(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】打抜性と材質均一性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231026BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20231026BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 T
(21)【出願番号】P 2021547716
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 KR2019018007
(87)【国際公開番号】W WO2021125386
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-08-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン-ワン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-イル
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-332438(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017933(WO,A1)
【文献】特開2000-109951(JP,A)
【文献】特開2013-108154(JP,A)
【文献】特表2004-536965(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0037485(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物からなり、下記関係式(1)を満たし、
微細組織が、主相はマルテンサイト相及びベイナイト相からなり、前記マルテンサイト相の分率は、50%以上90%未満であり、前記ベイナイト相の分率は5%以上50%以下であり、前記マルテンサイト相及び前記ベイナイト相の分率の合計が90%以上であり、残部はフェライト相からなり、
前記マルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmであり、前記マルテンサイト相のパケット構造(packet structure)のアスペクト比(aspect ratio)が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であり、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であり、前記厚さ方向の表層部(表層~t/8)のアスペクト比を
前記厚さ方向の中心部(t/4~t/2)のアスペクト比で割った値が0.9~2である熱延鋼板。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]
2+0.061×[Cr]
2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
【請求項2】
前記熱延鋼板は、引張強度が1100MPa以上であり、表面硬度が35HRC以上である、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
巻取られたコイル状の熱延鋼板の幅方向を基準に9部位を選択し、長さ方向を基準に3部位を選択して引張強度及び表面硬度を測定したとき、各測定結果の最大値と最小値の差が引張強度基準140MPa、表面硬度基準4HRC以内である、請求項
1または2に記載の熱延鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物からなり、下記関係式(1)を満たす鋼スラブを1180~1350℃で再加熱する段階;
再加熱された前記鋼スラブを下記関係式(2)を満たすように熱間圧延する段階;
熱間圧延された鋼板を0~400℃の範囲の温度まで下記関係式(3)を満たすように冷却する段階;及び
冷却された鋼板を0~400℃の範囲の温度で巻取る段階;
を含む、
請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]
2+0.061×[Cr]
2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
[関係式(2)] Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=967-280×[C]+35.7×[Si]-28.1×[Mn]-11.4×[Cr]+11.4×[Mo]-62×[Ti]+46.2×[Nb]
(ここで、Tnは臨界圧延温度(℃)、FDTは圧延仕上げ温度(℃)であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]、[Nb]、[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
[関係式(3)] LCR≦CR≦HCR
LCR=2000/(-1076+2751×[C]+17×[Si]+301×[Mn]+330×[Cr]+355×[Mo]+42939×[B])
HCR=2500/(-70.3+198×[C]+32.0×[Si]+16.7×[Mn]+18.4×[Cr]+42.1×[Mo]+5918×[B])
(ここで、CRは冷却帯での冷却速度(℃/s)であり、LCRは最小臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は5であり、その最大値は45であり、HCRは最大臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は50であり、その最大値は200であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]は、該当合金元素の重量%である。)
