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特許7373657金型耐摩耗性に優れた熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】金型耐摩耗性に優れた熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20231026BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20231026BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231026BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20231026BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20231026BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20231026BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20231026BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C23C2/12
C21D9/00 A
C22C38/00 301T
C22C38/00 302A
C22C38/06
C22C38/60
C23C2/26
C23C2/28
C23C2/40
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022523536
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 KR2020018554
(87)【国際公開番号】W WO2021125832
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172334
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジン-クン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】チュン、 ヒョ-シク
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-506523(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0077928(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1528011(KR,B1)
【文献】国際公開第00/050658(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/006742(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-30/00
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;及び
前記素地鋼板の表面に備えられるアルミニウム系めっき層を含み、
前記アルミニウム系めっき層は、
前記素地鋼板の表面に備えられ、FeAl、FeAl(Si)、FeAl5、及びFeAlのうちの1つ以上からなる合金化層;及び
前記合金化層上に備えられるアルミニウム層を含み、
前記合金化層の厚さが前記アルミニウム系めっき層の厚さの90%以上であり、
前記アルミニウム系めっき層の表面で観察されるTi面分率が2%以下、Zn面分率が1%以下である、アルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項2】
前記アルミニウム系めっき層の厚さは20~40μmであり、両面めっき量は20~200g/mである、請求項1に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項3】
前記素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項1または2に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項4】
前記素地鋼板は重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうちの1つ以上をさらに含む、請求項3に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項5】
前記鋼板の表面において、Tiの円相当直径4μm以上の分率が20%以下であり、Znの円相当直径4μm以上の分率が20%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項6】
前記鋼板は930℃で6分間加熱した後、高温摩耗の試験時、金型の減圧紙の反応面積が50%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる、熱間プレス成形部材。
【請求項8】
前記部材の表面において、Ti面分率が5%以下、円相当直径4μm以上の分率が50%以下であり、Zn面分率が5%以下、円相当直径4μm以上の分率が50%以下である、請求項7に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項9】
素地鋼板を用意する段階;
前記素地鋼板を重量%で、Ti:0.1%以下(0%含む)、Zn:1%以下(0%含む)含むアルミニウムめっき浴に浸漬してめっきする段階;
めっき後に冷却する段階;
