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特許7373553Mg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物及びこれを用いて表面処理されたMg含有亜鉛めっき鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】Mg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物及びこれを用いて表面処理されたMg含有亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20231026BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20231026BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C23C2/06
C23C28/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021510209
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2019010439
(87)【国際公開番号】W WO2020045869
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-12
(31)【優先権主張番号】10-2018-0103752
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ヤン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨン-ウン
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067716(JP,A)
【文献】特開2000-302821(JP,A)
【文献】特開2017-115102(JP,A)
【文献】特開平09-165686(JP,A)
【文献】特開平08-012919(JP,A)
【文献】特開平03-254859(JP,A)
【文献】特開平10-330625(JP,A)
【文献】特開昭60-186854(JP,A)
【文献】特開昭63-113559(JP,A)
【文献】特表平09-501350(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0216234(US,A1)
【文献】米国特許第05252363(US,A)
【文献】国際公開第2017/217750(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0026150(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
C23C 26/00-28/04
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤及び水を含み、
前記3価クロム化合物の含量は、10~20重量%であり、
前記カルボキシ化されたビニリデン共重合体の含量は、5~10重量%である、
Mg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物。
【請求項2】
前記カルボキシ化されたビニリデン共重合体は、ビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体を共重合して形成される、請求項1に記載のMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物。
【請求項3】
前記架橋結合剤の含量は、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の重量に対して1~5重量%である、請求項1に記載のMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物。
【請求項4】
前記ビニリデン系単量体の含量は、ビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体の総重量に対して10~15重量%である、請求項2に記載のMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物。
【請求項5】
前記カルボキシ基を含む単量体の含量は、前記ビニリデン系単量体の重量に対して0.5~1.5重量%である、請求項2に記載のMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物。
【請求項6】
ビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体を、無乳化剤乳化共重合法で共重合することにより前記カルボキシ化されたビニリデン共重合体を形成することと、
