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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】筒編繊維製品
(51)【国際特許分類】
   A41B 11/00 20060101AFI20231027BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
A41B11/00 D
A41D13/00 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019172250
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050424
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390019806
【氏名又は名称】コーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】新堀 貴之
(72)【発明者】
【氏名】吉村 盛善
(72)【発明者】
【氏名】吉村 圭悟
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-119246(JP,A)
【文献】特開2019-035188(JP,A)
【文献】特開2002-146654(JP,A)
【文献】実開昭57-005404(JP,U)
【文献】特開2008-303515(JP,A)
【文献】米国特許第05412957(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 11/00
A41D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り止め対象部と接触する部分に、隣接する他の編地と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて前記滑り止め対象部に向かって突出する複数の突出部が編み込まれ
前記突出部はコース方向に複数編み込まれ、
コース方向の第1位置と前記第1位置から複数編目離れた第2位置でタック編により複数コース纏めて編目が形成され、前記1位置と前記第2位置の間に前記突出部が形成されていることを特徴とする筒編繊維製品。
【請求項2】
滑り止め対象部と接触する部分に、隣接する他の編地と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて前記滑り止め対象部に向かって突出する複数の突出部が編み込まれ、
前記突出部は、ゴム糸を挿入する挿入編で編み込まれ、
コース方向の第1位置と前記第1位置から複数編目離れた第2位置との間で、ゴム糸が編み込まれずに裏側に飛ばされ、前記1位置と前記第2位置の間に前記突出部が形成されていることを特徴とする筒編繊維製品。
【請求項3】
滑り止め対象部と接触する部分に、隣接する他の編地と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて前記滑り止め対象部に向かって突出する複数の突出部が編み込まれ
前記突出部は踵上部の折り返し内側部に形成され、
1の編目に対し1の編目をフロートする第1コースと、1の編目に対し1の編目をフロートする第2コースとの間に、1の編目に対し3の編目をフロートする第3コースが編み立てられ、前記第3コースに前記突出部が形成されていることを特徴とする筒編繊維製品。
【請求項4】
滑り止め対象部と接触する部分に、隣接する他の編地と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて前記滑り止め対象部に向かって突出する複数の突出部が編み込まれ
前記突出部は踵上部の折り返し内側部に形成され、
3の編目に対し1の編目をフロートする第1コースと、3の編目に対し1の編目をフロートする第2コースとの間に、1の編目に対し1の編目をフロートする第3コースが編み立てられ、前記第3コースに前記突出部が形成されていることを特徴とする筒編繊維製品。
【請求項5】
前記突出部は、コース方向又はウェール方向に隣接する他の編地と比べて度目が大きく編み込まれていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の筒編繊維製品。
【請求項6】
前記突出部は、隣接する編地と比べて伸縮性が小さいことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の筒編繊維製品。
