(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】EEG信号を使用した運動機能の定量化
(51)【国際特許分類】
A61B 5/374 20210101AFI20231026BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20231026BHJP
G06N 3/08 20230101ALI20231026BHJP
A61H 1/02 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
A61B5/374
A61B5/11 230
G06N3/08
A61H1/02 Z
(21)【出願番号】P 2021515254
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 CA2019000078
(87)【国際公開番号】W WO2019222833
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-11
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520460638
【氏名又は名称】ヘルステック コネックス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HEALTHTECH CONNEX INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダーシー,ライアン,クラーク,ニューウェル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シン
(72)【発明者】
【氏名】メノン,カルロ
(72)【発明者】
【氏名】フレーリック,ザッカリー
(72)【発明者】
【氏名】タンヌーリ,パメラ
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-125287(JP,A)
【文献】Eduardo Lopez-Larraz,Evolution of EEG Motor Rhythms after Spinal Cord Injury: A Longitudinal Study,PLOS ONE,2015年07月15日,journal.pone.0131759,1-15
【文献】Vera Kaiser,Relationship Between Electrical Brain Response to Motor Imagery and Motor Impairment in Stroke,Stroke,2012年10月,October 2012,2735-2740
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/369~5/386
A61B 5/11~5/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脳波記録法(EEG)電極から得られた複数のEEG波形として表されるEEGデータに基づいて対象者の運動機能の指標である運動制御スコアを自動的に生成する、コンピュータが実行する方法であって、
(a)複数のEEG波形の各EEG波形について、該EEG波形を少なくとも1つのウィンドウに分離するステップであって、各ウィンドウは、対象者によって実行される運動に対応する神経活動を表すEEG波形の一部を含んでいる、ステップ、
(b)少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータから、少なくとも1つまたは複数の周波数成分を決定するステップ、および、
(c)少なくとも1つまたは複数の周波数成分に基づいて運動制御スコアを計算するステップ、を含んでおり、
1つまたは複数の前記周波数成分は、少なくとも1つのウィンドウの少なくとも1つの位相応答に対応し、
少なくとも1つの位相応答は、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータに対して周波数領域への変換を実行することによって得られ、
少なくとも1つまたは複数の信号成分
が、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータから決定され、該1つまたは複数の信号成分は、少なくとも1つのウィンドウの少なくとも1つの信号電力スペクトル密度に対応し、
前記運動制御スコアは、一次ニューラルネットワークを使用して計算され、該一次ニューラルネットワークには、少なくとも1つの位相応答および少なくとも1つの信号電力スペクトルを含む入力として、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータが提供される、方法。
【請求項2】
1つまたは複数の前記周波数成分は、少なくとも1つの事象関連脱同期(ERD)応答周波数帯域および少なくとも1つの事象関連同期(ERS)応答周波数帯域に対応
する、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのERD応答周波数帯域および少なくとも1つのERS応答周波数帯域は、
(a)単一のEEG電極に関連付けられた一組の波形ウィンドウを使用して平均ウィンドウを計算するステップ、
(b)平均化されたウィンドウの時間-周波数領域表現を出力するステップ、
(c)時間-周波数領域表現の第1の周波数範囲内で、少なくとも1つのERD応答周波数帯域を特定するステップ、および、
(c)時間-周波数領域表現の第2の周波数範囲内で、少なくとも1つのERS応答周波数帯域を特定するステップ、
によって決定される、請求項2に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項4】
空間グループ内の1つの電極が、該空間グループ内の少なくとも1つの他の電極と同じまたは類似のERD特性およびERS特性を検出する、請求項3に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項5】
前記第1の周波数範囲は8Hzから12Hzの間であり、前記第2の周波数範囲は13Hzから30Hzの間である、請求項3または4に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項6】
前記第1の周波数範囲および前記第2の周波数範囲は、それぞれ1Hzから45Hzの間である、請求項3から5のいずれか1項に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項7】
時間-周波数領域表現は、フーリエ変換およびウェーブレット変換のうちの1つを使用して生成される、請求項3から6のいずれか1項に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのERD応答周波数帯域は、前記第1の周波数範囲内の時間-周波数領域表現の低信号強度領域に対応し、前記少なくとも1つのERS応答周波数帯域は、前記第2の周波数範囲内の時間-周波数領域表現の高信号強度領域に対応する、請求項3から7のいずれか1項に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのERD応答周波数帯域は2Hzの帯域幅を有し、前記少なくとも1つのERS応答周波数帯域は4Hzの帯域幅を有する、請求項3から8のいずれか1項に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのERD応答周波数帯域および少なくとも1つのERS応答周波数帯域は、それぞれ、第1の周波数範囲および第2の周波数範囲のそれぞれのサイズに比例するそれぞれの帯域幅を有する、請求項3から9のいずれか1項に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項11】
前記複数のEEG波形は、EEG波形を少なくとも1つのウィンドウに分離するステップの前に、1Hzから45Hzのバンドパス有限インパルス応答フィルタを使用してフィルタリングされる、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項12】
少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータの位相応答は、少なくともアルファ帯域およびベータ帯域内の周波数要素を含む、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項13】
前記周波数領域への変換は、高速フーリエ変換
を含む、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項14】
前記一次ニューラルネットワークは、複数のEEG波形中の位相応答と電力スペクトル密度、および、複数のEEG波形に関連付けられた複数の手動で評価された臨床運動機能スコアを有するトレーニングデータセットを用いた回帰を使用して構成される、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項15】
少なくとも1つの位相応答および少なくとも1つの信号電力スペクトル密度は、少なくとも1つのウィンドウの対応する周波数領域表現から計算される、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【請求項16】
前記一次ニューラルネットワークのモデルは、少なくとも2つの二次元畳み込みニューラルネットワーク層、少なくとも2つの最大プーリング層、および少なくとも2つの全結合層を含む構成フレームワークを使用して構成される、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法、
【請求項17】
前記一次ニューラルネットワークのモデルは、二次元畳み込みニューラルネットワーク層と全結合層とを含む構成フレームワークを使用して構成される、請求項1に記載のコンピュータが実行する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、脳波記録法(electroencephalography:EEG)の測定を使用して運動機能を定量化するためのシステムおよび方法に関する。本明細書に開示される特定のシステムおよび方法は、慢性脳卒中生存者の運動機能を定量化するために適用することができる。
【0002】
この出願は、2018年5月24日に出願され、「EEGを使用した慢性脳卒中の上肢運動機能の定量化(Using EEG to Quantify Upper-Extremity Motor Function for Chronic Stroke)」と題された米国特許出願第62/675,868号、および2018年年7月19日に出願され、「脳活動を使用した運動機能のスコア付け(Using Brain Activity to Score Motor Function)」と題された米国特許出願第62/700,416号からの優先権を主張する。この出願は、2018年5月24日に出願され、「EEGを使用した慢性脳卒中の上肢運動機能の定量化(Using EEG to Quantify Upper Extremity Motor Function for Chronic Stroke)」と題された米国特許出願第62/675,866号、およびおよび2018年7月19日に出願され、「脳活動を使用した運動機能のスコア付け(Using Brain Activity to Score Motor Function)」と題された米国特許出願第62/700,416号の、米国特許法第120条に基づく利益を主張し、これらの両方は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