前記3価クロム化合物、前記カルボキシ化されたビニリデン共重合体、前記架橋結合剤及び水を混合して表面処理用組成物を得ることと
を含む、請求項2、4又は5に記載のMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物を製造する方法。
【請求項7】
亜鉛めっき層を含む鋼板の前記亜鉛めっき層上に、組成物をコーティングし、乾燥させて表面コーティング層を形成する段階を含み、
前記組成物は、3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤及び水を含み、
前記3価クロム化合物の含量は、前記組成物の10~20重量%であり、
前記カルボキシ化されたビニリデン共重合体の含量は、前記組成物の5~10重量%であり、
前記亜鉛めっき層はMgを含有するものである、亜鉛めっき鋼板を製造する方法
【請求項8】
前記Mgの含量は、亜鉛めっき層の総重量に対して0.5~5重量%である、請求項7に記載の亜鉛めっき鋼板を製造する方法
【請求項9】
前記表面コーティング層は、乾燥被膜の付着量が200~500mg/mである、請求項7に記載の亜鉛めっき鋼板を製造する方法
【請求項10】
前記亜鉛めっき鋼板は、雰囲気温度50℃、相対湿度95%で120時間経過後の耐黒変性がΔE≦3である、請求項7に記載の亜鉛めっき鋼板を製造する方法
【請求項11】
亜鉛めっき鋼板の加工部に塩水噴霧した後、36時間が経過したときの白錆発生率が5%未満である、請求項7に記載の亜鉛めっき鋼板を製造する方法
【請求項12】
前記乾燥は、温度100~200℃で5~30秒間乾燥させるものである、請求項7~11のいずれか一項に記載の亜鉛めっき鋼板を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物及びこれを用いて表面処理されたMg含有亜鉛めっき鋼板に関するものであって、より詳細には、Mg含有亜鉛めっき鋼板の加工部における白錆発生及び黒変を防止するための表面処理用組成物及びこれを用いて表面処理されたMg含有亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Mg含有亜鉛めっき鋼板は、従来のめっき鋼板に比べて高い生産速度、耐食性が高く、経済性に優れるという利点があるが、Mgの活性が非常に高いため、湿った雰囲気では製品の表面が水分と反応して黒く変わる黒変現象が発生する可能性がある。
【0003】
Mgをめっき層に含有する合金めっき鋼板の耐食性、耐黒変性、加工部耐食性などを向上させるための技術として提案されたものとしては、オレフィン樹脂、有機シラン、黒変防止剤、無機金属防錆剤などを含む水溶性コーティング組成物(韓国特許第10-1586840号公報、韓国特許第10-1262497号公報など)があるが、コーティング層の構成物質のうち大部分を占めるオレフィン樹脂の水分及び/または酸素透過性が高く、基本的に重要な要求物性である黒変及び黒点の発生を抑制することができないという欠点がある。
【0004】
また、水溶性カチオンウレタン樹脂とリン酸クロムなどをコーティング組成物として耐食性、耐黒変性、加工部耐食性を向上させる技術(韓国特許第10-1786392号公報)があるが、用いた水溶性カチオンウレタン樹脂は、水分透過度が高く、これのみでは耐黒変性を確保することができないため、シラン系ゾルゲル樹脂、防錆耐食剤、シランカップリング剤、Al化合物などの数多くの補助成分がさらに添加される必要があるという欠点がある。
【0005】
また、Mg金属板材の湿気による黒変を防止するための技術としては、シロキサン前駆体を含む組成物を大気圧プラズマでコーティングして無機コーティング層を形成し、上記無機コーティング層の上部にポリビニリデン系高分子を含む組成物をコーティングして有機コーティング層を形成させる技術(韓国特許第10-1758474号公報)がある。しかし、上記コーティング層は、架橋結合されていないポリビニリデン系高分子のみで構成されているため、架橋結合されたポリビニリデン系高分子で構成されたコーティング層に比べて水分及び酸素透過性が高く、黒変及び黒点が発生し、ポリビニリデン系高分子を流動性のあるコーティング溶液に製造するためには、必然的に有機溶剤を使用しなければならないという欠点がある。
【0006】
カルボキシ基を含むポリビニリデン樹脂が言及された特許としては、米国特許第6037124号明細書(Carboxylated polyvinylidene fluoride solid supports for the immobilization of biomolecules and methods of use thereof)、米国特許公開第2013-0231428号明細書(FAST FILM FORMATION WATER BASED BARRIER COATING)などがあるが、Mgを含むめっき鋼板の加工部耐食性の向上、黒変防止への適用及び架橋結合に対するものはない。
【0007】
