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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】抗CTLA-4抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20231026BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231026BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231026BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20231026BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 N
A61P35/00
C12P21/08
C12N15/13
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021566725
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051447
(87)【国際公開番号】W WO2021131021
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】堅田 仁
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】松田 穣
(72)【発明者】
【氏名】清水 駿
(72)【発明者】
【氏名】上村 将樹
(72)【発明者】
【氏名】小森 靖則
(72)【発明者】
【氏名】堀 裕次
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】河内 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】進 寛明
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-505174(JP,A)
【文献】特表2014-528906(JP,A)
【文献】国際公開第2013/180200(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/104165(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032080(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/002362(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/083764(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0241662(US,A1)
【文献】国際公開第2018/223182(WO,A1)
【文献】特表2014-509857(JP,A)
【文献】NEZU, J. and IGAWA, T.,Chugai's Strategy for Drug Discovery Research, Chugai's Antibody Engineering Technologies for Innova,抗体技術説明会・配布資料(英語及び日本語版),中外製薬株式会社,2019年12月09日
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2019年01月08日,Vol.116, No.2,pp.609-618
【文献】mAbs,2013年,Vol.5, No.2,pp.229-236
【文献】J. Biol. Chem.,2014年,Vol.289, No.6,pp.3571-3590
【文献】Mol. Immunol.,2014年,Vol.58,pp.132-138
【文献】Mol. Cancer Ther.,2008年,Vol.7, No.8,pp.2517-2527
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2017年,Vol.114,pp.E4223-E4232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/28
A61K 39/395
A61P 35/00
C12P 21/08
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) アミノ酸配列SX1TMNを含み、X1はH、A、R、またはKであるHVR-H1(配列番号:223)、
(b) アミノ酸配列SISX1X2SX3YIYYAX4SVX5Gを含み、X1はSまたはT、X2はRまたはQ、X3はGまたはH、X4はD、E、またはR、X5はKまたはRであるHVR-H2(配列番号:224)、
(c) アミノ酸配列YGX1REDMLWVFDYを含み、X1はKまたはAであるHVR-H3(配列番号:225)、
(d) アミノ酸配列X1GX2STX3VGDYX4X5VX6を含み、X1はT、D、Q、またはE、X2はTまたはP、X3はDまたはG、X4はNまたはT、X5はYまたはW、X6はSまたはHであるHVR-L1(配列番号:226)、
(e) アミノ酸配列X1TX2X3KPX4を含み、X1はE、F、またはY、X2はSまたはI、X3はKまたはS、X4はS、E、またはKであるHVR-L2(配列番号:227)、および
(f) アミノ酸配列X1TYAAPLGPX2を含み、X1はSまたはQ、X2はMまたはTであるHVR-L3(配列番号:228)
を含む、抗CTLA-4抗体。
【請求項2】
(1) (a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(2) (a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(3) (a) 配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(4) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:153のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(5) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(6) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(7) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(8) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
(9) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、または
(10) (a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;
(b) 配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;
(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;
(d) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;
(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;
(f) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3、
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
(a) 配列番号:83~86、98、135~141のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列;
(b) 配列番号:88~95、97、99、134、144~149のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列;または
(c) 配列番号:83~86、98、135~141のいずれか1つのアミノ酸配列を有するVH配列、および配列番号:88~95、97、99、134、144~149のいずれか1つのアミノ酸配列を有するVL配列
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
(1) 配列番号:98のVH配列および配列番号:99のVL配列
(2) 配列番号:83のVH配列および配列番号:97のVL配列
(3) 配列番号:86のVH配列および配列番号:134のVL配列
(4) 配列番号:136のVH配列および配列番号:95のVL配列
(5) 配列番号:140のVH配列および配列番号:146のVL配列、
(6) 配列番号:141のVH配列および配列番号:146のVL配列、
(7) 配列番号:140のVH配列および配列番号:147のVL配列、
(8) 配列番号:141のVH配列および配列番号:147のVL配列
(9) 配列番号:136のVH配列および配列番号:149のVL配列、
(10) 配列番号:140のVH配列および配列番号:146のVL配列を含む第一の可変領域、ならびに配列番号:141のVH配列および配列番号:146のVL配列を含む第二の可変領域、または、
(11) 配列番号:140のVH配列および配列番号:147のVL配列を含む第一の可変領域、ならびに配列番号:141のVH配列および配列番号:147のVL配列を含む第二の可変領域,
を含む、抗CTLA-4抗体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
【請求項6】
腫瘍の治療における使用のための、請求項5に記載の薬学的製剤。
【請求項7】
非腫瘍組織に比べて、腫瘍組織において、より低い用量で免疫が活性化される、請求項6に記載の薬学的製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CTLA-4抗体およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で遺伝子変異などが原因となって変異した細胞は、免疫監視システムにより監視され排除されている。一方で、過剰な免疫応答が持続することは、自己免疫によって正常組織が傷害されるなど、自己に対しても有害となり得る。そこで、免疫システムには、いったん活性化された免疫反応を抑制するためのネガティブフィードバック機構(免疫チェックポイント)が備わっている(例えば非特許文献1を参照)。免疫チェックポイントは免疫系における恒常性の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。その一方で、一部の腫瘍では免疫チェックポイントを利用して免疫逃避を行っていることが明らかになってきた。現在では、主要な免疫チェックポイント分子であるcytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 (CTLA-4)やprogrammed cell death 1 (PD-1)、programmed cell death ligand 1 (PD-L1)などを介した免疫抑制機能の研究が広く進められている。
CTLA-4は1987年にマウスに由来するキラーT細胞クローンのcDNAライブラリから遺伝子がクローニングされた、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質である(例えば非特許文献2を参照)。CTLA-4を介してT細胞の免疫応答が抑制されることが知られている。CTLA-4の機能を抑制してT細胞の活性化を促進させることが癌の退縮につながるとの考えから、1996年には担癌マウスへの抗CTLA-4抗体の投与により腫瘍の退縮効果が観察されたことが報告されている(例えば非特許文献3を参照)。2000年から、ヒトにおける抗CTLA-4抗体の有効性の評価が進められ、2011年には抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体(イピリムマブ)が米国Food and Drug Administration(FDA,食品医薬品局)から世界初の免疫活性化抗体医薬として承認を受けた。イピリムマブ以外にも多数の抗CTLA-4モノクローナル抗体が作製され(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4を参照)、それらの医薬品としての開発が試みられている。免疫チェックポイントを阻害することでその免疫抑制機構を解除し、結果的に免疫活性を高めるこうした薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれている。
一方で、T細胞の中には免疫抑制機能を有する細胞が一部存在することが以前より知られていたが、それが1995年にCD25陽性CD4陽性のT細胞として同定され、制御性T細胞と名付けられた(例えば非特許文献4を参照)。2003年には、制御性T細胞に特異的に発現して、その発生および機能を制御するマスター遺伝子であるFoxp3遺伝子が同定された。Foxp3は転写因子として様々な免疫応答関連遺伝子の発現を制御している。Foxp3は、なかでも、制御性T細胞におけるCTLA-4の恒常的な発現に関与しており、それが制御性T細胞による免疫抑制機能に重要な役割を果たしていると考えられている(例えば非特許文献5を参照)。
腫瘍組織に制御性T細胞が浸潤することで、それが腫瘍に対する免疫監視機構を減弱あるいは阻害する結果につながっていると考えられている。実際に、ヒトの多くの癌腫において制御性T細胞が増加していることが明らかにされており(例えば非特許文献6を参照)、制御性T細胞の腫瘍の局所への浸潤が癌患者の予後不良因子となり得ることが報告されている。逆に、腫瘍組織から制御性T細胞を除去あるいは減少させることができれば、抗腫瘍免疫の増強につながると期待される。現在、制御性T細胞を標的とした癌免疫療法の開発が精力的に進められつつある。
抗CTLA-4抗体であるイピリムマブの投与により抗腫瘍免疫は増強されるが、一方で、免疫活性を全身的に増強するために自己免疫疾患を発症することが報告されている。ある臨床試験においてはイピリムマブを投与した患者の60%に有害事象が見られ、その多くが皮膚あるいは消化管に関する自己免疫疾患であった。他の臨床試験においてもイピリムマブを投与した患者のうち約半数が同様の自己免疫疾患を発症したと報告されている。このような副作用を抑えるため、イピリムマブを投与した患者に免疫抑制剤が投与されるケースもある。こうした免疫チェックポイント阻害剤の副作用を抑えつつ抗腫瘍免疫応答を維持することが可能な新たな薬剤の開発が望まれている。
IgG抗体の細胞傷害性エフェクター機能である抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)、補体依存性細胞障害活性(CDC)、抗体依存性細胞貪食活性(ADCP)は、抗体により抗腫瘍効果を得るための有望な手段として注目されている(例えば非特許文献7、非特許文献8を参照)。IgG抗体のFc領域が、ナチュラルキラー細胞やマクロファージ等のエフェクター細胞の表面に存在する抗体レセプター(FcγR)あるいは各種補体成分と結合することによって、これらのエフェクター機能が誘起される。これまでにFc領域の変異体に関する多数の研究が行われ、野生型よりも高いFcγR結合活性など、様々な特性を有する変異体が取得されている(例えば特許文献5、特許文献6、非特許文献9、非特許文献10を参照)。また、抗体のFc領域は、FcγRと1:1で結合し、FcγRをlower hingeおよびCH2領域で非対称に認識していることが報告されている(例えば非特許文献11を参照)。このことから、抗体のFc領域を構成する二本のポリペプチド鎖に異なる改変を加え、非対称なFc領域変異体を作製することにより、FcγRとの相互作用を最適化する方法も報告されている(例えば特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10を参照)。
治療用抗体を生体内に投与した場合、その標的となる抗原が病変部位にのみ特異的に発現していることが望ましいが、多くの場合、非病変部位である正常組織にも同じ抗原が発現しており、それが治療の観点からは望ましくない副作用の原因となり得る。例えば、腫瘍抗原に対する抗体は、ADCC等によって腫瘍細胞に対する傷害活性を発揮し得る一方で、正常組織にも同じ抗原が発現していた場合、正常細胞をも傷害してしまう可能性がある。上記のような問題を解決するために、標的となる組織(例えば腫瘍組織)に特定の化合物が多量に存在する現象に着目し、そうした化合物の濃度に応じて抗原に対する結合活性が変化する抗原結合分子を創作する技術が開発された(例えば特許文献11を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO 2000/037504
【文献】WO 2001/014424
【文献】WO 2012/120125
【文献】WO 2016/196237
【文献】WO 2000/042072
【文献】WO 2006/019447
【文献】WO 2012/058768
【文献】WO 2012/125850
【文献】WO 2013/002362
【文献】WO 2014/104165
【文献】WO 2013/180200
【非特許文献】
【0004】
【文献】Pardoll, Nat Rev Cancer (2012) 12: 252-264
【文献】Brunet et al., Nature (1987) 328: 267-270
【文献】Leach et al., Science (1996) 271: 1734-1736
【文献】Sakaguchi et al., J Immunol (1995) 155: 1151-1164
【文献】Takahashi et al., J Exp Med (2000) 192: 303-310
【文献】Nishikawa & Sakaguchi, Int J Cancer (2010) 127: 759-767
【文献】Clynes et al., Proc Natl Acad Sci U S A (1998) 95: 652-656
【文献】Clynes et al., Nat Med (2000) 6: 443-446
【文献】Lazar et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2006) 103: 4005-4010
【文献】Chu et al., Mol Immunol (2008) 45: 3926-3933
【文献】Radaev et al., J Biol Chem (2001) 276: 16469-16477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗CTLA-4抗体およびその使用方法を提供する。本発明はまた、変異Fc領域を含むポリペプチドおよびそれらを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕~〔47〕を提供する。
〔1〕 アデノシン含有化合物の濃度に依存したCTLA-4結合活性を有する抗CTLA-4抗体であって、以下の(a)から(i)より選択される少なくとも一つの特徴を有する抗体:
(a) 100 μMのアデノシン含有化合物の存在下での結合活性が、アデノシン含有化合物の非存在下での結合活性と比べて、2倍以上高い、
(b) 100 μMのアデノシン含有化合物の存在下でのKD値が5×10-7 M以下である、
(c) アデノシン含有化合物の非存在下でのKD値が1×10-6 M以上である、
(d) アデノシン含有化合物およびCTLA-4とともに三者複合体を形成する、
(e) ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の97番目のアミノ酸から106番目のアミノ酸の領域に結合する、
(f) CTLA-4への結合に関して、ABAM004(VH、配列番号:10;およびVL、配列番号:11)と競合する、
(g) ABAM004(VH、配列番号:10;およびVL、配列番号:11)によって結合されるのと同じエピトープに結合する、
(h) CTLA-4発現細胞に対して細胞傷害活性を示す、および
(i) ヒトおよびマウス由来のCTLA-4に結合する。
〔2〕 モノクローナル抗体である、〔1〕に記載の抗体。
〔3〕 ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、〔1〕または〔2〕に記載の抗体。
〔4〕 CTLA-4に結合する抗体断片である、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の抗体。
〔5〕 (a) アミノ酸配列SX1TMNを含み、X1はH、A、R、またはKであるHVR-H1(配列番号:223)、(b) アミノ酸配列SISX1X2SX3YIYYAX4SVX5Gを含み、X1はSまたはT、X2はRまたはQ、X3はGまたはH、X4はD、E、またはR、X5はKまたはRであるHVR-H2(配列番号:224)、および (c) アミノ酸配列YGX1REDMLWVFDYを含み、X1はKまたはAであるHVR-H3(配列番号:225)を含む、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の抗体。
〔6〕 (a) アミノ酸配列X1GX2STX3VGDYX4X5VX6を含み、X1はT、D、Q、またはE、X2はTまたはP、X3はDまたはG、X4はNまたはT、X5はYまたはW、X6はSまたはHであるHVR-L1(配列番号:226)、(b) アミノ酸配列X1TX2X3KPX4を含み、X1はE、F、またはY、X2はSまたはI、X3はKまたはS、X4はS、E、またはKであるHVR-L2(配列番号:227)、および (c) アミノ酸配列X1TYAAPLGPX2を含み、X1はSまたはQ、X2はMまたはTであるHVR-L3(配列番号:228)をさらに含む、〔5〕に記載の抗体。
〔7〕 配列番号:229~232のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインFR1、配列番号:233のアミノ酸配列を含むFR2、配列番号:234のアミノ酸配列を含むFR3、および配列番号:235のアミノ酸配列を含むFR4をさらに含む、〔5〕に記載の抗体。
〔8〕 配列番号:236~238のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインFR1、配列番号:240~241のいずれか1つのアミノ酸配列を含むFR2、配列番号:242~244のいずれか1つのアミノ酸配列を含むFR3、および配列番号:245~246のいずれか1つのアミノ酸配列を含むFR4をさらに含む、〔6〕に記載の抗体。
〔9〕 (a) 配列番号:83~86、98、135~141のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列;(b) 配列番号:88~95、97、99、134、144~149のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列;または (c) 配列番号:83~86、98、135~141のいずれか1つのアミノ酸配列を有するVH配列、および配列番号:88~95、97、99、134、144~149のいずれか1つのアミノ酸配列を有するVL配列を含む、〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の抗体。
〔10〕 全長IgG1抗体である、〔1〕から〔3〕、および〔5〕から〔9〕のいずれか一項に記載の抗体。
〔11〕 Fc領域がアミノ酸改変を含む変異Fc領域であって、当該変異Fc領域が天然型Fc領域に比べて、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaからなる群より選択される少なくとも一つのFcγ受容体に対する結合活性が増強している、〔10〕に記載の抗体。
〔12〕 〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の抗体をコードする、単離された核酸。
〔13〕 〔12〕に記載の核酸を含む、宿主細胞。
〔14〕 抗体を製造する方法であって、抗体が製造されるように〔13〕に記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
〔15〕 〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
〔16〕 抗体がイムノコンジュゲートである、〔15〕に記載の薬学的製剤。
〔17〕 免疫チェックポイント阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、および化学療法剤からなる群より選択される少なくとも一つと組み合わせて用いられる、〔15〕または〔16〕に記載の薬学的製剤。
〔18〕 腫瘍の治療における使用のための、〔15〕から〔17〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔19〕 腫瘍が、制御性T(Treg)細胞が浸潤している固形腫瘍である、〔18〕に記載の薬学的製剤。
〔20〕 細胞の傷害における使用のための、〔15〕から〔17〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔21〕 Treg細胞の傷害における使用のための、〔15〕から〔17〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔22〕 細胞の傷害がADCC活性、CDC活性、またはADCP活性による、〔20〕に記載の薬学的製剤。
〔23〕 Treg細胞の傷害により免疫が活性化される、〔20〕または〔21〕に記載の薬学的製剤。
〔24〕 免疫の活性化における使用のための、〔15〕から〔17〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔25〕 免疫の活性化がT細胞の活性化である、〔24〕に記載の薬学的製剤。
〔26〕 腫瘍組織における免疫が活性化される、〔24〕または〔25〕に記載の薬学的製剤。
〔27〕 対照となる抗CTLA-4抗体を含む薬学的製剤と比較して、非腫瘍組織における免疫の活性化のレベルが低い、〔24〕から〔26〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔28〕 対照となる抗CTLA-4抗体を含む薬学的製剤と比較して、副作用のレベルが低い、〔24〕から〔27〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔29〕 対照となる抗CTLA-4抗体が、アデノシン含有化合物の濃度に依存したCTLA-4結合活性を有していない抗CTLA-4抗体である、〔24〕から〔28〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔30〕 副作用が自己免疫疾患である、〔29〕に記載の薬学的製剤。
〔31〕 腫瘍が乳癌または肝癌である、〔18〕、〔19〕、〔26〕から〔30〕のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
〔32〕 親Fc領域においてアミノ酸改変を含む変異Fc領域を含むポリペプチドであって、親Fc領域が二本のポリペプチド鎖によって構成され、かつ変異Fc領域が、以下の位置におけるアミノ酸改変を含む、ポリペプチド:
(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、および326、ならびに
(ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、および334。
〔33〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕に記載のポリペプチド。
〔34〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕または〔33〕に記載のポリペプチド。
〔35〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置330におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔34〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔36〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置356におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔35〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔37〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置366におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔36〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔38〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置439におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔37〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔39〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔38〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔40〕 以下に記載のアミノ酸改変の中から選択される少なくとも1つのアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔39〕のいずれか一項に記載のポリペプチド:
(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234におけるTyr、もしくはPhe、位置235におけるGln、位置236におけるTrp、位置239におけるMet、位置250におけるVal、位置268におけるAsp、位置270におけるGlu、位置298におけるAla、位置307におけるPro、位置326におけるAsp、位置332におけるGlu、位置349におけるCys、位置356におけるLys、および位置366におけるTrp、ならびに
(ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236におけるAla、位置250におけるVal、位置270におけるGlu、位置298におけるAla、位置307におけるPro、位置326におけるAsp、位置330におけるMet、Lys、位置332におけるAsp、もしくはGlu、位置334におけるGlu、位置356におけるCys、位置366におけるSer、位置368におけるAla、位置407におけるVal、および位置439におけるGlu。
〔41〕 変異Fc領域が、さらに親Fc領域の第一のポリペプチドおよび/または第二のポリペプチドにおける、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸改変を含む、〔32〕から〔40〕のいずれか一項に記載のポリペプチド:
(a) EUナンバリングで表される位置434におけるAla、
(b) EUナンバリングで表される位置434におけるAla、位置436におけるThr、位置438におけるArg、位置440におけるGlu、
(c) EUナンバリングで表される位置428におけるLeu、位置434におけるAla、位置436におけるThr、位置438におけるArg、位置440におけるGlu、
(d) EUナンバリングで表される位置428におけるLeu、位置434におけるAla、位置438におけるArg、位置440におけるGlu。
〔42〕 親Fc領域に比べて、変異Fc領域において、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaからなる群より選択される少なくとも一つのFcγ受容体に対する結合活性が増強している、〔32〕から〔41〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔43〕 親Fc領域に比べて、変異Fc領域において、FcγRIIaおよびFcγRIIIaに対する結合活性が増強している、〔42〕に記載のポリペプチド。
〔44〕 親Fc領域に比べて、変異Fc領域において、活性型Fcγ受容体と阻害型Fcγ受容体との間の選択性が向上している、〔32〕から〔43〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔45〕 活性型Fcγ受容体がFcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIaからなる群より選択される少なくとも1つのFcγ受容体であり、阻害型Fcγ受容体がFcγRIIbである、〔44〕に記載のポリペプチド。
〔46〕 変異Fc領域を含むポリペプチドが抗体である、〔32〕から〔45〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔47〕 親Fc領域にアミノ酸改変を導入する工程を含む、変異Fc領域を含むポリペプチドを製造する方法であって、親Fc領域が二本のポリペプチド鎖によって構成され、かつ以下の位置にアミノ酸改変が導入される、方法:
(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、および326、ならびに
(ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、および334。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1-9に記載されるように、抗CTLA-4抗体であるABAM004のATP、ADPまたはAMP濃度に依存したCTLA-4に対する結合活性を示す図である。
図2図2は、実施例1-10に記載されるように、抗CTLA-4抗体であるABAM004のAMP濃度に依存したCTLA-4発現細胞に対する結合活性を示す図である。
図3図3は、実施例1-11に記載されるように、抗CTLA-4抗体であるABAM004のAMP存在下および非存在下におけるCTLA-4発現細胞に対するADCC活性を示す図である。
図4図4は、実施例2-13に記載されるように、ABAM004 FabフラグメントとAMPの結合の様式を示す図である。図中、当該抗体の重鎖を黒色、軽鎖を灰色、AMPを球棒モデルで示す。AMPと相互作用を形成するアミノ酸残基をスティックモデルで示した。破線とその数値は各アミノ酸残基とAMPの間の距離(Å)を示す。
図5図5は、実施例2-14に記載されるように、ABAM004 Fab断片とAMP、ヒトCTLA4(hCTLA4)の結合の様式を示す図である。図中、当該抗体の重鎖を黒色、軽鎖を灰色、hCTLA4を白色、AMPを球棒モデルで示す。当該抗体またはAMPのいずれかの部分から4.2Å以内の距離に位置する非水素原子を1個以上含む、hCTLA4のアミノ酸残基をエピトープとし、スティックモデルで示す。
図6図6は、実施例2-14に記載されるように、ABAM004 Fab断片のエピトープをhCTLA4のアミノ酸配列中にマッピングした図である。図中、黒色で示したアミノ酸残基は、結晶構造においてABAM004またはAMPのいずれかの部分から4.2Å以内の距離に位置する非水素原子を1個以上含む、hCTLA4のアミノ酸残基を示す。灰色で示したアミノ酸残基は、結晶構造中でディスオーダーしていたため、モデルが構築されなかった残基を示す。
図7図7は、実施例2-15に記載されるように、ABAM004 Fab断片単独とAMPとの複合体、およびAMP、CTLA4との3者複合体の結晶構造から当該抗体とAMP を抽出した構造を重ね合わせた図である。図中、当該抗体の重鎖を黒色、軽鎖を灰色、AMPを球棒モデルで示す。細線でABAM004 Fabフラグメント単独の構造を、中太線でAMPとの2者複合体の構造を、太線で3者複合体の構造を示す。
図8図8は、実施例3-2に記載されるように、抗CTLA-4抗体ABAM004およびその改変体である04H0150/04L0072のATP、ADPまたはAMP濃度に依存したCTLA-4に対する結合活性を示す図である。図中の表記として、WTはABAM004を、H150L072は04H0150/04L0072をそれぞれ示す。
図9図9は、実施例3-6に記載されるように、抗CTLA-4抗体SW1077のATP濃度に依存したCTLA-4に対する中和活性を示す図である。
図10図10は、実施例3-7-4に記載されるように、FM3A細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体mNS-mFa55(コントロール抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.01 mg/kg, 0.1 mg/kg, 0.25 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kg, 100 mg/kgにて尾静脈より投与された。各点は一群 n=4 の腫瘍体積の平均値を示す。
図11図11は、実施例3-7-4に記載されるように、FM3A細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1208-mFa55(スイッチ(switch)抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与された。各点は一群 n=4 の腫瘍体積の平均値を示す。
図12図12は、実施例3-7-7に記載されるように、FM3A細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体mNS-mFa55(コントロール抗体)およびSW1208-mFa55(スイッチ抗体)投与時の腫瘍内でのeffector Treg細胞の割合の変化を示す図である。mNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kgにて尾静脈より投与し、SW1208-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で腫瘍を採材し、FACS解析にてeffector Tregの増減を評価した。縦軸はeffector Treg(CD4+ FoxP3+ KLRG1+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図13図13は、実施例3-7-8に記載されるように、FM3A細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体mNS-mFa55(コントロール抗体)およびSW1208-mFa55(スイッチ抗体)投与時の脾臓での活性化helper T細胞の割合の変化を示す図である。mNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kgにて尾静脈より投与し、SW1208-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で脾臓を採材し、FACS解析にて活性化helper T細胞の増減を評価した。縦軸は活性化helper T細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図14図14は、実施例4-3-5に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1389-mFa55(スイッチ抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg にて尾静脈より投与された。各点は一群 n=4 の腫瘍体積の平均値を示す。
図15図15は、実施例4-3-5に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体hNS-mFa55(コントロール抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kg にて尾静脈より投与された。各点は一群 n=4 の腫瘍体積の平均値を示す。
図16図16は、実施例4-3-8に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体hNS-mFa55(コントロール抗体)およびSW1389-mFa55(スイッチ抗体)投与時の腫瘍内でのeffector Treg細胞の割合の変化を示す図である。hNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kg、SW1389-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で腫瘍を採材し、FACS解析にてeffector Tregの増減を評価した。縦軸はeffector Treg(CD4+ FoxP3+ CCR7lowKLRG1+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図17図17は、実施例4-3-9に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体hNS-mFa55(コントロール抗体)およびSW1389-mFa55(スイッチ抗体)投与時の脾臓での活性化helper T細胞の割合の変化を示す図である。hNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kg、SW1389-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で脾臓を採材し、FACS解析にて活性化helper T細胞の増減を評価した。縦軸は活性化helper T細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図18図18は、実施例5-4-5に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1610-mFa55(スイッチ抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.3 mg/kg, 1 mg/kg, 3 mg/kg にて尾静脈より投与された。各点は一群 n=5 の腫瘍体積の平均値を示す。
図19図19は、実施例5-4-5に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1612-mFa55(スイッチ抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.3 mg/kg, 1 mg/kg, 3 mg/kg にて尾静脈より投与された。各点は一群 n=5 の腫瘍体積の平均値を示す。
図20図20は、実施例5-4-5に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1615-mFa55(スイッチ抗体)の抗腫瘍効果を示す図である。抗体は0.3 mg/kg, 1 mg/kg, 3 mg/kg にて尾静脈より投与された。各点は一群 n=5 の腫瘍体積の平均値を示す。
図21図21は、実施例5-4-8に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1610-mFa55、SW1612-mFa55およびSW1615-mFa55(いずれもスイッチ抗体)投与時の腫瘍内でのeffector Treg細胞の割合の変化を示す図である。SW1610-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1612-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1615-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg, 400 mg/kg、陰性コントロール抗体KLH-mFa55を400 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で腫瘍を採材し、FACS解析にてeffector Tregの増減を評価した。縦軸はeffector Treg(CD4+ FoxP3+ CCR7lowKLRG1+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図22図22は、実施例5-4-9に記載されるように、Hepa1-6/hGPC3細胞株を移植したマウスモデルにおける、抗CTLA-4抗体SW1610-mFa55、SW1612-mFa55およびSW1615-mFa55(いずれもスイッチ抗体)投与時の脾臓での活性化helper T細胞の割合の変化を示す図である。SW1610-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1612-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1615-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg, 400 mg/kg、陰性コントロール抗体KLH-mFa55を400 mg/kgにて尾静脈より投与した。投与後6日目で脾臓を採材し、FACS解析にて活性化helper T細胞の増減を評価した。縦軸は活性化helper T細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の、CD45+細胞に対する割合である。n=3の平均値を示す。
図23図23は、実施例6-2に記載されるように、FcγRへの結合が増強された各種改変定常領域を有する抗体のin vitroでのADCC活性の比較を示す図である。図中の表記として、IgG1はMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTを、GASDALIEはMDX10D1H-GASDALIE/MDX10D1L-k0MTを、ART6はMDX10D1H-Kn462/MDX10D1H-Hl445/MDX10D1L-k0MTを、ART8はMDX10D1H-Kn461/MDX10D1H-Hl443/MDX10D1L-k0MTをそれぞれ表す。ここで、IgG1はコントロールの定常領域を有する抗体であり、GASDALIEは先行文献に記載の定常領域を有する抗体であり、ART6およびART8は実施例6-1で作製された改変定常領域を有する抗体である。
図24図24は、実施例6-3に記載されるように、FcγRへの結合が増強された各種改変定常領域を有する抗体のin vitroでのADCP活性の比較を示す図である。図中の表記として、IgG1はMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTを、GASDIEはMDX10D1H-GASDIE/MDX10D1L-k0MTを、ART6はMDX10D1H-Kn462/MDX10D1H-Hl445/MDX10D1L-k0MTを、ART8はMDX10D1H-Kn461/MDX10D1H-Hl443/MDX10D1L-k0MTをそれぞれ表す。ここで、IgG1はコントロールの定常領域を有する抗体であり、GASDIEは先行文献に記載の定常領域を有する抗体であり、ART6およびART8は実施例6-1で作製された改変定常領域を有する抗体である。
図25図25は、実施例6-4に記載されるように、FcγRへの結合が増強された改変定常領域を有する抗CTLA4スイッチ抗体SW1389-ART6のin vitroでのADCC活性を示す図である。
図26図26は、実施例6-4に記載されるように、FcγRへの結合が増強された改変定常領域を有する抗CTLA4スイッチ抗体SW1610-ART6のin vitroでのADCC活性を示す図である。
図27図27は、実施例6-4に記載されるように、FcγRへの結合が増強された改変定常領域を有する抗CTLA4スイッチ抗体SW1612-ART6のin vitroでのADCC活性を示す図である。
図28図28は、実施例6-5に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1389のCTLA4に対する中和活性(エフェクター細胞の活性化に対して抑制的に作用するCTLA4のシグナルを解除する活性)を示す図である。
図29図29は、実施例6-5に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1610のCTLA4に対する中和活性(エフェクター細胞の活性化に対して抑制的に作用するCTLA4のシグナルを解除する活性)を示す図である。
図30図30は、実施例6-5に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1612のCTLA4に対する中和活性(エフェクター細胞の活性化に対して抑制的に作用するCTLA4のシグナルを解除する活性)を示す図である。
図31図31は、実施例6-5に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1615のCTLA4に対する中和活性(エフェクター細胞の活性化に対して抑制的に作用するCTLA4のシグナルを解除する活性)を示す図である。
図32図32は、実施例6-6に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1389-ART5+ACT1のCTLA4陽性制御性T細胞に対するin vitro 細胞傷害活性を示す図である。
図33図33は、実施例6-6に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1389-ART6+ACT1のCTLA4陽性制御性T細胞に対するin vitro 細胞傷害活性を示す図である。
図34図34は、実施例6-6に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1610-ART5+ACT1のCTLA4陽性制御性T細胞に対するin vitro 細胞傷害活性を示す図である。
図35図35は、実施例6-6に記載されるように、抗CTLA4スイッチ抗体SW1610-ART6+ACT1のCTLA4陽性制御性T細胞に対するin vitro 細胞傷害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載または引用される手法および手順は、概して充分に理解されており、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.): PCR 2: A Practical Approach (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995)), Harlow and Lane, eds. (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, and Animal Cell Culture (R.I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait, ed., 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J.E. Cellis, ed., 1998) Academic Press; Animal Cell Culture (R.I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P.E. Roberts, 1998) Plenum Press; Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J.B. Griffiths, and D.G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons; Handbook of Experimental Immunology (D.M. Weir and C.C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J.M. Miller and M.P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J.E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C.A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);およびCancer: Principles and Practice of Oncology (V.T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993)に記載された広範に利用されている技法などの従来の技法を用いて、当業者により一般的に使用される。
【0009】
I.定義
別途定義しない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, N.Y. 1994)、およびMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4th ed., John Wiley & Sons (New York, N.Y. 1992)は、本出願において使用される用語の多くに対する一般的指針を当業者に提供する。特許出願および刊行物を含む、本明細書に引用される全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0010】
本明細書を解釈する目的のために、以下の定義が適用され、該当する場合はいつでも、単数形で使用された用語は複数形をも含み、その逆もまた同様である。本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定を意図したものではないことが、理解されるべきである。下記の定義のいずれかが、参照により本明細書に組み入れられた任意の文書と矛盾する場合には、下記の定義が優先するものとする。
【0011】
