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特許7373776受電装置、移動体、および無線電力伝送システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】受電装置、移動体、および無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/05 20160101AFI20231027BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231027BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20231027BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20231027BHJP
   B60L 5/00 20060101ALI20231027BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231027BHJP
   B60L 53/122 20190101ALI20231027BHJP
   B60L 53/22 20190101ALI20231027BHJP
   B60L 53/62 20190101ALI20231027BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20231027BHJP
【FI】
H02J50/05
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
H02J50/10
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L50/60
B60L53/122
B60L53/22
B60L53/62
B60L58/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021511949
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013808
(87)【国際公開番号】W WO2020203690
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019067876
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100180529
【弁理士】
【氏名又は名称】梶谷 美道
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】細井 浩行
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】菊池 悟
(72)【発明者】
【氏名】松木 徹
(72)【発明者】
【氏名】秋中 昌訓
(72)【発明者】
【氏名】西川 輝
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115624(WO,A1)
【文献】特開2019-009981(JP,A)
【文献】特開2011-120443(JP,A)
【文献】特開2013-153640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 -50/90
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
B60M 7/00
B60L 5/00 - 5/42
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 -13/00
B60L 15/00 -58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電装置および受電装置を備える無線電力伝送システムにおいて用いられる受電装置であって、
前記送電装置における送電アンテナから交流電力を無線で受け取る受電アンテナと、
前記受電アンテナが受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、
前記直流電力を利用する負荷と前記受電アンテナとの間の伝送路に配置され、入力インピーダンスを変化させることが可能なインピーダンス調整回路と、
前記インピーダンス調整回路を制御する受電制御回路であって、前記インピーダンス調整回路の前記入力インピーダンスの値を、複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から、前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスを設定して維持する受電制御回路と、
を備える受電装置。
【請求項2】
前記受電回路は、整流回路を含み、
前記インピーダンス調整回路は、前記整流回路と前記負荷との間の伝送路に配置されている、
請求項1に記載の受電装置。
【請求項3】
前記負荷に含まれる蓄電装置の充電および放電を制御する充放電御回路をさらに備え、
前記インピーダンス調整回路は、前記整流回路と前記充放電御回路との間に接続されている、
請求項2に記載の受電装置。
【請求項4】
前記インピーダンス調整回路は、DC-DCコンバータ回路を含み、
前記受電制御回路は、前記DC-DCコンバータ回路を制御することにより、前記入力インピーダンスを変化させる、
請求項2または3に記載の受電装置。
【請求項5】
前記インピーダンス調整回路の入力電力または前記インピーダンス調整回路の出力電力を検出する検出器をさらに備え、
前記受電制御回路は、前記検出器によって検出された前記電力の値に基づいて、前記インピーダンス調整回路を制御する、
請求項1から4のいずれかに記載の受電装置。
【請求項6】
前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスの値を、3つ以上の値の中から選択された値に順次変化させる、請求項1から5のいずれかに記載の受電装置。
【請求項7】
前記受電制御回路は、前記負荷に供給される電力が最大になる前記入力インピーダンスの値を、山登り法によって決定する、請求項1から6のいずれかに記載の受電装置。
【請求項8】
前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスを前記複数の値のうちの初期値に設定してから前記電力が最大になる前記入力インピーダンスの値を決定するまでの動作を、1秒よりも短い時間で実行する、請求項1から7のいずれかに記載の受電装置。
【請求項9】
前記送電アンテナは、2つ以上の送電電極を含み、
前記受電アンテナは、前記2つ以上の送電電極と電界結合する2つ以上の送電電極を含む、
請求項1から8のいずれかに記載の受電装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の受電装置と、
前記受電回路から出力された電力によって駆動される電気モータと、
を備える移動体。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載の受電装置と、
前記送電装置と、
を備える無線電力伝送システム。
【請求項12】
前記送電装置は、
送電アンテナと、
前記送電アンテナに交流電力を供給する送電回路と、
を備え、
前記送電回路は、前記送電アンテナに第1の交流電力を供給する低電力モードと、前記送電アンテナに前記第1の交流電力よりも高い第2の交流電力を供給する高電力モードで動作することが可能であり、
前記送電回路が前記低電力モードで動作している間、前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスの値を、前記複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から、前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスを設定して維持し、
前記送電回路は、前記動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスが設定された後、前記低電力モードから前記高電力モードに切り替える、
請求項11に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受電装置、移動体、および無線電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機および電気自動車などの移動性を伴う機器に、無線すなわち非接触で電力を伝送する無線電力伝送技術の開発が進められている。無線電力伝送技術には、電磁誘導方式および電界結合方式などの方式がある。電磁誘導方式による無線電力伝送システムは、送電コイルと受電コイルとが対向した状態で、送電コイルから受電コイルに無線で電力が伝送される。一方、電界結合方式による無線電力伝送システムは、一対の送電電極と一対の受電電極とが対向した状態で、送電電極から受電電極に無線で電力が伝送される。
