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特許7373806電池状態推定装置、電池状態推定方法、及び電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】電池状態推定装置、電池状態推定方法、及び電池システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/385 20190101AFI20231027BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231027BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20231027BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231027BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231027BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
G01R31/385
G01R31/367
G01R31/378
H01M10/48 P
H01M4/36 E
H02J7/00 X
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020561218
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2019044534
(87)【国際公開番号】W WO2020129477
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018236657
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】西川 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 透
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-31795(JP,A)
【文献】特表2015-527566(JP,A)
【文献】特表2017-501374(JP,A)
【文献】特開2017-62191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0300377(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルの電圧を計測する電圧計測部と、
前記電池セルに流れる電流を計測する電流計測部と、
前記電圧計測部により計測された電圧と、前記電流計測部により計測された電流と、前記電池セルの電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セルのOCV(Open Circuit Voltage)を推定する制御部と、を備え、
前記電池セルの負極は、複数の材料を含む混合負極であり、
前記等価回路モデルは、前記電池セルの正極および前記電池セルの負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであり、
前記等価回路モデルの負極は、前記複数の材料ごとに形成された等価回路の並列回路で表現され、
各等価回路は、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする電池状態推定装置。
【請求項2】
前記負極は、グラファイトとシリコンを含む混合負極であり、
前記等価回路モデルの負極は、前記グラファイトの等価回路と前記シリコンの等価回路の並列回路で表現され、
前記グラファイトの等価回路と前記シリコンの等価回路はそれぞれ、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電池セルの充放電終了後、前記電圧計測部により計測された電圧と、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとの拡散抵抗成分にかかる複数の分極電圧をもとに、前記電池セルのOCVを推定することを特徴とする請求項1または2に記載の電池状態推定装置。
【請求項4】
電池セルの電圧を計測するステップと、
前記電池セルに流れる電流を計測するステップと、
計測された電圧と、計測された電流と、前記電池セルの電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セルのOCV(Open Circuit Voltage)を推定するステップと、を有し、
前記電池セルの負極は、複数の材料を含む混合負極であり、
前記等価回路モデルは、前記電池セルの正極および前記電池セルの負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであり、
前記等価回路モデルの負極は、前記複数の材料ごとに形成された等価回路の並列回路で表現され、
各等価回路は、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする電池状態推定方法。
【請求項5】
電池セルと、
前記電池セルの電圧を計測する電圧計測部と、
前記電池セルに流れる電流を計測する電流計測部と、
前記電圧計測部により計測された電圧と、前記電流計測部により計測された電流と、前記電池セルの電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セルのOCV(Open Circuit Voltage)を推定する制御部と、を備え、
前記電池セルの負極は、複数の材料を含む混合負極であり、
前記等価回路モデルは、前記電池セルの正極および前記電池セルの負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであり、
