IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 尾池工業株式会社の特許一覧

特許7373854蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法
<>
  • 特許-蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法 図1
  • 特許-蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法 図2
  • 特許-蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法 図3
  • 特許-蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法 図4
  • 特許-蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/02 20060101AFI20231027BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231027BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C23C14/02 A
B32B15/08 F
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020527340
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022390
(87)【国際公開番号】W WO2020003946
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018119880
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 潤
(72)【発明者】
【氏名】有村 直美
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-006439(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050951(WO,A1)
【文献】特開2012-218206(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100073(WO,A1)
【文献】特開2018-001584(JP,A)
【文献】特開2004-327931(JP,A)
【文献】特開2003-071985(JP,A)
【文献】国際公開第90/003266(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/163883(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/02
B32B 15/08
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備え、
前記基材の表面粗さは、Raが0.83~2.0nmであり、Rzが8.7~20.0nmであり、
前記蒸着層は、金属を含み、厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下であり、
前記金属は、アルミニウムであり、
前記蒸着層の厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子のピーク濃度は、15.0原子%以下である、蒸着フィルム。
【請求項2】
前記平均濃度は、4.0~6.0原子%である、請求項記載の蒸着フィルム。
【請求項3】
熱水処理後のラミネート強度が50gf/15mm以上である、請求項1または2記載の蒸着フィルム。
【請求項4】
蒸着層側の剥離界面における炭素存在比率が50原子%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の蒸着フィルム。
【請求項5】
前記基材は、樹脂製基材である、請求項1~のいずれか1項に記載の蒸着フィルム。
【請求項6】
食品を包装するための包装用フィルムである、請求項1~のいずれか1項に記載の蒸着フィルム。
【請求項7】
蒸着フィルムの製造方法であり、
前記蒸着フィルムは、
基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備え、
前記基材の表面粗さは、Raが0.83~2.0nmであり、Rzが8.7~20.0nmであり、
前記蒸着層は、金属を含み、厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下であり、
前記金属は、アルミニウムであり、
前記蒸着層の厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子のピーク濃度は、15.0原子%以下であり、
前記基材は、前記蒸着層が形成される前に、前処理工程によって表面が加工された基材であり、