【請求項5】
前記巻取る段階後の前記熱延鋼板は、酸洗処理後に塗油される、請求項
4に記載の熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度1100MPa以上、表面硬度35HRC以上の打抜性と材質均一性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のチェーン及び機械部品は、高炭素鋼及び高炭素合金鋼を利用して、球状化熱処理及びQT(Quenching and Tempering)熱処理して製造する。しかし、このような反復的な熱処理工程は、二酸化炭素の排出及び公害を誘発する原因となり、チェーン及び機械部品の製造原価も増加するようになる。したがって、これを改善するために、低炭素鋼を用いてベイナイト及びマルテンサイトなどを基地組織とする低温変態組織鋼に製造することで、追加的な熱処理なしに目標とする強度及び硬度を確保することができる技術が提案された。
【0003】
特許文献1では、鋼を熱間圧延した直後に、特定の冷却条件に応じてベイナイト及びマルテンサイトが形成されるように製造して目標とする強度と硬度を確保する技術を提案している。また、特許文献2では、C-Si-Mn-Ni-B成分系を基に、表面硬度を確保する方案を提案している。
【0004】
しかし、上記のような高強度鋼は、チェーン及び機械部品を製造する過程で打ち抜き成形をするとき、打ち抜き後の圧延板材に亀裂が発生するという問題が生じる。特に高い強度及び硬度を確保するために、主に活用するSi、Mn、Mo、Cr、V、Cu、Niなどの合金成分が局部的に偏析したり、微細組織の不均一をもたらして打ち抜き特性が低下するようになるだけでなく、使用時の成分の偏析及び微細組織が不均一な部分で疲労破壊が容易に発生するようになる。また、硬化能が高い鋼は、冷却時に微細組織が敏感に変化するため、低温変態組織相が不均一に形成されて打ち抜き特性をさらに低下させる。これを改善するために、追加的な熱処理工程の導入を考慮することができるが、このような追加的な熱処理工程の導入は、経済的に不利な問題があり、従来の高炭素鋼及び高炭素合金鋼を利用する工程との差別性もないため、実際の適用が難しい実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許出願公開第1375694号明細書
【文献】特開1999-302781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、高強度熱延鋼板でありながらも、合金組成、圧延温度及び冷却速度を最適化し、高い強度を有しながらも、優れた打抜性を有する微細組織を全長、全幅にわたって均一に獲得して打抜性と材質均一性に優れることを特徴とする高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供する。
【0007】
一方、本発明の課題は、上述した内容に限定しない。本発明の課題は、本明細書の全体内容から理解することができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物を含み、下記関係式(1)を満たし、
微細組織が、主相はマルテンサイト相及びベイナイト相からなり、上記マルテンサイト相の分率は50%以上90%未満であり、上記ベイナイト相の分率は、5%以上50%以下であり、上記マルテンサイト相及び上記ベイナイト相の分率の合計が90%以上であり、残部はフェライト相からなる高強度熱延鋼板を提供する。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]2+0.061×[Cr]2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
【0009】
上記高強度熱延鋼板は、上記マルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmであり、上記マルテンサイト相のパケット構造(packet structure)のアスペクト比(aspect ratio)が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であってもよく、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であってもよく、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2であってもよい。
【0010】
上記高強度熱延鋼板の引張強度は1100MPa以上であり、表面硬度が35HRC以上であってもよい。
【0011】
巻取られたコイル状の熱延鋼板の全幅9部位、全長3部位で引張強度及び表面硬度を測定したとき、各測定結果の最大値と最小値の差が引張強度基準140MPa、表面硬度基準4HRC以内であってもよい。
【0012】
本発明の他の一側面は、重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物を含み、上記関係式(1)を満たす鋼スラブを1180~1350℃で再加熱する段階;再加熱された上記鋼スラブを下記関係式(2)を満たすように熱間圧延する段階;熱間圧延された鋼板を0~400℃の範囲の温度まで下記関係式(3)を満たすように冷却する段階;及び冷却された鋼板を0~400℃の範囲の温度で巻取る段階;を含む高強度熱延鋼板の製造方法を提供する。
[関係式(2)] Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=967-280×[C]+35.7×[Si]-28.1×[Mn]-11.4×[Cr]+11.4×[Mo]-62×[Ti]+46.2×[Nb]