前記等価回路モデルの負極は、前記複数の材料ごとに形成された等価回路の並列回路で表現され、
各等価回路は、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池などの電池セルの状態を推定する電池状態推定装置、電池状態推定方法、及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの二次電池では、SOC(State Of Charge)を精度よく推定することが求められる。SOCは一般的に、OCV(Open Circuit Voltage)と一意に紐付けられる。特に、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)などの電動車両に搭載される二次電池は、航続可能距離を正確に把握するためにも、SOC、及びSOCを求めるためのOCVを精度よく推定することが重要となる。
【0003】
二次電池は電気化学製品であり、二次電池に充電電流が流れると非線形に計測電圧が上昇し、二次電池に放電電流が流れると非線形に計測電圧が降下する。二次電池に電流が流れているときに計測される電圧を、CCV(Closed Circuit Voltage)または作動電圧という。一般的なリチウムイオン電池セルでは充放電の終了後、計測電圧は30秒程度で、過電圧成分を含まないOCV付近に収束する。従って、充放電終了から30秒経過後の計測電圧をOCVとして扱っても、OCVの精度は保たれていた。
【0004】
近年、シリコン(Si)を混合した負極を使用したリチウムイオン電池セルが開発されている。当該リチウムイオン電池セルでは、分極の解消時間が一般的なセルより長くかかり、充放電終了後、OCVに収束するまでに10時間以上を要する。この場合、電動車両の使用中にOCVを計測することができず、SOCの推定精度が低下する。また一般的な電池セルであっても、低温時や劣化が進行した状態では、OCVに収束する時間が通常より長くなる。
【0005】
二次電池をOCV、負極、正極、拡散の等価回路でモデル化し、分極(拡散)特性を推定し、OCVを推定する手法が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-102111号公報
【文献】特開2017-162661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の等価回路モデルでは、複数材料が混合された電極が使用される場合、OCVの推定精度が低下していた。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、複数材料が混合された電極が使用された二次電池のOCVの推定精度を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の電池状態推定装置は、電池セルの電圧を計測する電圧計測部と、前記電池セルに流れる電流を計測する電流計測部と、前記電圧計測部により計測された電圧と、前記電流計測部により計測された電流と、前記電池セルの電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セルのOCV(Open Circuit Voltage)を推定する制御部と、を備える。前記電池セルの正極および負極の少なくとも一方は、複数の材料を含む混合電極であり、前記等価回路モデルは、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルである。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数材料が混合された電極が使用された二次電池のOCVの推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一般的な電池セルの等価回路モデルの一例を示す図である。
図2】本実施の形態に係る電池セルの等価回路モデルの第1の例を示す図である。
図3】本実施の形態に係る電池セルの等価回路モデルの第2の例を示す図である。
図4図4(a)、(b)は、グラファイト(C)負極のQ-OCVカーブと、一酸化シリコン(SiO)負極のQ-OCVカーブの一例を示す図である。
図5】グラファイト(C)とシリコン(Si)の混合負極を使用したリチウムイオン電池セルのSOC-OCVカーブの一例を示す図である。
図6図6(a)、(b)は、Xc(t)の推移を説明するための図である。
図7図7(a)、(b)は、充電側のSOC-OCVカーブと、放電側のSOC-OCVカーブの一例を示す図である。
図8】本実施の形態に係る電池セルの等価回路モデルの第3の例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態に係る、電池セルの充放電を説明するための基本回路図を示す図である。
図10】本発明の実施の形態に係る電池システムを搭載した電動車両を説明するための図である。
図11】材料ごとの拡散抵抗成分にかかる電圧の合成波形の収束曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、一般的な電池セル10の等価回路モデルの一例を示す図である。図1に示す電池セル10の等価回路は、電池セル10の電極体構造に由来するインダクタンス部、正極反応に由来する正極部、負極反応に由来する負極部、正極および負極のイオンの移動に由来する拡散部の4つの等価回路で構成されている。LPE0はインダクタンス成分、R0、Rs、R1、R2、R3は抵抗成分、CPEs、CPE1、CPE2、CPE3は容量成分、Zw0、Zws、Zw3はワールブルグインピーダンス成分をそれぞれ示す。
【0014】
以下、本実施の形態では電池セル10として、正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極に、グラファイト(C)とシリコン(Si)の混合材料を使用したリチウムイオン電池セルを使用する例を想定する。シリコン(Si)が混合された負極が使用されたリチウムイオン電池セルは、充放電停止後、計測電圧(観測電圧)がOCVに収束するまでの時間が長くなる。これにより、収束前の計測電圧をもとに推定したSOCの推定誤差も大きくなる。