【請求項7】
前記突出部は、編地の折り返し部の前記滑り止め対象部と接触する編地に編み込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の筒編繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴下、フットカバー、肘・膝・ふくらはき等のサポーター、アームカバー、サッカーストッキング等の筒編繊維製品、詳しくは滑り止め機能付きの筒編繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
身体の細い部分から太い部分に向かって身に着ける靴下やサポーター等の筒編繊維製品は、太い部分に対応する部分が細い部分に向かって滑り、ずれたり、たくれ易い。例えば、靴下を履いて上端部を足首から上に引き上げても、上端部は重力や繊維の収縮で下方にずれたり、歩いたり走ったりするときの足首関節の動きによりたくれてくる。また、膝サポーターであれば、膝の曲げ伸ばしにより、大腿や下腿部の太いところから膝に向かってたくれてくる。
【0003】
このような筒編繊維製品のずれやたくれを緩和したり、防止するために、着用時に繊維製品の履き口又は通し口の内側に滑り止め液や糊を塗りつけたり、最終工程で滑り止め樹脂を付着したり、滑り止め糸を編み込むことが行われてきた。滑り止め糸を用いた例として、例えば、特許文献1には、ポリウレタン弾性糸を挿入してインレイ編で編成することにより上下にずれ落ち防止用の締め付け部を設けた膝関節用サポーターが提案されている。
【0004】
しかし、滑り止め液や糊は、かぶれが生じるなど皮膚に影響することがある。また、滑り止め液を塗布した箇所が点状に残り、本来の機能やファッション性に悪影響を与える。最終工程で滑り止め樹脂を付着する方法は、工程が増えてコストがかかるうえ、編み立てた生地に後から滑り止め樹脂を付着するため、歪みやズレが生じ、品質が安定せず、数回の着用・洗濯により剥がれたりする。滑り止め糸は、肌への密着を高めるため、ダウンストップ(登録商標)等のポリウレタン糸、シリコン糸、ナノフロント(登録商標)等の微細ポリエステル糸のような高価な摩擦係数が高い糸を多量に使用しなければならず、製品が高価になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4964443号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、滑り止め効果が高く、安価でファッション性の良い筒編繊維製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、滑り止め対象部と接触する部分に、隣接する他の編地と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて前記滑り止め対象部に向かって突出する複数の突出部が編み込まれている。
【0008】
本発明では、摩擦係数の高い糸で編み込まれた複数の突出部が滑り止め対象部に接触することで、複数の突出部の高摩擦糸が滑り止め対象部に押し付けられるように接触するので、滑り止め効果が高い。
【0009】
前記突出部は、コース方向又はウェール方向に隣接する他の編地と比べて度目が大きく編み込まれている。
本発明では、突出部の度目が大きいことで、滑り止め対象面に突出部がなじみ、滑り止め効果が高くなる。
【0010】
前記突出部は、隣接する編地と比べて伸縮性が小さい。
本発明では、突出部の伸縮性が小さく、伸び縮みしないので、滑り止め対象面に突出部がへばりつき、滑り止め効果が高くなる。
【0011】
前記突出部は、フロート編で編み込まれていてもよい。この発明では、フロートした編糸の両側の高摩擦糸による編立部が隆起して突出部となる。
【0012】
前記フロート編でフロートした編糸が前記滑り止め対象部と接触する側に設けられている。この発明では、フロートした編糸も、編目とともに、滑り止めとしての機能を発揮する。
【0013】
前記突出部は、タック編で編み込まれていてもよい。この発明では、タックした編糸の両側の高摩擦糸による編立部が隆起して突出部となる。
【0014】
前記突出部は、ゴム糸を挿入する挿入編で編み込まれ、ゴム糸の挿入間隔を調整して編み込まれている。
本発明では、ゴム糸の挿入部の間に跨る裏側のゴム糸の収縮により、ゴム糸の挿入部の間に跨るゴム糸に対応する高摩擦糸による編立部が隆起して突出部となる。ゴム糸の挿入間隔を調整して突出部の領域を変更することができる。
