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  • 特許-非水電解質二次電池用負極 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20231027BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231027BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231027BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231027BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 B
H01M4/62 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021508252
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006121
(87)【国際公開番号】W WO2020195334
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019064823
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】風間 諒
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102651476(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109301248(CN,A)
【文献】特開2014-139910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質と、負極添加剤と、を含む負極合剤層を備え、
前記負極活物質は、炭素材料と、Si含有材料と、を含み、
前記負極合剤層における前記Si含有材料の含有量は、1質量%以上であり、
前記負極添加剤は、水酸基を有する芳香族有機酸のホルムアルデヒド縮合物および/または水酸基を有する芳香族有機酸塩のホルムアルデヒド縮合物を含む、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記ホルムアルデヒド縮合物の重量平均分子量が、1000以上、100万以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記水酸基を有する芳香族有機酸が、ヒドロキシスルホン酸である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記水酸基を有する芳香族有機酸塩が、ヒドロキシスルホン酸塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記ヒドロキシスルホン酸塩が、ヒドロキシスルホン酸ナトリウムおよびヒドロキシスルホン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極合剤層における前記ホルムアルデヒド縮合物の含有量が、0.01質量%以上、10質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
前記負極合剤層に含まれる前記Si含有材料の含有量が、1質量%~30質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項8】
前記Si含有材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相に分散しているSi粒子と、を含み、
前記リチウムイオン導電相は、ケイ素酸化物相、シリケート相および炭素相からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項9】
前記シリケート相は、長周期型周期表の第1族元素および第2族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項10】
前記負極合剤層が、0.01質量%以上、1.0質量%以下の含有量で、カーボンナノチューブを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料とSi含有材料とを含む非水電解質二次電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン(Si))含有材料の利用が期待されている。
【0003】
一方、特許文献1は、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な活物質(A)と、有機化合物(B)と、を含有する非水系二次電池負極活物質であって、有機化合物(B)が非水系電解液に難溶であり、π共役構造を有し、且つ25℃における電気伝導率が0.1S/cm以下である、非水系二次電池負極用活物質を提案している。有機化合物(B)は、活物質(A)と非水系電解液との反応を抑制し、ガスの発生を効果的に抑制するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013-122115号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭素材料とSi含有材料とを併用する場合、充放電に伴うSi含有材料の体積変化が大きいため、炭素材料とSi含有材料との導電経路が減少し、負極合剤層の導電性が低下する傾向がある。中でも負極合剤層におけるSi含有材料の含有量が1質量%以上になると、導電経路の減少が顕著となり、初回の充放電効率が低下しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、負極活物質と、負極添加剤と、を含む負極合剤層を備え、前記負極活物質は、炭素材料と、Si含有材料と、を含み、前記負極合剤層における前記Si含有材料の含有量は、1質量%以上であり、前記負極添加剤は、水酸基を有する芳香族有機酸および/または水酸基を有する芳香族有機酸塩のホルムアルデヒド縮合物を含む、非水電解質二次電池用負極に関する。
【発明の効果】
【0007】