冷却された鋼板を露点温度-10℃未満である酸素及び/または窒素雰囲気の箱焼鈍炉から600~800℃の範囲の温度で0.1~100時間合金化熱処理する段階;
熱処理後に冷却する段階;及び
冷却された鋼板表面の酸化物を除去する段階を含む、アルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウムめっき浴は重量%で、Si:7~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含む、請求項9に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記めっきは、めっき層の厚さが20~40μmであり、両面めっき量が20~200g/mとなるようにするものである、請求項9または10に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む、請求項9から11のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記素地鋼板は重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうちの1つ以上をさらに含む、請求項12に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記めっき後の冷却は、250℃以下まで3~20℃/sの平均冷却速度で冷却するものである、請求項9から13のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記めっき後に冷却された鋼板を0.1~1.5%の調質圧下率で調質圧延する段階をさらに含む、請求項9から14のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理後の冷却は、400℃まで50℃/h以下の冷却速度で冷却するものである、請求項9から15のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理後に冷却された鋼板を100℃未満に冷却する際に、100~400℃の冷却区間で箱焼鈍炉内の水素を放出する段階をさらに含む、請求項9から16のいずれか一項に記載のアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法。
【請求項18】
請求項9から17のいずれか一項によって製造されたアルミニウム-鉄系めっき鋼板を880~950℃の範囲の温度で3~10分加熱した後に熱間プレス成形する、熱間プレス成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法に関するものであって、より詳細には、金型耐摩耗性に優れた熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近では、石油エネルギー資源の枯渇及び環境に関する関心の高まりに伴い、自動車の燃費向上に対する規制は日々、強化されつつある。材料的側面から、自動車の燃費を向上させるための1つの方法として、用いられる鋼板の厚さを減少させることがあるが、厚さを減少させる場合には、自動車の安全性に問題が生じる可能性があるため、必ず鋼板の強度向上が裏付けられる必要がある。
【0003】
このような理由から、高強度鋼板に対する需要が継続的に発生し、様々な種類の鋼板が開発されている。ところが、かかる鋼板は、それ自体が高い強度を有するため加工性が不良であるという問題がある。すなわち、鋼板の強度と延伸率の積は常に一定の値を有する傾向を有していることから、鋼板の強度が高くなる場合には、加工性の指標となる延伸率が減少するという問題があった。
【0004】
上記問題を解決するために、熱間プレス成形法が提案されている。熱間プレス成形法は、鋼板を高温で加工した後、これを低い温度で急冷することにより、鋼板内にマルテンサイトなどの低温組織を形成させ、最終製品の強度を高める方法である。このような方法は、高い強度を有する部材を製造するとき、加工性の問題を最小化することができるという利点がある。
【0005】
但し、上記熱間プレス成形法は、鋼板を高温で加熱するため、鋼板の表面が酸化し、これによってプレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程が追加される必要があるという問題があった。
【0006】
かかる問題を解決するために、特許文献1においては、アルミニウムめっきを行った鋼板を熱間プレスに用いている。
【0007】
このような鋼板は、表面にアルミニウムめっき層が存在するため、加熱時に素地鋼板の酸化が発生しない。また、アルミニウムめっき鋼板を熱間プレス成形するためには、鋼板を加熱する段階が行われるが、この段階で鋼板の温度が上昇し、その結果、素地鋼板からめっき層にFeの拡散が起こるようになり、めっき層に合金化が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許公報第6296805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面によると、金型耐摩耗性に優れた熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明のさらなる課題を理解することに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、素地鋼板;及び上記素地鋼板の表面に備えられるアルミニウム系めっき層を含み、上記アルミニウム系めっき層は、上記素地鋼板の表面に備えられ、FeAl、FeAl(Si)、FeAl及びFeAlのうちの1つからなる合金化層;及び上記合金化層上に備えられるアルミニウム層を含み、上記合金化層の厚さが上記アルミニウム系めっき層の厚さの90%以上であり、上記アルミニウム系めっき層の表面で観察されるTi面分率が2%以下、Zn面分率が1%以下であるアルミニウム-鉄系めっき鋼板を提供することができる。
