含む、式P’のポリマー(ポリマージフィドロキシ-1)。
(項27)
M
2+
金属イオンを生成する金属系正極材料を含むリチウムイオン電池の性能を向上させる方法であって、前記方法が、ポリマー化合物を前記電池の前記正極材料と関連付けて使用することを含み、前記ポリマー化合物が、前記M
2+
金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含み、それによって前記M
2+
金属イオンの溶解を防止する、方法。
(項28)
M
2+
金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止する方法であって、前記方法が、ポリマー化合物を前記電池の前記正極と関連付けて使用することを含み、前記ポリマー化合物が、前記M
2+
金属イオンと複合体を形成するのに好適な少なくとも1つの化学基を含む、方法。
(項29)
前記M
2+
金属イオンが、Mn
2+
、Fe
2+
、Ca
2+
および他の二価金属イオンからなる群から選択され、好ましくは、前記金属系正極材料がMn系正極材料である、上記項27または28に記載の方法。
(項30)
前記ポリマー化合物が、前記正極材料に添加される、上記項27~29のいずれか一項に記載の方法。
(項32)
M
2+
金属イオンを生成する金属系正極材料を含む、リチウムイオン電池中の金属イオン溶解を防止する方法であって、前記方法が、ポリマー化合物を前記電池の前記正極材料と関連付けて使用することを含み、前記ポリマー化合物が、上記項14~26のいずれか一項に定義される通りである、方法。
(項33)
上記項14~26のいずれか一項に定義される前記ポリマー化合物を含む正極材料。
(項34)
上記項33に定義される前記正極材料を含む電池。
(項35)
ジアルキルオキシスチレン化合物およびペンタハロゲンオスチレン化合物をランダム共重合に供してアルキオキシスチレンポリマーを得ることと、任意選択で前記アルキオキシスチレンポリマーを脱アルキル化プロセスに供してヒドロキシポリマー化合物を得ることと、を含む、上記項14~26のいずれか一項に定義されるポリマー化合物を調製するための方法。
(項36)
前記ジアルキルオキシスチレン化合物が、ジメトキシスチレンであり、前記ペンタハロゲンオキシスチレン化合物が、ペンタフルオロスチレンである、上記項35に記載の方法。
(項37)
ジメトキシスチレンおよびペンタフルオロスチレンをランダム共重合に供することを含む、式Pのポリマー化合物を調製するための方法。
(項38)
式P’のポリマー化合物を調製するための方法であって、前記式Pのポリマー化合物を脱メチル化プロセスに供することを含む、方法。
(項39)
ジアルキルオキシスチレン化合物およびペンタハロゲンオスチレン化合物を、原子移動ラジカル重合(ATRP)、原子移動ラジカル添加重合(ATRAP)、遅延陰イオン重合(RAP)、陽イオン重合等である重合プロセスに供することを含む、上記項14~26のいずれか一項に定義されるポリマー化合物を調製するための方法。