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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】位相差フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231026BHJP
   C08G 63/187 20060101ALI20231026BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231026BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20231026BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231026BHJP
【FI】
G02B5/30
C08G63/187
G09F9/00 313
G09F9/00 338
H10K50/86
H10K59/10
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023517398
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042837
(87)【国際公開番号】W WO2023095722
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021191694
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】菅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】大田 善也
(72)【発明者】
【氏名】須田 康裕
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-325971(JP,A)
【文献】特開2016-014794(JP,A)
【文献】国際公開第2021/140927(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08G 63/187
G09F 9/00
H10K 50/86
H10K 59/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含み、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である第1の樹脂層と、
正の固有複屈折を有する樹脂Bを含み、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である第2の樹脂層と、を有し、Nz係数が、-1.0~1.0であり、
波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)であり、
前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、5~50nmであり、
前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、-50~-3nmであり、
前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、10~50nmであり、
前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、5~30nmである、
位相差フィルム。
【請求項2】
前記樹脂Aが、フルオレン骨格を有する構成単位を有する、
請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記フルオレン骨格が、アリール化フルオレン骨格である、
請求項2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記樹脂Aが、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を含むフルオレンポリエステルを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【化1】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化2】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【化3】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化4】
(式中、X3は、C2-8アルキレン基を示す。)
【請求項5】
前記樹脂Bが、ポリアミド樹脂を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
1/4λ位相差フィルムである、
請求項1~5のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の位相差フィルムを含む、
偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を備える、
画像表示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の画像表示装置を備える、
情報処理装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法であって、
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体を延伸して、延伸積層体を得る延伸工程を有する、
位相差フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記延伸工程において、前記未延伸積層体を、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する、
請求項10に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項12】
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体の幅方向の両端側に対に設けられたガイドレールと、
前記未延伸積層体の幅方向の端部を把持しながら前記ガイドレールに沿って移動することにより、前記未延伸積層体を前記幅方向又は長手方向へ延伸して位相差フィルムを作製する把持子と、
該把持子を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段が、
前記位相差フィルムにおいて、
Nz係数が、-1.0~1.0となり、
波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)となり、
前記第1の未延伸樹脂層を延伸した第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、5~50nmとなり、前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、-50~-3nmとなり、前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、10~50nmとなり、前記第2の未延伸樹脂層を延伸した第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、5~30nmとなるように前記把持子を制御する、
位相差フィルムの延伸装置。
【請求項13】
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体を作製する積層手段と、
請求項12に記載の延伸装置と、を備える、
位相差フィルムの製造システム。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一項に記載の位相差フィルムに粘着剤層又は接着剤層を塗布する工程と、前記粘着剤層又は接着剤層を偏光子と貼合する工程と、前記粘着剤層又は接着剤層に熱もしくは活性エネルギー線を照射する工程のうち、いずれか一つ又は複数の工程を有する偏光板製造ラインを含む、
生産システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置には、視野角によるコントラスト低下や色変化を防ぐ光学補償をするために、位相差フィルムが利用されている。また、有機EL表示装置には、LCDの表示装置とは異なり、外光の反射によるコントラストの低下を抑制するために、位相差フィルムが利用されている。位相差フィルムは、これらの表示装置の用途に応じて、3次元屈折率を最適に設計する必要があることから、正の固有複屈折を有する材料と負の固有複屈折を有する材料が組み合わされて用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光特性が調節しやすい逆波長分散位相遅延フィルムを提供することを目的として、正の複屈折特性を有する液晶材料を含む層と、負の複屈折特性を有する高分子材料を含む層を積層した位相遅延フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、遅相軸と直交する視野角から見た際にも波長分散が良好な積層光学フィルムを提供することを目的として、最大屈折率を面内方向に有する層と最大屈折率を厚み方向に有する層とを積層した積層光学フィルムが開示されており、最大屈折率を面内方向に有する層を、正の複屈折を有する樹脂と負の複屈折を有する樹脂とを組み合わせた逆分散の層であることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、λ/4板として使用可能な面内位相差を示すとともに、面内位相差について位相差の逆波長分散性を示し、さらに、厚さ方向の位相差が抑えられた位相差フィルムを提供することを目的として、波長590nmの光に対して100~190nmの面内位相差と、逆波長分散性を有する第1の樹脂層と、波長590nmの光に対して0~10nmの面内位相差と正の一軸性又は二軸性を示す第2の樹脂層とを積層した位相差フィルムが開示されている。また、第1の樹脂層は、固有複屈折が正である樹脂からなる第1の膜と、固有複屈折が負である樹脂からなる第2の膜と、を含む積層構造を有してもよいことも記載されている。
【0006】
また、特許文献4には、視野角による位相差変化の少ない高画質な液晶表示画面を構成することを目的として、固有複屈折値が正の樹脂と固有複屈折値が負の樹脂を混合した樹脂組成物からなる光学フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-228864号公報
【文献】特開2020-086214号公報
【文献】特開2011-242723号公報
【文献】特開2010-078905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、液晶材料を用いるために製造プロセスが複雑化するほか、材料コストが大きいため、実用上問題がある。また、特許文献2~4に記載の光学フィルムはいずれも厚みが80μm以上のものしか実現できておらず、薄膜化という点では課題がある。
【0009】
本発明の目的は、波長分散性とNz係数に優れる位相差フィルム及びその製造方法、前記位相差フィルムを備えた偏光板、前記偏光板を備えた画像表示装置、並びに前記画像表示装置を備えた情報処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、正の固有複屈折性を有する層と負の固有複屈折性を有する層を所定の光学特性を有するように積層することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含み、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である第1の樹脂層と、
正の固有複屈折を有する樹脂Bを含み、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である第2の樹脂層と、を有し、Nz係数が、-1.0~1.0であり、
波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)であり、
前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、5~50nmであり、
前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、-50~-3nmであり、
前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、10~50nmであり、
前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、5~30nmである、