非水電解質二次電池の初回の充放電効率の低下が抑制される。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部切欠き概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池用負極は、負極活物質と負極添加剤とを含む負極合剤層を備える。負極活物質とは、炭素材料とSi含有材料とを含む。負極合剤層におけるSi含有材料の含有量は1質量%以上である。Si含有材料の含有量を1質量%以上とすることで、負極の理論容量の顕著な向上が期待できる。
【0010】
負極合剤層におけるSi含有材料の含有量は1質量%以上であればよいが、負極の理論容量を向上させる観点からは、Si含有材料の含有量が高いほど望ましく、5質量%以上、もしくは10質量%以上、更には15質量%以上としてもよい。ただし、Si含有材料は充放電に伴うSi含有材料の体積変化が大きいため、単独で負極活物質として使用することが困難である。
【0011】
炭素材料とSi含有材料とを併用することで、負極合剤層の全体的な体積変化を大きく緩和することができる。負極合剤層におけるSi含有材料の含有量は、例えば15質量%以下が望ましい。すなわち、負極合剤層に含まれるSi含有材料の含有量は、1質量%以上、15質量%以下が望ましく、5質量%以上、10質量%以下がより望ましい。
【0012】
負極合剤層で炭素材料とSi含有材料とを併用する場合、Si含有材料が増加すると、初回の充放電効率が低下しやすい。これは、充電によって膨張したSi含有材料が放電によって収縮するときにSi含有材料の周囲に空隙が形成されるためと考えられる。空隙の形成により、Si含有材料と、その周囲の炭素材料との接点(つまり、炭素材料とSi含有材料との導電経路)が減少し、Si含有材料の一部が孤立することがある。孤立したSi含有材料は放電が困難である。
【0013】
(ホルムアルデヒド縮合物)
負極合剤層に水酸基を有する芳香族有機酸および/または水酸基を有する芳香族有機酸塩(以下、水酸基を有する芳香族有機酸(塩)とも表記する。)のホルムアルデヒド縮合物(以下、単にホルムアルデヒド縮合物とも称する。)を含有させる場合、炭素材料とSi含有材料との導電経路の減少が抑制される。ホルムアルデヒド縮合物とは、一般的に芳香族化合物の芳香環同士をメチレン基で架橋した構造を有する。ここでは、ホルムアルデヒド縮合物は、水酸基を有する芳香族有機酸(塩)をメチレン基で架橋した構造を有する。水酸基は、芳香環に結合するフェノール性水酸基であることが好ましい。芳香環に結合する水酸基の数は限定されないが、1または2個が好ましい。
【0014】
ホルムアルデヒド縮合物は、水酸基を有する芳香族有機酸および水酸基を有する芳香族有機酸塩のいずれか一方を含む縮合物であってもよく、水酸基を有する芳香族有機酸と水酸基を有する芳香族有機酸塩との両方を含む縮合物であってもよい。
【0015】
ホルムアルデヒド縮合物において、有機酸基および/または有機酸塩基は、ホルムアルデヒド縮合物の負極スラリー内での溶解性の向上や、電気化学安定性の向上に寄与している。また、芳香環は、π共役構造を有するため、炭素材料との親和性が高く、負極活物質として使用される黒鉛等の炭素材料や、導電助剤としての炭素材料と強く結合することが可能である。また、芳香環に結合する水酸基は、Si含有材料の表面に存在する水酸基(例えばシラノール基)と水素結合を形成できるため、Si含有材料との親和性が高く、Si含有材料と強く結合することが可能である。以上のように、ホルムアルデヒド縮合物には、炭素材料とSi含有材料とを繋げ、両者の結着性を補佐する作用がある。よって、初回充放電後も炭素材料とSi含有材料との導電経路が維持されやすく、充放電効率の低下が抑制される。また、初回の充放電効率だけでなく、充放電サイクルの初期においては容量維持率が大きく改善する。
【0016】
なお、有機酸基および/または有機酸塩基は、強力な電子求引性のO=S=O基、C=O基等を有するため、Si含有材料の表面水酸基との水素結合にほとんど寄与しないと考えられる。
【0017】
有機酸とは、水中でプロトンを放出してアニオンを生じ得るイオン性基を有する有機化合物をいい、イオン性基の例として、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。また、有機酸塩とは、上記有機酸のイオン性基のプロトンを金属カチオンに置換した構造を有する塩であり、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。ただし、イオン性基は電池内ではアニオンとして存在していてもよい。有機酸の中では、溶解性、安定性等に優れる点で、スルホン酸が好ましく、有機酸塩はスルホン酸塩等が好ましい。
【0018】
芳香族有機酸が有する芳香環としては、具体的には、フラン、ピロール、イミダゾール、チオフェン、ホスホール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゼン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、ベンゾチオフェン、ベンゾホスホール、ベンゾイミダゾール、プリン、インダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、ナフタレン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、アントラセン、ピレン等の骨格を有する芳香環が挙げられる。中でも入手の容易性を考慮すると、ベンゼン、ナフタレン等の骨格を有する芳香環が好ましい。
【0019】
水酸基を有する芳香族有機酸およびその塩(以下、各有機酸(塩)等とも称する。)の具体例としては、フェノールスルホン酸(塩)、サリチル酸(塩)、フタル酸(塩)、クレゾールスルホン酸(塩)、ナフトールスルホン酸(塩)、カテコールスルホン酸(塩)、ベンジルアルコールスルホン酸(塩)、アミノナフトールスルホン酸(塩)、リグニンスルホン酸(塩)等が挙げられる。また、塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。中でも、入手が容易で安価な点で、フェノールスルホン酸塩(例えば、フェノールスルホン酸Na、フェノールスルホン酸Li等)が好ましく、ホルムアルデヒド縮合物を構成する芳香族化合物の単位の10モル%以上、更には30モル%以上(例えば50モル%以上)が、フェノールスルホン酸ナトリウムおよびフェノールスルホン酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。ホルムアルデヒド縮合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ホルムアルデヒド縮合物は、芳香族化合物の単位として、水酸基を有する芳香族有機酸(塩)以外の芳香族化合物を含んでもよい。すなわち、ホルムアルデヒド縮合物は、水酸基を有する芳香族有機酸(塩)と、上記イオン性基および水酸基の少なくとも一方を有さない芳香族化合物との共重合体であってもよい。ただし、ホルムアルデヒド縮合物を構成する芳香族化合物の20モル%以上、更には50モル%以上(例えば80モル%以上)が水酸基を有する芳香族有機酸(塩)であることが望ましい。
