(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231026BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 655A
H01L29/78 655B
(21)【出願番号】P 2022037829
(22)【出願日】2022-03-11
(62)【分割の表示】P 2019166842の分割
【原出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2019050702
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】末代 知子
(72)【発明者】
【氏名】岩鍜治 陽子
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 剛史
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0025874(US,A1)
【文献】特開2014-093486(JP,A)
【文献】特開2018-107693(JP,A)
【文献】特開2017-168638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面と、を有する半導体部と、
前記半導体部の前記第1面上に設けられた第1電極と、
前記半導体部の前記第2面上に設けられた第2電極と、
前記半導体部の前記第2面側に設けられたトレンチゲート構造の第1~第3制御電極と、
を有するスイッチング素子を備え、
前記第1電極と前記第2電極間に所定の電圧を印可した状態において、
前記第1制御電極に、前記第1制御電極のしきい値よりも高い第1オン電圧を与えた後、前記第1制御電極の前記しきい値よりも低い第1オフ電圧を与え、
前記第2制御電極に、前記第2制御電極のしきい値よりも高い第2オン電圧を与えた後、前記第1制御電極に前記第1オフ電圧を与える前に、前記第2制御電極に、前記第2制御電極の前記しきい値よりも低い第2オフ電圧を与え、
前記第3制御電極に、前記第3制御電極のしきい値よりも高い第3オン電圧を与えた後、前記第1制御電極に前記第1オフ電圧を与える前に、前記第3制御電極に、前記第3制御電極の前記しきい値よりも低く、前記第2オフ電圧よりも高い第3オフ電圧を与えるように構成された半導体装置。
【請求項2】
前記第1制御電極、前記第2制御電極および前記第3制御電極は、前記半導体部の前記第2面に沿って並び、
前記第3制御電極は、前記第1制御電極と前記第2制御電極との間に位置する請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第2電極は基準電位に接続され、
前記第2オフ電圧は、前記基準電位に対して、
-15Vであり、
前記
第1オフ電圧および前記第3オフ電圧は、前記基準電位に対して、0Vである請求項1
または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1制御電極と前記第2制御電極とを電気的に接続する抵抗素子をさらに備える請求項1
または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記スイッチング素子は、第1ゲートパッドと、第2ゲートパッドと、をさらに有し、
前記第1ゲートパッドは、前記第2制御電極に電気的に接続され、
前記第1ゲートパッドは、前記抵抗素子を介して、前記第1制御電極にも電気的に接続され、
前記第2ゲートパッドは、前記第3制御電極に電気的に接続され、
前記第2オン電圧および前記第2オフ電圧は、前記第1ゲートパッドを介して、前記第2制御電極に印可され、
前記第1オン電圧および前記第1オフ電圧は、前記抵抗素子を介して、前記第1制御電極に印可される前記第2オン電圧および前記第2オフ電圧であり、
前記第3オン電圧および前記第3オフ電圧は、前記第2ゲートパッドを介して、前記第3制御電極に印可される請求項
4記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
600V以上の高電圧下において大電流を制御する半導体装置として、例えば、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以下、Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)が用いられる。IGBTは、例えば、電力変換に用いられ、変換効率を高めるため、定常損失が低い(オン抵抗が低い)こと、スイッチング損失が低い(スイッチング速度が速い)ことの双方が望まれる。
【0003】
