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<図1>
  • 特許-CMC部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-26
(45)【発行日】2023-11-06
(54)【発明の名称】CMC部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20231027BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20231027BHJP
   F01D 9/02 20060101ALI20231027BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20231027BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20231027BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20231027BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20231027BHJP
   F16B 19/00 20060101ALI20231027BHJP
   B64C 1/00 20060101ALI20231027BHJP
   G21C 13/02 20060101ALI20231027BHJP
【FI】
C04B35/80 600
F01D5/28
F01D9/02 101
F01D25/00 L
F01D25/00 X
F02C7/00 C
F02C7/00 D
F16B35/00 J
F16B37/00 C
F16B19/00 Z
B64C1/00 B
G21C13/02 100
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020544279
(86)(22)【出願日】2019-02-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019053297
(87)【国際公開番号】W WO2019162126
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】18158253.7
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505391780
【氏名又は名称】セピテック フォンデション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルトナ、アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ヴォダーマイヤー、アルベルト マリア
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ、ジョバンニ
(72)【発明者】
【氏名】ザコフスキー、マルチン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-511320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0239434(US,A1)
【文献】特開2005-320236(JP,A)
【文献】特開2014-185066(JP,A)
【文献】特表2006-501409(JP,A)
【文献】特開2006-118111(JP,A)
【文献】特開2004-002144(JP,A)
【文献】米国特許第06013226(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CMC部品(6)の製造方法であって、前記方法は、
- 繊維(15)強化熱可塑性材料(14)製のグリーン体(1;10)を熱分解(2)させるステップと、
- 前記熱分解したグリーン体に、液状炭化物形成物質(31)を含浸(4)させるステップと
を少なくとも含み、
前記グリーン体(1;10)の前記繊維(15)が、1つ又はいくつかのストランド(16)状に配置されており、前記ストランド(16)がそれぞれ、主延在方向を有し、
前記繊維(15)が、前記グリーン体(1;10)の三次元外形に少なくとも部分的に沿うように前記グリーン体(1;10)中に配置されており、及び、前記各ストランド(16)の繊維(15)が、少なくとも部分的に互いに絡み合っており、
前記各ストランド(16)の繊維(15)の長さが、前記ストランド(16)の前記主延在方向に沿った前記グリーン体(1;10)の全長(L)よりも1.2~4倍大き