【0003】
特許文献1は、無線電力伝送システムの一例を開示している。当該無線電力伝送システムは、送電装置と、受電装置とを備える。受電装置は、整流器と、直流変換器と、制御装置とを備える。整流器は、受電共振器が送電共振器から受電した交流電力を整流して直流電力に変換する。直流変換器は、整流器から出力される直流電力の直流変換を行う。制御装置は、直流変換器の入力電圧に基づいて直流変換器の入力インピーダンスが設定値となる電流指令値を算出し、直流変換器の入力電流が電流指令値と一致するように直流変換器を制御する。このような制御により、電力伝送効率の向上を実現すると共に構成素子の破損を回避できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-215066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、無線電力伝送の状態の変化に伴う電力伝送効率の低下を抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る受電装置は、送電装置および受電装置を備える無線電力伝送システムにおいて用いられる。前記受電装置は、前記送電装置における送電アンテナから交流電力を無線で受け取る受電アンテナと、前記受電アンテナが受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、前記直流電力を利用する負荷と前記受電アンテナとの間の伝送路に配置され、入力インピーダンスを変化させることが可能なインピーダンス調整回路と、前記インピーダンス調整回路を制御する受電制御回路とを備える。前記制御回路は、前記インピーダンス調整回路の前記入力インピーダンスの値を、複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から、前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスを設定して維持する。
【0007】
本開示の包括的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または記録媒体で実現されてもよい。あるいは、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、無線電力伝送の状態の変化に伴う電力伝送効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。
図2図1に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。
図3】電界結合方式による無線電力伝送システムの他の例を模式的に示す図である。
図4図3に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。
図5】送電回路および受電回路の構成例を示す図である。
図6A】負荷インピーダンスと出力電力との関係の例を示すグラフである。
図6B】出力電力と電力伝送効率との関係の例を示すグラフである。
図7】本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。
図8】送電回路および受電回路のより具体的な構成例を示す図である。
図9A】インバータ回路の構成例を模式的に示す図である。
図9B】整流回路の構成例を模式的に示す図である。
図10】DC-DCコンバータの回路構成の一例を示す図である。
図11】インバータの出力電圧および出力電流の波形の例を示す図である。
図12】検出器および送電制御回路の構成例を示す図である。
図13】充放電制御回路の構成例を示す図である。
図14】送電装置の動作の例を示すフローチャートである。
図15】受電装置の動作の例を示すフローチャートである。
図16】受電装置の動作の他の例を示すフローチャートである。
図17A】インピーダンス調整回路が受電電極と受電回路との間に配置されている例を示す図である。
図17B】インピーダンス調整回路が整合回路と整流回路との間に配置されている例を示す図である。
図17C】インピーダンス調整回路が整流回路と充放電制御回路との間に配置されている例を示す図である。
図17D】インピーダンス調整回路が充放電制御回路と電池との間に配置されている例を示す図である。
図18A】送電電極が壁などの側面に敷設された例を示す図である。
図18B】送電電極が天井に敷設された例を示す図である。
図19】コイル間の結合によって電力を無線で伝送するシステムの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
【0011】
図1は、無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。図示されている無線電力伝送システムは、例えば工場または倉庫において物品の搬送に用いられる移動体10に電極間の電界結合によって電力を無線で伝送するシステムである。この例における移動体10は、無人搬送車(Automated Guided Vehicle:AGV)である。このシステムでは、床面30に平板状の一対の送電電極120a、120bが配置されている。一対の送電電極120a、120bは、一方向に延びた形状を有する。一対の送電電極120a、120bには、不図示の送電回路から交流電力が供給される。
【0012】
移動体10は、一対の送電電極120a、120bに対向する不図示の一対の受電電極を備えている。移動体10は、送電電極120a、120bから伝送された交流電力を、一対の受電電極によって受け取る。受け取られた電力は、移動体10が備えるモータ、二次電池、または蓄電用のキャパシタなどの負荷に供給される。これにより、移動体10の駆動または充電が行われる。
【0013】
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下の説明では、図示されているXYZ座標を用いる。送電電極120a、120bが延びる方向をY方向、送電電極120a、120bの表面に垂直な方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0014】
図2は、図1に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。この無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。送電装置100は、一対の送電電極120a、120bと、送電電極120a、120bに交流電力を供給する送電回路110とを備える。送電回路110は、例えばインバータ回路を含む交流出力回路である。送電回路110は、不図示の電源から供給された直流電力を、交流電力に変換して一対の送電電極120a、120bに出力する。移動体10は、受電装置200と、蓄電装置310とを備えている。受電装置200は、一対の受電電極220a、220bと、受電回路210と、充放電制御回路290とを備えている。蓄電装置310は、例えば二次電池または蓄電用のキャパシタなどの、電力を蓄えるデバイスである。受電回路210は、受電電極220a、220bが受け取った交流電力を、蓄電装置310が要求する電圧、例えば所定の電圧の直流電圧に変換して出力する。受電回路210は、例えば整流回路およびインピーダンス整合回路などの、各種の回路を含み得る。充放電制御回路290は、蓄電装置310の充電および放電を制御する回路である。図2には示されていないが、移動体10は、駆動用の電気モータなどの他の負荷も備える。一対の送電電極120a、120bと、一対の受電電極220a、220bとの間の電界結合により、両者が対向した状態で電力が無線で伝送される。
【0015】
送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々は、2つ以上の部分に分割されていてもよい。例えば、図3および図4に示すような構成を採用してもよい。
【0016】