健康な人と、神経学的疾患、病気、または傷害の影響を受けた人との両方に対する人間の運動機能の評価は、スポーツ、健康、ビデオゲーム、軍事、および臨床応用を含むさまざまな分野に関連する。例えば、脳卒中は運動機能に影響を与える一般的な疾患であり、脳卒中の回復を正確かつ確実に査定する能力は、脳卒中のリハビリテーションの過程において重要な役割を果たす可能性がある。従来、欠落したおよび残存する運動機能の臨床評価は、訓練を受けた臨床医によるベッドサイド検査に限定されている。例えば、もともと末梢神経筋障害のために設計された、筋力評価のための医学研究審議会(Medical Research Council:MRC)の0から5のスケールは、臨床運動力評価に使用されるツールの1つである。機能的自立度評価法(Functional Independence Measurement:FIM)、ウルフ運動機能テスト(Wolf Motor Function Test:WMFT)、およびヒューゲルマイヤー運動評価法(Fugl-Meyer Motor Assessment:FMMA)など、その他の標準化された半定量的スコアは、機能評価用に設計されており、調査研究で一般的に使用されている。但し、これらのおよび他の同様のスコア付けシステムは、完全に定量的ではなく、管理も容易ではない。さらに、正確なスコア付けには、テスト管理者の経験と技量の両方が必要であり、テスト管理者がそれを獲得するには時間と労力がかかるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記を考慮して、運動機能が神経学的疾患、病気、または傷害によって影響を受けた場合を含めて、運動機能の一貫した正確な評価のための、改善されかつ自動化された解決手段を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、本明細書は、EEG測定から得られたEP/ERP波形を高速、かつ再現可能であり、かつ自動化された方法で記録および定量化するためのシステムおよび方法を説明するものである。
【0006】
一態様は、複数の脳波記録法(EEG)電極から得られた複数のEEG波形として表されるEEGデータに基づいて対象者の運動制御スコアを自動的に生成する、コンピュータが実行する方法を提供する。この方法は、複数のEEG波形の各EEG波形について、該EEG波形を少なくとも1つのウィンドウに分離するステップであって、各ウィンドウは、対象者によって実行される運動に対応する神経活動を表すEEG波形の一部を含んでいる、ステップ、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータから、少なくとも1つまたは複数の周波数成分を決定するステップ、および、少なくとも1つまたは複数の周波数成分に基づいて運動制御スコアを計算するステップ、を含んでいる。
【0007】
特定の一実施形態において、1つまたは複数の前記周波数成分は、少なくとも1つの事象関連脱同期(event-related desyncronization:ERD)応答周波数帯域および少なくとも1つの事象関連同期(event-related syncronization:ERS)応答周波数帯域に対応し、前記運動制御スコアは、少なくとも1つのERD応答周波数帯域および少なくとも1つのERS応答周波数帯域に基づいて複数のEEG波形から抽出された、少なくとも1つのERD波形特徴およびERS波形特徴に基づいて計算される。少なくとも1つのERD波形特徴およびERS波形特徴は、少なくとも1つのERD応答周波数帯域および少なくとも1つのERS応答周波数帯域を使用して、複数のEEG波形をフィルタリングするステップ、複数のEEG電極を少なくとも1つの空間グループにグループ化するステップであって、少なくとも1つの空間グループのそれぞれに、それぞれの仮想EEGチャネルが関連付けられる、ステップ、少なくとも1つの空間グループのそれぞれに関連付けられたそれぞれの仮想EEGチャネルからERD波形およびERS波形を生成するステップ、および、少なくとも1つの空間グループのそれぞれに関連付けられたERD波形およびERS波形から少なくとも1つのERD波形特徴およびERS波形特徴を抽出するステップ、によって取得される。
【0008】
前記少なくとも1つのERD応答周波数帯域および少なくとも1つのERS応答周波数帯域は、単一のEEG電極に関連付けられた一組の波形ウィンドウを使用して平均ウィンドウを計算するステップ、平均化されたウィンドウの時間-周波数領域表現を出力するステップ、時間-周波数領域表現の第1の周波数範囲内で、少なくとも1つのERD応答周波数帯域を特定するステップ、および、時間-周波数領域表現の第2の周波数範囲内で、少なくとも1つのERS応答周波数帯域を特定するステップ、によって決定されるものであってもよい。
【0009】
別の実施形態において、1つまたは複数の前記周波数成分は、少なくとも1つのウィンドウの少なくとも1つの位相応答に対応し、前記少なくとも1つまたは複数の信号成分は、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータから決定され、該1つまたは複数の信号成分は、少なくとも1つのウィンドウの少なくとも1つの信号電力スペクトル密度に対応する。前記運動制御スコアは、一次ニューラルネットワークを使用して計算され、該一次ニューラルネットワークには、少なくとも1つの位相応答および少なくとも1つの信号電力スペクトルを含む入力として、少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータが提供される。少なくとも1つのウィンドウ内のEEGデータの位相応答は、少なくともアルファ帯域およびベータ帯域内の周波数要素を含む。
【0010】
前記一次ニューラルネットワークは、複数のEEG波形中の位相応答と電力スペクトル密度、および、複数のEEG波形に関連付けられた複数の手動で評価された臨床運動機能スコアを有するトレーニングデータセットを用いた回帰を使用して構成されるものであってもよい。
【0011】
特定の一実施形態において、少なくとも1つの位相応答および少なくとも1つの信号電力スペクトル密度は、少なくとも1つのウィンドウの対応する周波数領域表現から計算される。前記一次ニューラルネットワークのモデルは、少なくとも2つの二次元畳み込みニューラルネットワーク層、少なくとも2つの最大プーリング層、および少なくとも2つの全結合層を含む構成フレームワークを使用して構成される。
【0012】
本発明のさらなる態様は、以下の説明を考慮して明らかになるであろう。
【0013】
本発明の実施形態の特徴および利点は、以下の添付の図面を参照して理解すれば、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、可動性評価システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1の可動性評価システムとともに使用されるEEG取得ハードウェアの画像である。
【
図3】
図3は、
図1の可動性評価システムを使用してEEGスキャンを実行するための手順のフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の手順を使用してEEGスキャンデータを処理するための方法のフローチャートである。
【
図5A】
図5Aは、未補正のEEG波形および眼電図(electro-oculogram:EOG)補正されたEEG波形と、EOG補正に使用される対応するEOG波形のグラフである。
【
図5B】
図5Bは、
図4の方法から得られるEEG信号の時間-周波数マップである。
【
図6】
図6は、サンプルの健常者と脳卒中患者の連続時間アルファ事象関連脱同期(ERD)波形のグラフである。
【
図7】
図7は、サンプルの健常者と脳卒中患者の連続時間ベータ事象関連同期(ERS)波形のグラフである。
【
図8】
図8は、ERD波形およびERS波形の曲線の下の領域と臨床的ボックスアンドブロックテストのスコアとの間の相関のグラフである。
【
図9】
図9は、ERDおよびERS波形の最大値および最小値と、臨床的ボックスアンドブロックテストスのコアとの間の相関のグラフである。
【
図11】
図11は、1つの実装方法に従ってニューラルネットワークモデルを構成するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、別の実装方法に従ってニューラルネットワークモデルを構成するためのフローチャートである。
【
図13】
図13は、参加者内テストについて測定されたヒューゲルマイヤー評価(FMA)スコアに対する予測されたFMAスコアの相関を示すグラフである。
【
図14】
図14は、参加者間テストについて測定されたヒューゲルマイヤー評価(FMA)スコアに対する予測されたFMAスコアの相関を示すグラフである。
【
図15】
図15は、脳の活性化に対するリハビリテーション訓練または治療の効果を解釈するための活性化-最大化を実施する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明、およびそこに記載されている実施形態は、本発明の原理の特定の実施形態の例を例示するために提供されている。これらの例は、これらの原理および本発明を、限定する目的ではなく、説明する目的で提供される。
【0016】
脳波記録法(EEG)は、脳のニューロン内のイオン電流に起因する電圧変動を測定するために、対象者の頭皮に配置された複数の電極を使用して、脳活動を監視する非侵襲的で電気生理学的な方法である。EEGは、神経学的診療のツールであり、脳に関連する運動機能に影響を与える状態を過去に経験した、または現に経験している患者の管理においていくつかの用途がある。本明細書で使用される場合、「運動機能に影響を与える状態」は、個人の運動機能に影響を与える脳関連の傷害、状態、または疾患を指す。運動機能に影響を与える状態には、例えば、脳卒中(例えば、虚血性、出血性、一過性脳虚血発作、潜在性および脳幹発作)、外傷性または非外傷性を問わず後天性脳損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、脳性麻痺などが含まれる。リハビリテーション過程におけるEEGの変化は、運動機能に影響を与える状態に陥った後の運動回復を予測するために使用することができる。EEGは、EEG信号から計算された結果(例えば、デルタアルファ比(delta alpha ration:DAR)、脳対称性指数(brain symmetry index:BSI)、および大規模位相同期(Large-Scale Phase Synchrony))を使用した予後/評価ツールとしても使用することができる。EEGはまた、ロボット工学、娯楽、および健康などの分野における多くの潜在的な非臨床的応用を有し、その結果、本明細書に記載された技術の特定の実施形態は、健康な個人が、健康、スポーツのパフォーマンス、運動能力が関連するさまざまなタスクのパフォーマンス中の覚醒度を改善するためにも使用され得る。