IGBTは、オン抵抗低減のために、p形ベース層からn形ベース層中まで深く延伸するトレンチゲート構造を有するものが近年多くなっている。これにより、チャネル密度の向上や、n形ベース層中の隣り合うトレンチゲートの形状を利用してn形ベース層中にキャリアを効率よく蓄積し、定常状態でのオン抵抗を低減できる。しかしながら、キャリアの蓄積量を増やして低オン抵抗を実現すると、ターンオフ時に排出すべきキャリア量が多くなる。このため、ターンオフ時間が長くなり、ターンオフ損失が増える。すなわち、オン抵抗の低減とターンオフ損失の低減は、トレードオフの関係にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、オン抵抗およびスイッチング損失の双方を低減できる半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る半導体装置は、第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面と、を有する半導体部と、前記半導体部の前記第1面上に設けられた第1電極と、前記半導体部の前記第2面上に設けられた第2電極と、前記半導体部の前記第2面側に設けられたトレンチゲート構造の第1~第3制御電極と、を有するスイッチング素子を備える。前記半導体装置は、前記第1電極と前記第2電極間に所定の電圧を印可した状態において、前記第1制御電極に、前記第1制御電極のしきい値よりも高い第1オン電圧を与えた後、前記第1制御電極の前記しきい値よりも低い第1オフ電圧を与え、前記第2制御電極に、前記第2制御電極のしきい値よりも高い第2オン電圧を与えた後、前記第1制御電極に前記第1オフ電圧を与える前に、前記第2制御電極に、前記第2制御電極の前記しきい値よりも低い第2オフ電圧を与え、前記第3制御電極に、前記第3制御電極のしきい値よりも高い第3オン電圧を与えた後、前記第1制御電極に前記第1オフ電圧を与える前に、前記第3制御電極に、前記第3制御電極の前記しきい値よりも低く、前記第2オフ電圧よりも高い第3オフ電圧を与えるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図2】実施形態に係る半導体装置の動作を示すタイムチャートである。
【
図3】実施形態に係る半導体装置の動作を示す模式図である。
【
図4】実施形態の変形例に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図5】実施形態の別の変形例に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図6】実施形態のさらなる別の変形例に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図7】実施形態の他の変形例に係る半導体装置を示す模式断面図である。
【
図8】実施形態の他の変形例に係る半導体装置の動作を示すタイムチャートである。
【
図9】実施形態の他の変形例に係る半導体装置の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0009】
さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0010】
図1は、第1実施形態に係る半導体装置1を示す模式断面図である。半導体装置1は、例えば、IGBTである。本明細書中、半導体層の不純物濃度の分布及びその値は、例えば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometory:SIMS)や拡がり抵抗測定法(Spreading Resistance Analysis:SRA)を用いて測定することが可能である。また、2つの半導体層の不純物濃度の相対的な大小関係は、例えば、走査型静電容量顕微鏡法(Scanning Capacitance Microscopy:SCM)を用いて判定することが可能である。SCM及びSRAでは、半導体領域のキャリア濃度の相対的な大小関係や絶対値が求まる。不純物の活性化率を仮定することで、SCM及びSRAの測定結果から、2つの半導体層の不純物濃度の間の相対的な大小関係、不純物濃度の分布、及び、不純物濃度の絶対値を求めることが可能である。
【0011】
図1に示すように、半導体装置1は、半導体部10と、エミッタ電極20(第1電極)と、コレクタ電極30(第2電極)と、第1ゲート電極40と、第2ゲート電極50と、第3ゲート電極60と、を備える。
【0012】
半導体部10は、例えば、シリコンである。半導体部10は、第1面10Tと第2面10Bとを有する。第2面10Bは、第1面10Tの裏面である。エミッタ電極20は、第1面10T上に設けられる。コレクタ電極30は、第2面10Bに接して設けられる。エミッタ電極20およびコレクタ電極30は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、金(Au)およびポリシリコンの群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0013】
第1ゲート電極40は、半導体部10とエミッタ電極20との間に設けられる。第1ゲート電極40は、例えば、半導体部10の第1面10T側に設けられたトレンチGT1の内部に配置される。第1ゲート電極40は、トレンチGT1の内部においてY方向に延伸する。第1ゲート電極40は、ゲート絶縁膜41を介して半導体部10から電気的に絶縁される。また、第1ゲート電極40は、絶縁膜43を介してエミッタ電極20から電気的に絶縁される。第1ゲート電極40は、例えば、導電性のポリシリコンを含む。ゲート絶縁膜41および絶縁膜43は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0014】
第2ゲート電極50は、半導体部10とエミッタ電極20と間に設けられる。第2ゲート電極50は、例えば、半導体部10の第1面10T側に設けられたトレンチGT2の内部に配置される。第2ゲート電極50は、トレンチGT2の内部においてY方向に延伸する。第2ゲート電極50は、ゲート絶縁膜51を介して半導体部10から電気的に絶縁される。また、第2ゲート電極50は、絶縁膜53を介してエミッタ電極20から電気的に絶縁される。第2ゲート電極50は、例えば、導電性のポリシリコンを含む。ゲート絶縁膜51および絶縁膜53は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0015】
