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特許7373763ScAlMgO4単結晶基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】ScAlMgO4単結晶基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/26 20060101AFI20231027BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C30B29/26
C30B15/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019024639
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020132449
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】領木 直矢
(72)【発明者】
【氏名】石橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】信岡 政樹
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119597(JP,A)
【文献】特開2015-178448(JP,A)
【文献】特開2009-161433(JP,A)
【文献】特開2017-178764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/26
C30B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた分析により得られる結晶中の酸素濃度が、56atom%以上57atom%以下である、
ScAlMgO単結晶基板。
【請求項2】
結晶成長用の基板であり、
下記式におけるσが5.0N/mm以上を満たす曲率半径R[m]および厚さt[m]を有し、
前記σが5.0N/mm以上を満たすときに前記基板がへき開する、
請求項1記載のScAlMgO単結晶基板。
σ=(E×t )×10/(6×(1-v)×R×t
(上記式において、E[GPa]は結晶成長させる膜のヤング率を表し、vは結晶成長させる膜のポアソン比を表し、t[m]は結晶成長させる膜の厚さを表す)
【請求項3】
前記結晶成長させる膜は、GaNである、
請求項2記載のScAlMgO単結晶基板。
【請求項4】
請求項1または2記載のScAlMgO単結晶基板の製造方法であって、
ScAlMgOで表される単結晶基板の原料の融液に種結晶を接触させて結晶を生じさせる種付け工程と、
前記種付け工程によって生じた前記結晶を引き上げることで単結晶体を育成する結晶育成工程と、
を有し、
前記結晶育成工程では、酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気下で前記結晶を前記融液から引き上げ、
前記融液の液面直下の温度勾配を4.4℃/mm以上とする、
ScAlMgO単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ScAlMgO単結晶基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウム(GaN)を形成するための基板としてScAlMgOが注目されている。ScAlMgOは、GaNとの格子不整合が従来のサファイアに比べて1/10であり、発光ダイオード(LED)の高輝度化が見込まれる材料である。
【0003】
ScAlMgO単結晶の製造方法として、チョクラルスキー法(CZ法)が知られている。CZ法では、チャンバ内に設置したルツボに材料を入れ、その材料を溶融させた後、種結晶を融液に接触させる。そして、引き上げ機構を使って種結晶をゆっくりと回転させながら引き上げることにより、種結晶と同じ方位配列を持った単結晶を成長させ、円柱状のインゴットを得る。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、ScAlMgOの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-48296号公報