【0017】
脳卒中の場合、以前のEEG作業は、主に急性または亜急性の脳卒中の人々に対して行われてきた。本発明者らは、EEGバイオマーカーが、慢性脳卒中生存者ならびに他のタイプの運動機能に影響を与える状態の生存者の運動機能を評価する際に使用するために適合し得ることを認識した。運動機能を評価するためにEEGを適用することは、(1)訓練を受けた臨床医によるベッドサイド検査を必要とすることが多い、および/または(2)正確なスコア付けがテスト管理者の経験と技量に少なくとも部分的に依存しているため、完全に定量的ではなく、管理が容易でもない、という既存の評価手法の欠点に対処し得るものである。
【0018】
運動機能を評価するためにEEGデータを使用すると、より定量的な評価と、本明細書に記載されるような運動制御スコアの決定に関連するプロセスを自動化する機会を得ることができる。このような方法は、人工ニューラルネットワークベースの機械学習法の使用などの最新のコンピューティング技術も活用することができ、これにより、EEGデータ内のさらなる意味のある特徴の検索が可能となる。本明細書に開示される例示的な実装は、EEGデータを使用するが、本明細書に開示される特定のシステムおよび方法は、眼電図記録法(electrooculography:EOG)、脳磁図法(magnetoencephalography:MEG)、および他のタイプの生体電気信号、近赤外分光法(near infrared spectroscopy:NIRS)、機能的NIRS(functional NIRS:fNIRS)、機能的磁気共鳴イメージング(functional magnetic resonance imaging:fMRI)などの、脳活動に関連する任意の時間的に変動する信号に適合および応用し得るものである。
【0019】
本明細書に開示されるのは、臨床応用における従来の運動機能評価の使用を置き換えるためのツールとして動作可能なEEGの取得および処理システムである。開示された技術はまた、健康産業および娯楽産業などの非臨床的用途における脳機能および運動能力を評価するために使用することができる。説明のために、以下の例は、脳卒中生存者および比較のための健常者の運動機能を定量化する文脈で提供される。しかしながら、本明細書で説明されるシステムおよび方法は、脳卒中に限定されず、運動選手、高齢者、および子供を含む健康な個人、または、他のタイプの運動機能に影響を与える状態を経験した患者の運動機能を評価するために適合および適用し得ることを理解されたい。他のタイプの運動機能に影響を与える状態は、外傷性または非外傷性を問わない後天性脳損傷、パーキンソン病、アルツハイマー病、および脳性麻痺などを含むが、これらに限定されない。このシステムは、個人の運動評価を自動化して、既存の臨床的運動評価方法または非臨床的運動パフォーマンス測定基準よりも評価精度を向上させることを目的とする。
【0020】
以下でより詳細に説明される可動性評価システムの実施形態は、EEG波形を取得し、所望の期間内に関心のある特徴を自動的に特定する。これらの特徴は、患者の運動機能の指標である対応する「運動制御スコア」を決定して出力するために処理される。本開示において関心のある特徴には、事象関連脱同期(ERD)波形および事象関連同期(ERS)波形、および1つまたは複数のEEG信号から取得可能な特徴が含まれるものであってもよい。
【0021】
ERDおよびERS(個別におよび集合的に、ERD/ERS)は、非位相同期EEG応答であり、それぞれ、特定の神経プロセスのタイミングに関連して、相対的なEEG信号電力の減少とEEG信号電力の増加を示す。これらの信号は、感覚と運動の両方のプロセス(例えば、指のタッピングなどの関連する動き)について特徴付けられる。
特に、運動の準備、運動の実行、運動後の段階でERD/ERSの特性が異なるため、運動活動の指標として使用される。
【0022】
ERD/ERSは、周波数帯域が制限されていると理解されているため、異なるEEG帯域は同時に異なるERD/ERS特性を持つことができる。波形は、信号特性に基づいて周波数帯域(例えば、アルファ、ベータ、ガンマ、シータ、デルタとして指定)に細分される。各バンドは、リラックス(アルファ)、身体活動(ベータ)、ストレス(ガンマ)、眠気(シータ)、睡眠(デルタ)などの特定の行動に関連付けられている。さらに、ERD/ERSは、大脳皮質の空間マッピングと密接に関連している。運動関連のERD/ERSは、一般に、運動制御に関連する脳構造が位置する中心溝の周囲で発生することが知られており、脳の2つの半球が異なった影響を受ける。EEGを使用して、このようなERD/ERS特性を複数の脳部位で一度に記録できる。
【0023】
本開示では、ERD/ERSは、運動機能を制御する人の能力の指標であると見なすことができる。 運動中、健康な人は、脳卒中から回復する人など、運動制御に障害のある人とは区別できるEEG信号特性を持っている。 運動機能のEEGベースの評価を生成するために、個人は、一連の単純なベンチマーク動作(数回繰り返される指タッピングなど)を実行しながらEEGデバイスを装着し、動作実行時にタイムスタンプを付ける。いくつかの実施形態では、EEGデバイスは、対象者の1)静止状態の脳活動(特定の行動が行われていない)、2)架空の運動(同様のERD/ERSプロパティがあるが、タイムスタンプはない)、および/または、3)タイムスタンプまたは自動的に検出されたタイムスタンプのない物理的な動き、に関連するさらなる脳EEG信号を捕捉するように操作され得る。次に、ERD/ERS情報が生のEEGデータから抽出され、運動制御スコアが導き出される。
【0024】
一実施形態による運動機能の評価の手順は、時間周波数分析を使用して、所望のERD/ERS特性を含むEEG周波数帯域を識別することを含む。さらに、時間周波数分析で特定された周波数帯域を使用してEEGチャネルをフィルタリングし、EEGチャネルに関連する電極を電極グループに空間的に分割し、各電極グループ内の電極の寄与を最適化し、運動前後のERD/ERS動作のフルタイム曲線の形式で各電極グループのERD/ERS波形を導出する。ERD/ERS波形から運動前後の特徴を抽出する。さらに、抽出された特徴から運動制御スコアを計算する。手順のさまざまなステップの詳細については、以下で詳しく説明する。
【0025】
本明細書に開示されるEEG取得および処理システムは、臨床医、理学療法士、および他の医療専門家によって、脳損傷後のリハビリテーション中の特定の時点での運動機能を評価するためのツールとして使用することができる(例えば、脳卒中または頭部外傷などの他の状態から)。このシステムはさらに、脳損傷のある患者の運動機能評価スコアを記録および追跡して、患者の状態が改善しているかどうかを評価したり、リハビリテーションプログラムが機能しているか調整が必要かどうかを医療専門家に通知したりするために使用できる。場合によっては、システムは、リハビリテーションプログラムへのコンプライアンスを監視するためのツール、回復の可能性を予測するためのツール、または患者がリハビリテーションの練習に関するフィードバックを(定期的またはリアルタイムで)受け取るためのツールとして使用できる。
【0026】
最初に
図1を参照する。その中に示されているのは、EEGデータを取得して自動的に処理し、対応する定量的に取得された運動制御スコアを出力するように動作可能な可動性評価システム100のブロック図である。本実施形態では、可動性評価システム100は、データ収集とのインタフェースを有する。患者(例えば、人間または動物の対象者)からEEG信号を取得するためのコンポーネント、健康な、または運動機能に影響を与える状態から苦しんでいる/回復している。可動性評価システム100は、以下でより詳細に説明されるように、対応する運動制御スコアを決定するための基礎として使用するために、取得されたEEG信号から関心のある特徴を識別するためのデータ処理コンポーネントを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、可動性評価システム100は、汎用コンピューティングデバイスを使用して実装することができる。汎用コンピューティングデバイスは、適切なEEGハードウェアと通信してEEG信号を取得するように構成することができる。特定の実施形態では、眼電図(EOG)信号が、EEG信号に加えて、またはEEG信号の代わりに使用される。 したがって、汎用コンピューティングデバイスは、適切なEOGハードウェアと通信してEOG信号を取得するように構成することができる。可動性評価システム100は、心拍数、光、動きなどの他のデータソースを組み込むことができる。コンピューティングデバイスは、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、クラウドベースのサーバー、およびタブレット、スマートフォン、その他のポータブルデバイスなどのモバイルコンピューティングデバイスを含むがこれらに限定されないさまざまな形式をとることができる。別の実施形態では、可動性評価システム100は、ここに記載されている機能を提供するように特別に構成および/またはプログラムされたスタンドアロンデバイスとして実装することができる。ここで、可動性評価システム100の様々な構成要素の説明が提示される。
【0028】
可動性評価システム100は、ユーザがEEGデータ取得または「スキャン」セッションの様々な側面を制御し、可動性評価システム100のステータスをレビューするために、表示画面上にグラフィカルユーザインタフェースとして提示することができるユーザインタフェース110を含む。例えば、入力コントロール(オンスクリーンキーボードや物理キーボードなど)を提供して、スキャンセッションのパラメータを入力できるようにすることができる。パラメータには、対象者の名前、対象者の状態(脳卒中、外傷性脳損傷など)、テスト/記録される動きのタイプ(ボタンのタップ、腕への到達など)、物理的または想像上の動き、使用されている手足(左/右腕など)、データを解釈するために適用される処理アルゴリズムのタイプ、およびスキャンセッションの場所などのコンテキスト情報を含めることができる。
【0029】
スキャン中、ユーザインタフェース110は、スキャンされたデータの収集または品質に影響を与えるであろうエラーが可動性評価システム100によって検出されたかどうかを示すように動作可能である。例えば、EEGハードウェアが応答しない場合、またはEEG電極のインピーダンスレベルが閾値または範囲外にある場合、スキャンが続行されない場合がある。スキャン後、ユーザは、ユーザインタフェース1 10を使用して、スキャンデータおよび/またはスキャンレポートをデータストレージ150に保存して、後で検索およびレビューすることができる。
【0030】
取得ハードウェアインタフェース120は、
図1に示されるように、可動性評価システム100とEEG取得ハードウェア200との間の通信リンクを確立するように動作可能である。