第3ゲート電極60は、半導体部10とエミッタ電極20と間に設けられる。第3ゲート電極60は、例えば、半導体部10の第1面10T側に設けられたトレンチGT3の内部に配置される。第3ゲート電極60は、トレンチGT3の内部においてY方向に延伸する。第3ゲート電極60は、ゲート絶縁膜61を介して半導体部10から電気的に絶縁される。また、第3ゲート電極60は、絶縁膜63を介してエミッタ電極20から電気的に絶縁される。第3ゲート電極60は、例えば、導電性のポリシリコンを含む。ゲート絶縁膜61および絶縁膜63は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0016】
第1ゲート電極40は、第1ゲート配線45を介して第1ゲートパッド47に電気的に接続される。第2ゲート電極50は、第2ゲート配線55を介して第2ゲートパッド57に電気的に接続される。第3ゲート電極60は、第3ゲート配線65を介して第3ゲートパッド67に電気的に接続される。すなわち、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60は、それぞれ独立にバイアスされる。
【0017】
第1ゲート電極40および第2ゲート電極50は、それぞれ、半導体部10の第1面10Tに沿った方向(例えば、X方向)に周期的に配置される。
図1に示す例では、第1ゲート電極40と第2ゲート電極50は、X方向において隣接して配置される。第3ゲート電極60は、例えば、第1ゲート電極40と第2ゲート電極50との間に少なくとも1つ配置される。この例では、第1ゲート電極40と第2ゲート電極50との間に、2つの第3ゲート電極60が配置されている。第1ゲート電極40と第2ゲート電極50との間に、3つ以上の第3ゲート電極60が配置されても良い。
【0018】
半導体部10は、n形ベース層11(第1半導体層)と、p形ベース層13(第2半導体層)と、n形エミッタ層15(第3半導体層)と、p形コンタクト層17と、n形バッファ層19(第5半導体層)と、p形コレクタ層21(第4半導体層)と、を含む。
【0019】
n形ベース層11は、例えば、1×1012~1×1015(atoms/cm3)の濃度範囲のn形不純物を含む。n形ベース層11は、所定の耐圧を実現できるn形キャリア濃度を有する。ここで、n形キャリア濃度とは、例えば、n形不純物濃度からp形不純物濃度を差し引いた値である。例えば、n形ベース層11となるn形シリコンウェーハには、バックグラウンドレベルのp形不純物が含まれる。n形ベース層11層は、例えば、1~1000μmの範囲のZ方向の厚さを有し、所定の耐圧を実現できる厚さに設定される。
【0020】
p形ベース層13は、n形ベース層11とエミッタ電極20との間に選択的に設けられる。p形ベース層13は、エミッタ電極20に電気的に接続される。p形ベース層13は、例えば、1×1012~1×1014cm-2の範囲のp形不純物量を有するように設けられ、0.1~数μmのZ方向の厚さを有する。p形ベース層13は、例えば、半導体部10の第1面10T側にp形不純物をイオン注入することにより形成される。
【0021】
n形エミッタ層15は、p形ベース層13とエミッタ電極20との間に選択的に設けられる。n形エミッタ層15は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。エミッタ電極20は、例えば、n形エミッタ層15に接し、電気的に接続される。
【0022】
n形エミッタ層15は、例えば、1×1014~1×1016cm-2の範囲のn形不純物量を有するように設けられ、0.1~数μmのZ方向の厚さを有する。n形エミッタ層15は、例えば、半導体部10の第1面10T側にn形不純物を選択的にイオン注入することにより形成される。
【0023】
p形コンタクト層17は、p形ベース層13とエミッタ電極20との間に選択的に設けられる。p形コンタクト層17は、p形ベース層13のp形不純物よりも高濃度のp形不純物を含む。エミッタ電極20は、例えば、p形コンタクト層17に接し、電気的に接続される。p形ベース層13は、p形コンタクト層17を介してエミッタ電極20に電気的に接続される。
【0024】
p形コンタクト層17は、例えば、1×1014~1×1016cm-2の範囲のp形不純物量を有するように設けられ、0.1~数μmの範囲のZ方向の厚さを有する。p形コンタクト層17は、例えば、半導体部10の第1面10T側にp形不純物を選択的にイオン注入することにより形成される。
【0025】
n形エミッタ層15とp形コンタクト層17は、例えば、トレンチGT1~GT3の長手方向(例えば、Y方向)に交互に配置しても良い。また、半導体部10の第1面10Tに露出されるn形エミッタ層15の表面とp形コンタクト層17の表面の面積比は、所望の設計に応じて、自由に変えることが出来る。さらに、半導体部10の第1面10Tに露出されるn形エミッタ層15の表面とp形コンタクト層17の形状は自由に変えることが出来る。
【0026】