【文献】特開2015-178448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ScAlMgO単結晶基板上にGaN膜を成長させると、GaN膜およびScAlMgO単結晶基板が反るため、互いに応力がかかり、GaN膜が割れてしまうという課題を有していた。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するもので、成長させたGaN膜の割れが生じ難い、ScAlMgO単結晶基板およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来の課題を解決するために、本開示のScAlMgO単結晶基板は、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた分析により得られる結晶中の酸素濃度を57atom%以下とする。
【0009】
また、本開示のScAlMgO単結晶基板の製造方法は、前記ScAlMgOで表される単結晶基板の原料の融液に種結晶を接触させて結晶を生じさせる種付け工程と、前記種付け工程によって生じた前記結晶を引き上げることで単結晶体を育成する結晶育成工程と、を有し、前記結晶育成工程では、酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気下で前記結晶を前記融液から引き上げる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、へき開性が高く、基板上に成長させたGaN膜が割れ難いScAlMgO単結晶基板、およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施の形態に係るScAlMgO単結晶基板の製造方法に使用する、高周波加熱方式炉の構成を示す模式図
図2】本開示の一実施の形態に係るScAlMgO単結晶基板の製造方法により、単結晶を製造する場合のフローチャート
図3】本開示の一実施の形態に係るScAlMgO単結晶基板の製造方法に使用する、抵抗加熱方式炉の構成を示す模式図
図4】本開示の一実施の形態に係るScAlMgO単結晶基板の結晶構造を透過電子顕微鏡で観察した図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本開示の一実施の形態に係るScAlMgO単結晶基板の製造方法に使用する、高周波加熱方式炉の構成を示す模式図である。以下、主に高周波加熱方式によりScAlMgO単結晶基板を製造する場合について説明する。ただし、高周波加熱方式の代わりに、抵抗加熱方式を用いてもよい。本実施の形態の方法によれば、結晶中の酸素濃度が低い(具体的には誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた分析により得られる結晶中の酸素濃度が57atm%以下である)ScAlMgO単結晶基板を得ることができる。このようなScAlMgO単結晶基板は、へき開性が高い。したがって、ScAlMgO単結晶基板上にGaN膜を成長させる際、GaN膜の割れを防止することが可能になる。
【0014】
図1に示す高周波加熱方式炉100は、CZ法による結晶引き上げ装置であり、ScAlMgO単結晶基板の原料110と、ルツボ120と、ルツボ支持軸121と、耐火材122と、断熱材130と、加熱コイル140と、結晶引き上げ軸150と、シードホルダ151と、種結晶152とを有している。なお、図1には示していないが、高周波加熱方式炉100は、CZ法による結晶引き上げに必要なチャンバ、真空ポンプ、ガス導入口、ガス排気口、電源、温度などの制御装置などを通常有している。
【0015】
ScAlMgO単結晶基板の原料(以下、単に「ScAlMgO原料」とも称する)110は、酸化スカンジウム(Sc)と、酸化アルミニウム(Al)と、酸化マグネシウム(MgO)とを所定の比率で混合し、一度溶融させたものである。
【0016】
本実施の形態において、ルツボ120は、イリジウム製であり、ScAlMgO原料110を保持するための容器である。また本実施の形態において、ルツボ支持軸121は、タングステン製であり、ルツボ120を支持するための軸である。ルツボ支持軸121により、設定した速度でルツボ120を回転させたり、昇降させたりすることが可能である。
【0017】
耐火材122は、ルツボ120とルツボ支持軸121との間に配置される部材である。本実施の形態では、ジルコニア製であるが、これに限定されない。当該耐火材122は、ルツボ120およびルツボ支持軸121のどちらの材質にも耐反応性を有する。
【0018】
また、断熱材130は、本実施の形態ではジルコニア製である。当該断熱材130は、ルツボ120の周囲を囲んでおり、ルツボ120の上部および下部に、それぞれ結晶引き上げ軸150を挿入するための貫通孔と、ルツボ支持軸121を挿入するための貫通孔を有する。また、加熱コイル140は、断熱材130の外側に配置されている。当該加熱コイル140に高周波電流を流すと高周波磁束が発生する。そして、高周波磁束によりルツボ120に渦電流が発生し、ルツボ120の表面が発熱することで、ルツボ120内のScAlMgO原料110が加熱される。