前記前処理工程は、前記蒸着層が形成される前の基材の表面にプラズマ処理を行う工程であり、最大電力密度が0.5~20(W/cm 2 )であるパルスを、パルス繰り返し時間(T on +T off )に対するパルス時間(T on )の割合(T on /T on +T off )が0.15以下となるよう周期的に電極に印加してプラズマを生成する工程を含む、蒸着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、バリア性および密着性が優れた蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムの技術分野において、食品等の内容物を包装するための種々の包装用フィルムが開発されている。包装用フィルムは、たとえば種々の特性を付与するために金属膜等が積層される場合がある。また、このような積層フィルムは、内容物の劣化等を防ぐための、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性や、内容物(特に食品等である場合)の熱水処理時に積層した金属膜等が剥離しないための密着性等が求められる。
【0003】
金属膜等を基材に積層させる方法として、真空蒸着法、DC(直流)電源やRF(高周波)電源を用いたスパッタリング法や、基材表面にプラズマを用いたIE(イオンエッチング)処理を行う方法(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-203022号公報
【0005】
しかしながら、上記いずれの方法も、得られる積層フィルム(蒸着フィルム)の、熱水処理後における密着性が低下しやすいという問題がある。そのため、上記従来の蒸着フィルムは、バリア性を維持しつつ、かつ、密着性が求められる分野(たとえば熱水処理を要する食品分野)に使用するためには、改良の余地があった。
【0006】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性を維持しつつ、内容物(特に食品等である場合)の熱水処理時に積層した金属膜が剥離しないための優れた密着性を示す蒸着フィルムおよび蒸着フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、基材に金属を含む蒸着層が設けられ、かつ、蒸着層に含まれる酸素原子の濃度が所定量以下である場合に、蒸着フィルムが優れたバリア性を維持しつつ、かつ、熱水処理後の密着性も優れることを見出し、本発明を完成させた。また、本発明者らは、蒸着層がこのような酸素原子濃度となるためには、蒸着層を設ける前の基材に対して、前処理として、負の高電圧のパルスを、所定のデューティー比以下となるよう電極に印可することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様の蒸着フィルムは、基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備え、前記蒸着層は、金属を含み、厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下である、蒸着フィルムである。
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様の蒸着フィルムの製造方法は、基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備える蒸着フィルムの製造方法であり、前記基材を、プラズマ処理する前処理工程と、前記前処理工程後の基材に前記蒸着層を形成する蒸着工程とを含み、前記蒸着工程は、金属を含む蒸着層を前記前処理工程後の基材に形成する工程であり、前記前処理工程は、最大電力密度が0.5~20(W/cm2)であるパルスを、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が0.15以下となるよう周期的にカソードに供給してプラズマを生成する工程を含む、蒸着フィルムの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態の蒸着フィルム(PET基材にアルミニウム蒸着層を形成)の、XPSによる酸素原子の平均濃度を測定した測定結果を示すグラフである。
図2図2は、前処理工程を実施していないPET基材にアルミニウム蒸着層を設けた蒸着フィルム(特許文献1に記載の蒸着フィルム)の、XPSによる酸素原子の平均濃度を測定した測定結果を示すグラフである。
図3図3は、プラズマ処理を説明するための模式図である。
図4図4は、前処理工程において電極に印可されるパルスを説明するための模式図である。
図5図5は、パルス電源の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<蒸着フィルム>
本発明の一実施形態の蒸着フィルムは、基材と、基材上に設けられた蒸着層とを備える。蒸着層は、金属を含む。また、金属層は、厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下である。本実施形態の蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。また、蒸着フィルムは、熱水処理時後における蒸着層の密着性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途(たとえば熱水処理を要する食品用の包装フィルム等の用途)において、好適に使用され得る。以下、それぞれの構成について説明する。
【0012】
(基材)