トレンチGT1~GT3は、半導体部10の第1面10Tからn形エミッタ層15、p形ベース層13を通り抜け、n形ベース層11に達する深さを有する。トレンチGT1~GT3は、半導体部10の第1面10Tに沿った方向(例えば、X方向)に周期的に設けられる。トレンチGT1~GT3のそれぞれの深さは、例えば、1~10μmの範囲に設定される。X方向において隣り合うトレンチGT1とトレンチGT2の間隔、トレンチGT1とトレンチGT3の間隔、および、トレンチGT2とトレンチGT3の間隔は、例えば、0.1~数μmの範囲に設定される。
【0027】
トレンチGT1~トレンチGT3の側面には、例えば、n形ベース層11、p形ベース層13およびn形エミッタ層15が露出される。第1ゲート電極40は、トレンチGT1の内部において、n形ベース層11とn形エミッタ層15との間に位置するp形ベース層13にゲート絶縁膜41を介して向き合う。第2ゲート電極50は、トレンチGT2の内部において、n形ベース層11とn形エミッタ層15との間に位置するp形ベース層13にゲート絶縁膜51を介して向き合う。第3ゲート電極60は、トレンチGT3の内部において、n形ベース層11とn形エミッタ層15との間に位置するp形ベース層13にゲート絶縁膜61を介して向き合う。
【0028】
上記のトレンチゲート構造は、例えば、半導体部10の第1面10Tに沿ってそれぞれ複数設けられ、周期的に配置される。各トレンチゲート構造間の間隔は、例えば、0.1~数μmの範囲に設定される。
【0029】
n形バッファ層19は、n形ベース層11とコレクタ電極30との間に設けられる。n形バッファ層19は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。n形バッファ層19は、例えば、1×1011~1×1013cm-2の範囲のn形不純物量を有するように設けられ、0.1~数十μmの範囲のZ方向の厚さを有する。n形バッファ層19は、例えば、半導体部10の第2面10B側にn形不純物をイオン注入することにより形成される。
【0030】
p形コレクタ層21は、n形バッファ層19とコレクタ電極30との間に設けられる。p形コレクタ層21は、例えば、1×1013~1×1015cm-2の範囲のp形不純物量を有するように設けられ、0.1~10μmの範囲のZ方向の厚さを有する。
【0031】
p形コレクタ層21は、例えば、半導体部10の第2面10B側にp形不純物を全面もしくは選択的にイオン注入することにより形成される。p形不純物の総量は、例えば、1×1013~1×1015cm-2の範囲に設定される。p形コレクタ層21を形成する際の注入エネルギーは、例えば、n形バッファ層19を形成する際の注入エネルギーよりも低く設定される。このため、p形不純物の注入深さは、n形バッファ層19のn形不純物の注入深さよりも浅い。
【0032】
コレクタ電極30は、半導体部10の第2面10Bにおいて、p形コレクタ層21の表面に接し、電気的に接続される。
【0033】
次に、
図1、
図2、
図3(a)~(c)を参照して、実施形態に係る半導体装置1の動作を説明する。
図2は、半導体装置1の制御方法を示すタイムチャートである。
図2には、半導体装置1をターンオンさせ、その後、ターンオフさせる過程を示す。
図3(a)~(c)は、半導体装置1の動作を示す模式図である。
図3(a)~(c)には、n形ベース層11中のキャリア密度分布を示す。ここで、キャリア密度は、電子とホールの両方を含む密度である。
【0034】
図2は、第1ゲート電極40に印加されるゲート電圧V
MGと、第2ゲート電極50に印加されるゲート電圧V
CGと、第3ゲート電極60に印加されるゲート電圧V
PGの時間変化を示すタイムチャートである。ここで、ゲート電圧V
MGは、第1ゲートパッド47および第1ゲート配線45を介して第1ゲート電極40に印加される。ゲート電圧V
CGは、第2ゲートパッド57および第2ゲート配線55を介して第2ゲート電極50に印加される。ゲート電圧V
PGは、第3ゲートパッド67および第3ゲート配線65を介して第3ゲート電極60に印加される。
【0035】
まず、ターンオン動作について説明する。例えば、半導体装置1をターンオンする際は、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60にしきい値を超えるゲート電圧VMG、VCGおよびVPGを印加する。以下、各ゲート電極にしきい値を超えるゲート電圧を与えることをオンすると表現し、各ゲート電極のゲート電圧をしきい値以下の電圧に下げることをオフすると表現する。
【0036】
図2に示すように、時間t
1において、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60をオンさせる。これにより、p形ベース層13とゲート絶縁膜41との界面、p形ベース層13とゲート絶縁膜51との界面およびp形ベース層13とゲート絶縁膜61との界面にn形チャネルが形成され、n形ベース層11とn形エミッタ層15との間が電気的に導通する。すなわち、半導体装置1は、オン状態となる。
【0037】
さらに、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60のn形ベース層11中に位置する部分において、n形ベース層11とゲート絶縁膜41との界面、n形ベース層11とゲート絶縁膜51との界面、および、n形ベース層11とゲート絶縁膜61との界面にn形蓄積層が形成される。このn形蓄積層の影響により、n形ベース層11の各ゲート電極間に位置する領域におけるキャリアの蓄積が促進され、ターンオン状態におけるより低いオン抵抗を得ることができる。