【0015】
図1に示したような拡散部が1つのモデルでは、充放電停止後の電圧収束曲線の波形を表現することが困難である。充放電停止後の電圧収束曲線は、材料ごとの拡散抵抗成分に応じた合成電圧波形で表現することができるが、図1に示したような拡散部が1つのモデルでは、材料ごとの拡散抵抗成分に応じた合成電圧を導出することができない。
【0016】
これに対して本実施の形態では、材料ごとに拡散抵抗成分を表現することにより、材料ごとの拡散抵抗成分に応じた電圧の合成波形を表現可能な等価回路モデルを使用する。
【0017】
図2は、本実施の形態に係る電池セル10の等価回路モデルの第1の例を示す図である。図2に示す等価回路モデルは、材料ごとの拡散抵抗成分を単純に直列に並べた等価回路モデルである。図2に示す等価回路モデルは、下記(式1)で定義することができる。
OCV=CCV-I*Rohm-Vpp-Vpc-Vpsi ・・・(式1)
【0018】
CCVは計測された電池セル10の観測電圧である。Iは計測された電池セル10の観測電流である。Rohmは、リチウム(Li)の反応抵抗、伝導抵抗、集電体抵抗などをまとめて表現した抵抗成分である。Zwpは正極活物質内のリチウム(Li)の拡散抵抗成分を示し、Zwcは負極活物質(グラファイト(C))内のリチウム(Li)の拡散抵抗成分を示し、Zwsiは負極活物質(シリコン(Si))内のリチウム(Li)の拡散抵抗成分を示している。VppはZwpにかかる分極電圧Vpを示し、VpcはZwcにかかる分極電圧Vpを示し、VpsiはZwsiにかかる分極電圧Vpを示している。
【0019】
以下の等価回路モデルの説明では、R、C、Zwの各パラメータは、使用環境に応じて、温度依存性を考慮した値にチューニング済みであるとする。
【0020】
拡散抵抗成分は、ワールブルグインピーダンスで表現され、下記(式2)のように、RC並列回路の無限級数の和で近似することができることが知られている。
Zw(s)=Σn=1~∞(Rn/(sCnRn+1)) ・・・(式2)
Cn=Cd/2,Rn=8Rd/((2n-1)π
【0021】
時定数は(2n-1)であり、高次になるにしたがって小さくなっていく。秒オーダの演算処理で使用する場合、基本的に3次~5次程度で十分である。
【0022】
各拡散抵抗成分は、上記(式2)に示したようにフォスター型回路で近似できる。図2では、3次のフォスター型回路で近似する例を示している。フォスター型回路の各RC並列回路では、下記(式3)に示す関係が成り立つ。下記(式3)は図2のフォスター型回路の初段のRC並列回路を示す。
(dVp1/dt)=(I/Cp1)-(Vp1/tau1) ・・・(式3)
iCp1=Cp1(dVp1/dt),iRp1=Vp1/Rp1,I=iCp1+iRp1,tau1=Cp1*Rp1
【0023】
上記(式3)の初段のRp1、Cp1のパラメータが決定されると、後段のパラメータ(Rp2、Cp2、Rp3、Cp3)も自動的に決定される。2段目、3段目の各RC並列回路も初段のRC並列回路の上記(式3)と同様の関係式が成り立つ。即ち上記(式2)より、Cp1=Cp2=Cp3、Rp2=1/9*Rp1、Rp3=1/25*Rpとなる。
【0024】
上記(式2)、(式3)をもとに、観測電流Iを入力として、Zwpにかかる分極電圧Vpp、Zwcにかかる分極電圧Vpc、Zwsiにかかる分極電圧Vpsiを算出することができる。算出したVpp、Vpc、Vpsiを上記(式1)に代入することにより、OCVを推定することができる。充放電停止後のOCVを推定する場合は、Iに0を代入する。
【0025】
図3は、本実施の形態に係る電池セル10の等価回路モデルの第2の例を示す図である。図3に示す等価回路モデルでは、材料ごとに等価回路を定義し、複数材料が混合された電極を、各材料の等価回路の並列回路で定義している。本実施の形態では、負極を、グラファイト(C)負極の等価回路と、シリコン(Si)負極の等価回路の並列回路で定義している。
【0026】
図3において、Roはリード抵抗などの直流抵抗成分を示している。Rctは電極反応に伴う電荷移動抵抗成分を示している。Cdlは電気二重層の充電にあたる容量成分を示している。Reは電解質中の移動抵抗成分(電解液抵抗)を示している。Zw(Zwc、Zwsi、Zwp)は拡散抵抗成分を示しており、第1の例と同様にワールブルグインピーダンスで表現し、3次のフォスター型回路で近似するものとする。
【0027】
RctcとCdlcの並列回路と、Zwcとの直列回路の両側にかかる電圧がグラファイト(C)負極の分極電圧Vpcを示している。同様にRctsiとCdlsiの並列回路と、Zwsiとの直列回路の両側にかかる電圧がシリコン(Si)負極の分極電圧Vpsiを示している。同様にRctpとCdlpの並列回路と、Zwpとの直列回路の両側にかかる電圧が正極の分極電圧Vppを示している。
【0028】
上記(式2)、(式3)を使用して、観測電流IをもとにZwpにかかる分極電圧を算出することができる。グラファイト(C)に流れる電流IcをもとにZwcにかかる分極電圧を算出することができる。シリコン(Si)に流れる電流IsiをもとにZwsiにかかる分極電圧を算出することができる。グラファイト(C)に流れる電流Ic及びシリコン(Si)に流れる電流Isiは、下記(式4)-(式6)に示す式を、連立方程式として解くことにより算出することができる。
【0029】
RctとCdlの並列回路も、フォスター型回路を構成するRC並列回路と同様に、Rct、Cdl(Cdlの代わりにtauでもよい)のパラメータが決定されれば、上記(式3)を使用して、RctとCdlの並列回路の両側にかかる分極電圧を算出することができる。具体的には、観測電流Iをもとに、RctpとCdlpの並列回路の両側にかかる分極電圧を算出することができる。グラファイト(C)に流れる電流Icをもとに、RctcとCdlcの並列回路の両側にかかる分極電圧を算出することができる。シリコン(Si)に流れる電流Isiをもとに、RctsiとCdlsiの並列回路の両側にかかる分極電圧を算出することができる。