(ここで、Tnは臨界圧延温度(℃)、FDTは圧延仕上げ温度(℃)であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]、[Nb]、[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
[関係式(3)] LCR≦CR≦HCR
LCR=2000/(-1076+2751×[C]+17×[Si]+301×[Mn]+330×[Cr]+355×[Mo]+42939×[B])
HCR=2500/(-70.3+198×[C]+32.0×[Si]+16.7×[Mn]+18.4×[Cr]+42.1×[Mo]+5918×[B])
(ここで、CRは冷却帯での冷却速度(℃/s)であり、LCRは最小臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は5であり、その最大値は45であり、HCRは最大臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は50であり、その最大値は200である。また、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]は、該当合金元素の重量%である。)
【0013】
上記巻取る段階後の上記高強度熱延鋼板は、酸洗処理後に塗油されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、合金組成、圧延温度及び冷却速度を最適化することにより、高い強度に比べて優れた打抜性を有する微細組織が全長、全幅にわたって均一に獲得されて打抜性と材質均一性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】発明鋼3の表層部及び中心部の微細組織を示したEBSD写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
高強度熱延鋼板
以下、本発明の一側面による高強度熱延鋼板について詳細に説明する。
【0017】
本発明の一側面による高強度熱延鋼板は、重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物を含み、下記関係式(1)を満たし、微細組織が、主相はマルテンサイト相及びベイナイト相からなり、上記マルテンサイト相の分率は、50%以上90%未満であり、上記ベイナイト相の分率は、5%以上50%以下であり、上記マルテンサイト相及び上記ベイナイト相の分率の合計が90%以上であり、残部はフェライト相からなることができる。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]2+0.061×[Cr]2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
【0018】
まず、本発明の一側面による高強度熱延鋼板の合金組成について詳細に説明する。以下、各合金元素の単位は重量%である。
【0019】
C:0.10~0.30%
Cは、鋼を強化させるために最も経済的であり、効果的な元素であり、添加量が増加するほど、フェライト相の分率が減少し、固溶強化効果により硬度が高いベイナイト相及びマルテンサイト相を得ることができる。しかし、その含有量が0.10%未満であると、十分な強化効果を得ることが難しく、0.30%を超えると、過度に硬く、脆性が低いマルテンサイト相が形成されて打抜性が低下するという問題点がある。したがって、上記C含有量は、0.10~0.30%であるとよい。Cの上限は、0.25%であることがさらに好ましく、0.23%であることがより好ましい。Cの下限は、0.15%であることがさらに好ましく、0.17%であることがより好ましい。
【0020】
Si:0.001~1.0%
Siは、溶鋼を脱酸させ、固溶強化効果があり、粗大な炭化物形成を遅延させて打抜性を向上させるために有利である。しかし、その含有量が0.001%未満であると、上記効果を得ることが難しく、1.0%を超えると、熱間圧延時の鋼板表面にSiによる赤スケールが形成されて鋼板の表面品質が非常に悪くなり、表面硬度を低下させるという問題点があるため、その含有量を1.0%以下に制限することが好ましい。したがって、上記Si含有量は、0.001~1.0%であるとよい。Siの上限は、0.7%であることがさらに好ましく、0.5%であることがより好ましい。Siの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0021】
Mn:0.5~2.5%
Mnは、鋼を固溶強化させるために効果的な元素であり、鋼の硬化能を増加させて冷却時のフェライトの形成を抑制し、鋼の強度及び硬度を増加させる。しかし、その含有量が0.5%未満であると、添加による上記効果を得ることができず、2.5%を超えると、連鋳工程でスラブ鋳造時の厚さ中心部で偏析部が大きく発達し、熱延後の冷却時には厚さ方向の微細組織を不均一に形成して打ち抜き特性が低下する。したがって、上記Mn含有量は、0.5~2.5%であるとよい。Mnの上限は、2.2%であることがさらに好ましく、2.0%であることがより好ましい。Mnの下限は、0.8%であることがさらに好ましく、1.0%であることがより好ましい。
【0022】
Cr:0.001~1.5%
Crは、鋼を固溶強化させ、鋼の硬化能を増加させてフェライトの生成を抑制し、鋼の強度及び硬度を増加させる。しかし、Cr含有量が0.001%未満であると、添加による上記効果を得ることができず、1.5%を超えると、厚さ中心部での偏析部が大きく発達し、厚さ方向の微細組織を不均一にして打ち抜き特性が低下する。したがって、上記Cr含有量は、0.001~1.5%であるとよい。Crの上限は、1.2%であることがさらに好ましく、1.0%であることがより好ましい。Crの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0023】