本明細書の趣旨での「アクセプターヒトフレームワーク」は、下で定義するヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する、軽鎖可変ドメイン (VL) フレームワークまたは重鎖可変ドメイン (VH) フレームワークのアミノ酸配列を含む、フレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに「由来する」アクセプターヒトフレームワークは、それらの同じアミノ酸配列を含んでもよいし、またはアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの態様において、アミノ酸の変更の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、または2以下である。いくつかの態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と、配列が同一である。
【0012】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」または「ADCC」(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)は、分泌された免疫グロブリンが特定の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球およびマクロファージ)上に存在するFc受容体 (FcR) に結合し、それによってこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合することができ、そしてその後にその標的細胞を細胞毒によって殺傷することができるようになる、細胞傷害の一形態のことをいう。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現し、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-92 (1991) の第464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCC測定法、例えば米国特許第5,500,362号もしくは第5,821,337号または米国特許第6,737,056号 (Presta) に記載のものが実施され得る。そのような測定法に有用なエフェクター細胞は、PBMCおよびNK細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95: 652-656 (1998)に開示される動物モデルのような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。
【0013】
「細胞傷害活性」としては、例えば上述した抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、後述の補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性、およびT細胞による細胞傷害活性等が挙げられる。CDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味する。一方、ADCC活性とは、標的細胞の細胞表面に存在する抗原に抗体が結合し、さらに当該抗体にエフェクター細胞が結合することによって、当該エフェクター細胞が標的細胞に傷害を与える活性を意味する。目的の抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定され得る(例えば、Current Protocols in Immunology, Chapter 7. Immunologic studies in humans、Coliganら編(1993)等)。
【0014】
「中和活性」とは、何らかの生物学的活性に関与する分子に抗体が結合することによって、当該生物学的活性を阻害する活性をいう。いくつかの態様において、生物学的活性はリガンドとレセプターの結合によってもたらされる。特定の態様において、抗体が当該リガンドまたはレセプターに結合することによって、当該リガンドとレセプターの結合を阻害する。このような中和活性を有する抗体は中和抗体と呼ばれる。ある被検物質の中和活性は、リガンドの存在下における生物学的活性をその被検物質の存在又は非存在下の条件の間で比較することにより測定され得る。
【0015】
「抗体依存性細胞性食作用」または「ADCP」という用語は、抗体で覆われた細胞の全体または一部のいずれかが、免疫グロブリンFc領域に結合する食作用性免疫細胞(例えば、マクロファージ、好中球、および樹状細胞)の内部に取り入れられるプロセスを意味する。
【0016】
用語「結合活性(binding activity)」 は、分子(例えば、抗体)の1個またはそれ以上の結合部位と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。ここで、「結合活性(binding activity)」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用に厳密に限定されない。例えば、結合対のメンバーが1価での1:1相互作用を反映する場合、結合活性は固有の結合アフィニティ(「アフィニティ」) のことをいう 。結合対のメンバーが、1価での結合および多価での結合の両方が可能である場合、結合活性は、これらの結合力の総和となる。分子XのそのパートナーYに対する結合活性は、一般的に、解離定数 (KD) または「単位リガンド量当たりのアナライト結合量」により表すことができる。結合活性は、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合活性を測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
【0017】
「アフィニティ成熟」抗体は、改変を備えていない親抗体と比較して、1つまたは複数の超可変領域 (hypervariable region: HVR) 中に抗体の抗原に対するアフィニティの改善をもたらす1つまたは複数の改変を伴う、抗体のことをいう。
【0018】
用語「抗CTLA-4抗体」または「CTLA-4に結合する抗体」は、充分なアフィニティでCTLA-4と結合することのできる抗体であって、その結果、その抗体がCTLA-4を標的化したときに診断剤および/または治療剤として有用であるような、抗体のことをいう。一態様において、無関係な非CTLA-4タンパク質への抗CTLA-4抗体の結合の程度は、(例えば、放射免疫測定法 (radioimmunoassay: RIA) により)測定したとき、抗体のCTLA-4への結合の約10%未満である。特定の態様において、CTLA-4に結合する抗体は、≦1 μM、≦100 nM、≦10 nM、≦1 nM、≦0.1 nM、≦0.01 nM、または≦0.001 nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数 (KD) を有する。特定の態様において、抗CTLA-4抗体は、異なる種からのCTLA-4間で保存されているCTLA-4のエピトープに結合する。
【0019】
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0020】
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0021】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいてその参照抗体が自身の抗原へする結合を、例えば50%以上阻止する抗体のことをいい、および/または、参照抗体は、競合アッセイにおいて前述の抗体が自身の抗原へする結合を、例えば50%以上阻止する。例示的な競合アッセイが、本明細書で提供される。
【0022】
「自己免疫疾患」は、その個体自身の組織から生じ、かつその個体自身の組織に対して向けられる非悪性疾患または障害のことをいう。本明細書で、自己免疫疾患は、悪性またはがん性の疾患または状態を明確に除外するものであり、特にB細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病 (acute lymphoblastic leukemia: ALL)、慢性リンパ球性白血病 (chronic lymphocytic leukemia: CLL)、ヘアリー細胞白血病、および慢性骨髄芽球性白血病を除外する。自己免疫疾患または障害の例は、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:乾癬および皮膚炎(例えば、アトピー性皮膚炎)を含む炎症性皮膚疾患などの炎症性反応;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患に関連する反応(例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎);呼吸窮迫症候群(成人呼吸窮迫症候群;adult respiratory distress syndrome: ARDSを含む);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;大腸炎;糸球体腎炎;例えば湿疹および喘息ならびにT細胞の浸潤および慢性炎症反応を伴う他の状態などのアレルギー性状態;アテローム硬化;白血球接着不全症;関節リウマチ;全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus: SLE) (ループス腎炎、皮膚ループスを含むがこれらに限定されない);糖尿病(例えば、I型糖尿病またはインスリン依存性糖尿病);多発性硬化症;レイノー症候群;自己免疫性甲状腺炎;橋本甲状腺炎;アレルギー性脳脊髄炎;シェーグレン症候群;若年発症糖尿病;ならびに典型的に結核、サルコイドーシス、多発性筋炎、肉芽腫症、および血管炎において見られるサイトカインおよびTリンパ球によって媒介される急性および遅延型過敏症に関連する免疫反応;悪性貧血(アジソン病);白血球の漏出を伴う疾患;中枢神経系 (central nervous system: CNS) 炎症性障害;多臓器損傷症候群;溶血性貧血(クリオグロブリン血症またはクームス陽性貧血を含むがこれらに限定されない);重症筋無力症;抗原‐抗体複合体介在性疾患;抗糸球体基底膜疾患;抗リン脂質症候群;アレルギー性神経炎;グレーブス病;ランバート‐イートン筋無力症候群;水疱性類天疱瘡;天疱瘡;自己免疫性多腺性内分泌障害;ライター病;スティフマン症候群;ベーチェット病;巨細胞性動脈炎;免疫複合体性腎炎;IgA腎症;IgM多発性ニューロパシー;免疫性血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenic purpura: ITP)または自己免疫性血小板減少症。
【0023】
用語「癌」および「癌性」は、調節されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理学的状態のことをいう、または説明するものである。癌の例は、乳癌および肝癌を含む。
【0024】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」という用語は、標的に結合した抗体のFcエフェクタードメインが一連の酵素反応を活性化して、結果的に標的細胞の膜に穴を形成させる、細胞死を誘導するためのメカニズムを意味する。典型的には、標的細胞上で形成された抗原-抗体複合体が、補体成分C1qに結合し活性化し、次に、補体成分C1qが、補体カスケードを活性化して、標的細胞の死をもたらす。また、補体の活性化は、標的細胞の表面への補体成分の沈着ももたらす場合があり、これにより、白血球上の補体受容体(例えばCR3)に結合することによってADCCが促進される。
【0025】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学的化合物のことをいう。化学療法剤の例は、以下を含む:チオテパおよびシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;ベンゾドパ (benzodopa)、カルボコン、メツレドパ (meturedopa)、およびウレドパ (uredopa) などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、およびトリメチロメラミンを含むエチレンイミンおよびメチロールメラミン;アセトゲニン(特にブラタシンおよびブラタシノン);デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ-ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログであるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標)))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン (scopolectin)、および9-アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、およびビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログKW-2189およびCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド (chlorophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどの、ナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチンなどの、ニトロソ尿素;エンジイン抗生物質{例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマ1IおよびカリケアマイシンオメガI1(例えば、Nicolaou et al., Angew. Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994) を参照のこと);経口アルファ-4インテグリン阻害剤である、CDP323;ジネマイシンAを含むジネマイシン;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標))、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射用(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTCL D-99(MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン (quelamycin)、ロドルビシン (rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどの、抗生物質;メトトレキサート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エポチロン、および5-フルオロウラシル(5-FU)などの、代謝拮抗物質;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサートなどの、葉酸アナログ;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどの、プリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなどの、ピリミジンアナログ;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどの、アンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの、抗副腎物質 (anti-adrenals);フォリン酸などの、葉酸補給物質;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフロルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキウレア;レンチナン;ロニダミン;メイタンシンおよびアンサマイトシンなどの、メイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2'-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベラキュリンA(verracurin A)、ロリジンA、およびアングイジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのアルブミン改変ナノ粒子製剤(ABRAXANE(商標))、およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロラムブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン(例えば、ELOXATIN(登録商標))、およびカルボプラチンなどの、白金剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、およびビノレルビン(NAVELBINE(登録商標))を含む、チューブリン重合による微小管形成を妨げるビンカ類;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ロイコボリン;ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(difluoromethylornithine: DMFO);ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))を含むレチノイン酸などの、レチノイド;クロドロネート(例えば、BONEFOS(登録商標)またはOSTAC(登録商標))、エチドロネート(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロネート(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(SKELID(登録商標))、またはリセドロネート(ACTONEL(登録商標))などの、ビスホスホネート;トロキサシタビン(a 1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関連するシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-アルファ、Raf、H-Ras、および上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGF-R);THERATOPE(登録商標)ワクチンおよび遺伝子療法用ワクチン(例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、およびVAXID(登録商標)ワクチン)などの、ワクチン;トポイソメラーゼ1阻害剤(例えば、LURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えば、ABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリホシン、COX-2阻害剤(例えば、セレコキシブまたはエトリコキシブ)、プロテオソーム阻害剤(例えば、PS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;チピファルニブ(R11577);ソラフェニブ、ABT510;オブリメルセンナトリウム(GENASENSE(登録商標))などの、Bcl-2阻害剤;ピキサントロン;EGFR阻害剤(後述の定義を参照のこと);チロシンキナーゼ阻害剤(後述の定義を参照のこと);ラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標))などの、セリン-スレオニンキナーゼ阻害剤;ロナファルニブ(SCH 6636、SARASAR(商標))などの、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤;ならびに上記の任意のものの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体;ならびに上記の2つまたはそれ以上の組み合わせ、例えばシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾロンの併用療法の略称であるCHOP;および5-FUおよびロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXANTIN(商標))による処置レジメンの略称であるFOLFOX。
【0026】
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。
【0027】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0028】
本明細書でいう用語「細胞傷害剤」は、細胞の機能を阻害するまたは妨げる、および/または細胞の死または破壊の原因となる物質のことをいう。細胞傷害剤は、これらに限定されるものではないが、放射性同位体(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体);化学療法剤または化学療法薬(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他のインターカレート剤);増殖阻害剤;核酸分解酵素などの酵素およびその断片;抗生物質;例えば、低分子毒素または細菌、真菌、植物、または動物起源の酵素的に活性な毒素(その断片および/または変異体を含む)などの、毒素;および、上記に開示される種々の化学療法剤を含む。
【0029】
「エフェクター細胞」は、1つまたは複数のFcRを発現し、エフェクター機能を発揮する白血球のことをいう。特定の態様において、この細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介する白血球の例は、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell: PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞および好中球を含む。エフェクター細胞は、天然の供給源から、例えば血液から単離され得る。特定の態様において、エフェクター細胞はヒトエフェクター細胞であり得る。
【0030】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、抗体のアイソタイプによって異なる生物学的活性のことをいう。抗体のエフェクター機能の例には次のものが含まれる:C1q結合および補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity: ADCC);抗体依存性細胞介在性貪食作用(antibody-dependent cell-mediated phagocytosis: ADCP);細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;および、B細胞活性化。
【0031】
用語「エピトープ」は、抗体によって結合され得る任意の決定基を含む。エピトープは、抗原を標的とする抗体によって結合される該抗原の領域であり、抗体に直接接触する特定のアミノ酸を含む。エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基またはスルホニル基などの化学的に活性な表面分子群を含むことができ、かつ特異的な三次元構造特性および/または特定の電荷特性を備えることができる。一般的に、特定の標的抗原に特異的な抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物中でその標的抗原上のエピトープを優先的に認識する。
【0032】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234 (1997) を参照のこと)。FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9: 457-492 (1991);Capel et al., Immunomethods 4: 25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126: 330-341 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0033】
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117: 587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24: 249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12): 592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7): 637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8): 6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
【0034】
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血清半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株において、または変異Fc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が改善された、または減少した抗体変異体を記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001) も参照のこと。
【0035】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0036】
用語「Fc領域含有抗体」は、Fc領域を含む抗体のことをいう。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムにしたがえば残基447)またはFc領域のC末端グリシン-リジン(残基446-447)は、例えば抗体の精製の間に、または抗体をコードする核酸の組み換え操作によって除去され得る。したがって、本発明によるFc領域を有する抗体を含む組成物は、G446-K447を伴う抗体、G446を伴いK447を伴わない抗体、G446-K447が完全に除去された抗体、または上記3つのタイプの抗体の混合物を含み得る。
【0037】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照)。1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150: 880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352: 624-628 (1991) 参照。
【0038】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0039】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
【0040】
「機能性Fc領域」は、天然型配列Fc領域の「エフェクター機能」を備える。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;B cell receptor: BCR)の下方制御等を含む。そのようなエフェクター機能は一般に、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とし、そして、例えば本明細書の定義の中で開示される様々な測定法を用いて評価され得る。
【0041】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。
【0042】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択群において最も共通して生じるアミノ酸残基を示すフレームワークである。通常、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。通常、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3におけるサブグループである。一態様において、VLについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループκIである。一態様において、VHについて、サブグループは上記のKabatらによるサブグループIIIである。
【0043】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。
【0044】
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
【0045】
「イムノコンジュゲート」は、1つまたは複数の異種の分子にコンジュゲートされた抗体である(異種の分子は、これに限定されるものではないが、細胞傷害剤を含む)。
【0046】
「単離された」抗体は、そのもともとの環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点分離法 (isoelectric focusing: IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフ(例えば、イオン交換または逆相HPLC)で測定して、95%または99%を超える純度まで精製される。抗体の純度の評価のための方法の総説として、例えば、Flatman et al., J. Chromatogr. B 848: 79-87 (2007) を参照のこと。
【0047】
「単離された」核酸は、そのもともとの環境の成分から分離された核酸分子のことをいう。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
【0048】
「抗体をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖および軽鎖(またはその断片)をコードする1つまたは複数の核酸分子のことをいい、1つのベクターまたは別々のベクターに乗っている核酸分子、および、宿主細胞中の1つまたは複数の位置に存在している核酸分子を含む。
【0049】
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
【0050】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされた、または選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0051】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している)を除いて、同一であり、および/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0052】
「裸抗体」は、異種の部分(例えば、細胞傷害部分)または放射性標識にコンジュゲートされていない抗体のことをいう。裸抗体は、薬学的製剤中に存在していてもよい。
【0053】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造を伴う免疫グロブリン分子のことをいう。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、それに3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプの1つに帰属させられてよい。
【0054】
「天然型配列Fc領域」は、自然界で見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然型配列ヒトFc領域は、天然型配列ヒトIgG1 Fc領域(非AおよびAアロタイプ);天然型配列ヒトIgG2 Fc領域;天然型配列ヒトIgG3 Fc領域;および天然型配列ヒトIgG4 Fc領域、ならびに天然に存在するそれらの変異体を含む。
【0055】
「変異Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾(改変)、好ましくは1つまたは複数のアミノ酸置換によって天然型配列Fc領域のそれと相違するアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異Fc領域は、天然型配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して、天然型配列Fc領域中または親ポリペプチドのFc領域中に少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書の変異Fc領域は、好ましくは、天然型配列Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、より好ましくはそれらと少なくとも約90%の相同性、最も好ましくはそれらと少なくとも約95%の相同性を備える。
【0056】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
【0057】
ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0058】
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される対象に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
【0059】
「個体」または「対象」は哺乳動物である。哺乳動物は、これらに限定されるものではないが、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびに、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。特定の態様では、個体または対象は、ヒトである。
【0060】
「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
【0061】
ある剤(例えば、薬学的製剤)の「有効量」は、所望の治療的または予防的結果を達成するために有効である、必要な用量における、および必要な期間にわたっての、量のことをいう。
【0062】
用語「添付文書」は、治療用品の商用パッケージに通常含まれ、そのような治療用品の使用に関する、適応症、用法、用量、投与方法、併用療法、禁忌、および/または警告についての情報を含む使用説明書のことをいうために用いられる。
【0063】
本明細書でいう用語「CTLA-4」は、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源からの任意の天然型CTLA-4のことをいう。この用語は、「全長」のプロセシングを受けていないCTLA-4も、細胞中でのプロセシングの結果生じるいかなる形態のCTLA-4も包含する。この用語はまた、自然に生じるCTLA-4の変異体、例えば、スプライス変異体や対立遺伝子変異体も包含する。例示的なヒトCTLA-4のアミノ酸配列を配列番号:214に、マウスCTLA-4のアミノ酸配列を配列番号:247に、サルCTLA-4のアミノ酸配列を配列番号:248に、ヒトCTLA-4の細胞外ドメインのアミノ酸配列を配列番号:28に示した。本明細書において、CTLA-4はCTLA4と表記されることもある。
【0064】
用語「制御性T(Treg)細胞」は、免疫系を調節し、自己抗原に対する寛容を維持し、自己免疫疾患を抑止するT細胞の亜集団である。これらの細胞は一般に、エフェクターT細胞の誘導および増殖を抑制し、またはダウンレギュレートする。Treg細胞として最もよく理解されているのは、CD4、CD25、およびFoxp3を発現するもの(CD4+ CD25+ Treg細胞)である。これらのTregはヘルパーT細胞とは異なる。Treg細胞の同定とモニタリングには、いくつかの異なる方法が使用される。CD4およびCD25発現によって規定した場合(CD4+ CD25+ 細胞)、Treg細胞はマウスおよびヒトにおける成熟CD4+ T細胞亜集団の約5~10%を構成し、一方、Tregの約1~2%は全血中に測定され得る。Foxp3の発現を追加して測定されることもある(CD4+ CD25+ Foxp3+ 細胞)。また、別のマーカーとして、CD127の非存在または低レベル発現が、CD4およびCD25の存在と組み合わせて使用されることもある。さらに、Treg細胞には高レベルのCTLA-4およびGITRも発現している。後述の実施例に記載の方法によってもTregを同定し得る。
【0065】
本明細書で用いられる用語「実質的に類似の」、「実質的に等しい」、または「実質的に同じ」は、2つの数値の間(例えば、本発明の抗体に関するものと、参照/比較用抗体に関するものの間)の類似性が、当業者がそれら2つの数値の間の差が該数値(例えば、KD値)によって測定される生物学的特徴の観点でほとんどまたはまったく生物学的および/または統計学的に有意性がないとみなす程度に、充分高いことをいう。
【0066】
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0067】
用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖ならびにすべての前癌性および癌性細胞および組織のことをいう。用語「癌」、「癌性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」、および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的でない。
【0068】
用語「腫瘍組織」とは、少なくとも一つの腫瘍細胞を含む組織を意味する。腫瘍組織は、通常、腫瘍の主体をなす腫瘍細胞の集団(実質)と、これらの間に存在して腫瘍を支持する結合組織や血管(間質)とから成り立っている。両者の区別が明らかなものもあれば、両者が入り混じっているものもある。腫瘍組織内には免疫細胞などが浸潤していることもある。一方、「非腫瘍組織」とは、生体内における腫瘍組織以外の組織を意味する。疾患状態にない健常組織/正常組織は非腫瘍組織の代表的な例である。
【0069】
II.組成物および方法
一局面において、本発明は、抗CTLA-4抗体およびそれらの使用に一部基づくものである。特定の態様において、CTLA-4に結合する抗体が提供される。本発明の抗体は、例えば、癌の診断または治療のために、有用である。
【0070】
A.例示的抗CTLA-4抗体
一局面において、本発明はCTLA-4に結合する、単離された抗体を提供する。特定の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物の濃度に依存したCTLA-4結合活性を有する。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の非存在下に比べて、アデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4への結合活性がより高い。あるいは別の態様において、低濃度のアデノシン含有化合物の存在下に比べて、高濃度のアデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4への結合活性がより高い。さらなる態様において、CTLA-4への結合活性の差は、例えば2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、500倍以上、1×103倍以上、2×103倍以上、3×103倍以上、5×103倍以上、1×104倍以上、2×104倍以上、3×104倍以上、5×104倍以上、または1×105倍以上である。
【0071】
いくつかの態様において、抗CTLA-4抗体の結合活性はKD(Dissociation constant:解離定数)値で表すことができる。さらなる態様において、アデノシン含有化合物の非存在下に比べて、アデノシン含有化合物の存在下における抗CTLA-4抗体のKD値がより小さい。あるいは別の態様において、低濃度のアデノシン含有化合物の存在下に比べて、高濃度のアデノシン含有化合物の存在下における抗CTLA-4抗体のKD値がより小さい。さらなる態様において、抗CTLA-4抗体のKD値の差は、例えば2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、500倍以上、1×103倍以上、2×103倍以上、3×103倍以上、5×103倍以上、1×104倍以上、2×104倍以上、3×104倍以上、5×104倍以上、または1×105倍以上である。アデノシン含有化合物の存在下、あるいは高濃度のアデノシン含有化合物の存在下における抗CTLA-4抗体のKD値は、例えば9×10-7M以下、8×10-7M以下、7×10-7M以下、6×10-7M以下、5×10-7M以下、4×10-7M以下、3×10-7M以下、2×10-7M以下、1×10-7M以下、9×10-8M以下、8×10-8M以下、7×10-8M以下、6×10-8M以下、5×10-8M以下、4×10-8M以下、3×10-8M以下、2×10-8M以下、1×10-8M以下、9×10-9M以下、8×10-9M以下、7×10-9M以下、6×10-9M以下、5×10-9M以下、4×10-9M以下、3×10-9M以下、2×10-9M以下、1×10-9M以下、9×10-10M以下、8×10-10M以下、7×10-10M以下、6×10-10M以下、5×10-10M以下、4×10-10M以下、3×10-10M以下、2×10-10M以下、または1×10-10M以下であることができる。アデノシン含有化合物の非存在下、あるいは低濃度のアデノシン含有化合物の存在下における抗CTLA-4抗体のKD値は、例えば1×10-8M以上、2×10-8M以上、3×10-8M以上、4×10-8M以上、5×10-8M以上、6×10-8M以上、7×10-8M以上、8×10-8M以上、9×10-8M以上、1×10-7M以上、2×10-7M以上、3×10-7M以上、4×10-7M以上、5×10-7M以上、6×10-7M以上、7×10-7M以上、8×10-7M以上、9×10-7M以上、1×10-6M以上、2×10-6M以上、3×10-6M以上、4×10-6M以上、5×10-6M以上、6×10-6M以上、7×10-6M以上、8×10-6M以上、または9×10-6M以上であることができる。
【0072】
別の態様において、抗CTLA-4抗体の結合活性を、KD値の代わりにkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)値で表してもよい。
【0073】
別の態様において、抗CTLA-4抗体の結合活性は、単位抗体量あたりのCTLA-4の結合量で表してもよい。例えば、表面プラズモン共鳴アッセイにおいては、センサーチップ上に固定された抗体の結合量、およびさらにそこに結合した抗原の結合量がそれぞれ反応単位(resonance unit: RU)として測定される。そこでの抗原の結合量を抗体の結合量で割った値を、単位抗体量あたりの抗原の結合量として定義することができる。そうした結合量の測定および算出の具体的な方法は後述の実施例に記載されている。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の非存在下に比べて、アデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4の結合量がより大きい。あるいは別の態様において、低濃度のアデノシン含有化合物の存在下に比べて、高濃度のアデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4の結合量がより大きい。さらなる態様において、CTLA-4の結合量の差は、例えば2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、500倍以上、1×103倍以上、2×103倍以上、3×103倍以上、5×103倍以上、1×104倍以上、2×104倍以上、3×104倍以上、5×104倍以上、または1×105倍以上である。アデノシン含有化合物の存在下、あるいは高濃度のアデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4の結合量の値は、例えば0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、または1以上であることができる。アデノシン含有化合物の非存在下、あるいは低濃度のアデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4の結合量の値は、例えば0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.009以下、0.008以下、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、0.003以下、0.002以下、または0.001以下であることができる。
【0074】
いくつかの態様において、本明細書で表されるKD値やkd値、結合量の値などは、表面プラズモン共鳴アッセイを25℃または37℃で実施することにより、測定あるいは算出される(例えば、本明細書の実施例3を参照のこと)。
【0075】
アデノシン含有化合物の濃度としては、抗CTLA-4抗体の結合活性に差が検出される限り、任意の濃度を選択することができる。特定の態様において、高濃度としては、例えば1 nMまたはそれより高い濃度、3 nMまたはそれより高い濃度、10 nMまたはそれより高い濃度、30 nMまたはそれより高い濃度、100 nMまたはそれより高い濃度、300 nMまたはそれより高い濃度、1 μMまたはそれより高い濃度、3 μMまたはそれより高い濃度、10 μMまたはそれより高い濃度、30 μMまたはそれより高い濃度、100 μMまたはそれより高い濃度、300 μMまたはそれより高い濃度、1 mMまたはそれより高い濃度、3 mMまたはそれより高い濃度、10 mMまたはそれより高い濃度、30 mMまたはそれより高い濃度、100 mMまたはそれより高い濃度、300 mMまたはそれより高い濃度、1 Mまたはそれより高い濃度を挙げることができる。あるいは、それぞれの抗CTLA-4抗体が最大の結合活性を示すような十分量をここでの高濃度とすることもできる。一態様において、1 μM、10 μM、100 μM、1 mM、あるいは、それぞれの抗CTLA-4抗体が最大の結合活性を示すような十分量をここでの高濃度として選択することができる。特定の態様において、低濃度としては、例えば1 mMまたはそれより低い濃度、300 μMまたはそれより低い濃度、100 μMまたはそれより低い濃度、30 μMまたはそれより低い濃度、10 μMまたはそれより低い濃度、3 μMまたはそれより低い濃度、1 μMまたはそれより低い濃度、300 nMまたはそれより低い濃度、100 nMまたはそれより低い濃度、30 nMまたはそれより低い濃度、10 nMまたはそれより低い濃度、3 nMまたはそれより低い濃度、1 nMまたはそれより低い濃度、300 pMまたはそれより低い濃度、100 pMまたはそれより低い濃度、30 pMまたはそれより低い濃度、10 pMまたはそれより低い濃度、3 pMまたはそれより低い濃度、1 pMまたはそれより低い濃度などを挙げることができる。あるいは、それぞれの抗CTLA-4抗体が最小の結合活性を示す際の濃度をここでの低濃度とすることもできる。実質的な濃度がゼロ(アデノシン含有化合物の非存在下)の場合を、低濃度の一態様として選択することもできる。一態様において、1 mM、100 μM、10 μM、1 μM、それぞれの抗CTLA-4抗体が最小の結合活性を示す際の濃度、あるいはアデノシン化合物の非存在下をここでの低濃度として選択することができる。別の態様において、高濃度と低濃度の比としては、例えば3倍またはそれ以上、10倍またはそれ以上、30倍またはそれ以上、100倍またはそれ以上、300倍またはそれ以上、1×103倍またはそれ以上、3×103倍またはそれ以上、1×104倍またはそれ以上、3×104倍またはそれ以上、1×105倍またはそれ以上、3×105倍またはそれ以上、1×106倍またはそれ以上、3×106倍またはそれ以上、1×107倍またはそれ以上、3×107倍またはそれ以上、1×108倍またはそれ以上、3×108倍またはそれ以上、1×109倍またはそれ以上、3×109倍またはそれ以上、1×1010倍またはそれ以上、3×1010倍またはそれ以上、1×1011倍またはそれ以上、3×1011倍またはそれ以上、1×1012倍またはそれ以上の値を選択することができる。
【0076】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物に対しても結合活性を有する。上述の方法を用いて、単位抗体量あたりのアデノシン含有化合物の結合量を算出して、それを抗CTLA-4抗体のアデノシン含有化合物に対する結合活性とすることができる。そうした結合量の測定および算出の具体的な方法は後述の実施例に記載されている。本発明の抗CTLA-4抗体の単位抗体量あたりのアデノシン含有化合物の結合量の値は、例えば0.0001以上、0.0002以上、0.0003以上、0.0004以上、0.0005以上、0.0006以上、0.0007以上、0.0008以上、0.0009以上、0.001以上、0.002以上、0.003以上、0.004以上、0.005以上、0.006以上、0.007以上、0.008以上、0.009以上、または0.01以上であることができる。
【0077】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物およびCTLA-4とともに三者複合体を形成する。一態様において、抗CTLA-4抗体は、重鎖CDR1、CDR2、CDR3を介してアデノシン含有化合物に結合する。一態様において、抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物に対する結合モチーフを有する。アデノシン含有化合物に対する結合モチーフは、例えばKabatナンバリングで表される33位、52位、52a位、53位、56位、58位、95位、96位、100a位、100b位、100c位に存在する少なくとも一つのアミノ酸から構成され得る。さらなる態様において、抗CTLA-4抗体は、例えばKabatナンバリングで表される33位、52位、52a位、53位、56位、58位、95位、96位、100a位、100b位、100c位からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を介してアデノシン含有化合物に結合する。特定の態様において、抗CTLA-4抗体は、Kabatナンバリングで表される33位のThr、52位のSer、52a位のSer、53位のArg、56位のTyr、58位のTyr、95位のTyr、96位のGly、100a位のMet、100b位のLeu、100c位のTrpからなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を有する。抗CTLA-4抗体とアデノシン含有化合物が結合して形成された複合体に対して、さらにCTLA-4が結合してもよい。また、アデノシン含有化合物は、抗CTLA-4抗体とCTLA-4が相互作用する界面に存在して、それらの両者に結合していてもよい。抗CTLA-4抗体が、アデノシン含有化合物およびCTLA-4とともに三者複合体を形成していることは、例えば後述の結晶構造解析などの手法により確認することができる(実施例参照のこと)。
【0078】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の3番目のアミノ酸(Met)、33番目のアミノ酸(Glu)、35番目のアミノ酸(Arg)、53番目のアミノ酸(Thr)、97番目のアミノ酸(Glu)、99番目のアミノ酸(Met)、100番目のアミノ酸(Tyr)、101番目のアミノ酸(Pro)、102番目のアミノ酸(Pro)、103番目のアミノ酸(Pro)、104番目のアミノ酸(Tyr)、105番目のアミノ酸(Tyr)、および106番目のアミノ酸(Leu)からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸に結合する。これらのアミノ酸は、本発明の抗CTLA-4抗体のエピトープを構成し得る。別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の97番目のアミノ酸(Glu)から106番目のアミノ酸(Leu)の領域に結合する。別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の99番目のアミノ酸(Met)から106番目のアミノ酸(Leu)の領域に結合する。
【0079】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、CTLA-4への結合に関して、ABAM004(VH、配列番号:10;VL、配列番号:11;HVR-H1、配列番号:100;HVR-H2、配列番号:101;HVR-H3、配列番号:102;HVR-L1、配列番号:113;HVR-L2、配列番号:114;HVR-L3、配列番号:115)と競合する。別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、ABAM004と同じエピトープに結合する。抗CTLA-4抗体が過剰に存在する場合、ABAM004のCTLA-4への結合を、例えば10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上低減させることができる。例示的な競合アッセイが、本明細書で提供される。
【0080】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、CTLA-4発現細胞に対して細胞傷害活性を示す。標的となる細胞の表面にCTLA-4が発現していて、そこに抗CTLA-4抗体が結合した場合、当該細胞が傷害され得る。細胞への傷害は、抗体依存性細胞傷害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity; ADCC)や抗体依存性細胞貪食活性(antibody-dependent cellular phagocytosis; ADCP)など、抗体に結合したエフェクター細胞によって引き起こされるものであってもよいし、補体依存性細胞傷害活性(complement-dependent cytotoxicity; CDC)など、抗体に結合した補体によって引き起こされるものであってもよい。あるいはイムノコンジュゲートなどのように、抗体に結合した細胞傷害剤(例えば、放射性同位体や化学療法剤など)によって引き起こされるものであってもよい。ここでの細胞傷害は、細胞死を誘導する作用や細胞増殖を抑制する作用、細胞機能に障害を与える作用などを含み得る。抗CTLA-4抗体が十分な量で存在する場合、例えば10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のCTLA-4発現細胞に対して傷害を引き起こすことができる。そのような細胞傷害活性の測定は、抗体の非存在下あるいは陰性対照抗体の存在下での測定と比較して行うことができる。例示的な細胞傷害アッセイが、本明細書で提供される。