【0030】
RctcとCdlcの並列回路の両側にかかる分極電圧とZwcにかかる分極電圧を加算して、グラファイト(C)負極の分極電圧Vpcを算出することができる。同様にRctsiとCdlsiの並列回路の両側にかかる分極電圧とZwsiにかかる分極電圧を加算して、シリコン(Si)負極の分極電圧Vpsiを算出することができる。同様にRctpとCdlpの並列回路の両側にかかる分極電圧とZwpにかかる分極電圧を加算して、正極の分極電圧Vppを算出することができる。
【0031】
グラファイト(C)負極の等価回路とシリコン(Si)負極の等価回路は並列回路であるため、下記(式4)、(式5)の関係が成り立つ。
OCV_c(t)+Ic(t)*Roc(t)+Vpc(t-1)=OCV_si(t)+Isi(t)*Rosi(t)+Vpsi(t-1) ・・・(式4)
Ic(t)+Isi(t)=I(t) ・・・(式5)
【0032】
計算を簡略化するため、グラファイト(C)負極の分極電圧Vpc及びシリコン(Si)負極の分極電圧Vpsiに前回値を用いている。
【0033】
上記(式4)のOCV_cは下記に示すように、OCV_siは下記(式6)により導出することができる。
OCV_c=OCV_C_LUT(Q_c)
OCV_si=OCV_SI_CHG_LUT(Q_si)*Xc(t-1)+OCV_SI_DIS_LUT(Q_si)*(1-Xc(t-1)) ・・・(式6)
【0034】
OCV_C_LUTは、グラファイト(C)負極のQ-OCVカーブの特性データが記述されたルックアップテーブルを示す。
OCV_SI_CHG_LUTは、シリコン(Si)負極の充電側のQ-OCVカーブの特性データが記述されたルックアップテーブルを示す。
OCV_SI_DIS_LUTは、シリコン(Si)負極の放電側のQ-OCVカーブの特性データが記述されたルックアップテーブルを示す。
【0035】
図4(a)、(b)は、グラファイト(C)負極のQ-OCVカーブと、一酸化シリコン(SiO)負極のQ-OCVカーブの一例を示す図である。図4(a)はグラファイト(C)負極のQ-OCVカーブの一例を示し、図4(b)は一酸化シリコン(SiO)負極のQ-OCVカーブの一例を示す。図4(b)に示す例では、シリコン(Si)系の材料として、一酸化シリコン(SiO)を使用する例を挙げている。横軸が容量[mAh]
、縦軸がOCV[V]である。
【0036】
グラファイト(C)負極は、充電時と放電時のQ-OCVカーブが略同一であるため、1本のカーブで表現している。一酸化シリコン(SiO)負極は、充電時と放電時のQ-OCVカーブが異なるため、2本のカーブで表現している。以上のようなQ-OCVカーブをもとに、OCV_C_LUT、OCV_SI_CHG_LUT、OCV_SI_DIS_LUTが生成される。
【0037】
Q_c及びQ_siは、下記(式7)、(式8)から導出することができる。
Q_c=Q_c_init+ΣIc/FCC_c ・・・(式7)
Q_si=Q_si_init+ΣIsi/FCC_si ・・・(式8)
【0038】
Q_c_initはグラファイト(C)負極の初期容量、Q_cはグラファイト(C)負極の現在容量、FCC_cはグラファイト(C)負極の満充電容量をそれぞれ示す。Q_si_initはシリコン(Si)負極の初期容量、Q_siはシリコン(Si)負極の現在容量、FCC_siはシリコン(Si)負極の満充電容量をそれぞれ示す。
【0039】
グラファイト(C)負極の初期容量と、シリコン(Si)負極の初期容量は、OCV_c=OCV_siの関係になるように設定される。
【0040】
上記(式6)のXcは、充電OCVと放電OCVの割合を示すパラメータである。以下、Xcの導出方法を説明する。グラファイト(C)とシリコン(Si)の混合負極を使用したリチウムイオン電池セルでは、充電側のSOC-OCVカーブと放電側のSOC-OCVカーブが異なる。特にSOCが20%以下の領域で両者が大きく乖離し、放電から充電へ、または充電から放電へ切り替わる際にヒステリシスが発生する。なお、グラファイト(C)負極単体の場合、放電側と充電側のSOC-OCVカーブが略同一であるため、充放電の切り替わり時にヒステリシスが発生しない。
【0041】
図5は、グラファイト(C)とシリコン(Si)の混合負極を使用したリチウムイオン電池セルのSOC-OCVカーブの一例を示す図である。横軸がSOC[%]、縦軸がOCV[V]である。実線が充電側のSOC-OCVカーブ、点線が放電側のSOC-OCVカーブをそれぞれ示している。
【0042】
SOCが20%以下の領域では、充電側のSOC-OCVカーブと放電側のSOC-OCVカーブに乖離が発生している。この領域では、実際のOCVが、充電側のSOC-OCVカーブと放電側のSOC-OCVカーブで囲まれた範囲のいずれかの地点に収束する。SOCが20%以下の領域では、シリコン(Si)がグラファイト(C)より反応しやすい領域であり、シリコン(Si)の過渡特性の影響が大きくなる。
【0043】
Xc=0は、OCVが放電OCVカーブ上に位置する場合を示し、Xc=1は、OCVが充電OCVカーブ上に位置する場合を示している。0<Xc<1は、OCVが放電OCVカーブと充電OCVカーブの間に位置する場合を示している。SOCを高精度に推定するには、充電OCVと放電OCVの中間割合を示すXcを適切に求める必要がある。
【0044】
Xcの線形変化は、下記(式9)から導出することができる。
Xc_line(t)=Xc(t-1)+a*dQ ・・・(式9)
【0045】
放電から充電への切り替わり時のXcの指数変化は、下記(式10)から導出することができる。
Xc_exp_CHG(t):(Xc(t)-Xc(t-1))/dQ=P*(1-Xc(t-1)+Xc(T)) ・・・(式10)
【0046】
充電から放電への切り替わり時のXcの指数変化は、下記(式11)から導出することができる。