図2に示されるように、少なくとも1つのEEG電極210からEEG信号を収集するため、通信リンクは、有線インタフェース、無線インタフェース、または有線インタフェースと無線インタフェースの組み合わせを含むがこれらに限定されない、当業者に知られている任意の方法を介して確立することができる。通信リンクのステータスは、リンクがアクティブであるかどうかを示すために、ユーザインタフェース110に示すことができる。例えば、ユーザインタフェース110のインジケータは、リンクがアクティブであることを示すために緑色のインジケータを使用し、リンクが非アクティブであることを示すために赤色のインジケータを使用することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、取得ハードウェアインタフェース120は、対象者の眼窩の上および横に配置された電極を使用して、対象者の眼の活動(例えば、眼球運動およびまばたき)を測定するためにEOGハードウェアと通信するためのインタフェースをさらに含む。いくつかの実施形態では、取得ハードウェアインタフェース120は、可動性評価システム100と共に使用することを目的とした利用可能なEEGおよび/またはEOGハードウェア機器をスキャンし、それとの通信リンクを確立するための適切な通信プロトコルを選択するように動作可能である。
【0032】
EEG電極のインピーダンスは、結果として得られるEEG信号の品質に影響を与える可能性があり、したがって、分析のためにEEGデータから使用可能なERD / ERS特性を取得する能力に影響を与える可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、取得ハードウェアインタフェース120はまた、EEGハードウェアからインピーダンス測定値を収集するように動作可能であり得る。例えば、システムコントローラ170は、インピーダンス測定のために、取得ハードウェアインタフェース120を介してEEGハードウェアを定期的に(例えば、オンデマンドで、または所定のポーリング周波数で)ポーリングすることができる。 収集されたインピーダンス値は、ユーザインタフェース110に表示することができる。例えば、ユーザインタフェース110は、インピーダンス品質を示すためにカラーマップを使用して電極インピーダンスをグラフィカルに示すか、またはインピーダンスインジケータを備えた電極位置の概略図を表示することができる。
【0033】
システム入力/出力モジュール130は、可動性評価システム100のシステム入力および出力タスクを処理するように動作可能である。例えば、ユーザインタフェース110は、情報を提示し、ユーザからデータ入力を受信するために使用され、ユーザインタフェース110を介して入力された対応する入力は、入力データを他のモジュールに中継するか、または応答してアクションを実行することによって、システム入力/出力モジュール130によって処理される。受信した入力に。入力には、スイッチ、ボタン、マウス、キーボード、タッチスクリーン、ボタンベースのクリッカーデバイス、EMGセンサー、ビデオカメラなどの入力デバイスからのユーザ入力、またはデータストレージ150からのデータ入力が含まれる(例えば、タイムスタンプのために行われている間の動きを観察および記録するための目的)。出力には、ディスプレイ画面またはオーディオ/ビジュアルに表示するためのグラフィック画像を含めることができる。特定のベンチマーク動作を実行するための対象者のクリック/タッピングは、例えば、音声キューを出力して、自己推定10秒ごとに1回、指タッピングなどの一連の単純なベンチマーク動作を実行するように対象者に指示することがでる。一実施形態では、健康な対象者のEEGデータは、利き手でベンチマークのクリック/タッピング動作を実行する対象者によって収集された。 ベンチマークのクリック/タッピングの動作は、ハードウェアボタンベースのクリッカーデバイスまたは筋電図(EMG)センサーを使用してキャプチャできる。慢性脳卒中の対象者の場合、EEGデータは、障害のある手でクリック/タップすることによって収集された。したがって、対応するEEGデータを、ベンチマーク運動のパフォーマンスを示す適切なタイムスタンプデータとともに記録できる。
【0034】
タイミングモジュール140は、スキャンセッション中に出力されるオーディオ/ビジュアル命令のタイミングを制御するように動作可能である。タイミングモジュール140はさらに、上記のタイムスタンプデータを生成するように動作可能であり得る。例えば、タイムスタンプは、ボタンベースのクリッカーデバイス、EMGセンサー、カメラなど、上記のデバイスの1つによって生成された信号に対応できる。これらのデバイスの1つによって信号(運動を示す)が生成されると、対応するタイムスタンプ値が生成されて、動きのパフォーマンスにフラグが立てられる。別の方法の実装では、タイミングモジュールは、対象者が静止していてアクションを実行しないときにEEGデータをキャプチャする目的で、上記の静止状態のタイムスタンプを生成するように構成することができる。この実装では、対象者は、一定期間静止するように特に指示される場合がある。これらの命令を生成すると、休止期間の開始を示すタイムスタンプも生成される。休止期間は、1~5秒、1空7秒、または1~10秒の範囲の期間などの適切な期間、または他の任意の適切な期間続くことができる。そのような休止期間に対応するEEG信号は、運動に対応するEEG信号と併せて運動制御スコアの計算において考慮され得る。
【0035】
データストレージ150は、運動制御スコアの決定に関連する構成ファイルおよびデータファイルなどの可動性評価システム100によって使用される情報およびデータを格納するように動作可能である。データストレージ150はさらに、生(原)および処理されたEEGおよび/またはEOGデータおよび関連するレポートなどのスキャンセッションデータを格納するように動作可能である。 データストレージ150は、当業者に知られている方法で実装することができる。 例えば、データストレージ150は、磁気または光学ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、ネットワークディスクドライブ、分散ストレージリソース(例えば、クラウドベースのストレージ)、データベースなどであり得る。
【0036】
データ処理モジュール160は、取得されたEEGおよび/またはEOG信号を処理して、関心のあるERD/ERS波形特徴を自動的に特定し、対応する運動制御スコアを計算するように動作可能である。上記のように、特徴選択の場合、EEGデータ内のERD / ERS特性は運動機能の指標を提供する。運動中、健常者は、脳卒中から回復している人など、運動制御に障害のある個人と区別できるEEG信号特性を持っていることが理解される。
【0037】
いくつかの実施形態では、データ処理モジュール160を使用して、可動性評価システム100の他の要素に処理能力を提供することもできる。例えば、データ処理モジュール160は、システム入力/出力モジュール130によってトリガーされて、テスト対象者のための音声および/または視覚コマンドを合成することができる。
【0038】
システムコントローラ170は、EEGおよび/またはEOGデータの取得およびそのようなデータの処理を含む、可動性評価システム100の動作を調整するように動作可能である。
図3は、一実施形態による、スキャンを実施するためにシステムコントローラ170によって実行され得る方法300を示すフローチャートを示す。いくつかの実施形態では、システムコントローラは、可動性評価システム100の動作の1つまたは複数の態様および/または方法300の1つまたは複数のステップを監視するコンピュータ化されたプロセスによって実装することができる。例えば、コンピュータ化されたプロセスは、(以下でより詳細に説明されるように)、取得ハードウェアインタフェース120のポーリング周波数を制御して、電極インピーダンスへの準拠を確実にすることができる。他の実施形態では、システムコントローラ170は、可動性評価システム100の動作の1つまたは複数の態様および/または方法200の1つまたは複数のステップを監視するためのユーザ入力を含むことができる。例えば、システムコントローラは、適切なデータ処理スイートを開き、データストレージ150からのデータファイルを手動で処理するために、ユーザからの入力を受け取ることができる。さらに他の実施形態では、ユーザ入力は、可動性評価システム100の動作および/または方法300のステップを調整するために必要とされる。
【0039】
図3を参照すると、方法300のステップ310で、前述のようにコンテキスト情報(例えば、診療所情報およびスキャンの場所)およびスキャン情報(例えば、対象者の識別子、実行番号)が受信される。そのような情報は、例えば、ユーザインタフェース110を介して、ユーザによって入力され得る。
【0040】
ステップ320で、EEGおよび/またはEOGハードウェアとのアクティブな通信リンクが確認される。例えば、システムコントローラ170は、そのステータスの取得ハードウェアインタフェース120を照会することができる。ステータスがアクティブな接続がないことを示している場合、またはEEGやEOGハードウェアへの接続の試みが失敗した場合は、上述したようにエラーインジケータまたはメッセージを生成してユーザインタフェース110に表示できる。あるいは、接続の問題をユーザに警告するために音を生成することもでき。これらのアラートは、接続の問題に対処するようにユーザに促すものである。取得ハードウェアインタフェース120と取得ハードウェア(すなわち、EEGおよび/またはEOGハードウェア)との間にアクティブな通信リンクが存在する場合、方法300は、ステップ330に進むことができる。
【0041】
上述したように、EEG電極のインピーダンスはEEG信号の品質に影響を与える可能性があり、したがって、EEG信号からERD/ERS特徴を確実に抽出する能力に影響を与える可能性がある。したがって、ステップ330で、インピーダンス測定が実行されて、測定されたインピーダンス値が閾値または範囲外にあるかどうかが検証される。例えば、EEG電極の特定のセットについては、特定の閾値未満のインピーダンス値が好ましい。そのため、インピーダンスの測定を行ってから、この閾値と比較することができる。インピーダンス測定は、電極の特定のアレイ内の任意のEEG電極位置に対して要求できる。例えば、Fz、Cz、Pzおよび/またはEOG電極は、位置hEOG(例えば、「水平EOG」-対象者の目の横、こめかみの近くに配置されるEOG電極)またはvEOG(例えば、「垂直EOG」-配置されたEOG電極-対象者の目の上)にあり得る。いくつかの実施形態では、EOGおよびEEG電極は、異なる閾値に関連付けられ得る。他の実施形態では、EOGおよびEEG電極は、同じ閾値に関連付けられ得る。いくつかの他の実施形態では、いくつかのEEG電極位置(脳の運動領域に最も近いC3、CZおよびC4など)は、これらの電極が優先されることを確実にするために、より低いインピーダンス閾値を有し得る。EEGおよびEOG電極は、
図2に示されるように配置され得る、または信号を記録するために任意の適切な空間的位置および構成をとることができる。
【0042】
EEGおよび/またはEOG電極の測定されたインピーダンス値が満足のいくものである(例えば、閾値を下回る)場合、方法300の次のステップを実行することができる。しかしながら、測定されたインピーダンス値が満足のいくものでない場合、エラーインジケータまたはメッセージが生成されて、ユーザインタフェース110に表示され得る。あるいは、インピーダンスの問題が存在することをユーザに警告するために音が生成されてもよい。これらのアラートは、インピーダンスの問題に対処するようにユーザに促すものである。例えば、電極インピーダンスは、次の1つ以上を実行することで修正できる。すなわち、対象者の頭皮に追加のEEG導電性ゲルを塗布する、電極/キャップを再調整して、フィット感を向上させる、ヘアジェルなど、対象者の髪から余分な破片を取り除く、頭皮を磨いて非導電性の皮膚層を取り除く、アルコールワイプで頭皮の皮膚をきれいにするなどである。