前記熱可塑性材料(14)の熱膨張を弱めるために、熱分解の間、前記グリーン体(1;10)を金型内に配置し、前記グリーン体(1;10)の形状を維持する、ニアネットシェイプ製造法である、
前記方法。
【請求項2】
前記すべての繊維(15)の長さが、前記グリーン体(1;10)の最大全長(L)よりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解(2)を不活性雰囲気中で実施する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維(15)の長さが、前記CMC部品(6)の完成まで実質的に変化しないままである、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記グリーン体(1;10)の前記熱可塑性材料(14)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記繊維(15)が、炭素又は炭化ケイ素製である、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記繊維(15)が被覆されている、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記グリーン体(1;10)が、前記繊維(15)強化熱可塑性材料(14)をフロープレスすることにより製造される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記グリーン体(1;10)が、前記繊維(15)強化熱可塑性材料(14)をプッシュ及び/又はプル押出成形することにより製造される、請求項1~7のいずれかに記載の方法
【請求項10】
前記グリーン体(1;10)の前記繊維(15)強化熱可塑性材料(14)中の前記繊維(15)の含量が、20~70体積%の範囲にある、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記グリーン体(1;10)の前記繊維(15)強化熱可塑性材料(14)中の前記繊維(15)の含量が40~60体積%の範囲にある、請求項1~9のいずれかに記載の方法
【請求項12】
前記炭化物形成物質(31)を含浸(4)させる前に、前記熱分解したグリーン体の少なくとも一部(13)に窒化ホウ素(32)を施与する、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
熱分解した繊維(15)強化熱可塑性材料(14)及び炭化物から作られているCMC部品(6)であって、
前記CMC部品(6)の前記繊維(15)は、1つ又はいくつかのストランド(16)状に配置されており、前記ストランド(16)がそれぞれ、主延在方向を有し、
前記繊維(15)が、前記CMC部品(6)の前記三次元外形に少なくとも部分的に沿うように前記CMC部品(6)中に配置されており、及び、前記各ストランド(16)の繊維(15)が、少なくとも部分的に互いに絡み合っており、
前記各ストランド(16)の繊維(15)の長さが、前記ストランド(16)の前記主延在方向に沿った前記CMC部品(6)の全長(L)よりも1.2~4倍大きい、前記CMC部品(6)。
【請求項14】
タービンブレード、ノズル、歯車又は締結部品である、請求項13に記載のCMC部品(6)。
【請求項15】
ねじ(10)、スクリューナット、ボルト、ピン又はリベットである、請求項13に記載のCMC部品(6)。
【請求項16】
医療技術、航空宇宙産業、原子力発電所又は核融合炉で使用されるように適合された、請求項13~15のいずれかに記載のCMC部品(6)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基複合材料(CMC)部品の製造方法、及びかかる方法により製造されるCMC部品に関する。CMC材料は、セラミックマトリックスに埋め込まれた繊維から成り、様々な技術分野、特に医療技術、航空宇宙産業、発電所の開発における使用が可能である。
【背景技術】
【0002】
セラミック基複合材料(CMC)材料とも称される繊維強化セラミック材料は、様々な用途及び技術分野において使用されている。CMC材料は、新しい優れた特性を有する材料を生み出すべく、機械的又は熱機械的負荷について、セラミック材料の利点と繊維の耐久性とを組み合わせている。繊維によりセラミック材料を強化する主な目的は、通常であれば脆性のセラミック材料に構造的堅牢性をもたらすことである。CMC材料には、独自のエンジニアリングソリューションを提供する上で、高温安定性、高い耐熱衝撃性、高い硬度、高い耐食性、軽量及び汎用性などの独自の特性がある。これらの特性を組み合わせることにより、セラミック基複合材料は、超合金及び耐火金属などの従来の加工用工業材料の魅力的な代替品となる。