【0038】
図3(a)は、この状態におけるn形ベース層11内のキャリア密度分布D
1を表した模式図である。第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60をオンさせたことにより、エミッタ電極20からn形ベース層11へ電子が注入され、これに対応して、p形コレクタ層21からn形バッファ層19を介してn形ベース層11にホールが注入される。
図3(a)に示すように、n形ベース層11内のキャリア密度は、エミッタ側で高くなる。第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60のすべてをオンさせるため、ターンオフ時間を短縮することができる。
【0039】
次に、
図2に示すように、時間t
2において、第3ゲート電極60をオフする。これにより、第3ゲート電極60に隣接するp形ベース層13とゲート絶縁膜61の界面に誘起されたn形チャネルが消失する。このため、第3ゲート電極60側において、n形エミッタ層15とn形ベース層11との間の電気的導通が遮断され、n形ベース層11への電子の供給が止まる。これに対応して、p形コレクタ層21からn形バッファ層19を介してn形ベース層11へ注入される正孔の量も減少する。
【0040】
図3(b)は、この過程におけるキャリア密度分布の変化を示す模式図である。第3ゲート電極60をオフしたことにより、n形ベース層11のエミッタ側のキャリア密度が低下し、密度分布は、D
1からD
2へ変化する。
【0041】
次に、ターンオフ動作について説明する。
図2に示すように、時間t
3において、第2ゲート電極50をオフさせる。
【0042】
これにより、第2ゲート電極50に隣接するp形ベース層13とゲート絶縁膜51の界面に誘起されたn形チャネルが消失し、n形エミッタ層15とn形ベース層11との間の電気的導通も遮断される。このため、第2ゲート電極50側における電子の供給が止まる。これに対応して、p形コレクタ層21からn形バッファ層19を介してn形ベース層11へ注入される正孔の量も減少する。
【0043】
図3(c)は、この過程におけるキャリア密度分布の変化を示す模式図である。第2ゲート電極50をオフしたことにより、n形ベース層11のエミッタ側のキャリア密度がさらに低下し、密度分布は、D
2からD
3へ変化する。
【0044】
次に、時間t4において、第1ゲート電極40をオフすることにより、n形エミッタ層15からn形ベース層11への電子の注入が全て止まり、半導体装置1は、ターンオフ動作に入る。この例では、第1ゲート電極40のオフに先立ち第2ゲート電極50をオフしているため、n形ベース層11に蓄積されるキャリアのうちのエミッタ側のキャリア密度が低下している。すなわち、第1ゲート電極40および第2ゲート電極50がともにオンしている定常状態よりもキャリア密度が低減された状態となっている。これにより、第1ゲート電極40をオフさせた後のターンオフ過程において排出されるキャリアを低減できる。すなわち、第2ゲート電極50を設けない場合に比べて、ターンオフ時間を短縮し、ターンオフ損失を低減することができる。
【0045】
さらに、第2ゲート電極50の電位を負電位にまで低下させると、n形ベース層11とゲート絶縁膜51との界面にp形反転層が誘起される。これにより、p形ベース層13を介したエミッタ電極20へのホールの排出を促進することができる。結果として、ターンオフ損失をさらに低減することが可能となる。
【0046】
本実施形態に係る半導体装置1では、第3ゲート電極60を適宜制御することにより、ターンオン時間を短縮できる。また、ターンオフ過程において、第2ゲート電極50を適宜制御することにより、ターンオフ時間を短縮することができる。結果として、半導体装置1では、オン抵抗を維持しつつ、スイッチング損失を低減することができる。
【0047】
図4は、実施形態の変形例に係る半導体装置2を示す模式断面図である。
【0048】
図4に示す半導体装置2では、第1ゲート電極40と第2ゲート電極50との間に4つの第3ゲート電極60が配置されている。第3ゲート電極60の数は例示であり、この例に限定される訳ではない。また、半導体装置2は、第1ゲートパッド75と、第2ゲートパッド77と、を備える。
【0049】
図4に示すように、第1ゲート電極40は、第1ゲート配線45に接続される。第2ゲート電極50は、第2ゲート配線55に接続される。第3ゲート電極60は、第3ゲート配線65に接続される。第2ゲート配線55は、第1ゲートパッド75につながり、第3ゲート配線65は、第2ゲートパッド77につながる。
【0050】
半導体装置2は、第1ゲート配線45と第2ゲート配線55とをつなぐ抵抗素子RDをさらに備える。抵抗素子RDは、例えば、所望の抵抗値を有する半導体もしくは金属体である。抵抗素子RDは、例えば、半導体部10の終端領域において、第1面10Tの上に絶縁膜を介して配置される。また、抵抗素子RDは、半導体部10の周辺に配置され、例えば、金属配線により第1ゲート配線45および第2ゲート配線55に接続されても良い。
【0051】
半導体装置2では、第1ゲートパッド75を介してゲート電圧VMG、VCGを、第1ゲート電極40および第2ゲート電極50にそれぞれ印加する。また、第2ゲートパッド77を介して第3ゲート電極60にゲート電圧VPGを印加する。
【0052】