【0081】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に対して中和活性を示す。CTLA-4は、そのリガンドであるCD80(B7-1)あるいはCD86(B7-2)と相互作用することにより機能することが知られている。特定の態様において、抗CTLA-4抗体は、CTLA-4とCD80(B7-1)あるいはCD86(B7-2)との相互作用を阻害する。抗CTLA-4抗体が十分な量で存在する場合、CTLA-4とCD80(B7-1)あるいはCD86(B7-2)との相互作用を例えば10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上阻害し得る。そのような阻害活性の測定は、抗体の非存在下あるいは陰性対照抗体の存在下での測定と比較して行うことができる。中和活性の測定の具体的な方法が本明細書で提供される。
【0082】
別の態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、複数の動物種に由来するCTLA-4に結合する。例示的な動物種としては、哺乳動物、例えばヒト、サル 、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、イヌ、ネコなどを挙げることができる。特定の態様において、抗CTLA-4抗体は、ヒトおよび非ヒト(例えば、サル、マウス、ラットなど)由来のCTLA-4に結合する。ヒトCTLA-4のアミノ酸配列は配列番号:214に、サルCTLA-4のアミノ酸配列は配列番号:247、マウスCTLA-4のアミノ酸配列は配列番号:248に示されている。その他の動物種に由来するCTLA-4のアミノ酸配列も、当業者に公知の方法により適宜決定することができる。
【0083】
特定の態様において、本発明におけるアデノシン含有化合物としては、例えば、アデノシン(ADO)、アデノシン3リン酸(ATP)、アデノシン2リン酸(ADP)、アデノシン1リン酸(AMP)、環状アデノシン1リン酸(cAMP)、デオキシアデノシン(dADO)、デオキシアデノシン3リン酸(dATP)、デオキシアデノシン2リン酸(dADP)、デオキシアデノシン1リン酸(dAMP)、アデノシンγチオ三リン酸(ATPγS)などを挙げることができる。
【0084】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:223のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:224のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:225のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:223のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:224のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:225のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0085】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:226のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:227のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:228のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:226のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:227のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:228のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0086】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:223のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:224のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:225のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:226のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:227のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:228のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0087】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:223のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:224のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:225のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:226のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:227のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:228より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0088】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0089】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0090】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0091】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:115より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0092】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0093】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0094】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0095】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:104のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:116のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:115より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0096】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0097】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0098】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0099】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:105のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:106のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0100】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0101】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:153のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:153のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0102】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:153のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0103】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:108のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:121のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:123のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:153より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0104】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0105】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0106】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0107】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:110のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:122のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0108】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0109】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0110】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0111】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0112】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0113】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0114】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0115】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:128のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0116】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0117】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0118】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0119】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:112のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0120】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0121】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0122】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0123】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:111のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:152のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:129のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0124】
一局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b) 配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2;および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と;(b) 配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3とを含む。
【0125】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2;および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、抗体は、(a) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。
【0126】
別の局面において、本発明の抗体は、(a) VHドメインであって、(i) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii) 配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (iii) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVH HVR配列を含む、VHドメインと;(b) VLドメインであって、(i) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または3つすべてのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0127】
別の局面において、本発明は、(a) 配列番号:107のアミノ酸配列を含むHVR-H1と; (b) 配列番号:109のアミノ酸配列を含むHVR-H2と;(c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3と;(d) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1と;(e) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2と;(f) 配列番号:133より選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む、抗体を提供する。
【0128】
特定の態様において、以下のHVRポジションのところで、上述の抗CTLA-4抗体の任意の1つまたは複数のアミノ酸が置換されている:
-HVR-H1(配列番号:223)における:ポジション2
-HVR-H2(配列番号:224)における:ポジション4、5、7、13、および16
-HVR-H3(配列番号:225)における:ポジション3
-HVR-L1(配列番号:226)における:ポジション1、3、6、11、12、および14
-HVR-L2(配列番号:227)における:ポジション1、3、4、および7
-HVR-L3(配列番号:228)における:ポジション1、および10
【0129】
特定の態様において、本明細書で提供される置換は、保存的置換である。特定の態様において、以下のいずれか1つまたは複数の置換が、任意の組み合わせで行われてもよい:
-HVR-H1(配列番号:100)において: H2A、RまたはK
-HVR-H2(配列番号:101)において: S4T;R5Q;G7H;D13EまたはR;K16R
-HVR-H3(配列番号:102)において: K3A
-HVR-L1(配列番号:113)において: T1D、QまたはE;T3P;D6G;N11T;Y12W;S14H
-HVR-L2(配列番号:114)において: E1FまたはY;S3I;K4S;S7EまたはK
-HVR-L3(配列番号:115)において: S1Q;M10T
【0130】
上述の置換の可能なすべての組み合わせは、HVR-H1、HVR-H2、HVR-H3、HVR-L1、HVR-L2、およびHVR-L3に関してそれぞれ、配列番号:223、224、225、226、227、および228のコンセンサス配列に包含される。
【0131】
上述の態様の任意のものにおいて、抗CTLA-4抗体は、ヒト化されている。一態様において、抗CTLA-4抗体は、上述の態様の任意のものにおけるHVRを含み、かつさらに、アクセプターヒトフレームワーク(例えば、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク)を含む。別の態様において、抗CTLA-4抗体は上述の態様の任意のものにおけるHVRを含み、かつさらに、FR配列を含むVHまたはVLを含む。さらなる態様において、抗CTLA-4抗体は、以下の重鎖および/または軽鎖可変ドメインFR配列を含む:重鎖可変ドメインについて、FR1は、配列番号:229~232のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、FR2は配列番号:233のアミノ酸配列を含み、FR3は配列番号:234のアミノ酸配列を含み、FR4は配列番号:235のアミノ酸配列を含む。軽鎖可変ドメインについて、FR1は、配列番号:236~238のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、FR2は配列番号:240~241のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、FR3は配列番号:242~244のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、FR4は配列番号:245~246のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
【0132】
別の局面において、抗CTLA-4抗体は、配列番号:10のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン (VH) 配列を含む。特定の態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むが、当該配列を含む抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合する能力を保持する。特定の態様において、合計1個から10個、11個、12個、13個、14個、または15個のアミノ酸が、配列番号:10において、置換、挿入、および/または欠失される。特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、HVRの外側の領域(すなわち、FRの中)で生じる。任意で、抗CTLA-4抗体は、配列番号:10におけるVH配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。ある特定の態様では、VHは、(a) 配列番号:100のアミノ酸配列を含むHVR-H1、 (b) 配列番号:101のアミノ酸配列を含むHVR-H2、および (c) 配列番号:102のアミノ酸配列を含むHVR-H3より選択される、1つ、2つ、または3つのHVRを含む。翻訳後修飾は、重鎖又は軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾を含むが、これに限定されない。
【0133】
別の局面において、配列番号:11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン (VL) を含む、抗CTLA-4抗体が提供される。特定の態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むが、当該配列を含む抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合する能力を保持する。特定の態様において、合計1個から10個、11個、12個、13個、14個、または15個のアミノ酸が、配列番号:11において、置換、挿入、および/または欠失される。特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、HVRの外側の領域(すなわち、FRの中)で生じる。任意で、抗CTLA-4抗体は、配列番号:11におけるVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。ある特定の態様では、VLは、(a) 配列番号:113のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(b) 配列番号:114のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:115のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、1つ、2つ、または3つのHVRを含む。翻訳後修飾は、重鎖又は軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾を含むが、これに限定されない。
【0134】
別の局面において、配列番号:149のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン (VL) を含む、抗CTLA-4抗体が提供される。特定の態様において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して、置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むが、当該配列を含む抗CTLA-4抗体は、CTLA-4に結合する能力を保持する。特定の態様において、合計1個から10個、11個、12個、13個、14個、または15個のアミノ酸が、配列番号:149において、置換、挿入、および/または欠失される。特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、HVRの外側の領域(すなわち、FRの中)で生じる。任意で、抗CTLA-4抗体は、配列番号:149におけるVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。ある特定の態様では、VLは、(a) 配列番号:130のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(b) 配列番号:117のアミノ酸配列を含むHVR-L2、および (c) 配列番号:133のアミノ酸配列を含むHVR-L3より選択される、1つ、2つ、または3つのHVRを含む。翻訳後修飾は、重鎖又は軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾を含むが、これに限定されない。
【0135】
別の局面において、上述の態様の任意のものにおけるVH、および上述の態様の任意のものにおけるVLを含む、抗CTLA-4抗体が提供される。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:10および配列番号:11中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:98および配列番号:99中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:83および配列番号:97中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:86および配列番号:134中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:136および配列番号:95中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:140および配列番号:146中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:141および配列番号:146中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:140および配列番号:147中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:141および配列番号:147中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:136および配列番号:149中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。さらなる局面において、上述のVHおよびVL配列を含む可変領域の中から選択される、少なくとも2つの異なる可変領域を含むヘテロな抗CTLA-4抗体が提供される。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:140および配列番号:146中のVHおよびVL配列、ならびに配列番号:141および配列番号:146中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。一態様において、抗体はそれぞれ配列番号:140および配列番号:147中のVHおよびVL配列、ならびに配列番号:141および配列番号:147中のVHおよびVL配列を、当該配列の翻訳後修飾を含んだものも含めて、含む。翻訳後修飾は、重鎖又は軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾を含むが、これに限定されない。
【0136】
本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の重鎖又は軽鎖N末端のアミノ酸がグルタミンの場合、当該アミノ酸はグルタミン酸に置換されてもよい。本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の重鎖又は軽鎖N末端のアミノ酸がグルタミン酸の場合、当該アミノ酸はグルタミンに置換されてもよい。
【0137】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体と同じエピトープに結合する抗体を提供する。例えば、特定の態様において、表4、表9、表14、および表19に記載の抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される。特定の態様において、配列番号:28の3番目のアミノ酸(Met)、33番目のアミノ酸(Glu)、35番目のアミノ酸(Arg)、53番目のアミノ酸(Thr)、97番目のアミノ酸(Glu)、99番目のアミノ酸(Met)、100番目のアミノ酸(Tyr)、101番目のアミノ酸(Pro)、102番目のアミノ酸(Pro)、103番目のアミノ酸(Pro)、104番目のアミノ酸(Tyr)、105番目のアミノ酸(Tyr)、および106番目のアミノ酸(Leu)からなる群より選択される少なくとも一つのアミノ酸を含むCTLA-4の断片中のエピトープに結合する抗体が提供される。特定の態様において、配列番号:28の97番目のアミノ酸(Glu)から106番目のアミノ酸(Leu)からなるCTLA-4の断片中のエピトープに結合する抗体が提供される。特定の態様において、配列番号:28の99番目のアミノ酸(Met)から106番目のアミノ酸(Leu)からなるCTLA-4の断片中のエピトープに結合する抗体が提供される。
【0138】
本発明のさらなる局面において、上述の態様の任意のものによる抗CTLA-4抗体は、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。一態様において、抗CTLA-4抗体は、例えば、Fv、Fab、Fab'、scFv、ダイアボディ、またはF(ab')2断片などの、抗体断片である。別の態様において、抗体は、例えば、完全IgG1抗体や完全IgG4抗体、本明細書で定義された他の抗体クラスまたはアイソタイプなどの、全長抗体である。
【0139】
さらなる局面において、本発明の抗CTLA-4抗体はFc領域を含む。さらなる局面において、本発明の抗CTLA-4抗体は定常領域を含む。定常領域は、重鎖定常領域(Fc領域を含む)、軽鎖定常領域、あるいはその両者であってもよい。いくつかの態様において、Fc領域は、天然型配列のFc領域である。天然型抗体に由来する例示的な重鎖定常領域として、例えばヒトIgG1(配列番号:249)、ヒトIgG2(配列番号:250)、ヒトIgG3(配列番号:251)、ヒトIgG4(配列番号:252)などの重鎖定常領域を挙げることができる。また、他の例示的な重鎖定常領域として、配列番号:82、配列番号:158などの重鎖定常領域を挙げることができる。天然型抗体に由来する例示的な軽鎖定常領域として、例えばヒトκ鎖(配列番号:33、配列番号:63、配列番号:159)、ヒトλ鎖(配列番号:53、配列番号:87)などの軽鎖定常領域を挙げることができる。
【0140】
別の態様において、Fc領域は、天然型配列のFc領域にアミノ酸改変を加えて作製された変異Fc領域である。特定の態様において、変異Fc領域は、天然型配列のFc領域に比べて、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaからなる群より選択される少なくとも一つのFcγ受容体に対する結合活性が増強している。さらなる態様において、変異Fc領域は、天然型配列のFc領域に比べて、FcγRIIaおよびFcγRIIIaに対する結合活性が増強している。そのような変異Fc領域を含む重鎖定常領域の例として、例えば表26~表30に記載の重鎖定常領域、配列番号:31、32、41~46、65、66、81、207、239、253~271、276、277、278に記載の重鎖定常領域などを挙げることができる。
【0141】
天然型配列のFc領域は、通常、二本の同一のポリペプチド鎖からなるホモ二量体として構成される。特定の態様において、変異Fc領域は、同じ配列のポリペプチド鎖から構成されるホモ二量体であってもよいし、互いに配列の異なるポリペプチド鎖から構成されるヘテロ二量体であってもよい。同様に、Fc領域を含む重鎖定常領域も、同じ配列のポリペプチド鎖から構成されるホモ二量体であってもよいし、互いに配列の異なるポリペプチド鎖から構成されるヘテロ二量体であってもよい。ヘテロな重鎖定常領域の例として、例えば配列番号:31のポリペプチド鎖および配列番号:32のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:43のポリペプチド鎖および配列番号:44のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:45のポリペプチド鎖および配列番号:46のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:254のポリペプチド鎖および配列番号:256のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:257のポリペプチド鎖および配列番号:258のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:259のポリペプチド鎖および配列番号:260のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:261のポリペプチド鎖および配列番号:263のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:262のポリペプチド鎖および配列番号:264のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:265のポリペプチド鎖および配列番号:267のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:266のポリペプチド鎖および配列番号:268のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:269のポリペプチド鎖および配列番号:270のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:271のポリペプチド鎖および配列番号:81のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:65のポリペプチド鎖および配列番号:66のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:239のポリペプチド鎖および配列番号:207のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:259のポリペプチド鎖および配列番号:276のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域、配列番号:65のポリペプチド鎖および配列番号:278のポリペプチド鎖を含む重鎖定常領域などを挙げることができる。
【0142】
さらなる局面において、上述の態様の任意のものによる抗CTLA-4抗体は、単独または組み合わせで、以下の項目1~7に記載の任意の特徴を取り込んでもよい。
【0143】
1.抗体の結合活性
特定の態様において、本明細書で提供される抗体の結合活性(binding activity)は、≦10 μM、≦1 μM、≦100 nM、≦10 nM、≦1 nM、≦0.1 nM、≦0.01 nM、または≦0.001 nM(例えば、10-8 M以下、例えば10-8 M~10-13 M、例えば10-9 M~10-13 M)の解離定数 (KD) である。
【0144】
一態様において、抗体の結合活性(binding activity)は、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。一態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293: 865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50 mM炭酸ナトリウム (pH 9.6) 中5 μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57: 4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150 μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0145】
一態様において、抗体の結合活性(binding activity)は、表面プラズモン共鳴分析法を測定原理とする、例えばBIACORE(商標登録)T200またはBIACORE(商標登録)4000(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を用いたリガンド捕捉法が用いられる。機器操作にはBIACORE(商標登録)Control Softwareが用いられる。一態様において、アミンカップリングキット(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を供給元の指示にしたがって使用し、カルボキシメチルデキストランをコーティングしたセンサーチップ(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)にリガンド捕捉用分子、例えば抗タグ抗体、抗IgG抗体、プロテインAなどを固相化する。リガンド捕捉分子は適切なpHの10 mM酢酸ナトリウム溶液を用いて希釈され、適切な流速および注入時間で注入される。結合活性測定は0.05%ポリソルベート20(その他の名称としてTween(商標登録)-20)含有緩衝液を測定用緩衝液として使用し、流速は10- 30 μL/分、測定温度は好ましくは25℃や37℃で測定される。リガンド捕捉用分子に抗体をリガンドとして捕捉させて測定を実施する場合は、抗体を注入して目的量を捕捉させたのち、測定用緩衝液を用いて調製された抗原またはFc受容体の段階希釈物(アナライト)が注入される。リガンド捕捉用分子に抗原またはFc受容体をリガンドとして捕捉させて測定を実施する場合は、抗原またはFc受容体を注入して目的量を捕捉させたのち、測定用緩衝液を用いて調製された抗体の段階希釈物(アナライト)が注入される。
【0146】
一態様において、測定結果は、BIACORE(登録商標)Evaluation Softwareを用いて解析される。速度論的パラメータ(kinetics parameter)の算出は、1:1 Bindingのモデルを用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって実施され、結合速度 (konもしくはka) 、解離速度 (koffもしくはkd) 、平衡解離定数 (KD)が計算され得る。結合活性が弱い、特に解離が早く速度論的パラメータの算出が困難な場合は、Steady stateモデルを用いて平衡解離定数 (KD)を計算しても良い。結合活性の他のパラメータとしては、特定の濃度のアナライトの結合量(RU)をリガンドの捕捉量(RU)で除して、「単位リガンド量当たりのアナライト結合量」を算出しても良い。
【0147】
2.抗体断片
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、Fv、および scFv断片、ならびに、後述する他の断片を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al. Nat. Med. 9: 129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みインビボ (in vivo) における半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。
【0148】
ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097号; WO1993/01161; Hudson et al., Nat. Med. 9: 129-134 (2003); Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat. Med. 9: 129-134 (2003) に記載されている。
【0149】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。
【0150】
抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌 (E. coli) またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
【0151】
3.キメラおよびヒト化抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体が、例えば、米国特許第4,816,567号;および、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 6851-6855 (1984) に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来する可変領域)およびヒト定常領域を含む。さらなる例において、キメラ抗体は、親抗体のものからクラスまたはサブクラスが変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片も含む。
【0152】
特定の態様において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親非ヒト抗体の特異性およびアフィニティを維持したままでヒトへの免疫原性を減少させるために、ヒト化される。通常、ヒト化抗体は1つまたは複数の可変ドメインを含み、当該可変ドメイン中、HVR(例えばCDR(またはその部分))は非ヒト抗体に由来し、FR(またはその部分)はヒト抗体配列に由来する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部分を含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性またはアフィニティを回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基の由来となった抗体)からの対応する残基で置換されている。
【0153】
ヒト化抗体およびその作製方法は、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13: 1619-1633 (2008)において総説されており、また、例えば、Riechmann et al., Nature 332: 323-329 (1988); Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 10029-10033 (1989);米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号、および第7,087,409号;Kashmiri et al., Methods 36: 25-34 (2005)(特異性決定領域 (specificity determining region: SDR) グラフティングを記載);Padlan, Mol. Immunol. 28: 489-498 (1991) (リサーフェイシングを記載); Dall'Acqua et al., Methods 36: 43-60 (2005) (FRシャッフリングを記載);ならびに、Osbourn et al., Methods 36: 61-68 (2005) およびKlimka et al., Br. J. Cancer, 83: 252-260 (2000) (FRシャッフリングのための「ガイドセレクション」アプローチを記載)において、さらに記載されている。
【0154】
ヒト化に使われ得るヒトフレームワーク領域は、これらに限定されるものではないが:「ベストフィット」法(Sims et al. J. Immunol. 151: 2296 (1993) 参照)を用いて選択されたフレームワーク領域;軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4285 (1992) および Presta et al. J. Immunol., 151: 2623 (1993) 参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13: 1619-1633 (2008) 参照);および、FRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(Baca et al., J. Biol. Chem. 272: 10678-10684 (1997) および Rosok et al., J. Biol. Chem. 271: 22611-22618 (1996) 参照)を含む。
【0155】
4.ヒト抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野において知られる種々の手法によって製造され得る。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-374 (2001) および Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20: 450-459 (2008) に、概説されている。
【0156】
ヒト抗体は、抗原チャレンジ(負荷)に応答して完全ヒト抗体またはヒト可変領域を伴う完全抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物へ免疫原を投与することにより、調製されてもよい。そのような動物は、典型的にはヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部もしくは一部分を含み、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部もしくは一部分は、内因性の免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、または、染色体外にもしくは当該動物の染色体内にランダムに取り込まれた状態で存在する。そのようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性の免疫グロブリン遺伝子座は、通常不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説として、Lonberg, Nat. Biotech. 23: 1117-1125 (2005) を参照のこと。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載した米国特許第6,075,181号および第6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載した米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許第7,041,870号;ならびに、VELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許出願公開第2007/0061900号を、併せて参照のこと。このような動物によって生成された完全抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせるなどして、さらに修飾されてもよい。
【0157】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づいた方法でも作ることができる。ヒトモノクローナル抗体の製造のための、ヒトミエローマおよびマウス‐ヒトヘテロミエローマ細胞株は、既に記述されている(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991) 参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体も、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103: 3557-3562 (2006) に述べられている。追加的な方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の製造を記載)、および、Ni, Xiandai Mianyixue, 26(4): 265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されたものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)も、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3): 927-937 (2005) およびVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3): 185-191 (2005) に記載されている。
【0158】
ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することでも生成できる。このような可変ドメイン配列は、次に所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択する手法を、以下に述べる。
【0159】
5.ライブラリ由来抗体
本発明の抗体は、所望の1つまたは複数の活性を伴う抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリの生成や、所望の結合特性を備える抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングするための、様々な方法が当該技術分野において知られている。そのような方法は、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178: 1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001) において総説されており、さらに例えば、McCafferty et al., Nature 348: 552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992);Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248: 161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004) に記載されている。
【0160】
特定のファージディスプレイ法において、VHおよびVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction: PCR) により別々にクローニングされ、無作為にファージライブラリ中で再結合され、当該ファージライブラリは、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994) に述べられているようにして、抗原結合ファージについてスクリーニングされ得る。ファージは、典型的には、単鎖Fv (scFv) 断片としてまたはFab断片としてのいずれかで、抗体断片を提示する。免疫化された供給源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築することを要さずに、免疫源に対する高アフィニティ抗体を提供する。あるいは、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993) に記載されるように、ナイーブレパートリーを(例えば、ヒトから)クローニングして、免疫化することなしに、広範な非自己および自己抗原への抗体の単一の供給源を提供することもできる。最後に、ナイーブライブラリは、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992) に記載されるように、幹細胞から再編成前のV-遺伝子セグメントをクローニングし、超可変CDR3領域をコードしかつインビトロ (in vitro) で再構成を達成するための無作為配列を含んだPCRプライマーを用いることにより、合成的に作ることもできる。ヒト抗体ファージライブラリを記載した特許文献は、例えば:米国特許第5,750,373号、ならびに、米国特許出願公開第2005/0079574号、2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号、および第2009/0002360号を含む。
【0161】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、本明細書ではヒト抗体またはヒト抗体断片と見なす。
【0162】
6.多重特異性抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有する、モノクローナル抗体である。特定の態様において、結合特異性の1つは、CTLA-4に対するものであり、もう1つは他の任意の抗原へのものである。特定の態様において、二重特異性抗体は、CTLA-4の異なった2つのエピトープに結合してもよい。二重特異性抗体は、CTLA-4を発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するために使用されてもよい。二重特異性抗体は、全長抗体としてまたは抗体断片として調製され得る。
【0163】
多重特異性抗体を作製するための手法は、これらに限定されるものではないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組み換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983)、WO93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991) 参照)、およびknob-in-hole技術(例えば、米国特許第5,731,168号参照)を含む。多重特異性抗体は、Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果 (electrostatic steering effects) を操作すること (WO2009/089004A1);2つ以上の抗体または断片を架橋すること(米国特許第4,676,980号およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985) 参照);ロイシンジッパーを用いて2つの特異性を有する抗体を作成すること(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5): 1547-1553 (1992) 参照);「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 6444-6448 (1993) 参照);および、単鎖Fv (scFv) 二量体を用いること(Gruber et al., J. Immunol., 152: 5368 (1994) 参照);および、例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991) に記載されるように三重特異性抗体を調製すること、によって作製してもよい。