図3および図4は、送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々が2つの部分に分割された無線電力伝送システムの例を示す図である。この例では、送電装置100は、2つの第1の送電電極120aと、2つの第2の送電電極120bとを備える。第1の送電電極120aおよび第2の送電電極120bは、交互に並んでいる。受電装置200も同様に、2つの第1の受電電極220aと、2つの第2の受電電極220bとを備える。2つの第1の受電電極220aおよび2つの第2の受電電極220bは、交互に並んでいる。電力伝送時には、2つの第1の受電電極220aは、2つの第1の送電電極120aにそれぞれ対向し、2つの第2の受電電極220bは、2つの第2の送電電極120bにそれぞれ対向する。送電回路110は、交流電力を出力する2つの端子を備えている。一方の端子は、2つの第1の送電電極120aに接続され、他方の端子は、2つの第2の送電電極120bに接続される。電力伝送の際、送電回路110は、2つの第1の送電電極120aに第1の電圧を印加し、2つの第2の送電電極120bに、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧を印加する。これにより、4つの送電電極を含む送電電極群120と4つの受電電極を含む受電電極群220との間の電界結合によって電力が無線で伝送される。このような構成によれば、隣り合う任意の2つの送電電極の境界上の漏洩電界を抑制する効果を得ることができる。このように、送電装置100および受電装置200の各々において、送電または受電を行う電極の数は2個に限定されない。
【0017】
以下の実施形態では、図1および図2に示すように、送電装置100が2つの送電電極を備え、受電装置200が2つの受電電極を備えた構成を主に説明する。以下の各実施形態において、各電極は、図3および図4に例示するように、複数の部分に分割されていてもよい。いずれの場合も、ある瞬間に第1の電圧が印加される電極と、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧が印加される電極とが交互に並ぶように配置される。ここで「逆の位相」とは、位相差が180度である場合に限らず、位相差が90度から270度の範囲内である場合を含むものと定義する。以下の説明では、送電装置100が備える複数の送電電極を区別せずに「送電電極120」と称し、受電装置200が備える複数の受電電極を区別せずに「受電電極220」と称する。
【0018】
上記のような無線電力伝送システムによれば、移動体10は、送電電極120に沿って移動しながら、無線で電力を受け取ることができる。移動体10は、送電電極120と受電電極220とが近接して対向した状態を保ちながら、送電電極120に沿って移動することができる。これにより、移動体10は、例えばバッテリまたはキャパシタ等の蓄電装置310を充電しながら移動することができる。
【0019】
このような無線電力伝送システムにおいては、移動体10に積載された積載物の重量が変化したり、移動体10の進路が送電電極120が延びる方向からずれたりすることにより、電極間の容量が設計値から変化することがある。電極間容量が変化すると、回路間でインピーダンスの不整合が生じ、伝送効率が低下したり、回路素子の発熱または損傷などの問題が生じるおそれがある。同様の問題は、負荷の状態が変化した場合、あるいは送電回路または受電回路内の回路素子の特性値が、設計された値からずれている場合にも生じ得る。
【0020】
上記の問題は、電界結合方式の無線電力伝送システムに限らず、磁界結合方式の無線電力伝送システムにおいても同様に発生し得る。すなわち、コイル間の結合状態の変動または負荷状態の変動等に伴い、電力伝送効率の低下、または回路素子の発熱もしくは損傷などの問題が生じるおそれがある。
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決するための制御方法について検討した。その結果、負荷に供給される電力が大きくなるように受電装置内のインピーダンスを調整することにより、上記の課題を解決できることに想到した。以下、この点について説明する。
【0022】
図5は、例示的な無線電力伝送システムにおける送電回路110、送電電極120、受電電極220、および受電回路210の回路構成を示す図である。この例における送電回路110は、インバータ回路160と、整合回路180とを含む。受電回路210は、整合回路280と、整流回路260とを含む。整合回路180は、インバータ回路160と送電電極120との間に接続され、インバータ回路160と送電電極120との間のインピーダンスを整合させる。整合回路280は、受電電極220と整流回路260との間に接続され、受電電極220と整流回路260との間のインピーダンスを整合させる。
【0023】
図6Aおよび図6Bは、図5に示す構成について本発明者らが行った実験の結果を示す図である。本実験では、図5に示す構成について、各回路素子のパラメータを適切な値に設定した上で、負荷のインピーダンスRLを変化させ、整流回路260の出力電力および電力伝送の効率を算出した。実験は、送電電極120と受電電極220との間の容量が設計値に等しいC=90pFの場合と、設計値から逸脱したC=67.5pFおよびC=135pFの場合のそれぞれで行った。
【0024】
図6Aは、負荷インピーダンスと出力電力との関係の例を示している。図6Bは、出力電力と伝送効率との関係の例を示している。図6Aに示すように、電極間容量Cが変化すると、負荷インピーダンスに対する出力電力の依存性も変化する。出力電力は、電極間容量Cに依存して決まるある負荷インピーダンスの値で最大になる。図6Bに示すように、電極間容量Cの値によらず、出力電力が大きいほど、電力伝送効率が増加する傾向がある。図6Bにおける破線の円は、容量Cのそれぞれの値について、効率が高くなるポイントを表している。
【0025】
この結果から、アンテナ間の結合状態または負荷の状態が変化することによって無線電力伝送の特性が変化したとしても、負荷に供給される電力が高く維持されるように受電装置内のインピーダンスを制御することにより、電力伝送の効率を高く維持できることがわかった。そのような制御により、回路内の整合状態を改善し、回路素子の発熱または破壊を抑制することができる。
【0026】
本発明者らは、以上の考察に基づき、以下に説明する本開示の実施形態の構成に想到した。
【0027】
本開示の一態様に係る受電装置は、送電装置および受電装置を備える無線電力伝送システムにおいて用いられる。前記受電装置は、前記送電装置における送電アンテナから交流電力を無線で受け取る受電アンテナと、前記受電アンテナが受け取った前記交流電力を直流電力に変換して出力する受電回路と、前記直流電力を利用する負荷と前記受電アンテナとの間の伝送路に配置され、入力インピーダンスを変化させることが可能なインピーダンス調整回路と、前記インピーダンス調整回路を制御する受電制御回路とを備える。前記受電制御回路は、前記インピーダンス調整回路の前記入力インピーダンスの値を、複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から、前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスを設定して維持する。
【0028】
上記の構成によれば、前記受電制御回路は、前記インピーダンス調整回路の前記入力インピーダンスの値を、複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から、前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値(以下、「最適値」と称することがある。)に前記入力インピーダンスを設定して維持する。
【0029】
これにより、送電アンテナと受電アンテナとの結合状態または負荷の変動が生じた場合、あるいは各回路素子の特性値が設計値からずれている場合であっても、電力伝送効率を高く維持することができる。受電制御回路は、入力インピーダンスの最適値を決定する動作を、例えば受電動作を開始するときに行う。入力インピーダンスの最適値を決定する動作は、受電中に定期的に行われてもよい。
【0030】
前記受電制御回路は、前記複数の値のうち、前記電力が最大になる値を前記動作インピーダンス値として決定してもよい。あるいは、前記受電制御回路は、前記複数の値のうち、前記電力が最大になる値からシフトした他の値を前記動作インピーダンス値として決定してもよい。このように、「決定した前記値に基づく動作インピーダンス値」は、決定した前記値と同じでもよいし、同様の作用効果を奏し得る範囲で、前記値とは異なっていてもよい。
【0031】
本開示において、「アンテナ」は、アンテナ対間の電磁的な結合によって無線で電力を伝送または受電するための要素である。アンテナは、例えばコイル、または2つ以上の電極を含み得る。
【0032】
前記受電回路は、整流回路を含み得る。前記インピーダンス調整回路は、例えば、前記整流回路と前記負荷との間の伝送路に配置され得る。受電回路は、送電アンテナと整流回路との間に接続されたインピーダンス整合回路を含んでいてもよい。
【0033】
前記受電装置は、前記負荷に含まれる蓄電装置の充電および放電を制御する充放電制御回路をさらに備えていてもよい。前記インピーダンス調整回路は、前記整流回路と前記充放電制御回路との間に接続され得る。
【0034】