Xc_exp_DIS(t):(Xc(t)-Xc(t-1))/dQ=P*(Xc(t-1)+1-Xc(T)) ・・・(式11)
【0047】
上記(式9)のaと、上記(式10)、(式11)のPは、係数であり、予め実験やシミュレーションにより導出された値が設定される。dQはΔt期間の容量変化を示す。マイクロコンピュータ等により周期的(離散的)に演算される場合、dQは実質的に電流と等価となる。本実施の形態では、シリコン(Si)へ流れる電流Isiを、dQの代替として使用する。
【0048】
Tは、Xcが0~1の中間値(0.2,0.5など)で充放電が切り替わったときの時間を表すパラメータである。Xc(T)は、充放電が切り替わったときのXc(t)の値を保持しており、充放電の切り替わり時にのみ値が更新される。
【0049】
図6(a)、(b)は、Xc(t)の推移を説明するための図である。図6(a)は、充電から放電に切り替わって放電OCVに収束していく軌跡、すなわち(式11)においてXc(T)=1の時のXc(t)の推移、および放電から充電に切り替わって充電OCVに収束していく軌跡、すなわち(式10)においてXc(T)=0の時のXc(t)の推移を示している。図6(b)は、放電から充電に切り替わり、充電OCVに収束する前に、充電から放電に再度切り替わった場合の軌跡、すなわち(式11)において0<Xc(T)<1の時のXc(t)の推移を示している。
【0050】
Xc(t)は、充電時または放電時においてそれぞれ下記(式12)または(式13)から導出することができる。
Xc(t)=(X_line(t)+Xc_exp_CHG(t))/2 ・・・(式12)
Xc(t)=(X_line(t)+Xc_exp_DIS(t))/2 ・・・(式13)
【0051】
図3に示した電池セル10全体のOCVは下記(式14)から推定することができる。
OCV=CCV-I*Re-I*Rop-Vpp-Isi*Rosi-Vpsi ・・・(式14)
【0052】
グラファイト(C)負極の等価回路とシリコン(Si)負極の等価回路は並列回路であるため、基本的に両者にかかる電圧は同じになる。なお分極によってOCVも徐々に変化するため、グラファイト(C)負極の分極電圧Vpcとシリコン(Si)負極の分極電圧Vpsiの内、大きいほうの電圧を動的に選択して使用する。したがって、上記(式14)の右辺の5項および6項は-Ic*Roc-Vpcとなる場合もある。
【0053】
図3に示した電池セル10のSOCは下記(式15)から推定することができる。
SOC=OCV_SOC_CHG_LUT(OCV)*Xc(t)+OCV_SOC_DIS_LUT(OCV)*(1-Xc(t)) ・・・(式15)
【0054】
OCV_SOC_CHG_LUTは、図3に示した電池セル10の充電側のSOC-OCVカーブの特性データが記述されたルックアップテーブルを示す。
OCV_SOC_DIS_LUTは、図3に示した電池セル10の放電側のSOC-OCVカーブの特性データが記述されたルックアップテーブルを示す。
【0055】
図7(a)、(b)は、充電側のSOC-OCVカーブと、放電側のSOC-OCVカーブの一例を示す図である。図7(a)は充電側のSOC-OCVカーブの一例を示し、図7(b)は放電側のSOC-OCVカーブの一例を示す。横軸がSOC[%]、縦軸がOCV[V]である。
【0056】
図8は、本実施の形態に係る電池セル10の等価回路モデルの第3の例を示す図である。図3に示した第2の例は、Zwの時定数がCdlによる時定数よりも十分に大きい場合に適した等価回路モデルあり、図8に示す第3の例は、Zwの時定数がCdlに対して十分に大きくない場合に適した等価回路モデルである。
【0057】
正極の等価回路では、OCV_p、Ropを除く、Rctp、Zwp、Cdlpの合成インピーダンス(Zp)が分極に関与する抵抗成分となる。グラファイト(C)負極の等価回路では、OCV_c、Rocを除く、Rctc、Zwc、Cdlcの合成インピーダンス(Zc)が分極に関与する抵抗成分となる。シリコン(Si)負極の等価回路では、OCV_si、Rosiを除く、Rctsi、Zwsi、Cdlsiの合成インピーダンス(Zsi)が分極に関与する抵抗成分となる。グラファイト(C)負極の等価回路とシリコン(Si)負極の等価回路は並列回路を構成しているため、グラファイト(C)負極の等価回路のCCVと、シリコン(Si)負極の等価回路のCCVは基本的に同じになる。
【0058】
図8に示す電池セル10全体のCCVは、下記(式16)で定義することができる。
CCV=OCV_p-OCV_si+Isi*Zsi+Isi*Rosi+I*Zp+I*Rop+I*Re ・・・(式16)
【0059】
OCV_p-OCV_siにより、電池セル10全体のOCVが導出される。Isi*Zsiにより、シリコン(Si)負極の分極電圧Vpsiが導出される。グラファイト(C)負極の等価回路とシリコン(Si)負極の等価回路は並列回路であるため、下記(式17)、(式18)の関係が成り立つ。
I=Ic+Isi ・・・(式17)
OCV_c+Ic*Zc+Ic*Roc=OCV_si+Isi*Zsi+Isi*Rosi ・・・(式18)
【0060】
計算を簡略化するために、Rct,Zw,Cdlの部分(分極電圧Vp)に、前回値を用いる場合、上記(式18)は下記(式19)のように書き換えられる。
OCV_c+Vpc+Ic*Roc=OCV_si+Vpsi+Isi*Rosi ・・・(式19)
【0061】
OCV_cは、グラファイト(C)負極のQ-OCVカーブのルックアップテーブルから導出することができ、OCV_siは、シリコン(Si)負極のQ-OCVカーブのルックアップテーブルから導出することができる。グラファイト(C)負極の容量Q_c及びシリコン(Si)負極の容量Q_siは、上記(式7)、(式8)から導出することができる。グラファイト(C)負極の初期容量とシリコン(Si)負極の初期容量は、OCV_c=OCV_siの関係になるように設定される。
【0062】