【0015】
前記突出部は、編地の折り返し部の前記滑り止め対象部と接触する編地に編み込まれている。
本発明では、折り返し部の編地の表目に高摩擦糸が隆起して突出部が編み込まれるが、折り返し部を折り返すことで、滑り止め対象部と接触する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、摩擦係数の高い糸で編み込まれた複数の突出部が滑り止め対象部に接触することで、複数の突出部の高摩擦糸が滑り止め対象部に押し付けられるように接触するので、滑り止め効果が高い。
【0017】
また、摩擦係数の高い糸で編み込まれた複数の突出部を有するため、全面的に高摩擦糸を編み込むよりも、安価に製造できる。
【0018】
さらに、複数の突出部は摩擦係数の高い糸で編み込まれ、隣接する編立部と同じ編立によるものであり、滑り止め剤のような違和感がないうえ、滑り止め樹脂の付着のように剥がれる恐れが無く、また複数の突出部を規則的に配置することでファッション性が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る筒編繊維製品の一例である靴下を示す斜視図。
図2】突出部の拡大図。
図3】シンカーによる編目の調整構造を示す断面図。
図4】フロート編による突出部の編み構造を示す図。
図5図4のフロート編の簡略図(a)、フロート編の変形例を示す簡略図(b)。
図6図1の靴下の展開図。
図7】実際の筒編繊維製品の折り返し内側部に設けた突出部を示す写真。
図8図1の靴下の変形例を示す斜視図。
図9図8の靴下の突出部の編構造を示す簡略図。
図10】タック編による突出部の編み構造を示す図。
図11】挿入編による突出部の編み構造を示す図。
図12】本発明に係る筒編繊維製品の一例であるフットカバーを示す斜視図。
図13図12のフットカバーのフロート編による突出部の編構図を示す簡略図。
図14図12のフットカバーのフロート編による突出部の編構図の他の例を示す簡略図。
図15図12のフットカバーの展開図。
図16】本発明に係る筒編繊維製品の一例である膝サポーターを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る筒編繊維製品の一例である靴下1を示す。この靴下1は、脚部2、踵部3、足部4、爪先部5で構成されている。脚部2の上端には、折り返し内側部2aと折り返し外側部2bにより履き口2cが編み立てられている。折り返し内側部2aには、滑り止め対象部すなわち靴下1を履く人の下肢の表面に向かって突出する複数の略矩形の突出部6が複数列(実施例では4列)でコース方向に一定間隔で編み込まれている。
【0022】
図2に示すように、ウェール方向Wに隣接する列の複数の突出部6は、コース方向Cにずれて鹿の子に配置されている。すなわち、ある列のコース方向Cに配置された突出部6の間のウェール方向Wの線上に隣の列の突出部6の中心が位置している。また、突出部6が4列の場合、最初の1列と2列の突出部6と、次の3列と4例の突出部6の間のウェール方向Wの間隔は、1列と2列の間のウェール方向Wの間隔、3列と4列の間のウェール方向Wの間隔よりも広く配置されている。
【0023】
突出部6は、ウェール方向Wに隣接する編地の地糸と比べて摩擦係数の高い糸で編み込まれて滑り止め機能を果たしている。地糸としては、綿などの天然繊維やポリエステル等の合成繊維を、スパンデックス等の裏糸と引き揃えたもの(あるいは、さらにゴム挿入編を用いたもの)等を使用することができる。これに対し、摩擦係数の高い糸としては、ダウンストップ(登録商標)等のポリウレタン糸、シリコン糸、ナノフロント(登録商標)等)の微細ポリエステル糸のような高摩擦糸を使用することができる。突出部6は高摩擦糸で編み込まれることで、滑り止め対象面に高摩擦糸が押し付けられるように接触するため、滑りにくくなる。
【0024】
突出部6は、ウェール方向に離接する他の編地の編目に比べて度目が大きく編み込まれている。突出部6の度目が大きいことで、人の滑り止め対象面に突出部6がなじみ、滑り止め効果が高くなる。
【0025】
度目の調整は、図3に示すように、丸編機のシリンダ20を上下させるか、度山21による針22の引き下げの度合いを変えるかにより、シンカー23と下降した針22のフック24との間の寸法hを変えることで、編目のループの大きさを変更することにより行うことができる。
【0026】
突出部6は、隣接する他の編地と比べて伸縮性が小さい。すなわち、隣接する他の編地は、裏糸にスパンデックスが使用されているのに対し、突出部6は裏糸スパンデックスを使用しないため、伸縮性が小さい。突出部6の伸縮性が小さく、伸び縮みしないので、人の滑り止め対象面に突出部6がへばりつき、滑り止め効果が高くなる。