従来は、水分及び酸素透過を防止するために、ポリビニリデン系高分子を有機溶剤に溶かしてMgを含む鋼板にコーティングしたが、有機溶剤の使用による環境汚染の問題の発生、及びポリビニリデン系高分子間の架橋結合がなされないことにより耐薬品性が不足し、並びに水分及び酸素透過率を低下させる上での限界があった。
【0008】
また、エマルジョン(共)重合でポリビニリデン高分子(共重合体)の合成のために乳化剤を採用するようになるが、このように合成されたポリビニリデン高分子(共重合体)分散材料をめっき鋼板の上にコーティングして被膜を形成させると、低分子量の塩を含んでいる乳化剤により水分に脆弱であり、長時間高温多湿な環境に曝されると、黄変現象を引き起こすという問題点がある(ref.Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,by Peter A.Lovell(Editor),Mohamed S.El-Aasser(Editor),March 1997)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国特許第10-1262497号公報
【文献】韓国特許第10-1786392号公報
【文献】韓国特許第10-1758474号公報
【文献】米国特許第6037124号明細書
【文献】米国特許公開第2013-0231428号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,by Peter A.Lovell(Editor),Mohamed S.El-Aasser(Editor),March 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決するためのものであって、Mg含有亜鉛めっき鋼板のクロム3価化合物を含む表面処理用組成物及びこれを用いて表面処理されたMg含有亜鉛めっき鋼板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によると、3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤を含む、Mg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物を提供する。
【0013】
上記カルボキシ化されたビニリデン共重合体は、ビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体を共重合して形成され、上記共重合方法は無乳化剤乳化共重合である。
【0014】
上記3価クロム化合物の含量は、鋼板の表面処理用組成物に対して10~20重量%である。
【0015】
上記カルボキシ化されたビニリデン共重合体の含量は、鋼板の表面処理用組成物に対して5~10重量%である。
【0016】
上記架橋結合剤の含量は、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の固形分に対して1~5重量%である。
【0017】
上記ビニリデン系単量体の含量は、乳化共重合物質に対して10~15重量%であり、上記カルボキシ基を含む単量体の含量は、ビニリデン系単量体に対して0.5~1.5重量%である。
【0018】
本発明の他の実施形態によると、3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤を含む組成物がめっき層上に塗布され、上記めっき層はMgを含有する亜鉛めっき鋼板を提供する。
【0019】
上記Mgの含量は、めっき層に対して0.5~5重量%であり、めっき層の形成時に乾燥被膜の付着量が200~500mg/mであり、組成物の乾燥温度は100~200℃であり、乾燥時間は5~30秒である。
【0020】
上記亜鉛めっき鋼板は、雰囲気温度50℃、相対湿度95%で120時間経過後の耐黒変性がΔE≦3であり、亜鉛めっき鋼板の加工部に塩水噴霧した後、36時間が経過したときの白錆の発生率が5%未満である。
【発明の効果】
【0021】
本発明による表面処理用組成物は、クロム3価被膜の形成とともに、めっき鋼板の表面のコーティング及び乾燥過程で架橋結合されて3次元の緻密な分子構造を形成する。したがって、従来のクロム3価被膜単独、クロム3価被膜と架橋結合されていないポリウレタン及び数多くの無機質防錆成分の混合物、またはポリビニリデン系高分子で形成されたコーティング剤に比べて、コーティング被膜の延性が高く、水分及び/または酸素透過度を減少させることができるため、加工部耐食性に優れており、高温多湿な環境で長時間曝されても黒変及び/または黒点の発生を防止することができる。また、コーティング組成物に有機溶剤が使用されていないため、環境に優しい。
【0022】
したがって、本発明による表面処理用組成物でコーティング膜が形成されためっき鋼板は、加工部耐食性が向上し、黒変及び/または黒点の発生を防止することができる。特に、高温多湿な環境に曝される場合であっても、加工部耐食性及び黒変及び/または黒点の発生を防止する、優れた物性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の表面処理用組成物と従来の材料をコーティングして、50℃、相対湿度95%、120時間放置した後に鋼板の黒変を評価した写真である。(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