前記インピーダンス調整回路は、DC-DCコンバータ回路を含み得る。前記受電制御回路は、前記DC-DCコンバータ回路を制御することにより、前記入力インピーダンスを変化させることができる。例えば、受電制御回路は、DC-DCコンバータ回路に含まれるスイッチング素子のオン時間比を制御することにより、DC-DCコンバータ回路の入力インピーダンスを調整することができる。スイッチング素子のオン時間比は、スイッチング素子に入力する制御信号のデューティ比によって制御される。DC-DCコンバータ回路を用いることにより、入力インピーダンスを微小に変化させたり、多段階に変化させたりすることが容易にできる。
【0035】
前記受電装置は、前記インピーダンス調整回路の入力電力または前記インピーダンス調整回路の出力電力を検出する検出器をさらに備えていてもよい。前記受電制御回路は、前記検出器によって検出された前記電力の値に基づいて、前記インピーダンス調整回路を制御してもよい。前記検出器は、前記インピーダンス調整回路から離れた箇所の電力を検出するように構成されていてもよい。
【0036】
前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスの値を、例えば3つ以上の値の中から選択された値に順次変化させてもよい。前記受電制御回路は、検出された前記電力が最大になる前記入力インピーダンスの値を、山登り法によって決定してもよい。この場合、受電制御回路は、入力インピーダンスを徐々に増加または減少させながら受電回路内の電力をモニターし、電力が最大になる入力インピーダンスの値またはその近傍の値を動作インピーダンス値として決定する。
【0037】
前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスを前記複数の値のうちの初期値に設定してから前記電力が最大になる前記入力インピーダンスの値を決定するまでの動作を、例えば1秒よりも短い時間で実行する。ある例では、この動作は、例えば100ミリ秒よりも短い時間で実行され得る。このように短い時間で入力インピーダンスの最適値を決定することにより、入力インピーダンスが最適値に設定された状態での受電動作を早期に開始することができる。
【0038】
本開示の実施形態における無線電力伝送システムは、上記の受電装置と、送電装置とを備える。無線電力伝送システムは、例えば電界結合方式または磁界結合方式による無線電力伝送を行う。「電界結合方式」とは、2つ以上の送電電極と2つ以上の受電電極との間の電界結合によって電力を無線で伝送する方式を指す。「磁界結合方式」とは、送電コイルと受電コイルとの間の磁界結合によって電力を無線で伝送する方式を指す。電界結合方式による無線電力伝送システムにおいては、送電アンテナは、2つ以上の送電電極を含み、受電アンテナは、2つ以上の受電電極を含む。磁界結合方式による無線電力伝送システムにおいては、送電アンテナは、送電コイルを含み、受電アンテナは、受電コイルを含む。本明細書では、主に電界結合方式による無線電力伝送システムの実施形態を説明するが、本開示の各実施形態の構成は、磁界結合方式による無線電力伝送システムにも同様に適用することができる。
【0039】
前記送電装置は、送電アンテナと、前記送電アンテナに交流電力を供給する送電回路とを備える。ある実施形態において、前記送電回路は、前記送電アンテナに第1の交流電力を供給する低電力モードと、前記送電アンテナに前記第1の交流電力よりも高い第2の交流電力を供給する高電力モードで動作することが可能である。前記送電回路が前記低電力モードで動作している間、前記受電制御回路は、前記入力インピーダンスの値を、前記複数の値の中から選択された値に順次変化させ、前記複数の値の中から前記負荷に供給される電力が最大になる値を決定し、決定した前記値に基づく動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスを設定して維持する。前記送電回路は、前記動作インピーダンス値に前記入力インピーダンスが設定された後、前記低電力モードから前記高電力モードに切り替える。
【0040】
上記の構成によれば、受電装置がインピーダンスの最適値を決定するためにインピーダンスの値を順次変化させる動作が、比較的低い電力で実行される。その後、インピーダンスが最適値に設定され、より高い電力の送電が開始される。このような動作により、インピーダンスの変化に起因して回路間のインピーダンスの不整合が生じたとしても、回路素子に与えるダメージを低減させることができる。以下の説明において、低電力モードを「予備送電モード」と称し、高電力モードを「本送電モード」と称することがある。
【0041】
送電回路は、送電アンテナに接続されるインバータ回路と、インバータ回路に入力される電圧を調整するための電圧調整回路と、インバータ回路および電圧調整回路を制御する送電制御回路とを備え得る。送電制御回路は、電圧調整回路を制御することにより、低電力モードと高電力モードとを切り替えることができる。
【0042】
予備送電時の電力は、本送電時の電力の例えば1/10未満に設定され得る。ある例では、予備送電時の電力は、本送電時の電力の1/100未満に設定され得る。一例として、本送電時の定格電力が1kWである場合、予備送電時の電力は、例えば数W~数十W程度に設定され得る。
【0043】
電圧調整回路は、例えばインバータ回路と外部の直流電源との間に接続されたDC-DCコンバータ、またはインバータ回路と外部の交流電源との間に接続されたAC-DCコンバータを含み得る。送電制御回路は、DC-DCコンバータまたはAC-DCコンバータのスイッチング素子に入力する制御信号のデューティ比を制御することにより、インバータ回路に入力される電圧を調整することができる。これにより、予備送電時の電力を、本送電時の電力よりも小さくすることができる。
【0044】
無線電力伝送システムは、受電装置を含む移動体を備えていてもよい。移動体は、受電装置と、受電回路から出力された電力によって駆動される電気モータを備え得る。移動体は、さらに、二次電池またはキャパシタなどの蓄電装置を備えていてもよい。
【0045】
移動体は、前述のAGVのような車両に限定されず、電力によって駆動される任意の可動物体を意味する。移動体には、例えば、電気モータおよび1つ以上の車輪を備える電動車両が含まれる。そのような車両は、例えば、前述のAGV、電気自動車(Electric Vehicle:EV)、または電動カートであり得る。本開示における「移動体」には、車輪を有しない可動物体も含まれる。例えば、二足歩行ロボット、マルチコプターなどの無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV、所謂ドローン)、および有人の電動航空機も、「移動体」に含まれる。
【0046】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0047】
(実施形態)
図7は、本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示すブロック図である。無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体10とを備える。移動体10は、受電装置200と、蓄電装置である二次電池320と、駆動用電気モータ330と、モータ制御回路340とを備える。図7には、無線電力伝送システムの外部の要素である電源20も示されている。以下、二次電池320を単に「電池320」と称し、駆動用電気モータ330を、単に「モータ330」と称することがある。
【0048】
送電装置100は、送電アンテナとして機能する2つの送電電極120と、2つの送電電極120に交流電力を供給する送電回路110と、検出器190と、送電制御回路150とを備える。検出器190は、送電回路110内の電圧および電流を検出する。送電制御回路150は、検出器190の出力に基づき、送電回路110を制御する。
【0049】
受電装置200は、受電アンテナとして機能する2つの受電電極220と、受電回路210と、インピーダンス調整回路270と、検出器240と、受電制御回路250と、充放電制御回路290とを備える。2つの受電電極220は、2つの送電電極120にそれぞれ対向した状態で、送電電極120から交流電力を受け取る。受電回路210は、受電電極220が受け取った交流電力を直流電力に変換して出力する。インピーダンス調整回路270は、受電回路210と充放電制御回路290との間に接続されている。検出器240は、インピーダンス調整回路270の入力電力を検出する。受電制御回路250は、検出器240の検出結果に基づいて、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを制御する。充放電制御回路290は、二次電池320の充電状態を監視し、充電および放電を制御する。充放電制御回路290は、バッテリーマネジメントユニット(BMU)とも称される。充放電制御回路290は、過充電、過放電、過電流、高温、または低温などの状態から二次電池320のセルを保護する機能も有する。
【0050】
以下、各構成要素をより具体的に説明する。
【0051】
電源20は、例えば商用の交流電源であり得る。電源20は、例えば、電圧100V、周波数50Hzまたは60Hzの交流電力を出力する。送電回路110は、電源20から供給された交流電力を、より高電圧かつ高周波数の交流電力に変換して一対の送電電極120に供給する。