【0021】
なお、イオン性基および水酸基の少なくとも一方を有さない芳香族化合物として、アニリン、アニリンスルホン酸、安息香酸、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、クメン等が挙げられる。
【0022】
ホルムアルデヒド縮合物の重量平均分子量は、例えば、1000以上、100万以下であればよく、2000以上、50万以下でもよく、2500以上、30万以下(例えば20万以下)でもよい。なお、重量平均分子量とは、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、あるいは、溶媒が水、ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)のGPCにより測定される標準ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量である。
【0023】
なお、ホルムアルデヒド縮合物の好適な一例であるフェノールスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物の構造式を以下に示す。
【0024】
【化1】
【0025】
負極合剤層におけるホルムアルデヒド縮合物の含有量は、負極の高容量化と初回の充放電効率とのバランスを考慮すると、例えば、0.01質量%以上、10質量%以下であればよく、5質量%以上、7質量%以下であってもよい。
【0026】
(負極活物質)
負極活物質とは、負極に含まれ、かつ電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料をいう。ここでは、負極活物質は、炭素材料とSi含有材料とを含み、それぞれが電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能である。
【0027】
Si含有材料としては、例えば、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相に分散しているSi粒子とを含む。リチウムイオン導電相は、ケイ素酸化物相、シリケート相および炭素相からなる群より選択される少なくとも1種であり得る。具体的には、Si含有材料として、例えば、以下の第1複合材料、第2複合材料および第3複合材料からなる群より選択される少なくとも1種を用い得る。
【0028】
<第1複合材料>
第1複合材料は、ケイ素酸化物相と、ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子とを含む。第1複合材料は、Si含有材料の中では安定性が高く、体積変化も小さい点で優れている。高い安定性は、ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子の粒子径が小さく、深い充電が進行しにくいためと考えられる。また、ケイ素酸化物相は、リチウムイオンを不可逆的にトラップするサイトが比較的多く、Si含有材料の中では不可逆容量が大きくなる傾向がある。換言すれば、第1複合材料は、第2複合材料よりも大きな不可逆容量を有し得る。ケイ素酸化物相によるリチウムイオンのトラップは、第1複合材料の構造の安定性を高めるとともに、体積変化の抑制にも寄与していると考えられる。
【0029】
第1複合材料は、例えば、ケイ素酸化物を、アルゴン等の不活性ガスを有する非酸化性雰囲気中で加熱し、不均化反応を行うことで得ることができる。不均化反応では、Si微結晶がケイ素酸化物相中に均一に生成し得る。不均化反応により生成するSi粒子のサイズは小さく、例えば、平均粒径を100nm未満とすることができ、5nm~50nmの範囲とすることもできる。ケイ素酸化物相の主成分(例えば95~100質量%)は二酸化ケイ素であり得る。すなわち、第1複合材料は、SiO相と、SiO相内に分散している第1Si粒子とを含み得る。この場合、第1複合材料は、全体として、一般式SiOで表すことができる。x値の範囲は、0<x<2であればよいが、好ましくは0.9≦x≦1.1であってもよく、x=1でもよい。
【0030】
第1複合材料の平均粒径は、1~20μmであればよく、5~12μmが好ましい。上記粒径範囲では、充放電に伴うSi含有材料の体積変化による応力を緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。
【0031】
<第2複合材料>
第2複合材料は、シリケート相と、シリケート相内に分散している第2Si粒子とを含む。
【0032】
シリケート相は、例えば、長周期型周期表の第1族元素および第2族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含めばよい。長周期型周期表の第1族元素および長周期型周期表の第2族元素としては、例えば、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用い得る。その他の元素としてアルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ランタン(La)、リン(P)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)などを含んでも良い。中でも、不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、リチウムを含むシリケート相(以下、リチウムシリケート相とも称する。)が好ましい。すなわち、第2複合材料は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散している第2Si粒子とを含んでもよい。リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散している第2Si粒子とを含む第2複合材料を、以下、LSXとも称する。