【0003】
CMC材料を製造するには、いくつかの異なる手法がある。一般的に用いられる1つの手法は、繊維含有ポリマーの熱分解である。その後、熱分解後に得られた高多孔質マトリックスに液状ケイ素を含浸させ、これを反応させて炭化ケイ素にする。
【0004】
特許文献1には、繊維強化プラスチック材料を熱分解させる、繊維強化複合材料物品の製造が開示されている。
【0005】
特許文献2には、繊維強化熱可塑性材料を顆粒状で射出成形し、その後の熱分解及び最終的なCMC部品への変換のためのグリーン体を形成する、セラミック複合材料材料の製造方法が開示されている。繊維強化熱可塑性材料は顆粒状であるため、この方法を使用した場合、最終製品の限られた構造的堅牢性しか達成することができない。
【0006】
特許文献3には、短繊維により強化されたセラミック材料からのブレーキディスク及びクラッチプレートの製造が提案されている。導電性繊維強化物をプレス金型に充填し、続いて圧力下で硬化させてグリーン体にする。その後、グリーン体を炭化させて液状金属を含浸させる。
【0007】
特許文献4には、一方向に整列した強化繊維を有するセラミック複合材料の製造方法が開示されている。この方法では、強化繊維をまず犠牲ポリマーで包み、その後バインダー樹脂の添加により処理し、それから炭化させる。犠牲ポリマーが使用されているため、平行繊維が互いに収縮することを回避することが可能である。その後、そのような炭化した部品の細孔に、液状ケイ素を含浸させる。この方法では、繊維が一方向に配置されているため、平らな表面を有する比較的単純な三次元構造を有する部品の場合にしか高い構造的堅牢性を達成することができない。
【0008】
非特許文献1では、熱可塑性ポリマー由来のC/C-SiC複合材料の機械的特性に対する炭化温度の影響が調査されている。さらに、炭化に続いて、複合材料に液状ケイ素を含浸させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】独国特許出願公開第19957906号明細書
【文献】独国特許出願公開第102014200510号明細書
【文献】独国特許出願公開第10164231号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1340733号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Reichert,F.,A.M.Perez-Mas,D.Barreda,C.Blanco,R.Santamaria,C.Kuttner,A.Fery,N.Langhof及びW.Krenkelによる論文:表題Influence of the carbonization temperature on the mechanical properties of thermoplastic polymer derived C/C-SiC composites:Journal of the European Ceramic Society,2017.37(2):p.523-529
【発明の概要】
【0011】
本発明の課題は、比較的複雑な三次元構造及び/又は表面を有し得るが、それにもかかわらず高い構造的堅牢性を有するCMC部品の製造方法を提供することである。
【0012】
本課題は、請求項1に記載の方法により解決される。この方法のさらなる実施形態は、従属請求項2~12に記載されている。そのような方法により製造されるCMC部品は、請求項13に特許請求されており、このCMC部品のさらなる実施形態は、従属請求項14及び15に記載されている。
【0013】
したがって、本発明により、CMC部品の製造方法であって、
- 繊維強化熱可塑性材料製のグリーン体を熱分解させるステップと、
- 熱分解したグリーン体に、液状炭化物形成物質、特に液状ケイ素又は液状ケイ素合金を含浸させるステップと
を少なくとも含む方法が提供される。
【0014】
グリーン体の繊維は、1つ又はいくつかのストランド状に配置されており、これらのストランドはそれぞれ、主延在方向を有する。各ストランドの繊維の長さは、このストランドの主延在方向に沿ったグリーン体の全長よりも大きい。
【0015】