【0012】
上記アルミニウム系めっき層の厚さは20~40μmであり、両面めっき量は20~200g/mであることができる。
【0013】
上記素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0014】
上記素地鋼板は重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうちの1つ以上をさらに含むことができる。
【0015】
上記鋼板の表面でTiの円相当直径4μm以上の分率が20%以下であり、Znの円相当直径4μm以上の分率が20%以下であることができる。
【0016】
上記鋼板は930℃で6分間加熱した後、高温摩耗試験時に金型の減圧紙の反応面積が50%以下であることができる。
【0017】
本発明の他の一側面は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形して得られる熱間プレス成形部材を提供することができる。
【0018】
上記部材の表面でTi面分率が5%以下、円相当直径4μm以上の分率が50%以下であり、Zn面分率が5%以下、円相当直径4μm以上の分率が50%以下であることができる。
【0019】
本発明の他の一側面は、素地鋼板を用意する段階;上記素地鋼板を重量%で、Ti:0.1%以下(0%含む)、Zn:1%以下(0%含む)含むアルミニウムめっき浴に浸漬してめっきする段階;めっき後に冷却する段階;冷却された鋼板を露点温度-10℃未満である酸素及び/または窒素雰囲気の箱焼鈍炉から600~800℃の範囲の温度で0.1~100時間合金化熱処理する段階;熱処理後に冷却する段階;及び冷却された鋼板表面の酸化物を除去する段階を含むアルミニウム-鉄系めっき鋼板の製造方法を提供することができる。
【0020】
上記アルミニウムめっき浴は重量%で、Si:7~15%、残部Al及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0021】
上記めっきは、めっき層の厚さが20~40μmであり、両面めっき量が20~200g/mとなるようにするものであることができる。
【0022】
上記素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0023】
上記素地鋼板は重量%で、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうちの1つ以上をさらに含むことができる。
【0024】
上記めっき後の冷却は、250℃以下まで3~20℃/sの平均冷却速度で冷却することである。
【0025】
上記めっき後に冷却された鋼板を0.1~1.5%の調質圧下率で調質圧延する段階をさらに含むことができる。
【0026】
上記熱処理後の冷却は、400℃まで50℃/h以下の冷却速度で冷却することである。
【0027】
上記熱処理後に冷却された鋼板を100℃未満に冷却する際に、100~400℃の冷却区間で箱焼鈍炉内の水素を放出する段階をさらに含むことができる。
【0028】
本発明の他の一側面は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板を880~950℃の範囲の温度で3~10分加熱した後、熱間プレス成形する熱間プレス成形部材の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一側面によると、金型耐摩耗性に優れた熱間プレス用アルミニウム-鉄系めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】アルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面をEPMA(electrone probe X-ray microanalyzer(電子プローブX線マイクロアナライザー))を用いて観察した写真であり、(a)及び(b)はそれぞれ発明例2のTi及びZn、(c)及び(d)は、比較例2のTi及びZnの写真である。
図2】アルミニウム-鉄系めっき鋼板の断面を光学顕微鏡を用いて観察した写真であり、(a)は発明例2、(b)は比較例1の写真である。
図3】アルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形した後、鋼板の表面をEPMAを用いて観察した写真であり、(a)及び(b)はそれぞれ発明例2のTi及びZn、(c)及び(d)は、比較例3のTi及びZnの写真である。
図4】アルミニウム-鉄系めっき鋼板を930℃で6分加熱後、700℃で高温摩耗試験後の摩耗Toolを減圧紙に転写した写真であり、(a)は比較例3、(b)は発明例2の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施例に限定されるものと解釈されではいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の技術者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0032】
本発明者は、熱間プレス成形のための加熱前に予め素地鋼板の表面にアルミニウムめっき層を形成するにおいて、めっき浴の組成でTi及びZnの含有量を制御するとともに、めっき後の合金化熱処理及び表面酸化物を除去することによって熱間プレス成形部材の金型耐摩耗性が向上できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0033】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0034】
以下では、本発明の鋼板について詳細に説明する。
【0035】