位相差フィルム。
〔2〕
前記樹脂Aが、フルオレン骨格を有する構成単位を有する、
〔1〕に記載の位相差フィルム。
〔3〕
前記フルオレン骨格が、アリール化フルオレン骨格である、
〔2〕に記載の位相差フィルム。
〔4〕
前記樹脂Aが、下記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を含むフルオレンポリエステルを含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【化1】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化2】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【化3】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【化4】
(式中、X3は、C2-8アルキレン基を示す。)
〔5〕
前記樹脂Bが、ポリアミド樹脂を含む、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔6〕
1/4λ位相差フィルムである、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムを含む、
偏光板。
〔8〕
〔7〕に記載の偏光板を備える、
画像表示装置。
〔9〕
〔8〕に記載の画像表示装置を備える、
情報処理装置。
〔10〕
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体を延伸して、延伸積層体を得る延伸工程を有する、
位相差フィルムの製造方法。
〔11〕
前記延伸工程において、前記未延伸積層体を、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する、
〔10〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔12〕
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体の幅方向の両端側に対に設けられたガイドレールと、
前記未延伸積層体の幅方向の端部を把持しながら前記ガイドレールに沿って移動することにより、前記未延伸積層体を前記幅方向又は長手方向へ延伸して位相差フィルムを作製する把持子と、
該把持子を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段が、
前記位相差フィルムにおいて、
Nz係数が、-1.0~1.0となり、
波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)となり、
前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、5~50nmとなり、前記第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、-50~-3nmとなり、前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、10~50nmとなり、前記第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、5~30nmとなるように前記把持子を制御する、
位相差フィルムの延伸装置。
〔13〕
負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層を有する未延伸積層体を作製する積層手段と、
〔12〕に記載の延伸装置と、を備える、
位相差フィルムの製造システム。
〔14〕
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムに粘着剤層又は接着剤層を塗布する工程と、前記粘着剤層又は接着剤層を偏光子と貼合する工程と、前記粘着剤層又は接着剤層に熱もしくは活性エネルギー線を照射する工程のうち、いずれか一つ又は複数の工程を有する偏光板製造ラインを含む、
生産システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、波長分散性とNz係数に優れる位相差フィルム及びその製造方法、前記位相差フィルムを備えた偏光板、前記偏光板を備えた画像表示装置、並びに前記画像表示装置を備えた情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による位相差フィルムを概略的に図示した断面図。
図2】本発明の一実施形態による延伸装置を概略的に図示した斜視図。
図3A】本発明の一実施形態による偏光板を概略的に図示した断面図。
図3B】本発明の他の実施形態による偏光板を概略的に図示した断面図。
図4A】本発明の一実施形態による画像表示装置(OLED)を概略的に図示した断面図。
図4B】本発明の一実施形態による画像表示装置(LCD)を概略的に図示した断面図。
図5】本発明の一実施形態によるローラブルディスプレイを概略的に図示した断面図。
図6】本発明の一実施形態による情報処理装置を概略的に図示した斜視図。
図7】本発明の一実施形態によるフォルダブルスマートフォンを概略的に図示した斜視図。
図8】本発明の一実施形態によるローラブルスマートフォンを概略的に図示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
〔位相差フィルム〕
本実施形態の位相差フィルムは、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の樹脂層と、正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の樹脂層と、を有し、Nz係数が、-1.0~1.0であり、入射角0°の波長450nmの光における面内位相差Ro(450)、入射角0°の波長550nmの光における面内位相差Ro(550)、及び、入射角0°の波長650nmの光における面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)であり、第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、5~50nmであり、第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、-50~-3nmであり、第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550)が、10~50nmであり、第2の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550)が、5~30nmである。
【0016】
図1に、本実施形態の位相差フィルムを概略的に図示した断面図を示す。本実施形態の位相差フィルム10は、負の固有複屈折を有する第1の樹脂層11と、正の固有複屈折を有する第2の樹脂層12とを有し、これらが積層されている。このような多層フィルムとすることで、位相差の波長分散が逆分散性を示す薄膜の1/4λ位相差フィルムを得ることができる。このような位相差フィルムは偏光板と積層することで視野角補償機能をもたせることができる。
【0017】
なお、図1においては、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12をそれぞれ1層ずつ備える2層の位相差フィルムを例示しているが、本実施形態の位相差フィルムは3層以上から構成されてもよい。例えば、本実施形態の位相差フィルムは、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12以外の他の層をさらに含んでもよいし、第1の樹脂層11と第2の樹脂層12を個別に2層以上含んでもよい。
【0018】
1.物性
1.1.Nz係数
位相差フィルムのNz係数は、-1.0~1.0であり、好ましくは-0.5~0.8であり、より好ましくは0~0.6である。Nz係数が上記範囲内であることにより、視野角による位相差の変化が少なく、視認性に優れた表示装置を提供することが可能となる。
【0019】
Nz係数は、下記式により表されるように、フィルム面内の複屈折と断面の複屈折との比を表す値である。Nz係数は、第1の樹脂層と第2の樹脂層に用いる材料や、第1の樹脂層と第2の樹脂層の面内屈折率などにより調整することができる。また、Nz係数は、実施例に記載の方法により測定することができる。
Nz=(nz-nx)/(ny-nx)
nx:層の面内方向における遅相軸の屈折率
ny:層の面内方向における進相軸の屈折率 nz:層の厚さ方向の屈折率
【0020】
1.2.波長分散
位相差フィルムの全体における、入射角0°の波長450nmの光における面内位相差Ro(450)、入射角0°の波長550nmの光における面内位相差Ro(550)、及び、入射角0°の波長650nmの光における面内位相差Ro(650)は、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)である。すなわち、本実施形態の位相差フィルムは、波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を有する。
【0021】
波長分散として好ましくは、0.60<Ro(450)/Ro(550)<0.97を満足することであり、より好ましくは0.70<Ro(450)/Ro(550)<0.90を満足することである。
【0022】
逆波長分散性は、用いる樹脂の種類や各層の膜厚比率を好適に選択することなどにより調整することができる。
【0023】
位相差フィルムの全体における面内位相差Ro(450nm)は、好ましくは10~200nmであり、より好ましくは25~150nmであり、さらに好ましくは50~125nmである。
【0024】
位相差フィルムの全体における面内位相差Ro(550nm)は、好ましくは75~200nmであり、より好ましくは100~175nmであり、さらに好ましくは125~150nmである。
【0025】
位相差フィルムの全体における面内位相差Ro(650nm)は、好ましくは100~250nmであり、より好ましくは125~225nmであり、さらに好ましくは147~200nmである。
【0026】
1.3.厚さ
位相差フィルムの厚さは、好ましくは1~50μmであり、より好ましくは5~40μmであり、さらに好ましくは10~35μmである。
【0027】
2.第1の樹脂層
第1の樹脂層は、負の固有複屈折を有する層である。第1の樹脂層は樹脂Aを含み、必要に応じて、後述する他の添加剤などを含んでいてもよい。
【0028】
正の固有複屈折とは、配向方向(延伸方向)の屈折率が高くなる性質をいい、下記Δnが正であることをいい、負の固有複屈折とは、配向方向(延伸方向)よりもそれに直行する屈折率が高くなる性質をいい、下記Δnが負であることをいう。正の固有複屈折と負の固有複屈折は樹脂種に依存する。
Δn=n//-n⊥
//:延伸方向と同じ方向に偏光した直線偏光に対する屈折率
n⊥ :延伸方向と直交する方向に偏光した直線偏光に対する屈折率
【0029】
2.1.物性
第1の樹脂層は、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である。
【0030】
第1の樹脂層の面内位相差Ro(450nm)は、好ましくは50~1000nmであり、より好ましくは100~800nmであり、さらに好ましくは125~600nmである。
【0031】
第1の樹脂層の面内位相差Ro(550nm)は、好ましくは50~900nmであり、より好ましくは75~700nmであり、さらに好ましくは97~500nmである。
【0032】
第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの面内位相差Ro(550nm)は、好ましくは5~50nmであり、より好ましくは10~45nmであり、さらに好ましくは15~40nmである。
【0033】
第1の樹脂層の面内位相差Ro(650nm)は、好ましくは50~700nmであり、より好ましくは75~500nmであり、さらに好ましくは87~400nmである。
【0034】
第1の樹脂層の厚み方向の位相差Rth(550nm)は、好ましくは-900~-50nmであり、より好ましくは-700~-75nmであり、さらに好ましくは-500~-80nmである。
【0035】
第1の樹脂層の厚さ1μm当たりの厚み方向の位相差Rth(550nm)は、好ましくは-50~-3nmであり、より好ましくは-45~-5nmであり、さらに好ましくは-40~-7nmである。
【0036】
2.2.厚さ
第1の樹脂層の厚さは、好ましくは1~40μmであり、より好ましくは2~30μmであり、さらに好ましくは3~20μmであり、よりさらに好ましくは3~10μmである。
【0037】