グリーン体は、本発明の方法を実施するための原料部品を形成し、特に、独国特許発明第4445305号明細書に開示されている方法により製造することが可能であり、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。したがって、グリーン体は、CMC部品の製造における中間生成物であると考えることが可能である。しかしながら、グリーン体は、様々な用途で使用するためにそれ自体で最終的な部品を形成することが元々意図された部品であると表すことも可能である。グリーン体は、好ましくは、繊維強化熱可塑性材料を、フロープレス、特にプッシュ及び/又はプル押出成形(push- and/or pull-extruding)することにより製造される。そのようにすることで、溶融及び繊維強化された熱可塑性材料が金型内にプレスされ、グリーン体の所望の形状が取り入れられる。フロープレスのプロセスにおいて、熱可塑性材料に埋め込まれている繊維は、金型の外形に、したがってグリーン体の外形に少なくとも部分的に沿うように金型内で自動的に整列されるべく、好ましくは一方向の経路で押出機から出る。或いは、グリーン体は、例えば引き抜きプロセスにより製造することも可能である。グリーン体の製造には、好ましくは連続繊維が使用される。
【0016】
個々の繊維は、各繊維ストランドの主延在方向に沿ったグリーン体の全長よりも長いことにより、必然的に1つ又はいくつかの曲線を含み、通常は互いに絡み合ってもいる。結果として、繊維により、それらの各ストランドの主延在方向に沿ってのみならず、他の方向にも沿って、グリーン体の構造的安定性、したがって最終的なCMC部品の構造的安定性が改善される。さらに、繊維のそのような配置により、比較的複雑な三次元構造を有する部品を容易に製造することが可能である。ねじ山などの細かい表面機構が提供され、これをストランドにより強化することができる。
【0017】
CMC部品の構造安定性について良好な結果を達成するために、繊維は、各ストランドの主延在方向に沿ったグリーン体よりも、好ましくは1.2~4倍、より好ましくは1.2~2.5倍、最も好ましくは1.2~1.8倍長い。当然のことながら、ストランドよりも短い、及び/又は、ストランドの一部でさえないさらなる繊維がグリーン体中に存在していてもよい。そのようなさらなる繊維は、例えば、ストランドの主延在方向に垂直な方向に沿ったCMC部品の強度を改善するのに有利であり得る。
【0018】
CMC部品の製造方法は、好ましくはニアネットシェイプ製造法であり、これは、最終的なCMC部品が、形状及び寸法の双方についてグリーン体と実質的に同じ形状を有することを意味する。部品内の繊維の配置もまた、好ましくはグリーン体及び最終的なCMC部品の双方について実質的に同じである。製造の間、繊維の長さは、好ましくは、CMC部品の完成まで実質的に変化しないままである。その結果、繊維は、グリーン体中の場合と同じようにCMC部品中に存在し、且つグリーン体と同じようにCMC部品を強化するように作用する。
【0019】
ストランドは、すべて同じ主延在方向を有する繊維の束を表すと考えられる。繊維のストランドは、通常、部品の特定の部分又は部品全体を強化するために、特にストランドの主延在方向に沿って、また他の方向にも沿って使用される。ストランドの個々の繊維は、通常、その主延在方向に沿ったストランドの全長よりも長い。
【0020】
特に好ましい実施形態において、すべての繊維の長さは、グリーン体の最大全長よりも大きい。グリーン体の製造プロセスを簡便化するために、グリーン体の最大全長よりも短いさらなる繊維は、グリーン体中に存在しない。
【0021】
熱分解の間、グリーン体の熱可塑性材料は炭化され、後に、液状炭化物形成物質の含浸の間に少なくとも部分的に反応して炭化物になる。熱分解は、好ましくは不活性雰囲気、例えばアルゴン又は窒素の存在下で実施される。熱可塑性材料の熱膨張を弱めるために、したがってグリーン体の形状を維持するために、グリーン体は、熱分解の間に金型内に配置されることが好ましい。
【0022】
含浸には、少なくとも部分的に反応させて炭化ケイ素にするために、液状炭化物形成物質として、好ましくは液状ケイ素(Si)が使用される。少なくとも部分的に反応させて炭化ケイ素及び可能な他の炭化物にするために、含浸に液状ケイ素合金を使用することも可能である。液状ケイ素合金の場合、ケイ素は、好ましくは、特にチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)及びハフニウム(Hf)の群からの元素などの金属又はそれらの混合物と合金化される。
【0023】
或いは、液状炭化物形成物質として、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)及びハフニウム(Hf)の群からの元素を使用することも可能である。この点で、これらの元素Ti、Zr、Mo及びHfのうちの1つを単独で使用すること、又はそれらの混合物を使用することが可能である。元素Ti、Zr、Mo及びHf又はそれらの混合物は、ケイ素と合金化することが可能である。