本発明の一側面に係るアルミニウム-鉄系めっき鋼板は、素地鋼板及びアルミニウム系めっき層を含み、上記アルミニウム系めっき層は合金化層及びアルミニウム層を含むことができる。
【0036】
本発明のアルミニウム-鉄系めっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板の表面に備えられるアルミニウム系めっき層を含み、上記アルミニウム系めっき層は、FeAl、FeAl(Si)、FeAl及びFeAlのうちの1つ以上からなる合金化層及び上記合金化層上に備えられるアルミニウム層を含むことができる。
【0037】
素地鋼板にアルミニウムをめっきした後、合金化熱処理を行うと、素地鋼板のFeがアルミニウムめっき層に拡散する。このとき、Feの拡散が素地鋼板からめっき層まで行われるため、めっき鋼板の最表面側には拡散するFeが少なく、純粋アルミニウムからなるアルミニウム層が存在することができ、上記アルミニウム層と上記素地鋼板との間にはAl及びFeの金属間化合物からなる合金化層を形成することができる。制限されるものではないが、上記合金化層を成すAl-Fe系金属間化合物の合金相は、FeAl、FeAl(Si)、FeAl及びFeAlであることができる。
【0038】
一方、アルミニウム系めっき層の最表面側、すなわち、アルミニウム系めっき層内の合金化層上には純粋アルミニウムからなるアルミニウム層が形成されることができ、上記アルミニウム層の厚さはアルミニウム系のめっき層の厚さの10%未満であることができる。
【0039】
めっき鋼板において、アルミニウム層と合金化層との間の界面は不安定であるため、アルミニウム層の厚さがアルミニウム系めっき層の厚さの10%を超えると、合金化熱処理後の巻取り及び/または形状矯正のためのレベリング工程時にアルミニウム層の剥離が発生する可能性がある。アルミニウム層の厚さは小さいほど好ましいため、その下限は限定しない。したがって、本発明において好ましくはアルミニウム系めっき層の厚さの5%未満であり、より好ましくは1%未満であることができる。
【0040】
アルミニウム系めっき層の厚さは20~40μmであることができる。
【0041】
上記めっき層の厚さが20μm未満であると耐食性が劣化するのに対し、その厚さが40μmを超えると溶接性が低下する問題が生じる。したがって、アルミニウム系めっき層の厚さは20~40μmであり、より好ましくは25~35μmであることができる。
【0042】
アルミニウムめっき時のめっき量は片面当たり20~100g/mであることができる。
【0043】
上記めっき量が20g/m未満であると耐食性が劣化するのに対し、めっき量が100g/mを超えると溶接性が低下する問題が発生する。したがって、めっき量は片面当たり20~100g/mであることができる。より好ましくは40~90g/mであり、より好ましくは60~80g/mであることができる。
【0044】
本発明の素地鋼板は熱間プレス用鋼板として、熱間プレス成形に用いられるのであれば特に制限しない。本発明において、素地鋼板は重量%で、C:0.04~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.01~10%、Al:0.001~1.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、N:0.02%以下、残部Fe及び不可避不純物を含むことができる。
【0045】
炭素(C):0.04~0.5%
炭素(C)は、熱処理部材の強度を上向させるための必須元素であり、熱処理部材の強度を十分に確保するために0.04%以上添加される必要がある。但し、その含有量が0.5%を超えると冷延材を生産する場合、熱延材を冷間圧延する際に冷間圧延性が大きく劣化するだけでなく、スポット溶接性を大きく低下させる問題点がある。
【0046】
したがって、炭素(C)の含有量は0.04~0.5%であることができる。より好ましくは下限が0.1%であることができる。また、より好ましくは上限が0.45%であり、より好ましくは0.4%であることができる。
【0047】
シリコン(Si):0.01~2%
シリコン(Si)は、製鋼において脱酸剤の役割を果たすだけでなく、熱間プレス成形部材の強度に最も大きく影響を及ぼす炭化物生成を抑制する役割を果たす。シリコン(Si)は、熱間プレス成形においてマルテンサイト生成後にマルテンサイトラス(lath)粒界で炭素を濃化させて残留オーステナイトを確保するために0.01%以上添加される必要がある。一方、圧延後の鋼板にアルミニウムめっきを行う際に十分なめっき性を確保するために上限を2%とすることができる。
【0048】
したがって、シリコン(Si)の含有量は0.01~2%であることができる。より好ましくは、上限が1.5%であることができる。
【0049】
マンガン(Mn):0.01~10%
マンガン(Mn)は、固溶強化効果を確保できるだけでなく、熱間プレス成形部材においてマルテンサイト確保のための臨界冷却速度を下げるために0.01%以上添加される必要がある。一方、鋼板の強度を適切に維持することで熱間プレス成形工程の作業性を確保、製造原価の節減及びスポット溶接性を向上させることができるため、上限を10%とする。
【0050】
したがって、マンガン(Mn)の含有量は0.01~10%であることができる。より好ましくは上限が9%であり、より好ましくは8%であることができる。
【0051】
アルミニウム(Al):0.001~1.0%
アルミニウム(Al)は、Siと共に製鋼において脱酸作用をし、鋼の清浄度を高めることができるため、0.001%以上添加される必要がある。一方、Ac3温度が過度に高くならないようにして、熱間プレス成形時に必要な加熱を適切な温度範囲で行うように上限を1.0%とする。
【0052】
したがって、アルミニウム(Al)の含有量は0.001~1.0%とすることができる。