【0052】
二次電池320は、例えばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの、充電可能な電池である。移動体10は、二次電池320に蓄えられた電力によってモータ330を駆動して移動することができる。二次電池320に代えて、蓄電用のキャパシタを用いてもよい。例えば電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタなどの、高容量かつ低抵抗のキャパシタを利用することができる。
【0053】
移動体10が移動すると、二次電池320の蓄電量が低下する。このため、移動を継続するためには、再充電が必要になる。そこで、移動体10は、移動中に充電量が所定の閾値を下回ると、送電装置100まで移動し、充電を行う。
【0054】
モータ330は、例えば永久磁石同期モータ、誘導モータ、ステッピングモータ、リラクタンスモータ、直流モータなどの、任意のモータであり得る。モータ330は、シャフトおよびギア等の伝達機構を介して移動体10の車輪を回転させ、移動体10を移動させる。
【0055】
モータ制御回路340は、モータ330を制御して移動体10に所望の動作を実行させる。モータ制御回路340は、モータ330の種類に応じて設計されたインバータ回路などの各種の回路を含み得る。
【0056】
本実施形態における各移動体10の筐体、送電電極120、および受電電極220のそれぞれのサイズは、特に限定されないが、例えば以下のサイズに設定され得る。各送電電極120の長さ(図1におけるY方向のサイズ)は、例えば50cm~20mの範囲内に設定され得る。各送電電極120の幅(図1におけるX方向のサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。移動体10の筐体の進行方向および横方向におけるそれぞれのサイズは、例えば、20cm~5mの範囲内に設定され得る。各受電電極220の長さは、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。各受電電極220aの幅は、例えば2cm~2mの範囲内に設定され得る。2つの送電電極間のギャップ、および2つの受電電極間のギャップは、例えば1mm~40cmの範囲内に設定され得る。但し、これらの数値範囲に限定されない。
【0057】
図8は、送電回路110および受電回路210のより具体的な構成例を示す図である。送電回路110は、AC-DCコンバータ回路140と、DC-DCコンバータ回路130と、DC-ACインバータ回路160と、整合回路180とを含む。以下の説明では、AC-DCコンバータ回路140を「コンバータ140」と称することがある。DC-DCコンバータ回路130を「DC-DCコンバータ130」と称することがある。DC-ACインバータ回路160を「インバータ160」と称することがある。
【0058】
コンバータ140は、交流電源20に接続される。コンバータ140は、交流電源20から出力された交流電力を直流電力に変換して出力する。インバータ160は、コンバータ140に接続され、コンバータ140から出力された直流電力を、比較的高い周波数の交流電力に変換して出力する。DC-DCコンバータ130は、インバータ160に入力される電圧を調整する回路である。DC-DCコンバータ130は、送電制御回路150からの指令に応答して、インバータ160に入力する電圧を変化させる。整合回路180は、インバータ160と送電電極120との間に接続され、インバータ160と送電電極120とのインピーダンスを整合させる。送電電極120は、整合回路180から出力された交流電力を空間に送出する。
【0059】
受電電極220は、送電電極120と電界結合し、送電電極120から送出された交流電力の少なくとも一部を受け取る。整合回路280は、受電電極220と整流回路260との間に接続され、受電電極220と整流回路260とのインピーダンスを整合させる。整流回路260は、整合回路280から出力された交流電力を直流電力に変換して出力する。整流回路260から出力された直流電力は、インピーダンス調整回路270に送られる。
【0060】
図示される例では、送電装置100における整合回路180は、インバータ160に接続された直列共振回路180sと、送電電極120に接続され、直列共振回路180sと誘導結合する並列共振回路180pとを含む。直列共振回路180sは、第1のコイルL1と第1のキャパシタC1とが直列に接続された構成を有する。並列共振回路180pは、第2のコイルL2と第2のキャパシタC2とが並列に接続された構成を有する。第1のコイルL1と第2のコイルL2とは、所定の結合係数で結合する変圧器を構成する。第1のコイルL1と第2のコイルL2との巻数比は、所望の昇圧比を実現する値に設定される。整合回路180は、インバータ160から出力される数十から数百V程度の電圧を、例えば数kV程度の電圧に昇圧する。
【0061】
受電装置200における整合回路280は、受電電極220に接続された並列共振回路280pと、整流回路260に接続され、並列共振回路280pと誘導結合する直列共振回路280sとを有する。並列共振回路280pは、第3のコイルL3と第3のキャパシタC3とが並列に接続された構成を有する。受電装置200における直列共振回路280sは、第4のコイルL4と第4のキャパシタC4とが直列に接続された構成を有する。第3のコイルL3と第4のコイルL4とは、所定の結合係数で結合する変圧器を構成する。第3のコイルL3と第4のコイルL4との巻数比は、所望の降圧比を実現する値に設定される。整合回路280は、受電電極220が受け取った数kV程度の電圧を、例えば数十から数百V程度の電圧に降圧する。
【0062】
共振回路180s、180p、280p、280sにおける各コイルは、例えば、回路基板上に形成された平面コイルもしくは積層コイル、または、銅線、リッツ線、もしくはツイスト線などを用いた巻き線コイルであり得る。共振回路180s、180p、280p、280sにおける各キャパシタには、例えばチップ形状またはリード形状を有するあらゆるタイプのキャパシタを利用できる。空気を介した2配線間の容量を各キャパシタとして機能させることも可能である。各コイルが有する自己共振特性をこれらのキャパシタの代わりに用いてもよい。
【0063】
共振回路180s、180p、280p、280sの共振周波数f0は、典型的には、電力伝送時の伝送周波数f1に一致するように設定される。共振回路180s、180p、280p、280sの各々の共振周波数f0は、伝送周波数f1に厳密に一致していなくてもよい。各々の共振周波数f0は、例えば、伝送周波数f1の50~150%程度の範囲内の値に設定されていてもよい。電力伝送の周波数f1は、例えば50Hz~300GHz、ある例では20kHz~10GHz、他の例では20kHz~20MHz、さらに他の例では80kHz~14MHzに設定され得る。
【0064】
本実施形態では、送電電極120と受電電極220との間は空隙であり、その距離は比較的長い(例えば、10mm程度)。そのため、電極間のキャパシタンスCm1、Cm2は非常に小さく、送電電極120および受電電極220のインピーダンスは、例えば数kΩ程度と非常に高い。これに対し、インバータ160および整流回路260のインピーダンスは、例えば数Ω程度と低い。本実施形態では、送電電極120および受電電極220に近い側に並列共振回路180p、280pがそれぞれ配置され、インバータ160および整流回路260に近い側に直列共振回路180s、280sがそれぞれ配置される。このような構成により、インピーダンスの整合を容易に行うことができる。直列共振回路は、共振時にインピーダンスがゼロ(0)になるため、低いインピーダンスとの整合に適している。一方、並列共振回路は、共振時にインピーダンスが無限大になるため、高いインピーダンスとの整合に適している。よって、図8に示す構成のように、低いインピーダンスの回路側に直列共振回路を配置し、高いインピーダンスの電極側に並列共振回路を配置することにより、インピーダンス整合を容易に実現することができる。
【0065】
なお、送電電極120と受電電極220との間の距離を短くしたり、間に誘電体を配置したりした構成では、電極のインピーダンスが低くなるため、上記のような非対称な共振回路の構成にする必要はない。また、インピーダンス整合の問題がない場合は、整合回路180、280の一方または両方を省略してもよい。整合回路180を省略する場合、インバータ160と送電電極120とが直接接続される。整合回路280を省略する場合、整流回路260と受電電極220とが直接接続される。本明細書においては、整合回路180を設けた構成であっても、インバータ160と送電電極120とが接続されているものと解釈する。同様に、整合回路280を設けた構成であっても、整流回路260と受電電極220とが接続されているものと解釈する。