半導体装置2をターンオンさせる場合には、第1ゲートパッド75および第2ゲートパッド77を介して、しきい値よりも高いゲート電圧VMG、VCGおよびVPGを、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60に印加する。この際、抵抗素子RDおよび寄生容量Cに起因したCR時定数により、第1ゲート電極40に印加される電圧の立ち上りに遅れが生じる。このため、第1ゲート電極40は、第2ゲート電極50よりも後にオンされる。次に、時間t2において、第3ゲート電極60をオフする。これにより、第3ゲート電極60に隣接するp形ベース層13とゲート絶縁膜61の界面に誘起されたn形チャネルが消失する。このため、第3ゲート電極60側において、n形エミッタ層15とn形ベース層11との間の電気的導通が遮断され、n形ベース層11への電子の供給が止まる。これに対応して、p形コレクタ層21からn形バッファ層19を介してn形ベース層11へ注入される正孔の量も減少する。このとき、例えば、第3ゲート電極の数を第1ゲート電極の数より多く設定すれば、ターンオンをより高速に動作させることは可能である。
【0053】
続いて、ターンオフ動作について説明する。第1ゲートパッド75を介して第1ゲート電極40および第2ゲート電極50をオフする。この際、抵抗素子RDおよび寄生容量Cに起因したCR時定数により、第1ゲート電極40に印加される電圧の立ち下りに遅れが生じる。このため、第1ゲート電極40は、第2ゲート電極50よりも後にオフされる。すなわち、第1ゲート電極40がオフされ、ターンオフ過程に入る前に、第2ゲート電極50がオフされ、n形ベース層11の内部のキャリア密度が低減される。その結果、半導体装置2のターンオフ時間を短縮し、スイッチング損失を低減することができる。
【0054】
この例でも、第3ゲート電極60を適宜制御することにより、ターンオン時間を短縮し、第2ゲート電極50をオフするタイミングに対する、第1ゲート電極40のオフのタイミングを適宜制御することにより、ターンオフ時間を短縮することができる。なお、第1ゲート電極40がオフされる時間の遅れは、所望の抵抗値を有する抵抗素子RDを配置することにより制御することができる。
【0055】
図5は、実施形態の別の変形例に係る半導体装置3を示す模式断面図である。
【0056】
図5に示す半導体装置3も、第1ゲートパッド75と、第2ゲートパッド77と、を備える。さらに半導体装置3の半導体部10は、n形ベース層11とp形ベース層13との間に位置するn形バリア層25(第6半導体層)をさらに含む。
【0057】
n形バリア層25は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。また、n形バリア層25は、n形エミッタ層15のn形不純物よりも低濃度のn形不純物を含む。n形バリア層25は、例えば、1×1012~1×1014cm-2の範囲のn形不純物量を有するように設けられ、0.1~数μmの範囲のZ方向の厚さを有する。n形バリア層25は、例えば、半導体部10の第1面10T側にn形不純物をイオン注入することにより形成される。
【0058】
半導体装置3では、ターンオン時に第3ゲート電極60を適宜制御することにより、ターンオン時間を短縮できる。さらに、ターンオフ時に、第1ゲート電極40がオフするタイミングを、第2ゲート電極50がオフするタイミングに対して遅らせることにより、オン抵抗を維持しながら、スイッチング損失を低減することができる。この例では、n形バリア層25を加えることにより、オン状態(定常状態)におけるn形ベース層11のエミッタ側のキャリア蓄積をさらに促進し、より低いオン抵抗を実現できる。このように、n形バリア層25を加えることにより、ターンオン時間、ターンオフ時間を短縮し、且つ、オン抵抗をより効果的に低減することができる。
【0059】
図6は、実施形態のさらなる別の変形例に係る半導体装置4を示す模式断面図である。半導体装置4は、
図1に示す半導体装置1と同様の構造を有する。半導体装置4の半導体部10は、n形ベース層11とp形ベース層13との間に、n形バリア層25をさらに備える。n形バリア層25は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。半導体装置4においても、n形バリア層25を加えることにより、低オン抵抗を実現できる。
【0060】
図7は、実施形態の他の変形例に係る半導体装置5を示す模式断面図である。半導体装置5は、第1ゲート電極40と、第2ゲート電極50と、第3ゲート電極60と、を含む。第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60は、例えば、第1ゲートパッド47、第2ゲートパッド57および第3ゲートパッド67に、それぞれ電気的に接続され、独立してバイアスされる(
図1参照)。
【0061】
図7に示すように、第2ゲート電極50は、例えば、第1ゲート電極40の間に位置する。また、第1ゲート電極は、例えば、第2ゲート電極50と第3ゲート電極60との間に位置するように配置される。
【0062】
半導体部10は、n形ベース層11と、p形ベース層13と、n形エミッタ層15と、p形コンタクト層17と、n形バッファ層19と、p形コレクタ層21と、n形バリア層25と、を含む。なお、実施形態は、n形バリア層25を設けない構造でも良い。
【0063】