【0019】
本実施の形態の結晶引き上げ軸150は、アルミナ製であり、設定した速度で回転、昇降する機能を持つ。シードホルダ151は、結晶引き上げ軸150の先端に配置される。本実施の形態では、シートホルダ151はイリジウム製であり、先端に種結晶152をセットすることが可能である。また、当該シードホルダ151にセットする種結晶152は、ScAlMgOであり、形状は、正四角柱であるが、当該形状に制限されない。
【0020】
高周波加熱方式炉100によりScAlMgO単結晶を製造する場合について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。
【0021】
まず、ScAlMgO原料110を溶融させる、溶融工程(S201)を実施する。溶融工程では、上述の高周波加熱方式炉100内の雰囲気を不活性ガス雰囲気にするために、真空引きする。その後、不活性ガス雰囲気を導入し、常圧にする。電源投入後、ScAlMgO原料110が溶融する温度になるまで、ルツボ120に大きな負荷をかけない程度に時間をかけて加熱コイル140に与える電力を徐々に増やして加熱する。加熱時間は、ルツボ120の大きさに依存するが、ルツボ120の外径が80mm~150mmである場合は、15時間~60時間が好ましい。
【0022】
ScAlMgO原料110の溶融確認後、炉内に酸素を導入する。なお、酸素の濃度は、導入する不活性ガスおよび酸素の比率で調整することができる。例えば、不活性ガスが窒素であり、そのガス導入量が1[l/min]である場合、混合する酸素のガス流量を1[ml/min]にすると、炉内の雰囲気中酸素濃度が0.1体積%となる。同様に、不活性ガスが窒素で、そのガス導入流量が2[l/min]である場合、混合する酸素ガス流量を10[ml/min]にすると、炉内の雰囲気中酸素濃度が0.5体積%となる。本実施の形態では、酸素濃度が0.1体積%以下の雰囲気下とし、後述の種付け工程(S202)および結晶育成工程(S203)を行うことが好ましい。また特に、0体積%<酸素濃度であることがより好ましい。
【0023】
続いて、種付け工程(S202)を実施する。具体的には、溶融したScAlMgO原料110に種結晶152が接するまで、結晶引き上げ軸150を一定速度で回転させながら徐々に下降させる。種結晶152が、溶融したScAlMgO原料110に接した後、溶融したScAlMgO原料110の融液温度が、結晶の引き上げに適当な温度で安定するまで待機する。
【0024】
続いて、種付け工程(202)によって生じた結晶を引き上げることで、単結晶を育成する結晶育成工程(S203)を実施する。結晶引き上げ軸150を一定速度で回転させながら一定速度で上昇させる。ここで、結晶引き上げ軸150の回転速度は1rpm~10rpm、引き上げ速度は0.1mm/時間~1.5mm/時間が好ましい。引き上げ開始後は、自動直径制御(Automatic Diameter Control(ADC))により所望の結晶形状に制御する。所望の長さまで結晶を引き上げた後は、溶融したScAlMgO原料110の融液から結晶を切り離し、炉内への酸素導入を停止させる。
【0025】
続いて、冷却工程(S204)を実施する。ルツボ120および引き上げた結晶に大きな負荷をかけない程度に時間をかけて加熱コイル140に与える電力を徐々に減らして冷却する。冷却の時間は、ルツボ120の大きさに依存するが、ルツボ120の外径が80mm~150mmである場合は、20時間~70時間が好ましい。
【0026】
一方、本実施の形態のScAlMgO単結晶基板の製造方法に使用可能な抵抗加熱方式炉300は、図3に示すように、断熱材130および加熱コイル140の代わりに、断熱材330およびヒータ340を有している点が、高周波加熱方式炉100と相違し、他の点については、高周波加熱方式炉100と同様とすることができる。
【0027】
当該抵抗加熱方式炉300において、断熱材330は、カーボン製であり、ルツボ120を囲うように配置される。また、ヒータ340は、筒状のカーボン製であり、ヒータ340に電流を流すと、ヒータ340が発熱し、ルツボ120内のScAlMgO原料110が加熱される。
【0028】
抵抗加熱方式炉300によりScAlMgO単結晶を製造する場合も、高周波加熱方式と同様に、図2に示す製造工程とすることができる。まず、ScAlMgO原料110の溶融工程(S201)を実施する。当該溶融工程は、上述の高周波加熱式炉100を用いる場合と同様とすることができる。例えば、溶融工程では、雰囲気を不活性ガス雰囲気にするために、真空引き後、不活性ガス雰囲気で常圧にする。そして、電源投入後、ScAlMgO原料110が溶融する温度になるまで、ルツボ120に大きな負荷をかけない程度に時間をかけてヒータ340に与える電力を徐々に増やして加熱する。加熱時間は、高周波加熱式炉100を用いる場合と同様であり、またこの場合も炉内の酸素濃度を、導入する不活性ガスおよび酸素の比率で調整する。