【0066】
図9Aは、インバータ160の構成例を模式的に示す図である。この例では、インバータ160は、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ型のインバータ回路である。各スイッチング素子は、例えばIGBTまたはMOSFET等のトランジスタスイッチであり得る。送電制御回路150は、例えば、各スイッチング素子のオン(導通)およびオフ(非導通)の状態を制御する制御信号を出力するゲートドライバと、ゲートドライバに制御信号を出力させるマイクロコントローラユニット(MCU)とを含み得る。図示されるフルブリッジ型のインバータの代わりに、ハーフブリッジ型のインバータ、または、E級などの発振回路を用いてもよい。
【0067】
図9Aに示すように、インバータ160から出力される電流および電圧を、それぞれIresおよびVswとする。電流Iresおよび電圧Vswは、図7に示す検出器190によって検出される。検出器190は、送電動作が行われている間、電流Iresおよび電圧Vswを、例えば一定の時間ごとに検出する。
【0068】
図9Bは、整流回路260の構成例を模式的に示す図である。この例では、整流回路260は、ダイオードブリッジと平滑コンデンサとを含む全波整流回路である。整流回路260は、他の整流器の構成を有していてもよい。整流回路260は、受け取った交流エネルギーを電池320などの負荷が利用可能な直流エネルギーに変換する。
【0069】
図10は、インピーダンス調整回路270の構成例を示す図である。この例におけるインピーダンス調整回路270は、DC/DCコンバータである。このDC/DCコンバータは、2つのスイッチング素子(ハイサイドスイッチSW1およびローサイドスイッチSW2)と、2つのコンデンサと、リアクトルとを含む降圧コンバータ(バックコンバータ)である。受電制御回路250は、ハイサイドスイッチSW1およびローサイドスイッチSW2のそれぞれのオン時間比、すなわちデューティ比を調整することにより、入力インピーダンスを微調整することが可能である。伝送状態が大きく変動しない範囲でインピーダンスを調整することができるので、伝送状態の変動に伴う回路への影響を抑制することができる。受電制御回路250は、例えば、各スイッチング素子のオンおよびオフの状態を制御する制御信号を出力するゲートドライバと、ゲートドライバに制御信号を出力させるマイクロコントローラユニット(MCU)とを含み得る。なお、図10に示す構成は一例に過ぎず、要求される機能または特性に応じて回路構成を変更してもよい。
【0070】
本実施形態における検出器240は、インピーダンス調整回路270の入力電力を検出する。検出器240は、電流検出器と電圧検出器とを含み得る。検出器240は、インピーダンス調整回路270に入力される電圧および電流を検出し、それらの検出値の積を電力の値とする。受電制御回路250は、予備送電モードにおいて、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを複数回変化させ、検出された電力の値が最大になる入力インピーダンスの状態を決定する。そして、決定した入力インピーダンスの状態を維持し、受電を継続する。インピーダンスの調整が完了すると、送電装置100の送電制御回路150は、予備送電モードから本送電モードに切り替える。
【0071】
送電制御回路150は、検出器190によって検出されたインバータ160の出力電圧Vswおよび出力電流Iresの変化に基づいて、受電装置200内のインピーダンスの変化を検出することができる。これにより、送電制御回路150は、受電制御回路250によるインピーダンスの調整が完了したことを検出することができる。
【0072】
インピーダンス調整回路270が入力インピーダンスを変化させると、送電回路110内の電流および電圧の状態が変化する。送電装置100は、その変化に基づいて、入力インピーダンスの変化を検知することができる。例えば図10に示すスイッチSW1がオンからオフに変化し、スイッチング動作を停止し、オープンの状態になると、無線電力伝送の状態が変化し、送電回路110内のインバータ160の出力電圧と出力電流との位相差が変化する。具体的には、オープンの状態では、有効電力と無効電力とが等しくなる位相差90°になる。図10に示すような降圧DC/DCコンバータを用いてインピーダンスを微小に調整すれば、90°以下の範囲で位相差を変化させることができる。
【0073】
図11は、送電回路110内のインバータ160の出力電圧Vswと出力電流Iresの波形の一例を示す図である。インピーダンス調整回路270がインピーダンスを変化させると、図11に示すように、電圧反転タイミングtvと、電流反転タイミングtiとの差Δtが変化する。送電制御回路150は、この時間差Δtすなわち位相差を一定時間毎に計算することにより、入力インピーダンスの変化を検知することができる。
【0074】
図12は、送電装置100における検出器190および送電制御回路150の構成例を示す図である。図11の例における検出器190は、出力電圧Vswを検出し小信号の電圧信号に変換する検出回路191と、電圧位相検出用のコンパレータ192と、出力電流Iresを検出し小信号の電圧信号に変換する検出回路193と、電流位相検出用のコンパレータ194とを含む。送電制御回路150は、MCU154を含む。検出回路191は、インバータ160の出力電圧Vswを、分圧抵抗によって小さい信号の交流パルスに変換する。コンパレータ192は、信号反転タイミングでHighとLowとを切り替えて出力する。その結果、小振幅の電圧パルスが出力される。コンパレータ194は、検出回路193から出力された電流波形の正負を検出し、小振幅の電圧パルスとして出力する。これら電圧パルスは、MCU154に入力される。MCU154は、コンパレータ192から出力された電圧パルスと、コンパレータ194から出力された電圧パルスのそれぞれのエッジを検出してそれぞれの位相を検出し、両者の位相差を計算する。なお、上記の位相差の検出方法は一例に過ぎない。
【0075】
送電制御回路150は、予備送電モードによる送電を開始すると、インバータ160の出力電圧Vswと出力電流Iresとの位相差を一定時間ごとに計算する。この位相差は、受電装置200におけるインピーダンス調整が行われている間、短い時間間隔で変化する。インピーダンス調整が完了すると、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスが最適値に固定されるため、位相差もある値で固定される。送電制御回路150は、位相差が一定時間変化せず固定されたと判断すると、予備送電モードを停止し、より高電力の本送電モードを開始する。
【0076】
受電制御回路250は、インピーダンスの調整が完了したときに、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを、予め定められたパターンで変化させた上で最適値に設定してもよい。これにより、送電制御回路150は、インピーダンスの調整が完了したことを、より正確に判断することができる。
【0077】
また、送電制御回路150は、インバータ160の出力電圧Vswと出力電流Iresの位相差を検知する代わりに、インバータ160の入力直流電流の変化を計測し、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスの変化を検知してもよい。
【0078】
送電制御回路150は、DC-DCコンバータ130を制御することにより、予備送電モードと本送電モードとを切り替えることができる。DC-DCコンバータ130は、図10に示すインピーダンス調整回路270におけるDC-DCコンバータと同様の回路構成を備え得る。DC-DCコンバータ130は、予備送電時の電力を本送電時の電力よりも小さくする電圧調整回路としての役割を果たす。送電制御回路150がDC-DCコンバータ130のスイッチング素子に入力する制御信号のデューティ比すなわちオン時間比を調整することにより、DC-DCコンバータ130から出力される電圧を調整することができる。これにより、インバータ160に入力される電圧が、予備送電時においては、本送電時よりも小さくなるように調整される。
【0079】
DC-DCコンバータ130は、図10に示すような非絶縁型DC-DCコンバータに限られず、絶縁型DC-DCコンバータであってもよい。絶縁型DC-DCコンバータは、比較的高い効率で大きく降圧することができる。これに対し、非絶縁型DC-DCコンバータは、デューティ比を制御することにより、出力電圧を微調整することができる。用途または目的に応じてDC-DCコンバータの種類を適宜選択することができる。絶縁型DC-DCコンバータと非絶縁型DC-DCコンバータとを直列に接続して使用してもよい。予備送電と本送電で、インバータ160に入力される電圧が大きく異なる場合は、予備送電用のDC-DCコンバータと、本送電用のDC-DCコンバータとを並列に設置し、送電モードに応じて切替えて動作させてもよい。例えば、これらのDC-DCコンバータが絶縁型DC-DCコンバータである場合、予備送電用のDC-DCコンバータと本送電用のDC-DCコンバータとで絶縁トランスの巻き線の巻き数比が異なる。