図2】本発明の表面処理用組成物と従来の材料を、Mgを含有するめっき鋼板にコーティングして塩水噴霧36時間後、鋼板の加工部耐食性を評価した写真である。(a)は比較例を、(b)は実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0025】
鋼板の耐食性を向上させるために、一般的にMgを含有するめっき層が鋼板の表面に形成される。しかし、Mgを含有するめっき層は、Mgを含有していないめっき層に比べて壊れやすいため、加工部耐食性が脆弱である可能性がある。また、上記Mgを含有するめっき層の場合、めっき層の最上端層(空気と直接接触する面)にMgの酸化物が集中して大気中の水分及び/または酸素と接触しやすくなるため、不完全酸化腐食反応による黒変及び/または黒点が発生するという問題がある。したがって、水分及び/または酸素透過量の少ないコーティング層でめっき層を遮断(blocking)して、水分及び/または酸素がコーティング層を通過できないようにすれば、めっき層の最上端層に存在するMg酸化物の腐食を防止することができるため、黒変/黒点現象の発現を抑制することができる。そのため、本発明では、Mgを含有するめっき層の加工部耐食性の向上、および黒変及び/または黒点の発生を防止するために、Mgを含有するめっき層に、本発明による鋼板コーティング組成物を適用してコーティング層を形成する。
【0026】
本発明の一実施形態によると、3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤を含むMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物が提供される。上記組成物は、カルボキシ化されたビニリデン共重合体に存在するカルボキシ基と水分散性架橋結合剤が反応することにより、めっき鋼板上に形成されたコーティング膜にホール(hole)などの欠陥がなく、十分な架橋結合で水分及び/または酸素透過が最小化される。したがって、Mgを含有するめっき鋼板が高温多湿な環境に曝されても黒変及び黒点の発生を最小化することができる。
【0027】
本発明において、3価クロム化合物は、リン酸クロムまたは硝酸クロムを含むものであってもよく、上記リン酸クロムまたは硝酸クロムを硫化アンモニウム、過酸化水素水などで還元させて製造することができる。
【0028】
上記3価クロム化合物は、鋼板の表面処理用組成物10~20重量%含まれる。上記組成物のうち、3価クロム化合物の含量が10重量%未満であると、耐食性が不足し、20重量%を超えると、コーティング組成物の保存安定性が低下するという欠点がある。
【0029】
本発明における鋼板の表面処理用組成物は、水分及び/または酸素透過性の低い水分散系ポリビニリデン系高分子を含む。上記水分散系ポリビニリデン系高分子は、分子内にカルボキシ基を含み、ビニリデン系単量体とカルボキシ基を含む単量体を無乳化剤乳化共重合反応(surfactant-free emulsion copolymerization)によって製造されたものであってもよい。本明細書では、上記共重合反応によって形成された化合物をカルボキシ化されたビニリデン共重合体という。
【0030】
本発明において、カルボキシ化されたビニリデン共重合体は、鋼板の表面処理用組成物5~10重量%配合される。上記カルボキシ化されたビニリデン共重合体の含量が5重量%未満であると、コーティング組成物中に含まれる高分子物質の含量が低く、被膜の厚さが薄くなるため、加工部耐食性が低下する。また、所望のコーティング層の厚さを得るためには、大量の水を含む組成物を鋼板の表面にコーティングする必要があるため、コーティング膜の乾燥時に沸騰現象によるホール(hole)が形成されて被膜の下部に存在するめっき層の黒変現象を防止することができない。一方、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の含量が10重量%を超えると、水分散安定性が低下し、ゲル(gel)化しやすくなるという問題がある。
【0031】
前述のように、本発明のカルボキシ化されたビニリデン共重合体は、ビニリデン系単量体とカルボキシ基を含む単量体を無乳化剤乳化共重合反応させて製造される。上記乳化共重合反応によって製造された表面処理用組成物を使用してめっき鋼板の表面にコーティング層を形成する場合、残存する乳化剤などによる欠陥が発生することを防止することができる。
【0032】
上記カルボキシ化されたビニリデン共重合体は水分散性であり、これは鋼板の表面処理用組成物に有機溶剤を使用しないことで、環境に優しい表面処理用組成物になるようにするためである。
【0033】