【0029】
続いて、種付け工程(S202)、結晶育成工程(S203)、および冷却工程(S204)を実施する。これらは、上述の高周波加熱式炉100を用いる場合と同様とすることができる。
【0030】
高周波加熱方式炉100および抵抗加熱方式炉300のいずれの方式でScAlMgO単結晶基板を製造する場合においても、上述の結晶育成工程(S203)を行う雰囲気における酸素濃度を0.1体積%以下に調整することで、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた分析により得られる結晶中の酸素濃度が57atm%以下である、へき開性の高いScAlMgO単結晶基板が得られやすくなる。また特に、上述の結晶育成工程(S203)におけるScAlMgO原料110の融液の液面直下における温度勾配を調整することで、さらにへき開性の高いScAlMgO単結晶基板が得られやすくなる。
【0031】
具体的には、炉内の雰囲気中の酸素濃度を下げ、溶融したScAlMgO原料110の融液の液面直下の温度勾配(融液の液面からの距離が1mm深くなる毎に下がる温度)を大きくすると、融液に溶け込む酸素量が抑制され、引き上げた結晶中の酸素濃度が下がる。融液の液面直下の温度勾配を大きくするためには、ルツボ120の側面の最高温度と最低温度との差を大きくする必要がある。ルツボ120の側面の最高温度が上がると、融液の温度が高くなる領域が発生し、融液が酸化物の場合に融液から酸素が抜ける。そしてこのとき、炉内の雰囲気中の酸素濃度が低いと、引き上げた結晶中の酸素濃度が下がる。
【0032】
ただし、ルツボ120の側面の最高温度が上がると、ルツボ120内の融液の対流が激しくなる。その結果、種付け工程(S202)で、溶融したScAlMgO原料110の融液温度が安定しにくくなる。そのため、融液の温度を0.5[℃]以下の精度で制御することで、結晶の引き上げに適当な温度での安定化を実現することが好ましい。
【0033】
図4は、上述の方法で作製されたScAlMgO単結晶基板を透過電子顕微鏡で観察したものである。当該ScAlMgO単結晶は、岩塩型構造面的なScO層(図4にはSc層と記載)と六方晶面的はAlMgO層(図4にはAl/Mg層と記載)とが交互に積層した構造となっている。ScAlMgO単結晶は、結合の力が弱いAlMgO層間でへき開する。そして、結晶中の酸素濃度が減ると、結合の力が弱いAlMgO層間で酸素結合が少なくなり、へき開性がさらに高まる。
【0034】
ここで、溶融したScAlMgO原料110の融液の液面直下の温度勾配は、高周波加熱方式炉100および抵抗加熱方式炉300のいずれにおいても、断熱材130もしくは330の上部の結晶引き上げ軸150を挿入するための貫通孔の開口面積を変えると変化する。貫通孔の開口面積を広くすると温度勾配が小さくなり、開口面積を狭くすると温度勾配が大きくなる。すなわち、詳細は後述するが、融液の液面直下の温度勾配が4.4℃/mm以上となるように、ScAlMgO単結晶基板を製造することで、より酸素濃度の低いScAlMgO単結晶を製造できる。
【0035】
引き上げたScAlMgO単結晶からは、所望の厚さの基板が、へき開、レーザスライス、ワイヤースライス等の加工方法で切り出され、ScAlMgO単結晶基板が製造される。ScAlMgO単結晶基板の表裏面が、主面となり、当該主面はGaN膜などを成長させるための面として使用される。当該主面は、研磨、研削等により、鏡面加工が施されてもよい。
【0036】
なお、本実施の形態では、ScAlMgO単結晶基板を各種膜(例えばGaN膜)の成長基板として使用する場合、下記式におけるσが5.0以上を満たすように、ScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]およびScAlMgO単結晶基板の厚さt[m]を設定することが好ましい。
σ[N/mm]≦(E×t )×10/(6×(1-v)×R×t
(上記式において、E[GPa]は、当該結晶ScAlMgO単結晶基板上に結晶成長させる膜(ここではGaN膜)のヤング率を表し、vは結晶成長させる膜(ここではGaN膜)のポアソン比を表し、t[m]は結晶成長させる膜(ここではGaN膜)の厚さを表す)
【0037】