【0033】
リチウムシリケート相は、リチウム(Li)と、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含む酸化物相であればよく、他の元素を含んでもよい。リチウムシリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2より大きく、4未満である。この場合、安定性およびリチウムイオン伝導性の面で有利である。好ましくは、O/Siは、2より大きく、3未満である。リチウムシリケート相におけるSiに対するLiの原子比:Li/Siは、例えば、0より大きく、4未満である。リチウムシリケート相に含まれ得るLi、SiおよびO以外の元素としては、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0034】
リチウムシリケート相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<2)で表される組成を有し得る。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、zは、0<z<1の関係を満たすことが好ましく、z=1/2がより好ましい。
【0035】
<第3複合材料>
第3複合材料は、炭素相と、炭素相内に分散している第3Si粒子とを含む(以下、第3複合材料をSi-C材料とも称する。)。
【0036】
炭素相は、例えば、結晶性の低い無定形炭素(すなわちアモルファス炭素)で構成され得る。無定形炭素は、例えばハードカーボンでもよく、ソフトカーボンでもよく、それ以外でもよい。無定形炭素は、例えば、炭素源を不活性雰囲気下で焼結し、得られた焼結体を粉砕すれば得ることができる。Si-C材料は、例えば、炭素源とSi粒子とを混合し、ボールミル等の攪拌機で混合物を破砕しながら攪拌し、その後、混合物を不活性雰囲気中で焼成すれば得ることができる。炭素源としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン、セルロース、スクロースなどの糖類や水溶性樹脂等を用いてもよい。炭素源とSi粒子とを混合する際には、例えば、炭素源とSi粒子をアルコールなどの分散媒中に分散させてもよい。
【0037】
第2複合材料に含まれる第2Si粒子の含有量および第3複合材料に含まれる第3Si粒子の含有量は、それぞれ独立に、例えば、40重量%以上、80重量%以下であればよい。これにより、電池の高容量化とサイクル特性の向上を両立しやすくなる。製造方法が限定される第1複合材料と異なり、第2複合材料および第3複合材料では、第2Si粒子および第3Si粒子の含有量を任意に変化させ得るため、高容量負極の設計が容易である。第1複合材料と、第2および/または第3複合材料とを併用するとともに、これらの負極合剤層における分布を制御することで、Siの利用率が高められる場合でも、良好なサイクル特性と高容量とを両立し得るようになる。
【0038】
第2および第3複合材料は、不可逆容量が小さい点で優れている。シリケート相および炭素相は、リチウムイオンを不可逆的にトラップするサイトが少ないためである。第2および/または第3複合材料を用いることで、優れた充放電効率が得られるようになる。特に充放電の初期にその効果が顕著である。
【0039】
第2および第3Si粒子の平均粒径は、それぞれ独立に、例えば、500nm以下であり、400nm以下であってもよく、200nm以下であってもよい。第2Si粒子が、このように大きな平均粒径を有することで、第2および第3複合材料の容量を容易に高めることができるようになる。一方、500nm以下であれば、充放電時の第2および第3Si粒子の体積変化が比較的小さくなり、第2および第3複合材料の構造安定性が向上する。ここで、第2および第3Si粒子の平均粒径は、少なくとも初回の充電を経過後の値である。
【0040】
シリケート相および/または炭素相内に分散しているSi粒子は、通常は、複数の結晶子で構成される。Si粒子の結晶子サイズは、例えば30nm以下が好ましい。この場合、充放電に伴うSi粒子の膨張収縮による体積変化を極力小さくできるため、サイクル特性が更に高められる。例えば、Si粒子の収縮時にSi粒子の周囲に空隙が形成され、Si粒子とその周囲との接点が減少することによるSi粒子の孤立が抑制され、充放電効率の低下が抑制される。Si粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば5nm以上である。結晶子サイズは、10nm以上、30nm以下でもよく、15nm以上、25nm以下でもよい。
【0041】
第2および第3複合材料の平均粒径は、それぞれ独立に、1~20μmであればよく、5~12μmであってもよい。上記粒径範囲では、充放電に伴うSi含有材料の体積変化による応力を緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。
【0042】
各Si含有材料(各複合材料)に含まれるSi粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
【0043】
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA-400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
【0044】
各Si含有材料(各複合材料)に含まれるSi粒子の平均粒径は、Si含有材料の断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真から測定し得る。具体的には、Si粒子の平均粒径は、任意の100個の各Si粒子の最大径を平均して求められる。
【0045】
各Si粒子の結晶子サイズは、Si粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0046】
各Si含有材料(各複合材料)の平均粒径は、レーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0047】
なお、第2複合材料の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料断面の反射電子像を得、第2複合材料の断面を観察する。オージェ電子分光(AES)分析装置を用いて、観察された第2複合材料について元素の定性定量分析を行えばよい(加速電圧10kV、ビーム電流10nA)。