【0164】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を伴う改変抗体も、本明細書では含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576号A1参照)。
【0165】
本明細書で抗体または断片は、CTLA-4と別の異なる抗原とに結合する1つの抗原結合部位を含む、「デュアルアクティングFab」または「DAF」も含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号参照)。
【0166】
7.抗体変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体も、考慮の内である。例えば、抗体の結合アフィニティおよび/または他の生物学的特性を改善することが、望ましいこともある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入すること、または、ペプチド合成によって、調製されてもよい。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列からの欠失、および/または抗体のアミノ酸配列中への挿入、および/または抗体のアミノ酸配列中の残基の置換を含む。最終構築物が所望の特徴(例えば、抗原結合性)を備えることを前提に、欠失、挿入、および置換の任意の組合せが、最終構築物に至るために行われ得る。
【0167】
a)置換、挿入、および欠失変異体
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換的変異導入の目的部位は、HVRおよびFRを含む。保存的置換を、表1の「好ましい置換」の見出しの下に示す。より実質的な変更を、表1の「例示的な置換」の見出しの下に提供するとともに、アミノ酸側鎖のクラスに言及しつつ下で詳述する。アミノ酸置換は目的の抗体に導入されてもよく、産物は、例えば、保持/改善された抗原結合性、減少した免疫原性、または改善したADCCまたはCDCなどの、所望の活性についてスクリーニングされてもよい。
【0168】
【表1】
【0169】
アミノ酸は、共通の側鎖特性によって群に分けることができる:
(1) 疎水性:ノルロイシン、メチオニン (Met)、アラニン (Ala)、バリン (Val)、ロイシン (Leu)、イソロイシン (Ile);
(2) 中性の親水性:システイン (Cys)、セリン (Ser)、トレオニン (Thr)、アスパラギン (Asn)、グルタミン (Gln);
(3) 酸性:アスパラギン酸 (Asp)、グルタミン酸 (Glu);
(4) 塩基性:ヒスチジン (His)、リジン (Lys)、アルギニン (Arg);
(5) 鎖配向に影響する残基:グリシン (Gly)、プロリン (Pro);
(6) 芳香族性:トリプトファン (Trp)、チロシン (Tyr)、フェニルアラニン (Phe)。
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを、別のクラスのものに交換することをいう。
【0170】
置換変異体の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)の1つまたは複数の超可変領域残基の置換を含む。通常、その結果として生じ、さらなる研究のために選ばれた変異体は、親抗体と比較して特定の生物学的特性における修飾(例えば、改善)(例えば、増加したアフィニティ、減少した免疫原性)を有する、および/または親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。例示的な置換変異体は、アフィニティ成熟抗体であり、これは、例えばファージディスプレイベースのアフィニティ成熟技術(例えば本明細書に記載されるもの)を用いて適宜作製され得る。簡潔に説明すると、1つまたは複数のHVR残基を変異させ、そして変異抗体をファージ上に提示させ、特定の生物学的活性(例えば、結合アフィニティ)に関してスクリーニングを行う。
【0171】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体のアフィニティを改善するために、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、HVRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセスの間に高頻度で変異が起こるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury, Methods Mol. Biol. 207: 179-196 (2008) を参照のこと)および/または抗原に接触する残基において行われ得、得られた変異VHまたはVLが結合アフィニティに関して試験され得る。二次ライブラリからの構築および再選択によるアフィニティ成熟が、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178: 1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001)) に記載されている。アフィニティ成熟のいくつかの態様において、多様性は、任意の様々な方法(例えば、エラープローンPCR、チェーンシャッフリングまたはオリゴヌクレオチド指向変異導入)によって成熟のために選択された可変遺伝子に導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。次いで、このライブラリは、所望のアフィニティを有する任意の抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入する別の方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4~6残基)を無作為化するHVR指向アプローチを含む。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング変異導入またはモデリングを用いて、具体的に特定され得る。特に、CDR-H3およびCDR-L3がしばしば標的化される。
【0172】
特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に減少させない限り、1つまたは複数のHVR内で行われ得る。例えば、結合アフィニティを実質的に減少させない保存的改変(例えば、本明細書で提供されるような保存的置換)が、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、例えば、HVRの抗原接触残基の外側であり得る。上記の変異VHおよびVL配列の特定の態様において、各HVRは改変されていないか、わずか1つ、2つ、もしくは3つのアミノ酸置換を含む。
【0173】
変異導入のために標的化され得る抗体の残基または領域を同定するのに有用な方法は、Cunningham and Wells (1989) Science, 244: 1081-1085によって記載される、「アラニンスキャニング変異導入」と呼ばれるものである。この方法において、一残基または一群の標的残基(例えば、荷電残基、例えばアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、およびグルタミン酸)が同定され、中性または負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニンもしくはポリアラニン)で置き換えられ、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうかが決定される。この初期置換に対して機能的感受性を示したアミノ酸位置に、さらなる置換が導入され得る。あるいはまたは加えて、抗体と抗原の間の接触点を同定するために、抗原抗体複合体の結晶構造を解析してもよい。そのような接触残基および近隣の残基を、置換候補として標的化してもよく、または置換候補から除外してもよい。変異体は、それらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0174】
アミノ酸配列の挿入は、配列内部への単一または複数のアミノ酸残基の挿入と同様、アミノ末端および/またはカルボキシル末端における1残基から100残基以上を含むポリペプチドの長さの範囲での融合も含む。末端の挿入の例は、N末端にメチオニル残基を伴う抗体を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体のN-またはC-末端に、酵素(例えば、ADEPTのための)または抗体の血漿半減期を増加させるポリペプチドを融合させたものを含む。
【0175】
b)グリコシル化変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加させるまたは減少させるように改変されている。抗体へのグリコシル化部位の追加または削除は、1つまたは複数のグリコシル化部位を作り出すまたは取り除くようにアミノ酸配列を改変することにより、簡便に達成可能である。
【0176】
抗体がFc領域を含む場合、そこに付加される炭水化物が改変されてもよい。哺乳動物細胞によって産生される天然型抗体は、典型的には、枝分かれした二分岐のオリゴ糖を含み、当該オリゴ糖は通常Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN-リンケージによって付加されている。例えば、Wright et al. TIBTECH 15: 26-32 (1997) 参照。オリゴ糖は、例えば、マンノース、N‐アセチルグルコサミン (GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸などの種々の炭水化物、また、二分岐のオリゴ糖構造の「幹」中のGlcNAcに付加されたフコースを含む。いくつかの態様において、本発明の抗体中のオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を伴う抗体変異体を作り出すために行われてもよい。
【0177】
一態様において、Fc領域に(直接的または間接的に)付加されたフコースを欠く炭水化物構造体を有する抗体変異体が提供される。例えば、そのような抗体におけるフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%であり得る。フコースの量は、例えばWO2008/077546に記載されるようにMALDI-TOF質量分析によって測定される、Asn297に付加されたすべての糖構造体(例えば、複合、ハイブリッド、および高マンノース構造体)の和に対する、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域の297位のあたりに位置するアスパラギン残基を表す(Fc領域残基のEUナンバリング)。しかし、複数の抗体間のわずかな配列の多様性に起因して、Asn297は、297位の±3アミノ酸上流または下流、すなわち294位~300位の間に位置することもあり得る。そのようなフコシル化変異体は、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.) ;第2004/0093621号 (Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd) を参照のこと。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体変異体に関する刊行物の例は、US2003/0157108; WO2000/61739; WO2001/29246; US2003/0115614; US2002/0164328; US2004/0093621; US2004/0132140; US2004/0110704; US2004/0110282; US2004/0109865; WO2003/085119; WO2003/084570; WO2005/035586; WO2005/035778; WO2005/053742; WO2002/031140; Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336: 1239-1249 (2004); Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004) を含む。脱フコシル化抗体を産生することができる細胞株の例は、タンパク質のフコシル化を欠くLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249: 533-545 (1986);米国特許出願公開第US2003/0157108号A1、Presta, L;およびWO2004/056312A1、Adams et al.、特に実施例11)およびノックアウト細胞株、例えばアルファ-1, 6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004);Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4): 680-688 (2006);およびWO2003/085107を参照のこと)を含む。
【0178】
例えば抗体のFc領域に付加された二分枝型オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている、二分されたオリゴ糖を有する抗体変異体がさらに提供される。そのような抗体変異体は、減少したフコシル化および/または改善されたADCC機能を有し得る。そのような抗体変異体の例は、例えば、WO2003/011878 (Jean-Mairet et al.) ;米国特許第6,602,684号 (Umana et al.);およびUS2005/0123546 (Umana et al.) に記載されている。Fc領域に付加されたオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。そのような抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。そのような抗体変異体は、例えば、WO1997/30087 (Patel et al.);WO1998/58964 (Raju, S.);およびWO1999/22764 (Raju, S.) に記載されている。
【0179】
c)Fc領域変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のFc領域に1つまたは複数のアミノ酸修飾を導入して、それによりFc領域変異体を生成してもよい。Fc領域変異体は、1つまたは複数のアミノ酸ポジションのところでアミノ酸修飾(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0180】
特定の態様において、すべてではないがいくつかのエフェクター機能を備える抗体変異体も、本発明の考慮の内であり、当該エフェクター機能は、抗体を、そのインビボでの半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)は不要または有害である場合の適用に望ましい候補とするものである。CDCおよび/またはADCC活性の減少/欠乏を確認するために、インビトロ および/またはインビボ の細胞傷害測定を行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合測定は、抗体がFcγR結合性を欠く(よってADCC活性を欠く蓋然性が高い)一方でFcRn結合能を維持することを確かめるために行われ得る。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、一方単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9: 457-492 (1991) の第464頁のTable 3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロ測定法(アッセイ)の非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83: 7059-7063 (1986) 参照)および Hellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82: 1499-1502 (1985);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166: 1351-1361 (1987) 参照)に記載されている。あるいは、非放射性の測定法を用いてもよい(例えば、ACT1(商標)non-radioactive cytotoxicity assay for flow cytometry (CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);および、CytoTox 96(登録商標)non-radioactive cytotoxicity assays 法 (Promega, Madison, WI) 参照)。このような測定法に有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell: PBMC) およびナチュラルキラー (natural killer: NK) 細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95: 652-656 (1998) に記載されるような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。また、抗体がC1qに結合できないこと、よってCDC活性を欠くことを確認するために、C1q結合測定を行ってもよい。例えば、WO2006/029879 および WO2005/100402のC1qおよびC3c結合ELISAを参照のこと。また、補体活性化を評価するために、CDC測定を行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1996);Cragg, M.S. et al., Blood 101: 1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103: 2738-2743 (2004) 参照)。さらに、FcRn結合性およびインビボでのクリアランス/半減期の決定も、当該技術分野において知られた方法を用いて行い得る(例えばPetkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12): 1759-1769 (2006) 参照)。
【0181】
減少したエフェクター機能を伴う抗体は、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、および329の1つまたは複数の置換を伴うものを含む(米国特許第6,737,056号)。このようなFc変異体は、残基265および297のアラニンへの置換を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7,332,581号)を含む、アミノ酸ポジション265、269、270、297、および327の2つ以上の置換を伴うFc変異体を含む。
【0182】
FcRsへの増加または減少した結合性を伴う特定の抗体変異体が、記述されている(米国特許第6,737,056号;WO2004/056312、およびShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001) を参照のこと)。
【0183】
特定の態様において、抗体変異体は、ADCCを改善する1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、Fc領域のポジション298、333、および/または334(EUナンバリングでの残基)のところでの置換)を伴うFc領域を含む。
【0184】
いくつかの態様において、例えば米国特許第6,194,551号、WO99/51642、およびIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000) に記載されるように、改変された(つまり、増加したか減少したかのいずれかである)C1q結合性および/または補体依存性細胞傷害 (CDC) をもたらす改変が、Fc領域においてなされる。
【0185】
増加した半減期、および新生児型Fc受容体(FcRn:母体のIgG類を胎児に移行させる役割を負う(Guyer et al., J. Immunol. 117: 587 (1976);Kim et al., J. Immunol. 24: 249 (1994)))に対する増加した結合性を伴う抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934号A1 (Hinton et al.) に記載されている。これらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合性を増加する1つまたは複数の置換をその中に伴うFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434の1つまたは複数のところでの置換(例えば、Fc領域残基434の置換(米国特許第7,371,826号))を伴うものを含む。
【0186】
Fc領域変異体の他の例については、Duncan & Winter, Nature 322: 738-740 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO94/29351も参照のこと。
【0187】
d)システイン改変抗体変異体
特定の態様において、抗体の1つまたは複数の残基がシステイン残基で置換された、システイン改変抗体(例えば、「thioMAbs」)を作り出すことが望ましいだろう。特定の態様において、置換を受ける残基は、抗体の、アクセス可能な部位に生じる。それらの残基をシステインで置換することによって、反応性のチオール基が抗体のアクセス可能な部位に配置され、当該反応性のチオール基は、当該抗体を他の部分(薬剤部分またはリンカー‐薬剤部分など)にコンジュゲートして本明細書でさらに詳述するようにイムノコンジュゲートを作り出すのに使用されてもよい。特定の態様において、以下の残基の任意の1つまたは複数が、システインに置換されてよい:軽鎖のV205(Kabatナンバリング);重鎖のA118(EUナンバリング);および重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されるようにして生成されてもよい。
【0188】
e)抗体誘導体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、当該技術分野において知られておりかつ容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むように、さらに修飾されてもよい。抗体の誘導体化に好適な部分は、これに限定されるものではないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール (PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ1, 3ジオキソラン、ポリ1, 3, 6トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれでも)、および、デキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール類(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、および、これらの混合物を含む。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水に対する安定性のために、製造において有利であるだろう。ポリマーは、いかなる分子量でもよく、枝分かれしていてもしていなくてもよい。抗体に付加されるポリマーの数には幅があってよく、1つ以上のポリマーが付加されるならそれらは同じ分子であってもよいし、異なる分子であってもよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数および/またはタイプは、これらに限定されるものではないが、改善されるべき抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が規定の条件下での療法に使用されるか否か、などへの考慮に基づいて、決定することができる。
【0189】
別の態様において、抗体と、放射線に曝露することにより選択的に熱せられ得る非タンパク質部分との、コンジュゲートが提供される。一態様において、非タンパク質部分は、カーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線はいかなる波長でもよく、またこれらに限定されるものではないが、通常の細胞には害を与えないが抗体‐非タンパク質部分に近接した細胞を死滅させる温度まで非タンパク質部分を熱するような波長を含む。
【0190】
B.組み換えの方法および構成
例えば、米国特許第4,816,567号に記載されるとおり、抗体は組み換えの方法や構成を用いて製造することができる。一態様において、本明細書に記載の抗CTLA-4抗体をコードする、単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードしてもよい。さらなる態様において、このような核酸を含む1つまたは複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。さらなる態様において、このような核酸を含む宿主細胞が提供される。このような態様の1つでは、宿主細胞は、(1) 抗体のVLを含むアミノ酸配列および抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、または、(2) 抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、形質転換されている)。一態様において、宿主細胞は、真核性である(例えば、チャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞)またはリンパ系の細胞(例えば、Y0、NS0、Sp2/0細胞))。一態様において、抗CTLA-4抗体の発現に好適な条件下で、上述のとおり当該抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養すること、および任意で、当該抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを含む、抗CTLA-4抗体を作製する方法が提供される。
【0191】
抗CTLA-4抗体の組み換え製造のために、(例えば、上述したものなどの)抗体をコードする核酸を単離し、さらなるクローニングおよび/または宿主細胞中での発現のために、1つまたは複数のベクターに挿入する。そのような核酸は、従来の手順を用いて容易に単離および配列決定されるだろう(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることで)。
【0192】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞を含む。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合は、細菌で製造してもよい。細菌での抗体断片およびポリペプチドの発現に関して、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号、および第5,840,523号を参照のこと(加えて、大腸菌における抗体断片の発現について記載したCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp.245-254も参照のこと)。発現後、抗体は細菌細胞ペーストから可溶性フラクション中に単離されてもよく、またさらに精製することができる。
【0193】
原核生物に加え、部分的なまたは完全なヒトのグリコシル化パターンを伴う抗体の産生をもたらす、グリコシル化経路が「ヒト化」されている菌類および酵母の株を含む、糸状菌または酵母などの真核性の微生物は、抗体コードベクターの好適なクローニングまたは発現宿主である。Gerngross, Nat. Biotech. 22: 1409-1414 (2004) および Li et al., Nat. Biotech. 24: 210-215 (2006) を参照のこと。
【0194】
多細胞生物(無脊椎生物および脊椎生物)に由来するものもまた、グリコシル化された抗体の発現のために好適な宿主細胞である。無脊椎生物細胞の例は、植物および昆虫細胞を含む。昆虫細胞との接合、特にSpodoptera frugiperda細胞の形質転換に用いられる、数多くのバキュロウイルス株が同定されている。
【0195】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、第6,040,498号、第6,420,548号、第7,125,978号、および第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するための、PLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照のこと。
【0196】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用できる。例えば、浮遊状態で増殖するように適応された哺乳動物細胞株は、有用であろう。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎CV1株 (COS-7);ヒト胎児性腎株(Graham et al., J. Gen Virol. 36: 59 (1977) などに記載の293または293細胞);仔ハムスター腎細胞 (BHK);マウスセルトリ細胞(Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251 (1980) などに記載のTM4細胞);サル腎細胞 (CV1);アフリカミドリザル腎細胞 (VERO-76);ヒト子宮頸部癌細胞 (HELA);イヌ腎細胞 (MDCK);Buffalo系ラット肝細胞 (BRL 3A);ヒト肺細胞 (W138);ヒト肝細胞 (Hep G2);マウス乳癌 (MMT 060562);TRI細胞(例えば、Mather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383: 44-68 (1982) に記載);MRC5細胞;および、FS4細胞などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFR-CHO細胞 (Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4216 (1980)) を含むチャイニーズハムスター卵巣 (CHO) 細胞;およびY0、NS0、およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の総説として、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003) を参照のこと。
【0197】
ポリクローナル抗体は好ましくは、関連する抗原およびアジュバントの複数回の皮下(sc)または腹腔内(ip)注射により動物において産生される。関連する抗原を、免疫化される種において免疫原性であるタンパク質に、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、またはダイズトリプシン阻害因子に、二官能性物質または誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介するコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、またはR1N=C=NR(ここでRおよびR1は異なるアルキル基である)を用いて、コンジュゲートすることが有用であり得る。
【0198】
動物(通常は非ヒト哺乳動物)は、例えば、(ウサギまたはマウスについてそれぞれ) 100 μgまたは5 μgのタンパク質またはコンジュゲートを3倍容量のフロイント完全アジュバントと組み合わせてその溶液を複数部位に皮内注射することによって、抗原、免疫原性コンジュゲート、または誘導体に対して免疫化される。1ヶ月後、複数部位に皮下注射することによって、最初の量の1/5~1/10の、フロイント完全アジュバント中のペプチドまたはコンジュゲートで該動物を追加免疫する。7~14日後、該動物から採血し、血清を抗体力価についてアッセイする。力価がプラトーに達するまで動物を追加免疫する。好ましくは、同一抗原であるが別のタンパク質にコンジュゲートされたおよび/または別の架橋試薬を介してコンジュゲートされたコンジュゲートを用いて、該動物を追加免疫する。コンジュゲートは、組み換え細胞培養物中でタンパク質融合体として調製することも可能である。また、免疫応答を増強するために、ミョウバンなどの凝集剤も好適に使用される。
【0199】
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られ、すなわち、該集団を構成する個々の抗体は、若干量存在しうる自然に生じる潜在的な突然変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。したがって、修飾語「モノクローナル」は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示している。
【0200】
例えば、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature 256(5517): 495-497 (1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製することができる。ハイブリドーマ法では、マウスまたは他の適切な宿主動物、例えばハムスターを本明細書に上記したように免疫化して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を製造するか製造する能力があるリンパ球を誘導する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化することもできる。
【0201】
免疫化剤は、典型的には、抗原タンパク質またはその融合変異体を包含する。一般的に、ヒト起源の細胞が望まれる場合には末梢血リンパ球(PBL)が使用され、非ヒト哺乳動物源が望まれる場合には脾臓細胞またはリンパ節細胞が使用される。その後、リンパ球は、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて不死化細胞株と融合され、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press (1986), pp. 59-103)。
【0202】
不死化細胞株は通常、形質転換された哺乳動物細胞、特に、げっ歯類、ウシおよびヒト起源のミエローマ細胞である。通常は、ラットまたはマウスのミエローマ細胞株が利用される。このようにして作製されたハイブリドーマ細胞を、未融合の親ミエローマ細胞の増殖または生存を阻害する1種以上の物質を好ましくは含有する適切な培養培地中に播種して増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマ用の培養培地は、典型的には、HGPRT欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジン(HAT培地)を含むであろう。
【0203】
好ましい不死化ミエローマ細胞とは、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの製造を補助し、かつHAT培地のような培地に対して感受性である、細胞である。これらの中でも、マウスミエローマ株、例えば、米国カリフォルニア州サンディエゴのSalk Institute Cell Distribution Centerから入手できるMOPC-21およびMPC-11マウス腫瘍に由来するもの、ならびに米国バージニア州マナッサスのAmerican Type Culture Collectionから入手できるSP-2細胞(およびその誘導体、例えばX63-Ag8-653)が好ましい。ヒトモノクローナル抗体の製造について、ヒトミエローマ細胞株およびマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株もまた、記載されている(Kozbor et al., J Immunol. 133(6): 3001-3005 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York, pp. 51-63 (1987))。
【0204】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地を、抗原に対するモノクローナル抗体の製造についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により製造されたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、またはインビトロ結合測定法、例えば放射免疫測定法(RIA)もしくは酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって決定される。このような技術および測定法は当技術分野で公知である。例えば、結合アフィニティは、Munson, Anal Biochem. 107(1): 220-239 (1980)のスキャッチャード(Scatchard)解析によって求めることができる。
【0205】
所望の特異性、アフィニティ、および/または活性の抗体を製造するハイブリドーマ細胞が特定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングして、標準的な方法(Goding、前掲)により増殖させることができる。この目的のための適切な培養培地としては、例えば、D-MEMまたはRPMI-1640培地が挙げられる。また、ハイブリドーマ細胞は哺乳動物内の腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
【0206】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、培養培地、腹水、または血清から、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製法によって、適切に分離される。
【0207】
抗体は、適切な宿主動物を抗原に対して免疫化することによって産生してもよい。一態様において、抗原は、全長CTLA-4を含むポリペプチドである。一態様において、抗原は、可溶型CTLA-4を含むポリペプチドである。一態様において、抗原は、ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の97番目のアミノ酸(Glu)から106番目のアミノ酸(Leu)に対応する領域を含むポリペプチドである。一態様において、抗原は、ヒトCTLA-4(細胞外ドメイン、配列番号:28)の99番目のアミノ酸(Met)から106番目のアミノ酸(Leu)に対応する領域を含むポリペプチドである。本発明にはまた、抗原に対して動物を免疫化することによって産生される抗体も包含される。抗体は、上述の例示的抗CTLA-4抗体に記載の任意の特徴を、単独または組み合わせで、組み込んでいてもよい。
【0208】
C.測定法(アッセイ)
本明細書で提供される抗CTLA-4抗体は、当該技術分野において知られている種々の測定法によって、同定され、スクリーニングされ、または物理的/化学的特性および/または生物学的活性について明らかにされてもよい。
【0209】
1.結合測定法およびその他の測定法
一局面において、本発明の抗体は、例えばELISA、ウエスタンブロット、表面プラズモン共鳴アッセイ等の公知の方法によって、その抗原結合活性に関して試験される。
【0210】
別の局面において、CTLA-4への結合に関して、本明細書に記載の抗CTLA-4抗体(例えば、表4、表9、表14、および表19に記載の抗CTLA-4抗体)と競合する抗体を同定するために、競合アッセイが使用され得る。特定の態様において、そのような競合抗体が過剰に存在する場合、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、またはそれを超えて、CTLA-4への参照抗体の結合が阻止される(例えば、低減する)。いくつかの例において、結合は、少なくとも80%、85%、90%、95%、またはそれを超えて阻害される。特定の態様において、そのような競合抗体は、本明細書に記載の抗CTLA-4抗体(例えば、表4、表9、表14、および表19に記載の抗CTLA-4抗体)によって結合されるのと同じエピトープ(例えば、線状または立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングする、詳細な例示的方法は、Morris (1996) "Epitope Mapping Protocols," in Methods in Molecular Biology vol. 66 (Humana Press, Totowa, NJ)に提供されている。
【0211】
例示的な競合アッセイにおいて、固定化されたCTLA-4は、CTLA-4に結合する第1の標識された抗体、およびCTLA-4への結合に関して第1の抗体と競合する能力に関して試験される第2の未標識の抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマ上清に存在し得る。対照として、固定化されたCTLA-4が、第1の標識された抗体を含むが第2の未標識の抗体を含まない溶液中でインキュベートされる。第1の抗体のCTLA-4に対する結合を許容する条件下でのインキュベーションの後、余分な未結合の抗体が除去され、固定化されたCTLA-4に結合した標識の量が測定される。固定化されたCTLA-4に結合した標識の量が対照サンプルと比較して試験サンプルにおいて実質的に減少している場合、それは第2の抗体がCTLA-4への結合に関して第1の抗体と競合していることを示す。Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY) を参照のこと。
【0212】
2.活性測定法
一局面において、生物学的活性を有する抗CTLA-4抗体のそれを同定するための測定法が提供される。生物学的活性は、例えば、細胞増殖阻害活性、細胞傷害活性(例えば、ADCC/CDC活性、ADCP活性)、免疫賦活化活性、CTLA-4阻害活性を含んでよい。また、このような生物学的活性をインビボおよび/またはインビトロで有する抗体が、提供される。
【0213】
特定の態様において、本発明の抗体は、このような生物学的活性について試験される。
【0214】
特定の態様において、本発明の抗体は、インビトロで細胞成長または増殖を阻害するその能力に関して試験される。細胞成長または増殖の阻害の測定法は、当技術分野で周知である。本明細書に記載される「細胞殺傷」測定法によって例示される、特定の細胞増殖測定法は、細胞生存度を測定する。1つのそのような測定法は、Promega(Madison, WI)から市販されているCellTiter-Glo(商標)Luminescent Cell Viability Assayである。この測定法は、代謝的に活性な細胞の指標であるATPの存在量に基づき、培養物中の生細胞の数を決定する。Crouch et al (1993) J. Immunol. Meth. 160: 81-88、米国特許第6,602,677号を参照のこと。測定法を、自動化されたハイスループットスクリーニング(high-throughput screening: HTS)に対応可能となる96または384ウェル形式で行ってもよい。Cree et al (1995) AntiCancer Drugs 6: 398-404を参照のこと。アッセイ手順は、培養細胞に直接、単一の試薬(CellTiter-Glo(登録商標)試薬)を添加することを含む。これにより細胞が溶解し、ルシフェラーゼ反応により発光シグナルが生じる。発光シグナルは、培養物中に存在する生細胞の数に正比例するATPの存在量に比例する。データは、ルミノメーターまたはCCDカメラ撮像装置によって記録され得る。発光値は、相対発光量(relative light unit: RLU)によって表される。
【0215】
別の細胞増殖測定法は、ミトコンドリアレダクターゼによる3-(4, 5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2, 5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドからホルマザンへの酸化を測定する比色測定法である、「MTT」アッセイである。CellTiter-Glo(商標)アッセイと同様、この測定法は、細胞培養物中に存在する代謝的に活性な細胞の数を示す。例えば、Mosmann (1983) J. Immunol. Meth. 65: 55-63およびZhang et al. (2005) Cancer Res. 65: 3877-3882を参照のこと。
【0216】
上記のインビトロ測定法の任意のものにおいて使用する細胞は、天然にCTLA-4を発現するまたはCTLA-4を発現するよう操作された細胞または細胞株を含む。そのような細胞はまた、CTLA-4を発現する細胞株および通常はCTLA-4を発現しないがCTLA-4をコードする核酸でトランスフェクトされた細胞株を含む。
【0217】
一局面において、抗CTLA-4抗体は、インビボで細胞成長または増殖を阻害するその能力に関して試験される。特定の態様において、抗CTLA-4抗体は、インビボで腫瘍成長を阻害するその能力に関して試験される。異種移植モデルなどのインビボモデルシステムが、そのような試験に使用され得る。例示的な異種移植システムにおいて、ヒト腫瘍細胞を、適切に免疫不全化された非ヒト動物、例えば無胸腺「ヌード」マウスに導入する。本発明の抗体を、この動物に投与する。腫瘍成長を阻害するまたは減少させる抗体の能力を測定する。上記の異種移植システムの特定の態様において、ヒト腫瘍細胞は、ヒト患者由来の腫瘍細胞である。そのような異種移植モデルは、Oncotest GmbH(Frieberg, Germany)から市販されている。特定の態様において、ヒト腫瘍細胞は、皮下注射によってまたは乳房脂肪パッドなどの適切な部位への移植によって、適切に免疫不全化された非ヒト動物に導入される。
【0218】
上記の測定法のいずれのものも、抗CTLA-4抗体の代わりにまたは抗CTLA-4抗体に加えて本発明のイムノコンジュゲートを用いて実施され得ることが理解される。
【0219】
治療用抗体のADCC活性を測定するための代表的アッセイは、51Cr放出アッセイに基づくものであり、次のステップを含む:標的細胞を[51Cr]Na2CrO4で標識するステップ;細胞表面上に抗原を発現する標的細胞を抗体によりオプソニン化するステップ;被験抗体の存在下または非存在下で、マイクロタイタープレートにおいて、オプソニン化された放射性標識標的細胞とエフェクター細胞を好適な比で組み合わせるステップ;細胞の混合物を好ましくは16~18時間、好ましくは37℃でインキュベートするステップ;上清を回収するステップ;および上清サンプル中の放射活性を分析するステップ。その後、被験抗体の細胞傷害性を、例えば、次式により決定する:比細胞傷害率(%)=(抗体存在下での放射活性-抗体非存在下での放射活性)/(最大放射活性-抗体非存在下での放射活性)×100。標的細胞:エフェクター細胞比または抗体濃度を変えることによってグラフを作成することができる。
【0220】
補体の活性化を評価するために、補体依存性細胞毒性(CDC)アッセイを、例えばGazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163 (1996) に記載されているように実施することができる。簡潔に言えば、様々の濃度のポリペプチド変異体とヒト補体がバッファーで希釈される。ポリペプチド変異体が結合する抗原を発現する細胞を~1×106細胞/mlの密度まで希釈する。ポリペプチド変異体、希釈ヒト補体及び抗原発現細胞の混合物を平底組織培養96ウェルプレートに添加し、37℃と5%のCO2で2時間インキュベートさせ、補体媒介細胞溶解を促進する。ついで、50 μlのアラマーブルー(Accumed International)を各ウェルに添加して37℃で一晩インキュベートする。530nmでの励起と590nmでの発光を伴う96ウェルのフルオロメータを使用して吸光度を測定する。結果は相対蛍光単位(RFU)で表現される。試料濃度は標準曲線から算定することができ、非変異体ポリペプチドと比較した活性パーセントが興味あるポリペプチド変異体に対して報告される。
【0221】
ADCP活性の例示的なアッセイ法は、以下を含むことができる:大腸菌-標識FITC(Molecular Probes)又は黄色ブドウ球菌-FITCなどの標的生体粒子を、被験抗体で被覆し;オプソニン化した粒子を形成し;上述のオプソニン化粒子をTHP-1エフェクター細胞(単球細胞系、ATCCより入手可能)に1:1、10:1、30:1、60:1、75:1、又は100:1の比で添加して、FcγR介在食作用を発生させ;好ましくは該細胞と大腸菌-FITC/抗体を37℃で1.5時間インキュベートし;インキュベーション後、細胞にトリパンブルーを添加して(好ましくは室温で2~3分)、内部に取り込まれないで細胞表面の外側に付着した細菌の蛍光を消失させ;細胞をFACSバッファー(例えば、PBS中の0.1% BSA、0.1% アジ化ナトリウム)中に移し、FACS(例えば、BD FACS Calibur)を用いてTHP-1細胞の蛍光をアッセイする。ADCPの程度をアッセイするため、ゲートを好ましくはTHP-1細胞上に設定し、蛍光強度の中央値を測定する。最も好ましい実施形態では、ADCPアッセイを、培地中の大腸菌-FITC(対照)、大腸菌-FITC及びTHP-1細胞(FcγR非依存性ADCP活性として使用する)、大腸菌-FITC、THP-1細胞及び被験抗体(FcγR依存性ADCP活性として使用する)を用いて実施する。
【0222】
抗体による細胞傷害活性には、通常、細胞表面への抗体の結合が伴う。標的となる細胞の表面に抗原が発現しているかどうかは、FACSなど当業者公知の手法により適宜確認することができる。
【0223】
免疫の活性化は、細胞性免疫反応あるいは体液性免疫反応を指標に検出することができる。具体的には、サイトカイン(例えば、IL-6、G-CSF、IL-12、TNFαおよびIFNγなど)あるいはそれらの受容体の発現量の増大、免疫細胞(例えば、B細胞、T細胞、NK細胞、マクロファージ、単球など)の増殖促進、活性化状態の亢進、機能亢進、または細胞傷害活性の増強などを含む。特に、T細胞の活性化は、CD25、CD69およびICOSなどの活性化マーカーの発現亢進を測定することにより検出され得る。例えば、抗CTLA-4抗体であるipilimumabを投与された患者は、投与後に末梢血中のICOS+ CD4+ T細胞が増加する事が知られており、これは抗CTLA-4抗体投与による全身の免疫状態の活性化の影響と考えられる(Cancer Immunol. Res. (2013) 1(4): 229-234)。
【0224】
T細胞の活性化には、抗原レセプター(TCR)を介した刺激だけでなく、CD28を介した補助刺激が必要となる。T細胞表面のCD28が、抗原提示細胞の表面に存在するB7-1(CD80)あるいはB7-2(CD86)と結合すると、T細胞内に補助シグナルが伝えられて、T細胞は活性化される。一方で,活性化したT細胞の表面にはCTLA-4が発現する。CTLA-4はCD28 より強い親和性をもってCD80やCD86 と結合するため、CD28よりも優先的にCD80やCD86と相互作用し,結果的にT細胞の活性化を抑制する。
【0225】
そのような作用メカニズムから、CTLA-4に対する阻害活性は、CTLA-4とCD80あるいはCD86との結合を阻害する活性として測定することができる。一態様において、CTLA-4に対する阻害活性を測定するためのアッセイは以下のステップを含む:精製CTLA-4タンパク質をマイクロタイタープレートや磁性ビーズなどの支持体に結合させる工程、被験抗体および標識した可溶性CD80またはCD86を添加するステップ、未結合成分を洗い流すステップ、および結合した標識CD80またはCD86を定量するステップ。被験抗体がCD28と交叉反応するか否かは、CTLA-4をCD28で置き換えた同様なアッセイを実施して確認することができる。また、別の態様において、前述したようなT細胞の活性化を検出する機能アッセイを用いても、CTLA-4に対する阻害活性を測定することができる。例えば、CD80またはCD86を発現している細胞でT細胞集団を刺激してT細胞の活性化を測定する系において、そこにCTLA-4阻害活性を有する被験抗体が添加された場合、T細胞の活性化のさらなる増強がもたらされる。
【0226】
D.イムノコンジュゲート
本発明はまた、1つまたは複数の細胞傷害剤(例えば化学療法剤または化学療法薬、増殖阻害剤、毒素(例えば細菌、真菌、植物もしくは動物起源のタンパク質毒素、酵素的に活性な毒素、もしくはそれらの断片)または放射性同位体)にコンジュゲートされた本明細書の抗CTLA-4抗体を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0227】