図9は、本発明の実施の形態に係る、電池セル10の充放電を説明するための基本回路図を示す。電池セル10は、電力変換装置20を介して負荷/電源30に接続される。電力変換装置20は例えば、双方向インバータ又は双方向DC/DCコンバータである。負荷/電源30は例えば、交流負荷、直流負荷、交流電源又は直流電源である。
【0063】
例えば電力変換装置20としての双方向インバータは、電池セル10から放電される直流電力を交流電力に変換して、変換した交流電力を交流負荷に供給する。また当該双方向インバータは、交流電源(例えば、商用電力系統、交流発電機)から供給される交流電力を直流電力に変換して、変換した直流電力を電池セル10に蓄える。
【0064】
例えば電力変換装置20としての双方向DC/DCコンバータは、電池セル10から放電される直流電力を別の電圧の直流電力に変換して、変換した直流電力を直流負荷(他の蓄電池、キャパシタを含む)に供給する。また当該双方向DC/DCコンバータは、直流電源(例えば、他の蓄電池、キャパシタ、太陽電池、直流発電機)から供給される直流電力を別の電圧の直流電力に変換して、変換した直流電力を電池セル10に蓄える。
【0065】
管理部40は、電池セル10の状態および充放電を管理する装置である。管理部40は電圧計測部41、制御部42及び電流計測部43を含む。電圧計測部41は電池セル10の両端電圧を計測して制御部42に出力する。電流計測部43は、電池セル10の電流経路に挿入されたシャント抵抗Rsuの両端電圧をもとに電池セル10に流れる電流を計測して制御部42に出力する。なお、シャント抵抗Rsuの代わりにホール素子を用いてもよい。
【0066】
制御部42は、電池セル10の充放電を制御する。具体的には制御部42は、電力変換装置20に電流指令値または電圧指令値を設定することにより、電池セル10の定電流充電(CC充電)、定電圧充電(CV充電)、定電流放電(CC放電)又は定電圧放電(CV放電)を実行する。
【0067】
電力変換装置20はスイッチング素子を含み、制御部42から設定された電流指令値または電圧指令値に基づき、当該スイッチング素子のデューティ比を制御することにより、充電電流、充電電圧、放電電流又は放電電圧を制御する。
【0068】
図10は、本発明の実施の形態に係る電池システム2を搭載した電動車両1を説明するための図である。電動車両1は、外部に設置された充電器20bから充電が可能なEV/PHVを想定する。
【0069】
電池システム2は、第1リレーRY1及びインバータ20aを介してモータ30aに接続される。インバータ20aは力行時、電池システム2から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ30aに供給する。回生時、モータ30aから供給される交流電力を直流電力に変換して電池システム2に供給する。モータ30aは三相交流モータであり、力行時、インバータ20aから供給される交流電力に応じて回転する。回生時、減速による回転エネルギーを交流電力に変換してインバータ20aに供給する。
【0070】
第1リレーRY1は、電池モジュール3とインバータ20aを繋ぐ配線間に挿入される。電池システム2の管理部40は走行時、第1リレーRY1をオン状態(閉状態)に制御し、電池システム2と電動車両1の動力系を電気的に接続する。管理部40は非走行時、原則として第1リレーRY1をオフ状態(開状態)に制御し、電池システム2と電動車両1の動力系を電気的に遮断する。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。
【0071】
電池システム2は、電動車両1の外に設置された充電器20bと充電ケーブル6で接続することにより商用電力系統30bから充電することができる。充電器20bは、家庭、カーディーラ、サービスエリア、商業施設、公共施設などに設置される。充電器20bは商用電力系統30bに接続され、充電ケーブル6を介して電動車両1内の電池システム2を充電する。車両内において、電池システム2と充電器20bを繋ぐ配線間に第2リレーRY2が挿入される。なおリレーの代わりに、半導体スイッチなどの他の種類のスイッチを用いてもよい。電池システム2の管理部40は充電開始前に、第2リレーRY2をオン
状態(閉状態)に制御し、充電終了後にオフ状態(開状態)に制御する。
【0072】
一般的に、普通充電の場合は交流で、急速充電の場合は直流で充電される。交流で充電される場合、第2リレーRY2と電池システム2との間に挿入されるAC/DCコンバータ(不図示)により、交流電力が直流電力に変換される。
【0073】
電池モジュール3は複数の電池セル10を含む。以下、電池セル10としてリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。電池セル10の直列数は、モータ30aの駆動電圧に応じて決定される。
【0074】
複数の電池セル10と直列にシャント抵抗Rsuが接続される。シャント抵抗Rsuは電流検出素子として機能する。なおシャント抵抗Rsuの代わりにホール素子を用いてもよい。また複数の電池セル10の温度を検出するための温度センサT1が設置される。温度センサT1には例えば、サーミスタを使用することができる。
【0075】
管理部40は、電圧計測部41、制御部42、温度計測部44及び電流計測部43を備
える。電圧計測部41と、直列接続された複数の電池セル10の各ノードとの間が複数の電圧線で接続される。電圧計測部41は、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ計測することにより、各電池セル10の電圧を計測する。電圧計測部41は、計測した各電池セル10の電圧を制御部42に送信する。
【0076】
電圧計測部41は制御部42に対して高圧であるため、電圧計測部41と制御部42間は絶縁された状態で、通信線で接続される。電圧計測部41は、汎用のアナログフロントエンドICまたはASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成することができる。電圧計測部41はマルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の電圧線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0077】