基材は特に限定されない。基材は、後述する蒸着層を形成し得る基材であればよい。一例を挙げると、基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、無延伸ポリプロピレン(CPP)、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレンフィルム、ポリエーテルスルホン(PES)、生分解性樹脂(乳酸系BDP)、ポリアクリルニトリル、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、エチレン・ビニルアルコール(EVOH)、フッ素系樹脂(FL)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアリレート(PAR)、ポリアリルサルホン(PASF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、メタクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等である。これらの中でも、基材は、得られる蒸着フィルムのバリア性が優れ、かつ、熱水処理後の密着性が優れる点から、樹脂製基材であることが好ましく、PET、PP、ナイロンであることがより好ましく、PETであることがさらに好ましい。また、基材が樹脂製であることにより、蒸着フィルムは、樹脂製基材を用いる種々の用途(たとえば食品用容器の包装フィルム等)において、より好適に使用され得る。これらの有機重合体に公知の添加剤、たとえば、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤などが添加されても良い。
【0013】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、5μm以上であることが好ましく、8μm以上であることがより好ましい。また、基材の厚みは、200μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、基材は、後述する前処理工程や蒸着工程において破損しにくい。また、得られる蒸着フィルムは、適度な可撓性を示し、取り扱い易い。
【0014】
本実施形態の基材は、蒸着フィルムの製造方法に関連して後述するように、蒸着層を形成する前の前処理工程として、負の高電圧のパルスが、所定のデューティー比以下となるよう電極に印可される。このような方法によれば、基材は、大きな熱が付与されにくく、損傷しにくい。そのため、本実施形態の基材は、比較的脆弱な上記薄膜の樹脂フィルムであっても、蒸着層を形成することができ、優れたバリア性や密着性を示す蒸着フィルムが得られる。
【0015】
本実施形態の基材は、蒸着層が設けられる表面が、所定の表面粗さとなるよう加工されていることが好ましい。すなわち、蒸着層を設ける前の基材表面は、原子間力顕微鏡(PSM-0600、(株)島津製作所製、走査型プローブ顕微鏡)を用いた観察による1μm平方内部において(但しフィラー等の突起物を除く)測定した際の表面荒さが、Raが0.7~2.0nm、Rzが8.0~20.0nmとなるよう加工されていることが好ましい。基材の表面が上記表面粗さとなるよう加工されていることにより、蒸着フィルムは、基材と蒸着層の密着性が特に優れる。
【0016】
(蒸着層)
蒸着層は、金属を含む。金属は特に限定されない。一例を挙げると、金属は、各種軽金属、珪素、スズ、亜鉛、インジウムからなる群から選択される少なくとも1つの金属である。軽金属は、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、チタン、アルカリ金属、アルカリ土類金属等である。これらの中でも、金属は、アルミニウム、チタン、珪素、銅であることが好ましく、アルミニウムであることがより好ましい。蒸着層がアルミニウムからなることにより、得られる蒸着フィルムは、バリア性および基材と蒸着層との密着性が特に優れる。
【0017】
本実施形態の蒸着層は、酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下である。酸素原子の平均濃度は、8.0原子%以下であればよく、6.0原子%以下であることが好ましい。また、酸素原子の平均濃度は、2.0原子%以上であることが好ましく、4.0原子%以上であることがより好ましい。
【0018】
ここで、本実施形態において、上記酸素原子の平均濃度は、X線光電子分光法(XPS)によって測定することができる。具体的には、酸素原子の平均濃度は、次の方法により測定する。試料に対してスパッタリングを30秒間行いエッチング処理を施す。エッチング処理の詳細は後述する。その後、X線光電子分光法(XPS)によって原子濃度を測定する(測定条件の詳細は以下のとおりである。)。この工程を繰り返すことで、厚み方向における酸素原子の平均濃度(原子%)と、厚み方向における酸素原子のピーク濃度を測定することができる。なお、本実施形態においては、蒸着表面側の酸素存在比率のボトム部位から、基材と蒸着層の界面までの領域を蒸着層と定義する。炭素存在比率が5原子%の部位を基材と蒸着層の界面と定義する。蒸着表面側の酸素存在比率のボトム部位から、酸素原子の平均濃度を算出するのは、蒸着層最表面の酸化領域に含まれる酸素を計算上除くためである。
【0019】
(X線光電子分光法(XPS)深さ方向分析の測定条件)
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS)
・メーカー/型番:アルバック・ファイ(株)/PHI5000VersaProbeII
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
エッチング条件(蒸着層側から基材深さ方向へスパッタリング条件)
・Arイオン銃加速電圧:4kV
・エッチング範囲:3mm×3mm平方内部
・エッチング時間:30秒/1回
【0020】