Mo:0.001~0.5%
Moは、粒界を強化させて打抜性を向上させ、鋼の硬化能を向上させて強度を増加させる役割を果たす。しかし、その含有量が0.001%未満含まれる場合、その効果が僅かであり、0.5%を超えて含まれる場合、その効果が飽和し、鋼の製造原価を大きく上昇させるため、上記Mo含有量は、0.001~0.5%であるとよい。Moの上限は、0.45%であることがさらに好ましく、0.4%であることがより好ましい。Moの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0024】
Al:0.001~0.5%
Alは、脱酸のために添加する成分であり、溶解状態でその含有量が0.001%未満であると、脱酸効果が十分でなく、0.5%を超えると、介在物形成による欠陥が発生しやすく、連鋳時にノズルの目詰まりを誘発するという問題がある。したがって、上記Al含有量は0.001~0.5%であるとよい。Alの上限は、0.45%であることがさらに好ましく、0.4%であることがより好ましい。Alの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0025】
P:0.001~0.01%
Pは、鋼に不可避に含有される不純物として、その含有量をできるだけ低く制御することが有利である。但し、P含有量を0.001%未満にするためには、製造費用が多くかかるため、経済的に不利であり、その含有量が0.01%を超えると、粒界偏析による脆性が発生して鋼材の打抜性を低下させる。したがって、上記P含有量は、0.001~0.01%であるとよい。Pの上限は、0.008%であることがさらに好ましく、0.007%であることがより好ましい。Pの下限は、0.002%であることがさらに好ましく、0.003%であることがより好ましい。
【0026】
S:0.001~0.01%
Sは、鋼中に存在する不純物として、その含有量が0.01%を超えると、Mnなどと結合して非金属介在物を形成しやすく、これは鋼の打抜性を低下させる原因となる。また、0.001%未満に製造するためには製鋼操業時に時間と費用が過多にかかり、生産性が低下する。したがって、上記S含有量は0.001~0.01%であるとよい。Sの上限は、0.008%であることがさらに好ましく、0.007%であることがより好ましい。Sの下限は、0.002%であることがさらに好ましく、0.003%であることがより好ましい。
【0027】
N:0.001~0.01%
Nは、固溶強化元素である。これを0.001%未満に製造するためには製鋼操業時に時間と費用が多くかかり、生産性が低下し、0.01%を超えると、生産時に打抜性に悪影響を及ぼす介在物を多量に生成するようになる。したがって、本発明では、N含有量は、0.001~0.01%であるとよい。Nの上限は、0.008%であることがさらに好ましく、0.007%であることがより好ましい。Nの下限は、0.002%であることがさらに好ましく、0.003%であることがより好ましい。
【0028】
B:0.0001~0.004%
Bは、鋼の硬化能を増加させてマルテンサイト相及びベイナイト相の確保を容易にする元素であって、その効果が他の元素に比べて優れていることで知られている。しかし、その含有量が0.0001%未満であると、十分な硬化能の上昇効果を得ることが難しく、0.004%を超えると、硬化能の上昇効果が飽和して、追加的な添加による硬化能の上昇を期待し難い。したがって、上記B含有量は、0.0001~0.004%であるとよい。Bの上限は、0.0035%であることがさらに好ましく、0.003%であることがより好ましい。Bの下限は、0.0003%であることがさらに好ましく、0.0005%であることがより好ましい。
【0029】
Ti:0.001~0.1%
Tiは、TiCの生成による析出強化効果があり、Nとの親和性が強くて鋼中の粗大なTiNを形成し、BNの形成を抑制して鋼の硬化能を向上させる効果がある。但し、Ti含有量が0.001%未満であると、上記効果を十分に得ることができず、Ti含有量が0.1%を超えると、析出物の粗大化によって成形時に打ち抜き特性が低下するという問題点がある。したがって、本発明では、Ti含有量は、0.001~0.1%であるとよい。Tiの上限は、0.08%であることがさらに好ましく、0.07%であることがより好ましい。Tiの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0030】
Nb:0.001~0.1%
Nbは、代表的な析出強化元素であり、熱間圧延中に析出して再結晶遅延による結晶粒微細化効果によって鋼の強度、硬度、及び打抜性の向上に寄与する。このとき、Nb含有量が0.001%未満であると、上記効果を十分に得ることができず、Nb含有量が0.1%を超えると、粗大な複合析出物の形成によって打抜性が低下する。したがって、本発明では、Nb含有量は、0.001~0.1%であるとよい。Nbの上限は、0.08%であることがさらに好ましく、0.07%であることがより好ましい。Nbの下限は、0.003%であることがさらに好ましく、0.005%であることがより好ましい。
【0031】
本発明の高強度熱延鋼板は、上述した合金元素以外に、残りは鉄(Fe)成分である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境から意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これら不純物は、通常の技術者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を詳細に記載しない。
【0032】