【0027】
図4は、裏側から見たフロート編による突出部6の編み構造を示す。図4において下方からコースA1まで地糸7(裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編)による通常の編立部を編み立てる。コースaから、通常の編立部の度目よりも度目を大きくし、高摩擦糸8(裏糸スパンデックス無し)に切り替える。編目B1で、編目を作らずに飛ばし、次の編目1から9個の編目を編み立てる。9番目の編目の後の編目B2で、編目B1と同様に、編目を作らずに飛ばし、9個の編目を編み立てて、これを適宜に繰り返して、1コース終了する。
【0028】
これをaからgまで7コース繰り返し、コースA2で度目を通常の度目に戻し、地糸7に切り替えて、通常の編立部を編み立てる。ここで、編目B1,B2では、コースA1で針に保持していた編目をA2の編目と絡めて編目を形成する。これにより、aからgまでの7コースの編目1から9までは、編目B1,B1におけるコースA1からA2までの編目によって引っ張られて編目が表側にウェール方向に浮き上がる。またコースA1までとコースA2以降の裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編により、コースA1とA2では生地が縮まるので、aからgまでの7コースの編目1から9までは、コース方向にも浮き上がる。この結果、編目1から9と編目aからgとで囲まれた矩形の領域が、隣接する通常の編立部よりも突出した突出部6として編み立てられる。
【0029】
図5(a)は、図4のフロート編の編構造の簡略図である、すなわち、図4のフロート編の編構造のループを円い線で示し、フロートした糸(亘り糸)を横線で示し、地糸を細線、高摩擦糸を太線で示したものである。
図5(b)は、図5(a)のフロート編の変形例の編構造であり、2コース毎にフロートする位置を1目ずらしたものである。この場合、突出部6は、平行四辺形状となり、コース方向に隙間(図4のB1、B2)ができないので、滑り止め効果が高くなる。
このように、フロートする位置を変えることで、突出部6の形状を変更することができる。
【0030】
図6は、靴下1の編構造を示す展開図である。靴下1は、丸編機により脚部2からつま先部5に向かって編み立てられる。
【0031】
まず、正転編により脚部2の折り返し内側部2aから円筒状に編み立てる。脚部2の折り返し内側部2aには、4列の突出部を編み立てる。折り返し内側部2aの後、折り返し外側部2bを編み立てる。折り返し内側部2aの編始端は、外側部2bを編み立てると、その編終端に連結される。折り返し外側部2bに続いて、脚部2全体を編み立てる。脚部2に続き、踵部3を正逆反転編により袋状に編み立てる。踵部3の編み立てを終えると、足部4を正転編により円筒状に編み立てる。足部4に続き、爪先部5を正逆反転編で連続して編み立てる。爪先部5の編終端と足部4の編終端とを逢着することで、靴下1が形成される。
【0032】
図7は、折り返し内側部2aに突出部6を編み立てた実際の筒編繊維製品を示す。折り返し内側部2aには、編地の表目に高摩擦糸が隆起して突出部6が編み込まれるが、折り返し内側部2aを内側に折り返すことで、滑り止め対象部と接触する。突出部6は編地の表目にあるので、見た目が綺麗で、機能を表現した機能ファッション性が向上する。
【0033】
図8は、図1の靴下1の変形例であり、脚部2の履き口2cに内側への折り返しを設けずに、脚部2の履き口2aの内側、すなわち、人の滑り止め対象部と接触する側に、突出部6を編み立てたものである。
【0034】
この場合、図9に示すように、1の編目に対し1の編目をフロートするフロート編を2コース行い、通常の編目を3コース編み立てた後、1の編目に対し1の編目をフロートするフロート編を2コース行うことにより、最初の2コースと後の2コースの高摩擦糸の編目とフロートした糸が裏側に隆起するので、細長い2列の突出部6が裏側、すなわち、履き口2cの内側に突出する。
【0035】
突出部6は、図4に示すフロート編以外に、タック編、挿入編によって編み立てることができる。
【0036】