2.3.樹脂A
樹脂Aは、第1の樹脂層が上記光学物性を有するものとなるものであれば特に限定されないが、例えば、フルオレン骨格を含む構成単位を有する樹脂が好ましい。フルオレン骨格を有する樹脂Aを用いることにより、フルオレン骨格の配向方向が樹脂Aの主鎖方向(配向方向)に対して直交し、これによりフィルムを延伸した場合に所定の面内位相差が得られる。
【0038】
また、フルオレン骨格を有することにより、樹脂Aの主鎖方向と直交する方向の屈折率が高く、負の固有複屈折を示す傾向にある。ここで、樹脂Aの主鎖方向とは、ポリマーフィルムを延伸した際における延伸方向となり、これと直交する方向とは、延伸方向と直交する方向となる。
【0039】
さらに、フルオレン骨格は、アリール化フルオレン骨格であることが好ましい。なお、本実施形態において「アリール化」とは、C-C単結合によって芳香族性炭化水素及びその誘導体を導入することをいう。芳香族性炭化水素は、例えば、ナフチル基などの多環芳香族炭化水素基であってもよい。
【0040】
このような樹脂Aとしては、特に限定されないが、例えば、フルオレンポリエステル、及びフルオレンポリカーボネートなどが挙げられる。
【0041】
フルオレンポリエステルは、特に限定されないが、例えば、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジカルボン酸成分と、任意のジオール成分との重合;任意のジカルボン酸成分と、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジオール成分との重合;あるいは、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジカルボン酸成分と、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジオール成分との重合によって、得ることができる。
【0042】
また、フルオレンポリカーボネートは、特に限定されないが、例えば、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジカーボネート成分と、任意のジオール成分とのエステル交換反応;任意のジカーボネート成分と、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジオール成分とのエステル交換反応;アリール化されていてもよいフルオレンを有するジカーボネート成分と、アリール化されていてもよいフルオレンを有するジオール成分とのエステル交換反応によって、得ることができる。
【0043】
ジカルボン酸成分とジオール成分とジカーボネート成分は、少なくともいずれかがアリール化されていてもよいフルオレンを有する化合物を含むものであれば、それぞれ、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
樹脂Aのガラス転移温度は、好ましくは90~190℃であり、より好ましくは100~180℃であり、さらに好ましくは110~170℃である。ガラス転移温度が90℃以上であることにより、樹脂Aの耐熱性がより向上する傾向にある。また、ガラス転移温度が190℃以下であることにより、樹脂Aの延伸性がより向上する傾向にある。ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0045】
樹脂Aの重量平均分子量は、好ましくは30000~200000であり、より好ましくは35000~150000であり、さらに好ましくは40000~100000である。重量平均分子量が上記範囲内であることにより、樹脂Aの分子鎖が長く、破断伸びや柔軟性などの機械的特性がより向上する傾向にあり、延伸性がより向上する傾向にある。なお、本実施形態において重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、ポリスチレン換算で測定することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法などにより測定できる。
【0046】
以下、樹脂Aを構成する各成分について詳説する。
【0047】
2.3.1.フルオレンポリエステル
樹脂Aは、後述する一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と、後述する一般式(2)で表されるジオール成分(A)、一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、を含むフルオレンポリエステルを含むことが好ましい。このようなフルオレンポリエステルを含むことにより、負の固有複屈折を持つ樹脂とすることができ、負の位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0048】
2.3.1.1.ジカルボン酸成分
フルオレンポリエステルを構成する単量体の1種であるジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式中、R1a及びR1bは、各々独立して、フェニル基又はナフチル基を示し、kは、各々独立して、0~4の整数を示し、X1は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【0049】
上記一般式(1)において、基R1a、R1bで表されるフェニル基又はナフチル基のフルオレン環上の置換位置は特に限定されないが、単量体の工業的な合成方法からは2-位又は/及び7-位に置換される。フェニル基はナフチル基より位相差発現性が小さく、位相差発現性の観点からはナフチル基が好ましい。ナフチル基は1-ナフチル基であっても2-ナフチル基であっても構わないが、2-ナフチル基の方が位相差発現性が大きく、位相差発現性の観点からは好ましい。
【0050】
アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分である、基R1a及びR1bがフェニル基であるフェニル基置換体と、基R1a及びR1bがナフチル基であるナフチル基置換体の混合したものを原料の単量体として用いて、フルオレンポリエステルを重合してもよいし、それぞれの単量体を単独で重合したフルオレンポリエステルを混合してもよい。また、基R1a及びR1bの一方がフェニル基であり他方がナフチル基であるジカルボン酸成分を用いてフルオレンポリエステルを重合してもよい。いずれの方法であっても位相差発現性を調整する目的には有効である。
【0051】
基R1a及びR1bの置換数kは0、すなわち無置換であってもよいが、位相差発現性の観点からは両方のkが1以上であり、フルオレンの両端にアリール基が置換したものが好ましい。このような観点から、置換数kは、好ましくは1~3の整数を示し、より好ましくは1を示す。なお、アリール化フルオレンを有するジカルボン酸成分において、2つあるkのうち少なくとも一方は1以上であるが、2つあるkのうち両方が1であることが好ましい。
【0052】
ジカルボン酸成分としては、アリール基を有しない無置換体のフルオレンジカルボン酸成分と、アリール基を有する置換体のフルオレンジカルボン酸成分とを混合したものを原料の単量体として用いて、フルオレンポリエステルを重合してもよいし、それぞれの単量体を単独で重合したフルオレンポリエステルを混合してもよい。いずれの方法であっても位相差発現性を調整する目的には有効である。
【0053】
上記一般式(1)において、X1で示されるC1-8アルキレン基としては、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-エチルエチレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などのC1-8アルキレン基が例示できる。このなかでも、好ましいアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などのC1-4アルキレン基)である。
【0054】
前記一般式(1)で表される代表的な化合物としては、特に限定されないが、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシC4-6アルキル)2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンが挙げられる。フルオレンジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0055】
このなかでも、好ましいフルオレンジカルボン酸成分としては、前記一般式(1)において、R1a及びR1bが2-ナフチル基であり、kが1であり、X1がエチレン基である9,9-ビス(2-カルボキシエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンが挙げられる。このようなジカルボン酸成分を用いることにより、位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0056】
なお、ジカルボン酸成分は、遊離のカルボン酸に限らず、前記ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、例えば、エステル[例えば、アルキルエステル[例えば、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、C1-4アルキルエステル、特にC1-2アルキルエステル)など]など]、酸ハライド(例えば、酸クロライドなど)、及び酸無水物なども含む。これらのジカルボン酸成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
また、フルオレンポリエステルにおいては、一般式(1)で表されるジカルボン酸成分と併用して、フルオレン環を有しないジカルボン酸成分を用いてもよい。
【0058】
フルオレンポリエステルに導入されるジカルボン酸成分のうち、kが1以上である一般式(1)で表されるジカルボン酸成分の割合は、好ましくは80~100モル%であり、より好ましくは90~100モル%であり、さらに好ましくは95~100モル%であり、特に好ましくは100モル%である。kが1以上である一般式(1)で表されるジカルボン酸成分、すなわちアリール化フルオレン環を有するジカルボン酸成分の割合が上記範囲内であることにより、優れた位相差発現性が発揮される傾向にある。
【0059】
2.3.1.2.ジカルボン酸成分の製造方法
前記一般式(1)で表されるジカルボン酸成分のアルキルエステルの代表例として下記一般式(8)で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNFDP-m)の製造方法について説明する。
【化6】
【0060】
下記反応式(9)にDNFDP-mの合成経路の1つを示す。合成経路は複数あり、これに限定されるものではない。
【化7】
【0061】
上記反応式(9)では、2,7-ジブロモフルオレンを出発原料とし、2-ナフチルボロン酸と反応(鈴木・宮浦クロスカップリング)させて、2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNF)を生成する。さらにDNFとアクリル酸メチルとの付加反応(マイケル付加)によりDNFDP-mを得る。
【0062】
1段目の鈴木・宮浦クロスカップリングは通常、塩基の存在下にパラジウム触媒を用いて臭素化した芳香族化合物とボロン酸基をもつ芳香族化合物とを反応させる。塩基としては、特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、フッ化カリウム、リン酸三カリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。このなかでも、通常、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩がよく利用される。また、塩基の使用割合は、2,7-ジブロモフルオレン1モルに対し、例えば、0.1~50モル程度であり、好ましくは1~25モルである。前記反応では、炭酸カリウムを用いることができる。
【0063】
パラジウム触媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム(0)、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリドなどが挙げられる。これらの触媒のうち、通常、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)がよく利用される。触媒の割合は、2,7-ジブロモフルオレン1モルに対し、金属換算で、例えば、0.01~0.1モル程度、好ましくは0.03~0.07モルである。前記反応では、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)を用いることができる。