【0048】
例えばLi2zSiO2+zで表されるLSXであれば、得られたリチウム(Li)含有量と酸素(O)の含有量から、2zと(2+z)の比を求めればよい。
【0049】
なお、上記の試料の断面観察や分析では、Liの拡散を防ぐために、試料の固定にはカーボン試料台を用いればよい。試料断面を変質させないためには、試料を大気に曝すことなく保持搬送するトランスファーベッセルを使用すればよい。
【0050】
Si含有材料は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を具備してもよい。中でもリチウムイオン導電相が電子伝導性に乏しいシリケート相であるLSX材料は、導電性材料でLSX材料の表面を被覆して導電性を高めることが望ましい。
【0051】
<炭素材料>
炭素材料は、Si含有材料に比べ、充放電時の膨張および収縮の度合いが小さいため、Si含有材料と併用することで電池のサイクル特性を向上させやすい。負極活物質中の炭素材料(リチウムイオン導電相としての炭素相を除く。)の含有量は、例えば、85質量%以上、99質量%以下であればよい。すなわち、負極活物質中のSi含有材料の含有量は、1質量%以上、15質量%以下であってもよい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立しやすくなる。
【0052】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)等が例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
負極合剤層に含まれる炭素材料の質量Wcの負極合剤層に含まれるSi含有材料の質量Wsに対する比:Wc/Wsは、例えば、9.5~99であればよく、6.3~99であってもよい。なお、第3複合材料の炭素相は、炭素材料の質量Wcに含めない。
【0054】
次に、本発明の実施形態に係る二次電池について詳述する。二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、非水電解質とを備える。
【0055】
[負極]
負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む。負極は、負極集電体と負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、例えば、負極活物質を含む負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0056】
負極合剤は、必須成分として、負極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電助剤、増粘剤等を含むことができる。
【0057】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等が例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、例えば、1~50μmであり、5~20μmであってもよい。
【0058】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)等のゴム状材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する。)、金属繊維、フッ化カーボン、金属粉末、酸化亜鉛やチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー、酸化チタン等の導電性金属酸化物、フェニレン誘導体等の有機導電性材料などが例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
導電助剤の中でもCNTは、Si含有材料と併用する導電助剤として好適である。CNTは、繊維状であるため、充電によって膨張したSi含有材料が放電によって収縮するときにSi含有材料の周囲に空隙が形成された場合でも、Si含有材料と炭素材料との接点を確保するのに有効である。また、ホルムアルデヒド縮合物は、CNTおよび負極活物質の双方との親和性が高いため、CNTを用いることで、負極合剤層中の導電経路の減少を抑制する効果が特に顕著に向上する。ホルムアルデヒド縮合物は、Si含有材料と炭素材料との接点を確保するだけでなく、CNTと負極活物質との導電経路を補強する役割を果たしていると考えられる。
【0061】
より優れた導電経路を確保する観点から、CNTの平均長は、例えば1μm以上、100μm以下であればよく、3μm以上、10μm以下が好ましい。同様に、CNTの平均径は、例えば1nm以上、30nm以下であればよく、1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0062】
CNTの平均長および平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析により求められる。具体的には、50本のCNTを任意に選出して長さおよび径を測定し、それらを平均して求められる。なお、CNTの長さとは、CNTを直線状に変形させたときの長さを指す。
【0063】
負極合剤中のCNTの含有量は、例えば、0.01質量%以上、1.0質量%以下であればよく、0.1質量%以上、0.4質量%以下でもよい。この場合、初回の充放電効率の低減を抑制する効果が高められるだけでなく、充放電サイクル特性も顕著に向上し得る。
【0064】
[正極]
正極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む。正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極合剤は、必須成分として、正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤等を含むことができる。
【0065】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有複合酸化物を用いることができる。例えば、LiaCoO2、LiaNiO2、LiaMnO2、LiaCobNi1-b2、LiaCob1-bc、LiaNi1-bbc、LiaMn24、LiaMn2-bb4、LiMPO4、Li2MPO4F(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bよりなる群から選択される少なくとも1種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、充放電により増減する。