【0024】
炭化物形成物質の含浸により形成される炭化物は、好ましくは(機械的)締結部品、タービンブレード、ノズル又は歯車として使用すべき部品に適した硬度を有する。炭化物は、特に炭化ケイ素及び/又は金属炭化物であり得る。
【0025】
繊維は、グリーン体の三次元外形に少なくとも部分的に沿うようにグリーン体中に配置されていることが有利である。したがって、好ましくは、少なくともいくつかの繊維は、それらの延在部全体の少なくとも一部に沿ってグリーン体の三次元外形に沿う。したがって、繊維が、それらの延在部及び配置によりグリーン体の外側の三次元形状を反映していることが有利である。グリーン体の外形に沿うことにより、繊維はグリーン体を最適に強化し、結果として、最終的なCMC部品の表面領域を強化する。
【0026】
CMC部品の構造的堅牢性をさらに改善するために、各ストランドの繊維は、少なくとも部分的に互いに絡み合っていることが有利である。
【0027】
グリーン体の熱可塑性材料は、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。繊維は、好ましくは炭素製であり、及び/又は、より高い温度耐性を達成するために炭化ケイ素製である。繊維は被覆繊維であり得る。特定の好ましい実施形態では、熱分解の前及び/又は間に、さらなる材料、特にバインダー樹脂などは、存在しないか、又はグリーン体に添加されない。他の同様に好ましい実施形態では、第一の熱分解を行い、その後、熱分解したグリーン体に、ポリマー、例えばフェノール樹脂を含浸させ、それから第二の熱分解を行い、その後、これに、ポリマー含浸及びそれに続く再熱分解の任意の数のさらなるサイクルが続き得る。
【0028】
グリーン体は、好ましくは全体として1ピースで製作される。グリーン体は、全体として直接製造されることが有利であり、これは、個別に製造され、その後まとめて結合されてグリーン体を形成する個別部材が存在しないことを意味する。グリーン体が全体として直接製造される場合、熱可塑性材料の繊維及び/又は特性に関して、グリーン体に急激な変化は存在しない。
【0029】
グリーン体の繊維強化熱可塑性材料中の繊維の含量は、20~70体積%、特に40~60体積%の範囲にあることが有利である。繊維はグリーン体中に規則的に分布していることが有利であり、これは、繊維含量がグリーン体の全領域にわたりほぼ同じであることを意味する。
【0030】
熱分解した部品の濡れ性を低減させるために、したがって、残留した溶融炭化物形成物質、例えばケイ素が、部品の表面に、特にねじ山などの細かい機構を含む部品の表面部分に形成されることを低減させるために、液状炭化物形成物質を含浸させる前に、熱分解した部品の少なくとも一部に窒化ホウ素を施与することができる。
【0031】
本発明はまた、上記の方法により製造されるCMC部品にも関する。CMC部品は、タービンブレード、ノズル、歯車又は締結部品、特にねじ、スクリューナット、ボルト、ピン又はリベットであり得る。記載の方法により製造されるCMC部品は、医療技術、航空宇宙産業、原子力発電所又は核融合炉での使用に特に適合させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明するが、これは例示的な目的でのみ用いられるのであって、限定的な効果はない。
図1】本発明のCMC部品の製造方法の好ましい実施形態のフローチャートである。
図2】本発明による方法で使用されるグリーン体における繊維配置を視覚化した、該グリーン体の概略断面図である。
図3】熱分解プロセス時の、グリーン体が挿入された金型の分解斜視図である。
図4】液状ケイ素の含浸時の、熱分解したグリーン体が挿入された含浸装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明のCMC部品の製造方法の好ましい実施形態を表すフローチャートを示す。
【0034】
本発明のCMC部品6の製造方法を実施するために、グリーン体1を原料部品として使用する。グリーン体1は、繊維強化熱可塑性材料製であり、特に独国特許発明第4445305号明細書により開示されている方法により製造することが可能である。
【0035】
図2は、ねじ10の形態の、かかるグリーン体1の例示的な実施形態を示す。ねじ10は、頭部11及び軸部12を有する。軸部12は、軸部12の外面の大部分を画定するねじ山13を含む。ねじ山13ゆえに、軸部12の外面は、ねじの機能に不可欠な局所的な隆起及び窪みを含む。ねじ山13のこれらの局所的な隆起及び窪みの領域においては、高い構造的堅牢性が特に重要である。
