(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】刃先交換式ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20231027BHJP
B23B 51/02 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
B23B51/00 P
B23B51/02 S
B23B51/00 T
(21)【出願番号】P 2021516030
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2020016545
(87)【国際公開番号】W WO2020218110
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019082227
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】松本 博明
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/014367(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B51/00-51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の切れ刃を有するヘッド部品と、シャンクを備えるボディ部品と、を有する刃先交換式ドリルにおいて、
前記ヘッド部品には、前記ヘッド部品の軸方向に垂直な座面と、前記切れ刃に隣接する逃げ面よりも前記刃先交換式ドリルの回転方向後方側に位置する垂直壁面部と、前記垂直壁面部よりも前記
刃先交換式ドリルの回転方向後方側かつ中心側に位置する曲面部と、が設けられていて、
前記曲面部は、前記ヘッド部品の先端側に向かって傾斜している前方曲面部と、前記前方曲面部よりも前記ヘッド部品の後端側に位置して前記ヘッド部品の中心軸に沿って平行に形成されている後方曲面部と、を有しており、
前記ボディ部品の一端側には、前記ボディ部品の径方向かつ円周方向に形成された座面と、前記座面の円周縁部より軸方向に延出されて互いに対向している2本のコラムと、が設け
られており、前記各コラムには前記ボディ部品の円周方向を向いた外周壁面部と前記ボディ部品の中心軸を向いた内周壁面部を有していて、
前記ヘッド部品の垂直壁面部と前記ボディ部品の外周壁面部が接触し、前記ヘッド部品の後方曲面部と前記ボディ部品の内周壁面部が接触し、かつ前記ヘッド部品の座面と前記ボディ部品の座面が互いに接触することで前記ヘッド部品と前記ボディ部品が互いに締結されて
おり、さらに前記ヘッド部品の前方曲面部と前記ボディ部品の内周壁面部は互いに離間した状態であることを特徴とする刃先交換式ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切れ刃を有するヘッド部品とシャンクを備えたボディ部品を互いに締結することで一体化されているドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
切れ刃部品とシャンク部品が物理的に一体化した通常のドリル(ソリッドドリル)とは異なり、切れ刃部品とシャンク部品が別個の部品として形成されて、各部品同士を締結することで一体化された、いわゆる刃先交換式ドリルは、切れ刃の摩耗度合い等に応じて切れ刃部品のみを交換できる。
【0003】
刃先交換式ドリルは、ヘッド部品とボディ部品の締結形態は、ねじなどの締結部品を用いてヘッド部品をボディ部品に固定する形態(ねじ止め締結式)および締結部品を用いないでヘッド部品とボディ部品の嵌め合いのみで両部品を締結する形態(自己締結式)の2種類が存在する。例えば、ねじ止め締結式のドリルは特許文献1、自己締結式のドリルは特許文献2にそれぞれ開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されているヘッド部品(図中の切削ヘッド12)の端部には軸を設けており、この軸がボディ部品に設けられた座面の孔部に嵌まり込む構造になっている。この軸には平滑な面が施されており、その面をボディ部品の外周からねじ止めすることでヘッド部品が固定される。
【0005】