【0066】
中でも、LiaNib1-b2(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiaNibCocAld2(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)が更に好ましい。
【0067】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。
【0068】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等が例示できる。
【0069】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質塩とを含む。溶媒としては、非水溶媒を用いることができ、水を用いてもよい。電解質塩は、少なくともリチウム塩を含む。
【0070】
電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L以上、2mol/L以下が好ましい。リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0071】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル(後述の不飽和環状炭酸エステルを除く。)、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル等が用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ほう酸リチウム等が挙げられる。イミド塩類としては、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiN(FSO22:以下、LFSIとも称する。)、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO22)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CF3SO2)(C49SO2))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(C25SO22)等が挙げられる。これらの中でも、LiPF6およびLFSIの少なくとも一方が好ましい。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
電解液は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、エチレンサルファイト、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、アジポニトリル、ピメロニトリル等を用いることができる。また、分子内に炭素-炭素の不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステル(以下、不飽和環状炭酸エステルと称する。)を含ませてもよい。
【0074】
不飽和環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-プロピルビニレンカーボネート、4,5-ジプロピルビニレンカーボネート、4-フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。不飽和環状炭酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不飽和環状炭酸エステルは、水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0075】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布等を用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0076】
二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と電解液とが外装体に収容された構造が挙げられる。正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群等、他の形態の電極群が適用されてもよい。二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型等、いずれの形態であってもよい。
【0077】
以下、本発明に係る二次電池の一例として角形の非水電解質二次電池の構造を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0078】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および電解液(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。
【0079】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接等により取り付けられている。負極リード3の他端は、樹脂製の絶縁板(図示せず)を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接等により取り付けられている。正極リード2の他端は、絶縁板を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。絶縁板は、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離している。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。封口板5に設けられている電解液の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【0080】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(比較例1)
[負極の作製]