また、本発明の一側面による高強度熱延鋼板は、上述した合金組成を満たすだけでなく、打抜性を確保するために、以下の関係式(1)を満たす。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]2+0.061×[Cr]2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
【0033】
上記関係式(1)において、有効クラック発生指数(CL)は、鋼材の打ち抜き特性を示す指数であり、この値が1以上であると、鋼材を打ち抜きしたとき、致命的な欠陥につながる有効な大きさのクラックが鋼材の打抜面に発生すると判断することができる。鋼材の打ち抜き特性は、合金元素の含有量による偏析に影響を受けるようになり、該当鋼材に主に多量に含まれ、連続鋳造工程で偏析現象が発生することで知られているMn及びCrの含有量がこれに関する主要な指標である。Mn、Crの含有量が多くなるほど、線形的な傾向を超えて偏析による打抜性の低下現象が発生するため、CLはMn及びCrの二乗値に比例して増加する。よって、二つの成分の含有量を調節して偏析現象が深化しないようにする必要がある。また、鋼材の硬度が増加するほど靭性は低下し、これにより、打ち抜き特性は悪くなる傾向にあるため、目標とする水準の高硬度熱延製品を作製しながらも鋼材の打ち抜き特性を低下させない最適の成分系導出が必要であり、これを関係式(1)に反映して示した。特に、Moを添加したとき、鋼材の硬化能が大きく増加して、鋼材内の組織均一性が増加するため、同一硬度においてもより高い打抜性の確保が可能であるという事実を確認し、これを関係式(1)に追加した。
【0034】
一方、本発明の一側面による高強度熱延鋼板の微細組織は、主相がマルテンサイト相及びベイナイト相からなり、上記マルテンサイト相の分率は、50%以上90%未満であり、上記ベイナイト相の分率は、5%以上50%以下であり、上記マルテンサイト相及び上記ベイナイト相の分率の合計が90%以上であり、残部はフェライト相からなることができる。また、上記マルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmであり、上記マルテンサイト相のパケット構造(packet structure)のアスペクト比(aspect ratio)が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であってもよく、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であってもよく、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2であってもよい。
【0035】
まず、本発明の高強度熱延鋼板の微細組織は、主相がマルテンサイト相及びベイナイト相からなり、このとき、マルテンサイト相の分率は、50%以上90%未満であるとよい。上記マルテンサイト相の分率が50%未満であると、相対的に硬度が低いフェライト/ベイナイト相の分率が高くなって目標とする硬度を確保することができない。一方、上記マルテンサイト相の分率が90%以上であると、鋼材の靭性が過度に不足し、目標とする打ち抜き特性を確保し難い。したがって、マルテンサイト相の分率は、50%以上90%未満に制限することが好ましい。
【0036】
一方、ベイナイト相の分率は5%以上50%以下であるとよい。上記ベイナイト相はマルテンサイト相よりも硬度が少し低いが、類似した水準であり、生成時の打抜性に寄与する程度がマルテンサイト相に比べて優れるため、少なくとも5%以上を含まなければ硬度及び打抜性のバランスを維持することはできない。しかし、その分率が50%を超えると、目標とする硬度を満たすことが難しいため、最大値を50%以下に制限する。したがって、ベイナイト相の分率は5%以上50%以下に制限することが好ましい。
【0037】
また、上記マルテンサイト相及び上記ベイナイト相の分率の合計が90%以上であり、残部はフェライト相からなるとよい。上記マルテンサイト相及び上記ベイナイト相を除いた残部であるフェライト相の分率が10%以上である場合、フェライト-マルテンサイトの境界面における相(phase)間の硬度差によって打抜性が低下するため、フェライト相の分率は10%未満に制限することが好ましい。
【0038】
一方、上記マルテンサイト相とベイナイト相のうちマルテンサイト相を主相にし、その分率が75%以上であることがより好ましい。また、本発明の熱延鋼板の微細組織は、フェライト相が存在せず、マルテンサイト相及びベイナイト相のみからなることができる。
【0039】
本発明の微細組織のうちマルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmであってもよい。ここで、上記マルテンサイト相のパケット(packet)とは、マルテンサイト内で同様の方位関係の集合組織を有する互いに隣接した組織を意味し、その平均サイズは、SEM測定を介して同一方向を示す組織の円相当直径を求めて平均値を求めるか、EBSD測定などを介して、同様の方位関係を有する組織の大きさを特定して定義することができる。上記平均パケットサイズは、鋼板中心部で測定することが好ましい。また、よく知られている従来公知の他の方法によっても測定することができる。製造された鋼の微細組織のうちマルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)を円相当直径で1~7μmになるように制御することで、結晶粒微細化を介して鋼材の打抜性を増加させることができる。上記平均パケットサイズが1μm未満であると、結晶粒微細化のために熱間圧延工程で過度の圧延負荷が発生するが、これに対し、7μmを超えると、結晶粒微細化を介した硬度上昇の効果を期待し難い。したがって、マルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)は、円相当直径で1~7μmであることが好ましい。
【0040】