図1は、本実施形態の蒸着フィルム(PET基材にアルミニウム蒸着層を形成)の、XPSによる酸素原子の平均濃度を測定した測定結果を示すグラフである(後述する実施例1)。図2は、前処理工程を実施していないPET基材にアルミニウム蒸着層を設けた蒸着フィルムの、XPSによる酸素原子の平均濃度を測定した測定結果を示すグラフである(後述する比較例1)。図1および図2において、横軸はスパッタ時間(分)を示し、縦軸は原子%を示している。スパッタ時間は、0分から30分である。図1に示される酸素原子の平均濃度は4.9原子%と算出される。一方、図2に示される酸素原子の平均濃度は、10.5原子%と算出される。
【0021】
このように、本実施形態の蒸着フィルム(図1)は、蒸着層における酸素原子の平均濃度が低く、8.0原子%以下である。一方、前処理工程を実施していない蒸着フィルム(図2)は、蒸着層における酸素原子の平均濃度が高い。本実施形態の蒸着フィルムは、蒸着層における酸素原子の平均濃度が8.0原子%以下であることにより、結果として、従来の蒸着フィルムと比較して、熱水処理後における蒸着フィルムの密着性が優れる。本実施形態の蒸着フィルムは、基材が表面改質され、基材に含まれる酸素が低減されたことで、蒸着層への酸素の影響が低減され、蒸着フィルムの密着性が変化したものと推量される。
【0022】
本実施形態の蒸着層は、蒸着層の厚み方向における酸素原子のピーク濃度が、15.0原子%以下であることが好ましく、13.0原子%以下であることがより好ましい。また、酸素原子のピーク濃度は、7.0原子%以上であることが好ましい。本実施形態の蒸着フィルムは、蒸着層における酸素原子のピーク濃度が上記範囲内であることにより、結果として、従来の蒸着フィルムと比較して、熱水処理後における蒸着フィルムの密着性が優れる。
【0023】
本実施形態の蒸着フィルムは、蒸着フィルムの製造方法に関連して後述するように、前処理工程として、負の高電圧のパルスを、所定のデューティー比以下となるよう電極に印可し、そのような前処理を施した基材に、蒸着層が形成されている。機序は明らかでないが、このように、本実施形態の蒸着フィルムは、基材の前処理を行うことにより、基材上に形成される蒸着層に含まれる酸素原子の濃度が従来の方法により設けた蒸着フィルムに含まれる酸素原子の濃度よりも低くなっている。さらに、機序は明らかでないが、結果的に、このような蒸着フィルムは、蒸着フィルムに含まれる酸素原子の濃度が低い結果、バリア性のみでなく、熱水処理後における密着性も優れたものとなっている。
【0024】
蒸着層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、蒸着層の厚みは、7nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。また、蒸着層の厚みは、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。蒸着層の厚みが上記範囲内であることにより、得られる蒸着フィルムは、優れたバリア性を示し、かつ、適度な可撓性を示し、取り扱い易い。
【0025】
以上、本実施形態の蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。また、蒸着フィルムは、熱水処理後における蒸着層の密着性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途において、好適に使用され得る。特に、蒸着フィルムは、熱水処理工程(たとえばレトルト殺菌工程)を含む製造方法によって製造される食品や、喫食時に熱水処理が行われる食品等を包装するための包装用フィルムとして好適に使用され得る。すなわち、蒸着フィルムは、優れたバリア性と密着性を示すため、これらの食品を包装するための包装用フィルムとして用いられることにより、内容物である食品に対する酸素や水蒸気の透過を防ぐことができ、かつ、熱水処理後にも不良を発生させにくい。
【0026】
具体的には、本実施形態の蒸着フィルムは、熱水処理(レトルト試験、すなわち125℃の熱水に30分間浸漬という条件)後に、引張り速度300mm/分でT字剥離という条件で蒸着フィルムを剥離した際のラミネート強度が50gf/15mm以上となり得る。ラミネート強度は、50gf/15mm以上であることが好ましく、100gf/15mm以上であることがより好ましい。
【0027】
また、蒸着フィルムは、剥離した蒸着層に関して、蒸着層側の剥離界面における炭素存在比率が50原子%以上であることが好ましく、80原子%以上であることがより好ましい。なお、炭素存在比率は、剥離後の蒸着層側の剥離界面、表層光をX線光電子分光法(XPS)によって測定し得る。炭素存在比率が高いことは、剥離が基材と蒸着層の界面近傍ではなく、基材の内部破断で生じていることを意味する。
(X線光電子分光法(XPS)測定条件)
XPS測定条件
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS)
・メーカー/型番:アルバック・ファイ(株)/PHI5000VersaProbeII
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
【0028】