【0053】
リン(P):0.05%以下
リン(P)は鋼内に存在する不純物であって、その含有量が少ないほど有利であるため、0.05%以下添加される必要がある。
【0054】
したがって、リン(P)の含有量は0.05%以下であり、より好ましくは0.03%以下であることができる。但し、リン(P)の含有量を過度に下げると製造費用が上昇するおそれがあるため、下限を0.001%とすることができる。
【0055】
硫黄(S):0.02%以下
硫黄(S)は鋼内に存在する不純物であって、部材の延性、衝撃特性及び溶接性を阻害する元素として0.02%以下添加される必要がある。
【0056】
したがって、硫黄(S)の含有量は0.02%以下であり、より好ましくは0.01%であることができる。但し、その含有量が0.0001%未満であると製造費用が上昇する可能性があるため、下限を0.0001%とすることができる。
【0057】
窒素(N):0.02%以下
窒素(N)は鋼中に不純物として含まれる元素であり、スラブ連続鋳造時にクラック発生に対する敏感度を減少させ、衝撃特性を確保するためには含有量が低いほど有利であるため、0.02%以下添加する。
【0058】
したがって、窒素(N)の含有量は0.02%以下であることができる。但し、製造費用の上昇などを考慮して下限を0.001%とすることができる。
【0059】
本発明における素地鋼板は、上述した合金組成に加えて、必要に応じて選択的にCr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%、Cu+Ni:0.005~2.0%、Sb+Sn:0.001~1.0%及びB:0.0001~0.01%のうちの1つ以上をさらに含むことができる。
【0060】
Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計:0.01~4.0%
Cr、Mo及びWは硬化能向上と、析出強化の効果による強度確保及び結晶粒微細化を確保することができる元素として、これらのうちの1種以上を含有量の合計で0.01%以上添加することができる。一方、熱間プレス成形部材の溶接性を確保するためには、その含有量を4.0%以下に制限する。また、これらの元素の含有量合計が4.0%を超えると、上述した効果が飽和するという問題点が生じることがある。
【0061】
したがって、Cr、Mo及びWからなる群から選択された1種以上の合計は、0.01~4.0%であることができる。
【0062】
Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計:0.001~0.4%
Ti、Nb、Zr及びVは、微細析出物形成で部材の強度向上と結晶粒微細化によって残留オーステナイト安定化と衝撃靭性の向上に効果があるため、これらのうちの1種以上を含有量の合計で0.001%以上添加することができる。但し、その含有量が0.4%を超えると上述した効果が飽和するだけでなく、過度の合金添加によって費用の上昇をもたらすことがある。
【0063】
したがって、Ti、Nb、Zr及びVからなる群から選択された1種以上の合計は、0.001~0.4%であることができる。
【0064】
Cu+Ni:0.005~2.0%
Cu及びNiは、微細析出物を形成させて強度を向上させる元素であり、上述の効果を得るためにこれらのうちの1種以上の成分の合計で0.005%以上添加することができる。但し、その含有量が2.0%を超えると費用増加の問題が発生する。
【0065】
したがって、Cu+Niの含有量は0.005~2.0%であることができる。
【0066】
Sb+Sn:0.001~1.0%
Sb及びSnは、Al-Siめっきのための焼鈍熱処理時、表面に濃化してSiまたはMn酸化物が表面に形成されることを抑制してめっき性を向上させることができる。上述の効果を得るためにこれらのうちの1種以上の成分の合計で0.001%以上添加する必要がある。但し、その含有量が1.0%を超えると、過度の合金添加で費用が増加するだけでなく、スラブ粒界に固溶されて熱間圧延時にコイルエッジ(edge)のクラックを誘発する問題点が発生する。
【0067】
したがって、Sb+Snの含有量は0.001~1.0%であることができる。
【0068】
B:0.0001~0.01%
Bは少量の添加でも硬化能を向上させることができるだけでなく、旧オーステナイト結晶粒界に偏析してP及び/またはSの粒界偏析による熱間プレス成形部材の脆性を抑制することができる元素であるため、0.0001%以上添加される必要がある。但し、その含有量が0.01%を超えると上述した効果が飽和するだけでなく、熱間圧延で脆性をもたらす問題点がある。
【0069】
したがって、B含有量は0.0001~0.01%であることができる。より好ましくは、上限が0.005%であることができる。
【0070】
本発明の鋼板は、上述した組成以外に残りの鉄(Fe)及び不可避不純物を含むことができる。不可避不純物は、通常の製造工程で意図せずに混入される可能性があるため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば誰もが分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書において言及しない。
【0071】
本発明の一側面に係るアルミニウム-鉄系めっき鋼板は、鋼板の表面でTi面分率が2%以下、円相当直径4μm以上の分率が20%以下であり、Zn面分率が1%以下、円相当直径4μm以上の分率が20%以下であることができる。
【0072】