【0064】
カップリング反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。前記反応では、溶媒としてトルエンを用いることができる。
【0065】
カップリング反応の反応温度は、例えば、50~200℃、好ましくは60~100℃である。前記反応では、70~80℃の反応温度である。
【0066】
反応終了後、必要により、反応混合物を慣用の分離精製方法により分離精製してもよい。前記反応では、水洗した後、晶析により精製することができる。
【0067】
2段目のマイケル付加反応は、塩基性触媒の存在下でフルオレンの9位の炭素が不飽和カルボン酸エステルのβ位に付加する反応である。1段目の反応で得られたDNFを溶媒に溶かした溶液にアクリル酸メチルを触媒とともに滴下して、50~60℃で反応が行われる。
【0068】
塩基性触媒としては、フルオレンアニオンを生成可能であれば特に限定されず、慣用の無機塩基や有機塩基を使用できる。無機塩基としては、例えば、金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物など)などが挙げられる。
【0069】
有機塩基としては、金属アルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド)、第4アンモニウム水酸化物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなど)などが例示できる。なお、前記水酸化トリメチルベンジルアンモニウムは、例えば、東京化成(株)から商品名「トリトンB」(水酸化トリメチルベンジルアンモニウムの40%メタノール溶液)などとして入手することもできる。DNFDP-mの合成にはトリトンBを使用することができる。
【0070】
前記マイケル付加反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、前記触媒に対して非反応性で、かつフルオレン化合物を溶解可能であれば特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。DNFDP-mの合成には、溶媒としてメチルイソブチルケトンを用いることができる。
【0071】
反応終了後、必要により、反応混合物を慣用の分離精製方法により分離精製してもよい。前記反応では、水洗した後、晶析により精製することができる。
【0072】
2.3.1.3.ジオール成分
フルオレンポリエステルを構成する単量体の1種であるジオール成分としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(2)で表されるジオール成分(A)、下記一般式(3)で表されるジオール成分(B)、及び下記一般式(4)で表されるジオール成分(C)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分を用いることが好ましい。以下、各ジオール成分について詳説する。
【0073】
2.3.1.3.1.ジオール成分(A)
フルオレンポリエステルを構成し得る単量体の1種であるジオール成分(A)は、下記一般式(2)で表すことができる。
【化8】
(式中、Zは、各々独立して、フェニレン基又はナフチレン基を示し、R2a及びR2bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、pは、各々独立して、0~4の整数を示し、R3は、各々独立して、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、シクロアルキル基、アラルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を示し、qは、各々独立して、0~2の整数を示し、R4は、各々独立して、C2-6アルキレン基を示し、rは、各々独立して、1以上の整数を示す。)
【0074】
前記一般式(2)において、基R2a及びR2bとしては、特に限定されないが、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基、(フェニル基などのC6-10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基(例えば、C1-8アルキル基、特にメチル基などのC1-4アルキル基)などが例示できる。基R2a及びR2bの種類は互いに同一又は異なっていてもよい。基R2a及びR2bの置換位置は、例えば、フルオレンの2-位、7-位、2-及び7-位などであってもよい。置換数pは、0~4(例えば、0~2)程度であってもよく、好ましくは0又は1、特に0である。
【0075】
なお、本実施形態において、「反応に不活性」とは、フルオレンポリエステルの重合反応に不活性であることを意味する。
【0076】
前記一般式(2)において、置換基R3は、特に限定されないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのC1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-8シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など);ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基などが例示できる。
【0077】
好ましい基R3としては、例えば、アルキル基(C1-6アルキル基、好ましくはC1-4アルキル基、特にメチル基)、アルコキシ基(C1-4アルコキシ基など)、シクロアルキル基(C5-8シクロアルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-12アリール基)などが挙げられる。
【0078】
置換数qは、例えば、0~4(例えば、0~3)であってもよく、好ましくは0~2(例えば、0又は1)であってもよい。
【0079】
前記一般式(2)において、基R4で表されるC2-6アルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基、好ましくはC2-4アルキレン基、さらに好ましくはC2-3アルキレン基が挙げられる。
【0080】
オキシアルキレン基(OR4)の数(付加モル数)rは、1以上であればよく、例えば、1~12(例えば、1~8)、好ましくは1~5(例えば、1~4)、さらに好ましくは1~3(例えば、1又は2)、特に1であってもよい。
【0081】
代表的なジオール成分(A)には、9,9―ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、9,9―ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0082】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、(i)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレン;(ii)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-t-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-t-ブチル-5-メチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシ-モノ又はジC1-4アルキルフェニル)フルオレン;(iii)9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC5-10シクロアルキルフェニル)フルオレン;(iv)9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC6-10アリールフェニル)フルオレンなど;上記化合物(ii)~(iv)において、rが2~5である化合物、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシ-モノ又はジC1-4アルキルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシC6-10アリールフェニル)フルオレンなどが含まれる。
【0083】
9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなど];rが2~5である化合物、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなどが含まれる。
【0084】
これらのジオール成分(A)は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に好ましいジオール成分(A)として、前記一般式(2)においてZがフェニレン基であり、p及びqが0であり、R4がエチレン基であり、rが1である9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを挙げることができる。
【0085】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(A)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは0~80モル%であり、より好ましくは0~50モル%であり、さらに好ましくは0~20モル%である。ジオール成分(A)の割合が0モル%以上であることにより、ガラス転移温度がより向上する傾向にある。また、ジオール成分(A)の割合が80モル%以下であることにより、フィルム成形性がより向上し、光弾性係数が低くなり、位相差発現性が大きくなる傾向にある。
【0086】
2.3.1.3.2.ジオール成分(B)
フルオレンポリエステルを構成し得る単量体の1種であるジオール成分(B)は、下記一般式(3)で表すことができる。
【化9】
(式中、R5a及びR5bは、各々独立して、反応に不活性な置換基を示し、mは、各々独立して、0~4の整数を示し、X2は、各々独立して、C1-8アルキレン基を示す。)
【0087】
前記一般式(3)において、基R5a及びR5b、mは、好ましい態様を含め、前記一般式(2)に記載のR2a及びR2b、pと同じである。また、X2は好ましい様態を含め、前記一般式(1)に記載のX1と同じである。
【0088】
前記一般式(3)で表される代表的な化合物としては、9,9-ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(2-ヒドロキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシC3-6アルキル)フルオレンなどが挙げられる。これらジオール成分(B)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。好ましいジオール成分(B)としては、9,9-ビス(ヒドロキシメチル)フルオレンが挙げられる。
【0089】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(B)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは0~80モル%であり、より好ましくは0~50モル%であり、さらに好ましくは0~20モル%である。ジオール成分(B)の割合が上記範囲内であることにより、負の位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0090】
2.3.1.3.3.ジオール成分(C)
フルオレンポリエステルを構成し得る単量体の1種であるジオール成分(C)は、下記一般式(4)で表すことができる。
【化10】
(式中、X3はC2-8アルキレン基を示す。)
【0091】
ジオール成分(C)としては、特に限定されないが、例えば、直鎖状又は分岐鎖状アルカンジオール(エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのC2-8アルカンジオール、好ましくはC2-6アルカンジオール、さらに好ましくはC2-4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2-4アルカンジオールなど)などが例示できる。ジオール成分(C)は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0092】
このなかでも、好ましいジオール成分(C)は、前記一般式(4)においてX3がエチレン基であるエチレングリコールである。このようなジオール成分(C)を用いることにより、延伸性がより向上する傾向にある。