実施例で詳しく説明するが、上記式を満たすように、ScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]および厚さt[m]を調整すると、ScAlMgO単結晶基板上に各種膜(ここではGaN膜)を成長させた際に発生する応力(反り応力)が、ScAlMgO単結晶基板のへき開強度を上回る。したがって、当該反り応力によって結晶成長させた膜(GaN膜)に割れが生じる前に、ScAlMgO単結晶基板がへき開し、結晶成長させた膜(GaN膜)から剥離する。
【0038】
なお、ScAlMgO単結晶基板では、切り出したウエハに対して、X線回折法による分析で得られるロッキングカーブの半値全幅[秒]が好ましくは20[秒]以下であることが好ましい。
【0039】
ScAlMgO単結晶基板上にGaN膜を形成する場合、GaN膜は、ハイドライド気相成長法(HVPE法:Hydride Vapor Phase Epitaxy)や有機金属気相成長法(MOCVD法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)といった、所謂、気相成長法により形成される。一方、GaN膜は、ナトリウムフラックス法に代表されるアルカリ金属融液(フラックス)を用いるフラックス法等の液相成長法で形成されてもよい。
【0040】
なお、上述の説明では、断熱材130、330はジルコニア製としたが、これに限るものではない。ルツボ120、シードホルダ151はイリジウム製としたが、これに限るものではない。ルツボ支持軸121はタングステン製としたが、耐火材122と反応しないものであれば、特に問わない。耐火材122はジルコニア製としたが、ルツボ120、ルツボ支持軸121と反応しないものであれば、特に問わない。結晶引き上げ軸150はアルミナ製としたが、シードホルダ151と反応しないものであれば、特に問わない。
【実施例
【0041】
[実施例1、2、および比較例1]
図1に示す高周波加熱方式炉100を用いて結晶育成を行い、その後、ScAlMgO単結晶基板上にGaN膜を成長させた結果を表1に示す。比較例1、および実施例1~2では、炉内の雰囲気(結晶育成工程)の酸素濃度、および融液の液面直下の温度勾配をそれぞれ表1に示すように変化させた。また、表1には、得られたScAlMgO単結晶基板中の酸素濃度と、引き上げた結晶のへき開強度と、ScAlMgO単結晶基板上にGaN膜を成長させたときのScAlMgO単結晶基板の剥離の有無、およびGaN膜の割れの発生の有無も示す。
【0042】
なお、高周波加熱方式炉100(特に結晶育成工程)における雰囲気中の酸素濃度は、炉内に不活性ガス(窒素)の流量と、酸素の流量とで調整した。実施例1および2では、
不活性ガス(窒素)の流量1[l/min]に対し、混合する酸素の流量を1[ml/min]とした。比較例1では、不活性ガス(窒素)の流量1[l/min]に対し、混合する酸素の流量を5[ml/min]とした。なお、表1には示していないが、酸素量を0とした場合、結晶表面が白く着色し、クラックが発生した。これは結晶内の酸素濃度が少なくなり過ぎたためである。
【0043】
また、融液の液面直下の温度勾配については、結晶引き上げ軸150を挿入するための貫通孔の開口面積で調整した。具体的には、比較例1における当該貫通孔の開口面積を1.00としたときに、実施例1では0.41とした。これにより、融液の液面直下の温度勾配が、4.7℃/mmとなった。また、実施例2では開口面積を0.56とした。これにより、融液の液面直下の温度勾配が、4.4℃/mmとなった。
【0044】
[物性の測定および評価]
各数値の測定および評価は、以下の方法で行った。
【0045】
・結晶中の酸素濃度
結晶中の酸素濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて測定した。具体的には、誘導結合プラズマ発光分光分析装置として、iCAP 7400 Duo(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、ScAlMgO単結晶の主成分であるSc、Al、Mgの分析を行い、OはSc、Al、Mgの分析値を差し引いた残分を全てOとして算出した。
【0046】
・融液の液面直下温度勾配
融液の液面直下の温度勾配は、タングステン(W)-レニウム(Re)熱電対(W・5%Re-W・26%Re)をイリジウム製の保護管に挿入し、図1の断熱材130の結晶引き上げ軸150用の貫通孔から、結晶引き上げ軸150の代わりに、イリジウム製の保護管を下降させ、ルツボ120内の溶融したScAlMgO原料110に着液させて測定した。
【0047】
・へき開強度
へき開強度は、 小型卓上試験機EX-S500N(島津製作所製)を用いて、ScAlMgO単結晶基板にアルミ製のリベットを接着し、接着したアルミ製のリベットを引っ張り、ScAlMgO単結晶基板がへき開して剥離したときの力を測定した。