n形エミッタ層15は、ゲート絶縁膜41に接する位置に配置される。第1ゲート電極40は、ゲート絶縁膜41を介して、n形ベース層11、n形バリア層25、p形ベース層13およびn形エミッタ層15に向き合うように配置される。第2ゲート電極50は、絶縁膜51を介して、n形ベース層11、n形バリア層25、p形ベース層13およびp形コンタクト層17に向き合うように配置される。第3ゲート電極60は、ゲート絶縁膜61を介して、n形ベース層11、n形バリア層25、p形ベース層13およびp形コンタクト層17に向き合うように配置される。
【0064】
図8、
図9(a)~(c)は、半導体装置5の動作を示す模式図である。
図8は、ゲート電圧V
MG、V
CG、V
PG、エミッタ・コレクタ電極間電圧V
CEおよびコレクタ電流I
Cの時間変化を示すタイムチャートである。
図9(a)~(c)は、
図8に示す期間A、B、Cにおける半導体部10中のキャリアを示す模式図である。以下、
図8、
図9(a)~(c)を参照して、半導体装置5の動作を説明する。
【0065】
図8は、半導体装置5をオン状態からオフ状態に移行させるターンオフ過程において、第1ゲート電極40、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60にそれぞれ印加されるゲート電圧V
MG、V
CGおよびV
PGを示している。また、これらのゲート電圧の変化に伴う、コレクタ電流I
Cおよびエミッタ・コレクタ電極間電圧V
CEの変化を示している。以下の説明では、エミッタ電極20の電位は、アース電位(ゼロレベル)にあるものとする。
【0066】
本実施例では、オン状態では、第1ゲート電極40にはしきい値以上の正のゲート電圧VMG、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60にはそれぞれ正のゲート電圧VCGおよびVPGが印加されている。
【0067】
図8に示すように、半導体装置5のターンオフ過程では、時間t
3において、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60をオフさせた後、時間t
4において第1ゲート電極40をオフさせる。例えば、時間t
3において、ゲート電圧V
CGをプラス電圧(例えば、+15V)からマイナス電圧(例えば、-15V)に低下させる。また、時間t
3において、ゲート電圧V
PGをプラス電圧(例えば、+15V)からゼロレベルに低下させる。続いて、時間t
4において、ゲート電圧V
MGをプラス電圧(例えば、+15V)からゼロレベルに低下させる。
【0068】
図9(a)は、期間Aにおける半導体部10中のキャリア(電子)の分布を表している。
図8に示す期間Aでは、第1ゲート電極40はオンされ、p形ベース層13とゲート絶縁膜41の界面に誘起されたn形チャネルを介してn形エミッタ層15からn形バリア層15、さらには、n形ベース層11に電子が注入される。これに対応して、コレクタ側(図示せず)では、p形コレクタ層21からn形ベース層11へ正孔が注入され、コレクタ電流I
C(オン電流)が流れる。
【0069】
さらに、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60に印加されるゲート電圧V
CG、V
PG(プラス電圧)により、n形ベース層11およびn形バリア層25とゲート絶縁膜51の界面、および、n形ベース層11およびn形バリア層とゲート絶縁膜61との界面にn形の蓄積層が誘起される。このため、p形コレクタ層21からn形ベース層11への正孔注入量がさらに増える。この結果、n形ベース層11およびn形バリア層25におけるキャリア量が増加し、オン抵抗を低下させることができる。
図8中に示す期間Aでは、オン抵抗を低下させることで、コレクタ電流I
Cに伴うエミッタ・コレクタ電極間電圧V
CEを抑制することが可能となり、電力消費V
CE*I
Cを低減できる。
【0070】
図8に示す期間Bでは、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60がオフされる。このため、
図9(b)に示すように、n形ベース層11およびn形バリア層25とゲート絶縁膜51との界面、および、n形ベース層11およびn形バリア層25とゲート絶縁膜61との界面に誘起されたn形蓄積層が消失される。これにより、p形コレクタ層21からn形ベース層11への正孔注入量が低減される。一方、第1ゲート電極40は、オンされたままであるため、コレクタ電流I
Cは、流れ続ける。すなわち、n形エミッタ層15からn形バリア層25およびn形ベース層11へ電子が注入され、これに対応して、p形コレクタ層21からn形ベース層11へ正孔が注入される。さらに、第2ゲート電極50に印加されるゲート電圧V
CGがマイナス電圧となり、n形ベース層11、n形バリア層25およびp形ベース層13とゲート絶縁膜51との界面にp形蓄積層が誘起される。これにより、n形ベース層11およびn形バリア層25からp形コンタクト層17に至る正孔排出経路が形成される。このため、n形ベース層11およびn形バリア層25から正孔がエミッタ電極20へ排出され、n形ベース層11およびn形バリア層25におけるキャリア量がさらに低減される。
【0071】
結果として、n形ベース層11およびn形バリア層25におけるキャリア量が低減され、オン抵抗が上昇した状態において、コレクタ電流ICが流れるため、エミッタ・コレクタ電極間電圧VCEが高くなり、電力消費VCE*ICがやや増加する。
【0072】