上記ビニリデン系単量体としては、これに限定するものではないが、例えば、ビニリデンフルオリド(vinylidene fluoride)、ビニリデンクロリド(vinylidene chlorid)、ビニリデンフルオリド-co-ヘキサフルオロプロピレン(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)、ビニリデンクロリド-co-アクリロニトリル(vinylidene chlorid-co-acrylonitrile)、ビニリデンクロリド-co-アクリロニトリル-co-メチルメタクリレート(vinylidene chlorid-co-acrylonitrile-comethyl methacrylate)、ビニリデンクロリド-co-ビニルクロリド(vinylidene chlorid-co-vinyl chlorid)及びビニリデンクロリド-co-メチルアクリレート(vinylidene chlorid-co-methyl acrylate)で構成されるグループから選択される1種以上であってもよい。これらは、必要に応じて、単独で、または2種以上が共に使用されてもよい。上述のビニリデン系単量体で合成されたポリマーは、水分及び/または酸素透過性が低い性質を有する。
【0034】
ビニリデン系単量体とカルボキシ基を含む単量体の無乳化剤乳化共重合反応の際、上記ビニリデン系単量体は、乳化共重合反応物であるビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体の総重量の10~15重量%で含まれることが好ましい。上記ビニリデン系単量体の含量が10重量%未満であると、表面処理用組成物中に含まれる高分子物質の含量が低いため、所望のコーティング層の厚さを得るために多量の組成物をめっき鋼板の表面にコーティングしなければならない。この場合、コーティング層に大量の水が塗布されて、コーティング層の乾燥時に沸騰現象によるホール(hole)が形成され、上記ホール(hole)によりコーティング層の下部に存在するめっき層の黒変現象を防止することができない。また、ポリマーによる水分及び/または酸素遮断性が不十分であるか、相対的にカルボキシ基を含む単量体の含量が多くなるため、共重合体の形成過程で水相に大量の高分子電解質が形成され、水分散安定性が悪くなる可能性がある。ビニリデン系単量体の含量が15重量%を超えると、乳化共重合のための乳化剤が含まれていないため、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の水分散安定性が低下して、ゲル(gel)化しやすいという問題がある。
【0035】
上記カルボキシ基を含む単量体としては、これに限定するものではないが、例えば、アクリル酸(acrylic acid)、メタクリル酸(methacrylic acid)、クロトン酸(crotonic acid)、2-エチルアクリル酸(2-ethylacrylic acid)、2-ペンテン酸(2-pentenic acid)、4-ペンテン酸(4-pentenic acid)、2-プロピルアクリル酸(2-propylacrylic acid)、2-オクテン酸(2-octenoic acid)、3-ビニル安息香酸(3-vinylbenzoic acid)、4-ビニル安息香酸(4-vinylbenzoic acid)、2-カルボキシエチルアクリレートトランス-3-ベンゾイルアクリル酸(2-carboxyethylacrylate trans-3-benzoylacrylic acid)、2- ブロモアクリル酸(2-bromoacrylic acid)及び2-ブロモメチル-アクリル酸(2-bromomethyl-acrylic acid)で構成されるグループから選択された少なくとも1種以上が使用されてもよい。これらは、必要に応じて、単独で、または2種以上が共に使用されてもよい。
【0036】
カルボキシ基を含む単量体は、ビニリデン系単量体と乳化共重合されてカルボキシ化されたビニリデン共重合体の水分散安定性を向上させ、コーティング層が乾燥及び硬化される過程で、架橋結合剤と反応して網状構造の緻密な被膜を形成する。
【0037】
ビニリデン系単量体とカルボキシ基を含む単量体の無乳化剤乳化共重合の際、カルボキシ基を含む単量体は、ビニリデン単量体に対して0.5~1.5重量%で含まれることが好ましい。カルボキシ基を含む単量体の含量が0.5重量%未満であると、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の水分散安定性が低下し、架橋結合剤と反応することができる部位(site)が少なく、緻密な網状構造のコーティング被膜を形成させることが難しい。1.5重量%を超えると、カルボキシ化されたビニリデン共重合体を形成する過程で、水相に大量の高分子電解質が形成され、水分散安定性が悪くなるという問題点がある。
【0038】
上記乳化共重合物質は、上記ビニリデン系単量体及びカルボキシ基を含む単量体以外の残部は水である。水は共重合体の製造に一般的に使用されるものであれば制限されず、好ましくは、蒸留水、水道水、脱イオン水、純水、超純水などを用いることができる。また、乳化共重合物質は、無乳化剤乳化共重合反応で一般的に使用される、例えば、重合開始剤などのその他の添加剤を、必要に応じて含むことができる。このようなその他の添加剤は、この技術分野において一般的なものであって、本明細書では詳細に記載しない。