<蒸着フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態の蒸着フィルムの製造方法は、基材をプラズマ処理する前処理工程と、前処理工程後の基材に蒸着層を形成する蒸着工程とからなる。蒸着工程は、金属を含む蒸着層を、前処理工程後の基材に形成する工程である。前処理工程は、最大電力密度が0.5~20(W/cm2)であるパルスを、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が0.15以下となるよう周期的に電極に印加しプラズマを生成する工程を含む。本実施形態の蒸着フィルムの製造方法は、前処理工程において、基材に対して上記プラズマ処理が行われる。このような前処理が行われた基材は、後続する蒸着工程によって、基材上に、密着性が優れた蒸着層が形成される。また、得られた蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途(たとえば熱水処理を要する食品用の包装フィルム等の用途)において、好適に使用され得る。以下、それぞれの構成について説明する。なお、以下の説明において、基材および蒸着層の詳細は、蒸着フィルムの実施形態に関連して上記したものと同様である。そのため、重複する説明は、適宜省略される。また、図3は、プラズマ処理を説明するための模式図である。図3に示されるように、プラズマ処理は、プラズマを用いて基材への表面処理をする処理である。
【0029】
(前処理工程)
前処理工程は、基材を、プラズマ処理する工程であり、最大電力密度が0.5~20(W/cm2)であるパルスを、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が0.15以下となるよう周期的に電極に印加してプラズマを生成する工程を含む。図4は、前処理工程において電極に印可されるパルスを説明するための模式図である。図4に示されるパルスは、所定のパルス時間(Ton)のみ負の高電圧を発生させた方形波である。また、本実施形態では、このような方形波を、所定のパルス繰り返し時間(Ton+Toff)ごとに発生させており、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が0.15以下となるよう調整されていることを特徴とする。
【0030】
具体的には、前処理工程は、まず、真空チャンバ内において、基材の表面に対し、雰囲気ガス導入下において、気圧1×10-3~1×10-1Torrの環境下にて、高電力密度のパルスによるプラズマ処理を施す。
【0031】
雰囲気ガスは特に限定されない。一例を挙げると、雰囲気ガスは、希ガス、窒素、酸素、空気等である。これらの中でも、雰囲気ガスは、放電の安定性や経済性から、アルゴンであることが好ましい。雰囲気ガスは、真空チャンバ内の放電空間に導入され、電極間の放電により活性化される。
【0032】
ここで、本実施形態では、上記パルスを発生するためのパルス電源を用いることが好ましい。図5は、パルス電源1の構成を説明するための模式図である。パルス電源1は、電極間にパルス波形の負の電圧を印可するための電源であり、直流電源2、コンデンサ3およびスイッチ4を含むパルスユニット5を備える。パルス電源1は、コンデンサ3に充電した電力を、瞬間的に負の高電力として出力し得る。本実施形態のパルスは、このようなパルス電源1によって、所定の休止区間を持つパルス状の波形(いわゆる方形波)となるよう生成される。パルスは、最大電力密度が0.5(W/cm2)以上であればよく、1.0(W/cm2)以上であることが好ましい。また、パルスは、最大電力密度が20(W/cm2)以下であればよく、15(W/cm2)以下であることが好ましい。パルスの最大電力密度が0.5(W/cm2)未満である場合、電子密度の高いプラズマが生成されにくい。一方、最大電力密度が20(W/cm2)を超える場合、基材は、損傷しやすい。
【0033】
パルスの平均電力密度は、2.0(W/cm2)以下であることが好ましく、1.5(W/cm2)以下であることがより好ましい。また、パルスの平均電力密度は、0.01(W/cm2)以上であることが好ましく、0.1(W/cm2)以上であることがより好ましい。パルスの平均電力密度が上記範囲内であることにより、このようなパルスを用いて前処理が施されて得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示す。
【0034】
また、パルスの平均電力密度に対する最大電力密度の割合は、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、パルスの平均電力密度に対する最大電力密度の割合は、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。パルスの平均電力密度に対する最大電力密度の割合が上記範囲内であることにより、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示す。
【0035】
パルスの最大電流値は、6.0(A)以下であることが好ましく、4.0(A)以下であることがより好ましい。また、パルスの最大電流値は、0.1(A)以上であることが好ましく、0.5(A)以上であることがより好ましい。パルスの最大電流値が上記範囲内であることにより、このようなパルスを用いて前処理が施されて得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示す。
【0036】
また、パルスは、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff、「デューティー比」ともいう)が0.15以下となるよう個々のパルスの発生期間および連続するパルスの間隔が調整される。デューティー比は、0.15以下であればよく、0.1以下であることが好ましい。また、デューティー比は、0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましい。デューティー比が0.15未満である場合、基材の前処理に長時間を要し、蒸着フィルムの製造効率が低下しやすい。一方、デューティー比が大きくなり過ぎると、基材は、パルスによって高温となりやすく、損傷する傾向がある。