【0036】
グリーン体10は、熱可塑性材料14製であり、該熱可塑性材料14は、好ましくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。具体的な一実施形態では、熱可塑性材料14として、Victrex(商標)PEEK 150なる材料を使用した。熱可塑性材料14には、特に、ポリマー系のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)など、又は他のいわゆる高性能熱可塑性樹脂、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリスルホン(PSU)、熱可塑性ポリイミド(TPI)などからのさらなる材料が可能である。
【0037】
熱可塑性材料14には、繊維15が埋め込まれている。繊維15は、特に炭素繊維又は炭化ケイ素繊維であり得る。具体的な一実施形態では、繊維15に、HexTow(登録商標)連続炭素繊維IM7なる製品を使用した。或いは、例えばTyranno Fiber(登録商標)なる製品も同様に、繊維15に使用可能である。
【0038】
図2から分かるように、繊維15はすべて、ねじ10の最大全長Lよりも長い。本事例のねじの場合、ねじ10の最大全長Lは、軸部12の長手方向延在部に沿って延在する中央長手方向軸線に沿って測定される。個々の繊維15の延在部は直線的ではなく、互いに平行ではないため、繊維15の長さは、ねじ10の最大全長Lよりも大きい。一方で、繊維15はそれぞれ、その主延在方向に沿って数回湾曲している。繊維15はまた、少なくとも部分的に互いに絡み合っている/混ざり合っている。同時に、繊維15はすべて、ねじ10、特にその軸部12の中央長手方向軸線に平行に向けられた実質的に同じ主方向に沿って延在する。繊維15のこの湾曲し絡み合った配置ゆえに、同じ主方向に沿ってなおも延在しながら、繊維15の共通の主方向に沿ってのみならず、他の全方向にも、ねじ10(及び最終的なCMC部品6)の特に高い構造的堅牢性を達成することができる。
【0039】
また図2から、ねじ山13の領域、すなわち軸部12の外面近傍の領域において、繊維15が、ねじ山13により形成される隆起及び窪みに沿うことが分かる。特に好ましい一実施形態において、繊維15はさらに、ねじ山13により形成される螺旋型の連続的な隆起に沿うように、ねじ山13の領域、特にねじ山13の隆起の領域に螺旋を形成する。図2において、繊維15はそれぞれ、図2に見られる断面にわたりそれらが延在していることから、ねじ山13の領域内では点を用いて視覚化されている。ねじ頭部11の領域では、繊維15、特にねじ10の側面近傍に配置された繊維15は、頭部11の外形に沿い、それにより頭部11の構造的安定性が著しく増強される。
【0040】
繊維15はまとまって、ねじ10の中央長手方向軸線に沿って延在する主方向を有するストランド16を形成する。ねじの本実施形態とは異なり、他の実施形態では、いくつかの繊維ストランドが存在し、各ストランドは、異なる主方向に沿って延在している。各ストランド16の繊維15は、実質的に同じ主方向に沿って延在するが、数回湾曲しており、少なくとも部分的に互いに絡み合っている。結果として、各ストランド16により、主にその主延在方向に沿ってのみならず、他の全方向にも沿って、ねじ10(及び最終的なCMC部品6)の構造的安定性が改善される。
【0041】
CMC部品を製造するために、グリーン体1,10を、図1のステップ2に示されるように熱分解させる。図3に示されるように、熱分解を金型20内で実施して、熱可塑性材料14の熱膨張を弱め、且つグリーン体1,10の形状を維持する。したがって、金型20を使用して、グリーン体1,10の元の形状を保ち、特に、ねじ10のねじ山13などの機能的に重要な表面構造を保持する。
【0042】
図3で使用される金型20は、第一の金型本体21及び第二の金型本体22を含む。本実施形態において、金型20はまた、頭部インサート23及びねじ山インサート24を含み、これらは、ねじ10の頭部11及びねじ山13のネガ体をそれぞれ形成する内面を有する。頭部インサート23及びねじ山インサート24の双方に、上側部分及び下側部分がある。インサート23,24を使用すると、インサート23,24を相応する異なるインサートと単純に交換することにより、頭部11及びねじ山13の設計を容易に変更することが可能である。側部に向かって、金型20を、第一のフロントプレート25及び第二のフロントプレート26により閉じ、まとめることができる。閉じた状態の金型20について、第一及び第二の金型本体21,22は、頭部インサート23及びねじ山インサート24それぞれの上側部分及び下側部分とともに、且つ第一及び第二のフロントプレート25,26とともに、ねじ10を収容するための内部キャビティを形成する。キャビティにより、ねじ10のほぼ正確なネガ体が形成され、したがって、熱分解時にねじ10の外形が制限される。