また、本発明の微細組織のうちマルテンサイト相のパケット構造(packet structure)のアスペクト比(aspect ratio)が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であり、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であり、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2であってもよい。ここで、上記マルテンサイト相のパケット構造のアスペクト比は、マルテンサイト内で同様の方位関係の集合組織を有する互いに隣接した組織を楕円状に単純化して、そのうち長軸を短軸で割った値として定義することができる。
【0041】
厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において、上記アスペクト比が1未満であると、再結晶遅延による結晶粒微細化効果が不足して硬度を増加させることができないが、これに対し、5を超えると、鋼材の中心部まで部分的な再結晶が発生し、鋼材の厚さ方向の材質ばらつきによって打ち抜き特性が低下する。
【0042】
一方、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において上記アスペクト比が1.1未満であると、表層でも圧延による再結晶遅延現象が殆ど発生しないため、目標とする硬度を達成するための表面硬化効果が不足するが、これに対し、その値が6を超えると、表層で過度の部分的な再結晶が発生し、厚さ方向の材質ばらつきによって打ち抜き特性を低下させる原因となる。
【0043】
また、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9未満であると、再結晶の遅延による表層硬化効果が不足するが、その値が2を超えると、厚さ方向の材質ばらつきによって打ち抜き特性が低下する。
【0044】
したがって、マルテンサイト相のパケット構造のアスペクト比が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であり、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であり、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2であることが好ましい。
【0045】
一方、本発明の一側面による高強度熱延鋼板は、引張強度が1100MPa以上であり、表面硬度が35HRC以上である。特に巻取られたコイル状の熱延鋼板の全幅9部位、全長3部位で引張強度及び表面硬度を測定したとき、各測定結果の最大値と最小値の差が引張強度基準140MPa、表面硬度基準4HRC以内であることが好ましい。ここで、上記全幅9部位は、コイル状の熱延鋼板の幅方向に9部位を選択することを意味し、上記全長3部位は、コイル状の熱延鋼板の長さ方向に3部位を選択することを意味する。
【0046】
高強度熱延鋼板の製造方法
以下、本発明の他の一側面による高強度熱延鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0047】
本発明の他の一側面による高強度熱延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.001~1.0%、Mn:0.5~2.5%、Cr:0.001~1.5%、Mo:0.001~0.5%、Al:0.001~0.5%、P:0.001~0.01%、S:0.001~0.01%、N:0.001~0.01%、B:0.0001~0.004%、Ti:0.001~0.1%、Nb:0.001~0.1%、残部が鉄及び不可避不純物を含み、下記関係式(1)を満たす鋼スラブを1180~1350℃で再加熱する段階;再加熱された上記鋼スラブを下記関係式(2)を満たすように熱間圧延する段階;熱間圧延された鋼板を0~400℃の範囲の温度まで下記関係式(3)を満たすように冷却する段階;及び冷却された鋼板を0~400℃の範囲の温度で巻取る段階;を含む。
[関係式(1)] CL<1
CL=-0.692-0.158×[Mn]+0.121×[Mn]2+0.061×[Cr]2-0.319×[Mo]+0.035×[Hardness_HRC]
(ここで、CLは有効クラック発生指数であり、[Mn]、[Cr]、[Mo]は、該当合金元素の重量%、[Hardness_HRC]はロックウェル硬度(HRC)である。)
[関係式(2)] Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=967-280×[C]+35.7×[Si]-28.1×[Mn]-11.4×[Cr]+11.4×[Mo]-62×[Ti]+46.2×[Nb]
(ここで、Tnは臨界圧延温度(℃)、FDTは圧延仕上げ温度(℃)であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]、[Nb]、[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
[関係式(3)] LCR≦CR≦HCR
LCR=2000/(-1076+2751×[C]+17×[Si]+301×[Mn]+330×[Cr]+355×[Mo]+42939×[B])
HCR=2500/(-70.3+198×[C]+32.0×[Si]+16.7×[Mn]+18.4×[Cr]+42.1×[Mo]+5918×[B])
(ここで、CRは冷却帯での冷却速度(℃/s)であり、LCRは最小臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は5であり、その最大値は45であり、HCRは最大臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は50であり、その最大値は200である。また、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]は、該当合金元素の重量%である。)