図10は、裏側から見たタック編による突出部6の編み構造を示す。図10において下方からコースA1まで地糸7(裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編)による通常の編立部を編み立てた後、コースaから、通常の編立部の度目よりも度目を大きくし、高摩擦糸8(裏糸スパンデックス無し)に切り替える。編目B1では、編目を作らずに針に保持し、突出部6の編始である次の編目1からは9個の編目を編み立てる。9番目の編目の後の編目B2でも、編目B1と同様に、編目を作らずに針に保持して、順次9個の編目を編み立てて、これを適宜に繰り返して、1コース終了する。
【0037】
これをaからgまで7コース繰り返し、コースA2で編目を通常の度目に戻し、地糸7に切り替えて、通常の編立部を編み立てる。ここで、編目B1,B2では、コースaからgで編目を作らずに針に保持していた高摩擦糸8をコースA1,A2の地糸7とともに纏めて編目を形成する。これにより、aからgまでの7コースの編目1から9までは、編目B1,B2のタックによって引っ張られて編目が表側にウェール方向に浮き上がる。この結果、編目1から9と編目aからgとで囲まれた領域が、隣接する通常の編立部よりも突出した突出部6として編み立てられる。
【0038】
図11は、裏側から見た挿入編による突出部6の編み構造を示す。図4において下方からコースA1まで地糸7(裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編)による通常の編立部を編み立てた後、コースaから、通常の編立部の度目よりも度目を大きくし、高摩擦糸8(裏糸スパンデックス無し)に切り替えるとともに、ゴム糸9を挿入する。突出部6の編始である編目B1で、ゴム糸9を挿入編みで編み込み、編目B1を過ぎると、ゴム糸9を編み込まないで裏側に飛ばし、9個の編目を編み立てる。9番目の編目の後の編目B2で、編目B1と同様に、ゴム糸9を挿入編みで編み込み、引き続き9個の編目を順次編み立てて、これを適宜に繰り返して、1コース終了する。
【0039】
これをaからgまで7コース繰り返し、コースA2で度目を通常の度目に戻し、地糸7(裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編)に切り替えて、通常の編立部を編み立てる。これにより、aからgまでの7コースの編目1から9までは、裏側のゴム糸9の収縮により引っ張られて編目が表側にコース方向に浮き上がり、編目B1,B2では編目が沈み込む。また、コースA1までとコースA2以降の裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編により、コースA1とA2では生地が縮まるので、aからgまでの7コースの編目1から9までは、コース方向にも浮き上がる。またコースA1までとコースA2以降の裏糸スパンデックスを用いたゴム挿入編により、コースA1とA2では生地が縮まるので、aからgまでの7コースの編目1から9までは、コース方向にも浮き上がる。この結果、編目1から9と編目aからgとで囲まれた矩形の領域が、隣接する通常の編立部よりも突出した突出部6として編み立てられる。
【0040】
図11では、9×7の編目の突出部6が編み立てられるが、表側に編み込むゴム糸9の間隔(ゴム糸の挿入間隔)を調整することで、突出部6の領域を大きくしたり、小さくして、滑り止め対象面に合わせて変更することができる。また、コース毎にゴム挿入位置を左右一目単位で変えることで、色々な形を、機能やデザインを考えて作ることができる。
【0041】
図12は、本発明に係る筒編繊維製品の一例であるフットカバー11を示す。このフットカバー11は、踵上部12、踵部13、足部14、爪先部15で構成されている。踵上部12は、折り返し内側部12aと折り返し外側部12bとからなる。踵上部12の折り返し内側部12aの内面には、フットカバー11を履く人の踵の上部(アキレス腱の付け根)の表面に向かって突出する連続した細長い突出部6が(ウェール方向に)複数列(実施例では2列)コース方向に一定間隔で編み込まれている。踵上部12の折り返し内側部12aの突出部6は、前述したフロート編により編み立てられる。
【0042】
図13は、踵上部12のフロート編の編構造の一例である。コースAからコースEまでは、正逆転編により端縁で編目を増加しながら、踵上部12の折り返し外側部12bを編み立てる。
まず、コースAでは、正逆転編により、地糸(裏糸スパンデックス)による踵上部の折り返し外側部12bの通常の編立を開始し、コースBからコースEまでは、地糸により、1の編目に対し、1の編目をフロートするフロート編を行う。
【0043】
コースE’からコースA’までは、正逆転編により端縁で編目を減少し、かつ、コースAからコースEの端縁と連結しながら、踵上部12の折り返し内側部12aを編み立てる。