【0080】
DC-DCコンバータ130の代わりに、AC-DCコンバータ140が出力DC電圧を調整できるように構成されていてもよい。その場合、DC-DCコンバータ130を省略することができる。
【0081】
図13は、充放電制御回路290の構成例を示す図である。この例における充放電制御回路290は、セルバランス制御器291と、アナログフロントエンドIC(AFE-IC)292と、サーミスタ293と、電流検出抵抗294と、MCU295と、通信用ドライバIC296と、保護FET297とを含む。セルバランス制御器291は、複数のセルを含む二次電池320のそれぞれのセルの蓄電エネルギーを均一化する回路である。AFE-IC292は、サーミスタ293によって計測されたセル温度と、電流検出抵抗294が検出した電流とに基づいて、セルバランス制御器291および保護FET297を制御する回路である。MCU295は、通信用ドライバIC296を介した他の回路との通信を制御する回路である。なお、図13に示す構成は一例に過ぎず、要求される機能または特性に応じて回路構成を変更してもよい。
【0082】
次に、本実施形態における送電装置100および受電装置200の動作を説明する。
【0083】
送電装置100は、移動体10が送電装置100から受電できる位置に到達したかを検知する機能を有する。例えば、センサーまたは外部の管理装置から送信される信号に基づいて、移動体10の接近を検知することができる。移動体10が受電可能な位置まで到達すると、送電装置100は、予備送電すなわち低電力モードによる送電を開始する。
【0084】
図14は、送電装置100による予備送電の開始から本送電の開始までの動作の一例を示すフローチャートである。この例では、送電制御回路150は、まず、予め設定された周波数で予備送電を開始する(ステップS101)。具体的には、送電制御回路150は、DC-DCコンバータ130を予備送電モードで駆動し、インバータ160の各スイッチング素子を予め設定された周波数で駆動する。ここで、予備送電モードは、本送電時よりも低い電圧をDC-DCコンバータ130から出力させるモードである。送電制御回路150は、例えば、DC-DCコンバータ130のスイッチング素子に入力する制御信号のデューティ比すなわちオン時間比を、本送電時のデューティ比よりも小さくすることにより、インバータ160に入力される電圧を低くする。予備送電モードでは、本送電モードと比較して、例えば20分の1から3分の1の低い電圧がインバータ160に入力される。このように、低い電力で予備送電を行うことにより、予備送電時のインピーダンスの不整合に起因する回路素子からの発熱および損傷のリスクを低減することができる。ただし、回路素子の発熱および損傷のリスクが小さければ、予備送電モードの電圧を、本送電モードの電圧と同じにしてもよい。それぞれのモードの動作を同じ電圧で行うことにより、電圧切替えステップを削減でき、制御を簡略化することができる。
【0085】
予備送電中、検出器190は、インバータ160の出力電圧Vswおよび出力電流Iresを計測する(ステップS102)。送電制御回路150は、計測された出力電圧Vswと出力電流Iresとの位相差を算出し、記録媒体(例えばメモリ)に記録する(ステップS103)。次に、送電制御回路150は、位相差が変化したか否かを判断する(ステップS104)。この判断は、例えば、位相差の変化の大きさが所定の閾値よりも大きいか否かに基づいて行われ得る。ステップS104において、Yesと判断されるまで、ステップS102~S104の動作が繰り返される。
【0086】
ステップS104は、受電装置200においてインピーダンスの調整が開始されたか否かを判断するために行われる。ステップS104においてYesと判断されると、検出器190は、再度、インバータ160の出力電圧Vswおよび出力電流Iresを計測する(ステップS105)。送電制御回路150は、計測された出力電圧Vswと出力電流Iresとの位相差を算出し、記録媒体(例えばメモリ)に記録する(ステップS106)。そして、送電制御回路150は、位相差の変化が停止したか否かを判断する(ステップS107)。送電制御回路150は、例えば、位相差が所定の小さい範囲内にある状態が一定時間以上継続した場合には、位相差の変化が停止したと判断することができる。ステップS107においてYesと判断されるまで、ステップS105~S107の動作が繰り返される。
【0087】
ステップS107は、受電装置200においてインピーダンスの調整が完了してインピーダンスが最適値に設定されたか否かを判断するために行われる。ステップS107において位相差の変化が停止したと判断されると、送電制御回路150は、低電力モードによる予備送電を停止し、高電力モードによる本送電を開始する(ステップS108)。送電制御回路150は、例えば、DC-DCコンバータ130のスイッチング素子のオン時間比を大きくしてインバータ160の入力電圧を増加させることによって予備送電から本送電に切り替えることができる。
【0088】
図15は、予備送電中の受電装置200の動作の一例を示すフローチャートである。この例では、予備送電が開始されると、受電制御回路250は、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを、複数の状態の中から選択した初期値に設定する(ステップS201)。言い換えれば、受電制御回路250は、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを決定する制御パラメータを初期値に設定する。制御パラメータは、例えば、インピーダンス調整回路270に含まれるDC-DCコンバータのスイッチング素子に入力する制御信号のデューティ比または周波数などの値であり得る。制御パラメータの初期値は、例えば、予め設定された範囲内で最低または最高の値に設定されてもよいし、当該範囲内の中央値またはそれ以外の規定値であってもよい。
【0089】
受電制御回路250は、検出器240を介して電力を計測し、その値を、制御パラメータの値と関連付けて記録媒体に記録する(ステップS202)。電力は、検出器240によって計測された電圧および電流の積から求めることができる。受電制御回路250は、予め設定された複数のインピーダンス状態の全てについて、電力の計測および記録が終了したかを判断する(ステップS203)。この判断がNoの場合、受電制御回路250は、制御パラメータの値を変更することによって入力インピーダンスの値を変更する(ステップS204)。例えば、予め設定された範囲内で最低または最高の値が制御パラメータの初期値として設定されている場合、微小な一定の量を加えたり減じたりすることによって制御パラメータの値を変更してもよい。ステップS202~S204の動作は、ステップS203においてYesと判断されるまで繰り返される。
【0090】
ステップS203においてYesと判断されると、受電制御回路250は、記録された複数の制御パラメータの値の中から、電力が最大になる入力インピーダンスの状態を定める値を決定する(ステップS211)。そして、決定した値またはその近傍の値でインピーダンス調整回路270を駆動し、入力インピーダンスを最適値に設定して維持する(ステップS212)。その後、送電装置100は、予備送電モードから本送電モードに切り替え、最適なインピーダンス状態で電力伝送が実行される。
【0091】
以上の動作により、複数のインピーダンス状態の中から、最も高い効率で電力伝送を実行することができるインピーダンス状態を決定し、本送電を実行することができる。上記のような動作を本送電の開始前に行うことにより、電極間の容量または負荷の状態が送電の度に異なり得る場合でも、伝送効率の低下を抑制することができる。
【0092】
予備送電において設定される入力インピーダンスの値、言い替えれば制御パラメータの値は、2以上の任意の数であり得る。候補となる入力インピーダンスの値の数が多いほど、入力インピーダンスをより適切な値に設定できる可能性が高くなるが、本送電の開始までに要する時間が長くなる。予備送電において設定される入力インピーダンスの値の数は、本送電の開始までに許容される遅延時間に依存して決定される。例えば、許容される遅延時間が100ミリ秒の場合、100ミリ秒よりも短い時間で入力インピーダンスを決定できる程度の数の制御パラメータが選択される。許容される時間が30ミリ秒程度であり、1つの制御パラメータの値について電力の計測に要する時間が約10ミリ秒である場合は、3つの制御パラメータの値についてのみ電力を計算し、その中から最適な値を決定するようにしてもよい。
【0093】