【0093】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、一態様として、使用するジオール成分(C)の割合は、ジオール成分全体に対して、例えば、10モル%以上(例えば、30~100モル%)程度の範囲から選択でき、例えば、50モル%以上(例えば、60~99モル%)、好ましくは70モル%以上(例えば、80~98モル%)、さらに好ましくは90モル%以上(例えば、95~97モル%)程度であってもよく、特に、100モル%、すなわち、ジオール成分が、実質的にジオール成分(C)のみで構成されていてもよい。
【0094】
また、他の態様として、使用するジオール成分(C)の割合は、ジオール成分全体に対して、好ましくは5~50モル%であり、より好ましくは5~35モル%であり、さらに好ましくは15~25モル%である。
【0095】
使用するジカルボン酸成分の種類や割合にもよるが、上記のような割合でジオール成分(C)を用いることにより、位相差フィルムの柔軟性がより向上する傾向にある。
【0096】
2.3.1.4.フルオレンポリエステルの製造方法
フルオレンポリエステルである樹脂Aは、上記ジカルボン酸成分と上記ジオール成分との反応により調製できる。このようなフルオレンポリエステルの製造方法は特に限定されず、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製してもよく、重合反応では、エステル交換触媒、重縮合触媒、熱安定剤、光安定剤、重合調整剤などを使用してもよい。
【0097】
エステル交換触媒としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、コバルト、チタンなど)などの化合物(アルコキシド、有機酸塩、無機酸塩、金属酸化物など)などが挙げられる。このなかでも、酢酸マンガンや酢酸カルシウムなどを好適に用いることができる。
【0098】
重縮合触媒の種類は特に限定されず、前記アルカリ土類金属、遷移金属、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、周期表第14族金属(ゲルマニウムなど)、周期表第15族金属(アンチモンなど)などの化合物、より具体的には、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレンリコレートなどのアンチモン化合物、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は2種類以上を混合して使用してもよい。
【0099】
熱安定剤としては、特に限定されないが、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが例示できる。
【0100】
反応において、ジカルボン酸成分と、ジオール成分の使用割合は、前記と同様の範囲から選択でき、必要に応じて所定の成分を過剰に用いてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどのジオール成分は、フルオレンポリエステル中に導入される単位の割合よりも過剰に使用してもよい。また、反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
【0101】
反応は、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、減圧下(例えば、1×102~1×104Pa程度)で行うこともできる。反応温度は、重合法に応じて、例えば、溶融重合法における反応温度は、150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃程度であってもよい。
【0102】
2.3.2.フルオレンポリカーボネート
樹脂Aは、前述の後述する一般式(2)で表されるジオール成分(A)、及び一般式(3)で表されるジオール成分(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のジオール成分と、任意のジカーボネート成分と、を含むポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を含むことにより、負の固有複屈折を持つ樹脂とすることができ、負の位相差発現性がより向上する傾向にある。
【0103】
ジカーボネート成分としては、特に限定されないが、例えば、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0104】
また、フルオレンポリカーボネートの製造方法は、従来公知の方法であれば特に限定されないが、例えば、エステル交換触媒の存在下、上記ジオール成分と上記ジカーボネート成分をエステル交換反応することにより調製できる。
【0105】
2.4.他の添加剤
第1の樹脂層は、必要に応じて、種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、充填剤、発泡剤、消泡剤、滑剤、離型剤、易滑性付与剤が挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0106】
可塑剤としては、例えば、エステル類、フタル酸系化合物、エポキシ化合物、スルホンアミド類などが挙げられる。また、難燃剤としては、例えば、無機系難燃剤、有機系難燃剤、コロイド難燃物質などが挙げられる。
【0107】
安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。また、充填剤としては、例えば、酸化物系無機充填剤、非酸化物系無機充填剤、金属粉末などが挙げられる。
【0108】
離型剤としては、例えば、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸又はその金属塩、酸アミド類などが挙げられる。
【0109】
易滑性付与剤としては、例えば、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、カオリンなどの無機微粒子;(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂(架橋ポリスチレン樹脂など)などの有機微粒子などが挙げられる。
【0110】
これらの添加剤の割合は、樹脂A 100質量部に対して、例えば30質量部以下であり、好ましくは0.1~20質量部であり、さらに好ましくは1~10質量部である。
【0111】
3.第2の樹脂層
第2の樹脂層は、正の固有複屈折を有する層である。第2の樹脂層は樹脂Bを含み、必要に応じて、後述する他の添加剤などを含んでいてもよい。
【0112】
3.1.物性
第2の樹脂層は、波長450nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(450)、波長550nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(550)、および波長650nmの光における入射角0°での面内位相差Ro(650)が、Ro(450)>Ro(550)>Ro(650)である。
【0113】
第2の樹脂層の面内位相差Ro(450nm)は、好ましくは150~1000nmであり、より好ましくは200~800nmであり、さらに好ましくは240~600nmである。
【0114】
第2の樹脂層の面内位相差Ro(550nm)は、好ましくは150~1000nmであり、より好ましくは200~800nmであり、さらに好ましくは230~600nmである。
【0115】
第2の樹脂層の厚さ1μmあたりの面内位相差Ro(550nm)は、好ましくは10~50nmであり、より好ましくは10~45nmであり、さらに好ましくは10~40nmである。
【0116】
第2の樹脂層の面内位相差Ro(650nm)は、好ましくは150~1000nmであり、より好ましくは200~800nmであり、さらに好ましくは230~600nmである。
【0117】
第2の樹脂層の厚み方向の位相差Rth(550nm)は、好ましくは100~800nmであり、より好ましくは125~600nmであり、さらに好ましくは150~400nmである。
【0118】
第2の樹脂層の厚さ1μmあたりの厚み方向の位相差Rth(550nm)は、好ましくは5~30nmであり、より好ましくは7~25nmであり、さらに好ましくは10~20nmである。
【0119】
3.2.厚さ
第2の樹脂層の厚さは、好ましくは1~40μmであり、より好ましくは2~30μmであり、さらに好ましくは3~20μmである。
【0120】
3.3.樹脂B
樹脂Bは、第2の樹脂層が上記光学物性を有するものとなるものであれば特に限定されないが、例えば、例えばポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、トリアセチルセルロースフィルムやセルロースアセテートプロピオネートフィルムなどのセルロースエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0121】
これらの中でも延伸性に優れていることから特にポリカーボネート樹脂あるいはポリアミド樹脂がより好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂は製膜性と第1の樹脂層との密着性に優れ、ポリアミド樹脂は耐薬品性に優れるため、樹脂Aを含む第1の樹脂層を第2の樹脂層上に塗工する際に幅広い溶媒が使用可能である。
【0122】
樹脂Bは、主鎖に芳香族環を含んでいない樹脂であることが好ましい。主鎖に芳香族間を含んでいると、延伸した際に主鎖の芳香族環がフィルム面と平行に配向することで、nxおよびnyに対するnzの値が小さくなる傾向にあり、目的の特性が得られにくくなる
【0123】
4.層構成
本実施形態の位相差フィルムは、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の樹脂層と、正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の樹脂層と、を有するものであれば特に制限されず、その他の層を有していてもよい。
【0124】
位相差フィルムの層構成としては、特に限定されないが、例えば、第1の樹脂層と第2の樹脂層とからなる2層の積層体;両表面に第1の樹脂層を有し、その間に第2の樹脂層を有する3層の積層体;両表面に第2の樹脂層を有し、その間に第1の樹脂層を有する3層の積層体;第1の樹脂層と第2の樹脂層とその他の層とを有する3層以上の積層体が挙げられる。
【0125】
その他の層としては、離型フィルムが挙げられる。このような離型フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム等、いずれも公知のものを用いることができる。このなかでもポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースフィルムが好ましい。
【0126】
本実施形態の位相差フィルムは、直線偏光を円偏光、もしくは円偏光を直線偏光に変換する機能を有する1/4λ位相差フィルムであってもよい。1/4λ位相差フィルムとは、所定の波長λnmにおける面内位相差Ro(λ)=λ/4(または、この奇数倍)を示す位相差フィルムである。本実施形態の位相差フィルムは、化学構造のみならず、延伸温度や延伸速度などの延伸条件、または延伸後に得られる膜厚などを制御することで用途に応じた1/4λ位相差フィルムにすることができる。
【0127】
1/4λ位相差フィルムは、偏光子と積層することで、円偏光板としても利用される。円偏光板は、有機EL表示装置の視認側に設け、外光反射によるコントラストの低下を抑制するために用いられる。有機EL表示装置は、円偏光板と有機EL素子からなる有機ELパネルを備える。有機EL表示装置は、視認側から順に、偏光子、位相差フィルム、有機ELパネルの金属電極等で配置される。
【0128】
視認側から入射される光と表示装置の関係について説明する。視認側から入射される外光は、特定方向に偏光させた光のみを透過する偏光子によって直線偏光にされたのち、位相差フィルムによって円偏光へと変換される。円偏光された入射光は、有機ELパネルの金属電極等に到達し、光を反射する性質を有する金属電極等によって反射される。この反射によって、入射光は、円偏光状態が反転された反射光へと変換される。その後、円偏光状態が反転された反射光は、位相差フィルムを再透過し、入射時よりも90°傾いた直線偏光の反射光へと変換される。90°傾いた直線偏光の反射光は、0°のみ光を透過する偏光子に到達することで偏光子に吸収され、視認側への透過が遮断される。これらの一連のステップによって、視認側から入射された外光は、有機ELパネルの金属電極等によって反射されたとしても、視認側へ再透過することができない。この作用により、表示装置は、外光を反射させることなく、視認側からのコントラストを高く維持することができる。
【0129】