一態様において、イムノコンジュゲートは、抗体が、これらに限定されるものではないが以下を含む1つまたは複数の薬剤にコンジュゲートされた、抗体-薬剤コンジュゲート (antibody-drug conjugate: ADC) である:メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、第5,416,064号、および欧州特許第0,425,235号B1参照);例えばモノメチルオーリスタチン薬剤部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)(米国特許第5,635,483号および第5,780,588号および第7,498,298号参照)などのオーリスタチン;ドラスタチン;カリケアマイシンまたはその誘導体(米国特許第5,712,374号、第5,714,586号、第5,739,116号、第5,767,285号、第5,770,701号、第5,770,710号、第5,773,001号、および第5,877,296号;Hinman et al., Cancer Res. 53: 3336-3342 (1993);ならびにLode et al., Cancer Res. 58: 2925-2928 (1998) 参照);ダウノマイシンまたはドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz et al., Current Med. Chem. 13: 477-523 (2006);Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16: 358-362 (2006);Torgov et al., Bioconj. Chem. 16: 717-721 (2005);Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 829-834 (2000);Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12: 1529-1532 (2002);King et al., J. Med. Chem. 45: 4336-4343 (2002);および米国特許第6,630,579号参照);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、およびオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;ならびにCC1065。
【0228】
別の態様において、イムノコンジュゲートは、これらに限定されるものではないが以下を含む酵素的に活性な毒素またはその断片にコンジュゲートされた、本明細書に記載の抗体を含む:ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa) 由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ (Aleurites fordii) タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ (Phytolacca americana) タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ツルレイシ (momordica charantia) 阻害剤、クルシン (curcin)、クロチン、サボンソウ (saponaria officinalis) 阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン (mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、ならびにトリコテセン。
【0229】
別の態様において、イムノコンジュゲートは、放射性コンジュゲートを形成するために放射性原子にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗体を含む。様々な放射性同位体が放射性コンジュゲートの製造に利用可能である。例は、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体を含む。放射性コンジュゲートを検出のために使用する場合、放射性コンジュゲートは、シンチグラフィー検査用の放射性原子(例えばTc-99mもしくは123I)、または、核磁気共鳴 (NMR) イメージング(磁気共鳴イメージング、MRIとしても知られる)用のスピン標識(例えばここでもヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン、または鉄)を含み得る。
【0230】
抗体および細胞傷害剤のコンジュゲートは、様々な二官能性タンパク質連結剤を用いて作製され得る。例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート (SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート (SMCC)、イミノチオラン (IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2, 6-ジイソシアネート)、およびビス活性フッ素化合物(例えば、1, 5-ジフルオロ-2, 4-ジニトロベンゼン)である。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al., Science 238: 1098 (1987) に記載されるようにして調製され得る。炭素-14標識された1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸 (MX-DTPA) は、抗体への放射性核種のコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照のこと。リンカーは、細胞内での細胞傷害薬の放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res. 52: 127-131 (1992);米国特許第5,208,020号)が使用され得る。
【0231】
本明細書のイムノコンジュゲートまたはADCは、(例えば、Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aから)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、ならびにSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されるコンジュゲートを明示的に考慮するが、これらに限定されない。
【0232】
E.診断および検出のための方法および組成物
特定の態様において、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体のいずれも、生物学的サンプルにおけるCTLA-4の存在を検出するのに有用である。本明細書で用いられる用語「検出」は、定量的または定性的な検出を包含する。特定の態様において、生物学的サンプルは、細胞または組織、例えば、血清、全血、血奬、生検試料、組織試料、細胞懸濁液、唾液、痰、口腔液、脳脊髄液、羊水、腹水、乳汁、初乳、乳腺分泌物、リンパ液、尿、汗、涙液、胃液、関節液、腹水、眼液、または粘液を含む。
【0233】
一態様において、診断方法または検出方法において使用するための抗CTLA-4抗体が提供される。さらなる局面において、生物学的サンプル中のCTLA-4の存在を検出する方法が提供される。特定の態様において、この方法は、CTLA-4への抗CTLA-4抗体の結合が許容される条件下で本明細書に記載の抗CTLA-4抗体と生物学的サンプルを接触させること、および抗CTLA-4抗体とCTLA-4の間で複合体が形成されたかどうかを検出することを含む。そのような方法は、インビトロの方法またはインビボの方法であり得る。一態様において、抗CTLA-4抗体は、例えばCTLA-4が患者を選択するためのバイオマーカーである場合、抗CTLA-4抗体を用いる治療に適合する対象を選択するために使用される。
【0234】
本発明の抗体を、例えば免疫応答の状態のチェックや免疫系の機能不全の診断などに用い得る。
【0235】
特定の態様において、標識された抗CTLA-4抗体が提供される。標識は、直接的に検出される標識または部分(例えば、蛍光標識、発色標識、高電子密度標識、化学発光標識、および放射性標識)ならびに、例えば酵素反応または分子間相互作用を通じて間接的に検出される部分(例えば酵素またはリガンド)を含むが、これらに限定されない。例示的な標識は、これらに限定されるものではないが、以下を含む:放射性同位体32P、14C、125I、3Hおよび131I、希土類キレートなどの発蛍光団またはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)などのルシフェラーゼ、ルシフェリン、2, 3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ (horseradish peroxidase: HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、単糖オキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼなどの複素環オキシダーゼ、過酸化水素を用いて色素前駆体を酸化する酵素(例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、またはミクロペルオキシダーゼ)と連結されたもの、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカル類、ならびにこれらに類するもの。
【0236】
F.薬学的製剤
本明細書に記載の抗CTLA-4抗体の薬学的製剤は、所望の純度を有する抗体を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。一局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0237】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
【0238】
本明細書の製剤は、治療される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0239】
有効成分は、例えば液滴形成(コアセルベーション)手法によってまたは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(それぞれ、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、およびポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)に取り込まれてもよいし、コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に取り込まれてもよいし、マクロエマルションに取り込まれてもよい。このような手法は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980) に開示されている。
【0240】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体を含んだ固体疎水性ポリマーの半透過性マトリクスを含み、当該マトリクスは例えばフィルムまたはマイクロカプセルなどの造形品の形態である。
【0241】
生体内 (in vivo) 投与のために使用される製剤は、通常無菌である。無菌状態は、例えば滅菌ろ過膜を通して濾過することなどにより、容易に達成される。
【0242】
G.治療的方法および治療用組成物
本明細書で提供される抗CTLA-4抗体のいずれも、治療的な方法において使用されてよい。
一局面において、医薬品としての使用のための、抗CTLA-4抗体が提供される。さらなる局面において、腫瘍の治療における使用のための、抗CTLA-4抗体が提供される。特定の態様において、治療方法における使用のための、抗CTLA-4抗体が提供される。特定の態様において、本発明は、腫瘍を有する個体を治療する方法であって、当該個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む方法における使用のための、抗CTLA-4抗体を提供する。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。さらなる態様において、本発明は、細胞の傷害における使用のための抗CTLA-4抗体を提供する。特定の態様において、本発明は、個体において細胞を傷害する方法であって、細胞を傷害するために当該個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む方法における使用のための、抗CTLA-4抗体を提供する。さらなる態様において、本発明は、免疫の活性化における使用のための抗CTLA-4抗体を提供する。特定の態様において、本発明は、個体において免疫を活性化する方法であって、免疫を活性化するために当該個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む方法における使用のための、抗CTLA-4抗体を提供する。上記態様の任意のものによる「個体」は、好適にはヒトである。
【0243】
いくつかの態様において、腫瘍は固形腫瘍である。固形腫瘍においては、通常、腫瘍細胞が増殖して集団となり、それらが主体となって腫瘍組織が形成される。また、生体内の腫瘍組織には、多くの場合、リンパ球などの免疫細胞が浸潤しており、それらもまた腫瘍組織の一部を構成している。いくつかの態様において、腫瘍組織内に免疫細胞、特に制御性T(Treg)細胞が浸潤している。一態様において、細胞への傷害はADCC活性、CDC活性、またはADCP活性により惹起される。一態様において、CTLA-4を細胞表面に発現する細胞が傷害される。さらなる態様において、傷害される細胞はTreg細胞である。特定の態様において、腫瘍組織内に浸潤しているTreg細胞が傷害される。一態様において、Treg細胞が傷害されることにより免疫が活性化される(Treg細胞による免疫抑制が解除される)。さらなる態様において、腫瘍組織における免疫(特に抗腫瘍免疫)が活性化される。いくつかの態様において、免疫の活性化はT細胞の活性化である。
【0244】
さらなる局面において、本発明の抗CTLA-4抗体によってもたらされる医薬品としての効果の程度は、個体内の組織によって異なる。特定の態様において、組織内のアデノシン含有化合物の濃度に応じて、その程度が変化する。さらなる態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織に比べて、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織において、その効果が増大する。アデノシン含有化合物の濃度が高い組織として、例えば腫瘍組織が挙げられる。アデノシン含有化合物の濃度が低い組織として、例えば正常組織などの非腫瘍組織が挙げられる。いくつかの態様において、非腫瘍組織に比べて、腫瘍組織においてより強く免疫が活性化される。このような反応の違いは、抗CTLA-4抗体の全ての用量で観察される必要はなく、ある特定の範囲の用量で観察されればよい。別の態様において、非腫瘍組織に比べて、腫瘍組織においてより低い用量で免疫が活性化される。また、別の態様において、副作用が観察されるよりも低い用量で、治療効果が観察される。特定の態様において、治療効果とは抗腫瘍効果(例えば、腫瘍の退縮、腫瘍細胞に対する細胞死の誘導あるいは増殖抑制など)の発現であり、副作用とは自己免疫疾患(過剰な免疫応答による正常組織への傷害を含む)の発症である。
【0245】
さらなる局面において、本発明の抗CTLA-4抗体によってもたらされる医薬品としての効果の程度は、アデノシン含有化合物依存的な(すなわち、アデノシン含有化合物の濃度に応じて変化する)CTLA-4に対する結合活性を有しているか否かによって異なる。いくつかの態様において、本発明の抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物の濃度が高まるにつれてCTLA-4に対する結合活性が増大する抗体である。いくつかの態様において、対照となる抗CTLA-4抗体は、アデノシン含有化合物の濃度に依存したCTLA-4結合活性を有していない抗体である。特定の態様において、アデノシン含有化合物の濃度に依存したCTLA-4結合活性を有していない抗体とは、当該化合物の存在下と非存在下におけるCTLA-4結合活性の差が、例えば2倍より小さい、1.8倍より小さい、1.5倍より小さい、1.3倍より小さい、1.2倍より小さい、または1.1倍より小さい抗体を意味する。本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、十分量のアデノシン含有化合物の存在下におけるCTLA-4結合活性が互いに実質的に等しいことが望ましい。
【0246】
特定の局面において、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、各抗体によってもたらされる医薬品としての効果が異なる。特定の態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織において、医薬品としての効果が異なる。アデノシン含有化合物の濃度が低い組織として、例えば正常組織などの非腫瘍組織が挙げられる。抗CTLA-4抗体は、それを含む薬学的製剤としても提供され得る。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織においては、対照となる抗CTLA-4抗体と比較して、本発明の抗CTLA-4抗体では、免疫の活性化のレベルが低い。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織においては、対照となる抗CTLA-4抗体と比較して、本発明の抗CTLA-4抗体では、免疫を活性化するために必要な用量が高い。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織においては、対照となる抗CTLA-4抗体と比較して、本発明の抗CTLA-4抗体では、副作用のレベルが低い。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が低い組織においては、対照となる抗CTLA-4抗体と比較して、本発明の抗CTLA-4抗体では、副作用が観察される際の用量が高い。このような反応の違いは、全ての組織(例えば、アデノシン含有化合物の濃度が低い全ての組織)で観察される必要はなく、いくつかの組織で観察されればよい。特定の態様において、副作用は自己免疫疾患(過剰な免疫応答による正常組織への傷害を含む)である。
【0247】
特定の局面において、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、各抗体によってもたらされる医薬品としての効果が実質的に等しい。特定の態様において、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織において、医薬品としての効果が実質的に等しい。アデノシン含有化合物の濃度が高い組織として、例えば腫瘍組織が挙げられる。抗CTLA-4抗体は、それを含む薬学的製剤として提供され得る。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織においては、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、免疫の活性化のレベルが実質的に等しい。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織においては、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、免疫を活性化するために必要な用量が実質的に等しい。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織においては、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、治療効果のレベルが実質的に等しい。いくつかの態様において、アデノシン含有化合物の濃度が高い組織においては、本発明の抗CTLA-4抗体と、対照となる抗CTLA-4抗体とでは、治療効果が観察される際の用量が実質的に等しい。特定の態様において、治療効果とは抗腫瘍効果(例えば、腫瘍の退縮、腫瘍細胞に対する細胞死の誘導あるいは増殖抑制など)の発現である。
【0248】
特定の態様において、腫瘍は乳癌および肝癌からなる群より選択される。
【0249】
さらなる局面において、本発明は医薬品の製造または調製における抗CTLA-4抗体の使用を提供する。一態様において、医薬品は、腫瘍の治療のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、腫瘍を治療する方法であって、腫瘍を有する個体に医薬品の有効量を投与する工程を含む方法における使用のためのものである。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。さらなる態様において、医薬品は、細胞の傷害のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、個体において細胞を傷害する方法であって、細胞を傷害するために当該個体に医薬品の有効量を投与する工程を含む方法における使用のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、免疫の活性化のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、個体において免疫を活性化する方法であって、免疫を活性化するために当該個体に医薬品の有効量を投与する工程を含む方法における使用のためのものである。上記態様の任意のものによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0250】
さらなる局面において、本発明は腫瘍を治療する方法を提供する。一態様において、方法は、そのような腫瘍を有する個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む。そのような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。上記態様の任意のものによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0251】
さらなる局面において、本発明は個体において細胞を傷害するための方法を提供する。一態様において、方法は、細胞を傷害するために個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む。さらなる局面において、本発明は個体において免疫を活性化するための方法を提供する。一態様において、方法は、免疫を活性化するために個体に抗CTLA-4抗体の有効量を投与する工程を含む。一態様において、「個体」は、ヒトである。
【0252】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の任意のものを含む、薬学的製剤を提供する(例えば上述の治療的方法の任意のものにおける使用のための)。一態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の任意のものと、薬学的に許容される担体とを含む。一態様において、本発明は、腫瘍の治療における使用のための薬学的製剤を提供する。一態様において、本発明は、細胞の傷害における使用のための薬学的製剤を提供する。一態様において、本発明は、免疫の活性化における使用のための薬学的製剤を提供する。別の態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の任意のものと、少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤とを含む。
【0253】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で提供される抗CTLA-4抗体の任意のものを、薬学的に許容される担体と混合する工程を含む、医薬品または薬学的製剤を調製するための方法を提供する(例えば上述の治療的方法の任意のものにおける使用のための)。一態様において、医薬品または薬学的製剤を調製するための方法は、少なくとも1種の追加の治療剤を医薬品または薬学的製剤に添加する工程を、さらに含む。
【0254】
本発明の抗体は、療法において、単独または他の剤との組み合わせのどちらでも使用され得る。例えば、本発明の抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。特定の態様において、追加治療剤は、免疫チェックポイント阻害剤、EGFR阻害剤、HER2阻害剤、または化学療法剤である。免疫チェックポイント阻害剤としては、例えば抗CTLA-4阻害剤、抗PD-1阻害剤、抗PD-L1阻害剤、抗PD-L2阻害剤、抗TIM-3阻害剤、抗LAG-3阻害剤、抗TIGIT阻害剤、抗BTLA阻害剤、抗VISTA阻害剤などを挙げることができる。抗CTLA-4阻害剤としては、例えばipilimumab、tremelimumabなどを挙げることができる。抗PD-1阻害剤としては、例えばnivolumab、pembrolizumabなどを挙げることができる。抗PD-L1阻害剤としては、例えばatezolizumab、durvalumab、avelumabなどを挙げることができる。抗PD-L2阻害剤としては、例えば抗PD-L2阻害抗体を挙げることができる。抗TIM-3阻害剤としては、例えば抗TIM-3阻害抗体を挙げることができる。抗LAG-3阻害剤としては、例えば抗LAG-3阻害抗体を挙げることができる。抗TIGIT阻害剤としては、例えば抗TIGIT阻害抗体を挙げることができる。抗BTLA阻害剤としては、例えば抗BTLA阻害抗体を挙げることができる。抗VISTA阻害剤としては、例えば抗VISTA阻害抗体を挙げることができる。EGFR阻害剤としては、例えばcetuximab、panitumumab、nimotuzumab、necitumumab、zalutumumabなどを挙げることができる。HER2阻害剤としては、例えばtrastuzumab、trastuzumab emtansine、pertuzumabなどを挙げることができる。
【0255】
上述したような併用療法は、併用投与(2つ以上の治療剤が、同じまたは別々の製剤に含まれる)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、本発明の抗体の投与が追加治療剤の投与に先立って、追加治療剤の投与と同時に、および/または、追加治療剤の投与に続いて、行われ得る。一態様において、抗CTLA-4抗体の投与および追加治療剤の投与は、それぞれの約1か月以内、または約1、2、または3週間以内、または約1、2、3、4、5、または6日以内に行われる。本発明の抗体は、放射線療法と組み合わせて使用されることもできる。
【0256】
本発明の抗体(および、任意の追加治療剤)は、非経口投与、肺内投与、および経鼻投与、また局所的処置のために望まれる場合は病巣内投与を含む、任意の好適な手段によって投与され得る。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与を含む。投薬は、投与が短期か長期かに一部応じて、例えば、静脈内注射または皮下注射などの注射によるなど、任意の好適な経路によってなされ得る。これらに限定されるものではないが、単回投与または種々の時点にわたる反復投与、ボーラス投与、および、パルス注入を含む、種々の投薬スケジュールが本明細書の考慮の内である。
【0257】
本発明の抗体は、優良医療規範 (good medical practice) に一致したやり方で、製剤化され、投薬され、また投与される。この観点から考慮されるべきファクターは、治療されているその特定の障害、治療されているその特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、剤を送達する部位、投与方法、投与のスケジュール、および医療従事者に公知の他のファクターを含む。抗体は、必ずしもそうでなくてもよいが、任意で、問題の障害を予防するまたは治療するために現に使用されている1つまたは複数の剤とともに、製剤化される。そのような他の剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害または治療のタイプ、および上で論じた他のファクターに依存する。これらは通常、本明細書で述べたのと同じ用量および投与経路で、または本明細書で述べた用量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の用量および任意の経路で、使用される。
【0258】
疾患の予防または治療のために、本発明の抗体の適切な用量(単独で用いられるときまたは1つまたは複数の他の追加治療剤とともに用いられるとき)は、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、抗体が予防的目的で投与されるのか治療的目的で投与されるのか、薬歴、患者の臨床歴および抗体に対する応答、ならびに、主治医の裁量に依存するだろう。抗体は、患者に対して、1回で、または一連の処置にわたって、好適に投与される。疾患のタイプおよび重症度に応じて、例えば、1回または複数回の別々の投与によるにしても連続注入によるにしても、約1 μg/kgから15 mg/kg(例えば、0.1 mg/kg~10 mg/kg)の抗体が、患者に対する投与のための最初の候補用量とされ得る。1つの典型的な1日用量は、上述したファクターに依存して、約1 μg/kgから100 mg/kg以上まで、幅があってもよい。数日またはより長くにわたる繰り返しの投与の場合、状況に応じて、治療は通常疾患症状の所望の抑制が起きるまで維持される。抗体の1つの例示的な用量は、約0.05 mg/kg から約10 mg/kgの範囲内である。よって、約0.5 mg/kg、2.0 mg/kg、4.0 mg/kg、もしくは10 mg/kgの1つまたは複数の用量(またはこれらの任意の組み合わせ)が、患者に投与されてもよい。このような用量は、断続的に、例えば1週間毎にまたは3週間毎に(例えば、患者が約2から約20、または例えば約6用量の抗体を受けるように)、投与されてもよい。高い初回負荷用量の後に、1回または複数回の低用量が投与されてもよい。この療法の経過は、従来の手法および測定法によって、容易にモニタリングされる。
【0259】
上述の製剤または治療的方法のいずれについても、抗CTLA-4抗体の代わりにまたはそれに追加して、本発明のイムノコンジュゲートを用いて実施してもよいことが、理解されよう。
【0260】
H.製品
本発明の別の局面において、上述の障害の治療、予防、および/または診断に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV(intravenous)溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療、予防、および/または診断のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本発明の抗体である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a) 第一の容器であって、その中に収められた本発明の抗体を含む組成物を伴う、第一の容器;および、(b) 第二の容器であって、その中に収められたさらなる細胞傷害剤またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第二の容器を含んでもよい。本発明のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第二の(または第三の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
【0261】
上述の製品のいずれについても、抗CTLA-4抗体の代わりにまたはそれに追加して、本発明のイムノコンジュゲートを含んでもよいことが、理解されよう。
<変異Fc領域を含むポリペプチド>
【0262】
一局面において、本発明は、変異Fc領域を含む単離されたポリペプチドを提供する。いくつかの局面において、ポリペプチドは抗体である。いくつかの局面において、ポリペプチドはFc融合タンパク質である。特定の態様において、変異Fc領域は、天然型配列または参照変異体配列(本明細書においては「親」Fc領域と総称することがある)のFc領域における対応配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸残基改変(例えば置換)を含む。天然型配列のFc領域は、通常、二本の同一のポリペプチド鎖からなるホモ二量体として構成される。本発明の変異Fc領域におけるアミノ酸改変は、親Fc領域の二本のポリペプチド鎖のいずれか一方に導入されてもよいし、二本のポリペプチド鎖の両方に導入されてもよい。
【0263】
いくつかの局面において、本発明は、親Fc領域と比べて、機能が改変された変異Fc領域を提供する。特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて、Fcγ受容体に対する結合活性が増強している。特定の態様において、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaからなる群より選択される少なくとも一つのFcγ受容体に対する結合活性が増強している。いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIaに対する結合活性が増強している。いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIIaに対する結合活性が増強している。さらなる態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIaおよびFcγRIIIaに対する結合活性が増強している。
【0264】
いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、298、330、332、および334からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。あるいは、国際公開WO2013/002362やWO2014/104165に記載のアミノ酸改変なども本発明において同様に用いられ得る。
【0265】
特定の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性はKD(Dissociation constant:解離定数)値で表すことができる。一態様において、[FcγRIIaに対する親Fc領域のKD値]/[FcγRIIaに対する変異Fc領域のKD値]の比の値は、例えば1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、40以上、または50以上である。さらなる態様において、FcγRIIaは、FcγRIIa Rであってもよいし、FcγRIIa Hであってもよい。またその両方であってもよい。一態様において、[FcγRIIIaに対する親Fc領域の結合活性]/[FcγRIIIaに対する変異Fc領域の結合活性]の比の値は、例えば、2以上、3以上、5以上、10以上、20以上、30以上、50以上、100以上、200以上、300以上、500以上、1×103以上、2×103以上、3×103以上、または5×103以上である。さらなる態様において、FcγRIIIaは、FcγRIIIa Fであってもよいし、FcγRIIIa Vであってもよい。またその両方であってもよい。
【0266】
一態様において、FcγRIIaに対する変異Fc領域のKD値は、例えば、1.0×10-6 M以下、5.0×10-7 M以下、3.0×10-7 M以下、2.0×10-7 M以下、1.0×10-7 M以下、5.0×10-8 M以下、3.0×10-8 M以下、2.0×10-8 M以下、1.0×10-8 M以下、5.0×10-9 M以下、3.0×10-9 M以下、2.0×10-9 M以下、または1.0×10-9 M以下である。さらなる態様において、FcγRIIaは、FcγRIIa Rであってもよいし、FcγRIIa Hであってもよい。またその両方であってもよい。一態様において、FcγRIIIaに対する変異Fc領域のKD値は、例えば、1.0×10-6 M以下、5.0×10-7 M以下、3.0×10-7 M以下、2.0×10-7 M以下、1.0×10-7 M以下、5.0×10-8 M以下、3.0×10-8 M以下、2.0×10-8 M以下、1.0×10-8 M以下、5.0×10-9 M以下、3.0×10-9 M以下、2.0×10-9 M、1.0×10-9 M以下、5.0×10-10 M以下、3.0×10-10 M以下、2.0×10-10 M、または1.0×10-10 M以下である。さらなる態様において、FcγRIIIaは、FcγRIIIa Fであってもよいし、FcγRIIIa Vであってもよい。またその両方であってもよい。
【0267】
別の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性を、KD値の代わりにkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)値で表してもよい。
【0268】
別の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性は、単位量あたりのFc領域のFcγ受容体に対する結合量で表してもよい。例えば、表面プラズモン共鳴アッセイにおいては、センサーチップ上に固定されたFc領域の結合量、およびさらにそこに結合したFcγ受容体の結合量がそれぞれ反応単位(resonance unit: RU)として測定される。そこでのFcγ受容体の結合量をFc領域の結合量で割った値を、単位量あたりのFc領域のFcγ受容体に対する結合量として定義することができる。そうした結合量の測定および算出の具体的な方法は後述の実施例に記載されている。いくつかの態様において、[変異Fc領域のFcγRIIaに対する結合量]/[親Fc領域のFcγRIIaに対する結合量]の比の値が、例えば1.5以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、40以上、または50以上である。いくつかの態様において、[変異Fc領域のFcγRIIIaに対する結合量]/[親Fc領域のFcγRIIIaに対する結合量]の比の値が、例えば2以上、3以上、5以上、10以上、20以上、30以上、50以上、100以上、200以上、300以上、500以上、1×103以上、2×103以上、3×103以上、または5×103以上である。
【0269】
特定の態様において、本明細書で表されるKD値やkd値、結合量の値などは、表面プラズモン共鳴アッセイを25℃または37℃で実施することにより、測定あるいは算出される(例えば、本明細書の実施例6を参照のこと)。
【0270】
特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて、活性型Fcγ受容体と阻害型Fcγ受容体との間の選択性が向上している。言い換えると、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて、活性型Fcγ受容体に対する結合活性が阻害型Fcγ受容体に対する結合活性よりも大きく増強している。特定の態様において、活性型Fcγ受容体は、FcγRIa、FcγRIIa R、FcγRIIa H、FcγRIIIa F、FcγRIIIa Vからなる群より選択される少なくとも1つのFcγ受容体であり、阻害型Fcγ受容体はFcγRIIbである。いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIaとFcγRIIbとの間の選択性が向上している。いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIIaとFcγRIIbとの間の選択性が向上している。さらなる態様において、本発明の変異Fc領域は、FcγRIIaとFcγRIIbとの間の選択性およびFcγRIIIaとFcγRIIbとの間の選択性が向上している。
【0271】
いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置236、239、268、270、および326からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。あるいは、国際公開WO2013/002362やWO2014/104165に記載のアミノ酸改変も本発明において同様に用いられ得る。
【0272】
特定の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性はKD(Dissociation constant:解離定数)値で表すことができる。FcγRIIaおよびFcγRIIIaに対する結合活性の態様については上述の通りである。一態様において、[FcγRIIbに対する親Fc領域のKD値]/[FcγRIIbに対する変異Fc領域のKD値]の比の値は、例えば、10以下、5以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下である。別の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性を、KD値の代わりにkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)値で表してもよい。
【0273】
別の態様において、親Fc領域および変異Fc領域の結合活性は、上述された単位量あたりのFc領域のFcγ受容体に対する結合量で表してもよい。いくつかの態様において、[変異Fc領域のFcγRIIbに対する結合量]/[親Fc領域のFcγRIIbに対する結合量]の比の値が、例えば10以下、5以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.3以下、0.2以下、または0.1以下である。いくつかの態様において、変異Fc領域のFcγRIIbに対する結合量は、例えば0.5以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、0.05以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.005以下、0.003以下、0.002以下、または0.001以下である。
【0274】
特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて安定性が向上されている。 特定の態様において、安定性は熱力学的な安定性である。ポリペプチドの熱力学的な安定性は、例えばTm値などを指標として判断することができる。Tm値は、例えばCD(円二色性)やDSC(示査走査型熱量計)、DSF(示査走査型蛍光定量法)などの当業者に公知の手法を用いて測定することができる。一態様において、本発明の変異Fc領域は、親Fc領域に比べて、CH2領域のTm値が0.1度以上、0.2度以上、0.3度以上、0.4度以上、0.5度以上、1度以上、2度以上、3度以上、4度以上、5度以上、10度以上上昇している。
【0275】
いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置250および307からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。あるいは、国際公開WO2013/118858に記載のアミノ酸改変も本発明において同様に用いられ得る。
【0276】
特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、互いに配列の異なる二本のポリペプチド鎖から構成されている。さらなる局面において、本発明の変異Fc領域は、第一のポリペプチドと第二のポリペプチドとの間のヘテロ二量化が促進されている。組み換えの方法を用いてヘテロ二量体タンパク質を製造する場合、同一のポリペプチド鎖が会合してホモ二量体を形成するよりも、互いに異なるペプチド鎖が優先的に会合してヘテロ二量体を形成することが好ましい。変異Fc領域のヘテロ二量化が促進されているかどうかは、例えば、製造された変異Fc領域の中からホモ二量体とヘテロ二量体をクロマトグラフィーなどの手法により分離して、それぞれの成分比を求めることで判断し得る。
【0277】
いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置349、356、366、368、407、および439からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。あるいは、国際公開WO2006/106905やWO1996/027011に記載のアミノ酸改変も本発明において同様に用いられ得る。
【0278】
特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、 酸性pH下でのFcRnに対する結合活性が増強されている。いくつかの態様において、酸性pHはpH 4.0~6.5を意味する。さらなる態様において、酸性pHは、pH 4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、および6.5からなる群より選択される少なくとも1つである。特定の態様において、酸性pHはpH 5.8である。
【0279】
いくつかの態様において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置428、434、436、438、および440からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。あるいは、国際公開WO2016/125495に記載のアミノ酸改変も本発明において同様に用いられ得る。
【0280】
一局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、330、332、334、349、356、366、368、407、428、434、436、438、439、および440からなる群より選択される少なくとも1つの位置の少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0281】
特定の局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、および334におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、および326、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、および334におけるアミノ酸改変を含む。
【0282】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む。
【0283】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置356におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置356におけるアミノ酸改変を含む。
【0284】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置366におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置366におけるアミノ酸改変を含む。
【0285】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置349におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置349におけるアミノ酸改変を含む。
【0286】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置332におけるアミノ酸改変を含む。
【0287】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置330におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置330におけるアミノ酸改変を含む。
【0288】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置439におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置439におけるアミノ酸改変を含む。
【0289】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0290】
別の局面において、本発明の変異Fc領域は、さらにEUナンバリングで表される位置356におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置356におけるアミノ酸改変を含む。
【0291】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、334、349、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、349、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、334、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0292】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、334、356、および439におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、356、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、334、および439におけるアミノ酸改変を含む。
【0293】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、330、332、334、349、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、349、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、330、332、334、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0294】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、330、332、334、356、および439におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、および356、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、330、332、334、および439におけるアミノ酸改変を含む。
【0295】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、334、349、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、349、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、332、334、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0296】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、334、356、および439におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、および356、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、332、334、および439におけるアミノ酸改変を含む。
【0297】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、330、332、334、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、330、332、334、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0298】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、334、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、332、334、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0299】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、330、332、334、349、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、349、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、330、332、334、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0300】
いくつかの局面において、本発明の変異Fc領域は、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、334、349、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。さらなる局面において、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234、235、236、239、250、268、270、298、307、326、332、349、および366、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236、250、270、298、307、326、332、334、356、366、368、および407におけるアミノ酸改変を含む。
【0301】
さらなる態様において、本発明の変異Fc領域は、(i) 親Fc領域の第一のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置234におけるTyr、Phe;位置235におけるGln;位置236におけるTrp;位置239におけるMet;位置250におけるVal;位置268におけるAsp;位置270におけるGlu;位置298におけるAla;位置307におけるPro;位置326におけるAsp;位置332におけるGlu;位置349におけるCys;位置356におけるLys;および位置366におけるTrp、ならびに (ii) 親Fc領域の第二のポリペプチドにおける、EUナンバリングで表される位置236におけるAla;位置250におけるVal;位置270におけるGlu;位置298におけるAla;位置307におけるPro;位置326におけるAsp;位置330におけるMet、Lys;位置332におけるAsp、Glu;位置334におけるGlu;位置356におけるCys;位置366におけるSer;位置368におけるAla;位置407におけるVal;位置439におけるGluからなる群より選択される少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。
【0302】