予備送電時に切り替えられる複数の入力インピーダンス値は、様々な方法で決定することができる。例えば、受電回路210に接続された負荷の値および電極間容量がそれぞれの設計値に一致する場合に負荷に入力される電力がピークになる制御パラメータの値を基準値として予め決定しておき、基準値と、当該基準値よりも低い1つ以上の値と、当該基準値よりも高い1つ以上の値とを、予備送電時に設定される制御パラメータの値としてもよい。最適な入力インピーダンスの値を決定する動作は、本送電の開始前に行うだけでなく、本送電中に行ってもよい。特に、本送電の時間が長い場合、本送電中にアンテナ間の結合状態または負荷状態が変化する可能性が高くなるため、より適したインピーダンス値に変更する動作を送電中に導入する利点がある。
【0094】
図15の例では、予め設定された複数の入力インピーダンス値の全てについて電力が計測され、電力が最も大きくなる入力インピーダンス値が本送電時の入力インピーダンス値として決定される。このような動作に限定されず、他の方法によって最適な入力インピーダンス値を決定してもよい。例えば、計測された電力が極大になるインピーダンス値または制御パラメータの値を山登り法によって探索し、その値を最適値としてもよい。
【0095】
図16は、山登り法によって電力が極大になるインピーダンス状態を決定する動作の一例を示すフローチャートである。この例では、まず受電制御回路250は、インピーダンス調整回路270の入力インピーダンスを所定範囲で最小の値に設定する。先の例と同様、受電制御回路250は、検出器240を介してインピーダンス調整回路270の入力電力を計測し、その値を制御パラメータの値と関連付けて記録する(ステップS222)。次に、受電制御回路250は、電力が前回の電力(初回時には十分小さい所定値)と比べて増加したか否かを判断する(ステップS223)。ステップS223の判断がYesである場合、受電制御回路250は、制御パラメータの値を所定量だけ変化させることにより、入力インピーダンスを一定量増加させる(ステップS224)。ステップS222~S224の動作が、ステップS223においてYesと判断されるまで繰り返される。
【0096】
ステップS223の判断がYesである場合、受電制御回路250は、今回計測した電力と、これまでに計測した電力の最大値との差が閾値以上であるかを判断する(ステップS225)。このステップは、電力が実際には極大ではないにもかかわらず、ノイズその他の原因によって極大であると誤判定されることを防止するために行われる。閾値は、ノイズによる信号の揺らぎよりも十分に大きい適切な値に予め設定される。
【0097】
ステップS225においてYesと判断されると、受電制御回路250は、記録された複数の制御パラメータの値の中から、電力が最大になる入力インピーダンスの状態を定める値またはその近傍の値を決定する(ステップS231)。そして、決定した値でインピーダンス調整回路270を駆動し、入力インピーダンスを最適値に設定して維持する(ステップS232)。
【0098】
図16の動作によれば、電力が極大になる入力インピーダンスの状態が特定された時点で予備送電が終了し、本送電に移行する。このため、比較的短い時間で本送電を開始することができる。
【0099】
図16の例では、入力インピーダンスの初期値が、予め設定された範囲内の最小の値に設定されるが、当該範囲内の最大の値に設定されてもよい。その場合、ステップS224において、受電制御回路250は、入力インピーダンスを一定量だけ減少させる動作を行う。なお、ステップS224において、入力インピーダンスを一定量だけ変化させるのではなく、予め設定された基準値との差に応じて、変化量を変更してもよい。例えば、電極間容量および負荷の値が設計値どおりである場合に効率が最も高くなるインピーダンス値を基準値として、基準値に近づくにつれて入力インピーダンスの変化量を単調に減少させ、基準値から遠ざかるにつれて入力インピーダンスの変化量を単調に増加させてもよい。
【0100】
本送電時の動作インピーダンス値は、電力が計測された複数の入力インピーダンス値のうち、電力が最大になる値と一致していなくてもよい。本実施形態の作用効果を奏し得る範囲で、上記値とは異なる値を動作インピーダンス値に設定してもよい。
【0101】
図14から図16に示す動作は例示にすぎず、実際の応用にあたっては、適宜変形を加えてもよい。本実施形態では、検出器240は、インピーダンス調整回路270の入力電力を検出するが、そのような形態に限定されない。例えば、検出器240は、インピーダンス調整回路270の出力電力、または受電装置200内の他の箇所の電力を検出してもよい。また、インピーダンス調整回路270は、受電回路210と充放電制御回路290との間に限らず、他の箇所に配置されていてもよい。
【0102】
図17Aから図17Dは、インピーダンス調整回路270の配置のバリエーションを示す図である。図17Aは、インピーダンス調整回路270が受電電極220と受電回路210との間に配置されている例を示している。図17Bは、インピーダンス調整回路270が受電回路210内の整合回路280と整流回路260との間に配置されている例を示している。図17Cは、インピーダンス調整回路270が受電回路210内の整流回路260と充放電制御回路290との間に配置されている例を示している。図17Dは、インピーダンス調整回路270が充放電制御回路290と電池320との間に配置されている例を示している。このように、インピーダンス調整回路270は、2つの受電電極と負荷との間の伝送路の任意の箇所に配置され得る。しかし、上記の実施形態のように、図17Cの配置を採用した場合には、以下の利点がある。
・比較的低電圧の直流電圧が印加される箇所のインピーダンスを調整するだけでよいため、インピーダンス調整回路270の構成および制御を簡単にすることができる。
・充放電制御回路290による充電制御に影響を及ぼさずにインピーダンスを調整できる。
【0103】
以上の実施形態では、送電電極120は、地面に敷設されているが、送電電極120は、壁などの側面、または天井などの上面に敷設されていてもよい。送電電極120が敷設される場所および向きに応じて、移動体10の受電電極220の配置および向きが決定される。
【0104】
図18Aは、送電電極120が壁などの側面に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の側方に配置される。図18Bは、送電電極120が天井に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体10の天板に配置される。これらの例のように、送電電極120および受電電極220の配置には様々な変形が可能である。
【0105】
図19は、コイル間の磁界結合によって電力が無線伝送されるシステムの構成例を示す図である。この例では、図7に示す送電電極120の代わりに送電コイル121が設けられ、受電電極220の代わりに受電コイル122が設けられている。受電コイル122が送電コイル121に対向した状態で、送電コイル121から受電コイル221に電力が無線で伝送される。このような構成であっても、前述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
本開示の実施形態における無線電力伝送システムは、前述のように、工場内における物品の搬送用のシステムとして利用され得る。移動体10は、物品を積載する荷台を有し、工場内を自律的に移動して物品を必要な場所に搬送する台車として機能する。しかし、本開示における無線電力伝送システムおよび移動体は、このような用途に限らず、他の様々な用途に利用され得る。例えば、移動体は、AGVに限らず、他の産業機械、サービスロボット、電気自動車、マルチコプター(ドローン)等であってもよい。無線電力伝送システムは、工場内に限らず、例えば、店舗、病院、家庭、道路、滑走路その他のあらゆる場所で利用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示の技術は、電力によって駆動される任意の機器に利用できる。例えば、無人搬送車(AGV)などの電動車両に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0108】
10 移動体
20 電源
30 床面
100 送電装置
110 送電回路
120、120a、120b 送電電極
130 DC-DCコンバータ回路
140 AC-DCコンバータ回路
150 送電制御回路
160 DC-ACインバータ回路
180 整合回路
180s 直列共振回路
180p 並列共振回路
190 検出器
200 受電装置
210 受電回路
220、220a、220b 受電電極
240 検出器
250 受電制御回路
260 整流回路
270 インピーダンス調整回路
280 整合回路
280p 並列共振回路
280s 直列共振回路
290 充放電制御回路
310 蓄電装置
320 二次電池
330 電気モータ
340 モータ制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D
図18A
図18B
図19