これに対して、特許文献2に開示されている自己締結式のドリルは、ヘッド部品とボディ部品の締結が両部品の弾性変形による弾性力によって維持されている。つまり、自己締結式のドリルにはボディ部品に対してヘッド部品を嵌めこむ際に大きな抵抗が発生する。したがって、ヘッド部品の着脱がねじ止め締結式のドリルの場合に比べて、多大な回転力(トルク)を要するものの、特許文献1に開示されているねじ止め締結式のドリルと異なり、ねじ等の締結部品を有しないので部品の点数が少ない点が特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6399389号公報
【文献】特許第5519694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および2に開示されているドリルは、いずれもヘッド部品の下部に軸が設けられているので、ボディ部品に軸を挿入する穴を設ける必要がある。そのためにヘッド部品とボディ部品の締結部(ドリルの中心部)における肉厚が十分に確保できないという問題がある。特に、特許文献2に開示されているドリルではボディ部品の中央部にヘッド部品の軸を挿入する穴があるために、ヘッド部品をボディ部品に取り付ける際に設置する領域(平滑な面)が十分に確保できない。
【0008】
その結果、ヘッド部品をボディ部品へ取り付ける場合にヘッド部品が不安定な姿勢の状態のままでヘッド部品を回転してボディ部品に締結する可能性がある。また、ヘッド部品とボディ部品の締結が完了されているか否かは、作業者の技量に頼る部分が大きい。もし、ヘッド部品とボディ部品が完全に締結されていなければ、ドリルの使用中にヘッド部品がボディ部品から外れる可能性もある。
【0009】
そこで、本発明はヘッド部品とボディ部品の締結において、作業者の技量に依らずにヘッド部品をボディ部品に対して容易かつ正確に締結できる刃先交換式ドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の刃先交換式ドリルは、切れ刃を有するヘッド部品と、シャンクを備えるボディ部品を最小限の構成要素とする。ヘッド部品には、そのヘッド部品の軸方向に垂直な座面,切れ刃に隣接する逃げ面よりも当該ドリルの回転方向後方側に位置する垂直壁面部,その垂直壁面部に隣接して当該ドリルの回転方向後方側かつ中心側に位置する曲面部,をそれぞれ設ける。その曲面部は、ヘッド部品の先端側に傾斜している前方曲面部,その前方曲面部よりもヘッド部品の後端に位置する後方曲面部に分かれている。
【0011】
また、ボディ部品の一端側(シャンクの反対側)には、ボディ部品の径方向かつ円周方向の全周にわたり形成された座面,軸方向に延出されて互いに対向している2本のコラムをそれぞれ設ける。また、それらの各コラムにはボディ部品の円周方向を向いている外周壁面部とボディ部品の中心軸を向いている内周壁面部を有する。
【0012】
そして、ヘッド部品の垂直壁面部とボディ部品の外周壁面部が互いに接触し、ヘッド部品の後方曲面部とボディ部品の内周壁面部が互いに接触し、かつヘッド部品の座面とボディ部品の座面が互いに接触することヘッド部品とボディ部品が互いに締結されている刃先交換式ドリルとする。
【0013】
さらに、ヘッド部品の前方曲面部とボディ部品の各コラムにおける内周壁面部は互いに離間し、ヘッド部品の後方曲面部とボディ部品の内周壁面部が接触した状態でヘッド部品とボディ部品が互いに締結されている刃先交換式ドリルでも構わない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の刃先交換式ドリルは、構成部品であるヘッド部品およびボディ部品にヘッド部品中央の凸部およびボディ部品中央の凹部を中心にして放射状に座面が設けられているので、ヘッド部品を安定した姿勢でボディ部品の座面に接触して取り付けることができる。したがって、作業者の技量に依らないでヘッド部品をボディ部品に対して正確に設置し、回転することで容易に締結できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】
図1に示す刃先交換式ドリル100先端部の拡大図である。
【
図5】
図2に示す刃先交換式ドリル100先端部の拡大図である。
【
図6】刃先交換式ドリル100先端部の上方側斜視図である。
【
図7】刃先交換式ドリル100先端部の下方側斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の刃先交換式ドリルの実施形態について、図面を用いて説明する。本発明の一実施形態である刃先交換式ドリル100の正面図を
図1,右側面図を
図2,平面図を
図3に示す。また、
図1の刃先交換式ドリル100の先端部における拡大正面図を
図4、
図2の刃先交換式ドリル100の先端部における拡大右側面図を
図5,刃先交換式ドリル100の上方側(先端側)からの斜視図を