温度計測部44は分圧抵抗およびA/D変換器を含む。A/D変換器は、温度センサT1と分圧抵抗により分圧された電圧をデジタル値に変換して制御部42に出力する。制御部42は当該デジタル値をもとに複数の電池セル10の温度を推定する。
【0078】
電流計測部43は差動アンプ及びA/D変換器を含む。差動アンプはシャント抵抗Rsuの両端電圧を増幅してA/D変換器に出力する。A/D変換器は、差動アンプから入力される電圧をデジタル値に変換して制御部42に出力する。制御部42は当該デジタル値をもとに複数の電池セル10に流れる電流を推定する。
【0079】
なお制御部42内にA/D変換器が搭載されており、制御部42にアナログ入力ポートが設置されている場合、温度計測部44及び電流計測部43はアナログ電圧を制御部42に出力し、制御部42内のA/D変換器でデジタル値に変換してもよい。
【0080】
制御部42は、電圧計測部41、温度計測部44及び電流計測部43により計測された複数の電池セル10の電圧、温度、及び電流をもとに電池モジュール3を管理する。制御部42はマイクロコンピュータ及び不揮発メモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。不揮発メモリ内に、Q-OCVテーブル42a及びSOC-OCVテーブル42bが保持される。
【0081】
Q-OCVテーブル42aは、正極と負極に使用される材料ごとに設けられる。本実施の形態では、正極のQ-OCVテーブル、グラファイト(C)負極のQ-OCVテーブル、シリコン(Si)負極の充電側のQ-OCVテーブル、シリコン(Si)負極の放電側のQ-OCVテーブルが設けられる。また本実施の形態では、SOC-OCVテーブル42bは、電池セル10の充電側のSOC-OCVテーブルと放電側のSOC-OCVテーブルが別々に設けられる。
【0082】
制御部42は、電圧計測部41により計測された電圧と、電流計測部43により計測された電流と、電池セル10の等価回路モデルをもとに電池セル10のOCVを推定する。電池セル10の等価回路モデルとして、図2図3図8に示した等価回路モデルを使用することができる。等価回路モデルで使用されるR、C、Zwの各パラメータは、実験やシミュレーションにより予め導出される。その際、各パラメータの温度依存性も導出される。制御部42は、温度計測部44により計測された温度をもとに、各パラメータの値を調整する。
【0083】
上述したように図1に示したような拡散部が1つのモデルでは、充放電停止後の電圧収束曲線の波形を表現することが困難である。これに対して本実施の形態では、材料ごとの拡散抵抗成分に応じた合成電圧を算出することが可能である。例えば、上記(式1)は、I=0のとき、下記(式20)のようになる。
【0084】
OCV=CCV-Vpp-Vpc-Vpsi ・・・(式20)
【0085】
制御部42は、電圧計測部41により計測された電池セル10のCCVをもとに、電池セル10のOCVを算出する。材料ごとに分極電圧を求めているため、電池セル10全体の分極電圧の推定精度が向上し、分極電圧が収束していない状態でも、計測されたCCVから、OCVを高精度に推定することができる。
【0086】
図11は、材料ごとの拡散抵抗成分にかかる電圧の合成波形の収束曲線の一例を示す図である。1番上の細点線はシリコン(Si)負極の拡散成分にかかる電圧の変化、2番目の細点線はグラファイト(C)負極の拡散成分にかかる電圧の変化、1番下の細点線は正極の拡散成分にかかる電圧の変化をそれぞれ示している。太実線は3つの電圧の合成電圧の実測値を、太点線は3つの電圧の合成電圧の推定値をそれぞれ示している。
【0087】
以上説明したように本実施の形態によれば、材料ごとに拡散抵抗成分が表現された等価回路モデルを使用することにより、混合電極の拡散抵抗成分を的確に表現することができる。したがって、OCVの推定精度を向上させることができる。例えば、短時間しか停止時間がない電動車両1に搭載される電池セル10のOCVも高精度に推定することができる。OCVを高精度に推定できるため、SOCも高精度に推定することができる。なお本実施の形態によれば、充放電停止後だけでなく、充放電中のOCVの推定精度も向上する。したがって、走行中のSOCの推定精度も向上する。SOCの推定精度が向上すると走行可能距離の推定精度も向上し、電費の改善に繋がる。
【0088】
上記特許文献1に開示された手法は、等価回路モデルを正極・負極・拡散・OCVとして表現し、各種パラメータを交流インピーダンス解析(Cole-Coleプロット)を用いて推定している。この手法では、複数材料による複数の拡散が重畳された電圧波形を再現することができない。これに対して本実施の形態では、拡散を材料ごとに分離して表現しているため、複数の拡散が重畳されても拡散の電圧波形を高精度に再現することができ、OCVの推定精度を向上させることができる。
【0089】
上記特許文献2に開示された手法は、抵抗成分を分極抵抗と直流抵抗の2つに分割して表現し、それぞれを電流変化に基づく経験値ベースの寄与度で加重平均している。この手法でも、分極抵抗内の複数の拡散成分を表現することができない。これに対して本実施の形態では、分極抵抗を電気化学に基づいた等価回路モデルで表現しているため、経験値ベースのパラメータが少なく、OCVの推定精度を向上させることができる。
【0090】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0091】
上述の実施の形態では等価回路モデルに電池セルの電極体構造に因っては必要なインダクタンス成分を示していないが、インダクタンス成分を示す必要がある場合、例えばインダクタンスLと抵抗Rとの並列回路を正極または負極に直列に接続する構成にすればよい。
【0092】