【0048】
スラブを再加熱する段階
まず、上述した合金組成を有し、上記関係式(1)を満たす鋼スラブを1180~1350℃の温度で再加熱する。このとき、上記再加熱温度が1180℃未満であると、析出物が十分に再固溶されず、熱間圧延後の工程で析出物の形成が減少するようになり、粗大なTiNが残存するようになり、連鋳時に生成された偏析を拡散によって解消し難い。また、1350℃を超えると、オーステナイト結晶粒の異常粒成長によって強度低下及び組織不均一が発生する。したがって、上記再加熱温度は1180~1350℃に制限することが好ましい。
【0049】
熱間圧延する段階
上記再加熱されたスラブを750~1000℃の範囲の温度で熱間圧延する。1000℃を超える高い温度で熱間圧延を開始すると、熱延鋼板の温度が高くなり、結晶粒大きさが粗大になり、デスケーリングが十分に行われず、熱延鋼板の表面品質が劣化する。また、750℃未満の温度で圧延が終了すると、鋼の再結晶の挙動が位置別に相違し、材質が均一でなく、打ち抜き特性が悪くなる。
【0050】
また、上記熱間圧延する段階で圧延仕上げ温度(FDT)が下記関係式(2)を満たすように熱間圧延する。
[関係式(2)] Tn-70≦FDT≦Tn
Tn=967-280×[C]+35.7×[Si]-28.1×[Mn]-11.4×[Cr]+11.4×[Mo]-62×[Ti]+46.2×[Nb]
(ここで、Tnは臨界圧延温度(℃)、FDTは圧延仕上げ温度(℃)であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]、[Nb]、[Ti]は、該当合金元素の重量%である。)
【0051】
上記関係式(2)は、鋼材の圧延仕上げ温度と成分との関係を示した式である。一般的に、熱間圧延時の鋼材の温度を特定の臨界温度以下に下げた場合、鋼材の再結晶遅延現象が発生し、結晶粒の微細化効果などによって鋼材の打ち抜き特性が向上する。それ故に、鋼材の圧延仕上げ温度(FDT)を臨界圧延温度(Tn)以下に制御すると、製造された鋼の微細組織のうちマルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmになって結晶粒微細化を介して鋼材の打抜性を向上させることができる。
【0052】
しかし、圧延仕上げ温度(FDT)を過度に下げると、圧延工程での通板性に問題が生じ、表層部分のみに部分的な再結晶が過度に発生し、鋼材の厚さ方向の物性の違いによって打ち抜き特性が低下する原因となる。それ故に、鋼材の圧延仕上げ温度(FDT)をTn-70以上に調整することによって、マルテンサイト相のパケット構造(packet structure)のアスペクト比(aspect ratio)が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であり、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であり、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2となるように調節して鋼材の打抜性及び材質均一性を向上させることができる。
【0053】
冷却及び巻取る段階
上記圧延された鋼板を0~400℃の範囲の温度までの平均冷却速度5~200℃/secで冷却し、0~400℃の範囲の温度で巻取り、このときの鋼板の冷却速度は、鋼種の成分によって下記関係式(3)を満たすように設定する。
[関係式(3)] LCR≦CR≦HCR
LCR=2000/(-1076+2751×[C]+17×[Si]+301×[Mn]+330×[Cr]+355×[Mo]+42939×[B])
HCR=2500/(-70.3+198×[C]+32.0×[Si]+16.7×[Mn]+18.4×[Cr]+42.1×[Mo]+5918×[B])
(ここで、CRは冷却帯での冷却速度(℃/s)であり、LCRは最小臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は5であり、その最大値は45であり、HCRは最大臨界冷却速度(℃/s)であり、その最小値は50であり、その最大値は200であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[B]は、該当合金元素の重量%である。)
【0054】
上記関係式(3)は、鋼材の冷却条件に対する式である。冷却帯での冷却条件は、鋼材の微細組織を決定し、強度及び硬度に支配的な影響を与える。また、このとき、鋼材の冷却条件は、合金元素添加量による硬化能の変化を考慮する必要がある。それ故に、鋼材に含まれる合金元素による最適冷却速度を適用して冷却することは必須である。
【0055】
このために、本発明では、合金元素添加量による最大臨界冷却速度(HCR)及び最小臨界冷却速度(LCR)をそれぞれ求め、冷却帯での冷却速度(CR)が上記最大臨界冷却速度(HCR)及び最小臨界冷却速度(LCR)の間を満たすようにした。鋼材を最大臨界冷却速度(HCR)よりも速い速度で冷却するようになる場合、硬いが脆性の悪いマルテンサイト組織が生成されて打抜性が低下し、鋼材の形状が悪くなり、冷却帯で過度の急冷により注水量が全区間で同一にならず、材質均一性が低下する。逆に鋼材の冷却速度が最小臨界冷却速度(LCR)よりさらに遅い場合、相対的に硬度が低いフェライト相が10%以上生成され、鋼材の硬度を低下させ、フェライト生成量が冷却速度の変化に過度に敏感に反応して、材質均一性が悪くなる。したがって、上記冷却帯での冷却速度(CR)は、最大臨界冷却速度(HCR)及び最小臨界冷却速度(LCR)の間の値に設定することが好ましい。
【実施例】