図6,刃先交換式ドリル100の下方側(後端側:シャンク側)からの斜視図を
図7にそれぞれ示す。
【0017】
本発明の刃先交換式ドリル(以下、「ドリル」という)100は、
図1ないし
図3に示す様に切れ刃を有するヘッド部品10と軸状のボディ部品50のみで互いに締結することで形成される、いわゆる自己締結式のドリルである。つまり、ドリル100はねじなどの部品を用いることなく、
図4ないし
図7に示すようにヘッド部品10とボディ部品50の各形態同士が互いに嵌まり合うことで締結される。以下、ドリルを構成するヘッド部品およびボディ部品の構造について説明する。
【0018】
本発明の実施形態に係るドリル100を構成するヘッド部品10の正面図を
図8,右側面図を
図9,平面図を
図10,底面図を
図11にそれぞれ示す。また、ヘッド部品10の先端側からの斜視図を
図12、ヘッド部品10の後端側からの斜視図を
図13に示す。本発明のドリルの一部を形成し、実質的に切削加工を担うヘッド部品10は、
図10および
図12に示すように2枚の切れ刃11,11を有して、後述するボディ部品の一端(シャンクの反対側)に着脱可能な形態で取り付けられる。
【0019】
図8などに示すヘッド部品10には、一般的なドリルのように2枚の切れ刃11,11の他に、それに連なる逃げ面12,12およびすくい面13,13がそれぞれ連続して形成されている。各切れ刃11,11の反回転方向側(
図10に示す矢印の逆方向:時計周り)には
図10および
図12に示す様にシンニング面15,15とそれに連なる溝14,14が形成されている。
【0020】
ヘッド部品10には
図9,10および12に示す様に曲面部30と垂直壁面部20が形成されている。曲面部30はシンニング面15および溝14の両面に隣接した曲面であり、垂直壁面部20は曲面部30よりも回転方向側(
図10に示す矢印の方向:反時計周り)にある面である。これらの曲面部30および垂直壁面部20は、
図5および
図6に示す様にヘッド部品10が後述するボディ部品50と締結する際にボディ部品50の一部と接触する部位となる。
【0021】
曲面部30は、
図9および
図12に示す様に前方曲面部31と後方曲面部32から形成されており、互いに隣接して配置されている。前方曲面部31は、後方曲面部32よりもヘッド部品10の先端側(ドリルの進行側)に位置して、ドリルの先端側に向かって傾斜した形状を呈している。後方曲面部32は、前方曲面部31よりもヘッド部品10の後端側(ドリルのシャンク側)に位置して、
図13に示す様に座面16に隣接した曲面であり、
図10および
図12に示すようにドリルの軸(
図8および
図9に示すヘッド部品10の中心軸O1)方向に沿って平行に形成されている。また、後方曲面部32は、後述するボディ部品のコラムの面と接触することでヘッド部品10とボディ部品を緊密に締結する役割を果たす。
【0022】
垂直壁面部20は、
図8および
図9に示す様にヘッド部品10の中心軸O1と平行に形成される面であり、切れ刃11の反回転方向側に形成される。
図5および
図6に示すように後述のボディ部品を構成するコラムの面と接触することでドリルが回転することで発生するトルクを受ける(回転する力をヘッド部品10に伝達する)役割を果たす。
【0023】
また、ヘッド部品10の一端には、
図11および
図13に示す様に凸部17が形成されており、後述するボディ部品との締結時には、この凸部17がボディ部品の座面の中央に設けられた凹部に嵌まり込む。この凸部17の周囲には、ヘッド部品10の軸方向に対して垂直になるよう座面16が凸部17を取り囲むようにヘッド部品10の径方向および円周方向に一体的に形成されている。ヘッド部品10の座面16は、ボディ部品との締結時にボディ部品の座面と互いに接触する。
【0024】
次に、ボディ部品について説明する。ドリル100を構成するボディ部品50の正面図を
図14、右側面図を
図15、平面図を
図16にそれぞれ示す。
図14にボディ部品50の示す先端部の拡大図を
図17、
図15に示すボディ部品50の先端部の拡大図を
図18、ボディ部品50の先端側からの斜視図を
図19、ボディ部品50の後端側からの斜視図を
図20にそれぞれ示す。
【0025】
図14ないし
図16に示す様に、ボディ部品50の一端には工作機械に取り付けるシャンク51、他端(シャンク51の反対側)には軸方向に延びる2本のコラム52,53、切削加工時に発生する切り屑を排出する溝54を有している。この溝54は、
図6および
図7に示す様にボディ部品とヘッド部品を互いに締結した際に、ヘッド部品の溝14とつながって1条の溝となるように形成されている。2本のコラム52,53は