視認側から入射される外光は、一般的に可視光領域λ=400~780nmのいずれの波長の光も有していることが想定されるところ、位相差フィルムは、全可視光領域に対し所定の位相差を制御することによって、より高精度な光学補償をすることができる。例えば、1/4λ位相差フィルムにおいては、全可視光領域において、位相差λ/4(nm)となることが、位相差フィルムの理想とされる。
【0130】
ここで、波長分散性とは、波長と位相差との関係性をいうが、波長の増加に伴い、位相差の絶対値が増加する特性を逆波長分散性といい、逆に波長の増加に伴い、位相差の絶対値が減少する特性を順波長分散性という。例えば、全可視光領域において、位相差λ/4(nm)となる特性があれば、位相差フィルムが全可視光領域において逆波長分散性を有することになる。
【0131】
〔位相差フィルムの製造方法〕
本実施形態の位相差フィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層とを有する未延伸積層体を延伸して、延伸積層体を得る延伸工程を有し、必要に応じて、延伸工程の前に未延伸積層体を形成する積層工程をさらに有していてもよい。以下、各工程について詳説する。
【0132】
1.積層工程
積層工程は、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層とを有する未延伸積層体を形成する工程である。未延伸積層体の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、共押出成形法、コーティング成形法、押出ラミネート成形法などが挙げられる。
【0133】
なお、第1の未延伸樹脂層及び第2の未延伸樹脂層は、後述する延伸工程において延伸し、層内の樹脂が配向することにより、第1の樹脂層及び第2の樹脂層となる。
【0134】
共押出成形法では、例えば、樹脂Aを含む組成物と樹脂Bを含む組成物を個別に押し出し機で溶融押出してフィードブロックで合流させてTダイでフィルム状に共押出成形する。これにより、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層とが積層された未延伸積層体を得ることができる。
【0135】
コーティング成形法では、第1の未延伸樹脂層上に樹脂Bを含む塗工液を塗工し、乾燥により溶媒を揮発させて第2の未延伸樹脂層を形成することにより、又は、第2の未延伸樹脂層上に樹脂Aを含む塗工液を塗工し、乾燥により溶媒を揮発させて第1の未延伸樹脂層を形成することにより、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層とが積層された未延伸積層体を得ることができる。
【0136】
押出ラミネート成形法では、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層とを別々に製膜し、これらをロールで挟み込んで多層フィルムに成形することにより、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層とが積層された未延伸積層体を得ることができる。
【0137】
なお、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層のそれぞれの製膜方法としては、特に限定されないが、例えば、キャスティング法(又は溶液キャスト法、溶液流延法)、エキストルージョン法(インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出法)、カレンダー法などが挙げられる。このなかでも生産性に優れるだけでなく、残留溶媒による光学特性の低下を防止できる観点から、Tダイ法などの溶融押出法が好ましい。
【0138】
第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層の厚さはそれぞれ、好ましくは1~40μmであり、より好ましくは2~30μmであり、さらに好ましくは3~20μmであり、よりさらに好ましくは3~10μmである。
【0139】
このなかでも、製造効率の観点及びフィルム中に溶媒等の揮発性成分を残留させない観点からは共押出成形法が好ましい。但し、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層の界面接着性の観点から、共押出成形法は使用できる樹脂が制限されることがある。また、樹脂の劣化抑制、膜厚の均一性及び異物除去の観点からはコーティング成形法が好ましい。但し、コーティング成形法は、樹脂の溶解性から使用できる溶剤が制限されることがある。
【0140】
共押出成形法の1種である共押出Tダイ法としては、フィードブロック方式、及び、マルチマニホールド方式が挙げられるが、各層の厚さのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。共押出成形法を用いて積層フィルムを製造する場合、押し出される樹脂の溶融温度は、好ましくはTg+80℃以上、より好ましくはTg+100℃以上であり、好ましくはTg+180℃以下、より好ましくはTg+150℃以下である。なお、この溶融温度は、例えば共押出Tダイ法においては、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度を表す。押し出される樹脂の溶融温度が、前記範囲の下限値以上である場合、樹脂の流動性を十分に高めて成形性を良好にでき、また、上限値以下である場合、樹脂の劣化を抑制できる。
【0141】
共押出成形法では、通常、ダイスリップから押し出されたフィルム状の溶融樹脂を冷却ロールに密着させて冷却し、硬化させる。この際、溶融樹脂を冷却ロールに密着させる方法としては、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
【0142】
コーティング成形法において、第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施してもよい。
【0143】
コーティング成形法において、樹脂A又はBを含む塗工液を構成する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン系溶媒;シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン等のシクロアルカン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン含有溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0144】
塗工液における樹脂の濃度は、塗工に適した粘度を得る観点から、好ましくは1質量%~50質量%である。
【0145】
塗工液の塗工方法としては、特に限定されないが、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0146】
また、塗工液の乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥などの乾燥方法が挙げられる。
【0147】
2.延伸工程
延伸工程は、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層とを有する未延伸積層体を延伸して、延伸積層体を得る工程である。なお、延伸積層体はそのまま位相差フィルムとして用いてもよいし、その他の工程をさらに経て位相差フィルムとして用いてもよい。延伸方法としては、特に限定されないが、例えば、一軸延伸法又は二軸延伸法が挙げられる。
【0148】
2.1.一軸延伸法
一軸延伸法は、固定端一軸延伸であっても自由端一軸延伸であってもよい。このなかでも、ネックインが少なく、物性値の調整が容易である点から、固定端一軸延伸が好ましい。また、一軸延伸法における延伸方向は、未延伸積層体を長手方向、幅方向、又は幅方向に対して45°±15°の方向に延伸のいずれであってもよい。このなかでも、未延伸積層体を幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する斜め延伸が好ましい。なお、ここで、幅方向とは、長尺な未延伸積層体の短辺方向をいい、長手方向とは長尺な未延伸積層体の長辺方向をいう。
【0149】
偏光子と位相差フィルムが積層された円偏光板は、一般的に、偏光子が光を吸収する方向と、位相差フィルムが光に位相差を生じさせる方向を斜めになるように設計されることが多い。この偏光子は、長手方向に光を吸収する方向をもつように製造されることが多いところ、位相差フィルムが光に位相差を生じさせる方向が長手もしくは幅方向である場合、偏光子と位相差フィルムを積層する場合、位相差フィルムを斜め方向にカットしなければならなくなる。
【0150】
しかしながら、位相差フィルムを斜め方向にカットすると、位相差フィルムの端部が多く発生し大量生産時において甚大なロスとなる。
【0151】
そこで、円偏光板の一部として用いられる位相差フィルムは、幅方向に対して、45°±15°の方向に延伸し、その方向に位相差を発現させることで、偏光子との積層工程における端部のロスを大幅に削減できる。これによって、斜め方向に延伸される位相差フィルムは、長尺の連続生産をも可能にもなるため、生産性が格段に向上する。
【0152】
特に、本実施形態の位相差フィルムは、位相差の発現性が高く薄型であるため、上述した液晶層を備える位相差フィルムなどと比較してコストが安く、斜め延伸の連続生産をすることで、多工程が必要な液晶よりも製造コストを低下することが可能となる。
【0153】
また、延伸手法は特に限定されず、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法、テンター延伸方法などの慣用の方法であってもよい。
【0154】
一軸延伸の場合、延伸温度は、所望の位相差によっても異なってくるが、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃であり、好ましくは(Tg-5)~(Tg+10)℃であり、より好ましくは(Tg-3)~(Tg+5)℃であり、さらに好ましくは(Tg+2)~(Tg+5)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃であり、好ましくは110~145℃であり、より好ましくは120~140℃であり、さらに好ましくは129~133℃である。延伸温度が、前述の範囲であると、所望の位相差をより発現しやすくなるだけでなく、フィルムをより均一に延伸でき、破断をより抑制することができる。
【0155】
一軸延伸の場合、延伸倍率は、所望の位相差によっても異なってくるが、例えば、1.1~5倍、好ましくは1.3~3.5倍、より好ましくは1.5~2.5倍である。延伸倍率が上記下限値以上であると、所望の位相差をより得やすくなる。また、延伸倍率が上記上限値以下であると、位相差が高くなったりフィルムが破断したりするのをより抑制することができる。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0156】
一軸延伸の場合における延伸速度は、例えば、1~100mm/分、好ましくは20~80mm/分、さらに好ましくは50~70mm/分程度であってもよい。延伸速度が上記下限値以上であると、所望の位相差をより得やすくなる。
【0157】
2.2.二軸延伸法
二軸延伸法は、逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸のいずれであってもよい。逐次二軸延伸は通常、ロール間延伸による縦延伸を行った後、テンター延伸による横延伸を行う。ロール間延伸ではネックインがあり、ロールとの接触による傷の転写などの欠点がある。一方で、同時二軸延伸ではフィルム両端にクリップ間のネックインが生じるなどの欠点があるが、面内位相差をより小さくするためには同時二軸延伸が好ましい。また、二軸延伸法では、未延伸積層体を長手方向及び幅方向に延伸する。
【0158】
二軸延伸の場合、延伸温度は、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃であり、好ましくは(Tg-5)~(Tg+10)℃であり、より好ましくは(Tg-3)~(Tg+5)℃であり、さらに好ましくは(Tg+2)~(Tg+5)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃であり、好ましくは110~145℃であり、より好ましくは120~140℃であり、さらに好ましくは129~133℃である。延伸温度が、前述の範囲にあると、所望の位相差をより発現しやすくなるだけでなく、フィルムをより均一に延伸でき、破断をより抑制することができる。
【0159】