【0043】
上述したように、インピーダンス測定値を繰り返しスキャンして、各EEGおよび/またはEOG電極のインピーダンスが目的の範囲内にあることを確認できる。したがって、システムコントローラ170は、更新されたインピーダンス値について、取得ハードウェアインタフェース120を介してEEGハードウェアを定期的に(例えば、オンデマンドで、または所定のポーリング周波数で)ポーリングすることができる。
【0044】
ステップ340で、スキャンが開始される。スキャンの開始時に、スキャンが開始されようとしていることを対象者に示し、スキャンプロセスに関する情報および1つまたは複数のベンチマーク動作を実行する方法に関する指示を対象者に提供するために、音声または視覚プロンプトが生成され得る。スキャン中、例えば、短いビデオをディスプレイで再生して、特定のベンチマーク動作を実行する方法を対象者に示すことができる。最初の音声または視覚的なプロンプトに続いて、スキャンが開始される場合がある。
【0045】
スキャン中、システムコントローラ170は、EEGおよび/またはEOG電極からの生データ、ならびに一連のベンチマーク動作の性能を示すトリガー信号(例えば、ボタンベースのクリッカー、EMGまたはカメラからの)の存在を記録することができる。いくつかの実施形態では、マルチチャネルEEGデータが受信され、各チャネルは、電極のグループ内の電極に対応し、それぞれが、それぞれのEEG信号を記録するために適切な空間位置に配置される。 例えば、そのようなデータは、
図2のEEGハードウェアのFz、Cz、およびPzチャネルに対応することができ。名目上の電極部位に存在するEEGヘッドセットに埋め込まれた電極に属する。別の例では、C3、CZ、およびC4チャネルなどの脳の運動領域の近くに配置された電極が、運動能力を評価するためのEEG信号を取得する目的でより一般的に使用され得る。さらに他の例では、脳の運動野内またはその周囲にクラスター化された複数の電極を配置することが望ましい場合がある。EOGハードウェアP07およびOzチャネルから受信したデータも受信できる。このようなチャネルは、vEOG/hEOGの位置にある接着電極に接続されている。
【0046】
システムコントローラ170は、運動コマンドの開始時間をタイムスタンプでマークすることができる。このタスクは、例えば、取得ハードウェアインタフェース120または他の任意の適切なシステムコンポーネントを介して、EEGハードウェアへのトリガー信号を生成することによって達成することができる。いくつかの実施形態では、トリガー信号は、EEGハードウェアによって受信および捕捉され、EEGデータとともに可動性評価システム100に提供され得る電圧出力として表される生成されたパルスであり得る。他の実施形態では、トリガー信号は、異なるコード値を有するトリガーコードの形態であり得る。例えば、トリガーコードは、スキャンの開始を示す16進値、または特定のベンチマーク運動を実行するコマンドが提供されることを示す16進値である場合がある。例えば、第1のコードは、一連のコマンドの第1のコマンドを示すために使用され得る、第2のコードは、一連のコマンドの第2のコマンドを示すために使用され得る、等々である。
【0047】
スキャンが正常に終了すると、システムコントローラ170は、取得されたEEGおよび/またはEOGデータをデータストレージ150に保存することができる。例えば、システムコントローラ170は、収集されたEEGおよび/またはEOGデータをその生の形態でファイルに保存することができる。生のEEGデータ(原EEGデータ)ファイルには、スキャン中にEEGハードウェアによって記録されたすべてのチャネルのデータを含めることができる。これには、使用可能なすべてのEEG電極、バッテリーレベル、サンプル番号、ベンチマーク運動が実行された時点を示すトリガーチャネルが含まれる。EOGデータも同様の方法で保存できる。
【0048】
システムコントローラ170はまた、コンテキスト情報、スキャン詳細、スキャン日付およびスキャン時間を含むスキャンメタデータファイルにスキャン関連メタデータを保存することができる。したがって、本実施形態では、2つの出力ファイルが生成され、EEGおよび/またはEOGデータ用の1つの出力ファイルと、メタデータ用の別の出力ファイルとを含む。2つの出力ファイルの内容は「スキャンデータ」と見なすことができる。他の実施形態では、スキャンデータを組み合わせて同じデータファイルにすることができる。保存されたスキャンデータは、その後、ユーザによって検索され、データ処理モジュール160にロードされて、以下でより詳細に説明されるように、対応する運動制御スコアを計算するために使用されるERD/ERS特性を決定することができる。
【0049】
別のスキャン構成では、最後に保存されたスキャン関連データは、処理および分析のためにデータ処理モジュール160に自動的にロードされ得る。別のスキャン構成では、スキャン取得および信号処理は、「リアルタイム」で同時にまたは実質的に同時に実行され得る。例えば、スキャンセッションが進行しているとき、取得されたEEGおよび/またはEOGデータは、データストレージ150に保存され得、また、運動制御スコアのリアルタイム計算のためにデータ処理モジュール160に「ストリーミング」され得る。
【0050】
EEGデータの処理と最適化
ここで
図4を参照すると、時間-周波数分析(時間周波数分析)を使用して所与の対象者の生のEEGスキャンデータを処理して特定の周波数成分、すなわちERD/ERS挙動を含む周波数帯域を特定し、ERD/ERS波形を抽出するための方法400を示すフローチャートが示されている。ERD/ERSは、一般的な周波数帯域と動きに関連する一般的な期間で発生することが知られているが、正確な周波数帯域と期間は個人によって異なる。一部の実装では、対象者の周波数帯域は1Hz~45Hzの範囲になる。他の実装では、範囲はより狭くなる。例えば、EEGアルファ帯域(バンド)は一般に8Hz~12Hzの範囲であると見なされるが、個人によって異なり、その結果、アルファERDは、この周波数帯域内のサブセクション(2Hz幅のサブバンドなど)でのみ発生する可能性がある。同様に、EEGベータ帯域は、一般に13~30Hzの範囲にあると見なされるが、個人間のばらつきを考えると、ベータERDは、この周波数帯域内のサブセクション(4Hz幅のサブバンドなど)でのみ発生する可能性がある。
【0051】
関心のある周波数帯域を決定するために、運動情報を含む可能性が最も高い単一のEEG電極またはEEG電極の組み合わせからのデータ(通常、各脳半球の運動皮質の真上に配置されるC3またはC4、またはC3/C4周囲の電極のラプラシアン(Laplacian)コンビネーション)は、個人固有の周波数帯域を識別するために使用できる。周波数を決定すると、個人のスキャンに使用されるすべてのEEG電極からキャプチャされたERD/ERS情報を抽出して、運動制御スコアを計算できる。
【0052】
方法400は、上記の可動性評価システム100(この方法のデータ処理ステップは、データ処理モジュール160によって実施され得る)、クラウドベースのコンピューティングクラスタなどの分散処理リソースによって、または、特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を使用するなど、当技術分野で知られている技術を使用して実装された別個のおよび/または専用のデジタル信号プロセッサによって実行され得る。
【0053】
方法400のステップ405で、所望のスキャンのためのEEGデータが分析のためにインポートされる。上記のように、EEGデータは、参加者が一連の単純なベンチマーク動作(指のタッピングなど)を実行しているときに記録できる。動作の実行時にタイムスタンプが付けられ、自己推定10秒ごとに1回実行される。健康な参加者の場合、EEGデータは、利き手でボタンベースのクリッカーデバイスでクリックすることで収集できる。慢性脳卒中の参加者の場合、EEGデータは、障害のある手でボタンベースのクリッカーデバイスをクリックすることで収集できる。場合によっては、ヒューゲルマイヤー評価法(FMA)やボックスアンドブロックテスト(BBT)などの臨床評価を実行して、すべての参加者から運動機能の臨床評価スコアを収集することもできる 利用可能な場合、そのような臨床評価スコアは、追加のコンテキスト情報として可動性評価システム100に提供することができる。しかしながら、EEG情報から運動制御スコアを取得するための本明細書に記載の方法は、臨床評価の代替として機能することを意図しているので、そのような臨床評価スコアは必須ではない。
【0054】
いくつかの実施形態では、完了したスキャンに対応するスキャンデータは、データストレージ150から検索され得る。この場合、ユーザインタフェース110は、処理に利用可能なデータファイルのリストを提供するように動作可能である(例えば、そのようなデータファイルは、処理されたものとしてマークされていないであろう)。いくつかの他の実施形態では、ユーザインタフェース110はまた、処理されたデータファイルを同時に表示する適切な提示を提供し得る。さらに他の実施形態では、ユーザインタフェース110は、データストレージ150を定期的にスキャンして、まだ処理されていないデータファイルのリストの更新を容易にするために追加された新しいデータファイルを識別することができる。
【0055】
処理済みのデータファイルは、未処理のデータファイルとは異なる形式で保存される場合がある。例えば、生の(未処理の)EEGデータ(原EEGデータ)は、人間が読める形式(例えば、CSV形式)であり、処理されたEEGデータファイルは、機械可読形式である場合がある(例えば、メモリ使用量を削減できる圧縮可能または圧縮ファイル形式などのバイナリファイル形式を使用する)。場合によっては、未加工および処理済みのEEGデータファイルに、機密を保持する必要のある情報が含まれていることがある。そのため、対象者のプライバシーを保護する目的で、生および処理されたEEGデータファイルが暗号化される場合がある。
【0056】
処理する目的のデータファイルを手動または自動で選択すると、EEGおよび/またはEOGデータと対応するメタデータが可動性評価システム100によって「読み込まれ」る。いくつかの実施形態では、スキャンデータは、処理の前にその有効性を評価するために検証され得る。
例えば、選択されたデータファイルが破損している(例えば、サンプル数の表示、誤ったファイル長などの特定のファイルパラメータが欠落している)、データストレージ150から欠落していると判断された場合、エラーメッセージが生成され得る。 、またはすでに処理されている。
【0057】
ステップ410で、インポートされたEEGデータは、運動タイムスタンプ(または休止期間タイムスタンプ)の周りの1つまたは複数の個別のウィンドウに分割される。一実施形態では、運動時点の周りの関心のある特定の時間範囲は、アルファERDの運動に対して-2秒から0秒であり、ベータERSの運動に対して0秒から+2秒である。上記のように、トリガー信号はタイミング基準として使用できる。ウィンドウのサイズは、実行されている動きに関連する神経活動の予想される持続時間に従って選択することができる。指のタッピングなどの単純なタスクの場合、ERDは身体の動きの最大2~3秒前に開始され、運動の準備を示す。運動後、ERSは最大2~3秒間発生する可能性があり、不応(refractory)期または「リセット」期間を示す。選択したウィンドウサイズには、予想される活動期間の全部または一部が含まれる場合がある。神経活動の増加または減少の計算を可能にするために、ERDの前またはERSの後のいずれかで定義される、「通常」に関連するベースライン期間(動きが発生しておらず、脳の運動活性化がアイドル状態にある場合)もウィンドウに含めることができる。