【0039】
無乳化剤乳化共重合反応によるカルボキシル化されたビニリデン共重合体の製造方法は、この技術分野において一般的に知られており、公知の如何なる無乳化剤乳化共重合方法によって行われてもよい。したがって、無乳化剤乳化共重合方法の条件、例えば、温度及び時間の条件を含む条件、及びこれに使用されるその他の添加剤等については、本明細書では別途に記載しておらず、また、これによって本発明を限定するものではない。従来知られている如何なる方法で製造されたカルボキシ化されたビニリデン共重合体が、本発明の表面処理用組成物に使用されてもよい。
【0040】
本発明の亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物は、水分散性架橋結合剤(硬化剤)を含む。上記組成物に使用可能な水分散性架橋結合剤は、これに限定するものではないが、例えば、アジリジン(aziridine)、イソシアネート(isocyanate)化合物、及びカルボジイミド(carbodiimide)化合物で構成されるグループから選択された少なくとも1種以上が使用されてもよい。上記アジリジンの具体例としては、CROSSLINKER CX100(DSM Chemical社)が、上記イソシアネート化合物の具体例としては、Bayhydur(covestro chemical社)が、上記カルボジイミドの具体例としては、STAHL EVO Permutex(Stahl社)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
上記水分散性架橋結合剤は、カルボキシ化されたビニリデン共重合体の重量を基準に1~5重量%、好ましくは1~3重量%で含まれることができる。上記水分散性架橋結合剤は、Mgを含有する亜鉛めっき鋼板に表面処理用組成物が塗布され、乾燥及び硬化される過程中に、下記式(1)のようにカルボキシ化されたビニリデン共重合体の表面に存在するカルボキシ基と反応して緻密な3次元構造の被膜を形成することにより、水分及び/または酸素を遮断する役割を果たす。水分散性架橋結合剤の含量が1重量%未満である場合、硬化反応に必要な架橋結合剤の量が不足して架橋結合が不十分となり、5重量%を超えると、架橋結合に必要な量以外に、架橋結合に関与できなかった成分が被膜の不純物として存在するようになって欠陥が発生し、水分の遮断効果が低下するようになる。
【0042】
【化1】
【0043】
本発明における鋼板の表面処理用組成物は、さらに水を含むことができる。上記水は、これに限定されるものではないが、例えば、水道水、純水、超純水、蒸留水、脱イオン水等であってもよい。
【0044】
また、鋼板の表面処理用組成物は、必要に応じて、この技術分野において鋼板の表面処理組成物に一般的に配合される、例えば、付着増進剤、防錆剤、潤滑剤、消泡剤などの添加剤を含むことができる。
【0045】
本発明における鋼板の表面処理用組成物は、上記リン酸クロムを含む3価クロム化合物に、カルボキシ化されたビニリデン共重合体と水分散性架橋結合剤及び水を混合して製造され、製造方法は特に限定されない。
【0046】
本発明における鋼板の表面処理用組成物は、Mgを含有するめっき層を有する鋼板に塗布、乾燥させて鋼板の表面にコーティング層を形成することにより、加工部耐食性、及び鋼板に対する水分及び/または酸素透過度が低くなり、黒変及び/または黒点の発生が防止される。
【0047】
本発明の他の実施形態によると、3価クロム化合物、カルボキシ化されたビニリデン共重合体、架橋結合剤を含むMg含有亜鉛めっき鋼板の表面処理用組成物によって表面処理された亜鉛めっき鋼板が提供される。
【0048】
本発明は、めっき層に含有されているMgによる加工部耐食性の低下、黒変及び/または黒点の発生を防止するためのものであって、めっき層にMgを含有するめっき鋼板であれば、制限なく適用することができる。鋼板の耐食性を向上させるために、めっき層には一般的にMgが0.5~5重量%、好ましくは1.5~3重量%含有される。めっき層において、Mgの含量が5重量%を超えると、めっき浴の表面の酸化によりめっき浴の製造が不可能となり、Mg が0.5重量%未満であると、耐食性の改善効果が微かである。
【0049】
このとき、めっき層の残部は、従来、この技術分野に知られている如何なる組成であってもよく、例えば、めっき層の残部はZn、Alであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
上記Mgをめっき層に含有するめっき鋼板は、具体的に、亜鉛めっき鋼板、より具体的に、めっき層がMg/Al/Znで構成された3元系亜鉛めっき鋼板であってもよい。より具体的に、上記めっき層は、Mgが0.5重量%~5重量%、好ましくは1.5重量%~3重量%、Alは1.5重量%~11重量%及び残部Znであってもよい。
【0051】