二軸延伸の場合、延伸倍率は、所望の位相差によっても異なってくるが、面内位相差を小さくするには縦横で等倍とするのがよい。延伸倍率は、例えば、1.1~5×1.1~5倍、好ましくは1.3~3.5×1.3~3.5倍、さらに好ましくは1.5~2.5×1.5~2.5倍程度であってもよい。延伸倍率が上記下限値以上であると、所望の位相差が得られやすくなる。延伸倍率が上記上限値以下であると、位相差が高くなったりフィルムが破断したりするのをより抑制できる。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、靱性があるためフィルムが破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0160】
二軸延伸の場合、延伸速度は、面内位相差を小さくするには縦横で等速にするのがよい。延伸速度は、例えば、1~100mm/分であり、好ましくは20~80mm/分であり、さらに好ましくは50~70mm/分である。延伸速度が上記下限値以上であることにより、得られるフィルムの位相差がより大きくなる傾向にある。また、延伸速度が上記上限値以下であることにより、フィルムの破断がより抑制される傾向にある。本実施形態の位相差フィルムは、延伸性が良く、靱性があるためフィルムが破断し難く、位相差発現性が高いため、薄膜であっても所望の位相差が得られる。
【0161】
なお、位相差フィルムは、本発明の効果を害しない限り、必要に応じて、他のフィルム(又はコーティング層)を積層してもよい。例えば、位相差フィルム表面に、界面活性剤や離型剤、微粒子を含有したポリマー層をコーティングして、易滑層を形成してもよい。
【0162】
2.3.位相差フィルムの延伸装置
本実施形態の位相差フィルムの延伸装置は、上記未延伸積層体の幅方向の両端側に対に設けられたガイドレールと、未延伸積層体の幅方向の端部を把持しながらガイドレールに沿って移動することにより、未延伸積層体を前記幅方向又は長手方向へ延伸する把持子と、該把持子を制御する制御手段と、を備える。
【0163】
図2に、本実施形態の位相差フィルムの延伸装置の一部を表す斜視図を示す。図2において、延伸装置200は、ガイドレール210と、ガイドレール210に沿って移動する複数の把持子220と、未延伸積層体ロール230とが示されている。未延伸積層体ロール230から未延伸積層体240が長手方向D2に送り出されるとともに、未延伸積層体の幅方向D1の両端が把持子220により順次把持され、未延伸積層体240を把持した把持子220が幅方向外側に湾曲したガイドレール210に沿って方向D2側へ移動することにより、未延伸積層体240が幅方向D1へと延伸される。
【0164】
また、本実施形態の位相差フィルムの延伸装置ではこれに加えて、長手方向側から未延伸積層体240に対して張力をかけることにより未延伸積層体240を長手方向D2に延伸するようにしてもよい。この場合、長手方向下流側で延伸積層体を巻き取ることによって長手方向D2に張力をかけるようにしてもよい。
【0165】
また、図2には示していないが、ガイドレール210の形状によっては、幅方向D1の延伸に代えて、幅方向に対して45°±15°の方向に延伸する斜め延伸を実施することもできる。具体的には、図2では、未延伸積層体240の繰り出し方向と巻き取り方向とが一致しているが、これが交差するように、未延伸積層体の幅手方向の一端部側を他端部側よりも先行して搬送するように構成されたガイドレールを用いることで、斜め延伸を実施することができる。
【0166】
制御手段250は、ガイドレール210に沿って移動する把持子220の速度等を制御するものであり、把持子220の制御によって、上記所定の物性等を有する位相差フィルムを作製するものである。より具体的には、制御手段は、把持子の移動を制御することにより、得られる位相差フィルムにおいて、Nz係数が、-1.0~1.0となり、入射角0°の波長450nmの光における面内位相差Ro(450)、入射角0°の波長550nmの光における面内位相差Ro(550)、及び、入射角0°の波長650nmの光における面内位相差Ro(650)が、Ro(450)<Ro(550)<Ro(650)となるように把持子を制御する。
【0167】
〔位相差フィルムの製造システム〕
本実施形態の位相差フィルムの製造システムは、負の固有複屈折を有する樹脂Aを含む第1の未延伸樹脂層と正の固有複屈折を有する樹脂Bを含む第2の未延伸樹脂層とを有する未延伸積層体を作製する積層手段と、上記延伸装置と、を備える。
【0168】
1.積層手段
積層手段は、未延伸積層体を作製するものであれば特に限定されないが、例えば、上述の積層工程で例示した、共押出成形法、コーティング成形法、押出ラミネート成形法を実施する手段を挙げることができる。
【0169】
共押出成形法では、例えば、樹脂Aを含む組成物と樹脂Bを含む組成物を個別に押し出し機で溶融押出してフィードブロックで合流させてTダイでフィルム状に共押出成形する押出装置を積層手段として用いることができる。
【0170】
コーティング成形法では、第1の未延伸樹脂層上に樹脂Bを含む塗工液を塗工し、又は、第2の未延伸樹脂層上に樹脂Aを含む塗工液を塗工する塗工手段と、塗工した塗工液を乾燥させる乾燥手段を積層手段として用いることができる。
【0171】
押出ラミネート成形法では、別々に製膜した第1の未延伸樹脂層と第2の未延伸樹脂層をラミネートするロールを備えるラミネート装置を積層手段として用いることができる。
【0172】
2.延伸装置
延伸装置としては、上述の延伸装置を用いることができる。
【0173】
〔生産システム〕
本実施形態の生産システムは、上記位相差フィルムに粘着剤層又は接着剤層を塗布する工程と、粘着剤層又は接着剤層を偏光子と貼合する工程と、粘着剤層又は接着剤層に熱もしくは活性エネルギー線を照射する工程のうち、いずれか一つ又は複数の工程を有する偏光板製造ラインを含む。
【0174】
〔偏光板〕
次に、図3A及び4Bを参照して、本実施形態の偏光板について説明する。この偏光板は、上記の位相差フィルムを含むものである。図3A及び4Bは、偏光板の一態様を概略的に図示した断面図である。以下、接着剤層21を有する例を述べるが、粘着剤層と読み替えてもよい。
【0175】
図3Aに示す偏光板20は、位相差フィルム10と、偏光子22と、偏光子保護フィルム24とが積層されたものである。同図に示すように、位相差フィルム10と偏光子22との間に接着剤層21を設けてもよいし、偏光子22と偏光子保護フィルム24との間に接着剤層23を設けてもよい。
【0176】
図3Bに示す偏光板30は、位相差フィルム10と、偏光子保護フィルム32と、偏光子34と、偏光子保護フィルム36とが積層されたものである。位相差フィルム10と偏光子保護フィルム32との間に接着剤層31を設けてもよいし、偏光子34と偏光子保護フィルム32,36との間に接着剤層33,35を設けてもよい。
【0177】
位相差フィルム10は、偏光子22との密着性を向上させるため、コロナ処理やプラズマ処理、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強塩基水溶液による表面改質処理に供してもよい。これらの接着剤層の形成や表面改質処理は、製膜工程を経た後に行ってもよく、延伸工程を経た後に行ってもよい。
【0178】
偏光子22としては、従来公知のものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコールフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理及び延伸処理が施されたもの;ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。また、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子なども挙げられる。
【0179】
偏光子保護フィルム24としては、偏光子22との接着性が高く、光学的に透明な材料であれば特に限定されないが、例えば、トリアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルムなどのセルロースエステル系フィルム、変性アクリル樹脂系フィルム、超高複屈折ポリエチレンテレフタレート樹脂系フィルム、シクロオレフィン系フィルムなどが挙げられる。
【0180】
さらに、本実施形態の偏光板は、上記位相差フィルムの視認側に、1/4λ位相差フィルムをさらに含んでいてもよい。このように本実施形態の位相差フィルムにさらに1/4λ位相差フィルムを積層した構成とすることで、有機EL表示装置又は液晶表示装置のバックライト(以下、「発光側」という)からの光を円偏光させることができる。
【0181】
例えば、一般的に表示装置の視認側に直線偏光させる偏光板があるところ、視認者がサングラスをしている場合、そのサングラスと偏光板の偏光方向が直交すると、視認できない問題、いわゆるブラックアウトが発生することがある。これを回避するために、発光側からの光が、偏光板を通過し直線偏光にされた後、円偏光機能を有する上記1/4λ位相差フィルムを通過させることで、視認者側が視認する光が円偏光になり、ブラックアウトが生じないようにすることができる。このような機能は、サングラスリーダブルともいう。
【0182】
位相差フィルムの視認側に積層される上記1/4λ位相差フィルムは、上記のとおり有機EL表示装置における反射光を偏光板に吸収させるために、入射光および反射光を円偏光させる機能を目的とするものとは別に、発光側からの光を円偏光させてブラックアウトを回避させる目的で備えられるものである。
【0183】
上記のように1/4λ位相差フィルムには複数の異なる機能があるため、混同を生じないように、有機EL表示装置における反射光を偏光板に吸収させるために、入射光および反射光を円偏光させる機能を目的とするものを「第1の1/4λ位相差フィルム」といい、発光側からの光を円偏光させてブラックアウトを回避させる機能を目的とするものを「第2の1/4λ位相差フィルム」といってもよい。
【0184】
〔画像表示装置〕
次に、図4A及び5Bを参照して、本実施形態の画像表示装置について説明する。本実施形態の画像表示装置は、上記偏光板を備えるものであれば、特に限定されないが、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置及び液晶表示装置が挙げられる。また、画像表示装置は、それが単体として最終製品として市場に流通する装置に限らず、後述する情報処理装置、例えばスマートフォン等の一部であってもよい。図4Aは、本実施形態の一態様の有機EL表示装置を概略的に図示した断面図であり、図4Bは、本実施形態の一態様の液晶表示装置を概略的に図示した断面図である。
【0185】
図4Aに示すように、有機EL表示装置40は、有機EL表示パネル41と、本実施形態の位相差フィルム10を備える偏光板20と、前面板43とをこの順に備える。有機EL表示装置40では、1/4λ位相差フィルムを備える偏光板20を用いることにより外光の反射が抑制され、色付きのより少ない黒を表現できる。
【0186】
また、有機EL表示装置40は、必要に応じて、タッチセンサ42など他の構成を備えてもよい。タッチセンサ42を装備することにより、有機EL表示装置40は、表示装置としての機能のほか、情報の入力インターフェースとしても機能する。有機EL表示装置40を構成する各層は、粘着剤又は粘着剤を用いて各々接合されていてもよい。
【0187】
図4Bに示すように、液晶表示装置50は、光源51と、偏光板30と、液晶パネル52と、偏光板30と、前面板53をこの順に備える。光源51は、液晶パネルの直下に光源を均等に配置した直下型方式でもよいし、反射板と導光板を具備したエッジライト方式でもよい。さらに、図4Bにおいては前面板53を示したが、液晶表示装置50は前面板53を有していなくてもよい。さらに、液晶表示装置50は、タッチセンサ(不図示)をさらに有していてもよい。
【0188】
なお、画像表示装置の画面は、四角形に限定されるものではなく、円形、楕円形、または三角形や五角形のような多角形の形状を有していてもよい。さらに、画像表示装置は可撓性を有することができ、反ったり、曲がったり、巻き取られたり、折り畳まれたりするというように、その形状が変更されてもよい。例えば、図5に示すように、画像表示装置には、画像表示装置収納部62にロール状に収納された画像表示装置61を引き出して用いることのできるローラブルディスプレイが含まれる。
【0189】
〔情報処理装置〕
次に、図6を参照して、本実施形態の情報処理装置について説明する。同図は、本実施形態の情報処理装置60を概略的に示す斜視図である。情報処理装置60は、上記偏光板を有する上記画像表示装置を備える。情報処理装置60は、画像表示装置61を備えたスマートフォンである。画像表示装置61には、例えば、上述の有機EL表示装置40又は液晶表示装置50の構成を採用することができる。
【0190】