Ti及びZnは酸化物を形成してTi酸化物及びZn酸化物は耐摩耗性を劣化させる。本発明において耐摩耗性に影響を及ぼすTi及びZnの面分率を制御することで、目標とする金型耐摩耗性を確保することができる。アルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面で観察されるTi面分率が2%以下及びZn面分率が1%以下に制限される。また、Ti及びZnの円相当直径4μm以上の分率がそれぞれ20%以下に制限される。直径4μm以上の過度に大きく形成される酸化物は金型耐摩耗性を劣化させる主な原因となり得る。
【0073】
本発明のアルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形して熱間プレス成形部材を製造することができる。上記部材の表面でTi面分率が5%以下であり、円相当直径4μm以上の分率が50%以下であり、Zn面分率が5%以下であり、円相当直径4μm以上の分率が50%以下であることができる。
【0074】
本発明で目標とする金型耐摩耗性の特性を確保するために部材の表面で観察されるTi面分率が5%以下及びZn面分率が5%以下に制限される。また、Ti及びZnの円相当直径4μm以上の分率がそれぞれ50%以下に制限される。直径4μm以上の過度に大きく形成される酸化物は、金型耐摩耗性を劣化させる原因となり得る。
【0075】
以下では、本発明の鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0076】
本発明の一側面に係るアルミニウム-鉄系めっき鋼板は、上述した合金組成を満たす素地鋼板をアルミニウムめっき、冷却、調質圧延、合金化熱処理、冷却、水素放出及び酸化物除去して製造されることができる。
【0077】
アルミニウムめっき
上述した合金組成を満たす素地鋼板をTi:0.1%以下(0%含む)、Zn:1%以下(0%含む)、Si:7~15%及び残部Alを含むアルミニウムめっき浴に浸漬して20~40μmの厚さと片面当たり20~100g/mのめっき量でアルミニウムめっきを行うことができる。
【0078】
必要に応じて、選択的にめっき前の鋼板に対して焼鈍処理を行うことができる。
【0079】
上記めっき浴は、Siを7~15%含むことができる。Siはめっき層内でFeとの合金化を均一にする役割として、上述した効果を得るためには7%以上含まれる必要がある。一方、SiはFeの拡散を抑制する役割も果たすため、その含有量が15%を超えるとFeの拡散が過度に抑制され、本発明で目標とする合金化構造が得られないことがある。したがって、Siの含有量は7~15%であることができる。より好ましくは8~12%であり、より好ましくは8~10%であることができる。
【0080】
上記めっき浴は、Ti:0.1%以下(0%含む)、Zn:1%以下(0%含む)含むことができる。本発明においてTi及びZnはめっき浴内に不可避に含まれ得るものであり、金型耐摩耗性を確保するために含有量を制御する必要がある。Ti含有量が0.1%を超えると、熱処理及び熱間プレス成形時にめっき層のTiが表面に拡散して酸素と結合し、Ti酸化物を形成して金型摩耗性を劣化させる。また、Zn含有量が1%を超えると、熱処理及び熱間プレス成形時にめっき層のZnが表面に拡散して酸素と結合し、Zn酸化物を形成して金型摩耗を劣化させる。
【0081】
めっき層の厚さは20~40μmであることができる。上記めっき層の厚さが20μm未満であると耐食性が劣化するのに対し、その厚さが40μmを超えると溶接性が低下する問題が生じる。したがって、めっき層の厚さは20~40μmであることができ、より好ましくは25~35μmであることができる。
【0082】
アルミニウムめっき時のめっき量は片面当たり20~100g/mであることができる。めっき量が20g/m未満であると、耐食性が劣化するのに対し、めっき量が100g/mを超えると溶接性が低下する問題が発生する。したがって、めっき量は片面当たり20~100g/mであることができる。より好ましくは40~90g/mであり、より好ましくは60~80g/mであることができる。
【0083】
冷却
アルミニウムめっき後に250℃以下まで3~20℃/sの平均冷却速度で冷却することができる。
【0084】
アルミニウムめっき後に250℃以下まで冷却することができる。冷却終了温度が250℃を超えると、Topロールの寿命を著しく低下させる問題点を引き起こすことがある。
【0085】
アルミニウムめっき後の冷却速度は、めっき層内のAl-Siの晶出相及び拡散抑制層の形成に影響を及ぼすことがあり、これは合金化熱処理後のアルミニウム層に影響を及ぼす。アルミニウムめっき後の冷却速度が20℃/sを超えると拡散抑制層が均一に形成されず、この後に行われる熱処理時のコイルの合金化挙動が不均一となって、本発明で得ようとする相(phase)以外の相が得られることがある。一方、その速度が3℃/s未満であると、Al-Si晶出相が粗大に形成されて、この後に行われる熱処理時のめっき層合金化が不均一となって、本発明で得ようとする相以外の相が得られることがある。
【0086】
調質圧延
冷却された鋼板を巻取る前に0.1~1.5%の圧下率で調質圧延を行うことができる。
【0087】
この後に行われる合金化熱処理工程において、本発明で目標とするめっき層の合金化を誘導し、表面品質を確保するために圧下率を0.1~1.5%とすることができる。
【0088】
合金化熱処理
アルミニウムめっき鋼板を露点温度-10℃未満である酸素及び/または窒素雰囲気の箱焼鈍炉で600~800℃の範囲の温度で0.1~100時間合金化熱処理することができる。
【0089】
アルミニウムめっき鋼板は箱焼鈍炉(Batch annealing furnace)で加熱することができる。このとき、加熱雰囲気は本発明で非常に重要な役割を果たす。水素及び/または窒素雰囲気で鋼板を熱処理する際に露点温度が-10℃以上であると、めっき層内のTi及びZnが鋼板表面に拡散して酸化物を形成することができ、このような酸化物は熱間プレス成形時に高温摩耗特性を劣化させる問題点がある。
【0090】