本発明の鋼板コーティング組成物を、Mgをめっき層に含有するめっき鋼板にコーティングする方法としては、この技術分野で知られているコーティング方法であれば、制限なく適用することができ、例えば、浸漬コーティング、バーコーティング、ロールコーティング、スプレーコーティングなどの方法が適用されることができる。
【0052】
一方、本発明において、被膜の付着量は、乾燥被膜の付着量が200~500mg/mになるようにする。乾燥被膜の付着量が200mg/m未満であると、耐食性が不足し、水分及び/または酸素の遮断効果が十分でなく、黒変が発生しやすくなるため好ましくない。また、500mg/mを超えると、造管などの加工時に樹脂脱落または溶接性が低下することから好ましくない。
【0053】
本発明の鋼板コーティング組成物は、Mgをめっき層に含有するめっき鋼板の一面または両面に適用することができる。
【0054】
上記本発明の鋼板コーティング組成物を、Mgをめっき層に含有するめっき鋼板にコーティングした後に乾燥する。乾燥も、この技術分野で知られている如何なる乾燥方法及び/または条件で行うことができ、特に限定するものではない。例えば、100~200℃の温度で5~30秒程度乾燥することにより、めっき鋼板上にコーティング層を形成することができる。上記温度及び時間の範囲で乾燥することにより、鋼板コーティング組成物が架橋結合及び乾燥され、3次元の緻密な分子構造を形成する。
【0055】
上記コーティング及び乾燥の過程で、クロム3価被膜が形成されると同時に、本発明による分子構造内にカルボキシ基を含んでいる水分散系のカルボキシ化されたポリビニリデン系共重合体とカルボキシ基と反応することができる水分散性架橋結合剤(硬化剤)が架橋結合され、3次元の緻密な分子構造を形成する。したがって、水分及び/または酸素透過度が低くなり、高温多湿な環境で長時間露出時にも黒変及び/または黒点の発生を防止することができる。さらに、コーティング材料中に有機溶剤を使用しないため環境に優しい。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記の実施例は、本発明を理解するためのものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0057】
1.実施例1
(1)カルボキシ化されたビニリデンエマルジョン共重合体(carboxylated vinlylidiene emulsion copolymer)の製造
蒸留水89.87gにビニリデンフルオリド10gとアクリル酸0.1gを投入し、約30℃に昇温した後、攪拌機で200rpmの速度で攪拌しながら、カリウムペルオキシスルファート(potassium peroxysulfate)0.02g、亜硫酸水素ナトリウム(sodium bisulfite)0.01gを投入して乳化共重合反応を約5時間行って、転換率99.5%以上のカルボキシ化されたビニリデンフルオリドエマルジョン共重合体分散液を製造した。
このとき、製造された高分子粒子のサイズは、0.1~0.5μmである。
【0058】
(2)Mgを含むめっき鋼板の表面処理用組成物の製造
上記(1)で製造したカルボキシ化されたビニリデンフルオリドエマルジョン共重合体分散液50g(固形分:10重量%)にアジリジン架橋結合剤(商品名CX-100、DSM社)0.05gと3価クロム化合物としてリン酸クロム15g(固形分:100%)、脱イオン水35gを常温で混合して鋼板の表面処理用組成物を準備した。
【0059】
(3)めっき鋼板の表面コーティング層の形成段階
上記(2)で製造した鋼板の表面処理用組成物を、Al-Mg-Znを含む3元系めっき鋼板の上にバーコーターでコーティングした後、熱風で乾燥させた。このとき、被膜の付着量は300mg/mに調整した。
【0060】
2.比較例1~4
実施例1と同様の方法により、下記表1の成分を含む鋼板の表面処理用組成物を準備し、これを、Al-Mg-Znを含む3元系めっき鋼板の上にバーコーターでコーティングした後、熱風で乾燥させた。
【0061】
【表1】
【0062】
3.めっき鋼板の表面コーティング層の黒変防止能力の評価
実施例及び比較例で製造された鋼板の表面処理用組成物の黒変防止性能を評価するために、表面処理された鋼板を雰囲気温度50℃、相対湿度95%の恒温・恒湿器に装入した。120時間経過後、目視及び色差計で黒変発生の有無を評価した。このときの評価基準は次の通りである。
○:ΔE≦3
△:3<ΔE≦4
×:ΔE>4
【0063】
4.加工部耐食性の評価
表面処理された鋼板の試験片をエリクセン試験機(Erichsen tester)を用いて6mmの高さに押し上げ、塩水噴霧した後、36時間経過したときに白錆発生の程度を測定した。このときの評価基準は次の通りである。
○:白錆発生率5%未満
△:白錆発生率5%以上10%未満
×:白錆発生率10%以上
【0064】
【表2】
【0065】
図1(b)及び図2(b)から分かるように、本発明によって実現したMgを含むめっき鋼板は、白錆が発生していないのみならず、表面の変色がなく、外観上でも良好な結果を示している。
図1
図2