【0043】
金型20は、最終的なCMC部品6について特定の製造公差が保証されるように設計されている。例えば、金型20は、最終的なCMC部品6の外側機構(例えば、ねじ山13により形成される隆起)の公称寸法について、0.02~0.05mmの最大オーバーサイズを有し得る。また、例えば、最終的なCMC部品6の内側機構(例えば、ねじ山13により形成される窪み)について、0.02~0.05mmの最大アンダーサイズが提供可能である。
【0044】
金型20は、好ましくは、厳しい熱条件への周期的な曝露に適した熱間加工用工具鋼製であるべきである。具体的な一実施形態では、AISI 1.2343を金型20の鋼材として使用した。
【0045】
熱分解すべきグリーン体1,10と直接接触する金型20の表面はすべて、好ましくは、Ra0.4μm又はそれよりも小さい粗さを有する。金型20の構造は、熱分解後、金型20からねじ10を取り外す際にねじ10に著しい機械的応力が作用しないことを保証すべきである。金型20の設計は、熱分解プロセス2全体の間に、金型部品21~26の緊密な結合を確実にするべきである。金型設計及び金型材料は、金型20が、最終的なCMC部品6の形状公差に従って、熱分解プロセス2全体の間にその形状を維持することを保証するべきである。通常、金型20は気密である必要はないが、好ましくは、固体又は流体が、熱分解2の間に金型20から漏出し得ないことが保証されるべきである。
【0046】
熱分解2は、不活性雰囲気中、例えばアルゴン流又は窒素流(100nl/min)中で実施される。10℃/h~60℃/hの範囲の加熱速度を室温から例えば1000℃までで適用した場合に良好な結果が得られた。その後、温度を、例えば1600~1800℃までさらに上げた。
【0047】
熱分解2の間、熱可塑性材料14、例えばPEEKマトリックスの分解により生成されたガスは、好ましくは、ねじ10から金型20を通って、例えば、個々の金型部品21~26の間の境界面を通って逃がされる。
【0048】
熱分解2を実施した後に、窒化ホウ素の被覆3が、任意で、しかし好ましくは、液状ケイ素の含浸4のステップの前に施与される(図1参照)。窒化ホウ素の被覆のステップは
、例えば、熱分解したグリーン体1,10の表面の機能的に重要な部分の、溶融ケイ素に対する濡れ性を低下させるのに役立つ。そのような重要な表面部分は、例えば、ねじ10のねじ山13の領域であり得る。窒化ホウ素の被覆3により、各表面部分について、後処理及び仕上げ操作を実施する必要性が著しく低下する。各表面部品の濡れ性を低下させることにより、液状ケイ素の含浸4のステップの結果として部品上に形成される残留溶融ケイ素を著しく低減させることができる。この目的のために、例えば、熱分解したねじ10の軸部12を、ねじ山13の領域において、窒化ホウ素の水性懸濁液に浸漬被覆してもよい。適切な乾燥の後に、図1のステップ4に示されるように、部品に液状ケイ素を含浸させることができる。
【0049】
液状ケイ素の含浸4を実施して、ねじ10の熱分解した熱可塑性材料14を少なくとも部分的に、好ましくは実質的に完全に炭化ケイ素に変換させる。この目的のために、液状ケイ素又は液状ケイ素合金を、熱分解2の後に残るねじ10の細孔を通して部品中に導入する。熱分解したグリーン体1,10中で、ケイ素は、熱分解2の間に生成された炭素と少なくとも部分的に反応して炭化ケイ素になり、また含浸にケイ素合金が使用される場合は、可能な他の炭化物になる。
【0050】
液状ケイ素の含浸4のために、熱分解したねじ10は、含浸装置30の黒鉛るつぼ33内に配置される(図4)。好ましくは、窒化ホウ素塗料をるつぼ33の内面に施与することで、るつぼ33のケイ素含浸が回避される。その後、ケイ素フレークをるつぼ33の底部に置くことができる。そうすることで、所望の含浸度合いに到達するのに適切な量のケイ素が選択される。
【0051】
ステップ4での熱分解したグリーン体の含浸にケイ素を使用する代わりに、他の炭化物形成物質を使用すること、例えば、ケイ素合金を使用すること、又はTi、Zr、Mo及びHfの群からの単独の元素若しくはケイ素と合金化され得るそれらの混合物を使用することが基本的に可能である。したがって、含浸へのケイ素の使用は、この方法のステップ4を実施するための単なる例であると考えられるべきである。ケイ素を用いた例が好ましいが、当然のことながらこれは、熱分解したグリーン体の含浸をどのように実施して1つ又は複数の炭化物を生成し得るかについての排他的な例ではない。