さらなる局面において、本発明の変異Fc領域は、さらに以下の (a)~(d) のいずれかのアミノ酸改変を含む:
(a) EUナンバリングで表される位置434におけるAla、
(b) EUナンバリングで表される位置434におけるAla、位置436におけるThr、位置438におけるArg、位置440におけるGlu、
(c) EUナンバリングで表される位置428におけるLeu、位置434におけるAla、位置436におけるThr、位置438におけるArg、位置440におけるGlu、
(d) EUナンバリングで表される位置428におけるLeu、位置434におけるAla、位置438におけるArg、位置440におけるGlu。
【0303】
さらなる態様において、本発明は、配列番号:43~46、65、66、81、207、239、253~271、276、277、278のいずれか1つのアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。
【0304】
「Fcγ受容体」(本明細書において、Fcγ受容体、FcγR、またはFcgRと称する)とは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体を指し、Fcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質ファミリーの任意のメンバーを事実上意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)とR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1とFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびに、アイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158とF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1とFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、さらに、未発見のあらゆるヒトFcγR、FcγRアイソフォームまたはアロタイプが含まれるが、これらに限定されるわけではない。FcγRIIb1およびFcγRIIb2は、ヒトFcγRIIbのスプライシング変異体として報告されている。さらに、FcγRIIb3と称するスプライシング変異体が報告されている(J Exp Med, 1989, 170: 1369-1385)。これらのスプライシング変異体に加えて、ヒトFcγRIIbは、NCBIに登録された全てのスプライシング変異体、NP_001002273.1、NP_001002274.1、NP_001002275.1、NP_001177757.1、およびNP_003992.3を含む。さらに、ヒトFcγRIIbは、FcγRIIbに加えて、過去に報告された全ての遺伝的多型(Arthritis Rheum. 48: 3242-3252(2003);Kono et al., Hum. Mol. Genet. 14: 2881-2892(2005);およびKyogoju et al., Arthritis Rheum. 46: 1242-1254(2002))と、将来報告されるであろう全ての遺伝的多型とを含む。
【0305】
FcγRIIaには2つのアロタイプが存在し、一方は、FcγRIIaの位置131のアミノ酸がヒスチジンであり(H型)、他方は、位置131のアミノ酸がアルギニンで置換されている(R型)(Warrmerdam, J. Exp. Med. 172: 19-25(1990))。
【0306】
FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサル由来のFcγRを含むが、これらに限定されるわけではなく、任意の生物体に由来してよい。マウスFcγRは、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIII-2(CD16-2)、ならびに、任意のマウスFcγRまたはFcγRアイソフォームを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0307】
ヒトFcγRIのアミノ酸配列は配列番号:131(NP_000557.1)に記載され;ヒトFcγRIIaのアミノ酸配列は配列番号:132(AAH20823.1)、配列番号:142、配列番号:143、または配列番号:150に記載され;ヒトFcγRIIbのアミノ酸配列は配列番号:151(AAI46679.1)、配列番号:169、または配列番号:172に記載され;ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列は配列番号:174(AAH33678.1)、配列番号:175、配列番号:176、または配列番号:177に記載され;かつヒトFcγRIIIbのアミノ酸配列は配列番号:178(AAI28563.1)に記載されている。
【0308】
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、ヒトFcRnは主要組織適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似し、クラスIのMHC分子と22~29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18(12), 592-598)。FcRnは、可溶性β鎖または軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通α鎖または重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1、α2、α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。ヒトFcRnのアミノ酸配列は配列番号:179(NP_004098.1)に、β2マイクログロブリンのアミノ酸配列は配列番号:180に記載されている。
【0309】
本明細書で用いられる「親Fc領域」とは、本明細書に記載のアミノ酸改変の導入前のFc領域を指す。いくつかの態様において、親Fc領域は、天然型配列のFc領域(あるいは天然型抗体のFc領域)である。抗体は、例えば、IgA(IgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、およびIgMなどを含む。抗体は、ヒトまたはサル(例えば、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、チンパンジー、またはヒヒ)に由来し得る。天然型抗体は、天然に存在する変異を含んでいてもよい。遺伝子多型によるIgGの複数のアロタイプ配列が、「Sequences of proteins of immunological interest」、NIH Publication No. 91-3242に記載されているが、そのいずれも、本発明において使用され得る。特に、ヒトIgG1については、位置356~358(EUナンバリング)のアミノ酸配列はDELまたはEEMのいずれかであり得る。特定の態様において、親Fc領域は、ヒトIgG1(配列番号:249)、ヒトIgG2(配列番号:250)、ヒトIgG3(配列番号:251)、またはヒトIgG4(配列番号:252)の重鎖定常領域に由来するFc領域である。別の態様において、親Fc領域は、配列番号:82または配列番号:158の重鎖定常領域に由来するFc領域である。さらなる態様において、親Fc領域は、本明細書に記載されるアミノ酸改変以外のアミノ酸改変を天然型配列のFc領域に加えることによって作製されるFc領域(参照変異体配列のFc領域)であってもよい。天然型配列のFc領域は、通常、二本の同一のポリペプチド鎖からなるホモ二量体として構成される。
【0310】
さらに、他の目的のために実施されるアミノ酸改変を、本明細書に記載の変異Fc領域において組み合わせることができる。例えば、FcRn結合活性を増強させるアミノ酸置換(Hinton et al., J. Immunol. 176(1): 346-356 (2006);Dall'Acqua et al., J. Biol. Chem. 281(33): 23514-23524 (2006);Petkova et al., Intl. Immunol. 18(12): 1759-1769 (2006);Zalevsky et al., Nat. Biotechnol. 28(2): 157-159 (2010);WO2006/019447; WO2006/053301;およびWO2009/086320)、および、抗体のヘテロジェニティーまたは安定性を改善するためのアミノ酸置換(WO2009/041613)を加えてもよい。あるいは、WO2011/122011、WO2012/132067、WO2013/046704、またはWO2013/180201に記載される抗原クリアランスを促進する特性を有するポリペプチド、WO2013/180200に記載される標的組織への特異的結合特性を有するポリペプチド、WO2009/125825、WO2012/073992、またはWO2013/047752に記載される複数の抗原分子に対して繰り返し結合する特性を有するポリペプチドを、本明細書に記載の変異Fc領域と組み合わせることができる。あるいは、他の抗原に対する結合能を付与する目的で、EP1752471およびEP1772465に開示されたアミノ酸改変を、本明細書に記載の変異Fc領域のCH3において組み合わせてもよい。あるいは、血漿中滞留性を増大させる目的で、定常領域のpIを低下させるアミノ酸改変(WO2012/016227)を、本明細書に記載の変異Fc領域において組み合わせてもよい。あるいは、細胞への取り込みを促進する目的で、定常領域のpIを上昇させるアミノ酸改変(WO2014/145159)を、本明細書に記載の変異Fc領域において組み合わせてもよい。あるいは、標的分子の血漿からの消失を促進する目的で、定常領域のpIを上昇させるアミノ酸改変(WO2016/125495)を、本明細書に記載の変異Fc領域において組み合わせてもよい。一態様において、そのような改変は、例えば、EUナンバリングで表される、位置311、343、384、399、400、および413からなる群より選択される少なくとも1つの位置での置換を含んでよい。さらなる態様において、そのような置換は、各位置のアミノ酸のLysまたはArgによる置換であり得る。
【0311】
加えて、WO2011/028952に記載される、抗体CH1とCLの結合およびVHとVLの結合を使用するヘテロ二量化抗体作製技術も使用することができる。
【0312】
WO2008/119353およびWO2011/131746に記載される方法と同様に、あらかじめ二種類のホモ二量化抗体を作製し、該抗体を還元条件下でインキュベートして解離させ、それらを再度結合させることによる、ヘテロ二量化抗体作製技術を使用することも可能である。
【0313】
さらに、WO2012/058768に記載される方法と同様に、CH2およびCH3ドメインに改変を加えることによるヘテロ二量化抗体作製技術を使用することも可能である。
【0314】
非相同変異Fc領域を含むポリペプチドを作製するために、異なるアミノ酸配列を有する変異Fc領域を含む2つのポリペプチドを同時に発現させる場合、通常、不純物としての相同変異Fc領域を含むポリペプチドもまた、作製される。そのような場合、非相同変異Fc領域を含むポリペプチドを、公知の技術を用いて、相同変異Fc領域を含むポリペプチドから分離および精製することによって、効率的に入手することができる。ホモ二量化抗体とヘテロ二量化抗体の間で等電点に違いを生じるようなアミノ酸改変を該二種類の抗体重鎖の可変領域に導入することにより、イオン交換クロマトグラフィーを用いてホモ二量化抗体からヘテロ二量化抗体を効率的に分離および精製するための方法が報告されている(WO2007/114325)。プロテインAに結合するマウスIgG2aおよびプロテインAに結合しないラットIgG2bに由来する二種類の重鎖を含むヘテロ二量化抗体を構築することにより、プロテインAクロマトグラフィーを用いてヘテロ二量化抗体を精製するための別の方法が報告されている(WO1998/050431およびWO1995/033844)。
【0315】
さらに、異なるプロテインA結合アフィニティをもたらすように、抗体重鎖のプロテインA結合部位に位置する位置435および436(EUナンバリング)のアミノ酸残基をTyrまたはHisなどのアミノ酸で置換することにより、プロテインAクロマトグラフィーを用いてヘテロ二量化抗体を効率的に精製することができる。
【0316】
本発明において、アミノ酸改変とは、任意の置換、欠失、付加、挿入、および修飾、またはそれらの組み合わせを意味する。本発明において、アミノ酸改変は、アミノ酸変異と言い換えることができる。
【0317】
Fc領域に導入されるアミノ酸改変の数は限定されない。特定の態様において、1、2以下、3以下、4以下、5以下、6以下、8以下、10以下、12以下、14以下、16以下、18以下、または20以下であり得る。
【0318】
一局面において、本発明は、変異Fc領域を含むポリペプチドを製造する方法を提供する。さらなる局面において、本発明は、機能が改変された変異Fc領域を含むポリペプチドを製造する方法を提供する。いくつかの局面において、ポリペプチドは抗体である。いくつかの局面において、ポリペプチドはFc融合タンパク質である。特定の態様において、それらの方法は、親Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸改変を導入する工程を含む。特定の態様において、それらの方法は、(i) 親Fc領域を含むポリペプチドを提供する工程、および (ii) 親Fc領域に少なくとも1つのアミノ酸改変を導入する工程を含む。特定の態様において、それらの方法は、さらに (iii) 変異Fc領域を含むポリペプチドの機能を測定する工程を含んでいてもよい。天然型のFc領域は通常、二本の同一のポリペプチド鎖によって構成されている。親Fc領域に対するアミノ酸改変は、親Fc領域の二本のポリペプチド鎖のいずれか一方に導入されてもよいし、二本のポリペプチド鎖の両方に導入されてもよい。
【0319】
別の態様において、変異Fc領域を含むポリペプチドを製造する方法は、(i) 親Fc領域を含むポリペプチドをコードする一以上の核酸を提供する工程、(ii) 当該核酸の親Fc領域をコードする領域に少なくとも1つの変異を導入する工程、(iii) (ii)で作製された核酸を宿主細胞に導入する工程、および (iv) 変異Fc領域を含むポリペプチドが発現するように(iii)に記載の細胞を培養する工程を含む。特定の態様において、前記の方法は、さらに (v) (iv) に記載の宿主細胞培養物から変異Fc領域を含むポリペプチドを回収する工程を含んでいてもよい。
【0320】
特定の態様において、(ii)で作製された核酸は一以上のベクター(例えば、発現ベクターなど)に含まれていてもよい。
【0321】
いくつかの態様において、本製造方法において用いられるアミノ酸改変は、上述の変異Fc領域に含まれ得るアミノ酸改変の中から選択される任意の単一の改変、単一の改変の組み合わせ、または表26~表30に記載の組み合わせ改変より選択される。
【0322】
Fc領域は、ペプシンなどのプロテアーゼを用いて、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体などを部分的に消化した後に、プロテインAカラムに吸着したフラクションを再度溶出することによって、得てもよい。プロテアーゼは、それが全長抗体を消化でき、それによってFabおよびF(ab')2が、pHなどの酵素反応条件を適切に設定することによって制限的な様式で産生される限り、特に限定されず、例としてペプシンおよびパパインが含まれる。
【0323】
本発明の変異Fc領域を含むポリペプチドは、上述の製造方法以外にも、当該技術分野で公知の他の方法によって製造されてもよい。本明細書に記載の製造方法によって製造された変異Fc領域を含むポリペプチドも、本発明に含まれる。
【0324】
本明細書で提供される変異Fc領域を同定もしくはスクリーニングする目的で、あるいはその物理的もしくは化学的特性、または生物学的活性を明らかにする目的で、本明細書に記載の測定法または当該技術分野で公知の種々の測定法を用いてもよい。
【0325】
変異Fc領域を含むポリペプチドの、1つまたは複数のFcRファミリーメンバーに対する結合活性を決定するための測定法が、本明細書に記載されている、あるいは当該技術分野において知られている。そのような結合測定法は、以下に限定されないが、表面プラズモン共鳴アッセイ、増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ(ALPHA)スクリーニング、ELISA、および蛍光活性化細胞選別(FACS)などを含む(Lazar et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2006) 103(11): 4005-4010)。
【0326】
一態様において、変異Fc領域を含むポリペプチドのFcRファミリーメンバーに対する結合活性を、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定することができる。例えば、公知の方法および試薬(例えばプロテインA、プロテインL、プロテインA/G、プロテインG、抗λ鎖抗体、抗κ鎖抗体、抗原ペプチド、抗原タンパク質など)を用いてセンサーチップ上に固定化または捕捉された変異Fc領域を含むポリペプチドに対して、分析物として様々なFcRを相互作用させる。あるいは、FcRをセンサーチップ上に固定化または捕捉して、変異Fc領域を含むポリペプチドを分析物として使用してもよい。そのような相互作用の結果、結合のセンサーグラムが取得され、それらを分析することによって、当該結合の解離定数(KD)値を算出することができる。また、FcRとの相互作用に供する前と後での、センサーグラムにおけるレゾナンスユニット(RU)値の差(すなわち、FcRの結合量)を、変異Fc領域を含むポリペプチドの当該FcRに対する結合活性の指標とすることもできる。さらに、変異Fc領域を含むポリペプチドがセンサーチップ上に固定化または捕捉される前と後での、センサーグラムにおけるRU値の差(すなわち、変異Fc領域を含むポリペプチドの結合量)で前記のFcRの結合量を除算して得られた補正値(すなわち、変異Fc領域を含むポリペプチドの単位量あたりのFcRの結合量)を結合活性の指標としてもよい。
【0327】
さらなる局面において、本発明は、本明細書で提供される変異Fc領域を含むポリペプチドを含む、薬学的製剤を提供する。一態様において、前記の薬学的製剤は、さらに薬学的に許容される担体を含む。
【実施例
【0328】
以下は、本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的な記載に照らし、種々の他の態様が実施され得ることが、理解されるであろう。
【0329】
〔実施例0〕癌微小環境下でのみ制御性T細胞の細胞表面マーカーに対する抗体依存的細胞傷害活性を発揮するスイッチ抗体のコンセプト
イピリムマブはエフェクターT細胞表面に発現するCTLA4によるエフェクターT細胞の活性化抑制を阻害することで抗腫瘍効果が発揮されていると考えられていたが、最近、CTLA4発現T細胞に対する抗体依存的細胞傷害活性(ADCC活性)も重要であることが報告され、腫瘍中の制御性T細胞の除去とADCC活性が抗CTLA4抗体の抗腫瘍効果の重要な作用機序であることが見出されている。
【0330】
また、IgG1抗体によるADCC活性は抗体の定常領域がNK細胞やマクロファージのFcγRと結合することで細胞傷害活性が誘導され、その結合を増強するような改変を加えた定常領域を有する抗体は、より強い細胞傷害活性を誘導し、抗腫瘍効果を発揮することも知られている。
【0331】
一方で、全身における制御性T細胞を除去することで、自己免疫疾患様の全身反応を引き起こすことも報告されており、抗腫瘍効果を発揮するための細胞障害活性と全身反応の制御バランスが非常に重要であると考えられる。
【0332】
すなわち癌微小環境において制御性T細胞あるいは疲弊T細胞に強力に結合し、細胞傷害活性により制御性T細胞あるいは疲弊T細胞を除去することで強い抗腫瘍効果を発揮でき、かつその反応を癌微小環境下のみに制限することが可能となれば、より強い細胞傷害活性を発揮し、全身反応を抑制できることが期待される。このような作用機序の抗体はこれまでに報告がない。そこで我々は実際にCTLA4に対する腫瘍局所でのみ作用する抗体(CTLA4スイッチ抗体)でかつ、NK細胞およびマクロファージ上に発現するFcγRの結合を増強した定常領域を有する抗体を作製し検証した。
【0333】
〔実施例1〕ファージディスプレイ技術を用いたナイーブライブラリおよびラショナルデザイン抗体ライブラリからのATPまたはその代謝物存在下において抗原に結合する抗体の取得
(1-1)低分子存在下において抗原に結合する抗体の取得のための抗原調製
抗原として、ビオチン化されたマウスCTLA4細胞外領域(mCTLA4)、ヒトCTLA4細胞外領域(hCTLA4)、アバタセプトが調製された。具体的にはhCTLA4細胞外領域はC末端にHisタグおよびBAPタグが融合したものhCTLA4-His-BAP(配列番号:1)が遺伝子合成され、動物発現用プラスミドへ挿入された。抗原タンパク質は以下の方法を用いて発現、精製された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に1.33×106細胞/mLの細胞密度で懸濁されて、フラスコに播種されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に対して、調製されたプラスミドがリポフェクション法により導入された。プラスミド導入後3時間後にビオチンが終濃度100 μMとなるように添加され、CO2インキュベーター(37℃、8% CO2、125 rpm)で4日間培養された培養上清から、当業者公知の方法で抗原が精製された。分光光度計を用いて、精製された抗原溶液の280 nmでの吸光度が測定された。得られた測定値からPACE法により算出された吸光係数を用いて精製された抗原の濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。一方mCTLA4の細胞外領域にHisタグが融合されたmCTLA4-His(Sino Biologics Inc. 50503-M08H, Accession No. NP_033973.2)およびhCTLA4にヒトIgG1定常領域が融合したアバタセプト(アルフレッサ株式会社)は、アミンカップリング法によりビオチン化された(PIERCE Cat.No.21329)。
【0334】
(1-2)ビーズパンニングによるナイーブヒト抗体ライブラリからの低分子存在下においてマウスCTLA4に結合する抗体の取得
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法に従い、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
【0335】
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリから、低分子存在下および非存在下でマウスCTLA4細胞外領域(mCTLA4)に対する結合活性が変化する抗体がスクリーニングされた。すなわち、ビーズにキャプチャーされたmCTLA4に対して低分子存在下で結合活性を示す抗体を提示しているファージが集められた。低分子非存在の条件でビーズから溶出されたファージ溶出液からファージが回収された。本取得方法では、抗原としてビオチン標識されたmCTLA4(mCTLA4-His-Biotin)が用いられた。
【0336】
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌から産生されたファージは一般的な方法により精製された。その後TBSで透析処理されたファージライブラリ液が得られた。磁気ビーズに固定化された抗原を用いたパンニングが実施された。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
【0337】
癌組織においてスイッチの役割を果たすことができる低分子に依存的な低分子スイッチ抗体を効率的に取得するために、アデノシン3リン酸(adenosine 5'-triphosphate; ATP)およびATP代謝物存在下で抗原に結合し、ATP非存在下では抗原に結合しない抗体を濃縮するパンニングが先行特許WO2013/180200で示された方法を参考に実施された。
【0338】
(1-3)ファージELISAによる低分子存在下および非存在下における結合活性の評価
(1-2)で得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。NucleoFast 96 (MACHERY-NAGEL)を用いて回収された培養上清が限外濾過された。培養上清各100 μLがNucleoFast 96の各ウェルにアプライされ、4,500 g、45分間遠心分離を行いフロースルーが除去された。H2O 100 μLを加え、再度4,500 g、30分間遠心分離による洗浄が行われた。その後、TBS 100 μLを加え、室温で5分間静置した後、上清に含まれるファージ液が回収された。
【0339】
TBSが加えられた精製ファージが以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がmCTLA4-His-Biotinを含む100 μLのTBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをTBSTにて洗浄することによってプレートへ結合していないmCTLA4-His-Biotinが除かれた後、当該ウェルが250 μLの2 %スキムミルク-TBSにて1時間以上ブロッキングされた。2 %スキムミルク-TBSを除き、その後、各ウェルに調製された精製ファージが加えられた当該プレートを室温で1時間静置することによって、抗体を提示するファージを各ウェルに存在するmCTLA4-His-BiotinにATP非存在もしくは存在下において結合させた。TBSTもしくはATP/TBSTにて洗浄された各ウェルに、TBSもしくはATP/TBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。TBSTもしくはATP/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。その結果、mCTLA4に対して、ATP存在下でのみ結合する抗体が複数確認された。ファージELISAの結果を表2に示した。ここで、ATP存在下における吸光度が0.2より高いクローンが陽性と判定され、ATP存在下/非存在下における吸光度の比が2より高いものがATP依存的な抗原結合能を有するクローン(スイッチクローン)と判定された。なお、本実施例において、SMはATPなどの小分子/低分子(Small Molecule)を表す略称として用いられることがある。
【0340】
【表2】
【0341】
(1-4)ATPまたはその代謝物を利用したラショナルデザインライブラリからの低分子存在下において抗原に結合する抗体の取得
先行特許WO2015/083764において構築されたラショナルデザイン抗体ファージディスプレイライブラリから、ATPまたはATP代謝物(たとえばADP、AMP、アデノシン(ADO)など)存在条件下で抗原に対する結合活性を示す抗体が取得された。取得のために、ATPまたはATP代謝物存在下でビーズにキャプチャーされた抗原に対して結合能を示す抗体を提示しているファージが回収され、その後ATPまたはATP代謝物の非存在条件下でビーズから溶出された溶出液からファージが回収された。
【0342】
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持する大腸菌からファージが一般的な方法で産生された。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10 % PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、当該ファージライブラリ液に終濃度4%となるようにBSAが添加された。磁気ビーズに固定化された抗原を用いてパンニングが実施された。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。抗原として、ビオチン化されたアバタセプト(Abatacept-Biotin)が使用された。
【0343】
癌組織においてスイッチの役割を果たすことができる低分子に依存的な低分子スイッチ抗体を効率的に取得するために、アデノシン3リン酸(adenosine 5'-triphosphate; ATP)もしくはATP代謝物存在下で抗原に結合し、ATPもしくはATP代謝物非存在下では抗原に結合しない抗体を濃縮するパンニングが先行特許WO2015/083764で示された方法を参考に実施された。
【0344】
(1-5)ファージELISAによるATPもしくはその代謝物の存在下および非存在下における結合活性評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に倣い、ファージ含有培養上清が回収された。NucleoFast 96(MACHEREY-NAGEL)を用いて、回収された培養上清が限外ろ過された。培養上清各100 μLが各ウェルにアプライされたNucleoFast 96を遠心分離(4,500 g、45分間)することによってフロースルーが除去された。100 μLのH2Oが各ウェルに加えられた当該NucleoFast 96が、再度遠心分離(4,500 g、30分間)によって洗浄された。最後にTBS 100 μLが加えられ、室温で5分間静置された当該NucleoFast 96の各ウェルの上清に含まれるファージ液が回収された。
【0345】
TBS、またはATPもしくはその代謝物入りのTBS(SM/TBS)が加えられた精製ファージが以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)が実施例1-1で作製されたビオチン標識抗原(Abatacept-Biotin)を含む100 μLのTBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをTBSTにて洗浄することによってフリーのAbatacept-Biotinが除かれた後、当該ウェルが250 μLの2 % SkimMilk-TBSにて1時間以上ブロッキングされた。2 % SkimMilk-TBSを除き、その後、各ウェルに調製された精製ファージが加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、抗体を提示したファージを各ウェルに存在するAbatacept-BiotinにATPもしくはその代謝物の非存在下および存在下において結合させた。TBSTまたはATPもしくはその代謝物入りのTBST(SM/TBST)にて洗浄された各ウェルに、TBSまたはSM/TBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。TBSTまたはSM/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。その結果、Abataceptに対して、ATPまたはその代謝物存在下および非存在下で結合活性が変化する抗体が複数確認された。ファージELISAの結果を表3に示した。ここで、ATPまたはその代謝物の存在下における吸光度のS/N比が2より高いクローンが陽性と判定され、ATPまたはその代謝物の存在下/非存在下における吸光度の比が2より高いものがATPまたはその代謝物に依存的な抗原結合能を有するクローン(スイッチクローン)と判定された。
【0346】
【表3】
【0347】
(1-6)ATPおよびその代謝物の有無によって抗原に対する結合活性が変化するスイッチ抗体の配列解析
ファージELISAの結果、ATPおよびその代謝物が存在する条件下で抗原に対する結合活性があると判断されたクローンから特異的なプライマーlacPF(配列番号:2), G1seqR(配列番号:3)を用いて増幅された遺伝子の塩基配列が解析された。解析の結果、ATPおよびその代謝物存在下でビオチン標識アバタセプトに対する結合活性を有すると判断されたクローンABADh11-4_020、ABADh11-4_086、ABADh12-4_014、ABADh12-5_001、ABADh12-5_046、ABADh5-5_041が取得され、それぞれABAM001、ABAM002、ABAM003、ABAM004、ABAM005、ABAM006とクローン名が再付与された(表4)。
【0348】
【表4】
【0349】
(1-7)ATPおよびその代謝物の有無によって抗原に対する結合活性が変化するスイッチ抗体の発現と精製
ヒトラショナルデザインファージライブラリから取得されたABAM001、ABAM002、ABAM003、ABAM004、ABAM005、ABAM006の可変領域をコードする遺伝子はヒトIgG1/Lambdaの動物発現用プラスミドへ挿入された。以下の方法を用いて抗体が発現された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に1.33×106細胞/mLの細胞密度で懸濁されて、6well plateの各ウェルへ3 mLずつ播種されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に対して、調製されたプラスミドがリポフェクション法により導入された。CO2インキュベーター(37℃、8 % CO2、90 rpm)で4日間培養された培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体が精製された。分光光度計を用いて、精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。得られた測定値からPACE法により算出された吸光係数を用いて精製された抗体の濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0350】
(1-8)取得された抗体のhCTLA4に対するIgG ELISAによるAMPの存在下および非存在下における結合活性評価
取得されたABAM001、ABAM002、ABAM003、ABAM004、ABAM005、ABAM006の6抗体がIgG ELISAに供された。また表5に示すBufferが適宜調製された。抗原としてビオチン標識されたヒトCTLA4(hCTLA4-His-Biotin)が用いられた。
【0351】
【表5】
【0352】
はじめに、StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がhCTLA4-His-Biotinを含む100 μLのTBSにて室温で1時間以上コートされた。当該プレートの各ウェルをWash bufferにて洗浄することによってプレートへ結合していないhCTLA4-His-Biotinが除かれた後、当該ウェルがBlocking Buffer 250 μLにて1時間以上ブロッキングされた。Blocking Bufferが除かれた各ウェルに、1 mM の終濃度でAMPを含むSample Bufferにて2.5 μg/mLに調製された精製IgGの各100 μLが加えられた当該プレートを室温で1時間静置することによって、各IgGを各ウェルに存在するhCTLA4-His-Biotinに結合させた。1mMの終濃度でAMPを含むWash Bufferにて洗浄された後に、Sample Bufferによって希釈されたHRP結合抗ヒトIgG抗体(BIOSOURCE)が各ウェルに添加されたプレートが1時間インキュベートされた。各低分子を含むWash Bufferにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。なおBufferとしては表5に記載の組成を含むBufferが使用された。
【0353】
測定された結果を表6に示した。なお値がOverflowしたウェルに関しては仮に5.00とした。ABAM001、ABAM002、ABAM003、ABAM004、ABAM005、ABAM006のすべてのクローンにおいて、AMP存在下における吸光度と比較して、AMP非存在下における吸光度は、顕著に低いという結果が得られた。この結果から、ABAM001、ABAM002、ABAM003、ABAM004、ABAM005、ABAM006のすべてのクローンは低分子の有無によって抗原との結合が変化する性質を有することが確認された。
【0354】
【表6】
【0355】
(1-9)表面プラズモン共鳴によるヒトCTLA4に対する結合のATPおよびその代謝物の影響の評価
CTLA4スイッチ抗体としてABAM004の更なる評価が行われた。
Biacore T200(GE Healthcare)を用いて、ABAM004とhCTLA4-His-BAPとの抗原抗体反応の相互作用が解析された。アミンカップリング法でprotein A/G(Pierce)が適当量固定化されたSensor chip CM5(GE Healthcare)にABAM004をキャプチャーさせ、抗原である実施例1-1で調製されたhCTLA4-His-BAPを相互作用させた。ランニングバッファーにはTBSが用いられ、再生溶液としては10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)が用いられた。
【0356】
TBSに懸濁した1 μg/mLのABAM004がキャプチャーされた後に、500 nMのhCTLA4-His-BAPおよび4000 μMから公比4で希釈した10濃度のATP、ADPまたはAMP、および2 mM MgCl2を含む溶液が各flow cellに流速10 μL/minで3分間インジェクトされた。この3分間がhCTLA4-His-BAPの結合相とされ、結合相終了後、ランニングバッファーに切り替えられた2分間がhCTLA4-His-BAPの解離相とされた。解離相終了後、再生溶液が流速30 μl/minで30秒間インジェクトされた。以上がABAM004の結合活性測定サイクルとされた。結合相においてABAM004に相互作用したhCTLA-4-His-BAPの結合量はキャプチャーされた抗体量に対して補正された。データの解析および作図にはBiacore T200 Evaluation Software Version:2.0およびMicrosoft Excel2013(Microsoft)が使用された。
【0357】
この測定で取得されたATPおよびその代謝物存在下におけるABAM004とhCTLA4-His-BAPの結合量を図1に示した。
【0358】
図1に示されたように、ABAM004はATPのみならず、ATP代謝物をスイッチとしてhCTLA4に結合する性質を有することが確認された。また、中でも特にAMP存在下での結合活性が最も強い抗体であることが示された。
【0359】
(1-10)ヒトCTLA4発現細胞に対する抗体結合性の評価
Flow cytometerを用いて、ABAM004とヒトCTLA4との抗原抗体相互作用がAMP存在下、非存在下でどのように変化するのか評価された。ヒトCTLA4を安定発現するCHO細胞(hCTLA4-CHO細胞)が適切な濃度で準備された。この時懸濁には0.1 % BSA入りPBS(FACS Buffer)が用いられた。当該細胞溶液100 μLに対し、終濃度10 mg/mLとなるように抗体が添加されたのち、AMPが終濃度0, 0.4, 4, 40, 200, 1000 μMになるように添加され、4℃で30分間静置された。その後FACS BufferにAMPが終濃度0, 0.4, 4, 40, 200, 1000 μMになるように添加されたものをWash Bufferとして使用し、当該細胞株が洗浄されたのち、FITC標識された二次抗体(Goat F(ab'2) Anti-Human IgG Mouse ads-FITC、Beckman 732598)が添加され、再び4℃で30分間遮光下に静置された。再度洗浄操作が行われた後、Flow cytometer (FACS CyAnTM ADP)で測定、解析された。結果を図2に示す。
【0360】
以上の結果より、ABAM004はAMPの濃度依存的なhCTLA4発現細胞への結合活性を示し、可溶型抗原のみならず膜型抗原にもAMP濃度依存的な結合活性を示すことが示された。
【0361】
(1-11)ヒト末梢血単核球をエフェクター細胞として用いた被験抗体のADCC活性
ATP依存的に抗原に結合する抗体は以下の方法に従って抗体濃度依存的なADCC活性が測定された。この時、ヒト末梢血単核球(以下、ヒトPBMCと指称する。)をエフェクター細胞として用いて被験抗体のADCC活性が以下のように測定された。
【0362】
まず初めにヒトPBMC溶液が調製された。1000単位/mLのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位、ノボ・ノルディスク)が予め200 μL注入された注射器を用い、健常人ボランティア(成人男性)より末梢血50 mLを採取した。PBS(-)を用いて2倍に希釈された当該末梢血を4等分し、15 mlのFicoll-Paque PLUSが予め注入されて遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Greiner bio-one)に加えた。当該末梢血を分注した分離管を2150 rpmの速度によって10分間室温にて遠心分離の操作をした後、単核球画分層を分取した。10 % FBSを含むRPMI-1640(ナカライテスク)(以下10 % FBS/RPMIと称する。)によって1回当該画分層に含まれる細胞を洗浄した後、当該細胞が10 % FBS/ RPMI中にその細胞密度が1×107細胞/ mLとなるように懸濁した。当該細胞懸濁液をヒトPBMC溶液として以後の実験に供した。
【0363】
次に標的細胞としてCHO細胞にヒトCTLA4細胞外領域を強制発現させたhCTLA4-CHO細胞が10 % FBS/ RPMI中に2×105細胞/mLとなるように懸濁され調製された。さらにRPMIを用いて4 mMに希釈したAMP(sigma)をAMP溶液として以後の試験に供した。
【0364】
ADCC活性はLDH(lactate dehydrogenase;乳酸脱水素酵素)リリースにて評価された。まず、各濃度(0、0.04、0.4、4、40 μg/mL)に調製した抗体溶液が96ウェルU底プレートの各ウェル中に50 μLずつ添加され、標的細胞が50 μLずつ播種された(1×104 cells/ウェル)。さらに、AMP溶液が50 μlずつ添加され、室温にて15分間静置された。各ウェル中にヒトPBMC溶液各50 μL(5×105 cells/ウェル)を加えた当該プレートが、遠心操作されたのち5 %炭酸ガスインキュベータ中において37℃で4時間静置された。反応終了後、培養上清が100 μL回収され、測定用の96ウェルプレートへ移された後、LDH detection Kit(TaKaRa)付属のCatalyst(C)およびDye solution(D)を1:45で混合したものが100 μL添加された。室温で15分反応された後、1NのHClが50 μL添加され反応が停止された。492 nmの吸光度が測定されLDHリリースによるADCC活性が測定された。ADCC活性は下式に基づいて求められた。
ADCC活性(%)={(A-D)-(C-D)}×100/{(B-D)-(C-D)}
【0365】
上式において、Aは各被験抗体が添加されたウェル中のLDH活性(OD492nm)の平均値を表す。また、Bは反応後のウェルに10 μLの20 % Triton-X水溶液を添加したウェル中のLDH活性(OD492nm)の平均値を表す。さらに、Cは標的細胞に150 μLの10 % FBS/RPMI又は100 μLの10 % FBS/RPMI 及び50 μLのAMP溶液を添加したウェル中のLDH活性(OD492nm)の平均値を表す。Dは10 % FBS/ RPMIのみを入れたウェル中のLDH活性(OD492nm)の平均値を表す。試験はduplicateにて実施し、被験抗体のADCC活性が反映される前記試験におけるADCC活性(%)の平均値を算出した。結果を図3に示す。
【0366】
以上の結果から、当該抗体ABAM004はAMP存在下において抗原結合活性を有し、かつADCC活性を発揮することで標的細胞を殺傷する能力があることが示された。
【0367】
〔実施例2〕ATP依存的結合特性を有する抗CTLA4抗体の結晶構造解析
(2-1)AMP をスイッチとする抗CTLA4結合抗体ABAM004のX線結晶構造解析
実施例1においてライブラリより取得されたAMPをスイッチとするhCTLA4結合抗体ABAM004のFab断片単独、ABAM004のFab断片とAMPの複合体、並びにABAM004のFab断片とAMP、hCTLA4の細胞外ドメインの複合体の結晶構造が解析された。
【0368】
(2-2)結晶化用ABAM004全長抗体の調製
結晶化用ABAM004全長抗体の調製及び精製は当業者公知の方法により行われた。
【0369】
(2-3)ABAM004 Fab断片の結晶構造解析のためのFab断片の調製
ABAM004のFab断片を、rLys-C(Promega、カタログ番号V1671)による制限消化、続いて、Fc断片を除去するためのプロテインAカラム(MabSelect SuRe、GE Healthcare)、カチオン交換カラム(HiTrap SP HP、GE Healthcare)、およびゲル濾過カラム(Superdex200 16/60、GE Healthcare)へのローディングを用いるという、従来の方法により調製された。Fab断片を含む画分はプールされ、-80℃で保存された。
【0370】
(2-4)ABAM004 Fab断片の結晶の作製
2-3の方法で精製した結晶化用ABAM004のFab断片を約13 mg/mLに濃縮し、シッティングドロップ蒸気拡散法により20℃で結晶化を行った。リザーバー溶液は、0.1 M MES pH 6.5、25 %w/v ポリエチレングリコール4000から成るものであった。これにより得られた結晶を0.08 M MES pH 6.5、20% w/v ポリエチレングリコール4000、20% エチレングリコールの溶液に浸漬した。
【0371】
(2-5)ABAM004 Fab断片の結晶からのX線回折データの収集および構造決定
X線回折データを、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのBL-17Aで測定した。測定中、結晶を常に-178℃の窒素流下に置いて凍結状態を維持し、ビームラインに接続されたQuantum 270 CCD検出器(ADSC)を用いて、結晶を1回に0.5°回転させながら、合計360枚のX線回折画像を収集した。セルパラメータの決定、回折スポットのインデックス付け、および回折像から得られた回折データの処理を、Xia2プログラム(J. Appl. Cryst. 43: 186-190 (2010))、XDSパッケージ(Acta. Cryst. D66: 125-132 (2010))、およびScala(Acta. Cryst. D62: 72-82 (2006))を用いて行い、最終的に分解能1.70Åまでの回折強度データを取得した。結晶学的データ統計値が表7に示される。
【0372】
構造を、プログラムPhaser(J. Appl. Cryst. (2007) 40, 658-674)を用いて分子置換法により決定した。Fab断片のサーチモデルは、公開されたFabの結晶構造(PDBコード:4NKI)に由来するものであった。モデルをCootプログラム(Acta Cryst. D66: 486-501 (2010))で構築して、プログラムRefmac5(Acta Cryst. D67: 355-467 (2011))で精密化した。52.92-1.70Åからの回折強度データの結晶学的信頼度因子(R)は16.92%であり、Free R値は21.22%であった。構造精密化統計値は、表7に示される。
【0373】
【表7】
【0374】
(2-6)ABAM004 Fab断片とAMP複合体および、AMP、hCTLA4複合体の結晶構造解析のための全長抗体からのABAM004 Fab断片の調製
ABAM004のFab断片を、パパイン(Roche Diagnostics、カタログ番号1047825)による制限消化、続いて、Fc断片を除去するためのプロテインAカラム(MabSelect SuRe、GE Healthcare)、カチオン交換カラム(HiTrap SP HP、GE Healthcare)、およびゲル濾過カラム(Superdex200 16/60、GE Healthcare)へのローディングを用いるという、従来の方法により調製した。Fab断片を含む画分をプールして、-80℃で保存した。
【0375】
(2-7)ABAM004 Fab断片とAMP複合体の結晶の作製
2-6の方法で精製した結晶化用ABAM004のFab断片を約13 mg/mLに濃縮したものに対して、終濃度が2 mMになるようにAMPを添加し、シッティングドロップ蒸気拡散法により20℃で結晶化を行った。リザーバー溶液は、0.1 M Morpheus buffer 2 pH 7.5、37.5% w/v MPD_P1K_P3350、10% Morpheus Carboxylic acids(Morpheus、Molecular Dimensions)から成るものであった。
【0376】
(2-8)ABAM004 Fab断片とAMP複合体の結晶からのX線回折データの収集および構造決定
X線回折データを、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのBL-1Aで測定した。測定中、結晶を常に-178℃の窒素流下に置いて凍結状態を維持し、ビームラインに接続されたPilatus 2M 検出器(DECTRIS)を用いて、結晶を1回に0.25°回転させながら、合計720枚のX線回折画像を収集した。セルパラメータの決定、回折スポットのインデックス付け、および回折像から得られた回折データの処理を、Xia2プログラム(J. Appl. Cryst. 43: 186-190 (2010))、XDSパッケージ(Acta. Cryst. D66: 125-132 (2010))、およびScala(Acta. Cryst. D62: 72-82 (2006))を用いて行い、最終的に分解能1.70Åまでの回折強度データを取得した。結晶学的データ統計値が表7に示される。
【0377】
構造を、プログラムPhaser(J. Appl. Cryst. (2007) 40, 658-674)を用いて分子置換法により決定した。Fab断片のサーチモデルは、公開されたFabの結晶構造(PDBコード:4NKI)に由来するものであった。モデルをCootプログラム(Acta Cryst. D66: 486-501 (2010))で構築して、プログラムRefmac5(Acta Cryst. D67: 355-367 (2011))で精密化した。47.33-2.89Åからの回折強度データの結晶学的信頼度因子(R)は19.97%であり、Free R値は25.62%であった。構造精密化統計値は、表7に示される。
【0378】
(2-9)hCTLA4細胞外ドメインの調製
hCTLA4の細胞外ドメインは、アバタセプトにEndoproteinase Lys-C(Roche、カタログ番号11047825001)による制限消化、続いて、Fc断片を除去するためのプロテインAカラム(MabSelect SuRe、GE Healthcare)、およびゲル濾過カラム(Superdex200 10/300、GE Healthcare)へのローディングを用いるという方法により調製した。hCTLA4の細胞外ドメインを含む画分をプールして、-80℃で保存した。
【0379】
(2-10)ABAM004 Fab断片とAMPおよびhCTLA4細胞外ドメイン複合体の調製
2-9の方法で精製したhCTLA4細胞外ドメインを、2-6の方法で精製したABAM004のFab断片と1.5:1のモル比で混合し、終濃度が2 mMになるようにAMPを添加した。複合体を、25 mM HEPES pH7.5、100 mM NaCl、2 mM AMPで平衡化したカラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィー(Superdex200 10/300、GE Healthcare)により精製した。
【0380】
(2-11)ABAM004 Fab断片とAMPおよびhCTLA4細胞外ドメイン複合体の結晶の作製
精製した複合体を約8 mg/mLに濃縮し、シーディング法と組み合わせたシッティングドロップ蒸気拡散法により20℃で結晶化を行った。リザーバー溶液は、0.1 M Morpheus buffer 1 pH 6.5、37.5% w/v M1K3350、10% halogens(Morpheus、Molecular Dimensions)から成るものであった。
【0381】
(2-12)ABAM004 Fab断片とAMPおよびhCTLA4細胞外ドメイン複合体の結晶からのX線回折データの収集および構造決定
X線回折データを、SPring-8のBL32XUで測定した。測定中、結晶を常に-178℃の窒素流下に置いて凍結状態を維持し、ビームラインに接続されたMX-225HS CCD検出器(RAYONIX)を用いて、結晶を1回に1.0°回転させながら、合計180枚のX線回折画像を収集した。セルパラメータの決定、回折スポットのインデックス付け、および回折像から得られた回折データの処理を、Xia2プログラム(J. Appl. Cryst. 43: 186-190 (2010))、XDSパッケージ(Acta. Cryst. D66: 125-132 (2010))、およびScala(Acta. Cryst. D62: 72-82 (2006))を用いて行い、最終的に分解能1.70Åまでの回折強度データを取得した。結晶学的データ統計値が表7に示される。
【0382】
構造を、プログラムPhaser(J. Appl. Cryst. (2007) 40, 658-674)を用いて分子置換法により決定した。Fab断片のサーチモデルは、公開されたFabの結晶構造(PDBコード:4NKI)に由来し、hCTLA4の細胞外ドメインのサーチモデルは、公開されたヒトCTLA4の結晶構造(PDBコード:3OSK, J. Biol. Chem. 286: 6685-6696 (2011))に由来するものであった。モデルをCootプログラム(Acta Cryst. D66: 486-501 (2010))で構築して、プログラムRefmac5(Acta Cryst. D67: 355-367 (2011))で精密化した。52.81-3.09Åからの回折強度データの結晶学的信頼度因子(R)は23.49%であり、Free R値は31.02%であった。構造精密化統計値は、表7に示される。
【0383】
(2-13)ABAM004とAMPの相互作用部位の同定
本結晶構造より、AMPは、主に当該抗体の重鎖によって認識されることがわかった。
AMPのアデニン環部分は重鎖CDR1、3によって、リボース部分並びにリン酸基部分は、CDR1、2によって認識される。