【0058】
いくつかの実装形態では、ステップ410でウィンドウ処理を適用する前に、任意選択でスキャンデータをさらにフィルタリングして、より高い周波数のノイズを除去し、ERD/ERSに寄与すると予想されない脳周波数を除外し、および/またはEEGから低周波数の「ドリフト」を除去することができる。選択されるフィルタは、使用されているEEGハードウェアから受信したスキャンデータをフィルタリングするのに適した任意のフィルタであり得る。 例えば、ローパスフィルタ、ニューラルネットワークフィルタ(オートエンコーダなど)、および運動平均フィルタを使用できる。いくつかの実施形態では、所望の通過帯域を有するバンドパスフィルタを、EEGおよび/またはEOGチャネルの生データ(原データ)に適用することができる。例えば、通過帯域の低周波数部分は、高周波数ノイズ成分を除去するように動作可能であり、通過帯域の高周波数部分は、「ドリフト」を除去するように動作可能である。いくつかの実施形態では、バンドパスフィルタは、バターワースフィルタなどの最小通過帯域リップルフィルタを使用して実装することができる。
【0059】
任意選択で、ステップ415で、EOG補正は、EOGハードウェアからのEOGデータを使用して適用され、眼球運動およびまばたきなどのスキャン中に検出された眼球活動に起因するアーチファクトを除去する。具体的には、EEGチャネルからのデータが適応フィルタを使用してフィルタ処理されるため、EOGデータを参照として使用できる。例えば、カーネルサイズが5で忘却係数が0.9999の再帰的最小二乗フィルタを適用できる。
図5Aは、まばたきを示すEOG信号512のグラフ、結果として生じる対応するまばたきアーチファクトを含む「汚染された」EEG信号510(Fzチャネル)、およびアーチファクトが低減された補正されたEEG信号514を示す。他の実施形態では、独立成分分析手法(ICA)および/または自己回帰運動平均(外因性)モデル(ARMAX)が組み込まれた他の適切なフィルタを使用することができる。場合によっては、任意選択で、ウィンドウの一部を却下(拒否)し(例えば、高電圧などのアーチファクトが存在する場合)、同じウィンドウの別の部分を保持することが適切な場合もある。したがって、高電圧(または他のタイプのアーティファクト)を伴うデータセグメントの却下は、ウィンドウ処理の前(ステップ410)、ウィンドウ処理後、またはその両方で実行することができる。
【0060】
任意選択で、ステップ420で、EOG補正されたEEGデータをさらにフィルタリングして、所与の閾値を超える電圧を有するサンプルを除去することができる。拒否されたウィンドウは、以降の処理から除外される。高電圧は、使用されているEEGハードウェアを含むさまざまな要因、または電極の対象者への接触や対象者の動きの程度などの環境要因に起因する可能性がある。当業者は、EEGハードウェアの構成およびスキャンされる対象者に応じて、閾値が異なる値をとることができることを理解するであろう。したがって、特定のシステムの閾値は、較正によって、または当業者に知られている他の適切な方法を使用して決定することができる。
【0061】
ステップ425で、ウィンドウは一緒に平均化される。複数のウィンドウを平均化すると、ノイズを 1 / √n の係数で削減できる。ここで、n は反復回数である。このような平均化により、ノイズで汚染された個々のEEGと比較して統計的に意味のあるEEG波形が生成される。いくつかの実施形態では、この平均化は、チャネルごとに実施することができる。
【0062】
ステップ430で、平均化後、時間周波数分析が、平均化されたEEGデータに対して実行されて、
図5Bに示されるような時間周波数マップを生成する。平均化されたEEGデータは、当業者に知られている技術を使用して時間-周波数領域に変換することができる。例えば、変換は、連続または離散フーリエ変換またはウェーブレット変換、あるいは高速フーリエ変換を使用して実行できる。ウェーブレット変換の場合、適切なウェーブレットタイプを適用して変換を実行できる。 例えば、ハール(Haar)ウェーブレット、ドブシー(Daubechies)ウェーブレット、二重直交(Biothogonal)ウェーブレット、コイフレット(Coiflets)ウェーブレット、モルレー(Morlet)ウェーブレット、シムレット(Symlets)ウェーブレット、メキシカンハット(Mexican Hat)ウェーブレット、マイヤー(Meyer)ウェーブレット、複素ウェーブレット、その他の実際のウェーブレットを含むがこれらに限定されない、1つ以上の異なるファミリのウェーブレットを使用できる。
【0063】
時間-周波数領域内で、周波数帯域は、生成された時間周波数マップに基づいて上記の一般的な周波数範囲内で識別され、予想されるアルファ/ベータERD / ERS特性を特定する。上記のように、ERD/ERSは、一般的な周波数帯域内で、運動に関連する一般的な期間に発生することが知られている。ただし、特定の周波数帯域は通常、個人によって異なる。例えば、EEGアルファ帯域は、一般に8Hz~12Hzの範囲にあると見なされ、ベータ帯域は、一般に13Hz~30Hzzの範囲にあると見なされるが、さまざまな個人の特定の周波数帯域は、これらの範囲内で変化する。一般的な周波数帯域ウィンドウ内(つまり、アルファの場合は8~12Hz、ベータの場合は13~30Hz)、特定の時点(例えば、アルファERDの場合は-2秒から0秒、ベータERSの場合は0秒から+2秒)で、各個人のERD/ERS特性を最もよく表す周波数帯域は、アルファ/ベータERD/ERS特性が期待される時間-周波数マップ内の位置に基づいて自動的に識別できる。一実施形態では、アルファ帯域内の2Hz幅のサブバンドおよびベータ帯域内の4Hz幅のサブバンドは、周波数範囲内であると見なされる。サブバンドの他の適切な帯域幅も使用することができる。
【0064】
図5Bに示される1人の対象者のEEGの例示的な時間周波数マップにおいて、関心領域は、運動前(時間0)に発生するアルファERDに対応する低信号強度領域を表す楕円形のマーカー520によって表される。円マーカー530は、運動後のベータERSを表す高信号強度の領域を示す。この特定のケースでは、強調表示されたERD帯域は約9~13Hzであり、強調表示されたERSは約16~23Hzであることに注意されたい。幅がそれぞれ2Hzと4Hzのサブバンドをこれらの一般的なバンドから選択して、最も顕著なERD/ERSの周波数を分離できる。場合によっては、2つのERD帯域と2つのERS帯域、または複数のERD帯域とERS帯域の組み合わせが存在する可能性がある。したがって、ERDおよびERS周波数帯域は、時間-周波数マップ内の1つまたは複数の周波数範囲内に配置することができる。典型的なケースは、アルファERDとベータERSであるが、例えば、アルファERS、ベータERD、ガンマERS(それぞれ異なるバンドを持つ)もあり得る。他の実施形態では、1つの周波数帯域のみが使用され、ERSおよびERDの両方がその帯域から導出される。
【0065】
一実施形態では、ERDウィンドウ中の平均電力が最も低く、ERSウィンドウ中の平均電力が最も高い帯域が考慮される。一例によれば、アルファ帯域の場合、最適な個々の帯域が2Hz幅のサブバンドとして選択され、ベータ帯域の場合、最適な個々の帯域が4Hz幅のサブバンドとして選択される。周波数が増加するにつれてサブバンド帯域幅が増加することは、周波数分解能がより高い周波数で減少する時間周波数分析の不確定性原理と一致している。例えば、サブバンドの帯域幅は、対象者の周波数範囲の増加に比例して増加する可能性がある。30Hz~100Hzのガンマ帯域など、より高い周波数帯域を検討する場合は、個々の帯域(つまりサブ帯域)の帯域幅を比例して広くする必要がある。
【0066】
ステップ435で、ERD / ERSを含む識別された周波数帯域特性は、すべてのEEG電極からのEEGデータをフィルタリングするための適切なフィルタを構成するために使用される。次に、バンドパスフィルタがすべてのEEGチャネルとすべてのEEG時間サンプルに適用される。フィルタリング後、フィルタリングされたデータは、ステップ410で適用されたのと同じ時間ウィンドウを使用して、再び時間によって区切られる(例えば、ウィンドウ化される)。
【0067】
ステップ440で、バンドパスフィルタリング後、様々なEEGチャネルは、電極位置に従って1つまたは複数の空間グループに空間的に分割され、以下でより詳細に説明するように、各電極グループの全体的なEEG波形を取得するように最適化される。例えば、脳半球が異なる信号特性を持つと予想される場合、電極は、左半球または右半球上の位置に基づいて2つのグループに分けることができる。電極グループ内の各電極は、同じまたは類似のERD/ERS特性を検出することが予想される。この方法で電極をグループ化する理由は、2つの半球での脳活動の同期は複雑であるが、様々なタイプの運動活動が半球に異なる影響を与えることである。一般的に、アルファ運動活動は両方の半球でしばしば発生し、同時に、ベータ運動活動は運動の反対側の半球でのみ発生する。脳卒中やその他の脳損傷のある人の場合、このパターンが乱れる可能性がある。
【0068】
ステップ445で、各空間グループの最適化が実行される。前のステップで特定された各電極グループについて、与えられた個人に対して電極の最適な組み合わせ(例えば、電極のグループ全体またはグループのサブセット)があり、そのために行われる運動プロセスのEEG表現を最もよく提供できると想定される。具体的には、EEG体積伝導の原理に従って、運動活動は複数のEEG電極によって検出可能であり、したがって複数のEEGチャネルに存在すると一般に予想される。注意の変動を示す後頭脳領域からのアルファ活動など、運動活動と同時に発生する他の脳信号も、複数の電極によって検出可能になる。したがって、これらのチャネルを組み合わせると、出力情報の品質を最大化してERD/ERS検出を改善し、運動皮質からの意味のある信号を最適に検出し、他の信号(ノイズ、無関係なアルファ活動など)を最適に拒否することができる。脳は複雑な器官であり、さまざまな領域でさまざまな振動周波数で同時に進行する複数の種類の脳活動がある。そのような活動には、中央領域からの運動活動、後頭領域からの視覚活動、前頭領域からの認知活動、およびノイズが含まれる。電気的活動の体積伝導は、すべての電極がすべての活動タイプを記録することを意味する。したがって、EEG電極のグループが複数のタイプの脳活動を同時に記録する場合、最適化手法を適用して、目的のタイプの活動(運動など)のみを保持し、他のすべてを削除することが望ましい場合がある。この最適化は、独立成分分析(ICA)と同じように機能する。この場合、独立したソース(例えば、脳の個別のタイプの活動)を複数の記録(例えば、電極)から再構築できる。脳構造と運動皮質構造は個人間である程度の変動を示すため、1つのタイプの脳活動(運動活動など)のキャプチャを最適化するEEGチャネルの組み合わせは、個々の対象者に依存する場合がある。さらに、脳卒中などの脳損傷は、影響を受けた各脳に独自の変化を生じさせることが知られている。
【0069】