【0037】
パルス時間(Ton)は上記デューティー比を満たすよう調整されればよい。一例を挙げると、パルス時間(Ton)は、30μ秒以上であることが好ましく、50μ秒以上であることがより好ましい。また、パルス時間(Ton)は、1000μ秒以下であることが好ましく、500μ秒以下であることがより好ましい。パルス時間(Ton)が上記範囲内であることにより、上記デューティー比を満たすパルスが生成されやすい。
【0038】
パルスの周波数(パルス繰り返し時間(Ton+Toff))は上記デューティー比を満たすよう調整されればよい。一例を挙げると、パルスの周波数は、50Hz以上であることが好ましく、100Hz以上であることがより好ましい。また、パルスの周波数は、1000Hz以下であることが好ましく、500Hz以下であることがより好ましい。パルスの周波数が上記範囲内であることにより、上記デューティー比を満たすパルスが生成されやすい。
【0039】
なお、パルスの波形は、上記した方形波に限定されない。パルスの波形は、上記した最大電力密度およびデューティー比を満たす限りにおいて、適宜他の波形であってもよい。たとえば、パルスの波形は、鋸歯状波、三角波等であってもよい。
【0040】
このような前処理工程によれば、基材表面は、前処理工程前と比較して、所定の表面粗さとなるよう加工され得る。具体的には、前処理工程は、原子間力顕微鏡(PSM-0600、(株)島津製作所製、走査型プローブ顕微鏡)を用いた観察による1μm平方内部において(但しフィラー等の突起物を除く)測定した際の表面荒さが、Raが0.7~2.0nm、Rzが8.0~20.0nmとなるよう加工されていることが好ましい。Raは、0.7nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましい。また、Raは、2.0nm以下であることが好ましく、1.5nm以下であることがより好ましい。Rzは、8.0nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、Rzは、20.0nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましい。RaおよびRzが上記範囲となるよう基材の表面粗さが加工されることにより、得られる蒸着フィルムは、基材と蒸着層の密着性が特に優れる。
【0041】
前処理工程が行われた基材は、次いで、蒸着層が形成される。
【0042】
(蒸着工程)
蒸着工程は、前処理後の基材に蒸着層を形成する工程であり、金属を含む蒸着層を、前処理工程後の基材に形成する。
【0043】
蒸着工程において、上記金属を基材に蒸着する方法は特に限定されない。蒸着方法は、従来公知の真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、または、化学蒸着法等を適宜採用し得る。これらの中でも、本実施形態の蒸着フィルムの製造方法は、生産性が高いという理由により、真空蒸着法により蒸着層が設けられることが好ましい。蒸着条件は、蒸着層の材料や、所望する蒸着層の厚みに基づいて、従来公知の条件が適宜採用され得る。なお、金属を蒸着する場合において、金属材料は、不純物が少なく、純度が99重量%以上であることが好ましく、99.5重量%以上であることがより好ましい。また、金属材料は、粒状、ロッド状、タブレット状、ワイヤー状あるいは使用するルツボ形状に加工したものであることが好ましい。金属材料を蒸発させるための加熱方法は、ルツボ中に金属材料を入れて抵抗加熱あるいは高周波加熱を行う方式や、電子ビーム加熱を行う方法、窒化硼素などのセラミック製のボードに金属材料を入れ直接抵抗加熱を行う方法など、周知の方法を用いることができる。真空蒸着に用いるルツボは、カーボン製であることが望ましく、アルミナやマグネシア、チタニア、ベリリア性のルツボであってもよい。
【0044】
蒸着工程が行われることにより、基材に蒸着層が形成された蒸着フィルムが作製される。得られた蒸着フィルムは、上記のとおり、機序は不明であるが、蒸着層におけるX線光電子分光法(XPS)によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下となっている。すなわち、本実施形態の蒸着フィルムの製造方法によって作製される蒸着フィルムは、基材が上記前処理工程によって前処理されることにより、基材上に形成される蒸着層に含まれる酸素原子の濃度が従来の方法により設けた蒸着フィルムに含まれる酸素原子の濃度よりも低くなっている。そして、結果的に、このような蒸着フィルムは、バリア性のみでなく、熱水処理後における密着性も優れたものとなっている。
【0045】
以上、本実施形態の蒸着フィルムの製造方法によれば、基材は、前処理工程として上記プラズマ処理が行われる。このような前処理が行われた基材は、後続する蒸着工程によって、基材上に、密着性が優れた蒸着層が形成される。また、得られた蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途(たとえば熱水処理を要する食品用の包装フィルム等の用途)において、好適に使用され得る。
【0046】
(1)基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備え、前記蒸着層は、金属を含み、厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子の平均濃度が、8.0原子%以下である、蒸着フィルム。