このような情報処理装置60としては、スマートフォンのほか、特に限定されないが、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末などの情報処理可能な各種の装置が挙げられる。薄型化や小型化が望まれるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等において、本実施形態の偏光板の薄さが特に活かされる。また、屋外屋内など様々な場所へ持ち運んで使用されるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等においては、本実施形態の偏光板が有する逆波長分散性がより活かされる。
【0191】
さらに、情報処理装置60としては、屈折可能な画像表示装置61を有し折りたたむことのできるフォルダブルスマートフォン(図7)、ロール状に収納された画像表示装置61を引き出して用いることのできるローラブルスマートフォン(図8)等の端末も挙げられる。
【0192】
また、上記画像表示装置61は、情報処理装置の入出力インターフェースとしての機能を有してもよく、情報処理装置の各種処理結果を出力する出力インターフェースや、情報処理装置に対して操作を行うタッチパネルなどの入力インターフェースとしての機能を有してもよい。情報処理装置のその他の構成として、特に限定されないが、典型的には、プロセッサ、有線又は無線の通信を制御する通信インターフェース、画像表示装置以外の入出力インターフェース、メモリ、ストレージ及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バスなどを備えることができる。
【実施例
【0193】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。評価方法及び原料を以下に示す。
【0194】
[評価方法]
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製「DSC 6220」)を用い、アルミパンに試料を入れ、JIS K 7121に準拠して、30℃から200℃の範囲でTgを測定した。
【0195】
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィ(東ソー(株)製、「HLC-8120GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、重量平均分子量Mwを測定した。
【0196】
(Ro、Rth、NZ係数)
リタデーション測定装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃で、延伸フィルムのRo(450)、Ro(550)、Ro(650)、Rth(550)及びnx、ny、nzを測定し、下記式(1)よりNz係数を算出した。
(nx-nz)/(nx-ny) (1)
【0197】
(平均厚み)
測厚計((株)ミツトヨ製「マイクロメーター」)を用いて、フィルムの長手方向に対して、チャック間を等間隔に3点測定し、その平均値を算出した。
【0198】
[原料]
(合成例1:FDPm:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン(又はフルオレン-9,9-ジプロピオン酸)のジメチルエステル])
1,4-ジオキサン200mL、フルオレン33.2g(0.2モル)を反応器に入れ、撹拌することによってフルオレンを溶解させた後、10℃に冷却した状態で水酸化トリメチルベンジルアンモニウムの40重量%メタノール溶液(東京化成(株)製「トリトンB40」)3.0mLを滴下し、30分撹拌した。次に、アクリル酸メチル37.9g(0.44モル)を加えて、約3時間撹拌した。反応終了後、トルエン200mL、0.5N塩酸50mLを加えて洗浄した。水層を除去した後、有機層を蒸留水30mLで3回洗浄した。溶媒を留去することにより、9,9-ビス(プロピオン酸メチル)フルオレン[9,9-ビス{2-(メトキシカルボニル)エチル}フルオレン]84.0g(収率99%)で得た。さらに、70℃のイソプロピルアルコール300mLに溶解させた後、10℃まで冷却することにより再結晶させた結果、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレンを得た。
【0199】
(合成例2:DNFDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン)
反応器内に2,7-ジブロモフルオレン192.3g(0.39mol)、2-ナフチルボロン酸200g(1.2mol)、ジメトキシエタン4.3L、および2M炭酸ナトリウム水溶液1Lを仕込み、窒素気流下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[またはPd(PPh3)4]22.4g(19.4mmol)添加し、内温71~78℃にて5時間加熱還流して反応させた。室温まで冷却後、トルエン2.0Lおよびイオン交換水500mLを加え、5回分液抽出して洗浄した。有機層は濃橙色から褐色に変化した。不溶物をろ過、濃縮し、褐色の粗結晶305gを得た。得られた粗結晶を酢酸エチル1.5kgとイソプロピルアルコール(IPA)300gとの混合液にて加熱溶解させた後、氷水で10℃以下まで冷却し、1時間撹拌して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥させ、灰褐色結晶130gを得た。得られた灰褐色結晶をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル担体、展開溶剤 クロロホルム:酢酸エチル(体積比)=4:1)で精製した後、メタノールで再結晶し、減圧乾燥させることにより、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(DNFDP-m)116g(白色結晶、収率54.9%)、HPLC純度99.4面積%)を得た。
【0200】
以下の説明における略称は、それぞれ下記のものを示す。
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製。
EG:エチレングリコール。
PA-1:ポリアミド、トロガミドCX7323、ダイセル・エボニック(株)製。
PA-2:ポリアミド、RILSAN CLEAR G 120、アルケマ(株)製
PS:ポリスチレン、PSJ-ポリスチレン GPPS HF-77、PSジャパン(株)製
【0201】
[製造例1]
DNFDP-m0.65モル、FDP-m0.35、BPEF0.3モル、EG2.70モルに、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10-4モル及び酢酸カルシウム・1水和物8×10-4モルを加え、撹拌しながら徐々に加熱溶融した。230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート14×10-4モル、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで、徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂のペレットを調製した。
【0202】
得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の65モル%がDNFDP-m由来、35モル%がFDP-m由来であり、導入されたジオール成分の30モル%がBPEF由来、70モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは132℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂をPEs―1と称する。
【0203】
[製造例2]
原材料をDNFDP-m0.75モル、FDP-m0.25モル、BPEF0.20モル、EG2.80としたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の75モル%がDNFDP-m由来、25モル%がFDP-m由来であり、導入されたジオール成分の20モル%がBPEF由来、80モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは127℃、重量平均分子量Mwは90,000であった。本樹脂を樹脂PEs―2と称する。
【0204】
[製造例3]
原材料をFDPm1.00モル、BPEF0.80モル、EG2.20モルにとしたこと以外は、製造例1と同様の方法でポリエステル樹脂を調製した。得られたペレットを、1H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂に導入されたジカルボン酸成分の100モル%がFDP-m由来であり、導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来、20モル%がEG由来であった。得られたポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは126℃、重量平均分子量Mwは43,600であった。本樹脂を樹脂PEs―3と称する。
【0205】
[製造例4]
イソソルビド(東京化成工業(株)製)0.70モル、シクロヘキサンジメタノール(東京化成工業(株)製)0.30モル、ジフェニルカーボネート(東京化成工業(株)製)1.00モルに、エステル交換触媒として酢酸カルシウム1水和物1.3×10-6を加え、十分に窒素置換して、酸素濃度0.0005~0.001体積%に調節した。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPaにして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。
【0206】
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルを重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼及び前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温及び減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。
【0207】
その後、20分かけて内温230℃、圧力0.13kPa以下にして、所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、カーボネート共重合体樹脂のペレットを調製した。本樹脂を樹脂PCと称する。
【0208】
[実施例1~9、比較例1~2]
(製膜工程)
下記表に記載されている第2の樹脂層の材料である樹脂ペレットを、180℃で一晩熱風乾燥した後、Tダイ押出成形機を用いて押出成形することで製膜した。なお、シリンダー温度は、280℃ に設定した。製膜後のフィルム厚みは押出機のスクリュー回転数を調整して制御した。
【0209】
(積層工程)
下記表1に記載されている、第1樹脂層の材料である各樹脂ペレットをそれぞれテトラヒドロフランで30%の濃度になるよう溶解させ、これらを前記製膜工程で得られた第2の樹脂層となるフィルム上にアプリケーターを用いて塗工し、80℃で8時間乾燥することで、未延伸積層フィルムを作製した。
【0210】
(延伸工程)
前記積層工程で得られた各種未延伸積層フィルムを、それぞれテンター延伸装置を用いて表1に記載の延伸条件で自由端もしくは固定端一軸延伸した。得られた延伸フィルムの各種物性測定を行い、その結果を表1に示す。
【0211】


【表1】
【0212】
表1から明らかなように、負の固有複屈折を有する第1の樹脂層と正の固有複屈折を有する第2の樹脂層からなる積層フィルムを好適な条件下で延伸することで、波長分散性とNz係数に優れ、1/4λ位相差フィルムを得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0213】
本発明の位相差フィルムは、画像表示装置(例えば、反射型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、有機EL表示装置など)に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0214】
10…位相差フィルム、11…第1の樹脂層、12…第2の樹脂層、20,30…偏光板、21,23,31,33,35…接着剤層、22,34…偏光子、24,32,36…偏光子保護フィルム、40…有機EL表示装置、41…有機EL表示パネル、42…タッチセンサ、43…前面板、50…液晶表示装置、51…光源、52…液晶パネル、53…前面板、60…情報処理装置、61…画像表示装置、62…画像表示装置収納部、200…延伸装置、210…ガイドレール、220…把持子、230…未延伸積層体ロール、240…未延伸積層体、250…制御手段。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8