EEGチャネルの最適な組み合わせの決定は、コンピュータで実装されたさまざまな最適化手法を使用して自動化できる。例えば、一実施形態では、勾配降下法は、最適な電極の組み合わせを識別するために選択される。最急降下法の1つのアプリケーションでは、相互に関連して最適化するために2つの時間ウィンドウが選択される。あるケースでは、ERDは対象者の動きの前と動きの間に発生すると予想される。 この予想に基づいて、ベースライン期間(例えば、運動タイムスタンプの-5秒から-4秒前の範囲)とERD期間(例えば、運動タイムスタンプの-1秒から0秒前の範囲)を確立できる。運動後に発生すると予想されるERSの場合、同じベースライン期間を運動後の期間(例えば、0秒から+1秒の範囲)と組み合わせて使用できる。あるいは、運動前と運動後の期間を相互に最適化することもできる。選択した期間の幅は、通常0.5秒から3秒の範囲内で変化する可能性があるが、時間分解能の向上と、幅が狭くなるにつれてノイズに対する脆弱性が高まることの間のトレードオフがある。
【0070】
次に、最急降下法を実行して、ベースライン期間中のEEG信号電力とERD期間中のEEG信号電力の比率に関して最適化を実行できる。この最適化の目的は、信号電力の相対的な差を最大化する各電極グループ内の電極の組み合わせを特定することである。この最適化により、運動中のERDが可能な限り低く、運動後のERSが可能な限り高い電極の組み合わせが特定されることが予想される。最適化は、期間全体の平均として計算されるため、出力波形を自動的に平滑化するという追加の利点がある。
【0071】
最適化手順の開始時に、可能な電極の組み合わせの最初の推測は、各EEGチャネルに対応する重み付け値を割り当てることによって提供される(例えば、ゼロの重み付けはチャネルが除外されることを意味する)。この推測は、上記の時間周波数分析ステップで使用される最良の推測の重み付けと同じまたは異なる場合がある。この最初の推測から、多次元勾配曲線は、当業者に知られている技術を使用して計算され、信号電力比を最適化する増分の重み付けの変化を特定することができる。
【0072】
最適な推測の重み付けは、重み付けを段階的に変更することで更新できる。重み付けの調整は、EEG信号の電力比(「信号」期間と「ノイズ」期間の相対的な電力差)が安定するまで繰り返し実行することができる。このプロセスは決定的である(つまり、最初のチャネルの重みの推測は常に同じ「最適化された」出力チャネルの重みを生成する)が、最初の推測に依存する。したがって、いくつかの実施形態では、最終的な最適化を見つけるために、複数の初期推測(小さな変動または大きな差異のいずれか)が試みられ得る。
【0073】
各周波数帯域および各電極グループについて、最適化手順からの最適化されたチャネルの重みを使用して、電極グループに関連付けられたその周波数帯域/領域のEEG信号を最もよく表す結果の「仮想チャネル」を計算する。
図5Bは、勾配降下最適化前のチャネル重みの例示的な仮想チャネル重みプロットを示している。プロット540に示されている最初の推測は、電極C3を中心とする単純な空間ラプラシアン(Laplacian)フィルタである。プロット550は、最適化後の重み付けを示している。重みの全体的な組み合わせは、最適化後も同じままであるが(この場合、C3の重みが最も大きくなる)、周囲の電極の寄与が適応していることに注意されたい。全体的な適応は、上記の段階的な変更の反復プロセスを通じて行われる。
【0074】
ステップ450で、各仮想チャネルは、仮想チャネルによって表されるEEG信号を二乗し、各運動試行の周りをウィンドウ処理し、すべての試行にわたって平均し、運動の前のベースライン期間での電力信号に対して平均を正規化することによって、ERD / ERS電力信号に変換される。導出されたERD/ERS電力信号は、ベースライン電力レベルに対する電力変化のパーセンテージとして表される。既存の方法は、一般に、勾配降下最適化を事前に適用することなく、仮想チャネルではなく、EEGチャネルのEEG信号の二乗を適用することに留意されたい。そうすることで、ERD/ERS機能を使用した自動運動制御スコア決定のために(さまざまなノイズ源のために)適切に「クリーン」になる可能性のある派生ERD/ERS電力信号が得られる可能性がある。
【0075】
運動制御スコアの計算
上述した手順により、運動前後のERD / ERS動作の連続時間曲線が作成される。アルファERDおよびベータERS信号の例示的なグラフが、健常者のサンプル(それぞれ、運動の対側および運動の同側のグラフ(a)および(c))および脳卒中患者のサンプル(運動の対側および運動の同側のグラフ(b)および(d))のそれぞれについて、
図6および
図7にそれぞれ示されている。各グラフで、細い線は個
々のERDまたはERS(場合によっては)信号に対応し、太線は対応する個々の信号の平均ERDまたはERS(場合によっては)を表する。
【0076】
次に、最大値と最小値、最大値と最小値の発生時間、曲線の下の面積など、1つ以上の特徴をERD/ERS曲線から抽出できる。
図6及び
図7は、両方の周波数帯域でのERD/ERS活動を示している。
図6および
図7に示されるERD/ERS曲線は、時間領域グラフであるものの、上記のバンドパスフィルタリングステップがEEG周波数成分を狭い帯域に制限しているため、それらは周波数帯域情報を含む。したがって、グラフは、1つの特定のEEG周波数帯域の時間の活動変動を表する。例えば、アルファERDグラフは、2Hz幅のアルファ帯域の活動が、指の動きのタイムスタンプと比較して時間的にどのように変化するかを表する。
図6および7では、健常者の参加者(グラフ(a)および(c))は両方のERD/ERSで高いピーク値を示し、慢性脳卒中の参加者(グラフ(b)および(d))では、対応するERD/ERS信号は比較的「フラット」であることが一般的に観察される。
【0077】
運動制御スコアは、抽出されたERD/ERS波形から取得可能な二次特徴値の組み合わせとして計算できる。運動制御スコアは、ボックスアンドブロックテスト、FMA、WMFTなどの臨床的運動機能評価との相関関係によって検証できる。これらの臨床評価は、スキャンと同じ日に対象者から取得することができる。
【0078】
一般的に、運動制御スコアは、任意の形式の二次特徴のセットから導出することができ、これらの特徴の線形または非線形の組み合わせを含むことができる。例えば、抽出されたERD/ERSの二次特徴の和(合計)または積(乗算)は、運動制御スコアとして使用できる。考えられる二次的特徴には、例えば、ピーク値および曲線下面積(AUC)が含まれ得る。これらの二次
的特徴は、可動性の指標として使用できるため、運動制御スコアを生成するための適切な候補となる可能性がある。例えば、これらの二次的特徴の適合性は、
図8に示されるように、脳卒中患者のERD/ERSのAUCとボックスアンドブロックテストのスコア(すなわち、臨床的に評価されたスコア)との間の相関を調べることによって示すことができる。アルファERDの最大値および最小値とボックスアンドブロックテストの間で特定された最高のピアソンの相関係数(r=-0.63)、およびベータERSのAUCとボックスアンドブロックテストの間で特定された最高のピアソンの相関係数(r=0.78))は、
図8に示されている。
【0079】
EEG波形から抽出できる追加の二次特徴(ERD/ERS波形を含むが、これに限定されない)には、例えば、次のものが含まれる。それは、正のピークの最大値、負または正のピークの曲線下面積(AUC)、全体的なAUC(負と正のAUCの合計)、特定の時間間隔での平均値、線の全長、負のピークの待ち時間、正のピークの待ち時間、ゼロクロッシングの待ち時間、特定の時点での勾配、最大の正の勾配、最大の負の勾配、特定の時点での二次導関数、n次多項式としての最適モデリングの係数、代表的な波形(グループ平均波形など)との畳み込みまたは相互相関から導出された特徴、波形間の畳み込みまたは相互相関(脳半球間など)から派生した特徴、代表的な波形のサブセクションとの畳み込みまたは相互相関から派生した特徴、信号の自己相関から派生した特徴、代表的な波形(グループ平均波形など)からの距離の測定値(ユークリッド距離、絶対的なポイント間差の合計など)、波形間の距離(ユークリッド距離、絶対的な点間差の合計など)の測定値(脳半球間など)、代表的な波形(グループ平均波形など)に関するR二乗係数、波形間のR二乗係数(脳半球間など)、波形のサブセクションのR二乗係数、周波数領域から派生した特徴、時間-周波数領域から派生した特徴、推定された分散または信号ノイズ(平均または特定の時点で)、曲線モーメントの測定値(歪度や尖度など)、およびその他の関連または適切な特徴である。
【0080】
運動制御スコアの計算には、次の操作の1つまたは任意の組み合わせを含めることができる。それらは、特徴値の和(合計)、特徴値の差(減算)、特徴値の積(乗算)、特徴値の商(除算)、定数による特徴値のスケーリング(目的の運動制御スコア出力を使用した、その特徴タイプの既知または推定の相関係数など)、既知の人口分布に対する特徴値の正規化、特徴値のべき乗(正または負の値の指数)、関数(正弦波など)を使用した特徴値のスケーリングまたは乗算、関数(正弦関数や余弦関数など)による特徴値の変換、またはその他の適切な特徴である。
【0081】
一例の実装では、運動制御スコアは、以下の一般式を使用して導出することができる。
【数1】
ここで、特徴1からn(feature
1 から feature
n)は、特定のERD/ERS特徴の二次特徴値である(例えば、アルファERDピークの最小値、ベータERSピークの曲線下面積、など)。また、係数aとbは、すべての特徴を0から100までの平均値50の近似範囲に等しくする正規化係数であり、係数cは、特徴の相対的な重要性、または特徴への信頼、または運動活動との特徴相関の予想される強さを表すスケーリング係数である。この場合、運動制御スコア値のスケールと範囲は一般的な運動機能を表し、0から100まで任意に正規化できる。他のケースでは、既存の臨床評価(脳卒中患者のヒューゲルマイヤー評価など)の結果を具体的に予測するために運動制御スコアが導出される場合、値の範囲を調整して、目的の出力予測の範囲に一致させることができる(例:上肢ヒューゲルマイヤー評価の場合は0~66)。
【0082】
別の実施形態では、運動機能を定量化するためのEEGデータに見られるERD/ERS特徴の適用は、1つまたは複数の人工ニューラルネットワークモデルのコンテキストで実装することができる。このようなモデルは、モデルへの入力としてEEGデータを使用して、臨床的に使用される運動機能スコアを生成するように訓練(トレーニング)できる。適切なニューラルネットワークモデルの開発と、ニューラルネットワークモデルの運動機能スコアへの適用について以下に説明する。
【0083】
他の実施形態では、運動制御スコアの決定は、ERD/ERS特徴または他の処理されたEEG特徴を、排他的に、または生/未処理のEEGデータと組み合わせて、ディープニューラルネットワーク(DNN)に入力することによって行うことができる。DNN実装の特定のケースは、Xia 等著、“Electrooculogram based sleep stage classification using deep belief network”、2015 International Joint Conference on Neural Networks (IJCNN)、2015年7月12日(pp.1-5)(IEEE)、および、Mikolov等著、“Recurrent neural network based language model”、INTERSPEECH-2010、pp.1045-1048、で議論されている。