【0047】
このような構成によれば、蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。また、蒸着フィルムは、熱水処理時後における蒸着層の密着性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途(たとえば熱水処理を要する食品用の包装フィルム等の用途)において、好適に使用され得る。
【0048】
(2)前記平均濃度は、4.0~6.0原子%である、(1)記載の蒸着フィルム。
【0049】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示し得る。
【0050】
(3)前記蒸着層の厚み方向におけるX線光電子分光法によって測定される酸素原子のピーク濃度は、15.0原子%以下である、(1)または(2)記載の蒸着フィルム。
【0051】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示し得る。
【0052】
(4)熱水処理後のラミネート強度が50gf/15mm以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の蒸着フィルム。
【0053】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示し得る。
【0054】
(5)蒸着層側の剥離界面における炭素存在比率が50原子%以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の蒸着フィルム。
【0055】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示し得る。
【0056】
(6)前記蒸着層は、アルミニウムを含む、(1)~(5)のいずれかに記載の蒸着フィルム。
【0057】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、より優れたバリア性および密着性を示し得る。
【0058】
(7)前記基材は、樹脂製基材である、(1)~(6)のいずれかに記載の蒸着フィルム。
【0059】
このような構成によれば、得られる蒸着フィルムは、基材が樹脂製基材である。そのため、蒸着フィルムは、樹脂製基材を用いる種々の用途(たとえば食品用容器の包装フィルム等)において、好適に使用され得る。
【0060】
(8)食品を包装するための包装用フィルムである、(1)~(7)のいずれかに記載の蒸着フィルム。
【0061】
このような構成によれば、蒸着フィルムは、優れたバリア性と密着性を示すため、食品を包装するための包装用フィルムとして用いられることにより、内容物である食品に対する酸素や水蒸気の透過を防ぐことができ、かつ、熱水処理後にも不良を発生させにくい。
【0062】
(9)基材と、前記基材上に設けられた蒸着層とを備える蒸着フィルムの製造方法であり、前記基材を、プラズマ処理する前処理工程と、前記前処理工程後の基材に前記蒸着層を形成する蒸着工程とを含み、前記蒸着工程は、金属を含む蒸着層を前記前処理工程後の基材に形成する工程であり、前記前処理工程は、最大電力密度が0.5~20(W/cm2)であるパルスを、パルス繰り返し時間(Ton+Toff)に対するパルス時間(Ton)の割合(Ton/Ton+Toff)が0.15以下となるよう周期的にカソードに供給してプラズマを生成する工程を含む、蒸着フィルムの製造方法。
【0063】
このような構成によれば、基材は、前処理として上記プラズマ処理が行われる。このような前処理が行われた基材は、後続する蒸着工程によって、基材上に、密着性が優れた蒸着層が形成される。また、得られた蒸着フィルムは、酸素や水蒸気等の透過を防ぐバリア性が優れる。そのため、蒸着フィルムは、バリア性が求められ、かつ、熱水処理を要する用途(たとえば熱水処理を要する食品用の包装フィルム等の用途)において、好適に使用され得る。
【0064】
(10)前記前処理工程における前記パルスの最大電流値は、6.0(A)以下である、(9)記載の蒸着フィルムの製造方法。
【0065】
このような構成によれば、より優れたバリア性および密着性を示す蒸着フィルムが得られ得る。
【0066】
(11)前記前処理工程は、前記基材の原子間力顕微鏡で測定した表面荒さが、Raが0.7~2.0nm、Rzが8.0~20.0nmとなるまで前記基材の表面を処理する工程である、(9)または(10)記載の蒸着フィルムの製造方法。
【0067】
このような構成によれば、特に優れた密着性を示す蒸着フィルムが得られ得る。
【実施例
【0068】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0069】
<実施例1>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション(株)製「テトロン」(登録商標)HPE、厚さ12μm)を基材とし、真空チャンバ内にて、基材上に、高圧パルス電源を用いて、以下の前処理条件にてArプラズマ処理を行った(前処理工程)。次いで、抵抗加熱式蒸着機を用い、アルミニウムの真空蒸着を行った(蒸着工程)。真空蒸着は、カーボンルツボに粒状アルミニウムを(純度99.99%)を充填し、アルミニウムを加熱溶融しながら蒸発させて、膜厚80nmのアルミニウム膜(蒸着層)を形成した。
(前処理条件)
パルスの最大電力密度:2.4(W/cm2
パルスの平均電力密度:0.24(W/cm2