【0384】
具体的には、図4に示すように、AMPのアデニン環部分は、当該抗体の重鎖CDR1に属するT33、CDR3に属するY95、L100B、W100Cの各側鎖ならびに、G96、M100Aの各主鎖により認識される。特に、G96ならびにM100Aの主鎖のカルボニル酸素はAMPの6位のNと水素結合を形成し、W100Cの主鎖アミドNH基は1位のNと水素結合を形成し、Y95、L100B、W100Cの側鎖はアデニン環部分の有するパイ電子を利用した相互作用を形成することで、当該抗体は強固にアデニン環部分を認識することがわかった。リボース部分は重鎖CDR1に属するT33、CDR2に属するY56並びにY58の各側鎖によってファンデルワールス相互作用やY56の有するパイ電子による相互作用により認識される。また、リン酸基部分は重鎖CDR1に属するT33、CDR2に属するS52、S52A、R53の各側鎖ならびに、S52Aの主鎖によって認識される。特に、T33の側鎖、およびS52Aの主鎖アミドNH基がリン酸基部分と形成する水素結合と、S52とR53によるファンデルワールス相互作用が、リン酸基部分の認識に重要な役割を果たしていると考えられる。なお、Fabのアミノ酸の残基番号付けは、Kabat番号付けスキームに基づく。
【0385】
(2-14)ABAM004のエピトープの同定
図5および、図6では、ABAM004 Fab接触領域のエピトープが、それぞれ、hCTLA4結晶構造中およびアミノ酸配列中にマッピングされている。エピトープは、結晶構造においてABAM004 FabまたはAMPのいずれかの部分から4.2Å以内の距離に位置する非水素原子を1個以上含むhCTLA4のアミノ酸残基を含んでいる。
少なくとも、抗原のM3、E33、R35、T53、E97、M99、Y100、P101、P102、P103、Y104、Y105、L106は、当該抗体の重鎖CDR2、CDR3、軽鎖CDR1、CDR3ならびに、AMPによって認識されることが結晶構造から明らかになった。特に、抗原のM99からY104から成るループが、当該抗体のCDRループの中に埋もれるように当該抗体に強く認識されており、抗体による抗原認識に大きな役割を果たしていると考えられる。
【0386】
(2-15)AMP依存的な抗原結合の機構
図7は、ABAM004 Fab単独の結晶構造、ABAM004 FabとAMPの複合体の結晶構造、並びにABAM004 FabとAMP及びCTLA4から成る3者複合体の結晶構造から、当該抗体の可変領域を抽出し、重鎖を中心にして重ね合わせた図である。AMP依存的な抗原結合は、実施例2-14で示したAMPとCTLA4の間の直接的な相互作用だけではなく、AMPの結合に伴う当該抗体の構造変化が重要であると考えられる。
【0387】
図7で示すように、当該抗体の単独の結晶構造と、当該抗体にAMPが結合した結晶構造を比較することで、重鎖CDR3と軽鎖CDR3のループ構造、並びに、当該抗体の可変領域における重鎖と軽鎖の間のねじれ角も変化していることが明らかになった。さらに、当該抗体にAMPが結合した結晶構造と、当該抗体とAMPとCTLA4から成る3者複合体の結晶構造を比較すると、重鎖CDR3並びに軽鎖CDR1は、抗原の結合によってさらに構造が変化しており、抗原依存的な構造変化も認められる。一方で、軽鎖CDR3のループ構造及び、重鎖と軽鎖の間のねじれ角には変化がないことから、AMPの結合が当該抗体の構造を、抗原結合時の構造に近い状態に変化させたのではないかと考えられる。従って、AMPの結合に伴う構造変化は、抗原の結合に備えた適切な構造を形成するために必要であり、AMP依存的な抗原結合に重要な役割を果たしていると考えられる。
【0388】
〔実施例3〕改変されたCTLA4抗体の作製、およびその活性評価
(3-1)ABAM004抗体のCTLA4結合活性増強改変体の作製
実施例1に記載のヒトラショナルデザインファージライブラリから取得されたABAM004(VH配列番号:10、VL配列番号:11)はアミノ酸配列が改変され、当該配列とATP類似体非存在下のCTLA4結合活性が低下され、ATP類似体存在下でのヒトCTLA4結合活性が向上され、ATPおよびATP類似体への結合が向上された。このために実施例2に記載の方法で取得されたABAM004とAMPの共結晶構造及びABAM004とAMP、ヒトCTLA4の共結晶構造を基に当該結合に関与することが予想される残基の点変異体が作製された。さらにCDRに含まれる全アミノ酸をAlaあるいはProで置換した改変体も作製された。当該点変異体はBiacore T200あるいはBiacore 4000(GE Healthcare)によりATP非存在下およびATP、ADPあるいはAMP存在下のヒトCTLA4(AbataceptとhCTLA4-His-BAP)結合活性が測定され、当該結合活性を向上させる変異がスクリーニングされた。結合活性を向上させた変異を組み合わせた変異体が作製され、BiacoreによりKD値算出が行われた。その結果、ABAM004の重鎖をH32A、S52aT、軽鎖をT24D、T26P、E50F(番号はKabat番号)に置換するとABAM004の当該結合特性を向上させることが明らかになった。当該変異体を04H0150/04L0072(VH配列番号:47、VL配列番号:48)と呼称する。
【0389】
(3-2)表面プラズモン共鳴によるABAM004および04H0150/04L0072のヒトCTLA4結合活性に対するATPおよびその代謝物の影響の測定
最初にBiacore T200測定用にチップが作成された。Biacore T200の設定温度は25℃、流速は10 μL/minとされた。ランニングバッファーにはHBS-EP+が用いられた。Sensor chip CM5(GE Healthcare)に対し、NHS(N-hydroxysuccinimide)とEDC(N-ethyl-N'-(dimethylaminopropyl) carbodiimide)の等量混合液が流速10 μL/minで10分間添加されflow cellが活性化された。次に10 mM sodium acetate pH 4.0に懸濁した25 μg/mLのProtein A/G(Pierce)が10 μL/minで30分間添加され結合された。その後、flow cell上の過剰の活性基は1 M ethanolamine-HClが10 μL/minで10分間添加されブロックされた。
【0390】
次に目的抗体のヒトCTLA4に対する結合におけるATPおよびその代謝物の影響が測定された。設定温度は25℃で、ランニングバッファーにはTBSが用いられた。再生溶液には10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)が用いられた。TBSに懸濁した抗体がキャプチャーされた後に、500 nMのhCTLA4-His-BAP、4000 μMから公比4で希釈した10濃度のATP、ADPまたはAMP、および2 mM MgCl2を含むTBS溶液が各flow cellに流速10 μL/minで3分間インジェクトされた。この3分間をhCTLA4-His-BAPの結合相とされた。結合相終了後、ランニングバッファーに切り替えた2分間が解離相とされた。解離相終了後、再生溶液が流速30 μL/minで30秒間インジェクトされ、以上が結合活性測定サイクルとされた。結合相においてABAM004及び04H0150/04L0072に相互作用したhCTLA4-His-BAPの結合量はキャプチャーされた抗体量で補正され図8に示された。また、ABAM004及び04H0150/04L0072の結合測定において結合相における小分子濃度が62.5 μMあるいは1 mMに保たれ、2000 nMから公比2で希釈した8濃度のhCTLA4-His-BAPが結合相に用いられた。hCTLA4-His-BAPの結合量の解析から得られたKD値は表8に示される。データの解析および作図にはBiacore T200 Evaluation Software Version:2.0およびMicrosoft Excel 2013(Microsoft)が使用された。KD値の算出にはsteady state affinityモデルが用いられた。
【0391】
【表8】
SMは、それぞれの測定で用いられた小分子(ATP、ADPまたはAMP)を表す。
【0392】
(3-3) 網羅的改変の導入による結合能の増強
より優れた抗CTLA4抗体を作製するため、実施例3-1において作製された抗ヒトCTLA4抗体の可変領域である04H0150/04L0072に対してアミノ酸改変が網羅的に導入された。PCR等当業者公知の方法により04H0150および04L0072の全てのCDRに対してシステインを除く全18アミノ酸への置換体が作製された。作製された約1200個の改変体のヒトCTLA4に対する結合測定がBiacore 4000を用いて実施された。Series S Sensor Chip CM5(GE Healthcare)にProtein A/G(Thermo Fisher Scientific)を固定化したチップに対して、抗体改変体の培養上清を相互作用させて抗体がキャプチャーされた。次に小分子(ATP、ADP、あるいはAMP)を添加したヒトCTLA4溶液、あるいは小分子を添加していないヒトCTLA4溶液を相互作用させ、小分子存在下、および小分子非存在下での抗体とヒトCTLA4との結合能が評価された。ランニングバッファーとしてTris buffered saline, 0.02% PS20を用い、25℃で測定が行われた。
【0393】
上記の方法を用いて見いだされた、小分子存在下でのヒトCTLA4に対する結合を増強する改変、および小分子が存在しない条件下でのヒトCTLA4に対する結合を低減する改変が組み合わされ、より優れたプロファイルを示す抗ヒトCTLA4抗体が作製された。重鎖可変領域として04H0150を有し、重鎖定常領域としてヒトIgG1のC末端のGlyおよびLysを除去したG1m(配列番号:82)を有する抗体重鎖04H0150-G1m(配列番号:209)の遺伝子に対して、網羅的改変導入により見いだされた改変およびFrameworkへの改変を組み合わせて抗体重鎖遺伝子が作製された。また軽鎖可変領域として04L0072を有し、軽鎖定常領域としてヒトλ鎖lam1(配列番号:87)を有する抗体軽鎖04L0072-lam1(配列番号:208)に対して見いだされた改変を組み合わせた抗体軽鎖遺伝子が作製された。さらに軽鎖可変領域のFrameworkおよび定常領域をヒトκ鎖の配列に置換した改変体も併せて作製された。また比較対象としてWO0114424に記載の既存の抗ヒトCTLA4抗体の重鎖可変領域MDX10D1H(配列番号:154)を有する抗体重鎖MDX10D1H-G1m(配列番号:210)の遺伝子と、軽鎖可変領域MDX10D1L(配列番号:155)を有する抗体軽鎖MDX10D1L-k0MT(配列番号:211)の遺伝子が作製された。これらの遺伝子を組み合わせて当業者公知の方法で抗体が発現、精製され、目的とする抗CTLA4抗体が作製された。表9は作製された抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、および超可変領域(Hyper Variable Region)の配列番号の一覧である。
なお、本明細書における抗体は、以下の規則に従い命名されている;(重鎖可変領域)-(重鎖定常領域)/(軽鎖可変領域)-(軽鎖定常領域)。例えば、04H0150-G1m/04L0072-lam1という抗体名であれば、本抗体の重鎖可変領域は04H0150、重鎖定常領域はG1m、軽鎖可変領域は04L0072、軽鎖定常領域はlam1であることを意味する。
【0394】
重鎖、軽鎖、およびそれらの超可変領域のアミノ酸配列(配列番号で示す)
【表9】
【0395】
作製された抗体のヒトCTLA4に対する結合測定がBiacore T200を用いて実施された。ランニングバッファーとして20 mM ACES (pH 7.4), 150 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 0.05% Tween20に対して目的の濃度になるようにATPを添加したものが用いられ、37℃で測定が行われた。まずSeries S Sensor Chip CM3(GE Healthcare)にProtein G(CALBIOCHEM)を固定化したチップに対して、ATPを含まないランニングバッファーで調製した抗体溶液を相互作用させることで、抗体がキャプチャーされた。次に目的の濃度になるようにATPが添加されたランニングバッファーで調製されたヒトCTLA4溶液、あるいはATPを含まないランニングバッファーで調製されたヒトCTLA4溶液を相互作用させることで、ATP存在下、およびATP非存在下での抗体とヒトCTLA4との結合能が評価された。チップは25 mM NaOHと10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)によって再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定が行われた。各抗体のCTLA4に対する解離定数は、Biacore T200 Evaluation Software 2.0を用いて算出された。具体的には、測定により得られたセンサーグラムを1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)が算出され、その値から解離定数KD (mol/L)が算出された。あるいはsteady state modelにより解離定数KD (mol/L)が算出された。また測定により得られたセンサーグラムから求められるCTLA4の結合量をチップ表面に捕捉した抗体の量で補正することで、単位抗体量あたりのCTLA4の結合量が算出された。表10はこれらの測定結果を示す。
【0396】
改変抗体のヒトCTLA4に対する結合解析
【表10】
【0397】
表中の「ヒトCTLA4に対する結合」の値は、記載されている各ATP濃度条件においてヒトCTLA4を1000 nMで相互作用させた際の単位抗体量あたりのヒトCTLA4の結合量を示し、「ヒトCTLA4に対するKD(M)」は各ATP濃度条件におけるヒトCTLA4への解離定数を示す。表中の*印を付したKD値は、steady state modelで算出された。04H0150-G1m/04L0072-lam1を親抗体として作製された改変体はいずれも、ATP存在下での結合が04H0150-G1m/04L0072-lam1と比較して増強されていることが示された。また04H0150-G1m/04L0072-lam1およびこれらの改変体は、ATPが1 μMで存在する条件下よりも10 μM存在下における結合量が多く、さらに100 μM存在下における結合量が多かったことから、ATP濃度依存的にヒトCTLA4に結合することが示された。一方、比較対象であるMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MT はそのようなATP濃度依存的なヒトCTLA4への結合を示さなかった。04H1077-G1m/04L1086-lam1の軽鎖Frameworkおよび定常領域をヒトκ鎖に置換した04H1077-G1m/04L1305-k0MTは04H1077-G1m/04L1086-lam1と比較してATP非存在下でのヒトCTLA4に対する結合が増強されていたものの、ATP濃度依存的な結合も増強されていた。これらの結果から、ヒトκ鎖配列への置換を行ってもATP依存的にヒトCTLA4に結合する性質が維持されることが示された。ここで作製された抗体のうち、04H1077-G1m/04L1066-lam1、04H1077-G1m/04L1305-k0MT、04H1207-G1m/04L1086-lam1は、ATPが100 μM存在する条件において既存の抗ヒトCTLA4抗体であるMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTとほぼ同等の結合活性を示し、04H1208-G1m/04L1407-k0MTはATPが10 μM以上存在する条件下でMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTよりも強い結合活性を示した。
【0398】
次に、表10において作製された抗体の中で04H1077-G1m/04L1086-lam1と04H1208-G1m/04L1407-k0MTのマウスCTLA4への結合が評価された。比較対象として抗マウスCTLA4抗体の重鎖可変領域hUH02(配列番号:156)を有する抗体重鎖hUH02-G1d(配列番号:212)の遺伝子と、軽鎖可変領域hUL01(配列番号:157)を有する抗体軽鎖hUL01-k0(配列番号:213)の遺伝子が作製され、発現、精製して用いられた。ヒトCTLA4への結合測定と同様の条件で、サンプルとしてマウスCTLA4を用い、Biacore T200を用いて測定が実施された(表11)。マウスCTLA4の調製は以下のように行われた。
マウスCTLA4細胞外領域にHisタグが連結されたもの(mCTLA4-His)(配列番号:49)が遺伝子合成され、動物発現用プラスミドへ挿入された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に1.33×106細胞/mLの細胞密度で懸濁されて、フラスコに播種されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に対して、調製されたプラスミドがリポフェクション法により導入された。分光光度計を用いて、精製された抗原溶液の280 nmでの吸光度が測定された。得られた測定値からPACE法により算出された吸光係数を用いて精製された抗原の濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0399】
改変抗体のマウスCTLA4に対する結合解析
【表11】
【0400】
表中の「マウスCTLA4への結合」の値は、記載されている各ATP濃度条件においてマウスCTLA4を1000 nMで相互作用させた際の単位抗体量あたりのマウスCTLA4の結合量を示し、「マウスCTLA4に対するKD(M)」は各ATP濃度条件におけるマウスCTLA4への解離定数を示す。hUH02-G1d/hUL01-k0がATPの濃度に関わらずマウスCTLA4に対して同程度に結合するのに対し、04H1077-G1m-04L1086-lam1と04H1208-G1m/04L1407-k0MTはどちらもATP濃度依存的にマウスCTLA4に結合することが示された。表10に示したヒトCTLA4への結合能と比較すると、100 μMのATP存在下で、4H1077-G1m-04L1086-lam1のマウスCTLA4への結合能はヒトCTLA4への結合能と比較して約5倍弱く、04H1208-G1m/04L1407-k0MTのマウスCTLA4への結合能はヒトCTLA4への結合能と比較して約2倍弱かった。
【0401】
(3-4)抗mCTLA4コントロール抗体および抗mCTLA4スイッチ抗体の作製
抗mCTLA4コントロール抗体(hUH02-mFa55/hUL01-mk1 略名:mNS-mFa55)および抗CTLA4スイッチ(04H1077-mFa55/04L1086-ml0r 略名:SW1077-mFa55、04H1208-mFa55/04L1407s-mk1 略名:SW1208-mFa55)が作製された。mNS-mFa55抗体は、重鎖可変領域hUH02(配列番号:16)および軽鎖可変領域hUL01(配列番号:17)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用した。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1077-mFa55抗体は、重鎖可変領域04H1077(配列番号:20)および軽鎖可変領域04L1086(配列番号:21)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域ml0r(配列番号:22)を使用した。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1208-mFa55抗体は、重鎖可変領域04H1208(配列番号:23)および軽鎖可変領域04L1407s(配列番号:24)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用した。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
【0402】
(3-6)CTLA4スイッチ抗体の中和活性評価
実施例3-4で調製された抗CTLA4スイッチ抗体(SW1077-mFa55)の中和活性は競合ELISA法により評価された。96ウェルのプレートに、mCTLA4にヒト定常領域を連結したmCTLA4-Fc(配列番号:25)を0.1 M NaHCO3, 0.05% NaN3で5 μg/mL (55 nM) に希釈し、作製されたmCTLA4-Fc溶液を100 μLずつ加え、4℃で一晩静置し、プレート表面に固定化した。TBS, 0.1% Tween20で3回washしたのちに、TBSで2%に希釈したBSA溶液を各ウェルに250 μL加え、プレート表面をブロッキングした。その後、3回washした。最終濃度が55 nMになるようにTBSで希釈したマウスCD86にヒト定常領域およびHisタグが融合されたmCD86-Fc-His(Sino Biologics Inc. 50068-M03H, Accession No. NP_062261.3)、最終濃度が6.25, 1.56, 0.390, 0.0977, 0.0061, 0 μg/mLとなるように希釈したSW1077-mFa55抗体溶液、および最終濃度が0, 1, 10, 100 μMとなるように希釈したATP溶液とをそれぞれ合計100 μLとなるように混合し、各ウェルに加えて、1時間37℃で静置した。その後、各ウェルに加えられた溶液のATP濃度と同じATP濃度を含むように調製されたTBS, 0.1% Tween20で各ウェルを3回washした。各ウェルに加えられた溶液のATP濃度と同じATP濃度を含むようにブロッキングバッファーで10000倍に希釈したanti-His-tag mAb-HRP-Direct(MBLライフサイエンス)を各ウェルに100 μL加え1時間37℃で静置した。その後、各ウェルに加えられた溶液のATP濃度と同じATP濃度を含むように調製されたTBS, 0.1% Tween20で各ウェルを3回washした。そこへTMB溶液を各ウェルに100 μL加え1時間37℃で静置し、1M H2SO4を各ウェルに50 μL加え反応を停止し、吸光マイクロプレートリーダー(Wako Sunrise)で450 nmの吸光度を検出した。
同ATP濃度条件下での、抗体未添加ウェルの吸光度の値をmCTLA4-mCD86結合率100%とし、抗体添加でその結合率がどの程度低下するかを評価した。その結果を図9に示す。
【0403】
この結果からSW1077抗体のmCTLA4-mCD86の相互作用に対する中和活性はアッセイ中におけるATP濃度が高ければ高いほど強くなることが示された。この結果から、SW1077抗体にはATP依存的な中和活性があることが確認された。
【0404】
(3-7)同系腫瘍細胞移植マウスモデルにおける抗CTLA4スイッチ抗体の薬効、腫瘍内の制御性T(Treg)細胞の増減、および脾臓における全身反応マーカーの動き
(3-7-1)細胞株および同系腫瘍株移植マウスモデルの作製
細胞は理化学研究所より購入したマウス乳癌株FM3A細胞を用いた。FM3A細胞は10% Bovine serum(Thermo Fisher Scientific)を含むRPMI1640培地(SIGMA)にて維持継代した。マウスは日本チャールス・リバー社から購入したC3H/HeNマウス(7週齢、♀)を用いた。マウスの腹部皮下にFM3A細胞を移植し、移植腫瘍の体積がおよそ150 mm3から300 mm3になった時点でモデル成立とした。
【0405】
移植腫瘍の体積は以下の式にて算出した。
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
【0406】
(3-7-2)投与薬剤の調製
FM3A細胞移植モデルへの投与薬剤は、実施例3-4で調製された抗マウスCTLA4コントロール抗体(mNS-mFa55)および抗CTLA4スイッチ抗体(SW1208-mFa55)とした。mNS-mFa55は0.0005 mg/mL, 0.005 mg/mL, 0.0125 mg/mL, 0.05 mg/mL, 0.5 mg/mL, 1.5 mg/mL, 5 mg/mLになるよう、SW1208-mFa55は0.005 mg/mL, 0.05 mg/mL, 0.5 mg/mL, 5 mg/mL, 25 mg/mLになるよう、それぞれHis-buffer(20 mM His-HCl, 150 mM NaCl, pH 6.0)を用いて調製した。
【0407】
(3-7-3)抗腫瘍効果測定に際しての薬剤投与
移植後9日目に、mNS-mFa55は0.01 mg/kg, 0.1 mg/kg, 0.25 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kg, 100 mg/kgの用量で、SW1208-mFa55は0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgの用量で、それぞれマウスに投与した。投与は、調製した投与液を20 mL/kgの用量で、尾静脈より行った。
抗腫瘍効果測定に際しての薬剤処置に関する詳細を表12に示した。
【0408】
FM3A細胞移植モデルでの抗腫瘍効果測定
【表12】
【0409】
(3-7-4)抗腫瘍効果の評価
抗腫瘍効果については、(3-7-1)に記した計算式にて算出した腫瘍体積で評価した。
【0410】
腫瘍増殖抑制率(TGI : Tumor Growth Inhibition)値については、以下の計算式より算出した。
TGI(%)=(1-(測定時における着目する群の腫瘍体積の平均値-初回投与時における着目する群の腫瘍体積の平均値)÷(測定時におけるcontrol群の腫瘍体積の平均値-初回投与時のcontrol群の腫瘍体積の平均値))×100
【0411】
結果、mNS-mFa55は0.1 mg/kg以上の用量において、SW1208-mFa55は1 mg/kg以上の用量において、投与後13日目でTGI=60%以上の薬効を示した(図10および図11)。
【0412】
(3-7-5)腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤投与
移植後7日目に抗マウスCTLA4コントロール抗体(mNS-mFa55)を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kgにて尾静脈より投与し、抗CTLA4スイッチ抗体(SW1208-mFa55)を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにて尾静脈より投与した。腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤処置に関する詳細を表13に示した。
【0413】
FM3A細胞移植モデルでの腫瘍内・全身性作用検証(mNS-mFa55及びSW1208-mFa55)
【表13】
【0414】
(3-7-6)FM3A細胞移植モデルマウスからの腫瘍・脾臓の摘出
抗体投与後6日目に、麻酔下でマウスを安楽死処置し、腫瘍と脾臓を摘出した。摘出した脾臓より、10% FBS(SIGMA)を含むRPMI-1640培地(SIGMA)を用いて細胞懸濁液を調製した後、Mouse Erythrocyte Lysing kit(R&D)を用いて溶血処理し、脾臓細胞を調製した。摘出した腫瘍は、Tumor dissociation kit, mouse(miltenyi)を用いて破砕した。脾臓細胞、腫瘍を破砕したものをともに以下の抗体と反応させ、FACS解析によって存在する免疫細胞の画分を解析した。抗CD45抗体(BD、クローン: 30-F11)、抗CD3抗体(BD、クローン: 145-2C11)、抗CD4抗体(BD、クローン: RM4-5)、抗FoxP3抗体(eBioscience、クローン: FJK-16s)、抗ICOS抗体(eBioscience、クローン: 7E17G9)、抗KLRG1抗体(Biolegend、クローン: 2F1/KLRG1)。FACS解析はBD LSRFortessa X-20(BD)にて行った。
【0415】
(3-7-7)FM3A細胞移植モデルでの腫瘍のTreg評価
抗マウスCTLA4コントロール抗体(mNS-mFa55)及び抗CTLA4スイッチ抗体(SW1208-mFa55)投与時の腫瘍内のeffector Treg細胞(CD4+ FoxP3+ KLRG1+)の変化を評価した。結果、mNS-mFa55もSW1208-mFa55も、1 mg/kg以上のdoseにおいて、effector Tregの割合がCD45陽性細胞の0.2%未満まで減少した(図12)。
【0416】
(3-7-8)FM3A細胞移植モデルでの脾臓の全身作用評価
mNS-mFa55及びSW1208-mFa55投与時の脾臓内の活性化helper T 細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の変化を、FACS解析にて評価した。結果、mNS-mFa55投与時には脾臓での活性化helper T 細胞のCD45陽性細胞に対する割合が顕著に増加したが、SW1208-mFa55は投与doseを上げていっても、脾臓での活性化helper T 細胞のCD45陽性細胞に対する割合を顕著に増加させることは無かった(図13)。当該スイッチ抗体はコントロール抗体と同等の薬効を示す一方で、腫瘍以外の組織では反応を起こさないことが確認され、腫瘍局所でのみ活性を示すというコンセプトがマウス生体内で証明された。
【0417】
〔実施例4〕改変されたCTLA4抗体の作製、およびその活性評価
実施例3において作製された抗CTLA4スイッチ抗体の更なる改変と評価が実施された。
【0418】
(4-1)ATPへの結合増強改変によるCTLA4への結合能の増強
実施例2-1において実施された構造解析の結果より、抗体重鎖のCDR2がAMPのリン酸基と相互作用していることが示された。小分子がATPの場合には、γリン酸基が重鎖CDR2と立体障害を起こす可能性が考えられたため、この領域のアミノ酸を置換し、ATPとの結合能の増強が検討された。具体的には、実施例3において作製された04H1207-G1m/04L1086-lam1および04H1208-G1m/04L1086-lam1の重鎖可変領域に対してR53QとG55Hの改変を導入した04H1389-G1m/04L1086-lam1と、04H1382-G1m/04L1086-lam1が作製された。また04H1389-G1m/04L1086-lam1の軽鎖をヒトκ鎖の配列に置換した04H1389-G1m/04L1305-k0MTが作製された。表14はこれらの抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、および超可変領域(Hyper Variable Region)の配列番号の一覧を示す。
【0419】
重鎖、軽鎖、およびそれらの超可変領域のアミノ酸配列(配列番号で示す)
【表14】
【0420】
作製された改変体のATPに対する結合およびヒトCTLA4に対する結合がBiacore T200で評価された。ATPに対する結合測定は、ランニングバッファーとして20 mM ACES (pH 7.4), 150 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 0.05% Tween20が用いられ、37℃で実施された。まずSeries S Sensor Chip CM3(GE Healthcare)にSure Protein A(GE Healthcare)を固定化したチップに対して、ランニングバッファーで調製した抗体溶液を相互作用させることで、抗体がキャプチャーされた。次にランニングバッファーで調製されたATP溶液を相互作用させることで、抗体との結合能が評価された。チップは25 mM NaOHと10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)を用いて再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定が行われた。各抗体のATPに対する結合量は、ATPを100 nMの濃度でインジェクトした際の結合量をチップ表面に捕捉した抗体の量で補正することで、単位抗体量あたりのATPの結合量が算出された。ヒトCTLA4に対する結合測定は実施例3-3に記載の方法でBiacore T200を用いて実施された。表15はこれらの測定結果を示す。
【0421】
ATPおよびヒトCTLA4に対する結合解析
【表15】
【0422】
04H1389-G1m/04L1086-lam1と、04H1382-G1m/04L1086-lam1はR53Q/G55H導入前の親抗体04H1207-G1m/04L1086-lam1および04H1208-G1m/04L1086-lam1と比較してATPに対する結合能が増強されていた。04H1389-G1m/04L1086-lam1と、04H1382-G1m/04L1086-lam1のヒトCTLA4に対する結合能は、R53Q/G55H導入前の親抗体04H1207-G1m/04L1086-lam1および04H1208-G1m/04L1086-lam1と比較して10 μMのATP存在下で約10倍増強されていた。結合量での比較から、より低いATP濃度でのヒトCTLA4への結合能が増強されていることが示された。04H1389-G1m/04L1086-lam1の軽鎖をヒトκ鎖の配列に置換した04H1389-G1m/04L1305-k0MTも、04H1389-G1m/04L1086-lam1と同等のATP結合能、およびATP依存的なヒトCTLA4への結合能を有することが示された。
【0423】
(4-2)抗ヒトCTLA4コントロール抗体および抗CTLA4スイッチ抗体の作製と結合能の評価
抗ヒトCTLA4コントロール抗体(MDX10D1H-mFa55/MDX10D1L-mk1 略名:hNS-mFa55)および抗CTLA4スイッチ抗体(04H1389-mFa55/04L1305-mk1 略名:SW1389-mFa55)が作製された。hNS-mFa55抗体は、重鎖可変領域MDX10D1H(配列番号:26)および軽鎖可変領域MDX10D1L(配列番号:27)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用している。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1389-mFa55抗体は、重鎖可変領域04H1389(配列番号:29)および軽鎖可変領域04L1305(配列番号:30)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用している。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
【0424】
作製されたhNS-mFa55、SW1389-mFa55のヒトCTLA4に対する結合が評価された。ランニングバッファーとして20 mM ACES (pH 7.4), 150 mM NaCl, 2 mM MgCl2, 0.05% Tween20に対して目的の濃度になるようにATPを添加したものが用いられ、37℃で測定が行われた。まずSeries S Sensor Chip CM5(GE Healthcare)にRabbit Anti-Mouse IgG(Thermo Fisher Scientific)を固定化したチップに対して、ATPを含まないランニングバッファーで調製した抗体溶液を相互作用させることで、抗体がキャプチャーされた。次に目的の濃度になるようにATPが添加されたランニングバッファーで調製されたヒトCTLA4溶液、あるいはATPを含まないランニングバッファーで調製されたヒトCTLA4溶液を相互作用させることで、ATP存在下、およびATP非存在下での抗体とヒトCTLA4との結合能が評価された。チップは25 mM NaOHと10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)によって再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定が行われた。各抗体のCTLA4に対する解離定数は、Biacore T200 Evaluation Software 2.0を用いて算出された。具体的には、測定により得られたセンサーグラムを1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)が算出され、その値から解離定数KD (mol/L)が算出された。表16はこれらの測定結果を示す。
【0425】
マウス定常領域を有する改変体のヒトCTLA4に対する結合解析
【表16】
【0426】
マウス定常領域で作製された2抗体はいずれも、ヒトCTLA4に結合することが確認された。またSW1389-mFa55は、表15に記載されている同じ可変領域とヒト定常領域で作製された04H1389-G1m/04L1305-k0MTと同等に、ATP依存的にヒトCTLA4に結合することが示された。
【0427】
(4-3)Human CTLA4 knock-in, human CD3 transgenicマウスを用いた同系腫瘍細胞移植モデルにおける抗CTLA4スイッチ抗体、抗CTLA4非スイッチ(non-switch)抗体それぞれの薬効、腫瘍内のTreg細胞の増減、および脾臓における全身反応マーカーの動き
(4-3-1)細胞株
Hepa1-6/hGPC3細胞を用いた。この細胞株は、マウス肝癌株Hepa1-6細胞をATCCより購入し、human Glypican 3(hGPC3、配列番号:181)遺伝子をtransfectionによって恒常発現させ、クローン化したものである。Hepa1-6/hGPC3細胞を10% FBS(SIGMA)および600 μg/mL GENETICIN(gibco)を含むD-MEM(high glucose)培地(SIGMA)にて維持継代した。
【0428】
(4-3-2)同系腫瘍株移植マウスモデルの作製
Human CTLA4 knock-in マウス(Blood (2005) 106(9): 3127-3133)と社内で作製したhuman CD3 EDG replaced mouse(Sci Rep (2017) 7: 45839)の交雑系統である、human CTLA4 KI, human CD3 EDG replacedマウス(hCTLA4 KI hCD3 EDG replacedマウス)を用いた。hCTLA4 KI hCD3 EDG replacedマウスの皮下にHepa1-6/hGPC3細胞を移植し、移植腫瘍の体積の平均がおよそ200 mm3から400 mm3になった時点でモデル成立とした。
【0429】
移植腫瘍の体積は以下の式にて算出した。
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
【0430】
(4-3-3)投与薬剤の調製
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルへの投与薬剤としては、実施例4-2で調製された抗CTLA4スイッチ抗体(SW1389-mFa55)または、抗ヒトCTLA4コントロール抗体(hNS-mFa55)をそれぞれ 0.01, 0.1, 1, 5, 10, 20 mg/mL, 0.01, 0.1, 1, 3 mg/mLになるようにHis buffer(150 mM NaCl/ 20 mM His-HCl buffer pH 6.0)を用いて調製した。
【0431】
(4-3-4)抗腫瘍効果測定に際しての薬剤投与
移植後7日目にSW1389-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg、hNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kgにてマウスに尾静脈より投与した。抗腫瘍効果測定に際しての薬剤処置に関する詳細を表17に示した。
【0432】
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの抗腫瘍効果測定
【表17】
【0433】
(4-3-5)抗腫瘍効果の評価
抗腫瘍効果については、(4-3-2)に記した計算式にて算出した腫瘍体積で評価した。統計解析にはJMP 11.2.1(SAS Institute Inc.)を用いた。
【0434】
TGI(tumor growth inhibition)値については、以下の計算式より算出した。
TGI=(1-(測定時における着目する群の腫瘍体積の平均値-抗体投与前の時点での腫瘍体積の平均値)÷(測定時におけるcontrol群腫瘍体積の平均値-抗体投与前の時点での腫瘍体積の平均値))×100
【0435】
結果、hNS-mFa55、SW1389-mFa55双方ともに1 mg/kg以上のdoseにおいて、投与後18日目でTGI=60以上の薬効を示した(図14および図15)。
【0436】
(4-3-6)腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤投与
移植後7日目にSW1389-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 100 mg/kg, 500 mg/kgにてマウスに尾静脈より投与し、hNS-mFa55を0.1 mg/kg, 1 mg/kg, 10 mg/kg, 30 mg/kgにて尾静脈より投与した。腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤処置に関する詳細を表18に示した。
【0437】
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの腫瘍内・全身性作用検証(hNS-mFa55およびSW1389-mFa55)
【表18】
【0438】
(4-3-7)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルマウスからの腫瘍・脾臓の摘出
抗体投与後6日目に、麻酔下でマウスを安楽死処置し、腫瘍と脾臓を摘出した。摘出した脾臓より、10% FBS(SIGMA)を含むRPMI-1640培地(SIGMA)を用いて細胞懸濁液を調製した後、Mouse Erythrocyte Lysing kit(R&D)を用いて溶血処理し、脾臓細胞を調製した。摘出した腫瘍は、Tumor dissociation kit, mouse(miltenyi)を用いて破砕した。脾臓細胞、腫瘍を破砕したものをともに以下の抗体と反応させ、FACS解析によって存在する免疫細胞の画分を解析した。抗CD45抗体(BD、クローン: 30-F11)、抗CD3抗体(BD、クローン: UCHT1)、抗CD4抗体(BD、クローン: RM4-5)、抗FoxP3抗体(eBioscience、クローン: FJK-16s)、抗ICOS抗体(eBioscience、クローン: 7E17G9)、抗CCR7抗体(Biolegend、クローン: 4B12)、抗KLRG1抗体(Biolegend、クローン: 2F1/KLRG1)。FACS解析はBD LSRFortessa X-20(BD)にて行った。
【0439】
(4-3-8)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの腫瘍のTreg評価
SW1389-mFa55投与時および、hNS-mFa55投与時の腫瘍内のeffector Treg細胞(CD4+ FoxP3+ CCR7lowKLRG1+)の変化を評価した。結果、hNS-mFa55 もSW1389-mFa55も、1 mg/kg以上のdoseにおいて、effector Tregの割合がCD45陽性細胞の0.2%未満まで減少した(図16)。
【0440】
(4-3-9)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの脾臓の全身作用評価
hNS-mFa55またはSW1389-mFa55投与時の、脾臓内の活性化helper T細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の変化を、FACS解析にて評価した。結果、hNS-mFa55投与時には脾臓での活性化helper T細胞のCD45陽性細胞に対する割合が顕著に増加したが、SW1389-mFa55投与時には投与doseを上げていっても脾臓における活性化helper T細胞の顕著な増加は見られなかった(図17)。当該スイッチ抗体はコントロール抗体と同等の薬効を示す一方で、腫瘍以外の組織では反応を起こさないことが確認され、腫瘍局所でのみ活性を示すというコンセプトがヒトCTLA4 KIマウス生体内で証明された。
【0441】
(4-4)カニクイザル毒性試験に供する、抗CTLA4コントロール抗体および抗CTLA4スイッチ抗体の作製
抗CTLA4コントロール抗体(MDX10D1H-Kn125/MDX10D1L-k0MT//MDX10D1H-Hl076/MDX10D1L-k0MT 略名:NS-ART1)および抗CTLA4スイッチ抗体(04H1389-Kn125/04L1305-k0MT//04H1389-Hl076/04L1305-k0MT 略名:SW1389-ART1)が作製された。NS-ART1抗体は、重鎖可変領域MDX10D1H(配列番号:26)および軽鎖可変領域MDX10D1L(配列番号:27)を用い、定常領域は先行特許WO2013/002362に記載のヒト重鎖定常領域Kn125(配列番号:31)およびヒト重鎖定常領域Hl076(配列番号:32)、ヒト軽鎖定常領域k0MT(配列番号:33)を使用している。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたヒト重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1389-ART1抗体は、重鎖可変領域04H1389(配列番号:29)および軽鎖可変領域04L1305(配列番号:30)を用い、定常領域はヒト重鎖定常領域Kn125(配列番号:31)およびヒト重鎖定常領域Hl076(配列番号:32)、ヒト軽鎖定常領域k0MT(配列番号:33)を使用している。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたヒト重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
なお、本明細書におけるヘテロ二量化抗体(二本の異なる重鎖ポリペプチド、および/または二本の異なる軽鎖ポリペプチドを有する、抗体)は、以下の規則に従い命名されている;(第一の重鎖可変領域)-(第一の重鎖定常領域)/(第一の軽鎖可変領域)-(第一の軽鎖定常領域)//(第二の重鎖可変領域)-(第二の重鎖定常領域)/(第二の軽鎖可変領域)-(第二の軽鎖定常領域)。例えば、04H1389-Kn125/04L1305-k0MT//04H1389-Hl076/04L1305-k0MTという抗体名であれば、本抗体の第一の重鎖可変領域は04H1389、第一の重鎖定常領域はKn125、第一の軽鎖可変領域は04L1305、第一の軽鎖定常領域はk0MT、第二の重鎖可変領域は04H1389、第二の重鎖定常領域はHl076、第二の軽鎖可変領域は04L1305、第二の軽鎖定常領域はk0MTであることを意味する。
【0442】
(4-5)カニクイザル毒性試験の実施
全身反応をはじめとする毒性を評価・比較する目的で,実施例4-4で調製されたNS-ART1抗体及びSW1389-ART1抗体をそれぞれ雄性カニクイザル(各3例)に60 mg/kg,毎週1回,計5回投与した。投与はシリンジポンプを用いて低速静脈内投与し,一般状態観察,体重測定,血液・血液化学的検査,骨髄検査,病理学的検査及び血漿中薬物濃度測定を実施した。
両抗体ともに投与期間中から抗薬物抗体の発現はみられたが,投与期間終了時まで曝露は維持された。NS-ART1抗体投与により自己抗体の発現,炎症性変化(血管炎,炎症性細胞浸潤),貧血性変化,T細胞の活性化等,全身性に自己免疫疾患様変化が認められた一方,SW1389-ART1抗体投与では前述の変化が認められなかった。よって,これらの結果から,SW1389-ART1抗体は生体における毒性を軽減することが示された。
【0443】
〔実施例5〕改変されたCTLA4抗体の作製、およびその活性評価
実施例4において作製された抗CTLA4スイッチ抗体の更なる改変と評価が実施された。
【0444】
(5-1)網羅的改変の導入およびFrameworkの置換による抗体の最適化
04H1389-G1m/04L1086-lam1のCDRに対して、アミノ酸改変が網羅的に導入され、より優れたプロファイルを有する改変が探索された。アミノ酸改変の網羅的導入および評価は実施例3-3に記載の方法を用いて行われた。ここで見出された改変の組み合わせおよびFrameworkを置換した改変体が作製された。表19はこれらの抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、および超可変領域(Hyper Variable Region)の配列番号の一覧を示す。表19中の軽鎖04L1594-lam1、04L1581-lam1、04L1610-lam1、04L1612-lam1、04L1610-lam1は親抗体の軽鎖04L1086-lam1に対してCDRおよびframeworkへの改変が導入されており、ヒトλ鎖のgermline配列のframeworkと定常領域を有する。また04L1615-k0MT、 04L1616-k0MT、 04L1617-k0MTは、04L1086-lam1に対してCDRへの改変が導入され、かつヒトκ鎖のgermline配列のframeworkと定常領域を有する。重鎖可変領域04H1389v373は親抗体の重鎖可変領域04H1389のCDRへの改変が導入されたもの、04H1637、04H1643、04H1654、04H1656、04H1642、04H1735は04H1389のCDRに改変が導入されるとともに、Frameworkの配列を異なるgermlineに置換した重鎖可変領域である。
【0445】
重鎖、軽鎖、およびそれらの超可変領域のアミノ酸配列(配列番号で示す)
【表19】
【0446】
作製された改変体のヒトCTLA4への結合活性が実施例3-3に記載の方法で評価された(表20)。
【0447】
ヒトCTLA4に対する結合解析
【表20】
【0448】
表中の*印を付したKD値は、steady state modelで算出された。04H1389-G1m/04L1086-lam1を親抗体として作製された改変体はいずれも、ATP依存的にヒトCTLA4に結合し、ATPが10 μM存在する条件下で3.7×10-8 MのKDを示す親抗体よりも強い結合能を有することが示された。またこれらの抗体はいずれもATPが10 μM存在する条件下で既存の抗ヒトCTLA4抗体MDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTよりも強い結合能を有することが示された。
【0449】
作製された改変体の、ADP、AMP存在下でのヒトCTLA4への結合能がBiacore T200で評価され、ATP存在下での結合能と比較された。ADP、AMP存在下でのヒトCTLA4への結合能は、ATP存在下での結合能の評価と同じく、実施例3-3に記載されている方法を用いて行われ、ATPの代わりにADP、あるいはAMPを用いて実施された(表21)。
【0450】
ATP、ADPおよびAMP依存性の評価
【表21】
【0451】
既存のヒトCTLA4抗体であるMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTが小分子の種類や有無にかかわらず同程度の速度論的パラメータ(kinetic parameter)を示したのに対し、ATP依存性抗CTLA4抗体はいずれもATPだけではなくADP、AMP存在下でもヒトCTLA4に対して結合し、これらの小分子が存在する条件での結合能は、表20に示される小分子が存在しない条件での結合能よりも高かった。したがってこれらの抗体はATP、ADP、AMP依存的にCTLA4に結合する抗体であることが示された。これらの抗体はATP存在下で最も結合能が高く、続いてADP存在下での結合能が高く、AMP存在下での結合能が最も低かった。いずれもAMP存在下での結合能よりもADP存在下での結合能の方が約3倍強く、AMP存在下での結合能よりもATP存在下での結合能の方が約5倍強かった。いずれの小分子存在下でもkaの値は同程度であったが、kdの値に差が見られ、ATP存在下よりもADP存在下での解離が、さらにADP存在下よりもAMP存在下での解離が速かったことから、小分子の種類によるKD値の差は解離速度の差に由来することが示された。
【0452】
次にいくつかの改変体についてマウスCTLA4およびカニクイザルCTLA4への結合能が評価された。実施例3-3に記載の方法で、Biacore T200を用いてヒトCTLA4、マウスCTLA4、カニクイザルCTLA4に対する結合活性が評価された(表22)。カニクイザルCTLA4は以下の方法で調製された。
カニクイザルCTLA4細胞外領域C末端にHisタグおよびBAPタグが融合したものcyCTLA4-His-BAP(配列番号:50)が遺伝子合成され、動物発現用プラスミドへ挿入された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に1.33×106細胞/mLの細胞密度で懸濁されて、フラスコに播種されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に対して、調製されたプラスミドがリポフェクション法により導入され、プラスミド導入後3時間後にビオチンが終濃度100 μMとなるように添加され、CO2インキュベーター(37℃、8% CO2, 125 rpm)で4日間培養された。各検体の培養上清から、当業者公知の方法で抗原が精製された。分光光度計を用いて、精製された抗原溶液の280 nmでの吸光度が測定された。得られた測定値からPACE法により算出された吸光係数を用いて精製された抗原の濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
【0453】
ヒト、マウス、およびカニクイザルCTLA4に対する結合解析
【表22】
【0454】
評価された6種類の小分子依存性CTLA4抗体はいずれも、ヒトCTLA4だけではなくマウスCTLA4およびカニクイザルCTLA4に対してもATP依存的に結合することが示された。
【0455】
(5-2)改変された抗CTLA4スイッチ抗体および陰性コントロール抗体の作製
改変された抗CTLA4スイッチ抗体(04H1654-mFa55m2P1/04L1610-ml0r//04H1656-mFa55m2N1/04L1610-ml0r 略名:SW1610-mFa55、04H1654-mFa55m2P1/04L1612-ml0r//04H1656-mFa55m2N1/04L1612-ml0r 略名:SW1612-mFa55、および04H1389-mFa55/04L1615-mk1 略名:SW1615-mFa55)、および陰性コントロール抗体(IC17Hdk-mFa55/IC17L-mk1 略名:KLH-mFa55)が作製された。