【0048】
・基板の剥離および成長膜の割れ
基板の剥離および成長膜の割れは、目視で確認した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、結晶育成工程における雰囲気中の酸素濃度を0.1体積%以下とし、かつ、融液の液面直下の温度勾配を4.4℃/mm以上とすると、得られる結晶中の酸素濃度が低減し、へき開強度が下がることが理解できる。また、結晶中酸素濃度が57atm%以下であると、へき開強度が5.0N/mm以下となった。そしてこの場合、当該ScAlMgO単結晶基板上にGaNを結晶成長させた際、応力がかかったとしても、GaN膜が割れる前にScAlMgO単結晶基板が剥離し、基板上に成長したGaN膜に割れが発生しなかった。
【0051】
[ScAlMgO単結晶基板上にかかる応力について]
ScAlMgO単結晶基板の主面上にGaNを結晶成長させる場合に、ScAlMgO単結晶基板にかかる応力について説明する。ScAlMgO単結晶基板上に成長させる膜からScAlMgO単結晶基板にかかる応力σ[N/mm]は、Stoneyの式(式1)で表される。ここで、E[GPa]は成長膜のヤング率、vは成長膜のポアソン比、t[m]は成長膜の厚さ、t[m]はScAlMgO単結晶基板の厚さ、R[m]は成長膜の曲率半径である。
σ=(E×t )×10/(6×(1-v)×R×t)・・・(式1)
【0052】
成長膜がGaN膜の場合、ヤング率Eは321GPaであり、ポアソン比vは0.21である。例えば、GaN膜の厚さが1mmの場合、ScAlMgO単結晶基板の厚さを変化させたときに、ScAlMgO単結晶基板にかかる応力が5.0N/mm以上となる曲率半径Rの範囲[m]を表2に示す。式1のRは本来、成長膜の曲率半径であるが、成長膜は、ScAlMgO単結晶基板上に成長させるので、これらの曲率半径は同一である。なお、信頼性の観点からσが8.2[N/mm]未満となるように、ScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]およびScAlMgO単結晶基板の厚さt[m]を設定するのが好ましい。
【0053】
【表2】
【0054】
上記では、成長させるGaN膜の厚さを1mmもしくは1.5mmとしたが、GaN膜は所望の値とすることができる。この場合、ScAlMgO単結晶基板の酸素濃度を57atom%以下に制御しつつ、所望のGaN膜の厚さtに対して5.0≦σを満たすような曲率半径RおよびScAlMgO単結晶基板の厚さtを選択してScAlMgO単結晶基板を製造すればよい。当該ScAlMgO単結晶基板を用いて所望の厚さtのGaN膜を製造すると、反りが発生した際にScAlMgO単結晶基板に加わる応力が、ScAlMgO単結晶基板のへき開強度を上回る。これにより、GaN膜に割れが生じる前に、ScAlMgO単結晶基板を剥離させることができ、内部応力を開放することができる。
【0055】
なお、ScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]は、結晶引き上げ軸150の回転数a[rpm]および引き上げ速度b[mm/h]によって変化する。表1の実施例1と、回転数a[rpm]および引き上げ速度b[mm/h]以外は同一の条件とした場合のScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3より、回転数a[rpm]を下げるとScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]が大きくなり、引き上げ速度b[mm/h]を下げるとScAlMgO単結晶基板の曲率半径R[m]が小さくなることがわかる。
【0058】
本開示のScAlMgO単結晶基板によれば、ScAlMgO単結晶基板のへき開性が高めることができる。これにより、基板上に成長させたGaN膜の割れを抑制することが可能となる。なお、ScAlMgO単結晶基板上に成長させる膜はGaNが好ましいが、式1でσが5.0以上を満たす材料も成長膜として適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ScAlMgO単結晶基板およびその製造方法は、GaN膜の成膜等に有用である。
【符号の説明】
【0060】
100 高周波加熱方式炉
110 ScAlMgO原料
120 ルツボ
121 ルツボ支持軸
122 耐火材
130 断熱材
140 加熱コイル
150 結晶引き上げ軸
151 シードホルダ
152 種結晶
300 抵抗加熱方式炉
330 断熱材
340 ヒータ
図1
図2
図3
図4