【0052】
含浸装置30をこのように準備した後に、熱分解したねじ10が内部に配置されたるつぼ33は、液状ケイ素の含浸4を実施するための炉内に配置される。すでに述べたように、ねじ10のねじ山13は、好ましくは液状ケイ素の含浸4の間に窒化ホウ素32で被覆される。窒化ホウ素32により、ねじ山13の領域におけるねじ10の表面構造が保持され、それでいて完全な含浸が可能になる。C-Si-SiCセラミックを得るために、ケイ素の融点より高い温度(好ましくは1450℃~1600℃の範囲)で、(有利には10-2mbar以下の残留圧力を有する)真空中にて溶融Siをねじ10に含浸させる。るつぼ33を、電気炉により、例えば毎分50~100℃の有利なほど高い加熱速度で、これらの温度にする。所望の温度に達したら、それを十分な時間(数分、乃至大きな部品の場合には数時間)にわたり維持して、溶融液状ケイ素31をねじ10に完全に含浸させる。これらの温度で、溶融Siは、まず毛管現象によりねじ10の多孔質炭素体に含浸し、これと反応してSiCになる。このプロセスはそれぞれ、溶融含浸(MI)又は液状ケイ素含浸(LSI)又は反応溶融含浸(RMI)としても当業者に知られている。硬質炭素フェルト又は熱分解した木材製であることが一般的なカーボンウィックを、熱分解した部品とるつぼ33との間に配置して、余分な溶融ケイ素31を排出してもよい。
【0053】
液状ケイ素の含浸4の後に後処理5を実施すると、最終的なCMC部品6が得られる(図1)。液状ケイ素の含浸4の後に部品の表面に余分なケイ素が残っているため、通常、後処理5が必要である。必要とされる製造公差内でCMC部品の最終的な形状を達成するために、様々な手順を単独で適用したり、互いに組み合わせたりしてもよい。そのような後処理手順の例は、研削、化学エッチング、タンブル仕上げ及び液状ケイ素脱着である。これらの手順はそれぞれ、当業者によく知られている。
【0054】
化学エッチングの場合、特に以下の反応によるケイ素のエッチングを適用することができる:3Si+12HF+4HNO=8HO+4NO+3SiF。そのような化学エッチングを、ねじ10のねじ山13の領域など、部品の機能的に重要な部分に特に適用することができる。例えば、約3:1の比を有するフッ化水素酸と硝酸との混合物を、100℃で24時間にわたり、連続的に混合して施与することができる。
【0055】
タンブル仕上げの場合、余分なケイ素を除去するために、例えば、グリットFEPA36-100の粉砕媒体としての炭化ケイ素粗粉末が半分充填された高密度ポリエチレン(HDPE)ジャーに部品を入れ、100min-1に設定されたミキサー速度を有するTurbula(登録商標)ミキサー内で8時間にわたり振とうすることができる。
【0056】
液状ケイ素脱着の場合、ケイ素を再溶融させてこれを部品から排出することにより、余分なケイ素を除去することができる。この目的のために、部品を黒鉛粉末床内に配置し、ケイ素の溶融温度まで加熱してもよい。その後、溶融ケイ素は、毛管作用により動かされて、黒鉛粉末床に流れ込む。
【0057】
後処理5の完了後に、最終的なCMC部品6が得られる(図1)。最終的なCMC部品6の外形は、グリーン体1の外形と同じである。部品内の繊維15の配置も、グリーン体1から最終的なCMC部品6までの全製造の間、変化しないままである。したがって、本発明の方法は、ニアネットシェイプ製造法である。上記のねじ10の製造例において、ステップ2~5をそれぞれ実施した後に最終的に得られるねじの形状及び繊維配置は、図2に示されるねじ10の形状及び繊維配置に相応する。
【0058】
最終的なCMC部品6は、特に、高温安定性、高い耐熱衝撃性、高い硬度、高い耐食性及び軽量性などの有利な特性を有する。同時に、これは、比較的複雑な三次元形状を有していてもよく、及び/又は、ねじ山13などの小さな表面機構を含んでいてもよい。これらの特性及びその耐放射線性により、最終的なCMC部品6は、航空宇宙産業、医療技術、原子力発電所又は核融合炉での使用に特に適している。最終的なCMC部品6は、例えば、箔、ブレード、ナット、ボルト、リベット又は成形された接続プレートであり得る。
【符号の説明】
【0059】
1 グリーン体
2 熱分解
3 窒化ホウ素の被覆
4 液状ケイ素の含浸
5 後処理
6 最終的なCMC部品
10 ねじ
11 頭部
12 軸部
13 ねじ山
14 熱可塑性材料
15 繊維
16 ストランド
20 金型
21 第一の金型本体
22 第二の金型本体
23 頭部インサート
24 ねじ山インサート
25 第一のフロントプレート
26 第二のフロントプレート
30 含浸装置
31 液状ケイ素
32 窒化ホウ素
33 るつぼ
L 長さ
図1
図2
図3
図4