Si含有材料として、平均粒径5μmのSiO(x=1)を準備した。SiOは、SiO相と、SiO相内に分散している第1Si粒子とを含む。第1Si含有材料(SiO)に含まれる第1Si粒子の含有量は50質量%であった。第1Si粒子の平均粒径は20nmであった。
【0082】
SiOの表面には、導電層を形成した。導電層の量は、Si含有材料と導電層との総質量に対して5質量%とした。具体的には、SiOを石炭ピッチと混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、SiOxの表面を導電性炭素で被覆した。その後、導電層を有するSiOxを粉砕し、篩を用いて、平均粒径5μmに調整した。
【0083】
黒鉛、導電層を有するSiO、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸リチウム(PAAL)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を、93:7:0.9:0.5:1の質量比で含む負極スラリーを調製し、その後、負極スラリーを負極集電体である銅箔の表面に1m2当りの負極合剤の質量が200gとなるように塗布した。その後、塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cm3の負極合剤層を形成し、負極を得た。
【0084】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cm3の正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0085】
[電解液の調製]
非水溶媒にリチウム塩を溶解させて電解液を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とを、20:70:5:5の体積比で含む混合溶媒を用いた。リチウム塩には、LiPFを用いた。電解液中のLiPF濃度は、1.35mol/Lとした。
【0086】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、比較例1の電池B1を得た。
【0087】
(実施例1)
負極スラリーに、更に、下記一般式:
【0088】
【化2】
【0089】
で表されるフェノールスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物(PhSO3Na:重量平均分子量8000)を添加剤として、黒鉛、SiO、CMC、PAAL、SBRおよびPhSO3Naの合計中、0.5質量%の割合で負極スラリーに添加したこと以外、比較例1と同様に負極を作製し、これを用いて電池A1を作製し、同様に評価した。
【0090】
(実施例2)
負極スラリーに、更に、導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT:平均長10μm、平均径7nm)を、黒鉛、SiO、CMC、PAAL、SBR、PhSO3NaおよびCNTの合計中、0.3質量%の割合で負極スラリーに添加したこと以外、実施例1と同様に負極を作製し、これを用いて電池A2を作製し、同様に評価した。
【0091】
(比較例2)
負極スラリーに、PhSO3Naの代わりに、脂肪族ポリカルボン酸塩であるマレイン酸ナトリウムとスチレンとの共重合体(RCOONa:重量平均分子量8000)を添加したこと以外、実施例1と同様に負極を作製し、これを用いて電池B2を作製し、同様に評価した。
【0092】
(比較例3)
負極スラリーに、PhSO3Naの代わりに、テトラデシルスルホン酸ナトリウム(TDSO3Na:重量平均分子量300)を添加したこと以外、実施例1と同様に負極を作製し、これを用いて電池B3を作製し、同様に評価した。
【0093】
(比較例4)
負極スラリーに、PhSO3Naの代わりに、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物(NpSO3Na:重量平均分子量23000)を添加したこと以外、実施例1と同様に負極を作製し、これを用いて電池B4を作製し、同様に評価した。
【0094】
上記で作製した各電池について、以下の方法で評価を行った。
[評価1:初回充放電効率]
作製後の各電池について、25℃の環境下で、0.2Itの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015Itになるまで定電圧充電した。その後、0.2Itの電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止期間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。このときの初回充電容量に対する初回放電容量の割合を、初回充放電効率として求めた。電池B1の結果を基準として、他の各電池の基準値からの増加率を表1に示す。
【0095】
なお、(1/X)Itは、電流を表し、(1/X)It(A)=定格容量(Ah)/X(h)であり、Xは定格容量分の電気を充電または放電するための時間を表す。例えば、0.5Itとは、X=2であり、電流値が定格容量(Ah)/2(h)であることを意味する。
【0096】
[評価2:サイクル容量維持率]
評価1と同じ条件の充放電を繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する10サイクル目の放電容量の割合(百分率)を、10サイクル容量維持率として求めた。電池B1の結果を基準として、他の各電池の増加率を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1より、水酸基を有する芳香族有機酸であるフェノールスルホン酸Naだけが特異的に初回充放電効率を向上させることや、初期サイクルにおける容量維持率を高めることが理解できる。また、CNTを用いることで、更に飛躍的に初期サイクル特性が向上することが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る非水電解質二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源に有用である。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0100】
1:電極群、2:正極リード、3:負極リード、4:電池ケース、5:封口板、6:負極端子、7:ガスケット、8:封栓
図1