アルミニウムめっき鋼板を600~800℃の範囲の温度で0.1~100時間維持することができる(本発明では上記温度範囲で炉雰囲気の温度が到達する最高温度を加熱温度とする)。このとき、維持時間は、雰囲気温度が目標温度に到達してから冷却開始までの時間を意味する。加熱温度が600℃未満であると合金化が十分に行われず、これによってめっき層の最外層に合金化されないアルミニウム層がめっき層の厚さの10%を超えてロールレベリング時にめっき層が剥離されることがあるという問題点がある。一方、鋼板の表層に酸化物が過度に生成されることを防止し、スポット溶接性を確保するためには上限を800℃とすることができる。
【0091】
合金化層を十分に確保するとともに、生産性の低下を防止するために維持時間を0.1~100時間とすることができる。維持時間が100時間を超えると拡散層が過度に成長し、熱間プレス成形部材のスポット溶接性を劣化させる問題点がある。より好ましくは維持時間を0.5~50時間とすることができる。鋼板の温度は、加熱温度に到達するまで冷却過程なしに温度が上昇し続ける形態の加熱パターンを有することができる。
【0092】
箱焼鈍炉内の雰囲気温度と鋼板温度との差は1~50℃とすることができる。一般的な箱焼鈍炉の加熱は、鋼板(コイル)を直接加熱する方式よりも焼鈍炉内の雰囲気温度の上昇を介して鋼板を加熱する方式をとる。この場合、雰囲気温度と鋼板温度との差は避けられないが、鋼板内の位置による材質及びめっき品質偏差を最小化するためには、熱処理目標温度の到達時点を基準に雰囲気温度と鋼板温度との差を50℃以下とすることができる。温度差はできるだけ小さくするのが理想的であるが、これは昇温速度を遅くして全体平均昇温速度条件を満たすことが困難であるため、温度間の差の下限を1℃とすることができる。ここで、鋼板の温度は、装入された鋼板底部(コイルの最も低い部分を意味する)の温度を測定したことを意味し、雰囲気温度は、加熱炉の内部空間の中心で測定した温度を意味する。
【0093】
冷却
熱処理後の400℃まで50℃/h以下の冷却速度で冷却することができる。
【0094】
熱処理後のアルミニウムめっき鋼板は、炉冷、空冷、及び水冷など様々な方法を適用して冷却することができる。冷却時の平均冷却速度は特に限定されず、生産性の向上のために速く冷却しても構わない。但し、ステッキング欠陥を防止して材質均一性を確保しながらも、空隙を十分に形成させるために400℃まで50℃/h以下の冷却速度で冷却することができる。冷却速度の下限は特に限定しないが、生産性を考慮して1℃/h以上とすることができる。
【0095】
水素放出
アルミニウム-鉄系めっき鋼板を100℃未満に冷却すると、100~400℃の区間で炉内の水素を放出することができる。
【0096】
アルミニウムめっき鋼板を水素及び/または窒素雰囲気で箱焼鈍した場合であっても微量の水分が炉に残留し、箱焼鈍過程で表面酸化によって水素が鋼中に混入されるようになる。このように混入された水素は、この後の熱間プレス工程でも残留するようになって、最終部品の水素遅延破壊を助長することができる。これを抑制するためには鋼板を100℃未満に冷却する際に100~400℃の区間で炉雰囲気を水素がほとんどない状態とし、鋼中の水素が放出されるようにすることが重要である。水素放出開始温度が400℃を超えると、より多くの水素が放出されることができるが、過度の高温によって作業性及び生産性が悪くなる可能性がある。一方、その温度が100℃未満であると熱的活性化エネルギーが少なくて、水素放出に大きな寄与ができなくなる。
【0097】
酸化物の除去
アルミニウム-鉄系めっき鋼板に表面に形成される酸化物を除去することができる。
【0098】
箱焼鈍炉の雰囲気を制御するにも関わらず、アルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面にはめっき層のTi及びZn表面拡散によるTi及びZn酸化物が形成されて熱間プレス工程で金型摩耗を引き起こすようになる。このような問題を解決するために、めっき層内のTiとZnの含有量の制御、箱焼鈍炉の温度、時間及び雰囲気制御などを介して表面酸化を最小化し、さらに、生成された表面酸化物を除去する工程を追加すると、より効果的に金型摩耗を抑制することができる。表面酸化物を除去する方法としては、様々な方法が用いられることができ、特に限定されないが、一例としてはロールブラシを用いて鋼板表面のTi及びZn酸化物を除去する方法が用いられることができる。
【0099】
熱間プレス成形
上記のように製造された本発明のアルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形して熱間プレス成形部材で製造することができる。このとき、熱間プレス成形は通常的な方法を用いることができ、本発明では880~950℃の範囲の温度で3~10分加熱後にプレス(press)を用いて所望の形状に熱間成形することができる。但し、これに限定されるものではない。
【0100】
上記のように製造された本発明のアルミニウム-鉄系めっき鋼板を930℃で6分加熱した後、金型間に入れて高温摩擦/摩耗試験後の金型の減圧紙の反応面積が50%以下である優れた金型耐摩耗性の特性を備えることができる。
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、より詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。
【実施例
【0102】
(実施例)
下記表1の組成を有する素地鋼板を用意し、下記表2に示しためっき浴組成及びめっき量でめっきを行った。このとき、めっき浴はTi及びZnの以外にSiを7~15%含み、残部はAlであるアルミニウムめっき浴を用いる。めっき後の冷却は、本発明で提案する250℃以下まで3~20℃/sの平均冷却速度で冷却する条件を満たす。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