上述の実施の形態では、グラファイト(C)とシリコン(Si)の混合負極を使用したリチウムイオン電池セルを例に説明した。混合される負極材料は、グラファイト(C)とシリコン(Si)に限るものではない。例えば、硫黄(S)、ビスマス(Bi)、チタン酸リチウム(Li2TiO3)、などを使用することができる。また混合する材料は2に限るものではなく、3以上であってもよい。
【0093】
また混合電極は負極に限るものではない。正極も2以上の材料が混合された混合正極であってもよい。例えば正極材料として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、三元系(Li(Ni-Mn-Co)O2)のコバルト酸リチウムの一部をNi,Mnで置き換えた材料、などを使用することができる。
【0094】
上述の実施の形態では車載用途の電池システム2に本発明を適用する例を説明したが、定置型蓄電用途の電池システムにおいても本発明を適用することができる。またノート型PCやスマートフォンなどの電子機器用途の電池システムにおいても本発明を適用することができる。
【0095】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0096】
[項目1]
電池セル(10)の電圧を計測する電圧計測部(41)と、
前記電池セル(10)に流れる電流を計測する電流計測部(43)と、
前記電圧計測部(41)により計測された電圧と、前記電流計測部(43)により計測された電流と、前記電池セル(10)の電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セル(10)のOCV(Open Circuit Voltage)を推定する制御部(42)と、を備え、
前記電池セル(10)の正極および負極の少なくとも一方は、複数の材料を含む混合電極であり、
前記等価回路モデルは、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであることを特徴とする電池状態推定装置(40)。
これによれば、混合電極が使用された電池セル(10)のOCVの推定精度を向上させることができる。
[項目2]
前記負極は、複数の材料を含む混合負極であり、
前記等価回路モデルの負極は、前記複数の材料ごとに形成された等価回路の並列回路で表現され、
各等価回路は、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする項目1に記載の電池状態推定装置(40)。
これによれば、複数の負極材料の反応を、材料ごとのOCVカーブの差に応じて的確に表現することができる。
[項目3]
前記負極は、グラファイトとシリコンを含む混合負極であり、
前記等価回路モデルの負極は、前記グラファイトの等価回路と前記シリコンの等価回路の並列回路で表現され、
前記グラファイトの等価回路と前記シリコンの等価回路はそれぞれ、OCVと拡散抵抗成分を含むことを特徴とする項目1に記載の電池状態推定装置(40)。
これによれば、グラファイトとシリコンの反応を、両者のOCVカーブの差に応じて的確に表現することができる。
[項目4]
前記制御部(42)は、前記電池セル(10)の充放電終了後、前記電圧計測部(41)により計測された電圧と、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとの拡散抵抗成分にかかる複数の分極電圧をもとに、前記電池セル(10)のOCVを推定することを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の電池状態推定装置(40)。
これによれば、電池セル(10)の充放電終了後のOCVを、分極電圧が収束していない状態でも高精度に推定することができる。
[項目5]
電池セル(10)の電圧を計測するステップと、
前記電池セル(10)に流れる電流を計測するステップと、
計測された電圧と、計測された電流と、前記電池セル(10)の電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セル(10)のOCV(Open Circuit Voltage)を推定するステップと、を有し、
前記電池セル(10)の正極および負極の少なくとも一方は、複数の材料を含む混合電極であり、
前記等価回路モデルは、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであることを特徴とする電池状態推定方法。
これによれば、混合電極が使用された電池セル(10)のOCVの推定精度を向上させることができる。
[項目6]
電池セル(10)と、
前記電池セル(10)の電圧を計測する電圧計測部(41)と、
前記電池セル(10)に流れる電流を計測する電流計測部(43)と、
前記電圧計測部(41)により計測された電圧と、前記電流計測部(43)により計測された電流と、前記電池セル(10)の電気化学に基づく等価回路モデルをもとに前記電池セル(10)のOCV(Open Circuit Voltage)を推定する制御部(42)と、を備え、
前記電池セル(10)の正極および負極の少なくとも一方は、複数の材料を含む混合電極であり、
前記等価回路モデルは、前記正極および前記負極に使用される複数の材料ごとに、拡散抵抗成分を備えるモデルであることを特徴とする電池システム(2)。
これによれば、混合電極が使用された電池セル(10)のOCVの推定精度が向上した電池システム(2)を実現することができる。
【符号の説明】
【0097】
10 電池セル、 20 電力変換装置、 30 負荷/電源、 1 電動車両、 2 電池システム、 3 電池モジュール、 6 充電ケーブル、 40 管理部、 41 電圧計測部、 42 制御部、 42a Q-OCVテーブル、 42b SOC-OCVテーブル、 43 電流計測部、 44 温度計測部、 20a インバータ、 30a モータ、 20b 充電器、 30b 商用電力系統、 RY1 第1リレー、 RY2 第2リレー、 Rsu シャント抵抗。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11