【0084】
特定の実施形態では、運動制御スコア決定の基礎としての複数の出力測定値(例えば、DNNが複数の運動機能測定値と一致するように訓練されている場合)が考慮される。出力測定値は、運動制御スコアが形状として表されるように幾何学的に配置され得る(例えば、
図10に見られるように、正常な運動機能の場合は六角形、および障害がある場合、三角形)。
図10は、仮定のシナリオによる、標準的な場合の運動スコア1010と障害がある場合の運動スコア1020との間の偏差を示している。予測される機能測定値の組み合わせには、応答時間、器用さ、位置精度、ヒューゲルマイヤースコア、右腕、左腕、右脚、左脚、頭、胴体。グロスムーブメント、微細な動き、およびサブグループまたは上記の組み合わせが含まれる。
【0085】
別の実施形態では、運動制御スコアは、脳活動信号と筋電図(EMG)などの他の生体信号とのデータ融合を使用して決定することができる。具体的には、対象者の体のさまざまな筋肉群から記録されたEMG信号を、生の信号として、またはフィルタリング後に、運動制御スコアを計算するためのDNNの特徴として使用できる。
【0086】
人工ニューラルネットワークの実装
場合によっては、運動制御スコアを使用して、既存の臨床評価(脳卒中患者のヒューゲルマイヤー評価など)の結果を予測することが望ましい場合がある。1つの例示的な実装形態では、人工ニューラルネットワークが、運動制御スコアを使用して既存の臨床評価の結果を予測するために実装されている。この実装形態では、発明者らは、12人の健常者である参加者と14人の慢性脳卒中の参加者から取得したEEGデータを使用して必要な一次ニューラルネットワークモデルを生成した。参加者から得られたEEGデータは、人工ニューラルネットワークに適切な入力データを提供するために、上記の方法400または別の適切な処理方法の1つまたは複数のステップを使用して処理され得る。一実施形態では、参加者のクリックイベント(すなわち、ベンチマークの運動)は、データ収集中にタイムスタンプが付けられた。別の実施形態では、追加の休止期間は、データ収集中にタイムスタンプが付けられた。収集されたEEGデータは、1-45バンドパス有限インパルス応答(「FIR」)フィルタを使用してフィルタ処理される。フィルタリング後、EEGデータは、クリックの6秒前からクリックの4秒後まで(タイムスタンプに基づいて)ウィンドウに分割される。EEGデータに高速フーリエ変換が適用され、データの対応する大きさ応答とそれに応じた位相応答が抽出される。
【0087】
人工ニューラルネットワークモデルは、EEGスキャンの日の従来の評価によって各参加者に対して決定された対応するヒューゲルマイヤー評価(FMA)スコアで計算された運動制御スコアの回帰を使用して生成された。例示的なニューラルネットワークモデルの構成が
図11示されている。EEG信号の電力スペクトル密度および位相情報の形式の参加者データ(すなわち、少なくともアルファおよびベータ帯域の周波数要素を含む、各EEG波形ウィンドウ内のEEGデータの信号および周波数成分)は、モデル構成のフローへの入力として使用される。
図11の例示的なニューラルネットワークモデルでは、二次元畳み込みニューラルネットワーク層(「二次元畳み込み層」1110)は、指定されたカーネルサイズで入力行列内の隣接する要素の畳み込みを計算し、ニューロン数で事前定義された次元で出力を生成する。「最大プーリング」層1120は、前の層の出力から指定された部分行列から最大値をとるように設計されている。この例では、部分行列は2×2行列の形式である。この例の「平坦化層」1130は、前の層の出力を1次元ベクトルに再形成することを指す。「全結合層」1140は、すべてのニューラルノードが非畳み込みで全て結合されているネットワークを指す。このような層は、ニューロン数で事前定義された次元の出力を生成する。この例の「ドロップアウト層」1150は、前の層の出力の一部をランダムにゼロに設定する特別な層を含む。構成例では、この部分は0.005のステップサイズで0から1まで検索される。現在のモデル構成では、各参加者のデータの30回の試行がモデル生成に使用された。すべてのデータはランダム化され、16回の試行のバッチに分割されて、モデルトレーニングプロセスに送られた。現在の実装では、全体として、取得したデータは200回の繰り返しでモデル生成フレームワークに提供された。
【0088】
別の例示的な実施形態では、
図12に示すように、浅いニューラルネットワーク構成を使用することができる。浅いネットワークは、
図11のネットワークモデルと比較して、その構成においてより少ない層を含む。したがって、浅いネットワークはトレーニングに必要なデータが少なく、一般的に計算効率が高くなる。このようなニューラルネットワークは、モバイルまたはポータブルコンピューティングデバイスに展開されるシステムのアプリケーションをより容易にする可能性がある。
【0089】
生成されたモデルは、モデルのトレーニング/生成プロセスで使用されていない参加者からのデータを使用してテスト(検証)される。このデータは、少なくともアルファ帯域とベータ帯域内の周波数要素などの信号と周波数成分を含み、運動機能スコアを予測する能力をテストするためにモデルに提供される。結果は、以下でより詳細に説明するように、参加者内テストの結果と参加者間テストの結果を使用して要約される。
【0090】
参加者内テストの結果については、クリック動作中のすべての参加者からの30試行分のEEGデータがモデルのトレーニングで使用された。モデルのトレーニング/生成に関与しなかった残りのデータは、モデルの検証に使用される。この場合、モデル生成プロセスでは、テスト参加者のデータの一部のみがモデルに公開されている。このシナリオは、モデルのパフォーマンスの安定性を示すために、同じ参加者から新しいEEGスキャンを取得することに似ている。
【0091】
参加者間テストの場合、1人の参加者のEEGデータはトレーニングデータセットから除外される。モデルは、残りの参加者の30回の試行に相当するEEGデータを使用して生成される。モデルは、そのモデルがトレーニングで遭遇したことのない「真新しい」参加者(つまり、除外された参加者)のEEGデータで検証される。このテストシナリオは、既存のデータセットに基づいて新しい参加者の運動機能のパフォーマンスを予測することに類似しており、データセットには新しい参加者のデータは含まれていない。
【0092】
上記のテストシナリオでは、ニューラルネットワークモデルはFMAスコアを予測するようにトレーニングされている。参加者の予測されたおよび対応するFMAスコアは、R
2相関係数値が0.975の参加者内テストの場合、
図13に示されるように補間される。相関結果に基づいて、ニューラルネットワークモデルはトレーニング中にうまく収束したと結論付けることができる。このモデルテストプロセスでは、クリック動作中の各参加者の30試行分のEEGデータがモデルのトレーニングで使用された。残りのデータは、モデルの検証で使用された。相関係数の値が1に近い場合、参加者内テストを使用したこの人工ニューラルネットワークアプローチでは、高い予測精度を実現できる。
【0093】
本発明者らはまた、トレーニングプロセスから1人の参加者を取り出し、残りの参加者のEEGデータを使用してニューラルネットワークモデルをトレーニングすることにより、人工ニューラルネットワークの参加者間テストを実施した。除外された参加者のEEGデータは、モデルの検証プロセスで使用される。テスト結果は、
図14に要約されている。
図14は、実際のFMAスコアに対する平均予測FMAスコアのプロットを示している。この特定の研究では、相関係数 r= 0.9583および0.9184のR
2値が得られ、予測スコアと実際のスコアの間に高レベルの相関があることを示している。このモデルのパフォーマンスは、より多くの参加者からEEGデータをトレーニングし、トレーニング中にハイパーパラメータ最適化を適用することでさらに改善できる。
【0094】
前述の回帰研究はFMAスコアを利用するが、例えばウルフ運動機能テスト(WFMT)などの運動機能の変化に対してより敏感な回帰評価も使用できるものである。
【0095】
別の実施形態では、得られた人工ニューラルネットワークモデルのさらなる分析を使用して、脳の活性化に対するリハビリテーショントレーニングまたは治療の効果の解釈を支援する。分析には、活性化最大化または別の適切な方法を使用して人工ニューラルネットワークの特徴を視覚化または分析することが含まれるが、これらに限定されるものではない。人工ニューラルネットワークの出力は、個人の運動能力が治療によって変化していないことを示している可能性があるが、モデルの分析を使用して、脳の再編成が発生しているかどうかを理解できる。これは、例えば、時間の経過とともに、人工ニューラルネットワークがさまざまなEEG特徴(ERD/ERS、またはEEG信号内の他の活動)を選択してモデルを作成する場合に当てはまる。
【0096】
図15は、脳の活性化に対するリハビリテーショントレーニングまたは治療の効果を解釈するための人工ニューラルネットワークモデル分析の1つの可能な適用を示す方法1500のフローチャートである。この方法は、ステップ1505(または「ステップ1」)から開始する。このステップは、脳活動の記録(例えば、EEGを使用する)を含むいくつかのサブステップを含み、対象者の運動機能を評価し(例えば、手動で、または本明細書に開示される可動性評価システム100を使用して評価する)、記録された脳活動および対応する運動機能を使用して人工ニューラルネットワークなどの数学的モデルをトレーニングする。ステップ1の方法は、時間参照名「時刻0」(ゼロ)で一度に行われると言うことができる。
【0097】
次に、ステップ1510(または「ステップ2」)で、ステップ1のサブステップが繰り返されるが、このステップは、異なる時刻である。評価の頻度は、用途と目的に応じて変わる。例えば、頻度は、毎日、毎週、または毎月の場合がある。より具体的には、ステップ1が繰り返される時刻は、時間参照名「時刻1」で一度に発生すると言うことができる。
【0098】
ステップ1515(または「ステップi」)は、ステップ1を複数回繰り返すことができる(各繰り返しは、ステップiのインスタンスである)ため、複数の数学的モデルが生成される任意選択のステップである。
【0099】
ステップ1520(または「ステップn」)において、この方法は、脳活動データおよび運動機能スコアを使用して生成された数学的モデルのパラメータを比較することを必要とする。 比較は、脳のモンタージュが変化したかどうかを理解するために、要素ごとの方法、または活性化最大化などの視覚化方法を使用した他の分析で行うことができる。
【0100】
本明細書で使用される例および対応する図は、例示のみを目的としている。本明細書に記載されている原理から逸脱することなく、異なる構成および用語を使用することができる。
【0101】
本発明は、特定の特定の実施形態を参照して説明されてきたが、その様々な修正は、本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。特許請求の範囲は、例として記載された例示的な実施形態によって限定されるべきではなく、全体としての説明と一致する最も広い解釈を与えられるべきである。