製造されためっき鋼板を下記表3に示した合金化熱処理条件で熱処理した後、400℃まで50℃/h以下の冷却速度で冷却し、水素を放出する工程を適用した。この後、冷却された鋼板のめっき層内の合金化層の厚さ割合を測定し、Ti及びZnの表面分率と直径4μm以上の分率を測定して表3に示した。
【0106】
【表3】
【0107】
表3の鋼板を下記表4に示した熱間プレス成形して熱間プレス成形部材を得た。上記部材のTi及びZnの表面分率と直径4μm以上の分率を測定した。また、摩耗特性を確認するために減圧紙の反応面積を測定した。減圧紙の反応テストは、アルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間成形加熱条件で加熱後の金型間に入れ、700~800℃温度の範囲でDrawing摩擦試験を10回実施後、減圧紙を金型間に入れて5MPaの圧力で押した後、反応する面積をimage分析器で反応面積を測定した。このとき、減圧紙の反応面積が100%になるほど高温摩擦/摩耗試験時のAdhesive摩耗発生が減り、Abrasive摩耗発生が高くなることを意味する。
【0108】
【表4】
【0109】
表1~4に示したように、発明例1~3は、本発明で提案するめっき浴組成、めっき量及び製造条件を全て満たし、本発明で目標とする物性を確保した。
【0110】
図1は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板表面をEPMA(electrone probe X-ray microanalyzer)を用いて観察した写真であり、(a)及び(b)はそれぞれ発明例2のTi及びZn、(c)及び(d)は比較例2のTi及びZnの写真である。(c)及び(d)の場合、それぞれTi及びZnが過度に観察されることが確認できる。
【0111】
図2は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板の断面を光学顕微鏡を用いて観察した写真であり、(a)は発明例2、(b)は比較例1の写真である。(b)は、加熱温度が本発明の範囲に満たさないため、未合金化層が過度に形成されていることが確認できる。
【0112】
図3は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板を熱間プレス成形した後、鋼板の表面をEPMAを用いて観察した写真であり、(a)及び(b)はそれぞれ発明例2のTi及びZn、(c)及び(d)は比較例3のTi及びZnの写真である。(c)及び(d)の場合、それぞれTi及びZnが過度に観察されることが確認できる。
【0113】
図4は、アルミニウム-鉄系めっき鋼板を930℃で6分加熱後、700℃で高温摩耗試験後に摩耗Toolを減圧紙に転写した写真であり、(a)は比較例3、(b)は発明例2の写真である。(a)の場合、反応領域が未反応領域よりも広い領域で観察されることが確認できる。
【0114】
比較例1は、合金化熱処理の加熱温度が本発明の範囲から外れた場合であって、本発明の温度範囲に満たさないため、合金化が十分に起こらず、図2に示したように合金化層の厚さ割合を満たさなかった。
【0115】
比較例2は、合金化熱処理後に表面酸化物を除去しなかった場合であり、アルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面に酸化物が存在し、本発明で目標とするTi及びZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たさなかった。このため、金型耐摩耗性が低下して、本発明の減圧紙の反応面積の範囲を満たさなかった。
【0116】
比較例3は、合金化熱処理条件である露点温度を本発明の範囲を満たさなかった場合であり、鋼板表面にTi及びZn拡散による酸化物が過度に形成され、本発明で目標とするTi及びZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たしていないため、金型耐摩耗性が劣化したことが分かる。
【0117】
比較例4は、合金化熱処理加熱温度が本発明の範囲から外れた場合であり、本発明の温度範囲よりも高い温度に加熱して表層に酸化物が過度に形成され、本発明で目標とするTi及びZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たしていないため、金型耐摩耗性が低下した。
【0118】
比較例5は、合金化熱処理時間が本発明の範囲から外れた場合であり、長く加熱過ぎて本発明で目標とするTi及びZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たさなかった。その結果、金型耐摩耗性が低下したことが確認できた。
【0119】
比較例6は、合金化熱処理を行わなかった場合であって、本発明で目標とする合金化層の厚さ割合を満たさなかった。
【0120】
比較例7及び8は、TiまたはZn含有量が本発明の範囲から外れた場合であり、酸化物が過度に形成されて本発明で目標とするTiまたはZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たさなかった。このため、摩耗特性を示す減圧紙の反応面積の範囲を満たさなかった。
【0121】
比較例9は、Ti及びZn含有量が本発明の範囲から外れた場合であって、酸化物が過度に形成されて本発明で目標とするTi及びZnの表面分率及び直径4μm以上の割合を満たさなかった。これにより、部材の金型耐摩耗性が低下した。
【0122】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載される特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図3(d)】
図4