図16ないし
図20に示す様にボディ部品50の径方向において最も外周側に位置しており、かつ互いに対向して配置されている。
【0026】
また、各コラム52,53の間には
図16および
図19に示す様にボディ部品50の軸方向に垂直な座面56が設けられている。この座面56は、凹部57を中心にしてボディ部品50の径方向および円周方向に凹部57を取り囲むように一体的に形成されている。ボディ部品50は、
図4ないし
図7に示す様にヘッド部品との締結時にヘッド部品の座面がボディ部品50の座面56に接触する。これにより、ヘッド部品をボディ部品へ取り付ける場合にヘッド部品が安定な姿勢のままで、ヘッド部品を(刃先交換式ドリルの逆回転方向側へ)回転してボディ部品に締結できる。
【0027】
さらに、
図16および
図19に示す様にボディ部品50の座面56の中央には凹部57がある。そのため、ヘッド部品との締結時にヘッド部品の座面がボディ部品50の座面56に接触した際に、ヘッド部品の凸部がヘッド部品の径方向における位置決めの機能を果たし、ボディ部品50の凹部57へ容易に嵌まり込むことで、ボディ部品50におけるヘッド部品の安定的な姿勢を維持できる。
【0028】
ボディ部品50の各コラム52,53には、ヘッド部品と締結する際にヘッド部品と互いに接触する2組(2種類)の面が存在する。
図16ないし
図20に示すように、1組目の面はボディ部品50の中心軸O2に平行であり、ボディ部品50の円周方向を向いて各々の面が異なる向きに形成された外周壁面部62,63である。2組目の面は、ボディ部品50の中心軸O2に向いて互いに対向して形成された曲面状の内周壁面部72,73である。この内周壁面部72,73の一部には、ヘッド部品とボディ部品を締結した際にヘッド部品の前方曲面部に沿った傾斜面が形成されている。
【0029】
ヘッド部品とボディ部品50が互いに締結する際には、ボディ部品50の外周壁面部62,63はヘッド部品の垂直壁面部と接触し、ボディ部品50の内周壁面部72,73はヘッド部品の後方曲面部と接触する。なお、ヘッド部品とボディ部品を互いに締結した状態においては、ヘッド部品の前方曲面部31,31とボディ部品50の内周壁面部72,73は互いに離間していることが好ましい。つまり、ヘッド部品とボディ部品を互いに締結させた刃先交換式ドリルでは、ヘッド部品の前方曲面部とボディ部品の内周壁面部に隙間を設ける。
【0030】
これは、ヘッド部品を回転させてボディ部品に取り付ける際の部品間の接触抵抗を低減するためである。また、高速回転しているドリルの使用時において、ヘッド部品には軸方向の慣性力(推進力)が発生する。ヘッド部品の前方曲面部とボディ部品の内周壁面部の一部は互いに傾斜形状であるので、ヘッド部品がドリルの進行方向に沿った外力を受けてもボディ部品から離れるほど前方曲面部と内周壁面部は更に密着することで両面間に摩擦力が働く。その結果、ヘッド部品がボディ部品から抜け出
ることを防止する。
【0031】
また、本発明のドリルには潤滑剤を吐出する油孔(オイルホール)を任意に設けることもできる。例えば、
図6および
図19に示す様にボディ部品50のコラム52,53において、ヘッド部品10を締結した際に切れ刃の方向に潤滑剤が吐出するように油孔99,99を設けてもよい。
【0032】
なお、本発明を構成するヘッド部品の前方曲面部は、一実施形態として
図8や
図12等に示す様にヘッド部品10の軸方向の断面で見た場合に傾きが一定の割合で変化する、1次直線的な形状を示している。その他の形状として、ヘッド部品10の軸方向における傾きが数次曲線的、指数関数的、放物線的に変化する、いわゆる湾曲した形状(軸方向の断面視で曲面となる形状)であっても構わない。
【0033】
また、本発明を構成するヘッド部品およびボディ部品の各座面の形状は、
図11,
図13,
図16,
図19等に示す様に凸部17および凹部57を中心にして、凸部17および凹部57の周囲からヘッド部品およびボディ部品の外周縁部まで広がった形状を示しているが、少なくとも凸部17および凹部57の全周囲に形成されていれば良い。
【符号の説明】
【0034】
10 ヘッド部品
11 切れ刃
12 逃げ面
13 すくい面
14,54 溝
15 シンニング面
16,56 座面
17 凸部
20 垂直壁面部
30 曲面部
31 前方曲面部
32 後方曲面部
50 ボディ部品
51 シャンク
52,53 コラム
57 凹部
62,63 外周壁面部
72,73 内周壁面部
99 油孔(オイルホール)
100 刃先交換式ドリル
O1,O2 中心軸