まず、コースE’からD’までは、地糸により、1の編目に対し、1の編目をフロートするフロート編を行う。コースa、bでは、通常の編立の度目よりも度目を大きくし、高摩擦糸8(裏糸スパンデックス無し)に切り替えて、1の編目に対し、3の編目をフロートするフロート編を行う。コースC’では、地糸により、1の編目に対し、1の編目をフロートするフロート編を行う。コースcから、通常の編立の度目よりも度目を大きくし、高摩擦糸8(裏糸スパンデックス無し)に切り替えて、1の編目に対し、3の編目をフロートするフロート編を行い、コースdも同様に行う。コースB’では、1の編目に対し、1の編目をフロートするフロート編を行う。コースA’では、地糸による通常の編立を行い、踵上部12の編立を終了する。
【0044】
このような図13の編み構造では、AとA’が、1ウェール毎に折り返し外側部12bから折り返し内側部12aの編み立ての間フロートしてきた編目を完結することによって、折り返し外側部12bと折り返し内側部12aが1ウェール毎にしっかりと連結されて、表裏一体の編み生地を形成する。踵上部12の折り返し内側部12aは、コースa、b、c、dの編み立てにおける裏側であり、表裏一体となった踵上部12の折り返し内側部12a表面、すなわち踵側に突出した高摩擦糸による細長い突出部6により、フットカバー11と踵が密着する。通常の地糸により編込まれた踵上部12の折り返し外側部12bは、フットカバー11が靴と接する他の部分と同程度の適度な摩擦を保ち、フットカバー11の踵部13が靴の着用時においても脱げ難くなる。
【0045】
図14は、踵上部12のフロート編の編構造の他の例である。この編立構造は、コースB~E、コースE’~B’、コースa、b、コースc、dの編み立てが、図13の編み構造と異なる。すなわち、コースB~EとコースE’~B’では、3の編目に対し1の編目をフロートするフロート編を行い、コースa、bと、コースc、dでは、1の編目に対し、1の編目をフロートするフロート編を行う。
【0046】
このような図14の編み構造では、踵上部12の折り返し内側部12aに、コースa、b、c、dの編目が裏側に隆起して、滑り止め対象部である足の踵上部に接触する突出部6が編み立てられる。この突出部により、フットカバー11の踵部分が脱げ難くなる。
【0047】
図15は、フットカバー11の編構造を示す展開図である。フットカバー11は、丸編機により踵上部12から爪先部15に向かって編み立てられる。
【0048】
まず、正逆転編により踵上部12の折り返し外側部12bから折り返し内側部12aを編み立てる。踵上部12の折り返し内側部12aには、2列の突出部6を編み立てる。折り返し外側部12aに続いて折り返し内側部12aを編み立てると、それらは連結され、踵上部12の編み立てを終える。続いて正逆転編により踵部13を編み立てる。次に、足部14の前半部14aを正逆転編により編み立て、足部14の後半部14bを正転編により編み立てる。足部14に続き、爪先部15を正逆反転編で連続して編み立てる。爪先部14の編終端と足部14の編終端とを逢着することで、フットカバー11が形成される。
【0049】
図16は、本発明に係る筒編繊維製品の一例である膝サポーター16を示す。この膝サポーター16は、履き口となる上端部で折り返して下端部で縫着したもので、上端部の内面に突出部6が編み込まれているほか、下端部の内面、膝の両側及び裏側と接触する中間部の内面にも突出部6が編み込まれている。
【0050】
本発明の筒編繊維製品は、筒編される繊維製品に適用される。滑り止め対象部は、人の身体表面に限らない。例えば、カーフサポーターを下肢に装着してその上にサッカーストッキングを履く場合であって、カーフサポーターの上端の外側部に滑り止めの突出部を編み立てると、サッカーストッキングが滑り止め対象部となる。
【0051】
本願発明は、以上の実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で変形・修正することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…靴下
2a…折り返し内側部
2b…折り返し外側部
2c…履き口
6…突出部
7…地糸
8…高摩擦糸
9…ゴム糸
11…フットカバー
12…踵上部
12a…折り返し内側部
12b…折り返し外側部
16…膝サポーター

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12
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図16