図8に示す期間Cでは、第1ゲート電極40がさらにオフされる。例えば、第1ゲート電極40をオフさせるために、ゲート電圧V
MGを低下させたとしても、第1ゲート電極20の電位は、すぐにオフ電位とはならず、例えば、第1ゲート電極40の寄生容量の電荷を放電させる間、コレクタ電流I
Cは、ほぼ一定に保持される。
【0073】
続いて、第1ゲート電極40の電位低下が始まると、p形ベース層13とゲート絶縁膜41との界面のn形チャネルが徐々に消失され、コレクタ電流ICは減少に転じ、エミッタ・コレクタ電極間電圧VCEは、上昇し始める。エミッタ・コレクタ電極間電圧VCEは、例えば、一旦、オーバーシュートした後、オフ電圧になり、一定となる。
【0074】
この間、n形ベース層11およびn形バリア層25のキャリアは、エミッタ電極20およびコレクタ電極30に放出され、n形ベース層11およびn形バリア層25は、空乏化される。
【0075】
図9(c)に示すように、n形ベース層11およびn形バリア層25の正孔は、エミッタ電極20へ放出される。この際、第2ゲート電極50にマイナス電圧(例えば、V
CG=-15V)が印加されているため、n形ベース層11およびn形バリア層25とゲート絶縁膜51との界面にp形蓄積層が誘起されている。したがって、n形ベース層11およびn形バリア層25の正孔は、p形蓄積層およびp形ベース層13を介して速やかにエミッタ電極20へ放出される。
【0076】
さらに、第1ゲート電極40にマイナス電圧(例えば、VMG=-15V)を印加し、n形ベース層11およびn形バリア層25とゲート絶縁膜41との界面にp形蓄積層を誘起する。これにより、n形ベース層11およびn形バリア層25からエミッタ電極20へのp形蓄積層を介した正孔の放出が促進される。
【0077】
さらに、
図8に示す期間Dでは、コレクタ電流I
Cは、ゼロレベルに低下し、時間t
5において、半導体装置5は、オフ状態になる。
【0078】
本実施形態では、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60を設けることにより、n形ベース層11およびn形バリア層25からのキャリアの放出を促進し、ターンオフ期間Cを短縮することができる。
【0079】
さらに、時間t4において、第1ゲート電極40にオフ電圧(例えば、VMG=-15)を印加する前に、時間t3において、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60をオフする。これにより、期間Bにおいて、予めn形ベース層11およびn形バリア層25のキャリアを減少させた上で、ターンオフ期間Cを開始することができる。結果として、ターンオフ期間Cをさらに短縮することができる。
【0080】
例えば、
図8中に破線で示すエミッタ・コレクタ電極間電圧V
CEの変化は、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60を設けない場合の特性を示している。実線で示した本実施形態に係るエミッタ・コレクタ電極間電圧V
CEの変化と比べれば、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60設けることにより、ターンオフ期間を短縮できることが分かる。
【0081】
ターンオフ期間Cにおける電力消費VCE*ICは、その長さに依存し、ターンオフ期間Cを短縮することにより、スイッチング損失を低減することができる。本実施形態に係る半導体装置5では、第2ゲート電極50および第3ゲート電極60を適宜制御することにより、オン抵抗を低減すると共に、スイッチング損失を低減することができる。
【0082】
例えば、半導体装置5では、期間Bにおいてn形ベース層11およびn形バリア層25のキャリア量を低減したことにより、電力消費VCE*ICがやや増加する。しかしながら、ターンオフ期間Cの短縮による電力消費VCE*ICの低減効果の寄与の方が大きく、全体として、スイッチング損失を低減することができる。
【0083】
また、第3ゲート電極60にマイナス電圧(例えば、VPG=-15V)を印加することにより、n形ベース層11およびn形バリア層25からの正孔の排出をさらに促進することができる。しかしながら、そのような制御は、例えば、期間Bにおいて、n形ベース層11およびn形バリア層25におけるキャリア量の大幅な減少を招き、電力消費VCE*ICを拡大させる。結果として、スイッチング損失を増大させることになる。このように、本実施形態に係る第2ゲート電極50および第3ゲート電極60を適宜配置し、好適に制御することにより、半導体装置のオン抵抗を低減し、且つ、スイッチング損失を低減することができる。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1、2、3、4、5…半導体装置、 10…半導体部、 10T…第1面、 10B…第2面、 11…n形ベース層、 13…p形ベース層、 15…n形エミッタ層、 17…p形コンタクト層、 19…n形バッファ層、 21…p形コレクタ層、 25…n形バリア層、 20…エミッタ電極、 30…コレクタ電極、 40…第1ゲート電極、 50…第2ゲート電極、 60…第3ゲート電極、 41、51、61…ゲート絶縁膜、 43、53、63…絶縁膜、 45…第1ゲート配線、 55…第2ゲート配線、 65…第3ゲート配線、 47、75…第1ゲートパッド、 57、77…第2ゲートパッド、 67…第3ゲートパッド、 GT1、GT2、GT3…トレンチ、 RD…抵抗素子