【0056】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0057】
まず、下記表1に記載された成分系を満たす鋼スラブを1200℃に加熱し、表2に記載された熱間圧延条件で高強度熱延鋼板を製造した。このように製造された高強度熱延鋼板について試験を実施し、微細組織、強度、硬度、及び打抜性を測定して、これを下記表2及び4に整理して示した。
【0058】
下記表1の各成分元素の分率は重量%であり、下記表2のFDT、Tn、CR、LCR、HCRの意味は次のとおりである。また、微細組織の分率でFerはフェライト、Baiはベイナイト、Marはマルテンサイトを意味し、各微細組織の分率が目標水準を満たす場合を「〇」、そうでない場合を「×」と示した。
- FDT:圧延仕上げ温度(℃)
- Tn:臨界圧延温度(℃)
- CR:冷却帯での冷却速度(℃/s)
- LCR:最小臨界冷却速度(℃/s)
- HCR:最大臨界冷却速度(℃/s)
【0059】
また、発明鋼及び比較鋼に対して厚さ方向の中央部及び厚さ方向の表層部でのマルテンサイト相のパケット構造(packet structure)を観察して、各パケットを楕円状に単純化した後、そのうち長軸長さを短軸長さで割ったアスペクト比を測定して表3に示し、マルテンサイト相のパケットサイズ及びアスペクト比が目標水準を満たす場合を「〇」、そうでない場合を「×」と示した。このような組織的形状不良は、表2に示した製造条件が目標の関係式を満たさなかった場合、マルテンサイト組織が過度に細かくなるか、または粗大になって厚さ方向のばらつきがひどくなるなどの結果に表れる。
【0060】
下記表4の引張強度は、巻取り後のコイル状の熱延鋼板の全幅9部位、全長3部位で均一な間隔で引張強度、またはロックウェル硬度を測定した値の総平均であり、引張強度は各位置別に1回ずつ、硬度は各位置別に10回ずつ測定した。引張強度ばらつきは、その測定値のうち最大値と最小値の差を示す。
【0061】
CLは有効クラック発生指数を示し、鋼材を打ち抜きしたとき、有効なサイズのクラックが発生した場合を「〇」、そうでない場合を「×」と示した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
上記表1~4から分かるように、発明鋼1~8は、本発明で提示する合金組成を満たし、すべての引張強度が1100MPa以上であり、表面硬度が35HRC以上であることが確認できる。
【0067】
しかし、比較鋼1は、炭素濃度が0.08%と成分範囲に達しておらず、Cによる固溶強化効果が不足し、それによって目標に対する硬度及び強度が不足した。
【0068】
一方、関係式(2)を利用して比較鋼及び発明鋼を分析した結果、すべての発明鋼は、関係式(2)を満たし、これにより、マルテンサイト相の平均パケットサイズ(packet size)が円相当直径で1~7μmであり、マルテンサイト相のパケット構造のアスペクト比が厚さ方向の中心部(t/4~t/2)において1~5であり、厚さ方向の表層部(表層~t/8)において1.1~6であり、表層部のアスペクト比を中心部のアスペクト比で割った値が0.9~2を満たした。実際の微細組織観察を介してもこれを確認し、その代表として発明鋼3の表層部と中心部の微細組織に対してEBSD分析した結果を
図1に添付した。
【0069】
しかし、比較鋼2の各合金成分の成分範囲は、本発明の条件を満たすが、Tn値が通常に比べて低く、それによってFDTがTnよりも高くなって関係式(2)を満たしていなかった。このような高い圧延仕上げ温度により表層及び深層のマルテンサイト組織が粗大して打抜性を低下させる結果を招いた。また、比較鋼3の場合、過度に低い温度で圧延が仕上げされてFDT温度がTn-70よりも低いため、関係式(2)を満たしていなかった。それによって表層で過度の変形微細組織が形成されて表層部と中心部の微細組織のばらつきによって打抜性が低減し、材質均一性が低下した。
【0070】
関係式(3)を利用して比較鋼及び発明鋼を分析した結果、すべての発明鋼は関係式(3)を満たすことを確認し、これを整理して表2に示した。それ故に、すべての発明鋼は強度及び硬度を低下させるフェライト相が10%以上生成されないながらも、硬いが脆性の高いマルテンサイト相が生成されず、打抜性が低下する現象は発生しなかった。
【0071】
しかし、比較鋼4の場合、冷却速度がHCR値よりも速くてフェライト相やベイナイト相の生成量は不足し、脆性が低いマルテンサイト相のみが多量に生成された。これにより、打抜性が減少し、過度に速い冷却速度によって冷却帯で幅方向の冷却速度を均一に制御し難くなり、幅方向の材質均一性が減少した。また、比較鋼5の場合は、冷却速度がLCR値よりも遅いため、関係式(2)を満たしておらず、それによって硬化能に対する冷却速度が過度に遅く、多量のフェライト相が含有されて強度及び硬度が目標に対して未達になった。
【0072】
一方、関係式(1)を利用して比較鋼及び発明鋼を分析した結果、すべての発明鋼は、関係式(1)を満たすことを確認し、これを整理して表4に示した。それ故に、すべての発明鋼は、目標水準の打抜性を確保しており、実部品製作のための打ち抜き加工時、製品の品質に致命的な影響を及ぼすのに有効な水準のクラックが発生していないことを確認した。
【0073】
しかし、比較鋼6の場合、Mn含有量が過度に高くてMn偏析が深化し、それによって打ち抜き特性が低下した。その結果、関係式(1)を満たしておらず、打抜性が低下したことが確認できる。比較鋼7の場合も同様にCr含有量が過度に高くて関係式(1)を満たしておらず、その結果、Cr偏析が深化して打ち抜き特性が低下した。
【0074】
一方、比較鋼8の場合は、鋼材を硬化させるCなどの成分系が多量に含まれており、硬度値が非常に高い成分系である。その結果、過度の硬度上昇により関係式(1)を満たしておらず、打ち抜き加工時、製品の品質に致命的な影響を及ぼす有効なクラックが多数発生した。