パルスの平均電力密度に対する最大電力密度の割合:10.0
パルスの最大電流値:0.9(A)
パルス繰り返し時間(Ton+Toff):5ms
パルス時間(Ton):500μs
デューティー比:0.10
周波数:200Hz
パルス波形:方形波
前処理の時間:6.5(秒)
【0070】
<実施例2>
前処理時間が4.5秒になるように処理した以外は、実施例1と同様の方法により、蒸着フィルムを作製した。
【0071】
<実施例3>
以下の前処理条件に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、蒸着フィルムを作製した。
(前処理条件)
パルスの最大電力密度:2.4(W/cm2
パルスの平均電力密度:0.12(W/cm2
パルスの平均電力密度に対する最大電力密度の割合:20.0
パルスの最大電流値:0.9(A)
パルス繰り返し時間(Ton+Toff):10ms
パルス時間(Ton):500μs
デューティー比:0.05
周波数:100Hz
パルス波形:方形波
前処理の時間:4.5(秒)
【0072】
<比較例1>
前処理工程を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、蒸着フィルムを作製した。
【0073】
<比較例2>
前処理工程をパルスではない定常の直流によるArプラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、蒸着フィルムを作製した。
(前処理条件)
平均電力密度:0.24(W/cm2
直流電圧:2(kV)
直流電流:0.1(A)
前処理の時間:4.5(秒)
【0074】
実施例1~3および比較例1~2において得られた前処理工程後の基材(比較例1は前処理工程を実施していない基材)および得られた蒸着フィルムについて、以下の方法に沿って、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(1)蒸着層中の酸素含有比率
蒸着層に含まれる酸素含有比率を、以下の条件にて測定した。酸素含有比率は、蒸着層中の酸素の最も少ない酸素比率をベースラインとした。
X線光電子分光法(XPS)深さ方向分析の測定条件
XPS測定条件
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS)
・メーカー/型番:アルバック・ファイ(株)/PHI5000VersaProbeII
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
エッチング条件(Al蒸着層側から基材深さ方向へスパッタリング条件)
・Arイオン銃加速電圧:4kV
・エッチング範囲:3mm×3mm平方内部
・エッチング時間:30秒/1回
【0076】
(2)基材の表面粗さ
前処理工程後の基材の表面粗さ(RaおよびRz、nm)を、走査型プローブ顕微鏡(AFM)(PSM-9600、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0077】
(3)酸素ガスバリア性
酸素透過率(cc/m2day)をJIS K 7126-2に準じて、酸素透過率測定装置(OX-TRAN2/20、モダンコントロール社製)を用いて測定した。酸素透過率が1.2(cc/m2day)以下である場合、包材として適していると判断した。
【0078】
(4)水蒸気バリア性
水蒸気透過率(g/m2day)をJIS K 7129Bに準じて、水蒸気透過率測定装置(Permatran-W3/31、モダンコントロール社製)を用いて測定した。水蒸気透過率が1.5(g/m2day)以下である場合、包材として適していると判断した。
【0079】
(5)ラミネート強度(密着性)
蒸着層に対して、ポリエステル2液型接着剤を塗布厚み2μmとなるよう塗工し、60μmの未延伸PPフィルムに積層し、40℃雰囲気で72時間エージング後、15mm×200mmの大きさに切り出し、T型剥離試験機(AGS-100A、(株)島津製作所製)を用い、引張り速度300mm/分でT型剥離時の密着強度を測定し、ラミ強度とした。さらに、上記と同様の方法により得られたサンプルを100℃、115℃、125℃の熱水に30分間浸漬した後のラミ強度についても測定した。ドライラミネート強度は、100(gf/15mm)以上、ウェットラミネート強度は100(gf/15mm)以上である場合、包材として適していると判断した。また、90°剥離時剥離界面に蒸留水を2~3滴滴下した綿棒を当て剥離界面を濡れた状態に保ち、同様にウェットラミネート強度を評価した。
【0080】
(6)蒸着層側の剥離界面における炭素存在比率
剥離後の蒸着層側の剥離界面、表層光をX線光電子分光法(XPS)によって測定した。炭素存在比率が高いことは、剥離が基材と蒸着層の界面近傍ではなく、基材の内部破断で生じていることを意味する。
(X線光電子分光法(XPS)測定条件)
XPS測定条件
・装置:X線光電子分光分析装置(XPS)
・メーカー/型番:アルバック・ファイ(株)/PHI5000VersaProbeII
・X線ビーム径(測定範囲):φ100μm
【0081】
【表1】
【0082】
表1に示されるように、酸素原子の平均濃度が8.0原子%以下であった実施例1~3の蒸着フィルムは、いずれも優れたラミネート強度およびバリア性を示した。一方、前処理工程を行わなかった比較例1の蒸着フィルムは、熱水処理によってラミネート強度が大きく低下し、バリア性との両立ができなかった。
【符号の説明】
【0083】
1 パルス電源
2 直流電源
3 コンデンサ
4 スイッチ
5 パルスユニット
図1
図2
図3
図4
図5