SW1615-mFa55抗体は、重鎖可変領域04H1389(配列番号:29)および軽鎖可変領域04L1615(配列番号:34)を用い、定常領域はマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)および野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用している。この時Fcγ受容体への結合を増強するよう改変を加えたマウス重鎖定常領域を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1610-mFa55抗体は、一方の重鎖可変領域04H1654(配列番号:35)は定常領域としてマウス重鎖定常領域mFa55m2P1(配列番号:36)を、もう一方の重鎖可変領域04H1656(配列番号:37)はマウス重鎖定常領域mFa55m2N1(配列番号:38)を連結し、さらに軽鎖可変領域04L1610(配列番号:39)は野生型マウス軽鎖定常領域ml0r(配列番号:22)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1612-mFa55抗体は、一方の重鎖可変領域04H1654(配列番号:35)は定常領域としてマウス重鎖定常領域mFa55m2P1(配列番号:36)を、もう一方の重鎖可変領域04H1656(配列番号:37)はマウス重鎖定常領域mFa55m2N1(配列番号:38)を連結し、さらに軽鎖可変領域04L1612(配列番号:40)は野生型マウス軽鎖定常領域ml0r(配列番号:22)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
陰性コントロール抗体は、重鎖可変領域IC17Hdk(配列番号:51)は定常領域としてマウス重鎖定常領域mFa55(配列番号:18)を連結し、さらに軽鎖可変領域IC17L(配列番号:52)は野生型マウス軽鎖定常領域mk1(配列番号:19)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
【0456】
(5-3)マウス定常領域を有する抗体のヒトCTLA4への結合能の評価
マウス定常領域を有する抗CTLA4抗体の抗原への結合能が実施例4-2に記載の方法で評価された(表23)。マウス定常領域を有するこれらの抗体はいずれも、同じ可変領域でかつヒト定常領域を有する表22に記載の抗体と同等のATP依存的なヒトCTLA4への結合能を有することが示された。
【0457】
マウス定常領域を有する改変体のヒトCTLA4に対する結合解析
【表23】
【0458】
(5-4)Human CTLA4 knock-in, human CD3 transgenicマウスを用いた同系腫瘍細胞移植モデルにおける抗CTLA4スイッチ抗体の薬効、腫瘍内のTreg細胞の増減、および脾臓における全身反応マーカーの動き
(5-4-1)細胞株
Hepa1-6/hGPC3細胞を用いた。この細胞株は、マウス肝癌株Hepa1-6細胞をATCCより購入し、human Glypican 3(hGPC3)遺伝子をtransfectionによって恒常発現させ、クローン化したものである。Hepa1-6/hGPC3細胞は10% FBS(SIGMA)および0.6 mg/mL G418(ナカライテスク)を含むD-MEM(high glucose)培地(SIGMA)にて維持継代した。
【0459】
(5-4-2)同系腫瘍株移植マウスモデルの作製
Human CTLA4 knock-in マウス(Blood (2005) 106(9): 3127-3133)と社内で作製したhuman CD3 EDG replaced mouse(Sci Rep (2017) 7: 45839)の交雑系統である、human CTLA4 KI, human CD3 EDG replacedマウス(hCTLA4 KI hCD3 EDG replacedマウス)を用いた。hCTLA4 KI hCD3 EDG replacedマウスの皮下にHepa1-6/hGPC3細胞を移植し、移植腫瘍の体積の平均がおよそ200 mm3から400 mm3になった時点でモデル成立とした。
【0460】
移植腫瘍の体積は以下の式にて算出した。
腫瘍体積=長径×短径×短径/2
【0461】
(5-4-3)投与薬剤の調製
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルへの投与薬剤は、実施例5-2で調製された抗CTLA4スイッチ抗体(SW1610-mFa55、SW1612-mFa55、SW1615-mFa55)とした。投与薬剤は0.03 mg/mL, 0.1 mg/mL, 0.3 mg/mLになるようにHis-buffer(20 mM His-HCl, 150 mM NaCl, pH 6.0)を用いて調製した。
【0462】
(5-4-4)抗腫瘍効果測定に際しての薬剤投与
移植後8日目に抗CTLA4スイッチ抗体3検体をそれぞれ0.3 mg/kg, 1 mg/kg, 3 mg/kgにてマウスに尾静脈より投与した。抗腫瘍効果測定に際しての薬剤処置に関する詳細を表24に示した。
【0463】
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの抗腫瘍効果測定(抗CTLA4スイッチ抗体)
【表24】
【0464】
(5-4-5)抗腫瘍効果の評価
抗腫瘍効果については、(5-4-2)に記した計算式にて算出した腫瘍体積で評価した。
【0465】
腫瘍増殖抑制率(TGI : Tumor Growth Inhibition)値については、以下の計算式より算出した。
TGI(%)=(1-(測定時における着目する群の腫瘍体積の平均値-初回投与時における着目する群の腫瘍体積の平均値)÷(測定時におけるcontrol群の腫瘍体積の平均値-初回投与時のcontrol群の腫瘍体積の平均値))×100
【0466】
結果、SW1610-mFa55およびSW1612-mFa55は1 mg/kg以上のdoseにおいて、SW1615-mFa55は3 mg/kg以上のdoseにおいて、投与後16日目でTGI=60%以上の薬効を示した(図18図20)。
【0467】
(5-4-6)腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤投与
移植後10日目にSW1610-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1612-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg、SW1615-mFa55を50 mg/kg, 100 mg/kg, 200 mg/kg, 400mg/kgにてマウスに尾静脈より投与した。また、コントロール群には、陰性コントロール抗体であるIC17Hdk-mFa55/IC17L-mk1(略名:KLH-mFa55)を400 mg/kgにて尾静脈より投与した。腫瘍内のTreg細胞の評価及び脾臓での全身性作用検証に際しての薬剤処置に関する詳細を表25に示した。
【0468】
Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの腫瘍内・全身性作用検証(抗CTLA4スイッチ抗体)
【表25】
【0469】
(5-4-7)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルマウスからの腫瘍・脾臓の摘出
抗体投与後6日目に、麻酔下でマウスを安楽死処置し、腫瘍と脾臓を摘出した。摘出した脾臓より、10% FBS(SIGMA)を含むRPMI-1640培地(SIGMA)を用いて細胞懸濁液を調製した後、Mouse Erythrocyte Lysing kit(R&D)を用いて溶血処理し、脾臓細胞を調製した。摘出した腫瘍は、Tumor dissociation kit, mouse(miltenyi)を用いて破砕した。脾臓細胞、腫瘍を破砕したものをともに以下の抗体と反応させ、FACS解析によって存在する免疫細胞の画分を解析した。抗CD45抗体(BD、クローン: 30-F11)、抗CD3抗体(BD、クローン: UCHT1)、抗CD4抗体(BD、クローン: RM4-5)、抗FoxP3抗体(eBioscience、クローン: FJK-16s)、抗ICOS抗体(eBioscience、クローン: 7E17G9)、抗CCR7抗体(Biolegend、クローン: 4B12)、抗KLRG1抗体(Biolegend、クローン: 2F1/KLRG1)。FACS解析はBD LSRFortessa X-20(BD)にて行った。
【0470】
(5-4-8)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの腫瘍のTreg評価
抗CTLA4スイッチ抗体投与時の腫瘍内のeffector Treg細胞(CD4+ FoxP3+ CCR7lowKLRG1+)の変化を評価した。結果、SW1610-mFa55、SW1612-mFa55およびSW1615-mFa55は投与した全てのdoseにおいて、effector Tregの割合がCD45陽性細胞の0.2%未満まで減少した(図21)。
【0471】
(5-4-9)Hepa1-6/hGPC3細胞移植モデルでの脾臓の全身作用評価
抗CTLA4スイッチ抗体投与時の脾臓内の活性化helper T細胞(CD4+ Foxp3- ICOS+)の変化を、FACS解析にて評価した。結果、SW1610-mFa55およびSW1612-mFa55は評価したdoseのうち、50 mg/kgのdoseにおいて、SW1615-mFa55は評価したdoseのうち、200 mg/kg以下のdoseにおいて脾臓での活性化helper T細胞のCD45陽性細胞に対する割合を、有意に増加させることは無かった。有意差検定はJMP 11.2.1(SAS Institute Inc.)を用い、KLH-mFa55投与群に対してDunnettの検定を行った(図22)。当該スイッチ抗体はいずれも薬効を示す一方で、腫瘍以外の組織では反応を起こさない事が確認され、腫瘍局所でのみ活性を示すという性質を有することが確認された。
【0472】
〔実施例6〕ADCC/ADCP活性増強を可能にする改変Fcの作製
細胞傷害性エフェクター機能であるADCCおよびADCPを増強した抗体を作製するため、活性型FcγRであるFcγRIIIaおよびFcγRIIaに対する結合能を増強したFc領域改変体の作製が検討された。
【0473】
(6-1)FcγRへの結合を増強した改変体の作製と評価
WO2013/002362に記載されているFcγRへの結合能を増強した重鎖定常領域Kn125およびHl076を有し、重鎖可変領域として04H1637を、軽鎖として04L1610-lam1を有するヘテロ二量化抗体、04H1637-Kn125/04L1610-lam1//04H1637-Hl076/04L1610-lam1が作製された。具体的には、一方の重鎖可変領域として04H1637(配列番号:138)を有し、ヒトIgG1重鎖定常領域のC末端のGlyおよびLysが除去されたG1d(配列番号:158)に対して、L234Y/L235Q/G236W/S239M/H268D/D270E/S298Aが導入され、さらにCH3領域にヘテロ二量化を促進する改変Y349C/T366Wを有する抗体重鎖04H1637-Kn125(配列番号:162)の遺伝子が作製された。同様に、もう一方の重鎖可変領域として04H1637(配列番号:138)を有し、ヒトIgG1重鎖定常領域G1d(配列番号:158)に対して、D270E/K326D/A330M/K334Eが導入され、さらにCH3領域にヘテロ二量化を促進する改変D356C/T366S/L368A/Y407Vを有する抗体重鎖04H1637-Hl076(配列番号:163)の遺伝子が作製された。抗体軽鎖として04L1610-lam1(配列番号:161)を用い、当業者公知の方法によりヘテロ二量体04H1637-Kn125/04L1610-lam1//04H1637-Hl076/04L1610-lam1が作製された。ここでCH2領域に導入されている改変のうち、L235Q、G236W、S239M、H268D、D270E、S298A、K326D、K334Eに加えて、WO2013/002362においてFcγRへの結合を変化させる改変として報告されているL234F、A330K、Mol. Cancer Ther., 2008, 7, 2517-2527およびWO2004/029207に報告されているG236A、I332E、I332D、WO2013/118858において安定性を向上させる改変として報告されているT250V、T307Pを組み合わせた抗体重鎖04H1637-Kn462(配列番号:164)、04H1637-Hl441(配列番号:165)、04H1637-Hl445(配列番号:166)、04H1637-Kn461(配列番号:167)、04H1637-Hl443(配列番号:168)の遺伝子が作製された。また、ヒトIgG1(IGHG1*03)のC末端のGlyおよびLysが除去され、CH2領域にKn462と同じ改変を有し、CH3領域にWO2006/106905に記載のヘテロ二量化を促進する改変E356Kを有し、重鎖可変領域として04H1654(配列番号:140)をもつ抗体重鎖04H1654-KT462(配列番号:182)の遺伝子が作製された。同様に、ヒトIgG1(IGHG1*03)のC末端のGlyおよびLysが除去され、CH2領域にHl441と同じ改変を有し、CH3領域にWO2006/106905に記載のヘテロ二量化を促進する改変K439Eを有し、重鎖可変領域として04H1656(配列番号:141)をもつ抗体重鎖04H1656-HT441(配列番号:170)の遺伝子が作製された。以下同様に、04H1656-HT445(配列番号:171)、04H1654-KT461(配列番号:183)、04H1656-HT443(配列番号:173)の遺伝子が作製された。さらに、Mabs, 2017, 9, 844-853に記載されている抗体の血中動態を改善する改変の組み合わせが検討された。具体的には、04H1654-KT462(配列番号:182)のCH3領域に対して、酸性条件下においてヒトFcRnに対する結合を増強する改変およびRheumatoid factorに対する結合を低減する改変の組み合わせであるN434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入された04H1654-KT473(配列番号:184)の遺伝子が作製された。同様に04H1656-HT445(配列番号:171)に対して、N434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入された04H1656-HT482(配列番号:185)の遺伝子が作製された。同様に、04H1654-KT461, 04H1656-HT443に対して同じ改変を導入した抗体重鎖04H1654-KT481(配列番号:186)、抗体重鎖04H1656-HT498(配列番号:187)がそれぞれ作製された。これらの重鎖を組み合わせ、04L1610-lam1あるいは04L1612-lam1(配列番号:188)が軽鎖として用いられ、目的とするヘテロ二量化抗体が作製された。
【0474】
FcγRの細胞外ドメインが以下の方法で調製された。まずFcγRの細胞外ドメインの遺伝子の合成が当業者公知の方法で実施された。その際、各FcγRの配列はNCBIに登録されている情報に基づき作製された。具体的には、FcγRIについてはNCBIのaccession # NM_000566.3の配列、FcγRIIaについてはNCBIのaccession # NM_001136219.1の配列、FcγRIIbについてはNCBIのaccession # NM_004001.3の配列、FcγRIIIaについてはNCBIのaccession # NM_001127593.1の配列に基づいて作製され、C末端にHisタグが付加された。またFcγRIIaの多型部位についてはJ. Exp. Med., 1990, 172, 19-25を、FcγRIIIaの多型部位についてはJ. Clin. Invest., 1997, 100, 1059-1070を参考にして作製された。得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入することで、発現ベクターが作製された。作製された発現ベクターがヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen)に、一過性に導入され、目的タンパク質が発現された。培養上清は回収された後、0.22 μmフィルターに通され、原則として次の4ステップで精製された。第1ステップは陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(SP Sepharose FF)、第2ステップはHisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)、第3ステップはゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)、第4ステップは無菌ろ過が実施された。ただし、FcγRIについては、第1ステップにQ sepharose FFを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが実施された。精製されたタンパク質の濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いることで算出された(Protein Science, 1995, 4, 2411-2423)。ヒトFcRnはWO2010/107110に記載の方法で調製された。
【0475】
作製された抗体とヒトFcγRとの相互作用解析はBiacore T200を用いて以下の方法で実施された。ランニングバッファーには50 mM Na-Phosphate、150 mM NaCl、0.05% Tween20 (pH 7.4)が用いられ、25℃で測定が実施された。センサーチップにはSeries S SA(GE Healthcare)に対し、CaptureSelect Human Fab-lambda Kinetics Biotin Conjugate(Thermo Fisher Scientific)が固相されたチップが用いられた。このチップに対して目的の抗体がキャプチャーされ、ランニングバッファーで希釈した各FcγRが相互作用させられた。チップは10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)と25 mM NaOHを用いて再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定が行われた。各抗体のFcγRに対する解離定数KD (mol/L)は、Biacore T200 Evaluation Software 2.0を用い、FcγRIaとFcγRIIIaに対する解離定数は1:1 Langmuir binding model、FcγRIIaに対する解離定数はSteady state affinity modelを用いて算出された。またFcγRIIbに対しては測定により得られたセンサーグラムから求められるFcγRIIbの結合量をチップ表面に捕捉した抗体の量で補正することで、単位抗体量あたりのFcγRIIbの結合量が算出された。
【0476】
作製された抗体とヒトFcRnとの相互作用解析はBiacore T200を用いて以下の方法で実施された。ランニングバッファーには50 mM Na-Phosphate、150 mM NaCl、0.05% Tween20 (pH 6.0)が用いられ、25℃で測定が実施された。センサーチップにはSeries S SA(GE Healthcare)に対し、CaptureSelect Human Fab-lambda Kinetics Biotin Conjugate(Thermo Fisher Scientific)が固相されたチップが用いられた。このチップに対して目的の抗体がキャプチャーされ、ランニングバッファーで希釈されたFcRnが相互作用させられた。チップは10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)と25 mM NaOHを用いて再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定された。各抗体のFcRnに対する解離定数は、Biacore T200 Evaluation Software 2.0を用いてSteady state modelで算出された。
表26はこれらの測定結果を示す。
【0477】
Fc領域改変体のヒトFcγRおよびFcRnに対する結合解析
【表26】
【0478】
表中の「hFcRnに対するKD(M)」および「hFcγRsに対するKD(M)」の値はそれぞれ、hFcRnおよび各FcγRに対する解離定数を示し、「結合量」はFcγRIIbを1000 nMで相互作用させた際の単位抗体量あたりのFcγRIIbの結合量を示す。「G1mとhFcRnのKDに対する相対値」および「G1mとhFcγRsのKDに対する相対値」はそれぞれ、hFcRnおよび各FcγRに対する04H1637-G1m/04L1610-lam1のKD値を各改変体のKD値で割った値を示し、「相対的結合量」はFcγRIIbに対する各改変体の結合量を04H1637-G1m/04L1610-lam1の結合量で割った値を示す。抗体重鎖04H1637-G1mおよび抗体軽鎖04L1610-lam1のアミノ酸配列を配列番号:160および161にそれぞれ示す。作製されたヘテロ二量化抗体はいずれも天然型ヒトIgG1の定常領域を持つ04H1637-G1m/04L1610-lam1と比較してFcγRIIa、FcγRIIIaへの結合が増強されていることが示された。また04H1637-Kn462/04L1610-lam1//04H1637-Hl441/04L1610-lam1、04H1637-Kn462/04L1610-lam1//04H1637-Hl445/04L1610-lam1、04H1637-Kn461/04L1610-lam1//04H1637-Hl443/04L1610-lam1はいずれもWO2013/002362において報告されているFc領域改変体を有する04H1637-Kn125/04L1610-lam1//04H1637-Hl076/04L1610-lam1と比較して、FcγRIIaへの結合が増強されていることが示された。また04H1637-Kn462/04L1610-lam1//04H1637-Hl445/04L1610-lam1のFcγRIIIaへの結合能は04H1637-Kn125/04L1610-lam1//04H1637-Hl076/04L1610-lam1と同等であり、04H1637-Kn461/04L1610-lam1//04H1637-Hl443/04L1610-lam1のFcγRIIIaへの結合能は04H1637-Kn125/04L1610-lam1//04H1637-Hl076/04L1610-lam1よりも増強されていることが示された。同様に、IGHG1*03の定常領域およびCH3領域に異なるヘテロ二量化改変を有する04H1654-KT462/04L1610-lam1//04H1656-HT445/04L1610-lam1および04H1654-KT462/04L1612-lam1//04H1656-HT445/04L1610-lam1は04H1637-Kn462/04L1610-lam1//04H1637-Hl445/04L1610-lam1と、04H1654-KT461/04L1610-lam1//04H1656-HT443/04L1610-lam1および04H1654-KT461/04L1612-lam1//04H1656-HT443/04L1610-lam1は04H1637-Kn461/04L1610-lam1//04H1637-Hl443/04L1610-lam1と同等のFcγRへの結合プロファイルを有することが示された。また血中動態を改善する改変が導入された04H1654-KT473/04L1610-lam1//04H1656-HT482/04L1610-lam1、04H1654-KT481/04L1610-lam1//04H1656-HT498/04L1610-lam1、04H1654-KT473/04L1612-lam1//04H1656-HT482/04L1612-lam1、04H1654-KT481/04L1612-lam1//04H1656-HT498/04L1612-lam1は、血中動態を改善する改変が導入される前の抗体と比較してヒトFcRnに対する結合能が向上しており、かつFcγRに対する結合能は同等であることが示された。
【0479】
さらに、04H1656-HT441に対して、酸性条件下においてヒトFcRnに対する結合を増強する改変およびRheumatoid factorに対する結合を低減する改変の組み合わせであるN434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入された04H1656-HT451(配列番号:272)の遺伝子が作製された。抗体重鎖HT451のアミノ酸配列を配列番号:276に示す。04H1654-KT473と04H1656-HT451を組み合わせ、抗体軽鎖として04L1610-lam1を用いてヘテロ二量化抗体が作製された。作製された抗体とヒトFcRnおよびヒトFcγRとの相互作用解析結果を表27に示す。
【0480】
Fc領域改変体のヒトFcγRおよびFcRnに対する結合解析
【表27】
【0481】
作製されたヘテロ二量化抗体04H1654-KT462/04L1610-lam1//04H1656-HT441/04L1610-lam1、および04H1654-KT473/04L1610-lam1//04H1656-HT451/04L1610-lam1はいずれも、天然型ヒトIgG1の定常領域を有する04H1656-G1m/04L1610-lam1と比較して活性型FcγRであるFcγRIIaとFcγRIIIaに対する結合が増強されていることが示された。またこれらの抗体はいずれも抑制型FcγRであるFcγRIIbに対する結合が、04H1656-G1m/04L1610-lam1と同程度に維持されていた。04H1654-KT462/04L1610-lam1//04H1656-HT441/04L1610-lam1に対してN434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入された04H1654-KT473/04L1610-lam1//04H1656-HT451/04L1610-lam1は導入前と比較してヒトFcRnに対する結合能が増強されていることが示された。
【0482】
次に、Nat. Biotechnol., 1998, 16, 677-681に記載されている異なるヘテロ二量化改変を用いて作製されたFcγR結合増強改変体について、ヒトFcRnおよびFcγRに対する結合活性が評価された。重鎖可変領域として04H1389(配列番号:136)を有し、重鎖定常領域としてヒトIgG1(IGHG1*03)のC末端のGlyおよびLysが除去された定常領域のCH2領域にKT462と同じ改変が導入され、CH3領域にヘテロ二量化改変としてT366Wが導入された抗体重鎖04H1389-Ks462(配列番号:191)、ヘテロ二量化改変としてY349C/T366Wが用いられた04H1389-Km462(配列番号:199)の遺伝子が作製された。またCH2領域にHT445と同じ改変が導入され、CH3領域にヘテロ二量化改変としてT366S/L368A/Y407Vが導入された抗体重鎖04H1389-Hs445(配列番号:192)、ヘテロ二量化改変としてE356C/T366S/L368A/Y407Vが用いられた04H1389-Hm445(配列番号:200)の遺伝子が作製された。同様にCH2領域の改変としてKT461およびHT443と同じ改変を有する04H1389-Ks461(配列番号:193)、04H1389-Km461(配列番号:201)、04H1389-Hs443(配列番号:194)、04H1389-Hm443(配列番号:202)が作製された。またこれらの抗体重鎖定常領域Ks462、Hs445、Ks461、Hs443、Km462、Hm445、Km461、Hm443に対して血中動態を改善する改変N434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入され、可変領域として04H389を有する抗体重鎖04H1389-Ks473(配列番号:195)、04H1389-Hs482(配列番号:196)、04H1389-Ks481(配列番号:197)、04H1389-Hs498(配列番号:198)、04H1389-Km473(配列番号:203)、04H1389-Hm482(配列番号:204)、04H1389-Km481(配列番号:205)、04H1389-Hm498(配列番号:206)の遺伝子が作製された。04L1615-k0MT(配列番号:190)が軽鎖として用いられ、目的のヘテロ二量体が作製された。また比較対象として04H1389-G1m(配列番号:189)を有するホモ二量体04H1389-G1m/04L16150k0MTが作製された。作製した抗体とヒトFcγRとの相互作用解析がBiacore T200を用いて実施された。ランニングバッファーには50 mM Na-Phosphate、150 mM NaCl、0.05% Tween20 (pH 7.4)が用いられ、25℃で測定が実施された。センサーチップにはSeries S SA(GE Healthcare)に対し、CaptureSelect Human Fab-kappa Kinetics Biotin Conjugate(Thermo Fisher Scientific)が固相されたチップが用いられた。このチップに対して目的の抗体がキャプチャーされ、ランニングバッファーで希釈された各FcγRが相互作用させられた。チップは10 mM Glycine-HCl (pH 1.5)と25 mM NaOHを用いて再生され、繰り返し抗体をキャプチャーして測定が行われた。各抗体のFcγRに対する解離定数KD (mol/L)は、Biacore T200 Evaluation Software 2.0を用い、FcγRIaとFcγRIIIaに対する解離定数は1:1 Langmuir binding model、FcγRIIaに対する解離定数はSteady state affinity modelを用いて算出された。またFcγRIIbに対しては測定により得られたセンサーグラムから求められるFcγRIIbの結合量をチップ表面に捕捉した抗体の量で補正することで、単位抗体量あたりのFcγRIIbの結合量が算出された。FcRnへの結合測定は、ランニングバッファーとして50 mM Na-Phosphate、150 mM NaCl、0.05% Tween20 (pH 6.0)が用いられ、steady state modelにより解離定数KD(mol/L)が算出された(表28)。なお、表28中のFcγRIIIaに対する解離定数のうち、「*」で示した値はSteady state affinity modelで算出された値である。
【0483】
Fc領域改変体のヒトFcγRおよびFcRnに対する結合解析
【表28】
【0484】
ここで作製されたヘテロ二量化抗体はいずれも04H1389-G1m/04L1615-k0MTと比較してFcγRIIa、FcγRIIIaへの結合活性が増強されていた。また抗体の血中動態を改善する改変が導入された04H1389-Ks473/04L1615-k0MT//04H1389-Hs482/04L1615-k0MT、04H1389-Ks481/04L1615-k0MT//04H1389-Hs498/04L1615-k0MT、04H1389-Km473/04L1615-k0MT//04H1389-Hm482/04L1615-k0MT、04H1389-Km481/04L1615-k0MT//04H1389-Hm498/04L1615-k0MTはいずれも、改変導入前の親抗体と比較してヒトFcRnへの結合活性が増強されており、FcγR結合活性については親抗体と同等の結合プロファイルであった。
【0485】
さらに、重鎖可変領域として04H1389(配列番号:136)を有し、重鎖CH2領域にHT441と同じ改変が導入され、CH3領域にヘテロ二量化改変としてY349C/T366Wが用いられた04H1389-Hm441(配列番号:273)の遺伝子が作製された。これに対して、酸性条件下においてヒトFcRnに対する結合を増強する改変およびRheumatoid factorに対する結合を低減する改変の組み合わせであるN434A/Y436T/Q438R/S440Eが導入された04H1389-Hm451が作製された(配列番号:274)。抗体重鎖Hm441およびHm451のアミノ酸配列を配列番号:277および278にそれぞれ示す。抗体重鎖として04H1389-Km473、04H1389-Hm451あるいは04H1389-Hm482を、抗体軽鎖として04L1305-k0MTを用いてヘテロ二量化抗体を作製した。作製された抗体とヒトFcRnおよびヒトFcγRとの相互作用解析結果を表29に示す。
【0486】
Fc領域改変体のヒトFcγRおよびFcRnに対する結合解析
【表29】
【0487】
作製されたヘテロ二量化抗体04H1389-Km473/04L1305-k0MT//04H1389-Hm451/04L1305-k0MT、および04H1389-Km473/04L1305-k0MT//04H1389-Hm482/04L1305-k0MTはいずれも、天然型ヒトIgG1の定常領域を有する04H1389-G1m/04L1305-k0MTと比較して活性型FcγRであるFcγRIIaとFcγRIIIaに対する結合が増強されていることが示された。またこれらの抗体はいずれも04H1389-G1m/04L1305-k0MTと比較してヒトFcRnに対する結合能が増強されていることが示された。
【0488】
次に、ここで見いだされたFcγRへの結合を増強した定常領域改変体と、既存のFcγR結合増強改変体との比較を行った。重鎖可変領域としてMDX10D1H(配列番号:154)を有し表26に記載されている重鎖定常領域を有する抗体重鎖MDX10D1H-Kn125(配列番号:217)、MDX10D1H-Hl076(配列番号:218)、MDX10D1H-Kn462(配列番号:219)、MDX10D1H-Hl445(配列番号:220)、MDX10D1H-Kn461(配列番号:221)、MDX10D1H-Hl443(配列番号:222)、および天然型ヒトIgG1のCH2領域を有するMDX10D1H-G1m(配列番号:210)の遺伝子が作製された。FcγRIIaへの結合が増強された改変体としてMol. Cancer Ther., 2008, 7, 2517-2527に記載されている改変G236A/S239D/I332EをCH2領域に有する抗体重鎖MDX10D1H-GASDIE(配列番号:215)の遺伝子が作製された。またFcγRIIIaへの結合が増強された改変体としてJ. Struct. Biol., 2016, 194, 78-89に記載されているG236A/S239D/A330L/I332EをCH2領域に有する抗体重鎖MDX10D1H-GASDALIE(配列番号:216)の遺伝子が作製された。抗体軽鎖としてMDX10D1L-k0MT(配列番号:211)が用いられ、目的とする抗体が作製された。これらのヒトFcγRに対する結合活性は前述のCaptureSelect Human Fab-kappa Kinetics Biotin Conjugateを用いた方法で測定された(表30)。
【0489】
Fc領域改変体のヒトFcγRに対する結合解析
【表30】
【0490】
表中の「hFcγRに対するKD(M)」の値は、記載されている各FcγRに対する解離定数を示し、「結合量」はFcγRIIbを1000 nMで相互作用させた際の単位抗体量あたりのFcγRIIbの結合量を示す。「G1mとhFcγRsのKDに対する相対値」は各FcγRに対するMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTのKD値を各改変体のKD値で割った値を示し、「相対的結合量」はFcγRIIbに対する各改変体の結合量をMDX10D1H-G1m/MDX10D1L-k0MTの結合量で割った値を示す。
作製されたヘテロ二量体、MDX10D1H-Kn125/MDX10D1H-Hl076/MDX10D1L-k0MT、MDX10D1H-Kn462/MDX10D1H-Hl445/MDX10D1L-k0MT、MDX10D1H-Kn461/MDX10D1H-Hl443/MDX10D1L-k0MTはいずれも既存のFcγR結合増強抗体であるMDX10D1H-GASDIE/MDX10D1L-k0MT、MDX10D1H-GASDALIE/MDX10D1L-k0MTと比較してFcγRIIIaへの結合が増強されていた。またMDX10D1H-Kn462/MDX10D1H-Hl445/MDX10D1L-k0MTは既存のFcγRIIa増強抗体であるMDX10D1H-GASDIE/MDX10D1L-k0MTと比較して、FcγRIIaHへの結合が約2倍増強されていることが示された。
【0491】
(6-2)改変された定常領域を有する各種抗体のin vitro ADCC活性の評価
In vitro ADCC活性測定にはhFcγRIIIaV ADCC Reporter Bioassay, Core Kit(Promega)が用いられた。96ウェルプレートの各ウェルに、培地により2×106/mLに濃度を調製した hCTLA4-CHO細胞をターゲット細胞として25 μLずつ加えられ、培地にはAssay Buffer(90% RPMI1640, 10% FBS)が使用された。次に最終濃度が0, 0.001, 0.01, 0.1, 1 μg/mLとなるようにassay bufferで希釈した各抗体溶液がそれぞれ25 μL加えられ、最後にエフェクター細胞溶液として培地により6×106/mLに調製されたhFcγRIIIaV 発現Jurkat細胞(キットに付属)が25 μL加えられ、合計75 μLとなるように混合された後、5% CO2インキュベーター内にて37℃で一晩静置された。その後プレートは室温で15分静置され、各ウェルにBio-Glo reagentが75 μLずつ加えられた。Bio-Glo reagentにはBio-glo Luciferase Assay System (Buffer and Substrate)が使用された。その後各ウェルの発光はプレートリーダーで測定された。各ウェルの発光の値を抗体未添加ウェルの発光の値で割った値をFold inductionとし、各抗体のADCCを評価する指標とした。得られた結果を図23に示す。図中では、Fold inductionを相対発光量(RLU)と表記する。
【0492】
この結果から改変されたFcを有する抗体のhCTLA4-CHO細胞に対するADCC活性は野生型のヒトIgG1定常領域に比較して強力なADCC活性を有することが示された。
【0493】
(6-3)改変された定常領域を有する各種抗体のin vitro ADCP活性の評価
In vitro ADCC活性測定にはhFcγRIIaH ADCP Reporter Bioassay, Core Kit(Promega)を用いた。96ウェルプレートの各ウェルに、培地により1×106/mLに濃度を調製した hCTLA4-CHO細胞をターゲット細胞として25 μLずつ加えられ、培地にはAssay Buffer(4% Low IgG serum in RPMI1640)が使用された。次に最終濃度が0, 0.001, 0.01, 0.1, 1 μg/mLとなるようにassay bufferで希釈した各抗体溶液がそれぞれ25 μL加えられ、最後にエフェクター細胞溶液としてキットに付属のhFcγRIIaH 発現Jurkat細胞が25 μL加えられ、合計75 μLとなるように混合された後、5% CO2インキュベーター内にて37℃で一晩静置された。hFcγRIIaH 発現Jurkat細胞はその細胞液密度が8.25×105/mLであった。その後プレートは室温で15分静置され、各ウェルにBio-Glo reagentが75 μlずつ加えられた。Bio-Glo reagentにはBio-glo Luciferase Assay System (Buffer and Substrate)が使用された。その後各ウェルの発光はプレートリーダーで測定された。各ウェルの発光の値を抗体未添加ウェルの発光の値で割った値をFold inductionとし、各抗体のADCPを評価する指標とした。得られた結果を図24に示す。図中では、Fold inductionを相対発光量(RLU)と表記する。
【0494】
この結果から改変されたFcを有する抗体のhCTLA4-CHO細胞に対するADCP活性は野生型のヒトIgG1定常領域に比較して強力なADCP活性を有することが示された。
【0495】
(6-4)改変されたFcを有する抗CTLA4スイッチ抗体のin vitro ADCC活性の評価
改変されたFcを有する抗CTLA4スイッチ抗体(04H1654-Kn462/04L1610-lam1//04H1656-Hl445/04L1610-lam1 略名:SW1610-ART6、04H1654-Kn462/04L1612-lam1//04H1656-Hl445/04L1612-lam1 略名:SW1612-ART6、および04H1389-Kn462/04L1305-k0MT//04H1389-Hl445/04L1305-k0MT 略名:SW1389-ART6)が作製された。
SW1610-ART6抗体は、一方の重鎖可変領域04H1654(配列番号:35)は定常領域としてヒト重鎖定常領域Kn462(配列番号:43)を、もう一方の重鎖可変領域04H1656(配列番号:37)はヒト重鎖定常領域Hl445(配列番号:44)を連結し、さらに軽鎖可変領域04L1610(配列番号:39)は野生型ヒト軽鎖定常領域lam1(配列番号:53)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1612-ART6抗体は、一方の重鎖可変領域04H1654(配列番号:35)は定常領域としてヒト重鎖定常領域Kn462(配列番号:43)を、もう一方の重鎖可変領域04H1656(配列番号:37)はヒト重鎖定常領域Hl445(配列番号:44)を連結し、さらに軽鎖可変領域04L1612(配列番号:40)は野生型ヒト軽鎖定常領域lam1(配列番号:53)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1389-ART6抗体は、二つの重鎖可変領域04H1389(配列番号:29)は定常領域としてヒト重鎖定常領域Kn462(配列番号:43)およびヒト重鎖定常領域Hl445(配列番号:44)をそれぞれ連結し、さらに軽鎖可変領域04L1305(配列番号:30)は野生型ヒト軽鎖定常領域k0MT(配列番号:33)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
【0496】
In vitro ADCC活性測定にはhFcγRIIIaV ADCC Reporter Bioassay, Core Kit(Promega)が用いられた。96ウェルプレートの各ウェルに、培地により2×106/mLに濃度を調製した hCTLA4-CHO細胞をターゲット細胞として12.5 μLずつ加えられ、培地にはAssay Buffer(4% Low IgG Serum in RPMI1640)が使用された。次に最終濃度が0, 100 μMとなるようにassay bufferで希釈したATP溶液、最終濃度が0, 0.001, 0.01, 0.1, 1 ,10 μg/mLとなるようにassay bufferで希釈したSW1389-ART6、SW1610-ART6およびSW1612-ART6 の抗体溶液が順次加えられ、最後にエフェクター細胞溶液として培地により3×106/mLに調製されたhFcγRIIIaV 発現Jurkat細胞(キットに付属)が25 μL加えられ、合計75 μLとなるように混合された後、5% CO2インキュベーター内にて6時間37℃で静置された。その後プレートは室温で15分静置され、各ウェルにBio-Glo reagentが75 μLずつ加えられた。Bio-Glo reagentにはBio-glo Luciferase Assay System (Buffer and Substrate)が使用された。その後各ウェルの発光はプレートリーダーで測定された。各ウェルの発光の値を抗体未添加ウェルの発光の値で割った値をFold inductionとし、各抗体のADCCを評価する指標とした。得られた結果を図25(SW1389-ART6)、図26(SW1610-ART6)、および図27(SW1612-ART6)に示す。図中では、Fold inductionを相対発光量(RLU)と表記する。
【0497】
この結果から改変されたFcを有する抗CTLA4スイッチ抗体のhCTLA4-CHO細胞に対するADCC活性はATP存在下・非存在下で異なり、ATP依存的なhCTLA4-CHO細胞に対する細胞傷害活性が存在することが確認された。
【0498】
(6-5)抗CTLA4スイッチ抗体のin vitro 中和活性の評価
改変された抗CTLA4スイッチ抗体として、SW1389, SW1610, SW1612, SW1615の可変領域を持つヒト抗体が作成された。
SW1389抗体は、重鎖可変領域として04H1389(配列番号:29)、軽鎖可変領域として04L1305(配列番号:30)が使用され、ヒト定常領域に連結されたのち、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1610抗体は、重鎖可変領域として04H1654(配列番号:35)および04H1656(配列番号:37)、軽鎖可変領域として04L1610(配列番号:39)が使用され、ヒト定常領域に連結されたのち、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1612抗体は、重鎖可変領域として04H1654(配列番号:35)および04H1656(配列番号:37)、軽鎖可変領域として04L1612(配列番号:40)が使用され、ヒト定常領域に連結されたのち、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1615抗体は、重鎖可変領域として04H1389(配列番号:29)、軽鎖可変領域として04L1615(配列番号:34)が使用され、ヒト定常領域に連結されたのち、当業者公知の方法で発現、精製された。
In vitro 中和活性測定にはCTLA-4 Blockade Bioassay(Promega)が用いられた。96ウェルプレートの各ウェルに、培地により1×106/mLに濃度を調製した Kit付属のaAPC-Raji細胞がターゲット細胞として25μLずつ加えられ、培地にはAssay Buffer(10% FBS in RPMI1640)が使用された。次に最終濃度が0, 100 μMとなるようにassay bufferで希釈したATP溶液、最終濃度が0, 0.001, 0.01, 0.1, 1 ,10 μg/mLとなるようにassay bufferで希釈したSW1389、SW1610, SW1612およびSW1615の可変領域を持つ抗体溶液が順次加えられ、最後にエフェクター細胞溶液として培地により2×106/mLに調製されたIL2-luc2-CTLA4-Jurkat細胞(キットに付属)が25 μL加えられ、合計75 μLとなるように混合された後、5% CO2インキュベーター内にて6時間37℃で静置された。その後プレートは室温で15分静置され、各ウェルにBio-Glo reagentが75 μLずつ加えられた。Bio-Glo reagentにはBio-glo Luciferase Assay System (Buffer and Substrate)が使用された。その後各ウェルの発光はプレートリーダーで測定された。各ウェルの発光の値を抗体未添加ウェルの発光の値で割った値をFold inductionとし、各抗体の中和活性を評価する指標とした。得られた結果を図28(SW1389)、図29(SW1610)、図30(SW1612)および図31(SW1615)に示す。図中では、Fold inductionを相対発光量(RLU)と表記する。
【0499】
この結果から抗CTLA4スイッチ抗体のhCTLA4発現細胞に対する中和活性はATP存在下・非存在下で異なり、ATP依存的な中和活性が存在することが確認された。
【0500】
(6-6)抗CTLA4スイッチ抗体のCTLA4陽性制御性T細胞に対するIn vitro 細胞傷害活性評価
改変されたFcを有する抗CTLA4スイッチ抗体(04H1654-KT473/04L1610-lam1//04H1656-HT451/04L1610-lam1 略名:SW1610-ART5+ACT1、04H1654-KT473/04L1610-lam1//04H1656-HT482/04L1610-lam1 略名:SW1610-ART6+ACT1、04H1389-Km473/04L1305-k0MT//04H1389-Hm451/04L1305-k0MT 略名:SW1389-ART5+ACT1)、04H1389-Km473/04L1305-k0MT//04H1389-Hm482/04L1305-k0MT 略名:SW1389-ART6+ACT1)が作製された。
SW1610-ART5+ACT1抗体は、一方の重鎖として04H1654-KT473(配列番号:184)、もう一方の重鎖として04H1656-HT451(配列番号:272)、さらに軽鎖として04L1610-lam1(配列番号:161)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1610-ART6+ACT1抗体は、一方の重鎖として04H1654-KT473(配列番号:184)、もう一方の重鎖として04H1656-HT482(配列番号:185)、さらに軽鎖として04L1610-lam1(配列番号:161)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1389-ART5+ACT1抗体は、一方の重鎖として04H1389-Km473(配列番号:203)、もう一方の重鎖として04H1389-Hm451(配列番号:274)、さらに軽鎖として04L1305-k0MT(配列番号:275)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
SW1389-ART6+ACT1抗体は、一方の重鎖として04H1389-Km473(配列番号:203)、もう一方の重鎖として04H1389-Hm482(配列番号:204)、さらに軽鎖として04L1305-k0MT(配列番号:275)を使用し、当業者公知の方法で発現、精製された。
【0501】
作製された改変Fcを有する抗CTLA4スイッチ抗体のCTLA4陽性制御性T細胞(CD3+ CD4+ CD25+ CD45RA- CTLA4+)に対するIn vitro細胞傷害活性が評価された。まずヒトPBMC(CTL Cryopreserved Human PBMC, CTL)が凍結融解され、50 U/ml インターロイキン2 (IL-2)/ RPMI/ 10 % FBS中に細胞密度が2×106細胞/ mLとなるように懸濁され、5 % CO2インキュベーター内にて4日間37 ℃で培養された。4日後、細胞を回収しRPMI/ 10 % FBSで2回洗浄された後に、96ウェルU底プレートの各ウェル中に100 μLずつ播種され(8×105 cells/ウェル、もしくは5×105 cells/ウェル)、8 mg/mlにRPMI/ 10 % FBSで調整されたKLH-G1m溶液が各ウェルに25 μLずつ添加され、続いて各濃度(0, 2.4, 8, 24, 80 μg/mL、もしくは0、0.8、8、80、800 μg/mL)にRPMI/ 10 % FBSで調製した抗体溶液が96ウェルU底プレートの各ウェル中に25 μLずつ添加された。さらに、0あるいは400 μMにRPMI/ 10 % FBSで調整されたATP溶液が50 μLずつ添加され、よく懸濁された後にCO2インキュベーター内にて6時間37 ℃で静置された(2時間置きに計2回、0あるいは4000 μMに調整されたATP溶液が5 μLずつ添加された)。6時間後にPBMCを回収しauto MACS Rinsing Solution(Milteny)で2回洗浄した後に、以下の抗体と反応させ、FACS解析によって存在する免疫細胞の画分を解析された。生死判定用試薬(Biolegend、Zombie Aqua)、抗CD3抗体(BD、クローン: UCHT1)、抗CD4抗体(BD、クローン: RPA-T4)、抗CD8抗体(BD、クローン:SK1)、抗CD45RA抗体(Biolegend、クローン:HI100)、抗CD25抗体(BD、クローン: 2A3)、抗CD16抗体(Biolegend、クローン:3G8)、抗CD56抗体(Biolegend、クローン:HCD56、抗CTLA4抗体(Biolegend、クローン:BNI3)。FACS解析はBD LSR Fortessa X-20(BD)にて行われた。それぞれの抗体濃度での生細胞中のCTLA4陽性制御性T細胞の割合を算出し、抗体濃度0の時の値を100 %とした相対値をCTLA4陽性制御性T細胞の生存率(%) と定義し、各抗体の細胞傷害活性を評価する際の指標とした。得られた結果を図32(SW1389-ART5+ACT1)、図33(SW1389-ART6+ACT1)、図34(SW1610-ART5+ACT1)および図35(SW1610-ART6+ACT1)に示す。
この結果から改変されたFcを有する抗CTLA4スイッチ抗体のCTLA4陽性制御性T細胞に対する細胞傷害活性はATP存在下・非存在下で異なり、ATP依存的なCTLA4陽性制御性T細胞に対する細胞傷害活性が存在することが確認された。
【0502】
前述の発明は、明確な理解を助ける目的のもと、実例および例示を用いて詳細に記載したが、本明細書における記載および例示は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で引用したすべての特許文献および科学文献の開示は、その全体にわたって、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
【産業上の利用可能性】
【0503】
本開示の抗CTLA-4抗体、およびそれらを使用する方法は、免疫細胞の活性化作用、細胞傷害活性、および/または抗腫瘍活性を有しながら、正常組織等の非腫瘍組織に対する作用が低く、副作用が少ない医薬の開発、製造、提供、使用、等において利用可能である。また、本開示の変異Fc領域を含むポリペプチドならびにその製造方法および使用方法は、斯かる医薬の開発、製造、提供、使用、等において利用可能である。
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【配列表】
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